(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ロータおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230301BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2019093436
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018128538
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 侑快
(72)【発明者】
【氏名】池本 正幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚登
(72)【発明者】
【氏名】雁木 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐野 新也
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042381(JP,A)
【文献】特開2005-328679(JP,A)
【文献】特開2007-097387(JP,A)
【文献】特開2009-296730(JP,A)
【文献】特開2012-100424(JP,A)
【文献】特開2017-118692(JP,A)
【文献】特開2003-088015(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石と、
前記永久磁石が配置される磁石配置孔を有するロータコアとを備え、
前記ロータコアには、軸方向に見て、前記磁石配置孔よりも前記磁石配置孔の短手方向の一方側に設けられ、前記短手方向に見て、前記永久磁石と前記磁石配置孔の長手方向に重複するように形成され、前記永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させるとともに、前記永久磁石により生じる磁束を抑制する応力緩和磁束抑制孔が設けられており、
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記応力緩和磁束抑制孔の前記長手方向の一方側の部分と前記磁石配置孔との間の第1磁束通路の最小幅と、前記応力緩和磁束抑制孔の前記長手方向の他方側の部分と前記磁石配置孔との間の第2磁束通路の最小幅との合計幅が前記第1磁束通路の前記長手方向の長さと前記第2磁束通路の前記長手方向の長さとの合計長さよりも小さくなるように形成されて
おり、
前記ロータコアは、コイルを有するステータに対して径方向に対向して配置されており、
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記合計幅が前記合計長さよりも小さいことにより、前記第1磁束通路または前記第2磁束通路のうちの少なくとも一方において、磁気飽和が生じるように構成されている、ロータ。
【請求項2】
前記ロータコアは、前記ステータよりも径方向内側に配置されており、
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記磁石配置孔よりも、前記磁石配置孔の短手方向の一方側としての前記径方向内側に配置されている、請求項
1に記載のロータ。
【請求項3】
前記応力緩和磁束抑制孔の前記長手方向に沿った長さは、前記永久磁石の前記長手方向に沿った長さ以下である、請求項1
または2に記載のロータ。
【請求項4】
前記第1磁束通路の最小幅となる前記第1磁束通路の部分を形成する前記磁石配置孔の前記長手方向の一方側の端部、および、前記第2磁束通路の最小幅となる前記第2磁束通路の部分を形成する前記磁石配置孔の前記長手方向の他方側の端部は、前記短手方向に見て、それぞれ、前記永久磁石に重複する位置に設けられている、請求項
3に記載のロータ。
【請求項5】
前記磁石配置孔には、前記応力緩和磁束抑制孔側に設けられているとともに、前記永久磁石の前記長手方向の端部に前記短手方向に隣接する位置から前記短手方向の一方側に窪むように形成され、前記永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させる応力緩和溝が設けられている、請求項1~
4のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項6】
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記第1磁束通路の最小幅または前記第2磁束通路の最小幅のうちの少なくとも一方が、前記応力緩和磁束抑制孔と前記応力緩和溝との距離となる前記ロータコアの位置に設けられている、請求項
5に記載のロータ。
【請求項7】
前記ロータコアは、ステータよりも径方向内側に配置されており、
前記ロータコアには、磁極ごとに、軸方向に見て径方向外側に広がるV字状を有する一対の前記磁石配置孔が設けられており、
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記一対の磁石配置孔の夫々の径方向内側に、一対設けられており、
前記一対の応力緩和磁束抑制孔は、前記一対の磁石配置孔の各々に配置された前記永久磁石の前記長手方向の中心位置よりも前記磁極の周方向中心に寄った位置において、前記永久磁石と前記長手方向に重複するように、それぞれ形成されている、請求項1~
6のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項8】
前記応力緩和磁束抑制孔は、軸方向に見て、長円形状を有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項9】
ステータと、
前記ステータと径方向に対向して配置されているロータとを備え、
前記ロータは、永久磁石と、前記永久磁石が配置される磁石配置孔を有するロータコアとを含み、
前記ロータコアには、軸方向に見て、前記磁石配置孔よりも前記磁石配置孔の短手方向の一方側に設けられ、前記短手方向に見て、前記永久磁石と前記磁石配置孔の長手方向に重複するように形成され、前記永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させるとともに、前記永久磁石により生じる磁束を抑制する応力緩和磁束抑制孔が設けられており、
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記応力緩和磁束抑制孔の前記長手方向の一方側の部分と前記磁石配置孔との間の第1磁束通路の最小幅と、前記応力緩和磁束抑制孔の前記長手方向の他方側の部分と前記磁石配置孔との間の第2磁束通路の最小幅との合計幅が前記第1磁束通路の前記長手方向の長さと前記第2磁束通路の前記長手方向の長さとの合計長さよりも小さくなるように形成されて
おり、
前記ロータコアは、コイルを有するステータに対して径方向に対向して配置されており、
前記応力緩和磁束抑制孔は、前記合計幅が前記合計長さよりも小さいことにより、前記第1磁束通路または前記第2磁束通路のうちの少なくとも一方において、磁気飽和が生じるように構成されている、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータおよび回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石を備えるロータおよび回転電機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ロータコアに設けられた磁石孔に配置されている磁石を備えるロータが開示されている。このロータでは、ロータコアに複数のスリットが設けられている。このスリットは、ロータコアと磁石との熱膨張差によって生じる応力によって、スリットの対向する内側面同士が近接または接触するように変形可能に構成されている。詳細には、このロータでは、磁石孔と磁石との隙間に樹脂材料が配置されており、ロータが製造される際に、樹脂材料を熱硬化するために、ロータコアおよび磁石が共に加熱される。この時、ロータコアが熱膨張する一方、磁石は熱収縮する。そして、このロータでは、樹脂材料が熱硬化した後、ロータコアおよび磁石が冷却された際に、ロータコアが熱収縮する一方、磁石が熱膨張することにより、磁石がロータコアの磁石孔を磁石孔の内部から外部に押圧してロータコアに応力が生じる。そして、スリットは、内側面同士を近接または接触するように変形することにより、この応力を吸収するように構成されている。そして、このロータでは、磁石から生じた磁束は、内側面同士が近接または接触したスリットを跨ぐように通過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ステータのコイルに電力を供給しないかまたは供給する電力が比較的小さい状態(以下、この段落において「無負荷状態または低負荷状態」とする)において、磁石が設けられたロータが、他の装置(たとえば、エンジン等)によって、回転される場合がある。この場合、ステータのコイルには、電力が供給されないか供給する電力が比較的小さいので、ステータのコイルが発生させる磁界によっては、ロータにより生じる磁束は、略減少しない。しかしながら、上記特許文献1のロータでは、磁石から生じる磁束がスリットを跨ぐように通過するように構成されている。このため、無負荷状態または低負荷状態では、ロータの磁石から生じた磁束が減少されずにスリットを跨ぐように通過して、磁束が過大となると考えられる。この場合、磁束が過大となることに起因して、ロータまたはステータにおいて鉄損が増大し、他の装置によりロータを回転させる際のエネルギー効率が低下する。したがって、従来、磁石が膨張することによる応力を緩和しながら、無負荷状態または低負荷状態の場合に、磁石(永久磁石)からの磁束が過大となるのを防止することが可能なロータおよび回転電機が望まれていた。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、永久磁石が膨張することによる応力を緩和しながら、ステータのコイルに電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい状態の場合にも、永久磁石からの磁束が過大となるのを防止することが可能なロータおよび回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面におけるロータは、永久磁石と、永久磁石が配置される磁石配置孔を有するロータコアとを備え、ロータコアには、軸方向に見て、磁石配置孔よりも磁石配置孔の短手方向の一方側に設けられ、短手方向に見て、永久磁石と磁石配置孔の長手方向に重複するように形成され、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させるとともに、永久磁石により生じる磁束を抑制する応力緩和磁束抑制孔が設けられており、応力緩和磁束抑制孔は、応力緩和磁束抑制孔の長手方向の一方側の部分と磁石配置孔との間の第1磁束通路の最小幅と、応力緩和磁束抑制孔の長手方向の他方側の部分と磁石配置孔との間の第2磁束通路の最小幅との合計幅が第1磁束通路の長手方向の長さと第2磁束通路の長手方向の長さとの合計長さよりも小さくなるように形成されており、ロータコアは、コイルを有するステータに対して径方向に対向して配置されており、応力緩和磁束抑制孔は、合計幅が合計長さよりも小さいことにより、第1磁束通路または第2磁束通路のうちの少なくとも一方において、磁気飽和が生じるように構成されている。
【0008】
この発明の第1の局面におけるロータでは、上記のように、磁石配置孔の短手方向の一方側に設けられ、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させるとともに、永久磁石により生じる磁束を抑制する応力緩和磁束抑制孔を、第1磁束通路の最小幅と第2磁束通路の最小幅との合計幅が第1磁束通路の長手方向の長さと第2磁束通路の長手方向の長さとの合計長さよりも小さくなるように形成する。これにより、ロータが製造される際に、永久磁石がロータコアに対して膨張した場合にも、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させることができる。そして、応力緩和磁束抑制孔により、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させながら、この応力緩和磁束抑制孔により、永久磁石のうちの上記合計長さに対応する面に対して入るかまたは出る磁束が通過する第1磁束通路および第2磁束通路の幅を、制限することができる。このように、幅が制限された第1磁束通路および第2磁束通路では、通過する磁束が多くなる場合に磁気飽和が生じるので、通過する磁束の量を制限することができ、通過する磁束が過大になるのを防止することができる。この結果、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させながら、ステータのコイルに電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい状態の場合にも、永久磁石からの磁束が過大となるのを防止することができる。そして、ステータのコイルに電力が供給される場合(高負荷時)には、ステータのコイルが発生させる磁界により、永久磁石が発生させる磁束の量が減少する(磁石動作点が低下する)ので、応力緩和磁束抑制孔により第1磁束通路および第2磁束通路の幅が制限されている場合でも、第1磁束通路および第2磁束通路において磁気飽和しにくいので、ロータとしての性能が低下するのを防止することができる。これらの結果、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させながら、ステータのコイルに電力が供給される場合(高負荷時)には、ロータとしての性能が低下するのを防止し、ステータのコイルに電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい場合(無負荷または低負荷時)には、永久磁石からの磁束が過大となるのを防止することができる。
【0009】
この発明の第2の局面における回転電機は、ステータと、ステータと径方向に対向して配置されているロータとを備え、ロータは、永久磁石と、永久磁石が配置される磁石配置孔を有するロータコアとを含み、ロータコアには、軸方向に見て、磁石配置孔よりも磁石配置孔の短手方向の一方側に設けられ、短手方向に見て、永久磁石と磁石配置孔の長手方向に重複するように形成され、永久磁石の膨張により生じる応力を緩和させるとともに、永久磁石により生じる磁束を抑制する応力緩和磁束抑制孔が設けられており、応力緩和磁束抑制孔は、応力緩和磁束抑制孔の長手方向の一方側の部分と磁石配置孔との間の第1磁束通路の最小幅と、応力緩和磁束抑制孔の長手方向の他方側の部分と磁石配置孔との間の第2磁束通路の最小幅との合計幅が第1磁束通路の長手方向の長さと第2磁束通路の長手方向の長さとの合計長さよりも小さくなるように形成されており、ロータコアは、コイルを有するステータに対して径方向に対向して配置されており、応力緩和磁束抑制孔は、合計幅が合計長さよりも小さいことにより、第1磁束通路または第2磁束通路のうちの少なくとも一方において、磁気飽和が生じるように構成されている。
【0010】
この発明の第2の局面における回転電機では、上記のよう応力緩和磁束抑制孔を構成することにより、永久磁石が膨張することによる応力を緩和しながら、ステータのコイルに電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい状態の場合にも、永久磁石からの磁束が過大となるのを防止することが可能な回転電機を提供することができる。これにより、永久磁石からの磁束が過大となるのを防止することにより、磁束が過大となることに起因するロータまたはステータにおける鉄損の増大を防止し、ロータを回転させる際のエネルギー効率が低下するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、永久磁石が膨張することによる応力を緩和しながら、ステータのコイルに電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい状態の場合にも、永久磁石からの磁束が過大となるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態によるロータ(回転電機)の構成を軸方向に見た断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるロータの拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるロータの応力緩和溝および応力緩和磁束抑制孔の構成を説明するための図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるロータの磁気飽和に関して説明するための図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるロータの高負荷時における磁束に関して説明するための図である。
【
図6】比較例によるロータの無負荷・低負荷時における磁束に関して説明するための図である。
【
図7】比較例によるロータの高負荷時における磁束に関して説明するための図である。
【
図8】本発明の一実施形態の第1変形例によるロータの構成を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態の第2変形例によるロータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
[ロータコアの構造]
図1~
図5を参照して、本実施形態によるロータ1(回転電機100)の構造について説明する。
【0015】
本願明細書では、「軸方向」とは、ロータ1の回転軸線C1に沿った方向を意味し、図中のZ方向を意味する。また、「径方向」とは、ロータ1の径方向(矢印R1方向または矢印R2方向)を意味し、「周方向」は、ロータ1の周方向(矢印E1方向または矢印E2方向)を意味する。
【0016】
図1に示すように、回転電機100は、ロータ1とステータ2とを備える。また、ロータ1およびステータ2は、それぞれ、円環状に形成されている。そして、ロータ1は、ステータ2の径方向内側に対向して配置されている。すなわち、本実施形態では、回転電機100は、インナーロータ型の回転電機として構成されている。また、ロータ1の径方向内側には、シャフト3が配置されている。シャフト3は、ギア等の回転力伝達部材を介して、エンジン等に接続されている。たとえば、回転電機100は、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータとして構成されており、車両に搭載されるように構成されている。
【0017】
また、ロータ1は、複数の永久磁石4と、永久磁石4が配置される複数の磁石配置孔10を有するロータコア5とを含む。すなわち、回転電機100は、埋込永久磁石型モータ(IPMモータ:Interior Permanent Magnet Motor)として構成している。また、ステータ2は、ステータコア2aと、ステータコア2aに配置されたコイル2bとを含む。ステータコア2aは、たとえば、複数の電磁鋼板(珪素鋼板)が軸方向に積層されており、磁束を通過可能(
図4参照)に構成されている。コイル2bは、外部の電源部に接続されており、電力(たとえば、3相交流の電力)が供給されるように構成されている。そして、コイル2bは、電力が供給されることにより、磁界を発生させるように構成されている。また、ロータ1およびシャフト3は、コイル2bに電力が供給されない場合でも、エンジン等の駆動に伴って、ステータ2に対して回転するように構成されている。なお、
図1では、コイル2bの一部のみを図示しているが、コイル2bは、ステータコア2aの全周に亘って配置されている。
【0018】
(永久磁石の構成)
図2に示すように、永久磁石4は、たとえば、軸方向に見て、略長方形形状(たとえば、長方形形状)を有する。すなわち、永久磁石4は、軸方向に沿って側面が延びる直方体形状を有する。ここで、軸方向に見て、永久磁石4の短手方向をF方向とし、長手方向をG方向とする。たとえば、永久磁石4は、磁化方向(着磁方向)が短手方向となるように構成されている。
【0019】
ここで、永久磁石4の長手方向に沿った端面のうち、矢印F1方向側の端面を第1端面41とし、矢印F2方向側の端面を第2端面42とする。また、永久磁石4の短手方向に沿った端面のうち、矢印G1方向側の端面を第3端面43とし、矢印G2方向側の端面を第4端面44とする。ここで、永久磁石4の長手方向(第1端面41および第2端面42)の幅をW1とし、永久磁石4の短手方向(第3端面43および第4端面44)の幅をW2とする。すなわち、W1>W2である。
【0020】
また、永久磁石4の熱膨張係数K1は、ロータコア5の熱膨張係数K2と異なる。たとえば、ロータコア5は、加熱されることにより膨張する一方、永久磁石4は、加熱されることにより短手方向に収縮する(幅W2が小さくなる)。また、ロータコア5は、冷却されることにより収縮する一方、永久磁石4は、冷却されることにより短手方向に膨張する(幅W2が大きくなる)。これにより、ロータ1の製造時に、永久磁石4およびロータコア5が冷却された際に、永久磁石4の膨張に起因して、ロータコア5が永久磁石4によって押圧されて、ロータコア5に応力が生じる。
【0021】
図1に示すように、永久磁石4は、ロータコア5の各磁石配置孔10に配置(固定)されている。また、ロータ1には、複数の永久磁石4により、複数の磁極6が設けられている。たとえば、永久磁石4は、各磁極6に、2つずつ設けられている。
【0022】
(ロータコアの構成)
ロータコア5は、軸方向に見て、円環状に形成されている。たとえば、ロータコア5は、複数の電磁鋼板(珪素鋼板)が軸方向に積層されて形成されている。そして、ロータコア5は、磁束を通過可能(
図4参照)に構成されている。また、ロータコア5は、シャフト3に固定されており、ステータ2に対して、シャフト3と一体的に回転可能に構成されている。また、ロータコア5には、複数(永久磁石4の数と同数)の磁石配置孔10と、複数(永久磁石4の数と同数)の応力緩和磁束抑制孔20(以下、「孔20」とする)とが設けられている。
【0023】
(磁石配置孔の構成)
図1に示すように、本実施形態では、磁石配置孔10は、磁極6ごとに、軸方向に見て径方向外側に広がるV字状(ハの字形状)を有するように、一対設けられている。すなわち、一対の磁石配置孔10のうちの一方(矢印E1方向側)の磁石配置孔10aは、磁石配置孔10aの内部に配置される永久磁石4の短手方向(F方向)が磁極6の周方向中心線C2(d軸線)に交差するように形成されている。また、他方(矢印E2方向側)の磁石配置孔10bは、一方の磁石配置孔10aと周方向中心線C2に対して線対称となる位置に形成されている。また、磁石配置孔10aおよび10bは、それぞれ、略長方形形状を有するように形成されている。なお、以下の記載では、磁石配置孔10bの構成は、磁石配置孔10aを周方向中心線C2に対して線対称に形成したものであるため、説明を省略する。
【0024】
図2に示すように、磁石配置孔10aの短手方向側の内側面11aおよび11bは、直接または接着剤等を介して、永久磁石4に当接している。なお、内側面11aは、磁石配置孔10aの矢印F1方向側の内側面であり、内側面11bは、磁石配置孔10aの矢印F2方向側の内側面である。また、磁石配置孔10aの長手方向側の内側面12aおよび12bは、永久磁石4から空隙または接着剤(樹脂材)等を隔てて離れて配置されている。なお、内側面12aは、矢印G1方向側の内側面であり、内側面12bは、矢印G2方向側の内側面である。すなわち、内側面11aの幅W3および内側面11bの幅W4は、永久磁石4の幅W1よりも大きい一方、内側面12aの幅W5および内側面12bの幅W6は、永久磁石4の幅W2と略同一である。また、磁石配置孔10aの矢印G1方向側の部分には、磁束抑制部13aが設けられており、磁石配置孔10aの矢印G2方向側の部分には、磁束抑制部13bが設けられている。磁束抑制部13aおよび13bは、漏れ磁束(短絡磁束)を防止する機能を有する。
【0025】
ここで、本実施形態では、磁石配置孔10aには、孔20側に設けられているとともに、永久磁石4の長手方向側の第3端面43および第4端面44に短手方向に隣接する内側面11bの部分から短手方向の一方側(矢印F2方向)に窪むように形成され、永久磁石4の膨張により生じる応力を緩和させる応力緩和溝14aおよび14bが設けられている。なお、応力緩和溝14aは、磁石配置孔10aの矢印G1方向側の部分に設けられている。また、応力緩和溝14bは、磁石配置孔10aの矢印G2方向側の部分に設けられている。
【0026】
図3に示すように、応力緩和溝14aは、軸方向に見て、略U字状に形成されており、矢印G1方向側の内面114aと矢印G2方向側の内面214aとの距離(溝の幅)が変化することにより、永久磁石4の熱膨張および熱収縮を吸収する(応力を緩和させる)ように構成されている。具体的には、ロータ1が製造される際に、永久磁石4およびロータコア5が冷却される(加熱された状態から常温に戻される)ことにより、永久磁石4が幅W2aから幅W2に膨張し、永久磁石4がF方向(磁化方向)に磁石配置孔10の内側面11bを押圧する。これにより、内面114aよりも矢印G1方向側に設けられた内側面11bは、永久磁石4により短手方向に押圧されない一方、内面214aよりも矢印G2方向側に設けられた内側面11b(
図3の一点鎖線部分)は、永久磁石4により短手方向に押圧される。この場合、押圧されない内側面11bに隣接する矢印G1方向側の内面114aと、押圧される内側面11bに隣接する矢印G2方向側の内面214aとの距離が広がり、内側面11bが孔20側に移動することにより、永久磁石4が幅W2aから幅W2に膨張することに起因してロータコア5に生じる応力が低減される。また、応力緩和溝14bは、後述する第2磁束通路52の幅W12(
図2参照)を規定する。なお、応力緩和溝14bのその他の構成は、応力緩和溝14aと同様の構成のため、説明を省略する。
【0027】
(応力緩和磁束抑制孔の構成)
図2に示すように、本実施形態では、孔20は、軸方向に見て、長円形状(トラック形状)を有する。孔20の磁気抵抗は、ロータコア5の磁気抵抗よりも大きい。これにより、孔20は、配置されている位置において、磁束が通過するのを妨げる機能を有する。たとえば、孔20は、空隙により構成されている。
【0028】
また、本実施形態では、孔20は、軸方向に見て、ロータコア5において、磁石配置孔10よりも磁石配置孔10の短手方向の一方側(矢印F2方向側)の部分に設けられ、短手方向に見て、永久磁石4と磁石配置孔10の長手方向に重複するように形成され、永久磁石4により生じる磁束φ1(
図4参照)を抑制するように構成されている。言い換えると、孔20は、ロータコア5における磁束密度B1を制限する機能を有する。また、孔20は、磁石配置孔10よりも、磁石配置孔10の短手方向の一方側としての径方向内側に配置されている。
【0029】
図1に示すように、本実施形態では、孔20は、一対の磁石配置孔10の夫々の径方向内側に、一対設けられている。一対の孔20は、一対の磁石配置孔10の各々に配置された永久磁石4の長手方向の中心線C3よりも磁極6の周方向中心線C2側に寄った位置P1において、永久磁石4と長手方向に重複するように、それぞれ形成されている。具体的には、一対の孔20は、孔20aおよび孔20bからなる。孔20aは、磁石配置孔10aの短手方向の一方側(矢印F2方向側)に配置され、孔20bは、磁石配置孔10bの短手方向の一方側に配置されている。孔20aのG方向の中心を通る中心線C4は、永久磁石4の長手方向の中心位置を通る中心線C3よりも矢印G2方向側に設けられている。
【0030】
また、孔20aのうちの中心線C4よりも矢印G1方向側の部分を第1部分21とし、中心線C4よりも矢印G2方向側の部分を第2部分22とする。ここで、本実施形態では、孔20aは、第1部分21と磁石配置孔10との間の第1磁束通路51の最小幅W11と、第2部分22と磁石配置孔10との間の第2磁束通路52の最小幅W12との合計幅(W11+W12)が孔20aと永久磁石4との長手方向における重複長さL1よりも小さくなるとともに、永久磁石4の膨張により生じる応力を緩和させるように形成されている。また、孔20aは、合計幅(W11+W12)が、第1磁束通路51の長手方向の長さL21と第2磁束通路52の長手方向の長さL22との合計長さL2よりも小さくなるように構成されている。また、第1磁束通路51の長手方向の長さL21は、第1磁束通路51の矢印G1方向側の端部111bと孔20aのG方向の中心を通る中心線C4とのG方向に沿った距離に対応する。また、第2磁束通路52の長手方向の長さL22は、第2磁束通路52の矢印G2方向側の端部114bと孔20aのG方向の中心を通る中心線C4とのG方向に沿った距離に対応する。すなわち、合計長さL2は、端部111bと端部114bとのG方向に沿った距離に対応する。なお、孔20bは、孔20aと同様に構成されているため、説明を省略する。また、第1部分21は、特許請求の範囲の「一方側の部分」の一例である。また、第2部分22は、特許請求の範囲の「他方側の部分」の一例である。
【0031】
ここで、第1磁束通路51の最小幅W11は、第1部分21と磁石配置孔10の内側面11b(輪郭線)との最小距離に対応する。また、第2磁束通路52の最小幅W12は、第2部分22と応力緩和溝14bとの最小距離に対応する。そして、上記最小幅W11となる第1磁束通路51の部分を形成する第1部分21の矢印G1方向側の点(輪郭線上の点)を、端部21aとする。また、上記最小幅W11となる第1磁束通路51の部分を形成する磁石配置孔10の矢印G1方向側の点(輪郭線上の点)を、端部111bとする。また、上記最小幅W12となる第2磁束通路52の部分を形成する第2部分22の矢印G2方向側の点(輪郭線上の点)を、端部22aとする。また、上記最小幅W12となる第2磁束通路52の部分を形成する磁石配置孔10(応力緩和溝14b)の矢印G2方向側の点(輪郭線上の点)を、端部114bとする。
【0032】
言い換えると、本実施形態では、孔20は、第2磁束通路52の最小幅W12が孔20と応力緩和溝14bとの距離となるロータコア5の位置に設けられている。また、最小幅W12は、第2部分22の応力緩和溝14b側の端部22aと、応力緩和溝14bの第2部分22側の端部114bとの距離である。また、孔20の矢印F1方向の内側面23aと矢印F2方向の内側面23bとは略平行に形成されており、内側面23aと内側面23bとの幅をW7とする。たとえば、幅W7は、永久磁石4の幅W2よりも小さい。
【0033】
ここで、第1磁束通路51とは、永久磁石4のうちの第1磁束通路51および第2磁束通路52と短手方向に見て重複する領域A1(部分)の矢印F2方向側の面42aに孔20の矢印G1方向側から磁束φ1が入るか、または、領域A1の面42aから孔20の矢印G1方向側に磁束φ1が出るためのロータコア5上の磁束φ1の経路を意味する。また、第2磁束通路52とは、領域A1の面42aに孔20の矢印G2方向側から磁束φ1が入るか、または、領域A1の面42aから孔20の矢印G2方向側に磁束φ1が出るためのロータコア5上の磁束φ1の経路を意味する。なお、永久磁石4は、永久磁石4の領域A1よりも矢印G1方向側の永久磁石4の領域である領域A2と、矢印G2方向側の永久磁石4の領域である領域A3とにおいても、磁束を生じる機能を有する。すなわち、本実施形態では、端部111bおよび端部114bは、短手方向に見て、永久磁石4に重複する位置に設けられている。
【0034】
また、孔20は、長手方向に沿った長さL1が永久磁石4の長手方向に沿った長さW1以下となるように形成されている。詳細には、長さL1とは、孔20の矢印G1方向側の端部21bと、孔20の矢印G2方向側の端部22bとの距離である。
【0035】
また、本実施形態では、孔20の端部21bおよび端部22bは、F方向に見て、それぞれ、永久磁石4に重複する位置に設けられている。すなわち、孔20は、孔20の全体が、F方向に見て、永久磁石4と重複する位置に配置されている。また、端部21bおよび端部114bは、F方向に見て、それぞれ、永久磁石4に重複する位置に設けられている。すなわち、第1磁束通路51および第2磁束通路52は、第1磁束通路51および第2磁束通路52の全体が、F方向に見て、永久磁石4と重複する位置に配置されている。
【0036】
図4に示すように、本実施形態では、孔20は、合計幅(W11+W12)が合計長さL2よりも小さいことにより、第1磁束通路51および第2磁束通路52のうちの少なくとも一方(好ましくは、第1磁束通路51および第2磁束通路52の両方)において、磁気飽和が生じるように構成されている。ここで、磁気飽和(磁気飽和現象)とは、通過する磁束の磁束密度が飽和磁束密度Bmとなり、通過する磁束の量が磁界の大きさに比例しない状態となる現象を意味するものとする。すなわち、第1磁束通路51および第2磁束通路52を通過する磁束φ1の磁束密度B1は、飽和磁束密度Bmを超えない大きさになる。言い換えると、第1磁束通路51および第2磁束通路52では、磁束密度B1は、飽和磁束密度Bmに制限される。
【0037】
図5に示すように、孔20は、第1磁束通路51および第2磁束通路52における飽和磁束密度Bmがコイル2bに電力が供給されている状態(高負荷時)における永久磁石4により生じる磁束φ2の磁束密度B2よりも大きくなるように、構成されている。すなわち、高負荷時においては、第1磁束通路51および第2磁束通路52では、磁気飽和しないようにロータ1が構成されている。
【0038】
また、本実施形態では、
図3に示すように、孔20は、永久磁石4の幅W2aから幅W2への膨張により生じる応力を緩和させるように形成されている。具体的には、永久磁石4が幅W2aから幅W2に膨張することによって、ロータコア5のうちの応力緩和溝14aおよび14bの間の部分53が、孔20側(矢印F2方向側)に押圧される。そして、孔20は、幅W7aから幅W7に小さくなる(変形する)ことにより、押圧された応力緩和溝14aおよび14bの間の部分53を矢印F2方向に移動させて、部分53の応力を低減するように構成されている。
【0039】
[ロータの磁束の発生に関する説明]
次に、
図4~
図7を参照して、本実施形態によるロータ1の磁束の発生に関する説明を、比較例によるロータの磁束の発生と比較しながら行う。なお、比較例によるロータは、本実施形態によるロータ1において、ロータコア5の孔20に対応する部分に孔部が形成されていない構成である。
【0040】
(コイルに電力が供給されていない場合:無負荷・低負荷時)
図4に示すように、コイル2bに電力が供給されないかまたは供給された電力が比較的小さい場合(無負荷・低負荷時)には、本実施形態によるロータ1では、一の磁極6の永久磁石4から磁束φ1が生じる。そして、磁束φ1は、永久磁石4よりも径方向外側(矢印F1方向側)のロータコア5の部分を通過し、ロータ1の外周面5aとステータコア2aとの空隙、ステータコア2aのティースおよびバックヨークを経由して、他の磁極6のロータコア5の部分に径方向外側から入る。この時、磁束φ1は、ステータ2のコイル2bには電力が供給されていないかまたは供給された電力が比較的小さいため、高負荷時における磁束φ2よりも大きくなる。そして、磁束φ1は、他の磁極6の永久磁石4に径方向外側から入り、永久磁石4の径方向内側から出る。ここで、永久磁石4の径方向内側には孔20が設けられており、磁束φ1は、第1磁束通路51および第2磁束通路52を通過する。この時、第1磁束通路51および第2磁束通路52における磁束密度B1は、飽和磁束密度Bmとなる。そして、磁束φ1は、一の磁極6の永久磁石4に戻る。
【0041】
図6に示すように、無負荷・低負荷時、比較例によるロータでは、一の磁極の永久磁石から出た磁束φ3は、永久磁石よりも径方向外側(矢印F1方向側)のロータコアの部分を通過し、ステータコアのティースおよびバックヨークを経由して、他の磁極のロータコアの部分に径方向外側から入る。この時、磁束φ3は、ステータのコイルには電力が供給されていないかまたは供給された電力が比較的小さいため、高負荷時における磁束φ4よりも大きくなる。そして、磁束φ3は、他の磁極の永久磁石に径方向外側から入り、永久磁石の径方向内側から出る。そして、他の磁極の永久磁石から出た磁束φ3は、ロータコアの磁気経路を経由して、一の磁極の永久磁石に戻る。この時、ロータコアの磁気経路では、磁気飽和は生じずに、本実施形態における磁束φ1よりも、比較例による磁束φ3が大きくなる。したがって、本実施形態によるロータ1では、比較例のロータに比べて、鉄損が低減されている。
【0042】
(コイルに電力が供給されている場合:高負荷時)
図5に示すように、コイル2bに電力が供給されている場合、本実施形態によるロータ1における磁束φ2は、コイル2bに電力が供給されていない場合と異なり、コイル2bにより発生される磁界Hによって、磁束φ1よりも小さくなる。ここで、磁束φ2は、飽和磁束密度Bmよりも小さいため、第1磁束通路51および第2磁束通路52において磁気飽和は生じない。
【0043】
比較例によるロータでは、コイル2bに電力が供給されている場合、コイル2bにより発生される磁界によって、磁束φ3(磁束密度B3)よりも小さい磁束φ4(磁束密度B4)となる。ここで、本実施形態によるロータ1、および、比較例のロータでは共に、磁気飽和は生じないため、磁束φ2(磁束密度B2)と磁束φ4(磁束密度B4)とは略等しい大きさになる。すなわち、本実施形態によるロータ1では、コイルに電力が供給されている場合(高負荷時)においては、孔20による磁束を抑制する機能の影響を略受けていない。
【0044】
[上記実施形態の効果]
上記実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0045】
上記実施形態では、磁石配置孔(10)の短手方向の一方側に設けられ、永久磁石(4)の膨張により生じる応力を緩和させるとともに、永久磁石(4)により生じる磁束を抑制する応力緩和磁束抑制孔(20)を、第1磁束通路(51)の最小幅(W11)と第2磁束通路(52)の最小幅(W12)との合計幅(W11+W12)が第1磁束通路(51)の長手方向の長さ(L21)と第2磁束通路(52)の長手方向の長さ(L22)との合計長さ(L2)よりも小さくなるように形成する。これにより、ロータ(1)が製造される際に、永久磁石(4)がロータコア(5)に対して膨張した場合にも、永久磁石(4)の膨張により生じる応力を緩和させることができる。そして、応力緩和磁束抑制孔(20)により、永久磁石(4)の膨張により生じる応力を緩和させながら、この応力緩和磁束抑制孔(20)により、永久磁石(4)のうちの上記合計長さ(L2)に対応する面(42a)に対して入るかまたは出る磁束(φ1、φ2)が通過する第1磁束通路(51)および第2磁束通路(52)の幅(W11、W12)を、制限することができる。このように、幅(W11、W12)が制限された第1磁束通路(51)および第2磁束通路(52)では、通過する磁束が多くなる場合に磁気飽和が生じるので、通過する磁束の量を制限することができ、通過する磁束が過大になるのを防止することができる。この結果、永久磁石(4)の膨張により生じる応力を緩和させながら、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい状態の場合にも、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを防止することができる。
【0046】
そして、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給される場合(高負荷時)には、ステータ(2)のコイル(2b)が発生させる磁界により、永久磁石(4)が発生させる磁束の量が減少する(磁石動作点が低下する)ので、応力緩和磁束抑制孔(20)により第1磁束通路(51)および第2磁束通路(52)の幅が制限されている場合でも、第1磁束通路(51)および第2磁束通路(52)において磁気飽和しにくいので、ロータ(1)としての性能が低下するのを防止することができる。これらの結果、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給される場合(高負荷時)には、ロータ(1)としての性能が低下するのを防止しながら、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい場合(無負荷または低負荷時)には、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを防止することができる。
【0047】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔(20)を、永久磁石(4)の膨張により生じる応力を緩和させるように形成する。これにより、ロータ(1)が製造される際に、永久磁石(4)がロータコア(5)に対して膨張した場合にも、応力緩和磁束抑制孔(20)により永久磁石(4)が膨張することによる応力を緩和させることができる。この結果、永久磁石(4)が膨張することによる応力を緩和しながら、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給されないかまたは供給される電力が比較的小さい状態の場合にも、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを防止することができる。そして、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを防止することにより、磁束が過大となることに起因するロータ(1)またはステータ(2)における鉄損の増大を防止し、ロータ(1)を回転させる際のエネルギー効率が低下するのを防止することができる。
【0048】
また、上記実施形態では、ロータコア(5)は、コイル(2b)を有するステータ(2)に対して径方向に対向して配置されており、応力緩和磁束抑制孔(20)は、合計幅(W11+W12)が合計長さ(L2)よりも小さいことにより、第1磁束通路(51)または第2磁束通路(52)のうちの少なくとも一方において、磁気飽和が生じるように構成されている。このように構成すれば、第1磁束通路(51)または第2磁束通路(52)のうちの少なくとも一方において、磁気飽和が生じるので、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給されないかまたは供給された電力が比較的小さい状態の場合に、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのをより確実に防止することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、ロータコア(5)は、ステータ(2)よりも径方向内側に配置されており、応力緩和磁束抑制孔(20)は、磁石配置孔(10)よりも、磁石配置孔(10)の短手方向の一方側としての径方向内側に配置されている。ここで、磁石配置孔の短手方向のうちの他方側(ステータ側であり径方向外側)の磁束通路は、ステータのコイルに電力が供給される際(高負荷時)に磁束が通過する通路として使用される。このため、応力緩和磁束抑制孔を、磁石配置孔の短手方向のうちの他方側に設けた場合には、ステータのコイルに電力が供給される際にも、磁束の量が制限されてしまう場合が生じ、回転電機のエネルギー効率が低下すると考えられる。これに対して、上記実施形態のように、応力緩和磁束抑制孔(20)を、磁石配置孔(10)よりも磁石配置孔(10)の径方向内側(ステータ(2)とは反対側)に配置すれば、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給されない場合には、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを防止しながら、ステータ(2)のコイル(2b)に電力が供給される場合には、磁束の量が制限されるのを防止して、回転電機(100)のエネルギー効率が低下するのを防止することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔(20)の長手方向に沿った長さ(L1)が永久磁石(4)の長手方向に沿った長さ(W1)以下である。このように構成すれば、応力緩和磁束抑制孔(20)が必要以上に大型化しない分、応力緩和磁束抑制孔(20)を設ける場合でもロータコア(5)の機械的強度が低下するのを防止することができる。
【0051】
また、上記実施形態では、第1磁束通路(51)の最小幅(W11)となる第1磁束通路(51)の部分を形成する磁石配置孔(10)の長手方向の一方側の端部(111b)、および、第2磁束通路(52)の最小幅(W12)となる第2磁束通路(52)の部分を形成する磁石配置孔(10、14)の長手方向の他方側の端部(114b)は、短手方向に見て、それぞれ、永久磁石(4)に重複する位置に設けられている。ここで、永久磁石は短手方向に膨張するので、応力緩和磁束抑制孔の第1磁束通路および第2磁束通路の最小幅をとなる部分の一部が永久磁石と重複しない位置に配置される場合には、永久磁石と重複しない位置に配置された第1磁束通路および第2磁束通路の最小幅をとなる部分の一部では、永久磁石が膨張することに起因する応力を緩和させる機能が低下すると考えられる。これに対して、上記実施形態のように構成すれば、短手方向に見て、応力緩和磁束抑制孔(20)の第1磁束通路(51)および第2磁束通路(52)の最小幅(W11、W12)をとなる部分の全体が永久磁石(4)に重複する位置に配置される状態となるので、応力緩和磁束抑制孔の第1磁束通路(51)および第2磁束通路(52)の最小幅(W11、W12)をとなる部分の一部が永久磁石と重複しない位置に配置される場合と異なり、応力を緩和させる機能が低下するのを防止しながら、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを効果的に防止することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、磁石配置孔(10)には、応力緩和磁束抑制孔(20)側に設けられているとともに、永久磁石(4)の長手方向の端部(43、44)に短手方向に隣接する位置から短手方向の一方側に窪むように形成され、永久磁石(4)の膨張により生じる応力を緩和させる応力緩和溝(14a、14b)が設けられている。このように構成すれば、応力緩和溝(14a、14b)を磁石配置孔(10)に設ける場合でも、応力を緩和させる機能を有する応力緩和磁束抑制孔(20)を設けることにより、応力緩和溝(14a、14b)が大型化するのを防止することができる。すなわち、応力緩和溝(14a、14b)と、応力を緩和させる機能を有する応力緩和磁束抑制孔(20)とにより、永久磁石(4)が膨張することによる応力を効果的に緩和させることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔(20)は、第1磁束通路(51)の最小幅(W11)または第2磁束通路(52)の最小幅(W12)のうちの少なくとも一方が応力緩和磁束抑制孔(20)と応力緩和溝(14a、14b)との距離(W12)となるロータコア(5)の位置に設けられている。このように構成すれば、応力緩和溝(14a、14b)に、永久磁石(4)が膨張することによる応力を緩和させる機能と、第1磁束通路(51)または第2磁束通路(52)における磁束の量を制限する機能との両方を兼ね備えさせることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、ロータコア(5)は、ステータ(2)よりも径方向内側に配置されており、ロータコア(5)には、磁極(6)ごとに、軸方向に見て径方向外側に広がるV字状を有する一対の磁石配置孔(10)が設けられており、応力緩和磁束抑制孔(20)は、一対の磁石配置孔(10)の夫々の径方向内側に、一対設けられており、一対の応力緩和磁束抑制孔(20)は、一対の磁石配置孔(10)の各々に配置された永久磁石(4)の長手方向の中心位置(C3)よりも磁極(6)の周方向中心(C2)に寄った位置において、永久磁石(4)と長手方向に重複するように、それぞれ形成されている。ここで、ロータコア(5)の径方向外側(ステータ(2)側)の部分では、比較的大きな荷重が生じるため、応力緩和磁束抑制孔(20)を設ける場合、ロータコア(5)の径方向内側(ステータ(2)とは反対側)に設けることが好ましい。また、V字状を有する一対の磁石配置孔が設けられた磁極の周方向外側に応力緩和磁束抑制孔を設ける場合には、周方向に隣接する磁極の応力緩和磁束抑制孔同士が、径方向外側において周方向に近接すると考えられる。このため、ロータコアのうちの応力緩和磁束抑制孔同士の周方向の間の部分の幅が比較的小さくなり、ロータコアの機械的強度が低下すると考えられる。これらの点を考慮して、上記実施形態のように一対の応力緩和磁束抑制孔(20)を、一対の磁石配置孔(10)の各々に配置された永久磁石(4)の長手方向の中心位置(C3)よりも磁極(6)の周方向中心(C2)に寄った位置(P1)に配置すれば、磁極の周方向外側でかつ径方向外側に寄った位置に一対の応力緩和磁束抑制孔が配置される場合と異なり、周方向に隣り合う磁極(6)に配置された応力緩和磁束抑制孔(20)同士が、ロータコア(5)の径方向外側の部分において周方向に近接するのを防止することができる。この結果、ロータコア(5)の機械的強度が低下するのを防止しながら、永久磁石(4)からの磁束が過大となるのを防止することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔(20)は、軸方向に見て、長円形状を有する。このように構成すれば、長円形状には、比較的応力集中が生じやすい角部が形成されないので、ロータコア(5)の機械的強度を向上させることができる。
【0056】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0057】
(第1変形例)
たとえば、上記実施形態では、1つの磁極ごとに一対のV字状の磁石配置孔を設けるとともに、一対の応力緩和磁束抑制孔を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図8に示す第1変形例によるロータ201のように、1つの磁極ごとに、1つの磁石配置孔210と、1つの応力緩和磁束抑制孔220を設けてもよい。具体的には、ロータ201のロータコア205には、径方向に短手方向が平行になるように永久磁石204が磁石配置孔210に配置されている。また、ロータコア205には、磁石配置孔210の径方向内側において、短手方向に見て、永久磁石204と磁石配置孔210の長手方向に重複するように形成された応力緩和磁束抑制孔220が設けられている。
【0058】
(第2変形例)
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔の全体が永久磁石と磁石配置孔の長手方向に重複するように、ロータコアを形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図9に示す第2変形例によるロータ301のように、応力緩和磁束抑制孔320の一部が永久磁石304と重複するようにロータコア305が形成されていてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔の長手方向に沿った長さを、永久磁石の長手方向に沿った長さ以下にする例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、
図9に示す第2変形例によるロータ301のように、応力緩和磁束抑制孔320の長手方向に沿った長さを、永久磁石304の長手方向に沿った長さよりも大きくなるように、ロータコア305を構成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔の長手方向の両端部を、短手方向に見て、それぞれ、永久磁石に重複する位置に設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、
図9に示す第2変形例によるロータ301のように、応力緩和磁束抑制孔の長手方向の両端部を、短手方向に見て、それぞれ、永久磁石に重複しない位置(長手方向の外側の位置)に配置してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、磁石配置孔に、応力緩和溝を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、
図9に示す第2変形例によるロータ301のように、磁石配置孔310に、応力緩和磁束抑制孔320により十分に応力を緩和させることが可能な場合には、応力緩和溝を設けなくてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、第2磁束通路の最小幅が応力緩和磁束抑制孔と応力緩和溝との距離となるように、応力緩和磁束抑制孔を形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図9に示す第2変形例によるロータ301のように、第2磁束通路352の最小幅が、応力緩和磁束抑制孔320と応力緩和溝とは異なる磁石配置孔310の内側面との距離となるように、応力緩和磁束抑制孔320を形成してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、応力緩和磁束抑制孔を軸方向に見て長円形状を有するように形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図9に示す第2変形例によるロータ301のように、応力緩和磁束抑制孔320を、矩形形状を有するように形成してもよい。
【0064】
(他の変形例)
また、上記実施形態では、回転電機をインナーロータ型の回転電機として構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、回転電機をアウターロータ型の回転電機として構成してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、永久磁石を、冷却することにより短手方向に膨張するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、永久磁石の熱膨張係数がロータコアの熱膨張係数と異なる値であれば、永久磁石を加熱することにより短手方向に膨張するように構成してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、ロータコアおよびステータコアを、珪素鋼板を積層することにより構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロータコアおよびステータコアを、磁性体粉末等を加圧成形することにより構成してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、無負荷または低負荷状態の場合において、第1磁束通路および第2磁束通路の両方が磁気飽和するように構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、無負荷または低負荷状態の場合において、第1磁束通路または第2磁束通路のうちのいずれか一方のみが磁気飽和するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1、201、301 ロータ 2 ステータ
2b コイル 4、204、304 永久磁石
5、205、305 ロータコア 6 磁極
10、10a、10b、210、310 磁石配置孔
14a、14b 応力緩和溝
20、20a、20b、220、320 孔(応力緩和磁束抑制孔)
21 第1部分(一方側部分)
21b、22b 端部(応力緩和磁束抑制孔の長手方向の両端部)
22 第2部分(他方側部分) 43、44 端面(永久磁石の長手方向の端部)
51 第1磁束通路 52、352 第2磁束通路
100 回転電機
111b 端部(第1磁束通路の最小幅となる第1磁束通路の部分を形成する磁石配置孔の長手方向の一方側の端部)
114b 端部(第2磁束通路の最小幅となる第2磁束通路の部分を形成する磁石配置孔の長手方向の他方側の端部)