(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】体細胞を製造する方法、体細胞、及び組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/079 20100101AFI20230302BHJP
【FI】
C12N5/079 ZNA
(21)【出願番号】P 2021079207
(22)【出願日】2021-05-07
(62)【分割の表示】P 2018542641の分割
【原出願日】2017-09-27
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2016193444
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016193445
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016193446
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016193447
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016193448
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017018779
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕太
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 康弘
(72)【発明者】
【氏名】戴 平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 敏一
(72)【発明者】
【氏名】原田 義規
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169227(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148253(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/060790(WO,A1)
【文献】特開2017-104091(JP,A)
【文献】J. Clin. Biochem. Nutr. (2015) Vol.56, No.3, pp.166-170
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、及びALK5阻害剤の存在下で線維芽細胞を出発材料として培養する工程eを含む、神経系細胞を製造する方法。
【請求項2】
上記工程eが、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの更なる活性化剤及び/又は阻害剤の存在下で線維芽細胞を
出発材料として培養する工程である、請求項1に記載の神経系細胞を製造する方法。
【請求項3】
上記工程eが、下記
(1)~(4)の何れかの
組み合わせの存在下で
線維芽細胞を
出発材料として培養する工程である、請求項1又は2に記載の神経系細胞を製造する方法
:
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(3)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、及びErk阻害剤;
(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びGSK3阻害剤。
【請求項4】
ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤が、ドルソモルフィンである、請求項1~3の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
【請求項5】
ALK2阻害剤及びALK3阻害剤が、LDN193189及び/又はドルソモルフィンである、請求項2~4の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
【請求項6】
上記工程eが、p53阻害剤の非存在下で
線維芽細胞を
出発材料として培養する工程である、請求項1~5の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
【請求項7】
上記工程eが、成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で
線維芽細胞を
出発材料として培養する工程である、請求項1~6の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
【請求項8】
ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、及びALK5阻害剤を含む、線維芽細胞から神経系細胞を製造するための組成物。
【請求項9】
cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤、及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤を更に含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
下記
(1)~(4)の何れかの組み合わせを含む、請求項8又は9に記載の組成物。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(3)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、及びErk阻害剤;
(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びGSK3阻害剤。
【請求項11】
ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤が、ドルソモルフィンである、請求項8~10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ALK2阻害剤及びALK3阻害剤が、LDN193189及び/又はドルソモルフィンである、請求項9~11の何れか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体細胞を製造する方法に関するものである。本発明はさらに、当該体細胞、及び当該体細胞を製造する方法のために使用することができる組成物に関するものである。
本発明に係る製造方法により製造される体細胞は、具体的には、褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞である。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞関連研究の発展、特に多能性細胞に関する研究の発展により、治療用細胞を個体への移植に利用可能な品質及び量において入手することが可能になりつつある。幾つかの疾患については、治療に有効な細胞を患者に移植する試みが開始されている。
【0003】
間葉系の細胞は、筋肉、骨、軟骨、骨髄、脂肪及び結合組織等の生体の各種器官を形成しており、再生医療の材料として有望である。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)は、骨髄、脂肪組織、血液、胎盤及び臍帯等の組織に存在する未分化細胞である。間葉系に属す細胞への分化能を有しているため、間葉系幹細胞は、それらの細胞を製造する際の出発材料として注目されている。また、間葉系幹細胞自体を骨、軟骨、心筋等の再構築に利用する再生医療も検討されている。
【0004】
一方、線維芽細胞のような体細胞を直接他の細胞に転換する方法も報告されている。例えば、線維芽細胞を化学物質と共に培養することにより神経細胞を得ることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition,2015年,56巻,3号,166-170頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載されている方法のように、遺伝子導入を行うことなく体細胞から所望の細胞への転換を行う方法は、治療用細胞を取得する手段として有効な選択肢となる場合がある。本発明は、人為的な遺伝子導入を行うことなく、体細胞から褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、若しくは心筋細胞を製造する方法;褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、若しくは心筋細胞;又は前記製造方法のために使用することができる、化学物質の組み合わせを含む組成物を提供することを解決することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、一定の阻害剤ないし活性化剤の存在下ないし非存在下で体細胞を培養することによって、体細胞を褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞に転換できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
本発明として、例えば、下記のものを挙げることができる。
[1]ALK5阻害剤の存在下、かつ、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程aを含む、褐色脂肪細胞を製造する方法。
[2]上記工程aが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[1]に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[3]上記工程aが、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[1]又は[2]に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[4]上記工程aが、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[1]から[3]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
(1)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(3)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(4)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びErk阻害剤;
(5)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤;
(6)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤。
[5]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[1]から[4]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[6]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[3]又は[4]に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[7]上記工程aが、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[1]から[6]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[8]上記工程aが、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[1]から[7]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[9]上記体細胞が線維芽細胞である、上記[1]から[8]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[10]上記[1]から[9]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法により製造される褐色脂肪細胞。
【0009】
[11]ALK5阻害剤と、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤とを含む、組成物。
[12]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤を含む、上記[11]に記載の組成物。
[13]cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤をさらに含む、上記[11]又は[12]に記載の組成物。
[14]下記の何れかの組み合わせを含む、上記[11]から[13]の何れか一項に記載の組成物。
(1)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(3)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(4)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びErk阻害剤;
(5)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤;
(6)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤。
[15]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤が、ドルソモルフィンである、上記[11]から[14]の何れか一項に記載の組成物。
[16]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤から選択される少なくとも一つの阻害剤が、LDN193189及び/又はドルソモルフィンである、上記[13]又は[14]に記載の組成物。
[17]体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物である、上記[11]から[16]の何れか一項に記載の組成物。
【0010】
[18](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも一つの存在下で体細胞を培養する工程bを含む、褐色脂肪細胞を製造する方法。
[19]上記工程bが、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも二つの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[18]に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[20]上記工程bが、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[18]又は[19]に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
(i)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、cAMP活性化剤;
(ii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、Erk阻害剤;
(iii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;
(iv)cAMP活性化剤と、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(v)cAMP活性化剤と、Erk阻害剤;
(vi)cAMP活性化剤と、ALK5阻害剤;
(vii)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;並びに
(viii)Erk阻害剤と、ALK5阻害剤。
[21]上記工程bが、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも三つの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[18]又は[19]に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[22]上記工程bが、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも四つの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[18]、[19]及び[21]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[23](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(5)cAMP活性化剤、並びに(6)GSK3阻害剤からなる6群から選択される少なくとも五つの存在下で体細胞を培養する工程bを含む、褐色脂肪細胞を製造する方法。
[24]ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、ドルソモルフィンの存在下、又はドルソモルフィン及びLDN193189の存在下で体細胞を培養することである、上記[18]から[23]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[25]上記工程bが、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[18]から[24]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[26]上記工程bが、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[18]から[25]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[27]上記体細胞が線維芽細胞である、上記[18]から[26]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法。
[28]上記[18]から[27]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造する方法により製造される褐色脂肪細胞。
【0011】
[29](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも一つを含む、体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
[30](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも二つを含む、上記[29]に記載の体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
[31]下記の何れかを含む、上記[29]又は[30]に記載の体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
(i)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、cAMP活性化剤;
(ii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、Erk阻害剤;
(iii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;
(iv)cAMP活性化剤と、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(v)cAMP活性化剤と、Erk阻害剤;
(vi)cAMP活性化剤と、ALK5阻害剤;
(vii)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;並びに
(viii)Erk阻害剤と、ALK5阻害剤。
[32](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも三つを含む、上記[29]又は[30]に記載の体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
[33](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも四つを含む、上記[29]、[30]及び[32]の何れか一項に記載の褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
[34](1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(5)cAMP活性化剤、並びに(6)GSK3阻害剤からなる6群から選択される少なくとも五つを含む、褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
[35]ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤が、ドルソモルフィンであるか、又はドルソモルフィン及びLDN193189である、上記[29]から[34]の何れか一項に記載の体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物。
【0012】
[36]ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下、cAMP活性化剤の存在下、かつErk阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程cを含む骨芽細胞を製造する方法。
[37]上記工程cが、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[36]に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[38]上記工程cが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤下で体細胞を培養する工程である、上記[36]又は[37]に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[39]上記工程cが、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[36]から[38]の何れか一項に記載の骨芽細胞を製造する方法。
(1)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤及びcAMP活性化剤の存在下、かつErk阻害剤の非存在下;
(2)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びcAMP活性化剤の存在下、かつErk阻害剤の非存在下。
[40]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[37]又は[39]に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[41]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[38]に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[42]上記工程cが、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[36]から[41]の何れか一項に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[43]上記工程cが、成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[36]から[42]の何れか一項に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[44]上記工程cが、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[36]から[43]の何れか一項に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[45]上記体細胞が線維芽細胞である、上記[36]から[44]の何れか一項に記載の骨芽細胞を製造する方法。
[46]上記[36]から[45]の何れか一項に記載の骨芽細胞を製造する方法により製造される骨芽細胞。
【0013】
[47]ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、及びcAMP活性化剤を含む、組成物。
[48]少なくともALK2阻害剤及びALK3阻害剤を含む、上記[47]に記載の組成物。
[49]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤をさらに含む、上記[47]又は[48]に記載の組成物。
[50]下記の何れかの組み合わせを含む、上記[47]又は[48]に記載の組成物。
(1)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤及びcAMP活性化剤;
(2)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びcAMP活性化剤。
[51]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤が、LDN193189及び/又はドルソモルフィンである、上記[48]又は[50]に記載の組成物。
[52]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤が、ドルソモルフィンである、上記[49]に記載の組成物。
[53]体細胞から骨芽細胞を製造するための組成物である、上記[47]から[52]の何れか一項に記載の組成物。
【0014】
[54]cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下、Erk阻害剤の非存在下、かつALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程dを含む、軟骨細胞を製造する方法。
[55]上記工程dが、少なくともALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[54]に記載の軟骨細胞を製造する方法。
[56]上記工程dが、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤の存在下、Erk阻害剤の非存在下、かつALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[54]又は[55]に記載の軟骨細胞を製造する方法。
[57]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、LDN193189の存在下で体細胞を培養することである、上記[55]又は[56]に記載の軟骨細胞を製造する方法。
[58]上記工程dが、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[54]から[57]の何れか一項に記載の軟骨細胞を製造する方法。
[59]上記工程dが、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[54]から[58]の何れか一項に記載の軟骨細胞を製造する方法。
[60]上記体細胞が線維芽細胞である、上記[54]から[59]の何れか一項に記載の軟骨細胞を製造する方法。
[61]上記[54]から[60]の何れか一項に記載の軟骨細胞を製造する方法により製造される軟骨細胞。
【0015】
[62]cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を含む、体細胞から軟骨細胞を製造するための組成物。
[63]少なくともALK2阻害剤及びALK3阻害剤を含む、上記[62]に記載の組成物。
[64]cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤を含む、組成物。
[65]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤が、LDN193189である、上記[63]又は[64]に記載の組成物。
[66]体細胞から軟骨細胞を製造するための組成物である、上記[64]又は[65]に記載の組成物。
【0016】
[67]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程eを含む、神経系細胞を製造する方法。
[68]上記工程eが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[67]に記載の神経系細胞を製造する方法。
[69]上記工程eが、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[67]又は[68]に記載の神経系細胞を製造する方法。
[70]上記工程eが、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[67]から[69]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(3)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、及びErk阻害剤;
(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びGSK3阻害剤。
[71]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[67]から[70]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
[72]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[69]に記載の神経系細胞を製造する方法。
[73]上記工程eが、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[67]から[72]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
[74]上記工程eが、成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[67]から[73]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
[75]上記工程eが、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[67]から[74]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
[76]上記体細胞が線維芽細胞である、上記[67]から[75]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法。
[77]上記[67]から[76]の何れか一項に記載の神経系細胞を製造する方法により製造される神経系細胞。
【0017】
[78]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を含む、体細胞から神経系細胞を製造するための組成物。
[79]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤を含む、体細胞から神経系細胞を製造するための組成物。
[80]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤を含む、組成物。
[81]下記の何れかの組み合わせを含む、上記[80]に記載の組成物。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(3)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、及びErk阻害剤;
(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びGSK3阻害剤。
[82]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤が、ドルソモルフィンである、上記[81]に記載の組成物。
[83]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤が、LDN193189及び/又はドルソモルフィンである、上記[81]に記載の組成物。
[84]体細胞から神経系細胞を製造するための組成物である、上記[80]から[83]の何れか一項に記載の組成物。
【0018】
[85]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下、かつcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程fを含む、心筋細胞を製造する方法。
[86]上記工程fが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の存在下、かつcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]に記載の心筋細胞を製造する方法。
[87]上記工程fが、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]又は[86]に記載の心筋細胞を製造する方法。
[88]上記工程fが、GSK3阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]から[87]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
[89]上記工程fが、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]から[88]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤。
[90]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することが、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することである、上記[85]から[89]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
[91]上記工程fが、ALK4阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]から[90]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
[92]上記工程fが、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]から[91]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
[93]上記工程fが、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養する工程である、上記[85]から[92]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
[94]上記体細胞が線維芽細胞である、上記[85]から[93]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法。
[95]上記[85]から[94]の何れか一項に記載の心筋細胞を製造する方法により製造される心筋細胞。
【0019】
[96]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を含む、組成物。
[97]ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を含む、上記[96]に記載の組成物。
[98]ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤をさらに含む、上記[96]又は[97]に記載の組成物。
[99]GSK3阻害剤をさらに含む、上記[96]から[98]の何れか一項に記載の組成物。
[100]下記の何れかの組み合わせを含む、上記[96]から[98]の何れか一項に記載の組成物。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤。
[101]ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤が、ドルソモルフィンである、上記[97]から[100]の何れか一項に記載の組成物。
[102]体細胞から心筋細胞を製造するための組成物である、上記[96]から[101]の何れか一項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法、又は本発明の組成物によれば、遺伝子導入を行うことなく体細胞から褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞を製造することができる。本発明により得られた褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞は、再生医療などにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、培養開始21日後の細胞を固定した後に免疫染色を行った結果を示す。
【
図2】
図2は、各化合物の組み合わせで3週間処理した後の細胞の様子を示す。
【
図3】
図3は、各化合物の組み合わせで処理した場合のFabp4(脂肪細胞特異的遺伝子)の定量の結果を示す。
【
図4】
図4は、38歳の線維芽細胞におけるUCP1タンパク質(緑)及び核(青)を免疫染色した結果を示す。
図4はモノクロであるため緑色と青色は表示されないが、
図4のオリジナル写真では緑色と青色が表示される。
【
図5】
図5は、38歳の線維芽細胞におけるUCP1タンパク質(緑)及び核(青)を免疫染色した結果を示す。
図5はモノクロであるため緑色と青色は表示されないが、
図5のオリジナル写真では緑色と青色が表示される。
【
図6】
図6は、38歳の線維芽細胞におけるUCP1タンパク質(緑)及び核(青)を免疫染色した結果を示す。
図6はモノクロであるため緑色と青色は表示されないが、
図6のオリジナル写真では緑色と青色が表示される。
【
図7】
図7は、38歳の線維芽細胞におけるUCP1タンパク質(緑)及び核(青)を免疫染色した結果を示す。
図7はモノクロであるため緑色と青色は表示されないが、
図7のオリジナル写真では緑色と青色が表示される。
【
図8】
図8は、38歳の線維芽細胞におけるUCP1タンパク質(緑)及び核(青)を免疫染色した結果を示す。
図8はモノクロであるため緑色と青色は表示されないが、
図8のオリジナル写真では緑色と青色が表示される。
【
図9】
図9は、38歳(A)、49歳(B)及び0歳(C)の3名由来の線維芽細胞におけるUCP1タンパク質(緑)及びミトコンドリア(赤)を免疫染色した結果を示す。
図9はモノクロであるため緑色と赤色は表示されないが、
図9のオリジナル写真では緑色と赤色が表示される。
【
図10】
図10は、38歳(A)、49歳(B)及び0歳(C)の3名由来の線維芽細胞を化合物カクテル(5CORo-GM)で3週間培養した後に1週間Roのみで培養して成熟させた細胞の様子を示す。
【
図11】
図11は、対照細胞(化合物による処理なし)、並びに0歳、38歳及び49歳の線維芽細胞由来の褐色脂肪細胞におけるUcp1遺伝子、Ckmt1遺伝子、Cited1遺伝子、Colla2遺伝子、Fabp4遺伝子、AdipoQ遺伝子、及びPparγ遺伝子の発現を定量した結果を示す。データは平均±SD(n=3)を示す。Studentt検定:* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001
【
図12】イソプロテレノール(0.1μM、1μM又は10μM)又はフォルスコリン(0.1μM、1μM又は10μM)で処理した後の褐色脂肪細胞におけるおUcp1、Ckmt1及びCited1のmRNAを定量した結果を示す。未処理の褐色脂肪細胞の発現量を1として標準化した最初のレーンは対照細胞(化合物の添加なし)の発現量を示す。データは平均±SD(n=3)を示す。Studentt検定:* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001
【
図13】
図13は、対照細胞(化合物の添加なし)、及び線維芽細胞(A:38歳、B:49歳、及びC:0歳)由来の褐色脂肪細胞(各細胞についてn=3)における酸素消費速度を、Fluxアナライザーを用いて測定した結果を示す。オリゴマイシン(O)、FCCP(F)及びアンチマイシンA/ロテノン(A/R)を図示した時点で添加した。データは平均±SD(n=3-5)を示す。
【0022】
【
図14】
図14は、培養開始21日後の細胞を染色した結果を示す。
【
図15】
図15は、培養開始21日後の細胞を染色した結果を示す。
【
図16】
図16は、培養開始14日後の細胞を固定した後に免疫染色を行った結果を示す。
【
図17】
図17は、培養開始21日後の細胞を固定した後に免疫染色を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
1 体細胞について
生物の細胞は、体細胞と生殖細胞とに分類できる。本発明の方法には、その出発材料として任意の体細胞が使用できる。体細胞には特に限定はなく、生体から採取された初代細胞、又は株化された細胞の何れでもよい。本発明では、分化の種々の段階にある体細胞、例えば、最終分化した体細胞、最終分化への途上にある体細胞、又は初期化され多能性を獲得した体細胞を使用することができる。本発明に使用できる体細胞としては、特に本発明を限定するものではないが、任意の体細胞、例えば、造血系の細胞(各種のリンパ球、マクロファージ、樹状細胞、骨髄細胞等)、臓器由来の細胞(肝細胞、脾細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞等)、筋組織系の細胞(骨格筋細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、心筋細胞等)、線維芽細胞、神経細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、内皮細胞、間質細胞、脂肪細胞(白色脂肪細胞等)、胚性幹細胞(ES細胞)等が挙げられる。また、これらの細胞の前駆細胞、癌細胞にも本発明の方法を適用できる。体細胞としては、好ましくは、線維芽細胞を使用することができる。
【0025】
上記の体細胞の供給源としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、及び哺乳動物以外の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が例示されるが、これらに限定されるものではない。体細胞の供給源としては、ヒト、及びヒト以外の哺乳動物が好ましく、ヒトが特に好ましい。ヒトへの投与を目的として本発明の方法により褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞を製造する場合、好ましくは、レシピエントと組織適合性抗原のタイプが一致又は類似したドナーより採取された体細胞を使用することができる。レシピエント自身より採取された体細胞を褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞の製造に供してもよい。
【0026】
2 ALK5阻害剤について
ALK5とは、TGFβR1(形質転換増殖因子β受容体1)とも称されるTGFβ受容体サブファミリーメンバーである。ALK5は、TGFβに結合した際にII型TGFβ受容体とヘテロ二量体複合体を形成するセリン/スレオニンキナーゼであり、TGFβシグナルを細胞表面から細胞質へと伝達する。
【0027】
「ALK5阻害剤の存在下」とは、ALK5を阻害することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、ALK5を阻害することができる任意の手段を利用することができる。本発明には、ALK5に直接作用してその機能を阻害する物質(例えば、抗ALK5抗体やその他の薬剤)、ALK5自体の産生を抑制する薬剤等を利用することができる。また、ALK5が関わるシグナル伝達をその上流で阻害することによってもALK5を阻害することができる。
【0028】
本発明では特に限定されないが、ALK5阻害剤としては、以下の化合物を使用することができる。好ましくは、SB431542を使用することができる。
【0029】
CultureSure(登録商標)A83-01(和光純薬工業製)(CAS No.:909910-43-6)
【0030】
【0031】
ALK5 Inhibitor(和光純薬工業製)又はRepsox(abcam社製)(CAS No.:446859-33-2)
【0032】
【0033】
D4476(和光純薬工業製)(CAS No.:301836-43-1)
【0034】
【0035】
LY364947(和光純薬工業製)(CAS No.:396129-53-6)
【0036】
【0037】
SB431542(和光純薬工業製)(CAS No.:301836-41-9)
【0038】
【0039】
SB525334(和光純薬工業製)(CAS No.:356559-20-1)
【0040】
【0041】
SD208(和光純薬工業製)(CAS No.:627536-09-8)
【0042】
【0043】
ALK5阻害剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.2μmol/L~20μmol/L、好ましくは0.5μmol/L~10μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0044】
3 ALK6阻害剤について
ALK6は、BMPR1Bとしても知られ、骨形成タンパク質(BMP)受容体メンバーの膜貫通型セリン/スレオニンキナーゼメンバーであり、アクチビン受容体であるACVR1とACVR2に非常に類似している。ALK6は主に軟骨内の骨形成と胚形成に関与する。
【0045】
「ALK6阻害剤の存在下」とは、ALK6を阻害することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、ALK6を阻害することができる任意の手段を利用することができる。本発明には、ALK6に直接作用してその機能を阻害する物質(例えば、抗ALK6抗体やその他の薬剤)、ALK6自体の産生を抑制する薬剤等を利用することができる。また、ALK6が関わるシグナル伝達をその上流で阻害することによってもALK6を阻害することができる。
【0046】
本発明では特に限定されないが、ALK6阻害剤としては、以下の化合物を使用することができる。好ましくは、ドルソモルフィンを使用することができる。
【0047】
ドルソモルフィン(Dorsomorphin:和光純薬工業製)(CAS No.:866405-64-3)
【0048】
【0049】
K02288(CAS No.:1431985-92-0)
【0050】
【0051】
ALK6阻害剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.1μmol/L~10μmol/L、好ましくは0.2μmol/L~5μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0052】
4 AMPK阻害剤について
AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ:AMP-activated protein kinase)は、セリン/スレオニンキナーゼの一種であり、細胞内のエネルギーのセンサーとしての役割を担っている。ATPがAMPとリン酸に分解される過程でエネルギーが産生されるが、AMPKはこのAMPで活性化されるプロテインキナーゼである。また、AMPKは細胞増殖の制御に関連する幾つかのタンパク質の活性に影響することが知られている。
【0053】
「AMPK阻害剤の存在下」とは、AMPKを阻害することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、AMPKを阻害することができる任意の手段を利用することができる。本発明には、AMPKに直接作用してその機能を阻害する物質(例えば、抗AMPK抗体やその他の薬剤)、AMPK自体の産生を抑制する薬剤等を利用することができる。また、AMPKが関わるシグナル伝達をその上流で阻害することによってもAMPKを阻害することができる。
【0054】
本発明では特に限定されないが、AMPK阻害剤としては、以下の化合物を使用することができる。好ましくは、ドルソモルフィンを使用することができる。
【0055】
ドルソモルフィン(Dorsomorphin:和光純薬工業製)(AMPK Inhibitor,Compound Cとも称する)(CAS No.:866405-64-3)
【0056】
Indirubin-3’-oxime(和光純薬工業製)(CAS No.:160807-49-8)
【0057】
【0058】
Dorsomorphin dihydrochloride(CAS No.:1219168-18-9)
【0059】
Doxorubicin hydrochloride(CAS No.:25316-40-9)
STO-609 (CAS No.:52029-86-4)
【0060】
AMPK阻害剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.1μmol/L~10μmol/L、好ましくは0.2μmol/L~5μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0061】
5 cAMP活性化剤について
cAMP(環状アデノシン1リン酸)は、セカンドメッセンジャーとして種々の細胞内シグナル伝達に関わっている物質である。cAMPは、細胞内ではアデニル酸サイクラーゼ(adenylate cyclase)によりアデノシン3リン酸(ATP)が環状化されることで生成する。
【0062】
「cAMP活性化剤の存在下」とは、cAMPを活性化することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、例えば、細胞内cAMP濃度を増加させることができる任意の手段を利用することができる。cAMPの生成に関わる酵素であるアデニル酸サイクラーゼに直接作用して活性化できる物質、アデニル酸サイクラーゼの発現を促進しうる物質の他、cAMPを分解する酵素であるホスホジエステラーゼを阻害する物質等を、細胞内cAMP濃度を増加させる手段として使用することができる。細胞内でcAMPと同じ作用を持つ、cAMPの構造類似体であるジブチリルcAMP(dibutyryl cAMP)を使用することもできる。
【0063】
本発明で使用できるcAMP活性化剤(アデニル酸サイクラーゼ活性化剤)としては、フォルスコリン(forskolin:CAS No.:66575-29-9)、及びフォルスコリン誘導体(例えば特開2002-348243号公報)などが挙げられる。好ましくは、フォルスコリンを使用することができる。
【0064】
フォルスコリン(CAS No.:66428-89-5)
【0065】
【化11】
イソプロテレノール(CAS No.:7683-59-2)
NKH477(CAS No.:138605-00-2)
PACAP1-27(CAS No.:127317-03-7)
PACAP1-38(CAS No.:137061-48-4)
【0066】
cAMP活性化剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.5μmol/L~50μmol/L、好ましくは1μmol/L~30μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0067】
6 ALK2阻害剤及びALK3阻害剤について
ALK2は、ALKファミリーメンバーの受容体セリン/スレオニンキナーゼであり、SMADタンパク質、特にSMAD1/5/8が関与するシグナル伝達経路の上流に位置する。ALK2-Smad1経路の活性化を通じてエンドグリンにより前立腺癌細胞の運動性が低下する。ALK2遺伝子は、筋肉組織において進行性の異所性骨形成が特徴の珍しい常染色体性優性先天性疾患である進行性骨化性線維異形成症(FOP)に関与する主要遺伝子である。
【0068】
ALK3は、膜貫通型セリンスレオニンキナーゼファミリーメンバーである。ALK3遺伝子は、PTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10)変異陰性カウデン病において微働感受性遺伝子として作用する。ALK3輸送は、FOPの病変形成において重要な役割を担い、またヒトT細胞分化にも関与する。
【0069】
「ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下」とは、ALK2及びALK3を阻害することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、ALK2及びALK3を阻害することができる任意の手段を利用することができる。本発明には、ALK2又はALK3に直接作用してその機能を阻害する物質(例えば、抗ALK2抗体、抗ALK3抗体、その他の薬剤)、ALK2自体又はALK3自体の産生を抑制する薬剤等を利用することができる。また、ALK2及びALK3が関わるシグナル伝達をその上流で阻害することによってもALK2及びALK3を阻害することができる。
【0070】
本発明では特に限定されないが、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、以下の化合物を使用することができる。好ましくは、ALK2及びALK3の両方を阻害するLDN193189を使用することができる。
【0071】
DMH1(ALK2阻害剤)(CAS No.:1206711-16-1)
【0072】
【0073】
K02288(ALK2阻害剤及びALK3阻害剤)(CAS No.:1431985-92-0)
【0074】
【0075】
LDN212854(ALK2阻害剤及びALK3阻害剤)(CAS No.:1432597-26-6)
【0076】
【0077】
LDN193189(ALK2阻害剤及びALK3阻害剤)(CAS No.:1062368-24-4)
【0078】
【0079】
LDN193189 HCl(ALK2阻害剤及びALK3阻害剤)(CAS No.:1062368-62-0)
【0080】
【0081】
ML347(ALK2阻害剤及びALK3阻害剤)(CAS No.:1062368-49-3)
【0082】
【0083】
LDN214117(CAS No.:1627503-67-6)
【0084】
ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.1μmol/L~10μmol/L、好ましくは0.2μmol/L~5μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0085】
7 GSK3阻害剤について
グリコーゲン合成酵素キナーゼ(glycogen synthase kinase:GSK)3は、グリコーゲン合成酵素をリン酸化して不活性化するプロテインキナーゼとして見いだされた。哺乳類では、GSK3は51kDaのα(GSK3α)と47kDaのβ(GSK3β)の二つのアイソフォームに分類される。GSK3は種々のタンパク質をリン酸化する活性を有しており、グリコーゲン代謝のみならず、細胞分裂、細胞増殖等の生理現象にも関わっている。
【0086】
「GSK3阻害剤の存在下」とは、GSK3を阻害することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、GSK3の活性を阻害する物質、例えば、抗GSK3抗体やGSK阻害剤のようなGSK3シグナル阻害手段を利用することができる。また、GSK3は自身の特定の部位がリン酸化されると活性を失うことから、上記のリン酸化を促進する手段も、GSK3シグナルの阻害に利用することができる。
【0087】
本発明に使用できるGSK3阻害剤としては、以下の化合物を使用することができる。好ましくは、CHIR99021を使用することができる。
【0088】
CHIR99021(CAS No.:252917-06-9)
【0089】
【0090】
BIO((2’Z,3’E)-6-Bromoindirubin-3’-oxime)(CAS No.:667463-62-9)
【0091】
【0092】
Kenpaullone(CAS No.:142273-20-9)
【0093】
【0094】
A1070722(CAS No.:1384424-80-9)
【0095】
【0096】
SB216763(CAS No.:280744-09-4)
CHIR98014(CAS No.:556813-39-9)
TWS119(CAS No.:601514-19-6)
Tideglusib(CAS No.:865854-05-3)
SB415286(CAS No.:264218-23-7)
Bikinin(CAS No.:188011-69-0)
IM-12(CAS No.:1129669-05-1)
1-Azakenpaullone(CAS No.:676596-65-9)
LY2090314(CAS No.:603288-22-8)
AZD1080(CAS No.:612487-72-6)
AZD2858(CAS No.:486424-20-8)
AR-A014418(CAS No.:487021-52-3)
TDZD-8(CAS No.:327036-89-5)
Indirubin(CAS No.:479-41-4)
【0097】
GSK3阻害剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.1μmol/L~10μmol/L、好ましくは0.2μmol/L~5μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0098】
8 Erk阻害剤について
ErkはEGF(上皮増殖因子)、血清刺激又は酸化ストレスなどによって活性化されるMAPKのサブファミリーで、Erkはその関わるシグナル伝達経路の違いからERK1/2、ERK5、ERK7、ERK8に分けられる。上皮増殖因子受容体(EGFR)などのチロシンキナーゼ受容体にリガンドが結合することでシグナルが流れた結果、Erkの活性化ループに存在するTEYモチーフがリン酸化されて活性化する。
【0099】
「Erk阻害剤の存在下」とは、Erkを阻害することができる培養条件下であることをいい、その手段は特に限定はなく、Erkの活性を阻害する物質、例えば、抗Erk抗体やErk阻害剤のようなErkシグナル阻害手段を利用することができる。また、Erkの活性化に関わる酵素、例えば、ErkキナーゼやErkキナーゼキナーゼ等を阻害する手段もErk阻害に利用することができる。
【0100】
本発明では特に限定されないが、Erk阻害剤としては、以下の化合物を使用することができる。好ましくは、PD0325901を使用することができる。
【0101】
PD0325901(CAS No.:391210-10-9)
【0102】
【0103】
Olomoucine(CAS No.:101622-51-9)
【0104】
【0105】
Aminopurvalanol A(CAS No.:220792-57-4)
【0106】
【0107】
AS703026(CAS No.:1236699-92-5)
AZD8330(CAS No.:869357-68-6)
BIX02188(CAS No.:334949-59-6)
BIXO2189(CAS No.:1265916-41-3)
CI-1040(CAS No.:212631-79-3)
Cobimetirlib(CAS No.:934660-93-2)
GDC-0623(CAS No.:1168091-68-6)
MEk162(CAS No.:606143-89-9)
PD318088(CAS No.:391210-00-7)
PD98059(CAS No.:167869-21-8)
Refametinib(CAS No.:923032-37-5)
RO4987655(CAS No.:874101-00-5)
SCH772984(CAS No.:942183-80-4)
Selumetinib(CAS No.:606143-52-6)
SL327(CAS No.:305350-87-2)
Trametinib(CAS No.:871700-17-3)
ARRY-142886(CAS No.:606143-52-6)
XL518(CAS No.:934660-93-2)
RDEA119(CAS No.:923032-38-6)
【0108】
Erk阻害剤の濃度は適宜決定すればよく、特に限定されないが、例えば、0.1μmol/L~10μmol/L、好ましくは0.2μmol/L~5μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0109】
9 好ましい培養条件
本発明においては特に限定されないが、工程a~fにおいて、p53阻害剤の非存在下で体細胞を培養することが好ましい。p53阻害剤の非存在下とは、p53阻害剤が実質的に存在しないことを意味し、p53阻害剤が全く存在しない場合だけでなく、p53阻害剤が痕跡量で存在する場合を包含するものとする。p53タンパク質はがん抑制遺伝子として知られるp53遺伝子の産物であり、細胞周期調節やアポトーシス制御に関わっている。p53の機能はDNAとの特異的結合並びに遺伝子発現制御を通じて発揮されている。p53阻害剤としては、例えば、ピフィスリン-α(CAS No.:63208-82-2)、ピフィスリン-β(CAS No.:511296-88-1)、ピフィスリン-μ(CAS No.:64984-31-2)、NSC66811(CAS No.:6964-62-1)、Nultin-3(CAS No.:548472-68-0)などが例示されるが、本発明においては上記したようなp53阻害剤の非存在下で体細胞を培養することができる。
【0110】
本発明においては特に限定されないが、工程a~fにおいて、ヒストンに関与する成分の非存在下で体細胞を培養することが好ましい。ヒストンに関与する成分の非存在下とは、ヒストンに関与する成分が実質的に存在しないことを意味し、ヒストンに関与する成分が全く存在しない場合だけでなく、ヒストンに関与する成分が痕跡量で存在する場合を包含するものとする。ヒストンに関与する成分としては、例えば、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤等を挙げることができる。核初期化因子によるリプログラミングを促進すると言われるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を使用しない場合には、意図しない分化を起こしかねない多能性細胞が誘導されるリスクはより低くなる。
【0111】
10 体細胞の培養
本発明における体細胞の培養は、使用する体細胞の種類に応じた培地、温度、その他の条件を選択し、上記の各種の阻害剤(及び、場合により活性化剤)の存在下において実施すればよい。培地は、公知の培地又は市販の培地から選択することができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、又はこれらを改変した培地に、適切な成分(血清、タンパク質、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質等)を添加して使用することができる。
【0112】
培養条件としては、一般的な細胞培養の条件を選択すればよい。37℃、5%CO2の条件などが例示される。培養中は適切な間隔(好ましくは1日から7日に1回、より好ましくは3日から4日に1回)で培地を交換することが好ましい。線維芽細胞を材料として本発明の方法を実施する場合、37℃、5%CO2の条件では5ないし8日間から3週間で褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞が出現する。使用する体細胞として培養が容易なものを選択することにより、あらかじめ細胞数を増加させた体細胞を褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞に転換することも可能である。従って、スケールアップした褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞の製造も容易である。
【0113】
体細胞の培養には、プレート、ディッシュ、細胞培養用フラスコ、細胞培養用バッグ等の細胞培養容器を使用することができる。なお、細胞培養用バッグとしては、ガス透過性を有するものが好適である。大量の細胞を必要とする場合には、大型培養槽を使用してもよい。培養は開放系又は閉鎖系のどちらでも実施することができるが、得られた褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞のヒトへの投与等を目的とする場合には、閉鎖系で培養を行うことが好ましい。
本発明の方法においては、上記した各種の阻害剤を含む培地において体細胞を培養することにより、一段階の培養によって体細胞から褐色脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、神経系細胞、又は心筋細胞を製造することができる。
【0114】
A 褐色脂肪細胞に係る発明
[1]褐色脂肪細胞を製造する方法
本発明は、ALK5阻害剤の存在下、かつ、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程aを含む、褐色脂肪細胞を製造する方法に関する。
好ましくは、工程aが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
好ましくは、工程aが、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
【0115】
工程aは、特に好ましくは、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である。
(1)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(3)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(4)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びErk阻害剤;
(5)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤;
(6)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤。
【0116】
本発明はさらに、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも一つの存在下で体細胞を培養する工程bを含む褐色脂肪細胞を製造する方法に関する。
【0117】
好ましくは、工程bが、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも二つの存在下で体細胞を培養する工程である。
【0118】
好ましくは、工程bが、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である。
(i)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、cAMP活性化剤;
(ii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、Erk阻害剤;
(iii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;
(iv)cAMP活性化剤と、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(v)cAMP活性化剤と、Erk阻害剤;
(vi)cAMP活性化剤と、ALK5阻害剤;
(vii)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;並びに
(viii)Erk阻害剤と、ALK5阻害剤。
【0119】
好ましくは、工程bが、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、並びに(5)cAMP活性化剤からなる5群から選択される少なくとも三つ(より好ましくは少なくとも四つ)の存在下で体細胞を培養する工程である。
【0120】
本発明はさらに、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(5)cAMP活性化剤、並びに(6)GSK3阻害剤からなる6群から選択される少なくとも五つの存在下で体細胞を培養する工程bを含む褐色脂肪細胞を製造する方法に関する。
【0121】
<2種以上の阻害作用を有する阻害剤>
上記した各種の阻害剤としては、2種類以上の阻害作用を有する阻害剤を使用してもよい。
例えば、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、ALK2及びALK3の両方を阻害するLDN193189を使用することができ、あるいはALK2、ALK3、ALK6及びAMPKを阻害するドルソモルフィンを使用することもできる。即ち、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0122】
また、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤としては、ALK6及びAMPKの両方を阻害するドルソモルフィンを使用することができる。即ち、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
また、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、ALK6、AMPK、ALK2及びALK3を阻害するドルソモルフィンを使用することができる。即ち、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0123】
<体細胞の培養において>
本発明においては、体細胞から褐色脂肪細胞を製造する。デキサメタゾン、インスリン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、ロシグリタゾン、グルココルチコイド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、トリヨードサイロニン(T3とも称する)等は、脂肪細胞への分化の誘導に有効な物質として知られている。褐色脂肪細胞への分化の誘導に有効な物質としては、例えば、分化誘導剤として市販されているものを使用することもできる。本発明においては、上記した物質の存在下において体細胞を培養することが好ましい。
【0124】
好ましくは、デキサメタゾン、インスリン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、及びロシグリタゾンから選択される1種以上、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種を使用することができる。
デキサメタゾンを使用する場合、デキサメタゾンの濃度は特に限定されないが、好ましくは、0.2μmol/L~20μmol/L、好ましくは0.5μmol/L~10μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0125】
インスリンを使用する場合、インスリンの濃度は特に限定されないが、好ましくは、1μg/ml~100μg/ml、好ましくは2μg/ml~50μg/mlの範囲で使用することができる。
3-イソブチル-1-メチルキサンチンを使用する場合、3-イソブチル-1-メチルキサンチンの濃度は特に限定されないが、好ましくは、0.05μmol/L~50μmol/L、好ましくは0.1μmol/L~10μmol/Lの範囲で使用することができる。
ロシグリタゾンを使用する場合、ロシグリタゾンの濃度は特に限定されないが、好ましくは、0.1μmol/L~10μmol/L、好ましくは0.2μmol/L~5μmol/Lの範囲で使用することができる。
【0126】
<褐色脂肪細胞>
上記した本発明の褐色脂肪細胞の製造方法により、褐色脂肪細胞を含有する細胞集団を得ることができる。本発明による褐色脂肪細胞を製造する方法により製造される褐色脂肪細胞も本発明の範囲内である。本発明の方法により製造される褐色脂肪細胞は、最終分化した細胞の他、褐色脂肪細胞に分化することが運命づけられた前駆細胞でもよい。また、本発明の方法により製造される褐色脂肪細胞は、褐色脂肪様細胞として知られる、ベージュ細胞又はブライト細胞でもよい。
【0127】
本発明の方法により製造される褐色脂肪細胞は、例えば、細胞の形態的変化、褐色脂肪細胞の特徴的性質や特異的マーカーを利用して、検出、確認及び分離を行うことができる。
脂肪細胞は、細胞内に脂肪を蓄積する。従って、オイルレッドOを用いた細胞内脂肪の染色によって脂肪細胞を検出することができる。
褐色脂肪細胞の特異的マーカーとしては、UCP1、EVOL3(Elongation of very long chain fatty acid protein 3)、PGC1A( PPAR gamma coactivator 1-alpha)、PRDM16(PRD1-BF1-RIZ1 homologous domain containing 16)、CIDEA(Cell Death-Inducing DFFA-Like Effector A)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。UCP1は、脱共役タンパク質(Uncoupling protein)の一種である。
【0128】
特異的マーカーの検出には、検疫的方法(抗体による検出)を利用できるが、タンパク質分子に関してはそのmRNA量の定量により検出を実施してもよい。褐色脂肪細胞の特異的マーカーを認識する抗体は、本発明の方法により得られた褐色脂肪細胞を単離及び精製する上でも有用である。
【0129】
本発明の方法により製造される褐色脂肪細胞は、例えば、外科治療後の組織修復等のために使用することができる。本発明の方法により製造される褐色脂肪細胞を使用して、組織修復等のための医薬用組成物を製造することができる。また、褐色脂肪細胞の生体への移植や投与は、生体の代謝改善、肥満防止等への効果が期待されている。
【0130】
褐色脂肪細胞を医薬用組成物とする場合には、常法により、褐色脂肪細胞を医薬的に許容される担体と混合するなどして、個体への投与に適した形態の製剤とすればよい。担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)を加えて等張とした注射用蒸留水を挙げることができる。さらに、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
褐色脂肪細胞はさらに、褐色脂肪細胞の機能発揮や生着性向上に有効な他の細胞や成分と組み合わせた組成物とすることもできる。
【0131】
さらに、本発明の方法により製造される褐色脂肪細胞は、褐色脂肪細胞に作用する医薬候補化合物のスクリーニングや医薬候補化合物の安全性評価のために使用することもできる。本発明によれば、一度の操作で多くの褐色脂肪細胞を取得することができることから、細胞のロット差の影響を受けずに、再現性のある研究結果を得ることが可能になる。
【0132】
[2]組成物
本発明はさらに、ALK5阻害剤と、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤とを含む、組成物に関する。
本発明の組成物は、好ましくは、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤を含む。
本発明の組成物は、好ましくは、AMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤をさらに含む。
【0133】
本発明の組成物の具体例としては、下記の何れかの組み合わせを含む組成物を挙げることができる。
(1)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(3)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(4)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びErk阻害剤;
(5)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤;
(6)ALK5阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤。
上記した活性化剤及び阻害剤の具体例及び好ましい例は、本明細書中上記した通りである。
【0134】
本発明はさらに、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、及び(5)cAMP活性化剤からなる群から選択される少なくとも一つ(好ましくは少なくとも二つ、少なくとも三つ、又は少なくとも四つ)を含む、体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物に関する。
【0135】
本発明の上記組成物の具体例としては、下記の何れかを含む組成物が挙げられる。
(i)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、cAMP活性化剤;
(ii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、Erk阻害剤;
(iii)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;
(iv)cAMP活性化剤と、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤;
(v)cAMP活性化剤と、Erk阻害剤;
(vi)cAMP活性化剤と、ALK5阻害剤;
(vii)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤と、ALK5阻害剤;並びに
(viii)Erk阻害剤と、ALK5阻害剤。
【0136】
さらに本発明は、(1)Erk阻害剤、(2)ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(3)ALK5阻害剤、(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤、(5)cAMP活性化剤、及び(6)GSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも五つを含む、褐色脂肪細胞を製造するための組成物に関する。
【0137】
本発明の組成物は、体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための組成物として使用することができる。本発明の組成物はまた、体細胞から褐色脂肪細胞を製造するための培地として使用することもできる。
【0138】
体細胞から褐色脂肪細胞の製造に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を混合して製造した基礎培地に、有効成分として、ALK5阻害剤と、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤とを含有させた培地を例示することができる。上記の有効成分は、褐色脂肪細胞の製造に有効な濃度で含まれていればよく、濃度は当業者が適宜決定することができる。基礎培地は、公知の培地又は市販の培地から選択することができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、又はこれらを改変した培地を、基礎培地として使用することができる。
【0139】
培地にはさらに、本明細書中で上記した公知の培地成分、例えば、血清、タンパク質(アルブミン、トランスフェリン、成長因子等)、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質等を添加してもよい。
【0140】
培地にはさらに、本明細書中で上記した、デキサメタゾン、インスリン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、ロシグリタゾン、グルココルチコイド、ホスホジエステラーゼ阻害剤等の脂肪細胞への分化の誘導に有効な物質を添加してもよい。
【0141】
さらに本発明においては、ALK5阻害剤と、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤とを生体に投与することによって、生体内において体細胞から褐色脂肪細胞を製造することもできる。即ち、本発明によれば、ALK5阻害剤と、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤とを生体に投与することを含む、生体内において体細胞から褐色脂肪細胞を製造する方法が提供される。生体に投与する阻害剤の好ましい組み合わせは、本明細書中に記載した通りである。また、生体としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、及び哺乳動物以外の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が例示されるが、ヒトが特に好ましい。ALK5阻害剤と、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体内の特定部位に投与することによって、上記特定部位において、体細胞から褐色脂肪細胞を製造することができる。
【0142】
B 骨芽細胞に係る発明
[1]骨芽細胞を製造する方法
本発明は、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下、cAMP活性化剤の存在下、かつErk阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程cを含む骨芽細胞を製造する方法に関する。
好ましくは、工程cが、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
好ましくは、工程cが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤下で体細胞を培養する工程である。
【0143】
工程cは、特に好ましくは、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である。
(1)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤及びcAMP活性化剤の存在下、かつErk阻害剤の非存在下;
(2)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びcAMP活性化剤の存在下、かつErk阻害剤の非存在下。
【0144】
<Erk阻害剤について>
本発明においては、Erk阻害剤の非存在下で体細胞を培養する。Erk阻害剤の非存在下とは、Erk阻害剤が実質的に存在しないことを意味し、Erk阻害剤が全く存在しない場合だけでなく、Erk阻害剤が痕跡量で存在する場合を包含するものとする。即ち、Erkの活性を阻害する物質、例えば、抗Erk抗体やErk阻害剤のようなErkシグナル阻害手段の非存在下で体細胞を培養する。また、Erkの活性化に関わる酵素、例えば、ErkキナーゼやErkキナーゼキナーゼ等を阻害する手段の非存在下で体細胞を培養する。
【0145】
<2種以上の阻害作用を有する阻害剤>
上記した各種の阻害剤としては、2種類以上の阻害作用を有する阻害剤を使用してもよい。
例えば、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、ALK2及びALK3の両方を阻害するLDN193189を使用することができ、あるいはALK2、ALK3、ALK6及びAMPKを阻害するドルソモルフィンを使用することもできる。即ち、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0146】
また、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤としては、ALK6及びAMPKの両方を阻害するドルソモルフィンを使用することができる。即ち、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害の存在下で体細胞を培養することは、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0147】
<その他の好ましい条件>
本発明においては特に限定されないが、工程cにおいて、成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で体細胞を培養することが好ましい。成長因子及び/又はサイトカインの非存在下とは、成長因子及び/又はサイトカインが実質的に存在しないことを意味し、成長因子及び/又はサイトカインが全く存在しない場合だけでなく、成長因子及び/又はサイトカインが痕跡量で存在する場合を包含するものとする。成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で体細胞を培養することの利点としては、安価に骨芽細胞を製造できることが挙げられる。
成長因子とは、生体内において特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性タンパク質の総称である。サイトカインとは、免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達を担う。サイトカインとしては、免疫や炎症に関係したものが多く、細胞の増殖、分化、細胞死、又は創傷治癒に関係するものもある。なお、成長因子にはサイトカインに含まれるものもあり、互いに排他的な概念ではない。
【0148】
成長因子としては、上皮成長因子(Epidermal Growth Factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming Growth Factor:TGF)、神経成長因子(Nerve Growth Factor:NGF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular Endothelial Growth Factor:VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor:bFGF)、及び肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor:HGF)等が挙げられる。
【0149】
サイトカインとしては、インターロイキン(Interleukin:IL)、インターフェロン(Interferon:IFN)、及びレプチン(leptin)等が挙げられる。
【0150】
<体細胞の培養において>
本発明においては、体細胞から骨芽細胞を製造する。デキサメタゾン、ハイドロコルチゾン、アスコルビン酸、β-グリセロリン酸等は、骨芽細胞への分化の誘導に有効な物質として知られている。骨芽細胞への分化の誘導に有効な物質としては、例えば、分化誘導剤として市販されているものを使用することもできる。本発明においては、上記した物質の存在下において体細胞を培養することが好ましい。
【0151】
<骨芽細胞>
上記した本発明の骨芽細胞の製造方法により、骨芽細胞を含有する細胞集団を得ることができる。本発明による骨芽細胞を製造する方法により製造される骨芽細胞も本発明の範囲内である。本発明の方法で製造される骨芽細胞は、最終分化した細胞の他、骨芽細胞に分化することが運命づけられた前駆細胞でもよい。
【0152】
本発明の方法で製造される骨芽細胞は、例えば、細胞の形態的変化、骨芽細胞の特徴的性質や特異的マーカーを利用して、検出、確認及び分離を行うことができる。
骨芽細胞の特異的マーカーとしては、骨型アルカリホスファターゼ及びオステオカルシンが知られており、これを指標として骨芽細胞を検出することができる。また、骨芽細胞は細胞外にカルシウムを沈着させる性質を持つので、von Kossa染色又はアリザリンレッド染色により細胞外のカルシウムを染色することによって骨芽細胞を検出することもできる。
【0153】
特異的マーカーの検出には、検疫的方法(抗体による検出)を利用できるが、タンパク質分子に関してはそのmRNA量の定量により検出を実施してもよい。骨芽細胞の特異的マーカーを認識する抗体は、本発明の方法により得られた骨芽細胞を単離及び精製する上でも有用である。
【0154】
本発明の方法で製造される骨芽細胞は、例えば、生体において数の減少もしくは機能の低下があった細胞を補充する再生医療に有用である。本発明の方法で製造される骨芽細胞を単独で、又は他の細胞や基材(生体高分子等)と組み合わせて形成させた組織を治療に使用することもできる。本発明の方法で製造される骨芽細胞を使用して、組織修復等のための医薬用組成物を製造することができる。
【0155】
骨芽細胞を医薬用組成物とする場合には、常法により、骨芽細胞を医薬的に許容される担体と混合するなどして、個体への投与に適した形態の製剤とすればよい。担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)を加えて等張とした注射用蒸留水を挙げることができる。さらに、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
骨芽細胞はさらに、骨芽細胞の機能発揮や生着性向上に有効な他の細胞や成分と組み合わせた組成物とすることもできる。
【0156】
さらに、本発明の方法で製造される骨芽細胞は、骨芽細胞に作用する医薬候補化合物のスクリーニングや医薬候補化合物の安全性評価のために使用することもできる。本発明によれば、一度の操作で多くの骨芽細胞を取得することができることから、細胞のロット差の影響を受けずに、再現性のある研究結果を得ることが可能になる。
【0157】
[2]組成物
本発明はさらに、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、及びcAMP活性化剤を含む、組成物に関する。
本発明の組成物は、好ましくは、少なくともALK2阻害剤及びALK3阻害剤を含む。
本発明の組成物は、好ましくは、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤をさらに含む。
【0158】
本発明の組成物の具体例としては、下記の何れかの組み合わせを含む組成物を挙げることができる。
(1)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤及びcAMP活性化剤;
(2)ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びcAMP活性化剤。
上記した活性化剤及び阻害剤の具体例及び好ましい例は、本明細書中上記した通りである。
【0159】
本発明の組成物は、体細胞から骨芽細胞を製造するための組成物として使用することができる。本発明の組成物はまた、体細胞から骨芽細胞を製造するための培地として使用することもできる。
【0160】
体細胞から骨芽細胞の製造に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を混合して製造した基礎培地に、有効成分として、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、及びcAMP活性化剤を含有させた培地を例示することができる。上記の有効成分は、骨芽細胞の製造に有効な濃度で含まれていればよく、濃度は当業者が適宜決定することができる。基礎培地は、公知の培地又は市販の培地から選択することができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、又はこれらを改変した培地を、基礎培地として使用することができる。
【0161】
培地にはさらに、本明細書中で上記した公知の培地成分、例えば、血清、タンパク質(アルブミン、トランスフェリン、成長因子等)、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質等を添加してもよい。
【0162】
培地にはさらに、本明細書中で上記した、デキサメタゾン、ハイドロコルチゾン、アスコルビン酸、β-グリセロリン酸等の骨芽細胞への分化の誘導に有効な物質を添加してもよい。
【0163】
本発明の方法及び組成物としては、SB-431524(終濃度2μmol/L)、LDN-193189(終濃度1μmol/L)、CHIR99021(終濃度1μmol/L)、ピフィスリン-α(終濃度5μmol/L)並びにフォルスコリン(終濃度7.5μmol/L)を含むD-MEM(High Glucose)withL-Glutamate,Phenol Red,Sodium Pyruvate(和光純薬工業社製)に、市販の骨芽細胞分化誘導剤(Osteoblast-Inducer Reagent;タカラバイオ社製)を添加した培地(培地100mLあたりアスコルビン酸を1mL、ハイドロコルチゾンを200μL、β-グリセロリン酸を2mL添加したもの)を使用する場合を除いたものでもよい。
【0164】
本発明の方法及び組成物としては、SB-431524、LDN-193189、CHIR99021、ピフィスリン-α並びにフォルスコリンを含むD-MEMに、骨芽細胞分化誘導剤を添加した培地を使用する場合を除いたものでもよい。
【0165】
本発明の方法及び組成物としては、SB-431524、LDN-193189、CHIR99021、ピフィスリン-α並びにフォルスコリンを含む培地に、骨芽細胞分化誘導剤を添加した培地を使用する場合を除いたものでもよい。
【0166】
さらに本発明においては、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、及びcAMP活性化剤を生体に投与することによって、生体内において体細胞から骨芽細胞を製造することもできる。即ち、本発明によれば、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、及びcAMP活性化剤を生体に投与することを含む、生体内において体細胞から骨芽細胞を製造する方法が提供される。生体に投与する阻害剤の好ましい組み合わせは、本明細書中に記載した通りである。また、生体としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、及び哺乳動物以外の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が例示されるが、ヒトが特に好ましい。ALK5阻害剤、GSK3阻害剤、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、及びcAMP活性化剤を生体内の特定部位に投与することによって、上記特定部位において、体細胞から骨芽細胞を製造することができる。
【0167】
C 軟骨細胞に係る発明
[1]軟骨細胞を製造する方法
本発明は、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下、Erk阻害剤の非存在下、かつALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程dを含む軟骨細胞を製造する方法に関する。
好ましくは、工程dが、少なくともALK2阻害剤及びALK3阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
【0168】
好ましくは、工程dが、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤の存在下、Erk阻害剤の非存在下、かつALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の非存在下で体細胞を培養する工程である。
【0169】
<ALK6阻害剤、AMPK阻害剤について>
本発明においては、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の非存在下で体細胞を培養する。
ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の非存在下とは、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤が実質的に存在しないことを意味し、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤が全く存在しない場合だけでなく、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤が痕跡量で存在する場合を包含するものとする。
【0170】
本発明の一例においては、上記したようなALK6阻害剤ないしAMPK阻害剤の非存在下で体細胞を培養することができる。
【0171】
<Erk阻害剤について>
本発明においては、Erk阻害剤の非存在下で体細胞を培養する。Erk阻害剤の非存在下とは、Erk阻害剤が実質的に存在しないことを意味し、Erk阻害剤が全く存在しない場合だけでなく、Erk阻害剤が痕跡量で存在する場合を包含するものとする。即ち、Erkの活性を阻害する物質、例えば、抗Erk抗体やErk阻害剤のようなErkシグナル阻害手段の非存在下で体細胞を培養する。また、Erkの活性化に関わる酵素、例えば、ErkキナーゼやErkキナーゼキナーゼ等を阻害する手段の非存在下で体細胞を培養する。
【0172】
<2種以上の阻害作用を有する阻害剤>
上記した各種の阻害剤としては、2種類以上の阻害作用を有する阻害剤を使用してもよい。
例えば、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、ALK2及びALK3の両方を阻害するLDN193189を使用することができる。
【0173】
<体細胞の培養において>
本発明においては、体細胞から軟骨細胞を製造する。インスリン、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸、ハイドロコルチゾン、TGF-β(Transforming growth factor-β)、デキサメタゾン等は、軟骨細胞への分化の誘導に有効な物質として知られている。軟骨細胞への分化の誘導に有効な物質としては、例えば、分化誘導剤として市販されているものを使用することもできる。本発明においては、上記した物質の存在下において体細胞を培養することが好ましい。
【0174】
<軟骨細胞>
上記した本発明の軟骨細胞の製造方法により、軟骨細胞を含有する細胞集団を得ることができる。本発明による軟骨細胞を製造する方法により製造される軟骨細胞も本発明の範囲内である。本発明の方法で製造される軟骨細胞は、最終分化した細胞の他、軟骨細胞に分化することが運命づけられた前駆細胞でもよい。
【0175】
本発明の方法で製造される軟骨細胞は、例えば、細胞の形態的変化、軟骨細胞の特徴的性質や特異的マーカーを利用して、検出、確認及び分離を行うことができる。
軟骨細胞は、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸のような酸性ムコ多糖を含んでいることから、酸性ムコ多糖の染色に使用されるアルシアンブルー(Alcian Blue)で染色することにより、軟骨細胞を検出することができる。また、軟骨組織の染色法として知られるサフラニンO(Safranin O)染色によって軟骨細胞を検出することができる。さらに、軟骨細胞で高発現しているII型コラーゲン及びアグリカンも軟骨細胞の確認に有用な特異的マーカーである。
【0176】
特異的マーカーの検出には、検疫的方法(抗体による検出)を利用できるが、タンパク質分子に関してはそのmRNA量の定量により検出を実施してもよい。軟骨細胞の特異的マーカーを認識する抗体は、本発明の方法により得られた軟骨細胞を単離及び精製する上でも有用である。
【0177】
本発明の方法で製造される軟骨細胞は、例えば、生体において数の減少もしくは機能の低下があった細胞を補充する再生医療に有用である。本発明の方法で製造される軟骨細胞を単独で、又は他の細胞や基材(生体高分子等)と組み合わせて形成させた組織を治療に使用することもできる。例えば、軟骨細胞を足場物質(細胞外マトリックス成分など)と組み合わせて形成させた組織を、患者に移植することができる。本発明の方法で製造される軟骨細胞を使用して、組織修復等のための医薬用組成物を製造することができる。例えば、軟骨細胞は、外傷や老化に伴う関節損傷の治療や関節疾患の治療又は症状の軽減を目的として、患者へ投与してもよい。
【0178】
軟骨細胞を医薬用組成物とする場合には、常法により、軟骨細胞を医薬的に許容される担体と混合するなどして、個体への投与に適した形態の製剤とすればよい。担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)を加えて等張とした注射用蒸留水を挙げることができる。さらに、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
軟骨細胞はさらに、軟骨細胞の機能発揮や生着性向上に有効な他の細胞や成分と組み合わせた組成物とすることもできる。
【0179】
さらに、本発明の方法で製造される軟骨細胞は、軟骨細胞に作用する医薬候補化合物のスクリーニングや医薬候補化合物の安全性評価のために使用することもできる。本発明によれば、一度の操作で多くの軟骨細胞を取得することができることから、細胞のロット差の影響を受けずに、再現性のある研究結果を得ることが可能になる。
【0180】
[2]組成物
本発明はさらに、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を含む、体細胞から軟骨細胞を製造するための組成物に関する。本発明の上記組成物は、好ましくは少なくともALK2阻害剤及びALK3阻害剤を含む。
本発明はさらに、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤を含む、組成物に関し、上記組成物は、好ましくは、体細胞から軟骨細胞を製造するための組成物である。
上記した活性化剤及び阻害剤の具体例及び好ましい例は、本明細書中上記した通りである。
【0181】
本発明の組成物は、体細胞から軟骨細胞を製造するための組成物として使用することができる。本発明の組成物はまた、体細胞から軟骨細胞を製造するための培地として使用することもできる。
【0182】
体細胞から軟骨細胞の製造に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を混合して製造した基礎培地に、有効成分として、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を含有させた培地を例示することができる。上記の有効成分は、軟骨細胞の製造に有効な濃度で含まれていればよく、濃度は当業者が適宜決定することができる。基礎培地は、公知の培地又は市販の培地から選択することができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、又はこれらを改変した培地を、基礎培地として使用することができる。
【0183】
培地にはさらに、本明細書中で上記した公知の培地成分、例えば、血清、タンパク質(アルブミン、トランスフェリン、成長因子等)、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質等を添加してもよい。
【0184】
培地にはさらに、本明細書中で上記した、インスリン、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸、ハイドロコルチゾン、TGF-β(Transforming growth factor-β)、デキサメタゾン等の軟骨細胞への分化の誘導に有効な物質を添加してもよい。
【0185】
本発明の方法及び組成物としては、SB-431524(終濃度2μmol/L)、LDN-193189(終濃度1μmol/L)、CHIR99021(終濃度1μmol/L)、ピフィスリン-α(終濃度5μmol/L)、フォルスコリン(終濃度7.5μmol/L)、Insulin-Transferin-Selenium(終濃度1%)、アスコルビン酸-2-リン酸(終濃度50μg/ml)、デキサメタゾン(終濃度100nmol/L)、TGF-β3(終濃度10ng/ml)、L-プロリン(終濃度40μg/ml)、Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製;終濃度1×)を含むD-MEM、High Glucose、Pyruvate(Thermo Fisher Scientific社製)を使用する場合を除いたものでもよい。
【0186】
本発明の方法及び組成物としては、SB-431524、LDN-193189、CHIR99021、ピフィスリン-α、フォルスコリン、Insulin-Transferin-Selenium、アスコルビン酸-2-リン酸、デキサメタゾン、TGF-β3、L-プロリン、Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製)を含むD-MEMを使用する場合を除いたものでもよい。
【0187】
本発明の方法及び組成物としては、SB-431524、LDN-193189、CHIR99021、ピフィスリン-α、フォルスコリン、Insulin-Transferin-Selenium、アスコルビン酸-2-リン酸、デキサメタゾン、TGF-β3、L-プロリン、Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製)を含む培地を使用する場合を除いたものでもよい。
【0188】
さらに本発明においては、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体に投与することによって、生体内において体細胞から軟骨細胞を製造することもできる。即ち、本発明によれば、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体に投与することを含む、生体内において体細胞から軟骨細胞を製造する方法が提供される。生体に投与する阻害剤の好ましい組み合わせは、本明細書中に記載した通りである。また、生体としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、及び哺乳動物以外の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が例示されるが、ヒトが特に好ましい。cAMP活性化剤、ALK5阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤及びGSK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体内の特定部位に投与することによって、上記特定部位において、体細胞から軟骨細胞を製造することができる。
【0189】
D 神経系細胞に係る発明
[1]神経系細胞を製造する方法
本発明は、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程eを含む、神経系細胞を製造する方法に関する。
好ましくは、工程eが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
好ましくは、工程eが、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
【0190】
工程eは、特に好ましくは、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(3)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、及びErk阻害剤;
(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びGSK3阻害剤。
【0191】
<2種以上の阻害作用を有する阻害剤>
上記した各種の阻害剤としては、2種類以上の阻害作用を有する阻害剤を使用してもよい。
例えば、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、ALK2及びALK3の両方を阻害するLDN193189を使用することができ、あるいはALK2、ALK3、ALK6及びAMPKを阻害するドルソモルフィンを使用することもできる。即ち、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0192】
また、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤としては、ALK6及びAMPKの両方を阻害するドルソモルフィンを使用することができる。即ち、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0193】
<その他の好ましい条件>
本発明においては特に限定されないが、工程eにおいて、成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で体細胞を培養することが好ましい。成長因子及び/又はサイトカインの非存在下とは、成長因子及び/又はサイトカインが実質的に存在しないことを意味し、成長因子及び/又はサイトカインが全く存在しない場合だけでなく、成長因子及び/又はサイトカインが痕跡量で存在する場合を包含するものとする。成長因子及び/又はサイトカインの非存在下で体細胞を培養することの利点としては、安価に神経系細胞を製造できることが挙げられる。
成長因子とは、生体内において特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性タンパク質の総称である。サイトカインとは、免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達を担う。サイトカインとしては、免疫や炎症に関係したものが多く、細胞の増殖、分化、細胞死、又は創傷治癒に関係するものもある。なお、成長因子にはサイトカインに含まれるものもあり、互いに排他的な概念ではない。
【0194】
成長因子としては、上皮成長因子(Epidermal Growth Factor:EGF)、インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor:IGF)、トランスフォーミング成長因子(Transforming Growth Factor:TGF)、神経成長因子(Nerve Growth Factor:NGF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular Endotherial Growth Factor:VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor:bFGF)、及び肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor:HGF)等が挙げられる。
【0195】
サイトカインとしては、インターロイキン(Interleukin:IL)、インターフェロン(Interferon:IFN)、及びレプチン(leptin)等が挙げられる。
【0196】
<体細胞の培養において>
本発明においては、体細胞から神経系細胞を製造する。脳由来神経栄養因子(BDNF;Brain-Derived Neurotrophic Factor)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF:Glial cell-Derived Neurotrophic Factor)、cAMP、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸等は、神経系細胞への分化の誘導に有効な物質として知られている。神経系細胞への分化の誘導に有効な物質としては、例えば、分化誘導剤として市販されているものを使用することもできる。本発明においては、上記した物質の存在下において体細胞を培養してもよい。
【0197】
<神経系細胞>
上記した本発明の神経系細胞の製造方法により、神経系細胞を含有する細胞集団を得ることができる。本発明による神経系細胞を製造する方法により製造される神経系細胞も本発明の範囲内である。本発明の方法で製造される神経系細胞としては、特に限定されないが、神経細胞(ニューロン)、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)、シュワン細胞などが例示される。上記した最終分化した細胞の他、神経系細胞に分化することが運命づけられた前駆細胞でもよい。
【0198】
本発明の方法で製造される神経系細胞は、例えば、細胞の形態的変化により確認することができる。神経系細胞は、細胞の種類によって特徴的な形態をとることから、培養前後の細胞の形態を比較することによって神経系細胞の存在を知ることができる。また、神経系細胞に特徴的な分子、例えば、酵素、レセプター又は低分子化合物等を検出して、神経系細胞を確認することもできる。神経系細胞に特徴的な分子としては、β3-チューブリン、シナプシンI、ベジクル型グルタミン酸トランスポーター(vesicular glutamate transporter:vGULT)、微小管関連タンパク質(microtubule-associated protein:MAP)2、γ-アミノ酪酸(GABA)、チロシン水酸化酵素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0199】
上記分子の検出には、検疫的方法(抗体による検出)を利用できるが、タンパク質分子に関してはそのmRNA量の定量により検出を実施してもよい。神経系細胞に特徴的な分子を認識する抗体は、本発明の方法により得られた神経系細胞を単離及び精製する上でも有用である。
【0200】
本発明の方法で製造される神経系細胞は、例えば、神経系疾患の治療に有用である。神経系疾患としては、脊髄損傷、脳血管障害(脳梗塞等)、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法で製造される神経系細胞を使用して、神経系疾患の治療のための医薬用組成物を製造することができる。
【0201】
神経系細胞を医薬用組成物とする場合には、常法により、神経系細胞を医薬的に許容される担体と混合するなどして、個体への投与に適した形態の製剤とすればよい。担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)を加えて等張とした注射用蒸留水を挙げることができる。さらに、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
神経系細胞はさらに、神経系細胞の機能発揮や生着性向上に有効な他の細胞や成分と組み合わせた組成物とすることもできる。
【0202】
さらに、本発明の方法で製造される神経系細胞は、神経系細胞に作用する医薬候補化合物のスクリーニングや医薬候補化合物の安全性評価のために使用することもできる。本発明によれば、一度の操作で多くの神経系細胞を取得することができることから、細胞のロット差の影響を受けずに、再現性のある研究結果を得ることが可能になる。
【0203】
[2]組成物
本発明はさらに、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を含む、体細胞から神経系細胞を製造するための組成物に関する。上記組成物は、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤を含むものでもよい。
【0204】
本発明はさらに、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの活性化剤及び/又は阻害剤を含む、組成物に関する。
【0205】
本発明の組成物の具体例としては、下記の何れかの組み合わせを含む組成物を挙げることができる。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(3)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、及びErk阻害剤;
(4)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びGSK3阻害剤。
【0206】
上記した活性化剤及び阻害剤の具体例及び好ましい例は、本明細書中上記した通りである。
【0207】
本発明の組成物は、体細胞から神経系細胞を製造するための組成物として使用することができる。本発明の組成物はまた、体細胞から神経系細胞を製造するための培地として使用することもできる。
【0208】
体細胞から神経系細胞の製造に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を混合して製造した基礎培地に、有効成分として、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を含有させた培地を例示することができる。上記の有効成分は、神経系細胞の製造に有効な濃度で含まれていればよく、濃度は当業者が適宜決定することができる。基礎培地は、公知の培地又は市販の培地から選択することができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、又はこれらを改変した培地を、基礎培地として使用することができる。
【0209】
培地にはさらに、本明細書中で上記した公知の培地成分、例えば、血清、タンパク質(アルブミン、トランスフェリン、成長因子等)、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質等を添加してもよい。
【0210】
培地にはさらに、本明細書中で上記した、脳由来神経栄養因子(BDNF;Brain-Derived Neurotrophic Factor)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF:Glial cell-Derived Neurotrophic Factor)、cAMP、アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸等の神経系細胞への分化の誘導に有効な物質を添加してもよい。
【0211】
さらに本発明においては、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体に投与することによって、生体内において体細胞から神経系細胞を製造することもできる。即ち、本発明によれば、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体に投与することを含む、生体内において体細胞から神経系細胞を製造する方法が提供される。生体に投与する阻害剤の好ましい組み合わせは、本明細書中に記載した通りである。また、生体としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、及び哺乳動物以外の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が例示されるが、ヒトが特に好ましい。ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤を生体内の特定部位に投与することによって、上記特定部位において、体細胞から神経系細胞を製造することができる。
【0212】
E 心筋細胞に係る発明
[1]心筋細胞を製造する方法
本発明は、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下、かつcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程fを含む、心筋細胞を製造する方法に関する。
好ましくは、工程fが、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤の存在下、かつcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
好ましくは、工程fが、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
好ましくは、工程fが、GSK3阻害剤の存在下で体細胞を培養する工程である。
【0213】
工程fは、特に好ましくは、下記の何れかの存在下で体細胞を培養する工程である。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤。
【0214】
<2種以上の阻害作用を有する阻害剤>
上記した各種の阻害剤としては、2種類以上の阻害作用を有する阻害剤を使用してもよい。
例えば、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤としては、ALK2及びALK3の両方を阻害するLDN193189を使用することができ、あるいはALK2、ALK3、ALK6及びAMPKを阻害するドルソモルフィンを使用することもできる。即ち、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、LDN193189及び/又はドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0215】
また、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤としては、ALK6及びAMPKの両方を阻害するドルソモルフィンを使用することができる。即ち、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤の存在下で体細胞を培養することは、ドルソモルフィンの存在下で体細胞を培養することにより達成してもよい。
【0216】
<その他の好ましい条件>
本発明においては特に限定されないが、工程fにおいて、ALK4阻害の剤非存在下で体細胞を培養することが好ましい。ALK4阻害剤の非存在下とは、ALK4阻害剤が実質的に存在しないことを意味し、ALK4阻害剤が全く存在しない場合だけでなく、ALK4阻害剤が痕跡量で存在する場合を包含するものとする。ALK4は受容体セリンスレオニンキナーゼのサブファミリーメンバーであり、アクチビンによるシグナル伝達を媒介する。ALK4は、脊椎動物の発生段階においてCripto存在下でNodalシグナル伝達を媒介する。
本明細書でALK5阻害剤の一つとして例示したSB431542(和光純薬工業製)は、ALK4阻害作用も有しているが、本発明においては、ALK5阻害剤としては、ALK4阻害作用を有さない化合物を使用する方が好ましい。
【0217】
<体細胞の培養において>
本発明においては、体細胞から心筋細胞を製造する。5-アザシチジン、TGF-β(Transforming growth factor-β)、アンジオテンシンII、BMP-2(Bone Morphogenetic Protein 2)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)等は、心筋細胞への分化の誘導に有効な物質として知られている。心筋細胞への分化の誘導に有効な物質としては、例えば、分化誘導剤として市販されているものを使用することもできる。本発明においては、上記した物質の存在下において体細胞を培養することが好ましい。
【0218】
<心筋細胞>
上記した本発明の心筋細胞の製造方法により、心筋細胞を含有する細胞集団を得ることができる。本発明による心筋細胞を製造する方法により製造される心筋細胞も本発明の範囲内である。本発明の方法で製造される心筋細胞は、最終分化した細胞の他、心筋細胞に分化することが運命づけられた前駆細胞でもよい。
【0219】
本発明の方法で製造される心筋細胞は、例えば、細胞の形態的変化、心筋細胞の特徴的性質や特異的マーカーを利用して、検出、確認及び分離を行うことができる。
心筋細胞は、自律的に拍動するという他の細胞にない特徴を有しており、顕微鏡下での観察により他の細胞と区別することができる。また、心筋細胞の特異的マーカーとしては、心筋トロポニンC(cTnT)、αミオシン重鎖、αアクチン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0220】
特異的マーカーの検出には、検疫的方法(抗体による検出)を利用できるが、タンパク質分子に関してはそのmRNA量の定量により検出を実施してもよい。心筋細胞の特異的マーカーを認識する抗体は、本発明の方法により得られた心筋細胞を単離及び精製する上でも有用である。
【0221】
本発明の方法で製造される心筋細胞は、例えば、組織修復等のために使用することができる。本発明の方法で製造される心筋細胞を使用して、組織修復等のための医薬用組成物を製造することができる。心不全又は心筋梗塞等の心疾患の治療手段として、心筋細胞の製造方法、及び心筋細胞の移植方法の開発が行なわれている。例えば、心筋細胞と内皮細胞等を積層化することにより形成された心筋シートは、優れた治療効果と生着性を示すことから、重度の心不全の治療への利用が期待されている。
【0222】
心筋細胞を医薬用組成物とする場合には、常法により、心筋細胞を医薬的に許容される担体と混合するなどして、個体への投与に適した形態の製剤とすればよい。担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウム等)を加えて等張とした注射用蒸留水を挙げることができる。さらに、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤等を配合してもよい。
心筋細胞はさらに、心筋細胞の機能発揮や生着性向上に有効な他の細胞や成分と組み合わせた組成物とすることもできる。
【0223】
さらに、本発明の方法で製造される心筋細胞は、心筋細胞に作用する医薬候補化合物のスクリーニングや医薬候補化合物の安全性評価のために使用することもできる。心筋細胞は、医薬候補化合物の心毒性を評価するための重要なツールである。本発明によれば、一度の操作で多くの心筋細胞を取得することができることから、細胞のロット差の影響を受けずに、再現性のある研究結果を得ることが可能になる。
【0224】
[2]組成物
本発明はさらに、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を含む、組成物に関する。
本発明の組成物は、好ましくは、ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を含む。
本発明の組成物は、好ましくは、ALK2阻害剤及びALK3阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤をさらに含む。
本発明の組成物は、好ましくは、GSK3阻害剤をさらに含む。
【0225】
本発明の組成物の具体例としては、下記の何れかの組み合わせを含む組成物を挙げることができる。
(1)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤、GSK3阻害剤及びErk阻害剤;
(2)ALK6阻害剤、AMPK阻害剤、cAMP活性化剤、ALK2阻害剤、ALK3阻害剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤。
上記した活性化剤及び阻害剤の具体例及び好ましい例は、本明細書中上記した通りである。
【0226】
本発明の組成物は、体細胞から心筋細胞を製造するための組成物として使用することができる。本発明の組成物はまた、体細胞から心筋細胞を製造するための培地として使用することもできる。
【0227】
体細胞から心筋細胞の製造に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を混合して製造した基礎培地に、有効成分として、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤とを含有させた培地を例示することができる。上記の有効成分は、心筋細胞の製造に有効な濃度で含まれていればよく、濃度は当業者が適宜決定することができる。基礎培地は、公知の培地又は市販の培地から選択することができる。例えば、一般的な培地であるMEM(最少必須培地)、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM/F12、又はこれらを改変した培地を、基礎培地として使用することができる。
【0228】
培地にはさらに、本明細書中で上記した公知の培地成分、例えば、血清、タンパク質(アルブミン、トランスフェリン、成長因子等)、アミノ酸、糖類、ビタミン類、脂肪酸類、抗生物質等を添加してもよい。
【0229】
培地にはさらに、本明細書中で上記した、心筋細胞への分化の誘導に有効な物質を添加してもよい。
【0230】
さらに本発明においては、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を生体に投与することによって、生体内において体細胞から心筋細胞を製造することもできる。即ち、本発明によれば、ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を生体に投与することを含む、生体内において体細胞から心筋細胞を製造する方法が提供される。生体に投与する阻害剤の好ましい組み合わせは、本明細書中に記載した通りである。また、生体としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、及び哺乳動物以外の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類等)が例示されるが、ヒトが特に好ましい。ALK6阻害剤及びAMPK阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つの阻害剤、並びにcAMP活性化剤、ALK5阻害剤及びErk阻害剤を生体内の特定部位に投与することによって、上記特定部位において、体細胞から心筋細胞を製造することができる。
【実施例】
【0231】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0232】
実施例A:褐色脂肪細胞の製造1
<ヒト線維芽細胞からの褐色脂肪細胞の誘導>
(1)ヒト線維芽細胞
材料としたヒト線維芽細胞はDSファーマバイオメディカル株式会社から購入した。38才のヒト皮膚に由来する線維芽細胞である。
【0233】
(2)ヒト線維芽細胞からの褐色脂肪細胞への直接誘導
ヒト線維芽細胞を35mmディッシュに8×104個ずつ播種し、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM high glucose培地(和光純薬工業製)で、37℃、5%CO2条件下で2日間培養した。なおDMEMは、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)を示す。
【0234】
上記のヒト線維芽細胞のディッシュの培地をインスリン(終濃度10μg/ml)、デキサメタゾン(終濃度2.5μmol/L)、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(終濃度0.5mmol/L)、ロシグリタゾン(終濃度1μmol/L)、及び表1に従って添加した低分子化合物を含むDMEM(High Glucose)with L-Glutamine Phenol Red,Sodium Pyruvate(和光純薬工業製)に培地を交換した。その後、3日毎に同組成の培地へ培地交換を行いながら、37℃、5% CO2条件下で培養した。表1に記載の化合物の詳細は、本明細書中上記の通りである。
【0235】
【0236】
(3)褐色脂肪細胞の評価
上記の(2)に従って培養した結果、培養開始6日後から脂肪細胞様の細胞が出現した。培養開始21日後に細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定した後、免疫染色を行った。染色には抗UCP1抗体(ab10983、abcam社製;400倍希釈で使用)を使用した。結果を
図1に示す。図中、上段は免疫染色の結果であり、青がDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)による核染色、緑がUCP-1の染色結果を示す。なお、
図1はモノクロであるため青色と緑色は表示されないが、
図1のオリジナル写真では青色と緑色が表示される。下段は同視野内の位相差顕微鏡像を示す。
【0237】
図1に示されるとおり、複数の低分子化合物を添加して培養することで褐色脂肪細胞のマーカーであるUCP-1陽性の細胞が出現することがわかる。さらに褐色脂肪細胞への分化には、TGF阻害剤であるSB431542、及びBMP阻害剤のうち、ALK6阻害能、及びAMPK阻害能を有するドルソモルフィンが好ましいことが分かる。
【0238】
実施例B:褐色脂肪細胞の製造2
化合物の略号は以下を示す。
G:CHIR99021
M:PD0325901
S:SB431542
L:LDN193189
F:フォルスコリン
D:ドルソモルフィン
Ro:ロシグリタゾン
【0239】
なお、5Cとは、G、M、S、L及びFの5種の組み合わせを意味する。
5CDとは、5CにDを追加したものを意味する、
5CDRoとは、5CにDとRoを追加したものを意味する。
5CDRo-Gとは、5CDRoからGを除外したものを意味する。他の表記も上記と同様の意味を有する。
【0240】
<方法>
(細胞培養)
ヒト皮膚線維芽細胞は、DSファーマバイオメディカル株式会社から購入した。細胞情報は下記表に記載する。
【0241】
【0242】
約1.5x105個の細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)(HyClone,Utah,USA)及びペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を添加したhigh-glucose DMEM培地(11995-065,Gibco,MA,USA)を含む35mmディッシュに播種した。
【0243】
(ヒト線維芽細胞から褐色脂肪細胞への直接転換)
各ヒト線維芽細胞が80-90%コンフルエントに達した後に、培地を変更して褐色脂肪細胞への直接転換を開始した。使用した脂肪細胞培地は、high-glucose DMEM培地(043-30085,和光純薬工業株式会社)に、アスコルビン酸、ビオチン、パントテン酸、トリヨードチロニン、オクタン酸、インスリン、デキサメタゾン、IBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン)、FBS及びペニシリン/ストレプトマイシンを含む添加試薬(MK425,タカラバイオ株式会社)を添加して調製した。低分子化合物は全て和光純薬工業株式会社から購入し、以下の最終濃度で脂肪細胞培地に添加した。CHIR99021(1μM)、PD0325901(1μM)、SB431542(2μM)、LDN193189(1μM)、フォルスコリン(7.5μM)、ピフィスリンα(pifithrin-α)(5μM)、ドルソモルフィン(1μM)、及びロシグリタゾン(rosiglitazone)(1μM)。ヒト線維芽細胞は、表示した各化合物を含む脂肪細胞培地中で3週間培養した。培地は3日毎に交換した。細胞は、ロシグリタゾン(1μM)のみを含む脂肪細胞培地中でさらに1週間培養して、化学的に誘導した褐色脂肪細胞様細胞を成熟させた。
【0244】
(免疫染色)
免疫細胞化学は、既報の通り行った(Dai P,et al.J Clin Biochem Nutr.2015;56(3):166-70)。先ず、細胞を2%パラホルムアルデヒド(ナカライテスク社)で固定した。リン酸緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄後、細胞を0.1%Triton X-100を含有するPBSで10分間インキュベートした。次いで、細胞を、3%スキムミルクを含有するPBSにより室温で1時間ブロッキングした。UCP-1抗体(ab10983,Abcam,Cambridge,UK)をブロッキング溶液で1/500に希釈した。細胞を抗体と一晩4℃でインキュベートした。PBSで3回洗浄後、細胞をAlexa Fluor 488 Donkey anti-Rabbit IgG(A-21206,Thermo Fisher Scientific)と2時間室温でインキュベートした。細胞核をDAPI溶液(同仁化学研究所)で染色した。画像は全て蛍光顕微鏡(Axio Vert.A1, Carl Zeiss, Oberkochen, Germany)を用いて取得した。ミトコンドリアは、MitoTracker(登録商標)Red CMXRos(Thermo Fisher Scientific)を用いて染色した。
【0245】
(RNA単離及びQRT-PCR)
遺伝子発現を定量するために、全RNAを、各化合物で処理した線維芽細胞から、RNeasy Mini kit(Qiagen)を用いて抽出した。対照として、線維芽細胞を、脂肪細胞培地を用いて並行して培養した。0.1μM、1μM及び10μMのイソプロテレノール又はフォルスコリンで3時間又は6時間処理した後に、化合物で誘導した褐色脂肪細胞及び対照細胞から全RNAを抽出した。ReverTraAce(登録商標)PCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡)により逆転写した後に、Power SYBR Green PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を用いてリアルタイムPCR解析を行った。反応は以下の条件において、1水準につき3反応を実施した。95℃で10分の後に、95℃で15秒及び60℃で60秒を40サイクル。結果は全て、Tbp mRNAの量で標準化した。QRT-PCRで使用したプライマーは下記表に示す。
【0246】
【0247】
(酸素消費速度の測定)
ミトコンドリアによる酸素消費速度(oxygen consumption rate:OCR)の測定のために、0歳、38歳及び49歳の3種の異なる線維芽細胞を、化合物の組み合わせ(5CDRo-GM;即ち、SB431542、LDN193189、フォルスコリン、ドルソモルフィン、ロシグリタゾン)により96ウエルプレート上において3週間、直接転換した。対照として、線維芽細胞を脂肪細胞培地で並行して培養した。成熟させるために、これらの細胞は、ロシグリタゾンのみを含む脂肪細胞培地中でさらに1週間培養した。37℃の非CO2インキュベーター内で1時間インキュベートした後、化合物で誘導した褐色脂肪細胞を含む各ウエルの酸素消費速度を、XF96 Extracellular Flux Analyzer(Seahorse Bioscience Inc.,Billerica,MA)を用いて取扱説明書に従って分析した。分析中、オリゴマイシン、FCCP(カルボニルシアニド4-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン)、及びアンチマイシンA/ロテノンを各ウエルに注入装置を介して最終濃度がそれぞれ2μM、0.25μM及び0.5μMになるように添加した。
【0248】
<結果>
(ヒト線維芽細胞から脂肪細胞への直接転換用の化合物の同定)
図2に示す通り、5CDRoの組み合わせにより、直接転換が促進された。5CDRo(CHIR99021、PD0325901、SB431542、LDN193189、フォルスコリン、ドルソモルフィン、ロシグリタゾン)の組み合わせからCHIR99021及びPD0325901を除くと、転換効率及び脂肪滴の形成が改善した(
図2)。
【0249】
脂肪細胞特異的遺伝子の発現を、化合物の組み合わせで処理した細胞中において定量した。Fabp4の発現は対照と比較して、化合物の組み合わせで処理した細胞中において上昇していた(
図3)。
【0250】
(化合物で誘導した脂肪細胞様細胞におけるUcp1発現及びミトコンドリア発生の増加)
各化合物の組み合わせで細胞を3週間インキュベートした後、ロシグリタゾン以外の化合物を脂肪細胞培地から除いて1週間インキュベートした。これにより、脂肪細胞様細胞の成熟が明らかに促進し、脂肪滴の量が増大した。
5CDRo-G(PD0325901,SB431542、LDN193189、フォルスコリン、ドルソモルフィン、ロシグリタゾン)は、褐色脂肪細胞を効率的に生成した(
図4及び下記表)。
【0251】
CHIR99021以外の化合物の一種を、5CDRo-Gから除外した結果を
図5に示す。PD0325901又はLDN193189を除外すると、脂肪細胞様細胞の生成効率が最大になった。「フォルスコリン、ドルソモルフィン及びSB431542」、「フォルスコリン、LDN193189及びSB431542」、「ドルソモルフィン、LDN193189及びSB431542」、及び「ドルソモルフィン、PD032590及びSB431542」などの3種の化合物を含む組み合わせは、脂肪細胞様細胞への効率的な転換を示した(
図6)。2種以下の化合物の場合においても、直接転換することが示された(
図7及び
図8)。
【0252】
化合物の各種の組み合わせについての脂肪細胞様細胞への転換の効率を、
図4~
図8に示す結果から評価した結果を下記表に示す。なお、
図4~
図8は免疫染色の結果を位相差顕微鏡で観察した結果であるが、その細胞の状態から総合的に効率を判断した。+のマークの数が多いほど、転換効率が高いことを示す。例えば++++は、ほぼすべて褐色脂肪細胞に転換したことを示す。-のマークは、褐色脂肪細胞に転換しなかったことを示す。
【0253】
【0254】
【0255】
5CDRo-GM(SB431542、LDN193189、フォルスコリン、ドルソモルフィン、ロシグリタゾン)の直接転換での有用性を確認するために、ヒト成人及び新生児(38歳、49歳及び0歳)由来の3種の線維芽細胞株を試験した。ロシグリタゾンによる最後の1週間の成熟後に、線維芽細胞は全て脂肪細胞様細胞を生成した(
図9のA-C)。
【0256】
免疫細胞化学分析も行って、タンパク質発現とUCP1の細胞局在を分析した。その結果、脂肪細胞様細胞の大部分はUCP-1陽性であることが判明し、褐色脂肪細胞の特徴を有していることが示された。さらに、UCP-1染色は、ミトコンドリアシグナルの上昇と十分に重複していた。オイルレッド染色により、脂肪細胞様細胞が多量の脂肪滴を有することを確認した(
図10)。
【0257】
(化合物で誘導した褐色脂肪細胞におけるヒト褐色脂肪細胞特異的遺伝子の発現誘導)
化合物で誘導した褐色脂肪細胞の遺伝子発現を特徴付けるために、ヒト褐色脂肪組織に特異的な複数のマーカー遺伝子を、QRT-PCRにより定量した。0歳(新生児)、38歳及び49歳の3人のヒト由来の線維芽細胞を5CDRo-GMと一緒に3週間培養した後に、ロシグリタゾンで1週間成熟化した。
【0258】
Ucp1 mRNAは、化合物の添加なしの対照と比較して、全ての線維芽細胞において誘導されていた(
図11のA)。Ckmt1(ミトコンドリアクレアチンキナーゼ及びCited1(ヒト褐色脂肪細胞マーカー)の発現は、全ての線維芽細胞で誘導されていた(
図11のA)。Col1a2(線維芽細胞のマーカーの一つ)は約40%~80%減少したので、細胞の運命が線維芽細胞から褐色脂肪細胞に変化したことが示された(
図11のB)。化合物で誘導した褐色脂肪細胞において、脂肪生成分化マーカーであるFabp4, AdipoQ、及びPparγの発現は、全ての線維芽細胞について増加していた(
図11のC)。なお、
図11中の5CDとは5CDRoを意味し、5CD-MGは5CDRo-MGと同義である。
【0259】
(化合物で誘導した褐色脂肪細胞における熱産生のための機能的βアドレナリン受容体シグナル)
Ucp1を介した熱産生は、褐色脂肪細胞においては交感神経系及びβアドレナリン受容体シグナル経路により調節される。化合物で誘導した褐色脂肪細胞における熱産生能を評価するために、異なる3種の濃度のイソプロテレノール(βアドレナリン受容体アゴニスト)で3時間又は6時間処理した後に、Ucp1 mRNAを定量した(
図12のA)。3時間の処理によりUcp1 mRNAは僅かに増大し、6時間の処理により未処理の細胞と比較して約4~5倍まで顕著に増大した。Ucp1の誘導が細胞cAMP濃度の増大を介するものであることを確認するために、細胞を異なる3種の濃度のフォルスコリンで3時間又は6時間処理した(
図12のB)。未処理の細胞と比較して、3時間の処理より6時間の処理をした細胞の方がUcp1発現は増大していた。対照的に、他のヒト褐色脂肪細胞特異的遺伝子であるCkmt1及びCited1の発現については大きな変化は見られなかった。上記結果は、発現の上昇はUcp1などの熱発生遺伝子に特異的なものであることを示唆している(
図12のC及びD)。また上記結果は、熱発生遺伝子誘導に対してβアドレナリン受容体シグナル経路に応答できることを示している。
【0260】
(化合物で誘導した褐色脂肪細胞における酸素消費速度(OCR)の増加)
化合物で誘導した褐色脂肪細胞におけるミトコンドリアの増加が、酸素消費速度の増大と関連していることを実証するために、異なるヒト線維芽細胞由来の褐色脂肪細胞をFluxアナライザーで分析した。OCR値は、測定中に摂動試薬を添加することにより典型的変化し、38歳の線維芽細胞由来の褐色脂肪細胞は対照と比較してより高いOCRを示した(
図13のA)。他の線維芽細胞からの褐色脂肪細胞も、OCRの増大を示した(
図13のB及びC)。上記結果により、化合物で誘導した褐色脂肪細胞においてはミトコンドリアにおける酸化代謝が亢進し活性になっていることが示された。
【0261】
実施例C:骨芽細胞の製造
<ヒト線維芽細胞からの骨芽細胞の誘導>
(1)ヒト線維芽細胞
材料としたヒト線維芽細胞はDSファーマバイオメディカル株式会社から購入した。38才のヒト皮膚に由来する線維芽細胞である。
【0262】
(2)ヒト線維芽細胞からの骨芽細胞への直接誘導
ヒト線維芽細胞を35mmディッシュに5×104個ずつ播種し、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM培地(Gibco製)で、37℃、5%CO2条件下でコンフルエントになるまで培養した。なおDMEMは、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)を示す。
【0263】
上記のヒト線維芽細胞のディッシュの培地を、骨芽細胞分化誘導剤(Osteoblast-Inducer Reagent;タカラバイオ社製)、および表1に従って添加した低分子化合物を含むRPMI1640 with L-Glutamine and Phenol Red(和光純薬工業社製)に培地を交換した。その後、3日毎に同組成の培地へ培地交換を行いながら、37℃、5%CO2条件下で培養した。表6に記載の化合物の詳細は、本明細書中上記の通りである。
【0264】
【0265】
(3)骨芽細胞の評価
上記(2)に従って培養した結果、培養開始7日後から骨芽細胞様の細胞が出現した。培養開始21日後に常法に従ってvon Kossa染色に供し、カルシウムの沈着有無を評価した。結果を
図14に示す。図中、上段はvon Kossa染色の結果を示し、下段は同視野内の位相差顕微鏡像を示す。
【0266】
図14に示されるとおり、実施例1及び実施例2においてvon Kossa染色によるカルシウムの沈着が認められる細胞が出現することがわかる。さらに骨芽細胞の分化にはcAMP活性化剤であるフォルスコリン、TGF阻害剤であるSB431542、BMP阻害剤のうち、ALK2/3阻害能をもち、ALK6阻害能とAMPK阻害能を有さないLDN193189、およびGSK-3β阻害剤であるCHIR99021が重要であり、かつErk阻害剤であるPD325901は添加しないほうが好ましいことがわかる。
【0267】
実施例D:軟骨細胞の製造
<ヒト線維芽細胞からの軟骨細胞の誘導>
(1)ヒト線維芽細胞
材料としたヒト線維芽細胞はDSファーマバイオメディカル株式会社から購入した。38才のヒト皮膚に由来する線維芽細胞である。
【0268】
(2)ヒト線維芽細胞からの軟骨細胞への直接誘導
ヒト線維芽細胞を35mmディッシュに5×104個ずつ播種し、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM培地(Gibco社製)で、37℃、5%CO2条件下でコンフルエントになるまで培養した。なおDMEMは、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)を示す。
【0269】
上記のヒト線維芽細胞のディッシュの培地を、Insulin-Transferrin-Selenium(Thermo Fisher Scientific社製;終濃度1%)、アスコルビン酸-2-リン酸(Wako社製;終濃度50μg/ml)、デキサメタゾン(Wako社製;終濃度0.1μM)、TGF-β3(PeproTech製;終濃度10ng/ml)、L-プロリン(Nacalai Tesque社製;終濃度40μg/ml)、Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製;終濃度1×)、および表1に従って添加した低分子化合物を含むDMEM(Thermo Fisher Scientific社製)に培地を交換した。その後、3日毎に同組成の培地へ培地交換を行いながら、37℃、5%CO2条件下で培養した。表7に記載の化合物の詳細は、本明細書中上記の通りである。
【0270】
【0271】
(3)軟骨細胞の評価
実施例(2)に従って培養した結果、培養開始7日後から軟骨細胞様の細胞が出現した。培養開始21日後に常法に従ってアルシアンブルー(Alcian Blue)染色に供し、軟骨基質である酸性多糖の有無を評価した。結果を
図15に示す。図中、上段はAlcian Blue染色の結果を示し、下段は同視野内の位相差顕微鏡像を示す。
【0272】
図15に示されるとおり、実施例1においてAlcian Blue染色による酸性多糖の産生が認められる細胞が出現することがわかる。さらに軟骨細胞への分化にはcAMP活性化剤であるフォルスコリン、TGF阻害剤であるSB431542、BMP阻害剤のうち、ALK2/3阻害能をもつLDN193189、GSK-3β阻害剤であるCHIR99021の添加が重要であり、かつBMP阻害剤のうち、ALK6阻害能、およびAMPK阻害能をもつドルソモルフィン、Erk阻害剤であるPD0325901を含まないことが望ましいことがわかる。
【0273】
実施例E:神経系細胞の製造
<ヒト線維芽細胞からの神経系細胞の誘導>
(1)ヒト線維芽細胞
材料としたヒト線維芽細胞はDSファーマバイオメディカル株式会社から購入した。38才のヒト皮膚に由来する線維芽細胞である。
【0274】
(2)ヒト線維芽細胞からの神経系細胞への直接誘導
ヒト線維芽細胞を35mmディッシュに8×104個ずつ播種し、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM high glucose培地(和光純薬工業製)で、37℃、5%CO2条件下で2日間培養した。なおDMEMは、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)を示す。
【0275】
上記のヒト線維芽細胞のディッシュの培地を、0.5% N-2サプリメント(Thermo Fisher Scientific社製)、1% B-27サプリメント(Thermo Fisher Scientific社製)、50% DMEM/F12、50% Neurobasal Medium(Thermo Fisher Scientific社製)、および表1に従って添加した低分子化合物を含む培地に交換した。その後、3日毎に同組成の培地へ培地交換を行いながら、37℃、5%CO2条件下で培養した。表8に記載の化合物の詳細は、本明細書中上記の通りである。
【0276】
【0277】
(3)神経系細胞の評価
上記(2)に従って培養した結果、培養開始5日後から神経様の突起構造が認められた。培養開始14日後に細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定した後、免疫染色を行った。染色には抗βIII-tubulin抗体(MMS-435P、Covance社製;1000倍希釈で使用)を使用した。結果を
図16に示す。図中、上段は免疫染色の結果であり、青がDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)による核染色、緑がβ3-チューブリン(βIII-tubulin)の染色結果を示す。下段は同視野内の位相差顕微鏡像を示す。
【0278】
図16に示されるとおり、実施例1~5においてβIII-tubulin陽性細胞が出現することがわかる。さらに神経系細胞への分化にはBMP阻害剤のうち、ALK6阻害能、AMPK阻害能をもつドルソモルフィンが重要であることがわかる。
【0279】
実施例F:心筋細胞の製造
<ヒト線維芽細胞からの心筋細胞の誘導>
(1)ヒト線維芽細胞
材料としたヒト線維芽細胞はDSファーマバイオメディカル株式会社から購入した。38才のヒト皮膚に由来する線維芽細胞である。
【0280】
(2)ヒト線維芽細胞からの心筋細胞への直接誘導
ヒト線維芽細胞を35mmディッシュに8×104個ずつ播種し、10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM high glucose培地(Gibco社製)で、37℃、5%CO2条件下で2日間培養した。なおDMEMは、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)を示す。
【0281】
上記のヒト線維芽細胞のディッシュの培地を、10%ウシ胎児血清、1% N-2サプリメント(Thermo Fisher Scientific社製)、2% B-27サプリメント(Thermo Fisher Scientific社製)、1×MEM非必須アミノ酸(Thermo Fisher Scientific社製)、0.1mM 2-メルカプトエタノール、50μg/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、および表1に従って添加した低分子化合物を含むDMEM(High Glucose)with L-Glutamine Phenol Red,Sodium Pyruvate(和光純薬工業製)に交換した。その後、3日毎に同組成の培地へ培地交換を行いながら、37℃、5%CO2条件下で培養した。表9に記載の化合物の詳細は、本明細書中上記の通りである。
【0282】
【0283】
(3)心筋細胞の評価
上記の(2)に従って培養した結果、培養開始8日後から収縮、あるいは拍動する単体の細胞や小さな細胞塊が認められた。培養開始21日以降には収縮、あるいは拍動する心筋細胞様の塊が多数散見されるようになった。培養開始21日後に細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定した後、免疫染色を行った。染色には抗cTnT抗体(ab10214、abcam社製;200倍希釈で使用)を使用した。結果を
図17に示す。図中、上段は免疫染色の結果であり、青がDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)による核染色、緑がcTnTの染色結果を示す。下段は同視野内の位相差顕微鏡像を示す。
【0284】
図17に示されるとおり、実施例1~4においてにおいてcTnT陽性細胞が出現することがわかる。さらに心筋細胞への分化にはcAMP活性化剤であるフォルスコリン、TGF阻害剤であるRepsox、BMP阻害剤のうち、ALK6阻害能、AMPK阻害能をもつドルソモルフィン、Erk阻害剤であるPD0325901が重要であることがわかる。
【配列表】