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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】検査支援装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230301BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230301BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20230301BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022041122
(22)【出願日】2022-03-16
【審査請求日】2022-03-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】土屋 隼人
(72)【発明者】
【氏名】山口 潤
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-007351(JP,A)
【文献】特開2020-115777(JP,A)
【文献】特表2018-523998(JP,A)
【文献】特開2020-096590(JP,A)
【文献】特表2019-513991(JP,A)
【文献】Biomol.Detect.Quantif.,2018,16,p.1-4
【文献】qPCR troubleshooting: interpreting amplification curves and diagnosing problems [online], 18-Aug-2021, retrieved on 22-Apr-2022, retrieved from the Internet, <URL, http://blog.biosearchtech.com/thebiosearchtechblog/bid/63622/qpcr-troubleshooting>
【文献】Interpretation of qPCR curve shapes [online], 18-Jun-2015, retrieved on 22-Apr-2022, retrieved from the Internet, <URL, https://www.mlo-online.com/home/article/13008268/interpretation-of-qpcr-curve-shapes>
【文献】RT-PCR / RT-qPCR Troubleshooting [online], 30-Dec-2020, retrieved on 22-Apr-2022, retrieved from the Internet (Wayback Machine), <URL, https://web.archive.org/web/20211230010209/https://www.sigmaaldrich.com/US/en/technical-documents/technical-article/genomics/pcr/troubleshooting>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体にPCR法を行うことで得られた、検査対象のウイルス又は細菌に由来する第1遺伝子の増幅度合い、及び、被検者に由来する第2遺伝子の増幅度合いを示す検査用の増幅データを受信する通信機と、
複数の学習用の前記増幅データを機械学習させることで構築されたモデルを用いて、検査用の前記増幅データが標準的な前記増幅データから逸脱している度合いを示すスコアを求めて、当該スコアを出力する処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、標準的な前記増幅データから逸脱する特定の類型に応じた前記モデルとしての個別モデルを複数備え、
前記処理装置は、それぞれの前記個別モデルを用いて、前記特定の類型に応じた検査用の前記増幅データの前記スコアを求める、検査支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査支援装置であって、
前記個別モデルは、学習用の前記増幅データから前記特定の類型ごとに抽出した特徴量であって、前記特定の類型への該当の程度を示す特徴量をそれぞれ機械学習させることで構築されており、
前記処理装置は、検査用の前記増幅データから特徴量を抽出し、当該特徴量を前記モデルに入力することにより、前記スコアを求める、検査支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の検査支援装置であって、
前記処理装置が備える前記個別モデルは、学習用の前記増幅データから前記特定の類型に応じた特徴量を抽出して、当該抽出した特徴量を機械学習させることで構築されている、検査支援装置。
【請求項4】
請求項1からまでの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
前記処理装置は、検査用の前記増幅データを入力することで、それぞれの前記個別モデルが出力した前記スコアをチャート形式に変換して出力する、検査支援装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
前記処理装置は、検査用の前記増幅データに基づいて作成される増幅曲線と、標準的な前記増幅データに基づいて作成される増幅曲線の範囲と、を示す画像を出力する、検査支援装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
前記処理装置は、前記第1遺伝子のCT値及び前記第2遺伝子のCT値に基づいて、陽性、陰性、又は再検査の推定を行い、前記スコアとともに陽性、陰性、又は再検査の推定結果を出力する、検査支援装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
検査を行うための検査センターに設けられる、検査支援装置。
【請求項8】
請求項1から6までの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
前記通信機は、PCR法による分析を行うPCR機から、ワイドエリアネットワークを介して、検査用の前記増幅データを受信する、検査支援装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
前記通信機は、検査技師が検査用の前記増幅データを判定する施設に対して、検査用の前記増幅データと、前記スコアと、を送信する、検査支援装置。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載の検査支援装置であって、
前記処理装置は、検査用の前記増幅データと、当該検査用の前記増幅データの検査技師による判定結果と、を学習することにより前記モデルを更新する、検査支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、主として、PCR法で得られた増幅データに基づく検査を支援する検査支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、心電図表示装置を開示する。心電図表示装置は、所定時間長に分割された分割心電図データを機械学習モデルに入力する。機械学習モデルは、複数の教師用心電図データを用いて機械学習することで作成される。機械学習モデルは、分割心電図データから心臓疾患が疑われる波形部位を抽出して出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-106902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、心臓疾患の確率が極めて高いと推定した箇所と、心臓疾患の確率があまり高くないと推定した箇所と、が同様の態様で示される。従って、機械学習が出力した波形部位を取得した医者は、明らかに心臓疾患を示す波形部位であるか、心臓疾患の可能性が僅かにあることを示す波形部位なのかが分からないため、波形部位に関する判断に時間が掛かる可能性がある。なお、この種の課題は心臓疾患の検査に限られず、様々な検査において共通する課題である。
【0005】
本出願は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、PCR法を用いた検査を支援する検査支援装置において、検査で得られたデータに基づく判定を容易にするための構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本開示の観点によれば、以下の構成の検査支援装置が提供される。即ち、検査支援装置は、通信機と、処理装置と、を備える。前記通信機は、検体にPCR法を行うことで得られた、検査対象のウイルス又は細菌に由来する第1遺伝子の増幅度合い、及び、被検者に由来する第2遺伝子の増幅度合いを示す検査用の増幅データを受信する。前記処理装置は、複数の学習用の前記増幅データを機械学習させることで構築されたモデルを用いて、検査用の前記増幅データが標準的な前記増幅データから逸脱している度合いを示すスコアを求めて、当該スコアを出力する。前記処理装置は、標準的な前記増幅データから逸脱する特定の類型に応じた前記モデルとしての個別モデルを複数備える。前記処理装置は、それぞれの前記個別モデルを用いて、前記特定の類型に応じた検査用の前記増幅データの前記スコアを求める。
【発明の効果】
【0008】
本出願によれば、PCR法を用いた検査を支援する検査支援装置において、検査で得られたデータに基づく判定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】検査支援システムのブロック図。
図2】検体が陰性の時の標準的な増幅曲線の波形を示すグラフ。
図3】検査支援装置が行う処理の第1例を示す説明図。
図4】検査支援装置が行う処理の第2例を示す説明図。
図5】検体が陰性の時の標準的な増幅曲線の波形から逸脱する例を示すグラフ。
図6】検体が陰性の時の標準的な増幅曲線の波形から逸脱する別の例を示すグラフ。
図7】検査支援装置が行う処理の第3例を示す説明図。
図8】表示部の画面表示例。
図9】検査支援システムが検査センターに設けられる例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して本出願の実施形態を説明する。
【0011】
図1に示す検査支援システム1は、感染症に罹患しているか否かPCR法を用いて調べる検査を支援するシステムである。以下では、この種の検査を単に「検査」と称する。図1に示すように、検査支援システム1は、検体採取場、クラウド、及び分析センターのそれぞれに配置された機器で構成されている。なお、後述するように、検査支援システム1を構成する機器が同じ拠点に配置されていてもよい。
【0012】
本実施形態の検査対象の感染症はCOVID-19であり、それを引き起こすウイルスはSARS-CoV-2である。COVID-19は、新型コロナウイルス感染症とも称される。ただし、検査支援システム1は、COVID-19以外の感染症を引き起こすウイルス又は細菌に適用することもできる。具体的には、検査支援システム1を、結核菌又は肺炎ウイルスに適用することもできる。以下では、検査対象の感染症を引き起こすウイルスを単にウイルスと称する。
【0013】
検体採取場では、検査を行うための検体が被検者から採取される。検体は、例えば、被検者の唾液、鼻腔ぬぐい液であるが、他の体液であってもよい。検体採取場で採取された検体は、分析センターまで運ばれる。
【0014】
分析センターには、遺伝子抽出器11と、PCR機12と、が設けられている。遺伝子抽出器11は検体から遺伝子を抽出する。PCR機12は、PCR機12は、PCR法を行うことにより、検体から抽出した遺伝子を増幅させて増幅度合いを求める。
【0015】
分析センターにおける分析は、検査補助者が遺伝子抽出器11及びPCR機12を操作して行われる。ただし、検査補助者に代えて、アームロボット等の産業用ロボットを用いて分析が行われてもよい。なお、遺伝子抽出器11及びPCR機12は、検体採取場又は検査場に設けられていてもよい。
【0016】
PCR法は公知であるため、簡単に説明する。PCR法は、熱変位工程と、アニーリング工程と、伸長工程と、を含む。熱変位工程では、検体を加熱して2本鎖のDNAを分離させて、2つの1本鎖のDNAに変化させる。アニーリング工程では、温度を下げて1本鎖のDNAのそれぞれにプライマーを結合させる。伸長工程では、再び温度を上げてプライマーを伸長させることで2本鎖のDNAを生成する。以上により1サイクルの工程が完了する。1サイクルの工程を行うことにより、DNAの数を倍増させることができる。このサイクルの工程を繰り返すことにより、DNAの数を大幅に増幅させることができる。また、DNAが増幅する際には蛍光が発生する。そのため、サイクル毎に蛍光強度を計測することにより、遺伝子の増幅度合いを求めることができる。
【0017】
例えば検体にウイルスが含まれている場合、PCR法によりウイルスが増幅する。従って、ウイルスの蛍光強度の上昇の有無に基づいて、検体にウイルスが含まれているか否かを検出できる。また、検体にはウイルスに由来する遺伝子だけでなく、被検者に由来する遺伝子が必ず含まれる。従って、PCR法により、被検者に由来する遺伝子は増幅する。そのため、検査が適切に行われていれば、被検者に由来する遺伝子の蛍光強度はサイクル数の経過に伴って上昇する。
【0018】
PCR法はDNAを対象とした分析方法である。一方、SARS-CoV-2はRNAである。そのため、逆転写酵素を用いてRNAをcDNAに変換した後に、上述したPCR法が行われる。この種のPCR法は、RT-PCR法と称される。本明細書では、逆転写を行わない通常のPCR法と、RT-PCR法を合わせてPCR法と称する。
【0019】
図2には、PCR法により得られた結果をプロットしたグラフが示されている。横軸はサイクル数であり、縦軸は蛍光強度である。CoVと記載されている三角印のマーカがウイルスの蛍光強度を示すプロットである。B2Mと記載されている丸印のマーカが被検者に由来するB2M遺伝子の蛍光強度を示すプロットである。B2M遺伝子の正式名称は、β2ミクログロブリン遺伝子である。この検体にはウイルスが含まれていないため、サイクル数が増加してもウイルスの蛍光強度は殆ど変化しない。
【0020】
一方、検体には、B2M遺伝子が当然ながら含まれている。なお、B2M遺伝子が所定数に達するまでは蛍光強度が検出下限より低いため、蛍光強度は変化しない。その後、サイクル数の増加に伴って蛍光強度が検出下限より高くなった後に、グラフにおいて蛍光強度が上昇する。B2M CT値とは、B2M遺伝子の蛍光強度の上昇が検出された時点のサイクル数である。なお、検体にウイルスが含まれている場合、サイクル数の増加に伴ってウイルスの蛍光強度が上昇するため、それを示すCoV CT値が求められる。ウイルスのCT値とB2M遺伝子のCT値をまとめて単にCT値と称する。
【0021】
サイクル数に応じた蛍光強度の変化は、PCR法による遺伝子の増幅の程度を示す。従って、以下では、サイクル数に応じた蛍光強度の変化を示すデータを増幅データと称する。増幅データは、サイクル数と蛍光強度を対応付けた数値データである。図2には、この数値データに基づいて作成される波形が示されている。なお、図2に示す波形を画像データとして取り扱うことも可能であるが、この場合は画像データから数値データに変換して用いる必要がある。
【0022】
PCR機12と検査支援装置20はワイドエリアネットワークを介して通信可能である。ワイドエリアネットワークは、例えばインターネットであるが、インターネット以外であってもよい。インターネット以外の例としては、異なる拠点のローカルエリアネットワーク同士を専用線で接続したネットワークが挙げられる。PCR機12は、増幅データ及びCT値を、検体又は検査を特定するための検査IDと対応付けて検査支援装置20に送信する。なお、PCR機12から増幅データ等を受信するコンピュータを備え、コンピュータが検査支援装置20に増幅データ等を送信してもよい。
【0023】
検査支援装置20は、検査支援システム1の管理者の施設又はデータセンター等に設けられている。検査支援装置20は、ワイドエリアネットワークを介して、分析センター及び検査センターにサービスを提供する。従って、検査支援装置20はクラウド上に設けられていると捉えることもできる。検査支援装置20は、具体的にはサーバであり、通信機21と、処理装置22と、記憶装置23と、を備える。
【0024】
通信機21は、有線通信又は無線通信を行うための通信モジュールである。通信機21は、PCR機12から増幅データ等を受信したり、検査センターの情報端末30に増幅データ等を送信したりする。処理装置22は、例えばCPUであり、演算及び制御を行う。処理装置22は、記憶装置23に記憶されたプログラムを実行することにより、様々な処理を行う。記憶装置23は、HDD又はSSD等であり、様々なプログラム及びデータを記憶する。
【0025】
検査支援装置20は、PCR機12から受信した増幅データ及びCT値に基づいて、医師又は検査技師が判定を行う際に参考となる情報(後述の疑スコア)を算出する。検査支援装置20と情報端末30はワイドエリアネットワークを介して通信可能である。検査支援装置20は、増幅データ、CT値、及び疑スコアを検査IDと対応付けて情報端末30に送信する。
【0026】
検査センターには、検査技師が在籍している。検査技師は、増幅データ、CT値、及び疑スコアに基づいて、被検者が陽性又は陰性であるかを判定する。検査技師は、検査が適切に行われていないと判定した場合は、再検査が必要であると判定する。検査技師に代えて、例えば医師が陽性、陰性、又は再検査の判定を行ってもよい。
【0027】
検査センターには情報端末30が設けられる。情報端末30は、検査技師が使用するPC又はタブレット端末である。情報端末30は、制御部31と、表示部32と、操作部33と、を備える。制御部31はCPU及びHDD等を備える。制御部31は、HDD等に記憶されたプログラムをCPUが実行することにより様々な処理を行う。表示部32は、ディスプレイであり、情報を表示可能である。操作部33は、キーボード、マウス、タッチパネル等であり、検査技師によって操作される。
【0028】
次に、検査技師が行う判定について簡単に説明する。増幅データにおいてウイルスの蛍光強度が上昇しない場合、言い換えれば、ウイルスのCT値が存在しない場合、検体にウイルスが存在しないことになるので陰性と考えられる。以下では、ウイルスのCT値が存在しない時の増幅曲線の波形を陰性波形と称することがある。陰性波形が検出された場合においても、検査が適切に行われなかった可能性があるため、検査技師は陰性波形を確認して、陰性か再検査かを判定する必要がある。例えば陰性波形のB2M遺伝子波形が標準的な波形から外れる場合、検査が適切に行われなかった可能性がある。つまり、検査技師は、ウイルスのCT値が存在しない全ての陰性波形を注視して確認する必要がある。
【0029】
実際には、陰性波形には、「明らかな陰性波形」と「疑わしい陰性波形」がある。明らかな陰性波形とは、標準的な陰性波形との一致度が高いため、検査技師は、波形を簡単に確認するだけで適切に判定を行うことができる。一方で、疑わしい陰性波形は標準的な陰性波形から逸脱している度合いが大きいため、検査技師は、十分に注意を払って波形を確認する必要がある。しかし、疑わしい陰性波形には多数の類型があるため、機械による自動判定を行うことは困難である。
【0030】
本実施形態では、検査支援装置20は、機械学習を用いることにより、標準的な波形から逸脱する度合いを示すスコアを求める。このスコアは陰性であることの疑わしさを示す指標であるため、以下では疑スコアと称する。検査技師は、疑スコアを確認することにより、判定対象の波形が注意を払って確認すべき波形か否かを知ることができる。その結果、検査技師の負担を軽減できる。
【0031】
なお、検体にウイルスが含まれていて、ウイルスの蛍光強度が上昇してウイルスのCT値が存在する場合であっても、検査が適切に行われなった可能性がある。そのため、検査技師は増幅曲線の波形を確認して、陽性か再検査かを判定する必要がある。しかし、陽性を示す検体は一般的に少数であるため、陽性か再検査かの判定は検査技師にとって大きな負担ではない。そのため、本実施形態では、陽性波形については、疑スコアの算出は行わない。なお、例えば陽性を示す検体が多い状況等において、陽性波形について疑スコアを求めてもよい。
【0032】
次に、CT値及び増幅データに対して検査支援装置20が行う処理について説明する。以下では、図3図4、及び図7に示す3つの例について説明する。それぞれの例では、疑スコアを算出するための学習モデルが異なる。
【0033】
初めに、図3を参照して、第1例について説明する。図3には、陽性、陰性、又は再検査の推定ロジックと、波形判定モデルと、が示されている。推定ロジック及び波形判定モデルは、検査支援装置20によって行われる処理である。
【0034】
推定ロジックは、PCR機12から受信したCT値に基づいて、検体が陽性、陰性、又は再検査の推定を行う。推定ロジックによる推定は検査技師の支援を目的としており、最終的な判定は検査技師によって行われる。推定ロジックでは、機械学習により構築されるモデルではなく、予め作成したルールに基づいて推定を行う。推定ロジックでは、B2M遺伝子のCT値に基づいて、再検査か否かを判定する。即ち、推定ロジックでは、B2M遺伝子のCT値が存在しない場合、又はB2M遺伝子のCT値が存在しても閾値条件を満たさない場合、再検査と判定する。なお、B2M遺伝子のCT値の閾値条件は、例えば実験的又は経験的に求められる。
【0035】
推定ロジックでは、B2M遺伝子のCT値が閾値条件を満たし、かつ、ウイルスのCT値が存在しない場合、陰性と判定する。推定ロジックでは、B2M遺伝子のCT値が閾値条件を満たし、かつ、ウイルスのCT値が閾値条件を満たす場合、陽性と判定する。なお、ウイルスのCT値の閾値条件は、例えば実験的又は経験的に求められる。
【0036】
波形判定モデルは、PCR機12から受信した増幅データが入力されることで、疑スコアを出力する。波形判定モデルは、例えば教師ありの機械学習により構築されるモデルである。具体的には、標準的な陰性波形を示す学習用の増幅データと、再検査と判定された陰性波形を示す学習用の増幅データと、をそれぞれ複数準備し、それらの増幅データを正解(即ち、標準的な陰性波形か、標準から逸脱して再検査と判定された陰性波形か)とともに入力して学習させる。これにより、標準的な陰性波形が示す傾向及び特徴が学習され、波形判定モデルが構築される。あるいは、標準的な陰性波形を示す学習用の増幅データと、標準的な陰性波形から逸脱する陰性波形の増幅データと、を教師なし学習により学習させてもよい。機械学習の手法は任意であり、例えばサポートベクターマシンを用いることができる。
【0037】
また、学習させる増幅データは、B2M遺伝子の増幅データとウイルスの増幅データの両方である。B2M遺伝子の増幅データとウイルスの増幅データは合わせて学習されて、1つのモデルが構築される。
【0038】
また、上述したように、学習させる増幅データは数値形式である。また、増幅データから抽出した特徴量を学習させてもよい。例えば、学習用の増幅データの波形が、所定の関数に近似する場合、所定の関数の最尤関数の係数又は最尤関数からのズレ量を特徴量として用いることができる。所定の関数は例えばシグモイド関数であるが、学習用の増幅データの波形等に応じて異なる関数を用いることもできる。
【0039】
以上の処理を行って波形判定モデルを構築する。判定時において、PCR機12から受信した検査用の増幅データが波形判定モデルに入力される。波形判定モデルは、検査用の増幅データが標準的な陰性波形に分類できるか、標準的な陰性波形に分類できないか(言い換えれば、標準的な陰性波形から逸脱する波形に分類されるか)を判定結果として出力する。更に、波形判定モデルは、標準的な陰性波形から逸脱する程度を疑スコアとして出力する。上述したように波形判定モデルは標準的な陰性波形の特徴等を学習しているため、その特徴との逸脱の度合い等に基づいて、疑スコアを出力できる。
【0040】
なお、波形判定モデルは、検査用の増幅データが、標準的な陰性波形のグループに分類されるか否か、及び、その程度を出力するものである。従って、教師なし学習で実現することもできる。例えば、標準的な陰性波形のグループに対して、検査用の増幅データが同じグループに属するか否か、及びその解離の度合いに基づいて、疑スコアを算出できる。
【0041】
以上のようにして、波形判定モデルは、PCR機12から受信した検査用の増幅データに対する疑スコアを出力する。検査支援装置20は、PCR機12から受信したCT値及び増幅データに、推定ロジックの推定結果と、波形判定モデルが出力した疑スコアと、を付加して情報端末30に送信する。検査技師は、疑スコアが高い検体については、再検査の可能性が他よりも高いため、より慎重に波形を判定する。一方、検査技師は、疑スコアが低い検体については、再検査の可能性が他よりも低いため、簡単に波形を判定できる。
【0042】
また、情報端末30は、検査技師による判定結果を検査支援装置20に送信してもよい。検査支援装置20は、情報端末30から受信した検査技師の判定結果を追加学習用のデータとして用いることもできる。具体的には、情報端末30から受信した検査技師の判定結果と、判定に用いられた増幅データと、を用いて波形判定モデルに対して教師ありの追加学習を行うことにより、波形判定モデルを更新することができる。これにより、より的確な疑スコアを求めることができる。
【0043】
次に、図4に示す第2例について説明する。図4には、陽性、陰性、又は再検査の推定ロジックと、波形判定モデルと、複数の類型判定モデルと、が示されている。第2例の推定ロジックと波形判定モデルは、第1例と同じであるため説明を省略する。従って、以下では類型判定モデルについて説明する。
【0044】
検査技師は、複数の観点で波形を判定する。具体的には、波形には、標準的な波形から逸脱する類型がいくつか存在する。図5には、類型1が示されている。類型1は、CT値よりも小さい範囲において、B2M遺伝子及びウイルスの蛍光強度が突然小さくなることである。図6には、類型2及び類型3が示されている。類型2は、CT値よりも小さい範囲において、B2M遺伝子及びウイルスの蛍光強度が大きく上下して安定しないことである。類型3は、CT値を超えて蛍光強度の変化が見られなくなった後に、B2M遺伝子の蛍光強度が再び上昇することである。これらの類型は一例であり、様々な類型があり得る。
【0045】
類型判定モデルとは、検査技師による判定に近づけるために、類型毎に個別に構築されたモデルである。複数の類型判定モデルは、個別モデルに相当する。例えば、類型1の類型判定モデルは、標準的な波形に加え、標準的な波形から逸脱する波形もあわせて、複数の波形を学習する。これにより、検査用の増幅データが図5に示すように標準的な波形から逸脱するほど疑スコアが高くなる。なお、詳細な学習方法及び変更可能な点は、上記の波形判定モデルの教師なし学習モデルと同じである。例えば、増幅データから、類型1を有するか否かを示す特徴量を抽出し、この特徴量を学習させてもよい。同様に、図6に示す類型2及び類型3についても学習を行って類型判定モデルが構築される。類型2の類型判定モデルは、図6に示すように、CT値よりも小さい範囲において、B2M遺伝子及びウイルスの蛍光強度が大きく上下するほど、高い疑スコアを出力する。類型3の類型判定モデルは、図6に示すように、CT値を超えて蛍光強度の変化が見られなくなった後に、B2M遺伝子の蛍光強度が再び大きく上昇するほど、高い疑スコアを出力する。以上の処理をN個の観点について行うことにより、N個類型判定モデルが構築される。
【0046】
第2例では、推定ロジックの推定結果、波形判定モデルの疑スコア、に加えて、類型判定モデル毎の疑スコア1~Nが求められて、情報端末30に送信される。検査技師は、波形判定モデルの疑スコアを見ることにより、波形全体を捉えたときに再検査の可能性が高いか否かを把握できる。言い換えれば、波形判定モデルの疑スコアを見ることにより、総合的な評価を把握できる。また、検査技師は、個別判定モデルの疑スコア1~Nを見ることにより、観点毎の評価を把握できる。検査技師は、例えば疑スコア1が高い場合、類型1に特に注目して判定することで、適切な判定を行うことができる。
【0047】
次に、図7に示す第3例について説明する。図7には、陽性、陰性、又は再検査の推定ロジックと、複数の類型判定モデルと、総合判定モデルと、が示されている。第3例の推定ロジックは第1例と同じであり、類型判定モデルは第2例と同じであるため説明を省略する。
【0048】
検査技師は、複数の観点で波形を判定した後に、複数の観点の判定結果を総合的に考慮して結論を出す。例えば、検査技師は、類型毎の逸脱の大きさであったり、生じている類型の組合せ等を考慮して結論を出す。
【0049】
第3例の総合判定モデルは、検査技師による総合的な判定を模したものである。総合判定モデルは、複数の類型判定モデルがそれぞれ出力した疑スコアと、それらの疑スコアに基づいて検査技師が出した判定の結果と、を学習の対象として構築される。このように構築された総合判定モデルに対して、複数の類型判定モデルの疑スコアを入力することにより、検査技師の判定ロジックを模して陰性と再検査の何れにどの程度近いかを求めることができる。そして、総合判定モデルは、陰性に近いほど疑わしさは低いため総合疑スコアが低くなるように、再検査に近いほど疑わしさが高いため総合疑スコアが高くなるように、総合疑スコアを生成して出力する。
【0050】
第3例では、推定ロジックの推定結果、総合判定モデルの総合疑スコアが求められて、情報端末30に送信される。検査技師は、総合疑スコアを見ることにより、再検査の可能性が高いか否かを簡単に把握できる。特に、第3例の総合疑スコアの求め方は検査技師の判定方法を模しているため、信頼性が高い総合疑スコアを検査技師に提供できる。
【0051】
次に、図8を参照して、検査支援装置20が求めた疑スコア等を情報端末30の表示部32に表示する画面例について説明する。図8には、上述した第2例の処理が行われることで求められた疑スコアが表示されている。
【0052】
図8に示すように、表示部32には、例えば、増幅曲線51と、標準波形範囲52と、推定結果ボックス53と、レーダチャート54と、が表示される。
【0053】
増幅曲線51は、上述したように、B2M遺伝子とウイルスの蛍光強度の変化を示すグラフである。また、増幅曲線51には、上述したB2M遺伝子のCT値、その閾値、ウイルスのCT値、及びその閾値が記載されている。なお、図8に示す例の検体は陰性であるため、ウイルスのCT値は記載されていない。
【0054】
標準波形範囲52は、B2M遺伝子の増幅曲線51の標準的な波形の範囲を示す。標準波形範囲52は、増幅曲線51に重畳して表示される。これにより、増幅曲線51が標準波形範囲52に含まれるか否かを簡単に判定できる。標準波形範囲52は、例えば、学習用の増幅データを集計することで生成できる。なお、標準波形範囲52は必須ではなく表示を省略してもよい。
【0055】
推定結果ボックス53は、陽性、陰性、又は再検査の推定ロジックの推定結果が表示される。なお、推定結果ボックス53は必須ではなく表示を省略してもよい。
【0056】
レーダチャート54は、疑スコアを表示するものである。レーダチャート54は、波形判定モデルの疑スコアを数値で表示するとともに、類型判定モデル毎の疑スコア1~Nをレーダチャート形式で表示する。類型判定モデル等の疑スコアが小さいほどレーダチャートが大きくなる。つまり、標準的な波形に近いほど、レーダチャートが大きくなる。本実施形態では、レーダーチャートを用いて疑スコアを表示するが、他のチャート形式、例えば、棒グラフで疑スコアを表示してもよい。本明細書においてチャート形式とは、グラフ、図、表等を用いて情報を表す形式を意味する。なお、チャート形式に代えて、数値形式で疑スコア1~Nを表示してもよい。また、疑スコアの大きさだけでなく、疑スコアが高い箇所を目立たせるために、疑スコアが高い箇所の波形の表示態様を変更してもよい。例えば、類型1の疑スコアが高い場合は、類型1に関連する箇所の波形の表示色を変えたりマーカを付したりしてもよい。また、波形の表示態様の変更に代えて又は加えて、疑スコアが高い箇所を文字で示してもよい。例えば、「サイクル数が10から20の範囲において標準波形から逸脱している可能性があります」等のメッセージを表示してもよい。
【0057】
検査技師は、これらの表示を確認することにより、推定結果ボックス53に示された陰性という推定結果の疑わしさの程度を考慮しつつ、検査対象の増幅曲線の判定を行うことができる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態の検査支援装置20は、通信機21と、処理装置22と、を備える。通信機21は、検体にPCR法を行うことで得られた、検査対象のウイルス又は細菌に由来する第1遺伝子の増幅度合い、及び、被検者に由来する第2遺伝子の増幅度合いを示す検査用の増幅データを受信する。処理装置22は、複数の学習用の増幅データを機械学習させることで構築されたモデルを用いて、検査用の増幅データが標準的な増幅データから逸脱している度合いを示すスコアを求めて、スコアを出力する。
【0059】
これにより、検査技師は、スコアを参照することにより、増幅データが標準的な増幅データから逸脱している度合いを考慮して判定を行うことができる。
【0060】
本実施形態の検査支援装置20において、モデルは、学習用の増幅データから抽出した特徴量を機械学習させることで構築されている。処理装置22は、検査用の増幅データから特徴量を抽出し、特徴量をモデルに入力することにより、スコアを求める。
【0061】
これにより、波形等の画像データを学習する場合と比較して、データ量を低減できる。
【0062】
本実施形態の検査支援装置20において、処理装置22は、モデルとしての個別モデルを複数備える。それぞれの個別モデルは、標準的な増幅データから逸脱する特定の類型において検査用の増幅データのスコアを求める。
【0063】
これにより、検査技師の判定方法に近い方法でスコアを求めることができる。
【0064】
本実施形態の検査支援装置20において、処理装置22は、検査用の増幅データを入力することで、それぞれの個別モデルが出力したスコアをチャート形式に変換して出力する。
【0065】
これにより、検査技師は、直感的にスコアを把握できる。
【0066】
本実施形態の検査支援装置20において、処理装置22は、検査用の増幅データに基づいて作成される増幅曲線と、標準的な増幅データに基づいて作成される増幅曲線の範囲と、を示す画像を出力する。
【0067】
これにより、検査技師は、判定対象の増幅曲線が標準的な範囲から外れるか否かを直感的に把握できる。
【0068】
本実施形態の検査支援装置20において、処理装置22は、第1遺伝子のCT値及び第2遺伝子のCT値に基づいて、陽性、陰性、又は再検査の推定を行い、スコアとともに陽性、陰性、又は再検査の推定結果を出力する。
【0069】
これにより、検査技師は、スコアだけでなく推定結果を用いて判定を行うことができる。
【0070】
本実施形態の検査支援装置20において、通信機21は、PCR機12から、ワイドエリアネットワークを介して、検査用の増幅データを受信する。
【0071】
これにより、検査支援装置20は、遠隔地から受信した増幅データを処理できる。
【0072】
本実施形態の検査支援装置20において、通信機21は、検査技師が検査用の増幅データを判定する施設に対して、検査用の増幅データと、スコアと、を送信する。
【0073】
これにより、検査支援装置20は、遠隔地にある検査技師の判定を支援できる。
【0074】
本実施形態の検査支援装置20において、処理装置22は、検査用の増幅データと、検査用の増幅データの検査技師による判定結果と、を学習することによりモデルを更新する。
【0075】
これにより、モデルの精度を向上させることができる。
【0076】
以上に本出願の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0077】
上記実施形態では、検査支援装置20はクラウド上に配置されるが、これは一例である。例えば、図9に示すように、検査支援装置20が検査センターに設けられていてもよい。この場合、遺伝子抽出器11及びPCR機12が検査センターに設けられていてもよい。これにより、検査センターに検査支援システム1を設けることができる。
【0078】
なお、本出願にて開示するを各要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成又はプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、又はユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【符号の説明】
【0079】
1 検査支援システム
20 検査支援装置
21 通信機
22 処理装置
23 記憶装置
30 情報端末
31 制御部
32 表示部
33 操作部
【要約】
【課題】PCR法を用いた検査を支援する検査支援装置において、検査で得られたデータに基づく判定を容易にするための構成を提供する。
【解決手段】検査支援装置は、通信機と、処理装置と、を備える。通信機は、検体にPCR法を行うことで得られた、検査対象のウイルス又は細菌に由来する第1遺伝子の増幅度合い、及び、被検者に由来する第2遺伝子の増幅度合いを示す検査用の増幅データを受信する。処理装置は、複数の学習用の増幅データを機械学習させることで構築されたモデルを用いて、検査用の増幅データが標準的な増幅データから逸脱している度合いを示すスコアを求めて、スコアを出力する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9