(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ランタノイド化合物、ランタノイド含有薄膜、および該ランタノイド化合物を用いたランタノイド含有薄膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20230301BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20230301BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230301BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230301BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
H01L21/316 X
C23C16/40
C23C16/34
C09K11/06
C09K11/06 660
H01L21/31 B
(21)【出願番号】P 2018187024
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2018011070
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン デュサラ
(72)【発明者】
【氏名】関 倫宏
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-256419(JP,A)
【文献】特表2009-539237(JP,A)
【文献】特表2011-522833(JP,A)
【文献】特開2007-265974(JP,A)
【文献】特開2014-175482(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132669(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0315168(US,A1)
【文献】特開2002-338590(JP,A)
【文献】特表2013-527147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
C23C 16/40
C23C 16/34
C09K 11/06
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるランタノイド化合物。
Ln(R
1
xCp)
2(A)
y ・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、
LnはNd、Eu、Dy、TmまたはYbであり、
R
1は各々独立してメチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは
、NMe
3
、NEt
3
、N
i
Pr
3
、NMeEt
2
、NC
5
H
5
、Et
2
S、
n
Pr
2
S、TMEDA、P(CH
3
)
3
、ビピリジン、および
n
Bu
2
Sからなる群より選択され、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるランタノイド化合物。
Sm(R
2
xCp)
2(A)
y ・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、
R
2は各々独立してノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは
、NMe
3
、NEt
3
、N
i
Pr
3
、NMeEt
2
、NC
5
H
5
、Et
2
S、
n
Pr
2
S、TMEDA、P(CH
3
)
3
、ビピリジン、および
n
Bu
2
Sからなる群より選択され、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【請求項3】
Eu(
iPr
3Cp)
2、Tm(
iPr
3Cp)
2またはYb(
iPr
3Cp)
2である、請求項
1に記載のランタノイド化合物。
【請求項4】
Sm(
i
Pr
3
Cp)
2
である、請求項2に記載のランタノイド化合物。
【請求項5】
化学気相成長法または原子層堆積法によってランタノイド含有薄膜を成膜させるための材料であ
る、請求項1
または請求項2に記載のランタノイド化合物。
【請求項6】
ランタノイド含有薄膜を成膜させる方法であって、
基板をチャンバーに導入させる基板導入工程と、
下記一般式(1)または下記一般式(2)で表されるランタノイド化合物を、前記基板が配置されたチャンバーに導入するランタノイド化合物導入工程と、
前記ランタノイド含有薄膜を形成するように、前記ランタノイド化合物の少なくとも一部を前記基板上に成膜させる成膜工程と、
を含むランタノイド含有薄膜の成膜方法。
Ln(R
1
xCp)
2(A)
y ・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、
LnはNd、Eu、Dy、TmまたはYbであり、
R
1は各々独立してメチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
Sm(R
2
xCp)
2(A)
y ・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、
R
2は各々独立してノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【請求項7】
前記成膜工程が、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)、パルス化学気相成長(PCVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、常圧化学気相成長(APCVD)、空間的ALD、ラジカル支援成膜、超臨界流体成膜、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項
6に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【請求項8】
酸素、窒素、硫黄およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む反応ガスを、前記基板が配置されたチャンバーに導入する反応ガス導入工程をさらに含む、請求項
6または請求項
7に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【請求項9】
前記反応ガスは、水、酸素、オゾン、窒素、アンモニア、ヒドラジン、硫化水素およびそれらの組合せからなる群より選択されることを特徴とする、請求項
8に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【請求項10】
前記ランタノイド化合物導入工程と、前記反応ガス導入工程とを、交互に所定回数行うことを特徴とする、請求項
8または請求項
9に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【請求項11】
前記基板上にGaN含有膜を成膜させるGaN含有膜成膜工程をさらに含み、前記ラン
タノイド含有薄膜はランタノイド原子を含有するGaN層を含む、請求項
6または請求項
7に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【請求項12】
前記成膜工程が、0℃以上1200℃以下の温度で行われる、請求項8ないし請求項
10のいずれか1項に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【請求項13】
前記チャンバー内の圧力が、0.06
Torr以上大気圧以下である、請求項8ないし請求項
10のいずれか1項に記載のランタノイド含有薄膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタノイド化合物、ランタノイド含有薄膜、および該ランタノイド化合物を用いたランタノイド含有薄膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタノイドは、電子配置が通常の元素とは異なるために物理的に特異な性質を示し、エレクトロニクス、発光および光学デバイスといった様々な用途を有する。これらは、デバイスの寸法によって粉末または薄膜として使用することが可能である。
【0003】
例えば、ユウロピウムを含有した薄膜としては、ユウロピウムをゲート絶縁膜に添加したり、光学材料に添加したりした薄膜が知られていた(例えば、特許文献1)。
特許文献1では、このようなユウロピウム含有薄膜を化学気相成長法(以下、CVD法と略記する)や原子層堆積法(以下、ALD法と略記する)により形成する際に用いられる前駆体として、三価のシクロペンタジエニル系ランタノイド化合物や二価のシクロペンタジエニル系ランタノイド化合物を開示する。
三価のシクロペンタジエニル系ランタノイド化合物としては、例えばトリスシクロペンタジエニルユウロピウム(以下、EuCp3と略記する)が開示されている。
二価のシクロペンタジエニル系ランタノイド化合物としては、例えばEu(Me5Cp)2が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、Eu(Me5Cp)2のシクロペンタジエニル基の一つの側鎖であるメチル基を長鎖アルキル基に置換した二価のシクロペンタジエニル系ランタノイド化合物であるEu(Me4RCp)2(Rはエチル、ノルマルプロピル、ノルマルブチルまたはノルマルペンチル)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7759746号明細書
【文献】米国特許第8747965号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されるシクロペンタジエニル基を有する三価のランタノイド化合物は、供給時に固体状態であることが多く、取り扱いが困難である。さらに、シクロペンタジエニル基を有する三価のユウロピウムは熱安定性が低い。
また、ランタノイド化合物中のシクロペンタジエニル基が置換基を有しない場合や、置換基が1つである場合には多量体を形成しやすい。一般に、多量体を形成すると蒸気圧が低下することから、ランタノイド含有薄膜の成膜に必要な蒸気量を確保することは困難である。
一方、側鎖を4つまたは5つ有する場合には蒸気圧が低下し、融点が高くなる傾向にある。一般に、CVD法やALD法において使用される原料容器や配管の加熱温度は、バルブ等の耐熱性の問題から、所定の温度(例えば180℃)以下に設定される。蒸気圧が低い場合には、所定の温度において基板に十分なランタノイド化合物の蒸気を供給することができず、成膜速度が低下するため、スループットが低下するという問題がある。さらに、融点が高く、ランタノイド化合物を供給する温度において固体である場合には安定した供給が困難である。
【0007】
特許文献2に開示される二価のシクロペンタジエニル系ランタノイド化合物は、シクロペンタジエニル基の有する5つの置換基のうち1つの置換基に長鎖アルキル基があるため、融点は低いものの、蒸気圧も低いという問題がある。そのため、液体状態での供給は可能であるが、十分な成膜速度を得るために必要な量の蒸気を供給することが困難である。したがって、これらのランタノイド化合物もランタノイド含有薄膜の成膜に適していない。
【0008】
以上のことから、融点が供給するときの温度よりも低いことにより液体状態で使用することが可能であり、十分な蒸気圧を有するランタノイド含有薄膜成膜用のランタノイド化合物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
表記法および命名法、幾つかの略語、記号および用語を以下の明細書および特許請求の範囲全体を通して使用する。
【0010】
本明細書で使用される場合、「アルキル基」という用語は、炭素原子および水素原子のみを含有する飽和または不飽和官能基を指す。さらに、「アルキル基」という用語は直鎖、分岐又は環状アルキル基を指す。直鎖アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。分岐アルキル基の例としては、t-ブチルが挙げられるが、これに限定されない。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられるが、これらに限定されない。架橋アルキル基の例としては、単一の金属原子に配位するビニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本明細書で使用される場合、略語「Me」はメチル基を指し、略語「Et」はエチル基を指し、略語「Pr」は任意のプロピル基(すなわち、ノルマルプロピル又はイソプロピル)を指し、略語「iPr」はイソプロピル基を指し、略語「Bu」は任意のブチル基(ノルマルブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、セカンダリーブチル)を指し、略語「tBu」はターシャリーブチル基を指し、略語「sBu」はセカンダリーブチル基を指し、略語「iBu」はイソブチル基を指し、略語「Ln」はランタノイドを指し、略語「THF」はテトラヒドロフランを指し、略語「TMEDA」はテトラメチルエチレンジアミンを指し、「DME」はジメトキシエタンを指す。
【0012】
元素周期表による元素の一般的な略語が本明細書中で使用される。元素がこれらの略語によって言及される場合もある(例えば、Ndはネオジムを指し、Euはユウロピウムを指し、Smはサマリウムを指し、Dyはジスプロシウムを指し、Tmはツリウムを指し、Ybはイッテルビウムを指す等)。
【0013】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0014】
[適用例1]
本発明に係るランタノイド化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
Ln(R1
xCp)2(A)y ・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、
LnはNd、Eu、Dy、TmまたはYbであり、
R1は各々独立してメチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【0015】
[適用例2]
本発明に係るランタノイド化合物はまた、下記一般式(2)で表されるランタノイド化合物である。
Sm(R2
xCp)2(A)y ・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、
R2は各々独立してノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【0016】
上記の適用例1または適用例2のランタノイド化合物は、原子価が二価であり、シクロペンタジエニル基上に2または3の置換基を有する。酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素を付加物として有しても良い。
該ランタノイド化合物は、二価のランタノイド化合物であるため、三価のランタノイド化合物と比較して融点が低い。さらに、三価のランタノイド化合物と比較して、高い蒸気圧を有する傾向にある。
該ランタノイド化合物の融点は180℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、80℃以下であることがさらにより好ましい。
該ランタノイド化合物の蒸気圧は170℃において0.5TOrr以上であることが好ましい。
また、該ランタノイド化合物は、多量体を形成しないランタノイド化合物であることが好ましい。シクロペンタジエニル基上の置換基が0または1であるランタノイド化合物と比較して、多量体の形成を起こしにくい。このため、ランタノイド化合物の合成、輸送、供給の各プロセスにおいて多量体の形成をするおそれが少なく、多量体を形成することによる蒸気圧の低下がないため、十分な成膜速度を得るために必要な量の蒸気を供給することが可能となる。
さらに、二価の原子価を有し、かつ、シクロペンタジエニル基上の置換基が4または5であるランタノイド化合物と比較すると、分子量が小さく、蒸気圧が高い。
所望の蒸気圧を得るため、シクロペンタジエニル基上の置換基は炭素数が5以下のアルキル基であることが好ましい。シクロペンタジエニル基上に炭素数が5よりも多い置換基を有する場合には蒸気圧が低くなる傾向になるためである。
【0017】
[適用例3]
適用例1または2のランタノイド化合物は、Sm(iPr3Cp)2、Eu(iPr3Cp)2、Tm(iPr3Cp)2またはYb(iPr3Cp)2であってもよい。
【0018】
かかる適用例によれば、ランタノイド化合物の熱安定性が特に高く、十分な蒸気圧を有する。さらに通常該ランタノイド化合物を供給する温度(例えば80℃)において液体状態である。これらのことから、ランタノイド含有薄膜を成膜するための材料として、本適用例にかかるランタノイド化合物は特に好適である。
【0019】
[適用例4]
適用例1または適用例2のランタノイド化合物は、半導体デバイス製造用ランタノイド含有薄膜を成膜させるための材料であってもよい。
【0020】
LnがNd、Eu、Sm、Dy、TmまたはYbであり、シクロペンタジエニル基を有する場合には、水や酸素との反応性が高い。シクロペンタジエニル基が脱離しやすいためと考えられる。よって、本適用例にかかるランタノイド化合物を使用して酸化膜を成膜する場合に、水や酸素を酸化剤として用いることができる。オゾン等よりも低い活性を有する水や酸素を酸化剤として使用することにより、成膜時にデバイスに与えるダメージを低減させ、成膜工程を精度良く制御することが可能となる。
本適用例にかかるランタノイド化合物のシクロペンタジエニル基およびその置換基は、水素原子および炭素原子からなる。成膜により得られた薄膜中で特にデバイスの性能に悪影響を与えやすい不純物である、酸素やランタノイド以外の金属は含まれない。このため、成膜時にこれらの不純物が混入することに起因する、デバイスの性能の劣化を抑制することができる。
成膜材料は気体状態で成膜工程に供給されることが一般的である。供給方法として、液体状態の材料中に不活性ガスをバブリングして、成膜材料の蒸気を不活性ガスに同伴させる方法(バブリング法)や、成膜材料の液滴を加熱機構に滴下させて、蒸気を発生させる方法(ダイレクトインジェクション法)が知られている。いずれの供給方法においても、成膜材料容器の温度(例えば常温である20℃、成膜材料容器を加熱する場合にはその加熱温度)において、成膜材料が液体状態であることが望ましい。成膜材料容器を温度は、容器やバルブ等の耐熱性を考慮して、約180℃以下に設定されることが多い。このため、融点が180℃以下である、かかる適用例のランタノイド化合物は、ランタノイド含有薄膜を成膜させるための材料として、特に好適である。
さらに、バブリング法を使用する場合には、バブリング法で導入するガスとの反応性が低い成膜材料が好ましい。本適用例にかかるランタノイド化合物は、バブリングを実施するランタノイド化合物の容器の温度において窒素、ヘリウム、アルゴンといった、バブリングに使用されるガスに対して不活性である。このためかかる適用例のランタノイド化合物は、ランタノイド含有薄膜を成膜させるための材料として、特に好適である。
【0021】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例のランタノイド化合物は、化学気相成長法または原子層堆積法によってランタノイド含有薄膜を成膜させるための材料であってもよい。
【0022】
かかる適用例によれば、均一な膜厚を有するコンフォーマルな膜を堆積させることができる。また、供給時の温度および供給流量を制御することにより、成膜に使用する該ランタノイド化合物量を制御することができるため、GaN膜等の薄膜にランタノイド元素をドープする場合にはドープされる量を制御することが可能となる。
【0023】
[適用例6]
本適用例にかかるランタノイド含有薄膜は、適用例1ないし適用例4のいずれか一例のランタノイド化合物を、化学気相成長法または原子層堆積法により堆積させて成膜された、ランタノイド含有薄膜である。
【0024】
[適用例7]
本適用例にかかる発光材料は、適用例5に記載のランタノイド含有薄膜を含む発光材料である。
【0025】
適用例5にかかるランタノイド含有薄膜は、均一な膜厚を有し、コンフォーマルであることから、発光材料として使用された場合に、十分な発光特性を有する。
【0026】
[適用例8]
本発明に係るランタノイド含有薄膜の成膜方法は、
ランタノイド含有薄膜を成膜させる方法であって、
基板をチャンバーに導入する基板導入工程と、
下記一般式(1)または下記一般式(2)で表されるランタノイド化合物を、前記基板が配置されたチャンバーに導入するランタノイド化合物導入工程と、
前記ランタノイド含有薄膜を形成するように、前記ランタノイド化合物の少なくとも一部を前記基板上に成膜させる成膜工程と、を有する。
Ln(R1
xCp)2(A)y ・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、
LnはNd、Eu、Dy、TmまたはYbであり、
R1は各々独立してメチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
Sm(R2
xCp)2(A)y ・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、
R2は各々独立してノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【0027】
[適用例9]
適用例7にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様は、成膜工程が化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)、パルス化学気相成長(PCVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、常圧化学気相成長(APCVD)、空間的ALD、ラジカル支援成膜、超臨界流体成膜、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0028】
かかる適用例によれば、基板上にランタノイドを含有する薄膜を成膜させることができる。
【0029】
[適用例10]
適用例8または適用例9にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様はさらに、
酸素、窒素、硫黄およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む反応ガスを、前記基板が配置されたチャンバーに導入する反応ガス導入工程を含んでもよい。
[適用例11]
適用例10にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様において、反応ガスは水、酸素、オゾン、窒素、アンモニア、硫化水素およびそれらの組合せからなる群より選択されてもよい。
【0030】
酸素を導入した場合には、基板上にランタノイド含有薄膜中に酸素を含有するランタノイド含有酸化膜を形成することができる。同様に、窒素を導入した場合には、ランタノイド含有窒化膜を形成することができ、硫黄を導入した場合にはランタノイド含有硫化膜を形成することができる。これらのランタノイド含有薄膜を形成した後に、さらに基板を加熱する熱処理工程を有することもできる。
酸素原子を含有する反応ガスを導入した場合には、三価のランタノイドの酸化膜であるNd2O3、Eu2O3、Dy2O3、Tm2O3、Yb2O3、Sm2O3等を主に含有する薄膜が形成される。一方、酸素原子を含有しない反応ガスを導入した場合には、二価のランタノイドを主に含有する薄膜が形成されると考えられる。
【0031】
[適用例12]
適用例10または適用例11のいずれか一例にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様はさらに、ランタノイド化合物導入工程と、前記反応ガス導入工程とを、交互に所定回数行うランタノイド含有薄膜の成膜方法であってもよい。
【0032】
ランタノイド化合物を、流量を制御しながらチャンバーに導入するランタノイド化合物導入工程と、反応ガスを、流量を制御しながらチャンバーに導入する反応ガス導入工程を交互に繰り返すことにより、基板上に精度良くランタノイドと反応ガスに起因する原子を堆積させることが可能となる。ランタノイド化合物導入工程と、反応ガス導入工程を、ランタノイド含有薄膜の膜厚が所望の厚さになるまで繰り返すことにより、所望の厚さのランタノイド含有薄膜を得ることが可能となる。
【0033】
[適用例13]
適用例8または適用例9のいずれか一例にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様はさらに、基板上にGaN含有膜を成膜させるGaN含有膜成膜工程を含み、前記ランタノイド含有薄膜はランタノイド原子を含有するGaN層を含んでもよい。
【0034】
かかる適用例に拠れば、基板(GaNが成膜されたサファイア基板)上にGaN層を成長させた後(GaN含有膜成膜工程)、チャンバー内にランタノイド化合物を導入し、ランタノイドを含有するGaN層を成膜させることができる。GaN層は、加熱しながらGa含有材料(例えばトリメチルガリウム)と窒素含有材料(例えばアンモニア)をチャンバー内に導入させることにより、得ることができる。
【0035】
[適用例14]
適用例8ないし適用例13のいずれか一例にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様は成膜工程が、0℃以上1200℃以下の温度で行われる工程であってもよい。
【0036】
[適用例15]
適用例8ないし適用例14のいずれか一例にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法の一態様は成膜工程を実施する際のチャンバー内の圧力が0.06TOrr以上大気圧以下であってもよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明にかかるランタノイド化合物は、安定性が高く、融点が使用温度よりも低いことから液体状態で使用することが可能である。さらに十分な蒸気圧と反応性を有するため、ランタノイド含有薄膜を成膜させるための材料として好適である。
本発明にかかるランタノイド含有薄膜の成膜方法によれば、均一でコンフォーマルなランタノイド含有薄膜を成膜することが可能となる。得られたランタノイド含有薄膜は発光材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本実施形態で好適に用いられる装置の概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係るCVD法のフローを示す図である。
【
図3】本実施形態に係るALD法のフローを示す図である。
【
図4】GaN含有膜成長工程を含む本実施形態にかかる成膜方法のフローを示す図である。
【
図5】実施例1におけるEu(
iPr
3Cp)
2の熱分析結果である。
【
図6】実施例2におけるYb(
iPr
3Cp)
2の熱分析結果である。
【
図7】実施例3におけるランタノイド含有薄膜のXPSによる分析結果である。
【
図8】実施例4におけるGaN層を含むEu含有薄膜のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルである。
【
図9】比較例1におけるEu(
iPrCp)
2の熱分析結果である。
【
図10】実施例6におけるランタノイド含有薄膜のXPSによる分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0040】
<ランタノイド化合物>
本実施形態に係るランタノイド化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
Ln(R1
xCp)2(A)y ・・・・・(1)
(ここで、一般式(1)中、
LnはNd、Eu、Dy、TmまたはYbであり、
R1は各々独立してメチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
本実施形態に係るランタノイド化合物はまた、下記一般式(2)で表される化合物である。
Sm(R2
xCp)2(A)y ・・・・・(2)
(ここで、一般式(2)中、
R2は各々独立してノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、セカンダリーブチル、イソブチルまたはターシャリーアミルであり、
Cpはシクロペンタジエニル基であり、
Aは酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素であり、
xは2以上3以下の整数であり、
yは0以上2以下である。)
【0041】
前記一般式(1)または前記一般式(2)のランタノイド化合物は、原子価が二価であり、2または3の置換基を有するシクロペンタジエニル基を2個有するものであれば良い。単一のランタノイド化合物が有する2個のシクロペンタジエニル基上の2つまたは3つの置換基は、すべて同じ置換基であってもよいが、異なる置換基であってもよい。
【0042】
前記一般式(1)のランタノイド化合物において、ランタノイドLn、はランタノイド化合物の用途に応じて、Nd、Eu、Dy、TmまたはYbである。たとえば、該ランタノイド化合物を使用して成膜したランタノイド含有薄膜を発色材料として用いる場合、赤色用としてユウロピウム、緑色用としネオジウム、等とすることにより、所望の色の発色材料を得たり、多色化させることが可能となる。
【0043】
シクロペンタジエニル基上の置換基は、炭素数が1以上5以下の炭化水素基であればよく、直鎖でも分岐を有する置換基であってもよい。
シクロペンタジエニル基上の置換基の数は、2または3であればよく、3であることが特に好適である。具体的には、Sm(iPr3Cp)2、Eu(iPr3Cp)2、Tm(iPr3Cp)2またはYb(iPr3Cp)2の構造を有するランタノイド化合物はさらに好適である。また、多量体を形成していないランタノイド化合物が好適である。
【0044】
前記一般式(2)に示すようにランタノイ化合物がSm化合物である場合には、シクロペンタジエニル基上の置換基は炭素数が3以上であると熱安定性が特に高く、加熱時に多量体を形成しにくいため、好適である。
【0045】
本実施形態に係るランタノイド化合物は、付加物として、酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素を有してもよい。付加物は、ランタノイド化合物の特性、ランタノイド化合物の合成に用いる溶媒等に応じて、特に限定されず。例えばNMe3、NEt3、NiPr3、NMeEt2、NC5H5、Me2O、Et2O、Et2S、nPr2S、THF、TMEDA、DME、P(CH3)3、ビピリジンおよびnBu2Sからなる群より選択される1つまたは2つの付加物であってもよい。
単一のランタノイド化合物に対して、1または2の付加物を有してもよいが、付加物がなくてもよい。
【0046】
<ランタノイド化合物の合成>
上記一般式(1)または一般式(2)で表されるランタノイド化合物は、不活性ガス雰囲気下で、置換基を有するシクロペンタジエニル基とアルカリ金属との塩( M(R1
xCp)またはM(R2
xCp)(ここで、Mはアルカリ金属を示す) )に、ランタノイドのハロゲン化物(LnX2)(ここでXはハロゲン)を加えることにより合成することができる。
不活性ガスは合成反応に用いる物質に対して不活性であれば特に限定されず、使用する物質の特性等に応じて、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムまたはこれらの組合せであってもよい。
【0047】
置換基を有するシクロペンタジエニル基とアルカリ金属との塩は、合成するランタノイド化合物と同じ置換基を有するシクロペンタジエニル基との塩であればよい。アルカリ金属は置換基を有するシクロペンタジエニル基と安定に存在できるアルカリ金属であればよく、カリウムまたはナトリウムが好ましい。
【0048】
置換基を有するシクロペンタジエニル基とアルカリ金属との塩は、水素化アルカリ金属またはアルカリ金属アミドと、置換基を有するシクロペンタジエン(R1
xCpH)または(R2
xCpH)との反応により、得ることができる。
水素化アルカリ金属は、水素化ナトリウムまたは水素化カリウムであってもよい。
アルカリ金属アミドは、NaNH2、Na[N(SiMe3)2] 、またはK[N(SiMe3)2]であってもよい。
【0049】
上記反応により得られた置換基を有するシクロペンタジエニル基とアルカリ金属との塩に、ランタノイドのハロゲン化物を加えることにより、本実施形態にかかるランタノイド化合物の粗生成物が得られる。
ランタノイドのハロゲン化物(LnX2)は、無水物であることが好ましく、ランタノイドのハロゲン化物(LnX2)中に含まれる水分量が100重量ppm以下であれば、さらにより好ましい。ランタノイドのハロゲン化物(LnX2)、例えばNd、Eu、Sm、Dy、TmまたはYbのヨウ化物であってもよい。 この反応にはエーテル系、炭化水素系等の反応用溶媒を用いてもよい。反応用溶媒は、ジエチルエーテル、THFまたはジブチルエーテルを含むエーテル系の溶媒がより好ましい。
【0050】
ついで、反応用溶媒を、抽出溶媒に置換し、未反応物をろ過分離する。抽出溶媒は、エーテル類と、飽和脂肪炭化水素または芳香族炭化水素との、混合溶媒が好ましい。
【0051】
抽出溶媒による置換後、減圧下でろ液を留去して得られる粗生成物Ln(R1
xCp)2(A)yまたはSm(R2
xCp)2(A)yを、減圧蒸留により精製することで、高純度のランタノイド化合物Ln(R1
xCp)2(A)yまたはSm(R2
xCp)2(A)yが得られる。減圧蒸留の条件は、ランタノイド化合物の特性に応じ、蒸留の温度が例えば160℃以上230℃以下であってもよい。蒸留の圧力は、0.001tOrr以上1tOrr以下としてもよい。
【0052】
<ランタノイド含有薄膜の成膜方法>
本実施形態にかかるランタノイド化合物を使用して成膜を実施することにより、基板上にランタノイド含有薄膜を得ることができる。
基板はランタノイド含有薄膜を成長させることができる性質を有するものであれば特に限定されず、ランタノイド含有薄膜の用途等に応じて、例えばシリコン、SiN、SiC、サファイア、または石英であってもよい。
ランタノイド含有薄膜の成膜方法はランタノイド化合物の特性や用途等に応じて、特に限定されず、成膜工程が化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相成長(PECVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)、パルス化学気相成長(PCVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、常圧化学気相成長(APCVD)、空間的ALD、ラジカル支援成膜、超臨界流体成膜、およびそれらの組合せからなる群より選択されてもよく、化学気相成長(CVD)または原子層堆積(ALD)がより好ましい。
【0053】
ランタノイド含有薄膜の成膜のために、基板が配置されたチャンバー内にランタノイド化合物を導入する方法としては、例えばチャンバー内を減圧してランタノイド化合物の容器に充填されたランタノイド化合物の蒸気を吸引する方法、バブリング法、ダイレクトインジェクション法があるが、所望量のランタノイド化合物の蒸気を基板に供給することができる方法であればよく、これらに限られない。
ランタノイド化合物の蒸気を同伴させるために使用するキャリアガスは、ランタノイド化合物に対して不活性であれば特に限定されず、例えば窒素、ヘリウムまたはアルゴンであってもよい。
【0054】
CVD法においては、基板をチャンバーに導入させる基板導入工程を実施した後に、ランタノイド化合物を前記基板が配置されたチャンバーに導入することにより、ランタノイド含有薄膜を形成するように、前記ランタノイド化合物の少なくとも一部を前記基板上に成膜させる成膜工程を実施してもよい。反応ガスをチャンバーに導入する反応ガス導入工程をさらに有し、ランタノイド化合物と反応ガスが化学反応を起こすことによりランタノイド含有薄膜を成膜してもよい。
【0055】
ALD法においては、基板をチャンバーに導入させる基板導入工程を実施した後に、ランタノイド化合物をチャンバーに導入するランタノイド化合物導入工程と、反応ガスをチャンバーに導入する反応ガス導入工程とを交互に所定回数実施してもよい。ランタノイド含有薄膜の膜厚が所望の厚さに到達するまで、ランタノイド化合物導入工程と、反応ガス導入工程とを交互に実施してもよい。ランタノイド化合物導入工程と、反応ガス導入工程との間に、ランタノイド化合物の蒸気または反応ガスをチャンバーからパージにより除去するパージ工程を設けてもよい。
【0056】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るランタノイド含有薄膜の成膜方法における各工程について説明する。
図1は、本実施形態で好適に用いられるCVD装置の概略構成図である。
図2は、本実施形態に係るCVD法のフローを示す図である。
【0057】
<ランタノイド含有薄膜の成膜方法~基板導入工程>
基板導入工程は、
図1に示すように、基板103を成膜装置101内に搭載されたチャンバー102に導入する工程である。チャンバー102には少なくとも1つの基板103を導入し、配置する。チャンバー102は、成膜を実施するチャンバー102であれば特に限定されず、具体的には、並行板型チャンバー、コールドウォール型チャンバー、ホットウォール型チャンバー、単一ウェハチャンバー、マルチウェハチャンバー等であってもよい。
【0058】
ランタノイド含有薄膜を成膜させる基板103のタイプは最終使用目的に応じて異なる。幾つかの実施形態では、基板はMIM、DRAM若しくはFeRam技術において誘電材料として使用される酸化物(例えばZrO2系材料、HfO2系材料、TiO2系材料、希土類酸化物系材料、三元酸化物系材料等)又は銅とlOw-k層との間の酸素障壁として使用される窒化物系層(例えばTaN)から選ばれ得る。他の基板を半導体デバイス、光起電デバイス、LCD-TFTデバイス又はフラットパネルデバイスの製造に使用することができる。かかる基板の例としては、CuMnのような銅及び銅系の合金等の固体基板、金属窒化物含有基板(例えばTaN、TiN、WN、TaCN、TiCN、TaSiN及びTiSiN);絶縁体(例えばSiO2、Si3N4、SiON、HfO2、Ta2O5、ZrO2、TiO2、Al2O3及びチタン酸バリウムストロンチウム);又はこれらの材料の任意の数の組合せを含む他の基板が挙げられるが、これらに限定されない。利用される実際の基板は利用される具体的な化合物の実施形態にも左右される。しかし、多くの場合、利用される好ましい基板はSi基板及びSiO2基板から選択される。
【0059】
基板103をチャンバー102に導入した後、必要に応じてチャンバー102内の温度調整および圧力調整を実施する。
チャンバー102内の温度は0℃以上1200℃以下の温度とすることができる。ALD法の場合には、例えばチャンバー102内の温度の下限値を0℃、好ましくは20℃、さらに好ましくは50℃とすることができる。チャンバー102内の温度の上限値は、例えば300℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは150℃とすることができる。CVD法の場合には、例えばチャンバー102内の温度の下限値を100℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは300℃とすることができる。チャンバー102内の温度の上限値は、例えば1200℃、好ましくは1100℃、さらに好ましくは1000℃とすることができる。
チャンバー102内の圧力はALD法の場合には0.1TOrr以上100TOrr以下とすることができる。CVD法の場合には0.1TOrr以上500TOrr以下とすることができる。チャンバー102内の圧力は、チャンバー102に接続されたAPCバルブ405を適正に調整することにより所定の圧力とする。
【0060】
チャンバー102内の温度は、基板103を保持する基板ホルダーの温度制御、チャンバー102壁面の温度制御、またはこれらの組み合わせによって制御することができる。基板103の加熱には既知の加熱デバイスを用いることができる。
【0061】
<ランタノイド含有薄膜の成膜方法~ランタノイド化合物導入工程>
ランタノイド化合物導入工程は、ランタノイド化合物を、前記基板103が配置されたチャンバー102に導入する工程である。この際、ランタノイド化合物の蒸気をキャリアガスに同伴させて導入してもよい。
キャリアガスは、前記一般式(1)で表されるランタノイド化合物と、チャンバー102内で反応しないガスであればよく、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるガスであってもよい。
【0062】
チャンバー102内に導入されるランタノイド化合物の流量は、ランタノイド化合物流量調整機構204により制御される。ランタノイド化合物流量調整機構204は、ランタノイド化合物の流量を制御する機構であれば特に限定されず、例えばマスフローコントローラ(以下「MFC」ともいう。)であってもよい。ランタノイド化合物の流量は、ランタノイド化合物容器304に導入されるキャリアガス流量を、キャリアガス導入配管401上であって、ランタノイド化合物容器304の上流側配置されたキャリアガス流量調整機構504により調整されてもよい。
【0063】
キャリアガスに同伴させてランタノイド化合物を導入する場合、ランタノイド化合物のチャンバー102内への導入量は、キャリアガス流量と合わせて測定されてもよく、チャンバー102の容積、ランタノイド化合物の特性、基板103の表面積等に応じて、例えば0.1SCCM~2000SCCMの範囲内の流量とする。キャリアガスに同伴させてランタノイド化合物を導入する場合、キャリアガス中のランタノイド化合物濃度は、ランタノイド化合物の特性、チャンバー102の温度、圧力等により異なる。
【0064】
ランタノイド化合物の蒸気はランタノイド化合物容器304からチャンバー102へ供給される。キャリアガスを同伴せずにランタノイド化合物の蒸気のみを供給することもできるが、キャリアガスをランタノイド化合物容器304に導入し、キャリアガスに同伴させて導入することもできる。キャリアガスは、キャリアガス自身がランタノイド化合物との反応を起こさないものであれば特に限定されず、例えばアンモニア、不活性ガス、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるガスであってもよい。これらの中でも、不活性ガスがより好適である。不活性ガスとしては、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるガスが挙げられる。ランタノイド化合物を含む液滴をヒーター上に滴下し、発生した蒸気を導入するダイレクトインジェクション方式による導入をすることもできる。
【0065】
ランタノイド化合物容器304は、必要に応じて、ランタノイド化合物が十分な蒸気圧を有するように、既知の加熱手段により加熱することができる。ランタノイド化合物容器304を維持する温度は、ランタノイド化合物の熱安定性、蒸気圧等の特性に応じて、例えば0℃以上180℃の範囲である。ランタノイド化合物容器304としては、既知のバブリング容器やクロスフロー容器等を用いることができる。
不活性溶媒に溶解されたランタノイド化合物は、液体マスフローメータ(すなわちランタノイド化合物流量調整機構204)により流量を制御しながら気化器(不図示)に導入され、気化器内で全量を気化させてチャンバー102へ導入されてもよい。気化器は加熱機構により加熱されてもよく、加熱温度はランタノイド化合物の有する蒸気圧および熱安定性等の特性に応じ、例えば170℃以上350℃以下とすることができる。
【0066】
ランタノイド化合物は、酸素、硫黄、リンまたは窒素を含む直鎖または環状炭化水素からなる付加物を含んでもよい。付加物は、特に限定されず、例えばNMe3、NEt3、NiPr3、NMeEt2、NC5H5、Me2O、Et2O、Et2S、nPr2S、THF、DME、TMEDA、P(CH3)3、ビピリジンおよびnBu2Sからなる群より選択される1つまたは2つの付加物であってもよい。付加物を含有することにより、ランタノイド化合物の流動性が高まり、ランタノイド化合物のチャンバー102への供給を容易にすることが可能となる。
【0067】
<ランタノイド含有薄膜の成膜方法~反応ガス導入工程>
本実施形態において、所望するランタノイド含有薄膜の特性等に応じ、反応ガス導入工程をさらに設けることができる。反応ガス導入工程において、チャンバー102に導入される反応ガスは、反応ガス容器302からチャンバー201へ供給されてもよい。この場合、反応ガス供給配管202に配置された反応ガス流量調整機構205により、チャンバー102へ導入される反応ガスの流量が制御される。
【0068】
反応ガスは酸素、窒素、硫黄およびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むものであれば特に限定されず、所望するランタノイド含有薄膜の特性等に応じて、水、酸素、オゾン、窒素、アンモニア、ヒドラジン、硫化水素およびそれらの組合せからなる群より選択されることができる。
酸素を含有するガスを反応ガスとした場合には、ランタノイド含有薄膜中に酸素原子が取り込まれ、酸化膜を得ることができる。
窒素を含有するガスを反応ガスとした場合には、ランタノイド含有薄膜中に窒素原子が取り込まれ、窒化膜を得ることができる。
硫黄を含有するガスを反応ガスとした場合には、ランタノイド含有薄膜中に硫黄原子が取り込まれ、硫化膜を得ることができる。
酸素および窒素を含有するガスを反応ガスとした場合や、酸素を含有するガスと窒素を含有するガスの混合ガスを反応ガスとした場合には、ランタノイド含有薄膜中に酸素原子と窒素原子が取り込まれ、酸窒化膜を得ることができる。
【0069】
CVD法の場合には、
図2にフローで示すとおり、ランタノイド化合物導入工程を実施後に反応ガス導入工程を実施してもよく、ランタノイド化合物導入工程と反応ガス導入工程を同時に実施してもよい。
【0070】
ALD法の場合には、
図3にフローで示すとおり、ランタノイド化合物導入工程を実施後に、ランタノイド化合物をチャンバー102からパージにより除去するパージ工程を実施し、その後に反応ガス導入工程を実施し、反応ガスをパージによりチャンバー102から除去するパージ工程を実施する流れを複数回繰り返してもよい。
成膜されるランタノイド含有薄膜の膜厚が所望の厚さに到達するまで、上記工程を繰り返してもよい。
ALD法の場合、ランタノイド化合物導入工程と反応ガス導入工程とを繰り返すことにより、ランタノイド含有薄膜を成膜する成膜工程が実施される。
【0071】
GaN含有膜であるランタノイド含有薄膜を成膜する場合には、
図4にフローで示すとおり、GaN層を基板103上に成長させるGaN含有膜成長工程を実施した後に、ランタノイド化合物導入工程を実施してもよい。
この場合、基板103として、GaNが成膜されたサファイア基板を使用してもよい。
前記サファイア基板をチャンバー102に導入する基板導入工程を実施した後、Ga含有材料および窒素含有材料をチャンバー102に導入してGaN層を成長させるGaN含有膜成長工程を実施する。GaN含有膜成長工程では、キャリアガスを導入してもよい。
キャリアガスはGa含有材料および窒素含有材料と反応しないガスであれば、特に限定されず、例えば窒素、アルゴンまたはヘリウムであってもよい。
Ga含有材料は、Gaを含む材料であれば特に限定されず、例えばトリメチルガリウムまたはトリエチルガリウムであってもよい。窒素含有材料は、窒素を含む材料であれば特に限定されず、例えばアンモニアや、トリエチルアミンであってもよい。
その後、ランタノイド化合物導入工程を実施すると、GaN含有膜であるランタノイド含有薄膜が得られる。
【0072】
<ランタノイド含有薄膜の成膜方法~最終工程>
基板103上にランタノイド含有薄膜が成膜された後、ランタノイド化合物および反応ガスを使用した場合には添加ガスをパージによりチャンバー102より除去する。さらにチャンバー102内の圧力をAPCバルブ405により大気圧に戻し、温度調節機構によりチャンバー102内の温度を室温に戻し、基板103を取り出す。
【0073】
<ランタノイド含有薄膜の用途>
本実施形態にかかるランタノイド化合物を使用して成膜させることにより得られたランタノイド含有薄膜は、特に限定されず、例えば半導体デバイスや発光材料として使用することができる。
発光材料として使用する場合、任意のランタノイドを選択することにより、異なる色の発光材料を得ることができる。
【0074】
3.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1:Eu(iPr3Cp)2の合成>
容積1Lのフラスコに脱水処理を施したジエチルエーテル400mlおよびK[N(SiMe3)2] 35.7g(0.18mOl)を入れた。そこへ、iPr3CpH 38.1g(0.20mOl、1.1当量)を脱水処理を施したジエチルエーテル100mLに溶解させた溶液を、室温(温度は20℃)で滴下した。
得られた反応混合物を12時間、マグネチックスターラーにより攪拌した後、上澄み液を除くことにより、析出した白色固体が得られた。
この白色固体を脱水処理を施したジエチルエーテル100mLおよび脱水処理を施したn-ペンタン100mLで洗浄したのち、減圧下で乾固し、K(iPr3Cp)を得た。
これに、無水EuI2 34.9g(0.09mOl)および脱水処理を施したTHF500mLを加え、48時間、20℃で攪拌した後、減圧下で溶媒(THF)を留去することにより、橙色の固形分を得た。
次に脱水処理を施したn-ペンタン500mLを加え、橙色のろ液をろ過によりろ別した。得られたろ液をまず20℃、減圧下で乾固し、次に減圧下120℃で3時間乾燥させることにより、濃赤色の液体が得られた。
得られた液体を単蒸留装置に導入し、温度150から160℃、圧力10Paの留分である濃赤色の液体を、収量26.9g(0.05mOl)、収率58%(EuI2基準)で得た。
【0076】
上記で得られたEu(iPr3Cp)2について組成分析を行った。湿式分解して得られた液のICP発光分光分析の結果、Eu(iPr3Cp)2中のEu含有量は27.6%であった。理論値である28.4%と近似した結果であったといえる。組成分析には、日立ハイテクサイエンス社製 SPECTRO ARCOSIIを使用した。
【0077】
図5は、上記で得られたEu(
iPr
3Cp)
2の熱分析結果を示す。熱分析の測定条件は、試料重量24.98 mg、圧力1気圧、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minとして、TG-DTA測定を行った。
図5の実線に示されるように、熱重量分析(TGA)において、残渣は0.4%であった。
また、等温熱重量分析測定の結果、Eu(
iPr
3Cp)
2の蒸気圧は180℃において1tOrrであった。
熱重量分析計には、メトラートレド社製TGA/SDTA851を使用した。
【0078】
図5に示したように、320℃までに99.6%のEu(
iPr
3Cp)
2が蒸発していることが確認された。このことから、Eu(
iPr
3Cp)
2は、320℃以下においては熱分解、多量体の形成による変質は確認されずランタノイド含有薄膜成膜材料として、高い熱安定性を有していると言える。
また、20℃において液体であるため、成膜のためにEu(
iPr
3Cp)
2を供給することが容易である。
また、CVD法やALD法において一般に用いられる温度である180℃において、十分な蒸気圧を有していることから、好適な成膜速度でランタノイド含有薄膜を成膜させることができるランタノイド化合物であるといえる。
【0079】
実施例1で得られたEu(iPr3Cp)2は20℃において液体であった。しかしながら、シクロペンタジエニル基を有する二価のEu化合物であるEu(Me4EtCp)2融点は122.4℃である。この対比から、シクロペンタジエニル基上に3の置換基を有する二価のランタノイド化合物は、シクロペンタジエニル基上に5の置換基を有する二価のランタノイド化合物よりも低い融点を有することが確認された。
【0080】
<実施例2:Yb(iPr3Cp)2の合成>
容積250mLのフラスコに脱水処理を施したジエチルエーテル20mlおよびK[N(SiMe3)2] 5.18g(0.026mOl)を入れた。そこへiPr3CpH 5.00g(0.26mOl、1.0当量)を脱水処理を施したジエチルエーテル10mLに溶解させた溶液を、室温(温度は20℃)で滴下した。反応混合物を12時間、マグネチックスターラーにより攪拌した後、上澄み液を除くことにより、白色固体が得られた。
白色固体を、減圧下で乾固し、K(iPr3Cp)を得た。これに、無水YbI2 5.09g(0.012mOl)および脱水処理を施したTHF50mLを加え、48時間、20℃で攪拌した後、減圧下で溶媒(THF)を留去することにより、濃緑色の固形分を得た。
次に脱水処理を施したn-ペンタン100mLを加え、緑色のろ液をろ過によりろ別した。
得られたろ液をまず温度20℃、減圧下で乾固した。次に減圧下、120℃で3時間乾燥させることにより、濃緑色固体が得られた。
得られた固体を単蒸留装置に導入し、温度150から160℃、圧力10Paの留分である、濃緑色固体(Yb(iPr3Cp)2)を収量3.9g(7.50 mmOl)、収率59%(YbI2基準)で得た。
【0081】
得られたYb(iPr3Cp)2の融点は75℃であった。
【0082】
得られたYb(iPr3Cp)2について、核磁気共鳴法(NMR)による分析を行った。重溶媒にC6D6を用いて、テトラメチルシランを内部基準として1H-NMRを測定した結果、Yb(iPr3Cp)2の構造が確認された。1H NMR(δ、C6D6、400MHz、25 ℃): δ5.69 (s, 4H), 2.93 (sept,J= 7.2 Hz, 6H),1.27(m, 36H)。
NMR分析計には、JEOL社製400MHzNMR装置を使用した。
【0083】
図6は、上記で得られたYb(
iPr
3Cp)
2の熱分析結果を示す。熱分析の測定条件は、試料重量27.45 mg、圧力1気圧、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minとして、TG-DTA測定を行った。
図6の実線に示されるように、熱重量分析(TGA)において、残渣は1.3%であった。
また、等温熱重量分析測定の結果、Yb(
iPr
3Cp)
2の蒸気圧は177℃において1tOrrであった。
熱重量分析計には、メトラートレド社製TGA/SDTA851を使用した。
【0084】
図6に示したように、320℃までに98.7%のYb(
iPr
3Cp)
2が蒸発していることが確認された。このことから、Yb(
iPr
3Cp)
2は、320℃以下においては熱分解、多量体の形成による変質は確認されずランタノイド含有薄膜成膜材料として、高い熱安定性を有していると言える。
また、CVD法やALD法において一般に用いられる温度である180℃において、十分な蒸気圧を有し、液体状態であることから、好適な成膜速度でランタノイド含有薄膜を成膜させることができるランタノイド化合物であるといえる。
【0085】
<比較例1:Eu(iPrCp)2の合成>
容積250mLのフラスコに脱水処理を施したジエチルエーテル40mlおよびK[N(SiMe3)2] 4.00g(0.020mOl)を入れた。そこへiPrCpH 2.40g(0.022mOl、1.1当量)を脱水処理を施したジエチルエーテル5mLに溶解させた溶液を、室温(温度は20℃)で滴下した。反応混合物を12時間、マグネチックスターラーにより攪拌した後、減圧下で溶媒を留居し、K(iPrCp)を得た。別途用意した容積250mLのフラスコに無水EuI2 3.20g(0.008mOl)、合成したK(iPrCp) 2.3g(0.016mOl)、および脱水処理を施したTHF20mLおよびジエチルエーテル75mLを加え、48時間、20℃で攪拌した後、上澄み液をろ過によりろ別した。得られたろ液をまず20℃、減圧下で乾固した。次に減圧下、100℃で3時間乾燥させることにより橙色の固形分を(Eu(iPrCp)2を収量1.6g(4.40mmOl)、収率55%(EuI2基準)で得た。
【0086】
図9は、上記で得られたEu(
iPrCp)
2の熱分析結果を示す。熱分析の測定条件は、試料重量24.16 mg、圧力1気圧、窒素雰囲気下、昇温速度10.0℃/minとして、TG測定を行った。
図5の実線に示されるように、熱重量分析(TGA)において、500℃での残渣は86.5%であった。
熱重量分析計には、メトラートレド社製TGA/SDTA851を使用した。
【0087】
図9に示したように、400℃以下ではほぼ蒸発しないことから、Eu(
iPrCp)
2は、多量体を形成していることが示唆される。このようにシクロペンタジエニル基が一つアルキル基で置換された化合物はランタノイド含有薄膜成膜前駆体としては用いえないと言える。
【0088】
<実施例3:Yb(iPr3Cp)2を用いたCVD法によるYb2O3膜の形成>
ランタノイド化合物としてYb(iPr3Cp)2を使用し、反応ガスとして乾燥空気を使用して、下記の条件により基板上に熱CVD法によりランタノイド含有薄膜を成膜した。なお、乾燥空気として、酸素を20%以上22%以下含有する窒素と酸素の混合ガスであり、露点-69℃のガスを使用した。
【0089】
<成膜条件>
・使用装置:
図1に概略を示す構成を有する装置101を使用した。チャンバー102内に基板103を配置した。Yb(
iPr
3Cp)
2を充填したランタノイド化合物容器304にキャリアガス導入配管401およびランタノイド化合物供給配管201を接続し、さらにチャンバー102へと接続した。キャリアガス導入配管401を経由してキャリアガス301として窒素ガスをランタノイド化合物容器304に導入することにより、Yb(
iPr
3Cp)
2を窒素ガスによりバブリングした。ランタノイド化合物供給配管201上には、ランタノイド化合物流量調節機構204としてマスフローメータを配置した。空気を充填した反応ガス容器302は反応ガス供給配管202を接続し、チャンバー102へと接続した。反応ガス供給配管202上には、反応ガス流量調節機構205としてマスフローメータを配置した。
Yb(
iPr
3Cp)
2をキャリアガスに同伴させてチャンバー102に導入するランタノイド化合物導入工程と、空気をチャンバー102に導入する反応ガス導入工程を同時に実施して、ランタノイド含有薄膜を成膜する成膜工程を実施した。
・ランタノイド化合物:Yb(
iPr
3Cp)
2
・基板:SiO
2(HFでクリーニング済み)
・成膜温度:700℃
・チャンバー内圧力:10TOrr
・ランタノイド化合物容器304温度:140℃
・キャリアガス301:窒素ガス(流量50SCCM)
・反応ガス:空気(流量30SCCM)
・成膜時間:60分
【0090】
このようにして得られたランタノイド含有薄膜のXPSによる分析結果を
図7に示す。XPS分析にはサーモサイエンティフィック社製K-Alphaを使用した。Yb
2O
3膜のXPS深さ分析プロファイルにより、ランタノイド含有薄膜であるYb
2O
3膜が得られたことが確認された。
【0091】
<実施例4:Eu(iPr3Cp)2を用いたMOCVD法によるEu含有GaN膜の形成>
ランタノイド化合物としてEu(iPr3Cp)2を使用し、MOCVD法により、下記の条件により、GaN層を含むランタノイド含有薄膜を成膜した。
【0092】
<成膜条件>
・使用装置:MOCVD装置を使用した。MOCVDチャンバー内に、GaNが成膜されたサファイア基板を配置した。Eu(iPr3Cp)2を充填したランタノイド化合物容器に、キャリアガスである窒素ガスを導入するキャリアガス導入配管を接続した。さらにランタノイド化合物容器にはキャリアガスに同伴されたEu(iPr3Cp)2の蒸気をMOCVDチャンバーへと供給するランタノイド化合物供給配管を接続した。キャリアガス導入配管を経由してキャリアガスとして窒素ガスをランタノイド化合物容器に導入することにより、Eu(iPr3Cp)2を窒素ガスによりバブリングした。窒素ガスの流量は、キャリアガス導入配管上に配置された、キャリアガス流量調整機構により調整した。Ga含有材料、窒素含有材料、キャリアガス(窒素ガス)をそれぞれ供給する配管をMOCVDチャンバーに接続した。
次いで、MOCVDチャンバーに窒素を供給しながら、GaNが成膜されたサファイア基板を1000℃に加熱した。このとき、MOCVDチャンバーには、窒素およびアンモニアの混合ガスを供給してもよく、アンモニアガスのみを供給してもよい。いずれのガスを使用しても同様の結果が得られる。
続いて、Ga含有材料であるトリメチルガリウムと窒素含有材料であるアンモニアをキャリアガスである窒素ガスとともにMOCVDチャンバー内に導入し、GaN含有膜成長工程を5分間実施した。
GaN含有膜成長工程が終了した後、ランタノイド化合物をMOCVDチャンバーに供給し、成膜工程を30分間実施した。Eu(iPr3Cp)2を30分間反応器に供給し、GaN層を含むランタノイド含有薄膜であるGaN層を含むEu含有薄膜を成膜した。
・ランタノイド化合物:Eu(iPr3Cp)2(流量0.004SCCM)
・基板:GaNが成膜されたサファイア基板
・成膜温度:1000℃
・チャンバー内圧力:450TOrr
・ランタノイド化合物容器304温度:140℃
・Ga含有材料:トリメチルガリウム(流量0.2SCCM)
・窒素含有材料:アンモニア(流量600SCCM)
・GaN含有膜成長工程における所要時間:5分
・成膜工程における成膜時間:30分
【0093】
このようにして得られたGaN層を含むEu含有薄膜の室温(20℃)におけるフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを
図8に示す。フォトルミネッセンスの測定にはHORIBA JObin YvOn社製LabRAM-HR PLを使用した。
図8において、縦軸はPL強度(単位、a.u.)、横軸は波長(nm)である。
図8に示すように、621 nm および663 nmにEuの
5D
0-
7F
2遷移および
5D
0-
7F
3遷移由来のPLが観測された。
【0094】
<実施例5:Yb(iPr3Cp)2を用いたALD法によるYb2O3膜の形成>
ランタノイド化合物としてYb(iPr3Cp)2を使用し、反応ガスとして水を使用して、下記の条件により基板上にALD法によりランタノイド含有薄膜を成膜した。
【0095】
<成膜条件>
・使用装置:
図1に概略を示す構成を有する装置101を使用した。チャンバー102内に基板103を配置した。Yb(
iPr
3Cp)
2を充填したランタノイド化合物容器304にキャリアガス導入配管401およびランタノイド化合物供給配管201を接続し、さらにチャンバー102へと接続した。キャリアガス導入配管401を経由してキャリアガス301としてアルゴンガスをランタノイド化合物容器304に導入することにより、Yb(
iPr
3Cp)
2をアルゴンガスによりバブリングした。ランタノイド化合物供給配管201上には、ランタノイド化合物流量調節機構204としてマスフローメータを配置した。水を充填した反応ガス容器302は反応ガス供給配管202を接続し、チャンバー102へと接続した。水はアルゴンガスに同伴させながら、ガス状でチャンバー102へ導入した。反応ガス供給配管202上には、反応ガス流量調節機構205としてマスフローメータを配置した。
Yb(
iPr
3Cp)
2をキャリアガスであるアルゴンガスに同伴させてチャンバー102に1秒間導入するランタノイド化合物導入工程と、水をアルゴンガスに同伴させてチャンバー102に1秒間導入する反応ガス導入工程を、3秒間のパージ工程を挟んで交互に実施した。
すなわち、ランタノイド化合物導入工程を1秒間実施した後、パージ工程を3秒間実施し、反応ガス導入工程を1秒間実施し、パージ工程を3秒実施するというサイクルを1サイクルとして、100サイクル実施した。
・ランタノイド化合物:Yb(
iPr
3Cp)
2
・基板:SiO
2(HFでクリーニング済み)
・成膜温度:300℃
・チャンバー内圧力:5TOrr
・ランタノイド化合物容器304温度:120℃
・キャリアガス301:アルゴンガス(流量50SCCM)
・反応ガス:水(アルゴンガス200SCCMを導入して同伴させた)
・反応ガス容器302温度:20℃
【0096】
このようにして得られたランタノイド含有薄膜のXPSによる分析の結果、膜厚10nmのランタノイド含有薄膜であるYb2O3膜が得られたことが確認された。分析に用いたXPS装置は実施例3と同じである。
【0097】
<実施例6:Eu(iPr3Cp)2を用いたALD法によるEu2O3膜の形成>
ランタノイド化合物としてEu(iPr3Cp)2を使用し、反応ガスとして酸素を使用して、下記の条件により基板上にALD法によりランタノイド含有薄膜を成膜した。
【0098】
<成膜条件>
・使用装置:
図1に概略を示す構成を有する装置101を使用した。チャンバー102内に基板103を配置した。Eu(
iPr
3Cp)
2を充填したランタノイド化合物容器304にキャリアガス導入配管401およびランタノイド化合物供給配管201を接続し、さらにチャンバー102へと接続した。キャリアガス導入配管401を経由してキャリアガス301として窒素ガスをランタノイド化合物容器304に導入することにより、Eu(
iPr
3Cp)
2を窒素ガスによりバブリングした。ランタノイド化合物供給配管201上には、ランタノイド化合物流量調節機構204としてマスフローメータを配置した。酸素を充填した反応ガス容器302は反応ガス供給配管202を接続し、チャンバー102へと接続した。反応ガス供給配管202上には、反応ガス流量調節機構205としてマスフローメータを配置した。
Eu(
iPr
3Cp)
2をキャリアガスである窒素ガスに同伴させてチャンバー102に1秒間導入するランタノイド化合物導入工程と、酸素を窒素ガスに同伴させてチャンバー102に1秒間導入する反応ガス導入工程を、3秒間のパージ工程を挟んで交互に実施した。
すなわち、ランタノイド化合物導入工程を16秒間実施した後、パージ工程を16秒間実施し、反応ガス導入工程を4秒間実施し、パージ工程を4秒実施するというサイクルを1サイクルとして、600サイクル実施した。
・ランタノイド化合物:Eu(
iPr
3Cp)
2
・基板:Si(HFでクリーニング済み)
・成膜温度:225℃
・チャンバー内圧力:20Torr
・ランタノイド化合物容器304温度:140℃
・キャリアガス301:窒素ガス(流量20SCCM)
・反応ガス:酸素(窒素ガス20SCCMを導入して同伴させた)
・反応ガス容器302温度:20℃
【0099】
このようにして得られたランタノイド含有薄膜のXPSによる分析結果を
図10に示す。XPS分析にはサーモサイエンティフィック社製K-Alphaを使用した。Eu2O3膜のXPS深さ分析プロファイルにより、ランタノイド含有薄膜であるEu2O3膜が得られたことが確認された。
【符号の説明】
【0100】
101 成膜装置
102 チャンバー
103 基板
201 ランタノイド化合物供給配管
202 反応ガス供給配管
204 ランタノイド化合物流量調整機構
205 反応ガス流量調整機構
301 キャリアガス
302 反応ガス容器
304 ランタノイド化合物容器
401 キャリアガス導入配管
405 APCバルブ(圧力調整部)
504 キャリアガス流量調整機構