(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230301BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20230301BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/419 327H
(21)【出願番号】P 2021554953
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041219
(87)【国際公開番号】W WO2021090839
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019200859
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 美香
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 恵実
(72)【発明者】
【氏名】氏原 浩佑
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188853(JP,A)
【文献】特開2017-187482(JP,A)
【文献】特開2014-098590(JP,A)
【文献】特開2015-072259(JP,A)
【文献】実開昭55-145353(JP,U)
【文献】国際公開第2020/144827(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/409
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体と、素子本体の表面を覆っている多孔質保護層を有するセンサ素子であり、
多孔質保護層は、センサ素子の表面に露出する第1層と、素子本体と第1層の間に設けられている第2層と、を備えており、
第1層は、セラミックス粒子と、アスペクト比5以上100以下
のセラミックスを含んでいるとともに、一部が素子本体に接しており、
第2層の気孔率が95体積%以上であるセンサ素子。
【請求項2】
第1層の気孔率が5体積%以上50体積%以下である請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
多孔質保護層が素子本体を覆っている範囲において、素子本体の表面積をS1とし、素子本体と第1層の接触面積をS2としたときに、下記式(1)を満足する請求項1または2に記載のセンサ素子。
10≦(S2/S1)×100≦80・・・(1)
【請求項4】
第1層における
前記セラミックスの体積率が、セラミックス粒子と
前記セラミックスの合計の体積に対して、20体積%以上80体積%以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記セラミックスの最長径が5μm以上200μm以下である請求項1から4のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記セラミックスの最短径が0.01μm以上20μm以下である請求項1から5のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年11月5日に出願された日本国特許出願第2019-200859号に基づく優先権を主張する。その出願の全ての内容は、この明細書中に参照により援用されている。本明細書は、センサ素子に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-188853号公報(以下、特許文献1と称する)に、素子本体を無機質の多孔質保護層で覆ったセンサ素子が開示されている。特許文献1のセンサ素子は、多孔質保護層に覆われている範囲において、多孔質保護層が素子本体に接触している領域と、多孔質保護層と素子本体の間に隙間(空隙)が設けられている領域を備えている。すなわち、多孔質保護層を素子本体の間に空気層を設け、多孔質保護層と素子本体を断熱している。その結果、センサ素子を駆動しているときに多孔質保護層に水分が付着した際、高温のセンサ素子が急速に冷却されることが抑制され、センサ素子の劣化を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1には、多孔質保護層と素子本体の間に空隙が設けられている領域において、多孔質保護層と素子本体の間に複数の柱部を設ける形態も開示されている。柱部を設けることにより、多孔質保護層が複数個所で支持され、多孔質保護層の強度を向上させることができる。しかしながら、多孔質保護層と素子本体の間に柱部を設けると、柱部の分だけ多孔質保護層と素子本体の接触面積が増加し、多孔質保護層と素子本体の断熱性が低下する。よって、特許文献1の技術では、目的と用途に応じてセンサ素子の形状、多孔質保護層と素子本体の間に設ける柱部の数等を調整することが必要である。そのため、センサ素子の分野においては、汎用性の高い構造を実現することが必要とされている。本明細書は、汎用性の高い新規なセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示するセンサ素子は、素子本体と、素子本体の表面を覆っている多孔質保護層を有している。このセンサ素子では、多孔質保護層は、センサ素子の表面に露出する第1層と、素子本体と第1層の間に設けられている第2層を備えていてよい。第1層は、セラミックス粒子と、アスペクト比5以上100以下の異方性セラミックスを含んでいるとともに、一部が素子本体に接していてよい。また、第2層の気孔率が95体積%以上であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】第1実施形態のセンサ素子の外観(斜視図)を示す。
【
図3】
図1のIII-III線に沿った断面図を示す。
【
図5】第1実施形態のセンサ素子の外層の模式図を示す。
【
図9】実施例で用いたセンサ素子(ガスセンサ)の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書で開示されるセンサ素子は、例えば、空気中の特定成分の濃度を検出するガスセンサとして用いることができる。ガスセンサの一例として、内燃機関を有する車両の排気ガス中のNOx濃度を検出するNOxセンサ、酸素濃度を検出する空燃比センサ(酸素センサ)等が挙げられる。
【0007】
センサ素子は、素子本体(センサ構造が作り込まれた部材)と、素子本体の表面を覆っている無機質の多孔質保護層を有していてよい。多孔質保護層は、素子本体の一部、特に、センサ構造が作り込まれた部分を覆っていてよい。センサ素子はスティック状であってよく、多孔質保護層はセンサ素子の長手方向中間部分から長手方向の一端まで覆っていてよい。例えばセンサ素子がガスセンサの場合、多孔質保護層は、被検ガスを検出する検出部が設けられている部分を覆っていてよい。一例として、多孔質保護層は、センサ本体の長手方向長さの半分未満、例えば、長手方向端部から長手方向長さの1/5~1/3の範囲を被覆していてよい。
【0008】
多孔質保護層は、センサ素子の表面に露出する第1層と、素子本体と第1層の間に設けられている第2層を備えていてよい。第1層は、セラミックス粒子と、アスペクト比5以上100以下の異方性セラミックスを含んでいてよい。第2層は、気孔率が95体積%以上であってよい。第1層がセラミックス粒子と異方性セラミックスを含むことにより、第1層をセラミックス粒子のみで形成する場合と比較して、第1層自体の強度を向上させることができる。そのため、第1層と素子本体の間に低密度層(第2層)が介在していても、多孔質保護層の強度を維持することができる。なお、「第2層の気孔率が95体積%以上」とは、第2層が体積割合5%未満(気孔率95%以上)の材料で構成されている形態に加え、第2層が空隙(すなわち、気孔率100%)である形態も含む。
【0009】
また、第2層は、素子本体の表面に接触していてもよいし、素子本体の表面と非接触であってもよい。例えば、素子本体の表面(第1層が接していない部分)を第3層が被覆し、第2層が第1層と第3層の間に設けられていてもよい。なお、第3層は、第1層と同様に、セラミックス粒子と、アスペクト比5以上100以下の異方性セラミックスを含んでいてよい。第3層は、第1層と同じ材料で形成されていてもよい。すなわち、本明細書で開示するセンサ素子では、第1層の内側(素子本体側)に第2層(低密度層)が存在していれば、第2層の形態及び低密度層を設ける位置は任意である。
【0010】
第1層は、一部が素子本体に接してよい。すなわち、第1層と素子本体の間に第2層が存在せず、第1層が素子本体に直接接している部分が存在していてよい。例えば、多孔質保護層が素子本体を覆っている範囲において、素子本体の表面積(S1)に対する第1層が素子本体に直接接している部分の面積(S2)の面積比(R1)が、10%以上80%以下であってよい。換言すると、多孔質保護層が素子本体を覆っている範囲において、素子本体の表面積(第1層が素子本体に接している部分を含む)をS1とし、素子本体と第1層の接触面積をS2としたときに、下記式(1)を満足していてよい。なお、素子本体の表面積とは、素子本体の外面全体(表裏面、側面、端面)を意味する。
10≦(S2/S1)×100≦80・・・(1)
【0011】
面積比R1((S2/S1)×100)が10%以上であれば、多孔質保護層の強度が十分に確保される。また、面積比R1が80%以下であれば、多孔質保護層と素子本体の断熱性を十分に確保することができる。なお、面積比R1は、15%以上であってよく、18%以上であってよく、25%以上であってよく、30%以上であってよく、45%以上であってもよい。また、面積比R1は、75%以下であってよく、72%以下であってよく、55%以下であってよく、45%以下であってよく、30%以下であってよく、25%以下であってもよい。
【0012】
多孔質保護層がスティック状のセンサ素子を長手方向中間部分から長手方向の一端まで覆っている場合、第1層は、少なくともセンサ素子の長手方向中間部分側の端部(以下、第1端部という)で、素子本体に接していてよい。また、第1層は、第1端部に加え、センサ素子の長手方向一端側の端部(以下、第2端部という)、及び/又は、第1端部と第2端部の間で部分的に素子本体に接していてもよい。すなわち、第1層は、素子本体の複数個所で接していてもよい。
【0013】
第1層の厚みは、50μm以上950μm以下であってよい。第1層の厚みが50μm以上であれば、多孔質保護層の強度を十分に確保することができる。また、第1層の厚みが950μm以下であれば、センサ素子の外部のガスが多孔質保護層を通過して素子本体に容易に移動することができる。第1層の厚みは、100μm以上であってよく、200μm以上であってよく、300μm以上であってよく、500μm以上であってもよい。また、第1層の厚みは、800μm以下であってよく、600μm以下であってよく、500μm以下であってよく、400μm以下であってもよい。
【0014】
第2層の厚みは、50μm以上950μm以下であってよい。第2層の厚みが50μm以上であれば、第1層と素子本体の間を十分に断熱することができる。また、第2層の厚みが950μm以下であれば、多孔質保護層の強度を十分に確保することができる。第2層の厚みは、100μm以上であってよく、200μm以上であってよく、300μm以上であってよく、500μm以上であってもよい。また、第2層の厚みは、800μm以下であってよく、600μm以下であってよく、500μm以下であってよく、400μm以下であってもよい。本明細書で開示するセンサ素子では、多孔質保護層の厚み(素子本体の表面から第1層の外部への露出面までの距離)は、100μm以上1000μm以下であってよい。上記した機能(強度、断熱性)を十分に発揮することができる。
【0015】
第1層は、気孔率が5体積%以上50体積%以下であってよい。第1層の気孔率が5体積%以上であれば、センサ素子の外部のガスが多孔質保護層を通過して素子本体に容易に移動することができる。また、第1層の気孔率が50体積%以下であれば、多孔質保護層の強度を十分に確保することができる。第1層の気孔率は、10体積%以上であってよく、15体積%以上であってよく、20体積%以上であってもよい。また、第1層の気孔率は、40体積%以下であってよく、32体積%以下であってよく、20体積%以下であってもよい。
【0016】
第1層における異方性セラミックスの体積率が、セラミックス粒子と異方性セラミックスの合計の体積に対して、20体積%以上80体積%以下であってよい。第1層における異方性セラミックスの体積率が20体積%以上であれば、第1層の強度を十分に確保することができ、さらに、多孔質保護層の製造過程(焼成工程)において、セラミックス粒子の焼結が進行し過ぎることを抑制することもできる。また、異方性セラミックスの体積率が80体積%以下であれば、第1層における伝熱経路を分断することができ、第1層の断熱性能が向上し、その結果、多孔質保護層の断熱性能が向上する。第1層における異方性セラミックスの体積率は、30体積%以上であってよく、40体積%以上であってよく、50体積%以上であってよく、60体積%以上であってもよい。また、第1層における異方性セラミックスの体積率は、70体積%以下であってよく、60体積%以下であってよく、50体積%以下であってもよい。なお、詳細は後述するが、異方性セラミックスは、最長径が比較的短い(5μm以上50μm以下)板状セラミックス粒子、及び/又は、最長径が比較的長い(50μm以上200μm以下)セラミックス繊維を含んでいてよい。
【0017】
上記したように、異方性セラミックスは、最長径が比較的短い板状セラミックス粒子と、最長径が比較的長いセラミックス繊維を含んでいてよい。すなわち、異方性セラミックスの最長径は、5μm以上200μm以下であってよい。また、異方性セラミックスの最短径は、0.01μm以上20μm以下であってよい。なお、「最長径」とは、骨材(繊維、粒子)を一組の平行な面で挟んだときに最長となる長さを意味する。また、「最短径」とは、骨材(繊維、粒子)を一組の平行な面で挟んだときに最短となる長さを意味する。板状セラミックス粒子においては、「厚さ」が「最短径」に相当する。異方性セラミックスは、最長径5μm以上200μm以下、最短径0.01μm以上20μm以下の範囲内で、アスペクト比(最長径/最短径)が5以上100以下であってよい。アスペクト比が5以上であればセラミックス粒子の焼結を良好に抑制することができ、100以下であれば異方性セラミックスの強度低下が抑制され、第1層の強度が十分に維持される。
【0018】
第1層に含まれるセラミックス粒子は、第1層の骨格をなす骨材である異方性セラミックス(板状セラミックス粒子,セラミックス繊維)を接合する接合材として用いられてよい。セラミックス粒子の材料として、金属酸化物を用いることができる。そのような金属酸化物として、アルミナ(Al2O3)、スピネル(MgAl2O4)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、ムライト(Al6O13Si2)、コージェライト(MgO・Al2O3・SiO2)等が挙げられる。上記した金属酸化物は、例えば高温の排気ガス中においても化学的に安定である。セラミックス粒子は、粒状であってよく、そのサイズ(焼成前の平均粒径)は、0.05μm以上1.0μm以下であってよい。セラミックス粒子のサイズが小さ過ぎると、多孔質保護層の製造過程(焼成工程)において焼結が進行し過ぎ、焼結体が収縮し易くなる。また、セラミックス粒子のサイズが大き過ぎると、骨材同士を接合する性能が十分に発揮されなくなる。なお、多孔質保護層の厚み方向において、セラミックス粒子のサイズは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
板状セラミックス粒子の材料は、上記したセラミックス粒子の材料として説明した金属酸化物に加え、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)、マイカ、カオリン等の鉱物・粘土、ガラス等を用いることができる。板状セラミックス粒子は、矩形板状、あるいは、針状であってよい。板状セラミックス粒子の最長径は、5μm以上50μm以下であってよい。板状セラミックス粒子の最長径が5μm以上であれば、セラミックス粒子の過剰な焼結を抑制することができる。また、板状セラミックス粒子の最長径が50μm以下であれば、板状セラミックス粒子によって第1層内の伝熱経路が分断され、素子本体を外部環境から良好に断熱することができる。
【0020】
セラミックス繊維の材料として、上記したセラミックス粒子の材料として説明した金属酸化物に加え、ガラスを用いることもできる。セラミックス繊維の最長径は、50μm以上200μm以下であってよい。また、セラミックス繊維の最短径は、1~20μmであってよい。なお、多孔質セラミックス層の厚み方向において、使用するセラミックス繊維の種類(材料,サイズ)を変えてもよい。
【0021】
上記したように、多孔質保護層(第1層)は、セラミックス粒子、異方性セラミックス(板状セラミックス粒子、セラミックス繊維)等で構成されていてよい。多孔質保護層は、これらの材料の他、バインダ、造孔材、溶媒を混合した原料を用いて製造されてよい。バインダとして、無機バインダを使用してよい。無機バインダの一例として、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等が挙げられる。これらの無機バインダは、焼成後の多孔質保護層の強度を向上させることができる。造孔材として、高分子系造孔材、カーボン系粉等を使用してよい。具体的には、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン粒子、ポリスチレン粒子、セルロース繊維、デンプン、カーボンブラック粉末、黒鉛粉末等が挙げられる。造孔材は、目的に応じて種々の形状であってよく、例えば、球状、板状、繊維状等であってよい。造孔材の添加量、サイズ、形状等を選択することにより、多孔質保護層の気孔率、気孔サイズを調整することができる。溶媒は、他の原料に影響を及ぼすことなく原料の粘度を調整可能なものであればよく、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等を使用することができる。
【0022】
本明細書で開示するセンサ素子では、上記原料を、例えば第2層が形成された素子本体の表面に塗布し、乾燥、焼成を経て素子本体の表面に多孔質保護層を設ける。原料の塗布方法として、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、スリットダイコート、溶射、エアロゾルデポジション(AD)法、印刷、モールドキャスト成形等を用いることができる。
【0023】
上記した塗布方法のうち、ディップコートは、素子本体の表面全体に、一度に均一に原料を塗布することができるという利点を有する。ディップコートでは、原料の種類、塗布厚みに応じて、原料のスラリー粘度、被塗布体(素子本体)の引き上げ速度、原料の乾燥条件、焼成条件等を調整する。一例として、スラリー粘度は、50~7000mPa・sに調整される。引き上げ速度は、0.1~10mm/sに調整される。乾燥条件は、乾燥温度:室温~300℃、乾燥時間:1分以上に調整される。焼成条件は、焼成温度:800~1200℃、焼成時間:1~10時間、焼成雰囲気:大気に調整される。なお、多孔質保護層を多層構造とする場合、ディップィングと乾燥を繰り返して多層構造を形成した後に焼成を行ってもよいし、各層毎にディップィング,乾燥及び焼成を行って多層構造を形成してもよい。
【0024】
(第1実施形態)
図1から
図5を参照し、センサ素子100について説明する。なお、以下の説明では、センサ構造が作り込まれている素子本体50と素子本体50を覆っている多孔質保護層30の関係についてのみ説明し、センサ構造の説明については省略する。
【0025】
図1に示すように、センサ素子100は、スティック状の素子本体50と、素子本体50の長手方向中間部から一端までを覆っている多孔質保護層30を備えている。
図2に示すように、多孔質保護層30は、外層(第1層)32と内層(第2層)34を備えている。多孔質保護層30が素子本体50を覆っている範囲40において、外層32の素子本体50の長手方向中間部側の端部(第1端部36)では、外層32が素子本体50に接触している。一方、素子本体50の長手方向一端側の端部(第2端部38)では、外層32が素子本体50に接触しておらず、素子本体50の表裏面、側面及び端面を囲っている。また、
図3に示すように、第1端部36では、外層32が素子本体50の周方向の全面に接触している。そのため、範囲40では、素子本体50が外部空間に露出しない(多孔質保護層30で完全に覆われている)。なお、
図4に示すように、第1端部36と第2端部38の間では、外層32は素子本体50に接触していない。
【0026】
外層32は、セラミックス粒子の焼結体(マトリクス)と、異方性セラミックス(板状セラミックス粒子、セラミックス繊維)を含んでいる。外層32の気孔率は、およそ20体積%である。外層32における異方性セラミックスの割合「{(異方性セラミックス)/(異方性セラミックス)+(セラミックス粒子)}×100」は、およそ50体積%である。また、素子本体50の表面積S1に対する外層32が素子本体50に接触している部分(第1端部36)の面積S2は、下記式(1)を満足するように調整されている。具体的には、第1端部36のサイズを変更することにより、面積比(S2/S1)を調整可能である。
10≦(S2/S1)×100≦80・・・(1)
【0027】
内層34は、空気層である。すなわち、内層34は、外層32と素子本体50の間に設けられた気孔率100%の空隙である。内層34は、多孔質保護層30を形成する際、素子本体50の表面に樹脂層を形成し、次に樹脂層上にセラミックス層(外層32)を形成し、その後、焼成を行って樹脂層を消失させることによって形成することができる。多孔質保護層30は、外層32と素子本体50の間に断熱層となる空隙(内層34)が設けられているので、外層32から素子本体50への伝熱を抑制することができる。
【0028】
図5は、外層32の構造を模式的に示している。
図5に示すように、外層32は、マトリクス18と、セラミックス繊維16と、板状セラミックス粒子14によって構成されている。マトリクス18は、セラミックス粒子の焼結体であり、骨材であるセラミックス繊維16及び板状セラミックス粒子14を接合している。セラミックス繊維16及び板状セラミックス粒子14は、外層32内にほぼ均一に分散して存在している。なお、マトリクス18内には、空孔12が設けられている。空孔12は、外層32を形成する際に原料に添加した造孔材の消失痕である。すなわち、空孔12は、多孔質保護層30の製造過程(焼成工程)において造孔材が消失することにより生じたものである。空孔12量を調整することにより、外層32の気孔率を調整することができる。
【0029】
(第2実施形態)
図6を参照し、センサ素子100aについて説明する。センサ素子100aは、センサ素子100の変形例であり、多孔質保護層30aの構造が、センサ素子100の多孔質保護層30と異なる。センサ素子100aについて、センサ素子100と実質的に同一の構成については、センサ素子100を同じ参照番号を付すことにより説明を省略することがある。
【0030】
多孔質保護層30aは、外層32と内層34aを備えている。内層34aは、セラミックス繊維,セラミックス粒子等で形成されたセラミックス層であり、気孔率95%以上に調整されている。内層34aは、多孔質保護層30aを形成する際、素子本体50の表面にセラミックス繊維,セラミックス粒子等を含む樹脂層を形成し、次に樹脂層上にセラミックス層(外層32)を形成し、その後、焼成を行って樹脂層を消失させることによって形成することができる。多孔質保護層30aは、多孔質保護層30(
図2を参照)と比較して、高い強度を得ることができる。
【0031】
(第3実施形態)
図7を参照し、センサ素子100bについて説明する。センサ素子100bは、センサ素子100の変形例であり、多孔質保護層30bの構造が、センサ素子100の多孔質保護層30と異なる。センサ素子100bについて、センサ素子100と実質的に同一の構成については、センサ素子100を同じ参照番号を付すことにより説明を省略することがある。
【0032】
多孔質保護層30bは、第1端部36と第2端部38の間に複数の柱部37を備えている。各柱部37は、外層32と素子本体50に接触している。換言すると、多孔質保護層30bでは、外層32が、複数個所で素子本体50に接触している。なお、内層34bは、柱部37によって複数の領域に分割されている。多孔質保護層30bは、多孔質保護層30(
図2を参照)と比較して、高い強度を得ることができる。
【0033】
(第4実施形態)
図8を参照し、センサ素子100cについて説明する。センサ素子100cは、センサ素子100の変形例であり、多孔質保護層30cが3層構造である点が、センサ素子100の多孔質保護層30と異なる。センサ素子100cについて、センサ素子100と実質的に同一の構成については、センサ素子100を同じ参照番号を付すことにより説明を省略することがある。
【0034】
多孔質保護層30cは、外層32,内層34及び被覆層35を備えている。被覆層(第3層)35は、素子本体50の表面に接触しており、外層32とは接触していない。被覆層35は、外層32と実質的に同じ材料で構成されており、マトリクス18と、セラミックス繊維16と、板状セラミックス粒子14によって構成されている(
図5も参照)。被覆層35を設けることにより、相対的に内層(空隙)34の体積が減少する。その結果、多孔質保護層30cの強度が向上する。
【実施例】
【0035】
図9に示すセンサ素子110を作製した。センサ素子110は、センサ構造が作り込まれた素子本体50と、素子本体50の長手方向中間部から一端までを覆っている多孔質保護層30を備えている。多孔質保護層30は、外層32と内層34を備えている。また、センサ素子110について、多孔質保護層30の構造が異なる試料(実施例1~10,比較例1及び2)を作製し、センサ素子110の特性(被耐水性及び強度)について評価した。具体的には、外層32の気孔率,内層34の気孔率,外層32内に含まれる異方性セラミックス(板状セラミックス粒子、セラミックス繊維)のアスペクト比,素子本体50に対する外層32の接触面積比R1((S2/S1)×100)を変化させ、特性を評価した。
図10に、各試料の特徴及び評価結果を示す。なお、
図10に示す「気孔率」,「接触面積比R1」及び「アスペクト比」は、作製したセンサ素子110を評価したものである。
【0036】
気孔率は、外層32の断面をSEM(Scanning electron Microscope)を用いて観察し、観察画像を空隙と空隙以外の部分に二値化処理し、全体に対する空隙の割合を計算した。
【0037】
接触面積比R1は、多孔質保護層30が素子本体50を覆っている範囲40(
図2を参照)において、素子本体50の表面(表裏面、側面、長手方向端面)の合計面積S1を算出し、素子本体50と外層32(第1端部36)の接触面積S2を測定し、「R1=((S2/S1)×100)」より算出した。接触面積S2は、センサ素子110の周方向に50μm間隔でX線CT撮影を行い、撮影した各部分において外層32と素子本体50の接触面積を測定し、測定した接触面積を合算することにより算出した。
【0038】
アスペクト比は、外層32の断面をSEM(Scanning electron Microscope)を用いて観察し、任意の粒子(異方性セラミックス)を100個選択し、100個の粒子の最長径及び最短径を測定し、平均値を計算することにより算出した。
【0039】
なお、センサ素子110は、センサ素子100,100b(
図2~4,6を参照)に相当し、例えば内燃機関を有する車両の排気管に取り付けられ、排気ガス中の被検ガス(NOx,酸素)の濃度を測定するガスセンサとして用いられる。以下、素子本体50の構造について簡単に説明する。
【0040】
素子本体50は、ジルコニアを主成分とする基部80と、基部80の内外に配置された電極62,68,72,76と、基部80内に埋設されたヒータ84によって構成されている。基部80は、酸素イオン伝導性を有している。基部80内に、開口52を有する空間が設けられており、拡散律速体54,58,64及び70によって複数の空間56,60,66及び74に区画されている。拡散律速体54,58,64及び70は、基部80の一部であり、両側面から伸びる柱状体である。そのため、拡散律速体54,58,64及び70は、各空間56,60,66及び74を完全に分離していない。拡散律速体54,58,64及び70は、開口52から導入された被検ガスの移動速度を制限している。
【0041】
基部80内の空間は、開口52側から順に、緩衝空間56、第1空間60、第2空間66、第3空間74に区画されている。第1空間60には、筒状の内側ポンプ電極62が配置されている。第2空間66には、筒状の補助ポンプ電極68が配置されている。第3空間74には、測定電極72が配置されている。内側ポンプ電極62及び補助ポンプ電極68は、NOx還元能力が低い材料で構成されている。一方、測定電極72は、NOx還元能力が高い材料で構成されている。また、基部80の表面に、外側ポンプ電極76が配置されている。外側ポンプ電極76は、基部80を介して、内側ポンプ電極62の一部と、補助ポンプ電極68の一部に対抗している。
【0042】
外側ポンプ電極76と内側ポンプ電極62の間に電圧を印加することにより、第1空間60内の被検ガスの酸素濃度を調整する。同様に、外側ポンプ電極76と補助ポンプ電極68の間に電圧を印加することにより、第2空間66内の被検ガスの酸素濃度を調整する。第3空間74には、酸素濃度が高精度に調整された被検ガスが導入される。第3空間74では、測定電極(NOx還元性触媒)72によって被検ガス中のNOxが分解され、酸素が生じる。第3空間74内の酸素分圧が一定となるように外側ポンプ電極76と測定電極72に電圧を印加し、そのときの電流値を検出することによって、被検ガス中のNOx濃度を検出する。なお、緩衝空間56は、開口52から導入される被検ガスの濃度変動を緩和するための空間である。被検ガス中のNOx濃度を検出する際は、ヒータ84によって、基部80を500℃以上に加熱する。ヒータ84は、基部80の酸素イオン伝導性を高めるため、電極62,68,72,76が設けられている位置に対抗するように、基部80内に埋設されている。ヒータ84によって基部80の温度を上昇させることにより、基部(酸素イオン伝導性固体電解質)80を活性化させる。
【0043】
多孔質保護層30の作製方法を説明する。まず、内層用スラリーと外層用スラリーを準備し、素子本体50の一端を内層用スラリーに浸漬させ、400μmの内層を形成した。その後、素子本体50を乾燥機に投入し、内層を200℃(大気雰囲気)で1時間乾燥させた。次に、素子本体50の内層が形成された部分と素子本体50の一部を外層用スラリーに浸漬させ、400μmの外層を形成した。その後、素子本体50を乾燥機内に配置し、外層を200℃(大気雰囲気)で1時間乾燥させた。次に、素子本体50を電気炉内に配置し、450℃で6時間脱脂(内層を消失)した後、1100℃(大気雰囲気)で3時間焼成した。
【0044】
内層用スラリーについて説明する。内層用スラリーは、セルロース繊維(平均最長径20μm)と、アクリル樹脂(PMMA)と、水と、アルミナゾルを混合して作成した。セルロース繊維は、アクリル樹脂に対して体積比で10%となるように調整した。水は溶媒であり、内層用スラリーの粘度が200mPa・sとなるように調整した。また、アルミナゾルは、バインダ(無機バインダ)に相当する。なお、実施例6及び比較例2については、上記セルロース繊維の一部(又は全て)をアルミナ繊維(平均最長径140μm)とチタニア粒子(平均粒径0.25μm)に置換した。具体的には、実施例5は、アルミナ繊維をアクリル樹脂に対して体積比で2.5%添加し、チタニア粒子をアクリル樹脂に対して体積比で2.5%添加した。また、比較例2は、アルミナ繊維をアクリル樹脂に対して体積比で5.0%添加し、チタニア粒子をアクリル樹脂に対して体積比で5.0%添加した。すなわち、比較例2は、セルロース繊維を使用しなかった。
【0045】
外層用スラリーについて説明する。外層用スラリーは、アルミナ繊維(平均最長径140μm)と、板状アルミナ粒子(平均最長径6μm)と、チタニア粒子(平均粒径0.25μm)と、アルミナゾル(アルミナ量1.1%)と、アクリル樹脂(平均粒径8μm)と、水を混合して作成した。アルミナ繊維と板状アルミナ粒子は骨材に相当し、実施例1~10及び比較例1ではアスペクト比18~22のものを用い、比較例2ではアスペクト比2.4のものを用いた。チタニア粒子は結合材に相当し、アルミナゾルはバインダ(無機バインダ)に相当する。アルミナゾルは、骨材及び結合材の合計重量に対して10wt%添加した。アクリル樹脂は、造孔材に相当し、アクリル樹脂量を調整することによって外層32の気孔率を調整した。水は、溶媒であり、第1スラリーの粘度が200mPa・sとなるように調整した。
【0046】
作成した試料(実施例1~10,比較例1及び2)について、耐被水性試験及び強度試験を行った。結果を
図10に示す。耐被水性試験は、大気中でセンサ素子110を駆動し、多孔質保護層30に水滴を15~40μL滴下し、多孔質保護層30及び素子本体50の形態変化を確認した。具体的には、第1空間60内が加熱状態になるようにヒータ84に通電し、第1空間60内の酸素濃度が一定になるように外側ポンプ電極76と内側ポンプ電極62の間に電圧を印加した状態で、外側ポンプ電極76と内側ポンプ電極62の間に流れる電流値を測定した。電流値が一定になった後、多孔質保護層30の表面に水滴を滴下した後にヒータ84への通電を停止し、多孔質保護層30及び素子本体50の形態変化を確認した。
【0047】
多孔質保護層30の形態変化は、目視にて、クラック、剥離等の発生の有無を観察した。また、素子本体50の形態変化は、X線CTにて、クラックの発生の有無を確認した。
図10では、水滴40μLで劣化(クラック,剥離等)が生じなかった試料に「◎」、水滴20μLで劣化が生じず、水滴40μLで劣化が生じた試料に「〇」、水滴15μLで劣化が生じず、水滴20μLで劣化が生じた試料に「△」、水滴15μLで劣化が生じた試料に「×」を付している。多孔質保護層30の耐被水性が良好である程、多孔質保護層30の断熱性が高いことを示している。
【0048】
強度試験は、コンクリートに対して5~15cmの高さから試料を自由落下させ、多孔質保護層30の破損の有無を目視にて確認した。なお、試料は、センサ素子110の主面(面積が最大の面)がコンクリートに対して平行となる姿勢で自由落下させた。
図10では、高さ15cmで破損が生じなかった試料に「◎」、高さ10cmで破損が生じず、高さ15cmで破損が生じた試料に「〇」、高さ5cmで破損が生じず、高さ10cmで破損が生じた試料に「△」、高さ5cmで破損が生じた試料に「×」を付している。
【0049】
図10に示すように、内層34の気孔率が95体積%以上の試料(実施例1-10,比較例2)は、何れも耐被水性が良好な結果が得られることが確認された(比較例1も参照)。特に、内層34の気孔率が100体積%(空隙)であり、外層32の気孔率が21体積%以下(20.2%)であり、外層32と素子本体50の接触面積が26%以下の試料(実施例1,4,8)は特に良好な結果が得られることが確認された。耐被水性試験の結果は、外層32と素子本体50の間に高断熱層(内層34)を設けることにより、また、素子本体50対する外層32の接触面積比を低減することにより、耐被水性が向上することを示している。
【0050】
また、外層32がアスペクト比5以上の異方性セラミックス(アルミナ繊維,板状アルミナ粒子)を含んでいる試料(実施例1-10,比較例1)は、何れも多孔質保護層30が高強度であることが確認された(比較例2も参照)。特に、外層32の気孔率が50%以下であり、素子本体50に対する外層32の接触面積比が10%以上の試料(実施例1-6,9,10,比較例1)は、高い強度が得られることが確認された。また、素子本体50に対する外層32の接触面積比が25%以上の試料(実施例1-3,9,10)は特に良好な結果が得られることが確認された。強度試験の結果は、外層32に、外層32を補強するための異方性セラミックスを添加することにより、外層32の強度が向上することを示している。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。