(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】鋳型造型用粘結剤組成物
(51)【国際特許分類】
B22C 1/22 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
B22C1/22 M
(21)【出願番号】P 2018022015
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017032911
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍵谷 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】神澤 智史
(72)【発明者】
【氏名】東 美喜子
(72)【発明者】
【氏名】辻 啓太
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-120749(JP,A)
【文献】国際公開第88/007567(WO,A1)
【文献】国際公開第80/001768(WO,A1)
【文献】特開2016-020002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-3/02,
C08G 8/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型造型用粘結剤組成物に含有される、下記一般式(1)で表されるモノマーユニットを有する重合体の製造方法であって、
水溶性フェノール化合物と、当該水溶性フェノール化合物1molに対して0.1~50molの下記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールと、アルデヒド化合物とをアルカリ条件下で反応させて前記重合体を得る工程を有する、製造方法。
【化1】
(一般式(1)中、m及びnはそれぞれフェニル基に結合している水酸基の数を示し、1である。)
【化2】
(一般式(2)中、m及びnはそれぞれフェニル基に結合している水酸基の数を示し、1である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型造型用粘結剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性フェノール樹脂を粘結剤とし、エステル化合物を硬化剤として用いた鋳型造型法が知られている。当該鋳型造型法に係る鋳型は高い耐熱性を有し、粘結剤中に鋳物品質を低下させるような硫黄、リン等の元素を含まないため、品質の高い鋳物を製造することができる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水溶性フェノール樹脂を鋳型の粘結剤として用いると、鋳造時に比較的強い臭気を伴う熱分解ガスが発生し、作業環境を悪化させる場合がある。
【0005】
本発明は、粘結剤にフェノール樹脂が含まれる鋳型を用いた鋳造時の作業環境の悪化を抑制することができる鋳型造型用粘結剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表されるモノマーユニットを有する重合体を含有する鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0007】
【化1】
(一般式(1)中、m及びnはそれぞれフェニル基に結合している水酸基の数を示し、0以上、3以下である。但し、m及びnは同時に0ではない。)
【0008】
本発明は、下記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールを含むフェノール類と、アルデヒド化合物とをアルカリ条件下で反応させて得られる重合体を有する鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0009】
【化2】
(一般式(2)中、m及びnはそれぞれフェニル基に結合している水酸基の数を示し、0以上、3以下である。但し、m及びnは同時に0ではない。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フェノール樹脂を粘結剤として用いた場合でも鋳造時の作業環境の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<鋳型造型用粘結剤組成物>
本実施形態の鋳型造型用粘結剤組成物は、下記一般式(1)で表されるモノマーユニットを有する重合体を含有する。
【0012】
【化3】
一般式(1)中、m及びnはそれぞれフェニル基に結合している水酸基の数を示し、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、それぞれ0以上であり、1以上が好ましく、同様の観点から、3以下であり、2以下が好ましい。また、前記一般式(1)中のm及びnは、同様の観点から、それぞれ0~3であり(但し、m及びnは同時に0ではない)、1又は2がより好ましい。
【0013】
本実施形態の鋳型造型用粘結剤組成物によれば、水溶性フェノール樹脂を粘結剤として用いた場合に鋳造時の作業環境の悪化を抑制することができる。
【0014】
前記一般式(1)で表されるモノマーユニットは、下記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールより誘導されるモノマーユニットである。
【0015】
【化4】
一般式(2)中、m及びnはそれぞれフェニル基に結合している水酸基の数を示し、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、それぞれ0以上であり、同様の観点から、3以下であり、2以下が好ましい。また、前記一般式(2)中のm及びnは、同様の観点から、それぞれ0~3であり、1又は2がより好ましい。ただし、m及びnは同時に0ではない。
【0016】
前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールは、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、フェニルフェノール、2,2’-ビフェノール、及び4,4’-ビフェノールからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、2,2’-ビフェノールがより好ましい。
【0017】
前記重合体は、前記一般式(1)で表されるモノマーユニットのみからなる重合体でもよく、本実施形態の効果を損なわない範囲で前記一般式(1)で表されるモノマーユニット以外のモノマーユニットを有していてもよい。本明細書において、前記一般式(1)で表されるモノマーユニットのみからなる重合体を単独系重合体とも称し、本実施形態の効果を損なわない範囲で前記一般式(1)で表されるモノマーユニット以外のモノマーユニットを有する重合体を共重合体系重合体とも称する。
【0018】
前記一般式(1)で表されるモノマーユニット以外のモノマーユニットは、水溶性フェノール化合物から誘導されるモノマーユニットが好ましい。当該水溶性フェノール化合物としては、フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、クレゾール、3,5-キシレノール、レゾルシン、カテコール、ノニルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、イソプロペニルフェノール、その他の置換フェノールを含めた水溶性フェノール類が例示できる。
【0019】
〔重合体の製造方法〕
前記重合体は公知の手法を用いて製造することができる。一例としては、前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールを含むフェノール類と、アルデヒド化合物とをアルカリ条件下で反応させることによって重合体を得る方法が挙げられる。
【0020】
前記共重合体系重合体を製造する場合、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、前記水溶性フェノール化合物と、当該水溶性フェノール化合物1molに対して0.1mol以上、好ましくは0.2mol以上の前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールと、アルデヒド化合物とをアルカリ条件下で反応させるのが好ましい。前記モノマーユニットを有する重合体を製造する場合、鋳型強度低下抑制の観点から、前記水溶性フェノール化合物と、当該水溶性フェノール化合物1molに対して50mol以下、好ましくは40mol以下の前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールと、アルデヒド化合物とをアルカリ条件下で反応させるのが好ましい。
【0021】
前記アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、フルフラール、グリオキザール等を1種又は2種以上混合して使用することができる。また、これらに、尿素、メラミン、シクロヘキサノン等のアルデヒド化合物と縮合が可能なモノマーや、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブチルアルコール等の1価の脂肪族アルコール化合物や、水溶性高分子のポリアクリル酸塩や、セルロース誘導体高分子、ポリビニルアルコール、リグニン誘導体などを混合しても差し支えない。
【0022】
前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールと前記アルデヒド化合物とをアルカリ条件下で重縮合させる場合に用いられるアルカリ触媒としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上アルカリ金属の水酸化物が挙げられるが、特に水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0023】
前記共重合体系重合体の重量平均分子量(Mw)は、鋳型強度を向上させる観点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、5000以下が好ましく、4000以下がより好ましい。また、前記重合体の重量平均分子量(Mw)は、鋳型強度を向上させる観点から、400~5000が好ましく、500~4000がより好ましい。本明細書において、重量平均分子量は実施例に記載の方法により測定する。
【0024】
前記単独系重合体は、前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールと、水酸化アルカリ水溶液を前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールに対して1倍mol以下で混合させ中和反応させ、適宜濃度調整した後、アルデヒドを加え、過熱して重縮合反応を行うことにより得ることができる。前記単独系重合体の製造に用いることができるアルデヒドは前記共重合体系重合体の製造で用いることができるアルデヒドと同様である。
【0025】
前記単独系重合体の重量平均分子量は、鋳型強度を向上させる観点から、300以上、より好ましくは400以上であり、流動性等の取扱いの簡便性の観点から10000以下が好ましく、より好ましくは2000以下である。また、前記単独系重合体の重量平均分子量は、鋳型強度を向上させる観点から、300~10000が好ましく、400~2000がより好ましい。
【0026】
〔重合体の構造の確認〕
重合体が一般式(1)で表されるモノマーユニットを有することは、重量平均分子量を一定値以下(例えば、10000以下)に分画された分析用試料をMALDI―TOF/MSで分析することにより確認することができる。
【0027】
前記鋳型造型用粘結剤組成物は、既知のフェノール樹脂を含有していてもよい。当該既知のフェノール樹脂としては、いずれの既知のものを用いることができる。当該既知のフェノール樹脂の具体的としては、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、水溶性アルカリフェノール樹脂などそれぞれの硬化システムに応じた従来公知のフェノール樹脂が用いられる。また、これらフェノール樹脂は、クレゾールやビスフェノールA等のビスフェノール類など従来公知のフェノール類などと共縮合された樹脂が含まれる。これらの中でも水溶性アルカリフェノール樹脂が好ましい。
【0028】
前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの量は、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、前記粘結剤組成物中のフェノール化合物のモノマー量及び前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニット以外のモノマーユニットの量の合計量1molに対して0.1mol以上が好ましく、0.2mol以上がより好ましく、鋳型強度低下抑制の観点から、50mol以下が好ましく、40mol以下がより好ましい。また、前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの量は、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点、及び鋳型強度低下抑制の観点から、前記粘結剤組成物中のフェノール化合物のモノマー量及び前記重合体中のモノマーユニットの量の合計量1molに対して0.1~50molが好ましく、0.2~40molがより好ましい。
【0029】
前記鋳型造型用粘結剤組成物は、前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールを含むフェノール類が含有されていてもよい。当該フェノール類としては、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、フェニルフェノール、2,2’-ビフェノール、及び4,4’-ビフェノールからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、2,2’-ビフェノールがより好ましい。
【0030】
前記鋳型造型用粘結剤組成物中の前記フェノール類の含有量は特に拘らず、適宜調整することができる。一例としては、前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールの量及び前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの量の合計が、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から前記粘結剤組成物中のフェノール化合物のモノマー量及び前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニット以外のモノマーユニットの量の合計量1molに対して0.1mol以上が好ましく、0.2mol以上がより好ましく、鋳型強度低下抑制の観点から、50mol以下が好ましく、40mol以下がより好ましい。前記一般式(2)で表される芳香族多価アルコールの量及び前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの量の合計が、前記粘結剤組成物中のフェノール化合物のモノマー量及び前記重合体中の前記一般式(1)で表されるモノマーユニット以外のモノマーユニットの量の合計量1molに対して鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点、及び鋳型強度低下抑制の観点から、前記粘結剤組成物中のフェノール化合物のモノマー量及び前記重合体中のモノマーユニットの量の合計量1molに対して0.1~50molが好ましく、0.2~40molがより好ましい。
【0031】
前記鋳型造型用粘結剤組成物に前記フェノール類を含有させる方法としては、別異に添加する方法や前記一般式(1)で表されるモノマーユニットを有する重合体を合成する際に過剰に用いることで未反応物として含ませることができる。
【0032】
〔補助成分〕
前記鋳型造型用粘結剤組成物は、本実施形態の効果を阻害しない程度に水、シランカップリング剤、尿素、界面活性剤、アルコール類等の添加剤が含まれていても良い。なお、前記鋳型造型用粘結剤組成物中にシランカップリング剤が含まれていると、得られる鋳型の最終強度をより向上させることができるため好ましい。前記シランカップリング剤の例としては、γ-(2-アミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。前記鋳型造型用粘結剤組成物中の前記シランカップリング剤の含有量は、当該粘結剤組成物100質量部に対して鋳型強度を向上させる観点から、0.005~3質量部が好ましく、0.01~1質量部がより好ましい。
【0033】
前記粘結剤組成物は、1種又は2種以上のそれぞれの成分を混合装置を用いて機械的に混練することで得ることができる。
【0034】
<鋳型の製造方法>
本実施形態の鋳型の製造方法は、耐火性粒子、前記鋳型造型用粘結剤組成物、及び前記鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤を混合して鋳型用組成物を得る混合工程、及び前記鋳型用組成物を型枠に詰め、当該鋳型用組成物を硬化させる硬化工程を有する。本実施形態の鋳型の製造方法において、従来の鋳型の製造プロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。
【0035】
本実施形態の鋳型の製造方法によれば、粘結剤組成物に前記フェノール樹脂が含まれる鋳型を用いた鋳造時の臭気を低減し、作業環境の悪化を抑制することができる。
【0036】
〔混合工程〕
[耐火性粒子]
本実施形態の鋳型の製造方法で使用可能な耐火性粒子としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収して再生処理した再生砂も使用できるが、経済性の観点、及び当該鋳型の製造方法の効果発現の観点から再生砂が好ましい。なお、耐火性粒子は、単独で使用又は2種以上を併用することができる。
【0037】
〔硬化剤〕
前記硬化剤は前記粘結剤組成物を硬化させるものであれば特に限定なく用いることができるが、鋳型強度を向上させる観点からエステル化合物が好ましい。
【0038】
前記エステル化合物は、前記粘結剤組成物の硬化剤として使用できる従来公知のエステル化合物である。当該エステル化合物としては、ラクトン類或いは炭素数1~10の一価又は多価アルコールと炭素数1~10の有機カルボン酸より導かれる有機エステル化合物の単独もしくは混合物が挙げられる。
【0039】
前記エステル化合物の具体例としては、プロピオンラクトン、ε-カプロラクトン、ギ酸エチル、エチレングリコールモノアセテートが挙げられるが、これらの中でもプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、トリアセチン、エチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等を用いるのが好ましい。
【0040】
また、前記エステル化合物は、分岐エステル化合物であってもよい。当該分岐エステル化合物としては、2-エチルコハク酸ジメチル、2-メチルグルタル酸ジメチル、2-メチルアジピン酸ジメチル、2-エチルヘキサン酸メチル、2-エチルヘキサン酸エチル、2-メチルセバシン酸ジメチル、2-エチルアゼライン酸ジメチル、2-エチルグルタル酸ジエチル、2-(n-プロピル)グルタル酸ジメチル、2-(n-ブチル)コハク酸ジエチル、2-(n-ブチル)コハク酸ジメチル、2-メチルピメリン酸ジエチル、2-メチルスベリン酸ジメチルや、これらの混合物等が例示できる。なかでも、水溶性フェノール樹脂の硬化時間をより適切な範囲に調整できることから、2-エチルコハク酸ジメチル、2-メチルグルタル酸ジメチル、2-メチルアジピン酸ジメチルが好ましい。
【0041】
前記混合工程において、各原料を混合する方法としては、公知一般の手法を用いることが出来、例えば、バッチミキサーにより各原料を添加して混練する方法や、連続ミキサーに各原料を供給して混練する方法が挙げられる。
【0042】
前記混合工程において、前記鋳型造型用粘結剤組成物の添加量は、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点から、鋳型造型用組成物中の前記重合体の前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの量が鋳型用組成物中の各種モノマーユニット1molに対して0.1mol以上になるような範囲で重合体と混合するのが好ましく、0.2mol以上になるように添加するのがより好ましく、鋳型強度低下抑制の観点から、50mol以下になるように添加するのが好ましく、40mol以下になるように添加するのがより好ましい。また、前記混合工程において、前記鋳型造型用粘結剤組成物の添加量は、鋳造時の作業環境の悪化を抑制する観点、及び鋳型強度低下抑制の観点から、鋳型造型用組成物中の前記重合体の前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの量が鋳型用組成物中の各種モノマーユニット1molに対して0.1~50molになるような範囲で重合体と混合するのが好ましく、0.2~40molになるような範囲で重合体を混合するのがより好ましい。
【0043】
前記鋳型の製造方法における前記耐火性粒子と前記粘結剤組成物と前記硬化剤との比率は適宜設定できるが、鋳型強度を向上させる観点から、前記耐火性粒子10000質量部に対して、前記粘結剤組成物が50質量部以上が好ましく、500質量部以下がより好ましい。鋳型の最終強度を向上させる観点から、前記耐火性粒子10000質量部に対して、前記硬化剤が10質量部以上が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0044】
〔硬化工程〕
前記硬化工程において、当該鋳型用組成物を硬化させる方法としては、公知一般の手法を用いることが出来る。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0046】
<合成例>
〔水溶性フェノール樹脂組成物A〕
フェノール7molと、50質量%水酸化カリウム水溶液(フェノールと2,2’-ビフェノールの合計に対して0.40倍mol)と、50質量%水酸化ナトリウム水溶液(フェノールと2,2’-ビフェノールの合計に対して0.40倍mol)とを混合した水溶液に、反応終了後の溶液中の樹脂(固形分)の含有量が50質量%になるまで水を添加し、2,2’-ビフェノールを3mol添加。80℃まで昇温後92質量%パラホルムアルデヒド(フェノールと2,2’-ビフェノールの合計10molに対して2.00倍mol)を加え、80℃で重縮合反応を行った。次いでγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応溶液100質量部に対して0.5質量部添加して、2,2’-ビフェノールから誘導されたモノマーユニットとフェノールから誘導されたモノマーユニットのmol比(2,2’-ビフェノールから誘導されたモノマーユニットのmol:フェノールから誘導されたモノマーユニットのmol)が3:7の水溶性フェノール樹脂A(重量平均分子量860)を含有する水溶性フェノール樹脂組成物Aを得た。
【0047】
〔水溶性フェノール樹脂組成物B〕
フェノール3mol、2,2’-ビフェノール7molを用いた以外は前記水溶性フェノール樹脂組成物Aと同じ条件にて、誘導されたモノマーユニットのmol比(2,2’-ビフェノールから誘導されたモノマーユニットのmol:フェノールから誘導されたモノマーユニットのmol)が7:3の水溶性フェノール樹脂B(重量平均分子量1085)を含有する水溶性フェノール樹脂組成物Bを得た。
【0048】
〔ビフェノール樹脂組成物C〕
2,2’-ビフェノールを10molと、50質量%水酸化カリウム水溶液(2,2’-ビフェノールの合計に対して0.40倍mol)と、50質量%水酸化ナトリウム水溶液(2,2’-ビフェノールの合計に対して0.40倍mol)とを混合し、反応終了後の溶液中の樹脂(固形分)の含有量が50質量%になるまで水を添加し80℃まで昇温。92質量%パラホルムアルデヒド(2,2’-ビフェノール10molに対して2.00倍mol)を加え、90℃で重縮合反応を行った。反応後、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応溶液100質量部に対して0.5質量部添加して、ビフェノール樹脂C(重量平均分子量642)を含有するビフェノール樹脂組成物Cを得た。
【0049】
〔水溶性フェノール樹脂組成物D〕
フェノール10molと、50質量%水酸化カリウム水溶液(フェノールに対して0.40倍mol)と、50質量%水酸化ナトリウム水溶液(フェノールに対して0.40倍mol)とを混合した水溶液に、反応終了後の溶液中の樹脂(固形分)の含有量が50質量%になるまで水を添加して、92質量%パラホルムアルデヒド(フェノールに対して2.00倍mol)を加え、80℃で重縮合反応を行い、水溶性フェノール樹脂の重量平均分子量が2000に達するまで反応を継続した。次いで、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを反応溶液100質量部に対して0.5質量部添加して、水溶性フェノール樹脂D(重量平均分子量2000)を含む水溶性フェノール樹脂組成物Dを得た。
【0050】
<評価方法>
〔樹脂の重量平均分子量〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリエチレン換算にて重量平均分子量を測定した。
[測定条件]
・東ソー株式会社製ゲル濾過クロマトグラフSC-8020シリーズ・ビルドアップシステム
・カラム:G2000HXL+G4000HXL
・検出器:UV 285nm
・キャリヤ:テトラヒドロフラン1mL/分
・カラム温度:38℃
【0051】
〔樹脂の固形分質量〕
シャーレに樹脂組成物2g、及び水1gを添加し、混合した後、105℃に加熱した電気炉で4時間加熱処理した。当該加熱処理後の質量g/2g×100の値を固形分とした。
【0052】
〔樹脂の構造確認〕
前記水溶性フェノール樹脂組成物A、前記水溶性フェノール樹脂組成物B、及びビフェノール樹脂組成物Cがそれぞれ前記一般式(1)で表されるモノマーユニットを有することを以下の手法により確認した。
【0053】
[測定サンプルの調製]
前記水溶性フェノール樹脂組成物A、前記水溶性フェノール樹脂組成物B、及びビフェノール樹脂組成物Cそれぞれについて下記条件にてゲル透析膜を用いて重量平均分子量1000~8000の範囲の分画成分(測定サンプル)を得た。
・装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
・SEC分離カラム:(α(ガードカラム)、α-M 2本(分析カラム)直列)
・検量:重量平均分子量500~800万までの分子量オーダーの異なる6種の標準ポリスチレンを用いて設定
【0054】
[樹脂の重量平均分子量の測定]
構造確認用の前記測定サンプルの重量平均分子量を、MALDI―TOF/MSにて下記条件で解析した。
・装置:ultrafleXtreme(ブルカー・ダルトニクス社製)
・マトリクス:2,5-ジヒドロキシベンゼン酸を適宜用いた。
・条件:リフレクタモードはPositive、測定範囲Mw0-3000、レーザー強度98%
・検出器:形式はリニアモード、イオン検出はポジティブモード
【0055】
[前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの存在確認]
前記測定により得られた各測定サンプルの重量平均分子量の、それぞれの原料モノマーとの差異より、重合体中に前記一般式(1)で表されるモノマーユニットの存在が確認でき、いずれも一般式(1)中のmとnの合計が2で表される重合体であった。
【0056】
〔臭気の官能評価〕
φ45×36の磁性坩堝に評価砂を50.0g入れ磁性蓋で蓋をし、評価砂が入った坩堝を500℃に加熱した光洋サーモシステム株式会社製の小型電気炉KBF794N1の中に入れ、表示温度が500℃到達後10分間加熱した。電気炉から坩堝を取出し、2分以内に坩堝と蓋の隙間から出ている臭気をパネラー5名が嗅ぎ、臭気の強さを感覚で相対比較し平均値を出して評価結果とした。評価基準を以下に示す。
・評価1:極端に強く感じる
・評価2:非常に強く感じる
・評価3:強く感じる
・評価4:やや強く感じる
・評価5:かすかに感じる
【0057】
<実施例1~5、並びに比較例1及び2>
耐火性粒子(山川産業株式会社製珪砂(フリーマントル新砂))100質量部に対し、表1に記載の条件での配合を添加混練して、評価砂(鋳型造型用砂組成物)を得た。なお、表1中の硬化剤はトリアセチンである。
【0058】
<実施例1~5、並びに比較例1及び2の鋳型強度>
尚、新砂フリーマントルで作製したφ50×50mmHのテストピースの鋳型強度はいずれも1.5MPa以上の圧縮強度があり、鋳型造型に用いうることが確認できた。
【0059】