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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】計測方法及び計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/024 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
G01N29/024
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019208591
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021081303
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】松井 祐二
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-178289(JP,A)
【文献】特開2003-004712(JP,A)
【文献】国際公開第2005/083372(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103235039(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01B 17/00 - G01B 17/08
G01S 1/72 - G01S 1/82
G01M 5/00 - G01M 7/08
G01H 1/00 - G01H 17/00
A61B 8/00 - A61B 8/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の外側に配置された送信用探触子及びシューからなる送信部と、前記部材の外側に配置された受信用探触子及びシューからなる受信部を用いて、前記部材と前記部材の内側に存在する反射体との間に存在する気体の音速を計測する計測方法であって、
前記送信部から送信されて前記部材中を伝播するガイド波が前記気体に漏洩して漏洩波となり、その後、前記気体中を伝播する漏洩波が前記反射体で反射されて前記部材に戻ってきてガイド波となり、その後、前記部材中を伝播するガイド波が前記受信部で受信される経路を、第1経路と定義したときに、前記第1経路の超音波を受信するように、前記受信部を配置する第1手順と、
前記第1経路の超音波を前記受信部で受信し、前記第1経路の超音波の伝播時間を計算する第2手順と、
前記第1経路に対して、前記送信部による前記ガイド波の送信位置が同じであるものの、前記反射体で反射された前記漏洩波の反射回数が異なるために、前記受信部による前記ガイド波の受信位置が異なる経路を、第2経路と定義したときに、前記第2経路の超音波を受信するように、前記受信部を配置する第3手順と、
前記第2経路の超音波を前記受信部で受信し、前記第2経路の超音波の伝播時間を計算する第4手順と、
前記第1経路の超音波の伝播時間のうちの前記ガイド波の伝播時間と前記第2経路の超音波の伝播時間のうちの前記ガイド波の伝播時間とが同じであると仮定し、前記第1経路の超音波の伝播時間と、前記第2経路の超音波の伝播時間と、前記第1経路における前記ガイド波の送信位置と受信位置の間の距離と、前記部材の音速とに基づいて、前記気体の音速を計算する第5手順とを有することを特徴とする計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の計測方法において、
前記第1経路の超音波の伝播時間と、前記第2経路の超音波の伝播時間と、前記第1経路における前記ガイド波の送信位置と受信位置の間の距離と、前記部材の音速とに基づいて、前記部材の内面と前記反射体の表面の間の距離を計算する第6手順を更に有することを特徴とする計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の計測方法において、
前記第1手順及び前記第3手順は、前記送信部の位置が固定され且つ前記受信部の位置が変更された場合に前記受信部で受信されたガイド波の振幅を記録し、前記ガイド波の振幅が極大値となる位置に前記受信部を配置することを特徴とする計測方法。
【請求項4】
請求項1に記載の計測方法において、
前記部材は、配管又は容器であり、
前記反射体は、前記配管又は前記容器の内側に存在する液体であることを特徴とする計測方法。
【請求項5】
請求項1に記載の計測方法において、
前記部材は、容器であり、
前記反射体は、前記容器の内側に存在する構造物であることを特徴とする計測方法。
【請求項6】
部材と前記部材の内側に存在する反射体との間に存在する気体の音速を計測する計測装置であって、
前記部材の外側に配置された送信用探触子及びシューからなり、前記部材にガイド波を送信する送信部と、
前記部材の外側に配置された受信用探触子及びシューからなり、前記部材中を伝播したガイド波を受信する受信部と、
前記受信部の受信結果に基づいて前記気体の音速を計算する計算機とを備え、
前記計算機は、
前記送信部から送信されて前記部材中を伝播するガイド波が前記気体に漏洩して漏洩波となり、その後、前記気体中を伝播する漏洩波が前記反射体で反射されて前記部材に戻ってきてガイド波となり、その後、前記部材中を伝播するガイド波が前記受信部で受信される経路を、第1経路と定義したときに、前記第1経路の超音波の伝播時間を計算し、
前記第1経路に対して、前記送信部による前記ガイド波の送信位置が同じであるものの、前記反射体で反射された前記漏洩波の反射回数が異なるために、前記受信部による前記ガイド波の受信位置が異なる経路を、第2経路と定義したときに、前記第2経路の超音波の伝播時間を計算し、
前記第1経路の超音波の伝播時間のうちの前記ガイド波の伝播時間と前記第2経路の超音波の伝播時間のうちの前記ガイド波の伝播時間とが同じであると仮定し、前記第1経路の超音波の伝播時間と、前記第2経路の超音波の伝播時間と、前記第1経路における前記ガイド波の送信位置と受信位置の間の距離と、前記部材の音速とに基づいて、前記気体の音速を計算することを特徴とする計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載の計測装置において、
前記計算機は、
前記第1経路の超音波の伝播時間と、前記第2経路の超音波の伝播時間と、前記第1経路における前記ガイド波の送信位置と受信位置の間の距離と、前記部材の音速とに基づいて、前記部材の内面と前記反射体の表面の間の距離を更に計算することを特徴とする計測装置。
【請求項8】
請求項6に記載の計測装置において、
前記計算機は、前記送信部の位置が固定され且つ前記受信部の位置が変更された場合に前記受信部で受信されたガイド波の振幅を記録し、前記受信部の位置と前記ガイド波の振幅の関係を表示装置で表示しており、
前記受信部による前記ガイド波の受信位置は、前記ガイド波の振幅が極大値となる位置に設定されたことを特徴とする計測装置。
【請求項9】
請求項6に記載の計測装置において、
前記部材は、配管又は容器であり、
前記反射体は、前記配管又は前記容器の内側に存在する液体であることを特徴とする計測装置。
【請求項10】
請求項6に記載の計測装置において、
前記部材は、容器であり、
前記反射体は、前記容器の内側に存在する構造物であることを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材と部材の内側に存在する反射体との間に存在する気体の音速を計測する計測方法及び計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、災害により、可燃性ガス(詳細には、都市ガス又はLPガス等)を供給する配管や可燃性ガスを貯留する容器が損傷すれば、補修や撤去を行う。配管や容器の内部に可燃性ガスが残存する場合に、配管や容器を通常の切断方法で切断すると、切断時に発生する火花が可燃性ガスに着火して爆発する恐れがある。そのため、配管や容器を切断しないか、若しくは、火花が発生しない特殊な切断方法を採用する必要がある。一方、配管や容器から可燃性ガスが漏えいして空気と入れ替わっている場合は、配管や容器を通常の切断方法で即座に切断して、補修や撤去を迅速に行うことが可能である。配管や容器の切断方法を判断するためには、配管や容器の内部に存在する気体の種類を識別する必要がある。
【0003】
気体の種類を識別する手法の一つとして、気体の音速を計測することが考えられる。都市ガスの主成分はメタンガスであり、メタンガスの音速は442m/s程度である。LPガスの成分はプロパンガス及びブタンガス等であり、プロパンガスの音速は262m/s程度、ブタンガスの音速は212m/s程度である。空気の音速は340m/s程度である。そのため、配管や容器の内部に存在する気体の音速を計測すれば、気体が可燃性ガス又は空気であるかを判断することが可能である。あるいは、可燃性ガスの濃度を推定することが可能である。
【0004】
特許文献1は、鋼製の配管(部材)の外側に配置された送信用探触子及びシューからなる送信部と、配管の外側に配置された受信用探触子及びシューからなる受信部を用いて、配管の内部に存在する気体の音速を計測する方法を開示する。送信部から鋼材中に斜角超音波を入射し、鋼材中を伝播した超音波が鋼材と気体の界面で屈折しながら気体中へ透過し、気体中を伝播した透過波が配管対向側の鋼材内表面で反射して配管送受信側に戻り、気体と鋼材の界面で屈折しながら鋼材中へ透過した斜角超音波を受信部で受信すると想定している。そして、前述した経路の超音波の伝播時間と配管の内径に基づいて、気体の音速を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-179027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、部材の内部に気体のみが存在する場合を想定しており、部材の内部に水などの反射体も存在する場合を想定していない。そして、部材の内面と反射体の表面の間の距離が不明であれば、部材と反射体の間に存在する気体の音速を計測することができない。
【0007】
本発明の目的は、部材の内面と反射体の表面の間の距離が不明であっても、部材と反射体の間に存在する気体の音速を計測することができる計測方法及び計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、部材の外側に配置された送信用探触子及びシューからなる送信部と、前記部材の外側に配置された受信用探触子及びシューからなる受信部を用いて、前記部材と前記部材の内側に存在する反射体との間に存在する気体の音速を計測する計測方法であって、前記送信部から送信されて前記部材中を伝播するガイド波が前記気体に漏洩して漏洩波となり、その後、前記気体中を伝播する漏洩波が前記反射体で反射されて前記部材に戻ってきてガイド波となり、その後、前記部材中を伝播するガイド波が前記受信部で受信される経路を、第1経路と定義したときに、前記第1経路の超音波を受信するように、前記受信部を配置する第1手順と、前記第1経路の超音波を前記受信部で受信し、前記第1経路の超音波の伝播時間を計算する第2手順と、前記第1経路に対して、前記送信部による前記ガイド波の送信位置が同じであるものの、前記反射体で反射された前記漏洩波の反射回数が異なるために、前記受信部による前記ガイド波の受信位置が異なる経路を、第2経路と定義したときに、前記第2経路の超音波を受信するように、前記受信部を配置する第3手順と、前記第2経路の超音波を前記受信部で受信し、前記第2経路の超音波の伝播時間を計算する第4手順と、前記第1経路の超音波の伝播時間のうちの前記ガイド波の伝播時間と前記第2経路の超音波の伝播時間のうちの前記ガイド波の伝播時間とが同じであると仮定し、前記第1経路の超音波の伝播時間と、前記第2経路の超音波の伝播時間と、前記第1経路における前記ガイド波の送信位置と受信位置の間の距離と、前記部材の音速とに基づいて、前記気体の音速を計算する第5手順とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部材の内面と反射体の表面の間の距離が不明であっても、部材と反射体の間に存在する気体の音速を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態における計測装置の構成及び計測対象物を表す概略図である。
図2図1の断面矢視II-IIによる断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態における計測方法の手順を表すフローチャートである。
図4図1で示された計測対象物にて想定される漏洩波の特性を表す図である。
図5】本発明の第1の実施形態における第1受信情報表示画面を表す図である。
図6】本発明の第1の実施形態における第1受信位置設定画面を表す図である。
図7】本発明の第1の実施形態における第2受信情報表示画面を表す図である。
図8】本発明の第1の実施形態における第2受信位置設定画面を表す図である。
図9】本発明の第1の実施形態における計測画面を表す図である。
図10】本発明の第2の実施形態における計測装置の構成及び計測対象物を表す概略図である。
図11】本発明の一変形例における計測対象物を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施形態における計測装置の構成及び計測対象物を表す概略図であり、図2は、図1の断面矢視II-IIによる断面図である。
【0013】
本実施形態の計測対象物は、鋼製の配管1と、配管1の内側に存在する水2(詳細には、例えば滞留水又は流水)と、配管1の鋼材と水2の間に存在する気体3とで構成されている。なお、本実施形態では、配管1の軸方向が水平方向(図1の左右方向)に延在し、同様に水2の表面が水平方向に延在する場合を例にとって説明するものの、これに限られない。例えば、配管1の軸方向が水平方向に対し若干傾斜し、同様に水2の表面が水平方向に対し若干傾斜してもよい。すなわち、配管1の軸方向と水2の表面が平行であることが好ましい。
【0014】
本実施形態の計測装置は、配管1の鋼材と水2の間に存在する気体3の音速を計測するためのものである。この計測装置は、配管1の外面に配置された送信部11及び受信部12と、送信部11及び受信部12を制御する制御装置13と、計算機14と、入力装置15と、表示装置16とを備える。計算機14は、コンピュータ等で構成されている。入力装置15は、キーボードやマウス等で構成され、表示装置16は、ディスプレイ等で構成されている。
【0015】
送信部11は、送信用探触子と、この送信用探触子と配管1の外面の間に介在するシューとを備える。同様に、受信部12は、受信用探触子と、この受信用探触子と配管1の外面の間に介在するシューとを備える。送信部11及び受信部12は、配管1の周方向における位置が同じであるものの、配管1の軸方向における位置が異なるように配置される。なお、配管1の外面には、配管1の軸方向に目盛りが罫書されており、受信部12の位置(言い換えれば、送信部11によるガイド波の送信位置と受信部12によるガイド波の受信位置との間の距離)を作業者が目測可能としている。
【0016】
制御装置13は、パルサ17及びレシーバ18を備える。パルサ17は、送信部11の送信用探触子へ電気信号を出力して、鋼材中にガイド波を励振する。受信部12の受信用探触子は、配管1の鋼材中を伝播するガイド波を受信し、電気信号に変換してレシーバ18へ出力する。レシーバ18は、受信部12からの電気信号を計算機14へ出力する。計算機14は、電気信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換し、これに基づいて計算や表示などの処理を行う。
【0017】
ここで、本実施形態の特徴として、受信部12は、図1中実線で示すように配置されて第1経路の超音波を受信し、計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号に基づいて、第1経路の超音波の伝播時間TR1を計算する。本実施形態の第1経路とは、送信部11から送信されて配管1の鋼材中を伝播するガイド波A1が気体3に漏洩して漏洩波(縦波)B1となり、その後、気体3中を伝播する漏洩波B1が水2の表面で反射され、その一部が配管1の鋼材に戻ってきてガイド波A2となり、その後、配管1の鋼材中を伝播するガイド波A2が受信部12で受信される経路である。すなわち、水2の表面で反射された漏洩波の反射回数が1回である経路である。
【0018】
また、受信部12は、図1中点線で示すように配置されて第2経路の超音波を受信し、計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号に基づいて、第2経路の超音波の伝播時間TR2を計算する。本実施形態の第2経路とは、送信部11から送信されて配管1の鋼材中を伝播するガイド波A1が気体3に漏洩して漏洩波B1となり、その後、気体3中を伝播する漏洩波B1が水2の表面で反射され、その一部が配管1の内面で更に反射され、その後、気体3中を伝播する漏洩波B2が水2の表面で再び反射され、その一部が配管1の鋼材に戻ってきてガイド波A3となり、その後、配管1の鋼材中を伝播するガイド波A3が受信部12で受信される経路である。すなわち、第1経路に対して、送信部11によるガイド波の送信位置が同じであるものの、水2で反射された漏洩波の反射回数が2回であって異なるために、受信部12によるガイド波の受信位置が異なる経路である。
【0019】
計算機14は、上述した第1経路の超音波の伝播時間TR1及び第2経路の超音波の伝播時間TR2と、第1経路におけるガイド波の送信位置と受信位置の間の距離LP1と、配管1の鋼材の音速Vとに基づいて、気体3の音速や、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計算する。
【0020】
次に、上述した計測装置を用いた計測方法の概要について、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態における計測方法の手順を表すフローチャートである。
【0021】
ステップS1にて、作業者は、第1経路の超音波を受信するように、受信部12を配置する。ステップS2にて、制御装置13のパルサ17は、送信部11の送信用探触子へ電気信号を出力して、配管1の鋼材中にガイド波を励振させる。受信部12の受信用探触子は、第1経路の超音波を受信し、電気信号に変換して制御装置13のレシーバ18へ出力する。計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号に基づいて、第1経路の超音波の伝播時間TR1を計算する。
【0022】
ステップS3にて、作業者は、第2経路の超音波を受信するように、受信部12を配置する。ステップS4にて、制御装置13のパルサ17は、送信部11の送信用探触子へ電気信号を出力して、配管1の鋼材中にガイド波を励振させる。受信部12の受信用探触子は、第2経路の超音波を受信し、電気信号に変換して制御装置13のレシーバ18へ出力する。計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号に基づいて、第2経路の超音波の伝播時間TR2を計算する。
【0023】
ステップS5にて、計算機14は、ステップS2で計算された第1経路の超音波の伝播時間TR1と、ステップS4で計算された第2経路の超音波の伝播時間TR2と、第1経路におけるガイド波の送信位置と受信位置の間の距離LP1と、配管1の鋼材の音速Vとに基づいて、気体3の音速Vを計算する。
【0024】
ステップS6にて、計算機14は、第1経路の超音波の伝播時間TR1と、第2経路の超音波の伝播時間TR2と、第1経路におけるガイド波の送信位置と受信位置の間の距離LP1と、配管1の鋼材の音速Vとに基づいて、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計算する。
【0025】
表示装置16は、計算機14で計算された気体3の音速Vや、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを表示する。
【0026】
次に、上述した気体3の音速Vや、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計算する方法について詳述する。
【0027】
配管1と気体3の境界面における漏洩波A1の屈折角をφとした場合、スネルの法則に従い、下記の式(1)が成立する。配管1の音速Vは既知であるものの、気体3の種類が不明であるため、漏洩波A1の屈折角φは未知である。
【0028】
【数1】
【0029】
第1経路の超音波の伝播時間TR1は、ガイド波A1,A2の伝播時間と漏洩波B1の伝播時間との和であるから、下記の式(2)で表される。この式(2)を変形すると、下記の式(3)になる。
【0030】
【数2】
【0031】
【数3】
【0032】
ガイド波A2の伝播時間とガイド波A3の伝播時間が同じであると考えれば、第1経路の超音波の伝播時間TR1と第2経路の超音波の伝播時間TR2との差は、漏洩波B2の伝播時間になるから、下記の式(4)で表される。この式(4)を変形すると、下記の式(5)になる。
【0033】
【数4】
【0034】
【数5】
【0035】
上記の式(3)及び(5)を組み合わせて変形すれば、下記の式(6)になる。また、上記の式()を変形すれば、下記の式(7)になる。また、上記の式()を変形すれば、下記の式(8)になる。
【0036】
【数6】
【0037】
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
したがって、上記の式(6)を用いれば、第1経路の超音波の伝播時間TR1と、第2経路の超音波の伝播時間TR2と、第1経路におけるガイド波の送信位置と受信位置の間の距離LP1と、配管1の音速Vとに基づいて、漏洩波A1の屈折角φを計算することが可能である。そして、上記の式(7)を用いれば、計算された漏洩波A1の屈折角φと、第1経路の超音波の伝播時間TR1と、第1経路におけるガイド波の送信位置と受信位置の間の距離LP1と、配管1の音速Vとに基づいて、気体3の音速Vを計算することが可能である。また、上記の式(8)を用いれば、計算された漏洩波A1の屈折角φと、配管1の音速Vとに基づいて、気体3の音速Vを計算することが可能である。
【0040】
ところで、図4で示すように、漏洩波B1は、配管1の軸方向における広い範囲で発生する。また、ガイド波A1の振幅が配管1の軸方向に沿って変化しており、漏洩波B1の発生位置によるガイド波A1の振幅に応じて、漏洩波B1の振幅が変化する。また、漏洩波B1の振幅に応じて、ガイド波A2の振幅又は漏洩波B2及びガイド波A3の振幅も変化する。そのため、何らかの形で第1経路及び第2経路を特性する必要がある。
【0041】
本実施形態では、上述の図3のステップS1に対する前処理を行う。この前処理では、送信部11の位置を固定しつつ、配管1の軸方向における受信部12の位置を所定のピッチで変更しながら、受信部12で受信されたガイド波A2の振幅を記録する。そして、受信部12で受信されたガイド波A2の振幅が極大値となる位置により、第1経路を特定する。ステップS1では、ガイド波A2の振幅が極大値となる位置に、受信部12を配置する。
【0042】
同様に、上述の図3のステップS3に対する前処理を行う。この前処理では、送信部11の位置を固定しつつ、配管1の軸方向における受信部12の位置を所定のピッチで変更しながら、受信部12で受信されたガイド波A3の振幅を記録する。受信部12で受信されたガイド波A3の振幅が極大値となる位置により、第2経路を特定する。ステップS3では、ガイド波A3の振幅が極大値となる位置に、受信部12を配置する。
【0043】
次に、本実施形態の計測方法の詳細を、表示装置16の画面の具体例と共に説明する。図5図9は、本実施形態における第1受信情報表示画面、第1受信位置設定画面、第2受信情報表示画面、第2受信位置設定画面、及び計測画面をそれぞれ表す図である。
【0044】
上述の図3のステップS1に対する前処理にて、配管1の軸方向における受信部12の位置を変更する度に、表示装置16は、第1受信情報表示画面21A(図5参照)を表示する。この画面21Aは、受信位置入力欄22A、データ表示欄23A、及び振幅表示欄24Aを有する。作業者は、入力装置15を用いて、受信位置入力欄22Aに受信部12の位置を入力する。計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号の強度の経時変化、すなわち、受信部12で受信されたガイド波の振幅の経時変化をデータ表示欄23Aに表示させる。作業者は、入力装置15を用いてデータ表示欄23A中のカーソル25Aを動かして、第1経路にほぼ対応するガイド波の受信時間及び振幅を選択する。計算機14は、カーソル25Aで選択されたガイド波の振幅の数値を、振幅表示欄24Aに表示させると共に、受信位置入力欄22Aに入力された受信部12の位置と関連付けて記録する。
【0045】
上述した操作の繰り返しにより、計算機14は、受信部12の位置とガイド波の振幅からなる複数の組合せを記録する。その後、表示装置16は、第1受信位置設定画面26A(図6参照)を表示する。この画面26Aは、データ表示欄27A及び第1受信位置表示欄28Aを有する。計算機14は、受信部12の位置とガイド波の振幅の組合せをデータ表示欄27Aに表示させる。また、受信部12の位置とガイド波の振幅の関係を示す近似曲線29Aを作成してデータ表示欄27Aに表示させると共に、ガイド波の振幅の極大値を計算する。そして、第1経路を特定するための第1受信位置として、ガイド波の振幅が極大値となる受信部12の位置を記録する共に、第1受信位置表示欄28Aに表示させる。
【0046】
上述の図3のステップS3に対する前処理にて、配管1の軸方向における受信部12の位置を変更する度に、表示装置16は、第2受信情報表示画面21B(図7参照)を表示する。この画面21Bは、受信位置入力欄22B、データ表示欄23B、及び振幅表示欄24Bを有する。作業者は、入力装置15を用いて、受信位置入力欄22Bに受信部12の位置を入力する。計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号の強度の経時変化、すなわち、受信部12で受信されたガイド波の振幅の経時変化をデータ表示欄23Bに表示させる。作業者は、入力装置15を用いてデータ表示欄23B中のカーソル25Bを動かして、第2経路にほぼ対応するガイド波の受信時間及び振幅を選択する。計算機14は、カーソル25Bで選択されたガイド波の振幅の数値を、振幅表示欄24Bに表示させると共に、受信位置入力欄22Bに入力された受信部12の位置と関連付けて記録する。
【0047】
上述した操作の繰り返しにより、計算機14は、受信部12の位置とガイド波の振幅からなる複数の組合せを記録する。その後、表示装置16は、第2受信位置設定画面26B(図6参照)を表示する。この画面26Bは、データ表示欄27B及び第2受信位置表示欄28Bを有する。計算機14は、受信部12の位置とガイド波の振幅の組合せをデータ表示欄27Bに表示させる。また、受信部12の位置とガイド波の振幅の関係を示す近似曲線29Bを作成してデータ表示欄27Bに表示させると共に、ガイド波の振幅の極大値を計算する。そして、第2経路を特定するための第2受信位置として、ガイド波の振幅が極大値となる受信部12の位置を記録する共に、第2受信位置表示欄28Bに表示させる。
【0048】
その後、表示装置16は、計測画面30を表示する。この画面30は、第1受信位置表示欄31A、第1データ表示欄32A、第1伝播時間表示欄33A、第2受信位置表示欄31B、第2データ表示欄32B、第2伝播時間表示欄33B、部材音速入力欄34、気体音速表示欄35、及び距離表示欄36を有する。
【0049】
計算機14は、第1経路を特定するための第1受信位置として記録された受信部12の位置を、第1受信位置表示欄31Aに表示させると共に、第2経路を特定するための第2受信位置として記録された受信部12の位置を、第2受信位置表示欄31Bに表示させる。作業者は、入力装置15を用いて、部材音速入力欄34に配管1の鋼材の音速を入力する。
【0050】
上述の図3のステップS1にて、作業者は、第1受信位置表示欄31Aで表示された第1受信位置となるように、受信部12を配置する。上述の図3のステップS2にて、計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号の強度の経時変化、すなわち、受信部12で受信されたガイド波の振幅の経時変化を第1データ表示欄32Aに表示させる。作業者は、入力装置15を用いて第1データ表示欄32A中のカーソル35Aを動かして、ガイド波A2の受信時間及び振幅を選択する。計算機14は、カーソル35Aで選択されたガイド波A2の受信時間に基づいて第1経路の超音波の伝播時間TR1を計算し、第1伝播時間表示欄33Aに表示させる。
【0051】
上述の図3のステップS3にて、作業者は、第2受信位置表示欄31Bで表示された第2受信位置となるように、受信部12を配置する。上述の図3のステップS4にて、計算機14は、制御装置13を介し受信部12から入力された電気信号の強度の経時変化、すなわち、受信部12で受信されたガイド波の振幅の経時変化を第2データ表示欄32Bに表示させる。作業者は、入力装置15を用いて第2データ表示欄32B中のカーソル35Bを動かして、ガイド波A3の受信時間及び振幅を選択する。計算機14は、カーソル35Bで選択されたガイド波A3の受信時間に基づいて第2経路の超音波の伝播時間TR2を計算し、第2伝播時間表示欄33Bに表示させる。
【0052】
上述の図3のステップS5及びS6にて、計算機14は、表示欄33Aに表示された第1経路の超音波の伝播時間TR1と、表示欄33Bに表示された第2経路の超音波の伝播時間TR2と、表示欄31Aに表示された受信部12の位置(すなわち、第1経路におけるガイド波の送信位置と受信位置の間の距離LP1)と、入力欄34に入力された配管1の鋼材の音速Vとに基づいて、気体3の音速Vを計算や、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計算する。そして、計算された気体3の音速Vを気体音速表示欄35に表示させ、計算された距離Lgapを距離表示欄36に表示させる。
【0053】
以上のように本実施形態においては、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapが不明であっても、配管1の鋼材と水2の間に存在する気体3の音速Vを計測することができる。また、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計測することができる。
【0054】
なお、第1の実施形態において、第1経路は、水2の表面で反射された漏洩波の反射回数が1回であり、第2経路は、水2の表面で反射された漏洩波の反射回数が2回である場合を例にとって説明したが、これに限られず、第1経路と第2経路は、水2の表面で反射された漏洩波の反射回数が異なればよい。計算機14は、第1経路の漏洩波の反射回数と第2経路の漏洩波の反射回数との差分を考慮して、気体3の音速Vや、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計算すればよい。
【0055】
また、第1の実施形態において、計算機14は、気体3の音速Vだけでなく、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapも計算する場合を例にとって説明したが、これに限られず、配管1の内面と水2の表面の間の距離Lgapを計算しなくてもよい。
【0056】
また、第1の実施形態において、計測装置は、1つの受信部12を備え、制御装置13は、1つのレシーバ18を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば図10で示す第2の実施形態のように、計測装置は、2つの受信部12A,12Bを備え、制御装置13は、受信部12A,12Bからの電気信号を入力する2つのレシーバ18A,18Bを備えてもよい。本実施形態では、上述の図3のステップS1にて、第1経路の超音波を受信するように、受信部12Aを配置する。ステップS3にて、第2経路の超音波を受信するように、受信部12Bを配置する。本実施形態においても、上記同様の効果を得ることができる。
【0057】
また、第1及び第2の実施形態において、計測対象物は、鋼製の配管1(部材)と、配管1の内側に存在する水2(反射体)と、配管1の鋼材と水2の間に存在する気体3とで構成された場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば、鋼製の配管に代えて、鋼製の容器であってもよいし、水に代えて、他の液体であってもよい。あるいは、例えば図11で示す変形例のように、計測対象物は、鋼製の容器4(部材)と、容器4の内側に存在する構造物5(反射体)と、容器4の鋼材と構造物5の間に存在する気体3とで構成されてもよい。但し、容器4の外面における送信部11及び受信部12(又は12A,12B)の配列方向と構造物5の表面は平行であることが好ましい。本変形例では、容器4の内面と構造物5の表面の間の距離が不明であっても、上述した計測装置を用いた計測方法により、気体3の音速を計測することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 配管
2 水
3 気体
4 容器
5 構造物
11 送信部
12,12A,12B 受信部
14 計算機
16 表示装置
図1
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図11