(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】筋特異的核酸調節エレメント並びにその方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230301BHJP
C12N 15/67 20060101ALI20230301BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230301BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230301BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230301BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230301BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230301BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/67 Z
C12N15/86 Z
A61K48/00
A61P21/00
A61K35/761
A61K39/00 Z
A61K38/16
(21)【出願番号】P 2021107783
(22)【出願日】2021-06-29
(62)【分割の表示】P 2019218235の分割
【原出願日】2015-01-21
【審査請求日】2021-07-12
(32)【優先日】2014-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511281578
【氏名又は名称】フレイエ ユニヴェルシテイト ブリュッセル
【氏名又は名称原語表記】VRIJE UNIVERSITEIT BRUSSEL
【住所又は居所原語表記】Pleinlaan 2, B-1050 Elsene, Belgium
(73)【特許権者】
【識別番号】516217871
【氏名又は名称】ヴイアイビー ヴイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Rijvisschestraat 120, B-9052 Gent, Belgium
(73)【特許権者】
【識別番号】513008731
【氏名又は名称】ユニヴェルシテイト ヘント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデンドリーシュ,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】チュア,マリニー
(72)【発明者】
【氏名】デブレサー,ピーテル
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-518807(JP,A)
【文献】特表2004-535801(JP,A)
【文献】The Journal of Biological Chemistry,1991年,vol. 266, no. 10,p. 6562-6570
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載の配列、又は配列番号1に記載の配列の機能的フラグメントであって、配列番号1の33位~58位、配列番号1の90位~142位、配列番号1の143位~233位、配列番号1の240位~310位、配列番号1の90位~233位から選択される1つのヌクレオチド配列
からなる機能的フラグメントを含んでな
り、
600ヌクレオチドの最大長を有する、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメント。
【請求項2】
心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強する請求項1に記載の核酸調節エレメント。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の核酸調節エレメント又はその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメント。
【請求項4】
核酸発現カセット又はベクターにおける、請求項1~
3のいずれか1項に記載の核酸調節エレメントの使用。
【請求項5】
プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した、請求項1~
3のいずれか1項に記載の核酸調節エレメントを少なくとも1つ含んでなる核酸発現カセット。
【請求項6】
前記プロモーターが筋特異的プロモーターである、請求項
5に記載の核酸発現カセット。
【請求項7】
前記プロモーターが、デスミン(DES)プロモーター、ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、SPc5-12プロモーター、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、dMCKプロモーター及びtMCKプロモーターからなる群より選択される、請求項
5又は
6に記載の核酸発現カセット。
【請求項8】
前記導入遺伝子が、分泌型治療用タンパク質、治療用構造タンパク質又は免疫原性タンパク質をコードする、請求項
5~
7のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項9】
前記導入遺伝子が血漿因子をコードする、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項10】
前記導入遺伝子がジストロフィン又はサルコグリカンをコードする、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項11】
前記導入遺伝子がマイクロジストロフィン1(MD1)遺伝子又はフォリスタチン(FST)遺伝子を含んでなる、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項12】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の核酸調節エレメント又は請求項
5~
11のいずれか1項に記載の核酸発現カセットを含んでなるベクター。
【請求項13】
ウイルスベクターである請求項
12に記載のベクター。
【請求項14】
アデノ関連ウイルスベクターである請求項
13に記載のベクター。
【請求項15】
請求項
5~
11のいずれか1項に記載の核酸発現カセット又は請求項
12~
14のいずれか1項に記載のベクターと、医薬的に許容され得るキャリアとを含んでなる医薬組成物。
【請求項16】
遺伝子治療に使用するための、請求項1~
3のいずれか1項に記載の核酸調節エレメント、請求項
5~
11のいずれか1項に記載の核酸発現カセット、請求項
12~
14のいずれか1項に記載のベクター又は請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ワクチン接種療法に使用するための、請求項1~
3のいずれか1項に記載の核酸調節エレメント、請求項
5~
11のいずれか1項に記載の核酸発現カセット、請求項
12~
14のいずれか1項に記載のベクター又は請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項
5~
11のいずれか1項に記載の核酸発現カセット又は請求項
12~
14のいずれか1項に記載のベクターを筋細胞に導入し;
筋細胞において導入遺伝子産物を発現させる
ことを含んでなる、筋細胞において導入遺伝子産物を発現させるインビトロ法又はエキソビボ法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、遺伝子の筋特異的発現を増強することができる核酸調節エレメント、これら調節エレメントを用いる方法、及びその使用に関する。本発明は更に、これら調節エレメントを含んでなる発現カセット、ベクター及び医薬組成物を包含する。本発明は、特に、遺伝子治療(より具体的には筋指向遺伝子治療)を利用する適用及びワクチン接種目的に有用である。
【背景技術】
【0002】
背景
筋肉は遺伝子治療について魅力的な標的である。筋肉への遺伝子送達は、例えば筋ジストロフィーの処置を目的として、筋構造タンパク質(例えば、ジストロフィン及びサルコグリカン)の発現を増強するために使用することができる。加えて、筋肉は、糖尿病、アテローム性動脈硬化、血友病、ガンなどのために非筋性の分泌/調節経路タンパク質を発現させる治療プラットフォームとして利用することができる。
【0003】
導入遺伝子を筋肉に送達する努力は、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及びアデノ関連ウイルス(AAV)に由来するベクター並びにプラスミドに注がれてきた。アデノウイルスベクターは、比較的大きいクローニング能力を有し、高力価で製造することができ、筋肉の比較的効率的な形質導入を示す。不運なことに、これらベクターは、ウイルス性タンパク質及び幾らかの導入遺伝子タンパク質に対して頑強な細胞性免疫応答を惹起することがある。更に、これらベクターは、用量を制限することになり、かつ危険であり得る炎症性免疫応答の原因となり得る生来の免疫系の迅速な活性化を誘起することがある。アデノウイルスベクターは宿主ゲノムに組み込まれないので、長期間存続する能力は不明である。レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターは標的細胞のゲノムに安定的に組み込まれ、おそらく、持続的な遺伝子移入を可能とする。レンチウイルスベクターは、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に形質導入することができる一方、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)に由来する従来のレトロウイルスベクターは、分裂細胞のみに形質導入することができる。結果として、レンチウイルスベクターは非分裂性の骨格筋細胞の形質導入に使用することができるが、骨格筋細胞は、レトロウイルスベクターの直接注入による形質導入に対しては不応性である。とはいえ、骨格筋のレンチウイルスによる形質導入でさえ然程効率的でない。裸のプラスミドDNAは筋肉へ遺伝子を移入する顕著な能力を示す。プラスミドは極僅かな免疫原性及び毒性しか示さず、非常に大きなクローニング能力を有する。プラスミドの主な短所は、典型的な送達プロトコル下での比較的乏しいトランスフェクション効率である。プラスミドの保持は別の1つの重要な考慮事項である。
【0004】
アデノ関連ウイルスベクター(AAV)は、筋指向遺伝子治療に関して最も有望な遺伝子送達ビヒクルである。天然の筋細胞向性、長期持続性の導入遺伝子発現、複数のセロタイプ及び極僅かな免疫応答のため、AAVベクターは筋指向遺伝子治療に好都合である。AAVベクターは、局所性、領域性及び全身性投与により骨格筋及び心筋の両方に送達することができる。
しかし、幾つかの遺伝子送達アプローチの効率及び安全性に関して懸念が残る。主要な制限要因は、不十分な及び/又は一過性の導入遺伝子発現レベル、及び望んでいない細胞タイプでの不適切な導入遺伝子発現である。具体的には、抗原提示細胞(APC)における偶然の導入遺伝子発現は、遺伝子改変細胞及び/又は治療用導入遺伝子産物に対する不都合な免疫応答(これは結果的に長期の遺伝子発現を妨げる)のリスクを増大させることが示されている。
【0005】
従来のベクター設計法は、無計画の試行錯誤アプローチに依拠しており、試行錯誤により、発現レベルを増強するように転写エンハンサーとプロモーターとが組み合わされた。このアプローチは、時に有効であり得たが、対象の遺伝子の発現レベルの僅かな増大若しくは増大なし及び/又は組織特異性の喪失をもたらす非生産的な組合せを生じることが多かった。更に、この従来アプローチは、進化上保存された調節モチーフを発現モジュールに含ませることの重要性(臨床適用に特に関連性がある)を考慮していなかった。
改変された距離差マトリクス(DDM)-多次元尺度構成法(MDS)ストラテジ(De Bleserら,2007 Genome Biol 8, R83)に依存する計算論的アプローチは、肝臓(WO 2009/130208)及び心臓(WO2011/051450)における頑強な組織特異的発現に関連する進化上保存された転写因子結合部位(TFBS)モチーフのクラスターのインシリコでの同定に有用であることが証明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当該分野において、筋肉への安全で効率的な遺伝子送達の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本発明者らは、改変DDM-MDSストラテジ(De Bleserら,2007)と増強スクリーニングストラテジとの組合せに依拠して、高発現の筋特異的遺伝子と関連する進化上保存された転写因子結合部位(TFBS)モチーフ(本明細書において核酸調節エレメントと定義する)を同定した。実験の項に示すように、本発明者らは、心臓及び骨格筋の両方での遺伝子発現を特異的に増強する核酸調節エレメント及び骨格筋特異的核酸調節エレメントを同定することができた。これら調節エレメントは、その後、効率的で組織特異的な遺伝子発現をインビボで生じることが確証された。よって、このアプローチにより、治療効力を最大化しつつ、より低い、したがってより安全なベクター用量の使用が可能になる。
【0008】
したがって、本発明は、以下の観点を提供する:
観点1:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、それが由来する配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含み、該由来配列中に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む機能的フラグメントを含んでなるか、該機能的フラグメントから本質的になるか又は該機能的フラグメントからなる、筋特異的遺伝子発現を増強する核酸調節エレメント。
【0009】
観点2:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、それが由来する配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含み、該由来配列中に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む機能的フラグメントを含んでなる、心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための観点1に従う核酸調節エレメント。
【0010】
観点3:配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、それが由来する配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含み、該由来配列中に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む機能的フラグメントを含んでなる、骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための観点1に従う核酸調節エレメント。
【0011】
観点4:配列番号1の33位~58位のヌクレオチド配列;配列番号1の90位~142位のヌクレオチド配列;配列番号1の143位~233位のヌクレオチド配列;配列番号1の240位~310位のヌクレオチド配列;配列番号1の90位~233位のヌクレオチド配列;配列番号5の47位~130位のヌクレオチド配列;配列番号5の252位~293位のヌクレオチド配列;配列番号5の330位~450位のヌクレオチド配列;配列番号10の10位~180位のヌクレオチド配列(すなわち、配列番号37);配列番号10の190位~240位のヌクレオチド配列(すなわち、配列番号38);配列番号10の241位~300位のヌクレオチド配列(すなわち、配列番号39);配列番号10の241位~360位のヌクレオチド配列(すなわち、配列番号41);配列番号10の380位~420位のヌクレオチド配列(すなわち、配列番号40);又は前記配列のいずれかと少なくとも95%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか又は該選択配列からなる、観点1、2又は3に従う核酸調節エレメント。
【0012】
観点5:配列番号1の33位~310位のヌクレオチド配列;配列番号5の47位~450位のヌクレオチド配列;配列番号10の10位~420位のヌクレオチド配列、又は前記配列のいずれかと少なくとも95%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、観点1~4のいずれか1つの従う核酸調節エレメント。
観点6:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、観点1~5のいずれか1つの従う核酸調節エレメント。
【0013】
観点7:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための観点1、2又は4~6のいずれか1つに従う核酸調節エレメント。
観点8:配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための観点1、3~6のいずれか1つに従う核酸調節エレメント。
【0014】
観点9:配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、これらの機能的フラグメントであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12若しくは配列番号13を含む機能的フラグメント、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、観点1~8のいずれか1つに従う核酸調節エレメント。
【0015】
観点10:配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、これらの機能的フラグメントであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6を含む機能的フラグメント、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる観点1、2、4~7、9のいずれか1つに従う核酸調節エレメント。
【0016】
観点11:配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、これらの機能的フラグメントであって、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12若しくは配列番号13を含む機能的フラグメント、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる観点1、3~6、8又は9のいずれか1つに従う核酸調節エレメント。
【0017】
観点12:観点1~11のいずれか1つに規定されるとおりの配列の相補鎖を含んでなるか、該相補鎖から本質的になるか、又は該相補鎖からなる、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメント。
観点13:観点1~12のいずれか1つに従う核酸調節エレメントとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメント。
観点14:1000ヌクレオチド、好ましくは800ヌクレオチド、より好ましくは600ヌクレオチド、例えば550ヌクレオチド、500ヌクレオチド、450ヌクレオチド、400ヌクレオチド、350ヌクレオチド又は300ヌクレオチドの最大長を有し、配列番号1~13のいずれか1つにより規定される調節エレメント又は観点3~5のいずれか1つに規定されるその機能的フラグメントを依然として含んでなる、観点1~13のいずれか1つに従う核酸調節エレメント。
【0018】
観点15:核酸発現カセット又はベクターにおける、観点1~14のいずれか1つに従う核酸調節エレメントの、特に該核酸発現カセット又はベクターの筋特異的発現を増強するための、使用。
観点16:プロモーターに作動可能に連結した少なくとも1つ、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれより多くの観点1~14のいずれか1つに従う核酸調節エレメントを含んでなる核酸発現カセット。
観点17:核酸調節エレメントがプロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結している、観点16に従う核酸発現カセット。
観点18:プロモーターが筋特異的プロモーター、好ましくはデスミン(DES)遺伝子に由来するプロモーターである、観点16又は17に従う核酸発現カセット。
観点19:導入遺伝子が治療用タンパク質又は免疫原性タンパク質をコードする、観点17又は18に従う核酸発現カセット。
【0019】
観点20:導入遺伝子が分泌可能タンパク質又は構造タンパク質、例えばジストロフィン若しくはサルコグリカンをコードする、観点17~19のいずれか1つに従う核酸発現カセット。
観点21:イントロン、好ましくはマウス微小ウイルス(MVM)のイントロンを更に含んでなる、観点16~20のいずれか1つに従う核酸発現カセット。
観点22:ポリアデニル化シグナル、好ましくはシミアンウイルス40(SV40)のポリアデニル化シグナルを更に含んでなる、観点16~21のいずれか1つに従う核酸発現カセット。
観点23:観点1~14のいずれか1つに従う核酸調節エレメント又は観点16~22のいずれか1つに従う核酸発現カセットを含んでなるベクター。
観点24:ウイルスベクター、好ましくはアデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、より好ましくはAAV9ベクターである観点23に従うベクター。
【0020】
観点25:非ウイルスベクター、好ましくはプラスミド、ミニサークル又はトランスポゾンベースのベクター、例えばPiggyBacベースのベクター若しくはSleeping Beautyベースのベクターである観点23に従うベクター。
観点26:観点16~22のいずれか1つに従う核酸発現カセット又は観点23~25のいずれか1つに従うベクターと医薬的に許容され得るキャリアとを含んでなる医薬組成物。
観点27:内科療法において使用するための観点1~14のいずれか1つに従う核酸調節エレメント、観点16~22のいずれか1つに従う核酸発現カセット、観点23~25のいずれか1つに従うベクター又は観点26に従う医薬組成物。
観点28:遺伝子治療、好ましくは筋指向遺伝子治療において使用するための観点1~14のいずれか1つに従う核酸調節エレメント、観点16~22のいずれか1つに従う核酸発現カセット、観点23~25のいずれか1つに従うベクター又は観点26に従う医薬組成物。
【0021】
観点29:遺伝子治療が筋ジストロフィー(例えば、デュシェーヌ筋ジストロフィー(DMD)/ベッカー筋ジストロフィー(BMD))、筋緊張性ジストロフィー、神経筋疾患、運動ニューロン疾患(MND)、例えばシャルコー‐マリー‐ツース病(CMT)、脊髄性筋萎縮症(SMA)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)、エメリー‐ドライフス筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパシー、肢帯筋ジストロフィー、代謝性ミオパシー、筋炎症性疾患、筋無力症、ミトコンドリアミオパシー、イオンチャネルの異常、核包膜疾患、心筋症、心肥大、心不全、遠位型ミオパシー、心血管疾患、血友病(血友病A及びBを含む)及び糖尿病のためのものである、観点28に従う使用のための核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物。
【0022】
観点30:ワクチン、好ましくは予防用ワクチンとして使用するため、又はワクチン接種療法、好ましくは予防用ワクチン接種に使用するための、観点1~14のいずれか1つに従う核酸調節エレメント、観点16~22のいずれか1つに従う核酸発現カセット、観点23~25のいずれか1つに従うベクター又は観点26に従う医薬組成物。
観点31:
- 観点16~22のいずれか1つに従う核酸発現カセット又は観点23~25のいずれか1つに従うベクターを筋細胞に導入し;
- 導入遺伝子産物を筋細胞において発現させる
ことを含んでなる、筋細胞、好ましくは心臓の筋細胞及び/又は骨格筋細胞において導入遺伝子産物を発現させる方法、好ましくはインビトロ又はエキソビボ法。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1:核酸調節エレメントの同定及び検証のフロー図。以下の工程を含む計算論的アプローチを用いて核酸調節エレメントを同定した:(1)(例えば、正常ヒト組織のマイクロアレイ発現データの統計解析に基づく)高発現する組織特異的遺伝子の同定;(2)公衆に利用可能なデータベースからの対応するプロモーター配列の抽出;(3)それらが含有する調節モジュール及び転写因子結合部位(TFBS)の同定;(4)次に、高発現遺伝子のゲノムコンテクストを進化上保存されたTFBSクラスター(すなわち、核酸調節エレメント)について検索した。同定した核酸調節エレメントを新規に設計し、構築物中に含ませることによりレポーター遺伝子の発現が増大するかどうかを試験することによりインビボで検証した。
【
図2-1】
図2:心筋及び骨格筋特異的調節エレメントCSk-SH1(A、配列番号1)、CSk-SH2(B、配列番号2)、CSk-SH3(C、配列番号3)のヌクレオチド配列。
【
図2-2】
図2:心筋及び骨格筋特異的調節エレメントCSk-SH4(D、配列番号4)、CSk-SH5(E、配列番号5)及びCSk-SH6(F、配列番号6)のヌクレオチド配列。
【
図3】
図3は、本明細書に開示のAAV9sc-CSk-SH/Sk-SH-Des-Luc2ベクターの概略図を示す。この発現カセットを自己相補性(sc)アデノ関連ウイルス セロタイプ9(AAV9)にパッケージングした。心筋及び骨格筋特異的デスミン(Des)プロモーターは、ルシフェラーゼ(Luc2)導入遺伝子の転写を調節する。同定した心筋及び骨格筋特異的(CSk-SH)又は筋特異的(Sk-SH)核酸調節エレメントをDesプロモーターの上流にクローニングした。発現カセットは、マウス微小ウイルス(MVM)のイントロン及びシミアンウイルス40(SV40)のポリアデニル化シグナル(pA)を更に含む。発現カセットの側方にはアデノ関連ウイルス セロタイプ2(AAV2)に由来する逆方向末端反復(ITR)が位置する。
【
図4-1】
図4:左から右へ、AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1)、AAV9sc-CSk-SH2-Des-Luc2(CSk-SH2)、AAV9sc-CSk-SH3-Des-Luc2(CSk-SH3)、AAV9sc-CSk-SH4-Des-Luc2(CSk-SH4)、AAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5)又はAAV9sc-CSk-SH6-Des-Luc2(CSk-SH6)ベクターを静脈注射したマウスの心臓組織及び筋組織におけるルシフェラーゼ発現(A)の、核酸調節エレメントを含まないコントロールベクターAAV9sc-Des-Luc2を注射したマウス(コントロール、Csk-SHなし)と比較した差。ルシフェラーゼ発現は、注射9週間後に選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した:* p<0.05;** p<0.001。
【
図4-2】
図4:左から右へ、AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1)、AAV9sc-CSk-SH2-Des-Luc2(CSk-SH2)、AAV9sc-CSk-SH3-Des-Luc2(CSk-SH3)、AAV9sc-CSk-SH4-Des-Luc2(CSk-SH4)、AAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5)又はAAV9sc-CSk-SH6-Des-Luc2(CSk-SH6)ベクターを静脈注射したマウスの心臓組織及び筋組織におけるLuc mRNAレベル(B)の、核酸調節エレメントを含まないコントロールベクターAAV9sc-Des-Luc2を注射したマウス(コントロール、Csk-SHなし)と比較した差。Luc mRNAレベルは、実験終了時に、示した組織の生検から抽出したトータルRNAからの定量RT-PCR法(qRT-PCR)により測定した。結果を平均±標準誤差として示した:* p<0.05;** p<0.001。
【
図5-1】
図5A:左から右へ、AAV9sc-Des-Luc2(コントロール、CSk-SHなし)、AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1)、AAV9sc-CSk-SH2-Des-Luc2(CSk-SH2)、AAV9sc-CSk-SH3-Des-Luc2(CSk-SH3)、AAV9sc-CSk-SH4-Des-Luc2(CSk-SH4)、AAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5)又はAAV9sc-CSk-SH6-Des-Luc2(CSk-SH6)ベクターを静脈内注射したマウスの選択組織におけるルシフェラーゼ発現。ルシフェラーゼ発現は、注射9週間後に選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した。
【
図5-2】
図5B:コントロールベクターAAV9sc-Des-Luc2(コントロール、CSk-SHなし)を注射したマウスと比較した、(左から右へ)AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1)、AAV9sc-CSk-SH2-Des-Luc2(CSk-SH2)、AAV9sc-CSk-SH3-Des-Luc2(CSk-SH3)、AAV9sc-CSk-SH4-Des-Luc2(CSk-SH4)、AAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5)又はAAV9sc-CSk-SH6-Des-Luc2(CSk-SH6)ベクターを静脈内注射したマウスの選択組織におけるLuc mRNAレベル。Luc mRNAレベルは、実験終了時に、示した組織の生検から抽出したトータルRNAからの定量RT-PCR法(qRT-PCR)により測定した。結果を平均±標準誤差として示した。
【
図6】
図6:AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1)(A)又はAAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5)(B)を注射したマウスの異なる器官における形質導入効率。5×10
9vg/マウスの用量の両構築物について、100ngのゲノムDNAに対するAAVコピー数を決定した。
【
図7-1】
図7:筋特異的調節エレメントSk-SH1(A、配列番号7)、Sk-SH2(B、配列番号8)、Sk-SH3(C、配列番号9)、Sk-SH4(D、配列番号10)のヌクレオチド配列。
【
図7-2】
図7:筋特異的調節エレメントSk-SH5(E、配列番号11)、Sk-SH6(F、配列番号12)、Sk-SH7(G、配列番号13)のヌクレオチド配列。
【
図8】
図8は、左から右へ、AAV9sc-Sk-SH1-Des-Luc2(Sk-SH1、n=4)、AAV9sc-Sk-SH2-Des-Luc2(Sk-SH2、n=4)、AAV9sc-Sk-SH3-Des-Luc2(Sk-SH3、n=4)、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc2(Sk-SH4、n=4)、AAV9sc-Sk-SH5-Des-Luc2(Sk-SH5、n=1)、AAV9sc-Sk-SH6-Des-Luc2(Sk-SH6、n=3)又はAAV9sc-Sk-SH7-Des-Luc2(Sk-SH7、n=4)ベクターを静脈注射したマウスの心臓組織及び筋組織におけるルシフェラーゼ発現の、核酸調節エレメントを含まないコントロールベクターAAV9sc-Des-Luc2を注射したマウス(コントロール、Sk-SHなし、n=5)と比較した差を示す。ルシフェラーゼ発現は、注射7週間後に選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した:* p<0.05;** p<0.001。
【
図9】
図9は、左から右へ、AAV9sc-Des-Luc2(コントロール、Sk-SHなし、n=5)、AAV9sc-Sk-SH1-Des-Luc2(Sk-SH1、n=4)、AAV9sc-Sk-SH2-Des-Luc2(Sk-SH2、n=4)、AAV9sc-Sk-SH3-Des-Luc2(Sk-SH3、n=4)、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc2(Sk-SH4、n=4)、AAV9sc-Sk-SH5-Des-Luc2(Sk-SH5、n=1)、AAV9sc-Sk-SH6-Des-Luc2(Sk-SH6、n=3)又はAAV9sc-Sk-SH7-Des-Luc2(Sk-SH7、n=4)ベクターを静脈内注射したマウスの選択組織におけるルシフェラーゼ発現を示す。ルシフェラーゼ発現は、注射7週間後に選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した:* p<0.05;** p<0.001。
【
図10-1】
図10A:サイトメガロウイルスプロモーター(CMVp)がホタルルシフェラーゼ遺伝子(Luc2)の上流にクローニングされていることが示されているAAVsc-CMV-Luc2-SV40pAプラスミド構築物の概略図。用いた略号は次のとおりである:ITR:ウイルス性逆方向末端反復;SV40pA:シミアンウイルス40ポリアデニル化部位。
【
図10-2】
図10B:左から右へ、AAV9sc-CMV-Luc2(CMV、n=4)、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc2(Sk-SH4、n=2)、AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1、n=4)又はAAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5、n=4)ベクターを静脈内注射したマウスの選択組織におけるルシフェラーゼ発現。ルシフェラーゼ発現は、選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した。
【
図10-3】
図10C:左から右へ、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc2(Sk-SH4、n=2)、AAV9sc-CSk-SH1-Des-Luc2(CSk-SH1、n=4)又はAAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc2(CSk-SH5、n=4)ベクターを静脈注射したマウスの心臓組織及び筋組織におけるルシフェラーゼ発現の、ベクターAAV9sc-CMV-Luc2(CMV、n=4)を注射したマウス(コントロール、Sk-SHなし、n=5)と比較した差。ルシフェラーゼ発現は、注射7週間後に選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した。
【
図11-1】
図11Aは、配列番号1の概略図にマッピングされたCSk-SH1の機能的フラグメント及び示された転写因子結合部位(TFBS)を示す。
【
図11-2】
図11Bは、配列番号5の概略図にマッピングされたCSk-SH-5の機能的フラグメント及び示された転写因子結合部位(TFBS)を示す。
【
図11-3】
図11Cは、配列番号10の概略図にマッピングされたSk-SH4の機能的フラグメント及び示された転写因子結合部位(TFBS)を示す。
【
図12】
図12:左から右へ、AAV9sc-Sk-SH1-Des-Luc2(Sk-SH1)、AAV9sc-Sk-SH2-Des-Luc2(Sk-SH2)、AAV9sc-Sk-SH3-Des-Luc2(Sk-SH3)、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc2(Sk-SH4)、AAV9sc-Sk-SH6-Des-Luc2(Sk-SH6)又はAAV9sc-Sk-SH7-Des-Luc2(Sk-SH7)ベクターを静脈注射したマウスの心臓組織及び筋組織におけるLuc mRNAレベルの、核酸調節エレメントを含まないコントロールベクターAAV9sc-Des-Luc2を注射したマウス(コントロール、Sk-SHなし)と比較した差。Luc mRNAレベルは、示した組織の生検から抽出したトータルRNAからの定量RT-PCR法(qRT-PCR)により測定した。結果を平均±標準誤差として示した;* p<0.05;** p<0.001。
【
図13】
図13:AAV9sc-Sk-SH4-Des-MVM-Luc-pAベクター(A)又はAAV9sc-Sk-SH1-Des-MVM-Luc-pAベクター(B)を注射したマウスの異なる器官における形質導入効率。両ベクター(n=3)について100ngのゲノムDNAに対するAAVコピー数を測定した。
【
図14】
図14は、左から右へ、AAV9sc-Des-Luc(コントロール、Sk-SHなし)、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc(Sk-SH4)、AAV9sc-Sk-SH4
a-Des-Luc(Sk-SH4
a)、AAV9sc-Sk-SH4
b-Des-Luc(Sk-SH4
b)、AAV9sc-Sk-SH4
c-Des-Luc(Sk-SH4
c)、AAV9sc-Sk-SH4
d-Des-Luc(Sk-SH4
d)又はAAV9sc-Sk-SH4
e-Des-Luc(Sk-SH4
e)ベクターを静脈内注射したマウスの心臓組織及び筋組織におけるルシフェラーゼ発現を示す。ルシフェラーゼ発現は、注射5週間後に選択組織においてルシフェラーゼ活性により放出される全光束(ステラジアン当たりの平方センチメートル当たりの秒当たりの光子[光子/秒/cm
2/sr]で表す)として測定した。結果を平均±標準誤差として示した。Sk-SH4及びSk-SH4
bを注射したマウスにおけるルシフェラーゼ発現の、核酸調節エレメントを含まないコントロールベクターAAV9sc-Des-Luc2を注射したマウスと比較した倍数差を示す。
【
図15-1】
図15:AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc(5×10
9vg/マウス)を注射したマウスの心臓組織(A)及び筋組織(B)についてのクロマチン免疫沈降(CHIP)アッセイ。転写因子CEBP、SRF及びMEF2に特異的な抗体を用いた。PCRプライマーは、CEBP及びSRFに結合するSk-SH4の領域又はCEBP及びMEF2に結合するCSk-SH5の領域を増幅するように設計し、ネガティブコントロール(-)として第17染色体上の非転写領域を用いた。10
3細胞についての結合事象を、対応するプライマー対の各々について決定した。結果を平均±標準誤差として示した。ネガティブコントロールに対する有意差を示す(t検定、* P≦0.05)。
【
図15-2】
図15:AAV9sc-CSk-SH5-Des-Luc(5×10
9vg/マウス)を注射したマウスの心臓組織(C)及び筋組織(D)についてのクロマチン免疫沈降(CHIP)アッセイ。転写因子CEBP、SRF及びMEF2に特異的な抗体を用いた。PCRプライマーは、CEBP及びSRFに結合するSk-SH4の領域又はCEBP及びMEF2に結合するCSk-SH5の領域を増幅するように設計し、ネガティブコントロール(-)として第17染色体上の非転写領域を用いた。10
3細胞についての結合事象を、対応するプライマー対の各々について決定した。結果を平均±標準誤差として示した。ネガティブコントロールに対する有意差を示す(t検定、* P≦0.05)。
【
図16-1】
図16Aは、本明細書に開示の単鎖(ss)AAVプラスミド構築物の概略図を示す。この構築物は、上流にクローニングされた筋特異的核酸調節エレメントSkSH4に作動可能に連結したデスミンプロモーターにより調節されるマイクロジストロフィン1(MD1)(AAVss-SkSH4-Des-MVM-MD1)導入遺伝子を含む。フォリスタチン遺伝子は、Luc2レポーター遺伝子に2Aペプチドを介して連結させた。発現カセットは、マウス微小ウイルス(MVM)のイントロン及び49bpの合成Proudfootポリアデニル化部位(pA)を更に含む。発現カセットの側方には逆方向末端反復(ITR)が位置する。
【
図16-2】AAVss-SkSH4-Des-MVM-MD1プラスミド構築物のヌクレオチド配列(配列番号44)。
【
図16-3】AAVss-SkSH4-Des-MVM-MD1プラスミド構築物のヌクレオチド配列(配列番号44)(続き)。
【
図16-4】AAVss-SkSH4-Des-MVM-MD1プラスミド構築物のヌクレオチド配列(配列番号44)(続き)。
【
図16-5】
図16Cは、本明細書に開示の単鎖(ss)AAVプラスミド構築物の概略図を示す。この構築物は、上流にクローニングされた筋特異的核酸調節エレメントSkSH4に作動可能に連結したデスミンプロモーターにより調節されるフォリスタチン(FST)(AAVssSkSH4-Des-MVM-FST-2A-Luc2)導入遺伝子を含む。フォリスタチン遺伝子は、Luc2レポーター遺伝子に2Aペプチドを介して連結させた。発現カセットは、マウス微小ウイルス(MVM)のイントロン及び49bpの合成Proudfootポリアデニル化部位(pA)を更に含む。発現カセットの側方には逆方向末端反復(ITR)が位置する。
【
図16-6】AAVss-SkSH4-Des-MVM-FST-2A-Luc2プラスミド構築物のヌクレオチド配列(配列番号45)。
【
図16-7】AAVss-SkSH4-Des-MVM-FST-2A-Luc2プラスミド構築物のヌクレオチド配列(配列番号45)(続き)。
【
図16-8】AAVss-SkSH4-Des-MVM-FST-2A-Luc2プラスミド構築物のヌクレオチド配列(配列番号45)(続き)。
【
図17】
図17:左から右へ、PBS(コントロール)、AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Luc、AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1、又はAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-LucとAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1との組合せを注射したMDX-SCIDマウスについてのトレッドミル試験。結果は、トレッドミル装置上を走ったとき各マウス群が走破した計算上の距離として表す。
【
図18】
図18:(A)PBS(a、コントロール)、AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Luc(b)、AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1(c)、又はAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1とAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucとの組合せ(d)を注射したMDX/SCIDマウスの腓腹筋組織のヘマトキシリン/エオシン染色。(B)野生型C57Bl/6マウス、未処置MDX/SCIDマウス(コントロール)及びAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1(MD1)、AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Luc(FST)又は両(FST+MD1)治療ベクターを注射したMDX/SCIDマウスにおける中心に核を有する細胞の定量。統計解析は、パラフィン包埋腓腹筋のH&E染色筋線維横断切片について行った。*** ≦0,0001、** ≦0,001、* ≦0,05。
【
図19-1】
図19A及び19B:AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1ベクター(A)、又はAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1とAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucとの組合せ(B)を静脈内注射したマウスの心臓組織及び筋組織(腓腹筋及び四頭筋)における、内因性ハウスキーピング遺伝子(GAPDH:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の発現と対比した、マイクロジストロフィン1(MD1)のmRNAレベル。結果をMD1の相対的発現(ΔΔCT)として示す。
【
図19-2】
図19C:AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST(C)を静脈内注射したマウスの心臓組織及び筋組織(腓腹筋及び四頭筋)における、内因性ハウスキーピング遺伝子(GAPDH:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の発現と対比した、フォリスタチン(FST)(C)のmRNAレベル。結果をFSTの相対的発現(ΔΔCT)として示す。
【
図20】
図20は、本明細書に開示の自己相補性(sc)AAV構築物の概略図を示す。この構築物は、(a)心筋及び骨格筋特異的デスミン(Desmin)プロモーター、(b)SPc5-12プロモーター、(c)サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、(d)上流にクローニングされた筋特異的(Sk-SH)核酸調節エレメントに作動可能に連結したデスミンプロモーター、又は(e)上流にクローニングされた筋特異的(Sk-SH)核酸調節エレメントに作動可能に連結したSPc5-12プロモーターにより調節されるルシフェラーゼ(Luc)導入遺伝子を含む。発現カセット(a)、(b)、(d)及び(e)は、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン及びポリアデニル化シグナル(pA)を更に含む。発現カセットの側方には逆方向末端反復(ITR)が位置する。
【
図21】
図21:左から右へ、
図20に概略を示したAAVsc-CMV-Luc、AAVsc-Des-MVM-Luc、AAVsc-Sk-SH4-Des-MVM-Luc、AAVsc-SPc5-12-MVM-Luc又はAAVsc-Sk-SH4-SPc5-12-MVM-Lucベクターを静脈注射したCB17/IcrTac/Prkdcscidマウスの選択組織におけるLuc mRNAレベルの、AAVsc-CMV-Lucベクターを注射したマウスと比較した差。Luc mRNAレベルは、示した組織の生検から抽出したトータルRNAからのqRT-PCRにより測定した。結果を平均±標準誤差として示した;* p<0.05;** p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0024】
説明
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」には、その文脈がそうでないことを明確に述べているときを除き、指称物の単数形及び複数形の両方が含まれるものとする。
用語「含んでなる」は、本明細書で使用する場合、「含む」又は「含有する」と同義であり、限定的な表現ではなく、言及されてない追加のメンバー、要素又は工程を排除しておらず、これらを更に含み得る。この用語は、(特許の用語法において十分に確立された意味を有する)「からなる」及び「から本質的になる」もまた包含する。
端点による数値範囲の記載には、それぞれの範囲内に含まれる全ての数字及び端数並びに記載の端点が含まれる。
【0025】
用語「約」又は「およそ」は、本明細書で使用する場合、測定可能な値、例えば、パラメータ、量、期間などに言及するものであるときには、当該特定値の/からの変動(例えば当該特定値の/からの±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、尚より好ましくは±0.1%以下)を包含するものとする(ただし、当該変動が本開示発明の実施に適切である限りにおいて)。修飾語「約」が言及する値はそれ自体が具体的に、そして好適に開示されていることを理解すべきである。
用語「1又はそれより多い」又は「少なくとも1つ」(例えば、一群のメンバーの少なくとも1つのメンバー或いは1又はそれより多いメンバー)はそれ自体明確であるが、更なる例示として、この用語は、とりわけ、当該メンバーの任意の1つ、又は当該メンバーの任意の2つ若しくはそれより多く(例えば、当該メンバーの任意の3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上若しくは7つ以上など)、そして最大で当該メンバーの全てへの言及を包含する。別の1つの例においては、「1又はそれより多い」又は「少なくとも1つ」とは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又はそれより多くであってもよい。
【0026】
本明細書における発明の背景の記載は、本発明の状況を説明するために含ませたものである。当該記載は、言及したいずれかの事項が本願優先日当時にいずれかの国において既に公開され、公知であり、又は技術常識の一部であったことを自認するものとして捉えるべきではない。
本開示を通して、種々の刊行物、特許及び公開された特許出願には、特定した引用によって言及する。本明細書で引用した全ての文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。具体的には、本明細書で具体的に言及した文献の教示又は節(section)が参照により組み込まれる。
特に断らない限り、本発明の開示に使用する全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者が共通して理解する意味を有する。用語の定義は、更なるガイダンスとして、本発明の教示をより良好に理解するために含ませたものである。特定の用語が本発明の特定の観点又は本発明の特定の実施形態に関連して規定されている場合、その意味は、特に断らなければ、本明細書を通して、すなわち本発明の他の観点又は実施形態に関しても、適用されるものとする。
【0027】
以下で、本発明の種々の観点又は実施形態をより詳細に述べる。述べた各観点又は実施形態は、明確にそうでないと示していない限り、その他の任意の観点又は実施形態と組み合わせてもよい。具体的には、好ましい又は有利であるとして示された任意の特徴を、好ましい又は有利であるとして示されたその他の任意の特徴と組み合わせてもよい。
本明細書を通して、「1つの実施形態」への言及は、当該実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。よって、本明細書の諸所に現れる句「1つの実施形態において」は、必ずしも、全てが同じ実施形態に言及するものではないが、そうであってもよい。更に、当該特定の特徴、構造又は特性を、1つ又はそれより多い実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な様式で組み合わせてもよい。更に、本明細書に記載の幾つかの実施形態は、その他の実施形態に含まれる幾つかの特徴を含み、その他の特徴は含まないが、当業者が理解するように、異なる実施形態の特徴の組合せは本発明の範囲内のものとし、異なる実施形態を構成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求された実施形態のいずれも、任意の組合せで用いることができる。
本発明に関する一般的方法に関しては、とりわけ、周知の教科書(例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版」(Sambrookら,1989)、「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubelら,1987)を含む)を参照する。
【0028】
1つの観点において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列、若しくはその機能的フラグメント(すなわち、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13又は前記配列のいずれかと高いパーセンテージの配列同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメント)を含んでなるか、該選択配列若しくは機能的フラグメントから本質的になるか(この場合、調節エレメントは、例えば、クローニング目的に用いられる配列を追加的に含んでもよいが、示した配列は、該調節エレメントの本質的部分を形成し、例えば、より大きな調節領域(例えばプロモーター)の一部を構成しない)、又は該選択配列若しくは機能的フラグメントからなる、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0029】
「調節エレメント」とは、本明細書で使用する場合、遺伝子の転写、特に遺伝子の組織特異的転写を調節及び/又は制御することができる転写制御エレメント、特に非コーディングのシス作用性転写制御エレメントをいう。調節エレメントは、少なくとも1つの転写因子結合部位(TFBS)、より具体的には少なくとも1つの組織特異的転写因子結合部位、最も具体的には少なくとも1つの筋特異的転写因子結合部位を含んでなる。代表的には、調節エレメントは、本明細書で使用する場合、プロモーター単独(調節エレメントなし)からの遺伝子の転写と比較して、プロモーター駆動遺伝子発現を増大又は増強させる。よって、調節エレメントは具体的にはエンハンサー配列を含むが、転写を増強する調節エレメントは、典型的な、遥か上流のエンハンサー配列に限定されず、それらが調節する遺伝子から任意の距離に現れ得ることを理解すべきである。実際、転写を調節する配列は、インビボでそれらが調節する遺伝子の上流(例えば、プロモーター領域中)又は下流(例えば、3'UTR中)のいずれにも位置し得、該遺伝子の極近傍に又は更に遠く離れて位置し得ることは当該分野において公知である。注目すべきことには、本明細書に開示の調節エレメントは、代表的には、天然に存在する配列、調節エレメント(又はその部分)の組合せ又は調節エレメントの幾つかのコピーを含んでなる。すなわち、天然に存在しない配列を含んでなる調節エレメントそれ自体も、調節エレメントとして意図される。調節エレメントは、本明細書で使用する場合、転写制御に関与するより大きな配列の一部、例えば、プロモーター配列の一部を含んでもよい。しかし、調節エレメント単独は、代表的には、転写を開始するには十分でなく、この目的にはプロモーターを必要とする。本明細書に開示の調節エレメントは、核酸分子、すなわち単離された核酸又は単離された核酸分子として提供される。よって、この核酸調節エレメントは、天然に存在するゲノム配列の小部分に過ぎず、したがってそれ自体としては天然に存在しない配列であって、ゲノム配列から単離される配列を有する。
【0030】
用語「核酸」とは、本明細書で使用する場合、代表的には、ヌクレオチドから本質的に構成される任意の長さのオリゴマー又はポリマー(好ましくは線形ポリマー)をいう。ヌクレオチド単位は、一般に、複素環式塩基、糖基及び少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ又は3つ)のリン酸基(改変又は置換リン酸基を含む)を含有する。複素環式塩基としては
、とりわけ、プリン及びピリミジン塩基、例えば、天然に存在する核酸に一般的なアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)及びウラシル(U)、他の天然に存在する塩基(例えば、キサンチン、イノシン、ヒポキサンチン)並びに化学的若しくは生化学的に改変された(例えば、メチル化された)非天然の若しくは誘導体化された塩基が挙げられ得る。糖基としては、とりわけ、ペントース(ペントフラノース)基、例えば好ましくは天然に存在する核酸に一般的なリボース及び/又は2-デオキシリボース、又はアラビノース、2-デオキシアラビノース、トレオース若しくはヘキソース糖基、並びに改変又は置換糖基が挙げられ得る。本明細書において意図される核酸としては、天然に存在するヌクレオチド、改変ヌクレオチド又はそれらの混合物が挙げられ得る。改変ヌクレオチドとしては、改変複素環塩基、改変糖部分、改変リン酸基又はそれらの組合せが挙げられ得る。リン酸基又は糖の改変は、安定性、酵素的分解に対する抵抗性又は他の幾つかの有用な性質を改善するために導入され得る。用語「核酸」は、更に好ましくは、DNA、RNA及びDNA/RNAハイブリッド分子を包含し、具体的には、hnRNA、pre-mRNA、mRNA、cDNA、ゲノムDNA、増幅産物、オリゴヌクレオチド及び合成(例えば、化学合成された)DNA、RNA又はDNA/RNAハイブリッドを含む。核酸は、天然に存在するものであることができ、例えば、天然に存在し若しくは天然から単離されることができ;又は天然に存在しないもの、例えば組換え物であることができ、すなわち、組換えDNA技術により製造され及び/又は部分的若しくは全体的に、化学的若しくは生化学的に合成されることができる。「核酸」は、二本鎖、部分的に二本鎖又は一本鎖であることができる。一本鎖である場合、核酸は、センス鎖又はアンチセンス鎖であることができる。加えて、核酸は環状又は線状であることができる。
【0031】
本明細書で使用する場合、「転写因子結合部位」、「転写因子結合配列」又は「TFBS」とは、転写因子が結合する核酸領域の配列をいう。TFBSの非限定的な例としては、転写因子3(TCF3又はE2Aとしても知られる)の結合部位;核因子I(NF1としても知られる)の結合部位;CCAAT-エンハンサー結合性タンパク質(C/EBPとしても知られる)の結合部位;筋原性分化(MyoDとしても知られる)の結合部位;ステロール調節エレメント結合性タンパク質(SREBPとしても知られる)の結合部位;白血病/リンパ腫関連因子(LRFとしても知られる)の結合部位;タンパク質53(p53としても知られる)の結合部位;肝細胞核因子3-α(HNF3aとしても知られる)の結合部位;肝細胞核因子3-β(HNF3bとしても知られる)の結合部位;肝細胞核因子4(HNF4としても知られる)の結合部位;筋細胞特異的エンハンサー因子2A(MEF2A又はRSRFC4としても知られる)の結合部位;ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター(PPARとしても知られる)の結合部位;血清応答因子(SRFとしても知られる)の結合部位;転写活性化因子様タンパク質1b(Tal1_bとしても知られる)の結合部位が挙げられる。転写因子結合部位はデータベース(例えばTransfac(登録商標))において見出し得る。
【0032】
本明細書に開示の配列は、筋特異的遺伝子の転写をインビボで制御するとことができる、具体的には次の遺伝子:デスミン(DES、CSM1又はCSM2としても知られる);アクチニン α2(ACTN2又はCMD1AAとしても知られる);フィラミン-C(FLNC)(アクチン結合性様タンパク質(ABLP)、フィラミン-2(FLN2)、ABP-280、ABP280A、ABPA、ABPL、MFM5又はMPD4としても知られる);筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ1(ATP2A1、ATP2A又はSERCA1としても知られる);トロポニンIタイプ1(遅筋)(TNNI1、SSTNI又はTNN1としても知られる);ミオシン軽鎖リン酸化可能速筋(MYLPF);ミオシン-1(MYH1、MYHSA1、MYHaとしても知られる);MyHC-2X/D又はMyHC-2x;トロポミオシンα-3鎖(TPM3、CFTD、NEM1、OK/SW-cl.5、TM-5、TM3、TM30、TM30nm、TM5、TPMsk3、TRK、hTM5又はhscp30としても知られる);及びアンキリン反復ドメイン含有タンパク質2(ANKRD2又はARPPとしても知られる)を制御することができる調節エレメントの配列の一部であり得る。したがって、実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、Des調節エレメント、すなわちDes遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号1、配列番号17、配列番号2、配列番号18又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、ACTN2調節エレメント、すなわちACTN2遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号3、配列番号19、配列番号4、配列番号20又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、FLNC調節エレメント、すなわちFLNC遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号5、配列番号21、配列番号6、配列番号22又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、ATP2A1調節エレメント、すなわちATP2A1遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号7、配列番号23又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、TNNI1調節エレメント、すなわちTNNI1遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号8、配列番号24、配列番号9、配列番号25又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、MYLPF調節エレメント、すなわちMYLPF遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号10、配列番号26又はそれらの機能的フラグメントを含んでなる調節エレメント(例えば、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40又は配列番号41を含むか又はこれらのいずれかからなる調節エレメント)に由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、MYH1調節エレメント、すなわちMYH1遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号11、配列番号27又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、TPM3調節エレメント、すなわちTPM3遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号12、配列番号28又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。実施形態において、本明細書に開示の核酸調節エレメントは、ANKRD2調節エレメント、すなわちANKRD2遺伝子の発現をインビボで制御する調節エレメント、例えば、配列番号13、配列番号29又はそれらの機能的フラグメントを含む調節エレメントに由来する配列を含んでなる。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「同一性」及び「同一」並びにこれに類する表現は、2つのポリマー分子間、例えば2つの核酸分子間、例えば2つのDNA分子間の配列類似性をいう。配列アラインメント及び配列同一性の決定は、例えば、Altschulら,1990(J Mol Biol 215:403-10)により最初に記載されたBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)、例えばTatusova and Madden 1999(FEMS Microbiol Lett 174:247-250)により記載された「Blast 2 sequences」アルゴリズムを用いて行うことができる。代表的には、パーセンテージでの配列同一性は、当該配列の全長にわたって算出する。本明細書で使用する場合、用語「実質的に同一」は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性をいう。
用語「機能的フラグメント」とは、本出願で用いる場合、本明細書に開示の調節エレメント配列の、筋特異的発現を調節する能力を保持するフラグメントをいう。すなわち、フラグメントは、組織特異性を依然として付与することができ、それが由来する配列と(おそらくは、同じ程度ではないが)同じ様式で(導入)遺伝子の発現を調節する能力を有する。機能的フラグメントは、好ましくは、それが由来する配列からの少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも350又は少なくとも400の連続ヌクレオチドを含んでなり得る。また、好ましくは、機能的フラグメントは、それが由来する配列に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ又は少なくとも4つ、尚より好ましくは少なくとも5つ、少なくとも10又は少なくとも15を含んでなり得る。
【0034】
「筋特異的発現」とは、本願で使用する場合、他の(すなわち非筋肉)組織と比較して、筋肉又は筋組織における(導入)遺伝子の優先的又は優勢な発現(RNA及び/又はポリペプチドとして)をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が筋肉で生じる。1つの特定の実施形態によれば、筋特異的発現は、遺伝子発現産物の筋肉以外の器官又は組織、例えば肺、肝臓、脳、腎臓及び/又は脾臓への「漏れ」がないという結果をもたらす。
本明細書で使用する場合、「心筋及び骨格筋特異的発現」とは、心臓(特に心筋)及び骨格筋における(導入)遺伝子の優先的又は優勢な発現をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が心臓及び骨格筋で生じる。よって、特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満が心臓及び骨格筋以外の器官又は組織で生じる。
【0035】
本明細書で使用する場合、「骨格筋特異的発現」とは、骨格筋における(導入)遺伝子の優先的又は優勢な発現をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が骨格筋で生じる。よって、特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満が骨格筋以外の器官又は組織で生じる。
同じことが、適切な変更を加えて、筋細胞特異的及び筋芽細胞特異的発現(これらは筋特異的発現の特定の形態と考えてよい)に適用される。本出願を通して、発現に関して筋特異的に言及する場合、筋細胞特異的発現及び筋芽細胞特異的発現も明白に認識される。同様に、本願において心筋及び骨格筋特異的発現を用いる場合には、心筋細胞及び骨格筋細胞特異的発現並びに心筋筋芽細胞及び骨格筋筋芽細胞特異的発現も明白に認識される。同様に、本願において骨格筋特異的発現を用いる場合、骨格筋細胞特異的及び骨格筋筋芽細胞特異的発現も明白に認識される。
【0036】
本明細書で使用する場合、用語「心筋」とは、心臓に見出される自律調節性の横紋筋タイプの筋肉をいう。
本明細書で使用する場合、用語「骨格筋」とは、骨格に付着している随意制御性の横紋筋タイプの筋肉をいう。骨格筋の非限定的な例としては、二頭筋、三頭筋、四頭筋、前脛骨筋(tibialis interior)及び腓腹筋が挙げられる。
用語「筋細胞」とは、本明細書で使用する場合、適切な条件下で筋特異的表現型を発現することができるように始原筋芽細胞から分化した細胞をいう。最終的に分化した筋細胞は互いに融合して筋線維の主要な構成要素である筋管を形成する。用語「筋細胞」は脱分化した筋細胞をもいう。この用語には、インビボの細胞及びエキソビボで培養された細胞(当該細胞が初代であるか継代されているかにかかわらず)が含まれる。
用語「筋芽細胞」とは、本明細書で使用する場合、筋細胞を生じるように分化する中胚葉の胚性細胞をいう。この用語には、インビボの細胞及びエキソビボで培養された細胞(当該細胞が初代であるか継代されているかにかかわらず)が含まれる。
【0037】
実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、それが由来する配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含み、該由来配列中に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む機能的フラグメントを含んでなるか、該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該機能的フラグメントからなる、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0038】
更なる実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、それが由来する配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含み、該由来配列中に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む機能的フラグメントを含んでなる、心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0039】
尚更なる実施形態において、本発明は、配列番号1及び配列番号5又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、配列番号1の33位~58位のヌクレオチド配列;配列番号1の90位~142位のヌクレオチド配列;配列番号1の143位~233位のヌクレオチド配列;配列番号1の240位~310位のヌクレオチド配列;配列番号1の90位~233位のヌクレオチド配列;配列番号5の47位~130位のヌクレオチド配列;配列番号5の252位~293位のヌクレオチド配列;又は配列番号5の330位~450位のヌクレオチド配列からなる機能的フラグメントを含んでなる、心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0040】
更なる実施形態において、本発明は、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントであって、それが由来する配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含み、該由来配列中に存在する転写因子結合部位(TFBS)の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む機能的フラグメントを含んでなる、骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0041】
尚更なる実施形態において、本発明は、配列番号10又は配列番号10と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列の機能的フラグメントであって、配列番号10の10位~180位のヌクレオチド配列;配列番号10の190位~240位のヌクレオチド配列;配列番号10の241位~300位のヌクレオチド配列;配列番号10の241位~360位のヌクレオチド配列;又は配列番号10の380位~420位のヌクレオチド配列からなる機能的フラグメントを含んでなる、骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0042】
特定の実施形態において、本発明の核酸調節エレメントは、配列番号1の33位~58位のヌクレオチド配列;配列番号1の90位~142位のヌクレオチド配列;配列番号1の143位~233位のヌクレオチド配列;配列番号1の240位~310位のヌクレオチド配列;配列番号1の90位~233位のヌクレオチド配列;配列番号5の47位~130位のヌクレオチド配列;配列番号5の252位~293位のヌクレオチド配列;配列番号5の330位~450位のヌクレオチド配列;配列番号10の10位~180位のヌクレオチド配列;配列番号10の190位~240位のヌクレオチド配列;配列番号10の241位~300位のヌクレオチド配列;配列番号10の241位~360位のヌクレオチド配列;配列番号10の380位~420位のヌクレオチド配列;又は前記配列のいずれかと少なくとも95%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、又は該選択配列からなる。
【0043】
特定の実施形態において、本発明の核酸調節エレメントは、配列番号1の33位~310位のヌクレオチド配列;配列番号5の47位~450位のヌクレオチド配列;配列番号10の10位~420位のヌクレオチド配列又は前記配列のいずれかと少なくとも95%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、又は該選択配列からなる。
更なる実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントを提供する。
【0044】
尚更なる実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなる、心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントを提供する。
尚更なる実施形態において、本発明は、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる、骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントを提供する。
【0045】
更なる実施形態において、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントは、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、その機能的フラグメントであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12若しくは配列番号13を含む機能的フラグメント、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる。
【0046】
更なる実施形態において、心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントは、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、その機能的フラグメントであって、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5若しくは配列番号6を含んでなる機能的フラグメント、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる。
【0047】
更なる実施形態において、骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントは、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、その機能的フラグメントであって、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12若しくは配列番号13を含んでなる機能的フラグメント、又はこれら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる。
【0048】
2又はそれより多い本明細書に開示の同一の若しくは異なる配列又はその機能的フラグメントを組み合わせることにより人工的配列を含んでなる核酸調節エレメントを作製することも可能である。したがって、或る特定の実施形態において、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列、又はそれらの機能的フラグメントからなる群より選択される少なくとも2つの配列を含んでなる、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントが提供される。
【0049】
また、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、これら配列のいずれかと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列、又はそれらのフラグメントからなる群より選択される少なくとも2つの配列を含んでなる、筋特異的遺伝子発現、特に心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントが本明細書に開示される。
また、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列、又はそれらのフラグメントからなる群より選択される少なくとも2つの配列を含んでなる、筋特異的遺伝子発現、特に骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントが本明細書に開示される。
【0050】
例えば、配列番号1及び配列番号5を含んでなるか、配列番号1及び配列番号5から本質的になるか、又は配列番号1及び配列番号5からなる核酸調節エレメント;配列番号1及び配列番号10を含んでなるか、配列番号1及び配列番号10から本質的になるか、又は配列番号1及び配列番号10からなる核酸調節エレメント;配列番号1、配列番号5及び配列番号10を含んでなるか、配列番号1、配列番号5及び配列番号10から本質的になるか、又は配列番号1、配列番号5及び配列番号10からなる核酸調節エレメント;配列番号1の2、3、4又は5つの反復(例えばタンデム反復)を含んでなるか、該反復から本質的になるか、又は該反復からなる核酸調節エレメント;配列番号5の2、3、4又は5つの反復(例えばタンデム反復)を含んでなるか、該反復から本質的になるか、又は該反復からなる核酸調節エレメント;又は、配列番号10の2、3、4又は5つの反復(例えばタンデム反復)を含んでなるか、該反復から本質的になるか、又は該反復からなる核酸調節エレメントが本明細書に開示される。
【0051】
人工的配列を含んでなる核酸調節エレメントの特定の例としては、本明細書に開示の配列に存在する転写因子結合部位(TFBS)を再配置することにより取得される調節エレメントが挙げられる。前記再配置には、TFBSの順序を変更すること及び/又は1若しくはそれより多いTFBSの位置を他のTFBSに関して変更すること及び/又はTFBSのうちの1若しくはそれより多くのコピー数を変更することが含まれ得る。例えば、E2A、HNH1、NF1、C/EBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はE2A、NF1、p53、C/EBP、LRF及びSREBPの結合部位;又はE2A、HNH1、HNF3a、HNF3b、NF1、C/EBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はE2A、HNF3a、NF1、C/EBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はE2A、HNF3a、NF1、CEBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はHNF4、NF1、RSRFC4、C/EBP、LRF及びMyoD、又はNF1、PPAR、p53、C/EBP、LRF及びMyoDの結合部位を含んでなる、筋特異的遺伝子発現、特に心筋及び骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントもまた本明細書に開示される。例えば、E2A、NF1、SRFC、p53、C/EBP、LRF及びMyoDの結合部位;又はE2A、NF1、C/EBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はE2A、HNF3a、C/EBP、LRF、MyoD、SEREBP及びTal1_bの結合部位;又はE2A、SRF、p53、C/EBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はHNF4、NF1、RSRFC4、C/EBP、LRF及びSREBPの結合部位;又はE2A、HNF3a、HNF3b、NF1、SRF、C/EBP、LRF、MyoD及びSREBPの結合部位;又はE2A、CEBP及びMyoDの結合部位を含んでなる、筋特異的遺伝子発現、特に骨格筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントもまた本明細書に開示される。更なる例において、これら核酸調節エレメントは、記載されたTFBSのうちの1又はそれより多くの少なくとも2つ、例えば2、3、4又はそれより多くのコピーを含んでなる。
【0052】
調節エレメントが、(例えば一本鎖AAVベクターを用いて)一本鎖核酸として提供される場合、その相補鎖は開示配列の均等物とみなす。よって、本明細書に記載の配列、特に、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列、又はその機能的フラグメントからなる群より選択される配列の相補鎖を含んでなるか、該相補鎖から本質的になるか、又は該相補鎖からなる、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントもまた本明細書に開示される。
【0053】
本明細書に記載の核酸調節エレメント、特に、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列、それらの機能的フラグメント又はそれらの相補鎖からなる群より選択される配列を含んでなるか、該選択配列から本質的になるか、又は該選択配列からなる核酸調節エレメントとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、筋特異的遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントもまた本明細書に開示される。この核酸調節エレメントは、それがハイブリダイズする配列と長さが等しいものである必要はない。好適な実施形態において、前記のようなハイブリダイズする核酸調節エレメントのサイズは、それがハイブリダイズする配列の長さの25%を超えて、特には20%を超えて、より具体的には15%を超えて、とりわけ10%を超えて異ならない。
【0054】
表現「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、核酸分子が温度及び塩濃度の規定条件下で標的核酸分子にハイブリダイズする能力をいう。代表的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、天然型二重鎖の融解温度(Tm)より25℃~30℃(例えば、20℃、15℃、10℃又は5℃)を超えて下回らない。Tmの算出法は当該分野において周知である。非限定的な例として、ストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成するための代表的な塩及び温度条件は、1×SSC、0.5% SDS、65℃である。略号SSCとは、核酸ハイブリダイゼーション溶液に使用する緩衝液をいう。1リットルの20×(20倍濃縮物)ストックSSC緩衝溶液(pH7.0)は、175.3gの塩化ナトリウム及び88.2gのクエン酸ナトリウムを含有する。ハイブリダイゼーションを達成するための代表的な期間は12時間である。
【0055】
好ましくは、本明細書に記載のとおりの調節エレメントは、限定された長さのものでありつつ、十分に機能的である。このことにより、調節エレメントは、その搭載能力を不当に制限されることなく、ベクター又は核酸発現カセットにおける使用が可能になる。したがって、実施形態において、本明細書に開示の調節エレメントは、1500ヌクレオチド以下、1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、より好ましくは600ヌクレオチド以下、例えば550ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、450ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、350ヌクレオチド以下、又は300ヌクレオチド以下の核酸である(すなわち、核酸調節エレメントは、1500ヌクレオチド、1000ヌクレオチド、900ヌクレオチド、800ヌクレオチド、700ヌクレオチド、好ましくは600ヌクレオチド、例えば550ヌクレオチド、500ヌクレオチド、450ヌクレオチド、400ヌクレオチド、350ヌクレオチド又は300ヌクレオチドの最大長を有する)。
しかし、本開示の核酸調節エレメントは、調節活性(すなわち、特異性及び/又は転写活性に関する調節活性)を保持しているため、特に、20ヌクレオチド、25ヌクレオチド、30ヌクレオチド、35ヌクレオチド、40ヌクレオチド、45ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、150ヌクレオチド、200ヌクレオチド、250ヌクレオチド、300ヌクレオチド、350ヌクレオチド又は400ヌクレオチドの最短長を有すると理解されるべきである。
【0056】
特定の実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、これら配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、尚より好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列、又はその機能的フラグメントからなる群より選択される配列を含んでなる、筋特異的遺伝子発現のための、1000ヌクレオチド以下、好ましくは600ヌクレオチド以下、例えば550ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、450ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、350ヌクレオチド以下又は300ヌクレオチド以下の核酸調節エレメントを提供する。
本明細書に開示の核酸調節エレメントは、核酸発現カセット中で使用してもよい。したがって、1つの観点において、本発明は、本明細書に記載のとおりの核酸調節エレメントの核酸発現カセットにおける使用を提供する。
【0057】
1つの観点において、本発明は、プロモーターに作動可能に連結した本明細書に記載のとおりの核酸調節エレメントを含んでなる核酸発現カセットを提供する。実施形態において、核酸発現カセットは導入遺伝子を含有しない。このような核酸発現カセットは、内因性遺伝子の発現を駆動するために使用し得る。好適な実施形態において、核酸発現カセットは、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した本明細書に記載のとおりの核酸調節エレメントを含んでなる。
本明細書で使用する場合、用語「核酸発現カセット」とは、1又はそれより多い所望の細胞タイプ、組織又は器官における(導入)遺伝子発現を導く1又はそれより多い転写制御エレメント(例えば、限定されないが、プロモーター、エンハンサー及び/又は調節エレメント、ポリアデニル化配列及びイントロン)を含む核酸分子をいう。代表的には、核酸発現カセットは、導入遺伝子も含有するが、該核酸カセットが挿入された細胞において内因性遺伝子の発現を導くこともまた認識される。
【0058】
用語「作動可能に連結した」とは、本明細書で使用する場合、種々の核酸分子エレメントが機能的に接続し、互いに相互作用できるような各々との関係で配置されていることをいう。このようなエレメントとしては、プロモーター、エンハンサー及び/又は調節エレメント、ポリアデニル化配列、1又はそれより多いイントロン及び/又はエキソン並びに発現させるべき対象の遺伝子(すなわち、導入遺伝子)のコーディング配列が挙げられるが、これらに限定されない。核酸配列エレメントは、適切に配向されるか又は作動可能に連結しているときには一緒に作用して、互いの活性をモジュレートし、最終的には導入遺伝子の発現レベルに影響し得る。「モジュレート」とは、特定のエレメントの活性レベルを増大させ、減少させ又は維持させることを意味する。各エレメントの他のエレメントに対する位置は、各エレメントの5'末端及び3'末端について表してもよく、任意の特定のエレメント間の距離は、当該エレメント間に介在するヌクレオチド又は塩基対の数で言及してもよい。当業者が理解するように、「作動可能に連結した」とは、機能的活性を意味し、必ずしも、天然の位置的連関に関しない。事実、核酸発現カセットに使用する場合、調節エレメントは、代表的には、プロモーターの直ぐ上流に位置する(このことは一般的に当てはまるが、決して、核酸発現カセット内での位置の制限又は除外と解釈すべきでない)が、このことはインビボでは必要ない。例えば、天然では遺伝子の下流に存在し、該遺伝子の転写に影響を及ぼす調節エレメント配列は、プロモーターの上流に位置しても、同じ様式で機能することがある。よって、1つの具体的実施形態によれば、調節エレメントの調節効果又は増強効果は位置に非依存性である。
【0059】
特定の実施形態において、核酸発現カセットは、1つの本明細書に記載のとおりの核酸調節エレメントを含んでなる。代替の実施形態において、核酸発現カセットは、2又はそれより多く、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の本明細書に記載のとおりの核酸調節エレメントを含んでなる。すなわち、核酸調節エレメントは、調節(及び/又は増強)効果が増強されるように、モジュール様式で組み合わされる。更なる実施形態において、当該2又はそれより多い核酸調節エレメントの少なくとも2つは、同一であるか又は実質的に同一である。尚更なる実施形態において、当該2又はそれより多い核酸調節エレメントの全てが同一であるか又は実質的に同一である。当該同一であるか又は実質的に同一である核酸調節エレメントのコピーは、核酸発現カセットにおいてタンデム反復として提供されてもよい。更なる代替の実施形態において、当該2又はそれより多い核酸調節エレメントの少なくとも2つは互いに異なる。核酸発現カセットは、同一であるか又は実質的に同一である核酸調節エレメントと非同一の核酸調節エレメントとの組合せを含んでなってもよい。
【0060】
例えば、核酸発現カセットは、配列番号1を含む核酸調節エレメント及び配列番号5を含む核酸調節エレメントを含んでなってもよく;又は、核酸発現カセットは、配列番号1を含む核酸調節エレメント及び配列番号10を含む核酸調節エレメントを含んでなってもよく;又は、核酸発現カセットは、配列番号1を含む核酸調節エレメント、配列番号5を含む核酸調節エレメント及び配列番号10を含む核酸調節エレメントを含んでなってもよく;又は、核酸調節エレメントは、配列番号1を含む、2、3、4又は5つの核酸調節エレメントを含んでなってもよく;又は、核酸調節エレメントは、配列番号5を含む、2、3、4又は5つの核酸調節エレメントを含んでなってもよく;又は、核酸調節エレメントは、配列番号10を含む、2、3、4又は5つの核酸調節エレメントを含んでなってもよい。
【0061】
本願において使用する場合、用語「プロモーター」とは、それが作動可能に連結した対応の核酸コーディング配列(例えば、導入遺伝子又は内因性遺伝子)の転写を直接又は間接に調節する核酸配列をいう。プロモーターは、単独で、転写を調節するように機能してもよく、又は1若しくはそれより多い他の調節配列(例えば、エンハンサー若しくはサイレンサー又は調節エレメント)との組合せで作用してもよい。本願に関しては、プロモーターは、代表的には、(導入)遺伝子の転写を調節するように、本明細書に開示のとおりの調節エレメントに作動可能に連結している。本明細書に記載のとおりの調節エレメントは、プロモーター及び導入遺伝子の両方に作動可能に連結している場合、(1)インビボ(及び/又はインビトロで筋芽細胞、筋細胞若しくは筋由来細胞株、特に心筋及び骨格筋の若しくは骨格筋の筋芽細胞、心筋及び骨格筋の若しくは骨格筋の筋細胞、又は心筋及び骨格筋由来の若しくは骨格筋由来の細胞株)において、有意な程度の筋特異的、特に心筋及び骨格筋特異的又は骨格筋特異的な導入遺伝子の発現を付与することができ、及び/又は(2)筋肉、特に心筋及び骨格筋又は骨格筋(及び/又はインビトロで筋芽細胞、筋細胞若しくは筋由来細胞株、特に心筋及び骨格筋の若しくは骨格筋の筋芽細胞、心筋及び骨格筋の若しくは骨格筋の筋細胞、又は心筋及び骨格筋由来の若しくは骨格筋由来の細胞株)において導入遺伝子の発現レベルを増大させることができる。
【0062】
プロモーターは、同種(すなわち、核酸発現カセットをトランスフェクトすべき動物(特に哺乳動物)と同じ種に由来)であっても、異種(すなわち、発現カセットをトランスフェクトすべき動物(特に哺乳動物)の種以外の供給源に由来)であってもよい。このため、プロモーターの供給源は、任意のウイルス、任意の単細胞の原核生物若しくは真核生物、任意の脊椎若しくは無脊椎生物又は任意の植物であってもよく、或いは合成プロモーター(すなわち、天然に存在しない配列を有するもの)であってさえよい(ただし、該プロモーターが本明細書に記載の調節エレメントとの組合せで機能的であることを前提とする)。好適な実施形態において、プロモーターは哺乳動物プロモーター、特にマウス又はヒトプロモーターである。
プロモーターは、誘導性又は構成性プロモーターであり得る。
【0063】
本明細書に開示の核酸調節エレメントにおける筋特異的TFBSの富化により、原理上、調節エレメントは、それ自体は筋特異的でないプロモーターからでさえも、筋特異的発現を導くことが可能となる。よって、本明細書に開示の調節エレメントは、核酸発現カセットにおいて天然プロモーターとの組合せでも別のプロモーターとの組合せでも使用することができる。好ましくは、本明細書に開示の核酸発現カセットは筋特異的プロモーターを含んでなる。これは、筋特異性を増大させ及び/又は他の組織における発現の漏れを回避するためである。筋特異的プロモーターの非限定的な例としては、デスミン(DES)プロモーター、α2アクチニン(ACTN2)プロモーター、フィラミン-C(FLNC)プロモーター、筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ1(ATP2A1)プロモーター、トロポニンIタイプ1(TNNI1)プロモーター、ミオシン-1(MYH1)プロモーター、リン酸化可能速筋ミオシン軽鎖(MYLPF)プロモーター、α-3鎖トロポミオシン(TPM3)プロモーター、アンキリン反復ドメイン含有タンパク質2(ANKRD2)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、Liら(1999. Nat Biotechnol. 17:241-245)に記載されるような合成筋プロモーター、例えばSPc5-12プロモーター、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、Wangら(2008. Gene Ther. 15:1489-1499)に記載されるようなMCKエンハンサー~MCK基本プロモーターのそれぞれ二重タンデム又は三重タンデムからなるdMCKプロモーター及びtMCKプロモーターが挙げられる。
【0064】
特に好適な実施形態において、プロモーターは、哺乳動物の筋特異的プロモーター、特に、マウス又はヒトの筋特異的プロモーターである。
好適な実施形態において、プロモーターは、デスミン遺伝子由来、特にマウス又はヒトのデスミン遺伝子由来、例えば配列番号16に規定されるプロモーターである。例えば、マウスデスミンプロモーターはpDRIVE-mデスミン(Invivogen)として市販されている。デスミンプロモーターは心筋及び骨格筋の両方で発現される。
実施形態において、プロモーターは、骨格筋特異的プロモーター、特に筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、より特にはWangら(2008. Gene Ther. 15:1489-1499)に記載されるような、MCKエンハンサー及びMCK基本プロモーターの二重又は三重タンデムからなる二重MCKプロモーター又は三重MCKプロモーターである。
更に、プロモーターは、核酸発現カセット中の導入遺伝子のプロモーターである必要はないが、導入遺伝子は自身のプロモーターから転写されることも可能である。
【0065】
核酸発現カセットの長さを最小化するため、調節エレメントは、最小プロモーター又は本明細書に記載のプロモーターの短縮型に連結してもよい。「最小プロモーター」(基本プロモーター又はコアプロモーターとも呼ぶ)は、本明細書で使用する場合、発現を依然として駆動することはできるが、その配列の(例えば組織特異的)発現の調節に寄与する部分を少なくとも欠いている、完全サイズのプロモーターの一部である。この定義は、(組
織特異的)調節エレメントが欠失しており、遺伝子の発現を駆動することはできるが、組織特異的様式で当該遺伝子を発現させる能力を喪失しているプロモーター、及び、(組織特異的)調節エレメントが欠失しており、遺伝子の(おそらくは、減少した)発現を駆動することはできるが、組織特異的様式で当該遺伝子を発現させる能力を必ずしも喪失していないプロモーターの両方を包含する。好ましくは、本明細書に開示の核酸発現カセットに含まれるプロモーターは、長さが、1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下又は250ヌクレオチド以下である。
【0066】
用語「導入遺伝子」とは、本明細書で使用する場合、細胞において発現させるべきポリペプチド又は該ポリペプチドの一部分をコードする特定の核酸配列であって、当該細胞に導入される核酸配列をいう。しかし、導入遺伝子は、代表的には、当該核酸配列が挿入されている細胞における特定ポリペプチドの量を制御する(例えば、低下させる)ために、RNAとして発現させることも可能である。これらRNA分子としては、RNA干渉及びマイクロRNA調節により機能を発揮する分子(shRNA、RNAi、及びmiR)(これは特異的遺伝子の発現を制御するために用いることができる)、触媒性RNA、アンチセンスRNA、RNAアプタマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。核酸配列を細胞に導入する方法は、本発明にとって本質的でなく、例えばゲノムへの組込みによる導入又はエピソームプラスミドとしての導入であり得る。注目すべきことに、導入遺伝子の発現は、核酸配列が導入される細胞のサブセットに制限され得る。用語「導入遺伝子」は、(1)それが導入された細胞に天然には見出されない核酸配列(すなわち、異種核酸配列);(2)それが導入された細胞に天然に見出される核酸配列の変異形態である核酸配列;(3)それが導入された細胞に天然に存在する同じ(すなわち、同種の)又は類似の核酸配列の更なるコピーを加えるように働く核酸配列;又は(4)それが導入された細胞において発現が誘導されるサイレントな天然に存在するか又は同種の核酸配列を含むものとする。
【0067】
導入遺伝子は、プロモーター(及び/又は(例えば核酸発現カセットが遺伝子治療に使用される場合には)当該導入遺伝子が導入される動物(特に哺乳動物))に対して同種であっても異種であってもよい。
導入遺伝子は、全長cDNA若しくはゲノムDNA配列、又は少なくとも幾らかの生物学的活性を有する任意のそのフラグメント、サブユニット若しくは変異体であり得る。特に、導入遺伝子は、ミニ遺伝子、すなわち、そのイントロン配列の一部、ほとんど又は全部を欠く遺伝子配列であり得る。よって、導入遺伝子は、場合により、イントロン配列を含有してもよい。随意に、導入遺伝子は、ハイブリッド核酸配列、すなわち、同種及び/又は異種のcDNA及び/又はゲノムDNAフラグメントから構築されたものであり得る。「変異形態」は、野生型の若しくは天然に存在する配列とは異なる1又はそれより多いヌクレオチドを含有する核酸配列を意味するものとする。すなわち、変異体核酸配列は、1又はそれより多いヌクレオチド置換、欠失及び/又は挿入を含有する。ヌクレオチド置換、欠失及び/又は挿入は、野生型アミノ酸/核酸配列とはアミノ酸/核酸配列が異なる遺伝子産物(すなわち、タンパク質又は核酸)を生じることがある。そのような変異体の作製は当該分野において周知である。幾つかの場合には、導入遺伝子はまた、導入遺伝子産物が細胞から分泌されるように、リーダーペプチド又はシグナル配列をコードする配列を含んでもよい。
【0068】
本明細書に記載の核酸発現カセットに含まれ得る導入遺伝子は、代表的には、遺伝子産物、例えばRNA又はポリペプチド(タンパク質)をコードする。
実施形態において、導入遺伝子は治療用タンパク質をコードする。治療用タンパク質は分泌型タンパク質であり得る。分泌型タンパク質、特に分泌型治療用タンパク質の非限定的な例としては、凝固因子(例えば第VIII因子又は第IX因子)、インスリン、エリスロポエチン、リポタンパク質リパーゼ、抗体又はナノボディ、増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、血漿因子などが挙げられる。治療用タンパク質はまた構造タンパク質であり得る。構造タンパク質、特に治療用構造タンパク質の非限定的な例としては、ジストロフィン及びサルコグリカンが挙げられる。実施形態において、導入遺伝子は、マイクロジストロフィン1(MD1)遺伝子又はフォリスタチン(FST)遺伝子を含んでなる。
実施形態において、導入遺伝子は免疫原性タンパク質をコードする。免疫原性タンパク質の非限定的な例としては、病原体に由来するエピトープ及び抗原が挙げられる。
本明細書で使用する場合、用語「免疫原性」とは、免疫応答を惹起することができる物質又は組成物をいう。
【0069】
本明細書に開示の核酸発現カセットには、代表的には導入遺伝子産物の発現を更に増大又は安定化させるために、他の配列(例えば、イントロン及び/又はポリアデニル化配列)も組み込んでよい。
本明細書に記載の発現カセットには、任意のイントロンを利用することができる。用語「イントロン」は、全体イントロンの任意の一部であって、核のスプライシング装置により認識されスプライスされるに十分に大きい部分を包含する。代表的には、短い機能的イントロン配列が、発現カセットのサイズを可能な限り小さく維持するために好適であり、このことにより発現カセットの構築及び操作が容易になる。幾つかの実施形態において、イントロンは、発現カセット内のコーディング配列によりコードされるタンパク質をコードする遺伝子から得る。イントロンは、コーディング配列の5'側若しくは3'側又はコーディング配列内に位置することができる。イントロンをコーディング配列の5'側に配置する利点は、イントロンがポリアデニル化シグナルの機能と干渉する可能性を最小にすることである。実施形態において、本明細書に開示の核酸発現カセットはイントロンを更に含んでなる。適切なイントロンの非限定的な例は、マウス微小ウイルス(MVM)のイントロン、βグロビンのイントロン(betaIVS-II)、第IX因子(FIX)のイントロンA、シミアンウイルス40(SV40)の小tイントロン及びβアクチンのイントロンである。
好ましくは、イントロンはMVMのイントロンである。
【0070】
ポリAテイルの合成を導く任意のポリアデニル化シグナルが本明細書に記載の発現カセットにおいて有用であり、その例は当業者に周知である。例示的なポリアデニル化シグナルとしては、シミアンウイルス40(SV40)後期遺伝子に由来するポリA配列、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、最小ウサギβグロビン(mRBG)遺伝子及びLevittら(1989, Genes Dev 3:1019-1025)に記載される合成ポリA s(SPA)部位(配列番号46)が挙げられるが、これらに限定されない。
好ましくは、ポリアデニル化シグナルはSV40に由来する(すなわちSV40 pA)。
特定の実施形態において、本発明は、プロモーター(好ましくはデスミン遺伝子に由来するプロモーター又はSPc5-12プロモーターからなる群より選択されるプロモーター)及び導入遺伝子(好ましくはルシフェラーゼをコードする導入遺伝子)に作動可能に連結した配列番号10又は該配列と95%の同一性を有する配列からなる核酸調節エレメントを含んでなる核酸発現カセットを提供する。更なる実施形態において、核酸発現カセットはMVMイントロンを更に含んでなる。尚更なる実施形態において、核酸発現カセットは、ポリアデニル化シグナル、好ましくはSV40由来のポリアデニル化シグナルを更に含んでなる。
【0071】
特定の実施形態において、本発明は、プロモーター(好ましくはデスミン遺伝子に由来するプロモーター)及び導入遺伝子(好ましくはマイクロジストロフィン1又はフォリスタチンをコードする導入遺伝子)に作動可能に連結した配列番号10又は該配列と95%の同一性を有する配列からなる核酸調節エレメントを含んでなる核酸発現カセットを提供する。更なる実施形態において、核酸発現カセットはMVMイントロンを更に含んでなる。尚更なる実施形態において、核酸発現カセットはポリアデニル化シグナルを更に含んでなり、好ましくはポリアデニル化シグナルは配列番号46を有する。
本明細書に開示の核酸調節エレメント及び核酸発現カセットは、そのまま使用してもよいし、又は代表的には、それらは核酸ベクターの一部であってもよい。したがって、更なる観点は、ベクター、特に核酸ベクターにおける、本明細書に記載のとおりの核酸調節エレメント又は本明細書に記載のとおりの核酸発現カセットの使用に関する。
1つの観点において、本発明はまた、本明細書に開示のとおりの核酸調節エレメントを含んでなるベクターを提供する。更なる実施形態において、ベクターは本明細書に開示のとおりの核酸発現カセットを含んでなる。
【0072】
用語「ベクター」とは、本願で使用する場合、別の核酸分子(挿入核酸分子)(例えばcDNA分子;ただしこれに限定されない)が挿入され得る核酸分子、例えば二本鎖DNAをいう。ベクターは、適切な宿主細胞に挿入核酸分子を輸送するために使用される。ベクターは、挿入核酸分子の転写の可能にする必要なエレメントと、任意に、当該転写物をポリペプチドに翻訳する必要なエレメントとを含有してもよい。挿入核酸分子は、宿主細胞に由来してもよく、又は異なる細胞若しくは生物に由来してもよい。宿主細胞中では、ベクターは、宿主染色体DNAとは独立して又はこれと同時発生的に複製することができ、ベクター及びその挿入核酸分子の幾つかのコピーが生成されてもよい。ベクターは、エピソームベクター(すなわち、宿主細胞のゲノムに組み込まれないベクター)であることができ、又は宿主細胞ゲノムに組み込まれるベクターであることもできる。よって、用語「ベクター」は、標的細胞への遺伝子移入を容易にする遺伝子送達ビヒクルとして定義されてもよい。この定義には、非ウイルス性ベクター及びウイルス性ベクターの両方が含まれる。非ウイルス性ベクターとしては、カチオン性脂質、リポソーム、ナノ粒子、PEG、PEI、プラスミドベクター(例えば、pUCベクター、bluescriptベクター(pBS)及びpBR322、又は細菌性配列を欠いているそれらの派生物(ミニサークル))、トランスポゾンベースのベクター(例えば、PiggyBac(PB)ベクター又はSleeping Beauty(SB)ベクター)などが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターはウイルスに由来し、ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ関連ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。代表的には(必ずではない)、ウイルスベクターは複製欠損である。なぜならば、複製欠損ウイルスベクターは、複製に必須のウイルス遺伝子が除去されているため、所与の細胞で伝播する能力を喪失しているからである。しかし、幾つかのウイルスベクターは、所与の細胞(例えば、ガン細胞)で特異的に複製するように適合させることもでき、代表的には(ガン)細胞特異的(腫瘍)溶解を誘引するために使用する。ビロゾームは、ウイルス性エレメント及び非ウイルス性エレメントの両方を含んでなるベクターの非限定的な例である。具体的には、ビロゾームはリポソームと不活化HIV又はインフルエンザウイルスとの組合せである(Yamadaら,2003)。別の例は、カチオン性脂質と混合されたウイルスベクターを包含する。
【0073】
好適な実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス又はアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターであり、より好ましくはAAVベクターである。AAVベクターは、好ましくは、AAV形質導入における律速段階の1つ(すなわち一本鎖AAVから二本鎖AAVへの転換)を克服するために、自己相補性二本鎖AAVベクター(scAAV)として使用する(McCarty, 2001, 2003;Nathwaniら,2002, 2006, 2011;Wuら,2008)が、一本鎖AAVベクター(ssAAV)の使用もまた本発明に包含される。
AAVセロタイプ9(AAV9)は、心臓及び骨格筋における効率的形質導入を達成するに理想的に適切である。したがって、特に好適な実施形態において、ベクターはAAV9ベクターであり、より具体的には自己相補性AAV9ベクター(scAAV9)である。
他の実施形態において、ベクターは、非ウイルスベクター、好ましくはプラスミド、ミニサークル又はトランスポゾンベースのベクター、例えばSleeping Beauty(SB)ベースのベクター又はpiggyBac(PB)ベースのベクターである。
更に他の実施形態において、ベクターは、ウイルス性エレメント及び非ウイルス性エレメントを含んでなる。
【0074】
特定の実施形態において、本発明は、配列番号10からなる核酸調節エレメント、プロモーター(好ましくはデスミン遺伝子由来プロモーター)、MVMイントロン、導入遺伝子(好ましくはマイクロジストロフィン1をコードする導入遺伝子)及びポリアデニル化シグナル(好ましくは配列番号46を有するポリアデニル化シグナル)を含む核酸発現カセットを含んでなるベクターを提供する。特定の実施形態において、ベクターは配列番号44を有する。
特定の実施形態において、本発明は、配列番号10からなる核酸調節エレメント、プロモーター(好ましくはデスミン遺伝子由来プロモーター)、MVMイントロン、導入遺伝子(好ましくはフォリスタチンをコードする導入遺伝子)及びポリアデニル化シグナル(好ましくは配列番号46を有するポリアデニル化シグナル)を含む核酸発現カセットを含んでなるベクターを提供する。特定の実施形態において、ベクターは配列番号45を有する。
【0075】
本明細書に開示の核酸発現カセット及びベクターは、例えば、筋肉で通常発現され利用されるタンパク質(すなわち、構造タンパク質)を発現させるため、又は筋肉で発現され、その後身体の他の部分への輸送のために血流に輸出されるタンパク質(すなわち、分泌型タンパク質)を発現させるために使用してもよい。例えば、本明細書に開示の発現カセット及びベクターは、治療目的(特に遺伝子治療)のために、治療量の遺伝子産物(例えば、ポリペプチド(特に治療用タンパク質)又はRNA)を発現させるために使用してもよい。代表的には、遺伝子産物は、発現カセット又はベクター内の導入遺伝子によりコードされるが、原理的には、治療目的に内因性遺伝子の発現を増大させることも可能である。1つの代替の例においては、本明細書に開示の発現カセット及びベクターは、ワクチン接種目的に、免疫学的量の遺伝子産物(例えばポリペプチド(特に免疫原性タンパク質)又はRNA)を発現させるために使用してもよい。
本明細書に教示のとおりの核酸発現カセット及びベクターは、医薬的に許容され得る賦形剤、すなわち1又はそれより多い医薬的に許容され得るキャリア物質及び/又は添加物(例えば、緩衝液、キャリア、賦形剤、安定化剤など)と共に医薬組成物に製剤化してもよい。医薬組成物はキットの形態で提供してもよい。
【0076】
用語「医薬的に許容され得る」は、本明細書で使用する場合、当該分野において意味するところと一致して、医薬組成物の他の成分と適合性であり、レシピエントに有害でないことを意味する。
したがって、本発明の1つの更なる観点は、本明細書に記載の核酸発現カセット又はベクターを含んでなる医薬組成物に関する。
これら医薬組成物の製造のための本明細書に記載の核酸調節エレメントの使用もまた、本明細書に開示する。
実施形態において、医薬組成物はワクチンであってもよい。ワクチンは、免疫応答を増強するための1又はそれより多いアジュバントを更に含んでもよい。適切なアジュバントとしては、例えば、サポニン、鉱物ゲル(例えば水酸化アルミニウム)、界面活性剤(例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン)、ペプチド、油又は炭化水素エマルジョン、カルメット-ゲラン桿菌(BCG)、ざ瘡菌(Corynebacterium parvum)及び合成アジュバントQS-21が挙げられるが、これらに限定されない。随意に、ワクチンは、1又はそれより多い免疫刺激分子を更に含んでもよい。免疫刺激分子の非限定的な例としては、免疫刺激活性、免疫増強活性及び炎症促進活性を有する種々のサイトカイン、リンホカイン及びケモカイン(例えばインターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-12、IL-13));増殖因子(例えば、顆粒球-マクロファージ(GM)-コロニー刺激因子(CSF));及び他の免疫刺激分子(例えばマクロファージ炎症性因子、Flt3リガンド、B7.1;B7.2)などが挙げられる。
【0077】
1つの更なる観点において、本発明は、医薬において使用するための本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物に関する。
本明細書で使用する場合、用語「処置する」又は「処置」とは、治療的処置及び予防手段の両方をいう。有益な又は所望される臨床結果としては、検出可能であるか検出不可能であるかに関わらず、望ましくない臨床状態又は障害の防止、障害発症率の低減、障害に伴う症状の緩和、障害の程度の縮小、障害の安定化された(すなわち、悪化しない)状態、障害進行の遅延又は減速、障害状態の改善又は緩和、寛解(部分的又は全体的に関わらず)、又はそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けない場合に予想される生存と比較したときの生存延長を意味することがある。
本明細書で使用する場合、用語「治療的処置」又は「治療法」及びこれに類する用語は、対象者の身体若しくは身体要素を望ましくない生理学的変化若しくは障害から望ましい状態、例えば重篤度若しくは不快感が小さい状態へ移行させること(例えば、改善又は緩和)、又は、健常状態への復帰(例えば、対象者の健康、身体的完全性及び身体的快適性の回復)、又は、望ましくない生理学的変化又は障害の維持(例えば、安定化又は悪化させないこと)、又は望ましくない生理学的変化又は障害と比較して、より重篤な又は悪い状態への進行を防止し又は減速させることが目的である処置をいう。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「防止」、「予防」、「予防的処置」又はこれに類する語は、疾患又は障害に苦しむ前に、当該疾患又は障害の発症を防止すること(疾患若しくは障害又はそれらに関連する症状の重篤度の低減を含む)を包含する。このような、苦しむ前の防止又は低減は、投与時には疾患又は障害の明確な症状に苦しんでいない患者への、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物の投与をいう。「防止」は、例えば改善期間の後の、疾患又は障害の再発防止も包含する。実施形態において、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は、遺伝子治療、特に筋指向遺伝子治療、より具体的には心臓及び骨格筋指向遺伝子治療又は骨格筋指向遺伝子治療に使用するためのものであってもよい。
本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物の、遺伝子治療用、特に筋指向遺伝子治療用、より具体的には心臓及び骨格筋指向遺伝子治療用又は骨格筋指向遺伝子治療用の医薬の製造のための使用も本明細書に開示される。
【0079】
遺伝子治療、特に筋指向遺伝子治療、より具体的には心臓及び骨格筋指向遺伝子治療又は骨格筋指向遺伝子治療を必要とする対象者における遺伝子治療の方法であって、
- 対象者に、特には対象者の筋肉に、より具体的には対象者の心筋又は骨格筋に、本明細書に記載の核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物であって、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した本明細書に記載の核酸調節エレメントを含む核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を導入し;及び
- 対象者において、特に対象者の筋肉、より具体的には対象者の心臓及び骨格筋又は骨格筋において治療有効量の導入遺伝子産物を発現させる
ことを含んでなる方法もまた本明細書に開示される。
【0080】
導入遺伝子産物は、ポリペプチド、特には構造タンパク質、例えばジストロフィン若しくはサルコグリカン、又は分泌型タンパク質、例えば、凝固因子(例えば、第IX因子若しくは第VIII因子)、サイトカイン、増殖因子、抗体若しくはナノボディ、ケモカイン、血漿因子、インスリン、エリスロポエチン、リポタンパク質リパーゼであってもよい。特定の実施形態において、導入遺伝子産物はフォリスタチン又はマイクロジストロフィン、特にはマイクロジストロフィン1である。或いは、導入遺伝子産物はRNA、例えばsiRNAであってもよい。
本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を用いる遺伝子治療の利益を享受し得る例示的な疾患及び障害としては、筋ジストロフィー(例えば、デュシェーヌ筋ジストロフィー(DMD)/ベッカー筋ジストロフィー(BMD))、筋緊張性ジストロフィー、神経筋疾患、運動ニューロン疾患(MND)、例えばシャルコー-マリー-ツース病(CMT)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)、エメリー-ドライフス筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパシー、肢帯筋ジストロフィー、代謝性ミオパシー、筋肉炎症性疾患、筋無力症、ミトコンドリアミオパシー、イオンチャネルの異常、核包膜疾患、心筋症、心肥大、心不全、遠位型ミオパシー、心血管疾患、血友病(血友病A及びBを含む)、及び糖尿病が挙げられる。
【0081】
遺伝子治療プロトコルは当該分野で広く記載されている。これには、プラスミド(裸のもの又はリポソーム中のもの)の筋内注入、種々の組織(筋肉を含む)における水力学的遺伝子送達、間質性注入、気道への点滴、上皮、肝臓内実質への適用、及び静脈内又は動脈内投与が挙げられるが、これらに限定されない。標的細胞へのDNAのアクセシビリティを高めるために種々のデバイスが開発されている。簡単なアプローチは、標的細胞と、DNAを含有するカテーテル又は移植可能材料との物理的接触である。別の1つのアプローチは、液柱を高圧下で標的組織に直接発射するニードルなしジェット注入デバイスの使用である。これら送達パラダイムはベクターの送達にも使用することができる。標的付けられた遺伝子送達への別の1つのアプローチは、細胞への核酸の特異的標的化のための、核酸結合性又はDNA結合性物質が結合したタンパク質又は合成リガンドからなる分子接合体の使用である(Cristianoら,1993)。実施形態において、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は、ワクチンとして、より具体的には予防用ワクチンとして使用するためのものであり得る。
【0082】
ワクチンの製造、特には予防用ワクチンの製造のための、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物の使用も本明細書に開示される。
本明細書には、
- 対象者に、特には対象者の筋肉に、より具体的には対象者の心筋又は骨格筋に、本明細書に記載の核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物であって、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した本明細書に記載の核酸調節エレメントを含む核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を導入し;及び
- 対象者において、特には対象者の筋肉に、より具体的には対象者の心筋又は骨格筋において、免疫学的有効量の導入遺伝子産物を発現させる
ことを含んでなる、ワクチン接種を必要とする対象者のワクチン接種、特には予防用ワクチン接種の方法も開示される。
【0083】
本明細書で使用する場合、「処置を必要とする対象者」のような句は、言及された疾患又は障害の処置の利益を享受する対象者を含む。このような対象者として、当該疾患又は障害と診断された者、該疾患又は障害に罹患し易いか又はこれらを発症し易い者及び/又は該疾患又は障害を予防すべき者を挙げてもよいが、これらに限定されない。
用語「対象者」及び「患者」は、本明細書において互換的に使用し、動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物をいい、具体的にはヒト患者及び非ヒト哺乳動物を含む。「哺乳動物」対象者としては、ヒト、家畜動物、商用動物、農業用動物、動物園の動物、スポーツに用いられる動物、ペット及び実験動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ;霊長類、例えば類人猿、サル、オラウータン及びチンパンジー;イヌ科動物、例えばイヌ及びオオカミ;ネコ科動物、例えばネコ、ライオン及びトラ;ウマ科動物、例えばウマ、ロバ及びシマウマ;食用動物、例えばウシ、ブタ及びヒツジ;有蹄動物、例えばシカ及びキリン;げっ歯動物、例えばマウス、ラット、ハムスター及びモルモットなどが挙げられるが、これらに限定されない。好適な患者又は対象者はヒト対象者である。
【0084】
「治療量」又は「治療有効量」とは、本明細書で使用する場合、対象者において疾患又は障害を処置するに、すなわち、所望の局所的又は全身的効果を得るに有効な遺伝子産物の量をいう。よって、この用語は、組織、系、動物又はヒトにおいて、研究者、獣医、医師又は他の医者が求める生物学的又は医学的応答を惹起する遺伝子産物の量をいう。この量は、代表的には遺伝子産物及び疾患の重篤度に依存するが、おそらくはルーチンの実験により、当業者が決定することができる。
「免疫学的有効量」は、本明細書で使用する場合、(導入)遺伝子によりコードされる免疫原へのその後の曝露に対する対象者の免疫応答を増強するに有効な(導入)遺伝子産物の量をいう。誘導された免疫のレベルは、例えばプラーク中和、補体結合、酵素結合免疫吸着又はマイクロ中和化アッセイにより、例えば中和性の分泌及び/又は血清抗体の量を測定することにより、決定することができる。
【0085】
代表的には、本明細書に記載のとおりの(すなわち、少なくとも1つの筋特異的核酸調節エレメントを有する)発現カセット又はベクターを用いたときの(導入)遺伝子産物の発現量は、核酸調節エレメントを有さない同じ発現カセット又はベクターを用いた場合より高い。より具体的には、発現は、核酸調節エレメントを有さない同じ核酸発現カセット又はベクターと比較して、少なくとも2倍高く、少なくとも5倍高く、少なくとも10倍高く、少なくとも20倍高く、少なくとも30倍高く、少なくとも40倍高く、少なくとも50倍高く、又は少なくとも60倍高い。更に、この高発現は、筋肉、特に心臓及び骨格筋の両方又は骨格筋単独に特異的なままである。更に、本明細書に記載の発現カセット及びベクターは、治療量の遺伝子産物の発現をより長期間導く。代表的には、治療的発現は、少なくとも20日間、少なくとも50日間、少なくとも100日間、少なくとも200日間、幾つかの場合には300日間又はそれより長く持続するように企図される。例えば、遺伝子産物の治療的発現が達成されているかどうかを評価するために、遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)の発現は、任意の当該分野で認められた手段、例えば抗体ベースのアッセイ(例えば、ウェスタンブロット又はELISAアッセイ)により測定することができる。遺伝子産物の発現は、遺伝子産物の酵素的又は生物学的活性を検出するバイオアッセイにおいて測定してもよい。また、筋細胞、好ましくは心筋細胞及び/又は骨格筋細胞をトランスフェクト又は形質導入するための、本明細書に開示の核酸調節エレメント、核酸発現カセット又はベクターの使用も本明細書に開示される。
【0086】
更に、筋細胞、好ましくは心筋細胞及び/又は骨格筋細胞における導入遺伝子産物の発現のための、本明細書に開示の核酸発現カセット又はベクターであって、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した本明細書に開示の核酸調節エレメントを含む核酸発現カセット又はベクターの使用も本明細書に開示される。
更に、
- 本明細書に開示の核酸発現カセット又はベクターであって、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した本明細書に開示の核酸調節エレメントを含む核酸発現カセット又はベクターで筋細胞をトランスフェクト又は形質導入し;及び
- 筋細胞において導入遺伝子産物を発現させる
ことを含んでなる筋細胞、好ましくは心筋細胞及び/又は骨格筋細胞において導入遺伝子産物を発現させる方法も本明細書に開示される。
【0087】
筋細胞の非ウイルス性トランスフェクション又はウイルスベクター媒介形質導入は、インビトロ、エキソビボ又はインビボ手順により実施してよい。インビトロアプローチは、筋細胞、例えば、対象者から予め採取した筋細胞、筋細胞株又は例えば人工多能性幹細胞若しくは胚性細胞から分化した筋細胞のインビトロトランスフェクション又は形質導入を要する。エキソビボアプローチは、対象者からの筋細胞の採取、インビトロトランスフェクション又は形質導入、及び随意に、トランスフェクト筋細胞の対象者への再導入を要する。インビボアプローチは、対象者への本明細書に開示の核酸発現カセット又はベクターの投与を要する。好適な実施形態において、筋細胞のトランスフェクションは、インビトロ又はエキソビボで実施される。
当業者は、本明細書に開示の核酸調節エレメント、核酸発現カセット及びベクターの使用は、遺伝子治療以外、例えば幹細胞の筋原細胞への誘導分化、筋肉におけるタンパク質の過剰発現についてのトランスジェニックモデルなどにも有意義であると理解する。
本発明を、以下の非限定的な実施例により更に説明する。
【実施例】
【0088】
実施例
実施例1:心筋及び骨格筋特異的調節エレメントの同定
実験手順
心臓及び筋肉の両方で高発現するが、他の組織では僅かな発現しか示さない遺伝子を、Xiaoら(2010. Bioinformatics 26:1273-1275)に記載された特異性測定(SPM)法を用いて同定した。データセットとして、本発明者らはヒトタンパク質をコードするトランスクリプトームのU133A/GNF1H Gene Atlas(GSE1133)を使用した(Suら,2004. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:6062-6067)。これにより次の5遺伝子の最終候補リストがもたらされた:フィラミン-c遺伝子(FLNC)、アクチニン、α2遺伝子(ACTN2)、ミオシン調節軽鎖2、心室/心筋イソフォーム遺伝子(MYL2)、デスミン遺伝子(DES)及びテレトニン(telethonin)遺伝子(TCAP)。次に、これら遺伝子のゲノムコンテクストを、筋肉及び心臓での高発現に関連する転写因子結合部位(TFBS)に富む種間保存領域について検索した。ENCODEプロジェクト(The ENCODE Project Consortium. 2012. Nature 489:57-74)で規定されるようなオープンクロマチン構造及び/又は転写調節に関連する再現可能な生化学的特徴を有する領域とオーバーラップするか又は該領域を含有する推定の核酸調節エレメントを選択することにより、追加のフィルタリングを行った。
【0089】
心臓特異的調節エレメントについて、本発明者らは、30人の異なる個体の19の異なる器官からの158の正常ヒトサンプルに由来するマイクロアレイに基づく、18,927の独特な遺伝子の高密度遺伝子発現データベースを使用した(Son, S.ら,2005. Database of mRNA gene expression profiles of multiple human organs. Genome Res. 15:443-450)。これを用いて、他の組織と比較して心臓で最も高発現(すなわち「過剰発現」)する遺伝子セットを同定した。各ペアの比較には両側t検定を用いた。逆に、他の組織と比較して心臓で最も低い発現を示す遺伝子に相当する「過少発現」遺伝子のセットを同定した。この分析により、43セットの過剰発現遺伝子及び37の過少発現した心臓特異的遺伝子の一団が得られた。次に、これら「過剰発現」及び「過少発現」心臓特異的遺伝子の参照配列(RefSeq)識別(ID)リストを、UCSC Genome Browser(http://genome.ucsc.edu)データベースのrefGene表に格納された転写開始位置データを用いる、報告された転写開始部位(TSS)の1000塩基上流の対応するプロモーター配列の抽出に使用した(NCBI36/hg18ゲノムアセンブリ)。
これにより、「過剰発現」又は「過少発現」遺伝子のプロモーターに相当する2セットの心臓特異的プロモーター配列がもたらされた。代表的プロモーター配列の非冗長なセットを作製するため、「uclust」(http://www.drive5.com/usearch/)を用いてプロモーター配列をフィルタリングした。
【0090】
「過剰発現」又は「過少発現」遺伝子のプロモーターに相当する2セットの非冗長な組織特異的プロモーター配列を、De Bleserら(2007. Genome Biol 8:R83)(これは参照により本明細書に具体的に組み込まれる)に詳細に記載されるDDM/MDS法のインプットとして使用した。観察された示差的挙動は、アップレギュレート又はダウンレギュレートする遺伝子群のプロモーターに特徴的な1又はそれより多いTFBSエレメントの存在により説明され得る。これら「示差的」TFBSエレメントは、以下の手順を用いて見出すことができた。第一に、TFBS位置重み行列(PWM)のライブラリ(TRANSFAC(登録商標) 2010.3)を用いて、プロモーター配列ごとにTFBSを予測した。筋特異的プロモーターについて、本発明者らは、P値カットオフ10-3を用いるFind Individual Motif Occurences(fimo)アプリケーションを用いた。プロモーターにつきPWMあたりの予想されたTFBSエレメントの数を、行列の形態(各横列はプロモーター配列に対応し、縦列は用いたPWMに対応)で集めた。2つのTFBSは、行列の対応する縦列が距離関数を用いて測定されるものと類似しているとき、相関しているとみなした。このアプローチを用いて、全てのTFBS関連性をまとめる距離行列を、両プロモーターセットにおけるTFBSについて構築した。最後に、距離差分行列(DDM)を計算し、このDDMに対して多次元スケーリング法を実施してその内容を二次元で可視化することによって、観察された示差的遺伝子発現に寄与していないTFBS(なぜならば、これらはDDM-MDSプロットの原点の近傍にマッピングされたからである)と、観察された示差的遺伝子発現の原因である可能性が高い「逸脱している」TFBSとを識別することができた。MDS手順は、より強く関連するTFBS同士を、関連性が少ないものより近くにプロットするので、プロモーターデータセット中のTFBS同士間の相互作用を強調することが可能であった。この手順により、心臓特異的プロモーターについて組織特異的高発現に関連するTFBSのリストが得られた。
【0091】
筋特異的調節エレメントについては、筋特異的遺伝子のリストを、組織特異的遺伝子発現及び調節(TiGER)データベースから抽出した。これを用いて、筋組織で最も高発現(すなわち「過剰発現」)する遺伝子セットを同定した。逆に、筋肉で最も低い発現を示す遺伝子に相当する「過少発現」遺伝子のセットを同定した。次に、これら「過剰発現」及び「過少発現」筋特異的遺伝子の参照配列(RefSeq)識別(ID)リストを、UCSC Genome Browser(http://genome.ucsc.edu)データベースのrefGene表に格納された転写開始位置データを用いる、報告された転写開始部位(TSS)の1000塩基上流の対応するプロモーター配列の抽出に使用した(NCBI36/hg18ゲノムアセンブリ)。これにより、「過剰発現」又は「過少発現」遺伝子のプロモーターに相当する2セットの筋特異的プロモーター配列がもたらされた。代表的プロモーター配列の非冗長なセットを作製するため、「uclust」(http://www.drive5.com/usearch/)を用いてプロモーター配列をフィルタリングした。
【0092】
「過剰発現」又は「過少発現」遺伝子のプロモーターに相当する2セットの非冗長な組織特異的プロモーター配列を、De Bleserら(2007. Genome Biol 8:R83)(これは参照により本明細書に具体的に組み込まれる)に詳細に記載されるDDM/MDS法のインプットとして使用した。観察された示差的挙動は、アップレギュレート又はダウンレギュレートする遺伝子群のプロモーターに特徴的な1又はそれより多いTFBSエレメントの存在により説明され得る。これら「示差的」TFBSエレメントは、以下の手順を用いて見出すことができた。第一に、TFBS位置重み行列(PWM)のライブラリ(TRANSFAC(登録商標) 2010.3)を用いて、プロモーター配列ごとにTFBSを予測した。筋特異的プロモーターについて、本発明者らは、P値カットオフ10-3を用いるFind Individual Motif Occurences(fimo)アプリケーションを用いた。プロモーターにつきPWMあたりの予想されたTFBSエレメントの数を、マトリクスの形態(各横列はプロモーター配列に対応し、縦列は用いたPWMに対応)で集めた。2つのTFBSは、マトリクスの対応する縦列が距離関数を用いて測定されるものと類似しているとき、相関しているとみなした。このアプローチを用いて、全てのTFBS関連性をまとめる距離行列を、両プロモーターセットにおけるTFBSについて構築した。最後に、距離差分行列(DDM)を計算し、このDDMに対して多次元スケーリング法を実施してその内容を二次元で可視化することによって、観察された示差的遺伝子発現に寄与していないTFBS(なぜならば、これらはDDM-MDSプロットの原点の近傍にマッピングされたからである)と、観察された示差的遺伝子発現の原因である可能性が高い「逸脱している」TFBSとを識別することができた。MDS手順は、より強く関連するTFBS同士を、関連性が少ないものより近くにプロットするので、プロモーターデータセット中のTFBS同士間の相互作用を強調することが可能であった。この手順により、筋特異的プロモーターについて組織特異的高発現に関連するTFBSのリストが得られた。
【0093】
結果
この計算論的アプローチにより、表1にまとめた6つの心筋及び骨格筋特異的調節配列が同定された。
【表1】
表1:心筋及び骨格筋特異的調節エレメント。Bp:塩基対.
【0094】
実施例2:AAVベクターによる心筋及び骨格筋特異的調節エレメントのインビボ検証
実験手順
AAVプラスミド構築物(pAAV-CSk-SH-Des-Luc2)の創出
心筋及び骨格筋特異的調節エレメント(CSk-SH1~CSk-SH6)を従来のオリゴヌクレオチド合成により合成し、Acc65I及びMluI制限部位を側方に配置した。アデノ関連ウイルスベクター(AAV)骨格(pAAV-Des-Luc2と呼ぶ)において、ホタルルシフェラーゼ(Luc2)レポーター遺伝子の発現を駆動するデスミン(Des)プロモーターの上流に異なるCSk-SHをクローニングした(
図3に概略図を示す)。対応するAAVプラスミド構築物をpAAV-CSk-SH-Des-Luc2と呼ぶ。これらプラスミドは、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン及びシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化部位(pA)も含有していた。
【0095】
AAVベクター(AAV9sc.CSk-SH1-6.Des.Luc2)の作製及び精製
AAV9ベクターは、Vandendriesscheら(2007. J Thromb Haemost 5:16-24)(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるとおりに、興味対象のpAAVプラスミドと、アデノウイルスヘルパープラスミドと、AAV2 rep遺伝子をAAV9 cap遺伝子と共に送達するキメラパッケージング構築物とでの293Tヒト胚性腎細胞のリン酸カルシウム(Invitrogen Corp, Carlsbad, CA)コトランスフェクションにより作製した。
簡潔には、トランスフェクションの2日後に、細胞を採取し、等密度遠心分離法を用いてベクター粒子を精製した。採取した細胞を、凍結/融解連続サイクル及び超音波処理により溶解し、ベンゾナーゼ(Novagen, Madison, WI)及びデオキシコール酸(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)で処理した後、連続3回の塩化セシウム(Invitrogen Corp, Carlsbad, CA)密度勾配超遠心分離に供した。AAVベクター含有画分を回収し、ダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(Gibco, BRL)中1mM MgCl2において濃縮し、-80℃で保存した。
【0096】
ベクター力価(ウイルスゲノム(vg)/ml)を、ABI 7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystem, Foster city, CA, USA)においてSYBR Greenミックス(これはSYBR Green色素、Taqmanポリメラーゼ、ROX及びdNTPの全てを一体で含む)及びルシフェラーゼ特異的プライマーを用いる定量的リアルタイムPCRにより測定した。用いたフォワード及びリバースプライマーは、それぞれ5'-CCCACCGTCGTATTCGTGAG-3'(配列番号14)及び5'-TCAGGGCGATGGTTTTGTCCC-3'(配列番号15)であった。
代表的には、全てのベクターについて、1.5~6.1×1011vg/mlの範囲の力価が、20ペトリ皿のプロデューサー細胞の小製造バッチから達成された。より多数のペトリ皿(例えば60皿)のプロデューサー細胞を用いれば、より高い力価(代表的には、1012~1013gc/ml)のAAV粒子が達成されよう。既知のコピー数(102~107)の、対応するAAVベクターの創出に使用したそれぞれのベクタープラスミド(適切なcDNAを含有)を用いて標準曲線を作成した。
【0097】
動物研究
全ての動物手順は、ブリュッセル自由大学(VUB)(Brussels, Belgium)の大学内動物倫理委員会による承認を受けた。全てのマウスを特定病原体フリー条件下で飼育した;食餌及び水は自由摂取とした。
2日齢のCB.17/IcrTac/Prkdcscidマウスの眼窩周囲静脈に、表2にまとめたとおりの異なるCSk-SH(すなわち、CSk-SH1~CSk-SH6)調節エレメントを含有する濃縮ベクター(5×109vg/マウス)又は濃縮AAV9-Des-Luc2コントロールベクター(5×109vg/マウス)を50μl静脈内注射した。
【0098】
【表2】
表2:心筋及び骨格筋特異的調節エレメントの注射についての実験設計
【0099】
注射後5~8週間の間に、週1回、生体内腔インビボ撮像システム(IVIS)を用いてマウスを撮影した。CCDを-120℃に冷却し、視野(FOV)をサンプル台の高さ25cmに設定した。電荷結合素子(CCD)カメラは、CCDピクセルに衝突する波長400~1000nmの光子を電子に変換することにより動作する。このことにより、2%イソフルラン及び酸素で麻酔したマウスからの可視像化赤外光の検出が可能になる。。D-ルシフェリン基質を150μg/g体重の用量で静脈内注射した。注射9週間後にマウスを安楽死させ、インタクトな器官を採集し、生体内腔インビボ撮像システム(IVIS)を用いて撮影した。
【0100】
mRNA分析
トータルRNAを、マウスの異なる器官からシリカ膜ベースの精製キットにより、製造業者(Invitrogen Corp, Carlsbad, CA, USA)の指示に従って抽出した。その後、各サンプルに由来する50ngのトータルRNAを、cDNA合成キット(Invitrogen Corp, Carlsbad, CA, USA)を用いる逆転写(RT)に供した。次に、10ngのトータルRNAに相当するcDNA量を、ABI 7700(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)で、5'-CCCACCGTCGTATTCGTGAG-3'(配列番号14)をフォワードプライマーとし、5'-TCAGGGCGATGGTTTTGTCCC-3'(配列番号15)をリバースプライマーとして用いる定量的(q)PCRにより増幅した(アンプリコン:217bp)。qPCR標準物は、既知量の系列希釈AAV9-CSk-SH-Des-Luc2プラスミドからなった。Luc2 mRNAレベルは、5'-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3'(配列番号31)をフォワードプライマーとし、5'-GCCTGCTTCACCACCTTCTTGA-3'(配列番号32)をリバースプライマーとして用いる内因性マウスグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(mGAPDH)遺伝子のmRNA(アンプリコン:82bp)レベルに対して規格化した。RNAサンプルを逆転写酵素あり及びなし(DNA増幅を排除するため)で増幅した。増幅PCRフラグメントのサイズを1.8%アガロースゲルで検証した。
【0101】
形質導入効率及びベクターの生体内分布
ウイルスベクターの形質導入効率及び生体内分布を、以前(Pacak, C.A.,ら,2008. Genet Vaccines Ther 6:13)に記載されたように、異なる器官及び組織でLuc2導入遺伝子のコピー数を定量することにより評価した。簡潔には、ゲノムDNAを30mgの各組織からDNeasy Blood & Tissueキットプロトコル(Qiagen, Chatsworth, CA, USA)に従って抽出し、各サンプルからの100ngのゲノムDNAを、Luc2特異的フォワードプライマー5'-CCCACCGTCGTATTCGTGAG-3'(配列番号14)及びリバースプライマー5'-TCAGGGCGATGGTTTTGTCCC-3'(配列番号15)を用いるqPCRに供した(アンプリコン:217bp)。既知のコピー数(102~107)の対応するプラスミドpAAV-CSk-SH-Des-Luc2を用いて標準曲線を作成した。結果を平均AAVコピー数/100ngゲノムDNAとして表した。
【0102】
結果
インシリコで同定した心筋及び骨格筋特異的調節エレメント(CSk-SH)のインビボでの効果を評価するため、キメラプロモーターからルシフェラーゼ遺伝子luc2を発現するアデノ関連ベクターを創出した。このプロモーターは、心筋及び骨格筋特異的調節エレメントCSk-SH1~6に連結した筋特異的デスミン(Des)プロモーターから構成された。これらベクターをマウスに静脈内注射し、注射5及び6週間後にマウス全身画像を撮影して、ルシフェラーゼ発現レベルを調べた。
心筋及び骨格筋特異的調節エレメント(CSk-SH1~6)を含むベクターを注射した全てのマウスは、調節エレメントを含まない対応AAV9ベクターを注射したコントロールマウスと比較して増大したルシフェラーゼ活性を示した。このことから、試験した調節エレメントの全てがルシフェラーゼ発現を増大させることが示された(データは示さず)。本発明者らは、調節エレメントCSk-SH1、CSk-SH3又はCSk-SH5を含むAAV9ベクターを注射したマウスにおいて、注射5及び6週間後に、コントロールマウスのルシフェラーゼ活性と比較して、増強した非常に堅牢なルシフェラーゼ活性を観察した。
【0103】
本発明者らはまた、個々の器官におけるルシフェラーゼ活性を測定した。注射9週間後、マウスを安楽死させ、個々の器官を分析してルシフェラーゼ発現及び生体内分布パターンを評価した。本発明者らは、調節エレメントCSk-SH1~6を含むAAVベクターを注射したマウスの心臓、二頭筋、三頭筋、四頭筋、前脛骨筋及び腓腹筋におけるルシフェラーゼ活性レベルの、コントロールマウスと比較した有意な増大を観察した。CSk-SH5調節エレメントを含むAAVベクターを注射したマウスの心臓では、コントロールマウスと比較して48倍までのルシフェラーゼ活性増強が測定された(
図4A)。この調節エレメントは、筋肉、特には腓腹筋、前脛骨筋、四頭筋、二頭筋及び三頭筋でも最も強かった。よって、最強の調節エレメントはCSk-SH5であった。2番目に強力な調節エレメントはCSk-SH1であった。CSK-SH1を含むAAVベクターを注射したマウスの心臓では、コントロールマウスと比較して25倍のルシフェラーゼ活性増強が測定された。強いルシフェラーゼ活性は、CSk-SH1を注射したマウスの他の筋肉でも測定された。3番目に強力な調節エレメントはCSk-SH3であり、続いてCSk-SH6、CSk-SH4及びCSk-SH2であった。更に、その発現は心筋及び骨格筋に特異的であった。なぜならば、ベクターは他の全ての器官に形質導入されていたにも関わらず(
図6A~6B)、ルシフェラーゼ発現は、他の全ての器官においてみられなかったか又は制限されていたからである(
図5A)。器官で測定したルシフェラーゼ活性レベルは、それぞれの器官で測定したルシフェラーゼmRNAレベルと一致していた(
図4B、5B)。これらインビボデータは、核酸調節エレメントCSk-SH、具体的にはCSk-SH1、CSk-SH3及びCSk-SH5、特にCSk-SH1及びCsk-SH5が心臓及び骨格筋特異的ルシフェラーゼ発現を増強することができることを示している。
【0104】
実施例3:骨格筋特異的調節エレメントの同定
実験手順
先ず、筋特異的遺伝子のリストを組織特異的遺伝子発現及び調節(TiGER)データベースから抽出した。これを用いて、筋組織で最も高発現(すなわち「過剰発現」)する遺伝子セットを同定した。逆に、筋肉で最も低い発現を示す遺伝子に相当する「過少発現」遺伝子のセットを同定した。次に、これら「過剰発現」及び「過少発現」筋特異的遺伝子の参照配列(RefSeq)識別(ID)リストを、UCSC Genome Browser(http://genome.ucsc.edu)データベースのrefGene表に格納された転写開始位置データを用いる、報告された転写開始部位(TSS)の1000塩基上流の対応するプロモーター配列の抽出に使用した(NCBI36/hg18ゲノムアセンブリ)。これにより、「過剰発現」又は「過少発現」遺伝子のプロモーターに相当する2セットの筋特異的プロモーター配列がもたらされた。代表的プロモーター配列の非冗長なセットを作製するため、「uclust」(http://www.drive5.com/usearch/)を用いてプロモーター配列をフィルタリングした。
【0105】
「過剰発現」又は「過少発現」遺伝子のプロモーターに対応する2セットの非冗長な組織特異的プロモーター配列を、De Bleserら(2007. Genome Biol 8:R83)(これは参照により本明細書に具体的に組み込まれる)に詳細に記載されるDDM/MDS法のインプットとして使用した。観察された示差的挙動は、アップレギュレート又はダウンレギュレートする遺伝子群のプロモーターに特徴的な1又はそれより多いTFBSエレメントの存在により説明され得る。これら「示差的」TFBSエレメントは、以下の手順を用いて見出すことができた。第一に、TFBS位置重み行列(PWM)のライブラリ(TRANSFAC(登録商標) 2010.3)を用いて、プロモーター配列ごとにTFBSを予測した。筋特異的プロモーターについて、本発明者らは、P値カットオフ10-3を用いるFind Individual Motif Occurences(fimo)アプリケーションを用いた。プロモーターにつきPWMあたりの予想されたTFBSエレメントの数を、行列の形態(各横列はプロモーター配列に対応し、縦列は用いたPWMに対応)で集めた。2つのTFBSは、行列の対応する縦列が距離関数を用いて測定されるものと類似しているとき、相関しているとみなした。このアプローチを用いて、全てのTFBS関連性をまとめる距離行列を、両プロモーターセットにおけるTFBSについて構築した。最後に、距離差分行列(DDM)を計算し、このDDMに対して多次元スケーリング法を実施してその内容を二次元で可視化することによって、観察された示差的遺伝子発現に寄与していないTFBS(なぜならば、これらはDDM-MDSプロットの原点の近傍にマッピングされたからである)と、観察された示差的遺伝子発現の原因である可能性が高い「逸脱している」TFBSとを識別することができた。MDS手順は、より強く関連するTFBS同士を、関連性が少ないものより近くにプロットするので、プロモーターデータセット中のTFBS同士間の相互作用を強調することが可能であった。この手順により、筋特異的プロモーターについて組織特異的高発現に関連するTFBSのリストが得られた。
【0106】
次に、組織特異的過剰発現遺伝子のゲノムコンテクストを、組織特異的遺伝子高発現に関連するTFBSの種間保存領域について検索した。この目的のために、NCBI36/hg18ゲノムアセンブリ中の全ての保存配列エレメントの配列を、UCSC Genome Browser(http://genome.ucsc.edu)データベースのphastConsElements44way表に格納された情報に基いてダウンロードした。予想された保存配列エレメントに、(保存モデル下でのlog確率)-(非保存モデル下でのlog確率)に等しいlogオッズスコアを割り当てた。このことにより、最も保存された配列エレメントと同時発生する推定の調節エレメントについての検索を限定することが可能となる。保存配列エレメントを、組織特異的高発現と関連するTFBSについてfimoアプリケーションを用いて上記のとおり走査した。内部で開発したパールスクリプト(Perl script)を用いて、これにより、組織特異的高発現に関連するTFBSのクラスターを含有する高度に保存された配列エレメント(すなわち核酸調節エレメント)が同定された。ENCODEプロジェクト(The ENCODE Project Consortum. 2012. Nature 489:57-74)で規定されたようなオープンクロマチン構造及び/又は転写調節に関連する再現可能な生化学的特徴を有する領域とオーバーラップするか又は該領域を有する推定の核酸調節エレメントを選択することにより、追加のフィルタリングを行った。
【0107】
結果
この計算論的アプローチにより、表3にまとめた6つの筋特異的調節配列が同定された。
【表3】
表3:筋特異的調節エレメント。Bp:塩基対.
【0108】
実施例4:デスミンプロモーターを含むAAVベクターによる骨格筋特異的調節エレメントのインビボ検証
実験手順
骨格筋特異的調節エレメント(pAAV-Sk-SH-Des-Luc2)を含むAAVプラスミド構築物を、実施例2に記載のプロトコルに従って創出した。簡潔には、骨格筋特異的調節エレメントを従来のオリゴヌクレオチド合成により合成し、Acc65I及びMluI制限部位(Sk-SH1、Sk-SH2、Sk-SH3、Sk-SH4、Sk-SH5及びSk-SH7)又はBsiWI及びMluI制限部位(Sk-SH6)を側方に配置した。AAVベクター骨格pAAV-Des-Luc2において、ホタルルシフェラーゼ(Luc2)レポーター遺伝子の発現を駆動するデスミン(Des)プロモーターの上流に異なるSk-SHをクローニングした。これらプラスミドは、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン及びシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化部位(pA)も含有していた。
AAVベクターの作製及び精製並びに動物研究は、実施例2に記載のとおりに行った。実験設計を表4にまとめる。
【0109】
【表4】
表4:骨格筋特異的調節エレメントの注射についての実験設計
mRNA分析及び形質導入効率並びにベクターの生体内分布は、実施例2に記載のとおりに評価した。
【0110】
結果
骨格筋特異的調節エレメントSk-SH1~7に連結したデスミン(Des)プロモーターから構成されるキメラプロモーターからルシフェラーゼ遺伝子luc2を発現するアデノ関連ベクターを創出した。これらベクターをマウスに静脈内注射し、注射5及び6週間後にマウス全身画像を撮影して、ルシフェラーゼ発現レベルを調べた。
骨格筋特異的調節エレメント(Sk-SH1~7)を含むベクターを注射した全てのマウスは、調節エレメントを含まない対応AAV9ベクターを注射したコントロールマウスと比較して増大したルシフェラーゼ活性を示した。このことから、試験した調節エレメントの全てがデスミンプロモーターからのルシフェラーゼ発現を増大させることが示された(データは示さず)。本発明者らは、調節エレメントSk-SH1又はSk-SH4を含むAAV9ベクターを注射したマウスにおいて、注射5及び6週間後に、コントロールマウスのルシフェラーゼ活性と比較して、増強した非常に堅牢なルシフェラーゼ活性を観察した。
注射7週間後、マウスを安楽死させ、個々の器官を分析してルシフェラーゼ発現及び生体内分布パターンを評価した(
図8及び9)。Sk-SH4調節エレメントを含むAAVベクターを注射したマウスの骨格筋、特に、腓腹筋、前脛骨筋、四頭筋、二頭筋及び三頭筋では、コントロールマウスと比較して200~400倍までのルシフェラーゼ活性増強が測定された(
図8)。心臓で測定した場合も、心臓及び骨格筋の両方に特異的であるデスミンプロモーターの使用により、36倍のルシフェラーゼ活性増強が依然として存在した(
図8)。ルシフェラーゼ発現は、心筋及び骨格筋組織以外の他の全ての器官においてみられなかったか又は制限されていた(
図9)。2番目に強力な調節エレメントはSk-SH1であった。これもまた、デスミンプロモーターからのルシフェラーゼ発現を骨格筋で有意に増大させ、より弱い程度ではあるが心筋でも増大させた。
【0111】
心臓及び異なる骨格筋で測定したルシフェラーゼ活性レベルは、それぞれの器官で測定したルシフェラーゼmRNAレベルと一致していた(
図12)。
図13に示すとおりベクターは種々の器官に形質導入されていたにも関わらず、ルシフェラーゼ発現は、心筋及び骨格筋組織以外の他の全ての器官においてみられなかったか又は制限されていた(
図9)。
これらインビボデータは、核酸調節エレメントSk-SH、特にSk-SH1及びSk-SH4が心臓及び骨格筋特異的ルシフェラーゼ発現を増強することができることを示している。核酸調節エレメントSk-SH4は、同定した他の5つの調節エレメントと比較して、心臓及び骨格筋で最高レベルのルシフェラーゼ発現を導く最強のエレメントである。本発明者らが測定した最高活性は、脛骨におけるルシフェラーゼ活性の400倍のアップレギュレーションであった。
【0112】
実施例5:筋特異的調節エレメント及びCMVプロモーターのインビボ比較
実験手順
筋特異的調節エレメントを含むAAVプラスミド構築物(pAAV-Sk-SH4-Des-Luc2、pAAV-CSk-SH1-Des-Luc2、pAAV-CSk-SH5-Des-Luc2)を、実施例2に記載のプロトコルに従って創出した。簡潔には、筋特異的調節エレメントを従来のオリゴヌクレオチド合成により合成し、AAVベクター骨格pAAV-Des-Luc2において、ホタルルシフェラーゼ(Luc2)レポーター遺伝子の発現を駆動するデスミン(Des)プロモーターの上流にクローニングした。これらプラスミドは、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン及びシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化部位(pA)も含有していた。
AAVベクター骨格pAAV-Des-Luc2において、デスミンプロモーターの代わりにサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(配列番号30)がホタルルシフェラーゼ(Luc2)レポーター遺伝子の上流にクローニングされているpAAVsc-CMV-Luc2-SV40pAプラスミド構築物を創出した。これらプラスミドはシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化部位(pA)も含有していた。pAAVsc-CMV-Luc2-SV40pAの概略図を
図10Aに示す。AAVsc-CMV-Luc2-SV40pAのクローニングのために、フラグメント5'-Acc65I-CMV-HindIII-3'を合成し、同じ酵素対(すなわち、Acc65I及びHindIII)で制限したAAVsc-Luc2-SV40pAベクターにクローニングした。
AAVベクターの作製及び精製は実施例2に記載のとおりに行った。
平均体重17.4±1.6gの6週齢雄性CB17 SC SCIDマウスの眼窩周囲静脈に、1×10
10vg/マウスの濃縮ベクターを静脈内注射した。実施例2に記載のとおり、注射4週間後にマウスを撮像した。注射5週間後にマウスを安楽死させ、インタクトな器官を採集し、実施例2に記載のとおりに撮像した。
【0113】
結果
ルシフェラーゼ活性を、筋特異的調節エレメントSK-SH4、CSk-SH1又はCSk-SH5に作動可能に連結したデスミン(Des)プロモーターからルシフェラーゼ遺伝子luc2を発現するベクターを注射したマウスとサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターからルシフェラーゼ遺伝子luc2を発現するベクターを注射したマウスとで比較した。CMVプロモーターは、心臓での強力な遺伝子発現を可能にすることが知られている最も強力なプロモーターの1つであると考えられている。後者のベクターには筋特異的調節エレメントは存在させなかった。
図10A及び10Bは、デスミンプロモーターに作動可能に連結した本発明の筋特異的調節エレメントを含むベクターが、CMVプロモーターを含むベクターより遥かに良好な発現を可能にすることを示している。
【0114】
実施例6:骨格筋特異的プロモーターを含むAAVベクターによる骨格筋特異的調節エレメントのインビボ検証
実験手順
デスミンプロモーターがWangら(2008. Gene Ther. 15:1489-1499)に記載された筋特異的プロモーターで置換されたAAVプラスミドを実施例4に記載のとおりに構築した。
AAVベクターの作製及び精製並びに動物研究は、実施例2に記載のとおりに行った。
結果
デスミンプロモーターに代えて骨格筋特異的プロモーターを用いた場合、ルシフェラーゼ発現の増大は骨格筋のみに限局される。このことは、核酸調節エレメントSk-SH1~7、特にSk-SH4及びSk-SH1が骨格筋特異的ルシフェラーゼ発現を増強することを示している。
【0115】
実施例7:同定した筋特異的調節エレメントの機能的フラグメントのインビボ検証
実験手順
同定した核酸調節エレメントCSk-SH1(配列番号1;381bp)、CSk-SH5(配列番号5;454bp)及びSk-SH4(配列番号10;435bp)を、より小さな機能的フラグメントに分割した。調節
エレメントの転写因子結合部位(TFBS)をそれぞれの配列にマッピングし(
図11A~11C)、TFBSを有する領域の無作為クラスター化により機能的フラグメントを創出した。以下の機能的フラグメントを創出した:
配列番号1の機能的フラグメント:
クラスター1A:配列番号1の33位~58位のヌクレオチド配列
クラスター1B:配列番号1の90位~142位のヌクレオチド配列
クラスター1C:配列番号1の143位~233位のヌクレオチド配列
クラスター1D:配列番号1の240位~310位のヌクレオチド配列
クラスター1E:配列番号1の90位~233位のヌクレオチド配列
配列番号5の機能的フラグメント:
クラスター5A:配列番号5の47位~130位のヌクレオチド配列
クラスター5B:配列番号5の252位~293位のヌクレオチド配列
クラスター5C:配列番号5の330位~450位のヌクレオチド配列
配列番号10の機能的フラグメント:
クラスター4A:配列番号10の10位~180位のヌクレオチド配列(配列番号37);
クラスター4B:配列番号10の190位~240位のヌクレオチド配列(配列番号38);
クラスター4C:配列番号10の241位~300位のヌクレオチド配列(配列番号39);
クラスター4E:配列番号10の241位~360位のヌクレオチド配列(配列番号41)
クラスター4D:配列番号10の380位~420位のヌクレオチド配列(配列番号40)
【0116】
Sk-SH4の機能的フラグメントを表5にまとめる。
【表5】
表5:筋特異的調節エレメントSk-SH4の機能的フラグメント
【0117】
Sk-SH4の機能的フラグメントを従来のオリゴヌクレオチド合成により合成し、実施例2に記載のとおりにpAAV9sc-Des-Luc2ベクターにクローニングした。AAVベクターの作製及び精製は実施例2に記載のとおりに行った。平均体重約17~18g/マウスの6週齢CB17/IcrTac/Prkdc scid成体マウスにAAVベクターを1×1010vg/マウスの用量で静脈内注射した。注射2及び4週間後に、実施例2に記載のものと同じ生体内腔インビボ撮像システムを用いてマウスを撮像した。
【0118】
結果
図14に示す結果は、Sk-SH4調節エレメントの5つ全てのフラグメントが、調節エレメントを有さない参照構築物と比較したとき、デスミンプロモーターから駆動されるルシフェラーゼ遺伝子発現を増強することができることを示している。フラグメントSk-SH4
bは、その他のフラグメントと比較して最高のルシフェラーゼ発現を示した。しかし、いずれのフラグメントも、全長Sk-SH4フラグメントが誘導する発現と比較して、同等以上のルシフェラーゼ発現を達成することはできなかった。
【0119】
実施例8:筋特異的調節エレメントのモジュールのインビボ検証
異なる調節エレメントの組合せの作製及び/又は同じ調節エレメントの数コピーの使用(例えば、CSk-SH1とCSk-SH5との組合せ;CSk-SH1とSk-SH4との組合せ;CSk-SH1とCSk-SH5とSkSH4との組合せ;CSk-SH1の3反復又は4反復;CSk-SH5の3反復又は4反復;Sk-SH4の3反復又は4反復)により、筋特異的調節エレメントを更に検証した。これら構築物を、実施例2に記載のプロトコルに従って、Desプロモーターの上流に組み込む。AAVベクターの作製及び精製並びに動物研究は実施例2に記載のとおりに行う。
同定した筋特異的調節エレメントの機能的フラグメントを有する更なる組合せを、実施例7で創出したとおりに作製する。
【0120】
実施例9:転写因子の筋特異的調節エレメントへの結合
実験手順
4週齢マウスの眼窩周囲静脈に、Sk-SH4及びCSk-SH5調節エレメントを含有するAVVベクター、すなわち、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Luc及びAAV9sc-CSk-SH5-Des-Lucを5×109vg/マウスの用量で静脈内注射した。
マウスから採取した心臓及び筋組織を、1%ホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に浸漬し、小片に切り出し、室温で15分間インキュベートした。0.125Mグリシン(最終濃度)の添加により固定を停止した。次いで、組織片をTissue-Tearerで処理して、最後に遠心沈降させ、PBSで2回洗浄した。溶解緩衝液を添加し、続いてDounceホモジナイザーで破壊してクロマチンを単離した。溶解物を超音波処理し、DNAを平均長300~500bpに剪断した。1つのクロマチンアリコートをRNアーゼ、プロテイナーゼKで処理し、脱架橋のために加熱し、続いてエタノール沈降に供することにより、ゲノムDNA(インプット)を作製した。ペレットを再懸濁し、得られるDNAをNanoDrop分光計で定量した。元のクロマチン体積に外挿して総クロマチン収量を定量した。1つのクロマチンアリコート(30μg)をプロテインAアガロースビーズ(Invitrogen, catalogue number 15918-014)で前処理した。MEF2(Santa Cruz,sc-313)、SRF(Santa Cruz,sc-335)及びCEBP(Santa Cruz,sc-150)に対する抗体4μgを用いて興味対象のゲノムDNA領域を単離した。複合体を洗浄し、SDS緩衝液でビーズから溶出させ、RNアーゼ及びプロテイナーゼK処理に付した。65℃にて一晩のインキュベーションにより架橋を還元させ、フェノール-クロロホルム抽出及びエタノール沈降によりChIP DNAを精製した。SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いる定量的PCR(QPCR)反応を、特定のゲノム領域について3つ組で行った。得られたシグナルは、各プライマー対についてインプットDNAを用いるQPCRを行うことにより、プライマー効率について規格化した。Sk-SH4用のプライマー配列は5'-GTCCCTCACTCCCAACTCAG-3'(配列番号33;フォワード)及び5'-GAGGAGAAGGAGATCAGACACTG-3'(配列番号34;リバース)であり;CSk-SH5用のプライマー配列は:5'-TAGCTGGGCCTTTCCTTCTC-3'(配列番号35;フォワード)及び5'-CGTCTCCCTAGCAGCAACAG-3'(配列番号36;リバース)であった。ネガティブコントロールプライマーは、Active Motif(Carlsbad, CA, USA)(#71012)から購入した。これは第17染色体上の非転写遺伝子配列に特異的である。
【0121】
結果
筋特異的調節エレメントSk-SH4は、E2A、SRF、p53、CEBP、LRF、MyoD及びSREBPを含む幾つかの推定の転写因子結合部位(TFBS)を含有する。クロマチン免疫沈降(CHIP)アッセイを用いて、CEBP及びSRFのSk-SH4エレメントへの結合を、AAV9sc-Sk-SH4-Des-Lucベクターを注射したマウスの心臓及び骨格筋で確証した(
図15A、15B)。同様に、CEBP及びMEF2エレメントのCSk-SH5調節エレメントにの結合が、AAV9sc-CSk-SH5-Des-Lucを注射したマウスの心臓及び骨格筋で示された(
図15C、15D)。
【0122】
実施例10:デスミンプロモーターを含むAAVベクターによる筋特異的調節エレメントの治療上の評価
発現に対する筋特異的調節エレメントSk-SH4の効果、及び遺伝子治療による筋疾患(例えばデュシェーヌ筋ジストロフィー(DMD))の処置について治療上の可能性を有する2つの治療用遺伝子(具体的にはマイクロジストロフィン及びフォリスタチン)の治療効力を評価した。MDX-SCIDマウスは、患者におけるデュシェーヌ筋ジストロフィーの疾患徴候を再現し、したがってAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1及びAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucベクターの治療効力の評価に十分に適する。
実験手順
AAVへのフォリスタチン及びMD1遺伝子のクローニング
マイクロジストロフィン1(MD1)(Kooら,2011)及びフォリスタチン(FST)(Kotaら,2009)遺伝子をクローニングし、筋特異的調節エレメントSk-SH4に作動可能に連結したデスミンプロモーターから駆動させた。MD1遺伝子の5'末端及び3'末端の側方にはそれぞれMluI及びXhoI制限部位を配置し、FST遺伝子の5'末端及び3'末端の側方にはそれぞれMluI及びSalI制限部位を配置し、従来のオリゴヌクレオチド合成により合成した。デスミンプロモーターに作動可能に連結したSk-SH4調節エレメントを、一本鎖アデノ関連ウイルスベクター(AAVss)骨格において、MVMイントロンの上流にクローニングした。こられベクターは、49bpの合成proudfootポリアデニル化部位(Levitt Nら,1989)も含有していた。フォリスタチン遺伝子は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子に2Aポリペプチドを介して連結した。創出した構築物をそれぞれpAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1及びpAAVss-Sk-CRM4-Des-MVM-FST-2A-Lucと呼び、概略的に
図16に示す。
AAVベクターの作製及び精製は実施例2に記載のとおりに行った。
【0123】
MDX-SCIDマウスの表現型修正についてのトレッドミル試験
4週齢MDX-SCIDマウス(自家飼育)に用量2×1010vg/マウスのAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1及びAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucベクターを、個別に又は組み合わせて、総容量100μlで静脈内注射した。注射8週間後、処置MDX-SCIDマウス及びコントロールMDX-SCIDマウス(PBSを注射)をトレッドミル試験に供した。トレッドミル試験は、Exer-3/6オープントレッドミル(Columbus instruments, USA)を用いて実施した。試験前に、ベルトの傾斜を10°の上り坂に設定した。初期速度を10m/分に設定した後、速度を毎分1mずつ増加させた。マウスがパルスグリル上で5秒間以上休んだときに試験を終了した。その時点で、マウスが走った距離を記録し、試験中にマウスが走った総距離を、次式:距離=((N+n)/2)×(N-n+1)(式中、Nは試験終了時の時間(分)であり、nは試験開始時の時間(分)である)を用いて算出した。
mRNA分析
mRNA分析を実施例2に記載のとおりに行った。マイクロジストロフィン及びフォリスタチン遺伝子のmRNAを定量するため、マイクロジストロフィンについては、プライマー5'-GTGCCCTACTACATCAA-3'(配列番号42)をフォワードプライマーとし、5'-AGGTTGTGCTGGTCCA-3'(配列番号43)をリバースプライマーとして用い(アンプリコン206bp)、フォリスタチン遺伝子については、Luc2特異的フォワードプライマー5'-CCCACCGTCGTATTCGTGAG-3'(配列番号14)及びリバースプライマー5'-TCAGGGCGATGGTTTTGTCCC-3'(配列番号15)(アンプリコン217bp)を用いるqPCRベースの方法を使用した。
【0124】
結果
トレッドミル試験結果は、MD1若しくはFST単独又はそれらの組合せでの遺伝子治療により処置されたマウスが未処置コントロールMDX-SCIDマウスを凌ぐ成績を示すことを明確に証明した(
図17)。AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1又はAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucベクターを注射したMDX-SCIDマウスは、コントロールマウスが走った距離の2倍の距離を走った。両ベクターをMDX-SCIDマウスに同時注射したとき、走った距離は4kmであった。これは、PBSを注射したコントロールMDX-SCIDマウスが走った距離の4倍を越える。これら結果は、これらベクターにより治療効力が達成できることを明確に証明している。
AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1若しくはAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucベクター又はそれらの組合せを用いる遺伝子治療の顕著な生理学的効果は、組織学的検査により確証された。ヘマトキシリン/エオシン染色した筋切片を、異なる実験群について、中心に核を有する細胞の割合(%)を求めた(
図18)。C57B6野生型マウスの筋切片は、筋線維において核が周縁部に優勢に位置することを示し(データを示さず)、極少ない割合(<2%)の核が中心に位置していた(
図18B)。未処置コントロールMDX/SCIDマウスでは、筋線維の横断切片において、核は中心に優勢に位置していた(約50%の核)(
図18Aa、
図18B)。AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1(AAV9-MD1)(
図18Ac、
図18B)又はAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Luc(AAV9-FST)(
図18Ab、
図18B)を注射したMDX/SCIDマウスは全て、中心に核を有する筋線維の数が減少した。両AAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1及びAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Lucベクターの同時投与は、核位置の筋線維周縁部への更に顕著なシフト及び核が中心に位置する割合の更なる低下をもたらした(
図18Ad、
図18B)。これら結果は、遺伝子治療後の再生刺激の減少及び表現型修正を示唆している。結果として、筋線維における核位置の中心からより周縁部へのシフトは、トレッドミルアッセイにおける移動性及び筋強度の改善で示される表現型修正と一致する。
定量的RT-PCRを用いて、pAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-MD1構築物、pAAVss-Sk-SH4-Des-MVM-FST-2A-Luc構築物又は両構築物の組合せを注射したマウスの心臓及び筋組織(特に腓腹筋及び四頭筋)からの生検において、マイクロジストロフィン(MD1)及びフォリスタチン(FST)遺伝子の発現を評価した(
図19)。
【0125】
実施例11:筋特異的調節エレメントとCMV及びSPc5-12プロモーターとのインビボ比較
実験手順
AAVベクターの作製及び精製は、実施例2に記載のとおりに行った。
AAVsc-Des-MVM-Lucベクターは、デスミンプロモーターから駆動されるルシフェラーゼ(Luc)導入遺伝子を含有する自己相補性AAVベクターである。このscAAVベクター骨格は、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン及びシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化部位(pA)も含有していた。
AAVsc-SPc5-12-MVM-LucベクターはAAVsc-Des-MVM-Lucベクターと同じ配置であったが、デスミンプロモーターがSPc5-12プロモーターで置換されていた。
筋特異的調節エレメントSk-SH4を含むAAVベクターを、実施例2に記載のプロトコルに従って創出した。簡潔には、筋特異的調節エレメントSk-SH4を従来のオリゴヌクレオチド合成により合成し、AAVsc-Des-MVM-Luc又はAAVsc-SPc5-12-MVM-LucのAAVベクター骨格においてそれぞれデスミン又はSPc5-12プロモーターの上流にクローニングした。
AAVsc-CMV-Lucベクターは、デスミンプロモーターの代わりに、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(配列番号30)を、(ポリアデニル化部位(pA)も含有する)AAVsc-Des-LucのAAVベクター骨格においてルシフェラーゼレポーター遺伝子の上流にクローニングすることにより創出した。
これら異なるベクターの概略図を
図20に示す。
成体CB17/IcrTac/Prkdcscidマウスにこれら異なるベクターを1×10
10vg/マウスの用量で静脈内注射した(n=3)。
mRNA分析を実施例3に記載のとおりに行った。
【0126】
結果
ルシフェラーゼmRNAレベルを、筋特異的調節エレメントSk-SH4に作動可能に連結したデスミンプロモーターからルシフェラーゼ遺伝子を発現するベクターを注射したマウスと、筋特異的調節エレメントに作動可能に連結していないサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター又はSPc5-12プロモーターからルシフェラーゼ遺伝子を発現するベクターを注射したマウスとで比較した。CMV及びSPc5-12プロモーターは、心臓及び骨格筋での強力な遺伝子発現を可能にすることが知られている最も強力なプロモーターと考えられている。
図21は、デスミンプロモーターに作動可能に連結した本発明のSk-SH4筋特異的調節エレメントを含むベクターが、CMV又はSPc5-12プロモーターを含むが筋特異的調節エレメントを有さないベクターより遥かに良好な発現を可能にすることを示している。
同様に、Sk-SH4筋特異的調節エレメントをSPc5-12プロモーターに作動可能に連結すると、ルシフェラーゼmRNAレベルの増加が心臓及び試験した全ての骨格筋タイプで観察された(
図21)。しかし、この構築物から誘導されたmRNAレベルは、本発明のSk-SH4筋特異的調節エレメントをデスミンプロモーターに作動可能に連結したときより低かった。
【配列表】