(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/101 20060101AFI20230302BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C04B35/101
F27D1/00 N
(21)【出願番号】P 2018232924
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000116105
【氏名又は名称】ロザイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【氏名又は名称】松岡 徹
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】弁理士法人ワンディ-IPパ-トナ-ズ
(72)【発明者】
【氏名】松原 周
(72)【発明者】
【氏名】森本 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】石塚 道雄
(72)【発明者】
【氏名】成世 直之
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-505275(JP,A)
【文献】特開2018-052776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/101
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
2O
3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl
2O
3-SiO
2系の耐火物を製造する、耐火物の製造方法であって、
Al
2O
3-SiO
2系の耐火物を焼成する焼成条件として、前記耐火物におけるFe
2O
3の含有量であるFe
2O
3量(質量%)、前記耐火物を焼成する際に昇温する目標温度である目標焼成温度T(℃)、及び、前記耐火物を前記目標焼成温度Tまで昇温させた後に前記耐火物の焼成を前記目標焼成温度Tで継続する場合の時間である継続焼成時間t(hr)、を決定する焼成条件決定ステップと、
前記焼成条件決定ステップで決定された前記Fe
2O
3量のFe
2O
3を含有する前記耐火物を用い、当該耐火物を前記目標焼成温度Tまで昇温させながら焼成する昇温焼成ステップと、
前記目標焼成温度Tまで昇温した前記耐火物を前記目標焼成温度Tで前記継続焼成時間tに亘って焼成する継続焼成ステップと、を含み、
前記焼成条件決定ステップでは、
1.2<Fe
2
O
3
量を満たすとともに、下記(2)式、(3)式、(4)式、及び(5)式をいずれも満たすように、前記Fe
2O
3量、前記目標焼成温度T、及び前記継続焼成時間tを決定し、
前記焼成条件決定ステップでは、下記(4)式で計算される焼成パラメータPと前記Fe
2O
3量とが下記(5)式を満たすように前記焼成条件が設定されることで、前記Fe
2O
3量が多い程、前記焼成パラメータPが大きくなるように、前記焼成条件が決定されることを特徴とする、耐火物の製造方法。
1250≦T≦1450・・・・(2)式
0≦t・・・・(3)式
P=0.0101×T+0.0913×t-12.3・・・・(4)式
P>0.992×Fe
2O
3量+0.080・・・・(5)式
【請求項2】
請求項1に記載の耐火物の製造方法であって、
前記焼成条件決定ステップでは、下記(1)式を満たすように前記Fe
2O
3量を決定し、次いで、前記(2)式、前記(3)式、前記(4)式、及び前記(5)式を満たすように、前記目標焼成温度T及び前記継続焼成時間tを決定することを特徴とする、耐火物の製造方法。
1.2<Fe
2O
3量≦2.5・・・・(1)式
【請求項3】
請求項2に記載の耐火物の製造方法であって、
前記焼成条件決定ステップでは、前記Fe
2O
3量を2.0%以上2.2%以下の値に決定し、次いで、前記(2)式、前記(3)式、前記(4)式、及び前記(5)式を満たすように、前記目標焼成温度T及び前記継続焼成時間tを決定することを特徴とする、耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al2O3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl2O3-SiO2系の耐火物を製造する耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入れ或いは浸炭焼入れ等の熱処理を行うための熱処理炉においては、炉の内張り等の構成材料として用いられて炉内の高温に耐え得る材料として、耐火物が用いられている。このような熱処理炉用の耐火物として、Al2O3及びSiO2を主成分とし、Al2O3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl2O3-SiO2系の耐火物がよく用いられている。
【0003】
Al2O3-SiO2系の耐火物は、Al2O3-SiO2系の耐火物原料を混合及び混練した後成形して更に焼成することで製造される。しかし、Al2O3-SiO2系の耐火物原料には、通常、不純物としてFe2O3が混入している。このため、この耐火物原料を使用して製造される耐火物においても、Fe2O3が含まれることになる。そして、Fe2O3の含有量(質量%)が多い耐火物原料を使用して製造された耐火物には、Fe2O3が多く含まれることになる。
【0004】
また、耐火物が構成材料として使用された熱処理炉において、焼入れ或いは浸炭焼入れ等の熱処理が行われる際には、熱処理中の炉内の雰囲気ガスとして、一酸化炭素等のような炭素成分を有するガスを含む雰囲気ガスが用いられる。そして、Fe2O3が多く含まれた耐火物が構成材料として使用された熱処理炉を用いて熱処理を行うと、雰囲気ガス中の炭素が耐火物中に沈積するカーボンデポジットが生じ易くなる。カーボンデポジットが生じて耐火物中に沈積する炭素の量が増大すると、炉の構成材料としての耐火物の形状が維持できなくなり、耐火物は崩壊することになる。従って、熱処理炉の耐火物の崩壊を防ぐためには、Fe2O3の含有量が極力少ない耐火物を使用する必要がある。このため、熱処理炉用の耐火物の製造においては、Fe2O3の含有量が極力少ない耐火物を製造するため、Fe2O3の含有量が極力少ない耐火物原料を使用して耐火物の製造が行われている。
【0005】
一方、熱処理炉において、Fe2O3の含有量が少ない耐火物を使用せずに、雰囲気ガス中の炭素が熱処理炉の耐火物中に沈積するカーボンデポジットが生じることを抑制する方法として、特許文献1に開示された方法が知られている。特許文献1に開示された方法では、熱処理炉用の構成材料として耐火物の表面にアルミナ或いはジルコニア等の材料を溶射して溶射被覆層を形成した材料が用いられる。これにより、耐火物が雰囲気ガスから遮断され、カーボンデポジットの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、熱処理中に熱処理炉の耐火物に炭素が沈積するカーボンデポジットの発生を抑制して耐火物の崩壊を防ぐ観点から、熱処理炉用の耐火物として、Fe2O3の含有量の極力少ない耐火物が用いられている。そして、熱処理炉用の耐火物の製造においては、Fe2O3の含有量の極力少ない耐火物を製造するため、Fe2O3の含有量の極力少ない耐火物原料を使用して耐火物の製造が行われている。しかしながら、一般的なAl2O3-SiO2系の耐火物原料には、通常、不純物としてのFe2O3が混入している。そのため、耐火物の製造の際、Fe2O3の含有量の少ない耐火物にするためには、Fe2O3の含有量の多い耐火物に対してFe2O3の含有量を低減する処理を施し、Fe2O3の含有量の極力少ない耐火物にする必要がある。例えば、Fe2O3の含有量の多い耐火物原料に対してFe2O3の含有量の少ない耐火物原料を添加材として多く添加することによって、耐火物原料中におけるFe2O3の含有量を低減する処理を施す必要がある。この場合、Fe2O3の含有量の低減処理のための添加材が多く必要となり、更に、Fe2O3の含有量の低減処理のための工程の増大も招くこととなり、耐火物の製造のコストの増大を招くことになる。
【0008】
また、特許文献1に開示されているように、熱処理炉用の構成材料として耐火物の表面にアルミナ或いはジルコニア等の材料を溶射して溶射被覆層を形成した材料を用いることにより、耐火物を雰囲気ガスから遮断し、カーボンデポジットの発生を抑制することができる。しかしながら、特許文献1に開示された方法によると、耐火物の表面にアルミナ或いはジルコニア等の材料を溶射して溶射被覆層を形成する被覆処理を行う必要がある。そして、耐火物の表面への被覆処理を行う場合は、能率を高めるために築炉後の溶射が推奨されており、炉内のような作業困難な場所での被覆作業となるため、熱処理炉用の構成材料として耐火物を用いるためのコストの増大を招くことになる。
【0009】
上記のように、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制しようとすると、耐火物の製造のためのコスト又は熱処理炉用の構成材料として耐火物を用いるためのコストの増大を招くことになる。即ち、Fe2O3の含有量の極力少ない耐火物原料を使用して耐火物の製造を行う必要があり、或いは、耐火物の表面への被覆処理を行う必要があり、コストの増大を招くことになる。従って、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造可能な耐火物の製造方法の実現においては、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用ることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要にできることが望ましい。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みることにより、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要にすることができ、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる、耐火物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる、耐火物の製造方法を提供するべく、種々の検討と実験を重ねて鋭意研究を行った結果、次の(a)~(d)に示す知見を得た。そして、本願発明者は、その知見に基づき、耐火物におけるFe2O3の含有量と耐火物の焼成条件とが特定の関係を満たすようにFe2O3の含有量及び耐火物の焼成条件を決定することで、耐火物の表面への被覆処理も不要であり、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いても、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
(a)従来は、熱処理中に熱処理炉の耐火物に炭素が沈積するカーボンデポジットの発生を抑制して耐火物の崩壊を防ぐ観点から、熱処理炉用の耐火物として、Fe2O3の含有量の極力少ない耐火物が用いられていた。一方で、従来は、耐火物の崩壊とFe2O3の含有量との関係も不明であった。そこで、本願発明者は、耐火物の焼成条件に関し、Fe2O3の含有量以外の条件を従来の熱処理炉用耐火物の製造方法と同じ条件とし、Fe2O3の含有量を種々変更して耐火物を焼成し、耐火物を製造した。そして、製造した耐火物を用いた熱処理炉において熱処理を行う際における耐火物の崩壊との関係を鋭意調査した。その結果、従来の焼成条件による耐火物の製造方法の場合、Fe2O3の含有量が1.2%以下だとカーボンデポジットの発生による耐火物の崩壊が生じず、1.2%を超えると、カーボンデポジットの発生による耐火物の崩壊が生じることが判明した。従って、Fe2O3の含有量が1.2%を超える耐火物原料を用いて製造した耐火物を使用した熱処理炉においてカーボンデポジットの発生を抑制できることが望ましいことが判明した。また、一方で、Fe2O3の含有量の低減処理が施されていない一般的な耐火物におけるFe2O3の含有量は、2.0%以上2.2%以下であり、最大でも2.5%である。よって、Fe2O3の含有量が1.2%より多くて2.5%以下の耐火物を使用した熱処理炉においてカーボンデポジットの発生を抑制することができれば、従来では用いることができなかったFe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができることになるという知見を得られた。
【0013】
(b)更に、本願発明者は、Fe2O3の含有量が1.2%を超えるとカーボンデポジットが発生する原因を鋭意研究した。その結果、Fe2O3の含有量が1.2%を超えた耐火物が使用された熱処理炉を用いて熱処理を行うと、耐火物中の酸化鉄成分が還元されて鉄分が触媒として作用し、雰囲気ガス中の炭素が耐火物中に沈積するカーボンデポジットが生じ易くなることが判明した。更に、Fe2O3の含有量が1.2%を超えた耐火物を用い、上記の従来の焼成条件で焼成を行うと、カーボンデポジットが生じ、耐火物中に沈積して含有される炭素の量が質量%で0.05%まで増大し、耐火物中の炭素の量が0.05%以上になると、炉の構成材料としての耐火物の形状が維持できなくなり、耐火物の崩壊を招くことが判明した。
【0014】
(c)上記の知見に基づき、Fe2O3の含有量が1.2%を超える耐火物を用いても、熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量が0.05%未満となる耐火物を焼成して生成することができる焼成条件について検討と実験を重ね、鋭意研究を行った。尚、耐火物を焼成するためには、少なくとも焼結が可能な温度である1250℃まで耐火物を昇温する必要がある。一方で、1450℃を超えて耐火物を昇温すると、焼成中に耐火物が軟化して形状を留めることができなくなる。そのため、上記の焼成条件については、耐火物を焼成する際に昇温する目標温度である目標焼成温度が、1250℃以上1450℃以下である必要があることを踏まえ、研究を行った。
【0015】
(d)上記のように、目標焼成温度が1250℃以上1450℃以下の範囲の条件で、Fe2O3の含有量が1.2%を超える耐火物を用いても、熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量が0.05%未満となる耐火物を焼成して生成することができる焼成条件について鋭意研究を行った。その結果、上記の温度範囲において目標焼成温度を高温化するほど、焼成後の耐火物における酸化鉄成分のみの残留量が少なく、Fe2O3がAl2O3及びSiO2と反応して不活性化することが判明した。更に、目標焼成温度まで昇温させた後にその温度で耐火物の焼成を継続する時間を長時間化するほど、Fe2O3をAl2O3及びSiO2と十分に反応させて不活性化することに比例的に寄与することが判明した。そして、熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量を0.05%未満にすることができる耐火物の焼成条件をFe2O3の含有量との関係で定量化できることが判明した。更に、Fe2O3の含有量が1.2%を大きく超えてFe2O3の含有量が2.5%以下の範囲で更に多くなった耐火物であっても、耐火物の表面への被覆処理も不要であり、熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量を0.05%未満にすることができる焼成条件をFe2O3の含有量との関係で定量化できることが判明した。具体的には、耐火物におけるFe2O3の含有量をFe2O3量(質量%)とし、耐火物の焼成時に昇温する目標焼成温度をT(℃)とし、昇温後に目標焼成温度Tで耐火物の焼成を継続する継続焼成時間をt(hr)として、下記(A)式及び(B)式を満たすように、Fe2O3量、目標焼成温度T、継続焼成時間tを決定して焼成を行うことで、熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量が0.05%未満となる耐火物を焼成して生成することができるという知見が得られた。
P=0.0101×T+0.0913×t-12.3・・・(A)式
P>0.992×Fe2O3量+0.080・・・(B)式
尚、上記(A)式で計算されるパラメータである焼成パラメータPは、目標焼成温度T及び継続焼成時間tの焼成条件とFe2O3量との関係を定量化するために目標焼成温度T及び継続焼成時間tの関係で特定される焼成条件に関するパラメータである。目標焼成温度T及び継続焼成時間tから求まる焼成パラメータPとFe2O3量とが上記(B)式を満たすように、Fe2O3量、目標焼成温度T、継続焼成時間tが決定される。
【0016】
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、その要旨構成は、下記の[1]~[3]の耐火物の製造方法にある。
【0017】
[1]Al2O3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl2O3-SiO2系の耐火物を製造する、耐火物の製造方法であって、Al2O3-SiO2系の耐火物を焼成する焼成条件として、前記耐火物におけるFe2O3の含有量であるFe2O3量(質量%)、前記耐火物を焼成する際に昇温する目標温度である目標焼成温度T(℃)、及び、前記耐火物を前記目標焼成温度Tまで昇温させた後に前記耐火物の焼成を前記目標焼成温度Tで継続する場合の時間である継続焼成時間t(hr)、を決定する焼成条件決定ステップと、前記焼成条件決定ステップで決定された前記Fe2O3量のFe2O3を含有する前記耐火物を用い、当該耐火物を前記目標焼成温度Tまで昇温させながら焼成する昇温焼成ステップと、前記目標焼成温度Tまで昇温した前記耐火物を前記目標焼成温度Tで前記継続焼成時間tに亘って焼成する継続焼成ステップと、を含み、前記焼成条件決定ステップでは、1.2<Fe
2
O
3
量を満たすとともに、下記(2)式、(3)式、(4)式、及び(5)式をいずれも満たすように、前記Fe2O3量、前記目標焼成温度T、及び前記継続焼成時間tを決定し、前記焼成条件決定ステップでは、下記(4)式で計算される焼成パラメータPと前記Fe2O3量とが下記(5)式を満たすように前記焼成条件が設定されることで、前記Fe2O3量が多い程、前記焼成パラメータPが大きくなるように、前記焼成条件が決定されることを特徴とする、耐火物の製造方法。
1250≦T≦1450・・・・(2)式
0≦t・・・・(3)式
P=0.0101×T+0.0913×t-12.3・・・・(4)式
P>0.992×Fe2O3量+0.080・・・・(5)式
【0018】
上記の構成によると、従来では用いることができなかったFe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いても、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる。そして、上記の構成によって製造した耐火物によると、熱処理炉用耐火物として用いられた際に熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量を0.05%未満にすることができ、耐火物の崩壊を防止することができる。また、上記の構成によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができるため、製造コストを大幅に削減することができる。更に、上記の構成によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いても、カーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができるため、耐火物の表面への被覆処理も不要となる。このため、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができるとともに、耐火物の表面への被覆処理のための処理材料及び処理工程も不要となり、コストを大幅に削減することができる。
【0019】
従って、上記の構成によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要にすることができ、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる、耐火物の製造方法を提供できる。
【0020】
[2]前記焼成条件決定ステップでは、下記(1)式を満たすように前記Fe2O3量を決定し、次いで、前記(2)式、前記(3)式、前記(4)式、及び前記(5)式を満たすように、前記目標焼成温度T及び前記継続焼成時間tを決定することを特徴とする、耐火物の製造方法。
1.2<Fe
2
O
3
量≦2.5・・・・(1)式
【0021】
上記の構成によると、焼成条件決定ステップにおいて、まず、Fe2O3量が決定され、決定されたFe2O3量に応じて、目標焼成温度T及び継続焼成時間tが決定される。このため、耐火物を焼成する焼成条件として、Fe2O3の含有量が多いより安価な耐火物原料を用いることを優先的に決定でき、製造コストを更に大幅に削減することができる。
【0022】
[3]前記焼成条件決定ステップでは、前記Fe2O3量を2.0%以上2.2%以下の値に決定し、次いで、前記(2)式、前記(3)式、前記(4)式、及び前記(5)式を満たすように、前記目標焼成温度T及び前記継続焼成時間tを決定することを特徴とする、耐火物の製造方法。
【0023】
上記の構成によると、Fe2O3の含有量の低減処理が施されていない一般的な耐火物原料を用いることができ、Fe2O3の含有量の低減処理が全く不要となるため、製造コストを更に大幅に削減することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要にすることができ、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる、耐火物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る耐火物の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る耐火物の製造方法における焼成条件決定ステップにおいて決定される焼成条件について説明するための図である。
【
図3】熱処理炉での処理条件を加速した条件で模擬して耐火物の崩壊の発生を調査した耐火物熱処理試験の方法を説明するための図である。
【
図4】耐火物中のFe
2O
3量と耐火物熱処理試験後の耐火物の破損率との関係を示すグラフである。
【
図5】耐火物中のFe
2O
3量と耐火物熱処理試験後の耐火物の沈積炭素量との関係を示すグラフである。
【
図6】耐火物熱処理試験後の耐火物の沈積炭素量と破損率との関係を示すグラフである。
【
図7】焼成パラメータPと耐火物の崩壊を防止可能な限界のFe
2O
3量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
[耐火物の製造方法]
図1は、本発明の実施形態に係る耐火物の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。本発明の実施形態に係る耐火物の製造方法(以下、単に、本実施形態の耐火物製造方法とも称する)は、焼入れ或いは浸炭焼入れ等の熱処理を行うための熱処理炉において炉の構成材料として用いられる熱処理炉用の耐火物を製造するための方法である。そして、本実施形態の耐火物製造方法は、Al
2O
3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl
2O
3-SiO
2系の耐火物を製造する、耐火物の製造方法として構成される。尚、熱処理炉用の耐火物は、Al
2O
3及びSiO
2を主成分とするAl
2O
3-SiO
2系の耐火物として構成される。そして、熱処理炉用の耐火物は、熱処理炉の構成材料として用いられる際における耐火性を確保するため、Al
2O
3の含有量が質量%で35%以上であることが必要となる。
【0028】
図1を参照して、本実施形態の耐火物製造方法は、製造条件決定ステップS101と、混合・混練ステップS102と、成形ステップS103と、昇温焼成ステップS104と、継続焼成ステップS105と、を備えて構成されている。本実施形態の耐火物製造方法では、各ステップS101~S105が実施されることで、耐火物としての耐火レンガ等の定形耐火物が製造される。尚、上記ステップS101~S105のうち成形ステップS103以降を含まず、製造条件決定ステップS101及び混合・混練ステップS102で構成された耐火物製造方法を実施することもできる。この場合、耐火物として不定形耐火物を製造することができる。
【0029】
(製造条件決定ステップ)
本実施形態の耐火物製造方法における製造条件決定ステップS101は、Al2O3-SiO2系の耐火物を製造するための製造条件を決定する工程として構成されている。より具体的には、製造条件決定ステップS101は、耐火物原料の選択、混合・混練ステップS102、成形ステップS103、昇温焼成ステップS104、及び継続焼成ステップS105の各工程の製造条件を決定する工程として構成されている。そして、製造条件決定ステップS101は、Al2O3-SiO2系の耐火物を焼成する焼成条件を決定する工程として構成される焼成条件決定ステップS101aを含んで構成されている。製造条件決定ステップS101の中の焼成条件決定ステップS101aでは、耐火物を焼成する焼成条件として、Fe2O3量(質量%)、目標焼成温度T(℃)、及び継続焼成時間t(hr)の3つの焼成条件が決定される。
【0030】
焼成条件決定ステップS101aにおいて焼成条件として決定されるFe2O3量は、Al2O3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl2O3-SiO2系の耐火物におけるFe2O3の質量%での含有量である。焼成条件決定ステップS101aにおいて、耐火物のFe2O3量は、下記(1)式を満たす範囲で設定される。そして、耐火物のFe2O3量は、下記(1)式と他の焼成条件との関係を特定する後述の関係式(後述の(4)式及び(5)式)とを満たす範囲で、最終的な値に決定される。即ち、耐火物原料のFe2O3量は、後述の(4)式及び(5)式を満たす範囲で、1.2%より大きくて且つ2.5%以下の範囲の値(Fe2O3の含有量)に決定される。
1.2<Fe2O3量≦2.5・・・・(1)式
【0031】
尚、従来の耐火物の製造方法によって製造した耐火物が熱処理炉に用いられる場合、その耐火物におけるFe2O3量が1.2%より大きいと、熱処理中に熱処理炉の耐火物に炭素が沈積するカーボンデポジットが発生して耐火物が崩壊する。このため、従来では用いることができなかったFe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いるためには、Fe2O3量が1.2%より大きい耐火物原料を用いる必要がある。また、Fe2O3の含有量の低減処理が施されていない一般的な耐火物原料におけるFe2O3の含有量は、最大でも2.5%である。よって、Fe2O3量の上限は2.5%である必要がある。
【0032】
また、焼成条件決定ステップS101aにおいて焼成条件として決定される目標焼成温度Tは、耐火物を焼成する際に昇温する目標温度(℃)である。焼成条件決定ステップS101aにおいて、目標焼成温度Tは、下記(2)式を満たす範囲で設定される。そして、目標焼成温度Tは、下記(2)式と後述の(4)式及び(5)式とを満たす範囲で、最終的な値に決定される。即ち、目標焼成温度Tは、後述の(4)式及び(5)式を満たす範囲で、1250℃以上で且つ1450℃以下の範囲の値(温度)に決定される。
1250≦T≦1450・・・・(2)式
【0033】
尚、耐火物を焼成するためには、少なくとも焼結が可能な温度である1250℃まで耐火物を昇温する必要がある。一方で、1450℃を超えて耐火物を昇温すると、焼成中に耐火物が軟化して形状を留めることができなくなる。そのため、目標焼成温度Tは、1250℃以上で且つ1450℃以下の範囲である必要がある。
【0034】
また、焼成条件決定ステップS101aにおいて焼成条件として決定される継続焼成時間tは、耐火物を目標焼成温度Tまで昇温させた後に耐火物の焼成を目標焼成温度Tで継続する場合の時間(hr)である。焼成条件決定ステップS101aにおいて、継続焼成時間tは、下記(3)式を満たす範囲で設定される。そして、継続焼成時間tは、下記(3)式と後述の(4)式及び(5)式とを満たす範囲で、最終的な値に決定される。即ち、継続焼成時間tは、後述の(4)式及び(5)式を満たす範囲で、0時間以上の値(時間)に決定される。
0≦t・・・・(3)式
【0035】
尚、継続焼成時間tについては、他の焼成条件との関係を特定する後述の関係式を満たせば、0時間であってもよい。継続焼成時間tが0時間であっても、目標焼成温度Tまで昇温して焼成される間に、耐火物の焼成は十分に進展する。このため、継続焼成時間tの焼成条件は、0時間以上の条件で設定することができる。尚、継続焼成時間tが0時間に決定されて耐火物の焼成が行われる場合は、耐火物を目標焼成温度Tまで昇温させながら焼成する昇温焼成ステップS104が行われる。しかし、昇温焼成ステップS104の終了後に耐火物の焼成を目標焼成温度Tで継続する時間が0時間となる。
【0036】
また、焼成条件決定ステップS101aにおいては、前述の(1)式、(2)式、及び(3)式に加え、下記(4)式及び(5)式も満たすように、焼成条件が決定される。即ち、焼成条件決定ステップS101aにおいては、前記(1)式、前記(2)式、前記(3)式、下記(4)式、及び下記(5)式をいずれも満たすように、耐火物中のFe2O3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tが決定される。
P=0.0101×T+0.0913×t-12.3・・・・(4)式
P>0.992×Fe2O3量+0.080・・・・(5)式
尚、上記(4)式において、「T」は、目標焼成温度Tを表し、「t」は、継続焼成時間tを表している。
【0037】
上記(4)式で計算されるパラメータである焼成パラメータPは、目標焼成温度T及び継続焼成時間tの焼成条件と耐火物中のFe2O3量との関係を定量化するために目標焼成温度T及び継続焼成時間tの関係で特定される焼成条件に関するパラメータである。焼成条件決定ステップS101aにおいては、前記(1)-(3)式に加え、目標焼成温度T及び継続焼成時間tから求まる焼成パラメータPとFe2O3量とが上記(5)式を満たすように、Fe2O3量、目標焼成温度T、継続焼成時間tが決定される。
【0038】
図2は、焼成条件決定ステップS101aにおいて決定される焼成条件について説明するための図である。尚、
図2では、焼成条件決定ステップS101aにおいて決定される焼成条件について、焼成パラメータPと耐火物中のFe
2O
3量との関係で示している。焼成条件決定ステップS101aにおいては、前述のように、前記(1)-(5)式をいずれも満たすように、Fe
2O
3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tが決定される。このため、
図2においてドットのハッチングで示す領域の範囲内に設定されるように、Fe
2O
3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tの焼成条件が決定される。
【0039】
従来の焼成条件で耐火物を製造する場合、耐火物におけるFe2O3の含有量が1.2%を超えると、耐火物を焼成した際に、酸化鉄成分が、Al2O3及びSiO2と反応せず、不活性化しない。そして、その酸化鉄成分が多く含まれた耐火物が使用された熱処理炉を用いて熱処理を行うと、耐火物中の酸化鉄成分が還元されて鉄分が触媒として作用し、雰囲気ガス中の炭素が耐火物中に沈積するカーボンデポジットが生じ易くなる。更に、カーボンデポジットが生じることで耐火物中に沈積して含有される炭素の量が質量%で0.05%以上になり、炉の構成材料としての耐火物の形状が維持できなくなり、耐火物の崩壊を招くことになる。
【0040】
一方、前記(2)式で規定される温度範囲において目標焼成温度Tを高温化するほど、焼成後の耐火物における酸化鉄成分であるFe2O3がAl2O3及びSiO2と反応して不活性化することになる。更に、目標焼成温度Tまで昇温させた後にその温度で耐火物の焼成を継続する継続焼成時間tを長時間化するほど、Fe2O3をAl2O3及びSiO2と十分に反応させて不活性化することに比例的に寄与することになる。即ち、前記(4)式で計算される焼成パラメータPが大きくなるほど、その条件で焼成された焼成後の耐火物における酸化鉄成分であるFe2O3をAl2O3及びSiO2と反応させて不活性化させることができる。そして、焼成パラメータPがFe2O3量に対して所定の関係で大きく設定されることで、具体的には、焼成パラメータP及びFe2O3量が前記(5)式を満たすように焼成条件が設定されることで、焼成後の耐火物における酸化鉄成分の不活性化を促進させることができる。これにより、その耐火物が使用された熱処理炉で熱処理が行われる際に、カーボンデポジットの発生を抑制して熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量を0.05%未満にすることができ、耐火物の崩壊を防止することができる。よって、前記(4)式及び(5)式を満たすように、Fe2O3量、目標焼成温度T、継続焼成時間tを決定して焼成を行うことで、熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量が0.05%未満となる耐火物を焼成して生成することができる。
【0041】
焼成条件決定ステップS101aにおいては、前述のように、前記(1)-(5)式をいずれも満たすように、耐火物中のFe2O3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tが決定される。このとき、例えば、前記(1)式を満たすようにFe2O3量を決定し、次いで、前記(2)-(5)式を満たすように、目標焼成温度T及び継続焼成時間tが決定されてもよい。この場合、耐火物を焼成する焼成条件として、Fe2O3の含有量が多いより安価な耐火物原料を用いることを優先的に決定でき、耐火物の製造コストを更に大幅に削減することができる。
【0042】
また、焼成条件決定ステップS101aでは、Fe2O3量を2.0%以上2.2%以下の値に決定し、次いで、前記(2)-(5)式を満たすように、目標焼成温度T及び継続焼成時間tが決定されてもよい。この場合、Fe2O3の含有量の低減処理が施されていない一般的な耐火物原料を用いることができ、Fe2O3の含有量の低減処理が全く不要となるため、耐火物の製造コストを更に大幅に削減することができる。
【0043】
尚、焼成条件決定ステップS101では、Fe2O3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tの決定の順番については、上記の順番に限らず、任意の順番で決定されてもよい。
【0044】
(混合・混練ステップ、成形ステップ)
製造条件決定ステップS101において耐火物の製造条件が決定されると、製造条件決定ステップS101で決定されたFe2O3量となるように選択された数種類の耐火物原料が準備される。そして、混合・混練ステップS102において、その準備した数種類の耐火物原料が混合されて混練される。混合・混練ステップS102での耐火物原料の混合及び混練が終了すると、次いで、混合及び混練された耐火物原料を所定の形状の耐火物に成形する成形ステップS103が行われる。成形ステップS103では、例えば、耐火レンガ等の定形耐火物の直方体状の形状に対応した型に耐火物原料が充填され、その型に対応した形状の耐火物に成形される。成形された耐火物は、型から取り出され、後述の昇温焼成ステップS104及び継続焼成ステップS105での焼成が行われる。
【0045】
(昇温焼成ステップ)
成形ステップS103において、数種類の耐火物原料が混合及び混練された粉末が定形耐火物の形状に対応した形状の耐火物に成形されることで、製造条件決定ステップS101で決定されたFe2O3量のFe2O3を含有する耐火物が成形される。そして、成形ステップS103が終了すると、次いで、昇温焼成ステップS104が行われる。昇温焼成ステップS104では、成形された耐火物が、焼成炉内に配置され、焼成条件決定ステップS101aで決定された焼成条件に基づいて、焼成される。即ち、昇温焼成ステップS104においては、焼成条件決定ステップS101aで決定されたFe2O3量のFe2O3を含有する耐火物を用い、その耐火物を焼成炉内で目標焼成温度Tまで昇温させながら焼成する工程が行われる。
【0046】
(継続焼成ステップ)
昇温焼成ステップS104において、耐火物が、目標焼成温度Tまで焼成されると、次いで、継続焼成ステップS105が行われる。継続焼成ステップS105では、昇温焼成ステップS104で昇温しながら焼成された耐火物が、焼成炉内において、焼成条件決定ステップS101aで決定された焼成条件に基づいて、焼成される。即ち、継続焼成ステップS105においては、目標焼成温度Tまで昇温した耐火物を目標焼成温度Tで継続焼成時間tに亘って焼成する工程が行われる。
【0047】
目標焼成温度Tでの継続焼成時間tに亘る焼成が完了すると、継続焼成ステップS105が終了し、耐火物の焼成が完了して、焼成後の耐火物が生成される。継続焼成ステップS105が終了して耐火物が生成されると、耐火物は焼成炉から取り出され、耐火物の製造が完了する。尚、継続焼成ステップS105が終了して耐火物が生成された時点では、耐火物は高温の状態となっている。このため、継続焼成ステップS105の終了後、例えば、空冷等によって、適宜、耐火物の冷却が行われる。
【0048】
[本実施形態の効果]
本実施形態の耐火物製造方法によると、従来では用いることができなかったFe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いても、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる。そして、本実施形態の耐火物製造方法によって製造した耐火物によると、熱処理炉用耐火物として用いられた際に熱処理中の耐火物中に沈積する炭素の量を0.05%未満にすることができ、耐火物の崩壊を防止することができる。また、本実施形態の耐火物製造方法によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができるため、製造コストを大幅に削減することができる。更に、本実施形態の耐火物製造方法によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いても、カーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができるため、耐火物の表面への被覆処理も不要となる。このため、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができるとともに、耐火物の表面への被覆処理のための処理材料及び処理工程も不要となり、コストを大幅に削減することができる。
【0049】
従って、本実施形態によると、Fe2O3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要にすることができ、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができる、耐火物の製造方法を提供できる。
【0050】
また、本実施形態によると、焼成条件決定ステップS101aにおいて、前記(1)式を満たすようにFe2O3量を決定し、次いで、前記(2)式、前記(3)式、前記(4)式、及び前記(5)式を満たすように、目標焼成温度T及び継続焼成時間tを決定することができる。この方法によると、焼成条件決定ステップS101aにおいて、まず、Fe2O3量が決定され、決定されたFe2O3量に応じて、目標焼成温度T及び継続焼成時間tが決定されることになる。このため、耐火物を焼成する焼成条件として、Fe2O3の含有量が多いより安価な耐火物原料を用いることを優先的に決定でき、製造コストを更に大幅に削減することができる。
【0051】
また、本実施形態によると、焼成条件決定ステップS101aにおいて、Fe2O3量を2.0%以上2.2%以下の値に決定し、次いで、前記(2)式、前記(3)式、前記(4)式、及び前記(5)式を満たすように、目標焼成温度T及び継続焼成時間tを決定することができる。この方法によると、Fe2O3の含有量の低減処理が施されていない一般的な耐火物原料を用いることができ、Fe2O3の含有量の低減処理が全く不要となるため、製造コストを更に大幅に削減することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【実施例】
【0053】
耐火物を製造する際の焼成条件と、その焼成条件で製造された耐火物が熱処理炉で用いられる際における耐火物の崩壊の発生との関係を明らかにし、本実施形態の効果を実証するための試験を実施した。具体的には、種々の焼成条件にて耐火物を焼成して試料としての耐火物を製造し、製造した耐火物を熱処理炉で熱処理し、耐火物の崩壊を調査する耐火物熱処理試験を実施した。この耐火物熱処理試験では、浸炭焼入炉として構成される熱処理炉での処理条件を加速した条件で模擬して耐火物の熱処理を行い、耐火物の崩壊の発生を調査した。
【0054】
図3は、熱処理炉での処理条件を加速した条件で模擬して耐火物の崩壊の発生を調査した耐火物熱処理試験の方法を説明するための図である。尚、
図3は、耐火物熱処理試験において熱処理炉内で耐火物を熱処理する際のヒートパターンを示している。
図3に示す耐火物熱処理試験においては、まず、熱処理炉内に不活性ガスであるN
2ガスを1m
3/hの流量で供給しながら炉内雰囲気ガスの温度を800℃まで上昇させ、その後、N
2ガスを11m
3/hの流量で供給しながら炉内雰囲気ガスの温度を800℃で60分間維持して均熱化させた。そして、その状態で、各種焼成条件で焼成して製造した試料の耐火物を熱処理炉内に挿入した。熱処理炉内への耐火物の挿入後は、浸炭炉の雰囲気ガスの条件を模擬した雰囲気ガスであって一酸化炭素ガスを含む雰囲気ガスを熱処理炉内へ供給した。このとき、耐火物の熱処理炉内への挿入後、約4.5時間かけて炉内雰囲気ガスの温度を800℃から500℃まで低下させ、その後、約8.5時間に亘って炉内雰囲気ガスの温度を500℃に維持した。その後、N
2ガスを熱処理炉内に供給しながら、約12時間かけて炉内雰囲気ガスの温度を500℃から280℃まで低下させた。尚、このとき、最初の30分については、N
2ガスを11m
3/hの流量で熱処理炉内に供給しながら炉内雰囲気ガスの温度を500℃に維持し、次いで、N
2ガスを1m
3/hの流量で熱処理炉内に供給しながら炉内雰囲気ガスの温度を280℃まで徐々に低下させた。そして、炉内雰囲気ガスの温度を280℃まで低下させた状態で、耐火物を熱処理炉から取り出した。
【0055】
耐火物熱処理試験として、まず、耐火物の焼成条件と、その焼成条件で製造された耐火物が熱処理炉で用いられる際における耐火物の崩壊の発生との関係を明らかにする試験を行った。この試験においては、まず、耐火物の焼成条件であるFe
2O
3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tに関し、Fe
2O
3量以外の条件(目標焼成温度T、継続焼成時間t)を従来の熱処理炉用耐火物の製造方法と同じ条件とし、Fe
2O
3量を種々変更して耐火物を焼成し、試料としての耐火物を製造した。具体的には、目標焼成温度Tを従来の熱処理炉用耐火物の製造方法での焼成温度である1300℃とし、継続焼成時間tを従来の熱処理炉用耐火物の製造方法での継続焼成時間である4hrとし、Fe
2O
3量を種々変更して耐火物を焼成して耐火物を製造した。そして、
図3に示す耐火物熱処理試験の方法によって、製造した試料としての耐火物に対して熱処理を行い、耐火物の崩壊の発生との関係を明らかにする試験を実施した。
【0056】
表1は、焼成条件と耐火物の崩壊の発生との関係を明らかにする試験で用いた試料の成分と試験結果とを示す表である。表1に示すように、Fe2O3、SiO2、Al2O3、TiO2の質量%での含有量が表1の試料番号1~9にそれぞれ示す含有量である耐火物を焼成し、試料としての焼成後の耐火物を9種類製造した。尚、表1におけるFe2O3[質量%]の欄の数値が、焼成条件としてのFe2O3量を表している。
【0057】
【0058】
また、焼成条件と耐火物の崩壊の発生との関係を明らかにする試験においては、製造した表1の試料番号1~9に示す9種類の耐火物について、それぞれ、
図3に示す耐火物熱処理試験による熱処理を行い、耐火物の崩壊の発生の状況を確認した。尚、耐火物の崩壊の発生状況については、熱処理後の耐火物において崩壊が生じて破損している部分の体積の全体の体積に対する割合である破損率(%)で評価した。全く崩壊が生じておらず破損している部分が無い試料の耐火物については、破損率0%として評価し、全体的に崩壊が生じて全体が粉状になって破損している試料の耐火物については、破損率100%として評価した。即ち、破損率0%の場合は、耐火物の崩壊が全く生じていないこととなり、破損率100%の場合は、耐火物が全て粉状になって完全に崩壊していることとなる。表1では、試験結果として、試料番号1~9に示す9種類の耐火物のそれぞれの破損率も示している。また、
図4は、耐火物中のFe
2O
3量と耐火物熱処理試験後の耐火物の破損率との関係を示すグラフである。尚、表1に示す試験結果におけるFe
2O
3量及び破損率と、
図4のグラフとは、同じ内容を表している。
【0059】
また、焼成条件と耐火物の崩壊の発生との関係を明らかにする試験においては、
図3に示す耐火物熱処理試験による熱処理を行った表1の試料番号1~9に示す9種類の耐火物について、熱処理時にカーボンデポジットが生じて耐火物中に沈積して含有された炭素の量である沈積炭素量(質量%)の測定を行った。尚、沈積炭素量の測定については、「JIS R2011」で規定される燃焼法による遊離炭素の定量方法を用いて行った。表1では、試験結果として、試料番号1~9に示す9種類の耐火物のそれぞれの沈積炭素量も示している。また、
図5は、耐火物中のFe
2O
3量と耐火物熱処理試験後の耐火物の沈積炭素量との関係を示すグラフである。そして、
図6は、耐火物熱処理試験後の耐火物の沈積炭素量と破損率との関係を示すグラフである。尚、表1に示す試験結果におけるFe
2O
3量及び沈積炭素量と、
図5のグラフとは、同じ内容を表しており、表1に示す試験結果における沈積炭素量及び破損率と、
図6のグラフとは、同じ内容を表している。
【0060】
表1及び
図4乃至
図6から明らかなように、Fe
2O
3量以外の条件(目標焼成温度T、継続焼成時間t)が従来の熱処理炉用耐火物の製造方法と同じ条件の場合、Fe
2O
3量が1.2%以下だと、カーボンデポジットの発生による沈積炭素量は0.05%未満にとどまり、耐火物の崩壊が発生しないことが判明した。一方、Fe
2O
3量が1.2%を超えると、カーボンデポジットの発生による沈積炭素量は0.05%以上となり、耐火物の崩壊が発生することが判明した。従って、Fe
2O
3の含有量が1.2%以上の耐火物原料を用いて製造した耐火物を使用した熱処理炉においてカーボンデポジットの発生を抑制できることで、従来では用いることができなかったFe
2O
3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができることが実証された。
【0061】
上記の実証結果を踏まえ、更に、Fe2O3量が1.2%を超える耐火物を用いても、熱処理中のカーボンデポジットの発生を抑制して沈積炭素量が0.05%未満となる耐火物を焼成して生成することができる焼成条件を明らかにするとともに、本実施形態の効果を実証するための試験を実施した。この試験では、まず、前述の(4)式で求まる焼成パラメータPを種々変更させるように目標焼成温度T及び継続焼成時間tの焼成条件を設定して、種々の水準の焼成パラメータPを設定した。そして、設定した種々の水準の焼成パラメータPのそれぞれに対して、Fe2O3量を種々変更する焼成条件を設定した。具体的には、焼成パラメータPの水準としては、表2に示すように、11水準に設定した。即ち、目標焼成温度Tを1300℃、1350℃、1400℃、又は1450℃に変更する設定とし、各目標焼成温度Tに対して継続焼成時間tを4hr、6hr、又は8hrに変更する設定として、これらの各目標焼成温度T及び各継続焼成時間tを組み合わせ、合計で11水準の焼成パラメータPの水準を設定した。そして、各水準の焼成パラメータPに対して、Fe2O3量を種々変更する焼成条件を設定した。
【0062】
また、上記のようにして設定したそれぞれの焼成条件で耐火物を焼成し、試料としての焼成後の耐火物を製造した。そして、
図3に示す耐火物熱処理試験の方法によって、製造した試料としての耐火物に対して熱処理を行い、各水準の焼成パラメータPごとに、種々変更して設定したFe
2O
3量の各条件で製造した耐火物の崩壊の発生状況を確認する試験を実施した。これにより、各水準の焼成パラメータPごとに、耐火物の崩壊が発生しないFe
2O
3量の領域と耐火物の崩壊が発生するFe
2O
3量の領域とを確認し、耐火物の崩壊を防止可能な限界のFe
2O
3量である限界Fe
2O
3量を確認した。
【0063】
表2は、上記の試験の結果を示す表であって、焼成パラメータPと耐火物の崩壊を防止可能な限界のFe
2O
3量(限界Fe
2O
3量)との関係を示す表である。また、
図7は、焼成パラメータPと限界Fe
2O
3量との関係を示すグラフである。尚、表1に示す試験結果における焼成パラメータP及び限界Fe
2O
3量と、
図7のグラフ上でプロットされたデータとは、同じ内容を表している。
【0064】
【0065】
表2及び
図7を参照して、例えば、焼成パラメータPが1.378の水準(目標焼成温度Tが1300℃で継続焼成時間tが6hrの水準)においては、Fe
2O
3量が1.44%以下の焼成条件では、耐火物の崩壊が発生せず、Fe
2O
3量が1.44%を超えた条件では、耐火物の崩壊が発生した。このため、焼成パラメータPが1.378の水準においては、限界Fe
2O
3量が1.44%であることが確認された。また、例えば、焼成パラメータPが2.205の水準(目標焼成温度Tが1400℃で継続焼成時間tが4hrの水準)においては、Fe
2O
3量が2.22%以下の焼成条件では、耐火物の崩壊が発生せず、Fe
2O
3量が2.22%を超えた焼成条件では、耐火物の崩壊が発生した。このため、焼成パラメータPが2.205の水準においては、限界Fe
2O
3量が2.22%であることが確認された。同様に、試験を行った全ての焼成パラメータPの水準について、限界Fe
2O
3量を確認し、表2及び
図7に示す試験結果が得られた。尚、
図7においては、各焼成パラメータPの水準においてFe
2O
3量が限界Fe
2O
3量以下の領域では、全ての耐火物において崩壊が発生しなかったため、その領域については「未崩壊」と表記している。一方、各焼成パラメータPの水準においてFe
2O
3量が限界Fe
2O
3量を超えた領域では、全ての耐火物において崩壊が発生したため、その領域については「崩壊」と表記している。
【0066】
また、上記の試験においては、各焼成パラメータPの水準においてFe2O3量が限界Fe2O3量であった耐火物について、沈積炭素量の測定を行った。その結果、表2に示すように、Fe2O3量が限界Fe2O3量であった耐火物のいずれにおいても、沈積炭素量が0.04%であり、0.05%未満であることが確認された。
【0067】
尚、本実施形態の耐火物製造方法における焼成条件決定ステップS101aで用いられる前記(4)式及び前記(5)式は、上記の試験結果に基づいて規定した。前記(4)式については、限界Fe2O3量について目標焼成温度T及び継続焼成時間tを変数とする最小二乗法を用いた重回帰分析を行うことで、目標焼成温度T及び継続焼成時間tの関係で特定される焼成パラメータPを求める演算式として規定した。
【0068】
また、カーボンデポジットの発生を抑制して耐火物の崩壊を防止できる焼成条件に設定するためには、前記(4)式で計算される焼成パラメータPと焼成条件としてのFe
2O
3量との関係が、
図7に示す試験結果において「未崩壊」と表記した領域で特定されるように、設定される必要がある。即ち、各焼成パラメータPにおいて、焼成条件としてのFe
2O
3量が、限界Fe
2O
3量よりも小さくなるように、焼成パラメータPとFe
2O
3量との関係が設定される必要がある。そこで、
図7に示す試験結果に基づいて、各焼成パラメータPにおいて焼成条件としてのFe
2O
3量が限界Fe
2O
3量よりも小さくなる境界線としての焼成パラメータPとFe
2O
3量との関係式を求めると、下記(6)式となる。
P=0.992×Fe
2O
3量+0.080・・・・(6)
よって、前記(5)式が満たされるように焼成パラメータP及びFe
2O
3量を設定することで、カーボンデポジットの発生を抑制して耐火物の崩壊を防止できる焼成条件に設定することができる。
【0069】
本実施形態の耐火物製造方法によると、前記(1)-(5)式をいずれも満たすように、耐火物中のFe
2O
3量、目標焼成温度T、及び継続焼成時間tの焼成条件が決定される。このため、従来では用いることができなかったFe
2O
3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要となる。そして、前記(1)-(5)式をいずれも満たす焼成条件で焼成されて製造された耐火物は、表2及び
図7に示す試験結果から明らかなように、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制して耐火物の崩壊を防止することができる。従って、上記の試験結果より、本実施形態の耐火物製造方法によると、Fe
2O
3の含有量が多い安価な耐火物原料を用いることができ、耐火物の表面への被覆処理も不要にすることができ、熱処理炉用の耐火物として用いられる際のカーボンデポジットの発生を抑制できる耐火物を製造することができることが、実証された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、Al2O3の含有量が質量%で35%以上80%以下であるAl2O3-SiO2系の耐火物を製造する耐火物の製造方法として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
S101 製造条件決定ステップ
S101a 焼成条件決定ステップ
S102 混合・混練ステップ
S103 成形ステップ
S104 昇温焼成ステップ
S105 継続焼成ステップ