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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/04 20060101AFI20230301BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20230301BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C03B33/04
B26F3/00 A
B28D5/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018544983
(86)(22)【出願日】2017-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2017036374
(87)【国際公開番号】W WO2018070345
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2016202350
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中津 広之
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】伊藤 真明
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-10004(JP,A)
【文献】特開2010-83015(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104310779(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B33/02-33/04
B28D1/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原板上に配置される1つの切断予定線に沿って主スクライブ線を形成するスクライブ工程と、前記切断予定線に沿って前記ガラス原板を切断することにより、前記切断予定線に倣う外周輪郭を有するガラス板を得る切断工程とを含むガラス板の製造方法であって、
前記主スクライブ線は、第1直線部と、第2直線部と、前記第1直線部の一方の端点と前記第2直線部の一方の端点とを繋ぎ、曲線を含む第1接続部と、前記第1直線部の他方の端点と前記第2直線部の他方の端点とを繋ぐ第2接続部からなり、
前記スクライブ工程では、前記主スクライブ線に加え、第1補助スクライブ線、第2補助スクライブ線、第3補助スクライブ線及び第4補助スクライブ線を形成し、
前記第1補助スクライブ線は、前記第1直線部の一方の端点から前記第1直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、
前記第2補助スクライブ線は、前記第1直線部の他方の端点から前記第1直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、
前記第3補助スクライブ線は、前記第2直線部の一方の端点から前記第2直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、
前記第4補助スクライブ線は、前記第2直線部の他方の端点から前記第2直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、
前記切断工程は、前記ガラス原板を、前記第1直線部、前記第1補助スクライブ線及び前記第2補助スクライブ線に沿って切断すると共に、前記第2直線部、前記第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線に沿って切断する直線部切断工程と、
前記直線部切断工程を経た前記ガラス原板を、前記第1接続部に沿って切断すると共に、前記第2接続部に沿って切断する接続部切断工程とを含むことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記第1補助スクライブ線及び前記第2補助スクライブ線は、前記第1直線部と離間され、
前記第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線は、前記第2直線部と離間されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記スクライブ工程は、
前記ガラス原板に前記第1補助スクライブ線を形成する工程と、
前記第1補助スクライブ線が形成された前記ガラス原板に、前記第1直線部上の一点を始点として前記主スクライブ線を形成する工程と、
前記主スクライブ線が形成された前記ガラス原板に前記第2補助スクライブ線を形成する工程と、
前記第2補助スクライブ線が形成された前記ガラス原板に、前記第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記第2接続部は、曲線を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記第1接続部は、直線状の第1中間部、前記第1直線部の一方の端点と前記第1中間部の一方の端点とを繋ぐ弧状の第1端部、及び、前記第2直線部の一方の端点と前記第1中間部の他方の端点とを繋ぐ弧状の第2端部からなり、
前記第2接続部は、直線状の第2中間部、前記第1直線部の他方の端点と前記第2中間部の一方の端点とを繋ぐ弧状の第3端部、及び、前記第2直線部の他方の端点と前記第2中間部の他方の端点とを繋ぐ弧状の第4端部からなることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス原板上の切断予定線に沿って主スクライブ線を形成するスクライブ工程と、そのガラス原板を切断することにより、切断予定線に倣う外周輪郭を有するガラス板を得る切断工程を含むガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットPC等では、ディスプレイのカバーガラスとしてガラス板が採用される。これらの製品に使用されるガラス板の外周輪郭を、直線と曲線を組み合わせた形状、例えば、後述の図5(c)に示すような矩形を基本形状とし、その4箇所の角部を円弧状の曲線とした形状とする場合がある。
【0003】
直線と曲線を組み合わせた外周輪郭を有するガラス板は、例えば、以下の手順に沿ってガラス原板を切断することによって製造できる。
(1)矩形の外周輪郭を有するガラス原板に、切断予定線に沿って主スクライブ線を形成する。主スクライブ線の形成では、スクライブホイールをガラス原板の表面に押し当てながら走行させる。
(2)主スクライブ線の周辺に曲げモーメントを作用させ、主スクライブ線に沿ってガラス原板を切断することにより、ガラス原板の外周部を分離して除去する。これにより、切断予定線と合致する外周輪郭を有するガラス板を得る。
【0004】
上記の切断方法では、ガラス原板を切断してその外周部を分離する際、得られるガラス板と、分離・除去される環状の外周部が干渉しやすい。この干渉により、得られるガラス板に割れ等が発生する場合がある。この問題に対応するため、特許文献1では、主スクライブ線に加え、補助スクライブ線をガラス原板に形成することが提案されている。
【0005】
図5は、特許文献1に記載されるスクライブ方法を示す模式図であり、同図(a)は主スクライブ線91及び補助スクライブ線92の形成後、同図(b)は外周部93aの一部の分離時、同図(c)は得られるガラス板95を示す。特許文献1に記載されるスクライブ方法では、同図(a)に示すように、主スクライブ線91の直線部91aに向かって補助スクライブ線92が形成される。この場合、補助スクライブ線92は、主スクライブ線91の直線部91aに対して垂直に又は主スクライブ線91の直線部91aに対する傾斜角θが15~85°となるように形成される。
【0006】
このように補助スクライブ線92を形成することにより、ガラス原板93を切断する際に分離・除去される外周部93aが複数のガラス片94に分割される(同図(b)参照)。このため、ガラス片94との干渉により、得られるガラス板95に割れ等が発生することを低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-10004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されるスクライブ方法では、分離するガラス片94との接触により、得られるガラス板95が傷つきやすい。これは、分割された複数のガラス片94は、いずれも、主スクライブ線91と補助スクライブ線92とによる角部(図5(b)の点線で囲む部分)を有するからである。この傷つきは、図5(b)に示すように、分離される複数のガラス片94のうちで最初のガラス片94を切断して分離する過程で特に発生しやすい。これは、最初のガラス片94を切断して分離する際には、最初のガラス片94の近傍に除去前の外周部93aが存在するからである。
【0009】
また、特許文献1に記載されるスクライブ方法では、得られるガラス板95の外周輪郭95aのうちで補助スクライブ線92が近接していた部分(図5(c)の点線で囲む部分)に欠けやそげが発生しやすい。これは、補助スクライブ線92により、主スクライブ線91の直線部91aが複数回に分けて切断されることによる。また、補助スクライブ線92が主スクライブ線91に対して垂直であること、又は、補助スクライブ線92と主スクライブ線91の直線部91aとの傾斜角が15~85°であることにもよる。ここで、「欠け」とは、切断予定線に対する欠落部であり、「そげ」とは、切断予定線に対する余剰部であり、いずれも欠陥となる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、外周部を分離する際の接触による傷つきを抑制できるガラス板の製造方法を提供することを主たる目的とする。また、本発明の別の目的は、切断する際の欠け及びそげを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るガラス板の製造方法は、以下の通りである。
【0012】
(1)ガラス原板上の切断予定線に沿って主スクライブ線を形成するスクライブ工程と、前記切断予定線に沿って前記ガラス原板を切断することにより、前記切断予定線に倣う外周輪郭を有するガラス板を得る切断工程とを含むガラス板の製造方法である。前記主スクライブ線は、第1直線部と、第2直線部と、前記第1直線部の一方の端点と前記第2直線部の一方の端点とを繋ぎ、曲線を含む第1接続部と、前記第1直線部の他方の端点と前記第2直線部の他方の端点とを繋ぐ第2接続部からなる。
【0013】
前記スクライブ工程では、前記主スクライブ線に加え、第1補助スクライブ線、第2補助スクライブ線、第3補助スクライブ線及び第4補助スクライブ線を形成する。前記第1補助スクライブ線は、前記第1直線部の一方の端点から前記第1直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、前記第2補助スクライブ線は、前記第1直線部の他方の端点から前記第1直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、前記第3補助スクライブ線は、前記第2直線部の一方の端点から前記第2直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置し、前記第4補助スクライブ線は、前記第2直線部の他方の端点から前記第2直線部に沿って引き伸ばされた直線上に位置する。
【0014】
前記切断工程は、前記ガラス原板を、前記第1直線部、前記第1補助スクライブ線及び前記第2補助スクライブ線に沿って切断すると共に、前記第2直線部、前記第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線に沿って切断する直線部切断工程と、前記直線部切断工程を経た前記ガラス原板を、前記第1接続部に沿って切断すると共に、前記第2接続部に沿って切断する接続部切断工程とを含む。
【0015】
(2)前記第1補助スクライブ線及び前記第2補助スクライブ線は、前記第1直線部と離間され、前記第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線は、前記第2直線部と離間されていることを特徴とする上記(1)に記載のガラス板の製造方法。
【0016】
(3)前記スクライブ工程は、前記ガラス原板に前記第1補助スクライブ線を形成する工程と、前記第1補助スクライブ線が形成された前記ガラス原板に、前記第1直線部上の一点を始点として前記主スクライブ線を形成する工程と、前記主スクライブ線が形成された前記ガラス原板に前記第2補助スクライブ線を形成する工程と、前記第2補助スクライブ線が形成された前記ガラス原板に、前記第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線を形成する工程とを含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のガラス板の製造方法。
【0017】
(4)前記第2接続部は、曲線を含むことを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0018】
(5)前記第1接続部は、直線状の第1中間部、前記第1直線部の一方の端点と前記第1中間部の一方の端点とを繋ぐ弧状の第1端部、及び、前記第2直線部の一方の端点と前記第1中間部の他方の端点とを繋ぐ弧状の第2端部からなり、前記第2接続部は、直線状の第2中間部、前記第1直線部の他方の端点と前記第2中間部の一方の端点とを繋ぐ弧状の第3端部、及び、前記第2直線部の他方の端点と前記第2中間部の他方の端点とを繋ぐ弧状の第4端部からなることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラス原板を、主スクライブ線の第1直線部と、その延長線上の第1補助スクライブ線及び第2補助スクライブ線とに沿って切断すると共に、主スクライブ線の第2直線部と、その延長線上の第3補助スクライブ線及び前記第4補助スクライブ線に沿って切断する。その後、ガラス原板を、主スクライブ線の第1接続部に沿って切断すると共に、主スクライブ線の第2接続部に沿って切断する。これにより、外周部を分離する際の接触による傷つきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態の製造方法の概要を模式的に示す平面図であり、同図(a)はスクライブ工程前、同図(b)はスクライブ工程後、同図(c)は直線部切断工程後、同図(d)は接続部切断工程後を示す。
図2図2は、好適なスクライブ線の形成順序を模式的に示す平面図であり、同図(a)は第1補助スクライブ線の形成後、同図(b)は主スクライブ線の形成後、同図(c)は第2補助スクライブ線の形成後、同図(d)は第3補助スクライブ線及び第4補助スクライブ線の形成後を示す。
図3図3は、矩形を基本形状とする主スクライブ線の変形例を模式的に示す平面図であり、同図(a)は2箇所の角部を円弧状の曲線とする形状、同図(b)は1箇所の角部を円弧状の曲線とする形状を示す。
図4図4は、本実施形態の製造方法で採用可能な主スクライブ線の形状例を模式的に示す平面図であり、同図(a)は略台形状、同図(b)は略平行四辺形状、同図(c)は第1接続部及び第2接続部が曲線のみからなる形状を示す。
図5図5は、特許文献1に記載されるスクライブ方法を示す模式図であり、同図(a)は主スクライブ線及び補助スクライブ線の形成後、同図(b)は外周部の一部の分離時、同図(c)は得られるガラス板を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るガラス板の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」という)について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本実施形態の製造方法の概要を模式的に示す平面図であり、同図(a)はスクライブ工程前、同図(b)はスクライブ工程後、同図(c)は直線部切断工程後、同図(d)は接続部切断工程後を示す。
【0023】
ガラス板10の製造にあたり、同図(a)に示すようなガラス原板20を準備し、そのガラス原板20は、矩形状の外周輪郭20aを有する。本実施形態の製造方法は、スクライブ工程及び切断工程を含む。スクライブ工程では、切断予定線L1に沿う主スクライブ線40に加え、補助スクライブ線50をガラス原板20に形成する(同図(b)参照)。ここで、本発明において、「切断予定線」は、同図(a)に符号L1で示すように、ガラス原板20上の切断予定箇所に位置する仮想線である。
【0024】
主スクライブ線40は、閉ループ状であり、第1直線部41、第2直線部42、第1接続部43及び第2接続部44からなる。第1接続部43は、第1直線部41の一方の端点41aと第2直線部42の一方の端点42aとを繋ぎ、曲線を含む。より具体的には、第1接続部43は、直線状の第1中間部43a、弧状の第1端部43b及び弧状の第2端部43cからなる。その第1端部43bは、第1直線部41の一方の端点41aと第1中間部43aの一方の端点とを繋ぐ。また、第2端部43cは、第2直線部42の一方の端点42aと第1中間部43aの他方の端点とを繋ぐ。
【0025】
第2接続部44は、第1直線部41の他方の端点41bと第2直線部42の他方の端点42bとを繋ぎ、曲線を含む。より具体的には、第2接続部44は、直線状の第2中間部44a、弧状の第3端部44b及び弧状の第4端部44cからなる。その第3端部44bは、第1直線部41の他方の端点41bと第2中間部44aの一方の端点とを繋ぐ。第4端部44cは、第2直線部42の他方の端点42bと第2中間部44aの他方の端点とを繋ぐ。
【0026】
補助スクライブ線50は、第1補助スクライブ線51、第2補助スクライブ線52、第3補助スクライブ線53及び第4補助スクライブ線54を備える。以下では、「補助スクライブ線」を「補助線」ともいい、「第1補助スクライブ線」~「第4補助スクライブ線」を「第1補助線」~「第4補助線」ともいう。
【0027】
第1補助線51は、第1直線部41の一方の端点41aから第1直線部41に沿って引き伸ばされた直線上に位置する。また、第2補助線52は、第1直線部41の他方の端点41bから第1直線部41に沿って引き伸ばされた直線上に位置する。このような第1補助線51及び第2補助線52は、第1直線部41を挟んで、その両側に位置する。第1直線部41、第1補助線51及び第2補助線52により、ガラス原板20の全体を横断するような直線状のスクライブ線が形成される。
【0028】
第3補助線53は、第2直線部42の一方の端点42aから第2直線部42に沿って引き伸ばされた直線上に位置する。また、第4補助線54は、第2直線部42の他方の端点42bから第2直線部42に沿って引き伸ばされた直線上に位置する。このような第3補助線53及び第4補助線54は、第2直線部42を挟んで、その両側に位置する。第2直線部42、第3補助線53及び第4補助線54により、ガラス原板20の全体を横断するような直線状のスクライブ線が形成される。
【0029】
続く、切断工程では、主スクライブ線40及び補助線50を用いてガラス原板20を切断する。これにより、ガラス原板20の外周部20bが分離されて除去されることから、切断予定線L1に倣う外周輪郭10aを有するガラス板10が得られる(図1(d)参照)。また、ガラス原板20の外周部20bは、補助線50によって領域A1~A4に区分けされることから、4個のガラス片31~34となって分離する。このような切断工程は、直線部切断工程と、接続部切断工程とを含む。
【0030】
直線部切断工程では、主スクライブ線40及び補助線50が形成されたガラス原板20(図1(b)参照)に曲げモーメントを付与することにより、第1直線部41、第1補助線51及び第2補助線52に沿ってガラス原板20を切断する。これにより、ガラス原板20の外周部の領域A1が分離してガラス片31となる。加えて、第2直線部42、第3補助線53及び第4補助線54に沿ってガラス原板20を切断する。これにより、ガラス原板20の外周部の領域A2が分離してガラス片32となる。これらの切断の順序に、特に制限はない。
【0031】
接続部切断工程では、直線部切断工程を経たガラス原板20(図1(c)参照)に曲げモーメントを付与することにより、主スクライブ線40の第1接続部43に沿ってガラス原板20を切断する。これにより、ガラス原板20の外周部の領域A3が分離してガラス片33となる。加えて、主スクライブ線40の第2接続部44に沿ってガラス原板20を切断する。これにより、ガラス原板20の外周部の領域A4が分離してガラス片34となる。これらの切断の順序に、特に制限はない。その結果、図1(d)に示すようなガラス板10が得られ、ガラス板10の外周輪郭10aは、切断予定線L1と合致する。
【0032】
このような本実施形態の製造方法は、補助線50を主スクライブ線40の第1直線部41又は第2直線部42と同一直線上に配置するので、引用文献1のスクライブ方法のように、補助線50と主スクライブ線40の第1直線部41又は第2直線部42とが角度を有さない。このため、本実施形態の製造方法は、直線部切断工程で、ガラス片31及び32を分離する際に、得られるガラス板10が傷つくのを抑制できる。また、得られるガラス板(製品)の外周輪郭のうちで補助線が近接していた部分に欠けやそげが発生するのを低減できる。
【0033】
また、外周部の領域A1及びA2は、直線部切断工程でガラス片31及び32として除去されているので、接続部切断工程では、外周部の領域A3及びA4をガラス片33及び34として容易に分離して除去できる。したがって、接続部切断工程でガラス片33及び34を分離する際のガラス板10との接触を低減でき、これによっても得られるガラス板10の傷つきを抑制できる。
【0034】
本実施形態の製造方法では、直線部切断工程で主スクライブ線40のうちの第1直線部41を用いて切断を行うと共に、第2直線部42を用いて切断を行う。続く、接続部切断工程で第1接続部43を用いて切断を行うと共に、第2接続部44を用いて切断を行う。このように第1直線部41、第2直線部42、第1接続部43及び第2接続部44が、それぞれ1回で切断されることによっても、欠けやそげが発生するのを低減できる。
【0035】
前記図1(b)に示す第1補助線51は、第1直線部41と離間されており、第1補助線51と第1直線部41の間には、隙間が設けられる。本実施形態の製造方法では、第1補助線51が第1直線部41まで伸びて第1直線部41と繋がってもよい。しかし、第1補助線51が第1直線部41と繋がると、第1直線部41の一方の端点41aの周辺でスクライブ線が密集することから、欠けやソゲが発生するおそれがある。これを防止するため、第1補助線51が第1直線部41と離間されることが好ましい。
【0036】
同様に、第2補助線52は第1直線部41と繋がってもよいが、第2補助線52が第1直線部41と離間されていることが好ましい。また、第3補助線53は第2直線部42と繋がってもよいが、第3補助線53が第2直線部42と離間されていることが好ましい。第4補助線54は第2直線部42と繋がってもよいが、第4補助線54が第2直線部42と離間されていることが好ましい。
【0037】
第1補助線51が第1直線部41と離間される場合、第1補助線51と第1直線部41の離間距離D1(mm)が長すぎると、クラックが意図しない方向に伸展し、その結果、第1直線部41の一方の端点の周辺に微小な欠けが発生するおそれがある。この微小な欠けは、後工程の端面研磨処理で取り除くことができるが、微小な欠けの発生を防止することによって研磨代を削減することが望まれる。
【0038】
微小な欠けの発生を防止できる離間距離D1(mm)は、ガラス原板20の厚さtによって変化するので、離間距離D1(mm、図1(b)参照)は、ガラス原板20の厚さtに応じて適宜設定すればよい。例えば、ガラス原板20の厚さtが1.1mmである場合、離間距離D1(mm)を5mmとすれば、微小な欠けが発生するケースがある。一方、ガラス原板20の厚さtが0.3mmである場合、離間距離D1(mm)を15mmとしても、微小な欠けの発生を防止できる。このため、第1補助線51と第1直線部41の離間距離D1(mm)は、(6/t-1)以下程度に設定すれば、微小な欠けの発生を防止できる。
【0039】
一方、第1補助線51が第1直線部41と繋がらなければ、離間距離D1(mm)が短くても、欠けやソゲを防止できる。このため、離間距離D1(mm)の下限は、規定しないが、スクライブホイールによってスクライブ線を形成する場合、離間距離D1の下限は1mm程度以上となる。
【0040】
同様に、第2補助線52と第1直線部41の離間距離D2(mm)、第3補助線53と第2直線部42の離間距離D3(mm)、及び、第4補助線54と第2直線部42の離間距離D4(mm)も、(6/t-1)以下程度に設定すれば、微小な欠けの発生を防止できる。離間距離D2、D3及びD4の下限も、離間距離D1の下限と同様である。
【0041】
前記図1(b)に示す補助線50は、ガラス原板20の外周輪郭20aから離間されているが、補助線50は、ガラス原板20の外周輪郭20aまで伸びてもよい。スクライブホイールのチップを保護することによって製造コストを削減する観点では、補助線50がガラス原板20の外周輪郭20aから離間されていることが好ましい。補助線50をガラス原板20の外周輪郭20aから離間する場合、補助線50は、ガラス原板20の外周輪郭20aの近傍まで伸びることが好ましい。
【0042】
スクライブ工程においてスクライブ線(主スクライブ線40及び補助線50)を形成する順序に特に制限はなく、例えば、主スクライブ線40を形成した後に補助線50を形成してもよい。スクライブホイールの移動距離を削減することによって製造効率を向上させる観点では、後述の図2を用いて説明するように、第1補助線51を形成した後、主スクライブ線40を形成し、その後、第2補助線52を形成し、最後に第3補助線53及び第4補助線54を形成することが好ましい。この場合、主スクライブ線40の形成では、第1直線部41上の一点を始点とすることが好ましい。
【0043】
図2は、好適なスクライブ線の形成順序を模式的に示す平面図であり、同図(a)は第1補助線51の形成後、同図(b)は主スクライブ線40の形成後、同図(c)は第2補助線52の形成後、同図(d)は第3補助線53及び第4補助線54の形成後を示す。同図では、スクライブ線を形成する方向、すなわち、スクライブホイールを走行させる方向を白抜き矢印で示す。
【0044】
先ず、同図(a)に示すように、ガラス原板20の外周輪郭20a側から第1直線部41の一方の端点41aに向かう方向に沿って第1補助線51を形成する。続いて、同図(b)に示すように、第1直線部41上の一点40aを始点及び終点とし、閉ループ状の主スクライブ線40を形成する。その後、同図(c)に示すように、第1直線部41の他方の端点41b側からガラス原板20の外周輪郭20aに向かう方向に沿って第2補助線52を形成する。最後に、同図(d)に示すように、ガラス原板20の外周輪郭20a側から第2直線部42の一方の端点42aに向かう方向に沿って第3補助線53を形成した後、第2直線部42の他方の端点42b側からガラス原板20の外周輪郭20aに向かう方向に沿って第4補助線54を形成する。あるいは、ガラス原板20の外周輪郭20a側から第2直線部42の他方の端点42bに向かう方向に沿って第4補助線54を形成した後、第2直線部42の一方の端点42a側からガラス原板20の外周輪郭20aに向かう方向に沿って第3補助線53を形成する。
【0045】
前記図1(b)に示す主スクライブ線40は、矩形を基本形状とし、その4箇所の角部を円弧状の曲線とする形状(以下、「略矩形状」ともいう)である。この場合、本実施形態の製造方法は、前記図1に示すように、一対の長辺を主スクライブ線40の第1直線部41及び第2直線部42とする態様に限定されず、一対の短辺を主スクライブ線40の第1直線部41及び第2直線部42とする態様を採用してもよい。主スクライブ線40は、略矩形状に限らず、他の形状を採用してもよい。
【0046】
図3は、矩形を基本形状とする主スクライブ線の変形例を模式的に示す平面図であり、同図(a)は2箇所の角部を円弧状の曲線とする形状、同図(b)は1箇所の角部を円弧状の曲線とする形状を示す。なお、図示を省略するが、矩形を基本形状とする主スクライブ線40は、3箇所の角部を円弧状の曲線とする形状であってもよい。
【0047】
同図(a)に示す主スクライブ線40は、第1接続部43が直線状の第1中間部43a、弧状の第1端部43b及び弧状の第2端部43cからなり、第2接続部44は直線のみからなる。この場合、スクライブ工程では、4本のスクライブ線を形成する。第1のスクライブ線は、第1補助線51からなる。また、第2のスクライブ線は、第3補助線53からなる。第3のスクライブ線は、第2接続部44からなる。第4のスクライブ線は、第2補助線52、第1直線部41、第1接続部43、第2直線部42及び第4補助線54からなる。なお、スクライブ工程において、4本のスクライブ線を形成する順序に特に制限はない。また、第2接続部44を構成する第3のスクライブ線の端部は、第1直線部41及び第2直線部42を超えてもよく、すなわち、第3のスクライブ線を第2接続部44よりも長くしてもよい。
【0048】
同図(b)に示す主スクライブ線40では、第1接続部43が直線部43d及び弧状部43eからなり、第2接続部44は直線のみからなる。この場合、スクライブ工程では、4本のスクライブ線を形成する。第1のスクライブ線は、第1補助線51からなる。また、第2のスクライブ線は、第3補助線53、第2直線部42及び第4補助線54からなる。第3のスクライブ線は、主スクライブ線40の第2接続部44からなる。第4のスクライブ線は、第2補助線52、第1直線部41及び第1接続部43からなる。なお、スクライブ工程において、4本のスクライブ線を形成する順序に特に制限はない。また、第2接続部44を構成する第3のスクライブ線の端部は、第1直線部41及び第2直線部42を超えてもよく、第1接続部43を含む第4のスクライブ線の端部は、第2直線部42を超えてもよい。
【0049】
このように本実施形態の製造方法では、第1接続部43が曲線を一つ以上含めば、第2接続部44は曲線を含まなくてもよい。また、主スクライブ線40の一部と補助線50の一部を接続させると共に連続的に形成してもよい。
【0050】
図4は、本実施形態の製造方法で採用可能な主スクライブ線の形状例を模式的に示す平面図であり、同図(a)は略台形状、同図(b)は略平行四辺形状、同図(c)は第1接続部43及び第2接続部44が曲線のみからなる形状を示す。
【0051】
主スクライブ線40は、同図(a)に示すような台形を基本形状とし、その4箇所の角部を円弧状の曲線とする形状(略台形状)を採用してもよい。また、同図(b)に示すような平行四辺形を基本形状とし、その4箇所の角部を円弧状の曲線とする形状(略平行四辺形状)を採用してもよい。
【0052】
略台形状又は略平行四辺形状を採用する場合、略矩形状と同様に、第1接続部43は、直線状の第1中間部43a、弧状の第1端部43b及び弧状の第2端部43cからなり、第2接続部44は、直線状の第2中間部44a、弧状の第3端部44b及び弧状の第4端部44cからなる。
【0053】
本実施形態の製造方法は、同図(c)に示すような第1接続部43及び第2接続部44が曲線のみからなる主スクライブ線40を採用してもよい。
【0054】
ここで、化学強化処理前のガラス原板20は、化学強化処理後のガラス原板20よりも、切断の際に必要な曲げモーメントが大きくなる。このため、化学強化処理前のガラス原板20を切断する場合、外周部20bを分離する際の接触による傷つきが発生しやすくなると共に、欠け及びそげが発生しやすくなる。したがって、本実施形態の製造方法を化学強化処理前のガラス原板20に適用すれば、外周部20bを分離する際の接触による傷つきを抑制できる効果、及び、切断する際の欠け及びそげを低減できる効果がより顕著となる。このため、スクライブ工程及び切断工程は、化学強化処理前のガラス原板20を対象とすることが好ましく、換言すると、本実施形態の製造方法は、切断工程によって得られたガラス板10に化学強化処理を施す強化工程を含むことが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
10 ガラス板
10a 外周輪郭
20 ガラス原板
20a 外周輪郭
20b 外周部
31~34 ガラス片
40 主スクライブ線
40a 始点及び終点
41 第1直線部
41a 一方の端点
41b 他方の端点
42 第2直線部
42a 一方の端点
42b 他方の端点
43 第1接続部
43a 第1中間部
43b 第1端部
43c 第2端部
44 第2接続部
44a 第2中間部
44b 第3端部
44c 第4端部
50 補助スクライブ線(補助線)
51 第1補助スクライブ線(第1補助線)
52 第2補助スクライブ線(第2補助線)
53 第3補助スクライブ線(第3補助線)
54 第4補助スクライブ線(第4補助線)
91 主スクライブ線
91a 直線部
91b 曲線部
92 従来の補助線
93 ガラス原板
93a 外周部
94 ガラス片
95 ガラス板
95a 外周輪郭
A1~A4 外周部の領域
L1 切断予定線
図1
図2
図3
図4
図5