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特許7235927鋼製筒状体の傾斜計測装置及び傾斜角計測方法
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  • 特許-鋼製筒状体の傾斜計測装置及び傾斜角計測方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】鋼製筒状体の傾斜計測装置及び傾斜角計測方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/06 20060101AFI20230301BHJP
   E02D 13/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D13/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022165504
(22)【出願日】2022-10-14
【審査請求日】2022-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】梯 浩一郎
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172115(JP,A)
【文献】特開2002-054131(JP,A)
【文献】登録実用新案第3036985(JP,U)
【文献】特開平05-339931(JP,A)
【文献】特開2006-105798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/06
E02D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃又は押し込むことにより地盤に打設される鋼製筒状体の傾斜を計測する鋼製筒状体の傾斜計測装置において、
前記鋼製筒状体の下端より基準位置である所定の高さ位置の内周面に加速度計取付部材を介して固定された3軸加速度計からなる加速度計と、前記鋼製筒状体の内周面に固定され、前記加速度計取付部材に保持された前記加速度計を覆う保護カバーと、前記加速度計の計測データに基づき所定の打設深度だけ打設する毎に前記鋼製筒状体の前記基準位置における傾斜角と累積水平方向変位量を算出する水平変位量算出手段とを備えていることを特徴とする鋼製筒状体の傾斜計測装置。
【請求項2】
複数の前記加速度計が筒軸方向に互いに間隔をおいて固定されている請求項1に記載の鋼製筒状体の傾斜計測装置。
【請求項3】
前記保護カバーは、前記鋼製筒状体の上端まで連続し、下端部が閉鎖されている請求項1又は2に記載の鋼製筒状体の傾斜計測装置。
【請求項4】
打撃又は押し込むことにより地盤に打設される鋼製筒状体の傾斜を計測する鋼製筒状体の傾斜計測方法において、
前記鋼製筒状体の下端より所定の高さ位置の内周面に加速度計取付部材を介して3軸加速度計からなる加速度計を固定しておき、
所定の打設深度だけ打設する毎に前記加速度計によって前記鋼製筒状体の傾斜角を計測し、該計測された傾斜角と該計測時の打設深度に基づき前記鋼製筒状体の基準位置における累積水平方向変位を算出することを特徴とする鋼製筒状体の傾斜計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板や鋼管杭等の鋼製筒状体を地盤に打設する際の鋼製筒状体の傾斜角を計測する鋼製筒状体の傾斜計測装置及び傾斜角計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭や鋼管矢板等の鋼製筒状体を直杭として地盤に打設する際には、導材等によって鋼製筒状体を垂直に建て込んだ状態で杭打機によって鋼製筒状体の上端を打撃又は押し込むことにより地盤に貫入させるようになっている。
【0003】
しかしながら、杭打機により鋼製筒状体を地盤に対し垂直方向に打設しようとしても、地盤からの抵抗や地盤内の岩、地質等の状況によって打設途中の鋼製筒状体に傾きが生じる場合がある。
【0004】
その場合、傾いた状態に気づかずに打設し続けると、鋼製筒状体の傾斜が進み、既製杭(鋼管杭やコンクリート杭)の打設に関する一般的な管理基準で定められた許容範囲、詳しくは、平面的に見た場合の偏心量が杭径の1/4且つ100mm以下、杭の傾斜が1/100以下という許容範囲を超えてしまうおそれがある。
【0005】
よって、このような鋼製筒状体の打設においては、打設途中における鋼製筒状体の傾きを随時監視する必要がある。
【0006】
従来では、例えば、打設する鋼製筒状体から一定の距離をおいて複数の光学式水準器を設置し、水準器で鋼製筒状体の上端部を計測して鋼製筒状体の傾きを監視する方法等や鋼管杭の上端部に傾斜計を設置し、鋼製筒状体の傾斜を計測する方法(例えば、特許文献1を参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平1-39515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の如き従来の水準器を使用した監視方法では、打設位置から離れた位置に設置した水準器により作業員が目視で観察するため、作業が煩雑であるという問題があった。
【0009】
また、鋼製筒状体の打設地点が水底である場合等では、監視位置が水上になるため、打設地点の近辺に陸が無ければ水準器を船舶上に設置しなければならず、船舶上に設置された水準器では、水面のうねり等によって正確な計測ができず、水準器での監視が困難であるという問題もあった。
【0010】
さらに、上述の如き従来の技術では、一定距離を隔てた位置での測定となるので、天候によっては視認が遮られ、リアルタイムで鋼製筒状体の傾きを把握することができないという問題があった。
【0011】
また、従来の傾斜計を用いる方法では、傾斜計を鋼製筒状体の上部に取り付けるため、地盤に打設された部分の傾斜状態を十分に把握できないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、簡便に鋼管や鋼管矢板等の傾斜をリアルタイムで正確に監視することができる鋼製筒状体の傾斜計測装置及び傾斜角計測方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、打撃又は押し込むことにより地盤に打設される鋼製筒状体の傾斜を計測する鋼製筒状体の傾斜計測装置において、前記鋼製筒状体の下端より基準位置である所定の高さ位置の内周面に加速度計取付部材を介して固定された3軸加速度計からなる加速度計と、前記鋼製筒状体の内周面に固定され、前記加速度計取付部材に保持された前記加速度計を覆う保護カバーと、前記加速度計の計測データに基づき所定の打設深度だけ打設する毎に前記鋼製筒状体の前記基準位置における傾斜角と累積水平方向変位量を算出する水平変位量算出手段とを備えていることにある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、複数の前記加速度計が筒軸方向に互いに間隔をおいて固定されていることにある。
【0015】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記保護カバーは、前記鋼製筒状体の上端まで連続し、下端部が閉鎖されていることにある。
【0016】
請求項4に記載の発明の特徴は、打撃又は押し込むことにより地盤に打設される鋼製筒状体の傾斜を計測する鋼製筒状体の傾斜計測方法において、前記鋼製筒状体の下端より所定の高さ位置の内周面に加速度計取付部材を介して3軸加速度計からなる加速度計を固定しておき、所定の打設深度だけ打設する毎に前記加速度計によって前記鋼製筒状体の傾斜角を計測し、該計測された傾斜角と該計測時の打設深度に基づき前記鋼製筒状体の基準位置における累積水平方向変位を算出することにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る鋼製筒状体の傾斜計測装置は、請求項1に記載の構成を具備することによって、簡便な構造で鋼管や鋼管矢板等の傾斜をリアルタイムで監視することができる。
【0018】
また、本発明において、請求項2に記載の構成を具備することにより、何れかの加速度計が故障や破損した場合にも計測を実行することができる。また、複数の加速度計の計測結果に基づき誤差の修正をすることができる。
【0019】
さらに、本発明において、請求項3に記載の構成を具備することによって、加速度計と地上の装置とを有線で接続することができるとともに、当該接続ケーブルを保護することができる。
【0020】
本発明に係る鋼製筒状体の傾斜計測方法は、請求項4に記載の構成を具備することによって、簡便に鋼管や鋼管矢板等の傾斜をリアルタイムで監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)本発明に係る構成筒状体の傾斜計測装置の実施例を示す平面図、(b)は同A-A線矢視断面図である。
図2図1中の加速度計の取り付け部分を示す拡大断面図である。
図3図2中に示すB-B線矢視拡大断面図である。
図4図3中に示すC-C線矢視断面図である。
図5】(a)は図1(a)中の保護カバー下端部分を示す正面図、(b)は同側面図である。
図6】本発明の計測原理を説明するための概略断面図である。
図7】(a)~(d)は本発明に係る鋼製筒状体の傾斜計測方法の手順を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る構成筒状体の傾斜計測装置2の実施態様を図1図6に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は鋼管杭や鋼管矢板等の鋼製筒状体である。
【0023】
鋼製筒状体1は、鋼管杭や鋼管矢板等の鋼製の上下端が開口した一定長さを有する筒状に形成され、バイブロハンマや杭打機等によって打撃又は押し込むことにより地盤40に打設されるようになっている。
【0024】
尚、鋼製筒状体1は、図1に示す円筒状に限定されず、角筒状や多角形筒状であってもよい。
【0025】
この鋼製筒状体1は、導材等によって垂直に建て込んだ状態で杭打機等によって鋼製筒状体1の上端を打撃又は押し込むことにより地盤40に貫入させるようになっている。
【0026】
その際、鋼製筒状体1は、傾斜計測装置2によって打設途中における鋼製筒状体1の傾きが随時監視できるようになっている。
【0027】
この傾斜計測装置2は、図1に示すように、鋼製筒状体1の下端より所定の距離をおいた基準位置である所定の高さ位置の内周面に加速度計取付部材3を介して固定された加速度計4,4と、鋼製筒状体1の内周面に固定され、加速度計取付部材3に保持された加速度計4,4を覆う保護カバー5と、加速度計4,4の計測データに基づき所定の打設深度l毎に鋼製筒状体1の基準位置の水平方向変位量Lを算出する水平変位量算出手段6とを備えている。
【0028】
加速度計取付部材3は、図3に示すように、平板状の加速度計取付板10と、加速度計取付板10の両側縁より加速度計取付板10に対し鋼製筒状体の内周面に向け略直角方向に延出した板状の側板部11,11とを備え、断面視コ字状に形成され、両側板部11,11の短手方向端縁が溶接により基準位置である所定の高さ位置で鋼製筒状内周面に固定されている。尚、この加速度計取付部材3には、一般的な溝形鋼等を用いることができる。
【0029】
加速度計取付部材3は、図2に示すように、少なくとも一つが鋼製筒状体1の下端より基準位置である所定の高さ位置の鋼製筒状体1の内周面に長手方向を筒軸方向に向けて固定され、その他の加速度計取付部材3,3がそれぞれ筒軸方向で連続する配置に固定され、複数(少なくとも二つ)の加速度計4,4が筒軸方向に所定の間隔をおいて連続的に配置されるようになっている。
【0030】
尚、本実施形態においては、鋼製筒状体1の下端部の打設時の状態を考慮し、鋼製筒状体1の下端より略1m上方を基準位置として設定しているが、杭先端部の状況予測によっては、より下方に設けてもよい。
【0031】
また、もう一つ取り付ける加速度計4は、基準位置に設置した加速度計4が打設に伴い破損した場合のバックアップ用として設置することから、加速度計4が取り付けられた基準位置からの間隔はあまり長くせず、1m程度が望ましい。
【0032】
各加速度計取付部材3には、図2~4に示すように、加速度計取付板10の表面側にボルト締め等によって収容ケース12が固定され、収容ケース12を介して加速度計4,4が固定されるようになっている。
【0033】
収容ケース12は、細板状の底板12aと、底板12aの短辺の両端部上に立ち上げた端壁部12b,12bと、底板12aの長辺の両端部上に立ち上げた側壁部12c,12cと、底板12aの底面部と加速度計取付板10の表面との間に配置され、収容ケース12の長辺方向に間隔をおいて固定された複数の取付板12d,12d…とを備え、各取付板12d,12d…のボルト挿通孔12e,12eを対応する加速度計取付板10のボルト挿通孔10a,10aの位置に合わせ、取付板12dを貫通させたボルト13に加速度計取付板10の裏面側からナット14を螺合させることによって固定されている。
【0034】
加速度計4,4は、少なくとも2つの圧電性結晶がそれぞれ別々の軸の振動に反応するように配置され、x、y、z方向の3軸の振動に基づき各軸の加速度を計測する3軸加速度計で構成され、有線で水平変位量算出手段6と接続されている。尚、図中符号15は加速度計4への電源供給及び加速度計4の計測データを送信するための接続ケーブル15であって、この接続ケール15が加速度計4本体と水平変位量算出手段6とを接続している。
【0035】
加速度計4,4は、図4に示すように、収容ケース12に収容され、x軸を筒軸方向に、z軸を管径方向にそれぞれ向けられるよう、収容ケース12を介して加速度計取付部材3に固定されている。
【0036】
また、加速度計4,4は、接続ケーブル15の一部とともに収容ケース12に収められ、収容ケース12内に充填された樹脂材によって収容ケース12に固定されている。
【0037】
接続ケーブル15は、収容ケース12の上端開口部より引き出され、鋼製筒状体1の内周面に沿って鋼製筒状体1の上端開口部まで引き出され、鋼製筒状体1の上端部切り欠け又は上部側面の孔から水平変位量算出手段6に接続されている。
【0038】
尚、接続ケーブル15は、特に図示しないが、鋼製筒状体1の内周面に固定具によって固定されている。
【0039】
保護カバー5は、加速度計4,4及び加速度計取付部材3を覆うカバー本体20と、カバー本体20の下端部を閉鎖する先端用保護部材21とを備え、鋼製筒状体1の下端より軸方向に所定の距離をおいた位置から上端部まで連続して鋼製筒状体1の内周面に固定されている。
【0040】
カバー本体20は、図3に示すように、細板状の天板20aと、天板20aの短辺両側縁より天板20aに対し鋼製筒状体1の内周面に向けて略直角方向に延出した板状の側板20b,20bとを備え、平面視コ字状に形成され、両側板20b,20bの短手方向端縁が溶接により鋼製筒状体1の内周面に固定されている。
【0041】
カバー本体20は、天板20aの幅が加速度計取付部材3の幅よりも十分に幅広に形成されるとともに、両側板20b,20bの幅(鋼製筒状体1内周面からの突出高さ)が天板20aと加速度計取付部材3に収容ケース12を介して固定された加速度計4,4との間に一定の隙間が形成される幅に形成されている。
【0042】
先端用保護部材21は、図5に示すように、カバー本体20の下端部の外周に沿って嵌合される断面視コ字状の嵌合部21aと、嵌合部21aの下端より下方外側(鋼製筒状体1内周面側)に傾斜した傾斜板21bと、傾斜板21bの両側部を塞ぐために配置された直角三角形状の両傾斜側板21c,21cと、両傾斜側板21c,21c間に間隔をおいて配置された補強リブ21d,21dとを備え、カバー本体20の下端に嵌合され、カバー本体20の下端を閉鎖している。
【0043】
傾斜板21bは、先端側に円弧状の掘削刃21eが形成され、掘削刃21eで地盤40が掘削されることにより、先端用保護部材21及びカバー本体20が地盤40に貫入される際の抵抗が軽減されている。
【0044】
水平変位量算出手段6は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末等のコンピュータ機器に搭載されたプログラムよって構成され、加速度計4,4から出力されるデータを基に以下の式1~3により鋼製筒状体1の傾斜角θn、基準位置の水平方向変位量L及び加速度計4が設置されている先端部の累積水平変位量Lを算出するようになっている。尚、Kxは加速度計4,4のx方向(筒軸方向)出力値(m/s)、Kzは加速度計4,4のz方向(管径方向)出力値(m/s)、θnは矢板の傾斜角、Gは重力加速度(m/s)である。
(数式1)
θ=tan-1(K/K
(数式2)
=l×tanθ
(数式3)
L=L+L+…+L
【0045】
尚、水平変位量算出手段6は、鋼製筒状体1を打設する打設船等に設置するが、加速度計4,4の計測データが無線で送信されるときには、陸上の事務所棟等に設置するようにしてもよい。
【0046】
次に、上述の加速度計4を使用した鋼製筒状体1の傾斜計測方法について図7に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
先ず、事前準備として、地上の工場や製作ヤードにおいて、打設する鋼管杭や鋼管矢板等の鋼製筒状体1の内側面の所定の位置に加速度計取付部材3を溶接等によって取り付け、加速度計取付部材3に収容ケース12に収容された加速度計4,4を固定する。
【0048】
また、各加速度計4,4本体から引き出された接続ケーブル15を鋼製筒状体1の内周面軸方向に沿って這わせ、端部を鋼製筒状体1の上端開口部まで引き出しておく。尚、接続ケーブル15は、鋼製筒状体1の上部開口部近くに設けた孔を通して鋼製筒状体1の外部に引き出すようにしてもよい。
【0049】
そして、加速度計4,4の設置が完了したら、保護カバー5を加速度計取付部材3に収容ケース12を介して取り付けられた加速度計4,4及び接続ケーブル15を覆うように鋼製筒状体1の内周面に溶接によって固定する。また、保護カバー5の下端部に先端用保護部材21を取り付ける。
【0050】
次に、具体的な鋼製筒状体1の傾斜計測方法について説明する。
【0051】
先ず、図7(a)に示すように、鋼製筒状体1を測量により鉛直性を確保しつつ、下端部を一定深さ(以下、建て込み深さlという)だけ地盤40に貫入させた状態に建て込む。尚、図中符号41は水面である。
【0052】
そして、加速度計4,4による出力を開始し、出力された計測データに基づき水平変位量算出手段6が建て込み深さlにおける鋼製筒状体1の傾斜角度(以下、初期傾斜角θという)及び先端部の水平変位量Lを上述した式1及び式2により算出する。
【0053】
尚、初期傾斜角θ及び先端部の水平変位量Lの算出は、加速度計4,4による計測を1秒間に複数回行い、その平均値を測定値として行う。
【0054】
次に、鋼製筒状体1の打設を開始し、図7(b)に示すように、建て込み深さより所定の深さ分lだけバイブロハンマや杭打機により鋼製筒状体1の上端を打撃又は押込み、鋼製筒状体1を所定の打設深度まで地盤40に貫入させる。
【0055】
鋼製筒状体1を打設深度lだけ地盤40に貫入させたら、一旦打設作業を停止し、振動が無い状態で加速度計4,4による計測を行い、出力された計測データに基づき水平変位量算出手段6が打設深度lにおける鋼製筒状体1の傾斜角度θ及び先端部の単位貫入量当たりの水平変位量Lを式1及び式2により算出し、先端部の累積水平変位量L=L+Lを式3により算出する。
【0056】
尚、傾斜角θ及び単位貫入量当たりの先端部の水平変位量Lの算出は、加速度計4,4による計測を1秒間に複数回行い、その平均値を測定値として行う。
【0057】
次に、鋼製筒状体1の打設を再開し、現位置から所定の深さ分lだけバイブロハンマや杭打機により鋼製筒状体1の上端を打撃又は押込み、鋼製筒状体1をさらに地盤40に貫入させる。
【0058】
そして、鋼製筒状体1を打設深度l2だけ地盤40に貫入させたら、再度打設作業を停止し、振動が無い状態で加速度計4,4による計測を行い、出力された計測データに基づき水平変位量算出手段6が打設深度l2分を貫入させた際の鋼製筒状体1の傾斜角度θ2及び先端部の打設深度l2の水平変位量L2を式1及び式2により算出し、先端部の累積水平変位量L=L+L+Lを式3により算出する。
【0059】
そして、図7(c)~(d)に示すように、以降の貫入回数n=2~k~n(kは打設途中の任意の貫入回数)について、この打設深度l分を貫入させる作業と、貫入させた後に停止させる作業と、打設深度毎に加速度計4,4による計測を行い、鋼製筒状体1の傾斜角度θ、先端部の単位貫入量当たりの水平変位量L及び先端部の累積水平変位量Lを算出する作業とを鋼製筒状体1の下端が図7(d)に示す設計計画上の深さに到達するまで繰り返す。
【0060】
このように構成された本願発明では、加速度計4,4の位置における鉛直方向に対する鋼製筒状体1の絶対傾斜角θを算出することができ、その傾斜角に基づいて打設深度l毎の水平変位量Lを求めることができ、さらに、打設深度l毎の水平変位量Lを累積加算することによって鋼製筒状体1先端部の水平変位Lを求めることができる。
【0061】
尚、仮に累積水平変位量Lの上限変位量をプラスマイナス10cmとしたときに、図7(a)~(c)の過程において、打設途中の任意の貫入回数kの位置に到達した際の計測値が上限変位量を超過していた時、又は上限変位量間近であったときには、計測対象である鋼製筒状体1を少なくとも前回計測した際の打設深さ分lk-1まで抜き上げ、変位方向と逆向きとなるよう変位制限措置を加えてから再度打設作業を行う。
【0062】
よって、本願発明では、鋼製筒状体1の打設対象位置に関わらず打設深度毎の水平変位量をリアルタイムに計測することができ、地盤40からの抵抗や地質等の状況によって打設途中の鋼製筒状体1に傾きが生じた場合であっても、鋼製筒状体1の傾きを随時監視することができる。
【0063】
また、本願発明では、複数の加速度計4,4が筒軸方向に互いに間隔をおいて固定されているので、何れかの加速度計4,4が破損・故障した場合にも対応することができる。
【0064】
尚、上述の実施例では、加速度計4,4を有線で水平変位量算出手段6に接続した場合について説明したが、加速度計4,4と水平変位量算出手段6とを無線で接続するようにしてもよく、その場合、保護カバー5は、加速度計4,4が設置された範囲のみに設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 鋼製筒状体
2 傾斜計測装置
3 加速度計取付部材
4 加速度計
5 保護カバー
6 水平変位量算出手段
10 加速度計取付板
11 側板部
12 収容ケース
13 ボルト
14 ナット
15 接続ケーブル
20 カバー本体
21 先端用保護部材
40 地盤
41 水面
【要約】
【課題】簡便に鋼管や鋼管矢板等の傾斜をリアルタイムで正確に監視することができる鋼製筒状体の傾斜計測装置及び傾斜角計測方法の提供。
【解決手段】この傾斜計測装置2は、鋼製筒状体1の下端より基準位置である所定の高さ位置の内周面に加速度計取付部材3を介して固定された加速度計4と、鋼製筒状体1の内周面に固定され、加速度計取付部材3に保持された加速度計4を覆う保護カバー5と、加速度計4の計測データに基づき所定の打設深度ln毎に鋼製筒状体1の基準位置の水平方向変位量Lを算出する水平変位量算出手段6とを備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7