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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】超音波検査方法及び超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/44 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
G01N29/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019216271
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085811
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】北澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】仁平 泰広
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
(72)【発明者】
【氏名】長沼 潤一郎
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-102138(JP,A)
【文献】特開平06-207928(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103235039(CN,A)
【文献】特開2003-004712(JP,A)
【文献】特開平04-009658(JP,A)
【文献】国際公開第2005/058167(WO,A2)
【文献】特開2017-099423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01B 17/00 - G01B 17/08
G01M 5/00 - G01M 7/08
G01H 1/00 - G01H 17/00
A61B 8/00 - A61B 8/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサへパルス信号を出力して超音波を発生させて送信し、対象物で反射又は散乱された超音波を前記超音波センサで受信すると共に波形信号に変換し、前記波形信号をデジタル化して波形データを取得する超音波検査方法において、
複数回の検査で且つ同一の検査条件で取得されるか若しくは複製されて取得された複数の波形データを用い、前記複数の波形データを時間的にずらすと共に予め設定された符号列に従って正の符号及び負の符号のうちのいずれかを掛けて合算する位相変調方式により、合成波形データを生成する変調処理と、
前記合成波形データを復調して圧縮波形データを生成する復調処理とを実行することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査方法において、
前記復調処理は、前記合成波形データを時間的に反転させた整合フィルタを生成し、前記合成波形データに対し前記整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って圧縮波形データを生成することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項3】
請求項に記載の超音波検査方法において、
前記変調処理は、2種類の符号列を用いて2種類の合成波形データをそれぞれ生成し、
前記復調処理は、前記2種類の合成波形データを時間的に反転させた2種類の整合フィルタをそれぞれ生成し、前記2種類の合成波形データに対し前記2種類の整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って2種類の一次圧縮波形データをそれぞれ生成し、前記2種類の一次圧縮波形データを合算して二次圧縮波形データを生成することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査方法において、
前記復調処理は、前記パルス信号に基づいた数値解析によって位相が異なる複数種類の整合フィルタを生成し、前記合成波形データに対し前記複数種類の整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って複数種類の圧縮波形データをそれぞれ生成し、前記波形データの位相として、前記複数種類の圧縮波形データのうちの振幅が最大である圧縮波形データに対応する前記整合フィルタの位相を取得することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項5】
超音波センサと、
前記超音波センサへパルス信号を出力して超音波を発生させて送信し、対象物で反射又は散乱された超音波が前記超音波センサで受信されて変換された波形信号を入力し、前記波形信号をデジタル化して波形データを取得する制御装置と、
前記制御装置で取得された波形データを処理する計算機と、を備えた超音波検査装置において、
前記計算機は、
複数回の検査で且つ同一の検査条件で取得されるか若しくは複製されて取得された複数の波形データを用い、前記複数の波形データを時間的にずらすと共に予め設定された符号列に従って正の符号及び負の符号のうちのいずれかを掛けて合算する位相変調方式により、合成波形データを生成する変調処理と、
前記合成波形データを復調して圧縮波形データを生成する復調処理と、を実行することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項6】
請求項に記載の超音波検査装置において、
前記復調処理は、前記合成波形データを時間的に反転させた整合フィルタを生成し、前記合成波形データに対し前記整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って圧縮波形データを生成することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項7】
請求項に記載の超音波検査装置において、
前記変調処理は、2種類の符号列を用いて2種類の合成波形データをそれぞれ生成し、
前記復調処理は、前記2種類の合成波形データを時間的に反転させた2種類の整合フィルタをそれぞれ生成し、前記2種類の合成波形データに対し前記2種類の整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って2種類の一次圧縮波形データをそれぞれ生成し、前記2種類の一次圧縮波形データを合算して二次圧縮波形データを生成することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項8】
請求項に記載の超音波検査装置において、
前記復調処理は、前記パルス信号に基づいた数値解析によって位相が異なる複数種類の整合フィルタを生成し、前記合成波形データに対し前記複数種類の整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って複数種類の圧縮波形データをそれぞれ生成し、前記波形データの位相として、前記複数種類の圧縮波形データのうちの振幅が最大である圧縮波形データに対応する前記整合フィルタの位相を取得することを特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査方法及び超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な工業分野において近年の製品の高機能化には目覚ましいものがあるが、それにともない製品を構成する部品の材質や構造も徐々に複雑になり、製品の信頼性をいかに担保するかが重要な課題となりつつある。すなわち、製品の製造過程や出荷時あるいは供用中の検査の重要性が、これまで以上に増してきていると言える。超音波検査方法は、製品等の対象物を検査する手法の一つである。超音波検査方法では、超音波センサへパルス信号を出力して超音波を発生させて送信し、対象物の欠陥等で反射又は散乱された超音波を超音波センサで受信する共に波形信号に変換する。これにより、対象物の健全性を確認する。
【0003】
対象物が低減衰材(すなわち、超音波の透過性が高い材料)で構成されていれば、特段の問題はない。しかし、対象物が高減衰材(詳細には、近年多く用いられている複合材料や、耐腐食性能が高いステンレス材のように、超音波の減衰が激しい材料)で構成されていれば、波形信号が雑音信号に埋もれて認識できず、対象物の検査が困難になる。また、対象物が高減衰材で構成されていなくとも、超音波の伝播経路が長くなれば、やはり超音波が減衰して波形信号と雑音信号の比(SN比)が劣化するため、対象物の検査が困難になる。雑音信号は、その原因が複数あるものの、対象物を構成する材料の結晶粒等で超音波が散乱されるために生じる散乱ノイズや、受信回路から生じる電気的ノイズが主である。SN比を向上させるためには、雑音信号をできるだけ小さく抑えるべきである。しかしながら、電気的ノイズの抑制には限界があるし、材料特性で決まる散乱ノイズに対してはほとんど対策のしようが無い。
【0004】
このような課題を解決する方法の一つとして、上述したパルス信号と波形信号(又はデジタル化された波形データ)に対して行うものであって、パルス圧縮と呼ばれる処理技術が知られている(非特許文献1参照)。このパルス圧縮では、位相変調方式又は線形周波数変調方式によってパルス信号を変調して、パルス信号の時間幅を拡大する。位相変調方式では、予め設定された符号列に従ってパルス信号の位相を変調する。線形周波数変調方式では、時間に対して線形にパルス信号の周波数を変調する。パルス信号の時間幅の拡大に伴い、波形信号の時間幅も拡大する。そのため、波形信号を復調して、波形信号の時間幅を縮小する。これにより、波形信号の時間分解能が高くなり、SN比を高めることが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】伊藤信一、「レーダシステムの基礎理論」、初版、株式会社コロナ社、2015年11月20日、p.222-243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、パルス信号を変調する特殊な装置が必要であり、この装置は高価である。そのため、上記従来技術の採用の妨げになる場合が少なくない。
【0007】
本発明の目的は、パルス信号を変調する特殊な装置を用いることなく、SN比を向上させることができる超音波検査方法及び超音波検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、代表的な本発明は、超音波センサへパルス信号を出力して超音波を発生させて送信し、対象物で反射又は散乱された超音波を前記超音波センサで受信すると共に波形信号に変換し、前記波形信号をデジタル化して波形データを取得する超音波検査方法において、複数回の検査で且つ同一の検査条件で取得されるか若しくは複製されて取得された複数の波形データを用い、前記複数の波形データを時間的にずらすと共に予め設定された符号列に従って正の符号及び負の符号のうちのいずれかを掛けて合算する位相変調方式により、合成波形データを生成する変調処理と、前記合成波形データを復調して圧縮波形データを生成する復調処理とを実行する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パルス信号を変調する特殊な装置を用いることなく、SN比を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態における超音波探傷装置の構成を表すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態における制御装置で収録されたデータの具体例を表す図である。
図3】本発明の一実施形態における計算機の処理内容を表すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態における複数の波形データを表す図である。
図5】本発明の一実施形態における合成波形データ、整合フィルタ、及び圧縮波形データを表す図である。
図6】本発明の第1の変形例における合成波形データ、整合フィルタ、及び圧縮波形データを表す図である。
図7】本発明の第2の変形例における二次圧縮波形データを表す図である。
図8】本発明の第3の変形例における合成波形データ、整合フィルタ、及び圧縮波形データを表す図である。
図9】本発明の第4の変形例における波形データの位相の取得結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、パルス圧縮と呼ばれる処理技術を、パルス信号と波形信号に対して行うものでなく、波形データのみに対して行うものである。本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施形態における超音波検査装置の構成を表すブロック図である。
【0013】
本実施形態の超音波検査装置は、超音波センサ11と、超音波センサ11を制御する制御装置12と、制御装置12に接続された計算機13と、計算機13に接続された表示装置14(ディスプレイ)とを備えている。制御装置12は、パルサ15、レシーバ16、及びデータ収録部17を有している。データ収録部17は、例えばハードディスク又はメモリで構成されている。計算機13は、プログラムを記憶するROM18と、プログラムに従って処理を実行するCPU19と、処理結果を記憶するRAM20とを有している。計算機13には、キーボード21やマウス22等の入力装置が接続されている。
【0014】
制御装置12のパルサ15は、超音波センサ11へパルス信号を出力する。これにより、超音波センサ11で超音波を発生させ、超音波センサ11から対象物1へ超音波を送信させる。その後、超音波センサ11は、対象物1の欠陥2等で反射又は散乱された超音波(詳細には、例えば縦波又は横波など)を受信し、波形信号に変換して制御装置12のレシーバ16へ出力する。
【0015】
制御装置12は、レシーバ16を介し超音波センサ11から入力された電気信号をデジタル化し、そのデータをデータ収録部17に収録する。このデータは、図2で示すようにパルス信号の出力時間を起点として電気信号の振幅の経時変化を表すものであり、例えば複数の波形データ31、32、33を含んでいる。
【0016】
計算機13は、制御装置12のデータ収録部17で収録されたデータを表示装置14に表示させる。作業者は、入力装置を用いて、表示装置14で表示されたデータから波形データを抽出する。抽出された各波形データは、超音波センサ11で受信された超音波に相当する部分であって、信号の振幅が所定値より大きくなって連続的に変化する第1の部分だけでもよいし、超音波センサ11で受信された超音波に相当しない部分であって、第1の部分に対し前後して信号の振幅が所定値より小さくなっている第2及び第3の部分を含めてもよい。計算機13は、抽出された波形データに対してパルス圧縮と呼ばれる処理技術を行う。
【0017】
次に、本実施形態の超音波検査方法の特徴としての計算機13の処理内容について、図3~図を用いて説明する。
【0018】
図3は、本実施形態における計算機の処理内容を表すフローチャートである。図4は、本実施形態における複数の波形データを表す図である。図5(a)、図5(b)、及び図5(c)は、本実施形態における合成波形データ、整合フィルタ、圧縮波形データを表す図である。ここでは、パルス信号が一波長の正弦波である場合を例にとり、波形データも一波長の正弦波を含むものとして示す。
【0019】
計算機13は、複数の波形データを用い、位相変調方式によって変調して合成波形データを生成する変調処理を実行する(図3のステップS101)。詳しく説明すると、例えば4回の検査で且つ同一の検査条件(詳細には、各検査における超音波センサ11の位置が同じ、パルス信号の出力時間に対する波形信号の入力時間が同じ等の条件)で取得された4つの波形データ31、31A、31B、31C(図4参照)を用いる。そして、予め設定された符号列に従い、波形データ31、31A、31Bに正の符号(詳細には、例えば「1」、又は他の定数)を掛けて波形データ31’、31A’、31B’とし、波形データ31Cに負の符号(詳細には、例えば「-1」、又は他の定数)を掛けて31C’とする。そして、各波形データの時間幅(ここでは、上述した第1の部分の時間幅)をtと定義したときに、波形データ31’に対して波形データ31A’を時間的にtだけずらし、波形データ31’に対して波形データ31B’を時間的にt×2だけずらし、波形データ31’に対して波形データ31C’を時間的にt×3だけずらして、波形データ31’、31A’、31B’、31C’を合算する。これにより、合成波形データ34(図5(a)参照)を生成する。なお、前述した正の符号の絶対値と負の符号の絶対値が同じであれば、サイドローブを打ち消す効果が得られるものの、同じでなくともよい。
【0020】
計算機13は、合成波形データ34を復調して圧縮波形データを生成する復調処理を実行する(図3のステップS102)。詳しく説明すると、例えば、合成波形データ34は、信号の振幅が所定値より大きくなって連続的に変化する第1の部分だけでなく、第1の部分に対し前後して信号の振幅が所定値より小さくなっている第2及び第3の部分を含んでいれば、第2及び第3の部分を取り除く。そして、合成波形データ34を時間的に反転させて、整合フィルタ35(図5(b)参照)を生成する(図3のステップS103)。整合フィルタ35の時間幅はΔt×4となる。そして、合成波形データ34に対し整合フィルタ35を用いて畳み込み積分を行って、圧縮波形データ36(図5(c)参照)を生成する(図3のステップS104)。
【0021】
以上のように本実施形態では、パルス信号を変調する特殊な装置を用いなくとも、パルス圧縮と呼ばれる処理技術を行うことができ、圧縮波形データ36のSN比を高めることができる。
【0022】
なお、上記一実施形態において、計算機13は、予め設定された符号列に従い、波形データ31、31A、31Bに正の符号を掛け、波形データ31Cに負の符号を掛ける場合を例にとって説明したが、これに限られず、他の符号列に従ってもよい。このような変形例を、図(a)、図(b)、及び図(c)を用いて説明する。図(a)、図(b)、及び図(c)は、本変形例における合成波形データ、整合フィルタ、及び圧縮波形データをそれぞれ表す図である。
【0023】
本変形例では、計算機13は、予め設定された符号列に従い、波形データ31、31A、31Cに正の符号を掛けて波形データ31’’、31A’’、31C’’とし、波形データ31Bに負の符号を掛けて波形データ31B’’とする。そして、各波形データの時間幅をtと定義したときに、波形データ31’’に対して波形データ31A’’を時間的にtだけずらし、波形データ31’’に対して波形データ31B’’を時間的にt×2だけずらし、波形データ31’’に対して波形データ31C’’を時間的にt×3だけずらして、波形データ31’’、31A’’、31B’’、31C’’を合算する。これにより、合成波形データ34A(図(a)参照)を生成する。
【0024】
計算機13は、合成波形データ34Aが第1の部分だけでなく第2及び第3の部分を含んでいれば、第2及び第3の部分を取り除く。そして、合成波形データ34Aを時間的に反転させて、整合フィルタ35A(図(b)参照)を生成する。そして、合成波形データ34Aに対し整合フィルタ35Aを用いて畳み込み積分を行って、圧縮波形データ36A(図(c)参照)を生成する。このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0025】
また、上記一実施形態及び変形例において、特に説明しなかったが、計算機13は、相補的な関係にある2種類の符号列を用いて2種類の合成波形データをそれぞれ生成してもよい。そして、2種類の合成波形データを時間的に反転させた2種類の整合フィルタをそれぞれ生成し、2種類の合成波形データに対し2種類の整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って2種類の一次圧縮波形データをそれぞれ生成し、2種類の一次圧縮波形データを合算して二次圧縮波形データを生成してもよい。具体例の一つとして、計算機13は、上述した圧縮波形データ36、36A(一次圧縮波形データ)を生成し、それらを合算して二次圧縮波形データ37(図参照)を生成してもよい。これにより、圧縮波形データ36のサイドローブと圧縮波形データ36Aのサイドローブが打ち消しあうので、二次圧縮波形データ37のSN比を高めることができる。
【0026】
また、上記一実施形態において、計算機13は、位相変調方式によって変調して合成波形データを生成する場合を例にとって説明したが、これに限られず、線形周波数変調方式によって変調して合成波形データを生成してもよい。このような変形例を、上述の図4と共に、図(a)、図(b)、及び図(c)を用いて説明する。図(a)、図(b)、及び図(c)は、本変形例における合成波形データ、整合フィルタ、及び圧縮波形データをそれぞれ表す図である。
【0027】
本変形例では、計算機13は、例えば4回の検査で且つ同一の検査条件で取得された4つの波形データ31、31A、31B、31C(図4参照)を用いる。そして、各波形データの波長(ここでは、上述した第1の部分の波長)をλと定義したときに、波形データ31の波長をλのままとして波形データ31’’’とし、波形データ31Aの波長をλ×3/4に変調して波形データ31A’’’とし、波形データ31Bの波長をλ×2/4に変調して波形データ31B’’’とし、波形データ31Cの波長をλ×1/4に変調して波形データ31C’’’とする。そして、波形データ31’’’の時間幅をt(但し、本変形例ではt=λ)、波形データ31A’’’の時間幅をta(但し、本変形例ではta=λ×3/4)、波形データ31B’’’の時間幅をtb(但し、本変形例ではtb=λ×2/4)、波形データ31C’’’の時間幅をtc(但し、本変形例ではtc=λ×1/4)と定義したときに、波形データ31’’’に対して波形データ31A’’’を時間的にtだけずらし、波形データ31’’’に対して波形データ31B’’’を時間的に(t+ta)だけずらし、波形データ31’’’に対して波形データ31C’’’を時間的に(t+ta+tb)だけずらして、波形データ31’’’、31A’’’、31B’’’、31C’’’を合算する。これにより、合成波形データ34B(図(a)参照)を生成する。
【0028】
計算機13は、合成波形データ34Bが第1の部分だけでなく第2及び第3の部分を含んでいれば、第2及び第3の部分を取り除く。そして、合成波形データ34Bを時間的に反転させて、整合フィルタ35B(図(b)参照)を生成する。整合フィルタ35Bの時間幅は(t+ta+tb+tc)となる。そして、合成波形データ34Bに対し整合フィルタ35Bを用いて畳み込み積分を行って、圧縮波形データ36B(図(c)参照)を生成する。このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0029】
また、上記一実施形態及び変形例において、計算機13は、合成波形データを時間的に反転させて整合フィルタを生成する場合を例にとって説明したが、これに限られず、パルス信号に基づいた数値解析によって整合フィルタを生成してもよい。あるいは、パルス信号に基づいた数値解析によって、波長が同じであるものの位相が異なる複数種類の整合フィルタを生成し、合成波形データに対し複数種類の整合フィルタを用いて畳み込み積分を行って複数種類の圧縮波形データをそれぞれ生成してもよい。そして、例えば図で示すように、波形データ31、32、33を含むデータの時間を横軸にとり、整合フィルタの位相を縦軸にとり、前述した時間と位相の組み合わせに対応する圧縮波形データの振幅を階調によって表示する。これにより、波形データ31、32、又は33の位相として、複数種類の圧縮波形データのうちの振幅が最大である圧縮波形データに対応する整合フィルタの位相φ1、φ2、又はφ3を取得する。したがって、波形データ31、32、33の位相の変化を把握して、超音波が通過した媒質や、反射や屈折等の影響を把握することができる。
【0030】
また、上記一実施形態及び変形例において、変調処理は、4回の検査で且つ同一の検査条件で取得された4つの波形データ31、31A、31B、31Cを用いる場合を例にとって説明したが、これに限られない。例えば、2回、3回、又は5回以上の検査で且つ同一の検査条件で取得された複数の波形データを用いてもよい。あるいは、例えば、少なくとも1回の検査で取得された波形データを複製してもよい。なお、前者の場合は、雑音信号が打ち消しあうので、SN比を向上させることができる。後者の場合は、SN比を向上させる効果が薄れるものの、検査時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 対象物
11 超音波センサ
12 制御装置
13 計算機
31、31A、31B、31C 波形データ
32 波形データ
33 波形データ
34、34A、34B 合成波形データ
35、35A、35B 整合フィルタ
36、36A、36B 圧縮波形データ
37 二次圧縮波形データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9