(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】美容機器および電流制御方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20230301BHJP
A61N 1/06 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/06
(21)【出願番号】P 2021526809
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015877
(87)【国際公開番号】W WO2021167109
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2020077955
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114628
【氏名又は名称】ヤーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 岩男
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0126160(US,A1)
【文献】特開2016-104225(JP,A)
【文献】特開平08-299473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
A61N 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
それぞれ前記第1電極の周囲に同心円上に配置された環状の電極であって、前記第1電極の外側に配置された第2電極と、
前記第2電極の外側に配置された第3電極と、
前記第3電極の外側に配置された第4電極と、
少なくとも、前記第1電極と前記第4電極との間で第1周波数の電流を肌に印加しつつ、前記第2電極と前記第3電極との間で、
前記第1周波数よりも大きな第2周波数の電流を前記肌に印加することができる印加手段と
を有する美容機器。
【請求項2】
前記第1周波数は1Hz~100kHzであり、
前記第2周波数は200kHz~4MHzである、
請求項1に記載の美容機器。
【請求項3】
前記第1周波数の値および前記第2周波数の値のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する選択手段を更に有する、
請求項1または2に記載の美容機器。
【請求項4】
前記第1周波数の電流の振幅および前記第2周波数の電流の振幅のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から、前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する選択手段を更に有する、
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の美容機器。
【請求項5】
前記第1周波数の電流の印加期間および前記第2周波数の電流の印加期間のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし
前記第4電極から、前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する選択手段を更に有する、
請求項1ないし4のいずれか一つに記載の美容機器。
【請求項6】
前記印加手段は、
第1期間において、
前記第2電極と
前記第3電極との間で
、前記第2周波数の帯域に属する第1RF周波数の電流を印加し、
第2期間において、
前記第1電極と
前記第4電極との間で
、前記第2周波数の帯域に属し、前記第1RF周波数よりも小さな第2RF周波数の電流を印加し、
前記第1期間と前記第2期間とは相互に繰り返される、
請求項2ないし5のいずれか一項に記載の美容機器。
【請求項7】
前記印加手段は、
前記第1期間においては、さらに前記第1電極と前記第4電極との間で前記第2周波数の電流を連続的に印加し、
前記第2期間においては、さらに前記第2電極と前記第3電極との間で、前記第2周波数の電流を断続的に印加する
請求項6に記載の美容機器。
【請求項8】
前記第1電極と前記第4電極との間で前記肌に印加される電流を検出するセンサを更に備え、
前記印加手段は、前記第1電極と前記第4電極との間で所定閾値以上の電流値の電流が所定期間前記肌に印加されない場合、少なくとも前記第2周波数の印加を停止する
請求項2ないし7のいずれか一項に記載の美容機器。
【請求項9】
全体の印加時間に占める前記第1期間の長さの割合は70%以上である
請求項6
または7に記載の美容機器。
【請求項10】
前記第2電極と第3電極の間隔は1mm~3mmであり、
隣り合う電極間の間隔のうち少なくとも一つは他と同一ではない
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の美容機器。
【請求項11】
各電極はヘッド表面から突出しており、各電極の側壁面は当該ヘッド表面に垂直な方向に対して傾斜している
請求項1ないし10のいずれか一つに記載の美容機器。
【請求項12】
第1電極、第2電極、第3電極、および第4電極を備え、前記第1電極から前記第4電極までの距離は、前記第2電極から前記第3電極までの距離よりも大きくなるように配置された美容機器において、
前記美容機器の制御部が、第1期間において、
前記第2電極と
前記第3電極との間で第1RF周波数の電流を印加しつつ、
前記第1電極と
前記第4電極との間で第2周波数の電流を連続的に印加する第1ステップと、
前記制御部が、第2期間において、前記第1電極と前記第4電極との間で前記第1RF周波数よりも小さな第2RF周波数の電流を印加しつつ、前記第2電極と前記第3電極との間で、前記第2周波数の電流を断続的に印加する第2ステップとを備え、
前記第1RF周波数および前記第2RF周波数は200kHz~4MHzであり、前記第2周波数は1Hz~100kHzであり、
前記第1ステップおよび前記第2ステップは交互に繰り返される、
電流制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌へ電流を印加する美容機器に関する。
【背景技術】
【0002】
美容や痩身を目的として肌へ電流を流す技術がある。代表的なものとして、筋肉に刺激を与えることを目的とするもの(いわゆるEMS(Electric Muscle Stimulation))と、温感を与えることを主目的とするもの(RF(ラジオ波)によって肌を内部から温めるもの)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、EMSに用いられる電流(以下、EMS電流という)と温感等の効果を実現させるための電流(以下、RF電流という)とでは、周波数帯が異なる。よって、EMS電流を印加する場合とRF電流を印加する場合とではそれぞれ適切な条件が存在する。具体的には、EMSにおいては、刺激対象の範囲が大きいほど効果が高く、この刺激対象の範囲は肌に当る電極間の距離によって決まる。従って、基本的には、電極間の距離は離れていることが好ましい。加えて、一定の効果を得るためには、ある程度継続して印加する必要がある。一方、RF電流の印加においては、電極間の距離が小さいほど効果が高いことが知られている。ここで、電極間が離れていても、印加周波数を高くしたり印加時間を増やしたりすることで効果の低減を補うことも考えられるが、高い周波数や印加時間の増加はユーザに不快感を与える可能性がある。
このように、EMS電流を印加する場合とRF電流を印加する場合とに共通する好適な電極配置は、少なくとも原理的には、存在しない。筋肉刺激効果と温感効果とを両立させるべく、印加する時間を時分割制御したり印加電流の周波数等を切替えたりすることも考えられるが、回路構成が複雑になったり、印加する電流の周波数や振幅に一定の制限が課せられる場合がある。
このように、従来の美容機器においては、EMS電流の印加による効果とRF電流の印加による効果とを同時に実現させることが難しかった。
【0005】
本発明は、異なる周波数の電流を効果的に同時に印加することができる仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一の態様において、第1電極と、それぞれ前記第1電極の周囲に同心円上に配置された環状の電極であって、前記第1電極の外側に配置された第2電極と、前記第2電極の外側に配置された第3電極と、前記第3電極の外側に配置された第4電極と、前記第1電極と前記第4電極との間で第1周波数の電流を肌に印加しつつ、前記第2電極と前記第3電極との間で第2周波数の電流を前記肌に印加することができる印加手段とを有する美容機器を提供する。
好ましい態様において、前記第1周波数は1Hz~100kHzであり、前記第2周波数は200kHz~4MHzである。
好ましい態様において、前記印加手段は、前記第1周波数の値および前記第2周波数の値のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する選択手段を有する。
好ましい態様において、前記印加手段は、前記第1周波数の電流の振幅および前記第2周波数の電流の振幅のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から、前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する選択手段を有する。
好ましい態様において、前記印加手段は、前記第1周波数の電流の印加期間および前記第2周波数の電流の印加期間のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から、前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する選択手段を有する。
好ましい態様において、前記印加手段は、第1期間において、第2電極と第3電極との間で第1RF周波数の電流を印加し、第2期間において、第1電極と第4電極との間で前記第1RF周波数よりも小さな第2RF周波数の電流を印加し、前記第1期間と前記第2期間とは相互に繰り返される。
好ましい態様において、前記印加手段は、前記第1期間においては、さらに前記第1電極と前記第4電極との間で前記第2周波数の電流を連続的に印加し、前記第2期間においては、さらに前記第2電極と前記第3電極との間で、前記第2周波数の電流を断続的に印加する。
好ましい態様において、前記第1電極と前記第4電極との間で前記肌に印加される電流を検出するセンサを更に備え、前記印加手段は、前記第1電極と前記第4電極との間で所定閾値以上の電流値の電流が所定期間前記肌に印加されない場合、少なくとも前記第2周波数の印加を停止する。
好ましい態様において、全体の印加時間に占める前記第1期間の長さの割合は70%以上である。
好ましい態様において、 前記第2電極と第3電極の間隔は1mm~3mmであり、隣り合う電極間の間隔のうち少なくとも一つは他と同一ではない。
好ましい態様において、各電極はヘッド表面から突出しており、各電極の側壁面は当該ヘッド表面に垂直な方向に対して傾斜している。
本発明は、他の観点において、第1電極、第2電極、第3電極、および第4電極を備え、前記第1電極から前記第4電極までの距離は、前記第2電極から前記第3電極までの距離よりも大きくなるように配置された美容機器において、第1期間において、第2電極と第3電極との間で第1RF周波数の電流を印加しつつ、第1電極と第4電極との間で第2周波数の電流を連続的に印加する第1ステップと、第2期間において、前記第1電極と前記第4電極との間で前記第1RF周波数よりも小さな第2RF周波数の電流を印加しつつ、前記第2電極と前記第3電極との間で、前記第2周波数の電流を断続的に印加する第2ステップとを備え、前記第1RF周波数および前記第2RF周波数は200kHz~4MHzであり、前記第2周波数は1Hz~100kHzであり、前記第1ステップおよび前記第2ステップは交互に繰り返される、電流制御方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、異なる周波数の電流を同時に効果的に印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2B】電極10のサイズのバリエーションの例を示す。
【
図2C】電極10の各バリエーションに対する官能試験の結果を示す。
【
図6】電極10を構成する一つの電極の形状の他の例。
【
図9】異なる電極間距離の電極10を用いた場合の温度変化の違いを説明するための図。
【
図13】各電極を構成する部材の構造の例を示す分解図。
【
図15】各電極部材をケーシング100にはめ込んだ状態を示す図。
【
図18】ケーシング100に回路基板200をはめ込んだ図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施例1>
図1は美容機器1の外観図である。美容機器1は、ユーザに把持される筐体80と、筐体80の先端部であって肌に当接される部分に設けられた電極10とを有する。なお、筐体80には、ユーザに操作されるスイッチ90が設けられる。スイッチ90は、電源のON/OFFの他、印加する電流の周波数や時間その他の印加に関する条件を指定するために用いられる。その他、筐体80には電源コネクタや液晶画面等の情報表示手段が設けられるが、本発明とは直接関係がないため、捨象する。
【0010】
図2Aは、電極10の構造の詳細図である。電極10は、最も内側(中心側)に配置された円板形状の第1電極11と、それぞれ第1電極11の周囲に同心円上に配置された環状の電極であって、第1電極11の外側に配置された第2電極12と、第2電極12の外側に配置された第3電極13と、第3電極13の外側(最外側)に配置された第4電極14とから構成される。好ましい態様において、第1電極11から第4電極14までの距離d1、第2電極12から第3電極13までの距離d2とすると、d1>d2となる。
【0011】
なお、第1電極11、第2電極12、第3電極13、および第4電極14が同時に肌に当接することができるように、各電極の筐体面から高さが略同一であることが好ましい。各電極の幅(径方向の長さ)、面積、隣り合う電極との間隔は一例である。
【0012】
例えば、隣り合う電極同士の間隔については、前記第1電極と前記第2電極との間の距離、前記第2電極と前記第3電極との間の距離、前記第3電極と前記第4電極との間の距離が互いに異なっていてもよい。
各電極の面積(側面は含まず、肌に当接し得るリング平面の面積)に関しては、前記第1電極11と前記第4電極14の面積の比が1:1以上1:1、7以下であることが好ましい。この理由を、
図2Bおよび2Cを用いて説明する。
【0013】
各電極のサイズおよび面積が使用者の体感に与える影響を検証すべく、まず、
図2Bに示すように、第1電極11と第4電極14のサイズおよび面積が異なる計4つのサンプル電極(No.1~No.4)を用意した。同図中、
内周電極径および
内周電極面積は第1電極11の直径および面積であり、外周電極内径、外周電極外径、外周電極面積は、それぞれ第4電極14の内径、外径、面積を意味する。
なお、第2電極12と第3電極13は電流の印加には使用していないので、説明を割愛する。また、いずれのサンプルにおいても、隣り合う電極との間隔は2mmであり、第1電極11と第4電極14との距離は8mmである。すなわち、第1電極11と第4電極14との距離および隣り合う電極間の距離を一定にした場合において、各電極の面積(の比率)の違いによって体感にどのように差が生じるのかを検証したものである。
具体的には、計4つのサンプル電極を用いて同一の周波数の電流を印加し、6人の被験者から回答を得た。その回答結果を
図2Cに示す。同図に示すように、体感が良好だった順は、No.1=No.2、No.3、No.4であった。具体的には、筋肉刺激の効果を強く感じた順に並べると、No.1=No.2、No.3、No.4であり、痛みその他の不快感を強く感じた順に並べると、No.4、No.3、No.2=No.1であった。すなわち、筋肉刺激効果の観点から好ましいのは、第1電極11の面積に対する第4電極14の面積の比が1~1.7であるといえる。また、このとき、第4電極14の外径は
32mm~
37mmとなっており、これは従来の美容機器に比べてもコンパクト性の点で遜色がない。
【0014】
図3は、美容機器1の内部構造の概略図である。美容機器1は、第1電極11と第4電極14との間で第1周波数f1の電流を肌に印加しつつ、前記第2電極と前記第3電極と第3電極13との間で第2周波数f2の電流を肌に印加することができる印加手段20を備える。印加手段20は、第1電源回路21、第2電源回路22、絶縁トランス23、絶縁トランス24、制御部25を含む。
【0015】
第1電源回路21および第2電源回路22は、それぞれ、コイル、抵抗器、整流器、コンデンサ、クロック回路その他の素子によって実現され、それぞれ第1周波数f1および第2周波数f2の交流電流を発生させる。
第1周波数f1の電流は第1電極11および第4電極14の間に印加され、第2周波数f2の電流は第2電極12および第3電極13の間に印加される。
第1周波数f1は、例えば1Hz(ヘルツ)~100kHz(キロヘルツ)である。この周波数帯は、主に筋肉の刺激効果(EMS)に寄与する。第2周波数f2は、例えば200kHz~4MHz(メガヘルツ)であり、好ましくは200kHz~2MHzである。この周波数帯は、ラジオ波(RF)と呼ばれる周波数帯であって、主に温熱効果に寄与する。電圧は、例えば10V(ボルト)~300Vである。第1電源回路21および/または第2電源回路22にて生成することができる周波数帯は、互いに離れていてもよいし、一部が重なっていてもよい。
【0016】
要するに、電流を印加する目的(筋肉刺激、温熱、化粧水の内部への浸透の促進など)に応じて、発生させる周波数等のパラメータは適宜設定することができる。なお、電流の波形は、例えば交流の正弦波であるが、単極性の矩形波、三角波、その他パルス列(この場合、上述した周波数は繰り返し周波数としてみなすことができる)であってもよい。また、第1周波数f1および/または第2周波数f2は、可変でも固定でもよい。
【0017】
絶縁トランス23および絶縁トランス24は、それぞれ第2電源回路22および第1電源回路21にて発生した電流、その他想定外の電流が流れ込むのを防止する。すなわち、本発明においては、第1電源回路21、第1電極11、および第4電極14で構成される閉回路と、第2電源回路22、第2電極12、および第3電極13で構成される閉回路とが形成され、且つ肌には2種類の電流が同時に印加されることになるが、絶縁トランス23および絶縁トランス24を設けることで、他方の閉回路から一報の閉回路に電流が流れ込むことがない。
【0018】
制御部25は、スイッチ機構やプロセッサ等であって、スイッチ90を介して受け付けた指示に応じて、第1電源回路21および第2電源回路22へ、ON/OFF信号や、生成すべき電流プロファイル(印加時間、周波数、電圧、波形等)を示す制御信号を供給する。
【0019】
本実施例によれば、f1<f2であって、例えば第1周波数f1が主に筋肉刺激目的の周波数であり、第2周波数f2を主に温熱目的の周波数と設定した場合、第1周波数f1の印加に適した電極配置と第2周波数f2の印加に適した電極配置とが同時に実現された状態で、2つの電流を同時に印加することができる。この結果、実質的に同一の肌位置において、筋肉刺激効果と温熱効果とを同時に効果的に与えることができる。
【0020】
ここで、例えば筋肉刺激目的の周波数の電流と温熱目的の周波数の電流とを同一の電極を用いて交互に切替えて印加することにより、筋肉刺激効果と温熱効果の両立を得ようとした場合は、温熱効果の発揮に適した電極間距離にて筋肉刺激を行うための周波数の電流を印加すると、刺激される筋肉の範囲が狭くなってしまう。また、例えば筋肉刺激のための周波数電流を印加するための電極と温熱効果を得るための周波数の電流を印加するための電極とを物理的に離して設けた場合、使用可能な周波数帯についての制約が大きくなる。
【0021】
これに対し、本実施例によれば、同心円状に、筋肉刺激効果と温熱効果とを得るための周波数を印加するのに適した電極間距離に複数の電極が配置されるので、肌の広い範囲に、適切な筋肉刺激効果と温熱効果とを同時に与えることができる。この結果、例えば周波数を切り替える手法に比べて、ユーザの使用時間が短縮される。また、印加のタイミングを時分割で切替えるといった制御を行う必要がないので、回路構成を簡素化できる。
また、円環状の電極が採用されているので、電極対を確実に肌に接触させることができ、結果、肌に流れる電流が安定し、ユーザに与える不快感が軽減される。よって、例えば本実施例に係る物品の取り扱いに不慣れなユーザであっても、矩形の電極を対向して配置した場合とは異なり、電極10を肌へあてる向きや力加減を気にすることなく、使用することができる。
加えて、電極を同心円上に配置することで、電極の面積を確保しつつ肌へ当接する部分のサイズをコンパクトにすることができる。これにより、美容機器全体のデザイン性および操作性が向上する。
また、各電極の面積比率を上述した値の範囲内にすることで、強い痛みや、局所的な熱さといった不快感を軽減することができる。
【0022】
<実施例2>
図4は美容機器1の内部構造の他の例の概略図である。
この例では、制御部25に替えて制御部25Aが、印加手段20に替えて印加手段20Aが、それぞれ用いられる。印加手段20Aは、第1電源回路21および第2電源回路22と各電極との間に選択部26が設けられる。制御部25Aは、第1電源回路21および第2電源回路22にて生成した電流を第1電極11~第4電極14のうちどの電極から印加するかを決定し、選択部26へ制御信号を供給する。選択部26は、スイッチ回路等からなり、制御部25Aから供給される制御信号に基づいて、配線を切り替える。
【0023】
好ましい態様において、選択部26は、前記第1周波数の値および前記第2周波数の値のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する。これにより、周波数に適した電極対が選択される。
【0024】
他の態様において、選択部26は、前記第1周波数の電流の振幅および前記第2周波数の電流の振幅のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から、前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する。これにより印加電流強度に適した電極が決定される。
【0025】
さらに他の態様おいて、選択部26は、前記第1周波数の電流の印加期間および前記第2周波数の電流の印加期間のうちの少なくともいずれかに応じて、前記第1ないし第4電極から、前記第1周波数の電流の印加に使用する電極対または前記第2周波数の電流の印加に使用する電極対を選択する。これにより印加期間に適した電極が選択される。
【0026】
美容機器1において複数の動作モードが選択可能な場合、動作モードに応じた使用電極を選択してもよい。例えば、
図5に示すような、動作モードと使用する電極との組み合わせを規定するテーブルを記憶したメモリを制御部25A内に設ける。ここで、動作モードは、ユーザがスイッチ90を介して直接指定してもよいし、スイッチ90を介してユーザが指定した目的、周波数、振幅(強度)、印加時間その他の印加に関するパラメータから、所定のアルゴリズムを用いて、制御部25Aが決定してもよい。
同図の例では、動作モードに応じてどの電極に第1周波数f1および第2周波数f2のどちらか(または両方)を印加するかが規定されている。なお、同図中の(+)および(-)は、電極対の陽極/負極をそれぞれ示している。
【0027】
より具体的には、動作モード1では第1電極11と第4電極14との間にf1の電流を印加しつつ、第2電極12と第3電極13の間にf2の電流を印加する。動作モード2では、第1電極11と第4電極14との間にf1の電流のみを印加する。動作モード3では、第2電極12と第3電極13との間にf2の電流のみを印加する。動作モード4では、第1電極11と第3電極13との間にf1の電流を印加する一方、第2電極12と第4電極14との間にf2の電流を印加する。動作モード1の場合と比べて、使用する電極が異なっている。これは、f1とf2が比較的近い値をとる場合に有効である。動作モード5では、第1電極11と第2電極12とを等電位に、第3電極13と第4電極14とを等電位にすることで、第1電極11および第2電極12で一つの電極(例えば陽極)として機能させ、第3電極13および第4電極14で一つの電極(例えば陰極)として機能させ、この電極対に一つの周波数の電流を印加する。これは、肌と接する電極の面積は体感に影響しうるところ、当接する電極の見かけ上の面積を増加させることで効果の体感を向上させることを目的とする場合に選択されることが想定される。同様の目的で、動作モード6においては、第2電極12、第3電極13、および第4電極14の3つが電極対の一方として機能する。
このように、目的や周波数その他の印加態様に応じて柔軟に電極を選択することができる。
【0028】
最も内側に位置する第1電極11は、円板状でなく、円環状であってもよい。この場合、第1電極11の中心部に形成される空間に、LED等などの肌に光を照射する機構を設けてもよい。
また、同心円上に配置され径が異なる環状の電極であれば、電極10が有する電極の数は5以上であってもよい。同心円上に配置された環状電極の数を増やすことで、同時に印加することができる電流の種類が増える。
また、各電極は真円のリング状ではなく、楕円リング、矩形リング、多角形(例えば隅丸三角形)リング、ハート型のリング、その他の中空形状であってもよい。すなわち、本発明における「環状」とは、中空の構造体であればよく、例えば
図6に示すような円環部材に突起が形成されたような形状でもよく、外形や内径が円から歪んでいてもよい。
ただし、少なくとも電極対を構成する電極同士(例えば第1電極11と第4電極)の間隔は、位置によらず一定であること(換言すると、両電極の形状が相似であること)が好ましい。電極間の距離を一定にすると、肌の場所による印加電流量やユーザに与える感覚が均一になる。
【0029】
<実施例3>
印加手段20は、第1期間において、第2電極12と第3電極13との間で第1RF周波数の電流を印加し、第2期間において、第1電極11と第4電極14との間で第1RF周波数よりも小さな第2RF周波数の電流を印加してもよい。そして、第1期間と第2期間とは相互に繰り返されてもよい。
また、印加手段20は、前記第1期間においては、さらに前記第1電極と前記第4電極との間で前記第2周波数の電流を連続的に印加し、前記第2期間においては、さらに前記第2電極と前記第3電極との間で、前記第2周波数の電流を断続的に印加してもよい。
【0030】
図7は、このような電流印加制御の具体例を示す。この例において、印加する交流電流はRF電流とEMS電流の二つに大別される。なお、第2電極12と第3電極13との間隔は2mm、第1電極11と第4電極14との間隔は8mmである。
同図に示すように、電源ON時から順に、印加期間T0、T1、T2が設定されている。期間T0においては、71~100HzのEMS電流を第1電極11と第4電極14とを用いて30秒流す。同時に、第2電極12および第3電極13を用いて2MHzのRF電流を流す。ここで、RF電流については、印加に使用する2つの電極の間の距離がより近い方が、温熱効果がより高い。一方、EMS電流については電極間の距離がより長い方がより良い体感が得られ(ビリビリとしたような不快感をユーザが感じにくい)、且つ広範囲の筋肉に刺激を与える(ことによって筋肉を動かす)ことができる。すなわち、電源投入直後の期間T0においては、温熱効果の付与に適した電極対である第2電極12および第3電極13を使用してまずは肌を十分に温めつつ、筋肉をしっかり動かすのに適した電極対である第1電極11および第4電極14を使用して、温めている肌のエリアを挟むように筋肉を刺激する。
【0031】
期間T0に続く期間T1においては、使用する電極を切り替え、RF電流(1MHz)を第1電極11と第4電極14の間で2秒間印加すると当時に、EMS電流(1kHz)を第2電極12および第3電極13を用いて、繰返し周波数10Hzで流す。電極間の距離が最も遠くなる組み合わせである第1電極11と第4電極14とをRF電流の印加に使用することで、広い範囲を温めることができる。一方、上述の通り、EMS電流は、印加に使用する電極間の距離が近くなった分、体感への刺激が強くなる(不快感が増す)ので、断続的に流す(すなわち、EMS電流が流れない期間が存在する)こととしている。なお、1kHzという周波数は、比較的不快が少ないとされているが、一方で筋収縮も起こりにくいところ、断続的に電流を流すことで、連続的に流す場合よりも、筋収縮が促されるという効果もある。
【0032】
期間T1に続く期間T2においては、RF電流(2MHz)を第2電極12および第3電極13の間で10秒間流すとともに、EMS電流(71~100Hz)を第1電極と第4電極間に10秒間流す。すなわち、RF電流の印加に適した電極対を用いて、温熱効果に適した周波数である2MHzの電流が印加される。これにより、肌の温度を十分に上がって血行が良くなり、ほぐれた筋肉に電気刺激が作用する。換言すると、EMS電流によるによる筋肉刺激とRF電流による温熱効果の相乗効果が期待される。
【0033】
以下、期間T1と期間T2を繰り返し、例えば6分間印加を行って、動作を終了する。 このように、RF電流の印加に適した電極対を使って、速熱性が期待できる第1RF周波数を第1期間(T1)において印加し、第2期間(T2)において広いエリアをターゲットにして温め能力が控えめである第2RF周波数を印加することで、速熱性と温度安定性(温めすぎ防止)とが両立できる。
なお、上述した期間T0、T1、T2の長さは一例である。期間T0は20~40秒、期間T1は2~10秒、期間T2は、5~15秒が好ましい。また、肌温度の維持の観点から、全体の印加時間に占める第1期間T1の長さの割合は70%~80%以上であることが好ましい。
【0034】
ここで、
図7の例においてRF電流として1MHzまたは2MHzを用いている理由を詳細に説明する。
図8は、異なる3つのRF電流の印加パターンで計90秒間印加した場合にそれぞれ温度がどのように変化したかを示した実験の結果である。
【0035】
(ア)は、第2電極12および第3電極13の間で2MHzのRF電流を90秒間印加し続けた場合の温度変化を示す。(イ)は、
図7に示したように、第2電極12および第3電極13の間で
1MHzのRF電流を2秒間流し、続いて第1電極11と第4電極14の間で2MHzのRF電流を10秒間流し、その後は1MHzのRF電流を2秒間印加する工程と2MHzのRF電流を10秒間印加する工程とを繰り返した場合の温度変化を示す。(ウ)は、第1電極11と第4電極14との間で1MHzのRF電流を90秒照射し続けた場合の温度変化を示す。
【0036】
同図から分かるように、(ア)および(イ)の場合は、肌ケアに好ましいとされる肌の温度が40度近傍を保っているのに対し、(ウ)の場合は40度に到達していない。これは、使用する電極間の距離が(ア)の場合に比べて大きくなっているぶん、温熱作用が十分に発揮されないためである。一方、(イ)のように、使用する電極を切り替えつつ1MHzと2
MHzとを交互に印加しても、(ア)のように2MHzを連続的に印加した場合と同様の温熱効果が得られることが分かった。ここで、(ア)のようなRF電流の印加を行うと、同時に印加するEMS電流を使用する電極は第2電極12および第3電極13とならざるを得ないから、この場合、上述の通り、体感が悪化することになる。これに対し、(イ)(すなわち
図7)のように電極を切り替える制御を行うことで、RF電流による温熱効果とEMS電流による体感悪化の防止の効果が両立する。
【0037】
電極間距離を2mmとしている理由について詳細に説明する。
図9は、2つの同心円上の円環電極の距離と、印加されるRF電流との違いによって、肌の温度がどのように変わるかを実験によって示した図である。同図(a)はRF電流1MHzで電極間距離が3mmの場合、(b)はRF電流2MHzで電極間距離2mmの場合である。同図に示すように、(
b)の場合のほうが速熱性に優れている(より早く温める効果がある)ことが確認できた。なお、電極間距離を1mmにすると、体感的に不快になる(熱すぎる)ことが実験で明らかになった。以上を踏まえ、
図7の例において、RF電流の印加に好ましい電極間隔として2mmを設定している。換言すると第2電極12と第3電極13の間隔は、1mm~3mmが好ましい。なお、電極11~14のうち、隣り合う電極間の間隔のうち少なくとも一つは他と同一ではない。これにより、任意の2つの電極をした場合の電極間距離のバリエーションが増える。
【0038】
<実施例4>
各電極の面積(サイズ)の一例を
図10に示す。第1電極11ないし第4電極14の面積は、それぞれ118.0mm^2、113.7mm^2、170.6mm^2、164.6mm^2である。このとき、任意の2つの電極を選択しても、その電極間のサイズが約1.0倍~約1.5なることが好ましい。RF電流やEMS電流の印加に使用する電極対において、一方の電極に対する他方の電極の面積比が大きくなると、温熱効果や刺激効果の低減ないし体感の悪化につながるからである。
【0039】
<実施例5>
各電極11~14の立体形状に関し、断面が矩形である必要はない。例えば、
図11に示すように、第4電極14の側面(側壁面)は、電極10の接地面SS(ヘッド表面)に垂直な方向C1に対して所定の角度(この場合は35度)だけ傾斜していてもよい。この所定の角度は、第4電極14の側面が筐体80のヘッド部の縁面(C2)と連続するように設定される(
図12参照)。これにより、第4電極14の表面のSTだけでなく、側面SWも肌に当てることができる。結果、第4電極14において、実効電極面積が増え、第4電極14を用いて印加される電流が増大する。
【0040】
<実施例6>
電極10の内部構造の例について、
図13~19を用いて説明する。
図13は各電極11~14を構成する部材の構造の例を示す分解図である。各電極11~14は、金属リングに3つの突起部が形成された形状となっている。
図14および15は、これらの金属リングをはめ込んだ(埋没固定させた)ケーシング100の構造を示す。
図16は、金属リング群をはめ込んだケーシング100に電圧印加用のための回路基板200を示す図である。回路基板200には、
図17に示すような円錐状の(先細りの)コイルバネ201が複数設けられている。
図18および
図19は、金属リング群をはめ込んだケーシング100に回路基板200を組付けた図を示す。同図に示すように、各電極部材の突起部に当接して各電極部材をケーシング側100に押し付けることにより、コイルバネ201を介して各電極部材が固定される。なお、コイルバネ201は、その頂点部の面積が底面部の面積の50%以下となるような錐状(三角錐、円錐など)であることが好ましい。
【0041】
顔など狭いエリアに施術する場合は、ヘッド部の大きさに制約があり、同心円上に複数の電極を配置すると、必然的に各電極の幅が小さくなる。一例としては電極の幅が2mmまたはそれ以下となる場合もある。このような状況に鑑み、細い電極でも通電状態を安定させるべく、電極側を絶縁部から突出させ、先細り形状のコイルバネを介して通電させることとしている。
【0042】
<実施例7>
美容機器1に、第1電極11と前記第4電極との間で前記肌に印加される電流を検出するセンサを更に設け、電極の全面に肌が当たっていない場合はRF電流が流れないようにしてもよい。不完全な肌と電極との当接状態が発生する場合、肌の過熱などの虞があるが、RF電流をながさないことによりこのような事態を防ぐことを目的とする。
例えば、印加手段20は、前記第1電極と前記第4電極との間で所定閾値以上の電流値の電流が所定期間前記肌に印加されない場合、少なくとも前記第2周波数の印加を停止する。より具体的には、第1電極11および第4電極14の間で微小なRF電圧を印加し、肌に触れていない時と肌に触れている時の印加電流値(の振幅)の差分を検出し、当該差分が閾値を超えたか否かに基づいて、電極(の全面)が肌に当たっているか否かを判定する。例えば、以下の通りである。
・電源投入時は肌に触れていないと判定する。
・肌に触れていないと判定した後、第1しきい値の電流値が50ms以上流れたとき肌に触れたと判定する。
・肌に触れていると判定した後に第1しきい値以上の電流値が25ms以上流れ続けていれば、引き続き肌に触れていると判定する。
・肌に触れていると判定した後に第2しきい値以下の電流値が3秒以上続いたら肌から離れた(もはや肌に触れていない状態である)と判定する。
【0043】
<実施例8>
各電極11~14は、同心円上に配置されている必要はない。好ましい態様において、美容機器1は、第1電極、第2電極、第3電極、および第4電極を備え、第1電極から第4電極までの距離は、第2電極から第3電極までの距離よりも大きくなるように配置されていればよい。
このような電極配置において、第1期間において、第2電極と第3電極との間で第1RF周波数の電流を印加しつつ、第1電極と第4電極との間で第2周波数の電流を連続的に印加する第1ステップと、第2期間において、前記第1電極と前記第4電極との間で前記第1RF周波数よりも小さな第2RF周波数の電流を印加しつつ、前記第2電極と前記第3電極との間で、前記第2周波数の電流を断続的に印加する第2ステップとを有し、前記第1RF周波数は200kHz~4MHzであり、前記第2周波数は1Hz~100kHzであり、前記第1ステップおよび第2ステップは交互に繰り返される。こうすることで、前記第1RF周波数がもたらす温熱効果と、第2RF周波数がもたらす筋肉刺激効果を両立させることができる。
【符号の説明】
【0044】
1・・・美容機器、10・・・電極、11・・・第1電極、12・・・第2電極、13・・・第3電極、14・・・第4電極、20・・・印加手段、21・・・第1電源回路、22・・・第2電源回路、23・・・絶縁トランス、24・・・絶縁トランス、25・・・制御部、26・・・選択部、80・・・筐体、90・・・スイッチ、100・・・ケーシング、200・・・回路基板