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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】振動検出可能な防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20230301BHJP
   B61F 5/30 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F16F15/08 E
B61F5/30 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019106984
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020200867
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】間々田 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 研
(72)【発明者】
【氏名】竹中 宏行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩史
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-178991(JP,A)
【文献】特開2016-172462(JP,A)
【文献】特開2000-241262(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098091(WO,A1)
【文献】特開昭53-72591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/080-15/08
B61F 5/30
H10N 30/00-39/00
G01L 1/00-1/26
G01L 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の走行振動を吸収する防振用ゴム部材を備える防振装置であって、
前記防振装置は、圧電センサーと防振用ゴム部材とを有し、
前記圧電センサーは、
圧電体及び電極を有する圧電素子と、
前記電極の一部に形成された接続部と、
前記接続部に接続された引出し線と、
前記圧電素子及び前記引出し線の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、
前記被覆層は、熱硬化性エラストマー組成物を加硫成形した層であり、かつ、前記防振用ゴム部材に埋設された埋設部と、前記防振用ゴム部材から突出する突出部とからなり、
前記防振用ゴム部材は、前記被覆層に被覆された前記圧電素子及び前記引出し線の少なくとも一部を内部に埋設するとともに、前記被覆層と同一種類の熱硬化性エラストマー組成物を用いて前記埋設部と一体に加硫成形したことを特徴とする、振動検出可能な防振装置。
【請求項2】
前記圧電素子及び前記接続部は、アルミニウム部材と、当該アルミニウム部材の少なくとも一方の面を被覆するフッ素樹脂被覆と、から成る保護層で被覆され、
前記被覆層は、前記保護層を被覆することを特徴とする、請求項1に記載の振動検出可能な防振装置。
【請求項3】
前記圧電体と前記電極との間に導電性ゴムを配置することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の振動検出可能な防振装置。
【請求項4】
金属製の接着用プレートをさらに有し、
前記防振用ゴム部材は、前記接着用プレートの表面に接着され、
前記圧電センサーは、前記接着用プレートの表面近傍に配置されることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の振動検出可能な防振装置。
【請求項5】
前記被覆層は、前記突出部に凸部を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の振動検出可能な防振装置。
【請求項6】
前記防振装置は、前記鉄道車両用の歯車箱の吊り装置に搭載されることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の振動検出可能な防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の走行振動を吸収する防振用ゴム部材を備える、振動検出可能な防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の状態を判定する車両状態判定装置として、鉄道車両の軸箱の振動を抑える防振ゴムに内蔵された圧電ゴム部が防振ゴムに作用する荷重に応じて出力する電気信号に基づいて、鉄道車両の状態を判定する装置が知られている(特許文献1)。この車両状態判定装置では、振動を圧電効果によって電気信号に変換する圧電ゴム部が防振ゴムに内蔵される。
【0003】
このような車両状態判定装置にあっては、圧電ゴム部をゴム材料中に配置した状態で防振ゴムを加硫成形するため、加硫成形時のゴムの流動によって、圧電ゴム部と引き出し線との接続部が断線したり、防振ゴム内における圧電ゴム部の位置がずれたりすることで、検出荷重の信頼性を低下させることがあった。
【0004】
そこで、防振ゴムの加硫成形時の断線や位置ずれを防止するため、2つのゴム部材の一方のゴム部材に形成した収容部に圧電センサーを収納した後、2つのゴム部材を嵌め合わせて防振装置を形成する装置が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-178991号公報
【文献】特開2016-172462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の装置は、2つのゴム部材の一方のゴム部材に形成した凹部に圧電センサーを配置しているため、圧電センサーを完全に固定することが難しい。そのため、振動の成分を圧電センサーで正確に検出できないことがあり、また、圧電センサーの電極と引出し線の接続部に、圧電センサーの横移動による応力が加わることで断線が発生する可能性があるため、装置の信頼性を低下させるおそれがある。さらに、2つのゴム部材を嵌め合わせていることに起因して、圧縮時にゴム部材の横方向への変形が大きくなる傾向があり、装置の信頼性の向上と合わせて、装置自体の耐久性についてもさらなる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る振動検出可能な防振装置の一態様は、
鉄道車両の走行振動を吸収する防振用ゴム部材を備える防振装置であって、
前記防振装置は、圧電センサーと防振用ゴム部材とを有し、
前記圧電センサーは、
圧電体及び電極を有する圧電素子と、
前記電極の一部に形成された接続部と、
前記接続部に接続された引出し線と、
前記圧電素子及び前記引出し線の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、
前記被覆層は、熱硬化性エラストマー組成物を加硫成形した層であり、かつ、前記防振用ゴム部材に埋設された埋設部と、前記防振用ゴム部材から突出する突出部とからなり、
前記防振用ゴム部材は、前記被覆層に被覆された前記圧電素子及び前記引出し線の少なくとも一部を内部に埋設するとともに、前記被覆層と同一種類の熱硬化性エラストマー組成物を用いて前記埋設部と一体に加硫成形したことを特徴とする。
【0009】
[2]上記防振装置の一態様において、
前記圧電素子及び前記接続部は、アルミニウム部材と、当該アルミニウム部材の少なくとも一方の面を被覆するフッ素樹脂被覆と、から成る保護層で被覆され、
前記被覆層は、前記保護層を被覆してもよい。
【0010】
[3]上記防振装置の一態様において、
前記圧電体と前記電極との間に導電性ゴムを配置してもよい。
【0011】
[4]上記防振装置の一態様において、
金属製の接着用プレートをさらに有し、
前記防振用ゴム部材は、前記接着用プレートの表面に接着され、
前記圧電センサーは、前記接着用プレートの表面近傍に配置してもよい。
【0012】
[5]上記防振装置の一態様において、
前記被覆層は、前記突出部に凸部を有してもよい。
【0013】
[6]上記防振装置の一態様において、
前記防振装置は、前記鉄道車両用の歯車箱の吊り装置に搭載されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る振動検出可能な防振装置によれば、圧電センサーの電極に形成された接続部を被覆層により被覆することで、防振用ゴム部材の加硫成形時に引出し線の断線を防止することで、防振装置自体の信頼性を向上することができる。さらに、同一種類の熱硬化性エラストマー組成物を加硫成形して、被覆層に覆われた圧電センサーと防振用ゴム部材とを同一種類の熱硬化性エラストマー組成物で一体に加硫成形することにより、防振装置の耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】防振装置を備える鉄道車両を模式的に示す側面図である。
図2】防振装置を備える鉄道車両を模式的に示す平面図である。
図3】歯車箱を支持する吊り装置を模式的に示す拡大側面図である。
図4】防振装置の断面図である。
図5】圧電センサーの一実施例の側面図である。
図6】圧電センサーの他の実施例の側面図である。
図7】防振装置の図4におけるA-A断面の模式図である。
図8】防振装置の図7におけるB-B断面の模式図である。
図9】防振装置の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0017】
1.鉄道車両
図1図3を用いて鉄道車両1について説明する。図1は防振装置2を備える鉄道車両1を模式的に示す側面図であり、図2は防振装置2を備える鉄道車両1を模式的に示す平面図であり、図3は歯車箱18を支持する吊り装置20を模式的に示す側面図である。なお、図2では車体10を省略し、図3は歯車箱18の吊り装置の拡大模式図である。
【0018】
図1及び図2に示す鉄道車両1は、軌道に沿って走行する車両である。鉄道車両1は、車体10と、車体10を支持する台車枠12と、台車枠12に軸箱等を介して回転自在に取り付けられる車輪16と、車輪16を駆動する電動機15及び歯車箱18と、を備える。台車枠12は、衝撃を緩和する軸ばね14を介して車輪16に支持される。台車枠12に取り付けられた電動機15の回転力は、可撓継手17を介して歯車箱18内の2つの歯車19a、19b(図3)を経由して車輪16へ伝達される。
【0019】
図3に示すように、歯車箱18は、吊り装置20を介して台車枠12に支持される。吊り装置20は、振動検出可能な防振装置2を搭載する。吊り装置20に組み付けられる防振装置2は、防振用ゴム部材5と、後述する圧電センサー3を有する。
【0020】
そして、吊り装置20は、上下に延びる吊りロッド22を備え、吊りロッド22には、4つの防振装置2が取り付けられ、その後、吊り装置20が歯車箱18のフランジ26および台車枠12のフランジ24に組み付けられる。
【0021】
ここで、防振装置2を構成する圧電センサー3は吊り装置20に作用する振動を検出し、防振用ゴム部材5は、歯車箱18の振動を抑え振動の伝達を防止するとともに、台車枠12に発生する衝撃的な振動を緩和して騒音等の発生を防止する。なお、吊り装置20を構成する4つの防振装置2は、台車枠12および歯車箱18のフランジ24、26に組み付けられる際に、金属板(図示せず)を介してボルトで締め付けることで予圧縮が与えられる。なお、防振装置2は、環状の板状部材である。また、防振装置2は、台車枠12のフランジ24のみに用いてもよい。これは、台車枠12からの振動が歯車箱18からの振動よりも大きいためである。
【0022】
このように、防振装置2を歯車箱18の吊り装置20に組付けることにより、上述の特許文献1,2のような車輪16と台車枠12との間に取り付けられた圧電センサーに比べて、防振装置2内の圧電センサーに入力される最大加速度を小さくできるため、圧電センサーの断線が抑制され、防振装置2の信頼性を向上することができる。
【0023】
2.防振装置
図4図8を用いて本実施形態に係る振動検出可能な防振装置2について説明する。図4は防振装置2の断面図であり、図5は圧電センサー3の一実施例の側面図であり、図6は圧電センサー3の他の実施例の側面図であり、図7は防振装置2の図4におけるA-A断面の模式図であり、図8は防振装置2の図7におけるB-B断面の模式図である。
【0024】
図4に示す防振装置2は、圧電センサー3と、圧電センサー3を埋設する防振用ゴム部材5と、接着用プレート50と、を有する。防振装置2は、圧電センサー3を複数有してもよく、例えば、1つの環状の防振装置2内に、円周上に等間隔に配置した4個の圧電センサー3を有してもよい。また、防振装置2は、防振用ゴム部材5の下面に接着する接着用プレート50をさらに備える。防振装置2は、中心に吊りロッド22(図3)を挿通する貫通孔56を有する環状部材である。防振装置2は、その側面から圧電センサー3の一部及び被覆層4の一部が突出する。
【0025】
図5図8に示すように、圧電センサー3は、圧電体300及び電極302を有する圧電素子30と、電極302の一部に形成された接続部34と、接続部34に接続された引出し線32と、圧電素子30及び引出し線32の少なくとも一部を被覆する被覆層4と、を有する。圧電体300と電極302との間に導電性ゴム301を配置してもよい。圧電素子30は、図5の下から電極302、導電性ゴム301、圧電体300、導電性ゴム301、電極302の積層構造である。
【0026】
なお、圧電センサー3の寸法、材質等は、仕様により適宜に設定される。圧電センサー3は、少なくとも電極302、圧電素子30及び接続部34が防振用ゴム部材5に埋設可能な大きさである。また、圧電センサー3は、例えば略円板状である。
【0027】
圧電体300は、例えば円板状である。圧電体300の材質は、圧電性を示す材質であれば限定されないが、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)及びニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)のようなペロブスカイト型の結晶構造を呈する酸化物が挙げられる。またこれらの化合物に他の元素がさらに添加されていてもよい。
【0028】
電極302は、導電性ゴム301を介して圧電体300と電気的に接続する。図7に示すように、電極302は、圧電体300と同じ大きさの円板状の部分と、接続部34が形成される略半円形に突出する部分とで構成される。電極302,302は、例えば、互いに平行になるように圧電体300の両面に導電性ゴム301を挟んで積層して形成される金属板である。電極302は、例えば圧延鋼板である。また、例えば、電極302は、金属、金属酸化物又はカーボンなどの導電性材料を蒸着、シルクスクリーン印刷又はイオンスパッタリングなどの方法によって導電性ゴム301の表面に形成したり、導電性材料を含有する樹脂又は導電性高分子などの導電性樹脂を圧電体300の両面に多層化して形成してもよい。導電性ゴム301を電極302と圧電体300との間に配置することにより、導電性ゴム301が一種の緩衝部材として機能することで、圧電体300に均一な力が加わるとともに、圧電体300全面から電気信号を取り出せるため、圧電センサー3からの電気信号の出力が向上する。
【0029】
引出し線32は、接続部34で電極302に接続する。引出し線32は、導電材の表面を絶縁材によって被覆した導電線であって、圧電体300から出力された電気信号(荷重検出信号)を電極302から取り出すための信号線である。引出し線32は、例えばフッ素樹脂被覆線である。
【0030】
接続部34は、電極302と引出し線32とを電気的及び機械的に接続する。また、接続部34には、直接引出し線32を接続してもよいし(図5)、圧着端子35を介して、引出し線32を電極302の一部に形成された接続部34に接続してもよい(図6)。なお、圧着端子35は任意の形状を採ることができるが、引出し線32の断線を防止するためには、圧着端子35は防振用ゴム部材5の内部に埋設する必要がある。
【0031】
図7及び図8に示すように、圧電素子30及び接続部34は、後述するようにアルミニウム部材をフッ素系樹脂で被覆した保護層36で被覆される。保護層36は、接続部34から延びる引出し線32の少なくとも一部を被覆してあればよい。被覆層4は、保護層36の外側をさらに被覆する。
【0032】
保護層36は、圧電素子30を挟んで、その両側に、フッ素系樹脂のフッ素樹脂被覆360、アルミニウム部材362、及びフッ素樹脂被覆364を備える。図7に示すように、フッ素樹脂被覆360、アルミニウム部材362、及びフッ素樹脂被覆364は円筒状(袋状)シートであり、圧電素子30及び電極302,302(接続部34を含む)をすべて覆い、さらに引出し線32の少なくとも一部を覆う。フッ素樹脂被覆360、アルミ
ニウム部材362及びフッ素樹脂被覆364は、積層されて互いに接着している。フッ素樹脂被覆360,364は、例えば一方の面に粘着剤を有するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)テープを採用できる。圧電素子30をフッ素樹脂被覆360で被覆することにより、圧電素子30の構成部品を確実に一体化できる。また、フッ素樹脂被覆360,364により、被覆層4及び防振用ゴム部材5の加硫成形時の高温からの保護、加硫成形時におけるゴムの流入に対する圧電センサー3の強度面での保護、及び圧電センサー3と外部との電気絶縁性を確保できる。アルミニウム部材362としては、例えばアルミニウム箔を採用でき、アルミニウム箔としては、一方の面に粘着剤を有する、例えば厚さ約0.1mmのアルミニウムテープを採用できる。アルミニウム部材362は、外来ノイズを防止するための電磁波シールドとしての機能を有する。
【0033】
被覆層4は、圧電素子30及び引出し線32の少なくとも一部を被覆する。被覆層4は、保護層36の外側を被覆する。被覆層4は、熱硬化性エラストマー組成物を加硫成形した層である。被覆層4は、防振用ゴム部材5の側面から突出する突出部40と、防振用ゴム部材5に埋設された埋設部41と、を有する。埋設部41は、圧電素子30、接続部34及び接続部34から延びる引出し線32の一部を被覆する部分であり、突出部40は、引出し線32の他の一部を被覆する部分である。
【0034】
さらに被覆層4は、突出部40に凸部42を有する。凸部42は、例えば棒状の突出部40から突出する円筒状の形状である。凸部42は、防振用ゴム材料の加硫成形時に金型と係合して、防振用ゴム材料が引出し線32に沿って流動することを防止するとともに、すでに加硫成形によって形成された被覆層4の突出部40及び埋設部41が、防振用ゴム材料の加硫成形時に軟化して、引出し線32に沿って移動してしまうことを抑制できる形状を有する。なお、突出部40の先端からは引出し線32が延びる。
【0035】
防振用ゴム部材5は、被覆層4に被覆された圧電素子30及び接続部34を内部に埋設する。さらに、防振用ゴム部材5は、被覆層4の埋設部41を内部に埋設する。防振用ゴム部材5は、円環状の略板状体である。防振用ゴム部材5は、歯車箱18(図3)に作用する鉄道車両の走行振動を吸収する機能を有する。防振用ゴム部材5は、被覆層4と同一種類の熱硬化性エラストマー組成物を加硫成形して、埋設部41と一体に形成される。
【0036】
防振用ゴム部材5及び被覆層4に用いられる熱硬化性エラストマーとしては、鉄道車両の台車に加わる入力加速度1G~10G程度の入力に対して、充分な寿命(疲労性)を有する材質であればよく、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FFKM、FEPMなど)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などを採用できる。鉄道車両に用いることを考慮すると、防振用ゴム部材5及び被覆層4に用いられる熱硬化性エラストマーとしては、電気絶縁性及び機械的強度(引張強さ・伸び・引裂き強さ等)に優れる天然ゴム(NR)が好ましい。
【0037】
防振装置2には、図4に示すように金属製の接着用プレート50が組み込まれる。接着用プレート50の表面501には、図9に示すように、エラストマー用加硫接着剤(例えば、ケムロック205(商品名))が塗布される。エラストマー用加硫接着剤は、防振用ゴム材料を加硫して防振用ゴム部材5を成形する時に、接着用プレート50と防振用ゴム部材5との接着性を高める働きを担う。さらに、図4に示すように、表面501近傍には、圧電センサー3が配置される。圧電センサー3を表面501近傍に配置する理由を以下に記載する。まず、防振装置2の取り付け時の予圧縮や鉄道車両の走行振動により、歯車
箱18の吊り装置20に装着された防振装置2に加わる力は、図4における紙面上下方向の圧縮力である。この圧縮力が防振装置2を構成する防振用ゴム部材5に加わった際には、防振用ゴム部材5は横方向(図4の紙面左右方向)に変形するが、圧電センサー3下側の防振用ゴム部材5の厚さ(体積)は、接着用プレート50の表面501近傍に配置されているため、圧電センサー3上側の防振用ゴム部材5の厚さ(体積)よりも小さい。そのため、圧電センサー3の横方向(紙面左右方向)の変形量が小さくなる。この結果、圧電センサー3の引出し線32の断線や圧電センサー3自体の破損等を抑制することができる。
【0038】
3.圧電センサーの製造方法
図5及び図8を用いて圧電センサー3の製造方法について説明する。
【0039】
図5に示すように、電極302の一部に形成された接続部34に引出し線32を接続する。次に、電極302、導電性ゴム301、圧電体300、導電性ゴム301、電極302をこの順に重ねて圧電センサー3を組み立てる。
【0040】
次に、図8に示すように、圧電センサー3は引出し線32の一部を除いてフッ素樹脂(PTFE)被覆360,360によって被覆される。さらに、この圧電センサー3を挟み込むように2枚のアルミニウム部材362,362を貼り合わせた上に、もう一度2枚のフッ素樹脂(PTFE)被覆364,364を貼り合わせて、保護層36を形成する。圧電素子30及び及び引出し線32の一部は、保護層36によって被覆される。
【0041】
次に、圧電センサー3を図示しない金型内にセットし、防振用ゴム部材5と同一種類の熱硬化性エラストマーに架橋剤、老化防止剤、共架橋剤等を添加した後、加硫成形して被覆層4を形成する。被覆層4と防振用ゴム部材5とを同一材料とすることで、両ゴムの間で硬さ、伸び、引張強さ等における物性差が小さくなり、その界面における応力集中が抑えられて疲労寿命が向上することで、防振装置2の耐久性が向上する。また、圧電センサー3を被覆層4で被覆することにより、防振用ゴム部材5の加硫成形時に圧電センサー3の損傷を抑制することができる。
【0042】
4.防振装置の製造方法
図9を用いて、防振装置の製造方法について説明する。図9は、防振装置の製造方法を説明する図である。図9は、加硫成形前の防振装置の左半分を示す。
【0043】
まず、下金型60に、エラストマー用加硫接着剤(例えば、ケムロック(登録商標)205)を塗布した接着用プレート50を設置する。その後、約2mmの厚の薄板状に予備成形した円環状の未加硫ゴム部材52を接着用プレート50上に載せる。ここで未加硫ゴム部材52の予備成形は、既述の熱硬化性エラストマーの一種である天然ゴムに、共架橋剤、加硫剤、老化防止剤等の材料を配合した熱硬化性エラストマー組成物を、架橋反応を生じる温度より若干低い温度で、コンプレッション法により予め成形し、所定寸法で裁断することで行う。
【0044】
次に、未加硫ゴム部材52の上に、被覆層4で被覆された圧電センサー3を載せる。その際、被覆層4の凸部42は、下金型60に設けられたシール溝66に嵌め込まれる。凸部42がシール溝66と係合することにより、下金型60と上金型62とで形成されるキャビティ64の所定位置に圧電センサー3が確実にセットされる。なお、圧電センサー3を覆う被覆層4は、予め別工程(製造方法自体は防振装置製造方法と類似の製造方法である)、にて形成しておく。
【0045】
最終的に、圧電センサー3の上に、肉厚に予備成形された円環状の未加硫ゴム部材53
及び円筒状の未加硫ゴム部材54を載せ、上金型62を下降して未加硫ゴム部材52,53、54を加圧すると同時に、加硫温度に加熱して加硫成形する。このとき、被覆層4の凸部42がシール溝66と係合することにより、被覆層4の突出部40に沿って未加硫ゴム部材52,53,54が加硫温度で軟化して、金型60,62の外部に流れ出ることを防ぐことができる。また、加硫成形の際、接着用プレート50に塗布されたエラストマー用加硫接着剤によって、接着用プレート50に未加硫ゴム部材52が強固に固定される。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、鉄道車両用のエンジンマウント、電動機用マウント等の圧縮型防振装置に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1…鉄道車両、2…防振装置、3…圧電センサー、4…被覆層、5…防振用ゴム部材、10…車体、12…台車枠、14…軸ばね、15…電動機、16…車輪、17…可撓継手、18…歯車箱、19a、19b歯車、20…吊り装置、22…吊りロッド、24…フランジ、26…フランジ、30…圧電素子、300…圧電体、301…導電性ゴム、302…電極、32…引出し線、34…接続部、35…圧着端子、36…保護層、360…フッ素樹脂被覆、362…アルミニウム部材、364…フッ素樹脂被覆、40…突出部、41…埋設部、42…凸部、50…接着用プレート、501…接着用プレート表面、52…未加硫ゴム部材、53…未加硫ゴム部材、54…未加硫ゴム部材、60…下金型、62…上金型、64…キャビティ、66…シール溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9