(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんの感受性を予測する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20230301BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20230301BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230301BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230301BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2018552610
(86)(22)【出願日】2017-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2017041953
(87)【国際公開番号】W WO2018097166
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2016228231
(32)【優先日】2016-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】山田 真之亮
(72)【発明者】
【氏名】清澤 直樹
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/094377(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/044207(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/094995(WO,A1)
【文献】特開2014-158500(JP,A)
【文献】国際公開第2016/183326(WO,A1)
【文献】J.Hematol.Oncol.,May-2016,9(1):47,p.1-21
【文献】J.Clin.Invest.,Sep-2016,126(9),p.3447-3452
【文献】厚生労働科学研究費補助金 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業(がん関係研究分野),p.1-8,2014年,刊行物名続き:がん免疫逃避機構を標的とした次世代型免疫治療の臨床応用と新規バイオマーカーの探索 平成25年度総括・分担研究報告書
【文献】Nature communications,2016年01月29日,7:10582,p.1-10
【文献】"Accession: NP_874364.1[gi: 359845], Definition: filamin-interacting protein FAM101B [Homo sapiens].,NCBI Protein, 12-AUG-2016 uploaded,[retrieved on 15-FEB-2018] Retrieved from the Internet: <URL,http://www.ncbi.nlm.nib.gov/protein/33186901?sat=4&satkey=170639756>
【文献】"Accession: NP_005638 [gi: 6907], Definition: F-box-like/WD repeat-containing protein TBLX1 isoform a [Homo sapiens]".,NCBI Protein, 26-AUG-2016 uploaded,[retrieved on 15-FEB-2018] Retrieved from the Internet: <URL,http://www.ncbi.nlm.nib.gov/protein/5032159?sat=4&satkey=172674840>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測する
ための方法であって、
対象から得られたがん若しくは腫瘍の生検試料またはがん若しくは腫瘍であることが疑われる組織の生検試料中において、以下遺伝子:
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルを測定することを含
み、ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルが少なくともそれぞれの対照の値と比較して低い場合、および、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、およびTBC1D4からなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルが少なくともそれぞれの対照の値と比較して高い場合に、感受性が高いまたは感受性が高い可能性があることが示される、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記群から選択される2以上の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、TBL1Xの遺伝子の発現レベルと、ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、およびFAM101Bからなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7または8以上の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、少なくともTBL1XおよびFAM101Bのそれぞれの遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67のそれぞれの遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法であって、
PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療が、抗PD-1抗体の投与または抗PD-L1抗体の投与である、方法。
【請求項8】
以下の医薬組成物:
(i)請求項1に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である
もしくは感受性が高い可能性があると示されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(ii)請求項2に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である
もしくは感受性が高い可能性があると示されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(iii)請求項3に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(iv)請求項4に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である
もしくは感受性が高い可能性があると示されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(v)請求項5に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である
もしくは感受性が高い可能性があると示されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(vi)請求項6に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である
もしくは感受性が高い可能性があると示されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;または
(ix)請求項7に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である
もしくは感受性が高い可能性があると示されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される複数の遺伝子に対する核酸プローブまたはプライマーセットの組合せであって、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測することに用いるための組合せ。
【請求項10】
複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子を含むものである、請求項9に記載の核酸プローブまたはプライマーセットの組合せ。
【請求項11】
複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67を含むものである、請求項10に記載の核酸プローブまたはプライマーセットの組合せ。
【請求項12】
請求項9~11のいずれかで定義された核酸プローブを含む1000以下の種類の核酸プローブをその表面上に担持している、マイクロアレイを含む製品であって、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測することに用いるための製品。
【請求項13】
PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを判定することに用いるためのキットであって、
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルの測定手段を含む、キット。
【請求項14】
1または複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子を含むものである、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
1または複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67を含むものである、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんの感受性を予測する方法および該方法に用いる遺伝子シグネチャーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの新たな治療法として免疫療法が注目されている。ヒトにおいては一日あたり数千個のがん細胞が発生していると考えられているが、免疫機構によってこれらのがん細胞を排除しているため、必ずしもがんの発症に至るわけではない。通常はがん細胞とがんを排除する免疫機構は常にバランスを取っているが、何らかの要因によってこのバランスが崩れることが、がん発症の一因と考えられている。がん細胞の駆逐を担う免疫担当細胞の一つであるキラーT細胞(CD8陽性T細胞)には、免疫チェックポイントと呼ばれるプログラム細胞死1(programmed cell death-1; PD-1)が発現しており、これらの受容体のリガンドとなるプログラム細胞死リガンド1(programmed cell death-ligand 1; PD-L1)を抗原提示細胞が持つことによってキラーT細胞の働きを抑制している。しかし、PD-L1はがん細胞にも発現する場合があり、がん細胞が免疫機構から逃れる機序の一つと考えられている(非特許文献1,2)。
【0003】
近年、免疫チェックポイントを阻害する薬剤が開発され、新たな機序の抗がん薬として期待が集まっている。抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体の臨床試験の結果や実臨床では、本薬剤の優れた薬効が示されている(非特許文献3)。一方、本薬剤の治療効果が認められない患者の存在も明らかになっている(非特許文献3)。抗PD-1抗体による治療に対するがんの感受性を予測するバイオマーカーとして、腫瘍組織におけるPD-L1の発現量などが検討されているが、良好な結果は得られていない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Immunity 2013; 39(1):1-10
【文献】Cancer Discov. 2016; 6(7):703-713
【文献】N Engl J Med. 2012; 366(26):2443-2454
【発明の概要】
【0005】
本発明は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんの感受性を予測する方法および該方法に用いる遺伝子シグネチャーを提供する。
【0006】
本発明者らは、免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんの感受性を予測する遺伝子および遺伝子セットを見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0007】
本発明では、例えば、以下の発明が提供される。
(1)PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測する方法であって、
対象から得られた試料中において、以下遺伝子:
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
(2)上記(1)に記載の方法であって、前記群から選択される2以上の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
(3)上記(1)に記載の方法であって、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
(4)上記(3)に記載の方法であって、TBL1Xの遺伝子の発現レベルと、ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、およびFAM101Bからなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7または8以上の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
(5)上記(4)に記載の方法であって、少なくともTBL1XおよびFAM101Bのそれぞれの遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
(6)上記(5)に記載の方法であって、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67のそれぞれの遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法。
(7)対象から得られた試料が、がん若しくは腫瘍の生検試料またはがん若しくは腫瘍であることが疑われる組織の生検試料である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)少なくともPDCD1遺伝子の発現レベルを測定する、上記(7)に記載の方法。
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載の方法であって、
PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療が、抗PD-1抗体の投与または抗PD-L1抗体の投与である、方法。
(10)以下の医薬組成物:
(i)上記(1)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(ii)上記(2)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(iii)上記(3)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(iv)上記(4)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(v)上記(5)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(vi)上記(6)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(vii)上記(7)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;
(viii)上記(8)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物;または
(ix)上記(9)に記載の方法により、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると予測されたがんまたは腫瘍を有する対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防するための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物。
(11)ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子を含む、がんまたは腫瘍がPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを予測するための、遺伝子シグネチャー。
(12)少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子を含むものである、上記(11)に記載の遺伝子シグネチャー。
(13)少なくともTBL1XおよびFAM101Bを含むものである、上記(12)に記載の遺伝子シグネチャー。
(14)少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67を含むものである、上記(13)に記載の遺伝子シグネチャー。
(15)ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される複数の遺伝子に対する核酸プローブまたはプライマーセットの組合せ。
(16)複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子を含むものである、上記(15)に記載の核酸プローブまたはプライマーセットの組合せ。
(17)複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67を含むものである、上記(16)に記載の核酸プローブまたはプライマーセットの組合せ。
(18)上記(15)~(17)のいずれかで定義された核酸プローブを含む、マイクロアレイ。
(19)PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを判定することに用いるためのキットであって、
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルの測定手段を含む、キット。
(20)1または複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子を含むものである、上記(19)に記載のキット。
(21)1または複数の遺伝子が、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67を含むものである、上記(20)に記載のキット。
【0008】
本発明では、遺伝子シグネチャーの発現を測定することにより、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性を予測することができる。本発明では特に、生検試料中の遺伝子シグネチャーの発現を測定することにより、対象のPD-1免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)による治療に対する感受性を予測することができる。また、本発明では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である対象または感受性であると評価された対象に対して、PD-1免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)を投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、遺伝子シグネチャーAによる遺伝子シグネチャースコアと抗PD-1抗体への感受性との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、遺伝子シグネチャーA+Bによる遺伝子シグネチャースコアと抗PD-1抗体への感受性との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、遺伝子シグネチャーAによる遺伝子シグネチャースコアと遺伝子シグネチャーA+Bによる遺伝子シグネチャースコアとの関係を示す図である。
図3中では、同一患者のスコアが線で結ばれている。
【
図4A】
図4Aは、TBL1Xのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4B】
図4Bは、FAM101Bのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4C】
図4Cは、TBC1D4のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4D】
図4Dは、PRR5のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4E】
図4Eは、PTGDSのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4F】
図4Fは、FAM211Bのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4G】
図4Gは、RAB11FIP5のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4H】
図4Hは、GCNT2のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4I】
図4Iは、TSPAN32のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4J】
図4Jは、MYBのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4K】
図4Kは、ADAM8のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4L】
図4Lは、ASAP1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4M】
図4Mは、ITGB1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4N】
図4Nは、MBOAT1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4O】
図4Oは、ASB2のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4P】
図4Pは、COTL1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4Q】
図4Qは、SGPP2のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4R】
図4Rは、FAM65Bのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4S】
図4Sは、SLC4A8のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4T】
図4Tは、LEF1-AS1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4U】
図4Uは、RXRAのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4V】
図4Vは、NINのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4W】
図4Wは、VCLのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4X】
図4Xは、KLRD1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4Y】
図4Yは、EMP3のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4Z】
図4Zは、PTPN13のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4AA】
図4AAは、ICOSのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4BB】
図4BBは、AMPD3のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4CC】
図4CCは、PASKのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4DD】
図4DDは、CTBP2のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4EE】
図4EEは、HNRPLLのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4FF】
図4FFは、PDCD1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4GG】
図4GGは、GBP1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4HH】
図4HHは、SIRPGのがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図4II】
図4IIは、ST8SIA1のがんにおける発現レベルと、各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5A】
図5Aは、TBL1XおよびFAM101Bの遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5B】
図5Bは、TBL1X、FAM101BおよびTBC1D4の遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5C】
図5Cは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、およびPRR5の遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5D】
図5Dは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSの遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5E】
図5Eは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、およびRAB11FIP5の遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5F】
図5Fは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、およびGCNT2の遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5G】
図5Gは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、およびFAM211Bの遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5H】
図5Hは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、およびTSPAN32の遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図5I】
図5Iは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、TSPAN32、およびMYBの遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図6】
図6は、PTGDS、TBC1D4、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xの遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図7】
図7は、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xの遺伝子発現に基づく、遺伝子シグネチャースコアと各種がんの免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療効果との関係を示す。
【
図8A】
図8Aは、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療前の患者の生検サンプルにおいて、遺伝子シグネチャーAにより算出された遺伝子シグネチャースコアと薬剤感受性との関係を示す。
【
図8B】
図8Bは、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療前の患者の生検サンプルにおいて、遺伝子シグネチャーA+Bにより算出された遺伝子シグネチャースコアと薬剤感受性との関係を示す。
【
図9A】
図9Aは、がんにおけるRXRAの遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性との関係を示す。
【
図9B】
図9Bは、がんにおけるCTBP2の遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性との関係を示す。
【
図9C】
図9Cは、がんにおけるASAP1の遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性との関係を示す。
【
図9D】
図9Dは、がんにおけるGCNT2の遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性との関係を示す。
【
図9E】
図9Eは、がんにおけるST8SIA1の遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性との関係を示す。
【
図9F】
図9Fは、がんにおけるADAM8の遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性との関係を示す。
【
図9G】
図9Gは、がんにおけるMYBの遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による当該がんの治療感受性との関係を示す。
【
図9H】
図9Hは、がんにおけるPTGDSの遺伝子発現量と免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による当該がんの治療感受性との関係を示す。
【発明の具体的な説明】
【0010】
本明細書では、「対象」は、哺乳動物、特にヒトである。
【0011】
本明細書では、「がん」は、悪性腫瘍、すなわち、腫瘍の中で浸潤性を有し、増殖または転移する悪性の性質を有する腫瘍を意味する。本明細書では、「腫瘍」は、生体において自律的かつ過剰に増殖する組織塊を意味する。また、本発明において、悪性腫瘍、がん、悪性新生物、がん腫、肉腫等を総称して「がん」と表現する場合がある。
【0012】
本明細書では、「遺伝子シグネチャー」は、単一遺伝子または複数の遺伝子からなる遺伝子の組合せであって、対象のがんまたは腫瘍におけるその発現レベルを測定することにより特定の治療に対する前記がんまたは腫瘍の感受性を予測することに用いるための遺伝子または遺伝子の組合せを意味する。
【0013】
本明細書では、「発現レベル」とは、ある遺伝子のメッセンジャーRNA(以下、「mRNA」という)の量、またはある遺伝子がコードするタンパク質の量を意味する。
【0014】
本明細書では、「感受性が高い」という用語は、「PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療」が有効であることを意味する。「感受性が高い」という用語は、抵抗性または耐性が低いことと同義であり、相互互換的に用いられ得る。本明細書では、「感受性が低い」という用語は、抵抗性または耐性が高いことと同義であり、相互互換的に用いられ得る。
【0015】
本明細書では、「完全奏功」とは、固形がんにおいては、immune related response criteria: irRECIST (Bohnsack O. et al., Ann. Oncl., 25 (Supplement 4): 361-372, 2014)で定義される完全奏功(CR;Complete Response)を意味する。本明細書では、「部分奏功」とは、固形がんにおいては、同ガイドラインで定義される部分奏功(PR;Pertial Response)を意味する。本明細書では、「安定」とは、固形がんにおいては、同ガイドラインで定義される安定(SD;Stable Disease)を意味する。本明細書では、「進行」とは、固形がんにおいては、同ガイドラインで定義される進行(PD;Progressive Disease)を意味する。
【0016】
本明細書では、「治療」には、疾患の進行の遅延、停止、抑制、退縮および消失が含まれる。
本明細書では、「予防」には、疾患の発症の抑制および発症可能性の低減が含まれる。
【0017】
本明細書では、「リガンド」とは、特定の受容体に特異的に結合する物質をいう。例えば、「PD-1のリガンド」とは、PD-1に特異的に結合する物質であり、例えば、PD-L1またはPD-L2である。
【0018】
本明細書では、「PD-1」とは、プログラム細胞死1(programmed cell death-1, PDCD1)と呼ばれる、T細胞膜表面に発現するB7/CD28スーパーファミリーに属する受容体である。PD-1は、そのリガンド(PD-L1またはPD-L2、特にPD-L1)と相互作用するとT細胞の働きを抑制する。がん細胞や腫瘍細胞は、PD-L1を発現すると、PD-1を発現するT細胞(例えば、キラーT細胞)の働きを抑制し、免疫から逃れることが知られている。本明細書では、PD-L1によってPD-1を発現するT細胞の働きが抑制される機構は、「PD-1免疫チェックポイント」といい、この働きの抑制の阻害剤は、「PD-1免疫チェックポイント阻害剤」という。そして、上記免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1とPD-L1との相互作用を低減させる作用剤、例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)による治療により、がんや腫瘍を治療できることが、抗PD-1抗体等を用いた臨床試験により示されている。
【0019】
PD-1は、例えば、ヒトではNCBI Reference Sequence: NM_005018.2によりそのmRNAの配列がGenBankに登録されている。PD-1は、NCBI Reference Sequence: NP_005009.2により、そのアミノ酸配列がGenBankに登録されている。また、PD-L1は、例えば、ヒトではNCBI Reference Sequence: NC_000009.12によりその遺伝子領域の塩基配列がGenBankに登録され、アイソフォームaは、mRNAの配列がNM_014143.3により登録され、タンパク質のアミノ酸配列がNP_054862.1により登録され、アイソフォームbは、mRNAの配列がNM_001267706.1により登録され、タンパク質のアミノ酸配列がNP_001254635.1により登録され、アイソフォームcは、mRNAの配列がNM_001314029.1により登録され、タンパク質のアミノ酸配列がNP_001300958.1により登録されている。
【0020】
本明細書では、「組合せ」は、複数の構成要素の組合せを意味する。組合せにおいては、各構成要素は別々の形態で存在してもよいし、全ての構成要素が混合していてもよい。
【0021】
本明細書では、「核酸プローブ」は、特定の核酸にハイブリダイズすることができ、該核酸を検出または定量することに用いる一本鎖核酸を意味する。
核酸プローブは、アレイまたはマイクロアレイ等の支持体の表面に担持することができ、核酸プローブを保持する支持体に特定の核酸を固定化することができる。固定化された該核酸は、核酸に付着した標識により、検出または定量することができる。
核酸プローブは、定量的PCRでも用いることができる。定量的PCRでは、核酸プローブは、例えば、その5’末端と3’末端とに蛍光物質とそのクエンチャーとを有し、特定の核酸にハイブリダイズしているが、特定の核酸がDNAポリメラーゼにより増幅されると、該DNAポリメラーゼの有するエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質がクエンチャーと解離し、蛍光を発することにより、特定の核酸を定量することができる(5’-ヌクレアーゼ法)。あるいは、核酸プローブは、DNAとRNAとDNAがこの順番で連結した一本鎖キメラオリゴヌクレオチドであってもよく、例えば、その5’末端と3’末端とに蛍光物質とそのクエンチャーとを有していてもよい。この一本鎖キメラオリゴヌクレオチドは、サイクリングプローブ検出法に用いることができる。
【0022】
本明細書では、「プライマーセット」とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において特定配列を増幅させるために用いることができる、フォワードプライマーとリバースプライマーの組合せを意味する。プライマーは通常は、20~30mer程度の長さの単鎖オリゴヌクレオチドである。複数の遺伝子のプライマーセットとは、複数の遺伝子それぞれのプライマーセットの組合せを意味する。例えば、2つの遺伝子AおよびBに対するプライマーセットは、遺伝子Aに対するプライマーセットと遺伝子Bに対するプライマーセットの組合せを意味する。
【0023】
本明細書では、「結合を遮断する」とは、2つの分子の相互作用を妨害する、遮断する、または低下させることを意味する。従って、PD-1とそのリガンドとの結合を遮断するとは、PD-1とそのリガンドとの相互作用を妨害する、遮断する、または低下させることを意味する。結合の遮断は、例えば、結合遮断抗体(例えば、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体)を用いて実施することができる。このように本明細書では「遮断」は、100%の遮断だけでなく、例えば、90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上遮断することも意図して用いられる。PD-1とそのリガンドとの相互作用を「阻害する」、「低下させる」または「妨害する」も、100%の阻害、低下または妨害だけでなく、例えば、90%以上、80%以上、70%以上、60%以上、または50%以上阻害、低下または妨害することも意図して用いられる。
【0024】
本発明によれば、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測する方法であって、
対象から得られたがん試料または腫瘍試料中において、以下遺伝子:
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法
が提供される。
【0025】
本明細書では、「予測する方法」という用語を、「判定する方法」、「判定のための補助的方法」、「予測のための補助的方法」、「決定する方法」、または「決定のための補助的方法」と読み替えることができる。
例えば、本発明によれば、
PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測する方法、判定する方法、決定する方法、その判定のための補助的方法、その予測のための補助的方法、または、その決定のための補助的方法であって、
対象から得られたがん試料または腫瘍試料中において、以下遺伝子:
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルを測定することを含む、方法
が提供される。
【0026】
本発明では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療とは、PD-1と、一部のがん細胞や腫瘍細胞に発現するPD-1のリガンドとの結合により生じるPD-1発現T細胞の機能抑制を阻害する治療であればよく、好ましくはPD-1と、一部のがん細胞や腫瘍細胞に発現するPD-1のリガンドとの結合を遮断、低下、妨害または阻害する治療である。当業者であれば、抗体の作製技術および結合遮断アッセイにより、PD-1とそのリガンドとの結合を遮断、低下、妨害または阻害する抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を得ることができる。また、抗体以外にも多数のPD-1免疫チェックポイント阻害剤が知られており、本発明でその感受性を評価することができる。PD-1とそのリガンドとの結合を遮断、低下、妨害または阻害する治療は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤、例えば、PD-1とそのリガンドとの結合を、低下、妨害または阻害する抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体をがんまたは腫瘍を有する患者に投与することで行うことができる。抗がん剤に含まれる抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は、通常、PD-1とそのリガンドとの結合を、低下、妨害または阻害する抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。抗がん剤に含まれる抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は、具体的には、免疫チェックポイント阻害剤である、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体とすることができる。
本発明で感受性の評価対象となるPD-1免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1またはPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤であれば特に限定されないが、例えば、下記表1に記載の免疫チェックポイント阻害剤とすることができる。本発明で感受性の評価対象となるPD-1免疫チェックポイント阻害剤は、抗体に限定されず、PD-1とそのリガンドとの結合により生じるT細胞に対する抑制作用を阻害し、免疫チェックポイント阻害剤として作用する低分子化合物および細胞であってもよい。
【0027】
【0028】
本発明では、本発明の予測に供することができる対象としては、例えば、がんまたは腫瘍を有する対象、有すると診断された対象、または有する可能性がある対象が挙げられる。本発明では、本発明の予測に供することができる対象としては、例えば、PD-1免疫チェックポイントポイント阻害剤による治療前の対象が挙げられる。
【0029】
本発明では、がんまたは腫瘍としては、特に限定されないが例えば、血液がん、脳腫瘍、頭頚部がん、食道がん、胃がん、虫垂がん、大腸がん、肛門がん、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、消化管間質腫瘍、肺がん、肝臓がん、中皮腫、甲状腺がん、腎臓がん、前立腺がん、神経内分泌腫瘍、悪性黒色腫、乳がん、子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟部肉腫、カポジ肉腫、筋肉腫、腎臓がん、膀胱がんまたは睾丸がんなどが挙げられ、特にPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が確認されたこれらのがんが挙げられ、特に悪性黒色腫、非小細胞肺癌および腎細胞がんが好ましい。
【0030】
本発明では、試料は、対象から得られた試料である。試料は、例えば、がんまたは腫瘍を有する対象、または有すると診断された対象から得られた試料とすることができる。この場合、試料は、例えば、腫瘍生検、髄液、胸腔内液、腹腔内液、リンパ液、皮膚切片、血液、尿、糞便、痰、呼吸器、腸管、尿生殖器管、唾液、乳、消化器官、およびこれらから採取された細胞を挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくはがんまたは腫瘍の生検試料、または血液試料(例えば、全血液、T細胞が単離、精製、または濃縮された試料)とすることができる。
【0031】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、以下の遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択されるいずれか1つの遺伝子の発現レベルを測定する。この態様におけるある特定の態様では、対象のがんまたは腫瘍の生検試料、がんまたは腫瘍であると疑われる組織の生検試料中の遺伝子の発現レベルを測定する。
【0032】
遺伝子の発現レベルの測定は、例えば、がんまたは腫瘍の生検サンプルを用いて行うことができる。遺伝子の発現レベルの測定は、例えば、がんまたは腫瘍と疑われる組織の生検サンプルを用いて行ってもよい。
【0033】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、以下の36の遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択されるいずれか1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを測定する(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36の遺伝子の発現レベルを測定する)。ある特定の態様では、上記の36の遺伝子すべての発現レベルを測定する。
【0034】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、以下の31の遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、およびGBP1からなる群から選択されるいずれか1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを測定する(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、または31の遺伝子の発現レベルを測定する)。ある特定の態様では、上記の31の遺伝子すべての発現レベルを測定する。
【0035】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、以下の31の遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、およびGBP1からなる群から選択されるいずれか1つの遺伝子の発現レベルを測定する。この態様におけるある特定の態様では、対象のがんまたは腫瘍の生検試料、がんまたは腫瘍であると疑われる組織の生検試料中の遺伝子の発現レベルを測定する。
【0036】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1Xの遺伝子発現レベルを測定する。
【0037】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、FAM101Bの遺伝子発現レベルを測定する。
【0038】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBC1D4の遺伝子発現レベルを測定する。
【0039】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、PRR5の遺伝子発現レベルを測定する。
【0040】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、PTGDSの遺伝子発現レベルを測定する。
【0041】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、FAM211Bの遺伝子発現レベルを測定する。
【0042】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、C17orf67の遺伝子発現レベルを測定する。
【0043】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、RAB11FIP5の遺伝子発現レベルを測定する。
【0044】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、GCNT2の遺伝子発現レベルを測定する。
【0045】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TSPAN32の遺伝子発現レベルを測定する。
【0046】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、MYBの遺伝子発現レベルを測定する。
【0047】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、ADAM8の遺伝子発現レベルを測定する。
【0048】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、ASAP1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0049】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、ITGB1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0050】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、MBOAT1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0051】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、ASB2の遺伝子発現レベルを測定する。
【0052】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、COTL1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0053】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、FAM65Bの遺伝子発現レベルを測定する。
【0054】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、SGPP2の遺伝子発現レベルを測定する。
【0055】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、SLC4A8の遺伝子発現レベルを測定する。
【0056】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、LEF1-AS1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0057】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、RXRAの遺伝子発現レベルを測定する。
【0058】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、NINの遺伝子発現レベルを測定する。
【0059】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、VCLの遺伝子発現レベルを測定する。
【0060】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、KLRD1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0061】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、EMP3の遺伝子発現レベルを測定する。
【0062】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、PTPN13の遺伝子発現レベルを測定する。
【0063】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、AMPD3の遺伝子発現レベルを測定する。
【0064】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、ICOSの遺伝子発現レベルを測定する。
【0065】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、PASKの遺伝子発現レベルを測定する。
【0066】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、CTBP2の遺伝子発現レベルを測定する。
【0067】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、HNRPLLの遺伝子発現レベルを測定する。
【0068】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、PDCD1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0069】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、SIRPGの遺伝子発現レベルを測定する。
【0070】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、GBP1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0071】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、ST8SIA1の遺伝子発現レベルを測定する。
【0072】
上記の態様において、遺伝子発現レベルが増加した場合にPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して対象のがんまたは腫瘍がCR(完全奏功)を示すか否かを予測するためには、例えば、TBC1D4が好ましく用いられ得る。
【0073】
上記の態様において、遺伝子発現レベルが低下した場合にPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して対象のがんまたは腫瘍がCR(完全奏功)を示すか否かを予測するためには、例えば、TBL1X、FAM101B、PTGDS、PRR5、FAM211B、RAB11FIP5またはASB2が好ましく用いられ得る。
上記の態様において、遺伝子発現レベルが増加した場合にPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して対象のがんまたは腫瘍がPD(進行)を示すか否かを予測するためには、例えば、FAM101B、PRR5、PTGDS、FAM211B、RAB11FIP5、GCNT2、ITGB1、またはMBOAT1が好ましく用いられ得る。
上記の態様において、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、上記態様で特定された1つの遺伝子の発現レベルを測定することに加えて、以下の36の遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される、上記特定された1つの遺伝子以外の1または複数の遺伝子の発現レベルをさらに測定してもよい。
【0074】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、例えば、下記表2に記載の組合せのいずれかとすることができる。
【0075】
【0076】
表2に記載の態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、当該いずれかの組合せを含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0077】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1XとFAM101Bを含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1XとFAM101Bを含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0078】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101BおよびTBC1D4を含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101BおよびTBC1D4を含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0079】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、およびPRR5を含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、およびPRR5を含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0080】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSを含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSを含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0081】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、およびRAB11FIP5を含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、およびRAB11FIP5を含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0082】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、およびGCNT2を含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、およびGCNT2を含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0083】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、およびFAM211Bを含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、およびFAM211Bを含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0084】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、およびTSPAN32を含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、およびTSPAN32を含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0085】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、TSPAN32およびMYBを含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、TSPAN32およびMYBを含む遺伝子シグネチャーそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0086】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、TSPAN32およびMYBからなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9または10の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0087】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、FAM211B、およびTSPAN32からなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、または9の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0088】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、GCNT2、およびFAM211Bからなる群から選択される1、2、3、4、5、6、7、または8の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0089】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、RAB11FIP5、およびGCNT2からなる群から選択される1、2、3、4、5、6、または7の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0090】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、PTGDS、およびRAB11FIP5からなる群から選択される1、2、3、4、5、または6の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0091】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSからなる群から選択される1、2、3、4、または5の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0092】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101B、TBC1D4、およびPRR5からなる群から選択される1、2、3、または4の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
【0093】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1X、FAM101BおよびTBC1D4からなる群から選択される1、2、または3の遺伝子のそれぞれの発現レベルを測定する。
本発明の特定の態様では、遺伝子シグネチャーは、TBL1XおよびTBC1D4を含み、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、TBL1XおよびTBC1D4のそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
本発明の特定の態様では、遺伝子シグネチャーは、FAM101BおよびTBC1D4を含み、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、FAM101BおよびTBC1D4のそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0094】
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xを含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xのそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
本発明の一つの態様では、遺伝子シグネチャーは、PTGDS、TBC1D4、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xを含む。この態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、PTGDS、TBC1D4、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xのそれぞれの遺伝子発現レベルを測定する。
【0095】
本発明の一つの態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測するために、がんまたは腫瘍の生検サンプルを用いてPDCD1の発現レベルを測定する。がんまたは腫瘍中に浸潤したT細胞の単離を行うことなく生検サンプルにおけるPDCD1の発現レベルを測定する。
【0096】
【0097】
発現レベルの測定は、遺伝子の転写産物、または遺伝子がコードするタンパク質の量を測定することにより行うことができる。遺伝子の転写産物の量の測定(定量)は、当業者であれば周知技術(例えば、定量的PCRやデジタルPCR、ノーザンハイブリダイゼーション、in situハイブリダイゼーション、全トランスクリプトームのシーケンス等)により行うことができる。対象由来の試料からRNAを抽出する方法としては、例えば、フェノールとカオトロピック塩とを用いた抽出方法(より具体的には、トリゾール(Invitrogen社製)、アイソジェン(和光純薬社製)等の市販キットを用いた抽出方法)や、その他市販キット(RNAPrepトータルRNA抽出キット(Beckman Coulter社製)、RNeasy Mini(QIAGEN社製)、RNA Extraction Kit(Pharmacia Biotech社製)等)を用いた方法が挙げられる。さらに、抽出したRNAからcDNAを調製するのに用いられる逆転写酵素としては特に制限されることなく、例えば、RAV(Rous associated virus)やAMV(Avian myeloblastosis virus)等のレトロウィルス由来の逆転写酵素や、MMLV(Moloney murine leukemia virus)等のマウスのレトロウィルス由来の逆転写酵素が挙げられる。次いで、例えば、オリゴヌクレオチドプライマー又はオリゴヌクレオチドプローブをそれぞれ増幅反応又はハイブリダイゼーション反応に用い、その増幅産物又はハイブリッド産物を検出する。このような方法としては、例えば、RT-PCR法、ノザンブロット法、ドットブロット法、DNAアレイ法、in situハイブリダイゼーション法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、mRNA-seqなどを利用できる。当業者であればcDNAの塩基配列を基に上記の各検出方法に適したオリゴヌクレオチドプライマーやオリゴヌクレオチドプローブを常法により設計することができる。タンパク質の量の測定(定量)は、当業者であれば周知技術(例えば、免疫組織化学(免疫染色)法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、抗体アレイを用いた解析法等)により行うことができる。
【0098】
本発明のある態様では、表5-2において、DOWNと表示された遺伝子群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルが高い場合には、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は低いと評価され得る。本発明の予測方法では、表5-2において、UPと表示された遺伝子群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルが高い場合には、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は高いと評価され得る。
本発明のある態様では、表5-2において、DOWNと表示された遺伝子群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルが低い場合には、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は高いと評価され得る。本発明の予測方法では、表5-2において、UPと表示された遺伝子群から選択される1または複数の遺伝子の発現レベルが低い場合には、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は低いと評価され得る。
【0099】
本発明のある態様では、表5-2において、DOWNと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子が増加するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は低いと評価され得る。本発明のある態様では、表5-2において、UPと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子が増加するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は高いと評価され得る。
別の言い方では、本発明のある態様では、表5-2において、DOWNと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子の割合が増加するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は低いと評価され得る。本発明のある態様では、表5-2において、UPと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子の割合が増加するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は高いと評価され得る。
【0100】
また、本発明のある態様では、表5-2において、DOWNと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子が減少するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は高いと評価され得る。本発明のある態様では、表5-2において、UPと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子が減少するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は低いと評価され得る。
別の言い方では、本発明のある態様では、表5-2において、DOWNと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子の割合が減少するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は高いと評価され得る。本発明のある態様では、表5-2において、UPと表示された遺伝子群から選択される遺伝子のうち、発現レベルが高い遺伝子の割合が減少するほど、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性は低いと評価され得る。
【0101】
本発明のある態様では、複数の遺伝子発現レベルを標準化して積算して計算してもよい。例えば、各遺伝子の発現レベルを標準化し、表5-2においてDOWNと定義された遺伝子については、標準化した値に負の数値(例えば、-1)を掛けて加算し、表5-2においてUPと定義された遺伝子については、標準化した値(またはこれに整数の値を掛けた値)を加算して、複数の遺伝子発現レベルからスコア(以下、「遺伝子シグナーチャースコア」ともいう)を求めてもよい。この場合、遺伝子シグナーチャースコアが大きいほどPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと評価され得、遺伝子シグネチャースコアが小さいほどPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が低いと評価され得る。
【0102】
本発明の予測方法では、標準化はZ値を用いて行ってもよい。Z値とは、各データから平均値を引いて標準偏差で割った値である。このようにすることで、遺伝子毎の発現レベルの違いを同等に評価し得ることとなる。この場合は、Z値に基づく遺伝子シグナーチャースコアを、対照のスコアと比較して感受性を評価することができる。
また、本発明の予測方法では、各遺伝子の発現レベルは、対照における遺伝子の発現レベルとの比として標準化してもよい。このようにすることで、遺伝子毎の発現レベルの違いを同等に評価し得ることとなる。この場合、比の対数(例えばLog、例えばLog2)を感受性評価に用いてもよい。比の対数は、比が1より大きくなると正であり、比が1より小さくなると負であるため、対照との対比には適している。
【0103】
本発明の予測方法では、例えば、以下の数式:
【数1】
{式中、βiは、遺伝子シグネチャーに含まれるi番目の遺伝子における発現値(発現値は標準化されていても良い)またはその倍数変化(例えば、対象における発現/対照における発現)のLog
2値であり、Siは、i番目の遺伝子が「UP」と定義された遺伝子である場合は+1の値であり、「DOWN」と定義された遺伝子である場合は-1の値であり、Nは、遺伝子シグネチャーに含まれる遺伝子数であり、Strengthは遺伝子シグネチャースコアである。}
または数学的にこれに等価な数式により遺伝子シグネチャースコアを求めて評価に用いてもよい。数学的に等価は評価法としては、例えば、各遺伝子発現値の中央値、または遺伝子シグネチャースコアの中央値が0となるように標準化(または正規化)して評価する方法が挙げられる。本発明のある態様では、上記式中のβiは、遺伝子シグネチャーに含まれるi番目の遺伝子の解析対象サンプル中における発現値のLog
2値からサンプル群における当該遺伝子発現の中央値のLog
2値を減じた値とすることができる。
【0104】
本発明のある態様では、上記数式に基づいて遺伝子シグネチャースコアが既定値以上の場合に、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であると評価することができる。前記既定値は、例えば、上記式(1)において、βiを各遺伝子の発現値のLog2値からサンプル群における当該遺伝子発現の中央値のLog2値を減じた値とした遺伝子シグネチャースコアが、0以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上の数値とすることができる。
本発明のある態様では、上記数式に基づいて遺伝子シグネチャースコアが既定値未満の場合に、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性でない(抵抗性または耐性である)と評価することができる。前記既定値は、例えば、上記式(1)において、βiを各遺伝子の発現値のLog2値からサンプル群における当該遺伝子発現の中央値のLog2値を減じた値とした遺伝子シグネチャースコアが、0.2以下、0.1以下、0以下、-0.1以下、-0.2以下、-0.3以下、-0.4以下の数値とすることができる。
本発明のある態様では、上記数式に数学的に等価な数式を用いて遺伝子シグネチャースコアを求めた場合には、上記既定値も、当該等価な数式における対応する値にして評価することができる。
【0105】
本発明の予測方法では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんの感受性の評価は適切な対照と比較することにより決定され得る。対照は、同一の種類のがんまたは腫瘍を有する別の対象とすることが好ましい。適切な対照としては、例えば、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である対象(例えば、上記治療に対して完全奏功を示した対象)とすることができる。あるいは、上記治療に対して抵抗性である対象(例えば、上記治療に対して進行を示した対象)とすることができる。
あるいは、本発明の予測方法では、解析対象としたサンプル内での中央値、平均値若しくは規定値、非病変部位から採取されたサンプルでの中央値、平均値若しくは規定値、または、病変部位から採取されたサンプルでの中央値、平均値若しくは規定値と比較して感受性を評価することができる。また、予め遺伝子発現レベルを測定するための標準品を用意しておき、その標準品の発現値に対する発現比を計算することで評価してもよいであろう。
【0106】
本発明の予測方法でPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと予測された対象は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療が治療上有効であり得る。例えば、ある態様では、本発明の予測方法でPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと予測された対象は、完全奏功(CR;Complete Response)を示しうる。ある態様では、本発明の予測方法でPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと予測された対象は、部分奏功(PR;Pertial Response)を示しうる。ある態様では、本発明の予測方法でPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと予測された対象は、安定(Stable Disease)を示しうる。本発明では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと予測された対象を、所望により、完全奏功、部分奏功、安定、または進行のいずれを示しうるか決定することをさらに含んでもよい。
【0107】
本発明の予測方法でPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性が高いと予測された対象は、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療が治療上有効であり得る。従って、本発明では、本発明の予測方法によりPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性であると予測された対象において、がんまたは腫瘍を治療または予防することに用いるための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を含む、医薬組成物が提供される。本発明ではまた、本発明の予測方法によりPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性であると予測された対象において、がんまたは腫瘍を治療または予防することに用いるための医薬の製造のための、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の使用が提供される。
【0108】
本発明では、その必要のある対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防する方法であって、本発明の予測方法によりPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測することと、感受性であると予測された対象に、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療を行うこととを含む、方法が提供される。
本発明のある態様では、その必要のある対象においてがんまたは腫瘍を治療または予防する方法であって、本発明の予測方法によりPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する対象のがんまたは腫瘍の感受性を予測することと、感受性であると予測された対象に、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することとを含む、方法が提供される。
【0109】
本発明の別の態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを予測するための、遺伝子シグネチャーが提供される。
上記遺伝子シグネチャーは、ある態様では、ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36の遺伝子)を含む。
上記遺伝子シグネチャーは、ある態様では、ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、およびGBP1からなる群から選択される1または複数の遺伝子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、または31の遺伝子)を含む。
本発明のある態様では、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子を含むものである上記遺伝子シグネチャー、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67すべての遺伝子を含むものである上記遺伝子シグネチャーが提供される。
【0110】
本発明では、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子の転写産物に対する、核酸プローブの組合せ若しくはプライマーセットの組合せまたは核酸プローブとプライマーセットとの組合せが提供される。本発明では、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子がコードするタンパク質に対する、抗体または抗体の組合せが提供される。これらの組合せは、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子発現レベルを測定することに用いられ得る。これらの組合せは、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子発現レベルを生検試料中で測定することに用いることができる。
本発明では、本発明の核酸プローブの組合せ若しくはプライマーセットの組合せまたは核酸プローブとプライマーセットとの組合せを含む組成物であって、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを判定することに用いるための組成物が提供される。本発明では、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子がコードするタンパク質に対する、抗体または抗体の組合せを含む組成物であって、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを判定することに用いるための組成物が提供される。これらの組成物は、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子発現レベルを測定することに用いられ得る。これらの組成物は、上記遺伝子または遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子発現レベルを生検試料中で測定することに用いられ得る。
【0111】
本発明ではまた、上記遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子の転写産物に対するプローブを表面に担持した遺伝子発現解析用のアレイまたはマイクロアレイが提供される。本発明のアレイまたはマイクロアレイは、例えば、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下、400以下、300以下、200以下、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、45以下、40以下の種類の核酸プローブをその表面上に担持している。ある特定の態様では、本発明のアレイまたはマイクロアレイは、発現の評価対象遺伝子として、上記遺伝子シグネチャーに含まれるそれぞれの遺伝子に対するプローブだけを表面に担持している。
アレイまたはマイクロアレイ上には、例えば、遺伝子シグネチャーに含まれる各遺伝子の転写産物に対するプローブがスポットされ、遺伝子シグネチャーに含まれる各遺伝子の転写産物が当該スポットに接触すると上記各遺伝子とスポット上のプローブとがハイブリダイズすることができる。ハイブリダイズした各遺伝子の転写産物は、例えば、各遺伝子の転写産物に付着させた標識(例えば、蛍光、ラジオアイソトープ、酵素など)により常法に基づいて検出することができる。遺伝子シグネチャーに含まれる各遺伝子の転写産物は、例えば、試料からの抽出や標識されたRNAの調製等の前処理を行うことができるが、これらの処理は当業者に周知の方法により行うことができる。
【0112】
本発明では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを判定することに用いるためのキットであって、
ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される複数の遺伝子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36の遺伝子)の発現レベルの測定手段を含む、キットが提供される。
本発明ではまた、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かを判定することに用いるためのキットであって、ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、およびGBP1からなる群から選択される複数の遺伝子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、または31の遺伝子)の発現レベルの測定手段を含む、キットが提供される。
本発明のキットは、例えば、がんまたは腫瘍を有する対象、有すると診断された対象、または有する可能性がある対象を対象とし得る。
発現レベルの測定手段としては、核酸プローブ、および/またはプライマーセットが挙げられる。発現レベルの測定手段としては、核酸プローブを含むアレイまたはマイクロアレイが挙げられる。
発現レベルの測定手段としてはまた、各遺伝子がコードするタンパク質に結合する抗体が挙げられる。この場合、測定手段として、標識された二次抗体が含まれていてもよい。発現レベルの測定手段としてはまた、各遺伝子がコードするタンパク質に結合する抗体を含むELISA測定用キットであってもよい。
【0113】
本発明のある態様では、がんまたは腫瘍を有する対象、有すると診断された対象、または有する可能性がある対象において、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かをがん若しくは腫瘍の生検試料またはがん若しくは腫瘍であると疑われる組織の生検試料における下記遺伝子の発現を測定することにより判定することに用いるためのキットであって、
以下遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、GBP1、FAM211B、PRR5、C17orf67、FAM101B、およびTBL1Xからなる群から選択される1または複数の遺伝子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36の遺伝子)の発現レベルの測定手段を含む、キットが提供される。
本発明ではまた、がんまたは腫瘍を有する対象、有すると診断された対象、または有する可能性がある対象において、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かをがん若しくは腫瘍の生検試料またはがん若しくは腫瘍であると疑われる組織の生検試料における下記遺伝子の発現を測定することにより判定することに用いるためのキットであって、
以下遺伝子:ADAM8、VCL、LEF1-AS1、TSPAN32、CTBP2、RXRA、PTGDS、ITGB1、KLRD1、RAB11FIP5、SLC4A8、NIN、GCNT2、ASB2、HNRPLL、AMPD3、SIRPG、PTPN13、MYB、ASAP1、MBOAT1、COTL1、ICOS、ST8SIA1、PASK、SGPP2、PDCD1、TBC1D4、EMP3、FAM65B、およびGBP1からなる群から選択される1または複数の遺伝子(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、または31の遺伝子)の発現レベルの測定手段を含む、キットが提供される。さらには、少なくともTBL1X、FAM101B、TBC1D4、PRR5、およびPTGDSから選択される1または複数の遺伝子の発現レベルの測定手段を含むものである上記キット、少なくともTBL1X、PTGDS、FAM101B、FAM211B、TBC1D4、PRR5、およびC17orf67すべての発現レベルの測定手段を含む上記キットが提供される。
キットには、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性であるか否かをがん若しくは腫瘍の生検試料またはがん若しくは腫瘍であると疑われる組織の生検試料における下記遺伝子の発現を測定するための説明書が含まれていてもよい。
【0114】
本発明のある態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して感受性である患者を特定するために、本発明の方法を実施することができる。この態様では、例えば、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療が奏功する患者を選択して、そのような患者に投薬することで、奏功しない患者に対する不要な投薬を回避できるというメリットがあるであろう。
本発明のある態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して耐性である患者を特定するために、本発明の方法を実施することができる。この態様では、例えば、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療が奏功しない患者を除外して、そのような患者には投薬しないことで、奏功しない患者に対する不要な投薬を回避できるというメリットがあるであろう。
本発明のある態様では、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して中間的な感受性を示す、または中間的な感受性しか示さないと予測された患者に対しては、投薬してもよいし、投薬しないでもよく、例えば、対費用効果や医療費増大との関係等から好ましい方を選択することができるであろう。
【実施例】
【0115】
実施例1:抗PD-1薬療法に対する感受性を評価するためのマーカー遺伝子の取得
本実施例では、抗PD-1薬療法に対する感受性(すなわち、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体による治療に対する当該がんの感受性)を評価するためのマーカー遺伝子を取得した。
【0116】
Gene expression omnibus(GEO; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gds)から、PD-1陽性と陰性のT細胞の遺伝子発現を解析した遺伝子発現データを検索し、3つのデータを得た。得られたデータセットは、下記表4-1に示される通りであった(以下、得られたデータセットを「データセットA」と総称する)。
【0117】
【0118】
また、悪性黒色腫患者の治療前の生検サンプルについて、抗PD-1抗体による治療に対するがんの感受性を評価している遺伝子発現データを取得した(表4-2参照、以下、得られたデータセットを「データセットB」という)。
【0119】
【0120】
データセットAからのマーカー遺伝子の探索
データセットAそれぞれについて、PD-1陽性のT細胞で有意に発現変化を認める遺伝子を探索し(変化倍率>1.2, P<0.05)、3つのうち2つ以上のデータセットで発現変化の再現性が認められた遺伝子について平均発現変化量を算出し、平均発現変化量が1.5倍以上となった遺伝子を選択した(表5-1のNo:1~31に記載の遺伝子)。各遺伝子のそれぞれのデータセットにおける変化倍率(>1.2, p<0.05)は表5-1に示される通りであった。また、変化倍率の平均(>1.5, データセット数>2)は表5-1に示される通りであった。
なお、表において、Entrez gene IDは、米国の国立生物工学情報センター(NCBI)により提供されるデータベースにおいて遺伝子を識別するために用いられるIDであり、このIDを基にして遺伝子の情報の詳細を得ることができる。
【0121】
【0122】
求められた変化倍率から、PD-1陰性と比較して、PD-1陽性において発現が増加するものを「UP」とし、発現が低下するものを「DOWN」とすると、表5-2のようにまとめられる(表5-2のデータセットA参照)。
【表5-2】
【0123】
データセットAおよびBからのマーカー遺伝子の探索
次に、データセットBから完全奏功(Complete response)群と進行(Progressive disease)群間で有意に発現変化を認める遺伝子を探索し(変化倍率>1.2, P<0.05)、データセットAと合わせて発現変化の再現性が認められた遺伝子について平均発現変化量を算出し、平均発現変化量が1.5倍以上となった遺伝子を選択した(表5-1の「データセットA+B」および表5-2の「遺伝子セットA+B」参照)。
上記の方法によって選択された遺伝子のうち、「進行」のサンプルと比較して「完全奏功」のサンプルにおいて遺伝子発現変化量が増加したものを「UP」、低下したものを「DOWN」と定義し、PD-1陽性のT細胞由来の遺伝子発現データから定義された遺伝子セットAと、さらに患者データも追加した遺伝子セットA+Bを定義した(表5-2参照)。
なお、遺伝子セットAは31遺伝子、遺伝子セットA+Bはさらに5遺伝子が追加された36遺伝子から構成された。
【0124】
表5-1および表5-2の遺伝子セットに含まれる各遺伝子は、異なるデータセットにおいて再現性よく発現変化を示す遺伝子である。従って、遺伝子番号1~31の遺伝子は、対象がPD-1陽性のT細胞を有するかの判定に有用である。また、遺伝子番号1~31および32~36の遺伝子はそれぞれが、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対して患者が良好に応答する腫瘍を有するかの判定に有用である。
【0125】
実施例2:遺伝子シグネチャーの作成と患者データの解析
実施例1で得られた遺伝子セットから遺伝子シグネチャーを作成した。
【0126】
具体的には、遺伝子セットAに含まれる全ての遺伝子から遺伝子シグネチャーAを作成し、遺伝子セットA+Bに含まれる全ての遺伝子から遺伝子シグネチャーA+Bを作成した。
【0127】
遺伝子シグネチャースコアの計算については、Martinらの報告に基づくNetwork Perturbation Amplitude (NPA) scoring algorithmsのスコア計算アルゴリズムを採用した(BMC Systems Biology, 2012, 6:54)。悪性黒色腫患者の治療前の生検サンプルについて遺伝子シグネチャーで定義された全ての遺伝子の平均値発現値(Strength)を遺伝子シグネチャースコアとして算出した。具体的な計算式は以下の数式により表される。
【0128】
【数2】
{式中、βiは、遺伝子シグネチャーに含まれるi番目の遺伝子の解析対象サンプル中における発現値のLog
2値からサンプル群における当該遺伝子発現値の中央値のLog
2値を減じた値であり、Siは、i番目の遺伝子が「UP」と定義された遺伝子である場合は+1の値であり、「DOWN」と定義された遺伝子である場合は-1の値であり、Nは、遺伝子シグネチャーに含まれる遺伝子数である。}
【0129】
次に、悪性黒色腫の生検データから患者毎の上記遺伝子シグネチャースコアを算出した。具体的には、GEOから取得した悪性黒色腫の生検データ(GSE78220)を用いて、遺伝子シグネチャースコアの計算を行った。結果は、
図1および
図2に示される通りであった。
【0130】
図1に示されるように、抗PD-1抗体による治療に対する感受性が低い「進行」の患者においては、遺伝子シグネチャーAから算出されたスコアが低い(例えば、スコアが0以下)傾向が観察された。
また、
図2に示されるように、抗PD-1抗体による治療に対する感受性が低い「進行」の患者においては、遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアが低い(例えば、スコアが0以下)傾向が観察された。加えて、
図2に示されるように、抗PD-1抗体による治療に対する感受性が高い「完全奏功」の患者においては、遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアが高い傾向を示した。
【0131】
なお、完全奏功(Complete response)の患者では5例中5例でスコアが0以上であり、部分奏功(Partial response)では10例中9例でスコアが0以上であり、遺伝子シグネチャーにより、抗PD-1薬による治療に対するがんの感受性が良好に評価できることが明らかとなった。また、進行(Progressive disease)では、13例中9例でスコアが0未満であり、抗PD-1薬による治療に対するがんの抵抗性(耐性)がやはり良好に評価できることが明らかとなった。
また、遺伝子シグネチャーAおよびA+Bのいずれにおいても抗PD-1抗体による治療に対する感受性が認められる患者の遺伝子シグネチャースコアは高かった。
また、遺伝子シグネチャーAから算出されたスコアにおいて0以上と評価された患者は、遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアにおいても0以上と評価された。遺伝子シグネチャーAから算出されたスコアにおいて0未満と評価された患者は、遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアにおいても0未満と評価された。
【0132】
単独の遺伝子によっても、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんまたは腫瘍の感受性を予測することができるかを確認した。結果は、表6および
図4A~
図4IIに示される通りであった。表6および
図4A~
図4IIに示される通り、各遺伝子の発現レベルとPD-1免疫チェックポイント阻害剤に対する治療感受性に相関がみられた。このことから、遺伝子一つだけを用いてもPD-1免疫チェックポイント阻害剤よる治療に対するがんの感受性の評価は可能であることが明らかとなった。
なお、表6では、CRおよびPRとPDとの別(CR+PR vs PD)と遺伝子発現値による評価結果との関係のt検定によるp値(参考の値)と、CRとPDとの別(CR vs PD)と遺伝子発現値による評価結果との関係のt検定によるp値(参考の値)とが示されている。また、以下表において、p値が0.05を超えることは、予測が不可能であることを意味するものではない。例えば、SLC4A8ではp値が0.4付近であるが、
図4Sに示される通り、遺伝子発現量の閾値を例えば0.1~0.5程度に設定すると100%の予測精度で部分奏功または進行を判定することができている。閾値を高く設定すると擬陽性と感度が減少する一方で、閾値を低く設定すると擬陽性と感度が増加する関係にあり、閾値の高低が予測精度および予測感度と直接的に相関するのであり、p値の大小のみに基づいて予測の臨床的意義を評価することは正しいとは言えない。
【0133】
【0134】
遺伝子数を徐々に増やしてPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんまたは腫瘍の感受性を予測することができるかを確認した。結果は、
図5A~
図5Hに示される通りであった。
図5A~
図5Hに示されるように、2遺伝子から徐々に10遺伝子まで遺伝子数を増加させたところ、それぞれにおいて高精度でPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんまたは腫瘍の感受性を予測することができることが明らかとなった。
【0135】
さらに、他の遺伝子シグネチャーを用いて、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんまたは腫瘍の感受性を予測することができるかを確認した。結果は、
図6および7に示される通りであった。
図6および7に示される通り、表示された遺伝子セットをシグネチャーとしても、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対するがんまたは腫瘍の感受性を精度良く予測することができた。
【0136】
抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は、キラーT細胞(CD8陽性T細胞)における免疫反応の抑制を解除することで、がんに対する自己免疫反応を活性化していると考えられている。本実施例では、腫瘍組織中のT細胞のPD-1発現と関連する遺伝子、腫瘍組織の抗PD-1薬による治療に対する感受性を決定する遺伝子とを得て、患者のPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性を高精度で評価した。
【0137】
生検データに基づく追加の予測
さらに、再現性を確認するため、異なる悪性黒色腫の生検データについて、患者毎の遺伝子シグネチャースコアを算出した。具体的には、GEOから取得した悪性黒色腫の生検データ(GSE96619)を用いて、遺伝子シグネチャースコアの計算を行った。悪性黒色腫の生検データ(GSE96619)は、免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)による治療前後の患者のデータを含んでおり、抗PD-1抗体による治療に対する感受性のデータを備える。本実施例では、治療の結果、完全奏功(Complete response)または部分奏功(Partial response)である感受性を示した患者を「Responder(陽性)」または「R」と定義し、進行(Progressive disease)である耐性または抵抗性を示した患者を「Non-responder(陰性)」または「NR」と定義した。その中で、抗体治療前の生検データに基づく遺伝子シグネチャーAから算出されたスコアまたは遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアと抗PD-1抗体による治療に対する感受性との関係を求めた。結果は、
図8Aおよび
図8Bに示される通りであった。
【0138】
図8Aは、個々の患者における遺伝子シグネチャーAから算出された遺伝子シグネチャースコアと抗PD-1抗体による治療に対する感受性との関係を示す。
図8Aに示されるように、抗PD-1抗体による治療に対する感受性が「Non-responder(陰性)」の患者においては、遺伝子シグネチャーAから算出されたスコアが低く(例えば、スコアが0以下)、治療感受性が「Responder(陽性)」の患者においては、遺伝子シグネチャーAから算出されたスコアが高かった。
また、
図8Bは、個々の患者における遺伝子シグネチャーA+Bから算出された遺伝子シグネチャースコアと抗PD-1抗体による治療に対する感受性との関係を示す。
図8Bに示されるように、抗PD-1抗体による治療感受性が「Non-responder(陰性)」の患者においては、遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアが低く(例えば、スコアが0以下)、感受性が「Responder(陽性)」の患者においては、遺伝子シグネチャーA+Bから算出されたスコアが高い。
どちらの遺伝子シグネチャーにおいても、抗PD-1抗体による治療に対する感受性について良好な予後の予測が可能であることが確認された。
【0139】
次に、悪性黒色腫の生検データ(GSE96619)を用いて、単独の遺伝子によっても、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に足しうるがんまたは腫瘍の感受性を予測することができるかを確認した。結果は、表7に示される通りであった。
【0140】
【0141】
表7に示される通り、各遺伝子の発現レベルと免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性に正の相関がみられた。このことから、遺伝子一つだけを用いても免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性の評価は可能であることが明らかとなった。
なお、表7では、GSE96619(抗体治療前)について抗PD-1抗体による治療に対する感受性(R)と治療抵抗性(NR)との別(R vs NR)と遺伝子発現値による評価結果との関係のt検定によるp値が示されている。
【0142】
このように、GSE96619(抗体治療前)の患者サンプルでも、治療感受性(R)と治療抵抗性(NR)とで遺伝子発現値に大きな差が認められた。また、個々の患者における特定の1遺伝子の発現量とResponder(陽性)およびNon-Responder(陰性)との関係の代表例は、
図9A~9Hに示される通りであった。
【0143】
本実施例において定義されたT細胞由来の遺伝子シグネチャーは、PD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性を予測することができる。また、この予測結果は、患者由来腫瘍生検サンプルにおける遺伝子発現データから予測した抗PD-L1抗体による治療に対する感受性の予測結果とよく一致した。
腫瘍組織には、キラーT細胞が浸潤することが知られている。従って、今回の遺伝子セットに含まれる遺伝子を用いた解析、および遺伝子シグネチャーを用いた解析により、様々な種類の腫瘍のPD-1免疫チェックポイント阻害剤による治療に対する感受性を評価することに有用である。
【0144】
また、本実施例において定義されたT細胞由来の遺伝子シグネチャーは、対象からT細胞を単離して解析することもできるが、生検試料を分析対象として用いてもがんや腫瘍のPD-1に対する免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体などの抗PD-1薬)による治療に対する感受性を予測することができることが実証された。