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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】出来立て香付与ないし増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/21 20160101AFI20230301BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20230301BHJP
【FI】
A23L27/21 Z
A23L27/20 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019238841
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106518
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390019460
【氏名又は名称】稲畑香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】中川 直道
(72)【発明者】
【氏名】富 研一
(72)【発明者】
【氏名】西川 修平
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-098715(JP,A)
【文献】特開昭48-018468(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103284133(CN,A)
【文献】特開2005-015683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/21
A23L 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるα-アミノ酸、シスチン、及びグルタチオンからなる群から選択される1種又は2種以上からなるA成分、及び
下記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物(但し、ジアセチルを除く)、及び3-メルカプトプロピオン酸からなる群から選択される1種又は2種以上からなるB成分
を有効成分として含有することを特徴とする出来立て香付与ないし増強剤。
【化1】
(式中、Rはアミノ酸側鎖を示す。)
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
【請求項2】
前記A成分及びB成分の加熱反応により、アルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群と、ピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群の、それぞれの成分を少なくとも1種含む出来立て香を生成することを特徴とする請求項1に記載の出来立て香付与ないし増強剤。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸が、アラニン、ロイシンバリン、及びシステインからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の出来立て香付与ないし増強剤。
【請求項4】
前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物が、ピルビン酸、ピルブアルデヒドアセチルプロピオニル、アセチルブチリル、及びアセチルベンゾイルからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の出来立て香付与ないし増強剤。
【請求項5】
合成香料、天然香料、香辛料抽出物、及び溶剤から選ばれる1種又は2種以上を更に含有することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の出来立て香付与ないし増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品又は調味料に出来立て香を付与ないし増強するために用いる出来立て香付与ないし増強剤、及び該出来立て香付与ないし増強剤を含む飲食品又は調味料、並びに該飲食品又は調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者のライフスタイルの変化に伴い中食化が進み、購入後の簡便な加熱のみで喫食可能となる加熱調理食品の需要が拡大している。加熱調理食品の香りや味は消費者の嗜好性を左右するため、より本物感・調理感のある風味が強く求められている。しかし、これらは加熱調理工程を経ることで低沸点香気成分の損失や香味の変化がおこり、理想の香味を保持することが難しいのが課題である。
【0003】
このような背景にあって、調理香の補強を行う技術として、加熱調理香に特有の香気成分を香料として加熱調理食品に添加することや、それらの成分の前駆体を加熱工程前に添加することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、食品に調理香の重要成分となる硫黄化合物群(玉葱が有するS-アルキル-L-システインスルフォキサイドから誘導されるジスルフィド類、トリスルフィド類など)を付与するため、酵素処理を施した生の玉葱から得られるエキスを、加熱工程を要する食品に利用する技術が提案されている。また、特許文献2には、同じく食品に調理香の重要成分となる硫黄化合物群(2-メチルチオアセトアルデヒドなどのスルフィド類、メチルプロピルジスルフィドなどのジスルフィド類、トリスルフィド類)を付与するため、玉葱から含水アルコールなどで抽出したエキスを、加熱工程を要する食品に利用する技術が提案されている。
しかしながら、これらの技術の問題点としては、原料であるエキスが天然物由来であるため、加熱により出来上がる香気の再現性が低いことや、香調のバリエーションが少なく用途が限られること、製造工程が煩雑であること等が挙げられる。また、喫食時のみならず製造時にも加熱を要するため、喫食時に香り立ちを最も強くすることができない。
【0005】
また、特許文献3には、飲食品に香ばしい香気を付与するため、焙煎香に寄与する1-ピロリン誘導体の前駆体として、ジアルコキシブチルアミンを加熱工程を要する飲食品に利用する技術が提案されている。
しかしながら、この技術の問題点としては、加熱による生成物が1-ピロリン誘導体に限られ、より複雑で自然な調理感を出すことが難しいことや、香調のバリエーションが少なく用途が限られること等が挙げられる。
【0006】
また、特許文献4には、(Z)-ペンタデセナールの添加により、天然感やオイリー感といった本物感を付与して香味を増強する技術が提案されている。
しかしながら、この技術は、(Z)-ペンタデセナールを添加した直後に香り立ちが最も強くなり、時間の経過(加工・流通・貯蔵の過程)で香気(効果)が薄れてしまうことが避けられない。
【0007】
また、特許文献5には、電子レンジで調理する際に、料理に調理香を付与することができる技術が提案されている。
しかしながら、この技術の問題点としては、マイクロ波吸収発熱成分、香気発生成分、温度調節成分を別途用いるか、もしくはそれらの成分を有した特殊な容器が必要であり、汎用性が低いことが挙げられる。
【0008】
また、特許文献6には、2,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3-メチルピラジンからなる成分グループA、並びにアリルスルフィド、アリルジスルフィド、アリルメチルジスルフィドから選択される少なくとも1つの化合物からなる成分グループBを含む香料組成物を利用することで、調味料又は食品に調理感を簡便に付与するできる技術が提案されている。
しかしながら、この技術の問題点としては、加工・流通・貯蔵の過程で香気成分が次第に失われてしまうことが挙げられる。
【0009】
さらに、特許文献7、8には、カプセル内に封入した香気揮発性成分を冷凍食品に含有させることを特徴とする技術が提案されている。
しかしながら、この技術の問題点としては、香料に由来する香気成分の保持には効果があるが、低沸点成分が喫食時までに失われやすく、調理時に発生する調理香や出来立て香は感じられにくいことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-61589号公報
【文献】特開2003-000182号公報
【文献】特開2000-303090号公報
【文献】特開2016-105706号公報
【文献】特開平11-318378号公報
【文献】国際出願公開第2015/152023号
【文献】特開2000-14332号公報
【文献】特開2000-139378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のとおり、加熱調理食品における調理香の強化や付与を行う技術において、飲食品全般に汎用的に使用することができ、香気成分単位での香調・濃度調整が可能で、製造工程も簡便なものであって、加熱時に香ばしい焙煎感・調理感・出来立て香を付与し、喫食時に香りが最も強くなるような手段が求められているが、これまでに存在しない。
【0012】
なお、ここで言う「出来立て香」とは、加熱工程で失われやすい低沸点成分であり、調理時に感じられる香りの立ち上がりに寄与するアルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群と、加熱調理香に寄与するピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群において、加熱によって生じるそれぞれの群の成分を少なくとも1種以上含む組成の香りをいい、食品に濃厚感を付与し、味を持続させるようないわゆるコク味とは異なる。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、飲食品又は調味料全般に使用でき、加熱調理香に寄与する効果が高く、食欲を沸き立たせるような出来立て香を付与ないし増強することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、飲食品又は調味料に、下記一般式(1)で表されるα-アミノ酸、シスチン、及びグルタチオンからなる群から選択される1種又は2種以上からなるA成分と、下記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物、下記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物、及び3-メルカプトプロピオン酸からなる群から選択される1種又は2種以上からなるB成分を添加することにより、加熱工程で失われやすい低沸点成分であるアルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群の成分の少なくとも1種を増加させるとともに、加熱調理香に寄与するピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群の成分の少なくとも1種が生成され、飲食品又は調味料に出来立て香を付与ないし増強することができることを見出した。
【0015】
【化1】
(式中、Rはアミノ酸側鎖を示す。)
【0016】
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
【0017】
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
【0018】
すなわち、前記A成分及びB成分は、加熱工程で失われやすい低沸点成分であるアルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群の成分と、加熱調理香に寄与するピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群の成分を生み出す前駆体であり、加熱によりA成分とB成分が反応し、I群及びII群のそれぞれの成分を少なくとも1種を含んだ好ましい出来立て香を生み出せるという知見を得たものである。
【0019】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下の発明を提供するものである。
[1]下記一般式(1)で表されるα-アミノ酸、シスチン、及びグルタチオンからなる群から選択される1種類又は2種類以上からなるA成分、及び
下記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物、下記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物、及び3-メルカプトプロピオン酸からなる群から選択される1種類又は2種類以上からなるB成分を有効成分として含有することを特徴とする出来立て香付与ないし増強剤。
【化1】
(式中、Rはアミノ酸側鎖を示す。)
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
[2]前記A成分及びB成分の加熱反応により、アルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群と、ピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群の、それぞれの成分を少なくとも1種含む出来立て香を生成することを特徴とする[1]に記載の出来立て香付与ないし増強剤。
[3]前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸が、アラニン、ロイシン、及びバリンからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする[1]に記載の出来立て香付与ないし増強剤。
[4]前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物が、ピルビン酸、ピルブアルデヒド、ジアセチル、アセチルプロピオニル、及びアセチルブチリルからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤。
[5]前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物が、3-メルカプト-2-ブタノンであることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤。
[6]合成香料、天然香料、香辛料抽出物、及び溶剤から選ばれる1種又は2種以上を更に含有することを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤を、0.001~10質量%含有することを特徴とする飲食品。
[8][1]~[6]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤を、0.001~30質量%含有することを特徴とする調味料。
[9][1]~[6]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤を、飲食品全量に対して0.001~10質量%添加する工程を含む、飲食品の製造方法。
[10]前記工程の後に、加熱後密封する工程又は密封後加熱する工程を含むことを特徴とする[9]に記載の飲食品の製造方法。
[11][1]~[6]のいずれかに記載の出来立て香付与ないし増強剤を、調味料全量に対して0.001~30質量%添加する工程を含む、調味料の製造方法。
[12]前記工程の後に、加熱後密封する工程又は密封後加熱する工程を含むことを特徴とする[11]に記載の調味料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明における出来立て香付与ないし増強剤におけるA成分及びB成分は、低沸点成分や加熱調理香に寄与する香気の前駆体であって、両成分を加熱することで、本来失われる低沸点成分や調理感に寄与する香気成分が新たに生成する。したがって、本発明によれば、出来立て香付与ないし増強剤を有効量添加した飲食品又は調味料を加熱することで、出来立て香に寄与する成分が新たに生成し、それらの混合体が相乗効果を生み出し、調理感を増強させることで、出来立て香を付与ないし増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0022】
本発明の出来立て香付与ないし増強剤は、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸、シスチン、及びグルタチオンからなる群から選択される1種類又は2種類以上からなるA成分と、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物、及び3-メルカプトプロピオン酸からなる群から選択される1種類又は2種類以上からなるB成分とを有効成分として含有することを特徴とする。
【0023】
本発明において、「有効成分として含有する」とは、所望の香気(出来立て香)を発揮するのに充分な量で含むことを意味する。したがって、本実施形態に係る出来立て香付与ないし増強剤は、前記A成分及びB成分のみを含有してもよいが、所望の香気を損なわない限りにおいて、他の香料成分・食品成分や、溶剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の前記A成分及びB成分は、低沸点成分や調理感に寄与する香気の前駆体となり得るものであって、両成分を加熱することで生じる、調理をした際に香るトップの香気に寄与するアルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群と、調理感に寄与するピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群において、それぞれの群の成分を少なくとも1種含む組成をもつ、食欲を沸き立たせるような出来立て香を付与ないし増強することができる。したがって、本発明の出来立て香付与ないし増強剤を添加した飲食品又は調味料を加熱することにより、飲食品又は調味料に対し所望の出来立て香を付与ないし増強することができる。
以下、本発明の出来立て香付与ないし増強剤について、さらに詳しく説明する。
【0025】
<A成分>
本発明においては、A成分として、下記一般式(1)で表されるα-アミノ酸、シスチン、及びグルタチオンからなる群から選択される1種類又は2種類以上(以下、「アミノ酸類」ということもある。)が用いられる。
【0026】
【化1】
(式中、Rはアミノ酸側鎖を示す。)
【0027】
前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸は、特に限定されないが、例えば、グリシン、アラニン、ロイシン、バリン、システイン、メチオニン、プロリン、リシン、ヒスチジン等食品添加物として認可されているものが好適に使用でき、特にアラニン、ロイシン、バリンが最も好適に使用できる。
【0028】
<B成分>
本発明においては、B成分として、下記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物、下記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物、及び3-メルカプトプロピオン酸からなる群から選択される1種類又は2種類以上が用いられる。
【0029】
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
【0030】
【化3】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、水酸基、及び水素原子のいずれかを示す。)
【0031】
前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、ピルビン酸、ピルブアルデヒド(1,2-プロパンジオン)、アセチルブチリル(2,3-ヘキサンジオン)、ジアセチル(2,3-ブタンジオン)、アセチルプロピオニル(2,3-プロパンジオン)、アセチルベンゾイル(1-フェニル-1,2-プロパンジオン)等食品添加物として認可されているものが好適に使用でき、特にピルビン酸、ピルブアルデヒド(1,2-プロパンジオン)が最も好適に使用できる。
また、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、3-メルカプト-2-ブタノン、3-メルカプト-2-ペンタノン等食品添加物として認可されているものが好適に使用でき、特に3-メルカプト-2-ブタノンが最も好適に使用できる。
【0032】
本実施形態に係る出来立て香付与ないし増強剤において、A成分及びB成分の含有量については特に制限されず、使用する飲食品の種類、香気組成物の種類に応じて異なるが、それぞれ0.01~60質量%の範囲内であると好ましく、0.05~30質量%であればより一層好ましく、0.08~15質量%であれば最も好ましい。
【0033】
(I群及びII群に属する成分)
前記A成分及びB成分は、加熱工程で失われやすい低沸点成分であるアルデヒド類、ケトン類、チオール類、スルフィド類、及びチオエステル類からなるI群と、加熱調理香に寄与するピラジン類、ピロール類、チアゾール類、チオフェン類、フラン類、及びピリジン類からなるII群の、それぞれの成分の少なくとも一種を生み出す前駆体であり、加熱によりA成分とB成分が反応し、I群及びII群の成分のそれぞれを少なくとも1種を含んだ好ましい出来立て香を生み出す。
【0034】
(I群に属する成分)
前記I群(加熱工程で失われやすい低沸点成分)に属する成分としては、具体的には、アセトアルデヒド、2-メチルブタナール、イソバレルアルデヒド、3-メチル-2-ブテナール、トランス-2-ヘキセナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4,6-オクタトリエナール、ノナナール、デカナール、メチオナール、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、2,4-ジメチルベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、チグリックアルデヒド、5-アミノペンタナール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、3-メチル-2-ペンタノン、1-ペンテン-3-オン、3-ペンテン-2-オン、4-ヘキセン-3-オン、1-オクテン-3-オン、アリルメルカプタン、3-メチルチオプロパノール、ジアリルジスルフィド、ビス(メチルチオ)メタン、メチルプロペニルトリスルフィド、3,5-ジメチル-1,2,4-トリチオラン、S-エチルチオアセテートなどが例示される。
【0035】
(II群に属する成分)
前記II群(加熱調理香に寄与する成分)に属する成分としては、具体的には、2-メチル-3-フランチオール、フルフラール、2-フリルメチルケトン、5-メチル-2-フルフラール、2-メチルフラン、2,5-ジメチルフラン、2,3,4-トリメチルフラン、2,3,5-トリメチルフラン、テトラメチルフラン、2-アセチル-5-メチルフラン、3-アセチル-2,5-ジメチルフラン、フルフリルアルコール、フラネオール、ソトロン、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、チアゾール、2-メチルチアゾール、4-メチルチアゾール、4,5-ジメチルチアゾール、2,4-ジメチルチアゾール、2,4,5-トリメチルチアゾール、2,5-ジエチルチアゾール、2-アセチルチアゾール、2,4-ジメチル-5-アセチルチアゾール、ベンゾチアゾール、4,5-ジメチル-2-イソプロピルチアゾール、チオフェン、2-メチルチオフェン、ブテニルチオフェン、2,5-ジメチルチオフェン、2,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、2,5-ジエチルチオフェン、2,3,5-トリメチルチオフェン、2-アセチル-5-メチルチオフェン、2,3,4,5-テトラメチルチオフェン、5-メチル-2-チオフェンカルボキシアルデヒド、5-エチル-2-チオフェンカルボキシアルデヒド、1-メチルピロール、1-エチルピロール、2-アセチルピロール、2,3,4-トリメチルピロール、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、5-エチル-2-メチルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、ピラジン、2-メチルピラジン、2-エチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、2-エチル-3,5(6)-ジメチルピラジン、2,5-ジエチルピラジン、2,6-ジエチルピラジン、3,5-ジエチル-2-メチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、2,3,5,6-テトラメチルピラジン、2-アセチル-3-メチルピラジンなどが例示される。
【0036】
<他の添加剤>
(香料成分)
本実施形態に係る出来立て香付与ないし増強剤には、所望の香気を損なわない限りにおいて、前記A成分及びB成分以外に、着香用の食品添加物が含まれていてもよい。そのような食品添加物としては、特に限定されず、公知のものが使用できるが、例えば、各種の合成香料、天然香料、香辛料抽出物などを挙げることができる。例えば、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第II部食品香料、P88-131、平成12年1月14日発行」に記載されている合成香料、天然香料、香辛料抽出物を挙げることができる。
【0037】
このような香料としては、具体的には以下のものが挙げられる。
アセトアルデヒド、プロパナール、ブタナール、イソブタナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナール、ヘプタナール、オクタナール、トランス-2-オクテナール、ノナナール、トランス-2-ノネナール、デカナール、トランス-2-デセナール、トランス-2-ウンデセナール、トランス-2-ドデセナール、2,4-ヘキサジエナール、2,4-ヘプタジエナール、2,4-デカジエナール、2,4-ウンデカジエナール、ウンデカナール、ドデカナール、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類。
エタノール、プロパノール、ブタノール、2-メチルブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、1-ペンテン-3-オール、1-オクテン-3-オール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコールなどのアルコール類。
1-ペンテン-3-オン、3-ペンテン-2-オン、1-オクテン-3-オン、3-オクテン-2-オン、アミルメチルケトン、ヘプチルメチルケトンなどのケトン類。
ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド、ビス(メチルチオ)メタン、メチオノール、メチオナールなどの含硫黄化合物類。
チアゾール、ベンゾチアゾール、4,5-ジメチルチアゾール、スルフロール、2-メチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2-エチルピラジン、テトラメチルピラジン、インドール、スカトール、フルフラール、5-メチル-2-フルフラール、フラネオール、5-ヒドロキシ-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オン、ソトロンなどの複素環化合物類。
バイオレット、ヘイ、オークモスなどの天然香料。
メース、ナツメグ、セージ、コリアンダー、クミン、タイム、オールスパイス、ローレル、カルダモン、セロリ、クローブ、ディル、ジンジャー、フェヌグリーク、パセリ、オレガノ、ホワイトペパー、ブラックペパー、ローズなどの香辛料抽出物。
なお、上記成分は、1種を単独で用いられてもよいし、2種以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0038】
(溶剤)
本実施形態に係る出来立て香付与ないし増強剤には、所望の香気を損なわない限りにおいて、前記A成分及びB成分以外に、添加剤として溶剤が含まれていてもよい。このような溶剤としては、上述した香料を溶解しうるものであれば種類や濃度は特に限定されないが、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、トリアセチン等の食品添加物として認められているものが好ましく、特に、水、プロピレングリコールが好ましく用いられる。なお、上記の添加剤は、1種で単独で用いられてもよいし、2種以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0039】
(飲食品)
本発明の他の形態としては、上記出来立て香付与ないし増強剤を含有する飲食品である。
本発明に係る出来立て香付与ないし増強剤は、加熱調理香に大きく寄与する香気の前駆体であるA成分及びB成分を含有するため、当該出来立て香付与ないし増強剤を含有する飲食品は、加熱することで食欲をそそる出来立て香を生む効果ないしは出来立て香を増強させる効果が付与される。
【0040】
よって、本発明のさらに他の形態として、上記出来立て香付与ないし増強剤を飲食品に添加することを含む、飲食品の製造方法が提供される。
こうして製造された飲食品が、喫食時に加熱する飲食品である場合、喫食時に加熱することにより、飲食品に出来立て香を生じさせて、飲食品の風味を増強させることができる。
【0041】
本実施形態に係る飲食品としては、特に限定されないが、調理をした際に香る、食欲をそそるような出来立て香が求められる飲食品であることが好ましく、例えば、冷凍コロッケ・冷凍唐揚等の揚げ物類、冷凍炒飯・冷凍焼きおにぎり等の米飯類、カップ入り即席オニオンスープ・カップ入り即席コンソメスープ等のスープ類、冷凍餃子、冷凍シュウマイ、冷凍ハンバーグ、冷凍ピザ、冷凍お好み焼き等が挙げられる。
なかでも、本発明に係る好ましい形態は電子レンジ加熱式冷凍食品である。 電子レンジ加熱の場合、出来立て香付与ないし増強剤にはA成分とB成分に加えて、溶剤として水を使う必要がある。
【0042】
また、本発明のさらに他の形態として、上記出来立て香付与ないし増強剤を添加した後、加熱後密封又は密封後加熱することを含む、飲食品の製造方法が提供される。
【0043】
こうして製造された飲食品が、例えば加熱殺菌工程を要するアイスコーヒー等のように、製造時の加熱のみで、喫食時には加熱をしない飲食品である場合には、製造時の加熱により風味が増強されているため、喫食時に加熱せずとも、出来立て香が付与ないし増強された飲食品を提供することができる。
本実施形態に係る飲食品としては特に限定されず、前記のアイスコーヒー以外に、缶入りコーヒー飲料・缶入り紅茶飲料・缶入りアイスココア等の缶入り飲料、紙パック入りコーヒー飲料・紙パック入り紅茶飲料・紙パック入り牛乳・紙パック入りアイスココア等の紙パック入り飲料、キャラメル・チョコレート類・キャンディー類・グミ・ゼリー等の菓子類、ビスケット類・クッキー等の焼き菓子類、アイスクリーム類・かき氷等の冷菓・氷菓類、ハム・ソーセージ等の畜肉製品、かまぼこ・ちくわ等の魚肉練り製品、餡子・最中・ぜんざい等の和菓子類等が挙げられる。
【0044】
また、こうして製造された飲食品は、製造時の加熱に加え、喫食時にも加熱を行う飲食品であってもよい。製造時の加熱及び喫食時の加熱により風味が増強されているため、出来立て香が付与ないし増強された飲食品を提供することができる。
本実施形態に係る飲食品としては特に限定されず、レトルトカレー類、レトルトハヤシライス、レトルトシチュー類、カレー・ハヤシライス・シチュー等のカレー(ルー)類、レトルトスープ類、レトルトハンバーグ・レトルトミートボール等の食肉加工品、レトルト丼・レトルト雑炊等の米飯類、ハム・ソーセージ等の畜肉製品、かまぼこ・ちくわ等の魚肉練り製品等が挙げられる。
【0045】
(調味料)
本発明の他の形態としては、上記出来立て香付与ないし増強剤を含有する調味料である。本発明に係る出来立て香付与ないし増強剤は、加熱調理香に大きく寄与する香気の前駆体であるA成分及びB成分を含有するため、当該出来立て香付与ないし増強剤を含有する調味料は、加熱することで食欲をそそる出来立て香を生む効果ないしは出来立て香を増強させる効果が付与される。
【0046】
よって、本発明のさらに他の形態として、上記出来立て香付与ないし増強剤を調味料に添加することを含む、調味料の製造方法が提供される。
【0047】
こうして製造された調味料が、喫食時に加熱する調味料である場合、喫食時の加熱により、飲食品に出来立て香を生じさせて、飲食品の風味を増強させることができる。
本実施形態に係る調味料としては、特に限定されないが、調理をした際に香る、食欲をそそるような出来立て香が求められる調味料であることが好ましく、例えば、冷凍食品に含まれる洋風ソース・和風ソース・ウスターソース・中濃ソース等のソース類、パスタソース・ホイコーローの素・チンジャオロースの素等のメニュー用調味料類、ラーメンスープの素・うどんスープの素等のスープの素、中華料理用加工調味料・和食用加工調味料等の加工調味料類が挙げられる。
【0048】
また、本発明のさらに他の形態として、上記出来立て香付与ないし増強剤を添加した後、加熱後密封又は密封後加熱することにより調味料の風味を増強させることを含む、調味料の製造方法が提供される。
【0049】
こうして製造された調味料が、例えば加熱殺菌工程などの製造時の加熱のみで、喫食時には加熱をしない調味料である場合には、製造時の加熱により風味が増強されているため、該調味料を飲食品に用いた場合、喫食時に加熱せずとも、出来立て香が付与ないし増強された飲食品を提供することができる。
本実施形態に係る調味料としては、特に限定されず、醤油・洋風ソース・和風ソース・ウスターソース・中濃ソース等のソース類、味噌、ドレッシング、ジャム、スプレッド、ホイップ等の調味料類が挙げられる。
【0050】
また、こうして製造された調味料は、製造時の加熱に加え、喫食時にも加熱を行うものであってもよい。製造時の加熱及び喫食時の加熱により風味が増強されているため、該調味料を飲食品に用いた場合、出来立て香が付与ないし増強された飲食品を提供することができる。
本実施形態に係る飲食品としては特に限定されず、醤油・洋風ソース・和風ソース・ウスターソース・中濃ソース等のソース類、パスタソース・酢豚の素等のメニュー用調味料類、中華料理用加工調味料・和食用加工調味料等の加工調味料類、ラーメン・うどんのスープの素類又は調味油類、トーストスプレッド、味噌、コンソメ、鍋スープの素等の調味料類が挙げられる。
【0051】
本実施形態に係る飲食品又は調味料において、上記出来立て香付与ないし増強剤を添加する方法は特に制御されず、また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0052】
上記出来立て香付与ないし増強剤の飲食品又は調味料への添加量は、添加する飲食品及び調味料の種類に応じて異なる。
例えば、喫食時に加熱する飲食品又は喫食時に加熱しない飲食品においては、それぞれ、喫食時の加熱前又は製造工程における最後の加熱前において、飲食品全量中、前記A成分及びB成分の添加量は0.0001~1.5質量%であることが好ましく、0.0005~0.2質量%であることがより好ましい。
また、喫食時に加熱する調味料又は喫食時に加熱しない調味料においては、それぞれ、喫食時の加熱前又は製造工程における最後の加熱前において、全調味料中、前記A成分及びB成分の添加量は0.0001~4.5質量%であることが好ましく、0.0005~0.6質量%であることがより好ましい。
そこで、出来立て香付与ないし増強剤の飲食品又は調味料への添加量は、出来立て香付与ないし増強剤中に含有される前記A成分及びB成分のそれぞれの含有量を考慮して、上記の条件が満たされるように調整されるが、飲食品全量に対しては0.001~10質量%の範囲内であると好ましく、0.01~5質量%であればより一層好ましく、0.05~2質量%であれば最も好ましい。また、調味料全量に対しては0.001~30質量%の範囲内であると好ましく、0.01~15質量%であればより一層好ましく、0.05~6質量%であれば最も好ましい。
【0053】
本発明の出来立て香付与ないし増強剤が添加された飲食品又は調味料が、喫食時に加熱する飲食品又は調味料である場合は、喫食時に加熱することにより、飲食品又は調味料の風味を増強させることができる。
加熱方法は特に限定されず、飲食品又は調味料の種類に応じて異なるが、例えば、電子レンジ、オーブン、トースター、フライヤー、スチーム、ボイル、グリル、焼成等、公知の方法を使うことができ、A成分及びB成分の加熱反応により、前記I群及びII群のそれぞれの成分を少なくとも1種を含んだものを得るためには、喫食時に、少なくとも1回、60~500℃で、1~180分の加熱を行うことが好ましい。
【0054】
また、前述のとおり、殺菌工程などの製造時の加熱のみで、喫食時には加熱をしない飲食品又は調味料については、製造時の加熱のみを利用して、喫食時における飲食品の風味を増強させることができるが、前記I群及びII群のそれぞれの成分を少なくとも1種を含んだものを得るために、製造工程において、少なくとも1回、60~500℃で、1~180分の加熱を行うことが好ましい。
【実施例
【0055】
以下、本発明について、実施例、比較例等を用いて説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
[比較品1の調製]
下記表1に示すA成分を含まずB成分のみからなる香料組成物「比較品1」を調製した。
なお、本比較品1においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」、「アセチルブチリル」、及び「ピルビン酸」を用いた。
【0057】
【表1】
【0058】
[発明品1の調製]
比較品1に、A成分として、一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「DL-アラニン」及び「L-ロイシン」を添加することで、「発明品1」を調製した。組成を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
[評価用カレーの作製]
下記の表3の処方で評価用カレーを作製した。
【0061】
【表3】
【0062】
[カレーへの添加]
上記の評価用カレー200gに対して、発明品1及び比較品1のそれぞれを、全量に対して0.1質量%となるように添加し、120℃で20分間レトルトパウチにて殺菌した。殺菌後、喫食時に10分間ボイルした後、8名の良く訓練されたパネルにて官能評価を行った。
【0063】
評価基準及び各評価項目についての定義は以下のものとした。
(評価基準)
-:無添加品と大差なし
+:少し感じられる
++:強く感じられる
これらのうち、表中には最頻値を記載した。
(評価項目の定義)
出来立て香:調理した直後の料理に感じられるような、軽く香ばしい香り
トップの強さ:出来立て香に伴う、食品サンプルを口に含んだ直後の風味の強さ
ボディの強さ:立体感があり、深みと広がり(=コク)の風味の強さ
スパイシー感の強さ:カレーの素材がもつ香辛料の風味の強さ
また、香気評価及び風味評価の欄は、多かったパネルの意見を抽出した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示したとおり、発明品1を添加したカレーは比較品1を添加したカレーに比べて、出来立て香及びトップ、ボディの風味が強化されるという特徴が見られた。また、スパイシー感をリフトアップする効果もあったため、香気・風味において極めて優れていた。通常、カレーのコクは長時間の熟成を経て得られるが、出来立ての軽やかな香りのみでなく、そのようなコク風味への寄与に対しても大きな効果があることが判明した。
【0066】
(実施例2)
[比較品2の調製]
下記の表5に示すA成分を含まずB成分のみからなる香料組成物「比較品2」を調製した。なお、本比較品2においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」及び「ピルビン酸」と、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物である「3-メルカプト-2-ブタノン」を用いた。
【0067】
【表5】
【0068】
[発明品2の調製]
比較品2に、A成分として、α-アミノ酸である「DL-アラニン」、「L-ロイシン」及び「L-バリン」を添加することで、「発明品2」を調製した。組成を表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
[評価用ビーフコンソメスープの作製]
下記の表7に記載の処方で評価用ビーフコンソメスープを作製した。
【0071】
【表7】
【0072】
[ビーフコンソメスープへの添加]
上記評価用ビーフコンソメスープ200gに対して、発明品2及び比較品2のそれぞれを、全量に対して0.1質量%となるように添加し、120℃で20分間レトルトパウチにて殺菌した。殺菌後、喫食時に10分間ボイルした後、8名の良く訓練されたパネルにて官能評価を行った。
【0073】
評価基準及び各評価項目についての定義は以下のものとした。
(評価基準)
-:無添加品と大差なし
+:少し感じられる
++:強く感じられる
これらのうち、表中には最頻値を記載した。
(評価項目の定義)
出来立て香:調理した直後の料理に感じられるような、軽く香ばしい香り
トップの強さ:出来立て香に伴う、食品サンプルを口に含んだ直後の風味の強さ
ボディの強さ:立体感があり、深みと広がり(=コク)の風味の強さ
ビーフ感の強さ:スープ素材のビーフ風味が引き立つ味わいの強さ
また、香気評価及び風味評価の欄は、多かったパネルの意見を抽出した。
結果を表8に示す。
【0074】
【表8】
【0075】
表8に示したとおり、発明品2を添加したビーフコンソメスープは比較品2を添加したビーフコンソメスープに比べて、出来立て香及びボディの風味が強化されるという特徴が見られ、ビーフ感やキノコ感をリフトアップする効果もあったため、香気・風味において極めて優れていた。出来立ての軽やかな香りのみでなく、風味の厚みや広がりにおいても寄与が大きいことが判明した。
【0076】
(実施例3)
[比較品3の調製]
下記の表9に示すA成分を含まずB成分のみからなる香料組成物「比較品3」を調製した。なお、本比較品3においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」及び「ピルビン酸」と、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物である「3-メルカプト-2-ブタノン」を用いた。
【0077】
【表9】
【0078】
[発明品3の調製]
比較品3にα-アミノ酸である「DL-アラニン」、「L-ロイシン」及び「L-バリン」を添加することで、「発明品3」を調製した。組成を表10に示す。
【0079】
【表10】
【0080】
[冷凍餃子への添加]
市販の電子レンジ解凍用餃子約100gに対して、発明品3及び比較品3のそれぞれを、全量に対して0.6質量%となるように添加し、600Wで1分30秒間レンジアップした後、7名の良く訓練されたパネルにて官能評価を行った。
【0081】
評価基準及び各評価項目についての定義は以下のものとした。
(評価基準)
-:無添加品と大差なし
+:少し感じられる
++:強く感じられる
これらのうち、表中には最頻値を記載した。
(評価項目の定義)
出来立て香:調理した直後の料理に感じられるような、軽く香ばしい香り
トップの強さ:出来立て香に伴う、食品サンプルを口に含んだ直後の風味の強さ
ボディの強さ:立体感があり、深みと広がり(=コク)の風味の強さ
肉汁感の強さ:ジューシーな肉感の風味の強さ
また、香気評価及び風味評価の欄は、多かったパネルの意見を抽出した。
結果を表11に示す。
【0082】
【表11】
【0083】
表11に示したとおり、発明品3を添加した冷凍餃子は比較品3を添加した冷凍餃子に比べて、出来立て香及びトップ、ボディの風味が強化されるという特徴が見られ、また肉感をリフトアップする効果もあったため、香気・風味において極めて優れていた。アミノ酸添加の有無により、明確な違いが得られる結果となった。
【0084】
以上の結果から、本発明に係る香料組成物によれば、食欲を沸き立たせるような出来立て香やそれに付随したコクのある風味を付与できることが示された。また、食品由来のアミノ酸と香料の反応においても調理香の増強効果が認められたが、アミノ酸の添加により出来立て香やボディの強さ、リフトアップ効果がより強く付与できることがわかった。
【0085】
(実施例4)
[比較品4の調製]
下記の表12に示すB成分を含まずA成分のみからなる香料組成物「比較品4」を調製した。なお、本比較品4においては、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「DL-アラニン」及び「L-ロイシン」を用いた。
【0086】
【表12】
【0087】
[比較品5の調製]
下記の表13に示すA成分を含まずB成分のみからなる香料組成物「比較品5」を調製した。なお、本比較品5においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「アセチルブチリル」、「ピルブアルデヒド」及び「ピルビン酸」と、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物である「3-メルカプト-2-ブタノン」を用いた。
【0088】
【表13】
【0089】
[発明品4の調製]
比較品4と比較品5の処方を合算することで、「発明品4」を調製した。組成を表14に示す。
【0090】
【表14】
【0091】
[比較品6の調製]
下記の表15に示すB成分を含まずA成分のみからなる香料組成物「比較品6」を調製した。なお、本比較品6においては、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「L-リシン」、「L-ヒスチジン」、「L-システイン」、「L-ロイシン」及び「L-バリン」を用いた。
【0092】
【表15】
【0093】
[比較品7の調製]
下記の表16に示すA成分を含まずB成分のみからなる香料組成物「比較品7」を調製した。なお、本比較品7においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「アセチルプロピオニル」、「ピルブアルデヒド」、「ジアセチル」及び「ピルビン酸」と、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物である「3-メルカプト-2-ブタノン」を用いた。
【0094】
【表16】
【0095】
[発明品5の調製]
比較品6と比較品7の処方を合算することで、「発明品5」を調製した。組成を表17に示す。
【0096】
【表17】
【0097】
[比較品8の調製]
下記の表18に示すB成分を含まずA成分のみからなる香料組成物「比較品8」を調製した。なお、本比較品8においては、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「DL-アラニン」のみを用いた。
【0098】
【表18】
【0099】
[比較品9の調製]
下記の表19に示すA成分を含まずB成分のみからなる香料組成物「比較品9」を調製した。なお、本比較品9においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」のみを用いた。
【0100】
【表19】
【0101】
[発明品6の調製]
比較品8と比較品9の処方を合算することで、「発明品6」を調製した。組成を表20に示す。
【0102】
【表20】
【0103】
[比較品10の調製]
下記の表21に示すA成分のみからなる香料組成物「比較品10」を調製した。なお、本比較品10においては、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「L-システイン」のみを用いた。
【0104】
【表21】
【0105】
[比較品11の調製]
下記の表22に示すB成分のみからなる香料組成物「比較品11」を調製した。なお、本比較品11においては、前記一般式(3)で表されるメルカプトカルボニル化合物である「3-メルカプト-2-ブタノン」のみを用いた。
【0106】
【表22】
【0107】
[発明品7の調製]
比較品10と比較品11の処方を合算することで、「発明品7」を調製した。組成を表23に示す。
【0108】
【表23】
【0109】
[比較品12の調製]
下記の表24に示すA成分のみからなる香料組成物「比較品12」を調製した。なお、本比較品12においては、アミノ酸類である「グルタチオン」のみを用いた。
【0110】
【表24】
【0111】
[比較品13の調製]
下記の表25に示すB成分のみからなる香料組成物「比較品13」を調製した。なお、本比較品13においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「アセチルプロピオニル」、「ジアセチル」、「ピルビン酸」を用いた。
【0112】
【表25】
【0113】
[発明品8の調製]
比較品12と比較品13の処方を合算することで、「発明品8」を調製した。組成を表26に示す。
【0114】
【表26】
【0115】
[比較品14の調製]
下記の表27に示すA成分のみからなる香料組成物「比較品14」を調製した。なお、本比較品14においては、アミノ酸類である「シスチン」のみを用いた。
【0116】
【表27】
【0117】
[比較品15の調製]
下記の表28に示すB成分のみからなる香料組成物「比較品15」を調製した。なお、本比較品15においては、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」、「アセチルブチリル」、「ピルビン酸」を用いた。
【0118】
【表28】
【0119】
[発明品9の調製]
比較品14と比較品15の処方を合算することで、「発明品9」を調製した。組成を表29に示す。
【0120】
【表29】
【0121】
[本発明品及び比較品の分析]
前記の本発明品及び比較品を機器分析に供することで、加熱の有無やアミノ酸の有無が、新たに生成する出来立て香に寄与する成分量にどのような変化を与えるのかについて調べた。
得られた分析結果(出来立て香に寄与する成分量:相対質量ppb)を表30~35に示す。なお、加熱はオイルバスにて100℃で30分間行い、分析方法には公知の固相マイクロ抽出(SPME)法を用いた。
【0122】
【表30】
【0123】
【表31】
【0124】
【表32】
【0125】
【表33】
【0126】
【表34】
【0127】
【表35】
【0128】
表30~35に示したとおり、A成分とB成分が共存し、なおかつ、加熱されることでI群のアルデヒド類、ケトン類、及びII群のピラジン類、チオフェン類、チアゾール類、フラン類が特に多く発現することがわかった。したがって、調理をした時のような軽やかな香りに寄与する低沸点香気成分や加熱調理香に寄与する成分を生み出し強化する手段として、A成分とB成分の共存及び加熱を必要とすることがわかる。
【0129】
[発明品10の調製]
下記の表36に示すA成分及びB成分からなる「発明品10」を調製した。なお、本発明品10においては、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「DL-アラニン」、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」、溶剤としてプロピレングリコールを用いた。
【0130】
【表36】
【0131】
[発明品11の調製]
下記の表37に示すA成分及びB成分からなる「発明品11」を調製した。なお、本発明品11においては、前記一般式(1)で表されるα-アミノ酸である「DL-アラニン」、前記一般式(2)で表されるジカルボニル化合物である「ピルブアルデヒド」、溶剤としてトリアセチンを用いた。
【0132】
【表37】
【0133】
[本発明品の分析]
前記の本発明品10、11を機器分析に供することで、溶剤の種類が出来立て香に寄与する成分の生成にどのように影響するのかについて調べた。
得られた分析結果(出来立て香に寄与する成分量:相対質量ppb)を表38に示す。なお、加熱はオイルバスにて100℃で30分間行い、分析方法には公知の固相マイクロ抽出(SPME)法を用いた。
【0134】
【表38】
【0135】
表38に示したとおり、溶剤としてプロピレングリコールやトリアセチンを用いた場合でも、I群及びII群に属する成分がつくられ、特にピラジン類が多く発現することがわかった。