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特許7236055ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体、その製造方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 226/04 20060101AFI20230302BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C08F226/04
C08F220/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019138852
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021020
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 俊平
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-115675(JP,A)
【文献】特開2014-040585(JP,A)
【文献】特開2018-104850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00;301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する構成単位(I)少なくとも1種
【化1】

【化2】

(但し、上記式(Ia)及び(Ib)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。)、並びに
下記の構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)少なくとも1種、
【化3】

(但し、上記式(IIa)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。)、
を有し、構成単位(I)の占める割合が、0.1~50モル%であり、構成単位(II)の占める割合が、99.9~50モル%である、高分子化合物。
【請求項2】
構成単位(I)が、下記の構造式(Ia’)、若しくは(Ib’)で示される構造を有する付加塩である、請求項1に記載の高分子化合物。
【化4】

【化5】

(但し、上記式(Ia’)、及び(Ib’)中、Rは、式(Ia)及び(Ib)において定義されるものと同様であり、R’は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、RとR’とは、同一であっても異なっていてもよく、Xはカウンターイオンである。)、
【請求項3】
重量平均分子量が、10000以上である、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
下記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)少なくとも1種、
【化8】


(但し、上記式(III)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。)、並びに、
下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)少なくとも1種、
【化9】

(但し、上記式(IV)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。)、
を共重合する工程を有し、請求項1に記載の高分子化合物を製造する、高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
上記工程に供する、単量体(1)と単量体(2)とのモル割合が、0.1:99.9~90:10の範囲内である、請求項に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
上記工程が、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン及びトルエン、からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で実施される、請求項又はに記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
上記工程が、あらかじめ単量体(1)を溶解させた有機溶媒中に単量体(2)を滴下することにより実施される、請求項からのいずれか一項に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の高分子化合物を含んでなる、コーティング材、接着剤、粘着剤、表面改質剤、レジスト、染料固着剤、インク定着剤、顔料分散剤、凝集剤、抗菌剤、殺菌剤、紙力増強剤、腐食抑制剤、めっき光沢剤又は光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な共重合体に関し、より具体的には、金属、樹脂等の基材に対する密着性と、耐熱性等の諸性能とのバランスに優れ、必要に応じてカチオン性等を付与することによって特定の用途に好適に用いることもできる、ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリルアミン類から導かれる構成単位を有する、いわゆるジアリルアミン系(共)重合体は、水溶液中で簡便に合成できることから工業的に広く製造され、ガラス、繊維、紙、金属、樹脂等、各種基材の表面改質等の用途で使用されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、金属や樹脂等の基材に対する密着性が、用途との関係で必ずしも十分ではない場合があり、これらの基材に対する密着性の一層の向上が求められている。また、耐熱性等の他の諸性能についても、一層高い性能が求められるに至っていた。
【0003】
一方、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル等のジアリルエーテル系化合物から導かれる(共)重合体も、耐熱性、基材への密着性に優れることが報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、これらの(共)重合体であっても、アルミニウム、ステンレス等の金属基材や、一部の樹脂基材への密着性が必ずしも十分ではなく、これらの基材に対する密着性の向上が求められていた。また、一部用途との関係で、カチオン性等を付与しうる様な、設計上の自由度の向上も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-115675号公報
【文献】特開2014-040585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の背景技術に鑑み、本発明は、金属、樹脂等の基材に対する密着性と、耐熱性等の諸性能とのバランスに優れた、新規な共重合体を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の構造を有するジアリルアミン系構成単位と、特定の構造を有するジアリルエーテル系構成単位とを組み合わせることで、金属、樹脂等の各種基材に対する密着性と、耐熱性等の諸性能とが、高いレベルで両立した共重合体を実現することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本願第1発明は、
[1]
下記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する構成単位(I)少なくとも1種
【化1】

【化2】

(但し、上記式(Ia)及び(Ib)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。)、並びに
下記の構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)少なくとも1種、
【化3】

(但し、上記式(IIa)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。)、
を有する、高分子化合物、である。
【0007】
以下、[2]及び[3]は、それぞれ本願第1発明の好ましい態様又は実施形態である。
[2]
構成単位(I)の占める割合が、0.1~50モル%であり、構成単位(II)の占める割合が、99.9~50モル%である、[1]に記載の高分子化合物。
[3]
構成単位(I)が、下記の構造式(Ia’)、若しくは(Ib’)で示される構造を有する付加塩である、[1]又は[2]に記載の高分子化合物。
【化4】

【化5】

(但し、上記式(Ia’)、及び(Ib’)中、Rは、式(Ia)及び(Ib)において定義されるものと同様であり、R’は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、RとR’とは、同一であっても異なっていてもよく、Xはカウンターイオンである。)、
【0008】
本願第2発明は、
[4]
下記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)から導かれる構成単位(i)少なくとも1種、
【化6】


(但し、上記式(III)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。)、並びに、
下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)から導かれる構成単位(ii)少なくとも1種、
【化7】

(但し、上記式(IV)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。)、
を有する、高分子化合物、である。
【0009】
以下、[5]は本願第2発明の好ましい態様又は実施形態であり、[6]は、本願第1及び第2発明の好ましい態様又は実施形態である。
[5]
構成単位(i)の占める割合が、0.1~50モル%であり、構成単位(ii)の占める割合が、99.9~50モル%である、[4]に記載の高分子化合物。
[6]
重量平均分子量が、10000以上である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の高分子化合物。
【0010】
本願第3発明は、
[7]
下記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)少なくとも1種、
【化8】


(但し、上記式(III)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。)、並びに、
下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)少なくとも1種、
【化9】


(但し、上記式(IV)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。)、
を共重合する工程を有する、高分子化合物の製造方法である。
【0011】
以下、[8]から[10]は、それぞれ本願第3発明の好ましい態様又は実施形態であり、[11]は、本願第1及び第2発明の好ましい態様又は実施形態である。
[8]
上記工程に供する、単量体(1)と単量体(2)とのモル割合が、0.1:99.9~90:10の範囲内である、[7]に記載の高分子化合物の製造方法。
[9]
上記工程が、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン及びトルエン、からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で実施される、[7]又は[8]に記載の高分子化合物の製造方法。
[10]
上記工程が、あらかじめ単量体(1)を溶解させた有機溶媒中に単量体(2)を滴下することにより実施される、[7]から[9]のいずれか一項に記載の高分子化合物の製造方法。
[11]
[1]から[6]のいずれか一項に記載の高分子化合物を含んでなる、コーティング材、接着剤、粘着剤、表面改質剤、レジスト、染料固着剤、インク定着剤、顔料分散剤、凝集剤、抗菌剤、殺菌剤、紙力増強剤、腐食抑制剤、めっき光沢剤又は光学材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属、樹脂等の各種基材に対する密着性と、耐熱性等の諸性能とが、高いレベルで両立した、新規なジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体が実現される。
また、本発明の製造方法によれば、新規なジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体を高効率かつ高品質で製造することができる製造方法が提供される。
更に本発明の一態様によれば、その様な新規なジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の優れた特性を活かした各種用途が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願第1発明
本願第1発明の共重合体は、下記の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する構成単位(I)少なくとも1種、並びに下記の構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)少なくとも1種、を有する、高分子化合物である。
【化10】

【化11】

上記式(Ia)及び(Ib)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。
【化12】

上記式(IIa)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。
【0014】
構成単位(I)
本願第1発明の高分子化合物の一部を構成する構成単位(I)(以下、「ジアリルアミン系構成単位(I)」ともいう。)は、上記式の構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する。
本願第1発明の高分子化合物は、構成単位(I)を有することで、各種基板に対する優れた密着性を有するとともに、必要又は所望に応じて、カチオン性やシリカスケール抑制効果を具備することが容易である。
【0015】
本願第1発明の高分子化合物においてジアリルアミン系構成単位(I)が全構成単位中に占める割合は、0.1~50モル%であることが好ましく、0.5~30モル%であることがより好ましく、1~20モル%であることが特に好ましい。構成単位(I)の占める割合が上記範囲にあることによって、各種基板に対する優れた密着性、カチオン性、シリカスケール抑制効果等を実現することが一層容易となる。
本願第1発明の高分子化合物においてジアリルアミン系構成単位(I)の占める割合は、元素分析により、例えば高分子化合物の燃焼ガスを陰イオンクロマトグラフィーで分析することで測定することが可能であり、よる具体的には例えば本願明細書の実施例記載の方法によって測定することができる。
また、実用的な共重合体の製造プロセスにおいては、ある程度製造条件が確立されたならば、逐一共重合体の組成を分析しなくとも、出発原料中のモノマー組成から、構成単位(I)の占める割合をかなりの精度で推定することができる。
【0016】
本願第1発明の高分子化合物において構成単位(I)の占める割合は、出発原料中のモノマー組成を調整することで、適宜増減することが可能である。また、モノマー同士を接触させる順序等の重合条件を変更することでも、適宜調整することが可能である。
【0017】
上述のように、構成単位(I)の一形態を表す構造式(Ia)及び(Ib)において、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。
【化13】

【化14】

ここで、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その好ましい例としては、水酸基を有していてもよい炭素数1から4のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基などを、さらにはシクロヘキシル基などを挙げることができる。また、炭素数7から10のアラルキル基の好ましい例としては、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0018】
また、前記構造式(Ia)、若しくは(Ib)で示される構造の付加塩若しくは第4級アンモニウム塩としては、下記の構造式(Ia’)、若しくは(Ib’)で示される構造を有するものが好ましい。
【化15】

【化16】

上記式(Ia’)、及び(Ib’)中、Rは、式(Ia)及び(Ib)において上記にて定義したものと同様であり、R’は、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、RとR’とは、同一であっても異なっていてもよく、Xはカウンターイオンである。
カウンターイオンは一価のアニオンであればよく、その種類は特に限定されないが、有機酸又は無機酸由来のアニオンであることが好ましく、特に好ましくは、ハロゲンイオン(さらに好ましくは、Cl、Br、若しくはI)、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、又は酢酸イオンである。
【0019】
好ましい付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、リン酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられ、中でもアミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩などが、溶媒への溶解性の観点から好ましい。
好ましい第四級アンモニウム塩としては、例えばN,N-ジメチルアンモニウムクロリド、N,N-ジエチルアンモニウムクロリド、N,N-ジプロピルアンモニウムクロリド、N,N-ジブチルアンモニウムクロリド、N,N-メチルベンジルアンモニウムクロリド、N,N-エチルベンジルアンモニウムクロリド、およびこれらのクロリド類に対応するブロミド類、ヨージド類、メチルサルフェート類などが挙げられ、中でもN,N-ジメチルアンモニウムクロリド、N,N-ジエチルアンモニウムクロリドなどが、溶媒への溶解性の観点から好ましい。
【0020】
本願第1発明の高分子化合物は、ジアリルアミン系構成単位(I)を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上のジアリルアミン系構成単位(I)を有していてもよい。2種類以上の構成単位(I)を有する場合、一般式(構造式)(Ia)、(Ib)、(Ia’)、及び(Ib’)のうち同一の一般式で表される2種類以上の構成単位(I)を組み合わせてもよいし、異なる一般式で表される2種類以上の構成単位(I)を組み合わせてもよい。
2種類以上の構成単位(I)を有する場合、それぞれ異なる単量体から導かれたものであってもよいし、同一の単量体から導かれたものであってもよい。後者については、例えば、同一のジアルリエーテル単量体(1)から、構造式(Ia)で表される構成単位、及び構造式(Ib)で表される構成単位がともに生ずる場合があり、その割合は重合条件等によって適宜調整することが可能である。また付加塩を付加し、あるいは変更する際に、構成単位(I)の一部についてのみ付加あるいは変更が行われることで、2種類以上の構成単位(I)が生ずることもある。
【0021】
構成単位(II)
本願第1発明の高分子化合物の一部を構成する構成単位(II)(以下、「ジアリルエーテル系構成単位(II)」ともいう。)は、下記の構造式(IIa)で示される構造を有する。
ジアリルエーテル系構成単位(II)を特徴づける下記の構造式(IIa)で示される構造は、主鎖に環構造(テトラヒドロフラン環)を有するので、本願第1発明の高分子化合物に優れた耐熱性を付与することができ、また、テトラヒドロフラン環の両隣にメチレン基を有するものであることから、本願第1発明の高分子化合物に優れた柔軟性を付与することができる。
【化17】

上記式(IIa)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。炭素数1から4の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよく、エーテル結合を含んでいてもよい。
【0022】
上記炭素数1から4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、ビニルオキシエチル基、エポキシ基、オキセタニル基などが挙げることができるが、これらには限定されない。
【0023】
前記置換基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、などの鎖状不飽和炭化水素基;エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基などの環状エーテル基;メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基などのアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基などのアルキルチオ基;アセチル基、プロピオニル基などのアシル基;アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのアシルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチルチオカルボニル基、エチルチオカルボニル基などのアルキルチオカルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;ウレイド基;アミド基;シアノ基;水酸基;トリメチルシリル基などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0024】
これらのRの選択肢のなかでは、ジアリルエーテル系構成単位(II)を導く単量体(2)を工業的に有利に製造するとともに、単量体(2)の粘度を低下させ、希釈性を向上させる観点から、炭素数が1から4の鎖状飽和炭化水素基、炭素数が1から4の鎖状不飽和炭化水素基および炭素数が1から4のエーテル結合を有する炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、グリシジル基およびビニルオキシエチル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの炭素数が1から4の鎖状飽和炭化水素基がさらに好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基およびtert-ブチル基がさらに一層好ましく、メチル基およびエチル基が特に好ましい。
【0025】
本願第1発明の高分子化合物においてジアリルエーテル系構成単位(II)が全構成単位中に占める割合は、99.9~50モル%であることが好ましく、99.5~70モル%であることがより好ましく、99~80モル%であることが特に好ましい。構成単位(II)の占める割合が上記範囲にあることによって、各種基板に対する優れた密着性、や高い耐熱性等を実現することが一層容易となる。
本願第1発明の高分子化合物においてジアリルエーテル系構成単位(II)の占める割合は、例えば高分子化合物の燃焼ガスを陰イオンクロマトグラフィーで分析することで測定することが可能であり、より具体的には例えば本願明細書の実施例記載の方法によって測定することができる。
また、実用的な共重合体の製造プロセスにおいては、ある程度製造条件が確立されたならば、逐一共重合体の組成を分析しなくとも、出発原料中のモノマー組成から、構成単位(II)の占める割合をかなりの精度で推定することができる。
本願第1発明の高分子化合物において構成単位(II)の占める割合は、出発原料中のモノマー組成を調整することで、適宜増減することが可能である。また、モノマー同士を接触させる順序等の重合条件を変更することでも、適宜調整することが可能である。
【0026】
本願第1発明の高分子化合物は、ジアリルエーテル系構成単位(II)を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上のジアリルエーテル系構成単位(II)を有していてもよい。
【0027】
それ以外の構成単位
本願第1発明の高分子化合物は、ジアリルアミン系構成単位(I)及びジアリルエーテル系構成単位(II)のみで構成されていてもよいし、構成単位(I)及び構成単位(II)以外の構成単位を有していてもよい。
構成単位(I)及び構成単位(II)以外の構成単位は特に限定されず、例えば従来よりジアリルアミン系単量体と組み合わせて用いられていた単量体から導かれる構成単位や、従来よりジアリルエーテル系単量体と組み合わせて用いられていた単量体から導かれる構成単位、を適宜使用することができる。
前者の例として、二酸化硫黄;各種アリルスルホン酸;アクリルアミド等の各種アミド;不飽和カルボン酸、不飽和ジカルボン酸等の各種アニオン性単量体;等から導かれる構成単位を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0028】
後者の例として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、ビニル安息香酸等の不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和多価カルボン酸類;コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)等の不飽和基とカルボキシル基の間が鎖延長されている不飽和モノカルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物類;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド等のN置換マレイミド類;ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム等の重合体分子鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー類;1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルモルフォリン、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物類;(メタ)アクリル酸イソシアナトエチル、アリルイソシアネート等の不飽和イソシアネート類等から導かれる構成単位が挙げられるが、これらには限定されない。
これらの中でも、マレイン酸、アクリル酸、及びアクリルアミドが、特に好ましく用いられる。
【0029】
上述のように、本願第1発明の本発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体においては、構成単位(I)の占める割合が、0.1~50モル%であり、構成単位(II)の占める割合が、99.9~50モル%であることが好ましい。
構成単位(I)の占める割合が0.5~30モル%であり、構成単位(II)の占める割合が99.5~70モル%であることがより好ましく、構成単位(I)の占める割合が1~20モル%であり、構成単位(II)の占める割合が99~80モル%であることが特に好ましい。
ジアリルアミン系構成単位(I)とジアリルエーテル系構成単位(II)との比率については、ジアリルエーテル系構成単位(II)/ジアリルアミン系構成単位(I)のモル比が、2.3~200.0であることが好ましく、4.0~100.0であることが特に好ましい。
【0030】
ジアリルエーテル系単量体は、ジアリルアミン系単量体と比較して、一般に高いラジカル重合性を示すため、従来、両者を共重合しようとしても、ジアリルエーテル系単量体のみで重合が進行し、ジアリルエーテル系構成単位(II)のみの単独重合体が得られていた。この観点から、本発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は新規な重合体であり、特にジアリルエーテル系構成単位(II)/ジアリルアミン系構成単位(I)のモル比が、2.3~200.0である本実施形態のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、従来技術からの予測を超えた共重合体である。
なお、本願第1発明においては、ジアリルエーテル系構成単位(II)/ジアリルアミン系構成単位(I)のモル比は、上記の好ましい範囲に限定されるものではなく、ジアリルエーテル系構成単位(II)とジアリルアミン系構成単位(I)とを、所望の共重合組成で有することができる。
【0031】
本願第1発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の分子量には特に制限は無く、要求される物性や用途との関係で適宜好適な分子量の共重合体を重合すればよい。
好ましくは、本願第1発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000以上であり、より好ましくは5000~500000、特に好ましくは10000~100000である。
ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の分子量は、溶離液に溶解可能である場合には、GPC法により測定することができ、より具体的には例えば本願実施例に記載の方法によって重量平均分子量(Mw)を測定することができる。
本願第1発明の共重合体の分子量は、必須及び任意単量体の種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0032】
本願第1発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、上述の様に、ジアリルアミン系構成単位(I)及びジアリルエーテル系構成単位(II)を有していればよく、それ以外の構成単位を有していてもよく、またそれ以外の構成単位を有さなくともよい。
ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の全構成単位に占める、ジアリルアミン系構成単位(I)及びジアリルエーテル系構成単位(II)の割合には特に制限は無いが、25~100モル%であることが好ましく、50~100モル%であることがより好ましい。
ジアリルアミン系構成単位(I)及びジアリルエーテル系構成単位(II)の割合が上記範囲内にあることで、これら構成単位に基づく、密着性、耐熱性、凝集性、分散性、溶媒への溶解性等の好ましい特性を、一層容易に実現することができる。
ジアリルアミン系構成単位(I)及びジアリルエーテル系構成単位(II)の割合をはじめとする、ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の組成は、重合条件、とりわけ重合にあたり供給されるモノマーの組成によって、適宜調整することができる。
【0033】
本願第2発明
本願第2発明の共重合体は、下記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)から導かれる構成単位(i)少なくとも1種、並びに、
下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)から導かれる構成単位(ii)少なくとも1種、を有する、高分子化合物である。
【化18】

上記式(III)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。
【化19】

上記式(IV)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。
【0034】
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、上記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)から導かれる構成単位(i)(以下、「ジアリルアミン系構成単位(i)」ともいう。)少なくとも1種、並びに、下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)から導かれる構成単位(ii)(以下、「ジアリルエーテル系構成単位(ii)」ともいう。)少なくとも1種、を有する、高分子化合物である。すなわち本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、ジアリルアミン系構成単位(i)と、ジアリルエーテル系構成単位(ii)とを有していればよく、それ以外の構成単位を有していてもよく、またそれ以外の構成単位を有さなくともよい。
【0035】
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体においては、構成単位(i)の占める割合が、0.1~50モル%であり、構成単位(ii)の占める割合が、99.9~50モル%であることが好ましい。構成単位(i)の占める割合が0.5~30モル%であり、構成単位(ii)の占める割合が99.5~70モル%であることがより好ましく、構成単位(i)の占める割合が1~20モル%であり、構成単位(ii)の占める割合が99~80モル%であることが特に好ましい。
ジアリルアミン系構成単位(i)とジアリルエーテル系構成単位(ii)との比率については、ジアリルエーテル系構成単位(ii)/ジアリルアミン系構成単位(i)のモル比が、2.3~200.0であることが好ましく、4.0~100.0であることが特に好ましい。
【0036】
ジアリルエーテル系単量体は、ジアリルアミン系単量体と比較して、一般に高いラジカル重合性を示すため、従来、ジアリルエーテル系単量体のみで重合が進行し、ジアリルエーテル系構成単位(ii)のみの単独重合体が得られていた。この観点から、本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体も新規な重合体であり、特にジアリルエーテル系構成単位(ii)/ジアリルアミン系構成単位(i)のモル比が、2.3~200.0である本実施形態のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、従来技術からの予測を超えた共重合体である。
なお、本願第2発明においては、ジアリルエーテル系構成単位(ii)/ジアリルアミン系構成単位(i)のモル比は、上記の好ましい範囲に限定されるものではなく、ジアリルエーテル系構成単位(ii)と、ジアリルアミン系構成単位(i)とを、所望の共重合組成で有することができる。
【0037】
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の全構成単位に占める、ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルエーテル系構成単位(ii)の割合は、元素分析により、例えば共重合体の燃焼ガスを陰イオンクロマトグラフィーで分析することで測定することが可能であり、より具体的には例えば本願明細書の実施例記載の方法によって測定することができる。
【0038】
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の分子量には特に制限は無く、要求される物性や用途との関係で適宜好適な分子量の共重合体を重合すればよい。
好ましくは、本発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000以上であり、より好ましくは5000~500000、特に好ましくは10000~100000である。
ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の分子量は、溶離液に溶解可能である場合には、GPC法により測定することができ、より具体的には例えば本願実施例に記載の方法によって重量平均分子量(Mw)を測定することができる。
【0039】
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルエーテル系構成単位(ii)を有していればよく、それ以外の構成単位を有していてもよく、またそれ以外の構成単位を有さなくともよい。
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体に占める、ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルエーテル系構成単位(ii)の割合には特に制限は無いが、25~100モル%であることが好ましく、50~100モル%であることがより好ましい。
ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルエーテル系構成単位(ii)の割合が上記範囲内にあることで、これら構成単位に基づく、密着性、耐熱性、凝集性、分散性、溶媒への溶解性等の好ましい特性を、一層容易に実現することができる。
ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルエーテル系構成単位(ii)の割合をはじめとする、ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の組成は、重合条件、とりわけ重合にあたり供給されるモノマーの組成によって、適宜調整することができる。
【0040】
ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルアミン系単量体(1)
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の必須構成単位であるジアリルアミン系構成単位(i)は、下記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)(以下、「ジアリルアミン系単量体」ともいう。)から導かれるものである。
【化20】

上記式(III)中、Rは、既述の構造式(Ia)及び(Ib)におけるものと同様であり、より具体的には、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。これらの中でRとして好ましい基も、既述の構造式(Ia)及び(Ib)におけるRについて説明したものと同様である。また、構造式(III)で示される構造の付加塩若しくは第4級アンモニウム塩として好ましいものも、上記の構造式(Ia)及び(Ib)で示される構造の付加塩及び第4級アンモニウム塩に関して説明したものと同様である。
【0041】
ジアリルアミン系構成単位(i)を導くにあたっては、ジアリルアミン系単量体(1)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。1種類のみのジアリルアミン系単量体(1)を用いることは、コストや、重合工程の制御の容易さの点で有利であることが多く、2種類以上を組み合わせて用いることは、共重合体に所望の性質を付与する点で有利であることが多い。
【0042】
ジアリルエーテル系構成単位(ii)及びジアリルエーテル系単量体(2)
本願第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の必須構成単位であるジアリルエーテル系構成単位(ii)は、下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)(以下、「ジアリルエーテル系単量体」ともいう。)から導かれるものである。
【化21】

上記式(IV)中、Rは、既述の構造式(IIa)におけるものと同様であり、より具体的には、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。この中でRとして好ましい基も、既述の構造式(IIa)におけるRについて説明したものと同様である。
【0043】
ジアリルエーテル系構成単位(ii)を導くにあたっては、ジアリルエーテル系単量体(2)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。1種類のみのジアリルエーテル系単量体(2)を用いることは、コストや、重合工程の制御の容易さの点で有利であることが多く、2種類以上を組み合わせて用いることは、共重合体に所望の性質を付与する点で有利であることが多い。
【0044】
なお、重合条件によっては、上記ジアリルエーテル系単量体(2)から導かれる構成単位(ii)は、前述の構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)のみならず、下記の構造式(IIb)で示される構造を有する構成単位を含む場合がある。
【0045】


上記式(IV)中、Rは、既述の構造式(IIa)におけるものと同様であり、より具体的には、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。この中でRとして好ましい基も、既述の構造式(IIa)におけるRについて説明したものと同様である。
【0046】
この場合において、ジアリルエーテル系単量体(2)から導かれる構成単位(ii)全体に占める、構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)の割合は、70モル%以上であることが好ましく、90モル%~100モル%であることが好ましい。構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)の割合が70モル%以上であることによって、テトラヒドロフラン環に起因する優れた耐熱性を実現することが容易になり、また構図式(IIb)で示される構造に起因する分岐構造による、架橋やゲル化を効果的に抑制することができる。
ジアリルエーテル系構成単位(ii)全体に占める構造式(IIa)で示される構造を有する構成単位(II)の割合は、重合条件、特に特定の連鎖移動剤を使用することによって、適宜調整することができる。
【0047】
それ以外の構成単位
本願第2発明の共重合体を構成し得る、ジアリルアミン系構成単位(i)及びジアリルエーテル系構成単位(ii)以外の構成単位は、本願第1発明について説明したものと同様であり、その好ましい例等も、本願第1発明について説明したものと同様である。
【0048】
ジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の製造方法
本発明(本願第1発明及び第2発明)のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の製造方法には特に制限は無いが、本願第3発明の製造方法により製造することが好ましく、より具体的には、下記の構造式(III)で示される構造、又はその付加塩、若しくは第4級アンモニウム塩である構造、を有する単量体(1)(以下、「ジアリルアミン系単量体(1)」ともいう。)少なくとも1種、
【化22】


(但し、上記式(III)中、Rは、水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。)、並びに、
下記の構造式(IV)で示される構造を有する単量体(2)(以下、「ジアリルエーテル系単量体(2)」ともいう。)少なくとも1種、
【化23】

(但し、上記式(IV)中、Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1から4の炭化水素基である。)、を共重合する工程を有する製造方法により製造されることが好ましい。
【0049】
上記の製造方法において、共重合工程に供給されるジアリルアミン系単量体(1)とジアリルエーテル系単量体(2)との割合には特に限定はなく、目的とするジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の組成、及び単量体(1)及び単量体(2)の重合のし易さなどを考慮して、適宜割合を設定することができる。例えば、未反応の単量体が低減されるよう対策したうえで、目的とするジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の組成とほぼ同じ割合で単量体(1)と単量体(2)とを供給してもよく、具体的には、例えば単量体(1)と単量体(2)とのモル割合が0.1:99.9~50:50の範囲内となる様、単量体(1)と単量体(2)とを供給することができる。上記モル割合は、0.5:99.5~30:70であることが好ましく、1:99~20:80であることがより好ましい。
また、一般にジアリルエーテル系単量体(2)は、ジアリルアミン系単量体(1)よりも、重合反応が進行し易い傾向があるので、目的とするジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体の組成よりも、ジアリルエーテル系単量体(2)の割合を低く設定し、ジアリルアミン系単量体(1)の割合を高く設定して、供給してもよい。この場合、ジアリルアミン系単量体(1)とジアリルエーテル系単量体(2)とのモル割合が70:30~90:10の範囲内であることが好ましく、80:20~90:10の範囲内であることがより好ましい。
【0050】
反応の均一性などの観点から、ジアリルアミン系単量体(1)と、ジアリルエーテル系単量体(2)とを共重合する工程は、溶媒中で実施することが好ましい。
上記実施形態の共重合工程で使用される溶媒には特に限定は無く、極性溶媒であっても非極性溶媒であってもよいが、極性溶媒であることが好ましい。
極性溶媒としては、例えば水、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸など)またはその水溶液、無機酸の金属塩(塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)の水溶液、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸など)またはその水溶液、あるいは極性有機溶媒(アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエンなど)等を挙げることができるが、これらの中でも極性有機溶媒が好ましい。特に好ましくは、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン及びトルエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の極性有機溶媒を使用することできる。
ジアリルエーテル系単量体(2)に対する溶解性が高く、また得られるジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体をもよく溶解させることから、ジメチルホルムアミドを用いることが特に好ましい。
これらの溶媒は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて(混合して)使用してもよい。
【0051】
未反応の単量体が低減されるような対策として、あらかじめジアリルアミン系単量体(1)を溶解させた有機溶媒中にジアリルエーテル系単量体(2)を滴下することにより、単量体(1)と(2)とを共重合する工程を実施することができる。この様な共重合工程を採用することで、重合性の異なるジアリルアミン系単量体(1)と、ジアリルエーテル系単量体(2)とを、収率良く、また未反応の単量体が低減しながら、共重合することができる。これにより、所期の組成、重合度を有するジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体を、実用的な効率、コストで製造することが一層容易となる。
滴下にあたっては、ジアリルエーテル系単量体(2)も、予め溶媒に溶解してもよい。
【0052】
あらかじめジアリルアミン系単量体(1)を溶解させた有機溶媒中にジアリルエーテル系単量体(2)を滴下する工程を有することで上記の有利な効果が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、より重合性の高いジアリルエーテル系単量体(2)を、より重合性の低いジアリルアミン系単量体(1)の溶液中に順次滴下することで、より重合性の低いジアリルアミン系単量体(1)が常に大過剰となる条件を維持したまま重合を行なうことができることと、何らかの関連があるものと推定される。
【0053】
ジアリルアミン系単量体(1)と、ジアリルエーテル系単量体(2)とを共重合する工程を実施する温度には、特に制限はないが、50~120℃の温度範囲内で実施することが好ましく、70~90℃の温度範囲内で実施することが特に好ましい。その際の圧力にも特に制限はないが、コスト等を考慮すると大気圧又はその近傍で実施することが好ましい。
【0054】
ジアリルアミン系単量体(1)と、ジアリルエーテル系単量体(2)とを共重合する工程においては、共重合反応を促進するために重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤の種類には特に制限はなく、例えば一般に用いられるラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質等によってラジカルを生成して重合性単量体の付加重合を起こさせるもので、水溶性または水分散性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等がある。中でも水溶性または水分散性のアゾビス化合物が好ましく、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピレンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチルなどを好適に使用することができる。
ジアリルアミン系単量体(1)と、ジアリルエーテル系単量体(2)とを共重合する工程を実施する時間には特に制限はないが、生産性等の観点から、24時間以下となるよう条件設定することが好ましく、8~12時間であることが特に好ましい。また、あらかじめジアリルアミン系単量体(1)を溶解させた有機溶媒中にジアリルエーテル系単量体(2)を滴下する場合には、ジアリルアミン系単量体(1)の大過剰を維持し、安定して重合反応を行なう等の観点から、1~4時間にわたって滴下を行なうことが好ましく、2~3時間にわたって滴下することが特に好ましい。
【0055】
共重合工程における溶媒中のジアリルアミン系単量体(1)の濃度、及びジアリルエーテル系単量体(2)の濃度には特に制限はないが、安定的かつ均一な共重合を行なうなどの観点からは、一定値以下の濃度であることが好ましく、重合効率のなどの観点からは、一定値以上の濃度であることが好ましい。より具体的には、ジアリルアミン系単量体(1)の濃度は、1.0×10-4~.5.0×10-3mol/gであることが好ましく、1.0×10-4~1.0×10-3mol/gであることが特に好ましい。滴下溶液中のジアリルエーテル系単量体(2)の濃度は、5.0×10-5~5.0×10-3mol/gであることが好ましく、1.0×10-3~2.0×10-3mol/gであることが特に好ましい。
重合開始剤の使用量にも特に制限はないが、水溶性または水分散性のアゾビス化合物を重合開始剤として用いる場合には、ジアリルアミン系単量体(1)、及びジアリルエーテル系単量体(2)の合計に対して0.01~10mol%用いることが好ましく、0.5~2.0mol%用いることが特に好ましい。
【0056】
本願第3発明の製造方法によって得られるジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、本願第1発明又は第2発明に該当するものであることが好ましいが、これらには限定されない。本願第1発明又は第2発明に該当する場合の当該共重合体の好ましい形態は、本願第1発明又は第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体について説明したものと同様である。したがって、本願第3発明の製造方法によって得られるジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体中のジアリルアミン系構成単位(I)の占める割合は5~50モル%であることが好ましく、ジアリルエーテル系構成単位(II)の占める割合は95~50モル%であることが好ましい。好ましい分子量、固有粘度などについても、本願第1及び第2発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体について、上記にて説明したものと同様である。
【0057】
用途等
本願第1及び第2発明の共重合体は、ジアリルアミン系重合体が有する優れた性質と、ジアリルエーテル系重合体が有する優れた性質とを、高いレベルでバランスさせ、あるいは適宜選択的に発現させることができるので、従来ジアリルアミン系(共)重合体又はジアリルエーテル系(共)重合体が用いられてきた用途に好適に使用することが可能である。
具体的には、コーティング材、接着剤、粘着剤、表面改質剤、紙処理剤、染色助剤、染色固着剤、光学材料等情報記録材料、光ファイバー用材料、カラーフィルターレジスト、ソルダーレジスト、めっきレジスト、絶縁体、封止剤、インクジェットインク、印刷インク、塗料、注型材料、化粧版、WPC、被覆剤、感光性樹脂板、ドライフィルム、ライニング剤、土木建築材料、パテ、補修材、床材、舗装材ゲルコート、オーバーコート、ハンドレイアップ・スプレーアップ、引抜成形・フィラメントワインディング・SMC・BMC等の成形材料、高分子固体電解質等を例示することが出来るが、これらには限定されない。
上述のように本願第1及び第2発明の共重合体は金属、樹脂等の各種基材に対する密着性と、耐熱性等の諸性能とを、高いレベルで両立させることができるので、特に好ましい用途として、コーティング材、接着剤、粘着剤、表面改質剤、レジスト、及び光学材料を挙げることができる。
また、本願第1及び第2発明の共重合体には、所望に応じてカチオン性や、シリカスケール抑制性能を付与することができるので、染料固着剤、インク定着剤、シリカスケール抑制剤、顔料分散剤、凝集剤等の用途においても、特に好適に使用することができる。
また、抗菌剤、殺菌剤、めっき液、めっき光沢剤、腐食抑制、紙力増強剤等の用途にも、好適に使用することができる。
【0058】
本願第1及び第2発明の共重合体を上記各種用途等において使用するにあたっては、用途に応じて、共重合体の製造の際に使用した溶媒を除去してから使用してもよいし、溶媒とともに使用してもよい。
更に、本発明の目的及び用途の目的に反し無い限りにおいて、各種の添加剤1種または2種以上を適宜添加してもよい。その様な添加剤の例として、他の樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、充填材、粘着付与剤、着色剤、顔料、染料、導電材、抗菌剤、殺菌剤、めっき液、腐食抑制剤等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【実施例
【0059】
以下、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例により限定されるものではない。
【0060】
以下の実施例/比較例において、簡便のため以下の略語を使用する場合がある。
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド
MeAMA:2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル
DAMA-SA:ジアリルメチルアミンスルファミン酸塩
DAA-SA:ジアリルアミンスルファミン酸塩
DMF:ジメチルホルムアミド
DAMA-HCl:メチルジアリルアミン塩酸塩
DAA-HCl:ジアリルアミン塩酸塩
【0061】
以下の実施例/比較例において、物性、特性の評価、測定は、以下の方法で行った。
(重量平均分子量)
重量平均分子量(M.W.)は、日立L-2130型高速液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法によって測定した。
溶離液流路ポンプは日立L-2130、検出器は日立L-2490形示差屈折率検出器、カラムはshodex GPS K-805L(排除限界分子量400万)を2本直列に接続したものを用いた。サンプルを溶離液で0.5g/100mLの濃度に調製し、20μLを測定に用いた。溶離液には、ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を使用した。
カラム温度:40℃で、流速:1.0 mL/minで、測定を実施した。標準物質として、分子量10200、18100、37900、96400、427000などのポリスチレンを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に共重合体の重量平均分子量(M.W.)を求めた。
(重合収率)
GPC法により得られたピーク面積比により求めた。
(共重合体組成)
各実施例/比較例で得られた共重合体溶液をDMFを用いて5wt%に希釈し、燃焼装置付き陰イオンクロマトグラフィーDionex ICS-1000(ThermoFisher製)による陰イオン分析を実施し、その結果からジアリルアミン類とMeAMAとのモル比を算出した。
(耐熱性)
各実施例/比較例で得られた(共)重合体溶液を24時間真空乾燥させ、各(共)重合体の固形物を得た。得られた固形物を示差熱天秤Thermo plus 8120(株式会社リガク製)を用いて、昇温速度5℃/minで、窒素雰囲気下での重量減少と吸発熱を測定した。得られた測定データにおいて、最初に観測された吸熱ピークのピークトップに達した際の温度を耐熱性の指標である熱分解温度とした。
(密着性)
各実施例/比較例で得られた(共)重合体溶液を(共)重合体濃度が5wt%となるようにテトラヒドロフラン(THF)にて希釈し、アルミニウム試験板[TP技研株式会社製、表3中の記号:AL]にバーコーダー(No.8)で塗布した後、70℃で30分間乾燥させることで、塗膜を得た。次に前記で得られた塗膜のアルミニウム試験板に対する密着性をJIS K5600-5-6(クロスカット法)に準拠して調べた。なお、密着性を調べる際のマス目は、縦10マス×横10マスの合計100マスで行い、100マスの中で剥がれまたは破損が生じず残存しているマス目の数に基づいて塗膜の上記アルミニウム試験板に対する密着性を評価した。
さらに、アルミニウム試験板の代わりに、ステンレス試験板[TP技研株式会社製、表3中の記号:SUS]、ABS樹脂試験板[(株)スタンダードテストピース製、表3中の記号:ABS]、ポリカーボネート試験板[(株)スタンダードテストピース製、表3中の記号:PC]、シリコンウエハ[アズワン株式会社製、表3中の記号:SI]、及びエチレン酢酸ビニルポリマー試験板[(株)スタンダードテストピース製、表3中の記号:EVA]をそれぞれ用い、各試験板に対する密着性を同様にして評価した。
(カチオン性)
各実施例/比較例で得られた(共)重合体溶液を(共)重合体濃度が5wt%となるようにTHFにて希釈し、スライドガラス[松浪硝子工業株式会社製]にバーコーダー(No.8)で塗布した後、70℃で30分間乾燥させることで、塗膜を得た。この塗膜付き基材をアニオン染料溶液(クマシーブリリアントブルーR-250:0.2g、酢酸:20g、メタノール:180g)中に室温条件下で30分間浸漬し、メタノールで洗浄後乾燥させた。乾燥後の塗膜表面の染色度合いを目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:塗布面全体が染料で染まる。
△:塗布面一部が染料で染まる。
×:塗布面がほとんど染料で染まらない。
(シリカスケール抑制効果)
純水に無水メタケイ酸ナトリウムをシリカ濃度として400ppmとなるように添加し、それらを分取した後にスケール抑制剤として実施例/比較例で合成した(共)重合体を固形分濃度として50ppmとなるように添加したものを試験水とした。各試験水に塩酸または水酸化ナトリウムを添加して、pHが7.4~7.6となるように調整した後、24時間後の試験水を採取し、孔径0.45μmのフィルタでろ過したろ液中のイオン状シリカ濃度を測定し、イオン状シリカ保持率を下記式により求めた。イオン状シリカ濃度は分光光度計UH5300(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を使用し、珪モリブデン酸法で測定した。
【数1】
【0062】
実施例1(DADMAC:MeAMA=1:8、滴下重合)
攪拌機、温度計、冷却管を取り付けた300mLのセパラブルフラスコにDMF 6.06gとジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC) 0.038molを仕込んだ。また、200mLの梨型フラスコにて2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(MeAMA) 0.300mol、DMF 117.13gと開始剤V-601(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル) 1.55g(対モノマー 2mol%相当)を氷冷下で混合した。セパラブルフラスコ内の内温を70℃に加温し、梨型フラスコ内の溶液を滴下することで重合を開始した。梨型フラスコ内の溶液は2時間30分かけて滴下した。24時間後に重合反応を終了させ、GPC収率100%,M.W.:13337の白濁粘性溶液状の共重合体を得た。
得られた共重合体について、共重合組成、耐熱性、密着性、カチオン性、及びシリカスケール抑制効果を評価した結果を、表1から5にそれぞれ示す。
【0063】
実施例2(DAMA-SA:MeAMA=1:8、滴下重合)
攪拌機、温度計、冷却管を取り付けた300mLのセパラブルフラスコにDMF 6.06gとジアリルメチルアミンスルファミン酸塩(DAMA-SA) 0.038molを仕込んだ。また、200mLの梨型フラスコにてMeAMA 0.300mol、DMF 117.13gと開始剤V-601 1.55g(対モノマー 2mol%相当)を氷冷下で混合した。セパラブルフラスコ内の内温を70℃に加温し、梨型フラスコ内の溶液を滴下することで重合を開始した。梨型フラスコ内の溶液は2時間30分かけて滴下した。24時間後に重合反応を終了させ、GPC収率100%,M.W.:14481の赤褐色溶液状の共重合体を得た。
得られた共重合体について、共重合組成、耐熱性、密着性、及びカチオン性を評価した結果を、表1から4にそれぞれ示す。
【0064】
実施例3(DAA-SA:MeAMA=1:8、滴下重合)
攪拌機、温度計、冷却管を取り付けた300mLのセパラブルフラスコにDMF 6.06gとジアリルアミンスルファミン酸塩(DAA-SA) 0.038molを仕込んだ。また、200mLの梨型フラスコにてMeAMA 0.300mol、DMF 117.13gと開始剤V-601 1.55g(対モノマー 2mol%相当)を氷冷下で混合した。セパラブルフラスコ内の内温を70℃に加温し、梨型フラスコ内の溶液を滴下することで重合を開始した。梨型フラスコ内の溶液は2時間30分かけて滴下した。24時間後に重合反応を終了させ、GPC収率100%,M.W.:15463の赤褐色溶液状の共重合体を得た。
得られた共重合体について、共重合組成、耐熱性、密着性、及びカチオン性を評価した結果を、表1から4にそれぞれ示す。
【0065】
実施例4(DADMAC:MeAMA=1:8、一括重合)
20mLの試験管にDMF 12.69g、MeAMA 0.008molとDADMAC 0.001molを仕込んだ。試験管内の内温を50℃に加温し、開始剤V-601 0.04g(対モノマー 2mol%相当)を添加した。24時間後に重合反応を終了させ、GPC収率95.78%,M.W.:27952の無色透明溶液状の共重合体を得た。
得られた共重合体について、共重合組成、耐熱性、及び密着性を評価した結果を、表1から3にそれぞれ示す。
【0066】
実施例5(DAMA-SA:MeAMA=1:8、一括重合)
20mLの試験管にDMF 13.02g、MeAMA 0.008molとDAMA-SA 0.001molを仕込んだ。試験管内の内温を50℃に加温し、開始剤V-601 0.04g(対モノマー 2mol%相当)を添加した。24時間後に重合反応を終了させ、M.W.:48621の黄色溶液状の共重合体を得た。
ポリマーピークとDAMA-SAモノマーピークが重なっていたため、GPC収率を算出することはできなかった。
【0067】
実施例6(DAA-SA:MeAMA=1:8、一括重合)
20mLの試験管にDMF 12.90g、MeAMA 0.008molとDAA-SA 0.001molを仕込んだ。試験管内の内温を50℃に加温し、開始剤V-601 0.04g(対モノマー 2mol%相当)を添加した。24時間後に重合反応を終了させ、M.W.:29710の淡黄色溶液状の共重合体を得た。
ポリマーピークとDAA-SAモノマーピークが重なっていたため、GPC収率を算出することはできなかった。
【0068】
比較例1(MeAMA、単独重合体)
20mLの試験管にDMF 7.27g、MeAMA 0.02molを仕込んだ。試験管内の内温を50℃に加温し、開始剤V-601 0.06g(対モノマー 2wt%相当)を添加した。24時間後に重合反応を終了させ、GPC収率100%,M.W.:37521の無色透明溶液状の共重合体を得た。
得られた重合体について、耐熱性、密着性、カチオン性、及びシリカスケール抑制効果を評価した結果を、表2から5にそれぞれ示す。
【0069】
参考例1~3(ジアリルアミン系単独重合体)
参考例1から3として、ニットーボーメディカル株式会社から市販されているジアリルアミン系単独重合体PAS-H-5L(DADMAC単独重合体)、PAS-M-1(DAMA-HCl単独重合体)、及びPAS-21Cl(DAA-HCl単独重合体)の耐熱性を評価した結果を、表2に示す。
参考例1(DADMAC単独重合体)については、シリカスケール抑制効果も評価した。結果を、表5に示す。
【0070】
【表1】

あらかじめをDADMAC溶解させたDMF中に、MeAMAを滴下した実施例1における共重合体組成は、一括重合を行なった実施例4と比較して、供給したDADMAC:MeAMA組成により近く、より均一な組成の共重合体が得られたことを示す。同様に滴下重合を行なった実施例2及び3の共重合体組成も、一括重合を行なった実施例5及び6と比較して、より均一な組成の共重合体が得られた。
【0071】
【表2】

各実施例で得られた共重合体は、各参考例のジアリルアミン系単独重合体と比較して著しく高い分解温度を有し、比較例1のMeAMA単独重合体とほぼ同等のレベルにまで、耐熱性が大幅に向上していた。
【0072】
【表3】

各実施例で得られた共重合体を用いた塗膜は、各種の金属、樹脂基材に対して、高い密着性を示した。特に、比較例1に示す様に従来のMeAMA単独重合体では必ずしも十分な密着性を実現することができなかったアルミニウム基材やステンレス基材に対しても、高い密着性を確実に実現することができた。
【0073】
【表4】

実施例1及び2の共重合体を用いた塗膜は、それぞれアニオン染料で染色が可能な染色性を有し、高いカチオン性を有していた。すなわち実施例1及び2に相当する実施形態の共重合体は、高いカチオン性を発現させることが可能であり、例えば染色性と耐熱性とを従来技術では実現し得なかったような高いレベルで両立させることができる。
【0074】
【表5】


実施例1の共重合体を用いたスケール抑制剤は、参考例1のDADMAC単一重合体を用いたスケール抑制剤と同等のシリカスケール抑制効果を示し、比較例1の単一重合体を用いたスケール抑制剤よりも格段に優れたシリカスケール抑制効果を有していた。すなわち、実施例1に相当する実施形態の共重合体は、例えばシリカスケール抑制効果と耐熱性とを、従来技術では実現し得なかったような高いレベルで両立させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体は、樹脂等の各種基材に対する密着性と、耐熱性等の諸性能とが、高いレベルで両立しており、また本発明の製造方法によれば、優れた性質を有するジアリルアミン系/ジアリルエーテル系共重合体を高効率かつ高品質で製造することができるので、本発明は、コーティング材、接着剤、粘着剤、表面改質剤、レジスト等の各種用途において好適に使用され、情報技術産業や自動車産業、日用品の製造等の産業の各分野において、高い利用価値、利用可能性を有する。