(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】塗装亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230301BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B32B15/08 G
C23C28/00 Z
(21)【出願番号】P 2019061254
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018064758
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大輝
(72)【発明者】
【氏名】白岩 礼士
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-333973(JP,A)
【文献】特開2002-088302(JP,A)
【文献】特開2009-078450(JP,A)
【文献】特開2002-053979(JP,A)
【文献】特開2002-322569(JP,A)
【文献】特表2014-523457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 24/00-30/00
B05D 1/00-7/26
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっき鋼板の表面に、シリカおよび水酸化マグネシウムを含む第1樹脂皮膜と、前記第1樹脂皮膜の表面に、シリカを含む第2樹脂皮膜とを有する塗装亜鉛めっき鋼板であって、
前記第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量が50~75質量%であり、前記第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量が25~50質量%であり、前記第1樹脂皮膜中のシリカに対する前記水酸化マグネシウムの質量比率が0.1~3であり、前記第1樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、
且つ前記第2樹脂皮膜中のシリカの含有量が50~80質量%であり、前記第2樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、
前記第1樹脂皮膜と前記第2樹脂皮膜の合計厚みが0.4~1.5μmであることを特徴とする塗装亜鉛めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき鋼板の表面に、樹脂中に無機化合物を含む皮膜(以下、「無機系皮膜」と呼ぶことがある)を有する塗装亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
特殊化成処理製品は、クロメート処理あるいはクロム化合物を含まない代替下地処理を施した亜鉛めっき鋼板の表面に、数μmの薄い皮膜を施した表面処理製品である。前記皮膜はミクロンオーダーの厚みではあるが、皮膜組成を制御することで、特殊化成処理製品に様々な特性を付与することが可能である。特殊化成処理製品はマイルドな腐食環境である室内向けを主な用途としており、家電製品など幅広い製品に適用されている。しかしながら、用いられる部位によっては人の目に触れることがあるため、特殊化成処理製品には亜鉛の初期腐食による外観変化がないことが好まれる。
【0003】
また特殊化成処理製品は、優れた耐食性を活用して、室内よりは相当厳しい屋外に準ずる腐食環境でも適用されることがある。準屋外の用途例として、エアコン室外機の内部部品や住宅用のドア、水周りの部品などが挙げられる。例えば室外機向けでは、特殊化成処理製品は筺体内に部品として設置されるが、筺体に隙間や空孔が施されている場合が多く、外気温変化や紫外線等により、有機化合物の劣化が著しく促進される。このような環境下では、皮膜による保護作用が短くなるため、特殊化成処理製品のめっきの目付量を増やすなどの赤錆を抑制する対策が施されている。
【0004】
厳しい腐食環境に対応するため、特殊化成処理製品の皮膜厚みを大きくして赤錆を抑制することは有効な手段である。しかしながら、特殊化成処理製品の特徴の1つである導電性が劣化するため、家電用途向けに適用することが困難になる。また皮膜厚みを用途毎に変更して作り分けをしようとすると、製造条件変更のためにラインを停止させなければならないなど生産性を低下させてしまう。
【0005】
特殊化成処理製品は、めっき表面由来の美麗で均一な外観を有するが、コイル輸送時や部品輸送時の振動あるいはプレス加工などの外力を受けると該当部の外観が変化し、均一な外観が損なわれてしまうという問題がある。特に輸送中の振動による外観変化(以下、「アブレージョン」と呼ぶことがある)は、輸送条件に依存して突発的に発生することが多く、適切な対策を講じるのが難しい。そのため、輸送時の梱包を強化するなどコストアップとなる対策が必要となっている。
【0006】
亜鉛めっきに対しては、マグネシウム系化合物が防錆効果を有することが知られている。近年、ナノサイズのマグネシウム粒子を含有する高耐食性皮膜の技術が開示されている。
【0007】
こうした技術として、例えば特許文献1には、200nm未満の平均粒径を有するナノ水酸化マグネシウム粒子を含む組成物からなるコーティングを開示している。
【0008】
又、自己修復作用で皮膜欠陥部を修復し不動態化させることで、皮膜の耐食性を保持する技術として、特許文献2は、水酸化マグネシウムと微粒シリカからなる複合コロイドを含有する金属用防錆剤を用いて形成された皮膜を開示している。
【0009】
他方、マグネシウム含有皮膜をクロムフリーの有機被覆鋼板の皮膜に用いた技術として、特許文献3は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、酸化物粒子、リン酸および/又はリン酸化合物並びにマグネシウム化合物を含む複合酸化物皮膜を有し、当該複合酸化物皮膜の上に、有機樹脂と活性水素含有化合物の反応生成物、および防錆添加成分を含む有機皮膜を有する、有機被覆鋼板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-104574号公報
【文献】特開2002-322569号公報
【文献】特開2002-053979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されたコーティングは、厚みが2.5~75μmであり、プレス成形されることを想定されていない。又、特許文献1に開示されたコーティングは、水酸化マグネシウム粒子の添加のみでは、厚みが数μm以下でプレス成形後の充分な防錆効果を発現しない。
【0012】
特許文献2に開示された皮膜は、皮膜形成時に水酸化マグネシウムと微粒シリカからなる複合コロイドを含有する金属用防錆剤を用いる必要があるが、当該複合コロイドは処理液成分と反応するため不安定であり、ゲル化させる塗装工程で問題が発生しやすい。又、特許文献2に開示された皮膜は、水溶性成分を含有するため耐水性が不充分であり、結露や輸送中の水濡れ等による変色のおそれが大きい。
【0013】
特許文献3に開示された有機被覆鋼板は、複合酸化物皮膜形成時にマグネシウム化合物が水溶性のイオン又は分子の形態で添加されるため、マグネシウム化合物の添加量を高めると処理液安定性が低下する。このため、マグネシウム成分増量によって複合酸化物皮膜の腐食抑制効果を向上させるには限界がある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、導電性が確保できる皮膜厚みであっても、優れた耐食性を有し、且つアブレージョンの少ない塗装亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一局面は、亜鉛めっき鋼板の表面に、シリカおよび水酸化マグネシウムを含む第1樹脂皮膜と、前記第1樹脂皮膜の表面に、シリカを含む第2樹脂皮膜とを有する塗装亜鉛めっき鋼板であって、前記第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量が50~75質量%であり、前記第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量が25~50質量%であり、前記第1樹脂皮膜中のシリカに対する前記水酸化マグネシウムの質量比率が0.1~3であり、前記第1樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、且つ前記第2樹脂皮膜中のシリカの含有量が50~80質量%であり、前記第2樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、前記第1樹脂皮膜と前記第2樹脂皮膜の合計厚みが0.4~1.5μmである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性が確保できる皮膜厚みであっても、優れた耐食性を有し、且つアブレージョンの少ない塗装亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、様々な角度から検討した。その結果、第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量、並びにシリカに対する水酸化マグネシウムの質量比率、第1樹脂皮膜の厚みを適切に調整すると共に、前記第1樹脂皮膜の表面に、シリカを所定量で含む第2樹脂皮膜を有し、この第2樹脂皮膜の厚み、および前記第1樹脂皮膜と前記第2樹脂皮膜の合計厚みを適切に調整することによって、上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明の一実施形態に係る塗装めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板の表面に、シリカおよび水酸化マグネシウムを含む第1樹脂皮膜を有する。上記第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量が50~75質量%である。上記第1樹脂皮膜の樹脂成分の含有量は25~50質量%である。上記シリカに対する前記水酸化マグネシウムの質量比率は0.1~3である。上記第1樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上である。さらに、上記第1樹脂皮膜の表面に、シリカを50~80質量%で含む第2樹脂皮膜を有する。上記第2樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、前記第1樹脂皮膜と前記第2樹脂皮膜の合計厚みは0.4~1.5μmである。
【0019】
以下、本実施形態についてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量:50~75質量%]
本実施形態において、第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量を50~75質量%とする。無機系皮膜は、有機物に比べて比重が大きい無機化合物を主成分とするため、腐食因子のバリア効果の高い緻密な皮膜が得られる。これにより、同一の耐食性を得るための皮膜厚みを、有機系皮膜より小さくできる利点があり、導電性の発現に有利となる。ただし、第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量が75質量%を超えるとバインダーとなる樹脂分が充分ではなくなるため、欠陥部の多い皮膜となり性能が悪化する。好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下である。
【0021】
一方、第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量が50%未満となると、樹脂成分の含有量が多くなり、第1樹脂皮膜における緻密さが低下し、導電性が確保できる膜厚での耐食性が低下する。好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。
【0022】
本実施形態で用いるシリカは、後述する水系樹脂との相溶性に優れるコロイダルシリカが望ましい。又、シリカの平均粒径が大きくなり過ぎると、皮膜の緻密さが低下したり、皮膜欠陥を発生させたりするおそれがあるので、平均粒径D50は500nm以下であることが好ましい。より好ましくは450nm以下である。なお、シリカの平均粒径D50とは、シリカの積算値(積算値)が50質量%となるときの平均粒径を意味する。
【0023】
本実施形態で用いる水酸化マグネシウムは、水分散体として安定するものであればよく、水酸化マグネシウム粉末および分散方法に特に限定されない。水酸化マグネシウムを水に分散した状態での平均粒径D50は、第1樹脂皮膜の厚みよりも小さいことが好ましいが、第1樹脂皮膜の厚みよりも大きくなっても、第1樹脂皮膜表面に形成される第2樹脂皮膜によって、露出した水酸化マグネシウム粒子をカバーする効果があるため、より厳しい腐食環境下での耐食性が単層の場合よりもさらに向上する。ただし、水酸化マグネシウムの粒子径が第1樹脂皮膜厚みより大き過ぎると、無機化合物粒子が皮膜から脱落して所望の効果が期待できないだけでなく、皮膜欠陥になるおそれがある。こうしたことから、水酸化マグネシウムの粒子は、適切な平均粒径D50を有していることが好ましい。この平均粒径D50は、水酸化マグネシウムを水に分散した状態で、0.7μm以下であることが好ましい。
【0024】
水酸化マグネシウムを水に分散した状態での平均粒径D50の下限は、特に限定されないが、平均粒径D50があまり小さくなり過ぎると分散体(例えば、分散液)の安定性が低下するおそれがあるので、0.1μm以上であることが好ましい。より好ましくは0.14μm以上である。なお、水酸化マグネシウムの平均粒径D50とは、水酸化マグネシウムの積算値(積算値)が50質量%となるときの平均粒径を意味する。
【0025】
水酸化マグネシウム水分散体を調合する際に、樹脂皮膜とした際に耐食性への悪影響が小さい高分子分散剤(例えば水溶性アクリル樹脂、水溶性スチレンアクリル樹脂、ノニオン系界面活性剤)を用いてもよい。
【0026】
[第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量:25~50質量%]
本実施形態において、第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量は25~50質量%とする。上述したように、第1樹脂皮膜中の樹脂成分が不足すると、欠陥部の多い皮膜となり耐食性が劣化する。こうした観点から、第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量は25質量%以上とする必要がある。好ましくは30質量%以上である。しかしながら、第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量が多くなりすぎると、第1樹脂皮膜における緻密さの低下による耐食性低下に加えて、第1樹脂皮膜が軟質化してプレス加工時の皮膜カス増加の懸念が生じる。こうした観点から、第1樹脂皮膜中の樹脂成分の含有量は50質量%以下とする必要がある。好ましくは45質量%以下である。
【0027】
[第1樹脂皮膜中のシリカに対する水酸化マグネシウムの質量比率:0.1~3]
本実施形態において、第1樹脂皮膜中のシリカに対する水酸化マグネシウムの質量比率は0.1~3とする。水酸化マグネシウムおよびシリカは、いずれも亜鉛めっきに対する防錆剤として知られている。本発明者らは、第1樹脂皮膜中に水酸化マグネシウムとシリカを、特定の質量比率で配合することで、薄膜であっても優れた耐食性が得られることを見出した。第1樹脂皮膜中のシリカに対する水酸化マグネシウムの質量比率[Mg(OH)2/SiO2]が、0.1~3の範囲内にあるとき、良好な耐食性を示す。この質量比率は、好ましくは0.4以上2.5以下であり、より好ましくは1.0以上2.5以下である。
【0028】
上記質量比率を適切な範囲に調整することによって耐食性が向上するメカニズムは、不明であるが、おそらく次のように考えられる。すなわち、水酸化マグネシウムから溶出したマグネシウムイオンが、シリカによって生成した亜鉛めっきに対する保護作用の高い腐食生成物を安定化させ、安定化した腐食生成物によるバリア効果が向上したと考えられる。上記亜鉛めっきに対する保護作用とは、水や酸素等の腐食因子を遮断するバリア性を意味する。そして、粒子状の水酸化マグネシウムを用いることで、処理液の安定性を損なうことなく樹脂皮膜中のマグネシウム成分の添加比率を高めることが可能になった結果、上記メカニズムが長時間継続して優れた耐食性を示すと推定される。
【0029】
[第1樹脂皮膜の厚み:0.2μm以上]
本実施形態において、第1樹脂皮膜の厚みは0.2μm以上とする。第1樹脂皮膜の厚みが0.2μm未満の場合には、どのような第1樹脂皮膜であっても亜鉛めっき表面を充分に被覆することが難しくなり、耐食性が劣化する。好ましくは0.3μm以上であり、より好ましくは0.4μm以上である。一方、第1樹脂皮膜の厚みの上限は第2樹脂皮膜との合計厚みとの関係で必然的に決まるが(1.3μm以下)、良好な導電性を確保するという観点からすれば、1.1μm以下であることが好ましい。
【0030】
[第2樹脂皮膜中のシリカの含有量:50~80質量%]
本実施形態において、第2樹脂皮膜中のシリカの含有量を50~80質量%とする。上記第1樹脂皮膜の上に組成の異なる第2樹脂皮膜を設ける効果は、前記第1樹脂皮膜に生じている塗装欠陥をカバーしてバリアー効果を高めること、およびシリカ等の防錆作用を有する添加剤を供給源とすることが挙げられる。又、第2樹脂皮膜付与によるバリア性を向上させることによっても、耐食性向上に寄与する。なお、アブレージョンは、皮膜の硬度の影響を受けることは知られているが、第2樹脂皮膜の皮膜組成を加味して適切なシリカの含有量が判明した。すなわち、第2樹脂皮膜中のシリカの含有量が50未満となると、耐アブレージョン性が不足する。好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。しかしながら、第2樹脂皮膜中のシリカの含有量が80質量%よりも多くなると、第2樹脂皮膜中の樹脂量が不足し、バインダー作用の低下によって、第1樹脂皮膜の塗装欠陥をカバーする効果が低下して耐食性が不足する。好ましくは75質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。
【0031】
[第2樹脂皮膜の厚み:0.2μm以上]
本実施形態において、第2樹脂皮膜の厚みは0.2μm以上とする。第2樹脂皮膜の厚みが0.2μm未満の場合には、どのような第2樹脂皮膜であっても第1樹脂皮膜を充分に被覆することが難しくなり、第2樹脂皮膜を形成することによる効果が低下する。好ましくは0.3μm以上であり、より好ましくは0.4μm以上である。一方、第2樹脂皮膜の厚みの上限は第1樹脂皮膜との合計厚みとの関係で必然的に決まるが(1.3μm以下)、良好な導電性を確保するという観点からすれば、1.1μm以下であることが好ましい。
【0032】
[第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜の合計厚み:0.4~1.5μm]
本実施形態において、第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜の合計厚みは0.4~1.5μmとする。皮膜厚みは、トレードオフの関係にある耐食性と導電性に影響を与える。第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜の合計厚みが0.4μm未満の場合には、どのような樹脂皮膜であっても、耐食性が不足する。好ましくは0.6μm以上である。一方、第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜の合計厚みが厚くなりすぎると、良好な導電性を確保できなくなるので、1.5μm以下とする必要がある。耐食性と導電性のバランスを優れたものとするためには、第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜の合計厚みは0.4~0.8μmであることが、より好ましい。又、第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜は、各々0.2μm以上の厚みを有していれば、優れた耐食性が得られるので、その他の皮膜特性とのバランスを図りながら、皮膜厚みを任意に選ぶことができる。特に、本実施形態では、二層構造の樹脂皮膜としているので、より薄い皮膜厚さであっても優れた耐食性を発揮する。
【0033】
[樹脂の種類]
本実施形態で用いる樹脂の種類については、第1樹脂皮膜および第2樹脂皮膜のいずれにおいても特に限定されず、水系樹脂および非水系樹脂のいずれも用いることができる。水酸化マグネシウムの水分散体や、コロイダルシリカを用いる場合には、水系樹脂を用いることが好ましい。このような水系樹脂についても特に限定されないが、水酸化マグネシウムの水分散体およびコロイダルシリカと混合できることが好ましい。なお、本実施形態における水系樹脂は、水分散体となっている樹脂、あるいは水溶性樹脂のことを指す。
【0034】
こうした水系樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく、これらのうち、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂がより好ましい。以下、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂について、それぞれ具体的に説明する。
【0035】
本実施形態では、亜鉛めっき鋼板の表面に形成される樹脂皮膜を二層構造とすることによって、単層の樹脂皮膜と比べて耐食性をより向上させることができ、より厳しい耐食環境下であっても、優れた耐食性を発揮する。こうした二層構造において、第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜では、樹脂の種類は異なってもよいし、同種であってもよいが、二層間の濡れ性を考慮すれば、同種であることが好ましい。又、二層構造の樹脂皮膜を形成する際には、二層間の濡れ性を良好にするために、チクソトロピック剤を使用することもあるが、本実施形態では、第1樹脂皮膜が無機リッチの無機系皮膜であるため、チクソトロピック剤を使用しなくても第2樹脂皮膜の水系樹脂との濡れ性は良好である。ただし、必要によって、チクソトロピック剤を使用しても良い。
【0036】
以下では、特に断りのない限り、第1樹脂皮膜と第2樹脂皮膜とを総括して、「樹脂皮膜」と呼ぶことがある。
【0037】
[ポリオレフィン系樹脂]
ポリオレフィン系樹脂として、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体が好ましい。エチレン-不飽和カルボン酸共重合体としては、特開2005-246953号公報や特開2006-43913号公報に記載されたものを用いることができる。
【0038】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、これらのうちの1種以上と、エチレンとを、公知の高温高圧重合法等で重合することにより、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体を得ることができる。
【0039】
エチレンに対する不飽和カルボン酸の共重合比率は、モノマー全量を100質量%としたときに、不飽和カルボン酸が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、一方、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。不飽和カルボン酸が10質量%よりも少ないと、イオンクラスターによる分子間会合の起点となるカルボキシル基が少ないため、皮膜強度効果が発揮されず、後述する塗装液(エマルジョン組成物)の乳化安定性に劣るからである。一方、不飽和カルボン酸が40質量%を超えると、樹脂皮膜の耐食性や耐水性が劣ることがあるからである。
【0040】
上記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体はカルボキシル基を有するので、有機塩基や金属イオンで中和することにより、塗装液のエマルション化(水分散体化)が可能となる。
【0041】
有機塩基として、樹脂皮膜の耐食性をあまり低下させない観点から、大気圧下での沸点が100℃以下のアミンが好ましい。具体例として、トリエチルアミン等の3級アミン;ジエチルアミン等の2級アミン;プロピルアミン等の1級アミン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中でも3級アミンが好ましく、トリエチルアミンが最も好ましい。又、耐溶剤性および皮膜硬度を向上させる観点から、1価の金属イオンを上記アミンと併せて用いることが好ましい。
【0042】
上記アミンは、耐食性を確保する観点から、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し0.2モル以上であることが好ましく、一方、0.8モル以下であることが好ましい。そして、0.3モル以上であることがより好ましく、一方、0.6モル以下であることがより好ましい。
【0043】
1価の金属イオンの量は、塗装液の乳化安定性を確保する観点から、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し0.02モル以上であることが好ましく、0.03モル以上であることがより好ましい。一方、耐食性を確保する観点から、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基1モルに対し0.4モル以下であることが好ましく、0.3モル以下であることがより好ましい。なお、1価の金属イオンを付与するための金属化合物は、NaOH、KOH、LiOH等が好ましく、NaOHが最も性能が良く好ましい。
【0044】
上記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体は、必要により後述のカルボン酸重合体存在下で、例えば、高温(150℃程度)、高圧(5気圧程度)の反応が可能な容器内で、高速攪拌を1~6時間行えば、乳化(エマルション化)する。乳化に際しては、トール油脂肪酸等の界面活性剤機能を持つ化合物を適量添加してもよい。又、親水性有機溶媒、例えば、炭素数1~5程度の低級アルコールなどを一部水に加えても構わない。
【0045】
上記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体の質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは1,000~10万、より好ましくは3,000~7万、さらに好ましくは5,000~3万である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により測定することができる。
【0046】
樹脂成分としてカルボン酸重合体も用いることができる。カルボン酸重合体として、上記エチレン-不飽和カルボン酸共重合体の合成に使用することのできるものとして例示した不飽和カルボン酸を構成単位とする重合体がいずれも使用可能である。これらの中で、アクリル酸およびマレイン酸が好ましく、マレイン酸がより好ましい。カルボン酸重合体は、不飽和カルボン酸以外の単量体に由来する構成単位を含有していても良いが、その他の単量体に由来する構成単位量は、重合体中に10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、不飽和カルボン酸のみから構成されるカルボン酸重合体がさらに好ましい。好ましいカルボン酸重合体として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-マレイン酸共重合体、ポリマレイン酸等が挙げられる。これらのうち、樹脂皮膜密着性および耐食性の観点から、ポリマレイン酸がより好ましい。ポリマレイン酸を使用することにより耐食性等が向上する正確なメカニズムは不明であるが、カルボキシル基量が多いため、樹脂皮膜(第1樹脂皮膜)と亜鉛めっき鋼板の密着性が向上し、それに伴い耐食性も向上することが考えられる。但し本発明は、この推定には限定されない。
【0047】
本実施形態で用いるカルボン酸重合体の質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは500~3万、より好ましくは800~1万、さらに好ましくは900~3,000、最も好ましくは1,000~2,000である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
【0048】
エチレン-不飽和カルボン酸共重合体とカルボン酸重合体との含有比率は、質量比で、1,000:1~10:1、好ましくは200:1~20:1である。カルボン酸重合体の含有比率が低すぎると、オレフィン-酸共重合体とカルボン酸重合体とを組み合わせた効果が充分に発揮されないからである。逆に、カルボン酸重合体の含有比率が過剰であると、樹脂皮膜形成用塗工液中でオレフィン-酸共重合体とカルボン酸重合体とが相分離し、均一な樹脂皮膜が形成されなくなるおそれがあるからである。
【0049】
[ポリウレタン系樹脂]
ポリウレタン系樹脂として、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が好ましい。カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂として、例えば特開2006-43913号公報に記載されたものを用いることができる。
【0050】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーを鎖延長剤で鎖延長反応して得られるものが好ましい。ウレタンプレポリマーは、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる。
【0051】
上記ポリイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)からなる群から選択される少なくとも1種のポリイソシアネートを使用することが、耐食性および反応制御の安定性に優れる樹脂皮膜を得る観点から、好ましい。上記ポリイソシアネートの他にも、耐食性や反応制御の安定性を低下させない範囲で他のポリイソシアネートを使用することができる。但し、上記ポリイソシアネートの含有率は、樹脂皮膜の耐食性および反応制御の安定性を確保する観点から、全ポリイソシアネート成分の70質量%以上であることが好ましい。上記ポリイソシアネート成分以外のポリイソシアネートとして、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカンメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を使用してもよい。
【0052】
上記ポリオール成分として、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルポリオール、および、カルボキシル基を有するポリオールの3種類のポリオールを使用することが、耐食性および摺動性に優れる樹脂皮膜を得る観点から、好ましい。そして、上記ポリオール成分として、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエーテルジオール、および、カルボキシル基を有するジオールの3種類のジオールを使用することが、より好ましい。なお、上記ポリオール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを使用することによって、得られるポリウレタン樹脂の防錆効果を高めることができる。
【0053】
上記ポリエーテルポリオールは、分子鎖にヒドロキシル基を少なくとも2以上有し、主骨格がアルキレンオキサイド単位によって構成されているものであれば特に限定されない。具体例として、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等を挙げられ、ポリオキシプロピレングリコール又はポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用することが好ましい。ポリエーテルポリオールの官能基数は、少なくとも2以上であれば特に限定されず、例えば、3官能、4官能以上の多官能であってもよい。ポリエーテルポリオールの平均分子量は、適度な硬度を有する樹脂皮膜を得る観点から、約400~4000程度であることが好ましい。なお、平均分子量は、OH価(水酸基価)を測定することにより求めることができる。
【0054】
上記ポリオール成分において、質量比で、1,4-シクロヘキサンジメタノール:ポリエーテルポリオール=1:1~1:19であることが、樹脂皮膜の防錆効果を一層高める観点から、好ましい。又、上記カルボキシル基を有するポリオールは、少なくとも1以上のカルボキシル基と少なくとも2以上のヒドロキシル基を有するものであれば、特に限定されない。具体例として、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸等が挙げられる。
【0055】
上記ポリオール成分において、上記3種類のポリオールの他にも、耐食性を低下させない範囲で他のポリオールを使用することができる。但し、上記3種類のポリオールの含有率は、樹脂皮膜の耐食性を確保する観点から、全ポリオール成分の70質量%以上であることが好ましい。上記3種類のポリオール以外のポリオールは、水酸基を複数有するものであれば特に限定されない。例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオール等を挙げられる。低分子量のポリオールは、平均分子量が500程度以下のポリオールである。具体例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオールが挙げられる。高分子量のポリオールは、平均分子量が500程度を超えるポリオールである。具体例として、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられる。
【0056】
上記鎖延長剤は、特に限定されないが、例えば、ポリアミン、低分子量のポリオール、アルカノールアミンなどを挙げられる。ポリアミンとして、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミン;ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ポリアミン;ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどのヒドラジン類などが挙げられる。これらの中で、エチレンジアミンおよび/又はヒドラジンを鎖延長剤成分として使用することが好ましい。アルカノールアミンとして、例えば、ジエタノールアミン、モノエタノールアミンなどが挙げられる。
【0057】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、公知の方法で乳化(エマルション化)させることができ、例えば、次の方法がある。すなわち、カルボキシル基含有ウレタンプレポリマーのカルボキシル基を塩基で中和して、水性媒体中に乳化分散して鎖延長反応させる方法;カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を乳化剤の存在下で、高せん断力で乳化分散して鎖延長反応させる方法である。
【0058】
カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、塗装液の安定性を確保する観点から、10mgKOH/g以上であることが好ましく、一方、樹脂皮膜の耐食性を確保する観点から、60mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価の測定は、JIS-K0070(1992年)に準ずる。
【0059】
[塗装液中の添加剤]
本実施形態において、樹脂皮膜は、塗装液を公知の塗装方法、すなわち、ロールコーター法、バーコーター法、スプレー法又はカーテンフローコーター法等を用いて亜鉛めっき鋼板の表面に塗布し、加熱乾燥させることで、形成することができる。塗装液は、所定量のシリカ、水酸化マグネシウムおよび上記樹脂を含有する。塗装液における樹脂固形分は15~25質量%程度であることが好ましい。そして、塗装液は、皮膜性能を向上させる目的で、各種添加剤を本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。添加剤として、例えば、シランカップリング剤、溶出抑制剤、防錆剤、ワックス、架橋剤、希釈剤、皮張り防止剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、造膜助剤、染料、顔料、増粘剤、潤滑剤等が挙げられる。
【0060】
例えば、シランカップリング剤を添加剤として用いると、樹脂皮膜が緻密化して耐食性が向上する。又、亜鉛めっき鋼板と樹脂皮膜の密着性も向上して耐食性を向上させる。そして、樹脂成分とコロイダルシリカとの結合力を向上させる効果があり、皮膜の強靱さが向上する。中でも、グリシドキシ系のシランカップリング剤は反応性が高く、耐食性向上効果が大きい。グリシジル基含有シランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0061】
シランカップリング剤量は、無機系皮膜中の無機化合物と樹脂成分との合計100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。0.1質量部より少ないと、亜鉛めっき鋼板と樹脂皮膜との密着性や、樹脂成分とコロイダルシリカとの結合力が不足して、皮膜の強靱さや耐食性が不充分となるおそれがあるからである。一方、シランカップリング剤量は、無機系皮膜中の無機化合物と樹脂成分との合計100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることがさらに好ましい。10質量部を超えても、金属板と樹脂皮膜(第1樹脂皮膜)との密着性向上効果が飽和するだけでなく、樹脂中の官能基が減少して塗装性が低下するおそれがあるからである。又、シランカップリング剤同士が加水分解縮合反応を起こして、塗装液の安定性が低下し、ゲル化やコロイダルシリカの沈殿を引き起こすおそれがあるからである。
【0062】
又、例えば溶出抑制剤であるメタバナジン酸塩を添加剤として用いると、メタバナジン酸塩の溶出によって亜鉛めっき鋼板の溶解や溶出を抑制して、耐食性が向上する。メタバナジン酸塩は、特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して裸耐食性を向上させる効果がある。メタバナジン酸塩として、例えば、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)、メタバナジン酸カリウム(KVO3)等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0063】
メタバナジン酸塩の量は、無機系皮膜中の無機化合物と樹脂成分との合計100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることがさらに好ましい。0.5質量部より少ないと、裸耐食性向上効果が不充分となるからである。一方、メタバナジン酸塩の量は、無機系皮膜中の無機化合物と樹脂成分との合計100質量部に対して、5.5質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以下であることがより好ましく、3.0質量部以下であることがさらに好ましい。5.5質量部を超えると、裸耐食性が若干低下する傾向が認められるだけでなく、さらに皮膜密着性が著しく低下する傾向があるからである。なお、このメタバナジン酸塩の好適量は、V元素換算量である。
【0064】
[亜鉛めっき鋼板の種類]
本実施形態で用いる亜鉛めっき鋼板の種類については、特に限定はなく、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、これらを「原板」と呼ぶことがある)のいずれも採用できる。又、亜鉛めっき層の種類についても、特に限定はなく、めっき層中に合金元素を含むものであってもよい。なお、亜鉛めっき層は、素地鋼板の片面又は両面に被覆され、それに応じて樹脂皮膜も亜鉛めっき鋼板の片面又は両面に被覆される。
【0065】
上述したように、本発明の一局面は、亜鉛めっき鋼板の表面に、シリカおよび水酸化マグネシウムを含む樹脂皮膜を有する塗装亜鉛めっき鋼板であって、前記第1樹脂皮膜中のシリカおよび水酸化マグネシウムの合計含有量が50~75質量%、前記第1樹脂皮膜の樹脂成分の含有量が25~50質量%であり、前記シリカに対する前記水酸化マグネシウムの質量比率が0.1~3であり、前記第1樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、且つ前記第1樹脂皮膜の表面に、シリカを50~80質量%で含む第2樹脂皮膜を有し、前記第2樹脂皮膜の厚みが0.2μm以上であり、前記第1樹脂皮膜と前記第2樹脂皮膜の合計厚みが0.4~1.5μmである塗装亜鉛めっき鋼板である。
【0066】
この構成によれば、導電性が確保できる皮膜厚みであっても、優れた耐食性を有し、しかも耐アブレージョン性にも優れた塗装亜鉛めっき鋼板が実現できる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例によって制限されず、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することは可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0068】
(水酸化マグネシウム分散液の調合)
水酸化マグネシウム粒子(協和化学工業株式会社製、商品名:キスマ5Q-S)を、水を分散剤として使用するとともに高分子分散剤を用いて分散させて、水分散液(樹脂固形分:約30質量%、平均粒径D50:0.69μm)を調合した。
【0069】
分散液中の水酸化マグネシウムの平均粒径D50は、0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液で希釈した後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:マイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定した。
【0070】
(樹脂)
樹脂皮膜を形成するときの樹脂として、東邦化学株式会社製のポリエチレン樹脂又は東邦化学工業製のウレタン樹脂を用いた。なお、これらの樹脂は、下記の方法で製造されたものである。
【0071】
[ポリエチレン樹脂の製造方法]
上記東邦化学株式会社製のポリエチレン樹脂およびその水性分散液を、次の方法で調製した。
【0072】
攪拌機、温度計、温度コントローラを備えた乳化設備を有するオートクレイブに、エチレン-アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製、商品名:プリマコール5990I、アクリル酸由来の構成単位:20質量%、質量平均分子量(Mw):20,000、メルトインデックス:1300、酸価:150)200.0質量部、ポリマレイン酸水溶液(日油社製、商品名:ノンポール PMA-50W、Mw:約1100(ポリスチレン換算)、50質量%品)8.0質量部、トリエチルアミン35.5質量部(エチレン-アクリル酸共重合体のカルボキシル基に対して0.63当量)、48%NaOH水溶液6.9質量部(エチレン-アクリル酸共重合体のカルボキシル基に対して0.15当量)、トール油脂肪酸(ハリマ化成社製、商品名:ハートールFA3)3.5質量部、イオン交換水792.6質量部を加えて密封し、150℃および5気圧で3時間高速攪拌してから、30℃まで冷却した。
【0073】
次いで、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:TSL8350)10.4質量部、ポリカルボジイミド(日清紡社株式会社製、商品名:カルボジライト SV-02、Mw:2,700、固形分40質量%)31.2質量部、イオン交換水72.8質量部を添加し、10分間攪拌して、エチレン-アクリル酸共重合体が乳化し、各成分と混合されたポリエチレン樹脂水性分散液が得られた(樹脂固形分20.3質量%、JIS K6833に準じて測定)。
【0074】
[ウレタン樹脂の製造方法]
上記東邦化学株式会社製のウレタン樹脂およびその水性分散液を、次の方法で調製した。
【0075】
撹拌機、温度計、温度コントローラを備えた内容量0.8Lの合成装置に、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(保土ヶ谷化学工業株式会社製、平均分子量1,000)60g、1,4-シクロヘキサンジメタノール14g、ジメチロールプロピオン酸20gを仕込み、さらにN-メチルピロリドン30.0gを加えた。そして、トリレンジイソシアネート104gを仕込み、80から85℃に昇温し5時間反応させた。得られたプレポリマーのNCO含有量は、8.9%であった。さらにトリエチルアミン16gを加えて中和を行い、エチレンジアミン16gと水480gの混合水溶液を加えて、50℃で4時間乳化し、鎖延長反応させてウレタン樹脂水性分散液を得た(不揮発性樹脂成分29.1%、酸価41.4)。
【0076】
(塗装液の調合)
上記水酸化マグネシウム水分散液、上記ポリエチレン樹脂水性分散液又は上記ウレタン樹脂水性分散液、および、コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、商品名:スノーテックス-XS)を混合して、樹脂固形分約10質量%の塗装液を調合した。
【0077】
(原板の種類)
電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚0.8mm、亜鉛目付量:おもて面18g/m2、うら面18g/m2
【0078】
(亜鉛めっき鋼板の前処理)
脱脂:アルカリ脱脂(日本パーカーライジング社製、「ファインクリーナー」(商品名)シリーズ)
乾燥:熱風乾燥させ、水分を蒸発させた。
【0079】
(塗装方法)
方法:バーコーター
樹脂皮膜厚み:所定の樹脂皮膜厚さが得られるように、塗装液の樹脂固形分とバーの番手を調整した。
【0080】
(乾燥方法)
方法:熱風乾燥機
時間:1分間
条件:塗装板の最高到達温度80℃(サーモラベルで確認)
【0081】
上記した範囲内で、下記表1に示すように条件(第1樹脂皮膜の樹脂の種類、第1樹脂皮膜の組成比率、[Mg(OH)2/SiO2]、第2樹脂皮膜の樹脂の種類、第2樹脂皮膜の皮膜厚み、第2樹脂皮膜の組成比率、第1樹脂皮膜および第2樹脂皮膜の厚み)を様々変えて、各種塗装亜鉛めっき鋼板(試験No.1~19)を作製し、得られた塗装亜鉛めっき鋼板の耐食性、導電性および耐アブレージョン性について、下記の方法で評価した。
【0082】
【0083】
[耐食性]
得られた塗装亜鉛めっき鋼板(試料)に対して:JIS Z2371:2015に規定される塩水噴霧試験を240時間実施し、試験後のサンプル表面の白錆発生率(白錆が発生した面積×塗装亜鉛めっき鋼板の全面積×100)を算出し、下記の評価基準で評価した。
【0084】
(白錆の評価基準)
◎:白錆発生率5面積%以下
○:白錆発生率5面積%超、10面積%以下
△:白錆発生率10面積%超、25面積%以下
×:白錆発生率25面積%超
【0085】
又、得られた塗装亜鉛めっき鋼板(試料)に対して:JIS Z2371:2015に規定される塩水噴霧試験を1200時間実施し、試験後のサンプル表面の赤錆発生率(赤錆が発生した面積×塗装亜鉛めっき鋼板の全面積×100)を算出し、下記の評価基準で評価した。
【0086】
(赤錆の評価基準)
◎:赤錆発生率5面積%以下
○:赤錆発生率5面積%超、30面積%以下
△:赤錆発生率30面積%超、50面積%以下
×:赤錆発生率50面積%超
【0087】
いずれの場合も、「◎」および「○」を合格(耐食性良好)、「△」および「×」を不合格(耐食性劣化)と評価した。
【0088】
[導電性]
アナログテスター「CX-270N」(商品名:株式会社カスタム社製)を用い、端子を試料表面上で滑らすことで、電気抵抗値を測定した。導電性を下記の基準で評価した。
【0089】
(評価基準)
テスターが示した電気抵抗値が1000Ω以下であるときを、導電性が良好(「○」と表示)と評価し、電気抵抗値が1000Ωを超えるときを、導電性が不良(「×」と表示)と評価した。
【0090】
[耐アブレージョン性]
アブレージョン試験機(「BF-50UC」商品名:アイデックス社製)を用い、下記の試験条件でアブレージョン試験を行い、サンプル表面の外観変化を目視で観察し、下記の基準で評価した。
【0091】
(試験条件)
周波数:35Hz
上下方向の振幅:0.5mm
横方向の振幅:0.3mm
時間:5分間、10分間
荷重:2.5kg
【0092】
(評価基準)
5点:ほとんど外観変化が認められない(見る角度によっては、摺動痕が認められる場
合がある)
4点:サンプルの一部に軽微な外観変化しか認められない
3点:サンプルの一部に外観変化が認められる
2点:サンプル全体に外観変化が認められる
1点:サンプル全体に著しい外観変化が認められる
【0093】
(総合評価)
○:合格(5分間および10分間のいずれも3点以上)
△:不合格(5分間で3点以上、且つ10分間で2点以下)
×:不合格(5分間および10分間のいずれも2点以下)
その結果を、下記表2に示す。
【0094】
【0095】
この結果から明らかなように、本実施形態で規定する要件を満足する塗装亜鉛めっき鋼板(試験No.3、4、6、8、9、11、16)では、より厳しい腐食環境下であっても優れた耐食性を発揮しつつ、良好な導電性を維持し、且つ良好な耐アブレージョン性を示していることが分かる。
【0096】
これに対し、本実施形態で規定するいずれかの要件を欠く塗装亜鉛めっき鋼板(試験No.1、2、5、7、10、12~15、17~19)では、耐食性、導電性および耐アブレージョン性の少なくともいずれかが劣化若しくは低下している。
【0097】
具体的には、試験No.1は、第1樹脂皮膜中の樹脂成分が不足しており、耐食性が劣化している。試験No.2、10は、第1樹脂皮膜のシリカに対する水酸化マグネシウムの質量比率[Mg(OH)2/SiO2]が0.1~3の範囲を外れた例であり、耐食性が劣化している。
【0098】
試験No.5、14は、第1樹脂皮膜および第2樹脂皮膜の合計厚みが不足(第1樹脂皮膜および第2樹脂皮膜の夫々の厚みも不足)しており、耐食性と耐アブレージョン性が劣化している。試験No.7は、第1樹脂皮膜および第2樹脂皮膜の合計厚みが厚くなっており、導電性が低下している。
【0099】
試験No.12、13は、第1樹脂皮膜の無機成分が不足しており、耐食性と耐アブレージョン性が劣化している。試験No.15は、単層(第1樹脂皮膜だけ)であるため、より厳しい腐食環境下での耐食性が劣化している。試験No.17~19は、第2樹脂皮膜の無機成分が不足しており、耐アブレージョン性が劣化している。