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特許7235585積層鉄心の製造システム、及び積層鉄心の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造システム、及び積層鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20230301BHJP
   H02K 1/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H02K1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019089029
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020184863
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】井阪 智大
(72)【発明者】
【氏名】山田 豊信
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041474(JP,A)
【文献】特開2017-107902(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163009(WO,A1)
【文献】特開2015-082848(JP,A)
【文献】特開平07-115756(JP,A)
【文献】特開2006-136083(JP,A)
【文献】特開2011-55646(JP,A)
【文献】特開昭63-62310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の電磁鋼板から鉄心片を打ち抜き、前記鉄心片を複数枚積層して積層鉄心を形成する積層装置と、
前記積層装置で形成された前記積層鉄心の厚み寸法を測定する測定装置と、
前記測定装置で測定された前記積層鉄心の製造順と厚み寸法とのデータを記録する記録装置と、
前記記録装置に記録されている前記積層鉄心の製造順と前記積層鉄心の厚み寸法とのデータから回帰直線を導出する導出処理部と、
前記導出処理部で導出された前記回帰直線を用いて今後製造される積層鉄心の厚み寸法の予測値を算出する算出処理部と、
前記算出処理部で算出された前記予測値に基づいて今後製造される積層鉄心の厚み寸法が予め設定された管理値範囲内となるように前記積層装置における前記鉄心片の積層枚数を補正する補正処理部と、
を備える積層鉄心の製造システム。
【請求項2】
前記導出処理部は、前記記録装置に記録されている前記データのうち前記製造順が所定以上過去のデータを除外したデータに基づいて前記回帰直線を導出する、
請求項1に記載の積層鉄心の製造システム。
【請求項3】
前記管理値範囲は、前記鉄心片の1枚の厚み寸法よりも大きく、かつ、前記鉄心片の2枚の厚み寸法以下となる値に設定されており、
前記補正処理部は、前記予測値が前記管理値範囲の上限値以上である場合は前記鉄心片の積層枚数を1枚減算し、前記予測値が前記管理値範囲の下限値未満である場合は前記鉄心片の積層枚数を1枚加算する処理を含む、
請求項1又は2に記載の積層鉄心の製造システム。
【請求項4】
薄板状の電磁鋼板から鉄心片を打ち抜き、前記鉄心片を複数枚積層して積層鉄心を形成する積層工程と、
前記積層工程で形成された前記積層鉄心の厚み寸法を測定する測定工程と、
を備え、
前記積層工程は、前記測定工程の測定結果から導出された回帰直線に基づき次に形成する積層鉄心における前記鉄心片の積層枚数を補正する補正処理を含んでいる、
積層鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、積層鉄心の製造システム、及び積層鉄心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用モータや発電機の鉄心には、電磁鋼板を積層した積層鉄心が用いられることが多い。近年、ハイブリッド車や電気自動車の普及により、モータ出力の更なる高効率化が要求されており、積層鉄心の厚み寸法にも高い寸法精度が要求されるようになっている。
【0003】
一般に積層鉄心は、電磁鋼板の薄板をロール状に巻いて構成されたフープ材を材料とし、このフープ材を所定の形状の鉄心片に打ち抜き、その打ち抜いた薄板状の鉄心片を所定枚数積層して形成される。しかし、フープ材として供給される電磁鋼板は、その巻かれている位置等によって厚み寸法にバラツキがある。このため、鉄心片の積層枚数が同一であっても、積層鉄心の厚み寸法が管理値範囲から外れてしまう場合がある。そして、積層鉄心の厚み寸法が管理値範囲から外れてしまうと、その度に設備を停止させて、確認や修正等を行う必要がある。したがって、積層鉄心の厚み寸法に対して高い精度が要求されることは、生産性が低下する一要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-115756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、電磁鋼板の厚み寸法のバラツキの影響を低減して積層鉄心の生産性の向上を図ることができる積層鉄心の製造システム、及び積層鉄心の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の積層鉄心の製造システムは、薄板状の電磁鋼板から鉄心片を打ち抜き、前記鉄心片を複数枚積層して積層鉄心を形成する積層装置と、前記積層装置で形成された前記積層鉄心の厚み寸法を測定する測定装置と、前記測定装置で測定された前記積層鉄心の製造順と厚み寸法とのデータを記録する記録装置と、前記記録装置に記録されている前記積層鉄心の製造順と前記積層鉄心の厚み寸法とのデータから回帰直線を導出する導出処理部と、前記導出処理部で導出された前記回帰直線を用いて今後製造される積層鉄心の厚み寸法の予測値を算出する算出処理部と、前記算出処理部で算出された前記予測値に基づいて今後製造される積層鉄心の厚み寸法が予め設定された管理値範囲内となるように前記積層装置における前記鉄心片の積層枚数を補正する補正処理部と、を備える。
【0007】
また、実施形態の積層鉄心の製造方法は、薄板状の電磁鋼板から鉄心片を打ち抜き、前記鉄心片を複数枚積層して積層鉄心を形成する積層工程と、前記積層工程で形成された前記積層鉄心の厚み寸法を測定する測定工程と、を備える。前記積層工程は、前記測定工程の測定結果から導出された回帰直線に基づき次に形成する積層鉄心における前記鉄心片の積層枚数を補正する補正処理を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態による積層鉄心の製造システムの構成と積層鉄心の製造工程とを概略的に示すブロック図
図2】一般的な積層鉄心の製造手順の概念を示す図
図3】一実施形態による積層鉄心の製造システムについて、積層装置の構成を概略的に示す図
図4】一実施形態による積層鉄心の製造システム及び積層鉄心の製造方法において、測定データ、回帰直線、及び予測値をグラフとして示す図
図5】一実施形態による積層鉄心の製造システム及び積層鉄心の製造方法において、各装置で実行される処理内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態の積層鉄心の製造システム1(以下、単に製造システム1と称する)は、例えば車載用モータや発電機等に用いる積層鉄心を製造するための製造システムであり、図1にはその製造システム1の一部を示している。本実施形態の製造システム1は、図1に示すように、積層装置10、加工装置20、測定装置30、記録装置40、及びサーバ50を備えている。
【0010】
積層装置10では積層工程が実行される。また、加工装置20では加工工程が実行される。そして、測定装置30では測定工程が実行される。これにより、製造システム1は、積層工程と、加工工程と、測定工程と、を順に実行する。また、詳細な説明は省略するが、製造システム1は、測定工程の後に、外見検査工程や梱包工程が実行されて、その後、出荷される。
【0011】
積層装置10は、図2に示すように、薄板帯状の電磁鋼板91から鉄心片92を打ち抜き、その鉄心片92を複数枚積層して積層鉄心93を形成するための装置である。すなわち、積層工程は、薄板帯状の電磁鋼板91から鉄心片92を打ち抜き、その鉄心片を複数枚積層して積層鉄心93を形成する工程である。
【0012】
積層装置10は、図3に示すように、フープ材90から電磁鋼板91を引き出して鉄心片92を打ち抜く。フープ材90は、例えば厚み寸法が0.3mm前後の薄板帯状の電磁鋼板91をロール状に巻いたものである。本実施形態では、例えば1枚の電磁鋼板91の厚みは0.30mm±0.01mmに設定されている。この場合、例えば図2のd1、d2で示すように、1枚の電磁鋼板91内においても、公差の範囲内で厚みが異なる箇所が存在する。なお、±0.01mmは厚みに対する寸法誤差であり、積層鉄心93の厚み寸法yに要求される精度に応じて適宜設定される。
【0013】
本実施形態の場合、図1及び図3に示すように、積層装置10は、複数の装置11~15を含んで構成されている。すなわち、積層装置10は、アンコイラ11、レベラ12、材料接合機13、プレス機14、及び積層工程用制御装置15を備えている。アンコイラ11にはフープ材90が取り付けられる。アンコイラ11は、取り付けられたフープ材90から薄板帯状の電磁鋼板91を引き出して後の装置に供給する。レベラ12は、アンコイラ11から供給された薄板帯状の電磁鋼板91を上下方向からローラで挟み込んで外力を加えることで電磁鋼板91を塑性変形させ、これにより電磁鋼板91から巻き癖を除去する。
【0014】
材料接合機13は、フープ材90を追加する際に、プレス機14に現在供給している残りの電磁鋼板91の終端部分と、新たに追加したフープ材90から供給された電磁鋼板91の始端部分と、を溶接するための装置である。これにより、フープ材90を追加した再に電磁鋼板91を途切れさせることなくプレス機14に供給する。プレス機14は、供給された電磁鋼板91から所望の形状の鉄心片92を打ち抜き、その鉄心片92を型内で所定枚数積層して積層鉄心93を形成する。この場合、本実施形態のプレス機14は、ロータ用の鉄心片及びステータ用の鉄心片を同時に打ち抜くことができる。
【0015】
図1に示す積層工程用制御装置15は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)で構成されており、積層装置10を構成する各装置11、12、13、14の駆動を制御する。この場合、積層工程用制御装置15は、プレス機14における鉄心片92の積層枚数を設定する機能を有する。また、積層工程用制御装置15は、外部の機器と無線又は有線通信が可能に構成されている。
【0016】
加工装置20は、積層装置10で形成された積層鉄心93に、加圧や溶接等の加工を行うための装置である。加工装置20における加工内容は、積層鉄心93がロータ用であるかステータ用であるか等によって異なる。積層鉄心93がロータ用であれば、加工装置20は、積層装置10で形成された積層鉄心93に対して例えば加圧加工を行う。また、積層鉄心93がステータ用であれば、加工装置20は、積層装置10で形成された積層鉄心93に対して例えば溶接及び加圧加工を行う。
【0017】
測定装置30は、積層装置10で形成され加工装置20で加工された積層鉄心93の厚み寸法yを、例えばレーザ距離計等を用いて測定する装置である。本実施形態の場合、測定装置30は、積層装置10で製造された全ての積層鉄心93の厚み寸法yを測定する。測定装置30は、測定機構部31と測定工程用制御装置32とを有している。測定機構部31は、加工装置20を経た積層鉄心93の厚み寸法yを例えばレーザ距離計等で計測する機能を有する。測定工程用制御装置32は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)で構成されており、測定機構部31の駆動を制御する。
【0018】
測定工程用制御装置32は、外部の機器と無線又は有線通信可能に構成されている。本実施形態の場合、測定工程用制御装置32は、積層工程用制御装置15と有線により通信可能に接続されているとともに、記録装置40及びサーバ50と無線又は有線により通信可能に接続されている。測定工程用制御装置32は、測定機構部31での測定結果を記録装置40又はサーバ50の一方又は両方に送信するとともに、測定結果に基づいて補正した鉄心片92の積層枚数、つまり積層装置10において次に製造する積層鉄心93の積層枚数を送信する。
【0019】
測定工程用制御装置32は、測定装置30は、図4に示す管理値範囲Qを予め記憶している。管理値範囲Qは、積層鉄心93の厚み寸法yの公差の範囲、つまり積層鉄心93の厚み寸法yの上限値Qu及び下限値Qbを設定したものである。本実施形態の場合、管理値範囲Qは、電磁鋼板91の1枚の厚み寸法よりも大きく、かつ、電磁鋼板91の2枚の厚み寸法以下に設定されている。
【0020】
例えば積層鉄心93が300枚の鉄心片92を積層したものである場合、積層鉄心93の厚み寸法yの理論値は、y=0.3mm×300枚=90mmとなる。そして、管理値範囲Qは、例えば90mm±0.5mmに設定される。この場合、管理値範囲Qにおける上限値Quと下限値Qbとの差分は±0.5mmに設定される。そして、この管理値範囲Qにおける上限値Quと下限値Qbとの差分は、電磁鋼板91の1枚の厚み寸法の中央値0.3mmよりも大きく、かつ、電磁鋼板91の2枚の厚み寸法の中央値0.6mm以下となる値である。
【0021】
この場合、1枚の鉄心片92の厚みの公差が±0.01mmとすると、300枚の鉄心片92の公差の積算値すなわち累積公差は±3.0mmとなり、積層鉄心93の管理値範囲Qにおける上限値Quと下限値Qbとの差分よりも大きい。したがって、各鉄心片92の全てにおいて厚み寸法が公差の範囲内にあっても、積層鉄心93として積層した場合には、その厚み寸法が管理値範囲Qから外れてしまう場合がある。なお、管理値範囲は、対称となる積層鉄心の種類によって適宜設定される。
【0022】
図1に示す測定工程用制御装置32は、測定機構部31で計測した積層鉄心93の厚み寸法yが管理値範囲Q内に収まっている場合に、積層鉄心93の厚み寸法yが正常である、すなわち合格品であると判断する。この場合、測定工程用制御装置32は、積層鉄心93の厚み寸法yが管理値範囲Q内に収まっている旨つまり測定結果が正常である旨を、図示しない表示装置やスピーカ等を用いて表示や音声により報知する。
【0023】
また、測定工程用制御装置32は、測定機構部31で計測した積層鉄心93の厚み寸法yが管理値範囲Qから外れている場合に、積層鉄心93の厚み寸法yが異常である、すなわち不合格品であると判断する。この場合、測定工程用制御装置32は、積層鉄心93の厚み寸法yが管理値範囲Qから外れている旨つまり測定結果が異常である旨を、図示しない表示装置やスピーカ等を用いて表示や音声により報知する。更にこの場合、測定工程用制御装置32は、測定結果が異常であった旨を示す異常信号を積層工程用制御装置15に送信する。そして、積層工程用制御装置15は、測定工程用制御装置32から異常信号を受信すると、積層装置10を停止させて積層鉄心93の製造を一旦停止する。
【0024】
記録装置40は、いわゆる外部記録装置であって、ネットワークサーバ、ファイルサーバ、若しくはデータサーバと称されるものである。記録装置40は、測定装置30で測定した積層鉄心93の測定結果を記録し蓄積する。測定結果には、積層鉄心93の厚み寸法yの他に、積層鉄心93の製造順を示す製造番号及び鉄心片92の積層枚数等が含まれる。すなわち、記録装置40は、過去に製造した積層鉄心93の製造番号、厚み寸法y、及び積層枚数をデータとして記録する。
【0025】
サーバ50は、測定装置30及び記録装置40と有線又は無線によって通信可能に接続されている。サーバ50は、例えばマイクロサーバー等を用いることができる。なお、サーバ50は、積層装置10や加工装置20とも通信可能に接続されていても良い。また、サーバ50がネットワークサーバなどデータの記録以外の用途にも用いることができる汎用性を有するものである場合には、サーバ50と記録装置40とは兼用することもできる。サーバ50は、サーバ制御装置51、通信処理部52、導出処理部53、算出処理部54、及び補正処理部55を有している。
【0026】
サーバ制御装置51は、例えばCPU511や、ROM、RAM、及び書き換え可能なフラッシュメモリなどの記憶領域512を有するマイクロコンピュータを主体に構成されており、サーバ制御装置51全体を制御する。記憶領域512は、積層枚数補正プログラムを記憶している。サーバ制御装置51は、CPU511において積層枚数補正プログラムを実行することにより、通信処理部52、導出処理部53、算出処理部54、及び補正処理部55を、ソフトウェアによって仮想的に実現する。なお、これら通信処理部52、導出処理部53、算出処理部54、及び補正処理部55は、例えばサーバ制御装置51と一体の集積回路としてハードウェア的に実現してもよい。
【0027】
通信処理部52は、外部の機器、例えば測定装置30や記録装置40と無線又は有線通信を行うための通信用インタフェースを含んで構成されており、通信に必要な処理を実行する。導出処理部53は、記録装置40に記録されている積層鉄心93の製造に関する過去のデータ、すなわち積層鉄心93の製造順と厚み寸法yとのデータから回帰直線を導出する処理を行う。回帰直線は、今後製造される積層鉄心93の厚み寸法を予測するための予測式であり、y=a+bxで表される。
【0028】
図4は、記録装置40に記録されているデータのうち、導出処理部53において回帰直線を導出する際に用いるデータを黒丸でプロットして示したものである。図4において、横軸xは積層鉄心93の製造順つまりプロットの時系列を示しており、縦軸yはその製造順における積層鉄心93の厚み寸法いわゆる積厚を示している。
【0029】
この場合、図4において、x=0を現在とし、左側へ行くほどつまりマイナスの数が大きくなるほど過去のデータとなり、右側へ行くほどつまりプラスの数が大きくなるほど未来のデータとなる。この場合、P(0)は、測定装置30で実際に測定されたデータつまり記録装置40に記録されている実測データのうち最新のものを示している。また、例えばP(-5)は、他のP(-1)~P(-4)よりも古いデータつまり過去に測定されたデータとなる。また、P(1)~P(4)は、測定装置30において未だ測定されていないデータである。
【0030】
未来のデータであるP(1)~P(4)の縦軸yの値は、回帰直線y=a+bxにxの値を導入することにより予測値として算出される。なお、本実施形態の場合、積層工程と測定工程との1サイクルに対し、加工工程は例えば3サイクル要する。なお、本実施形態の説明において、1サイクルとは、工程の動作の開始から完了までの期間を意味する。
【0031】
すなわち、積層工程で形成された積層鉄心93は、次の4サイクル目に測定工程において測定される。この場合、P(1)~P(3)は、実際に積層鉄心93が形成されたが未だ測定されていないものの予測値を示している。また、P(4)は未だ積層鉄心93が形成されていないもの、すなわち、次のサイクルで形成される積層鉄心93の厚み寸法の予測値を示す。
【0032】
また、導出処理部53は、記録装置40に記録されているデータのうち製造順が所定サイクル数以上過去のデータを除外したデータに基づいて回帰直線を導出する。例えば本実施形態において、導出処理部53は、6サイクル以上過去のデータすなわちP(-6)以前のデータを除外し、直近の6つのデータP(-5)~P(0)に基づいて回帰直線y=a+bxを導出する。この場合、回帰直線の導出に用いるデータの数は直近の10個未満、例えば直近の6つに設定されている。そして、導出処理部53は、図4の黒丸で示す直近の6つのプロットP(-5)~P(0)に基づき、例えば最小二乗法を用いて切片aと回帰係数つまり傾きbとを導出し、これにより回帰直線y=a+bxを導出する。
【0033】
算出処理部54は、導出処理部53で導出された回帰直線y=a+bxを用いて、今後製造される、例えば次のサイクルで製造される積層鉄心93の厚み寸法yの予測値を算出する処理を実行する。この場合、次のサイクルで製造される積層鉄心93の製造順はx=4であるため、算出処理部54は、回帰直線y=a+bxにx=4を代入し、積層鉄心93の厚み寸法の予測値であるP(4)を算出する。
【0034】
補正処理部55は、算出処理部54で算出された厚み寸法の予測値P(4)に基づいて、今後製造される、例えば次のサイクルで製造される積層鉄心93の厚み寸法yが予め設定された管理値範囲Q内となるように積層装置10における鉄心片92の積層枚数を補正する処理を実行する。
【0035】
この場合、補正処理部55は、予測値P(4)が管理値範囲Qの上限値Qu以上である場合は鉄心片92の積層枚数を1枚減算する処理を実行する。例えば現在の鉄心片92の積層枚数が300枚に設定されている場合、補正処理部55は、鉄心片92の積層枚数を299枚に変更する。これにより図4の白抜き矢印で示すように、積層鉄心93の厚み寸法yが管理値範囲Q内に収まるように積層枚数を補正する。
【0036】
また、補正処理部55は、予測値P(4)が管理値範囲Qの下限値Qb未満である場合は鉄心片92の積層枚数を1枚加算する処理を実行する。例えば現在の鉄心片92の積層枚数が300枚に設定されている場合、補正処理部55は、鉄心片92の積層枚数を301枚に変更し、これにより積層枚数を補正する。これにより図示はしないが、積層鉄心93の厚み寸法yが管理値範囲Q内に収まるように積層枚数を補正する。
【0037】
そして、サーバ制御装置51は、通信処理部52を介して、補正後の積層枚数つまり積層枚数の補正値を測定装置30に送信する。測定装置30は、サーバ制御装置51から受信した積層枚数の補正値を、積層装置10に送信する。なお、サーバ制御装置51は、積層装置10と無線又は有線通信可能に構成し、補正処理部55で補正した積層枚数の補正値を、測定装置30を介さずに積層装置10に直接送信しても良い。そして、積層装置10は、受信した積層枚数の補正値で鉄心片92を積層させて積層鉄心93を形成する。
【0038】
次に、図5も参照して、積層装置10、測定装置30、及びサーバ50で実行される積層枚数の補正に関する処理内容を説明する。なお、以下の説明において、Tは、現在設定されている積層枚数の設定値である。すなわち、積層装置10は、T枚の鉄心片92を積層して積層鉄心93を形成する。また、nは、測定装置30で測定された積層鉄心93のうち最新のものを示す番号である。この場合、nは、0以上の任意の整数であって、例えば製造番号等を用いることができる。
【0039】
また、積層装置10で積層された積層鉄心93のうち最新のものを[n+q]番目の積層鉄心93とする。この場合、qは、積層装置10から測定装置30に至るまでに要するサイクル数を意味する。そして、rは、回帰直線y=a+bxを導出するために用いるデータの数を意味する。すなわち、導出処理部53は、直近のr個のデータを用いて、回帰直線y=a+bxを導出する。本実施形態の場合、rは、10以下の正の整数に設定されている。
【0040】
積層装置10、測定装置30、及びサーバ50は、1サイクル毎に図5に示す制御内容を繰り返して実行する。まず、積層装置10の制御内容つまり積層工程の内容について説明する。積層装置10は、図5に示すように、ステップS11において[n+q]番目の積層鉄心93を形成する。この場合、積層装置10は、上述したように、フープ材90から電磁鋼板91を引き出して鉄心片92を打ち抜き、型内で積層させることにより、積層鉄心93を形成する。そして、形成した積層鉄心93を後工程この場合加工工程に引き渡す。その後、積層装置10は、ステップS12において、測定装置30から受信した補正値に従って積層枚数Tを補正する。その後、積層装置10は、ステップS11へ戻る。このように、積層装置10は、ステップS11~S12を繰り返し、1サイクル毎に積層枚数Tの値を補正する。
【0041】
次に、測定装置30の制御内容つまり測定工程の内容について説明する。測定装置30は、まず、ステップS21において[n]番面の積層鉄心93の厚み寸法yを測定する。次に、測定装置30は、ステップS22において、記録装置40に測定データを記録する。その後、測定装置30は、サーバ50から積層枚数Tの補正値を受信し、サーバ50から受信した補正値を、ステップS23において積層装置10へ送信する。なお、今回のサイクルにおいてサーバ50から補正値を受信していない場合は、測定装置30は、ステップS23において補正無し信号を積層装置10に送信する。その後、測定装置30は、ステップS21へ戻る。このように、測定装置30は、ステップS21~S13を繰り返し、1サイクル毎に、測定データの記録及び補正値の送信を行う。
【0042】
次に、サーバ50の制御内容について説明する。サーバ50は、まずステップS31において、測定装置30から直接的又は間接的に測定データを取得する。本実施形態の場合、サーバ50は、記録装置40を介して間接的に測定データを取得する。次に、ステップS32において、導出処理部53の処理により、所定サイクル数前から直近までの所定数の測定データ、この場合[n-r-1]~[n]番目の測定データに基づき、回帰直線y=a+bxを導出する。
【0043】
次に、サーバ50は、ステップS33において、算出処理部54の処理により、ステップS32で導出した回帰直線y=a+bxに次に製造する積層鉄心93の番号[n+q+1]を代入し、次に製造される積層鉄心93の厚み寸法つまり積厚値の予測値y(n+q+1)を算出する。
【0044】
次に、サーバ50は、補正処理部55の処理により、ステップS34~S37を実行する。この場合、サーバ50は、まずステップS34において、ステップS33で算出した予測値y(n+q+1)が、管理値範囲Qの上限値Qu以上であるか否かを判断する。予測値y(n+q+1)が管理値範囲Qの上限値Qu以上である場合(ステップS34でYES)、サーバ50は、ステップS35へ処理を移行させる。そして、サーバ50は、積層枚数Tを1枚減算し、その値Tを補正値として測定装置30へ送信する。一方、予測値y(n+q+1)が管理値範囲Qの上限値Qu未満である場合(ステップS34でNO)、サーバ50は、ステップS36へ処理を移行させる。
【0045】
次に、サーバ50は、ステップS36において、ステップS33で算出した予測値y(n+q+1)が、管理値範囲Qの下限値Qb未満となっているか否かを判断する。予測値y(n+q+1)が管理値範囲Qの下限値Qb未満となっている場合(ステップS36でYES)、サーバ50は、ステップS37へ処理を移行させる。そして、サーバ50は、積層枚数Tを1枚加算し、その値Tを補正値として測定装置30へ送信する。一方、予測値y(n+q+1)が管理値範囲Qの下限値Qb以上である場合(ステップS36でNO)、サーバ50は、ステップS31へ処理を戻す。このように、サーバ50は、ステップS31~S37を繰り返し、1サイクル毎に、回帰直線y=a+bxの導出及び積層枚数Tの補正を行う。
【0046】
なお、上記実施形態において、導出処理部53、算出処理部54、及び補正処理部55は、積層装置10の積層工程用制御装置15や測定装置30の測定工程用制御装置32とは別に構成されている。しかし、導出処理部53、算出処理部54、及び補正処理部55は、積層工程用制御装置15や測定工程用制御装置32に含める構成としても良い。また、この場合、導出処理部53、算出処理部54、及び補正処理部55は、同一の装置で構成する必要はなく、複数の装置に分散されていても良い。
【0047】
以上説明した実施形態によれば、積層鉄心93の製造方法は、薄板状の電磁鋼板91から鉄心片92を打ち抜き、鉄心片92を複数枚積層して積層鉄心93を形成する積層工程と、積層工程で形成された積層鉄心93の厚み寸法yを測定する測定工程と、を備えている。積層工程は、測定工程の測定結果から導出された回帰直線y=a+bxに基づき次に形成する積層鉄心93における鉄心片92の積層枚数Tを補正する補正処理を含んでいる。
【0048】
また、上記実施形態によれば、積層鉄心の製造システム1は、積層装置10と、測定装置30と、記録装置40と、を備える。積層装置10は、薄板状の電磁鋼板91から鉄心片92を打ち抜き、その鉄心片92を複数枚積層して積層鉄心93を形成する積層工程を実行する。測定装置30は、積層装置10で形成されたつまり積層工程で形成された積層鉄心93の厚み寸法yを測定する測定工程を実行する。記録装置40は、測定装置30で測定された積層鉄心93の製造順nと厚み寸法yとのデータを記録する記録工程を実行する。
【0049】
また、積層鉄心の製造システム1は、導出処理部53と、算出処理部54と、補正処理部55と、を備える。導出処理部53は、記録装置40に記録されている積層鉄心93の製造順nと積層鉄心93の厚み寸法yとのデータから回帰直線y=a+bxを導出する導出処理を実行する。算出処理部54は、導出処理部53で導出された回帰直線y=a+bxを用いて、今後製造される積層鉄心93、例えば次のサイクルで製造される積層鉄心93の厚み寸法の予測値y(x)を算出する算出処理を実行する。補正処理部55は、算出処理部54で算出された予測値y(x)に基づいて今後製造される積層鉄心93の厚み寸法yが予め設定された管理値範囲Q内となるように積層装置10における鉄心片92の積層枚数Tを補正する補正処理を実行する。
【0050】
これによれば、製造システム1は、過去のデータに基づいて導出した回帰直線y=a+bxから、実際に製造された積層鉄心93の厚み寸法の変化の傾向を把握し、その変化の傾向を考慮したうえで、これから積層装置10において形成される積層鉄心93の厚み寸法を予測することができる。すなわち、本実施形態の製造システム1によれば、実際に鉄心片92を積層して積層鉄心93を形成する前に、設定枚数を変えずに鉄心片92を積層した場合にその積層鉄心93の厚み寸法が管理値範囲Qから外れるか否かを予測することができる。これにより、積層装置10で実際に積層した積層鉄心93が管理値範囲Qから外れてしまうことが抑制でき、その結果、製造システム1が停止して生産性が低下することを抑制できる。
【0051】
このように、本実施形態の製造システム1及び製造方法によれば、測定装置30は、測定装置30における測定結果を積層装置10にフィードバックする。そして、積層装置10は、測定装置30からフィードバックされた情報を基に、積層枚数を適切な値に補正する。これにより、材料となる電磁鋼板91の厚み寸法のバラツキの影響を低減することができ、その結果、積層鉄心93の生産性の向上を図ることができる。
【0052】
ここで、一般に回帰直線は、データ数つまりプロット数が多いほど理論値に近づくため精度が上がる。しかしながら、本実施形態の場合、回帰直線y=a+bxが理論値に近づくということは、積層鉄心93の厚み寸法yが理論値つまり管理値範囲Qの中央値に近づくことを意味する。すなわちこの場合、電磁鋼板91の厚み寸法のバラツキの影響を無視する方向に作用し、積層鉄心93の厚み寸法yが平均化されてしまうため、積層鉄心93の厚み寸法yの予測としては精度が低下してしまう。
【0053】
そこで、本実施形態において、導出処理部53は、記録装置40に記録されている測定データのうち製造順が所定サイクル数以上過去の測定データを除外した測定データに基づいて回帰直線y=a+bxを導出する。つまり、導出処理部53は、直近の所定数例えば10個未満でかつ連続するデータ、すなわち測定装置30で最後に測定したデータから所定数例えば10個未満でかつ連続するデータを用いて回帰直線y=a+bxを導出する。
【0054】
これによれば、回帰直線y=a+bxは、積層鉄心93の厚み寸法yの変化について直近の傾向が反映されたもの、つまり電磁鋼板91の直近のバラツキが考慮されたものとなる。したがって、回帰直線y=a+bxから算出される積層鉄心93の厚み寸法yの予測値をより正確なものとすることができる。
【0055】
また、管理値範囲Qは、鉄心片92の1枚の厚み寸法よりも大きく、かつ、鉄心片92の2枚の厚み寸法以下となる値に設定されている。そして、補正処理部55は、回帰直線y=a+bxから算出した予測値が、管理値範囲Qの上限値Qu以上である場合は鉄心片92の積層枚数Tを1枚減算し、予測値が管理値範囲Qの下限値Qb未満である場合は鉄心片92の積層枚数Tを1枚加算する処理を含む。
【0056】
これによれば、積層鉄心93の厚み寸法yの精度を、積層された各鉄心片92の厚み寸法の公差の累積値よりも高い精度にすることができる。すなわち、これによれば、積層された鉄心片92の累積公差よりも高い精度で積層鉄心93を製造しつつ、材料となる電磁鋼板91の厚み寸法のバラツキの影響を低減して積層鉄心93の生産性の向上を図ることができる。
【0057】
本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
図面中、1は積層鉄心の製造システム、10は積層装置、30は測定装置、40は記録装置、53は導出処理部、54は算出処理部、55は補正処理部、を示す。
図1
図2
図3
図4
図5