(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】河豚皮食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20230301BHJP
【FI】
A23L17/00 C
(21)【出願番号】P 2019049498
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】514129855
【氏名又は名称】有限会社玄洋社
(74)【代理人】
【識別番号】100094581
【氏名又は名称】鯨田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】中原 徹
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-313096(JP,A)
【文献】特開2020-147501(JP,A)
【文献】白井邦郎,食用ゼラチン,調理化学,1987年,11 巻 1 号,pp.23-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河豚から取り出した河豚皮の表面をpH0~2の液体で酸処理する工程と、前記酸処理した部分を中和処理する工程と、前記中和処理後に前記河豚皮をボイルする工程とを含む河豚皮食品の製造方法。
【請求項2】
前記中和処理工程は、河豚皮表面のpHを調整して当該表面のゼリー強度を高める工程である請求項1に記載の河豚皮食品の製造方法。
【請求項3】
前記ボイルした河豚皮を脱水処理する工程をさらに含む請求項1又は2に記載の河豚皮食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河豚皮食品及び河豚皮食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、河豚の調理において、河豚の皮は、外表面に多数のトゲ(刺)のある表皮とその内側の薄皮(裏皮)などに分けられている。内側の薄皮(裏皮)は、水洗いしてお湯に通すなどされた後、刺身などとして提供されている。また、河豚の表皮についても、河豚の調理において、まず外表面のトゲ(刺)を包丁の刃先などを使用して除去して水洗い、ボイル又は湯引き等して細断(細切り)されたものが、刺身等に添えられて提供されている。
【0003】
しかし、河豚の表皮の外表面のトゲ(刺)を包丁の刃先で除去する作業は、特に河豚の表皮の外表面のトゲが硬く多数に及んでいるため、熟練した調理士でも難しい煩雑な作業であった。そのため、河豚の表皮のトゲを機械的・機構的に除去することも従来より提案され一部実用化されている(特許文献1参照)。しかしながら、トゲを機械的・機構的に除去するためには高価な機械装置を導入することが必要となり、河豚皮食品の製造コストを押し上げてしまうという問題があった。そこで、前記の表皮のトゲを機械的・機構的に除去する方法と比較して製造コストの点でより有利な、表皮のトゲを化学的に除去処理する方法も、従来より広く行なわれている。
【0004】
図4はこのような河豚の表皮のトゲ(刺)を化学的に除去処理する工程を含む従来の河豚皮食品(製品)の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4に示す従来の河豚皮食品の製造方法においては、まず、河豚の表皮を、原料として冷凍された状態から解凍し(ステップS21)、ボイルし(ステップS22)、冷却する(ステップS23)。次に、このボイル及び冷却した表皮を、pH4の酢酸液に例えば30分から4時間までのいずれか適当な時間だけ浸漬するなどの酸処理を行い(ステップS24)前記トゲをほぼ除去する。
【0005】
この従来例では、前記酸処理(ステップS24)より前のステップS22において前記表皮を既にボイルして前記表皮の組織を部分的に破壊しているため、その後のステップS24のpH4での酸処理によって、前記表皮の外表面のトゲはほぼ化学的に除去される。
【0006】
次に、前記ステップS24の酸処理で前記トゲをほぼ除去した後の表皮に対し、水晒し・酢抜き処理をし(ステップS25)、その後、例えば一辺が数~数十cm長程度の適当な大きさにカットする(ステップS26)。そして、このようにカットした原料をミョウバン水に浸漬するなどして殺菌し(ステップS27)、水晒し処理(ステップS28)をした後に遠心脱水機などで脱水する(ステップS29)。その後、刺身などとして提供し易い適当な幅と長さに細断(細切り)する(ステップS30)。このようにして細断したものを冷凍又は冷蔵の食品として包装し、河豚皮食品(製品)として出荷する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のような従来の河豚皮食品の製造方法(
図4参照)においては、河豚の表皮の外表面のトゲを化学的に除去するため、河豚の表皮に対してまずボイル(ステップS22)して当該表皮の組織をある程度破壊した後にpH4での酸処理(ステップS24)を行なうようにしていたが、そのような処理の結果として、前記ボイル工程(ステップS22)及び前記水晒し工程(ステップS25)などにおいて前記河豚の表皮の破壊された組織表面から多量の水分が前記表皮の内部に侵入し前記表皮の含水量が大幅に増大してしまっていた。本発明者の測定では、前述のような従来の製造方法による製造過程における前記表皮内部への多量の水分の流入により、製造後の表皮(河豚皮食品)の重量は、前記解凍時(ステップS21)の原料としての表皮の重量に対し、140%以上(又は130%以上)に大幅に増加していた。すなわち、本発明者の測定では、従来の製造方法による製造過程における前記表皮内部の水分増加率は40重量%以上(又は30重量%以上)となっていた。
【0009】
そして、このような表皮内部の含水量の大幅な増加の結果、従来の製造方法による河豚皮食品は、ブヨブヨして弾力がなく、歯応えが悪く、透明感(高級感)がない白色で、河豚の独自の味が薄いものとなり、河豚皮食品としての市場価値が大幅に低下した食品となってしまっていた。また、従来の製造方法による河豚皮食品は、その表層部分のゼリー強度が前記酸処理(
図4のステップS24)により大きく低下したままとなってしまう(後述)ため、食事用に食卓に出した後は時間の経過により容易に形が崩れてしまうという問題もあった。
【0010】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目して為されたものであって、外表面のトゲを化学的に除去処理して河豚皮食品を製造する場合においても、製造後の河豚皮食品を、コリコリとして弾力があり、歯応えが良く、透明感(高級感)があり、河豚独自の味が濃く感じられるような河豚皮食品とすることができ(すなわち、従来のように製造後の河豚皮食品が「ブヨブヨして弾力がなく、歯応えの悪いもの」となってしまうことを防ぐことができ)、河豚皮食品の製造コストを大幅に低減させることができ、さらに、食事用に食卓に出した後も容易に形が崩れることを防止することができる河豚皮食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような課題を解決するための本発明による河豚皮食品は、河豚から取り出した河豚皮の表面をpH0~2の液体で酸処理する工程と前記酸処理した部分を中和処理する工程と前記中和処理後に前記河豚皮をボイルする工程と前記ボイルした河豚皮を脱水処理する工程とを含む製造方法のみにより製造された河豚皮食品であって、前記河豚から取り出した河豚皮に対する前記脱水処理後の河豚皮の水分増加率が20重量%以下(又は10重量%以下)に抑えられていることを特徴とする河豚皮食品である。
【0012】
また、本発明による河豚皮食品において、前記中和処理工程は、河豚皮表面のpHを調整して当該表面のゼリー強度を高める工程であってもよい。
【0013】
また、本発明による河豚皮食品の製造方法は、河豚から取り出した河豚皮の表面をpH0~2の液体で酸処理する工程と、前記酸処理した部分を中和処理する工程と、前記中和処理後に前記河豚皮をボイルする工程とを含むものである。
【0014】
また、本発明による河豚皮食品の製造方法において、前記中和処理工程は、河豚皮表面のpHを調整して当該表面のゼリー強度を高める工程であってもよい。
【0015】
さらに、本発明による河豚皮食品の製造方法において、前記ボイルした河豚皮を脱水処理する工程をさらに含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
1.河豚表皮の製造過程における水分増加率の低下による効果
本発明による河豚皮食品の製造方法では、河豚から取り出した表皮をボイルする前に、表皮の表面(表層部分)をpH0~2の液体で酸処理した後に当該酸処理した部分を中和処理するようにしている。そのため、前記酸処理により低下させられた前記表皮(特にその表層部分)のゼリー強度が、前記中和処理によりある程度高められ、前記表皮(特にその表層部分)のコラーゲン構造の崩れが防止され、すなわち前記表皮のコラーゲン構造(コラーゲン繊維の架橋構造)がある程度保持され、その結果、前記表皮の防水性がある程度保持されて、その後のボイル及び水晒しなどの各工程において多量の水が前記表皮の表層から内部に浸入してしまうことが有効に防止される。
【0017】
その結果、従来の外表面のトゲを化学的に除去処理する工程により製造した後の表皮(河豚皮食品)の水分含有量は、前記解凍時の表皮(原料)の水分含有量と比較して140%以上(又は130%以上)となっていたのに対し、本発明に係る製造後の表皮(河豚皮食品)の水分含有量は、前記解凍時の表皮(原料)の水分含有量と比較して120%以下(又は110%以下)に抑えられるようになった。そのため、本発明によるときは、従来の外表面のトゲを化学的に除去処理する工程を含む製造方法により製造した河豚皮食品と比較して、製造後の河豚皮食品が、コリコリとして弾力があって歯応えが良いものとなり(従来のように、ブヨブヨして弾力がなく歯応えの悪いものではなく)、透明感(高級感)があり、河豚独自の味が濃く感じられるものとすることができるようになった。
【0018】
すなわち、本発明においては、前記酸処理により、前記表皮は低pHとなりゼリー強度が大きく低下する(
図3のゼリー強度のpH依存性を示すグラフを参照)ため、そのままだと、この後の水晒し及びボイルなどの工程において多量の水分が前記表皮の内部に侵入することになるが、本発明では、前記酸処理の後に中和処理を行なって前記表皮のpHを中性又はそれに近いものにして前記表皮のゼリー強度を高めるようにし(
図3を参照)、その後にボイル工程に進むようにした。このように、本発明では、前記中和処理により、河豚表皮のゼリー強度が高められ、表皮内部に外部から水が入り込みにくくなるため、その後の水晒し及びボイルなどの各工程において多量の水分が前記表皮内部に侵入することが、有効に防止される(これに対し、従来の製造方法においては、(i)ボイル時におけるある程度の量の水分の浸入と、(ii)酸処理後に中和処理することなく水晒し処理などを行なう過程における多量の水分の浸入とをも含めて、製造工程の全体で極めて多量の水分が前記表皮の内部に侵入していた)。
【0019】
以上のように、本発明による河豚皮食品では、従来例による河豚皮食品と比較して水分含有量が少ないため「コリコリとして弾力があって歯応えが良いもの」となり(従来は「ブヨブヨして弾力がなく歯応えの悪いもの」であった)、水分含有量が少ないので透明感(高級感)が増し(従来は水分含有量が多いため白色であった)、河豚独自の味が濃いものとする(従来は水分含有量が多いため河豚独自の味が薄いものであった)ことができるようになった。
【0020】
2.製造コストの低減
また、従来の河豚皮食品及びその製造方法においては、ボイル工程及びpH4での酸処理により表皮の表面(表層部分)のコラーゲン構造が壊されゼリー強度が大きく低下した状態(
図3参照)となっていたため、その後の水晒し・酢抜き作業(
図4のステップS25)、カット(
図4のステップS26)、ミョウバン水浸漬などによる殺菌(
図4のステップS27)、水晒し(
図4のステップS28)及び脱水(
図4のステップS29)の一連の工程において、河豚表皮が水分を過剰に吸収しないように河豚表皮を5℃以下に冷却した状態で処理する必要があった。そして、前記一連の工程において河豚表皮を5℃以下に冷却しておくために、多くの氷の購入費やチラー冷却装置の電気代などの多大な冷却コストが必要となっていた。
【0021】
これに対し、本発明による河豚皮食品及びその製造方法においては、pH0~2での酸処理とその後の中和処理が行われた後は、従来の製造方法と同様の水晒し、ボイル、冷却、カット、殺菌及び脱水などの処理が行なわれるが、そのような場合でも、前記酸処理後に行われる中和処理により、河豚表皮のゼリー強度がある程度保持される(
図3参照)ため、その後の水晒し、ボイル、冷却、カット、殺菌及び脱水などの一連の工程において、河豚表皮を5℃以下に冷却した状態に維持する必要がなく、せいぜい10℃以下に維持すれば足りるようになった。そして、前記一連の工程において河豚表皮を10℃以下に冷却しておくためには、従来例のように多くの氷を用いたりチラー冷却装置を作動させる必要がないため、河豚皮食品の冷却を含めた製造コストを、従来例と比較して大幅に低減できるようになった。
【0022】
3.食卓での形態の保持
従来の製造方法により製造された河豚皮食品は、前述のようにボイル工程及びpH4での酸処理によりコラーゲン構造が壊されゼリー強度が大きく低下した状態(
図3参照)となっていたため、刺身等として食卓に置いた場合(特に室温の高い夏季)、数十分程度の時間の経過だけで容易に軟化して形が崩れてしまっていた。これに対し、本発明の製造方法により製造された河豚皮食品は、前述のようにpH2~0での酸処理によりゼリー強度がいったん低下してもその後の中和処理によりpHが中性又はその近傍に戻されてゼリー強度がある程度強く保たれた状態となる(
図3参照)。そのため、本発明の製造方法による河豚皮食品を、例えば室温の高い夏季に刺身等として食卓に置いた場合でも、数十分程度の時間の経過により容易に軟化して形が崩れてしまうことが防止できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る河豚皮食品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本発明者側において河豚の表皮を分析した結果を示すものであって(a)は表皮のトゲの一部(酸処理後に残存したトゲの一部)を低真空走査型電子顕微鏡で撮影した写真、(b)は同表皮のトゲの一部の成分等を分析した結果を示すグラフである。
【
図3】ゼラチンのゼリー強度(JIS K6503)のpH依存性を示すグラフである。
【
図4】従来の河豚皮食品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明の一実施形態に係る河豚皮食品を製造するための方法を、
図1を参照して説明する。まず、河豚の表皮を、原料として冷凍された状態から解凍(ステップS1)した後、前記表皮をpH0~2の塩酸又は硫酸などの液体、例えばpH1などの塩酸に約30分から4時間までの間の適当な所定時間、例えば1~2時間程度浸漬し(ステップS2)、前記表皮のトゲを化学的にほぼ除去する。すなわち、表皮のトゲは、リン(P)及びカルシウム(Ca)などの成分を含んでいるところ、前記酸処理によりこれらの成分が溶かされることにより、前記トゲの相当部分が除去され、残存した部分も食するのに不都合のない柔らかいものとなる。前述のように、前記河豚表皮のトゲ除去のための酸処理をpH0~2の塩酸又は硫酸などの液体により行なうこととしたのは、下表に示すような本発明者側の実験結果に基づくものである。
【0025】
【0026】
上記表に示すように、本発明者側の実験では、pH1,2の塩酸又は硫酸を使用しての酸処理によるトゲの除去処理結果は良好であったが、pH4の酢酸及びpH3のクエン酸液を使用しての酸処理によるトゲの除去処理結果では硬いトゲが相当程度残存し不良であった(硬いトゲが部分的に除去されただけであった)。なお、pH2の塩酸又は硫酸を使用しての酸処理の結果では、pH1の塩酸又は硫酸を使用しての酸処理の結果と比較して、前記表皮におけるトゲが少し残存していた(しかし残存したトゲはいずれも食するに十分な柔らかさとなっていた)し、表皮の水分増加率も10%程度高くなっていたが、十分に食品と成り得るものであった。
【0027】
なお、前述のように、上記表では、pH2の塩酸又は硫酸での酸処理よりもpH1の塩酸又は硫酸での酸処理による方がより良好な結果が得られたことなどから、pH0.5及びpH0の塩酸又は硫酸などの液体を使用しての酸処理による場合でも同様に良好な結果が得られることが理論上明らかであることなどから、pH0.5及びpH0の塩酸又は硫酸などを使用しての酸処理の結果は上記表中には特に記載していない。
【0028】
次に、上記の酸処理した表皮を、例えばpH11~14の苛性ソーダなどの溶液に、30分から4時間までの間の適当な所定時間、例えば1~2時間程度浸漬して中和処理する(
図1のステップS3)。前記酸処理(
図1のステップS2)後の表皮は、ゼリー強度が低下している(
図3参照)ため、そのままでは次の水晒し工程やボイル工程において外部からの水を多量に吸収することとなるが、本実施形態では、前記中和処理により前記表皮のゼリー強度がある程度高められ(
図3参照)、防水性が高められている。
【0029】
次に、前記中和処理の後、前記表皮を水晒し処理(
図1のステップS4)し、ボイル(
図1のステップS5)して表皮全体を柔らかくする。その後、これを冷却(
図1のステップS6)して適当な大きさ(例えば一辺が数~数十cm)にカット(
図1のステップS7)し、例えばミョーバン水に浸漬するなどして殺菌(
図1のステップS8)し、さらに水晒し処理(
図1のステップS9)する。その後、遠心脱水機などを使用して脱水(
図1のステップS10)し、細断・細切り(
図1のステップS11)し、それらを冷凍又は冷蔵保存用の食品(又は常温保存用のレトルト食品)などとして包装して、河豚皮食品(製品)とする。
【0030】
以上のように本実施形態においては、河豚から取り出した表皮をボイルする前に、表皮の表面をpH0~2の塩酸などで酸処理(
図1のステップS2)し、当該酸処理した部分を中和処理(
図1のステップS3)することにより、前記酸処理の過程で低下させられた前記表皮(特にその表層部分)のゼリー強度をある程度高めて、前記表皮のコラーゲン構造の崩れを防止して、すなわち前記表皮のコラーゲン構造(コラーゲン繊維の架橋構造)をある程度保持させて、前記表皮(特にその表層部分)の防水性をある程度保持するようにした。その結果、本実施形態では、前記中和処理後の水晒し及びボイル処理などの各工程において多量の水が前記表皮の表層部分を透過して表皮内部に浸入することを有効に防止できた。
【0031】
その結果、本実施形態においては、製造後の表皮(河豚皮食品)の水分含有量の、前記解凍時(
図1のステップS1)の表皮(原料)の水分含有量に対する増加率を、20重量%以下(又は10重量%以下)に抑えることができた(これに対し、従来の製造方法においては、製造後の表皮の水分含有量の、前記解凍時(
図4のステップS11)の表皮に対する増加率は、40重量%以上(又は30重量%以上)となっていた)。
【0032】
そのため、本実施形態によれば、製造後の河豚皮食品が「ブヨブヨして弾力がなく、歯応えの悪い河豚皮食品」(従来例による場合)となってしまうことを防ぎ、製造後の河豚皮食品を「コリコリとして弾力があり、歯応えが良く、透明感があり、河豚独自の味が濃く感じられるような河豚皮食品」とすることができるようになった。
【0033】
すなわち、まず、河豚の表皮のトゲには、このトゲの硬さを高く保持させている成分としてリン(P)及びカルシウム(Ca)などが含まれておりいるところ(
図2の前記トゲの成分を分析したグラフなど参照)、pH0~2での酸処理により前記トゲ中の前記リン(P)及びカルシウム(Ca)などが溶かされる結果、前記表皮のトゲの相当部分が溶かされると共に、残存した部分においても硬い部分が消失するため、前記トゲは見た目も食感もほとんど目立たないものとなる。
【0034】
そして、本実施形態では、前記酸処理(
図1のステップS2)の後に中和処理(
図1のステップS3)を行なっているが、この中和処理は次のような作用を発揮している。すなわち、まず前提として、「ゼラチン研究室 07.ゼラチンゲルの性質 7-1.ゼリー強度」というタイトルのWebページ(次のURL)に、次のような記載がある。
https://www.nitta-gelatin.co.jp/ja/labo/gelatin/07.html
「<
図7-1-2>に、A、Bタイプゼラチンのゼリー強度(JIS K6503)のpH依存性を示しました。低pHおよび高pHで、両タイプともにゼリー強度が低下。」
上記Webページ中のゼラチンのゼリー強度(JIS K6503)のpH依存性を示す図は、本願の
図3に引用して示している。
【0035】
本実施形態においては、前記酸処理(
図1のステップS2)により、前記表皮(特に表層部分)は低pHとなりゼリー強度が大きく低下する。よって、そのままだと、後の水晒し及びボイルなどの工程において多量の水分が前記表皮の内部に侵入することになるが、本実施形態では、前記酸処理の後に中和処理(
図1のステップS3)を行なって前記表皮のpHを中性又はそれに近いものとして前記表皮のゼリー強度を高めるようにし(
図3を参照)、その後に水晒し(
図1のステップS4)及びボイル工程(
図1のステップS5)に進むようにした。
【0036】
このように、本実施形態では、前記水晒し及びボイル等の工程の前に行われる中和処理により河豚表皮のゼリー強度が高められ、外部から表皮内部に水が入り込み難くなるため、その後の前記水晒し及びボイル等の工程において多量の水分が前記表皮の内部に侵入することが、有効に防止されるようになる(以上に対し、従来の製造方法においては、(i)ボイル時におけるある程度の量の水分の浸入、及び(ii)酸処理後に中和処理することなく水晒し処理を行なう過程における多量の水分の浸入などを含めて、製造工程の全体で多量の水分が前記表皮の内部に侵入していた)。
【0037】
このように、本実施形態によれば、従来技術と比較して、製造工程中において表皮内部に吸収される水分が少ないためコリコリとして弾力があって歯応えが良いのものとなり(従来は水分含有量が多いためブヨブヨして弾力がなく歯応えの悪いものであった)、水分含有量が少ないので、透明感が増し(従来は水分含有量が多いため白色のものであった)且つ河豚独自の味が濃い(従来は水分含有量が多いため河豚独自の味が薄いものであった)河豚皮食品とすることができた。
【0038】
また、従来の製造方法においては、河豚表皮は、ボイル工程(
図4のステップS22)及びpH4での酸処理(
図4のステップS24)によりコラーゲン構造が壊されゼリー強度が大きく低下した状態(
図3参照)となっていたため、その後の水晒し・酢抜き(
図4のステップS25)、カット(
図4のステップS26)、ミョウバン水浸漬などによる殺菌(
図4のステップS27)、水晒し(
図4のステップS28)及び脱水(
図4のステップS29)などの一連の工程において、河豚表皮が水分を過剰に吸収しないように河豚表皮を摂氏5度以下に冷却した状態で処理する必要があった。そして、このように河豚表皮を摂氏5度以下に冷却しておくためには、上記一連の工程の全てにおいて、多くの氷を用いたりチラー冷却装置を作動させるなど、多大な冷却コストが必要となっていた。
【0039】
これに対し、本発明による製造方法においては、pH0~2での酸処理とその後の中和処理が行われた後に行われるボイル工程の後は、従来の製造方法と同様に、冷却、カット、ミョウバン水浸漬などによる殺菌、水晒し、及び脱水などの一連の工程(
図1のステップS4~10参照)を行なうことになるが、そのような場合でも、前記酸処理後に行われる中和処理により、河豚表皮のゼリー強度がある程度保持されている(
図3参照)から、前記ボイル工程の後の冷却、カット、ミョウバン水浸漬などによる殺菌、水晒し及び脱水などの一連の工程において、河豚表皮を摂氏5度以下に冷却した状態に維持する必要がなく、せいぜい摂氏10度以下に維持すれば足りるようになった。そして、上記一連の工程において河豚表皮を摂氏10度以下に冷却しておくためには、多くの氷を用いたりチラー冷却装置を作動させる必要がないため、河豚皮食品の製造工程において必要な冷却を含めた製造コストを、従来と比較して大幅に低減できるようになった。
【0040】
さらに、従来の製造方法により製造された河豚皮食品は、前述のようにボイル工程及びpH4での酸処理によりコラーゲン構造が壊されゼリー強度が大きく低下した状態(
図3参照)となっていたため、刺身等として食卓に出した場合(特に室温の高い夏季の場合)に、数十分程度の時間の経過だけで容易に軟化して形が崩れてしまっていた。これに対し、本実施形態の製造方法により製造された河豚皮食品は、前述のようにpH0~2での酸処理によりゼリー強度がいったん低下してもその後の中和処理によりpHが中性又はその近傍に戻されてゼリー強度がある程度高められた状態となっている(
図3参照)。そのため、刺身等として食卓に出した場合でも(特に室温の高い夏季の場合であっても)、時間の経過により容易に軟化して形が崩れてしまうことを防止できるようになった。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態として述べたものに限定されるものではなく、様々な修正及び変更が可能である。例えば、前記実施形態においては、前記pH0~2での酸処理(
図1のステップS2)において塩酸を使用した例を中心にして説明したが、本発明では塩酸に限定されるものではなく、例えば硫酸を含む他の種類の液体等を使用して前記酸処理を行なってもよいことはもちろんである。