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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】密封用の層状複合体
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20230301BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F16J15/10 G
C09K3/10 M
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020567970
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2019064722
(87)【国際公開番号】W WO2019234128
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】102018208967.1
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514194886
【氏名又は名称】エスジーエル・カーボン・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・キルシュバウム
(72)【発明者】
【氏名】レア・シューマン
(72)【発明者】
【氏名】ライナー・ツェウス
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ラインターラー
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-301946(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19804289(DE,A1)
【文献】特開2008-273199(JP,A)
【文献】特開2006-258212(JP,A)
【文献】特開平10-237203(JP,A)
【文献】特開平10-122373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面基材層と、
前記平面基材層の表面に接着した、二次元的に隣接したポリテトラフルオロエチレンカバー層と、
を含む密封用の層状複合体であって、
前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層が、200g/m未満のポリテトラフルオロエチレンを含有し、
前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層を介して前記平面基材層につなぎ合わ(connect)されているマイクロ粒子コーティングが存在し、前記マイクロ粒子コーティングが、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層の前記平面基材層とは反対側の表面を、少なくとも部分的に覆っていることを特徴とする、密封用の層状複合体。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層の平均厚さが、10~50μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の層状複合体。
【請求項3】
前記マイクロ粒子コーティングが、1~50μmの範囲の平均粒子サイズを有する粒子を含むことを特徴とする、請求項に記載の層状複合体。
【請求項4】
前記マイクロ粒子コーティングが、マイクロ粒子固体潤滑剤コーティングであることを特徴とする、請求項に記載の層状複合体。
【請求項5】
前記平面基材層が、グラファイト箔層であることを特徴とする、請求項1に記載の層状複合体。
【請求項6】
請求項1に記載の層状複合体を含むことを特徴とするシール。
【請求項7】
請求項1に記載の層状複合体を製造するための方法であって、
a)平面基材層の表面を、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層と接触させる工程
b)前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を前記平面基材層に接着させるように強く前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を前記平面基材層の表面に押し付け、かつ/あるいは、前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層が前記平面基材層に接着する程度に温度を上昇させて、前記平面基材層に接着したポリテトラフルオロエチレンカバー層を得る工程、及び
c)マイクロ粒子コーティングを、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層の前記平面基材層とは反対側の表面に適用する工程であって、前記マイクロ粒子コーティングを、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層を介して前記平面基材層につなぎ合わ(connect)せる、工程
を特徴とする、方法。
【請求項8】
工程b)において、前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を0.2~10N/mmの範囲の圧力で押し付け、かつ/あるいは、前記温度を320~440℃の範囲に上昇させることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
マイクロ粒子と、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層との間の結合が、330~400℃で焼結することによって生じることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
200g/m未満のポリテトラフルオロエチレンを含有するマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層及びマイクロ粒子コーティングの、平面基材層のガス透過性を低減させるための使用であって、
前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層が、前記平面基材層の表面に接着した、二次元的に隣接したポリテトラフルオロエチレンカバー層であり、
前記マイクロ粒子コーティングは、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層を介して前記平面基材層につなぎ合わ(connect)されており、かつ、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層の前記平面基材層とは反対側の表面を、少なくとも部分的に覆っている、使用
【請求項11】
200g/m未満のポリテトラフルオロエチレンを含有するマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層及びマイクロ粒子コーティングの、グラファイト箔層又は金属箔層の表面に接着するポリテトラフルオロエチレンカバー層を形成するための使用であって、
前記マイクロ粒子コーティングは、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層を介して前記グラファイト箔層又は前記金属箔層につなぎ合わ(connect)されており、かつ、前記ポリテトラフルオロエチレンカバー層の前記グラファイト箔層又は前記金属箔層とは反対側の表面を、少なくとも部分的に覆っている、使用
【請求項12】
200g/m未満のポリテトラフルオロエチレンを含有するマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の、マイクロ粒子コーティング用、例えばマイクロ粒子固体潤滑剤コーティング用の担体としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、化学産業、石油化学産業、発電所及び自動車産業、例えば、産業用パイプライン、特に化学、石油、ガスの用途の産業用パイプライン、及び熱エネルギーシステム、例えば発電所若しくは自動車の排気ガス処理システムなどの熱エネルギーシステム、においてフランジ類を密封(sealing)するのに適した、シール用、好ましくはガスケット用の層状複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子の形態で存在するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をグラファイトと組み合わせて使用することは知られている。
【0003】
例えば、露国実用新案第41 430(U1)号には、熱膨張グラファイトの層を含むシリンダーヘッドシールが記載されており、PTFEコーティングが少なくとも1つの表面に塗布されている。このコーティングは、懸濁液から、例えばスプレーで適用され得る。最適な厚さは5~20マイクロメートルである必要がある。したがって、この文献で提案されているPTFEコーティングは、PTFE粒子の層であり、そのPTFE粒子は、互いに隣り合って配置されており、懸濁液の状態で配置することができるほど小さい。
【0004】
1つ以上のグラファイト箔で構成されたガスケットであって、そのうち少なくとも1つの箔の表面が、粒子の形で存在し、接着及び滑り摩擦を低減する物質で部分的にコーティングされているガスケットは、Sigri Elektrographit GmbHによるGerman Offenlegungsschrift 24 41602によって知られている。二硫化モリブデン、窒化ホウ素、フッ化グラファイトなどの層状格子構造を有する化合物、PTFE及びポリイミドなどの耐熱性付着防止ポリマー、並びに金属石鹸及びフタロシアニン、又はこれらの物質の混合物が、適切なコーティング物質として記載されている。前記潤滑剤からなる物質の厚さは、好ましくは5~200μmであるべきである。摩擦低減物質が分散液として塗布されることも記載されている。好ましくは、この摩擦低減物質は箔に巻き入れられる。その結果、例えば、箔表面に固定されて島状の複合体を形成するPTFE粒子が得られる。
【0005】
平面グラファイト箔層と、その平面グラファイト箔層に接着する、二次元的に隣接したプラスチック含有層とを含む複合材料も知られている。
【0006】
例えば、独国特許第691 17 992(T2)号には、柔軟なグラファイトラミネートであって、密封要素として適切であることが意図され、かつ、ポリマー、例えばPTFEでコーティングされた物質が、2つの長さの柔軟なグラファイト材料の間に挿入及び結合された、柔軟なグラファイトラミネートが記載されている。この文献における柔軟なグラファイトラミネートでは、PTFEは、グラファイト層間に内部的に配置されている。
【0007】
独国特許出願公開第10 2012 202748(A1)号には、単位面積当たりの質量が特に軽いグラファイト箔の製造方法が記載されている。この場合、支持体上のグラファイト塩粒子は、膨張工程で膨張して、グラファイト膨張物を形成する。グラファイト膨張物は支持体上に残り、支持体上で圧縮されて、圧縮工程でグラファイト箔を形成する。このグラファイト箔は、少なくとも1つのプラスチック膜と一緒にラミネートを形成し得ると記載されている。プラスチック膜は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)など、塩化ポリビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ポリイミド(PI)、フルオロプラスチック、例えばPVDF及びPTFEなど、ポリカーボネート、並びにバイオポリマー、例えばポリラクチド(PLA)、酢酸セルロース(CA)、及びデンプンブレンドなどを含む群からの少なくとも1つのプラスチック材料から形成することができる。グラファイト箔及びプラスチック膜は、接着剤を使用することなく相互に接着され得ることも記載されている。プラスチック膜には孔を開けることができ、0.25~2mmの孔径が記載されている。密封技術への用途も提案されている。
【0008】
韓国特許第0158051(B1)号は、膨張したグラファイトを含有するシールに関する。この文献は、PTFEなどの密封材料を用いる含浸を提案しており、特にPTFE粒子に言及している。PTFE膜についても言及されているが、厚さは特定されていない。
【0009】
PTFEの箔及び膜は、平面切削工具を使用してPTFEブロックの表面から層を除去することによって、PTFEブロックから形成される。この層は、特定の最小の厚さを忠実に守らなければならないことが見出されており、そうでなければ箔の製造が不可能となる。したがって、PTFEプラスチック膜を使用すると、必然的に単位面積当たりのPTFEの質量がある程度高くなる。
【0010】
独国実用新案第G92 08 943.7(U1)号には、グランドパッキンを形成するために上下に配置された複数のグラファイトシールリングを有するグランドシールが記載されている。そのグラファイトシールリングの少なくとも1つは、グラファイトコアとPTFE製のジャケットを有する。ジャケットは、PTFE箔又はPTFE板から形作ることができ、あるいは、拡散密封的な方法でグラファイトコア上に焼結させることもできる。PTFEジャケットは、閉じたジャケット又は溝のある(furrowed)ジャケットとして構成され得る。PTFEジャケットの厚さについては言及されていない。図面には、かなり厚いPTFEジャケットが示されている。閉じたジャケットと溝のあるジャケットの両方の場合において、グラファイトコアの2つの周縁はPTFEで覆われている。
【0011】
実用新案DE21 2008 000 051(U1)は、フランジ接続を密封するためのシールに関する。この文献には、膨張性グラファイトでできており、多孔質ポリテトラフルオロエチレンのコーティング層でコーティングされたコアリングが記載されている。コーティング層は、コアリングの表面にコーティングストリップをらせん状に巻くことによって形成される。この実用新案は、コーティングストリップの巻線が重なる必要があることも教示している。したがって、コーティングストリップは、コアリングの2つの表面だけでなく、コアリングの内縁及び外縁も完全に覆う。コーティングストリップは、コアリングの直径に応じて、0.045~0.25mmの厚さを有し得る。コーティングストリップの多孔度は、例えば、30~40%又は50~60%であり得ることが記載されている。実用新案DE21 2008 000 051(U1)に記載されたシールは、巻線中に複数のオーバーラップを持つ領域と、1つのオーバーラップしかない領域とが必ず形成されるため、コーティングの厚さが必ず一貫しないという欠点を有している。加えて、巻線にはかなりの量の作業が必要であり、自動化が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】露国実用新案第41 430(U1)号
【文献】独国特許第691 17 992(T2)号
【文献】独国特許出願公開第10 2012 202748(A1)号
【文献】韓国特許第0158051(B1)号
【文献】独国実用新案第G9208943.7(U1)号
【文献】独国実用新案第21 2008 000 051(U1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明によって対処される問題は、特に単純で環境に優しい方法で製造することができ、高圧及び高温で長期間使用した後でもシール材料と接触する表面から容易に取り外すことができる、普遍的に適用可能なシール材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この問題は、シール用、特にガスケット用の層状複合体であって、平面基材層、例えばグラファイト箔層と、この平面基材層の表面に接着(adhere)する二次元的に隣接したポリテトラフルオロエチレンカバー層とを含み、このポリテトラフルオロエチレンカバー層が、200g/m未満のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、層状複合体によって解決される。したがって、このカバー層は、カバー層の1平方メートル当たり200g未満のPTFE、一般に最大で190g/mまでのPTFE、特に最大で175g/mまでのPTFE、好ましくは最大で160g/mまでのPTFE、より好ましくは最大で150g/mまでのPTFE、特に好ましくは最大で130g/mまでのPTFE、特に好ましくは最大で110g/mまでのPTFE、非常に好ましくは最大で100g/mまでのPTFE、例えば最大で80g/mまでのPTFEを含む。
【0015】
ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、二次元的に隣接している。二次元的に隣接する層は、例えば、二次元的に連続する(例えば、気体密封様式で連続する)ことができる層、多孔性であることができる層、又はメッシュのような構造を有することができる層であると理解される。しかし、互いに隣り合って配置された粒子からなる層は、二次元的に隣接する層ではない。
【0016】
「二次元的に隣接する」という特徴は、ポリテトラフルオロエチレンに関する。二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層は、例えば、他の物質、例えば他のポリマーに埋め込まれたポリテトラフルオロエチレン粒子の層でも、基材層、例えばグラファイト箔層の表面に押し込まれたポリテトラフルオロエチレン粒子の層でもない。
【0017】
驚くべきことに、本発明による層状複合体は、特に簡単な方法、すなわち、以下に記載される本発明による方法に従う、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を使用する方法によって得ることができることが見出された。このマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層は、例えば、米国特許第3,962,153号に記載されており、本発明の方法に関連して以下でより詳細に論じる。例として、他の多くの異なる技術分野から知られている延伸ポリテトラフルオロエチレン層、例えば衣料産業から知られているORE-TEX(登録商標)膜を使用することができる。しかし、それらの業界では、これらの材料はシールを形成するためではなく、むしろ、水蒸気を透過し、ターゲットを絞った方法で体から水蒸気を逃がすことを促進する衣類の層を形成するために、言い換えると事実上「非密封体(non-seals)」のために使用される。したがって、本願で提案する使用は、以前に知られているマイクロポーラスPTFE層の主要な使用分野とは対照的なものである。
【0018】
本発明による層状複合体及び本発明による方法は、カバー層1平方メートル当たり200gPTFE未満という非常に低い単位面積当たりの質量を有する、非常に薄いポリテトラフルオロエチレンカバー層のみが形成されるため、環境に優しい。PTFE含有コーティングは、冒頭で述べた先行技術で提案されている。しかし、これらはPTFE粒子の懸濁液又は分散液によって形成されている。結果として、それらは二次元的に隣接しておらず、むしろ互いに隣り合って配置されたPTFE粒子から実質的に形成されている。本発明に従って提案された、二次元的に隣接するマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレンカバー層の使用とは異なり、PTFE粒子を含む懸濁液及び分散液は、特に噴霧中に、環境に損傷を与えるPFTEの放出のリスクがはるかに高い。PTFE粒子は相互接続されていないため、他のシール材料から実質的に分離することができず、廃棄がより困難になる。しかし、二次元的に隣接するPTFEは、少なくとも大部分が、平面基材層から一体として除去することができる。従来技術で言及されたPTFE箔と比較して、単位面積当たりの質量が軽いという利点がある。言い換えれば、全体的として必要とされるPTFEが少なくて済み、環境への適合性が高まる。
【0019】
本発明による層状複合体は、例えば特に高い圧力及び温度までの非常に広い範囲に亘って、普遍的に適用可能である。単位面積当たりの質量が比較的大きいPTFE層を、フランジのガスケットに特に高い圧力と温度で使用すると、かなりの量のPTFEがシールから「クリープアウト」するため、フランジの接触圧力が耐用年数にわたって大幅に低下する。本発明による層状複合体を含むガスケットが使用される場合、フランジの接触圧力は長期間高いままであることが見出された。第一に、特に薄いポリテトラフルオロエチレンカバー層が、PTFEがクリープする傾向を全体的に低減するようである。第二に、本発明によれば、単位面積当たりの質量が小さく、これは非常に少量のPTFEしか存在しないことを意味するため、ガスケットの厚さは、PTFEがクリープするときに最小限にしか低下しない。したがって、シールから「クリープアウト」することができるのは、たとえあったとしてもごく少量のPTFEだけである。PTFEが「クリープアウト」する際、シールの厚さはごくわずかしか低下せず、それに応じて接触圧力は高いまま維持される。その結果、所望の接触圧力を維持するためにフランジのネジを締め直す必要がないか、必要とされる締め直しの頻度が少なくなるため、必要とされるメンテナンスが削減される。
【0020】
本発明によるガスケットは、300℃及び30MPAで24時間後でも、手動で、及び目に見える残渣なしに、フランジから容易に取り外し可能であることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本層状複合体は、平面基材層を含む。この平面基材層は、2つの表面を有し、それらは周辺端部領域で互いに融合する。周辺端部領域は、基材層の輪郭を規定する。
【0022】
ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、基材層の表面に接着する。ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、基材層の輪郭の外側に位置する領域に延在することができる。典型的には、ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、この輪郭を超えて延在しないか、又は周辺端部領域の1つ又は複数の部分でのみこの輪郭を超えて延在する。ポリテトラフルオロエチレンカバー層が輪郭を超えて延びる部分の長さは、合計で、周辺端部領域の長さの、最大で99.9%まで、一般に最大で90%まで、特に最大で80%まで、好ましくは最大で70%まで、特に好ましくは最大で60%まで、特に好ましくは最大で50%まで、例えば最大35%までである。
【0023】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、基材層の周辺端部領域部分の周りにも延びることが可能である。その場合、端部領域を覆うポリテトラフルオロエチレンカバー層領域も、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の総表面積に寄与する。しかし、本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の総表面積の80%以上、一般に85%以上、好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上が、基材層の輪郭内部に配置されることが好ましい。このことは、必要とされるPTFEの総量をさらに減らすことができ、これにより、本発明による層状複合体の環境適合性がさらに改善されるため、好ましい。
【0024】
本発明による方法によってマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層をその表面に適用することができる任意の平面材料を、平面基材層として使用することができる。当業者は、基材層の適合性を容易に試験することができる。平面基材層は、例えば、グラファイト箔層又は金属箔層であり得、金属は、好ましくは、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、鋼及び銅から選択され、例えばステンレス鋼及びニッケル合金から選択される。
【0025】
好ましくは、平面基材層は、グラファイト箔層である。
【0026】
グラファイト(黒鉛)箔層は、例えば、膨張グラファイトから製造されたグラファイト箔層である。知られているように、グラファイト箔は、グラファイトを特定の酸で処理し、それによって、グラフェン層間に組み込まれた酸陰イオンを有するグラファイト塩を形成させることによって製造することができる。次に、グラファイト塩を、例えば、高温、例えば800℃にさらすことによって膨張させる。次に、膨張中に得られるグラファイト膨張物を圧縮して、グラファイト箔を形成させる。欧州特許第1 120 378(B1)号は、グラファイト箔の製造方法を説明している。その導入部で言及されている独国特許出願公開第10 2012 202 748(A1)号にも、グラファイト箔の製造方法についての言及がある。
【0027】
本層状複合体において、グラファイト箔層の密度は、一般に、0.7~1.3g/cm、好ましくは1.0~1.2g/cm、特に好ましくは1.0~1.1g/cmである。
【0028】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、層状複合体の外側に配置されている。これが「カバー」という用語の根拠である。したがって、平面基材層とは反対側に面するポリテトラフルオロエチレンカバー層の側面上には、追加の二次元的に隣接する材料層は適用されない。本発明の特定の実施態様による、ポリテトラフルオロエチレンカバー層によって基材層に結合(connect)されたマイクロ粒子コーティングは、追加の二次元的に隣接する材料層ではない。
【0029】
ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、基材層の表面に接着する。これが意味することは、ポリテトラフルオロエチレンカバー層が基材層の表面に非常に堅固に結合されているので、層状複合体は、層状複合体が分離されることなしに、ウォータージェット切断又はパンチングによって切断され得る。一般に、2つの層間の結合の引張強度は、1N/mmより大きく、好ましくは2N/mmより大きい。驚くべきことに、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層は、プレスするだけで、かつ/あるいは温度を高めることによって、平面基材層、特にグラファイト箔層に、非常に堅固に適用できることが見出された。おそらく、基材層の微細な不規則性が、プレス中及び/又は温度が上昇したときにポリテトラフルオロエチレン層のミクロ細孔と噛み合い、これにより、技術的要請をはるかに超える基材層上への予想外に高い接着強度が保証されているようである。
【0030】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、平面基材層の表面に接着する。一般に、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の2つの表面のうちの1つは、この場合、基材層の表面と(ほぼ)完全に接触している。例えば、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の2つの表面のうちの1つの少なくとも90%が基材層の表面と接触している。
【0031】
特定の層状複合体、例えば波型リングシール(corrugated ring seal)では、基材層は波形である。波形とは、基材層が、波の極値、つまり最大値及び最小値を有していることを意味する。ポリテトラフルオロエチレンカバー層の2つの表面のうちの1つは、基材層の表面のうちの1つとほぼ完全に接触することができる。その場合、前記表面は、最大の領域及び最小の領域、並びに最小と最大との間に位置する領域において、基材層の表面に隣接する。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の2つの表面のうちの1つの一部が、波形基材層の2つの表面のうちの1つの一部と接触している。例として、基材層とポリテトラフルオロエチレンカバー層との間の接触は、最大の領域にのみ存在する。
【0032】
ポリテトラフルオロエチレンは、ほとんどが、少なくとも85質量%、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは少なくとも95質量%、例えば少なくとも98質量%がCF-CFサブユニットからなる、高度にフッ素化されたポリエチレンである。ポリテトラフルオロエチレンにおいて、H原子に対するF原子のモル比は、好ましくは10を超え、特に20を超え、好ましくは30を超える。
【0033】
ポリテトラフルオロエチレンカバー層の平均厚さは、好ましくは10~50μmの範囲、特に10~40μmの範囲、好ましくは10~30μmの範囲である。一般に、カバー層は、1~190g/mのPTFE、特に2.5~175g/mのPTFE、好ましくは4~160g/mのPTFE、より好ましくは5~150g/mのPTFE、特に好ましくは7~130g/mのPTFE、特に好ましくは9~110g/mのPTFE、非常に好ましくは10~100g/mのPTFE、例えば12~80g/mのPTFEを含む。
【0034】
本発明による層状複合体は、好ましくは0.5~4.0mmの厚さ、特に好ましくは1.5~3.0mmの厚さである。
【0035】
本発明による層状複合体の1つの実施態様では、ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、平面基材層とは反対側を向いている表面上にコーティングがされていない。その場合、高圧高温で比較的長時間使用した後でも、ポリテトラフルオロエチレンはフランジに比較的強く接着し、ガスケットを取り外す時、ポリテトラフルオロエチレン及び基材層からなる複合体が切り離されることが観察された。しかし、ガスケットの残りが取り外されるとすぐに、ポリテトラフルオロエチレンは、工具を使用せずに、実質的に一体として、問題なくフランジから完全に取り外すことができる。
【0036】
本発明による層状複合体の別の実施態様では、ポリテトラフルオロエチレンカバー層は、平面基材層とは反対側を向いた表面上にコーティングがされている。特にフランジのシールに関連して、先行技術に記載されている任意の付着防止コーティングが考えられる。
【0037】
好ましくは、本発明による層状複合体は、ポリテトラフルオロエチレンカバー層によって基材層に結合されたマイクロ粒子コーティングを有する。
【0038】
コーティングは、基材層とは反対側に面するポリテトラフルオロエチレンカバー層の表面を、完全に又は部分的に、例えば5~99%、特に10~98.5%、好ましくは20~98%、特に好ましくは25~97%、とりわけ好ましくは30~95%覆っていることができる。
【0039】
コーティングは、粒子、例えば、1~50μmの範囲、特に1~25μmの範囲、例えば1~10μmの範囲の平均粒子サイズ(d50)を有するグラファイト粒子を含むことができる。平均粒子サイズ(d50)は、レーザー粒度分布測定器を使用してISO 13320-2009に準拠して決定することができる、粒子サイズ分布の累積分布曲線Q(X)の50%の値を表す。
【0040】
マイクロ粒子コーティングを含む本発明による実施態様は、フランジへのポリテトラフルオロエチレンカバー層の接着をさらに低減するという利点を有する。その結果、マイクロ粒子コーティングを含むガスケットは、高圧及び高温で比較的長期間使用した後でも、フランジから一体として確実に取り外すことができる。その場合、後でフランジから剥離したPTFEを取り外す必要はない。このことは、シールの交換後でも、プロセスの安全な操作が特に確実に保証されるという追加の重要な利点を提供する。これは、特に近づくことが困難なフランジでは、古いシールからの広範囲又は断片的な接着性PTFE残渣が見落とされやすいためである。PTFEの残渣は、新しく挿入されたガスケットの下で一貫性のない接触圧力を引き起こし、最悪の場合、高温の流体の制御不能な漏れを引き起こす可能性がある。したがって、最終的には、マイクロ粒子コーティングは、シールを交換した後、高圧及び高温でも、マイクロ粒子コーティングなしの層状複合体を使用する場合よりもさらに確実に、プロセスの特に信頼性の高い作動を保証するという意義を有する。
【0041】
原則として、マイクロ粒子コーティングは、非常に広範囲の粒子、例えば、シリカ粉、ケイ酸塩、例えばシート状シリケート、雲母、顔料、酸化鉄、タルク、金属酸化物粒子、例えばAl、SiO及び/又はTiOを含み得る。
【0042】
しかし、好ましくは、マイクロ粒子コーティングは、マイクロ粒子固体潤滑剤コーティングである。
【0043】
固体潤滑剤コーティングは、例えば、グラファイト粒子、二硫化モリブデン粒子、及び/又は軟質金属粒子、例えばアルミニウム、銅、又は鉛粒子などを含むことができる。特に好ましい固体潤滑剤コーティングは、グラファイト粒子及び/又は二硫化モリブデン粒子を含む。特に好ましい固体潤滑剤コーティングは、グラファイト粒子を含む。
【0044】
固体潤滑剤コーティングは、それらが適用されたときに、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の多孔性又は残留多孔性が一般に増加しないという点で有利である。固体潤滑剤粒子は柔らかく、したがって、その適用は、ポリテトラフルオロエチレンカバー層を著しく損なうことはない。したがって、一般に、固体潤滑剤コーティングの適用は、望ましくない量の流体透過性をもたらさない。
【0045】
層状複合体は、好ましくは液体密封性である、すなわち、気体及び液体に対して実質的に不浸透性である。これは、例えばDIN EN13555に準拠して決定することができる。
【0046】
好ましくは、本発明による層状複合体は、100℃~400℃の範囲の温度に加熱され、その後室温に冷却されたときに、接着性残渣を形成する物質を含まないか、又は液体密封層間にのみそれらを含む。その結果、接着性残渣がフランジに接触しないため、層状複合体から製造されたガスケットをいつでも問題なくフランジから分離することができる。
【0047】
請求項1に記載の層とは別に、層状複合体は、さらなる層、例えば金属層、好ましくは1つ以上の鋼シート層又はステンレス鋼シート層、及び/又はさらなる基材層、例えばさらなるグラファイト箔層を有することができる。金属シート層は、例えば、プレーンシートメタル層又はラフシートメタル層であり得る。
【0048】
本発明による層状複合体は、好ましくは、第2の二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層を含む。その場合、1つのポリテトラフルオロエチレンカバー層が前面の層状複合体を覆い、2番目のポリテトラフルオロエチレンカバー層が背面の層状複合体を覆う。
【0049】
二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層に関する上述の説明は、この場合、第2の二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層にも当てはまる。
【0050】
パイプラインのパイプ部分間のフランジ接続用のガスケットが本層状複合体から作られている場合、第2の二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層が特に望ましい。パイプ部分のフランジ接続では、ガスケットの両側が、パイプラインを介して伝導される流体と、熱及び圧力とに、同じ程度にさらされるため、2つのパイプ部分のフランジからシールが分離する問題も同様に頻繁に発生する。300℃及び30MPaで24時間経過後でも、ポリテトラフルオロエチレンカバー層で両面を覆われた本発明による層状複合体は、2つのフランジから問題なく分離することができる。
【0051】
第2の二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層も、マイクロ粒子コーティングを有することができる。このコーティングを、第2のマイクロ粒子コーティングと呼ぶ。マイクロ粒子コーティングに関する上述した説明は、この場合、第2のマイクロ粒子コーティングにも当てはまる。
【0052】
2つのポリテトラフルオロエチレンカバー層は、例えば、それぞれ、平面基材層の2つの表面のうちの1つに接着することができる。例として、2つのポリテトラフルオロエチレンカバー層は、グラファイト箔層の2つの表面に接着する。この実施態様では、層状複合体は、1つのグラファイト箔層と、2つの二次元的に隣接するポリテトラフルオロエチレンカバー層とを含み、これらの2つのカバー層は、グラファイト箔層の2つの表面に接着する。
【0053】
本発明による特に好ましい層状複合体において、1つのポリテトラフルオロエチレンカバー層は、1つの平面基材層、例えばグラファイト箔層の表面に接着し、第2のポリテトラフルオロエチレンカバー層は、第2の平面基材層、例えば2番目のグラファイト箔層の表面に接着する。2つの平面基材層は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンカバー層とは反対側を向いているその平面基材層の表面を、薄い、例えば厚さ25~250μmの平面金属層、特にステンレス鋼シート層、例えばプレーンシートメタル層又はラフシートメタル層の2つの表面上に接着させることができる。
【0054】
したがって、本発明による層状複合体は、以下の層構造を有する。
- ポリテトラフルオロエチレンカバー層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- 平面金属層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- ポリテトラフルオロエチレンカバー層。
【0055】
あるいは、1つの基材層は、ポリテトラフルオロエチレンカバー層とは反対側に面するその基材層表面を、薄い、例えば厚さ25~250μmの金属層、特にステンレス鋼シート層、例えばプレーンシートメタル層上に接着させ、第2の基材層は、第2のポリテトラフルオロエチレンカバー層とは反対側に面するその第2の基材層の表面をさらに、薄い、例えば厚さ25~250μmの金属層、特にステンレス鋼シート層、例えばプレーンシートメタル層上に接着させる。その場合、2つの金属層は、ポリテトラフルオロエチレンカバー層とは反対側を向いている2つのその金属層の表面を、第3の平面基材層の対向する表面上に接着させる。
【0056】
したがって、本発明による層状複合体は、以下の層構造を有する。
- ポリテトラフルオロエチレンカバー層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- 平面金属層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- 平面金属層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- ポリテトラフルオロエチレンカバー層。
【0057】
本発明による層状複合体は、さらなる平面層を含むことができる。
【0058】
本発明によるさらなる層状複合体は、以下の層構造を有する:
- ポリテトラフルオロエチレンカバー層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- 平面金属層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- 平面金属層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- 平面金属層
- 平面基材層、例えばグラファイト箔層
- ポリテトラフルオロエチレンカバー層。
【0059】
出願人は、商標Sigraflex(登録商標)の下でグラファイト箔層を含む広範囲の層状複合体を供給しており、例えばステンレス鋼箔及びグラファイト箔の複数の層を有する多層状複合体も供給している。言うまでもなく、本発明による層状複合体は、商標Sigraflex(登録商標)の下ですでに利用可能なすべての層状複合体であって、本発明によるポリテトラフルオロエチレンカバー層がそれらの層状複合体のグラファイト箔表面又は金属表面の少なくとも1つの上に適用されたものを含む。
【0060】
本発明は、本発明による層状複合体を含むシール、特にガスケットに関する。しかし、シールは、本発明による層状複合体を含む波形リングシール、カムプロファイルシール、又はらせん巻きシールであってもよい。
【0061】
本発明による層状複合体が特定の曲げ強度を有する場合、特にガスケット用に特に有利である。次いで、この層状複合体が、複合材料を大小のガスケットに普遍的に機械加工することができ、シール材が大幅に曲げられたり折られたりすることなく、頭上でも問題なくフランジ間に配置することができることがわかった。
【0062】
本発明による特に好ましい層状複合体は、少なくとも4.0MPa、特に少なくとも5.0MPa、例えば少なくとも5.5MPaの曲げ強度(FS 3P)を有する。曲げ強度は、以下に説明するように、ISO178に準拠して決定される。本発明による特に好ましい層状複合体は、少なくとも6.0MPA、例えば6.5MPaを超える曲げ強度を有する。その場合、層状複合体は、ガスケットに理想的に適しており、頭上でもフランジ間に特に効果的に配置することができる。他方、それらは、もはやこの目的に必要なシーリングヤーンに加工することができないか、又は少なくとも層状複合体をストリップに加工し、ストリップを撚り、次に撚ったストリップをシーリングヤーンに編むことがもはやできないため、グランドシールの製造には不適切である。
【0063】
本発明によるガスケットは、本発明による複合体から、例えばパンチング又はウォータージェット切断によって、切り出すことができる。
【0064】
本発明は、
a)平面基材層、例えばグラファイト箔層の表面を、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層と接触させ、
b)前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を前記平面基材層に接着させるように強く前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を前記平面基材層の表面に押し付け、かつ/あるいは、前記マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層が前記平面基材層に接着する程度に温度を上昇させて、平面基材層に接着したポリテトラフルオロエチレンカバー層を得る、
本発明による層状複合体を製造するための方法にも関する。
【0065】
マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層は、従来の多孔性でガス透過性のポリテトラフルオロエチレン膜であり、ポリテトラフルオロエチレンを延伸することによって得られ、身体から水蒸気を逃がすための衣類材料に使用される。この種の多孔質膜の製造は、例えば、米国特許第3,962,153号に記載されている。マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の平均孔径は、広い範囲に亘ることができ、好ましくは0.1μmから500μmの範囲で変動可能である。マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の平均孔径は、例えば、0.1μmから10μmの範囲であり得る。
【0066】
こうして得られたポリテトラフルオロエチレンカバー層は、依然としてかなりの残留多孔性を有することが見出された。この残留多孔性は、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の多孔性よりも低い。驚くべきことに、本発明による層状複合体から作製されたガスケットは、依然として非常に良好なシール(密封)性能を示す。本発明者らは、基材層の凸状領域がポリテトラフルオロエチレンカバー層の残留細孔に突出し、これにより、最終的に予想外に高いシール性能が決定的にもたらされると推測している。
【0067】
工程b)の圧力は、広範囲に亘って変化させることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン層を、0.2~10N/mmの範囲の圧力で、好ましくは0.4~5N/mmの範囲の圧力で押し付ける。これにより、基材層、例えばフラファイト箔層が、所望の程度まで、すなわち所望の密度にまで圧縮されるように圧力を調整することができるという利点が得られる。
【0068】
工程b)の温度も広範囲に亘って変化させることができる。例えば、温度を320~440℃の範囲にまで高める。当業者は、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層と接触している基材層を処理するために利用できる時間がほとんどない場合、最高で440℃までの高い温度を選択するであろう。これは、例えば、連続法の工程b)において、非常に短い加熱ゾーンしか利用できず、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層と接触している基材層を非常に迅速に加熱ゾーンに導く必要がある場合に当てはまる。当業者は、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層と接触している基材層を処理するために利用可能な時間が多くある場合、320℃のいずれか又はそれより少し高い温度を選択するであろう。これは、例えば、連続法の工程b)において、非常に長い加熱ゾーンが利用可能である場合、及び/又はマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層と接触する基材層を加熱ゾーンを通して非常にゆっくりと誘導する必要がある場合である。
【0069】
さらなる方法工程c)において、マイクロ粒子コーティングを、基材層とは反対側を向いているポリテトラフルオロエチレンカバー層の表面に適用することができ、前記マイクロ粒子コーティングは、ポリテトラフルオロエチレンカバー層によって基材層に結合されている。好ましくは、微粒子とポリテトラフルオロエチレンカバー層との間の結合は、330~400℃で焼結することによって生じる。好ましくは、焼結は、350~410℃、例えば365~395℃の範囲の温度で実施される。ポリテトラフルオロエチレンカバー層に残っている細孔は、マイクロ粒子の存在下での焼結中に部分的又は完全に閉じられる。
【0070】
本発明は、平面基材層のガス透過性を低減するためのマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレンの使用にも関する。
【0071】
本発明は、グラファイト箔層又は金属箔層の表面に接着したポリテトラフルオロエチレンカバー層を形成するための、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の使用にも関する。
【0072】
本発明は、マイクロ粒子コーティング、例えばマイクロ粒子固体潤滑剤コーティングのための担体としてのマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の使用にも関する。マイクロ粒子固体潤滑剤コーティングについては、上で詳細に説明した。
【0073】
本発明に関連して、ポリテトラフルオロエチレンカバー層について上に述べた好ましい態様は、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の単位面積当たりの質量に当てはまる。これは、工程a)及びb)に亘って、PTFEの表面積はほとんど変化しないため、マイクロポーラス層の単位面積当たりの初期質量がカバー層の単位面積当たりの質量に対応するためである。ポリテトラフルオロエチレン層は、ポリテトラフルオロエチレン層1平方メートル当たり200g未満のPTFEを含む。一般に、ポリテトラフルオロエチレン層は、1~190g/mのPTFE、特に2.5~175g/mのPTFE、好ましくは4~160g/mのPTFE、より好ましくは5~150g/mのPTFE、特に好ましくは7~130g/mのPTFE、特に好ましくは9~110g/mのPTFE、非常に好ましくは10~100g/mのPTFE、例えば12~80g/mのPTFEを含む。
【0074】
全く異なる厚さのマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層を使用することができる。例えば、単位面積当たりの所与の質量では、非常に多孔性のポリテトラフルオロエチレン層は、より多孔性の低いポリテトラフルオロエチレン層よりも厚い。典型的には、マイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の厚さは、25~400μmの範囲である。
【0075】
平面基材層の表面の粗さは、好ましくはRz 1.5μm~Rz 30μm、例えばRz 3μm~Rz 15μmである。基材層の表面の凸状領域がマイクロポーラスポリテトラフルオロエチレン層の細孔と噛み合い、圧力の適用及び/又は工程b)における温度の上昇がこの噛み合いを強め、それによってポリテトラフルオロエチレンの表面の層への接着が高められることが推測される。当業者は、基材層、例えばフラファイト箔層の粗さを、テクスチャードローラーでグラファイト箔を処理することによって調整することができる。
【0076】
平面基材層は、好ましくは圧縮可能である。平面基材層の圧縮率は、好ましくは5~80%、例えば20~60%である。工程b)で圧力を加えたときに基材層が降伏すると、噛み合いが強まるようであり、このため、特に圧縮可能な平面基材層では、工程b)で圧力を加えることにより、ポリテトラフルオロエチレンカバー層の平面基材層への強い接着がもたらされる。
【0077】
本発明のさらなる利点及び好ましい態様は、以下の例示的な実施態様から明らかになるであろう。
【実施例
【0078】
グラファイト箔を、カレンダーを使用して、室温でePTFE膜(厚さ約100μm)でコーティングした。使用したePTFE膜は、ポリテトラフルオロエチレンを延伸することで得られる従来の多孔質、ガス透過性、白色のポリテトラフルオロエチレン膜であった。次に、380℃での温度処理を行い、その間に、無色のガラス状のポリテトラフルオロエチレンカバー層(厚さ:約20μm)がグラファイト箔上に形成され、グラファイト箔に堅固に接着した。
【0079】
1つの実験では、カレンダーから得られた層状複合体を、グラファイト粉末(粒子サイズ2~10μm)を用いてコーティングした後、温度処理した。コーティングの過程で、グラファイト粒子は、ePTFE膜の開いた細孔に部分的に浸透した。その後の温度処理では、グラファイト粒子が周囲のポリテトラフルオロエチレンに融合し、特に堅固に固定化された。このようにして、付着防止コーティングを製造した。
【0080】
曲げ強度:
曲げ強度(FS 3p)を、3点曲げ試験を使用して決定した。この試験では、試験試料を、ISO 178に従って2つの支持体に配置し、試験マンドレルを用いて中央にロードした。
【0081】
曲げ強度についてテストした層及び層状複合体:
L1: グラファイト箔(厚さ1.3 mm、密度0.7g/cm
L2: グラファイト箔L1(片面をePTFEカバー層でコーティングしたもの)
L3: ePTFEカバー層-グラファイト箔L1-粗い金属シート(厚さ80μm)-グラファイト箔L1-ePTFEカバー層(層状複合体における2つの外側のePTFEカバー層を微粒子グラファイト粉末でさらに表面コーティングしたもの)
L4: グラファイト箔L1-粗い金属シート(厚さ100μm)-グラファイト箔L1。
【0082】
各層又は層状複合体の4つ又は5つの材料試料の曲げ強度を試験した。結果を以下の表に示す。
【表1】