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特許7236225位相差補償素子、液晶表示装置および投射型画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】位相差補償素子、液晶表示装置および投射型画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230302BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20230302BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G03B21/00 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018104297
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019211494
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳一
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-075459(JP,A)
【文献】特開2007-086406(JP,A)
【文献】特開2015-082010(JP,A)
【文献】特表2002-509188(JP,A)
【文献】特開平03-035201(JP,A)
【文献】特開2007-084880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶セルで生じる光の位相差を補償する位相差補償素子であって、
透明基板の一方の面上に、C-プレートとして作用する第1の光学異方性層が形成されており、
前記透明基板の他方の面上に、マッチング層と、第2の光学異方性層と、保護層と、反射防止層と、が順次形成されており、
前記第1の光学異方性層は、Nb膜と、SiO膜と、が交互に積層されている積層体であり、前記透明基板の表面に直交する方向に対して15°傾斜した斜入射光に付与する位相差が1.0~25.0nmであり、
前記マッチング層は、Nb膜と、SiO膜と、が交互に積層されている積層体であり、
前記第2の光学異方性層は、TaとTiOの混合物を斜方蒸着して成膜された複屈折膜であり、前記斜方蒸着の成膜方向と前記透明基板の表面とのなす角の角度が90°ではなく、前記斜方蒸着の成膜方向を前記透明基板の表面に投影した線分の向きが、連続して15°以上変化し、
前記保護層は、SiO膜であり、
前記反射防止層は、Nb膜と、SiO膜と、が交互に積層されている積層体である、位相差補償素子。
【請求項2】
前記透明基板が、ガラス、石英、水晶、およびサファイヤのいずれかである請求項1に記載の位相差補償素子。
【請求項3】
液晶セルと、
請求項1または2に記載の位相差補償素子と、を備える液晶表示装置。
【請求項4】
光を出射する光源と、
変調された光を投射する投射光学系と、
前記光源と前記投射光学系との間の光路に配置された請求項3に記載の液晶表示装置と、を有する投射型画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差補償素子、液晶表示装置および投射型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置において、コントラスト特性や視野角特性を改善するために、位相差補償素子を用いた光学補償技術が利用されている。このような位相差補償素子としては、例えば、誘電体材料の蒸着により、高屈折率と低屈折率の薄膜を交互に積層して形成した負のC-プレートと、少なくとも二層構成の斜方蒸着膜で形成されたOプレートと、を積層した位相差補償素子が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された負のC-プレートは、屈折率の異なる2種類の蒸着膜の光学膜厚の比を定め、それに基づき定められた同一の膜厚の高屈折率層と、同一の膜厚の低屈折率層が交互に積層され、その結果生じる構造性複屈折によって位相差を発現させる。このため、合計で80層以上の積層数が必要となる上、さらに別途、反射防止膜が必要となるため、高コスト化やリードタイムの長期化が懸念される。
【0004】
また別の位相差補償技術として、斜方蒸着膜で形成された2枚の位相差板を用いて、光学補償する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に記載された光学補償方法では、2枚の位相差板を面内方向に回転させ、関係角度を最適な位置に調整することでコントラストを向上させる。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された光学補償方法では、2枚の位相差板と、当該2枚の位相差板を回転させる回転機構が必要となるため、高コスト化や搭載スペースの増加が懸念される。
【0006】
また別の位相差補償技術として、少なくとも2つの補償層を有し、それらの位相差の値や、面内の光学軸方向が互いに異なるように配置して貼り合わせた位相差補償板を用いた液晶表示装置が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された液晶表示装置にて用いられる位相差補償板は、2つの補償層の貼り合せによって形成することから接着剤を必要とし、耐久性に課題がある。また、2枚の基板が必要となり、高コスト化の懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-171327号公報
【文献】特開2009-145863号公報
【文献】国際公開第2008/08l919号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高コスト化、リードタイムの長期化を抑制しつつ、耐久性を有するとともに、液晶表示装置のコントラストを高精度に改善できる位相差補償素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、基板上に、C-プレートとして作用する第1の光学異方性層と、無機材料が堆積して形成された複屈折膜を含む第2の光学異方性層を備え、第2の光学異方性層に含まれる複屈折膜を特定の条件とすれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、液晶セルで生じる光の位相差を補償する位相差補償素子であって、透明基板と、C-プレートとして作用する第1の光学異方性層と、無機材料が堆積して形成された複屈折膜を含む第2の光学異方性層と、を備え、前記第2の光学異方性層に含まれる前記複屈折膜は、前記無機材料の成膜方向と前記透明基板の表面とのなす角の角度が90度ではなく、前記第2の光学異方性層に含まれる前記複屈折膜は、前記無機材料の前記成膜方向を前記透明基板の表面に投影した線分の向きが、連続して15°以上変化する、位相差補償素子である。
【0012】
前記複屈折膜は、斜方蒸着膜であってもよい。
【0013】
前記無機材料は、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、Al、Hf、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する酸化物であってもよい。
【0014】
前記第1の光学異方性層は、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜の積層体であり、反射防止の作用と、C-プレートとしての作用とを有するものであってもよい。
【0015】
前記誘電体膜は、TiO、SiO、Ta、Al、CeO、ZrO、ZrO、Nb、およびHfOからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0016】
前記透明基板と前記第2の光学異方性層との間にマッチング層を備えていてもよい。
【0017】
前記第2の光学異方性層の上に、誘電体膜からなる保護層を備えていてもよい。
【0018】
前記透明基板が、ガラス、石英、水晶、およびサファイヤのいずれかであってもよい。
【0019】
また別の本発明は、VAモード液晶セルと、上記の位相差補償素子と、を備える液晶表示装置である。
【0020】
また別の本発明は、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系と、前記光源と前記投射光学系との間の光路に配置された上記の液晶表示装置と、を有する投射型画像表示装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高コスト化、リードタイムの長期化を抑制しつつ、耐久性を有するとともに、液晶表示装置のコントラストを高精度に改善できる位相差補償素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る位相差補償素子の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る第1の光学異方性層の断面模式図である。
図3】液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きが示されている図である。
図4】複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きが示されている図である。
図5】実施例1の複屈折膜の成膜方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
[位相差補償素子]
本発明の位相差補償素子は、液晶セルで生じる光の位相差を補償する位相差補償素子であって、透明基板と、C-プレートとして作用する第1の光学異方性層と、無機材料からなる複屈折膜を含む第2の光学異方性層と、を備える。第2の光学異方性層に含まれる複屈折膜は、無機材料の成膜方向と透明基板の表面とのなす角の角度が90度ではなく、第2の光学異方性層に含まれる複屈折膜は、無機材料の前記成膜方向を前記透明基板の表面に投影した線分の向きが、連続して15°以上変化する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る位相差補償素子10の断面模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る位相差補償素子10は、透明基板11と、第1の光学異方性層12と、第2の光学異方性層13と、保護層14と、マッチング層15と、反射防止層16と、を備える。なお、本発明は、透明基板と、第1の光学異方性層と、第2の光学異方性層とを、少なくとも備えていればよい。
【0026】
[透明基板]
透明基板は、所望の使用波長帯域の光に対して透光性を有するものであれば、特に限定されるものではない。透明基板の材料としては、例えば、ガラス、石英、水晶、サファイヤ等が挙げられる。透明基板の形状としては、四角形が一般的であるが、目的に応じた形状を適宜選択してもよい。また、透明基板の厚みは、例えば0.1~3.0mmの範囲とすることが好ましい。
【0027】
図1に示される位相差補償素子10においては、透明基板11は、第1の光学異方性層12とマッチング層15との間に配置される。
【0028】
[第1の光学異方性層]
第1の光学異方性層は、C-プレートとして作用する層である。C-プレートとして作用する層であれば、特に限定されるものではないが、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜の積層体であることが好ましい。また、第1の光学異方性層は、C-プレートとしての作用以外に、反射防止の作用を有することが好ましい。すなわち第1の光学異方性層は、C-プレートとして作用するとともに、反射防止を同時に行う位置づけとなっていることが好ましい。
【0029】
第1の光学異方性層は、透明基板の、後記する第2の光学異方性層が設けられた面と対向する面に設けられる。
【0030】
図2は、本発明の一実施形態に係る第1の光学異方性層の断面模式図である。図2に示す第1の光学異方性層12は、屈折率の異なる2種類の誘電体膜を積層した多層膜である。本実施形態では、第1の光学異方性層12は、第1の誘電体膜121と、第2の誘電体膜122とが交互に積層された誘電体多層膜で構成される。層数としては特に限定されるものではないが、例えば、第1の誘電体膜121と第2の誘電体膜122が交互に積層された合計34層からなる誘電体多層膜が挙げられる。
【0031】
第1の光学異方性層を構成する、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜を形成する材料としては、それぞれ、TiO、SiO、Ta、Al、CeO、ZrO、ZrO、Nb、およびHfOからなる群より選択される少なくとも1種を含む無機酸化物が挙げられる。例えば、図2に示す一実施形態に係る第1の光学異方性層12においては、第1の誘電体膜121は、相対的に高屈折率のNbにて形成し、第2の誘電体膜122は、相対的に低屈折率のSiOにて形成することが好ましい。
【0032】
ここで、本発明において、第1の光学異方性層を、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜の積層体とする場合には、第1の光学異方性層は、構成する誘電体膜の膜厚が異なることから、構造複屈折を利用してC-プレートとして作用しつつ、光の干渉効果(多重反射)を利用して、反射防止膜としても機能する。また、積層数も比較的少なくすることが可能である。
【0033】
第1の光学異方性層は、透明基板の表面に直交する方向(基板法線方向)に対して15度傾斜した斜入射光に付与する位相差が、1.0~25.0nmとなるように設計することが好ましい。この範囲の位相差となるように、各誘電体膜の膜厚を異なるものとし、さらに積層数を最適なものとすることで、実用的な第1の光学異方性層となる。したがって、第1の光学異方性層の膜厚は、所望の位相差を得るために必要な厚みとすればよく、特に限定されるものではない。
【0034】
[第2の光学異方性層]
本発明の位相差補償素子における第2の光学異方性層は、無機材料が堆積して形成された複屈折膜を含む。第1の光学異方性層と第2の光学異方性層は、本発明の位相差補償素子において位相差を補償する機能を有し、コントラストを改善することに寄与する。
【0035】
図1に示される位相差補償素子10においては、第2の光学異方性層13は、マッチング層15と保護層14との間に配置される。第2の光学異方性層13は、複屈折膜を含む層となっている。
【0036】
第2の光学異方性層に含まれる複屈折膜は、透明基板の表面に直交する方向(以下、基板法線方向という)である基板法線に対して、傾斜する方向に堆積して形成された膜となっている。本発明の位相差補償素子における第2の光学異方性層は、無機材料が堆積して形成された複屈折膜を含む。
【0037】
複屈折膜は、透明基板の基板法線に対して傾斜する方向に堆積して形成され、複屈折膜を形成する無機材料の成膜方向と透明基板の表面とのなす角の角度は90度ではない。
【0038】
本発明において、複屈折膜となる無機材料の成膜方向と透明基板の表面とのなす角の角度を90度ではない状態にする方法としては、例えば、基板法線に対して傾斜した位置に蒸着源を配置し、当該蒸着源からの斜方蒸着により、斜方蒸着膜を形成する方法が好ましい。
【0039】
図3は、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きが示されている図である。液晶分子の傾斜方向LをXY平面上に投影して得られる線分の向きが、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きlとなる。なお、本発明の位相差補償素子は、面内方向に配置角度を調整する必要がないという利点を有する。
【0040】
図4は、斜方蒸着により複屈折膜を形成した場合に、蒸着源から透明基板表面への成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きが示されている図である。蒸着源から成膜方向Dにて透明基板11に向かって蒸着膜を形成する場合には、複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きは、dで示される。
【0041】
本発明の位相差補償素子における第2の光学異方性層に含まれる複屈折膜は、無機材料の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きが、連続して15°以上変化することを特徴とする。すなわち、図4に示されるdが、連続して15°以上変化する。
【0042】
ここで、連続して15°以上変化するとは、具体的には、成膜開始時の面内方向の基板位置と成膜終了時の面内方向の基板位置が15°以上変化していて、成膜中における面内方向の基板位置の変化が断続的ではないことを意味する。本発明において、無機材料の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きが、連続して15°以上変化する方法としては、第2の光学異方性層に含まれる複屈折膜を斜方蒸着で形成し、その際、透明基板を面内方向に連続して回転させ、成膜方向を変化させる方法が挙げられる。
【0043】
第2の光学異方性層は、無機材料が堆積して形成された複屈折膜を含む。無機材料としては、誘電材料が好ましく、例えば、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、Al、Hf、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する酸化物が挙げられる。さらには、Taを主成分とするものが好ましく、TaにTiOを5~15質量%添加した材料がさらに好ましい。
【0044】
無機材料が堆積して形成された複屈折膜を含む第2の光学異方性層全体の厚みは、特に限定されるものではない。なお、本明細書において層の厚み(膜厚)とは、平均の膜厚を意味する。
【0045】
[マッチング層]
マッチング層は、本発明においては任意の層であり、透明基板と第2の光学異方性層との界面における反射を防止する層である。マッチング層は、透明基板と第2の光学異方性層との間に設けられ、例えば、誘電体の多層膜である。マッチング層は、透明基板とマッチング層との界面反射光と、マッチング層と第2の光学異方性層との界面反射光を、打ち消しあうように設計する。
【0046】
図1における位相差補償素子10におけるマッチング層15は、透明基板11と第2の光学異方性層13との間に配置されている。マッチング層15の存在により、位相差補償素子10は、より反射が防止された素子となる。
【0047】
[保護層]
保護層は、本発明においては任意の層であり、位相差補償素子の反りを防止し、かつ、第2の光学異方性層の耐湿性を向上するために設けられる。保護層の材料としては、位相差補償素子にかかる応力が調整可能であり、かつ、耐湿性向上に寄与するものであれば特に限定されるものではないが、誘電体であることが好ましい。保護層としては、例えばSiO等の薄膜が挙げられる。
【0048】
図1における位相差補償素子10における保護層14は、第2の光学異方性層13と反射防止層16との間に配置されている。保護層を設ける場合には、位相差補償素子において、第2の光学異方性層上に配されることが好ましい。
【0049】
[反射防止層]
反射防止層は、必要に応じて設けられ、所望の使用波長帯域における反射防止の作用を有する層である。反射防止層は、例えば誘電体膜が積層されたものであり、必要とする特性と生産性に応じて、用いる誘電体と層数とを適宜設定することができる。
【0050】
図1における位相差補償素子10における反射防止層16は、第2の光学異方性層13やマッチング層15、保護層14が設けられている側の最外部となるように設けられている。
【0051】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、上記の本発明の位相差補償素子と、を備える。本発明においては、液晶セルはVAモードであることが好ましい。
【0052】
VAモード液晶セルは、垂直配向型の液晶セルであり、無電圧印加状態における液晶分子は、基板面の法線方向に対して一定の方向に傾いて配向する。この傾き角度をプレチル卜角と呼ぶ。
【0053】
本発明によれば、わずか一枚の位相差補償素子を、液晶セルを有する光路上の入射側偏光板と液晶セルの間、または、液晶セルと出射側偏光板の間に配置するだけで、特に位相差補償素子の角度調整を行うことなく、液晶表示装置のコントラストを改善させることができ、十分な光学補償効果を得ることができる。
【0054】
[投射型画像表示装置]
また、本発明の投射型画像表示装置は、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系と、光源と投射光学系との間の光路に配置された上記の液晶表示装置と、を有する。
【0055】
光源は、光を出射するものであり、例えば、白色光を出射する超高圧水銀ランプ等が挙げられる。投射光学系は、変調された光を投射するものであり、例えば、変調された光をスクリーンに投射する投射レンズ等が挙げられる。VAモード液晶セルと、本発明の位相差補償素子と、を備える液晶表示装置は、光源と投射光学系との間の光路上に配置される。
【0056】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例
【0057】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
[位相差補償素子の作製]
【0059】
(第1の光学異方性層の形成)
ガラス基板(平均厚み0.7mm)を準備し、一方の面上に、NbとSiOとを用いて、40層をスパッタ法により交互に積層することによって、第1の光学異方性層を形成した。付与する位相差は、基板の法線方向から15°傾斜した入射光に対して9.0nmとなるようにした。
(マッチング層の形成)
次いで、ガラス基板の他方の面上に、NbとSiOとを用いて、5層をスパッタ法により交互に積層することによって、マッチング層を形成した。
【0060】
(第2の光学異方性層の形成)
マッチング層上に、TaとTiOの混合物を蒸着材料として、図5に示すように、斜方蒸着の成膜方向を55°から215°まで連続して変化させて、複屈折膜を形成した。蒸着にあたっては、基板法線方向に対して70度傾斜した位置に蒸着源を配置した。
【0061】
蒸着後、特性を安定化させるために300℃でアニール処理を行った。なお、実施例1において、液晶セルの液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きlは、45°である。
【0062】
(保護層の形成)
アニール処理した第2の光学異方性層に対して、TEOS(テトラエトキシシラン)ガスとOとを用いて、プラズマCVD法により、SiO膜を成膜することにより、保護層を形成した。
【0063】
(反射防止層の形成)
次いで、保護層の上に、NbとSiOとを用いて、スパッタ法により7層を交互積層することによって反射防止層を形成し、最終的な位相差補償素子を得た。
【0064】
[コントラストの測定]
実施例1で得られた位相差補償素子を、投射型画像表示装置に組み込み、コントラストを測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
本発明の位相差補償素子は、液晶セルで発生する位相差を適切に補正することで、コントラストを改善することができる。また、位相差補償素子の角度調整等する必要がないため、配置スペースを大幅に縮小することができる。さらに、無機材料を用いているため耐久性に優れている。
【符号の説明】
【0067】
10 位相差補償素子
11 透明基板
12 第1の光学異方性層
121 第1の誘電体膜
122 第2の誘電体膜
13 第2の光学異方性層
14 保護層
15 マッチング層
16 反射防止層
L 液晶分子の傾斜方向
l 液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向き
D 複屈折膜の成膜方向
d 複屈折膜の成膜方向を前記透明基板の表面に投影した線分の向き
図1
図2
図3
図4
図5