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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】心血管弁処置のための円形リトラクタ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
A61B17/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020568994
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 US2019036447
(87)【国際公開番号】W WO2019241177
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】62/683,737
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500204326
【氏名又は名称】テルモ カーディオバスキュラー システムズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100137039
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 靖子
(72)【発明者】
【氏名】坪内 猛
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-140456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0018228(US,A1)
【文献】特表2013-526335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
A61B 1/32
A61B 17/00
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低侵襲心臓手術において組織を退避させるための外科用リトラクタであって、
拡張可能なつる巻きばねの複数の巻きから成る円環状リングと、
前記円環状リングの前記巻き内に配置される端部ループを有する制御ワイヤと、
フレームであって、i)前記制御ワイヤを案内しかつ前記円環状リングの縁部において前記端部ループの端部を保持するように、遠位端部に位置するY字アーム、および、ii)前記制御ワイヤの近位端部を摺動自在に受け入れる中空のシャフトを有する、フレームと、
前記制御ワイヤの前記近位端部に固定され、かつ、前記制御ワイヤを摺動させて前記端部ループを拡張および収縮させ、それにより前記円環状リングを拡張状態と収縮状態との間で調節するために、前記中空のシャフトに対して移動可能である、把持部と、
を備える、外科用リトラクタ。
【請求項2】
前記中空のシャフトが、可鍛性を有する、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項3】
1対のひもをさらに備え、各ひもが、それぞれのY字アームを前記つる巻きばねのそれぞれの巻きに固定する、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項4】
前記把持部と前記フレームとの間の相対位置を手動で制御するために前記把持部と前記フレームとの間に連結された調節機構をさらに備える、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項5】
拡張可能なつる巻きばねの複数の巻きから成る第2の円環状リングと、
前記第2の円環状リングの前記巻き内に配置される第2の端部ループを有する第2の制御ワイヤと、
前記円環状リングが同軸でありかつ相互に拡張可能かつ収縮可能であるように、前記第2の制御ワイヤを案内しかつ前記第2の円環状リングの縁部において前記第2の端部ループの端部を保持するための、前記フレームの前記遠位端部に位置するY字アームの第2の対と、
をさらに備える、請求項1に記載のリトラクタ。
【請求項6】
退避させられた組織を支持するために前記円環状リングの両方にわたって円筒状に配置された弾性を有するリトラクタスリーブ
をさらに備える、請求項5に記載のリトラクタ。
【請求項7】
低侵襲心臓手術のための外科用リトラクタであって、
第1および第2の円環状リングであって、それぞれが、拡張可能なつる巻きばねの複数の巻きから成る、第1および第2の円環状リングと、
第1および第2の制御ワイヤであって、それぞれが、前記第1および第2のリングの前記巻き内にそれぞれ配置されるそれぞれの端部ループを有する、第1および第2の制御ワイヤと、
フレームであって、i)前記第1および第2の制御ワイヤを案内し、かつ、前記第1および第2のリングが軸方向に離間されて円筒形の退避輪郭を画定するように前記円環状リングのそれぞれの縁部において前記それぞれの端部ループの端部を保持するための、遠位端部に位置するY字アームの第1および第2の対、ならびにii)前記制御ワイヤの近位端部を摺動自在に受け入れる中空のシャフトを有する、フレームと、
前記制御ワイヤの前記近位端部を固定し、かつ、前記制御ワイヤを独立に摺動させて前記端部ループを拡張または収縮させ、それにより前記円環状リングを拡張状態と収縮状態との間で調節するために移動可能である、把持部と、
を備える、外科用リトラクタ。
【請求項8】
前記中空のシャフトが、可鍛性を有する、請求項7に記載の外科用リトラクタ。
【請求項9】
複数のひもをさらに備え、各ひもが、それぞれのY字アームをそれぞれの前記つる巻きばねのそれぞれの巻きに固定する、請求項7に記載の外科用リトラクタ。
【請求項10】
前記把持部と前記フレームとの間の相対位置を手動で制御するために前記把持部と前記フレームとの間に連結された調節機構をさらに備える、請求項7に記載の外科用リトラクタ。
【請求項11】
退避させられた組織を支持するために前記第1および第2の円環状リングにわたって円筒状に配置された弾性を有するリトラクタスリーブ
をさらに備える、請求項7に記載の外科用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年6月12日に出願した米国特許仮出願第62/683,737号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は一般に、弁手術中に弁(例えば、僧帽弁)を開いて保持するための外科用リトラクタに関し、より具体的には、ループの直径が手動制御可能である、弁内に挿入することができる拡張可能なループに関する。
【背景技術】
【0003】
低侵襲心臓手術は、僧帽弁などの心臓弁を修復または置換するために使用され得る。心房壁を通って切開部が作られた後、弁への十分なアクセスを提供するために、心房組織は、退避(retract)させられる必要がある。いったん弁へのアクセスがなされると、弁の一部分の縫合などの修復および/または置換行為を容易にするために、弁を開いて保持することが重要になる。
【0004】
僧帽弁の退避は、弁が切開穴から遠くに位置する状態で深く狭い切開部を介して弁へのアクセスがなされるときに、弁の周囲長を拡大する能力を特に必要とする。例えば、低侵襲心臓手術(MICS)僧帽弁修復処置は、胸郭の右側から小さな切開穴を介して僧帽弁まで胸部を横断するアクセストンネルを使用する。
【0005】
米国特許第7,871,374号は、MICS手術に適用されてきたリトラクタデバイスの1つのタイプを示すが、このデバイスは、小さな穴の中に通すこと、および、離れた場所から適切な開口部に適合させることが、難しい場合がある。また、このリトラクタは自己収縮(すなわち、縮小)機能を有さないので、手術作業が完了した後でこのリトラクタを除去することに多少の難しさがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、小さな切開穴を通して挿入および操作するのが容易でありまた必要なサイズおよび位置に非常に簡単に調節することができるリトラクタツールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい実施形態では、長いワイヤループが、円環状リングに形成されたばねワイヤによって取り囲まれる遠位端部と、把持部に接続される近位端部とを有する。円環状リングは、退避させるべき心房表面の内側に配置される。把持部を円環状リングに対して押したり引いたりすることにより、円環状リングは必要なサイズに拡張したり縮小したりする。
【0008】
本発明の1つの態様では、低侵襲心臓手術のための外科用リトラクタが、拡張可能なつる巻きばねの複数の巻きから成る円環状リングを備える。制御ワイヤが、円環状リングの巻き内に配置される端部ループを有する。フレームが、1)制御ワイヤを案内しかつ円環状リングの縁部において端部ループの端部を保持するための、遠位端部に位置するY字アームと、2)制御ワイヤの近位端部を摺動自在に受け入れる中空のシャフトと、を有する。把持部が、制御ワイヤの近位端部に固定され、また、把持部は、制御ワイヤを摺動させて端部ループを拡張および収縮させ、それにより円環状リングを拡張状態と収縮状態との間で調節するために、中空のシャフトに対して移動可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】拡張状態における、円環状リングリトラクタの1つの好ましい実施形態の側面図である。
図2】収縮状態における、図1の円環状リングリトラクタの側面図である。
図3図1の拡張状態をより詳細に示す上面図である。
図4図1の収縮状態をより詳細に示す上面図である。
図5】多ループ制御ワイヤを含む円環状リングリトラクタの別の好ましい実施形態を示す上面図である。
図6】2重リングおよび円筒形スリーブを使用する代替実施形態の側面図である。
図7図6の2重リングをより詳細に示す側面図である。
図8図6のスリーブをより詳細に示す側面図である。
図9】円環状ばねの代替的構成の上面図である。
図10】円環状ばねの別の代替的構成の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、僧帽弁修復などのMICS処置中の血管構造のための確実かつ簡便な退避方法を提供する。長いワイヤが、円環状リングを形成するつる巻きばねコイルによって取り囲まれる一方の端部にばねループを有し、ばねは、退避を開始しかつ維持するために手動制御下で所望のサイズに拡張および収縮する間、所望の円形状を維持する。ばねワイヤのループ形成端部は、1つまたは複数の巻きで巻かれてよく、各巻きは、螺旋コイルばねに囲まれる。長いワイヤの他方の端部は、長いワイヤの別々の側を担持してそれらを長い支持管を通して案内する2つの中空支持アームを有するフレームを通して、管の近位端部に取り付けられ、管の近位端部では、長いワイヤのそれぞれの独立した部分が、連結器に結び付く。連結器は、円環状リングのサイズを調節するための把持部または他のプッシュ/プル機構を含む。
【0011】
第1の実施形態が、図1および2に示されている。適切な直径および長さのコイルばね10が、ばね10の両端を一緒にすることにより、円(円環状リング)に形成される。ばね10は、収縮状態(すなわち、リングの最小直径)にあるときに、外科的開口部を介して心血管弁(例えば、僧帽弁)内に挿入可能であり、また、以下で説明される追加の構成要素を使用して、調節可能に拡張され得る。
【0012】
制御ワイヤ11が、ばねリング10内に端部ループ(換言すれば、ループ状端部)を形成し、かつ、端部ループからフレーム12を通って把持部13まで延在する対向する側を有し、把持部13では、ワイヤ11の両方の側が固定される。フレーム12は、中空の基部15から延在する1対の中空のY字アーム14、および、やはり基部15に取り付けられる長い中空のシャフト16を有する。ワイヤ11は、アーム14、基部15、およびシャフト16を通って延在して、把持部13に結び付く。ワイヤ11は、把持部13を押すまたは引っ張ることにより、フレーム12内で摺動可能である。これにより、リング10内に収容されたワイヤ11の長さが手動で制御され、それにより、リング10に作用してその直径を変化させる端部ループの周囲を変化させる。図2は、シャフト16と把持部13との間のある長さのワイヤ11を露出させる、シャフト16から離れる方向に引っ張られた把持部13を示す。これは、リング10の内側の端部ループ内のワイヤ11の長さを短くして、リング10をその収縮状態に縮小させる。ワイヤ11がシャフト16を通って前方に摺動するように把持部13をシャフト16に向かって押し戻すことにより、リング10内の端部ループが広がって、リング10を(例えば、リング10が僧帽弁を開いて保持することができるように)拡張させる。リング10は、Y字アーム14の端部が互いに相当に接近している(すなわち、リング10の周囲のうちの短い部分にわたって延在する)限り、リング10の周縁に沿った力の釣り合わせにより、リング10が拡張されようと収縮されようと、その円形輪郭を維持する。
【0013】
リング10を所望の位置に適切に位置決めするために、フレーム12の形状は、調節可能であることが好ましい。したがって、シャフト16および/またはアーム14は、可鍛性のある管材料で作られ得る。弾性プラスチック材料、および合成体または被覆体の他に、可鍛性のある任意の生体適合性金属または金属合金(例えば、ステンレス鋼、チタン、またはニッケルチタン)が使用され得る。
【0014】
図3および4は、収縮状態および拡張状態をそれぞれより詳細に示す。図3では、ワイヤ11の端部ループは、リング10がその最小形状に弛緩するように、リング10内にある。図4では、ワイヤ11がリング10を外向きに圧迫し、それにより制御された距離だけリング10を拡張するように、より長いワイヤ11が、Y字アームを介して送り出されている。アームユニット14の各アームは、それぞれのひも(換言すれば、テザー)17および18により、リング10のばねのそれぞれのループに固定される。ひも17および18は、さもなければリング10が拡張するのを阻むであろう基部から離れる方向へのリング10の長手方向移動を制限する。
【0015】
図5は、円環状に延在するつる巻きばね20内で制御ワイヤ21が端部ループ24を形成する、別の実施形態を示す。端部ループ24から延在するワイヤ21の互いに反対の側は、1対の中空のY字アーム25および中空のシャフト26から把持部23まで通され、把持部23では、ワイヤ21の両方の側が固定される。ばねリング20は、ひも7および8により、Y字アーム25に繋がれる。この実施形態では、端部ループ24は2つの巻きを有し、これは、より繊細でより正確な拡張の制御を可能にする。さらに、制御ワイヤ21の長手方向摺動を調節するために、把持部の機構が提供される。ねじ付きの引張棒27が、ワイヤ21の端部に固定される。把持部23の内側のねじ穴が、引張棒27を受け入れる。把持部23がその長手軸の周りで回転するように、中空のシャフト26の端部上のフランジ28が、把持部23内の空洞29によって捕捉される。
【0016】
引張棒27は、シャフトの回転を防ぐがシャフトが長手軸(図示せず)に沿って移動することを可能にする方法で、シャフト26に接続される。したがって、把持部23が回転されると、引張棒27は、把持部23が回転される方向に従ってねじ穴内で内側または外側に移動する。
【0017】
図6~8は、拡張可能な1対のリングが長手方向にまた同軸上に離間されて円筒形リトラクタを形成する、別の実施形態を示し、この円筒形リトラクタは、増大した深さにわたって弁または管構造を支持することができる。第1のばねリング30および第2のばねリング31が、螺旋コイルばねでそれぞれ形成され、それらの端部が合わせられて、拡張可能な円環形状を取る。制御ワイヤ32および33が、リング30および31内にそれぞれ配置される端部ループを有する。フレーム34が、ワイヤ32および33を把持部35まで送り、把持部35は、ワイヤ32および33を繰り出す/引き込むための機構の回転を促進するために、刻み付きノブを含み得る。フレーム34は、各円環状リングのためのY字アームを含み、かつ、把持部35に固定される可鍛性のある中空の管37につながる、両方のワイヤ32および33のための共通の出口トンネルを提供する。ひも38および39が、リング30および31をそれらのY字アームに固定する。
【0018】
弾性カバー40が、リトラクタスリーブを提供し、このリトラクタスリーブは、リング30および31を受け入れる各長手方向端部に縫い目(sewn seam)を有し得る。カバー40は、繊維またはゴム様材料で構成され得る。図7は、カバー40の設置前のリング30および31を示し、図8は、設置後のカバー40を示す。スリーブは、退避させられた身体構造を円筒形表面にわたって連続的に支持する。リング30および31は、約40mmだけ離間されることが好ましい場合がある。把持部35は、把持部35の別々の部分を回転させることにより各リング30および31のサイズが独立に調節され得るように、各制御ワイヤ32および33を受け入れる別々の部分を有する2重ねじ機構を含み得る。したがって、退避させられた弁が、角度のあるテーパ形状を有する場合、スリーブは、適合するように調節され得る。また、管37は、形状を変化させてシャフトの位置を最適化することを可能にしかつ外科手術に干渉することを避けるために、可鍛性がある。
【0019】
図9は、連続的な1つの金属片を使用して円環形状に従う円形の巻きを有するコイルばね41を示す。図9に示された連続的な形状を有する連続的なばねを製造することは困難である場合があるので、直線的な円筒形状を有する螺旋コイルばねを曲げて環状体にし、次いで対向する端部を接合することによってまたは別のワイヤを使用して端部を一緒に巻くことによって(面と面とで)合わせることにより、同じ効果が得られ得る。円形の巻きに加えて、他のばね形状が用いられ得る。図10は、ばねコイルの巻きが方形の輪郭を有する例を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10