IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-フレキシブル表示装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】フレキシブル表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20230301BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20230301BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230301BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G02B1/111
G02F1/1333 500
G09F9/00 313
G09F9/00 342
G09F9/30 308Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019161926
(22)【出願日】2019-09-05
(62)【分割の表示】P 2014207796の分割
【原出願日】2014-10-09
(65)【公開番号】P2020091468
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2019-10-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治
(72)【発明者】
【氏名】玉井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】趙 動旭
【合議体】
【審判長】杉山 輝和
【審判官】井口 猶二
【審判官】里村 利光
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-258267(JP,A)
【文献】特開2011-88787(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/111
G029F 9/00
G09F 9/30
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル表示装置の画像表示面に配置される反射防止フィルムを製造するための方法であって、前記反射防止フィルムは反射防止層を含み、前記反射防止層は可撓性を有する透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に直接設けられ、前記反射防止層は中空シリカ微粒子と単一のマトリクス樹脂とを含有し、
前記中空シリカ微粒子と前記単一のマトリクス樹脂を含む塗布液を前記透明樹脂フィルム基材の前記少なくとも一方の面に塗布する塗布工程と、
前記塗布液を硬化させる硬化工程とを含み、
前記反射防止層が、一回の塗布工程と一回の硬化工程によって形成され、
前記反射防止層における前記中空シリカ微粒子の体積比率が40体積%以上74体積%以下であり、
前記中空シリカ微粒子の直径が5~200nmの範囲であり、
前記反射防止層の厚さが50~200nmの範囲であり、
前記反射防止層と前記透明樹脂フィルム基材とを有する前記反射防止フィルムが、5%~6%の反射率及び88%~91%の全光線透過率を有し、
前記反射防止フィルムが、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った場合にクラックを生じないことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反射防止フィルムに設けられた前記反射防止層が、JIS K 5600-5-4に準拠した鉛筆硬度試験(荷重1000g)において、H以上の硬度を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反射防止層が、前記反射防止層の厚さ方向に向けて、2層以上の前記中空シリカ微粒子が積層された部分を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置、有機EL表示装置などの表示装置を構成する基板として主に用いられてきたガラス基板に替えて、可撓性を有する樹脂基板を用いたフレキシブル表示装置が提案されている。これらの表示装置の画像表示面には、蛍光灯などの外光の映り込みを防止して視認性を高めるために、反射防止層(低屈折率層)を設けた反射防止フィルムが配置されている。このような反射防止フィルムには、反射防止能及び透明性が優れるだけでなく、耐屈曲性も要求される。
【0003】
反射防止フィルムの作製方法としては、プラズマCVD法によりフィルム基材表面にシリカ膜からなる低屈折率層を形成する技術(例えば、特許文献1)、フィルム基材上にシリコーンオイル又はシリコーン界面活性剤を含む隣接層を形成した後、その隣接層上に低屈折率材料など含有する塗布液を塗布し、乾燥させ、硬化させて低屈折率層を形成する技術(例えば、特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-258394号公報
【文献】特開2005-338549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、シリカ膜からなる低屈折率層を形成するためのプラズマCVD装置を新たに導入することが必要となり、イニシャルコストが高くなる上、生産性が低いという問題がある。更に、特許文献1には、フィルム基材と低屈折率層との間に、熱硬化型樹脂又は電離放射線硬化型樹脂からなるハードコート層を設けてもよいことが記載されているが、このようなハードコート層を設けた場合、耐擦傷性は向上するものの、耐屈曲性が著しく低下してしまうという問題もある。一方、特許文献2の技術では、複数の層を形成する工程が必要となるために生産性が低くコストが高くなる上、得られる反射防止フィルムの透明性が不十分であるという問題がある。上記したように、従来技術による反射防止フィルムは、フレキシブル表示装置において満足のいくものではなかった。
従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、低コストで生産性が高く、且つ耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性に優れる反射防止フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフレキシブル表示装置は、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する反射防止層が設けられた反射防止フィルムが、画像表示面に配置されているフレキシブル表示装置であって、反射防止層における無機微粒子の体積比率が40体積%以上であり、無機微粒子の直径が5~200nmの範囲であり、反射防止層の厚さが50~200nmの範囲であり、反射防止フィルムが、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った場合にクラックを生じないことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低コストで生産性が高く、且つ耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性に優れる反射防止フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係るフレキシブル表示装置が備える反射防止フィル ムの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るフレキシブル表示装置の好適な実施の形態について説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るフレキシブル表示装置の画像表示面に配置された反射防止フィルムの模式断面図である。フレキシブル表示装置としては、可撓性を有する樹脂基板上に表示素子を備えた折り曲げ可能なものであれば特に限定されるものではなく、フレキシブル液晶表示装置、フレキシブル有機EL表示装置などが挙げられ、これらは公知の方法に準じて製造することができる。図1に示すように、本実施の形態における反射防止フィルムは、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10の一方の面に、無機微粒子11とマトリクス樹脂12とを含有する反射防止層13が設けられている。
【0011】
反射防止層13の厚さは、50nm~200nmの範囲であることが必要であり、90nm~200nmの範囲であることが好ましい。反射防止層13の厚さが50nm未満や200nmを超えると、可視光線の反射防止効果が得られなくなるからである。
【0012】
反射防止層13に占める無機微粒子11の体積比率は40体積%以上であることが必要であり、50体積%~74体積%の範囲であることが好ましい。無機微粒子11の体積比率が40体積%未満であると、無機微粒子11間にマトリクス樹脂12が過剰に存在することになり、基板を曲げたときに反射防止フィルムにクラック(亀裂)が生じやすくなり、耐屈曲性を確保することができない。
【0013】
反射防止層13に含有される無機微粒子11の直径は5nm~200nmの範囲であることが必要であり、50nm~100nmの範囲であることが好ましい。無機微粒子11の直径が50nm未満であると、反射防止層13の厚さ方向に向けて2層の無機微粒子11を積層させても反射防止層13の厚さを100nm以上にできないため好ましくなく、一方、200nmを超えると、反射防止層13の厚さを200nm以下にできないからである。
【0014】
このような反射防止層13の形成方法は、特に制限されるものではないが、無機微粒子11と、マトリクス樹脂12と、溶媒(必要に応じて)とを含む塗布液を塗布した後、硬化させる塗布法が好ましい。塗布液の塗布方法としては、スピンコート法、スリットコート法、ロールコート法、インクジェット法などが挙げられる。無機微粒子11としては、直径が上記した条件を満たすものであれば特に制限されず、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化亜鉛微粒子などから適宜選択される。これらの中でも、シリカ微粒子が好ましく、特に、低屈折率、透明性及び硬度の観点から、中空シリカ微粒子がより好ましい。また、マトリクス樹脂12としては、熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂から適宜選択すればよい。上記した塗布液は、市販品を用いてもよく、例えば、日揮触媒化成株式会社製のELCOM P-5062が挙げられる。
【0015】
可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10としては、反射防止フィルムに使用されている公知のものを制限なく使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポ
リメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレンなどが挙げられる。可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10の厚さは、反射防止フィルムに使用される一般的な厚さであればよく、通常、10μm~1000μmである。
【0016】
反射防止フィルムは、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った後、反射防止層13表面を目視で観察した結果、クラックが生じていないことが必要である。
【0017】
反射防止フィルムに設けられた反射防止層13は、好ましくは、JIS K 5600-5-4に準拠した鉛筆硬度試験(荷重1000g)においてH以上の硬度を有する。反射防止層13の硬度は、使用するマトリクス樹脂12の種類、無機微粒子11の種類及び無機微粒子11の体積比率を調整することによって向上させることができる。また、反射防止フィルムに設けられた反射防止層13は、好ましくは、波長550nmで測定したときに1.45未満の屈折率を有する。反射防止層13の屈折率は、使用する無機微粒子11の種類及び無機微粒子11の体積比率を調製することによって変更することができる。
【0018】
このように構成された本実施の形態における反射防止フィルムは、プラズマCVD装置を新たに導入する必要がなく、バーコーター等の既存の装置を用いて製造することができるのでイニシャルコストが低く且つ生産性が高く、また、反射防止能に優れることは勿論のこと、耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性にも優れる。特に、無機微粒子11として中空シリカ微粒子を用い、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10としてポリエチレンテレフタレートを用いた反射防止フィルムでは、5%~6%程度の反射率及び88%~91%程度の全光線透過率が得られ、良好な反射防止能と透明性と有している。従って、このような反射防止フィルムはフレキシブル表示装置において有用である。
【0019】
なお、図1では、好ましい形態として、反射防止層13が、その厚さ方向に向けて、2層の無機微粒子11が積層された部分を有しているが、上記した条件を満たすのであれば1層であってもよいし、3層以上であってもよい。また、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10と反射防止層13との間には、ハードコート層を設けてもよい。
【実施例
【0020】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
<実施例1>
市販のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ100μm)上にバーコーターを用いて中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液(日揮触媒化成株式会社製ELCOM P-5062)を塗布した。その後、ホットプレート上で80℃で2分間乾燥させ、窒素雰囲気下で紫外線を照射(400mJ/cm、波長365nm)して硬化させることにより、反射防止フィルムを得た。
更に、反射防止フィルムの耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率を以下の方法に従って評価した。結果を表1に示す。
【0021】
<耐屈曲性評価>
JIS K 5600-5-1に準拠し、円筒形マンドレル試験機(ERICHSEN社製model 266)を用いて曲率半径を測定した。サンプルの反射防止層面が円筒形マンドレルの外側又は内側になるように試料台に挟み、曲げ試験を行った。その後、反射防止層面の傷及びクラックの有無を目視で確認した。傷及びクラックが無い場合は、円筒形マンドレルの半径が小さいものに変更して試験を行った。外曲げ及び内曲げのそれぞれの曲率半径は、傷及びクラックが発生しない場合の最小円筒形マンドレル半径とした。なお、曲率半径が小さい程、耐屈曲性が優れているといえる。
【0022】
<耐擦傷性評価>
JIS K 5600-5-4に準拠し、往復摩擦試験機(新東科学株式会社製TYPE30)を用いて鉛筆硬度を測定した。鉛筆をサンプル表面に対して斜め45度の角度にセットし、荷重1000g、ステージ速度300mm/分、移動距離50mmの条件でサンプル表面を往復させた。その後、サンプル表面の傷の有無を目視で確認した。同じ鉛筆硬度で3回試験を行い、3回とも傷が無い場合は、鉛筆硬度を高くして試験を行った。鉛筆硬度は、3回とも傷が無い場合の最大硬度とした。なお、鉛筆硬度が高い程、耐擦傷性が優れているといえる。
【0023】
<反射率評価>
サンプルの反射率を分光測色計(コニカミノルタ株式会社製CM-2600d)を用いて測定した。上記の反射率とはコート面を上側に向けて測定した、全反射率データの3回の平均値である。
【0024】
<比較例1>
市販のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ100μm)の耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0025】
<比較例2>
市販のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ100μm)上に、バーコーターを用いてUV硬化型ハードコート剤であるタフトップ(登録商標)SHO(東レ株式会社製)を塗布して膜を形成した。膜の厚さは約20μmであった。得られた膜付PETフィルムの耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0026】
<比較例3>
市販のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ100μm)上に、バーコーターを用いてUV硬化型ハードコート剤であるディフェンサ(登録商標)FH-700(DIC株式会社製)を塗布して膜を形成した。膜の厚さは約20μmであった。得られた膜付PETフィルムの耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0027】
<比較例4>
市販のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ100μm)上に、バーコーターを用いて傷自己修復塗料であるプラネット(登録商標)TCクリヤCF100(オリジン電気株式会社製)を塗布して膜を形成した。膜の厚さは約20μmであった。得られた膜付PETフィルムの耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
以上の結果から明らかなように、比較例2~4で得られた反射防止フィルムは、いずれも反射率の低減効果が十分でない上に、比較例2及び3で得られたものは耐屈曲性が不十分であった。
これに対し、実施例1で得られた反射防止フィルムは、PETフィルム単体(比較例1)と同程度の耐屈曲性を有しつつ、耐擦傷性を高め、反射率を低くすることができた。
また、実施例1で得られた反射防止フィルムを用いて、フレキシブル表示装置を作製したところ、外光の映り込みを防止することができ、鮮明な画像を表示することができた。
【符号の説明】
【0030】
10 可撓性を有する透明樹脂フィルム基材、11 無機微粒子、12 マトリクス樹脂、13 反射防止層。
図1