(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】ポンプゲートの管理運転方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
E02B7/20 104
(21)【出願番号】P 2018199610
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
(72)【発明者】
【氏名】野口 真
(72)【発明者】
【氏名】浦野 健司
(72)【発明者】
【氏名】柳田 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】小松 一登
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-014051(JP,A)
【文献】特開2002-332624(JP,A)
【文献】特開2007-051427(JP,A)
【文献】実開昭54-166025(JP,U)
【文献】特開2003-166477(JP,A)
【文献】特開2004-238974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプを備えた扉体がガイド部材に案内されて昇降するポンプゲートの管理運転方法であって、
扉体を流水路内の液面上に上昇させた開状態とすることで、扉体とガイド部材との隙間の一部を埋めることにより、ガイド部材に対する扉体の遊びを無くして、扉体をガイド部材に固定する扉体固定工程と、
扉体固定工程の後に、扉体を流水路内の液面上に上昇させた開状態で、ポンプを起動させ、所定の管理項目について測定を行うポンプ測定工程
とを有し、
ポンプゲートの設置場所から離れた場所で、扉体固定工程とポンプ測定工程を遠隔操作で行うことを特徴とするポンプゲートの管理運転方法。
【請求項2】
扉体固定工程において、扉体に備えられた車輪とガイド部材との隙間を楔部材により埋めることを特徴とする請求項1記載のポンプゲートの管理運転方法。
【請求項3】
扉体固定工程において、楔部材をガイド部材に固定した状態で、楔部材に対して扉体を上昇又は下降操作することにより、扉体の車輪とガイド部材との隙間を埋めることを特徴とする請求項2記載のポンプゲートの管理運転方法。
【請求項4】
所定の管理項目は、ポンプの電流、ポンプの振動、ポンプの騒音、ポンプの回転数、ポンプの消費電力、ポンプの温度の少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポンプゲートの管理運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急の排水等に用いられるポンプゲートの管理運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のポンプゲートとしては、例えば、
図21に示すように、流水路101に設置されたポンプゲート102がある。流水路101は、吸込側水路の一例である支川側水路103と、吐出側水路の一例である本川側水路104とを有している。ポンプゲート102は、支川側水路103と本川側水路104との境界部にあり、流水路101を開閉する扉体105と、扉体105を昇降させる昇降装置106とを有している。扉体105には横軸ポンプ107が設けられている。
【0003】
平常時は、
図21に示すように、横軸ポンプ107を停止し、扉体105を流水路101内の水面109上に上昇させた開放状態で、水110が支川側水路103から本川側水路104へ自然流下する。
【0004】
また、集中豪雨等の増水により本川側水路104の水位が上昇した場合、本川側水路104から支川側水路103への逆流を防止するために、
図22に示すように、扉体105を下降させた閉鎖状態で、横軸ポンプ107を作動して、支川側水路103から本川側水路104へ水110を緊急かつ強制的に排水する。
【0005】
このようなポンプゲート102において、平常時は開放状態に保たれているが、緊急に排水が必要となった際に横軸ポンプ107を確実に運転できることを確認するため、平常時において定期的に管理運転が行われている。
【0006】
管理運転を行う場合、先ず、
図23に示すように、扉体105を開放状態から下降させて閉鎖状態にし、支川側水路103の水110を貯めて水位を上昇させ、横軸ポンプ107を水面109下に水没させ、この状態で横軸ポンプ107を駆動させる。これにより、横軸ポンプ107内の羽根車が回転し、支川側水路103の水110が強制的に本川側水路104へ排水される。
【0007】
このような管理運転において、例えば横軸ポンプ107の電流等を測定することにより、横軸ポンプ107の不具合の有無を確認していた。
【0008】
尚、管理運転を終了した後、横軸ポンプ107を停止し、
図21に示すように、扉体105を閉鎖状態から上昇させて開放状態に戻す。上記のようなポンプゲートは例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記の従来形式では、以下のような問題点がある。
【0011】
平常時、
図21に示すようにポンプゲート102は開放状態に保たれているため、管理運転を実施する場合、
図23に示すようにポンプゲート102を開放状態から閉鎖状態に切り換え、管理運転が終了した後、
図21に示すようにポンプゲート102を閉鎖状態から開放状態に戻す必要があり、このような開閉操作が面倒である。このため、管理運転を実施する際に手間と時間を要した。
【0012】
また、季節により降雨の少ない時期等では、支川側水路103に水110を貯めるのが困難であったり、また、横軸ポンプ107を水面109下に水没させるだけの十分な量の水110が貯められなかったり、逆に降雨時には支川側水路103に水110を貯めることによる上流側への影響を考慮する必要があったり、或いは、突然の豪雨による浸水のリスクがある等の様々な要因により、所望するタイミングで管理運転を行うことが困難であった。
【0013】
また、扉体105を開放状態(
図21参照)から下降させて閉鎖状態(
図23参照)にする際、扉体105の下端部と流水路101の底部との間に石等の異物が噛み込んでいないかを作業者が確認する必要があり、このような確認作業に手間と時間を要した。
【0014】
また、管理運転を実施している際、
図23に示すように、横軸ポンプ107は水面109下に没しているため、横軸ポンプ107を直接目視で確認することは困難である。このため管理運転中、横軸ポンプ107の運転状況を外部から十分に目視確認することは困難である。
【0015】
本発明は、管理運転を容易に行うことができ、ポンプの運転状況を外部から容易に目視確認することが可能なポンプゲートの管理運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本第1発明は、ポンプを備えた扉体がガイド部材に案内されて昇降するポンプゲートの管理運転方法であって、
扉体を流水路内の液面上に上昇させた開状態とすることで、扉体とガイド部材との隙間の一部を埋めることにより、ガイド部材に対する扉体の遊びを無くして、扉体をガイド部材に固定する扉体固定工程と、
扉体固定工程の後に、扉体を流水路内の液面上に上昇させた開状態で、ポンプを起動させ、所定の管理項目について測定を行うポンプ測定工程とを有し、
ポンプゲートの設置場所から離れた場所で、扉体固定工程とポンプ測定工程を遠隔操作で行うものである。
【0017】
これによると、管理運転を実施する際、扉体を閉鎖せずに開状態でポンプ測定工程を行うため、扉体を開閉する手間が省け、管理運転を容易に且つ所望するタイミングで行うことができる。
【0018】
また、管理運転を実施している際、扉体は流水路内の液面上に露出しているため、ポンプの運転状況を外部から容易に目視確認することができる。
【0020】
また、扉体固定工程において扉体をガイド部材に固定し、この状態でポンプ測定工程を行うため、管理運転中に、扉体がガイド部材に対して不用意にがたつくのを防止することができる。これにより、ポンプ測定工程においてポンプに関する正確な測定値を得ることができるとともに、ポンプの振動に伴う扉体およびガイド部材の損傷を防止することができる。
さらに、扉体を流水路内の液面上に上昇させた開状態のままで管理運転を実施するため、扉体を閉鎖する必要はなく、ポンプゲートの設置場所に人が居ない場合であっても、管理運転を遠隔操作で行うことができる。
【0021】
本第2発明におけるポンプゲートの管理運転方法は、扉体固定工程において、扉体に備えられた車輪とガイド部材との隙間を楔部材により埋めるものである。
【0022】
これによると、楔部材によって、ガイド部材に対する扉体の遊びを無くし、扉体をガイド部材に固定することができる。
【0023】
本第3発明におけるポンプゲートの管理運転方法は、扉体固定工程において、楔部材をガイド部材に固定した状態で、楔部材に対して扉体を上昇又は下降操作することにより、扉体の車輪とガイド部材との隙間を埋めるものである。
【0024】
これによると、扉体を開状態に保ったままで、楔部材に対して扉体を上昇又は下降操作することにより、扉体の車輪とガイド部材との隙間を埋める。これにより、楔部材によって、ガイド部材に対する扉体の遊びを無くし、扉体をガイド部材に固定することができる。
【0027】
本第4発明におけるポンプゲートの管理運転方法は、所定の管理項目は、ポンプの電流、ポンプの振動、ポンプの騒音、ポンプの回転数、ポンプの消費電力、ポンプの温度の少なくともいずれか1つである。
【0028】
これによると、ポンプの電流等の所定の管理項目について測定を行うことにより、ポンプの不具合の有無を確認することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上のように本発明によると、管理運転を容易に行うことができ、ポンプの運転状況を外部から容易に目視確認することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1の実施の形態におけるポンプゲートの一部断面側面図であり、扉体を平常時開位置まで上昇させた様子を示す。
【
図2】同、ポンプゲートの扉体とガイドレールの側面図であり、扉体を平常時開位置まで上昇させた様子を示す。
【
図3】同、ポンプゲートを上流側から見た一部断面正面図であり、扉体を平常時開位置まで上昇させた様子を示す。
【
図6】同、ポンプゲートの一部断面側面図であり、扉体を閉鎖位置まで下降させた様子を示す。
【
図7】同、ポンプゲートを上流側から見た一部断面正面図であり、扉体を閉鎖位置まで下降させた様子を示す。
【
図8】同、ポンプゲートの扉体とガイドレールの側面図であり、扉体を閉鎖位置まで下降させた様子を示す。
【
図10】同、ポンプゲートの扉体とガイドレールの側面図であり、扉体を管理運転時開位置まで上昇させた様子を示す。
【
図12】本発明の第2の実施の形態におけるポンプゲートの扉体とガイドレールの側面図であり、管理運転実施時の様子を示す。
【
図14】同、ポンプゲートの上部第1楔部材と上部第2楔部材とのガイドレールへの取付構造を示す拡大図である。
【
図15】同、ポンプゲートの一部断面側面図であり、扉体を平常時開位置(=管理運転時開位置)まで上昇させた様子を示す。
【
図16】同、ポンプゲートを上流側から見た一部断面正面図であり、扉体を平常時開位置(=管理運転時開位置)まで上昇させた様子を示す。
【
図17】同、ポンプゲートの一部断面側面図であり、扉体を閉鎖位置まで下降させた様子を示す。
【
図18】同、ポンプゲートの扉体とガイドレールの側面図であり、扉体を閉鎖位置まで下降させた様子を示す。
【
図20】同、ポンプゲートの扉体とガイドレールの側面図であり、扉体を退避位置まで上昇させた様子を示す。
【
図21】従来のポンプゲートの一部断面側面図であり、扉体を上昇させて開放状態にした様子を示す。
【
図22】同、ポンプゲートの一部断面側面図であり、扉体を下降させて閉鎖状態にした様子を示す。
【
図23】同、ポンプゲートの一部断面側面図であり、管理運転を行っている様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。尚、既に上記背景技術で述べた従来のものと同じ部材については同一の符号を付記して、詳細な説明を省略する。
【0038】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、
図1~
図5に示すように、1は流水路101に設置されたポンプゲートである。ポンプゲート1は、流水路101を開閉する昇降自在な扉体2と、扉体2を上下方向に案内する構造のガイド部材3と、扉体2を昇降させる昇降駆動装置4とを有している。
【0039】
尚、扉体2に対して支川側水路103の側を上流側とし、本川側水路104の側を下流側とする。
【0040】
扉体2は、扉本体6と、扉本体6に備えられた2台の横軸ポンプ7と、複数の案内車輪9,10とを有している。横軸ポンプ7は、扉体2の幅方向Wにおいて並設されており、支川側水路103の水37を吸い込んで本川側水路104に強制的に吐出する。また、横軸ポンプ7は吐出口を開閉自在なフラップ型の逆止弁8を有している。
【0041】
扉本体6の両側部の上下二箇所にはそれぞれ水平方向の車軸28が設けられ、各案内車輪9,10は各車軸28に回転自在に設けられている。
【0042】
扉本体6の上流側の面の両側部にはそれぞれ、上部受け体25と下部受け体26と振れ止め用ローラ27とが設けられている。上部受け体25と下部受け体26とは扉本体6から上流側へ突出している。また、振れ止め用ローラ27は扉体2が幅方向Wに振れるのを防止するためのものである。
【0043】
扉本体6の下流側の面には、ゴム等からなる四角枠形状のシール部材11が設けられている。
【0044】
昇降駆動装置4は扉体2の上方に設置されており、昇降駆動装置4と扉本体6とは昇降ロッド12を介して連結されている。
【0045】
ガイド部材3は、流水路101に立設された左右一対のガイドレール14を有している。両ガイドレール14はそれぞれ、平面視において凹形状のレールであり、扉体2の厚さ方向Tにおいて相対向する一対のガイド板15,16と、一対のガイド板15,16の外側縁間に設けられた外側板17とを有している。一対のガイド板15,16間には上下方向に長い戸溝19が形成されており、案内車輪9,10および扉本体6の両側部は戸溝19内に挿入されている。
【0046】
また、振れ止め用ローラ27は、扉本体6と共に、上流側のガイド板15に案内されて転動自在に昇降する。
【0047】
尚、
図9に示すように、扉本体6とガイド板15との間には隙間35が形成され、案内車輪9,10とガイド板15との間にも隙間36が形成され、これにより、扉体2は、ガイド部材3に対して、厚さ方向Tにおける僅かな遊びを有している。
【0048】
一方のガイドレール14の下流側のガイド板16と他方のガイドレール14の下流側のガイド板16との間には横部材21が設けられている。両方の下流側のガイド板16と横部材21とで戸当り22が形成されている。
【0049】
扉体2の昇降経路上には、扉体2が最下位まで下降して流水路101を閉鎖する閉鎖位置PS(
図6~
図8参照)と、平常時において流水路101内の水面38上に上昇している平常時開位置P1(
図1~
図3参照)と、管理運転を実施するときの管理運転時開位置P2(
図10参照)とが設定されている。尚、管理運転時開位置P2は平常時開位置P1よりも所定高さ分だけ高い位置に設定されている。
【0050】
ガイドレール14の上流側のガイド板15には、下から順に、下部第1楔部材29と下部第2楔部材30と上部第1楔部材31(扉体固定部材の一例)と上部第2楔部材32(扉体固定部材の一例)とが設けられている。
【0051】
下部第1楔部材29は、
図6~
図9に示すように、閉鎖位置PSまで下降した扉体2の下部案内車輪10を戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てるためのものである。
【0052】
下部第2楔部材30は、
図6~
図9に示すように、閉鎖位置PSまで下降した扉体2の上部受け体25に当接して、扉本体6を戸当り22(すなわち下流側のガイド板16と横部材21)に押し当てるためのものである。
【0053】
上部第1楔部材31は、
図10,
図11に示すように、管理運転時開位置P2まで上昇した扉体2の下部受け体26に当接して、扉本体6を戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てるためのものである。
【0054】
上部第2楔部材32は、
図10,
図11に示すように、管理運転時開位置P2まで上昇した扉体2の上部案内車輪9を戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てるためのものである。
【0055】
尚、下部第1楔部材29と下部第2楔部材30と上部受け体25とはそれぞれ、下位ほど下流側へ傾斜した傾斜面を有している。また、上部第1楔部材31と上部第2楔部材32と下部受け体26とはそれぞれ、上位ほど下流側へ傾斜した傾斜面を有している。
【0056】
上記構成における作用を以下に説明する。
【0057】
平常時は、
図1~
図3に示すように、扉体2を平常時開位置P1まで上昇させた状態に保つ。これにより、扉体2が流水路101内の水面38よりも上方に位置し、流水路101内の水37が支川側水路103から本川側水路104へ自然流下する。
【0058】
また、集中豪雨等の増水により本川側水路104の水位が上昇した場合、本川側水路104から支川側水路103への逆流を防止するために、
図6~
図9に示すように、扉体2を平常時開位置P1から閉鎖位置PSまで下降させ、横軸ポンプ7を作動する。これにより、支川側水路103の水37が横軸ポンプ7の吸込口から吸い込まれ、横軸ポンプ7の逆止弁8が開いて、横軸ポンプ7内の水37が吐出口から本川側水路104に吐出される。このため、支川側水路103から本川側水路104へ水37が緊急かつ強制的に排水される。
【0059】
この際、
図8,
図9に示すように、閉鎖位置PSまで下降した扉体2の上部受け体25が下部第2楔部材30に上方から当接して、扉本体6が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16と横部材21)に押し当てられるとともに、閉鎖位置PSまで下降した扉体2の下部案内車輪10が下部第1楔部材29に上方から当接して、下部案内車輪10が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てられる。
【0060】
これにより、扉本体6のシール部材11が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16と横部材21)に押付けられて圧縮するため、扉本体6と戸当り22(すなわち下流側のガイド板16と横部材21)との間の水密性が確保される。
【0061】
尚、扉体2がガイドレール14に案内されて昇降している際、振れ止め用ローラ27が上流側のガイド板15に当接して転動することにより、扉体2が幅方向Wに振れることを防止している。
【0062】
また、平常時においてポンプゲート1の管理運転を実施する際の管理運転方法を以下に説明する。
【0063】
管理運転方法は、以下のような扉体固定工程を行った後、ポンプ測定工程を行う。
【0064】
すなわち、先ず、扉体固定工程において、
図10,
図11に示すように、扉体2を平常時開位置P1から管理運転時開位置P2まで上昇させる。これにより、管理運転時開位置P2まで上昇した扉体2の下部受け体26が上部第1楔部材31に下方から当接して、扉本体6が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てられるとともに、管理運転時開位置P2まで上昇した扉体2の上部案内車輪9が上部第2楔部材32に下方から当接して、上部案内車輪9が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てられる。
【0065】
これにより、扉体2を流水路101内の水面38上に上昇させた開状態で、上部第1楔部材31と上部第2楔部材32とが扉体2の側縁部とガイド部材3との隙間35,36の一部を埋めるため、ガイド部材3に対する扉体2の遊びが無くなって、扉体2が管理運転時開位置P2においてガイド部材3に固定される。
【0066】
その後、ポンプ測定工程において、横軸ポンプ7を起動させ、横軸ポンプ7を空運転している状態で所定の管理項目について測定を行う。
【0067】
尚、所定の管理項目としては、横軸ポンプ7の電流、振動、騒音、回転数、消費電力、温度、圧力等が挙げられる。このうち、横軸ポンプ7の圧力としては、具体的には、横軸ポンプ7に備えられているメカニカルシール室内の圧力、モータ部の圧力、流路内の圧力等が挙げられる。
【0068】
これらの管理項目については、予め、工場又は設置現場等にて正常時における横軸ポンプ7の空運転の電流値、振動振幅値、騒音値、回転数値、消費電力値、温度値、圧力値を測定して、それぞれの管理項目についての標準測定データを作成しておき、管理運転時に測定された電流値、振動振幅値、騒音値、回転数値、消費電力値、温度値、圧力値と標準測定データとを比較する。
【0069】
上記のようなポンプゲート1の管理運転方法によると、
図10に示すように、扉体2を閉鎖せずに開状態で管理運転を行うため、扉体2を開閉する手間が省け、管理運転を容易に行うことができる。
【0070】
また、管理運転を実施している際、扉体2は流水路101内の水面38上に露出しているため、横軸ポンプ7の運転状況を外部から容易に目視確認することができる。
【0071】
また、
図10,
図11に示すように、扉体固定工程において、上部第1楔部材31と上部第2楔部材32とによって扉体2をガイド部材3に固定し、この状態でポンプ測定工程を行うため、管理運転中に、扉体2がガイド部材3に対して不用意にがたつくのを防止することができ、これにより、ポンプ測定工程において、所定の管理項目に関する正確な測定値を得ることができ、横軸ポンプ7の不具合の有無を確認することができる。
【0072】
上記第1の実施の形態では、管理運転を実施する際、扉体2を閉鎖位置PSまで下降させる必要は無いため、ポンプゲート1の設置場所から離れた場所で、扉体固定工程とポンプ測定工程とを遠隔操作で行ってもよい。また、タイマー等を用いて、定期的に自動で管理運転を行ってもよい。
【0073】
上記第1の実施の形態では、
図10,
図11に示すように、上部第1楔部材31を上流側のガイド板15に設け、下部受け体26を扉体2に設けているが、上部第2楔部材32のみを設け、上部第1楔部材31と下部受け体26とを設けていないポンプゲート1であってもよい。
【0074】
上記第1の実施の形態では、
図9,
図11に示すように、下部受け体26と上部第1楔部材31の対(ペア)と、上部受け体25と下部第2楔部材30の対(ペア)とを、扉体2の幅方向Wにおいて互いに干渉しないように、扉体2に対応する位置に設け、下部第1楔部材29と上部第2楔部材32とを扉体2の幅方向Wにおいて案内車輪9,10に対応する位置に設けているが、扉体2を閉鎖位置PSと管理運転時開位置P2との間で昇降させる際に、互いに干渉しなければ、上記各楔部材29~32は、扉体2の幅方向Wにおいて扉体2に対応する位置に設けられていてもよく、或いは、案内車輪9,10に対応する位置に設けていてもよい。
【0075】
上記第1の実施の形態では、
図10,
図11に示すように、扉体固定工程において、上部第1楔部材31と上部第2楔部材32とをガイド部材3の上流側のガイド板15に設けた状態で、上部第1楔部材31および上部第2楔部材32に対して扉体2を平常時開位置P1から管理運転時開位置P2まで上昇操作することにより、扉体2の側縁部とガイド部材15との隙間35,36の一部を埋めている。しかしながら、このような形態に限定されるものではなく、例えば、下記第2の実施の形態に示すように、扉体固定工程において、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とをガイド部材3の上流側のガイド板15に固定した状態で、上部第1楔部材61および上部第2楔部材62に対して扉体2を下降操作することにより、扉体2の側縁部とガイド部材15との隙間36の一部を埋めてもよい。
【0076】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態を以下に説明する。尚、上述した第1の実施の形態のものと同じ部材については同一の符号を付記して、詳細な説明を省略する。
【0077】
図12に示すように、平常時開位置P1と管理運転時開位置P2とは同じ高さに設定されている。また、平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)から所定高さ分だけ高い位置に退避位置P3が設定されている。
【0078】
図12,
図13に示すように、ガイドレール14の上流側のガイド板15には、下から順に、下部第1楔部材29と下部第2楔部材30と上部第1楔部材61(扉体固定部材の一例)と上部第2楔部材62(扉体固定部材の一例)とが設けられている。
【0079】
図14に示すように、上部第1楔部材61は、上流側のガイド板15に着脱自在であり、楔本体65と、楔本体65に設けられた複数のねじ部材66と、ねじ部材66に螺合する複数のナット67とを有している。また、上流側のガイド板15には複数の取付孔69が形成されている。ねじ部材66を取付孔69に挿入し、ナット67をねじ部材66に螺合することにより、上部第1楔部材61が上流側のガイド板15に取付けられて固定される。また、ねじ部材66からナット67を離脱することにより、上部第1楔部材61が上流側のガイド板15から取り外される。
【0080】
上部第2楔部材62についても、上流側のガイド板15に着脱自在であり、上記上部第1楔部材61と同様な構成を有している。
【0081】
上部第1楔部材61は、退避位置P3から平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)まで下降した扉体2の下部案内車輪10を戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てるためのものである。
【0082】
上部第2楔部材62は、退避位置P3から平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)まで下降した扉体2の上部案内車輪9を戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てるためのものである。
【0083】
尚、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とはそれぞれ、下位ほど下流側へ傾斜した傾斜面を有している。
【0084】
上記構成における作用を以下に説明する。
【0085】
平常時においては、
図15,
図16に示すように、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とを上流側のガイド板15から取り外し、扉体2を平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)まで上昇させた状態に保つ。
【0086】
また、集中豪雨等の増水により本川側水路104の水位が支川側水路103の水位よりも上昇した場合、本川側水路104から支川側水路103への逆流を防止するために、
図17~
図19に示すように、扉体2を平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)から閉鎖位置PSまで下降させ、横軸ポンプ7を作動して、支川側水路103から本川側水路104へ水37を緊急かつ強制的に排水する。
【0087】
また、平常時においてポンプゲート1の管理運転を実施する際の管理運転方法を以下に説明する。
【0088】
先ず、
図20に示すように、扉体固定工程において、扉体2を平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)から退避位置P3まで一旦上昇させ、この状態で、
図20の仮想線および
図14に示すように、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とを上流側のガイド板15に取付ける。この際、扉体2は退避位置P3に退避しているため、扉体2の上部および下部案内車輪9,10が上部第1楔部材61と上部第2楔部材62との取付作業の邪魔になることはない。
【0089】
その後、扉体2を退避位置P3から下降させることにより、
図12,
図13に示すように、平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)において、扉体2の下部案内車輪10が上部第1楔部材61に上方から当接して、下部案内車輪10が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てられるとともに、上部案内車輪9が上部第2楔部材62に上方から当接して、上部案内車輪9が戸当り22(すなわち下流側のガイド板16)に押し当てられる。
【0090】
これにより、扉体2を流水路101内の水面38上に上昇させた開状態で、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とが扉体2の側縁部とガイド部材3との隙間36の一部を埋めるため、ガイド部材3に対する扉体2の遊びが無くなって、扉体2が平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)においてガイド部材3に固定される。
【0091】
その後、ポンプ測定工程において、横軸ポンプ7を起動させ、横軸ポンプ7を空運転している状態で所定の管理項目について測定を行う。
【0092】
上記のような管理運転が終了した後、
図20に示すように、扉体2を平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)から退避位置P3まで一旦上昇させ、この状態で、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とを上流側のガイド板15から取り外す。この際、扉体2は退避位置P3に退避しているため、扉体2の上部および下部案内車輪9,10が上部第1楔部材61と上部第2楔部材62との取外し作業の邪魔になることはない。
【0093】
その後、
図15,
図16に示すように、扉体2を、退避位置P3から平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)まで下降させ、平常時の態勢に戻す。このようにすれば、管理運転終了後に、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とを上流側のガイド板15から取り外すのを忘れることを防止することができる。
【0094】
上記のようなポンプゲート1の管理運転方法によると、
図12,
図13に示すように、管理運転を行う際に上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とをガイド部材3の上流側のガイド板15に装着し、管理運転が終了した後、
図20に示すように、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とを上流側のガイド板15から取り外すことができる。これにより、集中豪雨等の緊急時に扉体2を
図15,
図16に示した平常時開位置P1(=管理運転時開位置P2)から
図17,
図18に示した閉鎖位置PSまで下降させて閉鎖する際、上部第1楔部材61および上部第2楔部材62が扉体2の下降の邪魔になることはない。
【0095】
上記第2各実施の形態では、上部第1楔部材61と上部第2楔部材62とが案内車輪9,10と当接する位置に着脱自在に設けられているが、扉本体6に受け体を設け、楔部材61,62の片方又は両方を受け体と当接する位置に着脱自在に設けてもよい。
【0096】
上記第2各実施の形態では、
図14に示すように、楔部材61,62をガイドレール14に着脱自在に固定する構造として、ねじ部材66とナット67を用いた締結構造を採用しているが、ガイドレール14に取付用孔を形成し、楔部材61,62を、取付用孔に係合又は嵌入することにより、ガイドレール14に着脱自在に固定してもよい。
【0097】
上記各実施の形態では、扉体固定部材(各楔部材(31,32)(61,62))を、高さ位置の異なる上下二箇所に設けているが、一箇所又は三箇所以上設けてもよい。
【0098】
上記各実施の形態では、管理運転を実施している時、扉体2を流水路101内の水面38上に上昇させているが、これは、
図10,
図12に示すように、扉体2を完全に水面38よりも上方に位置させている場合のみならず、扉体2の下部が僅かに水面38下に位置している場合も含んでいる。
【0099】
上記各実施の形態では、所定の管理項目として、横軸ポンプ7の起動電流、振動、騒音、回転数、消費電力を挙げたが、これらのうちの少なくともいずれか1つであってもよい。
【0100】
上記各実施の形態では、扉本体6に2台の横軸ポンプ7を備えているが、1台又は2台以外の複数台備えてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 ポンプゲート
2 扉体
3 ガイド部材
7 横軸ポンプ
31,61 上部第1楔部材(扉体固定部材)
32,62 上部第2楔部材(扉体固定部材)
35,36 隙間
38 水面(液面)
101 流水路