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特許72357714ストロークエンジンユニット、及び同エンジンユニットを備えたストラドルドビークル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】4ストロークエンジンユニット、及び同エンジンユニットを備えたストラドルドビークル
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/04 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
F02N11/04 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020563867
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050503
(87)【国際公開番号】W WO2020141594
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/000022
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】日野 陽至
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-149392(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002428(WO,A1)
【文献】特開2013-185087(JP,A)
【文献】特開2018-053773(JP,A)
【文献】特開2015-135105(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014205936(DE,A1)
【文献】特開2007-100539(JP,A)
【文献】特開2005-090486(JP,A)
【文献】特開2004-100629(JP,A)
【文献】特開2011-213132(JP,A)
【文献】特開2016-191306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 1/00-99/00
F02M 11/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、
クランクケースと、前記クランクケースに接続されるシリンダと、前記クランクケースに回転可能に支持されるクランク軸とを備え、前記クランクケース及び前記シリンダは、低温粘度グレードが20Wよりも低い低粘度オイルで内部が潤滑されるように構成され、4ストロークの間に、前記クランク軸を回転させる負荷が大きい高負荷領域と、前記クランク軸を回転させる負荷が前記高負荷領域の負荷より小さい低負荷領域とを有する負荷変動型4ストロークエンジンと、
周方向にスロットを空けて設けられた複数の歯部を備えるステータコア、及び前記歯部に巻回される複数相のステータ巻線を有するステータと、前記ステータと空隙を空けて向かい合うように前記周方向に並ぶ永久磁石部を有し、前記クランク軸と同軸上に配置されたロータとを備え、前記低粘度オイルと接触する位置に設けられ、始動時において前記高負荷領域を乗り越えるように前記クランク軸を正転させるトルクを得るために供給される電流により発熱し、これにより、前記始動時に、接触している前記低粘度オイルに、熱を伝えるように構成されている始動発電機と
を備える。
【請求項2】
請求項1に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記始動発電機の前記永久磁石部は、前記スロットの数の2/3より多い磁極面を有する。
【請求項3】
請求項に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記始動発電機が収納される空間内で、前記クランクケース内で前記クランクケースに対し位置が固定されるように前記クランクケースに支持された、前記ロータの位置の検出を表す信号を出力するロータ位置検出装置を更に備える。
【請求項4】
請求項1からの何れか1項に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記始動発電機が配置される空間は、前記ステータが固定された始動発電機カバーにより覆われ、
前記始動発電機のロータは、前記クランク軸の軸線方向における、前記ステータと前記シリンダとの間で前記クランク軸に接続された有底筒状である。
【請求項5】
請求項1からの何れか1項に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、前記低粘度オイルによって潤滑されるように前記クランクケース内に設けられ、前記クランク軸からの駆動力が伝達されるマニュアル・トランスミッションを備える。
【請求項6】
請求項1からの何れか1項に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、第1の方向と、前記第1の方向と反対の第2の方向とを含むクランク軸の軸線方向において、前記クランク軸の前記第1の方向に入力部が配置され、前記クランク軸からの駆動力が伝達される無段変速機を備え、
前記始動発電機は、前記軸線方向において、前記クランク軸の前記第2の方向に配置される。
【請求項7】
請求項1からの何れか1項に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、ラジエータを備え、
前記シリンダは、前記ラジエータからの冷却水が供給されるウォータージャケットを有する。
【請求項8】
請求項1からの何れか1項に記載の4ストロークエンジンユニットであって、
前記ロータは、冷却のための気流を発生させるファン又はフィンを備えていない。
【請求項9】
鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、請求項1からの何れか1項に記載の4ストロークエンジンユニットを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4ストロークエンジンユニット、及び同エンジンユニットを備えた鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の自動二輪車は、4ストロークエンジンユニットを備えている。4ストロークエンジンユニットは、4ストロークエンジンと、トランスミッションと、始動発電機とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5591778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
4ストロークエンジンでは、エネルギーのロスを低減することが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、始動時において、エネルギーのロスを低減できる4ストロークエンジンユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
4ストロークエンジンは、部品を円滑に動かすための潤滑作用を有するエンジンオイルを含んでいる。始動時において、4ストロークエンジンのシリンダ内でピストンが往復動する。そうすると、クランク軸の回転に連動してオイルポンプが作動し、4ストロークエンジンの各部品にエンジンオイルが供給される。これにより、4ストロークエンジンの各部品は、円滑に動作する。また、エンジンオイルは、エンジンにおいて発生する熱を吸収し、エンジンを冷却し、エンジンの動作時の温度を適度に保つ作用を有する。エンジンオイルは、混合ガスの燃焼により生じた熱量を吸収して、吸収した熱をエンジン外部に放熱する。従って、エンジンオイルは、4ストロークエンジンの温度を適度に保つことができる。これにより、エンジンオイルは、エンジンを適温に保つことができる。
【0007】
本発明者らは、エンジンオイルとして低温粘度グレードが20Wよりも低い低粘度オイルを使用し、始動発電機を4ストロークエンジンのクランクケース内に配置して、始動発電機を低粘度オイルと接触させることを検討した。
【0008】
始動発電機は、始動時において電流が供給されることにより発熱する。始動発電機に接触しているエンジンオイルに熱が伝わる。これにより、エンジンオイルが、暖められる。暖まったエンジンオイルは、4ストロークエンジン全体に循環される。低粘度オイルは4ストロークエンジン全体に循環しやすい。特に、粘度の低いエンジンオイルに熱が加わると、常温の状態に比べてオイルの粘度が低下する。このため、常温のエンジンオイルよりも素早い循環が可能となる。これにより、4ストロークエンジンの動作時の抵抗が減少する。また、低粘度オイルが始動発電機に接触し、始動発電機によって暖められる。このため、始動発電機の回転に対する抵抗を小さくできる。その結果、(1)の4ストロークエンジンユニットは、エネルギーのロスを低減できる。
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、次の構成を備える。
【0010】
(1) 4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、
クランクケースと、前記クランクケースに接続されるシリンダと、前記クランクケースに回転可能に支持されるクランク軸とを備え、前記クランクケース及び前記シリンダは、低温粘度グレードが20Wよりも低い低粘度オイルで内部が潤滑されるように構成され、4ストロークの間に、前記クランク軸を回転させる負荷が大きい高負荷領域と、前記クランク軸を回転させる負荷が前記高負荷領域の負荷より小さい低負荷領域とを有する負荷変動型4ストロークエンジンと、
周方向にスロットを空けて設けられた複数の歯部を備えるステータコア、及び前記歯部に巻回される複数相のステータ巻線を有するステータと、前記ステータと空隙を空けて向かい合うように前記周方向に並ぶ永久磁石部を有し、前記クランク軸と同軸上に配置されたロータとを備え、前記低粘度オイルと接触する位置に設けられる始動発電機と
を備える。
【0011】
(1)のエンジンユニットは、負荷変動型4ストロークエンジンと、始動発電機とを備える。
負荷変動型4ストロークエンジンは、クランクケースと、シリンダと、クランク軸とを備える。シリンダは、クランクケースに接続される。クランクケース及びシリンダは、低温粘度グレードが20Wよりも低い低粘度オイルで内部が潤滑されるように構成される。クランク軸は、クランクケースに回転可能に支持される。
始動発電機は、ステータと、ロータとを備える。ステータは、ステータコア及び複数相のステータ巻線を有する。ステータコアは、周方向にスロットを空けて設けられた複数の歯部を備える。複数相のステータ巻線は、歯部に巻回される。ロータは、永久磁石部を有する。永久磁石部は、ステータと空隙を空けて向かい合うように周方向に並ぶ磁極面を有する。ロータは、クランク軸に固定されている。始動発電機は、低粘度オイルと接触する位置に設けられる。
【0012】
(1)の構成によれば、エンジンオイルに低温粘度グレードが20Wよりも低い低粘度オイルを使用し、始動発電機を4ストロークエンジンのクランクケース内に配置して、始動発電機を低粘度オイルと接触させる。始動発電機は、始動時において電流が供給されることにより発熱する。これにより、始動時に、始動発電機に接触している低粘度オイルに、熱が伝わる。これにより、低粘度オイルが、暖められる。低粘度オイルは、4ストロークエンジン全体に循環される。低粘度オイルは4ストロークエンジン全体に循環しやすい。特に、低粘度オイルに熱が加わると、さらにオイルの粘度が低下する。このため、常温の低粘度オイルよりも素早い循環が可能となる。従って、エネルギーのロスを低減することが可能である。また、(1)の4ストロークエンジンユニットでは、低粘度オイルが始動発電機に接触し、始動時に暖められる。このため、始動発電機の回転に対する抵抗を小さくできる。その結果、(1)の4ストロークエンジンユニットは、エネルギーのロスを低減できる。
【0013】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(2) (1)の4ストロークエンジンユニットであって、
前記始動発電機の前記永久磁石部は、前記スロットの数の2/3より多い磁極面を有する。
【0014】
(2)の4ストロークエンジンユニットによれば、始動発電機の(磁極面/スロット数)が、2/3より多いという条件を満たしている。このため、始動発電機の発電時に、ステータ巻線の温度が低粘度オイルの温度よりも高くならない乃至高くなり難い。これにより、始動発電機が低粘度オイルと接触するように配置されても、低粘度オイルの蒸発を抑制できる。このため、始動発電機は、低粘度オイルと接触する環境下に配置できる。
【0015】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(3) (2)の4ストロークエンジンユニットであって、
前記始動発電機が収納される空間内で、前記クランクケース内で前記クランクケースに対し位置が固定されるように前記クランクケースに支持された、前記ロータの位置の検出を表す信号を出力するロータ位置検出装置を更に備える。
【0016】
(3)の4ストロークエンジンユニットによれば、ロータ位置検出装置が、始動発電機のロータの位置の検出を表す信号を出力する。始動発電機は、低粘度オイルの温度よりも高くならない乃至高くなり難いステータ巻線を有する。従って、ロータ位置検出装置の構成として、例えば上限動作温度が比較的低いホールIC、又は、上限動作温度が比較的高いピックアップコイルのいずれも採用することができる。従って、設計の自由度が高い。
【0017】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(4) (1)から(3)の何れか1の4ストロークエンジンユニットであって、
前記始動発電機が配置される空間は、前記ステータが固定された始動発電機カバーにより覆われ、
前記始動発電機のロータは、前記クランク軸の軸線方向における、前記ステータと前記シリンダとの間で前記クランク軸に接続された有底筒状である。
【0018】
始動発電機は、ステータに電流が供給されることにより駆動する。また、始動発電機は、ステータにおいて電流が発生することにより、発電を行う。駆動時及び発電時いずれの場合にも、ステータは熱を生じる。従って、始動発電機が収容される空間は、熱が籠り、クランクケース内の温度が上昇しやすい。(4)の4ストロークエンジンユニットによれば、ステータが始動発電機カバーに固定される。この時、始動発電機のロータは、クランク軸の軸線方向でシリンダと反対の方向に向かって開いている。そのため、ステータは、例えば始動発電機のロータがクランク軸の軸線方向でシリンダに向かって開いた構成と比べ、エンジン始動後のシリンダ内の熱による影響が抑えられる。始動発電機が低粘度オイルと接触するように配置されても、低粘度オイルの蒸発を抑制できる。
【0019】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(5) (1)から(4)の何れか1の4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、前記低粘度オイルによって潤滑されるように前記クランクケース内に設けられ、前記クランク軸からの駆動力が伝達されるマニュアル・トランスミッションを備える。
【0020】
(5)の4ストロークエンジンユニットによれば、始動発電機により暖められた低粘度オイルは、4ストロークエンジン全体に素早く循環される。この時、クランク軸からの駆動力が伝達されるマニュアル・トランスミッションにも低粘度オイルが素早く供給される。従って、(5)の4ストロークエンジンユニットは、始動時において、マニュアル・トランスミッションの動作によるエネルギーのロスを低減できる。
【0021】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(6) (1)から(4)の何れか1の4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、第1の方向と、前記第1の方向と反対の第2の方向とを含むクランク軸の軸線方向において、前記クランク軸の前記第1の方向に入力部が配置され、前記クランクケースの内部に配置されず、前記クランク軸からの駆動力が伝達される無段変速機を備え、
前記始動発電機は、前記軸線方向において、前記クランク軸の前記第2の方向に配置される。
【0022】
(6)の4ストロークエンジンユニットは、クランク軸からの動力が伝達される無段変速機を備える。(6)の4ストロークエンジンユニットによれば、無段変速機は、クランクケースの内部に配置されない。そのため、(6)の4ストロークエンジンユニットによれば、無段変速機は、エンジンの熱の影響を受けにくい。従って、(6)の4ストロークエンジンユニットによれば、無段変速機は、ベルト等の劣化が抑えられる。
【0023】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(7) (1)から(6)の何れか1の4ストロークエンジンユニットであって、
前記4ストロークエンジンユニットは、ラジエータを備え、
前記シリンダは、前記ラジエータからの冷却水が供給されるウォータージャケットを有する。
【0024】
(7)の4ストロークエンジンユニットによれば、4ストロークエンジンは水冷エンジンである。シリンダのウォータージャケット内に冷却水を有する4ストロークエンジンが始動時に暖まるまでの時間は、冷却水無しの構成と比べて長い傾向を有する。この結果、動作の抵抗が大きい期間も、長い傾向を有する。(7)の4ストロークエンジンユニットによれば、始動時において、低粘度オイルが使用され、低粘度オイルが始動発電機により暖められる。このため、動作の抵抗が大きい期間を短くすることができる。従って、(7)の4ストロークエンジンユニットは、水冷エンジンにおけるエネルギーのロスを低減できる。
【0025】
本発明の一つの観点によれば、4ストロークエンジンユニットは、以下の構成を採用できる。
(8) (1)から(7)の何れか1の4ストロークエンジンユニットであって、
前記ロータは、冷却のための気流を発生させるファン又はフィンを備えていない。
【0026】
(8)の構成によれば、始動発電機が低粘度オイルと接触するように始動発電機と4ストロークエンジンとの間に仕切りが設けられていない。これにより、始動時に始動発電機により低粘度オイルを迅速に暖め、低粘度オイルをより低粘度化し、冷却効率を向上させることができる。ロータがファン又はフィンの何れも備えていなくても、4ストロークエンジンユニットは、優れた冷却効率を実現できる。仕切りと、ファン又はフィンとを有さないので、クランク軸の軸線方向における4ストロークエンジンのサイズを小型化できる。サイズの小型化により、エネルギーのロスをより効果的に低減できる。
【0027】
本発明の一つの観点によれば、鞍乗型車両は、以下の構成を採用できる。
(9) 鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、(1)から(8)の何れか1の4ストロークエンジンユニットを備える。
【0028】
(9)の構成によれば、鞍乗型車両は、(1)から(8)の何れか1の4ストロークエンジンユニットを備えることにより、エネルギーのロスを低減できる。
【0029】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。本明細書にて使用される用語「及び/又は」は一つの、又は複数の関連した列挙された構成物のあらゆる又は全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」又は「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループのうちの1つ又は複数を含むことができる。本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」及び/又はそれらの等価物は広く使用され、直接的及び間接的な取り付け、接続及び結合の両方を包含する。更に、「接続された」及び「結合された」は、物理的又は機械的な接続又は結合に限定されず、直接的又は間接的な電気的接続又は結合を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、又は、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせを全て繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
【0030】
本明細書では、新しい4ストロークエンジンユニットについて説明する。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面又は説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0031】
負荷変動型4ストロークエンジンは、4ストロークの間に、高負荷領域と低負荷領域とを有する。負荷変動型4ストロークエンジンは、例えば、単気筒エンジン、2気筒エンジン、不等間隔燃焼型3気筒エンジン、又は、不等間隔燃焼型4気筒エンジンである。負荷変動型4ストロークエンジンは、例えば、3つより少ない気筒を有するエンジンである。本開示の一実施形態において、負荷変動型4ストロークエンジンは、例えば、単気筒エンジン又は2気筒エンジンである。2気筒エンジンは、2つの気筒を有する不等間隔燃焼エンジンであってもよい。2つの気筒を有する不等間隔燃焼エンジンとして、例えばV型エンジンが挙げられる。
負荷変動型4ストロークエンジンでは、低い回転速度における回転の変動が、他のタイプのエンジンと比べ大きい。高負荷領域とは、エンジンの1燃焼サイクルのうち、負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値よりも高い領域をいう。低負荷領域とは、1燃焼サイクルにおける高負荷領域以外の領域をいう。エンジンでは、クランク軸の回転角度を基準として見ると、低負荷領域は、例えば、高負荷領域より広い。圧縮行程は、高負荷領域と重なりを有する。なお、本明細書において、負荷変動型4ストロークエンジンに関して示される方向は、当該負荷変動型4ストロークエンジンが搭載された鞍乗型車両を基準として示されている。
【0032】
始動発電機は、エンジン始動及び発電の双方が可能な回転電機である。始動発電機は、例えばアウターロータ型でもよく、また、インナーロータ型でもよい。また、始動発電機は、ラジアルギャップ型でなく、アキシャルギャップ型でもよい。一つの実施形態によれば、始動発電機では、ロータが、永久磁石を備えている。始動発電機は、例えば、ロータの磁極部が磁性材料から露出した表面磁石型(SPM型)である。始動発電機はこれに限られず、例えば、ロータの磁極部が磁性材料に埋め込まれた埋込磁石型(IPM型)であってもよい。
例えば、(磁極面/スロット数)は、2/3より多い。但し、(磁極面/スロット数)は、特に限定されず、例えば2/3以下でもよい。(磁極面/スロット数)は、2/3より多い場合、(磁極面/スロット数)の上限値としては、例えば、4/3が挙げられる。本開示に係る一例において、当該比は、8/9以上である。本開示に係る一例において、当該比は、1/1以上である。本開示に係る一例において、当該比は、1/1より大きい。本開示に係る一例において、当該比は、4/3である。なお、ステータに制御基板等を設置するためにステータのスロットの一部が形成されない場合がある。このような場合、本来スロットが設けられるべき位置に、スロットが設けられることとして、スロットの数が決定されてもよい。フライホイールの磁極数についても同様である。即ち、磁極数とスロット数とが実質的に4:3の関係を満たすような4:3系列の磁極及びスロットの配置が行われる場合、(磁極面/スロット数)が4/3であるといえる。
【0033】
クランクケースは、4ストロークエンジンユニットのうち、クランク軸の少なくとも一部を収容するケースである。クランクケースは、気筒(シリンダ)と接続される。クランクケースは、例えば始動発電機を収容する。この場合、クランクケースは、始動発電機カバーと、始動発電機収納空間も含む。但し、始動発電機は、クランクケースのみにより収納されてもよい。
【0034】
ロータ位置検出装置は、始動発電機のロータの位置を検出する装置である。ロータ位置検出装置として、例えばピックアップが使用される。但しロータ位置検出装置として、例えばホールICが使用されてもよい。ロータ位置検出装置が始動発電機収納空間内に配置される場合、ロータ位置検出装置は、クランクケースに取り付けられる。ロータ位置検出装置は、例えばクランクケースの始動発電機カバーに取り付けられる。ロータ位置検出装置が始動発電機収納空間内に配置される場合、ロータ位置検出装置は、例えば、ステータに取り付けられてもよい。
【0035】
無段変速機(CVT)は、変速比を連続的に変化させる変速装置である。無段変速機は、例えば駆動プーリー(プライマリープーリー)及び被駆動プーリー(セカンダリープーリー)の2つの溝幅の変更が可能なプーリーの間にベルトがかけられている構造を有する。無段変速機は、駆動プーリーが回転することにより変速比を変更できる。無段変速機は、例えば、電気制御によって変速比が制御される電子制御式無段変速機(Electro Continuously Variable Transmission:ECVT)であってもよい。変速比とは、変速装置の出力軸回転速度に対する入力軸回転速度の比である。例えば、駆動輪の回転速度が等しい条件の場合、変速比が大きいほど、クランク軸の回転速度が大きい。また、クランク軸の回転速度が等しい条件の場合、変速比が大きいほど、駆動輪の回転速度が小さい。
【0036】
鞍乗型車両(straddled vehicle) とは、運転者がサドルに跨って着座する形式のビークルをいう。鞍乗型車両としては、例えば、スクータ型、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。また、鞍乗型車両としては、自動二輪車に限定されず、例えば、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。自動三輪車は、2つの前輪と1つの後輪とを備えていてもよく、1つの前輪と2つの後輪とを備えていてもよい。鞍乗型車両の駆動輪は、後輪であってもよく、前輪であってもよい。また、鞍乗型車両の駆動輪は、後輪及び前輪の双方であってもよい。
【0037】
また、鞍乗型車両は、リーン姿勢で旋回可能に構成されていることが好ましい。リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両は、カーブの内方向に傾いた姿勢で旋回するように構成される。これにより、リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両は、旋回時に鞍乗型車両に加わる遠心力に対抗する。リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両では、軽快性が求められるため、発進の操作に対する進行の応答性が重要視される。リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両では、例えば、動力源から駆動輪までの動力伝達経路に、流体の力学的作用を利用したトルクコンバータが設けられていない。
【0038】
一つの好ましい実施形態に係る4ストロークエンジンユニットにおいて、ロータは、ファン又はフィンの何れも有さないことが好ましい。ファンは、冷却のための気流を生じさせるようにロータに設けられた部分を指す。フィンは、冷却のための伝熱面積を広げるためにロータに設けられた部分を指す。クランク軸と同軸上に配置されるロータは、例えば、径方向に広がる面を有する部分、及び、周方向に広がる面を有する部分の少なくとも一方を有する。フィン又はファンが、径方向に広がる面に設けられる場合、フィン又はファンは、当該面からクランク軸の軸線方向に突出するように設けられる。フィン又はファンが、周方向に広がる面に設けられる場合、フィン又はファンは、当該面から径方向に突出するように設けられる。一つの好ましい実施形態において、フィン又はファンが突出する長さは、フィン又はファンの厚さ以上である。この一つの好ましい実施形態において、当該面から突出する長さが厚さよりも小さい部分は、フィン又はファンに該当しないと解釈されることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、始動時において、エネルギーのロスを低減できる4ストロークエンジンユニットを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の一実施形態に係る4ストロークエンジンユニットの構成を示す図である。
図2図1に示す4ストロークエンジンユニットの第1の実施例を示す断面図である。
図3図1に示す4ストロークエンジンユニットの第1の実施例を示す側面図である。
図4図2に示す始動発電機の回転軸線に垂直な断面を示す断面図である。
図5】(A)は、始動発電機の駆動特性を模式的に示す説明図である。(B)は、発電特性を模式的に示す説明図である。
図6図2の4ストロークエンジンユニットを搭載した鞍乗型車両の側面図である。
図7図1に示す4ストロークエンジンユニットの第2の実施例を示す断面図である。
図8図1に示す4ストロークエンジンユニットの第2の実施例を示す側面図である。
図9図7の4ストロークエンジンユニットを搭載した鞍乗型車両の側面図である。
図10図1に示す4ストロークエンジンユニットの第3の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る4ストロークエンジンユニットの構成を示す図である。
本明細書及び図面で、Fは、鞍乗型車両1における前方を示す。Bは、鞍乗型車両1における後方を示す。FBは、鞍乗型車両1における前後方向を示す。Uは、鞍乗型車両1における上方を示す。Dは、鞍乗型車両1における下方を示す。UDは、鞍乗型車両1における上下方向を示す。Lは、鞍乗型車両1における左方を示す。Rは、鞍乗型車両1における右方を示す。LRは、鞍乗型車両1における左右方向を示す。LRは、鞍乗型車両1におけるクランク軸の軸線方向でもある。即ち、鞍乗型車両1におけるクランク軸の軸線方向LRは、鞍乗型車両1における右方R、及び左方Lの双方を含んでいる。
図1の4ストロークエンジンユニット10は、負荷変動型4ストロークエンジン20と、始動発電機60とを備える。なお、以下においては、負荷変動型4ストロークエンジン20は、4ストロークエンジン20とも称される。ここで、図1のパート(a)は、4ストロークエンジンユニット10の断面図であり、図1のパート(b)は、4ストロークエンジンユニット10の側面図である。
4ストロークエンジン20は、クランクケース21と、シリンダ22と、クランク軸24とを有する。シリンダ22は、クランクケース21と接続される。クランクケース21及びシリンダ22は、低粘度オイルOLで内部が潤滑されるように構成されている。クランク軸24は、クランクケース21に回転可能に支持される。4ストロークエンジン20は、ガスの燃焼によって生じるパワーをクランク軸24のトルク及び回転速度として出力する。4ストロークエンジン20は、4ストロークの間に、クランク軸24を回転させる負荷が大きい高負荷領域と、クランク軸を回転させる負荷が高負荷領域の負荷より小さい低負荷領域とを有する。本実施形態において、低粘度オイルOLは、SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルである。低粘度オイルOLは、クランクケース21内の一部に溜まっている。
【0043】
始動発電機60は、ステータ62と、ロータ61とを備える。ステータ62は、周方向にスロットを空けて設けられた複数の歯部623を有するステータコア621と、歯部623に巻回される複数相のステータ巻線622をと有する。ロータ61は、ステータ62と空隙を空けて向かい合うように周方向に並ぶ永久磁石部614を有する。ロータ61は、クランク軸24と同軸上に配置される。始動発電機60は、低粘度オイルOLと接触する位置に設けられる。始動発電機60は、電力の供給を受けて4ストロークエンジン20を駆動する。また、始動発電機60は、クランク軸24を介して4ストロークエンジン20に駆動され発電する。
【0044】
始動発電機60は、始動時において電流が供給されることにより発熱する。これにより、始動発電機60に接触している低粘度オイルOLに、熱が伝わる。そうすると、低粘度オイルOLが、暖められる。この時、暖まった低粘度オイルOLは、4ストロークエンジン20全体に素早く循環される。粘度の低い低粘度オイルOLをエンジンオイルに使用すると、4ストロークエンジン20全体にエンジンオイルを循環させやすい。特に、低粘度オイルOLに熱を加えると、常温の状態に比べて、更にオイルの粘度が低下するため、常温のエンジンオイルよりも素早く4ストロークエンジン20内へ循環させることが可能となる。4ストロークエンジン20の始動時に、低粘度オイルOLが始動発電機60により暖められ攪拌され、暖まった低粘度オイルOLがより早く4ストロークエンジン20全体にいきわたる。低粘度オイルOLの粘度は暖められることによって更に低下する。そうすると、始動直後に、低粘度オイルOLを含めた4ストロークエンジン20の各部品が、4ストロークエンジン20の動作に必要な温度に暖められる。従って、始動時において、4ストロークエンジンの動作の抵抗が減少する。4ストロークエンジン20は、エネルギーのロスを低減できる。
また、4ストロークエンジンユニット10は、低粘度オイルOLをエンジンオイルに使用するため、粘度の低下に伴うエネルギーロスの低減だけではなく、攪拌に伴うエネルギーロスを低減できる。このため、始動発電機の回転に対する抵抗を小さくできる。その結果、4ストロークエンジンユニット10は、始動時において、エネルギーのロスを低減できる。
【0045】
[実施例]
(第1の実施例)
図2は、図1に示す4ストロークエンジンユニット10の第1の実施例を示す断面図である。図3は、図1に示す4ストロークエンジンユニット10の第1の実施例を示す側面図である。以下、図2及び図3を参照して、4ストロークエンジンユニット10の第1の実施例について、詳細に説明する。ここで、本実施例の4ストロークエンジンユニット10は、4ストロークエンジン20と、マニュアル・トランスミッション30と、マニュアル・クラッチ40と、始動発電機60とを備える。
【0046】
4ストロークエンジンユニット10の4ストロークエンジン20は、クランクケース21と、シリンダ22と、ピストン26と、コネクティングロッド25と、クランク軸24とを備えている。
ピストン26は、シリンダ22内に往復移動自在に設けられている。クランク軸24は、クランクケース21内に回転可能に設けられている。コネクティングロッド25は、ピストン26とクランク軸24を接続している。シリンダ22の上部には、シリンダヘッド23が取り付けられている。シリンダ22とシリンダヘッド23とピストン26とによって、燃焼室が形成される。
クランク軸24は、クランクケース21に、一対のベアリング242を介して、回転自在な態様で支持されている。クランク軸24は、始動発電機60と、マニュアル・クラッチ40に動力を伝達する駆動ギア241とが取り付けられる。始動発電機60は、クランク軸24の軸線方向LRに見た時に、クランク軸24の第1の方向に取り付けられている。駆動ギア241は、クランク軸24の軸線方向LRに見た時に、クランク軸24の第2の方向に取り付けられる。
【0047】
4ストロークエンジン20には、スロットル弁SVと、燃料噴射装置FIと、点火プラグ27とが設けられている。スロットル弁SVは、燃焼室に供給される空気の量を調整する。燃料噴射装置FIは、燃料を噴射することによって、スロットル弁SVにより燃焼室に供給される空気に燃料を供給する。燃料と空気の混合ガスが、燃焼室に供給される。点火プラグ27は、燃焼室に供給される空気と燃料の混合ガスを燃焼させる。
【0048】
4ストロークエンジン20は、内燃機関である。4ストロークエンジン20は、燃料の供給を受ける。4ストロークエンジン20は、燃料を燃焼する燃焼動作によって回転パワーを出力する。運転者は、図示しないアクセルグリップを操作することによって、4ストロークエンジン20から出力される回転パワーを調節する。4ストロークエンジン20は、クランク軸24を介して回転パワーを出力する。クランク軸24の回転パワーは、マニュアル・クラッチ40を介してマニュアル・トランスミッション30に伝達される。
【0049】
4ストロークエンジン20は、4ストロークの間に、クランク軸24を回転させる負荷が大きい高負荷領域と、クランク軸24を回転させる負荷が高負荷領域の負荷より小さい低負荷領域とを有する。クランク軸24の回転角度を基準として見ると、低負荷領域は高負荷領域よりも広い。より詳細には、4ストロークエンジン20は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び排気行程の4行程を繰返しながら正回転する。圧縮行程は、高負荷領域に含まれ、低負荷領域に含まれない。
【0050】
4ストロークエンジン20は、カム軸28と、吸気バルブ29aと、排気バルブ29bと、カムチェーン281とを備える。カムチェーン281は、クランク軸24により駆動され、カム軸28を回転させる。カム軸28は複数のカムを有する。カム軸28のそれぞれのカムは、回転することにより、直接的又は間接的に吸気バルブ29a及び排気バルブ29bを上下動させる。より詳細には、クランク軸24は、4ストロークエンジン20の吸気行程において、吸気バルブ29aを下降させ、排気行程においては、排気バルブ29bを下降させるように、カム軸28とカムチェーン281とを駆動させる。カムチェーン281は、クランクケース21と、シリンダ22と、シリンダヘッド23とに形成された、カムチェーン収納部282に収納される。
【0051】
4ストロークエンジン20は、クランクケース21の下部にオイルパン211を備える。オイルパン211には、4ストロークエンジン20の動作を潤滑させる低粘度オイルOLが溜められている。オイルパン211に溜まった低粘度オイルOLは、図示しないオイルポンプによって加圧される。加圧された低粘度オイルOLは、図示しないオイル供給通路を介して、ピストン26、及びクランク軸24に供給される。このようなオイル供給通路は、例えば、クランク軸24の内部に設けられた孔、シリンダ22の内部に設けられた孔、及びシリンダ22とシリンダヘッド23との接合面に形成された溝で形成される。低粘度オイルOLの一部は、カムチェーン収納部282に供給される。カムチェーン収納部282に供給される低粘度オイルOLは、カムチェーン281を介して、カム軸28及びバルブ29にも供給される。このようにして、4ストロークエンジン20の内部は、低粘度オイルOLで潤滑される。従って、クランクケース21及びシリンダ22の内部は、低粘度オイルOLで潤滑される。
【0052】
低粘度オイルOLは、SAE J300に規定されるSAE粘度分類による低温粘度グレードが、20Wよりも低い低粘度オイルである。粘度グレードが低いほどオイルの粘度は低い。潤滑オイルのSAE粘度分類による高温粘度グレードは、特に限定されない。Xを0以上20未満の整数、Yを0以上の整数とすると、潤滑オイルのSAE粘度グレードは、XW-Yで表される。潤滑オイルは、ベースオイルと添加物で構成されている。大まかにいうと、潤滑オイルの粘度が低いほど、潤滑オイルの蒸発温度が低く、蒸発しやすい。ベースオイルの種類(例えば鉱物油であるか合成油であるか)や、添加物によっては、潤滑オイルの粘度が同じであっても蒸発温度が異なる場合がある。潤滑オイルの蒸発特性は、例えば、ASTM D6352に準拠したガスクロマトグラフィー模擬蒸留による沸点分布測定法によって取得できる。
【0053】
4ストロークエンジンユニット10は、ラジエータ80を備える。即ち、4ストロークエンジン20は、水冷エンジンである。ラジエータ80は、ラジエータホース81及び82により、4ストロークエンジン20のシリンダ22に形成されたウォータージャケット212と接続されている。ラジエータ80は、ラジエータホース81及び82を介して、ウォータージャケット212に冷却水を供給する。例えば、冷却水は、ラジエータ80からラジエータホース81を通りウォータージャケット212に供給される。4ストロークエンジン20により暖められた冷却水は、ラジエータホース82を通りラジエータ80に戻り、再び冷却される。
【0054】
4ストロークエンジン20は、水冷エンジンである。水冷エンジンは、始動直後において、エンジンが暖まる前に冷却水が循環する。従って、水冷エンジンは、エンジンが暖まるまで時間を有する。ここで、4ストロークエンジンユニット10では、始動時において、低粘度オイルが始動発電機により暖められるため、4ストロークエンジンを素早く暖めることができる。
【0055】
マニュアル・クラッチ40は、クラッチハウジング41と、フリクションプレート42と、クラッチプレート43と、クラッチボス44と、プレッシャープレート45と、を備える。クラッチハウジング41には、被駆動ギア411が設けられる。クラッチハウジング41には、クランク軸24に設けられた駆動ギア241と被駆動ギア411とを介して、クランク軸24からの駆動力が伝達される。フリクションプレート42は、クラッチハウジング41の内周に配置される。フリクションプレート42は、クラッチハウジング41と係合し、クラッチハウジング41と共に回転する。クラッチボス44は、マニュアル・トランスミッション30の入力軸32に、マニュアル・トランスミッション30の入力軸32と一体となって回転するように取り付けられる。クラッチボス44の回転軸線と、クラッチハウジング41の回転軸線とは、略一致している。クラッチプレート43は、クラッチボス44の外周に配置される。クラッチプレート43は、クラッチボス44と係合し、クラッチボス44と共に回転する。
【0056】
プレッシャープレート45は、マニュアル・トランスミッション30の入力軸の中心軸を貫くリフタロッド38に接続される。プレッシャープレート45は、運転者の操作により、フリクションプレート42と、クラッチプレート43とを、密着及び離間させる。より詳細には、運転者は、図示しないクラッチレバーを操作することにより、図示しないワイヤ、及びクラッチアーム37を介して、リフタロッド38を中心軸線の方向に変位させる。プレッシャープレート45は、リフタロッド38と一体となり、リフタロッド38の中心軸線の方向に変位して、フリクションプレート42と、クラッチプレート43とを、密着又は離間させる。運転者が、プレッシャープレート45により、フリクションプレート42とクラッチプレート43とを密着させると、4ストロークエンジン20の駆動力が、マニュアル・トランスミッション30に伝達される。運転者が、プレッシャープレート45により、フリクションプレート42とクラッチプレート43とを離間させると、4ストロークエンジン20の駆動力が、マニュアル・トランスミッション30から切断される。
【0057】
マニュアル・トランスミッション30は、クランク軸24からの駆動力が伝達される。マニュアル・トランスミッション30は、低粘度オイルOLによって潤滑されるようにクランクケース21内に設けられる。マニュアル・トランスミッション30は、マニュアル・クラッチ40と接続されている。マニュアル・トランスミッション30は、複数の変速段を有する。マニュアル・トランスミッション30は、入力軸32と、出力軸33と、駆動ギア34と、被駆動ギア35と、変速段設定機構36とを有する。入力軸32は、回転可能に配置される。入力軸32には、マニュアル・クラッチ40を介して、4ストロークエンジン20から出力された動力が入力される。マニュアル・トランスミッション30は、入力軸32に対し出力軸33の回転速度を段階的に変速する。
【0058】
出力軸33は、入力軸32と平行な軸線上に回転可能に配置される。複数の駆動ギア34は、入力軸32に設けられ、常に入力軸32と共に回転するように構成されている。また、複数の駆動ギア34のそれぞれは、各変速段に対応する。複数の被駆動ギア35は、出力軸33に設けられ、出力軸33と相対回転可能であるように構成される。複数の被駆動ギア35は、対応する駆動ギア34と噛み合い可能であるように構成されている。常時、複数の被駆動ギア35の少なくとも一つが、駆動ギア34と噛み合う。
詳細には、図2に示すマニュアル・トランスミッション30に備えられた複数の駆動ギア34は、常に入力軸32と共に回転するように構成されている。また、複数の被駆動ギア35は、出力軸33と相対回転可能であるように構成される。また、複数の被駆動ギア35のそれぞれが、駆動ギア34と常時噛み合う。
【0059】
低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30にも供給される。より詳細には、マニュアル・トランスミッション30は、一部がオイルパン211に溜められた低粘度オイルOLに浸かっている。また、ピストン26に供給された低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30にも流れる。低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30の回転により攪拌されることによりクランクケース21内に拡散する。これにより、低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30全体に供給される。
【0060】
図4は、図2に示す始動発電機60の回転軸線に垂直な断面を示す断面図である。図2及び図4を参照して始動発電機60を説明する。始動発電機60は、永久磁石式三相ブラシレス型モータである。始動発電機60は、永久磁石式三相ブラシレス型発電機としても機能する。始動発電機60は、クランクケース21に対し位置が固定されたステータ62と、ステータ62に対し空隙を介して対向する永久磁石を有しクランク軸24の回転と連動するようにクランク軸24に設けられたロータ61とを備える。本実施例の始動発電機60は、ラジアルギャップ型である。始動発電機60は、アウターロータ型である。即ち、ロータ61はアウターロータである。ステータ62はインナーステータである。始動発電機60は、始動発電機カバー64とクランクケース21とにより形成された始動発電機収納部65に収納される。始動発電機収納部65の空間は、カムチェーン収納部282の空間と連通している。
【0061】
ロータ61は、ロータ本体部615を有する。ロータ本体部615は、例えば強磁性材料からなる。ロータ本体部615は、有底筒状を有する。ロータ本体部615は、筒状ボス部615aと、円板状の底壁部615bと、筒状のバックヨーク部615cとを有する。底壁部615bとバックヨーク部615cとは一体的に形成されている。底壁部615b及びバックヨーク部615cは筒状ボス部615aを介してクランク軸24に固定されている。ロータ61には、電流が供給される巻線が設けられていない。
ロータ61は、クランク軸24の軸線方向LRにおける、ステータ62と4ストロークエンジン20の気筒(シリンダ22)との間でクランク軸24に接続された有底筒状である。つまり、円板状の底壁部615bが、クランク軸24の軸線方向LRにおいて、筒状のバックヨーク部615cよりもシリンダ22の方向に設けられている。
ロータ61は、永久磁石部614を有する。ロータ61は、複数の磁極部616を有する。複数の磁極部616は、例えば、永久磁石部614により形成されている。複数の磁極部616は、バックヨーク部615cの内周面に設けられている。図に示す例では、1つの磁極部616が1つの永久磁石に対応する。但し、永久磁石部614は、複数の磁極を有するように着磁された1つの永久磁石によって構成することも可能である。この場合、磁極部616の全ては、1つのリング形状の永久磁石に形成される。永久磁石部614の構成はこれに限られない。例えば、磁極部616は、1つのリング形状を構成する複数の永久磁石のブロックに形成されてもよい。この場合、1つの永久磁石が複数の磁極部616を有する。そして、複数の永久磁石がリング形状の永久磁石部614を構成する。
例えば、各々が4つの磁極部616を有する6つの永久磁石が組合せられることによって、24の磁極部を有する永久磁石部614が形成される。但し、磁極部616の個数及び永久磁石の個数は、特に限定されない。
また、永久磁石部614は、例えば等方性磁石で形成される。但し、永久磁石部614は、特に限定されず、例えば極異方性磁石で形成されてもよい。永久磁石部614は、例えばフェライト磁石、ネオジム磁石、又はサマリウムコバルト磁石で形成される。 図に示す例では、始動発電機60の永久磁石部614は、厚さを厚く設計することによって、パーミアンス係数を高くする。パーミアンス係数を高くすることにより、永久磁石部614は、減磁に対してロバスト性を有することになる。
【0062】
磁極部616は、始動発電機60の周方向に交互に配置されたN極又はS極のそれぞれである。本実施例では、ステータ62と対向するロータ61の磁極部の数、即ち磁極数が24個である。ロータ61の磁極数とは、ステータ62と対向する磁極部616の数をいう。磁極部616とステータ62との間には磁性体が設けられていない。
磁極部616は、始動発電機60の径方向におけるステータ62よりも外に設けられている。バックヨーク部615cは、径方向における磁極部616よりも外に設けられている。始動発電機60は、歯部623の数よりも多い磁極部616を有している。なお、図に示す例では、ロータ61は、磁極部616が磁性材料から露出した表面磁石型(SPM型)である。
【0063】
ステータ62は、クランクケース21に対し位置が固定されている。詳細には、ステータ62は、始動発電機カバー64に固定されている。ステータ62は、ステータコア621と複数のステータ巻線622とを有する。ステータコア621は、周方向に間隔を空けて設けられた複数の歯部623を有する。複数の歯部623は、ステータコア621から径方向外に向かって一体的に延びている。本実施例においては、合計18個の歯部623が周方向に間隔を空けて設けられている。換言すると、ステータコア621は、周方向に間隔を空けて形成された合計18個のスロット624を有する。歯部623は周方向に等間隔で配置されている。
ロータ61は、スロットの数の2/3より多い磁極部616を有する。ロータ61は、歯部623の数より多い数の磁極部616を有する。より詳細には、ロータ61は、歯部623の数より多い数の磁極部616を有する。即ち、始動発電機60は、歯部623の数よりも多い数の磁極部616を有している。より詳細には、磁極部616の数は、スロット数の4/3以上である。より詳細には、磁極部616の数は、スロット数の4/3である。
【0064】
各歯部623の周囲には、ステータ巻線622が巻回している。つまり、複数相のステータ巻線622は、スロット624を通るように設けられている。図4には、ステータ巻線622が、スロット624の中にある状態が示されている。複数相のステータ巻線622のそれぞれは、U相、V相、W相の何れかに属する。ステータ巻線622は、例えば、U相、V相、W相の順に並ぶように配置される。本実施例において、ステータ巻線622には、発電機のみに使用する回転電機に使用されるステータ巻線より太めのステータ巻線が使用される。
【0065】
ロータ61の外面には、ロータ61の回転位置を検出させるための複数の被検出部617が備えられている。複数の被検出部617は、磁気作用によって検出される。複数の被検出部617は、周方向に間隔を空けてロータ61の外面に設けられている。被検出部617は、強磁性体で形成されている。
ロータ位置検出装置63は、ロータ61の位置を検出する装置である。ロータ位置検出装置63は、始動発電機60のロータ61の位置の検出を表す信号を出力する。ロータ位置検出装置63は、複数の被検出部617と対向する位置に設けられている。ロータ位置検出装置63は、被検出部617を磁気的に検出するピックアップコイル611を備えている。ロータ位置検出装置63は、検出用磁石612及びコア613も備えている。ロータ位置検出装置63は、始動発電機収納部65に配置される。
ロータ位置検出装置63は、クランクケース21内でクランクケース21に対し位置が固定されるようにクランクケース21に支持される。ロータ位置検出装置63は、半導体素子によって位置を検出するホールIC又はMRセンサと比べて高い耐熱性を有する。このため、半導体素子をエンジンの熱から保護するための特別な遮熱構造が省略できる。
【0066】
ロータ位置検出装置63は、例えばホールICであってもよい。始動発電機60は、低粘度オイルOLの温度よりも高くならない乃至高くなり難いステータ巻線を有する。従って、ロータ位置検出装置63の構成として、例えば上限動作温度が比較的低いホールICも採用したとしても、ロータ位置検出装置63を、始動発電機収納部65に配置することができる。
【0067】
始動発電機60は、4ストロークエンジン20のクランク軸24と接続されている。詳細には、ロータ61が、クランク軸24に対し固定された速度比で回転するようクランク軸24と接続されている。
本実施例では、始動発電機60の回転軸線と、クランク軸24の軸線とは、略一致している。ロータ61が、クランク軸24に、動力伝達機構(例えば、ベルト、チェーン、ギア、減速機、増速機等)を介さずに取り付けられている。ロータ61は、クランク軸24に対し1:1の速度比で回転する。始動発電機60が、4ストロークエンジン20の正回転によりクランク軸24を正回転させるように構成されている。
【0068】
始動発電機60は、エンジン始動時には、クランク軸24を正回転させて4ストロークエンジン20を始動させる。また、始動発電機60は、4ストロークエンジン20が燃焼動作する場合に、4ストロークエンジン20に駆動されて発電する。即ち、始動発電機60は、クランク軸24を正回転させて4ストロークエンジン20を始動させる機能と、4ストロークエンジン20が燃焼動作する場合に、4ストロークエンジン20に駆動されて発電する機能の双方を兼ね備えている。始動発電機60は、4ストロークエンジン20の始動後の期間の少なくとも一部には、クランク軸24により正回転されてジェネレータとして機能する。即ち、始動発電機60がジェネレータとして機能する場合において、始動発電機60は、エンジンの燃焼開始後、必ずしも、常にジェネレータとして機能する必要はない。また、エンジンの燃焼開始後に、始動発電機60がジェネレータとして機能する期間と始動発電機60が車両駆動用モータとして機能する期間とが含まれていてもよい。
【0069】
本実施例の始動発電機60は、歯部623の数よりも多い磁極部616を有している。このため、始動発電機60は、歯部の数より少ない磁極部を有する始動発電機と比べて角速度が大きい。角速度は、巻線のインピーダンスに寄与する。
即ち、巻線のインピーダンスは、概略的に下式で表される。
(R1/2
ここで、R:直流抵抗、ω:電気角についての角速度、L:インダクタンスである。
【0070】
電気角についての角速度ωは、下式で表される。
ω=(P/2)×(N/60)×2π
ここで、P:磁極数、N:回転速度[rpm]
【0071】
始動発電機60は、歯部623の数よりも多い磁極部616を有しているので、歯部623の数より少ない磁極部616を有する始動発電機60と比べて角速度ωが大きい。従って、回転している時のインピーダンスが大きい。しかも、回転速度Nが高くなるほど、角速度ωが大きくなり、インピーダンスが大きくなる。
従って、始動発電機60は、発電機として使用される回転領域において、大きなインピーダンスによって発電電流を抑制できる。
【0072】
また、本実施例の始動発電機60に使用されるステータ巻線622には、発電機にのみ使用される回転電機に使用されるステータ巻線よりも太めのステータ巻線が使用される。太めのステータ巻線を使用することにより、始動発電機60のインピーダンスにおけるステータ巻線の直流抵抗を小さくすることができる。ステータ巻線の直流抵抗を小さくすることにより、始動発電機60がスタータモータとして使用される低速回転領域において、大きなトルクを発生することができる。
【0073】
図5(A)は、始動発電機60の駆動特性を模式的に示す説明図である。図5(B)は、発電特性を模式的に示す説明図である。
図中、横軸は、クランク軸24の回転速度を示す。なお、横軸の目盛1つあたりの回転速度は、駆動特性の図5(A)と、発電特性の図5(B)とで異なっている。発電特性の図における目盛1つあたりの回転速度は、駆動特性の図における目盛1つあたりの回転速度よりも多い。縦軸は、正方向に出力トルクを示し、負方向に発電電流を示す。実線は、本実施例に係る始動発電機60の特性を示す。破線は、比較例に係る始動発電機の特性を示す。比較例に係る始動発電機は、歯部の数より少ない磁極部(例えば、スロット数の2/3)を有する。本実施例の始動発電機60(実線)は、クランク軸24を駆動する場合に、比較例に係る始動発電機(破線)と同程度のトルクを出力し(図5(A))、高速回転時に、比較例に係る始動発電機(破線)よりも発電電流を抑制できる(図5(B))。
【0074】
低粘度オイルOLは、始動発電機60にも供給される。カムチェーン収納部282に供給された低粘度オイルOLは、始動発電機収納部65にも供給される。より詳細には、低粘度オイルOLは、カムチェーン収納部282に供給されたのち、カムチェーン281に攪拌されミスト状となる。ミスト状となった低粘度オイルOLは、始動発電機収納部65の空間は、カムチェーン収納部282の空間と連通しているため、始動発電機60が収納される始動発電機収納部65にも供給される。また、ピストン26に供給された低粘度オイルOLが、始動発電機60にも流れる。始動発電機収納部65に供給された低粘度オイルOLは、始動発電機収納部65の下部に貯められる。低粘度オイルOLは、始動発電機60の一部が低粘度オイルOLに浸かるように溜まる。例えば始動発電機60の一部を囲うように設けられた図示しない堰止め壁に低粘度オイルOLが溜まることで、始動発電機60の一部が低粘度オイルOLに浸かる。例えば堰き止め壁からあふれた低粘度オイルOLは、オイルパン211へ流れる。始動発電機60の回転によって、始動発電機60に付着した低粘度オイルOLがクランクケース21内に拡散する。
【0075】
従来は、始動発電機では、始動発電機収納部と4ストロークエンジンとの間にオイルの出入りを塞ぐ仕切りが設けられていた。これに対し、本実施例において、始動発電機60は、始動発電機収納部65と4ストロークエンジン20との間にオイルの出入りを塞ぐ仕切りがない。始動発電機60は、発電機として使用される回転領域において発電電流を抑制できるため、発電時に発生する熱量が、歯部の数より少ない磁極面を有する始動発電機(図5の比較例)よりも少ない。このため、始動発電機60は、ステータ巻線622の温度が低粘度オイルOLの温度よりも高くならない又は高くなり難い。従って、始動発電機60が蒸発温度の低い潤滑オイルである低粘度オイルOLと接触するように配置されても、低粘度オイルOLの蒸発を抑制できる。
その結果、本実施例においては、始動発電機60の冷却機構の大型化を抑制又は回避しつつ、始動発電機60を潤滑オイルである低粘度オイルOLと接触する環境下に配置できる。また、始動発電機60は、熱量の発生を抑制できるため、検出装置の検出特性の変化を抑制できる。
【0076】
4ストロークエンジンユニット10では、始動発電機収納部65と4ストロークエンジン20との仕切りを排除することができる。このため、4ストロークエンジン20の低粘度オイルOLと接触させることができる。これにより、クランク軸24の軸線方向LRのサイズを小型化することができる。また、4ストロークエンジンユニット10は、始動発電機60を有しているため、始動に特化したスタータモータを設ける必要がない。そのため、クランク軸24には、スタータモータからの駆動力を伝達するための動力伝達機構を取り付ける必要がない。また、ロータ61は、4ストロークエンジン20のクランク軸24の軸線方向LRに見た時に、ステータ62よりも4ストロークエンジン20のシリンダ22方向に配置される。従って、更に、クランク軸24の軸線方向LRのサイズを小型化することができる。また、本実施例では、ロータ61に冷却のための気流を発生させるファン又はフィンが設けられていない。
【0077】
また、本実施例において、始動発電機60は、発電時に発生する熱量を抑制することができるため、潤滑オイルを粘度の低い低粘度オイルOLにしたとしても、低粘度オイルOLの蒸発を抑制することができる。従って、本実施例においては、4ストロークエンジン20の低粘度オイルOLは低温粘度グレードが20Wよりも低い、低粘度潤滑オイルを使用することができる。これにより、始動発電機60を潤滑オイルである低粘度オイルOLと接触する環境下に配置したとしても、冷却のための始動発電機60による低粘度オイルOLの攪拌を削減又は省略できる。従って、始動発電機60は、低粘度オイルOLの粘度の低下に伴うエネルギーロスの低減だけではなく、低粘度オイルOLの攪拌に伴うエネルギーロスを低減できる。また、始動発電機60の回転に対する抵抗を小さくできる。その結果、4ストロークエンジンユニット10は、始動発電機60の更なる小型化が可能になる。
【0078】
本実施例において、上述の通り、始動発電機60に使用されるステータ巻線622には、例えば発電機にのみ使用される回転電機に使用されるステータ巻線よりも太めのステータ巻線が使用される。そのため、始動発電機60がスタータモータとして使用される低速回転領域において、大きなトルクを発生することができる。また、本実施例においては、4ストロークエンジン20の低粘度オイルOLは低温粘度グレードが20Wよりも低い低粘度オイルOLを使用することができる。このため、始動発電機60は、始動時の回転に対する抵抗を小さくできる。従って、例えば4ストロークの間に高負荷領域と低負荷領域とを有する単気筒エンジンにおいても、高負荷領域を乗り越えるトルクを得ることができる。
【0079】
始動発電機60は、ステータ62に電流が供給されることにより駆動する。また、始動発電機60は、ステータ62において電流が発生することにより、発電を行う。駆動時及び発電時何れの場合にも、ステータ62は熱を生じる。従って、始動発電機60が収容される空間は、始動時からしばらく時間がたつと、熱が籠り、クランクケース21内の温度が上昇してしまう。4ストロークエンジンユニット10によれば、ステータ62が始動発電機カバー64に固定される。この時、始動発電機60のロータ61は、クランク軸24の軸線方向LRでシリンダ22と反対の方向に向かって開いている。そのため、4ストロークエンジンユニット10によれば、例えば、始動発電機60のロータ61が、クランク軸24の軸線方向LRでシリンダ22に向かって開いた構成と比べ、始動時からしばらく時間がたったとしても、熱が籠るのを抑制できる。これにより、始動時からしばらく時間がたった時に、低粘度オイルOLを含めた4ストロークエンジン20の各部品が、4ストロークエンジン20の動作に必要な温度に暖められる。その結果、4ストロークエンジンユニット10は、始動時において、エネルギーロスを低減できる。
【0080】
本実施例の4ストロークエンジンユニット10によれば、始動発電機60により暖められた低粘度オイルOLは、4ストロークエンジン20全体に素早く循環される。この時、クランク軸24からの駆動力が伝達されるマニュアル・トランスミッション30にも低粘度オイルが素早く供給される。従って、4ストロークエンジンユニット10は、始動時において、マニュアル・トランスミッション30の回転によるエネルギーロスを低減できる。
【0081】
図6は、図2の4ストロークエンジンユニットを搭載する鞍乗型車両を示す側面図である。
鞍乗型車両1は、より詳細には、MT(マニュアル・トランスミッション)型鞍乗型車両である。また、鞍乗型車両1は、自動二輪車である。鞍乗型車両1は、より詳細には、MT型自動二輪車である。
鞍乗型車両1は、より詳細には、4ストロークエンジンユニット10と、車体11と、フロントフォーク12と、ハンドル13と、前輪14と、後輪としての駆動輪15と、シート16と、蓄電装置17と、リアアーム151とを備えている。
【0082】
フロントフォーク12は、車体11に回転自在に支持されている。ハンドル13は、フロントフォーク12の上端に固定されている。つまり、ハンドル13は、フロントフォーク12を介して車体11に対し回転自在に支持されている。ハンドル13の左端には、マニュアルクラッチレバー46が設けられている。ハンドル13の右部には、図示しないブレーキレバーと、アクセル操作子が設けられている。前輪14は、フロントフォーク12に回転自在に支持されている。
リアアーム151は、車体11に揺動自在に支持されている。駆動輪15は、リアアーム151に回転自在に支持されている。
【0083】
4ストロークエンジンユニット10は、車体11に保持されている。より詳細には、4ストロークエンジンユニット10は、車体11の図示しないフレームに取り付けられている。4ストロークエンジンユニット10は、出力部39から駆動輪15へ向けの動力を出力する。出力部39は、チェーン152が巻き掛けられるスプロケットである。出力部39は、クランクケース21の外に設けられている。出力部39は、実際には、車体11に設けられた図示しないカバーで覆われているが、4ストロークエンジンユニット10の筐体の外に露出していることが分かりやすいよう実線で表されている。4ストロークエンジンユニット10の動力は、出力部39としてのスプロケット及びチェーン152を介して駆動輪15へ向け出力される。出力部39よりも下方には、ステップ111が設けられている。
【0084】
シート16は、サドル型であり車体11の上部に設けられている。鞍乗型車両1の運転者は、シート16に跨がって着座し、走行中、ステップ111に足を乗せる。
蓄電装置17は、車体11の内部に配置されている。蓄電装置17は、電力を蓄える。
【0085】
(第2の実施例)
図7は、図1に示す4ストロークエンジンユニット10の第2の実施例を示す断面図である。図8は、図1に示す4ストロークエンジンユニット10の第2の実施例を示す側面図である。以下、図7及び図8を参照して、4ストロークエンジンユニット10の第2の実施例について、更に詳細に説明する。
本実施例において、4ストロークエンジンユニット10は、変速機カバー56と、減速機構55と、駆動輪15とが一体となって、スイングユニット2を構成する。ここで、本実施例の4ストロークエンジンユニット10は、4ストロークエンジン20と、無段変速機50と、始動発電機60とを備える。本実施例は、4ストロークエンジンユニット10が、マニュアル・トランスミッション30を有さず、無段変速機50を有するという点において、第1の実施例と異なっている。
【0086】
4ストロークエンジンユニット10の4ストロークエンジン20は、クランクケース21と、シリンダ22と、ピストン26と、コネクティングロッド25と、クランク軸24とを備えている。
ピストン26は、シリンダ22内に往復移動自在に設けられている。クランク軸24は、クランクケース21内に回転可能に設けられている。コネクティングロッド25は、ピストン26とクランク軸24を接続している。シリンダ22の上部には、シリンダヘッド23が取り付けられている。
クランク軸24は、クランクケース21に、一対のベアリング242を介して、回転自在な態様で支持されている。
【0087】
4ストロークエンジン20には、スロットル弁SVと、燃料噴射装置FIと、点火プラグ27とが設けられている。スロットル弁SVは、燃焼室に供給される空気の量を調整する。燃料噴射装置FIは、燃料を噴射することによって、スロットル弁SVにより燃焼室に供給される空気に燃料を供給する。点火プラグ27は、燃焼室に供給される空気と燃料の混合ガスを燃焼させる。
【0088】
4ストロークエンジン20は、カム軸28と、吸気バルブ29aと、排気バルブ29bと、カムチェーン281とを備える。カムチェーン281は、クランク軸24により駆動され、カム軸28を回転させる。カム軸28は複数のカムを有する。カム軸28のそれぞれのカムは、回転することにより、直接的又は間接的に吸気バルブ29a及び排気バルブ29bを上下動させる。カムチェーン281は、クランクケース21と、シリンダ22と、シリンダヘッド23とに形成された、カムチェーン収納部282に収納される。
【0089】
4ストロークエンジン20は、クランクケース21の下部にオイルパン211を備える。オイルパン211には、4ストロークエンジン20の動作を潤滑させる低粘度オイルOLが溜められている。オイルパン211に溜まった低粘度オイルOLは、ピストン26、及びクランク軸24に供給される。低粘度オイルOLの一部は、カムチェーン収納部282に供給される。カムチェーン収納部282に供給される低粘度オイルOLは、カムチェーン281を介して、カム軸28及びバルブ29にも供給される。
【0090】
4ストロークエンジンユニット10は、ラジエータ80を備える。ラジエータ80は、ラジエータホース81及び82により、4ストロークエンジン20のシリンダ22に形成されたウォータージャケット212と接続されている。ラジエータ80は、ラジエータホース81及び82を介して、ウォータージャケット212に冷却水を供給する。
【0091】
無段変速機50は、駆動プーリー51と、被駆動プーリー52と、ベルト53とを有する。駆動プーリー51は、無段変速機50の入力部である。被駆動プーリー52は、無段変速機50の出力部である。駆動プーリー51にはクランク軸24を介して4ストロークエンジン20から駆動力が伝達される。伝達された駆動力は、ベルト53を介して被駆動プーリー52に伝達される。無段変速機50の駆動プーリー51は、左右方向LRにおいて、クランク軸24の左端部に、クランク軸24と同軸上に取り付けられている。
【0092】
駆動プーリー51は、可動シーブ511と、固定シーブ512と、ランププレート513と、ウェイトローラ514とを備える。可動シーブ511、固定シーブ512、ランププレート513及びウェイトローラ514は、クランク軸24と共に回転する。可動シーブ511は、固定シーブ512とランププレート513との間に配置される。可動シーブ511は、クランク軸24上を左右方向LRに移動可能に設けられている。固定シーブ512及びランププレート513は、クランク軸24に固定されて、左右方向LRの動きが規制されている。ウェイトローラ514は、可動シーブ511とランププレート513との間の空間に配置される。ここで、ランププレート513と可動シーブ511との空間は、半径方向の外方に向かって左右方向LRの幅が狭くなるように形成される。
【0093】
被駆動プーリー52も、可動シーブ521と、固定シーブ522と、被駆動軸524と、バネ523とを備える。可動シーブ521と、固定シーブ522とは、被駆動軸524と共に回転する。可動シーブ521は、被駆動軸524上を左右方向LRに移動可能に設けられている。固定シーブ522は、被駆動軸524に固定されて、左右方向LRの動きが規制されている。可動シーブ521は、バネ523によって、固定シーブ522に近づくように付勢されている。
【0094】
無段変速機50の変速比は、可動シーブ511と可動シーブ521とが左右方向LRに動くことによって変化する。詳細には、駆動プーリー51の可動シーブ511が左右方向LRに動くと、ベルト53の駆動プーリー51に巻かれた部分の径が変化する。駆動プーリー51に巻かれた部分の径の変化に伴って、被駆動プーリー52の可動シーブ521は、バネ523の弾性力によって又は弾性力に抗して左右方向LRに移動する。そうすると、ベルト53の被駆動プーリー52に巻かれた部分の径も変化する。
【0095】
例えば、クランク軸24の回転速度が上昇することにより、ウェイトローラ514が回転による遠心力により駆動プーリー51の半径方向の外方に移動する。そうするとランププレート513と可動シーブ511との軸方向の幅が広くなり、駆動プーリー51の可動シーブ511は軸方向において固定シーブ512に近づく。駆動プーリー51の可動シーブ511が固定シーブ512に近づくと、ベルト53の駆動プーリー51に巻かれた部分の径が大きくなる。そうすると、ベルト53の被駆動プーリー52に巻かれた部分の径は小さくなる。このとき、被駆動プーリー52の可動シーブ521は固定シーブ522から離れる。これによって、無段変速機50の変速比が低くなる。即ち、無段変速機50の状態が、高速走行設定(トップ設定)に向かって変化する。
【0096】
反対に、クランク軸24の回転速度が低下することにより、ウェイトローラ514が回転による遠心力を失う。これにより、ウェイトローラ514は、駆動プーリー51の半径方向の内方に移動する。そうするとランププレート513と可動シーブ511との軸方向の幅が狭くなり、可動シーブ511は軸方向において固定シーブ512から離れる。駆動プーリー51の可動シーブ511が固定シーブ512から離れると、ベルト53の駆動プーリー51に巻かれた部分の径が小さくなる。このとき、被駆動プーリー52の可動シーブ521は固定シーブ522に近づく。そうすると、ベルト53の被駆動プーリー52に巻かれた部分の径は大きくなる。これによって、無段変速機50の変速比は高くなる。即ち、無段変速機50の状態が、低速走行設定(ロウ設定)に向かって変化する。このような可動シーブ511の動きによって、無段変速機50の変速比は、可動シーブ511が固定シーブ512に最も近づいた時の変速比(トップ設定)と、可動シーブ511が固定シーブ512から最も離れた時の変速比(ロウ設定)との間で変化する。
【0097】
被駆動プーリー52からの駆動力は、遠心クラッチ70を介して出力軸54に伝達される。被駆動プーリー52から出力軸54への回転(トルク)の伝達は、遠心クラッチ70を介して行われ、又は遠心クラッチ70によって遮断される。遠心クラッチ70は、ライダーのクラッチ操作を要することなく接続又は切断する自動クラッチである。遠心クラッチ70は、4ストロークエンジン20のエンジン回転速度が予め設定された値を越えると自動的に接続し、エンジン回転速度が当該予め設定された値を下回ると自動的に切断する。出力軸54は、遠心クラッチ70により伝達された被駆動プーリー52からの駆動力を、減速機構55を介して駆動輪15の車軸153に伝達される。出力軸54は、被駆動軸524を貫通している。被駆動軸524の回転軸線と、出力軸54の回転軸線は同一である。無段変速機50を構成する駆動プーリー51、被駆動プーリー52及びベルト53と、被駆動軸524と、減速機構55と、遠心クラッチ70とは、変速機カバー56に収容される。変速機カバー56は、4ストロークエンジン20のクランクケース21に固定され、4ストロークエンジン20と一体となって、リアアームの役割を果たす。
【0098】
4ストロークエンジンユニット10によれば、無段変速機50は、クランクケース21の内部に配置されない。そのため、4ストロークエンジンユニット10によれば、無段変速機50は、4ストロークエンジン20の熱の影響を受けにくい。従って、4ストロークエンジンユニット10によれば、無段変速機50は、ベルト53等の劣化が抑えられる。
【0099】
始動発電機60は、左右方向LRにおいて、クランク軸24の右端部に、クランク軸24と同軸上に取り付けられている。始動発電機60は、ステータ62と、ロータとを備える。始動発電機60は、始動発電機カバー64とクランクケース21とにより形成された始動発電機収納部65に収納される。始動発電機収納部65の空間は、カムチェーン収納部282の空間と連通している。
ロータ61は、ロータ本体部615を有する。ロータ本体部615は、筒状ボス部615aと、円板状の底壁部615bと、筒状のバックヨーク部615cとを有する。底壁部615b及びバックヨーク部615cは筒状ボス部615aを介してクランク軸24に固定されている。
ロータ61は、永久磁石部614を有する。ロータ61は、複数の磁極部616を有する。複数の磁極部616は、例えば、複数の永久磁石部614により、1つの磁極部616が1つの永久磁石に対応するように形成されている。永久磁石部614は、複数の磁極を有するように着磁された1又は複数の永久磁石によって構成することも可能である。但し、磁極部616の個数及び永久磁石の個数は、特に限定されない。複数の磁極部616は、バックヨーク部615cの内周面に設けられている。複数の磁極部616は、始動発電機60の周方向にN極とS極とが交互に配置されるように設けられている。本実施例では、ステータ62と対向するロータ61の磁極数が24個である。磁極部616の数は、歯部623の数よりも多い。
【0100】
ステータ62は、クランクケース21に対し位置が固定されている。詳細には、ステータ62は、始動発電機カバー64に固定されている。ステータ62は、ステータコア621と複数のステータ巻線622とを有する。ステータコア621は、周方向に間隔を空けて設けられた複数の歯部623を有する。複数の歯部623は、ステータコア621から径方向外に向かって一体的に延びている。本実施例においては、合計18個の歯部623が周方向に間隔を空けて設けられている。換言すると、ステータコア621は、周方向に間隔を空けて形成された合計18個のスロット624を有する。ロータ61は、スロットの数の2/3より多い磁極部616を有する。ロータ61は、歯部623の数より多い数の磁極部616を有する。より詳細には、ロータ61は、歯部623の数より多い数の磁極部616を有する。即ち、始動発電機60は、歯部623の数よりも多い数の磁極部616を有している。より詳細には、磁極部616の数は、スロット数の4/3以上である。より詳細には、磁極部616の数は、スロット数の4/3である。
各歯部623の周囲には、ステータ巻線622が巻回している。複数相のステータ巻線622のそれぞれは、U相、V相、W相の何れかに属する。
【0101】
ロータ61の外面には、ロータ61の回転位置を検出させるための複数の被検出部617が備えられている。複数の被検出部617は、磁気作用によって検出される。複数の被検出部617は、周方向に間隔を空けてロータ61の外面に設けられている。被検出部617は、強磁性体で形成されている。
ロータ位置検出装置63は、ロータ61の位置を検出する装置である。ロータ位置検出装置63は、複数の被検出部617と対向する位置に設けられている。ロータ位置検出装置63は、被検出部617を磁気的に検出するピックアップコイル611を備えている。ロータ位置検出装置63は、検出用磁石612及びコア613も備えている。ロータ位置検出装置63は、始動発電機収納部65に配置される。
ロータ位置検出装置63は、クランクケース21内でクランクケース21に対し位置が固定されるようにクランクケース21に支持される。
【0102】
始動発電機60は、4ストロークエンジン20のクランク軸24と接続されている。本実施例では、始動発電機60の回転軸線と、クランク軸24の軸線とは、略一致している。始動発電機60が、4ストロークエンジン20の正回転によりクランク軸24を正回転させるように構成されている。
【0103】
低粘度オイルOLは、始動発電機60にも供給される。カムチェーン収納部282に供給された低粘度オイルOLは、始動発電機収納部65にも供給される。
【0104】
図9は、図7の4ストロークエンジンユニットを搭載する鞍乗型車両を示す側面図である。
鞍乗型車両1は、自動二輪車である。鞍乗型車両1は、より詳細には、スクータ型の自動二輪車である。鞍乗型車両1は、4ストロークエンジンユニット10及び駆動輪15から構成されるスイングユニット2と、車体11と、フロントフォーク12と、ハンドル13と、前輪14と、駆動輪15と、シート16と、蓄電装置17とを備えている。
【0105】
フロントフォーク12は、車体11に回転自在に支持されている。ハンドル13は、フロントフォーク12の上端に固定されている。つまり、ハンドル13は、フロントフォーク12を介して車体11に対し回転自在に支持されている。ハンドル13の右部には、ブレーキレバーと、アクセル操作子8が設けられている。前輪14は、フロントフォーク12に回転自在に支持されている。
【0106】
スイングユニット2は、車体11に揺動自在に支持されている。
スイングユニット2は、4ストロークエンジンユニット10と、変速機カバー56と、減速機構55と、駆動輪15とにより構成される。4ストロークエンジンユニット10は、車体11に保持されている。より詳細には、4ストロークエンジンユニット10は、車体11の図示しないフレームに揺動自在に取り付けられている。4ストロークエンジンユニット10は、4ストロークエンジン20と、無段変速機50を備える。駆動輪15は、無段変速機50により回転自在に支持される。詳細には、駆動輪15は、無段変速機50の変速機カバー56によって回転自在に支持される。変速機カバー56は、4ストロークエンジン20に固定され、4ストロークエンジン20と一体となって揺動する。4ストロークエンジンユニット10は、無段変速機50を介して、クランク軸24から駆動輪15へ向けの動力を出力する。無段変速機50は、クランクケース21の外に設けられている。4ストロークエンジンユニット10の動力は、無段変速機50及び減速機構55を介して駆動輪15へ向け出力される。
【0107】
シート16は、サドル型であり車体11の上部に設けられている。鞍乗型車両1の運転者は、シート16に跨がって着座する。
蓄電装置17は、車体11の内部に配置されている。蓄電装置17は、電力を蓄える。
【0108】
(第3の実施例)
図10は、図1に示す4ストロークエンジンユニット10の第3の実施例を示す断面図である。以下、図10を参照して、4ストロークエンジンユニット10の第3の実施例について、詳細に説明する。ここで、本実施例の4ストロークエンジンユニット10は、4ストロークエンジン20と、マニュアル・トランスミッション30と、マニュアル・クラッチ40と、始動発電機60とを備える。本実施例は、4ストロークエンジンユニット10が、ラジエータ80を有さない、即ち空冷の4ストロークエンジンであるという点において、第1の実施例と異なっている。
【0109】
4ストロークエンジンユニット10の4ストロークエンジン20は、クランクケース21と、シリンダ22と、ピストン26と、コネクティングロッド25と、クランク軸24とを備えている。
ピストン26は、シリンダ22内に往復移動自在に設けられている。クランク軸24は、クランクケース21内に回転可能に設けられている。コネクティングロッド25は、ピストン26とクランク軸24を接続している。シリンダ22の上部には、シリンダヘッド23が取り付けられている。シリンダ22には、4ストロークエンジン20の冷却のためのフィンが設けられている。
クランク軸24は、クランクケース21に、一対のベアリング242を介して、回転自在な態様で支持されている。クランク軸24は、始動発電機60と、マニュアル・トランスミッション30とが取り付けられる。
【0110】
4ストロークエンジン20には、スロットル弁SVと、燃料噴射装置FIと、点火プラグ27とが設けられている。スロットル弁SVは、燃焼室に供給される空気の量を調整する。燃料噴射装置FIは、燃料を噴射することによって、スロットル弁SVにより燃焼室に供給される空気に燃料を供給する。点火プラグ27は、燃焼室に供給される空気と燃料の混合ガスを燃焼させる。
【0111】
4ストロークエンジン20は、カム軸28と、吸気バルブ29aと、排気バルブ29bと、カムチェーン281とを備える。カムチェーン281は、クランク軸24により駆動され、カム軸28を回転させる。カム軸28は複数のカムを有する。カム軸28のそれぞれのカムは、回転することにより、直接的又は間接的に吸気バルブ29a及び排気バルブ29bを上下動させる。カムチェーン281は、クランクケース21と、シリンダ22と、シリンダヘッド23とに形成された、カムチェーン収納部282に収納される。
【0112】
マニュアル・クラッチ40は、クラッチハウジング41と、フリクションプレート42と、クラッチプレート43と、クラッチボス44と、プレッシャープレート45と、を備える。クラッチハウジング41には、被駆動ギア411が設けられる。クラッチハウジング41には、クランク軸24に設けられた駆動ギア241と被駆動ギア411とを介して、クランク軸24からの駆動力が伝達される。フリクションプレート42は、クラッチハウジング41の内周に配置される。フリクションプレート42は、クラッチハウジング41と係合し、クラッチハウジング41と共に回転する。クラッチボス44は、マニュアル・トランスミッション30の入力軸32に、マニュアル・トランスミッション30の入力軸32と一体となって回転するように取り付けられる。クラッチボス44の回転軸線と、クラッチハウジング41の回転軸線とは、略一致している。クラッチプレート43は、クラッチボス44の外周に配置される。クラッチプレート43は、クラッチボスと44係合し、クラッチボス44と共に回転する。
【0113】
プレッシャープレート45は、マニュアル・トランスミッション30の入力軸の中心軸を貫くリフタロッド38に接続される。プレッシャープレート45は、運転者の操作により、フリクションプレート42と、クラッチプレート43とを、密着及び離間させる。
【0114】
マニュアル・トランスミッション30は、クランク軸24からの駆動力が伝達される。マニュアル・トランスミッション30は、低粘度オイルOLによって潤滑されるようにクランクケース21内に設けられる。マニュアル・トランスミッション30は、マニュアル・クラッチ40と接続されている。マニュアル・トランスミッション30は、複数の変速段を有する。マニュアル・トランスミッション30は、入力軸32と、出力軸33と、駆動ギア34と、被駆動ギア35と、変速段設定機構36とを有する。入力軸32は、回転可能に配置される。入力軸32には、マニュアル・クラッチ40を介して、4ストロークエンジン20から出力された動力が入力される。マニュアル・トランスミッション30は、入力軸32に対し出力軸33の回転速度を段階的に変速する。
【0115】
出力軸33は、入力軸32と平行な軸線上に回転可能に配置される。複数の駆動ギア34は、入力軸32に設けられ、常に入力軸32と共に回転するように構成されている。また、複数の駆動ギア34のそれぞれは、各変速段に対応する。複数の被駆動ギア35は、出力軸33に設けられ、出力軸33と相対回転可能であるように構成される。複数の被駆動ギア35は、対応する駆動ギア34と噛み合い可能であるように構成されている。常時、複数の被駆動ギア35の少なくとも一つが、駆動ギア34と噛み合う。
【0116】
低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30にも供給される。また、ピストン26に供給された低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30にも流れる。低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30の回転により攪拌されることによりクランクケース21内に拡散する。これにより、低粘度オイルOLは、マニュアル・トランスミッション30全体に供給される。
【0117】
4ストロークエンジン20は、クランクケース21の下部にオイルパン211を備える。オイルパン211は、4ストロークエンジン20の動作を潤滑させる低粘度オイルOLが溜められている。オイルパン211に溜まった低粘度オイルOLは、ピストン26、及びクランク軸24に供給される。低粘度オイルOLの一部は、カムチェーン収納部282に供給される。カムチェーン収納部282に供給される低粘度オイルOLは、カムチェーン281を介して、カム軸28及びバルブ29にも供給される。
【0118】
始動発電機60は、左右方向LRにおいて、クランク軸24の右端部に、クランク軸24と同軸上に取り付けられている。始動発電機60は、ステータ62と、ロータとを備える。始動発電機60は、始動発電機カバー64とクランクケース21とにより形成された始動発電機収納部65に収納される。始動発電機収納部65の空間は、カムチェーン収納部282の空間と連通している。
ロータ61は、ロータ本体部615を有する。ロータ本体部615は、筒状ボス部615aと、円板状の底壁部615bと、筒状のバックヨーク部615cとを有する。底壁部615b及びバックヨーク部615cは筒状ボス部615aを介してクランク軸24に固定されている。
ロータ61は、永久磁石部614を有する。ロータ61は、複数の磁極部616を有する。複数の磁極部616は、例えば、複数の永久磁石部614により、1つの磁極部616が1つの永久磁石に対応するように形成されている。永久磁石部614は、複数の磁極を有するように着磁された1又は複数の永久磁石によって構成することも可能である。但し、磁極部616の個数及び永久磁石の個数は、特に限定されない。複数の磁極部616は、バックヨーク部615cの内周面に設けられている。複数の磁極部616は、始動発電機60の周方向にN極とS極とが交互に配置されるように設けられている。本実施例では、ステータ62と対向するロータ61の磁極数が24個である。磁極部616の数は、歯部623の数よりも多い。
【0119】
ステータ62は、クランクケース21に対し位置が固定されている。詳細には、ステータ62は、始動発電機カバー64に固定されている。ステータ62は、ステータコア621と複数のステータ巻線622とを有する。ステータコア621は、周方向に間隔を空けて設けられた複数の歯部623を有する。複数の歯部623は、ステータコア621から径方向外に向かって一体的に延びている。本実施例においては、合計18個の歯部623が周方向に間隔を空けて設けられている。換言すると、ステータコア621は、周方向に間隔を空けて形成された合計18個のスロット624を有する。ロータ61は、スロットの数の2/3より多い磁極部616を有する。ロータ61は、歯部623の数より多い数の磁極部616を有する。より詳細には、ロータ61は、歯部623の数より多い数の磁極部616を有する。即ち、始動発電機60は、歯部623の数よりも多い数の磁極部616を有している。より詳細には、磁極部616の数は、スロット数の4/3以上である。より詳細には、磁極部616の数は、スロット数の4/3である。
各歯部623の周囲には、ステータ巻線622が巻回している。複数相のステータ巻線622のそれぞれは、U相、V相、W相の何れかに属する。
【0120】
ロータ61の外面には、ロータ61の回転位置を検出させるための複数の被検出部617が備えられている。複数の被検出部617は、磁気作用によって検出される。複数の被検出部617は、周方向に間隔を空けてロータ61の外面に設けられている。被検出部617は、強磁性体で形成されている。
ロータ位置検出装置63は、ロータ61の位置を検出する装置である。ロータ位置検出装置63は、複数の被検出部617と対向する位置に設けられている。ロータ位置検出装置63は、被検出部617を磁気的に検出するピックアップコイル611を備えている。ロータ位置検出装置63は、検出用磁石612及びコア613も備えている。ロータ位置検出装置63は、始動発電機収納部65に配置される。
ロータ位置検出装置63は、クランクケース21内でクランクケース21に対し位置が固定されるようにクランクケース21に支持される。
【0121】
始動発電機60は、4ストロークエンジン20のクランク軸24と接続されている。本実施例では、始動発電機60の回転軸線と、クランク軸24の回転軸線とは、略一致している。始動発電機60が、4ストロークエンジン20の正回転によりクランク軸24を正回転させるように構成されている。
【0122】
低粘度オイルOLは、始動発電機60にも供給される。カムチェーン収納部282に供給された低粘度オイルOLは、始動発電機収納部65にも供給される。
【0123】
図10の4ストロークエンジンユニット10は、鞍乗型車両1に搭載することができる。
図10の4ストロークエンジンユニット10を搭載した鞍乗型車両1は、MT(マニュアル・トランスミッション)型鞍乗型車両である。図10の4ストロークエンジンユニット10を搭載した鞍乗型車両1は、より詳細には、MT型自動二輪車である。
【符号の説明】
【0124】
1 鞍乗型車両
10 4ストロークエンジンユニット
13 ハンドル
15 駆動輪
20 4ストロークエンジン
21 クランクケース
22 シリンダ
24 クランク軸
30 マニュアル・トランスミッション
39 出力部
40 マニュアル・クラッチ
50 無段変速機
51 駆動プーリー
52 被駆動プーリー
53 ベルト
60 始動発電機
61 ロータ
62 ステータ
70 遠心クラッチ
80 ラジエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10