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特許7235584自走ユニット,検査システムおよび検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】自走ユニット,検査システムおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20230301BHJP
   B61B 7/06 20060101ALI20230301BHJP
   B61B 7/04 20060101ALI20230301BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20230301BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G01N27/83
B61B7/06
B61B7/04
H02G1/06
H02G1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019088171
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020183897
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】福山 勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小原澤 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純夫
(72)【発明者】
【氏名】椎木 貞則
(72)【発明者】
【氏名】橋目 佑太
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-122368(JP,A)
【文献】特開2003-057209(JP,A)
【文献】特開2013-245496(JP,A)
【文献】特開2007-286026(JP,A)
【文献】特開平01-094122(JP,A)
【文献】米国特許第04165254(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01N 21/84 - G01N 21/958
B61B 7/04
B61B 7/06
H02G 1/02
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体の周囲に取り付けられ,上記線条体に向けて押し付けられるタイヤおよび上記タイヤを回転駆動するモータを備える登攀装置,
上記登攀装置に固定され,上記登攀装置を上記線条体に解除可能に静止させるブレーキ装置
上記登攀装置に固定され,牽引ロープが掛けられるシーブ,ならびに
上記線条体の長手方向に所定間隔をあけて上記線条体を取り囲むようにして設けられる一対の連結プレートを備え,
上記一対の連結プレートに複数の上記登攀装置が等角度間隔に固定されており,
上記連結プレートのそれぞれが,一対の半連結プレートと一対の半連結プレートの両端部同士を接続する一対のばね部材とを備え,
上記ばね部材によって上記連結プレートが上記線条体に向けて締め付けられる,
自走ユニット。
【請求項2】
上記一対の連結プレートの一方に上記ブレーキ装置が,上記一対の連結プレートの他方に上記シーブが,それぞれ固定されている,
請求項に記載の自走ユニット。
【請求項3】
上記一方の連結プレートに複数の上記ブレーキ装置が等角度間隔に固定されている,
請求項に記載の自走ユニット。
【請求項4】
線条体の周囲に取り付けられ,上記線条体に向けて押し付けられるタイヤおよび上記タイヤを回転駆動するモータを備える登攀装置,上記登攀装置に固定され,上記登攀装置を上記線条体に解除可能に静止させるブレーキ装置,上記登攀装置に固定され,牽引ロープが掛けられるシーブ,ならびに上記線条体の長手方向に所定間隔をあけて上記線条体を取り囲むようにして設けられる一対の連結プレートを備える自走ユニットと,
上記線条体が通る中心孔が形成された円筒状の形状を有し,上記線条体を磁化する磁化器および磁化器によって磁化される線条体の磁束の時間変化を検出するサーチコイルを備える全磁束測定器と,
上記自走ユニットの上記シーブに掛けられ,かつ先端が上記全磁束測定器に固定される牽引ロープと,を備え,
上記自走ユニットの上記一対の連結プレートに複数の上記登攀装置が等角度間隔に固定されており,
上記連結プレートのそれぞれが,一対の半連結プレートと一対の半連結プレートの両端部同士を接続する一対のばね部材とを備え,
上記ばね部材によって上記連結プレートが上記線条体に向けて締め付けられる,
検査システム。
【請求項5】
上記牽引ロープを一定速度で巻き取るウインチを備えている,
請求項に記載の検査システム。
【請求項6】
線条体に向けて押し付けられるタイヤおよび上記タイヤを回転駆動するモータを備える登攀装置,上記登攀装置に固定され,上記登攀装置を上記線条体に解除可能に静止させるブレーキ装置,上記登攀装置に固定され,牽引ロープが掛けられるシーブ,ならびに上記線条体の長手方向に所定間隔をあけて上記線条体を取り囲むようにして設けられる一対の連結プレートを備え,上記一対の連結プレートに複数の上記登攀装置が等角度間隔に固定されており,上記連結プレートのそれぞれが,一対の半連結プレートと一対の半連結プレートの両端部同士を接続する一対のばね部材とを備え,上記ばね部材によって上記連結プレートが上記線条体に向けて締め付けられる,そのような自走ユニットを,上記線条体の一部を取り囲むように取り付け,
上記線条体を磁化する磁化器および磁化器によって磁化される線条体の磁束の時間変化を検出するサーチコイルを備える全磁束測定器を,上記線条体の一部を取り囲むように取り付け,
上記自走ユニットのシーブに牽引ロープを掛け,シーブに掛けられた牽引ロープの先端を上記全磁束測定器に固定し,
上記牽引ロープを繰り出しながら上記自走ユニットを線条体に沿って登攀させ,上記自走ユニットが上記線条体の上端部に達したときに,上記ブレーキ装置を作動させて上記自走ユニットを上記線条体の上端部に静止させ,
上記シーブに掛けられた牽引ロープの他端を巻き取ることによって,牽引ロープの先端に固定された上記全磁束測定器を上記線条体に沿って上記シーブに向けて移動させる,
検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,斜張橋,吊り橋,クレーンなどにおいて用いられている,地上(橋桁)と高所とを斜めにまたは垂直に結ぶケーブル(ロープ)を現場において検査するために用いられる自走ユニットに関する。この発明はまた,上記自走ユニットを備える検査システムおよび検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜張橋,吊り橋,クレーンなどに用いられる金属製,特に鋼製ケーブル(ロープ)は屋外において風雨にさらされる。海岸付近では塩水の影響を受け,工業地帯では亜硫酸の影響を受ける。このためケーブルを現場において定期的に検査することが求められる。
【0003】
特許文献1は,架空線上を移動自在のクローラ,クローラを駆動するモータ,架空線を撮影するビデオカメラ等を備える検査装置を開示する。架空線上を自走するビデオカメラによって架空線が撮影される。画像データは遠隔の制御装置に送出されてモニタにリアルタイムに表示される。
【0004】
特許文献1に記載のものは,架空線を検査(撮影)する検査装置(ビデオカメラ)と,検査装置を自走させるための走行装置(クローラ)とを一体にし,検査装置それ自体を自走させるものである。検査装置および走行装置の両方の自重を支えながら架空線上を走行させるためには強力な駆動力を必要とする。強力な駆動力を発生させる走行装置は,多くの場合,ケーブル径(ロープ径)ごとに設計をする必要がある。また,大型モータが必要となるから走行装置の大型化や大重量化を避けることができない。測定精度向上のための装置(たとえば検査装置(走行装置)の走行速度や姿勢を一定にするための速度センサ,角度センサ等)が必要となれば,さらに重量が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-60286号公報
【発明の開示】
【0006】
この発明は,大型の走行装置を必要とせずに検査装置を検査対象ケーブル(ロープ)に沿って高所にまで移動させることができるようにすることを目的とする。
【0007】
この発明はまた,危険な高所作業を不要にすることを目的とする。
【0008】
この発明はさらに,様々な直径のケーブルに利用可能な走行装置を提供することを目的とする。
【0009】
この発明による自走ユニットは,線条体の周囲に取り付けられ,上記線条体に向けて押し付けられるタイヤおよび上記タイヤを回転駆動するモータを備える登攀装置,上記登攀装置に固定され,上記登攀装置を上記線条体に解除可能に静止させるブレーキ装置,ならびに上記登攀装置に固定され,牽引ロープが掛けられるシーブを備えている。
【0010】
この発明は,上記自走ユニットを含む検査システム(検査キット)も提供する。この発明による検査システムは,線条体の周囲に取り付けられ,上記線条体に向けて押し付けられるタイヤおよび上記タイヤを回転駆動するモータを備える登攀装置,上記登攀装置に固定され,上記登攀装置を上記線条体に解除可能に静止させるブレーキ装置,ならびに上記登攀装置に固定され,牽引ロープが掛けられるシーブを備える自走ユニットと,上記線条体が通る中心孔が形成された円筒状の形状を有し,上記線条体を磁化する磁化器および磁化器によって磁化される線条体の磁束の時間変化を検出するサーチコイルを備える全磁束測定器と,上記自走ユニットの上記シーブに掛けられ,かつ先端が上記全磁束測定器に固定される牽引ロープと,を備えている。
【0011】
この発明によると,はじめに自走ユニットを線条体の上端部にまで登攀させることでシーブを線条体の上端部に運び,線条体の上端部においてブレーキ装置を作動することによって自走ユニット(シーブ)を静止させることができる。シーブに掛けられた牽引ロープを地上で引っ張ることで,牽引ロープの先端に固定され,中心孔に線条体が通された円筒状の全磁束測定器を,線条体に沿って,線条体の上端部(シーブの固定位置)にまで移動させることができる。自走ユニットには全磁束測定器は搭載されず,したがって小さな駆動力のもとで線条体に沿って自走ユニットを登攀させることができる。自走ユニットの小型化が実現される。
【0012】
好ましくは,自走ユニットは,上記線条体の長手方向に所定間隔をあけて,上記線条体を取り囲むようにして設けられる一対の連結プレートを備え,上記一対の連結プレートに複数の上記登攀装置が等角度間隔に固定されている。線条体を取り囲む連結プレートを用いることで複数の登攀装置を線条体の周囲に等角度間隔でバランスよく配置することができ,自走ユニットを走行させる(登攀させる)ためのタイヤを線条体の周囲にバランスよく配置することができる。また,直径の異なる連結プレートを用意することによって様々な直径のケーブルに対して共通の自走ユニットを利用することができる。
【0013】
好ましくは,上記連結プレートが,一対の半連結プレートと一対の半連結プレートの両端部を接続する一対のばね部材とを備え,上記ばね部材によって上記連結プレートが上記線条体に向けて締め付けられる。半連結プレートの両端部のばね部材によって連結プレートが線条体に向けて付勢されることで締め付けられ,これによって連結プレートに固定された登攀装置のタイヤを線条体にしっかりと押し付けることができる。タイヤをスリップさせることなく,自走ユニットを,線条体に沿ってスムーズに登攀させることができる。
【0014】
一実施態様では,上記一対の連結プレートの一方に上記ブレーキ装置が,上記一対の連結プレートの他方に上記シーブが,それぞれ固定されている。登攀装置,ブレーキ装置およびシーブを,検査対象の線状体の直径に応じた大きさの連結プレートに固定することによって,検査対象の線条体の直径に適合する自走ユニットを組み立てることができる。
【0015】
好ましくは,上記一方の連結プレートに複数の上記ブレーキ装置が等角度間隔に固定されている。線条体の周囲に等角度間隔に設けられるブレーキ装置を作動させることによって,シーブに強い力が加わったとしても,自走ユニットを,脱落させることなくしっかりと線条体に静止(固定)させ続けることができる。
【0016】
好ましくは,上記検査システムは,上記牽引ロープを一定速度で巻き取るウインチを備えている。全磁束測定器を線条体に沿って一定速度で移動させることができるので,安定した検出信号をサーチコイルから出力させることができる。
【0017】
この発明による検査方法は,線条体に向けて押し付けられるタイヤおよび上記タイヤを回転駆動するモータを備える登攀装置,上記登攀装置に固定され,上記登攀装置を上記線条体に解除可能に静止させるブレーキ装置,ならびに上記登攀装置に固定され,牽引ロープが掛けられるシーブを備える自走ユニットを,上記線条体の一部を取り囲むように取り付け,上記線条体を磁化する磁化器および磁化器によって磁化される線条体の磁束の時間変化を検出するサーチコイルを備える全磁束測定器を,上記線条体の一部を取り囲むように取り付け,上記自走ユニットのシーブに牽引ロープを掛け,シーブに掛けられた牽引ロープの先端を上記全磁束測定器に固定し,上記牽引ロープを繰り出しながら上記自走ユニットを線条体に沿って登攀させ,上記自走ユニットが上記線条体の上端部に達したときに,上記ブレーキ装置を作動させて上記自走ユニットを上記線条体の上端部に静止させ,上記シーブに掛けられた牽引ロープの他端を巻き取ることによって,牽引ロープの先端に固定された上記全磁束測定器を上記線条体に沿って上記シーブに向けて移動させるものである。
【0018】
はじめに自走ユニットによってシーブを線条体の上端部にまで運んでそこで静止(固定)させ,その後にシーブに掛けられた牽引ロープを引っ張ることによって,全磁束測定器を線条体に沿って移動させて線条体を検査することができる。自走ユニットは検査装置(全磁束測定器)を搭載しないので,軽く,小型のものとすることができる。また,自走ユニットによってシーブは線条体の上端部にまで運ばれて静止(固定)されるので,人手によってシーブを線条体の上端部にまで運んで固定する必要もなく,危険な高所作業を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】斜張橋を概略的に示している。
図2】吊り橋を概略的に示している。
図3】(A)および(B)はケーブルの検査工程を概略的に示す。
図4】ケーブルの検査工程を概略的に示す。
図5】自走ユニットの斜視図である。
図6図5のIV-IV線に沿う端面図である。
図7】登攀装置の平面図である。
図8】(A)はブレーキ装置の平面図を,(B)は(A)に示すブレーキ装置のB-B線に沿う端面図を,(C)はブレーキ装置の左側面図を,それぞれ示す。
図9】(A)および(B)は変形例のブレーキ装置を,図6に沿う方向から見たものである。
図10】(A)および(B)はさらに変形例のブレーキ装置を,図6に沿う方向から見たものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は,河川または海峡の両岸に掛け渡された斜張橋の一部を概略的に示す正面図であり,斜張橋の斜材ケーブルを検査する様子を概略的に示すものである。斜張橋は,立設された塔2と,両岸に掛け渡される橋桁1と,複数本の斜材ケーブル3とから構成される。塔2は,橋桁1の両サイドのそれぞれに立設されており(図1では一方サイドの塔2が図示されている),一方サイドおよび他方サイドの2本の塔2の間を橋桁1が通っている。塔2から橋桁1にかけて,塔2の左右のそれぞれにおいて,複数本の斜材ケーブル3が斜めに張設されている。斜材ケーブル3は,その一端が塔2に,他端が橋桁1にそれぞれ固定される。塔2の左右に斜めに張られる複数本の斜材ケーブル3によって橋桁1がバランスよく吊られる。
【0021】
斜張橋の橋桁1を吊る斜材ケーブル3が検査装置5によって検査される。この実施例において検査装置5は可搬型全磁束測定器であり,検査対象の鋼製の斜材ケーブル3を通る磁束(全磁束)に基づく測定値が用いられて,腐食または摩耗に起因する斜材ケーブル3の欠損断面積が測定される。全磁束測定器5は,間隔をあけて配置された一対の磁石(磁化器)と,一対の磁石の間に配置され,斜材ケーブル3を取巻くように設けられるサーチコイルを含む。全磁束測定器5が静止しているときにサーチコイルからの出力はなく,検査をするときには全磁束測定器5を斜材ケーブル3に沿って移動させる。断面積が小さい斜材ケーブル3の部分,すなわち,腐食または摩耗が発生している部分をサーチコイルが通過すると,斜材ケーブル3の磁束の時間変化が誘導起電力としてサーチコイルに発生する。サーチコイルに発生する誘導起電力の時間積分値に基づいて,磁束減少量,すなわち断面積の減少量を知ることができる。全磁束測定器5(サーチコイルから出力される検査信号)を用いることによって,斜材ケーブル3の腐食または摩耗を定量的に測定でき,斜材ケーブル3の健全性を評価することができる。
【0022】
検査装置(全磁束測定器)5には,2つの半円筒部材がヒンジによって連結され,中心に円筒状の中心孔を備えるものが用いられる。斜材ケーブル3に検査装置5を被せることによって検査装置5の中心孔に斜材ケーブル3が通される。
【0023】
斜材ケーブル3の上端部分には,ウインチ7から繰り出された牽引ロープ6が掛けられたシーブ31が,後述する自走ユニット4を介して静止(固定)されている。シーブ31にかけられた牽引ロープ6の先端は検査装置5に固定されている。ウインチ7を用いて牽引ロープ6を巻き取ると,検査装置5は斜材ケーブル3に沿って次第に登攀する。牽引ロープ6を所定速度で巻き取ることによって,検査装置5を斜材ケーブル3に沿って所定速度で登攀させることができ,斜材ケーブル3のほぼ全長を精度よく検査する(上述したサーチコイルからの検査信号を記録する)ことができる。
【0024】
図3(A),(B)および図4を参照して,検査装置5を用いた斜材ケーブル3の検査運用方法を詳細に説明する。
【0025】
図3(A)を参照して,はじめに斜材ケーブル3に,シーブ31を備える自走ユニット4と,検査装置5とを取り付ける。ウインチ7から繰り出した牽引ロープ6をシーブ31に掛け,その先端を検査装置5に固定する。フック等を用いて牽引ロープ6の先端を検査装置5に固定(接続)してもよいし,牽引ロープ6の先端を検査装置5(たとえばその突起部分)に単に結びつけてもよい。
【0026】
後述するように自走ユニット4はモータ駆動のタイヤを備え,斜材ケーブル3にタイヤが押し付けられるようにして,斜材ケーブル3の周囲に取り付けられる。モータを回転駆動させてタイヤに回転力を伝達すると,自走ユニット4は斜材ケーブル3に沿って走行をはじめ,斜材ケーブル3を登攀する。
【0027】
図3(B)を参照して,自走ユニット4を斜材ケーブル3に沿って登攀させるときにはウインチ7から牽引ロープ6を繰り出す。シーブ31とともに牽引ロープ6も斜材ケーブル3に沿って上方に運ばれる。
【0028】
自走ユニット4はブレーキ装置を備えている(詳しくは後述する)。自走ユニット4が斜材ケーブル3の上端部分に到達すると,自走のためのモータ駆動が停止されかつブレーキ装置が作動される。これによって自走ユニット4は斜材ケーブル3の上端部分にしっかりと静止する。このようにシーブ31は自走ユニット4によって斜材ケーブル3の上端部分にまで運ばれるので,シーブ31を斜材ケーブル3の上端部分に固定するために,橋桁1の車線を封鎖したり,足場を組んでその足場を登って作業者が斜材ケーブル3の上端部分にシーブ31を運んで固定したりする必要はない。作業員に高所作業を行わせることなく,シーブ31を斜材ケーブル3の上端部分に静止(固定)することができる。
【0029】
図4を参照して,ウインチ7を用いて牽引ロープ6を巻き取ると,検査装置5が引っ張り上げられ,検査装置5は斜材ケーブル3に沿って次第に登攀する。上述したように,検査装置(全磁束測定器)5を斜材ケーブル3に沿って一定速度で移動させることで,検査装置5が備えるサーチコイルから安定した検査信号を出力させることができる。サーチコイルの検査信号は有線または無線で記憶装置(図示略)に記憶される。サーチコイルの検査信号を記憶する記憶装置(メモリカード等)は検査装置5に設けてもよいし,検査装置5に有線または無線で接続される別のコンピュータ装置(図示略)に設けてもよい。
【0030】
斜材ケーブル3の検査(斜材ケーブル3のほぼ全長にわたる検査装置5の移動)を終えた後に,ウインチ7から牽引ロープ6が送り出される。検査装置5は斜材ケーブル3に沿って橋桁1にまで次第に降ろされる。その後,自走ユニット4のブレーキ装置が解除されかつ自走ユニット4を逆走させることによって,自走ユニット4も橋桁1にまで次第に降ろされる。検査装置5および自走ユニット4を斜材ケーブル3から取り外し,別のケーブル3に取り付ける。同様にして別のケーブル3の検査が行われる。
【0031】
図2は河川または海峡の両岸に掛け渡された吊り橋の一部を概略的に示す正面図であり,吊り橋のハンガーケーブルを検査する様子を概略的に示すものである。図2に示す吊り橋も,立設された塔2と両岸に掛け渡される橋桁1とを含む。斜張橋と異なり,吊り橋では,間隔をあけて立設された塔2の間にメインケーブル3Aが架設され,メインケーブル3Aから多数本のハンガーケーブル3Bが互いに間隔をあけて垂下される。多数本のハンガーケーブル3Bによって橋桁1の両側部が吊られる。
【0032】
吊り橋のハンガーケーブル3Bの検査にも,上述したシーブ31を備える自走ユニット4,検査装置5,牽引ロープ6およびウインチ7を用いることができる。
【0033】
図5は自走ユニット4の斜視図を示している。図6図5のVI-VI線に沿う自走ユニット4の正面図である。
【0034】
図5を参照して,自走ユニット4は,登攀装置10と,登攀装置10の一端に固定されたブレーキ装置20と,登攀装置10の他端に固定されたシーブ装置30とを備えている。図6を参照して,自走ユニット4は,3組の登攀装置10およびブレーキ装置20を備えるもので,3組の登攀装置10およびブレーキ装置20が,斜材ケーブル3の周囲に等角度間隔( 120°間隔)に設けられる。図5においては,分かりやすくするために,3組の登攀装置10およびブレーキ装置20のうちの2組の図示が省略して示されており,1組の登攀装置10およびブレーキ装置20のみが示されている。
【0035】
自走ユニット4は,検査対象の斜材ケーブル3の長手方向の向きに所定間隔をあけて設けられた環状の2つの連結プレート41,42を備え,連結プレート41,42の中央の円形の中空46に斜材ケーブル3が非接触に通されている。連結プレート41,42は,厚さの薄い一対(2つ)の半連結プレートと,2つの半連結プレートの両端部を接続する一対のばね部材44とを備えている。2つの半連結プレートを組み合わせて斜材ケーブル3を包囲することによって,連結プレート41,42の中空46に斜材ケーブル3を通すことができる。半連結プレートの両端部を接続するばね部材44は,一対の半連結プレートの両端部を接続して連結プレート41,42にするとともに,連結プレート41,42を斜材ケーブル3に向けて締め付けて,連結プレート41,42に固定される登攀装置10(登攀装置10のゴムタイヤ12)を斜材ケーブル3にしっかり押付けるように機能する。
【0036】
連結プレート41,42の直径は,斜材ケーブル3の直径にあわせて任意に設計することができる。直径の異なる複数の連結プレート41,42を用意しておき,連結プレート41,42を斜材ケーブル3の直径にあわせて交換することによって,様々な直径の斜材ケーブル3に自走ユニット4を利用することができる。直径の異なる斜材ケーブル3ごとに自走ユニット4を専用設計する手間を省くことができる。
【0037】
連結プレート41,42には,等角度間隔に配置され,斜材ケーブル3の長手方向に沿って延びる細長い3本の連結棒43の両端部がそれぞれ固定されている。登攀装置10は2つの連結プレート41,42の内面側にそれぞれ固定される。ブレーキ装置20は一方の連結プレート41の外面側に,シーブ装置30は他方の連結プレート42の外面側に,それぞれ固定される。連結プレート41,42の周面には複数の弧状の貫通孔45Aがあけられており,この貫通孔45Aに通されるねじ部材(図示略)によって,登攀装置10,ブレーキ装置20およびシーブ装置30を連結プレート41,42にそれぞれ固定することができる。連結プレート41,42と登攀装置10,ブレーキ装置20およびシーブ装置30のそれぞれとの間には,ねじ穴付の連結ブロック(板材)を介在させてもよい。
【0038】
図5および図6を参照して,シーブ装置30は,シーブ31と,シーブ31を回転可能に支持するフレーム32と,フレーム32の下端に回転可能に取り付けられた車輪33を備えている。車輪33が斜材ケーブル3の表面に接しており,シーブ装置30は斜材ケーブル3上をスムーズに移動する。フレーム32によって斜材ケーブル3からやや距離が離れた位置にシーブ31を配置することによって,シーブ31に掛けられる牽引ロープ6が自走ユニット4に絡まったりすること等が未然に防止される。
【0039】
図7は自走ユニット4を構成する登攀装置10の平面図である。
【0040】
図5および図7を参照して,登攀装置10は,同一構造の2つの走行装置10A,10Bをフレーム11によって直列に配列した構造を持つ。各走行装置10A,10Bは,DCモータ13と,2つのゴムタイヤ12とを備えている。DCモータ13の回転軸には2段ピニオンギア15が,2つのゴムタイヤ12の回転軸のそれぞれにはスプロケット16が固定されている。2段ピニオンギア15と,2つのゴムタイヤ12のそれぞれの回転軸に固定されたスプロケット16にはチェーン14A,14Bが掛けられている。DCモータ13の回転軸が回転すると,その回転力が2段ピニオンギア15およびチェーン14,14Bを介してスプロケット16に伝達され,スプロケット16が回転することによって2つのゴムタイヤ12が回転する。
【0041】
上述したように,自走ユニット4は,斜材ケーブル3の周囲に 120°の等角度間隔に配置された3つの登攀装置10を備えているので(図6),各登攀装置10のゴムタイヤ12を,斜材ケーブル3に向けてしっかりと押し付けることができる。自走ユニット4全体には合計6つのDCモータ13と合計12個のゴムタイヤ12とが含まれる。6つのDCモータ13のそれぞれには電源ケーブル(図示略)が接続され,地上側に用意される電源ユニット(バッテリ)から電源ケーブルを通じて各DCモータ13に電源が供給される。また,地上側にはすべてのDCモータ13のオン/オフ,回転方向および回転速度を同期制御するコントローラ(図示略)が用意され,これによって自走ユニット4は遠隔操作される。
【0042】
図8(A)はブレーキ装置20の平面図を,図8(B)は図8(A)のB-B線に沿うブレーキ装置20の端面図を,図8(C)はブレーキ装置20の左側面図を,それぞれ示している。
【0043】
図5および図8(A)~(C)を参照して,ブレーキ装置20はDCモータ21および偏心カム23を備えるカム装置20Aと,カム装置20Aの下面側(斜材ケーブル3側)に設けられたブレーキパッド部20Bとを備えている。
【0044】
カム装置20Aは,互いに平行に設けられた一対の壁板27と,一対の壁板27の両側部間に設けられた一対の台座25Bとを備え,一対の壁板27の間にDCモータ21および偏心カム23が挟まれている。DCモータ21の回転軸および偏心カム23の回転軸は一方の壁板27を通されている。壁板27の外側において,DCモータ21の回転軸には小径ギア22が,偏心カム23の回転軸には大径ギア24がそれぞれ固定されており,これらが噛み合わされている。DCモータ21の回転軸の回転は小径ギア22から大径ギア24に伝達され,これによって偏心カム23が回転する。
【0045】
カム装置20Aの台座25Bの上面にばね部材25Aが設けられており,ばね部材25Aの中にピストンバー28が通されている。ピストンバー28の頭部28Aがばね部材25Aの上端に掛けられており,これによってばね部材25Aはピストンバー28の頭部28Aと台座25Bとの間に挟まれている。ピストンバー28の下端は台座25Bを通ってカム装置20Aの下面から外に出ており,カム装置20Aの下面から外に出たピストンバー28の下端にブレーキパッド部20Bが固定されている。
【0046】
ブレーキパッド部20Bはパッド固定板29とブレーキパッド26を備え,2本のピストンバー28はパッド固定板29の上面に固定されている。パッド固定板29の下面に,斜材ケーブル3の直径に沿う弧状面(凹面)を備えるブレーキパッド26が固定されている。
【0047】
偏心カム23がカム装置20Aの下面から外に出ていないとき(図8(B)における一点鎖線),ピストンバー28は台座25B内に収められており,ブレーキパッド部20Bはカム装置20Aの下面に接している。DCモータ21が回転することによって偏心カム23が回転すると,偏心カム23がカム装置20Aの下面から突出し(図8(B)における実線),これによってブレーキパッド部20Bが下向きに押され,ブレーキパッド部20Bはカム装置20Aから離れる方向に移動する。また,台座25Bに収められていたピストンバー28がカム装置20Aの下面から外に突出し,カム装置20Aとブレーキパッド部20Bの間に露出する。さらに,ピストンバー28の頭部28Aと台座25Bとの間に挟まれたばね部材25Aが圧縮される。
【0048】
DCモータ21を逆回転させることで偏心カム23が元の位置に戻ると,偏心カム23によるブレーキパッド部20Bの下向きの押し込みがなくなるので,ばね部材25Aの復元力によってブレーキパッド部20Bは再び元の位置に戻る。ピストンバー28の全体が再び台座25B内に収められる。
【0049】
偏心カム23によってブレーキパッド部20Bがカム装置20Aから離れる方向に押されたときに,ブレーキパッド26が斜材ケーブル3の外周面に向けて押し付けられる(図6参照)。登攀装置10と同様に,3つのブレーキ装置20が斜材ケーブル3の周囲に 120°の等角度間隔に配置されているので,斜材ケーブル3に向けて三方からブレーキパッド26をしっかりと押し付けることができ,自走ユニット4を斜材ケーブル3にしっかりと静止させる(固定させる)ことができる。
【0050】
3つのブレーキ装置20のそれぞれが備えるDCモータ21にも電源ケーブル(図示略)が接続され,地上側に用意される電源ユニット(バッテリ)から電源ケーブルを通じてDCモータ21に電源が供給される。地上側には3台のブレーキ装置20を同期してオン/オフする(DCモータ21の回転軸を所定角度分正回転させかつ所定角度分逆回転させる)コントローラ(図示略)が用意され,これによってブレーキ装置20も遠隔操作される。
【0051】
図9(A)および(B)は,他の実施例のブレーキ装置(エアブレーキ装置)を,図6に相当する方向から示している。図9(A)はブレーキ装置50がオフされている状態を,図9(B)はブレーキ装置50がオンされている様子を,それぞれ示している。
【0052】
環状の連結プレート41に等角度間隔(約120° 間隔)に同一構造の3つのブレーキ装置50が取り付けられている。
【0053】
ブレーキ装置50は連結プレート41に等角度間隔に固定されたフレーム57を備え,フレーム57にエアシリンダ51が固定されている。エアシリンダ51に圧縮空気が送られると,エアシリンダ51からピストンロッド54が突出する。エアシリンダ51から突出するピストンロッド54の向きは斜材ケーブル3の外周面の法線方向に沿う。エアシリンダ51に圧縮空気を供給するコンプレッサ(図示略)は地上(橋梁上)に設置され,コンプレッサとエアシリンダ51とはチューブ(図示略)によって接続される。エアシリンダ51における圧縮空気の吸気および排気はエアシリンダ51側で制御してもよいし,コンプレッサ側で制御してもよい。いずれにしても3つのブレーキ装置50(3つのエアシリンダ51)は同期制御される。
【0054】
ピストンロッド54の先端にパッド固定板52が固定されており,パッド固定板52の底面(外面)に弧状に湾曲したブレーキパッド53が固定されている。エアシリンダ51からピストンロッド54が突出することでブレーキパッド53が三方から斜材ケーブル3の外周面に向けて押し付けられる。自走ユニット4を斜材ケーブル3にしっかりと静止させることができる。
【0055】
図10(A)および(B)は,さらの他の実施例のブレーキ装置(エアブレーキ装置)を,図6に相当する方向から示している。図10(A)はブレーキ装置60がオフされている状態を,図10(B)はブレーキ装置60がオンされている様子を,それぞれ示している。
【0056】
ブレーキ装置60は,連結プレート41に固定された板状固定ブロック61と,板状固定ブロック61に間隔をあけて設けられた2つの支軸65のそれぞれに回動可能に支持された一対の回動支持部材62と,一対の回動支持部材62の先端にそれぞれ固定された一対の半筒形のパッド固定具63と,パッド固定具63の内面(凹面)に固定された半筒形のブレーキパッド64を備えている。支軸65,回動支持部材62,パッド固定具63およびブレーキパッド64は,パッド固定具63の内面が斜材ケーブル3を向くようにして,対称に2組設けられている。
【0057】
2つの回動支持部材62の末端部の間に挟まれるように,板状固定ブロック61にエアシリンダ66が固定されている。エアシリンダ66は2つの回動支持部材62のそれぞれの末端部に向けて互いに反対向きに突き出す2本のピストンロッド67を備えている。エアシリンダ66に圧縮空気が送られることで2本のピストンロッド67が突出し,回動支持部材62の末端部が互いに離れる向きに押される。回動支持部材62は支軸65において回動し,回動支持部材62の先端に固定された半筒形のパッド固定具63が互いに近づく向きに回動する。一対のパッド固定具63の内面に固定されたブレーキパッド64が斜材ケーブル3に向けてそれぞれ押し付けられ,これによって自走ユニット4を斜材ケーブル3にしっかりと静止させることができる。
【0058】
斜材ケーブル3が強磁性体であることを利用して,電磁石をブレーキ装置に利用してもよい。電磁石を斜材ケーブル3に吸着させることで制動力を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
3 斜材ケーブル(線条体)
3B ハンガーケーブル(線条体)
4 自走ユニット
5 検査装置(全磁束測定器)
6 牽引ロープ
7 ウインチ
10 登攀装置
12 タイヤ
13,21 DCモータ
20,50,60 ブレーキ装置
23 偏心カム
26,53,64 ブレーキパッド
30 シーブ装置
31 シーブ
41,42 連結プレート
44 ばね部材
51,66 エアシリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10