(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】着雪防止被膜形成用組成物及び着雪防止被膜
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230302BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20230302BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230302BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230302BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/62
C09D7/65
C09D5/00 Z
C09K3/18
(21)【出願番号】P 2020192043
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019208155
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】賀川 みちる
(72)【発明者】
【氏名】森田 正道
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179678(WO,A1)
【文献】特開2000-230140(JP,A)
【文献】特開平11-029722(JP,A)
【文献】特開平07-331114(JP,A)
【文献】特開2002-114941(JP,A)
【文献】特開平07-268009(JP,A)
【文献】特開2006-022258(JP,A)
【文献】特開2009-263459(JP,A)
【文献】国際公開第2003/093389(WO,A1)
【文献】特開2006-221063(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208735(WO,A1)
【文献】特開2004-225019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
C09K 3/18
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、塗料成分とを含有する着雪防止被膜形成用組成物であって、
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH
2CH
2N(R
1)SO
2-基(但し、R
1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH
2CH(OY
1)CH
2-基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH
2)
nSO
2-基(nは1~10であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
前記塗料成分は、反応性官能基を有する重合体と硬化剤とを含み、
前記着雪防止被膜形成用組成物から形成される着雪防止被膜の水の接触角が150°以上である、着雪防止被膜形成用組成物。
【請求項2】
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、バインダー成分とを含有し、
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【化2】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH
2CH
2N(R
1)SO
2-基(但し、R
1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH
2CH(OY
1)CH
2-基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH
2)
nSO
2-基(nは1~10であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含み、
前記バインダー成分は、反応性官能基を有する重合体の硬化物を含み、
水の接触角が150°以上である、着雪防止被膜。
【請求項3】
下記着雪試験により測定される着雪開始時間が5分以上である、
請求項2に記載の着雪防止被膜。
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように着雪防止被膜を設置し、該被膜に対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m
2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつける。この吹きつけは、被膜表面に人口雪が衝突するようにする。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(無着雪時間)として計測する。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の着雪防止被膜を備える基材。
【請求項5】
請求項4に記載の基材を備える、アンテナカバー用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、着雪防止被膜形成用組成物及び着雪防止被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超撥液性を対象物の表面に付与しうる被膜が種々提案されている(なお、本明細書において、超撥液性を対象物の表面に付与しうる被膜を「超撥液性被膜」ということがある)。
【0003】
例えば、特許文献1には、重合性基を有する微粒子及び分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物を用いることで、超撥液性及び耐摩耗性を両立した超撥液性被膜を形成できることが開示されている。特許文献2には、フッ素原子を含む被膜であって、被膜の諸性能を適切に制御することで、超撥液性及び耐摩耗性を両立した超撥液性被膜を形成できる技術が開示されている。特許文献3には、フッ素系樹脂及びアクリル樹脂からなるフッ素含有樹脂及び表面粗度調整剤を混合してなる被膜形成組成物を着雪着氷防止塗料とする技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/056663号
【文献】国際公開第2017/179678号
【文献】特開平10-183049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、着雪が生じにくい被膜を形成することができる着雪防止被膜形成用組成物及び着雪防止被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本開示は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、塗料成分とを含有する、着雪防止被膜形成用組成物。
項2
前記塗料成分は、反応性官能基を有する化合物を含む、項1に記載の着雪防止被膜形成用組成物。
項3
前記塗料成分は、反応性官能基を有する重合体と硬化剤とを含む、項1に記載の着雪防止被膜形成用組成物。
項4
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【0007】
【化1】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH
2CH
2N(R
1)SO
2-基(但し、R
1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH
2CH(OY
1)CH
2-基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH
2)
nSO
2-基(nは1~10であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む、項1~3のいずれか1項に記載の着雪防止被膜形成用組成物。
項5
微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、バインダー成分とを含有する、着雪防止被膜。
項6
前記バインダー成分は、反応性官能基を有する化合物の硬化物を含む、項5に記載の着雪防止被膜。
項7
前記第1の重合体は、下記一般式(1):
【0008】
【化2】
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX
1X
2基(但し、X
1およびX
2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH
2CH
2N(R
1)SO
2-基(但し、R
1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH
2CH(OY
1)CH
2-基(但し、Y
1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH
2)
nSO
2-基(nは1~10であり、式の右端がR
aに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示し、R
aは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む、項5又は6に記載の着雪防止被膜。
項8
水の接触角が150°以上である、請求項5~7のいずれか1項に記載の着雪防止被膜。項9
下記着雪試験により測定される着雪開始時間が5分以上である、着雪防止被膜。
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように着雪防止被膜を設置し、該被膜に対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m
2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつける。この吹きつけは、被膜表面に人口雪が衝突するようにする。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面をモニターし、一定時間毎に目視にて着雪の有無を確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(無着雪時間)として計測する。
項10
項5~9のいずれか1項に記載の着雪防止被膜を備える基材。
項11
アンテナカバー用である、項10に記載の基材。
【発明の効果】
【0009】
本開示の着雪防止被膜形成用組成物によれば、着雪が生じにくい被膜を形成することができる。
【0010】
本開示の着雪防止被膜は、着雪が生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
超撥液性被膜の用途の一つとして、着雪防止用途が考えられることから、超撥液性被膜に対しては、優れた着雪防止性能を付与することが求められる。しかしながら、従来の超撥液性被膜では、その着雪性能が十分ではなく、例えば、雪との接触が初期のうちは、雪の付着が抑制されるものの、一定時間にわたり雪に晒されると、徐々に雪の付着が起こり、時間と共に雪の付着量が増大する。このように従来の超撥液性被膜は着雪防止性能が十分でなったため、着雪防止用途に使用し難いものであった。特に、撥水及び撥油に優れる材料が必ずしも優れた着雪防止性能を有するわけはないことから、単純に撥水及び撥油性能を高めるだけでは、優れた着雪防止性能を有する被膜を得ることは難しい。
【0012】
本発明者らは、かかる事情に鑑み、着雪が生じにくい着雪防止被膜を提供することを目的として鋭意研究を重ねた。その結果、特定の構造を有する複合粒子と、特定の塗料成分とを組み合わせた組成物を用いることで、あるいは、特定の構造を有する複合粒子と、特定のバインダー成分とを組み合わせることで着雪が生じにくい着雪防止被膜提供が可能となることを見出している。
【0013】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を夫々最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。
【0015】
1.着雪防止被膜形成用組成物
本開示の着雪防止被膜形成用組成物は、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、塗料成分とを含有する。なお、以下では、本開示の着雪防止被膜形成用組成物を単に「本開示の組成物」と略記する。
【0016】
本開示の組成物を用いて形成される被膜は、着雪防止性能に優れるため、雪に晒されたとしても長時間にわたり着雪が生じにくい。
【0017】
(複合粒子)
本開示の組成物において、複合粒子は、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる。微粒子を被覆する第1の重合体と、微粒子とは、互いに化学結合によって結合していてもよいし、化学結合を介さずに物理的に接触していてもよい。微粒子を被覆する第1の重合体と、微粒子とが化学結合をしている場合、化学結合は、例えば、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合及びファンデルワールス力等を挙げることができ、好ましくは共有結合である。微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子において、その被覆率は特に限定されない。
【0018】
微粒子の種類は特に限定されず、例えば、シリカ微粒子、その他の金属酸化物微粒子、カーボンブラック、フラーレン及びカーボンナノチューブ等を挙げることができる。本開示の組成物を用いて形成される被膜が硬くなりやすく、また、着雪防止性能がより優れるという点で、微粒子はシリカであることが好ましい。
【0019】
複合粒子の平均粒子径は特に限定されない。本開示の組成物を用いて形成される被膜の硬度が高まりやすく、また、着雪防止性能がより優れるという点で、複合粒子の平均粒子径は、例えば、1nm以上5μm以下であり、5nm以上4μm以下であることがより好ましく、5nm以上3.5μm以下であることがさらに好ましく、5nm以上3μm未満であることが特に好ましい。
【0020】
本開示の組成物において、微粒子の平均粒子径の測定方法は、以下に示す手順に従う。本開示の組成物の揮発分成分を加熱処理(300℃、3時間)により除去し、得られた微粒子を走査型電子顕微鏡によって直接観察し、撮影画像中の複合粒子を200個選択して、これらの円相当径を算出した平均値を、組成物中の微粒子の平均粒子径とする。なお、本開示の組成物においては、微粒子の平均粒子径を複合粒子の平均粒子径とみなすことができる。
【0021】
微粒子の比表面積は特に限定されず、例えば、得られる被膜の硬度が向上しやすい点で、30~700m2/gであることが好ましく、100~300m2/gであることがさらに好ましい。
【0022】
本開示の組成物において、前記微粒子の比表面積は、BET法によって計測された値(いわゆるBET比表面積)を意味する。
【0023】
微粒子の形状も特に限定されず、例えば、球状、楕円球状等を挙げることができ、また、異形状等の不定形粒子であってもよい。
【0024】
微粒子を被覆している第1の重合体の種類は特に限定されず、例えば、公知の高分子化合物を広く採用することができる。第1の重合体は、例えば、フッ素原子を有していてもよいし、フッ素原子を有していなくてもよい。
【0025】
第1の重合体は、例えば、下記式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含むことができる。念のための注記に過ぎないが、本明細書において、「化合物に基づく構造単位」とは、斯かる化合物が重合された場合に形成される繰り返しの構成単位を示し、化合物そのものを示すわけではない。
【0026】
【0027】
前記式(1)中、Xは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1およびX2は、同一又は異なって、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、置換又は非置換のベンジル基、置換又は非置換のフェニル基、若しくは炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基を示す。Xがアルキル基である場合、これらは環状又は非環状のいずれであってもよく、その炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~2である。Xがフルオロアルキル基である場合、これらは環状又は非環状のいずれであってもよい。また、アルキル基及びフルオロアルキル基の炭素数はいずれも、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2である。
【0028】
前記式(1)中、Yは、直接結合、酸素原子を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、-CH2CH2N(R1)SO2-基(但し、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、-CH2CH(OY1)CH2-基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)、又は-(CH2)nSO2-基(nは1~10であり、式の右端がRaに、左端がOにそれぞれ結合している。)を示す。「直接結合」とは、前記式(1)において、Yの両端のRaとOとが直接結合していることを意味し、つまりは、Yは元素を含まないことを意味する。Yが炭素数1~10の炭化水素基である場合、具体的には、炭素数1~10のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1~2のアルキレン基である。
【0029】
前記式(1)中、Raは炭素数20以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数6以下の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又は分子量400~5000のフルオロポリエーテル基を示す。フルオロアルキル基は、例えば、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、フルオロポリエーテル基は、例えば、パーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0030】
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、前述の特許文献1に開示されているアクリル酸エステルを広く挙げることができる。
【0031】
中でも、被膜の撥水性及び撥油性に優れ、かつ、着雪防止性能が向上しやすいという観点から、式(1)で表される化合物は、Xが水素原子、メチル基又はフッ素原子であり、Yが直接結合又は炭素数1~10のアルキレン基(好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1~2のアルキレン基)であり、Raが炭素数2~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、若しくは分子量400~5000のポリエーテル基又はフルオロポリエーテル基である組み合わせを挙げることができる。より好ましい式(1)で表される化合物は、Xが水素原子またはメチル基、Yが炭素数1~2のアルキレン基、Raが炭素数2~6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基、もしくは、Xが水素原子又はメチル基、Yが直接結合、Raが炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0032】
式(1)で表される化合物の具体な化合物を例示すると、フルオロアルキル基の炭素数が1~6のフルオロアルキル(メタ)アクリレート及びアルキル基の炭素数が1~20(好ましくは1~18)のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0033】
第1の重合体が式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体を含む場合、重合体に含まれる式(1)で表される化合物に基づく構造単位は1種単独及び2種以上のいずれであってもよい。
【0034】
第1の重合体の分子量は特に限定されず、例えば、公知のラジカル重合で形成される程度の質量平均分子量の範囲とすることができる。第1の重合体は、ただ一種の構造単位で形成されるホモポリマーであってもよいし、二種以上の構造単位で形成されるコポリマーであってもよい。コポリマーである場合、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等のいずれの形態であってもよい。
【0035】
第1の重合体は、式(1)で表される化合物に基づく構造単位を有する重合体のみで形成されていてもよいし、式(1)で表される化合物に基づく構造単位以外の構造単位を有することもできる。第1の重合体に含まれる式(1)で表される化合物に基づく構造単位の総含有量は、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
【0036】
複合粒子を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、表面に重合性基又は重合に関与する官能基を有する微粒子と、式(1)で表される化合物とを用いて第1の重合体を被覆する方法(以下、「被覆方法1」と略記する)、あるいは、第1の重合体と微粒子とを用いて微粒子に第1の重合体を被覆する方法(以下、「被覆方法2」と略記する)によって複合粒子を製造することができる。
【0037】
表面に重合性基又は重合に関与する官能基を有する微粒子において、微粒子は、前記同様、シリカ微粒子、その他の金属酸化物微粒子、カーボンブラック、フラーレン及びカーボンナノチューブ等を挙げることができる。被膜が硬くなりやすいという点及び重合性基含有化合物や重合開始基含有化合物を表面に修飾させやすい点で、微粒子はシリカであることが好ましい。
【0038】
微粒子表面の重合性基は特に限定されず、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基及びアニオン重合性基等が挙げられる。汎用性や反応性の点で、ラジカル重合性基が好ましく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、マレイミド基等が挙げられる。表面に重合性基を有する微粒子を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。また、表面に重合性基を有する微粒子は、市販品等から入手することもできる。また、微粒子表面の重合に関与する官能基としては、ラジカル重合の開始剤に基づく基あるいは連鎖移動剤に基づく基が挙げられる。ラジカル重合の開始剤に基づく基として、アゾ基、ベルオキシ基等が挙げられ、連鎖移動剤に基づく基の具体例として、チオール基が挙げられる。
【0039】
前記被覆方法1では、表面に重合性基又は重合に関与する官能基を有する微粒子と、式(1)で表される化合物との重合反応により複合粒子を製造することができる。これにより、微粒子表面の重合性基又は重合に関与する官能基は、式(1)で表される化合物と重合反応し、微粒子表面と式(1)で表される化合物とが化学結合(共有結合)する。重合反応としては、例えば、ラジカル重合である。重合反応の条件は特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。この重合反応は、重合溶媒の中で行うことができる。また、重合反応では重合開始剤を使用することもできる。重合溶媒及び重合開始剤の種類は特に限定されず、重合反応用いられる公知の溶媒及び重合開始剤を広く使用することができる。例えば、重合溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤の他、アルコール化合物、水、またはこれらの混合物を挙げることができる。前記被覆方法2では、例えば、あらかじめ合成した第1の重合体と微粒子とを溶媒中で混合し、微粒子表面に第1の重合体の塗膜を形成することで複合粒子を製造することができる。
【0040】
(塗料成分)
本開示の組成物において、塗料成分は、被膜が形成されたときの後記バインダー成分となる成分であり、バインダー成分前駆体と呼ぶことができる。つまり、塗料成分は硬化することができる成分であって、硬化後は被膜のバインダー成分を形成する。
【0041】
塗料成分は、バインダー成分を形成することができる限り、その種類は特に限定されず、公知の材料を広く使用することができる。例えば、塗料成分は、低分子化合物であってもよいし、また、重合または硬化によって重合体を形成することができる成分であっても良い。製膜性に優れる観点から、塗料成分は、重合によって重合体を形成することができる成分であることが好ましい。例えば、塗料成分として、反応性官能基を有する化合物を含むことができる。反応性官能基を有する化合物としては、例えば、後記する反応性官能基を有する重合体、あるいは、光重合性モノマーが挙げられる。
【0042】
具体的に塗料成分としては、熱を与えることで硬化反応が進行して硬化物を与えることができる成分、あるいは、UV等の光照射によって硬化物を与えることができる成分を挙げることができる。熱を与えることで硬化反応が進行して硬化物を与えることができる成分を「熱硬化性樹脂成分」と、光照射によって硬化物を与えることができる成分を「光硬化性樹脂成分」と表記する。
【0043】
熱硬化性樹脂成分の種類は特に限定されず、例えば、各種の反応性官能基を有する化合物と、必要に応じて含まれる硬化剤との混合物とすることができる。特に、反応性官能基を有する化合物として、硬化剤と熱により反応して硬化反応が進行する化合物であることが好ましく、中でも、反応性官能基を有する重合体であることが好ましい。
【0044】
つまり、塗料成分が熱硬化性樹脂成分である場合、反応性官能基を有する重合体と硬化剤とを含むことが好ましい。この場合、本開示の組成物により形成される被膜の積雪防止性能が向上しやすくなる。また、熱硬化性樹脂成分が反応性官能基を有する重合体を含む場合、熱硬化によって架橋反応が進行しやすい。
【0045】
反応性官能基を有する重合体において、反応性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、イソシアネート基等を挙げることができる。
【0046】
以下、反応性官能基を有する重合体を「反応性重合体」と略記する。
【0047】
反応性重合体はさらに、フルオロアルキル基を有していることが好ましい。これにより、被膜の撥水性が向上すると共に、着雪防止性能がさらに向上する。
【0048】
反応性重合体としては、反応性官能基を有する含フッ素重合体を適用することが好ましい。含フッ素重合体としては、例えば、
(a)テトラフルオロエチレン構造単位、
(b)水酸基とカルボキシル基とを含まない非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位、
(c)芳香族基とカルボキシル基とを含まない水酸基含有ビニルモノマー構造単位、
(e)水酸基と芳香族基とを含まないカルボキシル基含有モノマー構造単位および
(f)その他モノマー構造単位(ただし、(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位を含まない)
からなる重合体を挙げることができる。以下、この重合体を「重合体F」と表記する。熱硬化性樹脂が重合体Fである場合、被膜の耐水性が特に向上する。
【0049】
前記(a)テトラフルオロエチレン構造単位の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が20モル%、好ましくは30モル%、より好ましくは40モル%、特に好ましくは42モル%であり、上限が49モル%、好ましくは47モル%である。
【0050】
前記非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)を与えるモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニルなどの1種または2種以上があげられる。これらのモノマーは水酸基とカルボキシル基とを含まない非芳香族系モノマーである。特に好ましい非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位は、耐候性等に優れる点からバーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる1種である。これらのなかでも耐薬品性の点から、非芳香族系カルボン酸ビニルエステル、特にカルボン酸の炭素数が6以上のカルボン酸ビニルエステル、さらに好ましくはカルボン酸の炭素数が9以上のカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルにおけるカルボン酸の炭素数の上限は20以下、さらには15以下が好ましい。具体例としてはバーサチック酸ビニルが最も好ましい。
【0051】
前記非芳香族系のビニルエステルモノマー構造単位(b)の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が25モル%、好ましくは30モル%であり、上限が69.9モル%、好ましくは60モル%、より好ましくは43モル%、特に好ましくは40モル%である。
【0052】
前記水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)を与えるモノマーはカルボキシル基を含まない非芳香族系のモノマーであり、たとえば式(2)で表わされるヒドロキシアルキルビニルエーテル又はヒドロキシアルキルアリルエーテルが挙げられる。
CH2=CHR10 (2)
【0053】
ここで、式(2)中、R10は-OR20または-CH2OR20(ただし、R20は水酸基を有するアルキル基である。)を表す。R20としては、たとえば炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基に1~3個、好ましくは1個の水酸基が結合したものである。例としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテルなどの1種または2種以上が挙げられる。中でも、前記水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)を与えるモノマーは、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテルが好ましい。
【0054】
この水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)の存在によって、被膜の加工性、耐衝撃性、耐汚染性を改善することができる。
【0055】
水酸基含有ビニルモノマー構造単位(c)の含有割合は、重合体Fの全量中、下限が8モル%、好ましくは10モル%であり、さらに好ましくは15モル%、上限が30モル%、好ましくは20モル%である。
【0056】
重合体Fは基本的には(a)、(b)及び(c)(ただし、各単位の内では2種以上共重合してもよい)で構成することができるが、10モル%までは他の共重合可能なモノマー構造単位(f)を含むことができる。他の共重合可能なモノマー構造単位(f)は、前記(a)、(b)および(c)のほか芳香族基含有モノマー構造単位(d)およびカルボキシル基含有モノマー構造単位(e)以外のモノマー単位である。
【0057】
他の共重合可能なモノマー構造単位(f)を与えるモノマーとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル;エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテンなどの非フッ素系のオレフィン等が挙げられる。他の共重合可能なモノマー構造単位(f)が含まれる場合、その含有割合は、重合体F中、10モル%以下、好ましくは5モル%未満、さらに好ましくは4モル%以下である。
【0058】
重合体Fはさらに、(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位を含むこともできる。(d)水酸基とカルボキシル基とを含まない芳香族基含有モノマー構造単位としては、例えば、安息香酸ビニル、パラ-t-ブチル安息香酸ビニルなどの安息香酸ビニルモノマーなどの1種または2種以上が挙げられ、特にパラ-t-ブチル安息香酸ビニル、さらには安息香酸ビニルが好ましい。
【0059】
芳香族基含有モノマー構造単位(d)の含有割合は、重合体F中、下限が2モル%、好ましくは4モル%であり、上限は15モル%、好ましくは10モル%、より好ましくは8モル%である。
【0060】
重合体Fはさらに、(e)水酸基と芳香族基とを含まないカルボキシル基含有モノマー構造単位を含むこともできる。カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、3-アリルオキシプロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸無水物、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニルなどの1種または2種以上が挙げられる。中でも、単独重合性の低いクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、3-アリルオキシプロピオン酸が好ましい。
【0061】
カルボキシル基含有モノマー構造単位(e)の含有割合は、重合体F中、下限が0.1モル%、好ましくは0.4モル%であり、上限が2.0モル%、好ましくは1.5モル%である。
【0062】
重合体Fは、テトラヒドロフランを溶離液として用いるゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定する数平均分子量は、例えば、1000から1000000、好ましくは3000から50000である。示差走査熱量計(DSC)により求める重合体Fのガラス転移温度(2nd run)は、例えば、10~60℃、好ましくは20~40℃である。重合体Fの製造方法も特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。また、重合体Fは市販品等からの入手も可能である。
【0063】
重合体Fの具体例としては、ダイキン工業社製のゼッフル(登録商標)GKシリーズ等が挙げられる。
【0064】
熱硬化性樹脂成分は、前述のように硬化剤を含むことができる。硬化剤は特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂用の硬化剤として使用される化合物を広く適用することができる。特に、硬化剤は、前述の分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物であることが好ましい。
【0065】
硬化剤の具体例としては、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。イソシアネート系硬化剤としては、例えば、イソシアネート基を有する化合物(以下、単にイソシアネート化合物と表記)が挙げられる。イソシアネート化合物は、たとえば、下記一般式(20)で表されるが挙げられる。
【0066】
【0067】
式(20)中、Z6は、少なくとも一つの末端にイソシアネート基を有する、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素-炭素間不飽和結合を有していてもよい、直鎖状又は分岐状の1価の炭化水素基又はカルボニル基であり、R3は、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよく、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されていてもよく、炭素-炭素間不飽和結合を有していてもよい、分岐状又は環状の2価以上の炭化水素基又はカルボニル基であり、かつ、oは2以上の整数である。
【0068】
R3は、好ましくは、炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~15であり、さらに好ましくは炭素数3~10である。
【0069】
Z6は、好ましくは、炭素数1~20であり、より好ましくは炭素数2~15であり、さらに好ましくは炭素数3~10である。
【0070】
イソシアネート化合物は、1種で用いてもよく、又は複数を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
イソシアネート化合物としては、例えば、ポリイソシアネートを挙げることができる。本明細書において、ポリイソシアネートとは、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物を意味する。イソシアネート化合物は、ジイソシアネートを三量体化することにより得られるポリイソシアネートであってもよい。かかるジイソシアネートを三量体化することにより得られるポリイソシアネートは、トリイソシアネートであり得る。ジイソシアネートの三量体であるポリイソシアネートは、これらが重合した重合体として存在してもよい。
【0072】
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等のイソシアネート基が脂肪族基に結合したジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のイソシアネート基が芳香族基に結合したジイソシアネートが挙げられる。
【0073】
具体的なポリイソシアネートとしては、特に限定するものではないが、下記の構造を有する化合物が挙げられる。
【0074】
【0075】
これらのポリイソシアネートは重合体として存在してもよく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネートである場合、下記構造を有する重合体を有していてもよい。
【0076】
【0077】
好ましい実施形態において、イソシアネート化合物は、イソシアヌレート型ポリイソシアネートである。
【0078】
上記イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、これらが重合した重合体であってもよい。イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、イソシアヌレート環を1つのみ有する単環式化合物であってもよく、又はこの単環式化合物が重合して得られる多環式化合物であってもよい。
【0079】
二種以上のイソシアネート化合物を用いる一の態様において、イソシアヌレート環を1つのみ有する単環式化合物を含む混合物を用いることができる。
【0080】
二種以上のイソシアネート化合物を用いる別の態様において、イソシアヌレート型ポリイソシアネートであるイソシアネート化合物を含む混合物を用いることができる。イソシアヌレート型ポリイソシアネートは、例えば、トリイソシアネートであってもよく、具体的には、ジイソシアネートを三量体化することにより得られるトリイソシアネートであってもよい。
【0081】
イソシアネート化合物の具体例としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート、これらの三量体、これらのアダクト体、ビュウレット体やイソシアヌレート体、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、更にブロック化されたイソシアネート類等が挙げられる。より詳しい硬化剤の具体例としては、スミジュール(登録商標)N3300(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)N3600(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールT、L、IL、HLシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)2460M(住化コベストロウレタン株式会社製)、スミジュール(登録商標)44シリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、SBUイソシアネートシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュール(登録商標)E、Mシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、スミジュールHT(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールNシリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デスモジュールZ4470シリーズ(住化コベストロウレタン株式会社製)、デュラネートTPA-100(旭化成株式会社製)、デュラネートTKA-100(旭化成株式会社製)、デュラネート24A-100(旭化成株式会社製)、デュラネート22A-75P(旭化成株式会社製)及びデュラネートP301-75E(旭化成株式会社製)として市販されているもの等を用いることができる。
【0082】
熱硬化性樹脂成分が硬化剤を含む場合、その含有割合は、熱硬化性樹脂成分の全質量に対して10~100質量%とすることができ、15~35質量%であることが好ましい。
【0083】
一方、塗料成分が光硬化性樹脂成分である場合、光硬化性樹脂成分としては、反応性官能基を有する化合物を含み、特に、反応性官能基を有する化合物としては、UV等の光照射によって重合反応が進行する単量体が挙げられる。単量体の種類は特に限定されず、例えば、公知の光重合性モノマーを広く採用することができる。重合性成分が光硬化性樹脂成分である場合、例えば、公知の光重合開始剤を使用することも好ましい。
【0084】
(組成物)
本開示の組成物において、複合粒子及び塗料成分の含有割合は、本開示の効果が阻害されない限り、特に限定されない。例えば、本開示の組成物において、複合粒子の含有割合は、前記複合粒子及び前記塗料成分(固形分換算)の総質量100質量部あたり、25~75質量部であることが好ましく、この場合、被膜の硬度が低下しにくく、また、所望の着雪防止性能が得られやすい。複合粒子の含有割合は、前記複合粒子及び前記塗料成分の総質量100質量部あたり、40~60質量部であることがより好ましい。
【0085】
本開示の組成物において、塗料成分の含有割合は、前記複合粒子及び前記塗料成分の総質量100質量部あたり、25~75質量部であることが好ましく、この場合、所望の着雪防止性能が得られやすい。塗料成分の含有割合(固形分換算)は、前記複合粒子及び前記塗料成分の総質量100質量部あたり、40~60質量部であることがより好ましい。
【0086】
本開示の組成物では、前記複合粒子が有する第1の重合体及び塗料成分の少なくとも一方はフルオロアルキル基を有することが好ましく、前記塗料成分がフッ素原子を有することがさらに好ましい。これにより、被膜形成用組成物から形成される被膜は、優れた撥水性を有し、硬度も高く、しかも、着雪防止性能が向上しやすい。もちろん、前記第1の重合体及び前記塗料成分の両方がフッ素原子(フルオロアルキル基)を有することもできる。前記塗料成分がフルオロアルキル基を有する場合の一例として、前記熱硬化性樹脂成分に含まれる反応性重合体が重合体Fである。より詳しくは、フルオロアルキレン基を有する重合体Fが挙げられる。前記第1の重合体がフルオロアルキル基を有する場合の一例としては、式(1)で表される化合物においてフルオロアルキル基の炭素数が1~6であるフルオロアルキル(メタ)アクリレートである。
【0087】
本開示の組成物は、複合粒子と、塗料成分とを含む限り、他の成分が含まれていてもよい。例えば、本開示の組成物は、必要に応じて、溶媒を含むこともできる。溶媒の種類は限定されず、例えば、被膜を形成するために使用されている溶媒を広く使用することができ、例えば、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤、エステル化合物、アルコール化合物等を挙げることができる。溶媒の含有割合は特に限定されず、例えば、複合粒子及び塗料成分の総質量100質量部あたり、200~2000質量部とすることができる。
【0088】
本開示の組成物は、溶媒以外の他の添加剤を含むこともできる。本開示の組成物が他の添加剤を含む場合、その含有割合は、複合粒子及び塗料成分の全質量に対して5質量%以下とすることが望ましい。
【0089】
本開示の組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、複合粒子と、塗料成分(例えば、前記重合体Fと硬化剤を含む熱硬化性樹脂成分)とを所定の配合量で混合することで調製することができる。混合方法も特に限定されず、例えば、公知の混合機等を広く使用することができる。
【0090】
本開示の組成物を用いて被膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、組成物を、被膜を形成するための基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化することで、被膜を形成することができる。
【0091】
本開示の組成物の塗布方法は特に制限されず、公知の塗膜形成方法を広く採用することができる。例えば、刷毛塗り、スプレー、スピンコート、ディスペンサー等の方法で塗布できる。本開示の組成物の塗膜を形成するための基材の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の樹脂基材、その他、アルミニウム等の金属、無機基材、ガラス基材等の各種の基材を挙げることができる。また、それら基材を材料が複数混ざった複合基板でもよい。
【0092】
本開示の組成物の硬化方法も特に限定されず、例えば、熱硬化、光硬化等の種々の方法を採用することができ、熱硬化と光硬化とを組み合わせることもできる。熱硬化を採用する場合、被膜形成用組成物の塗膜を60~150℃に加熱することが好ましく、この場合、組成物の被膜が形成されやすく、硬度も高く、着雪性能にも優れる。加熱時間は特に制限されず、加熱温度に応じて適宜設定することができる。
【0093】
本開示の組成物から形成される被膜は、前記複合粒子と、前記塗料成分の硬化物(バインダー成分)を含むことで、本開示の組成物を用いて形成される被膜は着雪防止性能に優れ、雪に晒されたとしても長時間にわたり着雪が生じにくい。例えば、豪雪地帯であっても、本開示の組成物を用いて形成される被膜は長時間にわたって着雪防止性能を発揮することができる。従って、本開示の組成物は、着雪防止用被膜を形成するための使用に適している。
【0094】
本開示の組成物を用いて薬液を調製することができる。斯かる薬液は、前記組成物を含むので、被膜を形成するための使用に好適である。薬液は、本開示の組成物のみで構成することができ、あるいは、本開示の組成物の目的とする諸性能が阻害されない程度である限り、他の添加剤(例えば、被膜形成溶薬剤として使用される公知の添加剤)を含むことができる。
【0095】
2.着雪防止被膜
本開示の着雪防止被膜の一態様は、微粒子が第1の重合体で被覆されてなる複合粒子と、バインダー成分とを含有する。以下、斯かる着雪防止被膜を「被膜A」と標記する。本開示の被膜Aは、前述の本開示の組成物を用いて形成することができ、つまりは、本開示の組成物の硬化物である。
【0096】
本開示の被膜Aにおいて、複合粒子は、本開示の被膜形成用組成物に含まれる複合粒子と同じである。従って、複合粒子の平均粒子径は、被膜の硬度が高まりやすく、また、着雪防止性能がより優れるという点で、微粒子の平均粒子径は、例えば、1nm以上5μm以下であり、5nm以上4μm以下であることがより好ましく、5nm以上3.5μm以下であることがさらに好ましく、5nm以上3μm未満であることが特に好ましい。
【0097】
本開示において、被膜中の複合微粒子の平均粒子径は、以下に示す手順に従って測定する。まず、被膜を加熱処理することで、被膜中の有機成分を焼失させ、これにより、被膜中の微粒子を分離することができる。加熱処理は、大気雰囲気下、300℃で3時間行う。得られた微粒子を、走査型電子顕微鏡によって直接観察し、撮影画像中の微粒子を200個選択して、これらの円相当径を算出し、平均値を被膜中の複合微粒子の平均粒子径とする。
【0098】
本開示の被膜において、バインダー成分は、前述の本開示の組成に含まれる塗料成分が硬化して形成される成分である。例えば、塗料成分が反応性官能基を有する化合物を含む場合、当該化合物の硬化物をバインダー成分が含む。より具体的に、塗料成分が前述の熱硬化性樹脂成分である場合は、バインダー成分は、反応性官能基を有する重合体(例えば、前記重合体F)が前述の硬化剤で硬化された硬化物を含む。塗料成分が前述の光硬化性樹脂成分である場合、バインダー成分は、光重合性モノマーの重合体を含む。
【0099】
バインダー成分には、本開示の被膜の性能が損なわれない範囲で、未硬化の塗料成分が混在していても良い。
【0100】
本開示の被膜Aにおいて、複合粒子の含有割合は、前記複合粒子及び前記バインダー成分の総質量100質量部あたり、25~75質量部であることが好ましく、この場合、被膜Aの硬度が低下しにくく、また、所望の着雪防止性能が得られやすい。複合粒子の含有割合は、前記複合粒子及び前記バインダー成分の総質量100質量部あたり、40~60質量部であることがより好ましい。
【0101】
本開示の被膜Aにおいて、バインダー成分の含有割合は、前記複合粒子及び前記バインダー成分の総質量100質量部あたり、25~75質量部であることが好ましく、この場合、所望の着雪防止性能が得られやすい。バインダー成分の含有割合は、前記複合粒子及び前記バインダー成分の総質量100質量部あたり、40~60質量部であることがより好ましい。
【0102】
本開示の被膜Aでは、複合粒子中の第1の重合体及び前記バインダー成分の少なくとも一方はフッ素原子(つまり、フルオロアルキル基)を有することが好まし、前記バインダー成分がフッ素原子を有することがさらに好ましい。これにより、被膜Aは、優れた撥水性を有し、硬度も高く、しかも、着雪防止性能が向上しやすい。もちろん、前記第1の重合体及び前記バインダー成分の両方がフッ素原子(フルオロアルキル基)を有することもできる。例えば、前記バインダー成分がフルオロアルキル基を有する場合の一例としては、前記バインダー成分は重合体F又はその架橋体(重合体Fと硬化剤との硬化物)が挙げられる。前記第1の重合体がフルオロアルキル基を有する場合、式(1)で表される化合物においてフルオロアルキル基の炭素数が1~6のフルオロアルキル(メタ)アクリレートである重合体が挙げられる。
【0103】
本開示の被膜Aは、例えば、水接触角は150°以上である。これにより、本開示の被膜は優れた撥水性が発揮され得る。
【0104】
本開示の被膜Aは、後記する被膜の着雪試験において、着雪開始時間が例えば5分以上であることが好ましく、7分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましい。
【0105】
本開示の被膜Aは、各種基材上に形成され得る。基材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の樹脂基材、その他、アルミニウム等の金属、無機基材等の各種の基材を挙げることができる。
【0106】
本開示の被膜Aは、着雪防止性能に優れ、雪に晒されたとしても長時間にわたり着雪が生じにくい。例えば、豪雪地帯であっても、本開示の組成物を用いて形成される被膜は長時間にわたって着雪防止性能を発揮することができる。
【0107】
従って、本開示の被膜Aは、着雪防止機能が要求される種々の物品等に好適に使用することができ、例えば、被膜Aが形成された基材は、アンテナカバー用として好適に使用することができる。
【0108】
本開示の着雪防止被膜の他の一態様として、被膜Bを挙げることができ、具体的に被膜Bは、後記する被膜の着雪試験において、着雪開始時間が5分以上である、という要件を満たす。被膜Bの構成は、前記要件を満たす限りは特に限定されず、例えば、前述の被膜Aと同様の構成を採用することができる。
【0109】
被膜Bは、被膜の着雪試験において、着雪開始時間は7分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましい。
【0110】
被膜Bを形成する方法は特に限定されず、例えば、前述の本開示の組成物を硬化することで形成することができる。
【0111】
本開示の被膜Bは、各種基材上に形成され得る。基材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の樹脂基材、その他、金属、無機基材等の各種の基材を挙げることができる。
【0112】
本開示の被膜Bは、前記要件を具備することで、着雪防止性能に優れ、雪に晒されたとしても長時間にわたり着雪が生じにくい。例えば、豪雪地帯であっても、本開示の組成物を用いて形成される被膜は長時間にわたって着雪防止性能を発揮することができる。従って、本開示の被膜Bも、着雪防止機能が要求される種々の物品等に好適に使用することができ、例えば、被膜Bが形成された基材は、アンテナカバー用として好適に使用することができる。
【0113】
(本開示の着雪防止被膜の各種物性の測定方法)
本開示の着雪防止被膜(被膜A及びBも包含する)の各種物性の測定方法を説明する。
【0114】
<水の接触角(静的接触角)>
水の接触角は、すなわち水の静的接触角である。水の接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」用いて測定され、具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定が行われる。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合がある。このような場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とする。
【0115】
<被膜の着雪試験>
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように着雪防止被膜を設置し、該被膜に対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつける。この吹きつけは、被膜表面に人口雪が衝突するようにする。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間として計測する。当該着雪開始時間は、無着雪時間を意味する。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0117】
(実施例1)
<[Rf(C6)メタクリレート/微粒子]共重合体溶液の調製>
200mL四つ口フラスコに、メタクリロイル基が修飾された、平均粒子径が12nmのシリカ微粒子「R711」(日本アエロジル製)を3g、C6F13CH2CH2OCOC(CH3)=CH2[以下Rf(C6)メタクリレートと略す]を6g、及び、パーフルオロブチルエチルエーテル60gを投入し、容器内のN2パージを10分間行った。その後、容器内に2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル0.3gを投入し、70℃で6時間重合反応させることで複合粒子の分散液を得た。重合後、分散液中の複合粒子の固形分濃度を算出した。
<塗工液の作製>
次いで、上記複合粒子の分散液と、熱硬化性樹脂として前記重合体Fに該当する、ゼッフルGK-570(ダイキン工業株式会社)と、硬化剤(イソシアネート化合物)としてスミジュールN3300(住化コベストロウレタン株式会社)と、酢酸ブチルとを混合して、被膜形成用組成物を塗工液として得た。この被膜形成用組成物中、(分散液中の複合粒子の質量):(ゼッフルGK-570(固形分換算)及びスミジュールN3300の総質量)=50:50となるように配合した。尚、ゼッフルGK-570は、固形分換算の質量で組成比率を計算した。
<塗膜の作製>
上記塗工液に、アルミニウム基材[75×75×3(t)mm]を浸漬し、130℃で20分間熱処理を施した。その後、塗工液からアルミニウム基材を取り出し、このアルミニウム基材に対してさらに塗工液をスプレー法により吹き付け、次いで、130℃で60分熱処理を施すことで、アルミニウム基材上に目的の被膜を形成させた。
【0118】
(実施例2)
ゼッフルGK-570の代わりに、テトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を使用し、基材をポリカーボネート基材(以下、PC基材と称することもある。)以外は、実施例1と同様の手法で、塗膜を作製した。
【0119】
(実施例3)
平均粒子径が12nmのシリカ微粒子を平均粒径2.7μmのサイリシア310P(富士シリシア化学製)に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で複合粒子の分散液を調製し、また、アルミニウム基材をポリカーボネート(PC)基材に変更すると共に熱処理を10分に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で被膜を形成した。
【0120】
(実施例4)
無機微粒子として平均粒径が2.7μmのサイリシア310P(富士シリシア化学製)を27質量部と、第1の重合体として、特許第5831599の調製例2に記載の含フッ素共重合体(以下、第1の重合体Aと称することもある。)3質量部と、塗料成分として熱硬化性樹脂としてテトラフルオロエチレンと水酸基含有ビニルモノマーの共重合体を57質量部(固形分換算)と、硬化剤としてスミジュール N-3300を13質量部とを含む被膜形成用組成物を、バイアルに準備した。上記被膜形成用組成物をスプレー法によってPC基材に塗布した後、このポリカーボネート基材を130℃で10分間処理することで、被膜を形成した。
【0121】
(実施例5)
<撥水性成分Bの調製>
四つ口フラスコに、ステアリルアクリレート(以下、StAと記載する。)35g(0.1mol)、キシレン90gを入れ、30分間、窒素バブリングした。その後、90℃に昇温し、0.085gのAIBN(ステアリルアクリレートに対して0.5mol%)を入れ、反応開始した。反応開始から2時間後に追加で0.085gのAIBNを入れ、4時間反応させた。最初のAIBN投入から6時間後に反応溶液を300mLのアセトンに投入し、再沈殿操作を行い、沈殿物を130℃、2時間で乾燥させることで、ワックス性状の物質(以下、第1の重合体Bと称することもある。)を得た。
<塗膜の調製>
第1の重合体Aを第1の重合体Bに変更した以外は、実施例4と同様の手法にて塗膜を調製した。
【0122】
(比較例1)
市販のHIREC100(NTTアドバンステクノロジーズ社製)を用いてアルミニウム基材[75×75×3(t)mm]に塗膜を作製した。
【0123】
(比較例2)
実施例1で使用したアルミニウム基材を何らの処理をせずに準備した。
【0124】
(比較例3)
PC基材を準備した。
【0125】
(被膜の評価)
<水の接触角(静的接触角)>
水の接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」用いた。具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定を行った。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とした。ここで、転落角が0°とは、ニードルから20μLの液滴を基材に着弾させることができない、もしくは着弾させることができても測定前もしくは測定時0°から1°の間で液滴が転落し、今回用いた機器では測定できないことを意味する。
<着雪試験>
1~2℃の範囲で恒温に保った試験室内の試験台に、着雪面が地面に対して鉛直になるように評価サンプル(被膜)を設置し、該サンプルに対し、風速10m/sec、衝突量110kg/m2/hの条件下で、予め作製した人工雪を吹きつけた。この吹きつけは、サンプル(被膜)表面に人口雪が衝突するようにした。この吹きつけ開始時から、サンプルの吹き付け面全面を動画撮影して試験終了後に得られた映像から被膜表面の着雪の有無を目視で確認し、吹きつけ開始から着雪までの時間を着雪開始時間(つまり、無着雪時間)とした。
【0126】
【0127】
表1には、水の静的接触角(水20μL)及び着雪開始時間の結果を示している。実施例1で形成された被膜及び比較例1で形成された被膜はいずれも超撥水状態を示した。
【0128】
着雪試験について、比較例2では試験開始直後に着雪が確認された。これに対し、実施例1で形成された被膜は人口雪の吹きつけから60分経過しても被膜への着雪は確認されず、従来の被膜(比較例1)よりも格段に優れた着雪防止性能を有していることがわかった(なお、実施例1の被膜においても、試験開始30分程度で短時間において僅かに着雪することもあるが、すぐに落雪が確認された)。