(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】雑音防止抵抗器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 3/20 20060101AFI20230302BHJP
H01C 1/148 20060101ALI20230302BHJP
H01C 3/14 20060101ALI20230302BHJP
H01C 3/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
H01C3/20
H01C1/148 A
H01C3/14 W
H01C3/00 W
(21)【出願番号】P 2018208471
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】今井 友仁
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 健太郎
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111181(JP,A)
【文献】実公昭43-002192(JP,Y1)
【文献】国際公開第2018/030003(WO,A1)
【文献】特開平04-196101(JP,A)
【文献】特開平06-325901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 3/20
H01C 1/148
H01C 3/14
H01C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の芯材と、その芯材の外周面に巻回した抵抗線と、前記芯材および前記抵抗線の外周表面を覆う絶縁被覆とを備える抵抗素子の両端に
、一方端が開口部となり他方端に底部を有する有底筒型の一対のキャップ端子を装着した雑音防止抵抗器であって、
前記外周表面のうち前記キャップ端子で覆われる領域の複数箇所に、前記絶縁被覆が除去され前記抵抗線が露出した剥削領域を設け
、
前記剥削領域は前記抵抗素子の軸方向内側から外側に向けて延び、該剥削領域の該軸方向の長さL1は、前記キャップ端子の前記開口部から前記底部に至る筒状内部の深さL2を超えないことを特徴とする雑音防止抵抗器。
【請求項2】
前記剥削領域は、前記絶縁被覆とともにその絶縁被覆の下部に位置する前記抵抗線がその頂部を含んで部分的に切削された領域であることを特徴とする請求項1に記載の雑音防止抵抗器。
【請求項3】
前記剥削領域は、所定幅を有しながら前記抵抗素子の軸方向に沿って直線状に延びる形状、あるいは該軸方向斜めに延びる形状、あるいは該軸方向に対してジグザグ状に延びる形状、あるいは島状の形状を有することを特徴とする請求項1に記載の雑音防止抵抗器。
【請求項4】
前記剥削領域の一方端部が前記芯材の軸方向縁部に達し、他方端部は前記キャップ端子の内部に位置していることを特徴とする請求項3に記載の雑音防止抵抗器。
【請求項5】
前記剥削領域は、前記抵抗素子を軸方向から見たとき径方向において互いに対向せず、かつ互いにほぼ等距離に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の雑音防止抵抗器。
【請求項6】
前記剥削領域は、所定幅を有しながら前記抵抗素子の周方向に延びる形状を有することを特徴とする請求項1に記載の雑音防止抵抗器。
【請求項7】
前記剥削領域において前記抵抗線と前記キャップ端子とが電気的に導通することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の雑音防止抵抗器。
【請求項8】
一方端が開口部となり他方端に底部を有する有底筒型の一対のキャップ端子が
両端に装着された雑音防止抵抗器の製造方法であって、
繊維状の絶縁物を結束して長尺の芯材を成形する工程と、
前記芯材の外周面に抵抗線を巻回する工程と、
前記芯材および前記抵抗線の外周表面に絶縁被覆を施す工程と、
前記抵抗線が巻回された芯材を所定寸法に切断して抵抗素子を形成する工程と、
前記抵抗素子の外周表面のうち前記キャップ端子で覆われる領域の複数箇所に、
前記抵抗素子の軸方向内側から外側に向けて前記絶縁被覆を除去して前記抵抗線を露出させ
てなる剥削領域であって前記軸方向の長さL1が、前記キャップ端子の前記開口部から前記底部に至る筒状内部の深さL2を超えない剥削領域を設ける工程と、
前記剥削領域が設けられた抵抗素子の両端部に前記キャップ
端子を装着する工程と、
を備えることを特徴とする雑音防止抵抗器の製造方法。
【請求項9】
前記剥削領域は、前記絶縁被覆とともにその絶縁被覆の下部に位置する前記抵抗線をその頂部を含んで部分的に切削して形成されることを特徴とする請求項8に記載の雑音防止抵抗器の製造方法。
【請求項10】
前記切削は、前記抵抗素子の端面から軸方向に離間した所定位置から該端面側へ向かう方向に行うことを特徴とする請求項9に記載の雑音防止抵抗器の製造方法。
【請求項11】
前記複数箇所への前記剥削領域の形成を同時に行うことを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載の雑音防止抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジン等の内燃機関の点火プラグに実装される雑音防止抵抗器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン車のエンジン点火装置は、点火プラグ(スパークプラグ)に高圧電流を流して放電させ、シリンダー内のガソリンと空気の圧縮混合気体に火花を飛ばして着火している。放電により火花を飛ばすには10kV以上の電圧が必要となるため、ガソリンエンジン車はバッテリー電圧を昇圧するイグニッションコイルを備えている。
【0003】
イグニッションコイルは、絶縁ケース内に収納された1次コイル、2次コイル、これらのコイルが巻きつけられたコア(鉄心)、点火制御を行うICチップ等からなるコイル本体部、スパークプラグに接続されたスプリング(スパークプラグ側の接続端子)、そのスプリングを収納する筒状の絶縁ケース等で構成されている。コイル本体部内は樹脂を充填して封止される。
【0004】
このようなエンジン点火装置は、エンジン点火時に発生する高周波雑音(ノイズ)を抑制するため、例えばコイル本体部とスプリングとの間のタワー部内に雑音防止抵抗器が配置され、その雑音防止抵抗器を介してコイル本体部とスパークプラグとが電気的に接続されている。
【0005】
一方、雑音防止抵抗器のキャップ端子は、成形時の寸法バラつきや、絶縁性芯材、抵抗線、絶縁被覆からなる抵抗素子へキャップ端子を嵌合する際のかしめ加工により、僅かに歪みが生じることがある。その場合、高圧出力端子やスプリングとの接触が不安定になる可能性があり、それにより導通不良を引き起こすおそれがある。
【0006】
雑音防止抵抗器において抵抗素子とキャップ端子との十分な導通を確保することも重要である。例えば特許文献1には、絶縁性の芯材、導体巻線、一対の金属キャップ、樹脂コーティング材からなる巻線抵抗体において、金属キャップの側面部の内周側に、その内側へ向かって突出する凸条部が導体巻線の巻回方向に交差する方向(軸方向Z)に沿って形成された雑音防止抵抗器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の巻線抵抗体は、導体巻線の露出を防ぎつつ、金属キャップと導体巻線との電気的導通を確保するため、金属キャップの側面部の内周面に凸条部を形成しているが、金属キャップを巻線構造体に押し込む際、凸条部によって、導体巻線を覆う樹脂コーティング材を外周側から破って導体巻線に金属キャップを直接、接触させている。
【0009】
このような構造の巻線抵抗体では、破られた樹脂コーティングのカスがキャップ端子内部や開口部付近に残り、それが通電時に炭化して抵抗器の電気的性能に悪影響を及ぼすおそれがある。また、樹脂コーティングの熱膨張が繰り返されることによりキャップ端子が開いてしまい、キャップ端子の脱落やキャップ端子と導体巻線との間に樹脂が挟まり導通不良を招く等の問題が考えられる。
【0010】
また、特許文献1において凸条部の圧入により導体巻線が切断されると、導体巻線の線端がキャップ端子から飛び出すおそれがあり、巻線同士の接触によるショート等の不具合が生じるおそれがある。さらには、特許文献1に開示されたキャップ端子は、その製造・加工が難しく、そのための工程が煩雑になるという問題がある。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、キャップ端子の抜けを防止するとともに、キャップ端子と抵抗線の導通を確保した雑音防止抵抗器およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本発明は絶縁性の芯材と、その芯材の外周面に巻回した抵抗線と、前記芯材および前記抵抗線の外周表面を覆う絶縁被覆とを備える抵抗素子の両端に、一方端が開口部となり他方端に底部を有する有底筒型の一対のキャップ端子を装着した雑音防止抵抗器であって、前記外周表面のうち前記キャップ端子で覆われる領域の複数箇所に、前記絶縁被覆が除去され前記抵抗線が露出した剥削領域を設け、前記剥削領域は前記抵抗素子の軸方向内側から外側に向けて延び、該剥削領域の該軸方向の長さL1は、前記キャップ端子の前記開口部から前記底部に至る筒状内部の深さL2を超えないことを特徴とする。
【0013】
例えば前記剥削領域は、前記絶縁被覆とともにその絶縁被覆の下部に位置する前記抵抗線がその頂部を含んで部分的に切削された領域であることを特徴とする。例えば前記剥削領域は、所定幅を有しながら前記抵抗素子の軸方向に沿って直線状に延びる形状、あるいは該軸方向斜めに延びる形状、あるいは該軸方向に対してジグザグ状に延びる形状、あるいは島状の形状を有することを特徴とする。例えば、前記剥削領域の一方端部が前記芯材の軸方向縁部に達し、他方端部は前記キャップ端子の内部に位置していることを特徴とする。また、例えば前記剥削領域は、前記抵抗素子を軸方向から見たとき径方向において互いに対向せず、かつ互いにほぼ等距離に配置されていることを特徴とする。例えば前記剥削領域は、所定幅を有しながら前記抵抗素子の周方向に延びる形状を有することを特徴とする。さらに例えば、前記剥削領域において前記抵抗線と前記キャップ端子とが電気的に導通することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、一方端が開口部となり他方端に底部を有する有底筒型の一対のキャップ端子が両端に装着された雑音防止抵抗器の製造方法であって、繊維状の絶縁物を結束して長尺の芯材を成形する工程と、前記芯材の外周面に抵抗線を巻回する工程と、前記芯材および前記抵抗線の外周表面に絶縁被覆を施す工程と、前記抵抗線が巻回された芯材を所定寸法に切断して抵抗素子を形成する工程と、前記抵抗素子の外周表面のうち前記キャップ端子で覆われる領域の複数箇所に、前記抵抗素子の軸方向内側から外側に向けて前記絶縁被覆を除去して前記抵抗線を露出させてなる剥削領域であって前記軸方向の長さL1が、前記キャップ端子の前記開口部から前記底部に至る筒状内部の深さL2を超えない剥削領域を設ける工程と、前記剥削領域が設けられた抵抗素子の両端部に前記キャップ電極を装着する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
例えば前記剥削領域は、前記絶縁被覆とともにその絶縁被覆の下部に位置する前記抵抗線をその頂部を含んで部分的に切削して形成されることを特徴とする。例えば前記切削は、前記抵抗素子の端面から軸方向に離間した所定位置から該端面側へ向かう方向に行うことを特徴とする。また、例えば、前記複数箇所への前記剥削領域の形成を同時に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、巻線抵抗素子に圧入し嵌合させた後のキャップ端子の抜けを防止し、抵抗線とキャップ端子とを確実に接触させて、抵抗線とキャップ端子間の安定した導通を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る雑音防止抵抗器の分解斜視図および外観斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る雑音防止抵抗器の軸方向の縦断面図および軸に直交する方向の縦断面図である。
【
図3】本実施形態に係る雑音防止抵抗器の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【
図4】
図3の剥削領域の形成工程の詳細を時系列で示すフローチャートである。
【
図5】剥削領域を形成等する加工装置の全体構成を模式的に示す図である。
【
図6】巻線抵抗素子の端部に形成する剥削領域の詳細断面構成図である。
【
図7】巻線抵抗素子の端部表面に形成された剥削領域を拡大して示す図である。
【
図8】剥削領域の切削深さ寸法とカッターの刃幅との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本実施形態に係る雑音防止抵抗器10(以下、単に抵抗器ともいう)の分解斜視図であり、
図1(b)は、本実施形態に係る雑音防止抵抗器10の外観斜視図である。また、
図2(a)は、
図1(a)のX-X´矢視線に沿って抵抗器を軸方向に切断したときの縦断面図、
図2(b)は、
図1(a)のY-Y´矢視線に沿って抵抗器を軸方向と直交する方向に切断したときの縦断面図である。
【0019】
図1等に示す抵抗器10は、ガラス繊維を結束した棒状(円柱状)の芯材5の外周表面に抵抗線7を巻き付けた巻線抵抗素子(抵抗体ともいう)2と、巻線抵抗素子2の両端部に装着され、抵抗線7と電気的に接続されたキャップ端子3a,3bとを備える。
【0020】
抵抗器10は、例えば、エンジン点火装置に搭載され、エンジン点火時に発生するイグニッションノイズ等の放射ノイズを効果的に抑制するノイズフィルタとして機能する雑音防止抵抗器である。
【0021】
抵抗線7は、例えば、ニッケル・鉄(Ni-Fe)線、ニッケル(Ni)線、クロム(Cr)線、ニッケル・クロム(Ni-Cr)線等の金属線を、抵抗器の抵抗値に応じて選択する。抵抗線7の線径は、例えば数十μm程度(30~60μm)で、狭ピッチで連続的に芯材5に巻き付ける。抵抗線7として金属線をそのまま使用するが、金属線表面に樹脂被覆を形成した被覆導線を用いてもよい。
【0022】
芯材5には、例えばガラス、フェライト、樹脂、アルミナ等の絶縁物からなる繊維を多数本束ねた芯材を使用する。コスト、高耐熱性の観点からはガラス繊維束が適している。ガラス繊維束はガラス繊維を複数本合わせた束であり、一本の繊維径が数μm~数十μmである。そのため、切断前の長尺状態で搬送すると、芯材の形状を維持できずに湾曲することから、例えば、ガラス繊維からなる芯材にエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を含浸させて加温硬化し、形状を維持する。
【0023】
芯材の材料は、ガラス以外に例えばフェライト、樹脂、アルミナ等の絶縁物からなる繊維を多数本束ね、樹脂で成形してもよい。
【0024】
巻線抵抗素子2の外周表面には、樹脂による絶縁被覆(樹脂コーティングともいう)6が形成されている。ここでは、抵抗線7を巻き付けた芯材5の外周表面にエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等を塗布コーティングする。絶縁被覆6には、抵抗線の巻き戻り(スプリングバック)を防止する役割がある。
【0025】
巻線抵抗素子2の外周表面端部のうち、嵌入されたキャップ端子3a,3bの内部に収容される部位には、
図1(a)、
図2に示すように、樹脂コーティングとその樹脂コーティングで被覆された抵抗線の頂部を含む一部を切削等することにより抵抗線を露出させた領域(剥削領域ともいう)15a~15c,16a~16cが形成されている。
【0026】
すなわち、巻線抵抗素子2の外周表面の両端部には、絶縁被覆6が残存する領域と、絶縁被覆6を取り除いて抵抗線7が露出した領域(剥削領域)とが存在し、露出した抵抗線7がキャップ端子3a,3bと接触して電気的な接続が確保される。
【0027】
キャップ端子3a,3bは、例えば、鉄、ステンレス等の導電性を有する金属からなり、その表面に銅、ニッケル等のめっきが施されている。また、キャップ端子3a,3bは、巻線抵抗素子2の両端から装着(嵌着)するための開口部4a,4bを有し、全体が有底筒型に形成されている。ここでは、長尺の金属製パイプを所定長さに切断して製造し、あるいは金属製の板材を所定長に切断、曲げ加工して製造する。
【0028】
キャップ端子3a,3bは、形状を円筒型としたことで、例えばイグニッションコイル本体部等への接続安定性や、長尺の金属製パイプを所定長さに切断して製造し、あるいは金属製の板材を所定長に切断、曲げ加工して製造するといった加工の容易性を確保できる。
【0029】
なお、絶縁被覆としての樹脂コーティングは、上記のように抵抗線7を固定する役割を有するため、その厚みは抵抗線7が隠れる程度とする。一方、樹脂コーティングの厚みにバラつきがあると、キャップ端子3a,3bの圧入時、キャップ端子の開口部4a,4bにより絶縁被覆が削られることも想定されるが、剥削領域があることにより絶縁被覆の厚みのバラツキが許容範囲に収まる効果が期待できる。
【0030】
次に、本実施形態に係る雑音防止抵抗器の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る雑音防止抵抗器の製造工程を時系列で示すフローチャートである。最初に、
図3のステップS11において抵抗器の芯材を成形する。ここでは、例えば、繊維径が数μm程度(数μmから数十μm)のガラス繊維を束ねてエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂を含浸させ、長尺の棒状に成形して芯材を成形する。ステップS13では、芯材の外周表面に、上述した材質からなる抵抗線を所定のピッチで連続的に巻き付ける。
【0031】
ステップS15において、上記のように抵抗線を巻き付けて乾燥・硬化させた芯材の外周表面に、例えばエポキシ樹脂またはシリコン樹脂を塗布コーティングする。ここでは、樹脂によるコーティングが抵抗線を固定することを目的とするので、上述したように、形成する樹脂コーティングの厚みは抵抗線が隠れる程度でよい。その後、コーティングされた樹脂コーティングを硬化させる。
【0032】
ステップS17では、外周表面に抵抗線が巻回され、樹脂でコーティングされた長尺の抵抗素子を、抵抗線とともにカッター等により所定寸法に切断する。これにより、巻線抵抗素子(抵抗体)の個片を作製する。
【0033】
ステップS19では、上述した剥削領域を形成する。すなわち、巻線抵抗素子表面の樹脂コーティングを一部剥離させて、抵抗線を露出させる。ここでは、下記のいずれかの方法によって樹脂コーティングを剥削する。
【0034】
(1)平刃あるいは丸刃のカッター等で、巻線抵抗素子の表面の樹脂コーティングおよび抵抗線の頂部を切削する。このとき、巻線抵抗素子の軸方向内側から外側(両端面側)へ向けて切削する。こうすることで、切削された樹脂や抵抗線のカスが巻線抵抗素子の表面に残存しない。
【0035】
(2)ヤスリで巻線抵抗素子の表面の樹脂コーティングおよび抵抗線の頂部を研磨する。
【0036】
(3)先端の尖った金属(ブラシでも良い)で巻線抵抗素子表面の樹脂コーティングおよび抵抗線の頂部を引っ掻き、キズをつけて抵抗線を露出させる。
【0037】
ステップS21では、巻線抵抗素子の両端にキャップ端子を嵌着する。例えば、キャップ端子の開口部を巻線抵抗素子の軸方向端部に対向させた状態で、キャップ端子を軸方向に機械的に押し込み(圧入し)、巻線抵抗素子の端部に固定する。これにより、既に形成された剥削領域において、抵抗線とキャップ端子との電気的な導通状態が確保できる。
【0038】
ステップS23において、上記の工程を経て作製された抵抗器の外観画像検査、抵抗値検測等の検査を行なう。なお、上記のステップS15における樹脂の硬化方法は、室温による硬化、加熱硬化(例えば100~200℃)、あるいは紫外線照射による硬化のいずれでもよい。
【0039】
図4は、
図3の剥削領域の形成工程(ステップS19)の詳細を時系列で示すフローチャートである。また、
図5は、巻線抵抗素子に剥削領域を形成等する加工装置の全体構成を模式的に示す図である。
【0040】
図5に示す加工装置30は、先端に剥削手段としての4枚のカッター39a~39dを回転可能に挟持するチャック37a~37dを備えたホルダー(支持部)33と、同様に、先端に剥削手段としての4枚のカッター39e~39hを回転可能に挟持するチャック37e~37hを備えたホルダー(支持部)35とを、互いに軸線41と同軸状態となるように対向させて設置した構成を有する。
【0041】
カッター39a~39d,39e~39hは、軸線41と直交する平面において軸線41の外周方向に放射状に配置されている。加工装置30は、これらのカッターに摩耗・損傷が生じた場合、カッターのみを交換できる構造となっている。
【0042】
図4のステップS31では、巻線抵抗素子2(ワークともいう)を加工装置30の支持台31に載置する。支持台31は、巻線抵抗素子2の形状に合わせて、その上面の一部が半円状に窪んでいる。支持台31上に巻線抵抗素子2を載置した後、ステップS33において巻線抵抗素子2を位置合わせする。これは、巻線抵抗素子2の両端の所定位置に所定長の剥削領域を形成して、抵抗線を露出させるためである。
【0043】
ステップS35において、チャック37a~37dが開いた状態のままのホルダー(支持部)33と、チャック37e~37hが開いた状態のままのホルダー(支持部)35とを、
図5(a)において矢印で示す方向に移動させ、巻線抵抗素子2の両端から所定の位置で止める。そして、チャックを閉じて巻線抵抗素子2を挟持する。
【0044】
このように巻線抵抗素子2をその両端から挟持した所定位置が、抵抗線を露出させる剥削領域の始点(端部)となる。同時にこの所定位置により、抵抗線のおおよその電極間距離が決まることになる。
【0045】
本実施形態に係る雑音防止抵抗器の抵抗値は、抵抗線がキャップ端子と導通する位置(より詳細には、剥削領域の軸方向において最も内側の部分)によって決まる。すなわち、従来のように通電させて絶縁被覆を破る方法では、導通位置がばらつき、抵抗値が安定しないという問題があったが、本実施形態のように非被覆領域(剥削領域)によって、あらかじめ導通位置を決めることにより、抵抗器の抵抗値を安定化できる。
【0046】
ステップS37では、上記のようにチャックを閉じて巻線抵抗素子2を挟持した状態のまま、
図5(b)において矢印で示す方向にホルダー(支持部)33,35を移動させる。これにより、巻線抵抗素子2において複数の剥削領域が同時に形成される。
【0047】
なお、
図5に示す加工装置30では、形成する剥削領域の数に合わせてチャックの数を4としたが、加工装置30のチャック数が2で、4以上の複数個所に剥削領域を形成する場合には、巻線抵抗素子2を回転させるか、あるいはホルダー33,35を回転させて、上記のステップS35,S37を繰り返すことも可能である。
【0048】
また、剥削領域は、巻線抵抗素子2の周表面の複数個所に、互いに等距離となるように形成することが望ましく、軸方向から見たとき互いに対抗しない位置に形成する。
【0049】
図6は、巻線抵抗素子の端部に形成する剥削領域の詳細断面構成図である。また、
図7は、巻線抵抗素子の端部表面に形成された剥削領域を拡大して示す図である。
【0050】
図6(a)は、
図5の加工装置30の支持台31に巻線抵抗素子2を載置し、その端面2aから軸方向L1の距離にカッター39を位置決めしたときの様子である。これは、
図4のステップS33の工程に対応している。
【0051】
図6(b)は、剥削領域15を形成した様子を示しており、
図6(a)の矢印方向にカッター39を移動することで、巻線抵抗素子2の端部表面の絶縁被覆6および抵抗線7の一部が、巻線抵抗素子2の軸方向内側から端部側に向けて切削されている。これは、
図4のステップS37の工程に対応しており、剥削領域15は、
図7に示すように巻線抵抗素子2の軸方向に直線状に形成される。
【0052】
このように、絶縁被覆とともに抵抗線の頂部を含む一部を切削して平らにすることにより、その部位においてキャップ端子と抵抗線が確実に面接触し、相互の電気的な導通が確保される。また、後述するように、抵抗線の頂部が切削されるようにカッターの位置決めをすることで、芯材の径、絶縁被覆の厚み等にバラつきがあっても、確実に絶縁被覆を切削して剥削領域を形成することができる。
【0053】
剥削領域15は、
図7に示すように巻線抵抗素子2の軸方向内側から外側に向けて直線状に形成される。剥削領域15の軸方向の長さ(切込み長)L1は、キャップ端子3の筒状内部の深さL2を超えない。つまり、本実施形態に係る雑音防止抵抗器10において、剥削領域15はキャップ端子3の開口部4からは露出しない位置に形成される。
【0054】
仮に、剥削領域15の端部Cの位置がキャップ端子3の開口部4と近接すると、抵抗線とキャップ端子間でのアーク放電等の発生が想定される。そのため、剥削領域15の端部Cとキャップ端子3の開口部4間の距離、すなわち、
図7に示すキャップ端子の深さL2と切込み長L1の差分距離L2-L1を、キャップ端子に印加される電圧と、この差分距離において巻回される抵抗線のターン数をもとに決めてもよい。
【0055】
図8は、剥削領域の切削深さ寸法とカッターの刃幅との関係の一例を示す図である。
図8(a)は、巻線抵抗素子2を軸方向と直交する方向に切断した断面図であり、Dgは芯材5の直径、Drは、芯材5の周表面上を巻回する抵抗線7からなる抵抗体を含む径である。
【0056】
図8(b)は、
図8(a)の部位Aに剥削領域を形成するとき、樹脂コーティングとともに切削される抵抗線7の頂部の深さ寸法と、その切削に使用するカッター39の刃幅を示している。
【0057】
本実施形態に係る雑音防止抵抗器の剥削領域において、抵抗線は頂部を含む径方向の50%程度まで切削しても抵抗特性に影響がないことが確認できている。そこで、抵抗線7をカッター39で50%切削する場合を考える。
図8(a)において、例えばDr=3.82mm、Dg=3.76mmで、抵抗線7の線径((Dr-Dg)/2)が30μmであれば、
図8(b)において、カッター39でd1=0.015mmの深さまで切削でき、抵抗線7はd2=0.015mm残存する。したがって、この場合に必要なカッター39の刃幅Wは0.48mmとなる。これは、
図7における剥削領域15の円周方向のカット幅Wでもある。
【0058】
なお、カッター39として、抵抗線7の線径によって変わる抵抗体径Drの曲線に合わせた丸刃を使用してもよいが、コスト面の観点からは、線径に左右されない平刃がよい。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る雑音防止抵抗器は、芯材の外周表面に抵抗線を巻回して構成された巻線抵抗素子の両端部にキャップ端子を装着し、外周表面のうちキャップ端子で覆われる領域の複数箇所に、抵抗線を覆う絶縁被覆(樹脂コーティング)とその下部に位置する抵抗線の一部を切削して抵抗線を露出させた剥削領域を設けた構成を有する。
【0060】
このような剥削領域を設けたことで、巻線抵抗素子にキャップ端子を円滑に圧入でき、嵌入後においてもキャップ端子が変形せず、キャップ端子の抜けを防止できる。また、キャップ端子を圧入する際に芯材を傷つけることがなく、巻線抵抗素子の軸方向への圧縮荷重に対する強度を損なうこともない。その結果、剥削領域において抵抗線とキャップ端子とが確実に接触し、抵抗線とキャップ端子間の安定した電気的な導通を確保できる。
【0061】
また、巻線抵抗素子の外周表面のキャップ端子で覆われる領域を剥削領域としたことで、キャップ端子と抵抗線との接触部位が一意に決まりやすくなり、雑音防止抵抗器の抵抗値の安定化を図ることが可能となる。
【0062】
さらには、剥削領域を巻線抵抗素子の両端縁部に達するまで切削等して形成することにより、キャップ端子を圧入したときに樹脂コーティングがキャップ端子の開口部に押し込まれることを防止できるとともに、絶縁被覆領域と非被覆領域である剥削領域とにごく僅かな段差が生じても、抵抗線とキャップ端子間の電気的な導通を安定化できる。
【0063】
また、剥削領域は、装着後のキャップ端子の内部に収まる形状および寸法を有するので、剥削領域において露出した抵抗線がキャップ端子の内部に位置し、その開口部から露出することがなく、雑音防止抵抗器の使用時において錆等により劣化するのを防止できる。
【0064】
<変形例>
本願発明は上述した実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。上記実施形態では、剥削領域を巻線抵抗素子の軸方向に沿って直線状に延びる形状としたが、これに限定されない。例えば、
図9(a)は、巻線抵抗素子2の端部表面において島状に形成された剥削領域65aを示し、
図9(b)は、所定幅を有しながら巻線抵抗素子2の軸方向斜めに直線状に延びる形状を有する剥削領域65bを示している。
【0065】
図9(c)は、巻線抵抗素子2の軸方向にジグザグ状に延びる形状を有する剥削領域65cを示し、
図9(d)は、巻線抵抗素子2の端部表面において周方向に延びる形状を有する剥削領域65dを例示している。これら
図9(c),(d)に示す剥削領域は、削られた絶縁被覆の面積が比較的大きいため、抵抗線とキャップ端子間のより安定した導通を確保できる。
【0066】
図9(e)は、島状に形成された剥削領域65eを、巻線抵抗素子2の軸方向内部の表面であってキャップ端子3内に収まる位置に形成した例である。
【0067】
なお、剥削領域65dは、巻線抵抗素子2の端部表面を一周する形状であってもよいし、途切れながら周回する形状であってもよい。また、図示を省略するが、剥削領域を巻線抵抗素子の周方向に螺旋状に延びる形状としてもよい。
【符号の説明】
【0068】
2 巻線抵抗素子(抵抗体)
3,3a,3b キャップ端子
4,4a,4b 開口部
5 芯材
6 絶縁被覆(樹脂コーティング)
7 抵抗線
10 雑音防止抵抗器
15,15a~15c,16a~16c,65a~65e 剥削領域
30 加工装置
31 支持台
33,35 ホルダー(支持部)
37a~37h チャック
39,39a~39h カッター
41 軸線