IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-冷却ダクト 図1
  • 特許-冷却ダクト 図2
  • 特許-冷却ダクト 図3
  • 特許-冷却ダクト 図4
  • 特許-冷却ダクト 図5
  • 特許-冷却ダクト 図6
  • 特許-冷却ダクト 図7
  • 特許-冷却ダクト 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】冷却ダクト
(51)【国際特許分類】
   B64D 33/10 20060101AFI20230301BHJP
   B64C 27/04 20060101ALI20230301BHJP
   B64C 21/08 20230101ALI20230301BHJP
【FI】
B64D33/10
B64C27/04
B64C21/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019087896
(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公開番号】P2020183169
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 海
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-27698(JP,A)
【文献】特開2014-19357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 1/00-99/00
B64D 1/00-47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリコプタの機体に設けられた冷却対象装置に空気流を導入するための冷却ダクトであって、
前記ヘリコプタのメインロータよりも下方で、前記冷却対象装置に隣接して配置されたダクト本体と、
前記ダクト本体の機体前方側に形成された前方開口と、
前記ダクト本体の機体上方側に形成された上方開口と、
前記ダクト本体の上部に配置され、機体左右方向に延びる回動軸を有するヒンジと、
前記ヒンジに一端が軸支され、前記前方開口を塞ぐ第1位置と前記上方開口を塞ぐ第2位置との間で、前記回動軸を中心に回動自在に設けられた可動翼板と、
を備える、冷却ダクト。
【請求項2】
前記可動翼板は、前記ヘリコプタの飛行状態に応じて外部から前記ダクト本体内に流入する空気流によって、前記回動軸を中心に搖動し、前記第1位置、前記第2位置、または前記第1位置と前記第2位置との間の中間位置に移動する、請求項1に記載の冷却ダクト。
【請求項3】
前記ヘリコプタのホバリング時には、
前記メインロータから下方に向かう空気流により、前記可動翼板は、前記前方開口を塞ぐ前記第1位置に移動し、
前記ヘリコプタの前進時には、
機体前方から後方に向かう空気流により、前記可動翼板は、前記上方開口を塞ぐ前記第2位置に移動する、請求項2に記載の冷却ダクト。
【請求項4】
前記可動翼板は、機体前後方向に並んで複数枚設けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却ダクト。
【請求項5】
前記ヒンジは、
前記ダクト本体の上部において機体前方側に配置された前方ヒンジと、
前記ダクト本体の上部において前記前方ヒンジよりも機体後方側に配置された後方ヒンジと、
を含み、
前記可動翼板は、
前記前方ヒンジにより回動自在に軸支された前方可動翼板と、
前記後方ヒンジにより回動自在に軸支された後方可動翼板と、
を含む、請求項4に記載の冷却ダクト。
【請求項6】
前記ヘリコプタのホバリング時には、前記メインロータから下方に向かう空気流により、前記前方可動翼板は、前記前方開口を塞ぐ前記第1位置に移動し、
前記ヘリコプタの前進時には、機体前方から後方に向かう空気流により、少なくとも前記後方可動翼板は、前記上方開口を塞ぐ前記第2位置に移動する、請求項5に記載の冷却ダクト。
【請求項7】
前記ヘリコプタの前進時には、
前記機体前方から後方に向かう前記空気流の強さに応じて、前記前方可動翼板は、前記第1位置と前記第2位置の間の中間位置、または前記第2位置に移動する、請求項6に記載の冷却ダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリコプタに設けられるラジエータ等の冷却対象装置を空冷するための冷却ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘリコプタの多様な飛行状態時に、ラジエータに効率よく外気を導入して、エンジン冷却効果を向上する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、ヘリコプタのボディカバーに、ラジエータが設けられる開口部以外にも複数の開口部を設けることによって、ホバリング、前進、後進時に、当該複数の開口部を通じて、ボディカバー内に外気を流入させつつ、ボディカバー外に排出させることが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、ヘリコプタの機体前部の上部側に設けられた開口部に第1のラジエータを設け、かつ、機体前部の下部側に、風受け面をほぼ垂直にした第2のラジエータを設けることによって、多様な飛行状態において有効にエンジンを冷却することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-19357号公報
【文献】特開2002-193193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、飛行状態が変化するヘリコプタでは、エンジン冷却用のラジエータの設置位置を位置決めすることが難しかった。例えば、ホバリング時の空気流を想定して最適化した設置位置と、前進時の空気流を想定して最適化した設置位置とが、トレードオフの関係にあった。
【0006】
この点、特許文献1に記載のようにボディカバーに多数の開口部を設けたとしても、ラジエータに空気を導入するための主な開口部は1つであり、当該開口部を通じてラジエータに、飛行状態の変化に応じて効率的に空気を導入することはできなかった。また、特許文献2に記載のように複数のラジエータを設置すると、ヘリコプタの装置構成が複雑になり、部品数や重量が増加してしまう。
【0007】
また、アクチュエータを用いた可動式の可動翼板を備えた空冷機構を設けることで、ホバリング時にも前進時にも、ラジエータに効率よく外気を導入する方法も考えられる。しかし、この方法でも、アクチュエータやその制御装置、センサ等の追加設置が必要となるため、ヘリコプタの装置構成が複雑になり、部品数や重量が増加してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、アクチュエータを有さない空冷機構を用いて、ヘリコプタの飛行状態に応じて、ラジエータ等の冷却対象部品に対して必要な空気流を効率的に導入することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ヘリコプタの機体に設けられた冷却対象装置に空気流を導入するための冷却ダクトであって、前記ヘリコプタのメインロータよりも下方で、前記冷却対象装置に隣接して配置されたダクト本体と、前記ダクト本体の機体前方側に形成された前方開口と、前記ダクト本体の機体上方側に形成された上方開口と、前記ダクト本体の上部に配置され、機体左右方向に延びる回動軸を有するヒンジと、前記ヒンジに一端が軸支され、前記前方開口を塞ぐ第1位置と前記上方開口を塞ぐ第2位置との間で、前記回動軸を中心に回動自在に設けられた可動翼板と、を備える、冷却ダクトが提供される。
【0010】
前記可動翼板は、前記ヘリコプタの飛行状態に応じて外部から前記ダクト本体内に流入する空気流によって、前記回動軸を中心に搖動し、前記第1位置、前記第2位置、または前記第1位置と前記第2位置との間の中間位置に移動するようにしてもよい。
【0011】
前記ヘリコプタのホバリング時には、前記メインロータから下方に向かう空気流により、前記可動翼板は、前記前方開口を塞ぐ前記第1位置に移動し、前記ヘリコプタの前進時には、機体前方から後方に向かう空気流により、前記可動翼板は、前記上方開口を塞ぐ前記第2位置に移動するようにしてもよい。
【0012】
前記可動翼板は、機体前後方向に並んで複数枚設けられるようにしてもよい。
【0013】
前記ヒンジは、前記ダクト本体の上部において機体前方側に配置された前方ヒンジと、前記ダクト本体の上部において前記前方ヒンジよりも機体後方側に配置された後方ヒンジと、を含み、前記可動翼板は、前記前方ヒンジにより回動自在に軸支された前方可動翼板と、前記後方ヒンジにより回動自在に軸支された後方可動翼板と、を含むようにしてもよい。
【0014】
前記ヘリコプタのホバリング時には、前記メインロータから下方に向かう空気流により、前記前方可動翼板は、前記前方開口を塞ぐ前記第1位置に移動し、前記ヘリコプタの前進時には、機体前方から後方に向かう空気流により、少なくとも前記後方可動翼板は、前記上方開口を塞ぐ前記第2位置に移動するようにしてもよい。
【0015】
前記ヘリコプタの前進時には、前記機体前方から後方に向かう前記空気流の強さに応じて、前記前方可動翼板は、前記第1位置と前記第2位置の間の中間位置、または前記第2位置に移動するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アクチュエータを有さない空冷機構を用いて、ヘリコプタの飛行状態に応じて、ラジエータ等の冷却対象部品に対して必要な空気流を効率的に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係るヘリコプタを示す側面図である。
図2】同実施形態に係る冷却ダクトを示す斜視図である。
図3】同実施形態に係る冷却ダクトの機体前後方向Xに沿った切断面を示す縦断面図である。
図4】同実施形態に係るヘリコプタのホバリング時における冷却ダクトと空気流を示す縦断面図である。
図5】同実施形態に係るヘリコプタの低速前進時における冷却ダクトと空気流を示す縦断面図である。
図6】同実施形態に係るヘリコプタの高速前進時における冷却ダクトと空気流を示す縦断面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係るヘリコプタの低速前進時における冷却ダクトと空気流を示す縦断面図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係るヘリコプタの低速前進時における冷却ダクトと空気流を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
[1.ヘリコプタの全体構成]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係るヘリコプタ1の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るヘリコプタ1を示す側面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るヘリコプタ1は、メインロータ2と、ロータ軸3と、エンジン4と、トランスミッション5と、ラジエータ6と、エンジン4およびトランスミッション5等を含む各種装置を覆うボディカバー7と、ラジエータ6に空気流を導入する冷却ダクト10と、を備える。ヘリコプタ1の機体内部にはさらに、ヘリコプタ1に搭載される各種装置を制御する制御装置、検出器および燃料タンクなどが設置されているが、図示は省略する。
【0021】
メインロータ2は、ヘリコプタ1の揚力および進行方向への推進力を得るための回転翼である。メインロータ2は、ヘリコプタ1の機体前後方向Xおよび機体左右方向Yに対して垂直な方向(機体上下方向Z)に延びるロータ軸3に装着される。エンジン4によりメインロータ2を回転させ、メインロータ2の描く面(回転円盤面)を変化させることにより、ヘリコプタ1の揚力や進行方向への推進力が変化する。これにより、ヘリコプタ1は、多様な飛行状態(例えば、浮上、下降、ホバリング、前進、後進、旋回等)で飛行することができる。
【0022】
エンジン4は、メインロータ2の下方において、ロータ軸3よりも前方に配置され、メインロータ2を回転駆動させるための駆動力を発生させる。トランスミッション5は、ロータ軸3とエンジン4に連結されており、エンジン4の駆動力を、ロータ軸3を介してメインロータ2に伝達する。
【0023】
エンジン4よりも機体前方でメインロータ2よりも下方において、ラジエータ6が設けられる。図示の例では、エンジン4の前方斜め上方にラジエータ6が設けられる。ラジエータ6は、例えば、平面視で略長方形状を有し、その上面が前方斜め上方を向くように配置される。ラジエータ6には、その厚み方向に複数の通気孔(図示せず。)が貫通形成されており、上方からラジエータ6に向けて導入された空気流がラジエータ6内を通過できるようになっている。
【0024】
かかるラジエータ6は、ヘリコプタ1の機体前方であって、メインロータ2の下方に配置される。ラジエータ6は、機体前方のボディカバー7の上側に形成された開口部8に設けられており、外気に露出している。ラジエータ6は、連結部材(図示せず。)を介してエンジン4に連結されており、ラジエータ6内には、エンジン4の冷却水が循環する。かかるラジエータ6により、冷媒である冷却水を通じてエンジン4の熱を放出して、エンジン4が水冷される。
【0025】
このラジエータ6の上側に、当該ラジエータ6に隣接して冷却ダクト10が設けられる。冷却ダクト10は、ヘリコプタ1の機体前方に設けられた冷却対象装置(ラジエータ6等)に空気流を導入するための空冷機構を構成する。冷却ダクト10は、ボディカバー7の開口部8に連通しており、当該開口部8に配置されたラジエータ6に空気を送り込む。冷却ダクト10は、ヘリコプタ1の飛行中に外気をラジエータ6等の冷却対象装置に導入するエアインテークダクトとして機能する。さらに、ボディカバー7には、上記開口部8以外にも、ラジエータ6の下方に設けられる通気口を含む複数の通気口(図示せず。)が形成されている。
【0026】
ヘリコプタ1では、上記の冷却ダクト10および開口部8を通じて、外部の空気をボディカバー7内に流入させることができるとともに、上記の通気口を通じて、ボディカバー7内の空気を外部に流出させることができる。これにより、ボディカバー7内の空気の温度上昇を抑制でき、ヘリコプタ1に搭載された各種の装置(例えば、ラジエータ6、エンジン4、制御装置等)の温度上昇を抑制できる。
【0027】
本実施形態に係るヘリコプタ1が、無人ヘリコプタの場合は、有人ヘリコプタのようにコックピットを設ける必要がない。このため、ヘリコプタ1の機体前方(ボディカバー7の前部上側)に、ラジエータ6等の冷却対象部品と、冷却ダクト10等の空冷機構を設置するスペースを確保できる。さらに、機体前方におけるこれら冷却対象部品および空冷機構の設置位置や大きさも、有人ヘリコプタに比べて自由であるという利点がある。
【0028】
なお、本実施形態では、冷却ダクト10を含む空冷機構による冷却対象装置が、ラジエータ6である例について説明する。しかし、冷却対象装置は、ラジエータ6の例に限定されず、ヘリコプタに搭載されて空冷が求められる装置であれば、例えば、エンジンオイルを冷却するためのオイルクーラー、または各種の制御装置など、任意の装置であってもよい。
【0029】
[2.冷却ダクトの構成]
次に、図2および図3を参照して、本実施形態に係るヘリコプタ1の冷却ダクト10の構成について詳述する。図2は、本実施形態に係る冷却ダクト10を示す斜視図であり、図3は、本実施形態に係る冷却ダクト10の機体前後方向Xに沿った切断面を示す縦断面図である。なお、以下では、機体前後方向X、機体左右方向Y、機体上下方向Zをそれぞれ、前後方向X、左右方向Y、上下方向Zと略称し、機体前方、機体後方、機体上方、機体下方をそれぞれ、前方、後方、上方、下方と略称する場合がある。
【0030】
図2および図3に示すように、冷却ダクト10は、前後方向Xに長く延びるダクト本体11(右側壁12、左側壁13、後面壁14)と、可動翼板(前方可動翼板21、後方可動翼板22)と、ヒンジ(前方ヒンジ31、後方ヒンジ32)と、ストッパー(前方ストッパー41、42、上方ストッパー51、52)とを備える。
【0031】
ダクト本体11は、右側壁12と、左側壁13と、後面壁14とからなる略直方体形状の角型筒状ダクトである。ただし、ダクト本体11の前面、上面および下面には、壁は設けられておらず、開口部(前方開口15、上方開口16、下方開口17)となっている。
【0032】
右側壁12と左側壁13は、例えば、機体前後方向Xに延びる略台形状または矩形状等の板状部材である。右側壁12と左側壁13は、相互に平行に配置され、かつ、ともに左右方向Yに対して垂直になるように配置される。しかし、かかる例に限定されず、右側壁12と左側壁13が、相互に平行、かつ、左右方向Yに対して垂直に配置される必要はなく、外気をラジエータ6に導入できる配置であれば、適宜変更できる。例えば、右側壁12と、左側壁13が上方に向うにつれて離隔するように傾斜配置されてもよい。
【0033】
後面壁14は、例えば、機体左右方向Yに延び略矩形状等の板状部材である。後面壁14は、前後方向Xに対して垂直になるように配置されるが、前後方向Xに対して傾斜して配置されてもよい。後面壁14は、右側壁12と左側壁13に対して気密に連結されている。なお、本実施形態では、右側壁12と、左側壁13と、後面壁14は、例えば、金属製の平板状の部材で構成されるが、かかる例に限定されず、その他の素材で構成されてもよいし、湾曲板で構成されてもよい。
【0034】
このように、ダクト本体11は、右側面、左側面および後面の三方を、遮蔽板たる右側壁12、左側壁13、後面壁14で囲まれた空気遮蔽体である。一方、ダクト本体11の前面、上面、下面にはそれぞれ、前方開口15、上方開口16、下方開口17が設けられている。前方開口15、上方開口16、下方開口17はそれぞれ、ダクト本体11の機体前方側、上方側、下方側に配置され、例えば略矩形状の開口である。なお、本実施形態では、ダクト本体11の上面、前面および下面の全て若しくは大半が開口となっているが、各面の開口面積を図示の例よりも低く設定することも可能である。
【0035】
以上のようにダクト本体11においては、左右両側面と後面には、遮蔽板たる右側壁12、左側壁13、後面壁14が設けられているが、前面、上面および下面には、壁が設けられておらず、前方開口15、上方開口16、下方開口17が形成されている。ヘリコプタ1の飛行時に、前方開口15および上方開口16は、ダクト本体11の前方および上方から外気をダクト本体11内に取り込むための吸気口として機能し、下方開口17は、ダクト本体11内の空気を下方のラジエータ6に向けて排出する排気口として機能する。
【0036】
このダクト本体11は、ヘリコプタ1のメインロータ2よりも機体下方で、ラジエータ6の上側に当該ラジエータ6に隣接して配置される。ダクト本体11の内部空間は、ラジエータ6内部の通気孔と連通している。かかる構成により、ヘリコプタ1の飛行中に、ダクト本体11の前方または上方のいずれか一方若しくは双方から、空気流を取り込みつつ、ダクト本体11の下方に配置されるラジエータ6に向けて空気流を誘導することができる。
【0037】
次いで、上記冷却ダクト10に設けられるルーバー機構について説明する。図2および図3に示すように、冷却ダクト10は、前方可動翼板21、後方可動翼板22と、前方ヒンジ31、後方ヒンジ32と、前方ストッパー41、42と、上方ストッパー51、52と、を備える。
【0038】
本実施形態に係る冷却ダクト10においては、ダクト本体11の内部空間に、2枚の可動翼板(前方可動翼板21、後方可動翼板22)が、前後方向Xに並んで設けられる。前方可動翼板21、後方可動翼板22は、例えば、金属製の略矩形状の平板で構成される。前方可動翼板21、後方可動翼板22の平面積は、上記冷却ダクト10の前方開口15および後面壁14の面積と同程度か、あるいは若干小さい程度である。なお、可動翼板は、金属以外の素材で構成されてもよいし、湾曲板で構成されてもよいし、矩形状以外の形状であってもよい。また、可動翼板は、空気流の押圧力により搖動し易いように、軽量で薄型であることが好ましい。
【0039】
上記2枚の前方可動翼板21、後方可動翼板22に対応して、2つの前方ヒンジ31、後方ヒンジ32が設けられている。前方ヒンジ31、後方ヒンジ32は、ダクト本体11の上部に配置され、左右方向Yに延びる回動軸31a、32a(ヒンジ軸)を有する。回動軸31a、32aは、左右方向Yに対して平行であり、前後方向Xおよび上下方向Zに対して垂直である。図示の例では、前方ヒンジ31と後方ヒンジ32は、ダクト本体11の上部において、右側壁12の上端部と左側壁13の上端部とを左右方向Yに連結するように配置される。
【0040】
前方ヒンジ31は、ダクト本体11の上部において機体前方側に配置され、図示の例では、右側壁12と左側壁13の前後方向Xの前端付近に配置される。後方ヒンジ32は、ダクト本体11の上部において前方ヒンジ31よりも機体後方側に配置され、図示の例では、右側壁12と左側壁13の前後方向Xの中央部付近に配置される。
【0041】
上記の前方可動翼板21、後方可動翼板22はそれぞれ、前方ヒンジ31、後方ヒンジ32により回動自在に軸支される。前方可動翼板21の一端(例えば上端)は、前方ヒンジ31に軸支されており、前方可動翼板21の他端(例えば下端)は自由端である。これにより、前方可動翼板21は、前方ヒンジ31の回動軸31aを中心に回動する。同様に、後方可動翼板22の一端(例えば上端)は、後方ヒンジ32に軸支されており、後方可動翼板22の他端(例えば下端)は自由端である。これにより、後方可動翼板22は、後方ヒンジ32の回動軸32aを中心に回動自在である。なお、冷却ダクト10内で回動する前方可動翼板21、後方可動翼板22が相互に干渉しないように、前方可動翼板21、後方可動翼板22の大きさや形状、および前方ヒンジ31、後方ヒンジ32の相対位置などが調整されている。
【0042】
前方可動翼板21、後方可動翼板22は、冷却ダクト10内で自由に回動できるが、冷却ダクト10外にまで回動しないように、前方可動翼板21、後方可動翼板22を係止する係止部材として、前方ストッパー41、42と、上方ストッパー51、52とが設けられている。これにより、前方可動翼板21、後方可動翼板22の回動範囲が冷却ダクト10内に規制される。
【0043】
前方ストッパー41、42は、前方可動翼板21、後方可動翼板22が前後方向Xの前方側に過度に回動しないように規制するためのストッパーである。上方ストッパー51、52はそれぞれ、前方可動翼板21、後方可動翼板22が上下方向Zの上方側に過度に回動しないように規制するためのストッパーである。かかる前方ストッパー41、42および上方ストッパー51、52により、前方可動翼板21、後方可動翼板22の回動範囲が、前方開口15を塞ぐ第1位置21A、22Aと、上方開口16を塞ぐ第2位置21B、22Bとの間の範囲に規制される。
【0044】
前方可動翼板21の回動範囲は、前方ストッパー41および上方ストッパー51により規制される。前方ストッパー41は、ダクト本体11の前面において例えば前方開口15の下端であって、かつ、回動する前方可動翼板21の下端と干渉する位置に配置される。前方可動翼板21が前方ストッパー41に対して当接するときの前方可動翼板21の位置が、前方可動翼板21により前方開口15を塞ぐ第1位置21A(図3参照。)である。かかる前方ストッパー41を設けることにより、前方可動翼板21が第1位置21Aよりも前方に回動しないように規制して、前方可動翼板21がダクト本体11の前方開口15よりも前方にまで回動してしまうことを防止できる。
【0045】
上方ストッパー51は、ダクト本体11の上面において例えば後方ヒンジ32よりも前方であって、かつ、回動する前方可動翼板21の下端と干渉する位置に配置される。前方可動翼板21が上方ストッパー51に対して当接するときの前方可動翼板21の位置が、前方可動翼板21により上方開口16を塞ぐ第2位置21B(図3参照。)である。かかる上方ストッパー51を設けることにより、前方可動翼板21が第2位置21Bよりも上方に回動しないように規制して、前方可動翼板21がダクト本体11の上方開口16よりも上方にまで回動してしまうことを防止できる。
【0046】
一方、後方可動翼板22の回動範囲は、前方ストッパー42および上方ストッパー52により規制される。前方ストッパー42は、ダクト本体11の前後方向Xの中央部付近において例えば下側であって、かつ、回動する後方可動翼板22の下端と干渉する位置に配置される。後方可動翼板22が前方ストッパー42に対して当接するときの後方可動翼板22の位置が、前方側へ最大限回動できる第1位置22A(図3参照。)である。当該第1位置22Aであれば、後方可動翼板22は、前方可動翼板21と干渉することがない。
【0047】
上方ストッパー52は、ダクト本体11の上面において例えば上方開口16の後端であって、かつ、回動する後方可動翼板22の下端と干渉する位置に配置される。後方可動翼板22が上方ストッパー52に対して当接するときの後方可動翼板22の位置が、後方可動翼板22により上方開口16を塞ぐ第2位置22B(図3参照。)である。かかる上方ストッパー52を設けることにより、後方可動翼板22が第2位置22Bよりも上方に回動しないように規制して、後方可動翼板22がダクト本体11の上方開口16よりも上方にまで回動してしまうことを防止できる。
【0048】
以上のようなダクト本体11、可動翼板21、22、ヒンジ31、32およびストッパー41、42、51、52により、冷却ダクト10のルーバー機構が構成される。このルーバー機構では、図3に示すように、可動翼板21、22は、ダクト本体11の内部空間において、ヒンジ31、32の回動軸31a、32aを中心に、自由に搖動することができる。前方可動翼板21と後方可動翼板22は、各々独立して搖動し、ストッパー41、51とストッパー42、52により回動を止められるので、それらの回動範囲は第1位置21A、22Aと第2位置21B、22Bの間に制限される。
【0049】
ヘリコプタ1の飛行時には、冷却ダクト10の外部から前方開口15および上方開口16を通じて冷却ダクト10内に空気流が流入するが、この空気流の流入方向や大きさに応じて、可動翼板21、22は、上記第1位置21A、22Aと第2位置21B、22Bの範囲内で自由に搖動する。
【0050】
このように、本実施形態に係る冷却ダクト10では、アクチュエータ等の別途の動力源を用いずに、ヘリコプタ1の飛行に伴う外部からの空気流の力によって、可動翼板21、22が自動的に搖動する。この際、ヘリコプタ1の飛行状態に応じて、空気流の流入方向や大きさは異なるが、可動翼板21、22は、当該飛行状態ごとの空気流の流入方向や大きさに応じて、適切な位置に回動し、ラジエータ6に向けて空気流を誘導する。
【0051】
例えば、前方可動翼板21が、前方開口15を塞ぐ第1位置21Aに位置したときには、上方開口16を開けて上方開口16から冷却ダクト10内部への空気の流入を誘導しつつ、前方開口15から外部への空気の漏れを抑制できる。一方、可動翼板21、22が、上方開口16を塞ぐ第2位置21B、21Bに位置したときには、前方開口15を開けて前方開口15から冷却ダクト10内部への空気の流入を誘導しつつ、上方開口16から外部への空気の漏れを抑制できる。
【0052】
このように本実施形態に係る冷却ダクト10では、ヘリコプタ1の飛行状態に応じて外部からダクト本体11内に流入する空気流によって、可動翼板21、22が自由に搖動し、上記の第1位置21A、22A、第2位置21B、22B、または第1位置21A、22Aと第2位置21B、22Bとの間の中間位置に自動的に移動する。このように、飛行状態に伴う外部からの空気流に応じて自由に搖動することによって、当該可動翼板21、22が開口15、16を塞ぐ遮蔽板として機能するとともに、冷却ダクト10内で空気流をラジエータ6に向けて誘導する誘導板としても機能することを特徴とする。この特徴について以下に詳述する。
【0053】
[3.飛行状態に応じた冷却ダクトの動作]
次に、図4図6を参照して、本実施形態に係るヘリコプタ1の飛行状態に応じた冷却ダクト10の動作について説明する。
【0054】
以下では、ヘリコプタ1の飛行状態として、(1)ホバリング時(前進速度:例えば、-0.5m/s(後進)~8.0m/s程度)、(2)低速前進時(前進速度:例えば8.0~50.0m/s程度)、(3)高速前進時(前進速度:例えば50.0~80.0m/s程度)の例について説明する。なお、本実施形態に係るヘリコプタ1では、低速前進と高速前進の境界値を50.0m/s程度としたが、ヘリコプタの機種等に応じて当該境界値を適宜変更してもよい。なお、ヘリコプタ1の動作停止時には、前方可動翼板21と後方可動翼板22は、その自重により、第1位置21A、22Aまたはその付近に配置される。
【0055】
(1)ホバリング時
図4は、本実施形態に係るヘリコプタ1のホバリング時における冷却ダクト10と空気流を示す縦断面図である。
【0056】
図4に示すように、ヘリコプタ1のホバリング時には、回転するメインロータ2から下方に向かう空気流60(「ダウンウォッシュ」とも称する。)が、冷却ダクト10の上方開口16から冷却ダクト10内に略上下方向Zに流入する。この空気流60の流入により、前方可動翼板21は、前方開口15を塞ぐ第1位置21Aに回動して、前方ストッパー41に当接し、空気流62の風圧と前方ストッパー41により固定される。一方、後方可動翼板22は、当該空気流60により第1位置22A付近に回動し、その板面が上下方向Zに対して略平行になる。このとき、後方可動翼板22は、空気流62の風圧で前方ストッパー42に当接することもあるし、当該第1位置22A付近で固定されずに、空気流62の風圧により多少搖動することもある。
【0057】
このように前方可動翼板21と後方可動翼板22が配置されることで、冷却ダクト10の上方開口16が開放されるともに、前方可動翼板21により前方開口15が閉塞される。これにより、メインロータ2からの空気流60は、上方開口16から冷却ダクト10内に流入する。この結果、冷却ダクト10内を略下方に進む空気流62が形成され、当該空気流62は、ラジエータ6に導入されて、ラジエータ6内を通過する。
【0058】
このとき、前方可動翼板21により前方開口15が閉塞されているので、当該空気流62が前方開口15から前方に漏れ出すことを抑制できるので、効率よく空気流62をラジエータ6に誘導できる。加えて、後方可動翼板22は、搖動しつつ、空気流62に対して略平行となるように配置される。このため、後方可動翼板22により空気流62の流動を妨げ難いので、さらに効率よく空気流62をラジエータ6に誘導できる。
【0059】
以上のように、ホバリング時には、冷却ダクト10のルーバー機構の可動翼板21、22は、空気流60、62により押圧されて第1位置21A、22A付近に回動する。この結果、冷却ダクト10は、上面のみが開放され(上方開口16)、前面(前方開口15を閉塞する前方可動翼板21)、後面(後面壁14)、および両側面(右側壁12、左側壁13)が閉塞されたダクト形状に変形する。これにより、メインロータ2から下方に向かう空気流60を、ラジエータ6に対して効率よく供給でき、ラジエータ6を効果的に冷却できる。
【0060】
(2)低速前進時
図5は、本実施形態に係るヘリコプタ1の低速前進時における冷却ダクト10と空気流を示す縦断面図である。
【0061】
図5に示すように、ヘリコプタ1の低速前進時には、メインロータ2から下方に向かう空気流(ダウンウォッシュ)と、ヘリコプタ1の前進に伴う機体前方からの空気流とが合流し、斜め上方からの空気流70が、冷却ダクト10の前方開口15と上方開口16の前半部分から、冷却ダクト10内に斜め方向に流入する。
【0062】
この空気流70の流入により、前方可動翼板21は、当該空気流70により第1位置21Aと第2位置21Bの間の中間位置付近に回動して、多少搖動しつつ、その板面が空気流70の進行方向に対して略平行になる。一方、後方可動翼板22は、上方開口16を塞ぐ第2位置22Bに回動して、上方ストッパー52に当接する。そして、後方可動翼板22は、冷却ダクト10の後面壁14の上部付近に形成された高圧部91の圧力と、上方ストッパー52とにより、第2位置22Bに固定される。
【0063】
このように前方可動翼板21と後方可動翼板22が配置されることで、冷却ダクト10の前方開口15と上方開口16の前半部分が開放されるともに、後方可動翼板22により上方開口16の後半部分が閉塞される。これにより、斜め上方からの空気流70は、上方開口16の前半部分と前方開口15から冷却ダクト10内に流入する。この結果、冷却ダクト10内の上部領域を斜め下方に進む空気流71と、冷却ダクト10内の下部領域をラジエータ6に向けて進む空気流72とが形成される。当該空気流72は、ラジエータ6に導入されて、ラジエータ6内を通過する。
【0064】
このとき、後方可動翼板22により上方開口16の後半部分が閉塞されているので、空気流71が上方開口16の後半部分から上方に漏れ出すことを抑制でき、効率よく空気流71、72をラジエータ6に誘導できる。また、後方可動翼板22と後面壁14との間の領域に、吹き溜まりとなる高圧部91が形成されるので、当該高圧部91の圧力により、後方可動翼板22を上方に押圧して第2位置22Bに固定し、上方開口16の後半部分を閉塞した状態を維持できる。加えて、前方可動翼板21は、搖動しつつ、空気流71に対して略平行となるように配置される。このため、前方可動翼板21により空気流71の流動を妨げ難いので、さらに効率よく空気流71、72をラジエータ6に誘導できる。
【0065】
以上のように、低速前進時には、冷却ダクト10のルーバー機構の可動翼板21、22は、メインロータ2から下方に向かう空気流60(図4参照。)と、前進に伴う前方からの空気流とが複合した斜め上方からの空気流70に押圧され、より空気圧の高い方向に押圧される。この結果、冷却ダクト10は、上面の前半部分(上方開口16)および前面(前方開口15)が開放され、上面の後半部分(上方開口16の後半部分を閉塞する後方可動翼板22)、後面(後面壁14)、および両側面(右側壁12、左側壁13)が閉塞されたダクト形状に変形する。これにより、斜め上方からの空気流70を冷却ダクト10内に取り込んで、ラジエータ6に対して効率よく供給でき、ラジエータ6を効果的に冷却できる。この図5の低速前進時であっても、図4のホバリング時と同程度の空気流を、ラジエータ6に送り込むことができる。
【0066】
(3)高速前進時
図6は、本実施形態に係るヘリコプタ1の高速前進時における冷却ダクト10と空気流を示す縦断面図である。
【0067】
図6に示すように、ヘリコプタ1の高速前進時には、メインロータ2から下方に向かう空気流(ダウンウォッシュ)は後方に流され、ヘリコプタ1の高速前進に伴う機体前方からの空気流80が支配的になる。このため前方からの強い空気流80(正面風)が、冷却ダクト10の前方開口15から、冷却ダクト10内に流入する。
【0068】
この強い空気流80の流入により、前方可動翼板21および後方可動翼板22はともに、上方開口16を塞ぐ第2位置21B、22Bに回動して、上方ストッパー51、52に当接する。そして、前方可動翼板21および後方可動翼板22は、冷却ダクト10内の上部領域において後方から中央部付近にかけて形成された高圧部92の圧力と、上方ストッパー51、52とにより、第2位置21B、22Bに固定される。
【0069】
このように前方可動翼板21と後方可動翼板22が配置されることで、冷却ダクト10の前方開口15が完全に開放されるとともに、前方可動翼板21および後方可動翼板22により上方開口16の全てが閉塞される。これにより、前方からの空気流80は、前方開口15から冷却ダクト10内に流入する。この結果、冷却ダクト10内の前方領域を略後方に進む空気流81と、冷却ダクト10内の下部領域をラジエータ6に向けて進む空気流82とが形成される。当該空気流82は、ラジエータ6に導入されて、ラジエータ6内を通過する。
【0070】
このとき、前方可動翼板21および後方可動翼板22により上方開口16が閉塞されているので、空気流81が上方開口16から上方に漏れ出すことを抑制でき、効率よく空気流81、82をラジエータ6に誘導できる。また、冷却ダクト10内の上部領域に、吹き溜まりとなる高圧部92が形成されるので、当該高圧部92の圧力により、前方可動翼板21および後方可動翼板22を押圧して第2位置21B、22Bに固定し、上方開口16を閉塞した状態を維持できる。
【0071】
以上のように、高速前進時には、冷却ダクト10のルーバー機構の可動翼板21、22は、前方からの空気流80、81に押圧されて第2位置21B、22Bに回動する。この結果、冷却ダクト10は、前面(前方開口15)のみが開放され、上面(上方開口16を閉塞する前方可動翼板21および後方可動翼板22)、後面(後面壁14)、および両側面(右側壁12、左側壁13)が閉塞されたダクト形状に変形する。これにより、前方からの空気流80(正面風)を冷却ダクト10内に取り込んで、ラジエータ6に対して効率よく供給でき、ラジエータ6を効果的に冷却できる。この図6の高速前進時には、図4のホバリング時よりも多くの空気流を、ラジエータ6に送り込むことができる。
【0072】
[4.まとめ]
以上のように、本実施形態に係る冷却ダクト10のルーバー機構は、ヘリコプタ1の機体を基準としてダクト本体11の左右両側面および後面側を、空気を遮断する壁12、13、14で覆い、かつ、空気流により容易に搖動可能な可動翼板21、22を、ヒンジ31、32により回動自在に軸設し、可動翼板21、22の回動角度を制限する複数のストッパー41、42、51、52を設置した構造である。
【0073】
かかるルーバー機構によれば、図4図6に示したように、ヘリコプタ1の飛行状態に応じた空気流60、70、80により、可動翼板21、22が適切な回動角度になるように自動的に回動する。これにより、冷却ダクト10は、飛行状態に応じた適切なルーバー形状となるように変形するので、ラジエータ6の空冷に必要な空気流をラジエータ6に対して効率的に導入できる。従って、ヘリコプタ1のホバリング時にも、低速前進時および高速前進時にも、ラジエータ6の空冷に必要な空気流を自動的に供給し続けることができるので、飛行状態に関わらずラジエータ6の冷却効果を確保することができる。よって、ヘリコプタ1の機体前部における、ラジエータ6や冷却ダクト10等の空冷機構の設置位置の自由度を向上できる。
【0074】
さらに、本実施形態に係る冷却ダクト10によれば、可動翼板21、22を回動させるためのアクチュエータ等の駆動装置や、そのための制御装置、センサ等を設ける必要がない。従って、ラジエータ6の空冷機構の重量や部品数を低減して、空冷機構を簡素化、軽量化できる。よって、ヘリコプタ1の重量や製造コスト、ランニングコストを低減することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る冷却ダクト10によれば、複数枚の可動翼板21、22が前後方向Xに並んで設けられている。これにより、ヘリコプタ1の飛行状態に応じて、複数枚の可動翼板21、22が別個独立的に回動して適切な位置に配置される。従って、可動翼板が1枚の場合と比べて、より効率的に空気流をラジエータ6に供給できる。
【0076】
また、ヘリコプタ1の前進時には、その前進速度に応じて、機体前方から後方に向かう空気流70、80の強さが変化する。本実施形態によれば、図5および図6に示したように、機体前方から後方に向かう空気流70、80の強さに応じて、前方可動翼板21は、上記第1位置21Aと第2位置21Bの間の中間位置、または第2位置21Bに回動する。これにより、ヘリコプタ1の前進速度に応じても、冷却ダクト10のルーバー機構は、適切な形状に変化するので、前進速度に関わらず、必要な空気流を効率的にラジエータ6に導入できる。
【0077】
[5.他の実施形態]
次に、本発明の他の実施形態に係る冷却ダクト10について説明する。上記第1の実施形態では、冷却ダクト10のルーバー機構の可動翼板21、22の設置数は2枚であったが、本発明の可動翼板の枚数や大きさは、かかる例に限定されない。例えば、図7に示すように1枚の可動翼板24を設置してもよいし、図8に示すように3枚以上の可動翼板21、22、23を設置してもよい。
【0078】
まず、図7を参照して、第2の実施形態に係る冷却ダクト10について説明する。図7は、第2の実施形態に係るヘリコプタ1の低速前進時における冷却ダクト10と空気流を示す縦断面図である。
【0079】
図7に示すように、第2の実施形態に係る冷却ダクト10は、右側壁12、左側壁13及び後面壁14からなるダクト本体11内に、1枚の可動翼板24を備える。可動翼板24は、ダクト本体11の上部における前端付近に設けられたヒンジ34により軸支され、回動軸34aを中心に回動自在である。ダクト本体11の前方開口15および上方開口16は、可動翼板24と同程度の開口面積に調整されている。前方開口15の下部側に前方ストッパー41が設けられ、上方開口16の後部側に上方ストッパー51が設けられている。可動翼板24は、前方開口15を塞ぐ第1位置24Aと、上方開口16を塞ぐ第2位置24Bとの間で回動自在である。
【0080】
可動翼板24は、ヘリコプタ1の飛行状態に応じて、外部からの空気流により、上記第1位置24Aと第2位置24Bの間で自由に搖動して、適切な位置に配置され、空気流をラジエータ6に誘導する。例えば、ホバリング時には、可動翼板24は、第1位置24Aに配置されて前方開口15を塞ぐので、上方からの空気流が効率よくラジエータ6に導入される。また、図7に示すように、低速前進時には、可動翼板24は、第1位置24Aと第2位置24Bの中間位置に配置されて、斜め上方からの空気流70に対して略平行に配置される。これにより、斜め上方からの空気流70が効率よくラジエータ6に導入される。また、高速前進時には、可動翼板24は、第2位置24Bに配置されて上方開口16を塞ぐので、前方からの空気流が効率よくラジエータ6に導入される。
【0081】
以上、第2の実施形態に係る冷却ダクト10の構成を説明した。かかる構成により、上記第1の実施形態と同様に、ヘリコプタ1の飛行状態に応じた空気流により、1枚の可動翼板24が適切な回動角度になるように自動的に回動する。従って、飛行状態に応じて、外部からの空気流をラジエータ6に対して効率的に導入でき、ラジエータ6の冷却効果を確保できる。
【0082】
ところで、ラジエータ6の上面積が小さい場合には、比較的小さい冷却ダクト10および1枚の可動翼板24で対応できるので、第2の実施形態に係る冷却ダクト10は、有効である。一方、ラジエータ6の上面積が大きい場合には、1枚の可動翼板24のみを備えた冷却ダクト10の上下方向Zの高さが高くなってしまい、冷却ダクト10がメインロータ2に干渉する可能性がある。従って、ラジエータ6の上面積が所定より大きい場合には、上記第1の実施形態のように複数枚の可動翼板21、22を備えた冷却ダクト10を設けることが好ましい。これにより、冷却ダクト10の上下方向Zの高さを抑制でき、冷却ダクト10の設置位置やスペースの自由度を向上できる。
【0083】
次に、図8を参照して、第3の実施形態に係る冷却ダクト10について説明する。図8は、第3の実施形態に係るヘリコプタ1の低速前進時における冷却ダクト10と空気流を示す縦断面図である。
【0084】
図8に示すように、第3の実施形態に係る冷却ダクト10は、3枚の可動翼板21、22、23を備えたルーバー機構を有する。具体的には、第3の実施形態に係る冷却ダクト10は、上記第1の実施形態に係る冷却ダクト10に対して、中間可動翼板23、中間ヒンジ33、前方ストッパー43および上方ストッパー53が追加設置されている。
【0085】
中間可動翼板23は、前述の前方可動翼板21と後方可動翼板22の間に配置され、中間ヒンジ33により軸支され、中間ヒンジ33の回動軸33aを中心に回動自在に設けられる。さらに、中間可動翼板23の回動範囲を第1位置23Aと第2位置23Bの間に制限するために、前方ストッパー43および上方ストッパー53が設けられている。
【0086】
このように、第3の実施形態に係る冷却ダクト10によっても、上記第1の実施形態と同様に、ヘリコプタ1の飛行状態に応じた空気流により、3枚の可動翼板21、22、23が、別個独立して適切な回動角度になるように自動的に回動する。従って、飛行状態に応じて、外部からの空気流をラジエータ6に対して効率的に導入でき、ラジエータ6の冷却効果を確保できる。
【0087】
さらに、第3の実施形態では、図8に示すように低速前進時において、空気流70の流入方向や強さに応じて、前方可動翼板21と中間可動翼板23と後方可動翼板22の回動角度を、別個独立して適切な角度に自動的に調整することができる。これにより、第1の実施形態よりもさらに効率的に、冷却ダクト10内における空気流71、72の流動を誘導して、ラジエータ6に対して効率よく導入させることができる。
【0088】
また、ラジエータ6が前後方向Xに長く、上面積が大きい場合にも、第3の実施形態に係る3枚の可動翼板21、22、23の冷却ダクト10を用いれば、冷却ダクト10の上下方向Zの高さを抑制できるので、有用である。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0090】
例えば、上記実施形態では、図2および図3に示したように、冷却ダクト10の下面側にラジエータ6を配置し、冷却ダクト10の両側面および後面に壁12、13、14を設け、下面側に下方開口17を設けたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、冷却ダクトの後面側に、ラジエータ、オイルクーラー等の冷却対象装置を配置してもよい。この場合、冷却ダクトの両側面および下面に壁を設け、後面側に後方開口を設けることにより、冷却ダクト内の空気が後面側の冷却対象装置に向かうようにすればよい。
【0091】
例えば、上記実施形態では、可動翼板21、22、23は、ヒンジ31、32、33の回動軸31a、32a、33aを中心に自由に回動自在であると説明した。しかし、例えば、可動翼板と干渉するダンパ、または摩擦等により、可動翼板の回動がある程度抑制されるようにしてもよい。これにより、可動翼板の過度な揺動を抑制して、可動翼板の破損を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、ラジエータ等の冷却対象装置を備えるヘリコプタに利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 ヘリコプタ
2 メインロータ
6 ラジエータ
7 ボディカバー
10 冷却ダクト
11 ダクト本体
12 右側壁
13 左側壁
14 後面壁
15 前方開口
16 上方開口
17 下方開口
21 前方可動翼板
22 後方可動翼板
23 中間可動翼板
24 可動翼板
21A、22A、23A、24A 第1位置
21B、22B、23B、24B 第2位置
31 前方ヒンジ
32 後方ヒンジ
33 中間ヒンジ
34 ヒンジ
41、42、43 前方ストッパー
51、52、53 上方ストッパー
60 上方からの空気流
70 斜め上方からの空気流
80 前方からの空気流
91、92 高圧部
X 機体前後方向
Y 機体左右方向
Z 機体上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8