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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】ミストジェット装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 17/00 20060101AFI20230302BHJP
   B05B 12/36 20180101ALI20230302BHJP
   B05B 15/60 20180101ALI20230302BHJP
   B05B 13/02 20060101ALI20230302BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20230302BHJP
   E01D 22/00 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
B05B17/00
B05B12/36
B05B15/60
B05B13/02
B08B3/02 D
E01D22/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018212328
(22)【出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2020078770
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】518004185
【氏名又は名称】株式会社サーフェステクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】510181909
【氏名又は名称】株式会社久野製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 健康
(72)【発明者】
【氏名】久野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 一広
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 明
(72)【発明者】
【氏名】深谷 卓央
(72)【発明者】
【氏名】牛越 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敏行
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-116438(JP,A)
【文献】特開2005-254156(JP,A)
【文献】特開昭62-206101(JP,A)
【文献】登録実用新案第3044559(JP,U)
【文献】特開2018-062049(JP,A)
【文献】実開平01-090822(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-3/18
7/00-9/08
12/00-17/08
E01D 1/00-24/00
B08B 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象面に沿って移動する走行手段と、
前記処理対象面と平行で、かつ、前記走行手段の進行方向と交差する方向に揺動する移動ノズルヘッドと、
前記移動ノズルヘッドを覆う飛散防止カバーと、
前記飛散防止カバー内に設けられた固定ノズルヘッドと、
前記飛散防止カバーの内側空間に連通された吸引手段と、を備えるミストジェット装置であって、
前記飛散防止カバーは、前記走行手段とともに移動し、
前記移動ノズルヘッドは、前記処理対象面に対して垂直な回転軸を中心に回転し、
前記移動ノズルヘッドには、前記処理対象面に高圧水を噴射するノズルが前記移動ノズルヘッドの中心からずれた位置に設けられていて、
前記固定ノズルヘッドは、前記移動ノズルヘッドの移動範囲の端部近傍において前記飛散防止カバーに固定されているとともに、前記処理対象面と交差する直線と平行な回転軸を中心に回転し、
前記固定ノズルヘッドには、前記処理対象面に高圧水を噴射するノズルが前記固定ノズルヘッドの中心からずれた位置に設けられていることを特徴とする、ミストジェット装置。
【請求項2】
前記飛散防止カバー内に、同期揺動する複数の前記移動ノズルヘッドを備えていることを特徴とする、請求項1に記載のミストジェット装置。
【請求項3】
前記移動ノズルヘッドは、複数のノズルを備えていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のミストジェット装置。
【請求項4】
前記飛散防止カバーは、前記走行手段に対して進退可能であることを特徴とする、請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のミストジェット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミストジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の表面処理方法として、ミストジェット(必要最低限の水量を使用したウォータージェット)を構造物の表面に吹き付ける方法が知られている。例えば、鋼製の補強材により表面が被われた壁高欄では、長期間使用することにより補強材の表面に生じた錆をミストジェットにより除去する場合がある。また、建物の外壁等では、劣化した塗装等の除去や、コンクリート構造物のレイタンス処理等にミストジェットを使用する場合もある。
【0003】
ミストジェットによる構造物の表面処理は、先端に噴射ノズルが設けられたウォータージェットガンまたはウォータージェットランスを作業員が操作することにより、高圧水を処理対象面に吹き付けるのが一般的である。ところが、ウォータージェットガンやウォータージェットランスを使用する工法では、処理対象面に吹き付けられた高圧水が、剥離物とともに周囲に飛散してしまうため、周囲の清掃作業に手間がかかる。
【0004】
そのため、特許文献1には、工具本体と、工具本体に回転可能に設けられた二つの回転ノズル本体と、この二つの回転ノズル本体を取り囲むシール部材と、工具本体に形成された吸引口とを備える工具が開示されている。特許文献1の工具によれば、回転ノズル本体の周囲にシール部材が設けられているため、水の飛散を防止できる。二つの回転ノズル本体は、中心部から放射状に延設されたロータアームと、ロータアームに設置された複数のノズルとを備えている。二つの回転ノズル本体の間では、各回転ノズル本体のロータアームが重複して通過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-517422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の工具を利用した表面処理工法は、二つの回転ノズル本体同士の間と、それ以外の部分において、高圧水の噴射量が異なるため、表面処理にムラが生じてしまう。また、特許文献1の工具は、二つの回転ノズル本体の位置に対応する範囲しか高圧水が噴射されないため、処理対象面の面積が大きい場合には、工具を上下左右に移動させる必要があった。
【0007】
このような観点から、本発明は、広範囲の処理対象面に対して、効率よく、かつ、むらなく、なおかつ、周囲に排水を飛散させることなく表面処理を行うことができるミストジェット装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明は、処理対象面に沿って移動する走行手段と、前記処理対象面と平行で、かつ、前記走行手段の進行方向と交差する方向に揺動する移動ノズルヘッドと、前記移動ノズルヘッドを覆う飛散防止カバーと、前記飛散防止カバー内に設けられた固定ノズルヘッドと、前記飛散防止カバーの内側空間に連通された吸引手段とを備えるミストジェット装置である。前記飛散防止カバーは前記走行手段とともに移動し、前記移動ノズルヘッドは前記処理対象面に対して垂直な回転軸を中心に回転し、前記移動ノズルヘッドには前記処理対象面に高圧水を噴射するノズルが前記移動ノズルヘッドの中心からずれた位置に設けられている。前記固定ノズルヘッドは、前記移動ノズルヘッドの移動範囲の端部近傍において前記飛散防止カバーに固定されているとともに、前記処理対象面と交差する直線と平行な回転軸を中心に回転し、前記固定ノズルヘッドには、前記処理対象面に高圧水を噴射するノズルが前記固定ノズルヘッドの中心からずれた位置に設けられている。
【0009】
本発明のミストジェット装置によれば、移動ノズルヘッドが処理対象面に対して揺動(往復動)するため、広範囲の表面処理を効率的かつムラなく行うことができる。また、飛散防止カバーにより周囲に排水などが飛散することを防止できる。
【0010】
なお、前記ミストジェット装置は、前記飛散防止カバー内に、同期揺動する複数の前記移動ノズルヘッドを備えているのが望ましい。かかるミストジェット装置によれば、広範囲に対して、より効率的に表面処理を行うことができる。
【0011】
前記ミストジェット装置は、移動ノズルヘッドの移動範囲の端部に対して、固定ノズルヘッドから噴射された高圧水による集中的な表面処理が可能となる。
【0012】
また、前記移動ノズルヘッドは、複数の前記ノズルを備えているのが望ましい。かかるミストジェット装置によれば、回転する移動ノズルヘッドによって面的に高圧水を噴射することができるため、表面処理をより効率的に実行できる。
【0013】
なお、前記飛散防止カバーは、前記走行手段に対して進退可能であれば、処理対象面に対するミストジェット装置の据え付け作業がより簡易となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のミストジェット装置によれば、広範囲の処理対象面に対して、効率よく、かつ、むらなく、なおかつ、周囲に排水を飛散させることなく表面処理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るジェットミスト装置の概要を示す図であって、(a)は塗装装置の進行方向後側から望む側面図、(b)は平面図である。
図2】飛散防止カバーの内部を示す正面図である。
図3】走行手段を示す側面図である。
図4】移動ノズルヘッドのノズルの概要を示す説明図である。
図5】吸引手段を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態では、供用中の道路に設けられた既設の壁高欄10に対して必要最低限の水量の高圧水(ミストジェット)を吹き付けて、劣化した塗膜や錆等を除去する表面処理工事について説明する。壁高欄10の表面処理は、図1(a)および(b)に示すように、壁高欄10の延長方向に沿って移動するミストジェット装置1を利用して行う。
【0017】
ミストジェット装置1は、図1および図2に示すように、走行手段2と、飛散防止カバー3と、移動ノズルヘッド4と、固定ノズルヘッド5と、吸引手段6とを備えている。ミストジェット装置1は、壁高欄10の延長方向に沿って一定の速度で移動しながら、壁高欄10の表面(処理対象面11)にミストジェットを吹き付ける。
【0018】
走行手段2は、壁高欄10の道路側において、処理対象面(壁高欄10の表面)に沿って移動する。走行手段2は、移動ノズルヘッド4および固定ノズルヘッド5から壁高欄10に向けて噴射されたミストジェットの圧力によってブレない重量を有している必要がある。図3に示すように、本実施形態では、走行手段2としてハンドガイド式の締固め機を使用する。走行手段2は、前後に配設された円柱状のローラー21,21が回動する。走行手段2は、壁高欄10に沿って、一定の速度で走行するように調整されており、走行手段2と並走するオペレーターがハンドル22を操作することで進行方向等の微調整(ブレ等の調整)を行う。なお、走行手段2を構成する機械は限定されるものではない。
【0019】
図1(a)に示すように、走行手段2の一方の側面(壁高欄10側の側面)には、飛散防止カバー3が取り付けられている。飛散防止カバー3は、走行手段2から側方に延設されたシリンダー23の先端に取り付けられている。シリンダー23は、伸縮可能である。すなわち、飛散防止カバー3は、シリンダー23により走行手段2に対して進退可能である。シリンダー23の基端は走行手段2の側面に取り付けられており、シリンダー23の先端は飛散防止カバー3の背面に固定されている。シリンダー23と走行手段2との取付部およびシリンダー23と飛散防止カバー3との取付部は、いずれも走行手段2の進行方向と平行な横軸を中心に回動可能である。
【0020】
本実施形態では、シリンダー23の中間部から走行手段2の側面に延びる補助シリンダー24を備えている。補助シリンダー24は、シリンダー23の下側に設けられている。補助シリンダー24を伸縮させることで、飛散防止カバー3が上下動する。本実施形態では、シリンダー23としてエアシリンダー、補助シリンダー24として油圧シリンダーを使用するが、シリンダー23および補助シリンダー24のシリンダータイプは限定されるものではない。
【0021】
飛散防止カバー3は、図1(a)に示すように、走行手段2と、壁高欄10(処理対象面)との間に設けられている。シリンダー23を介して走行手段2に連結されていることで、飛散防止カバー3は、走行手段2とともに壁高欄10に沿って移動する。なお、飛散防止カバー3の走行手段2への取り付け方法は限定されるものではない。例えば、走行手段2に固定された鋼材を介して飛散防止カバー3を固定してもよいし、走行手段2がアームを有している場合には当該アームの先端に飛散防止カバー3を取り付けてもよい。
【0022】
飛散防止カバー3は、鋼板からなり、壁高欄10(処理対象面)側が開口した箱型に形成されている。飛散防止カバー3の形状および飛散防止カバー3を構成する材料は限定されるものではない。図2に示すように、飛散防止カバー3の内空中央部には、移動ノズルヘッド4を保持するレール部材43が固定されているとともに、レール部材43の上下端側方にそれぞれ固定ノズルヘッド5が固定されている。すなわち、飛散防止カバー3は、移動ノズルヘッド4および固定ノズルヘッド5を覆っている。飛散防止カバー3には、必要に応じてL形鋼等からなる補強部材を添設する。
【0023】
飛散防止カバー3の開口部の周縁(処理対象面側の端部)には、止水手段31が設置されている。止水手段31の構成は限定されるものではないが、本実施形態では、外側に設けられたブラシ32と、ブラシ32の内周面に沿って設けられたゴム板33とにより構成されている。ゴム板33には、複数の切れ目が設けられている。なお、止水手段31は、ブラシ32およびゴム板33の両方を備えている必要はなく、いずれか一方のみであってもよい。また、ゴム板33には、切れ目が入っていないものを使用してもよい。また、止水手段31は、飛散防止カバー3の全周にわたって設けていなくてもよい。
【0024】
図1(a)および(b)に示すように、飛散防止カバー3には、壁高欄10の表面(処理対象面)に沿って走行する車輪34が飛散防止カバー3の進行方向前後にそれぞれ設けられている。車輪34が壁高欄10の表面(本実施係タオでは側面)を走行することで、飛散防止カバー3(移動ノズルヘッド4および固定ノズルヘッド5)と壁高欄10との距離が一定に保たれる。なお、車輪34は、必要に応じて設ければよい。また、車輪34の数および配置は限定されるものではない。
【0025】
移動ノズルヘッド4は、飛散防止カバー3内に配置されていて、処理対象面(壁高欄10の表面)に対してミストジェットを吹き付ける。図2に示すように、移動ノズルヘッド4には、処理対象面に高圧水(必要最低限の水量を使用したウォータージェット)を噴射するためのノズル41が移動ノズルヘッド4の中心からずれた位置に設けられている。本実施形態の各移動ノズルヘッド4には、四つのノズル41,41,…が設けられている。四つのノズル41,41,…は、移動ノズルヘッド4の周方向に等間隔に配設されている。なお、一つの移動ノズルヘッド4に設けられるノズル41の数は限定されるものではなく、一つでもよいし、二つ以上であってもよい。また、ノズル41の配置も限定されるものではなく、適宜設定すればよい。ノズル41は、処理対象面に対して垂直(移動ノズルヘッド4の回転軸と平行)に高圧水を噴射する。
【0026】
ノズル41は、飛散防止カバー3を処理対象面11の表面にセットした状態で、処理対象面に形成された突起物(例えばボルトやナット等)12に接触することがないように、処理対象面11に対して所定の距離を確保できるように設けられている。また、四つのノズル41,41,…は、図4に示すように、移動ノズルヘッド4内に配管されたミスト供給管42に接続されている。ミスト供給管42は、移動ノズルヘッド4内において分岐された分岐管である。ミスト供給管42は、分岐後の管路42aが、ミストジェット(高圧水)の噴射方向に対して平行である。ここで、分岐後の管路42aの距離が長い方がミストジェットの処理対象面11への衝突エネルギーが大きくなる。本実施形態では、分岐後の管路42aの距離を最大限確保できる距離とした。なお、管路42aの距離は限定されるものではない。
【0027】
移動ノズルヘッド4は、処理対象面に対して垂直な回転軸を中心に回転可能である。本実施形態では、移動ノズルヘッド4の中央に回転軸を設けている。なお、移動ノズルヘッド4は、中央からずれた位置に設けられた回転軸を中心に回転してもよい。また、移動ノズルヘッド4は、上下方向に所定の距離にて往復移動(揺動)可能に設けられている。なお、移動ノズルヘッド4が往復移動する方向は、処理対象面と平行で、かつ、走行手段2の進行方向と交差する方向であれば限定されるものではなく、ミストジェットを吹き付ける部材の形状等に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
本実施形態のミストジェット装置1は、図2に示すように、三つの移動ノズルヘッド4,4,4を備えている。三つの移動ノズルヘッド4,4,4は、上下に並設されていて、各移動ノズルヘッド4の中心は、同一直線上にある。なお、ミストジェット装置1が有する移動ノズルヘッド4の数は三つに限定されるものではなく、一つでもよいし、二つまたは四つ以上であってもよい。また、複数の移動ノズルヘッド4は、必ずしも上下に並設されている必要はなく、各移動ノズルヘッド4の配置は適宜決定すればよい。
【0029】
移動ノズルヘッド4は、同期して上下移動(同期揺動)する。上下に並設された移動ノズルヘッド4,4,4は、上下に方向に延設されたレール部材43に保持されているとともに、このレール部材43に沿って上下移動する。さらに、移動ノズルヘッド4の設置方法は限定されるものではなく、必ずしもレール部材43によって保持する必要はない。
【0030】
三つの移動ノズルヘッド4,4,4には、無端状のベルト44が巻き付けられている。移動ノズルヘッド4は、ベルト44を介して回転力が付与される。すなわち、三つの移動ノズルヘッド4,4,4は、同時に回転する。移動ノズルヘッド4は、飛散防止カバー3の上部に設けられた動力供給手段35から供給された動力により、上下方向の往復動を行う。また、移動ノズルヘッド4は、図示しない送水ホースを介して貯水タンクに接続されており、貯水タンクから供給された水をノズル41から噴射する。
【0031】
固定ノズルヘッド5は、飛散防止カバー3内に配置されていて、処理対象面に対してミストジェットを吹き付ける。図2に示すように、固定ノズルヘッド5は、移動ノズルヘッド4の移動範囲の端部近傍に設けられている。本実施形態では、レール部材43の上端部および下端部の側方に、それぞれ固定ノズルヘッド5が固定されている。すなわち、本実施形態のミストジェット装置1においては、二つの固定ノズルヘッド5が飛散防止カバー3内に設けられている。
【0032】
固定ノズルヘッド5には、処理対象面に高圧水を噴射する二つのノズル51,51が、固定ノズルヘッド5の中心を挟んで対向する位置に配設されている。なお、固定ノズルヘッド5に設けられるノズル51の数および配置は限定されるものではなく、一つでもよいし、三つ以上であってもよい。また、ノズル51の配置も限定されるものではなく、適宜設定すればよい。固定ノズルヘッド5は、図示しない送水ホースを介して貯水タンクに接続されており、貯水タンクから供給された水をノズル51から噴射する。固定ノズルヘッド5は、高圧水の噴射に伴って回転する。
【0033】
下側に設けられた固定ノズルヘッド5(以下、「下固定ノズルヘッド5a」という)は、下向きに傾斜している。また、下固定ノズルヘッド5aは、処理対象面と交差する直線と平行な回転軸を中心に回転可能である。本実施形態では、下固定ノズルヘッド5aの中央に回転軸を設けている。なお、下固定ノズルヘッド5ab、中央からずれた位置に設けられた回転軸を中心に回転してもよい。下固定ノズルヘッド5aに設けられたノズル51は、回転軸と平行な方向にミストジェットを噴射する。すなわち、下固定ノズルヘッド5aに設けられたノズル51の噴射方向は、処理対象面に対して傾斜している。本実施形態では、最も下側に設けられた移動ノズルヘッド4によるミストジェットの噴射領域と、下固定ノズルヘッド5aによるミストジェットの噴射領域とが重なるように、下固定ノズルヘッド5aの噴射方向が設定されている。また、下固定ノズルヘッド5aは、飛散防止カバー3の外部にミストジェットが飛散することがないように、傾斜角度が設定されている。なお、飛散防止カバー3内には、固定ノズルヘッド5のミストジェットが外部に飛散することを防止するための、飛散防止板材が設けられていてもよい。
【0034】
上側に設けられた固定ノズルヘッド5(以下、「上固定ノズルヘッド5b」という)は、上向きに傾斜している。また、上固定ノズルヘッド5bは、処理対象面と交差する直線と平行な回転軸を中心に回転可能である。本実施形態では、上固定ノズルヘッド5bの中央に回転軸を設けている。なお、上固定ノズルヘッド5bは、中央からずれた位置に設けられた回転軸を中心に回転してもよい。上固定ノズルヘッド5bに設けられたノズル51は、回転軸と平行な方向にミストジェットを噴射する。すなわち、上固定ノズルヘッド5bに設けられたノズル51の噴射方向は、処理対象面に対して傾斜している。本実施形態では、最も上側に設けられた移動ノズルヘッド4によるミストジェットの噴射領域と、上固定ノズルヘッド5bによるミストジェットの噴射領域とが重なるように、上固定ノズルヘッド5bの噴射方向が設定されている。また、上固定ノズルヘッド5bは、飛散防止カバー3の外部にミストジェットが飛散することがないように、傾斜角度が設定されている。
【0035】
吸引手段6は、図1および図2に示すように、吸引ホース61と、吸引ホース61に接続された吸着フィルター(図示せず)と、吸着フィルターに接続された吸引ブロア(図示せず)とを備えている。吸引ホース61は、一端が吸引口62を介して飛散防止カバー3に接続されている。吸引ホース61は、吸引口62を介して、飛散防止カバー3の内側空間に連通されている。本実施形態では、飛散防止カバー3の上部中央と、下部の左右にそれぞれ吸引口62が形成されている。すなわち、飛散防止カバー3には、3本の吸引ホース61が接続されている。なお、吸引ホース61の本数および接続箇所は限定されるものではない。
【0036】
吸引口62は、図5に示すように、飛散防止カバー3の内側に開口している。吸引ブロアによる吸引力が低下することがないように、吸引口62の飛散防止カバー3内での開口面積を吸引ホース61の内空面積以下とする。すなわち、吸引ブロアの風量と、吸引ホース61による配管圧力損失等を考慮して、吸引力の低下が最小限となるように、吸引口62の形状が設定されている。
【0037】
吸引手段6は、飛散防止カバー3内のミストや浮遊物(壁高欄10から剥離させた塗装や錆等)を吸引する。すなわち、吸引ブロアを起動させると、吸引ホース61を介して、飛散防止カバー3内のミストとともに壁高欄10から剥離させた浮遊物等が吸引される。飛散防止カバー3内から回収した浮遊物等は、吸引ホース61を介して吸着フィルターに輸送された後、浮遊物が吸着フィルターに吸着される。
【0038】
ミストジェット装置1を利用した表面処理工法は、まず、ミストジェット装置1を処理対象面(壁高欄10)の前面に配置し、シリンダー23を伸縮させるとともに回動させることで、飛散防止カバー3を処理対象面に添設させる。このとき、飛散防止カバー3の止水手段31を処理対象面または処理対象面の周囲に当接させる。飛散防止カバー3を所定の位置にセットしたら、走行手段2を壁高欄10の延長方向に沿って一定の速度で移動させながら、ノズル41,51からミストジェットを噴射する。このとき、三つの移動ノズルヘッド4,4,4が上下に往復動しつつ回転しながらミストジェットを噴射することで、太い帯状の領域に対して表面処理が行われる。また、上下の固定ノズルヘッド5が、回転しながらミストジェットを噴射することで、移動ノズルヘッド4,4,4により表面処理が行われた領域の上端部および下端部の表面処理を行う。なお、走行手段2は、壁高欄10との離隔距離を一定の距離に維持したまま移動させる。
【0039】
以上、本実施形態のミストジェット装置1によれば、移動ノズルヘッド4が処理対象面11に対して上下に往復動(揺動)するため、広範囲の表面処理を効率的かつムラなく行うことができる。また、上下に並設された三つの移動ノズルヘッド4,4,4が同期して上下に往復移動するため、より効率的に表面処理を行うことができる。
【0040】
また、固定ノズルヘッド5が飛散防止カバー3内の上下に配設されているため、移動ノズルヘッド4の移動範囲の上端部および下端部に対しては固定ノズルヘッド5が集中的に表面処理を行うことができ、ひいては、広範囲の表面処理をムラなく実施することができる。
また、飛散防止カバー3が走行手段2に対して進退可能であるため、処理対象面に対するミストジェット装置1の据え付け作業が容易である。また、飛散防止カバー3は、上下動可能であるため、処理対象物(壁高欄10)の形状に応じて、適切な位置に飛散防止カバー3を配設することができる。
【0041】
また、回転する移動ノズルヘッド4および固定ノズルヘッド5の各々にノズル41,51が分散配置されているため、面的に高圧水を噴射することができ、その結果、表面処理をより効率的に実行できる。また、ノズル41,51は、処理対象面11から所定の間隔をあけて配置されているため、処理対象面11が突起物12を有していたとしても、接触することがない。
【0042】
また、飛散防止カバー3により周囲に排水などが飛散することを防止できる。飛散防止カバー3は、止水手段31を介して処理対象面11に接しているため、飛散防止カバー3と処理対象面11との隙間からミスト等が飛散することが防止されている。また、止水手段31は、ブラシ32およびゴム板33により構成されているため、処理対象面11に形成された突起物12に接触したとしても、止水手段31が変形する。そのため、突起物12を避ける必要がなく、作業を効率的に実行できる。
【0043】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は前述の実施形態に限られず、各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、壁高欄10に対してミストジェットを吹き付ける場合について説明したが、表面処理を行う構造物は限定されるものではなく、例えば、トンネル壁面、下部構造の側面、建物の外壁など、あらゆる構造物に適用可能である。
【0044】
前記実施形態では、走行手段2を手動で調整する場合について説明したが、走行手段2は、自動制御により駆動させてもよい。すなわち、走行手段2として、処理対象面11との距離を測定するセンサを備えた無人化機械を使用し、処理対象面11との距離を一定に保ったまま、一定の速度で移動するように制御してもよい。
また、ミストジェット装置1は、自動的にミストジェットの噴射や停止を制御するように構成されていてもよいし、遠隔操作可能であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ミストジェット装置
10 壁高欄(被塗装物)
11 処理対象面
2 走行手段
3 飛散防止カバー
31 止水手段
4 移動ノズルヘッド
41 ノズル
43 レール部材
44 ベルト
5 固定ノズルヘッド
51 ノズル
6 吸引手段
61 吸引ホース
図1
図2
図3
図4
図5