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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】座席用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B61D 27/00 20060101AFI20230302BHJP
   B61D 33/00 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B61D27/00 V
B61D33/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019061277
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158005
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智秀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 宏次
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-137651(JP,A)
【文献】実開昭61-143455(JP,U)
【文献】特開2001-047848(JP,A)
【文献】特開2004-270915(JP,A)
【文献】特開2000-002340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
B61D 33/00
A47C 3/18
A47C 7/74
B60N 2/14
B60N 2/56
F16L 27/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の座席に調和空気を送る座席用空気調和装置であって、
前記座席は、前記鉄道車両の床に方向転換可能に設けられ、前記床下に配置された床下ダクトと接続され、前記座席の方向転換軸と同軸上をなすように前記床側に設けられた第1ダクトと、前記座席の前記方向転換軸と同軸上をなすように前記座席側に設けられた第2ダクトと、該第2ダクトに接続され前記座席の座面及び背ずりの正面の少なくとも一方に調和空気を送る座席内ダクトと、前記座席の方向、及び、前記床の床面に対して、前記鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への前記座席の座面及び前記床下ダクトの位置の変化の如何にかかわらず前記第1ダクトと前記第2ダクトとをつなぐ管状継手とを備えることを特徴とする座席用空気調和装置。
【請求項2】
前記鉄道車両の前記床は浮床であり、前記第1ダクトは前記床下ダクトに固定され、前記第2ダクトは前記座席又は前記座席内ダクトに固定され、
前記管状継手は、変形可能なシート状部材からなることを特徴とする請求項1に記載の座席用空気調和装置。
【請求項3】
前記管状継手は、前記第1ダクトと前記第2ダクトとに各々接続される一方及び他方の端部と、該端部に対して大径に形成された中間部とを備えることを特徴とする請求項2に記載の座席用空気調和装置。
【請求項4】
前記管状継手は、その表面又は内部に、前記中間部を直径方向外側へと付勢する付勢部材を備えることを特徴とする請求項3に記載の座席用空気調和装置。
【請求項5】
前記付勢部材が、前記管状継手の周方向に等間隔をなして前記端部から前記中間部に至る態様で配置された、弾性変形可能な線状ないし帯状部材であることを特徴とする請求項4に記載の座席用空気調和装置。
【請求項6】
前記鉄道車両の前記床は浮床であり、前記第1ダクトは前記床下ダクトに固定され、前記第2ダクトは前記座席内ダクトに対して回転可能に接続され、
前記管状継手は、前記第1ダクトと前記第2ダクトとに各々接続される一方及び他方の端部と、前記浮床と前記床下ダクトとの位置及び前記座席の座面と前記浮床の床面との位置の変化に追従して弾性変形可能な中間部と、前記第1ダクトと前記座席との間に配置され、前記第2ダクトと前記座席内ダクトとを回転可能に支持するシール部材とを備えることを特徴とする請求項1に記載の座席用空気調和装置。
【請求項7】
前記中間部が蛇腹状をなしていることを特徴とする請求項6に記載の座席用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の座席に調和空気を送る座席用空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両は、車内の温度、湿度等の環境に応じて、車内の天井又は側壁から調和空気(温風、冷風)を吹き出して、乗車環境を整えている。また、乗客個人の温冷感の差に対応するために、座席毎に調和空気を吹き出すことにより、乗客個人に対応した空調環境を整えるようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたものは、座席から調和空気を吹き付け可能とした座席用空調装置が開示されている。この座席用空調装置は、座席の背ずり(背もたれ)の背面に設けられた冷風吐出グリルから後部座席に向かって調和空気(冷風)を吹き出して、又は、座席の下部に設けられた温風吐出グリルから乗客の足元近傍に調和空気(温風)を吹き出すことで、乗客個人に応じた乗車環境を整えるようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたものは、転換式の座席の外そで(肘掛)から乗客に向かって調和空気を吹き出す座席用空調装置が開示されている。この座席用空調装置は、外そでの内部に設けられている空気ダクトの設置位置が脚台に対する回転中心軸に対して点対称位置とすることで、座席を方向転換させても、座席の配置と向きが逆になるだけで、座席の方向転換によって入れ代わった空気ダクトと補助ダクトの相対位置を変えずに、調和空気を送れるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-85456号公報
【文献】特開2010-137651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された座席用空調装置では、座席を対面座席に配置した際の調和空気の吹き出し方向が考慮されておらず、座席の背ずりの背面に設けられた冷風吐出グリルから吹き出された調和空気は、前後方向に対向する座席の背ずりに向かって吹き付けられてしまうという問題がある。また、上述の特許文献2に記載された座席用空調装置では、座席の転換時、空気ダクトと補助ダクトとの連結が解除され、空気ダクト及び補助ダクトの通路内が外部に露出することとなる。この構成では、塵、埃等の異物が空気ダクト及び補助ダクトの流路内に侵入することにつながり、実際の採用には問題がある。
また、近年では、鉄道の車内における騒音及び振動を低減するために、いわゆる浮床構造が採用される場合があるが、上記従来技術では、浮床構造への採用が考慮されたものでもない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的にするところは、浮床に方向転換可能に設けられた座席において、実用性が高く、かつ、座席の方向の如何にかかわらず調和空気を座席から吹き出すことが可能な座席用空気調和装置を提供し、車内の空調環境を整えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の態様を例示するものであり、本発明の多様な構成要素の理解を容易にするために、項分けして説明するものである。以下の各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、本発明を実施する最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、または、さらに他の構成要素を付加した態様についても、本発明の一態様になり得るものである。
【0009】
(1)鉄道車両の座席に調和空気を送る座席用空気調和装置であって、前記座席は、前記鉄道車両の床に方向転換可能に設けられ、前記床下に配置された床下ダクトと接続され、前記座席の方向転換軸と同軸上をなすように前記床側に設けられた第1ダクトと、前記座席の前記方向転換軸と同軸上をなすように前記座席側に設けられた第2ダクトと、該第2ダクトに接続され前記座席の座面及び背ずりの正面の少なくとも一方に調和空気を送る座席内ダクトと、前記座席の方向、及び、前記床の床面に対して、前記鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への前記座席の座面及び前記床下ダクトの位置の変化の如何にかかわらず前記第1ダクトと前記第2ダクトとをつなぐ管状継手とを備える座席用空気調和装置(請求項1)。
【0010】
本項に係る座席用空気調和装置は、第1ダクト、第2ダクト及び管状継手とが座席の方向転換軸と同軸上に位置するため、座席の方向の如何にかかわらず、第1ダクト、第2ダクト及び管状継手が座席の方向転換軸と同軸上で連通する、すなわち、座席の方向の如何にかかわらず、床下ダクトから座席に至る調和空気の流路は、分断されることなく常に連通状態が維持されることとなる。同様に、床の床面に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席の座面及び床下ダクトの位置の変化が生じたよう場合であっても、床下ダクトから座席に至る調和空気の流路は、分断されることなく常に連通状態が維持されることとなる。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記鉄道車両の前記床は浮床であり、前記第1ダクトは前記床下ダクトに固定され、前記第2ダクトは前記座席又は前記座席内ダクトに固定され、前記管状継手は、変形可能なシート状部材からなる座席用空気調和装置(請求項2)。
【0012】
本項に係る座席用空気調和装置において、管状継手が変形可能なシート状部材からなることから、座席の方向、及び、床の床面に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席の座面及び床下ダクトの位置が変化したとしても、その変化に対応するように、管状継手が捻じれる等柔軟に変形する。このため、座席の方向、及び、床の床面に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席の座面及び床下ダクトの位置の変化の如何にかかわらず、第1ダクトと第2ダクトとの連通状態が維持され、第1ダクト、第2ダクト及び管状継手による調和空気の流路としての機能が維持されるものとなる。
【0013】
(3)上記(2)項において、前記管状継手は、前記第1ダクトと前記第2ダクトとに各々接続される一方及び他方の端部と、該端部に対して大径に形成された中間部とを備える座席用空気調和装置(請求項3)。
【0014】
本項に係る座席用空気調和装置において、管状継手は、第1ダクトと第2ダクトとに各々接続される一方及び他方の端部と、これらの端部に対して大径に形成された中間部とを備える。この構成によれば、中間部に使用されるシート状部材の面積が端部の面積に比して広く、変形可能な範囲も大きくなる。このため、座席の方向転換により、座席の方向及び浮床に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への床下ダクトの位置が変化したとしても、中間部がより柔軟に捻じれることで上述の位置関係の変化に対応しつつ、第1ダクト、第2ダクト及び管状継手とが管路としての機能がより確実に維持されるものとなる。さらに、中間部が大径に形成されていることから中間部が捻じれても、流路面積の縮小を抑えられ、調和空気の流路を確保するものとなる。
【0015】
(4)上記(3)項において、前記管状継手は、その表面又は内部に、前記中間部を直径方向外側へと付勢する付勢部材を備える座席用空気調和装置(請求項4)。
【0016】
本項に係る座席用空気調和装置において、管状継手は、その表面又は内部に、中間部を直径方向外側へと付勢する付勢部材を備える。この構成よれば、座席の方向転換により、管状継手が変形したとしても、付勢部材が管状継手の中間部を管状継手の直径方向外側に付勢するため、管状継手の変形に伴う、中間部の絞り変形による流路面積の縮小を抑え、調和空気の流路をより確実に確保するものとなる。
【0017】
(5)上記(4)項において、前記付勢部材が、前記管状継手の周方向に等間隔をなして前記端部から前記中間部に至る態様で配置された、弾性変形可能な線状ないし帯状部材である座席用空気調和装置(請求項5)。
【0018】
本項に係る座席用空気調和装置において、付勢部材として、管状継手の周方向に等間隔をなして端部から中間部に至る態様で配置された、弾性変形可能な線状ないし帯状部材である。この構成によれば、管状継手が変形したとしても、管状継手の周方向に等間隔をなして配置された線状ないし帯状部材により、中間部が直径方向外側へと付勢されるので、上記(4)項の作用が得られるものとなる。
また、線状ないし帯状部材は、弾性変形可能であることから、中間部が捻じれた状態から元の状態へ戻る際に、中間部を管状継手の直径方向外側へと付勢して、捻じれる前の状態へと復帰させるように促すものとなる。これにより、座席の方向及び浮床に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への床下ダクトの位置の変化の如何にかかわらず、管状継手の調和空気の流路としての機能がより維持されるものとのなる。
【0019】
(6)上記(1)項において、前記鉄道車両の前記床は浮床であり、前記第1ダクトは前記床下ダクトに固定され、前記第2ダクトは前記座席内ダクトに対して回転可能に接続され、前記管状継手は、前記第1ダクトと前記第2ダクトとに各々接続される一方及び他方の端部と、前記浮床と前記床下ダクトとの位置及び前記座席の座面と前記浮床の床面との位置の変化に追従して弾性変形可能な中間部と、前記第1ダクトと前記座席との間に配置され、前記第2ダクトと前記座席内ダクトとを回転可能に支持するシール部材とを備える座席用空気調和装置(請求項6)。
【0020】
本項に係る座席用空気調和装置によれば、座席が方向転換する際に、シール部材が回転することによって、調和空気の流路の密閉性を確保しながら、第1ダクトに接続された管状継手の捻じれ方向の変形を防ぎつつ、第1ダクト、第2ダクト及び管状継手との流路を連通した状態で維持するものとなる。また、浮床に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席の座面及び床下ダクトの位置が変化したとしても、管状継手の中間部がその変化に追従して弾性変形することでかかる位置の変化を吸収し、第1ダクトと第2ダクトとの連結状態が維持される。
【0021】
(7)上記(6)項において、前記中間部が蛇腹状をなしている座席用空気調和装置(請求項7)。
【0022】
本項に係る座席用空気調和装置において、中間部が蛇腹状をなしていることで、座席が方向転換により、座席の方向、浮床に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席の座面及び床下ダクトの位置が変化したとしても、その変化に応じて柔軟に変形することで、かかる位置変化を吸収しつつ、調和空気の流路としての機能が維持されるものとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以上のように構成したことにより、浮床に方向転換可能に設けられた座席において、実用性が高く、かつ、座席の方向の如何にかかわらず調和空気を座席から吹き出すことができ、車内の空調環境を整えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る座席用空気調和装置を備えた転換式の座席を示した図であって、鉄道車両の進行方向前方を向いている状態を示す図である。
図2図1に示す座席用空気調和装置を備えた転換式の座席の要部平面図である。
図3図1に示す座席用空気調和装置を備えた転換式の座席を90度転回した状態の図である。
図4図3に示す座席用空気調和装置を備えた転換式の座席の要部平面図である。
図5図1に示す座席用空気調和装置の管状継手であり、(a)は管状継手の平面図、(b)は図5(a)に示すA-A線に沿った管状継手の部分断面図である。
図6図5(b)に示すB部における拡大断面図である。
図7図1に示す座席用空気調和装置を備えた転換式の座席の調和空気の流れを概略的に示した図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る座席用空気調和装置を備えた転換式の座席の要部断面図である。
図9図8に示す座席用空気調和装置を備えた転換式の座席を側面から見た要部断面図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る座席用空気調和装置を備えた転換式の座席の要部断面図である。
図11図10に示す座席用空気調和装置を備えた転換式の座席を側面から見た要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の第1実施形態に係る座席用空気調和装置の構成を図1図6に基づいて詳細に説明する。ここで、以下の説明では、鉄道車両の浮床上に配置された座席に設けられた座席用空気調和装置について説明する。
【0026】
まず、本発明の実施形態に係る座席21の構成を図1図4及び図7に基づいて説明する。
図1図4に示すように、座席21は、座ぶとん23と、背ずり25と、肘掛27と、方向転換装置29(図1図3及び図7参照)とを備え、方向転換装置29によって方向転換可能に座席台33に支持されている。この座席台33は、鉄道車両の浮床39上に設けられている。また、座席21は、座ぶとん23の座面及び背ずり25の正面に調和空気を送る座席内ダクト37(図7参照、図7では、3つの座席21が並列に並んだ状態を示している。)が設けられている。座席21は、座席台33に設けられたレバー35が操作されることで、座席台33とのロックが解除され、方向転換可能となる。
【0027】
図1を参照して、座席用空気調和装置1Aは、浮床側ダクト3(第1ダクト)と、座席側ダクト5(第2ダクト)と、浮床側ダクト3と座席側ダクト5とをつなぐ管状継手7Aとを備える。浮床側ダクト3は、管状をなし、座席21の方向転換軸Cと略同軸上をなすように、浮床39下に配置された浮床下ダクト41(床下ダクト)に固定されている。浮床側ダクト3と浮床39との間には、エプトシラ、CRスポンジ等の間隙部材19が設けられている。浮床下ダクト41は、鉄道車両の車体2に固定されている。座席側ダクト5は、管状をなし、座席21の方向転換軸Cと略同軸上をなすように座席21に固定されている。また、座席側ダクト5は、座席21の座席内ダクト37と連通されている(図7参照)。管状継手7Aは、図5に示されるように、変形可能なシート状部材8からなり、端部9,9と、中間部11Aとを備えている。変形可能なシート状部材8は、気体不透過性かつ断熱性を有した材料(例えば、コットンとナイロンとポリエステルとの混紡繊維)からなる布部材(例えば、リップストップナイロン生地)である。管状継手7Aの一方及び他方の端部9,9は、浮床側ダクト3及び座席側ダクト5に各々接続され、バンド13,13によって、浮床側ダクト3及び座席側ダクト5に密着固定されている。一方及び他方の端部9,9は、浮床側ダクト3及び座席側ダクト5の外周部を覆うようにして接続する際、作業が容易、かつ、バンド13,13による固定状態で浮床側ダクト3及び座席側ダクト5の外周部との間からの空気漏れをきたすことのない、適切な直径が与えられている。中間部11Aは、その外径が、一方及び他方の端部9,9の外径より大径に形成されている(図1図5(b)等参照)。管状継手7Aは、その内部に、中間部11Aを管状継手7Aの直径方向外側へと付勢する付勢部材15を備える(図5及び図6参照)。この付勢部材15は、柔軟性及び復元性(反発力)を備えたナイロン、ポリプロピレン等の材料から形成され、例えば弾性変形可能なピアノ線、ワイヤ、ケーブルタイ等の線状部材であり、管状継手7Aの周方向に等間隔をなして一方の端部9から他方の端部9に至る態様で配置されている(図5(b)参照)。図中の例では、管状継手7Aの全長にわたり設けられており、中間部11Aは、一方及び他方の端部9,9との接続部分から長手方向の中央部に向けて単純な凸状に張り出すように形成されているが、これに限定されることなく、例えば一方及び他方の端部9,9との接続部分から長手方向の中央部に向けて円弧を描くようにして凸状に張り出すものであったり、台形状に張り出すものであってもよい。さらには、長手方向に稜線が伸びる蛇腹状に形成されていてもよい。
【0028】
次に、第1実施形態に係る座席用空気調和装置1Aの管状継手7Aの、座席21の方向転換位置に応じた状態について、図1図4を参照しながら以下に説明する。
座席21が鉄道車両の進行方向の前方に向いている場合、管状継手7Aは、その中間部11Aが変形した状態、すなわち、捻じれた状態で浮床側ダクト3と座席側ダクト5とに接続されている(図1及び図2参照)。このとき、シート状部材8の内面に設けられた付勢部材15により、中間部11Aは管状継手7Aの直径方向外側へと付勢されるので、中間部11Aの絞り変形による流路面積の縮小が抑制され、調和空気の流路が確保される。このため、調和空気を座席21の座ぶとん23及び背ずり25に送ることができる(図7の矢印参照)。
【0029】
一方、座席台33のレバー35を操作して、座席21を方向転換させた場合、座席21の方向転換軸C回りの回転に伴って、座席側ダクト5も回転する。この回転により、管状継手7Aの中間部11Aが捻じれた状態から元の状態(すなわち、捻じれる前の状態)へ戻ろうとする(図3及び図4では、座席21を90度方向転換させた転回操作の途中の状態を示している)。このとき、付勢部材15は、その弾性復帰力によって、中間部11Aを管状継手7Aの直径方向外側へと付勢して、捻じれる前の状態へと復帰させるように促す。そして、座席21が90度に方向転換したときに、中間部11Aの外径が最大となる。
【0030】
そして、座席21を図1の状態から180度方向転換させた場合(進行方向前方に対して反転した方向へ転回させた場合)、管状継手7Aの中間部11Aの形状は、上述の座席21が鉄道車両の進行方向に向いている場合とは逆方向に捻じれた形状(図示省略)をなす。このとき、中間部7Aが逆方向に捻じれたとしも、弾性変形可能な付勢部材15により、中間部11Aが付勢され、中間部11Aの絞り変形による流路面積の縮小が抑制され、調和空気の流路が確保される。これにより、座席21を方向転換させても、座席21の方向の如何にかかわらず、浮床下ダクト41から座席21に至る調和空気の流路は、常に連通状態が維持されている。
【0031】
すなわち、座席21を鉄道車両の進行方向前方又は後方へと方向転換させる際の、座席21の回転角度180°の中間の角度90°にあるとき、管状継手7Aは、捻じれが生じず中間部11Aの外径が最大となるように、管状継手7Aは浮床側ダクト3と座席側ダクト5に対して接続される。そして、中間部11Aは、座席21の回転範囲の端部位置(0°及び180°)において、絞り量が最大となるが、この状態においても調和空気の流通を阻害することのない管径を維持するための、適切な直径が与えられている。
【0032】
また、座席21の回転角度180°の転回動作の何れの角度においても、浮床側ダクト3と座席側ダクト5とは管状継手7Aを介して接続された状態が維持され、調和空気の流路としての機能も維持される。さらに、管状継手7Aは、座席21の座面と浮床39の床面との位置関係及び浮床39と浮床下ダクト41との位置関係(浮床39の床面に対して、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席21の座面及び床下ダクト41の位置)に変化が生じた場合でも、その変化に応じて変形しつつ、浮床側ダクト3と座席側ダクト5とは管状継手7Aを介して接続された状態が維持され、調和空気の流路としての機能も維持されるものである。
【0033】
以上、上記構成を有する第1実施形態の座席用空気調和装置1Aによれば、次のような作用効果を得ることができる。
浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Aとが座席21の方向転換軸Cと同軸上に位置するため、座席21の方向の如何にかかわらず、浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Aが座席21の方向転換軸Cと同軸上で連通する、すなわち、浮床下ダクト41から座席21に至る調和空気の流路は、分断されることなく常に連通状態を維持させることが可能となる。同様に、座席21の座面と浮床39の床面との位置関係及び浮床39と浮床下ダクト41との位置関係に変化が生じたよう場合であっても、浮床下ダクト41から座席21に至る調和空気の流路は、分断されることなく常に連通状態を維持させることが可能となる。
【0034】
また、座席用空気調和装置1Aにおいて、管状継手7Aが変形可能なシート状部材8で構成されていることから、座席21の方向、座席21の座面と浮床39の床面との位置関係及び浮床39と浮床下ダクト41の位置関係が変化したとしても、その変化に対応するように、管状継手7Aが捻じれる等柔軟に変形する。その結果、座席21の方向、座席21の座面と浮床39の床面との位置関係及び浮床39と浮床下ダクト41の位置関係の如何にかかわらず、浮床側ダクト3と座席側ダクト5との連通状態が維持され、浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Aによる調和空気の流路としての機能を維持させることが可能となる。
【0035】
さらに、座席用空気調和装置1Aにおいて、管状継手7Aの中間部11Aに使用されるシート状部材8の面積が端部9,9の面積に比して広いため、変形可能な範囲も大きくなる。その結果、座席21の方向転換により、座席21の方向、座席21の座面と浮床39の床面との位置関係及び浮床39と浮床下ダクト41の位置関係が変化したとしても、中間部11Aがより柔軟に捻じれることで上述の位置関係の変化に対応しつつ、浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Aとが管路としての機能をより確実に維持させられる。さらに、中間部11Aが大径に形成されていることから中間部11Aが捻じれても、その流路面積の縮小を抑えられ、調和空気の流路を確保することが可能となる。
【0036】
座席用空気調和装置1Aにおいて、座席21の方向転換により、管状継手7Aが変形したとしても、弾性変形可能な線状部材である付勢部材15により、中間部11Aは管状継手7Aの直径方向外側に付勢されるため、管状継手7Aの変形に伴う、中間部11Aの絞り変形による流路面積の縮小を抑え、調和空気の流路をより確実に確保することが可能となる。さらに、中間部11Aが捻じれた状態から元の状態へ戻る際にも、中間部11Aを管状継手7Aの直径方向外側へと付勢して、捻じれる前の状態へと復帰させることが可能となる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態の座席用空気調和装置1Bについて、図8及び図9を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態の座席用空気調和装置1Aに対して、同様の部分には同じ参照符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0038】
図8及び図9に示すように、第2実施形態の座席用空気調和装置1Bでは、浮床側ダクト3(第1ダクト)と、座席側ダクト5(第2ダクト)と、浮床側ダクト3と座席側ダクト5とをつなぐ管状継手7Bと、シールベアリング17(シール部材)と、シールベアリング17を保持する保持部43とを備える。管状継手7Bは、浮床側ダクト3と座席側ダクト5とに各々接続される一方及び他方の端部9,9と、中間部11Bとを備えている。中間部11Bは、クロロプレンゴム等の材料から形成され、浮床39と浮床下ダクト41の位置の変化に追従して弾性変形可能な蛇腹状をなしている。シールベアリング17は、第1保持部43A(後述参照)と第2保持部43B(後述参照)との間に配置され、第1保持部43Aに対して第2保持部43Bを回転可能に支持している。保持部43は、座席21の方向転換軸Cと略同軸上をなすように、座席台33の上部に固定された第1保持部43A、及び、座席21の座席内ダクト37の下部に固定された第2保持部43Bとを含む。
【0039】
次に、座席21の方向転換位置における第2実施形態に係る座席用空気調和装置1Bの管状継手7Bの状態について、図8及び図9を参照しながら以下に説明する。
座席台33のレバー35を操作して、座席21を方向転換させた場合、座席用空気調和装置1Bのシールベアリング17が調和空気の流路の密閉性を確保しながら回転することで、第2保持部43Bが固定された座席21のみが回転し、座席側ダクト5の回転が阻止される。このため、座席側ダクト5に接続された管状継手7Bも回転しなくなる。このとき、座席21は、シールベアリング17によって、方向転換の中心(方向転換軸C)を保ちつつ、方向転換する。これにより、管状継手7Bの捻じれ方向の変形を防ぎつつ、浮床側ダクト3、座席側ダクト5、管状継手7B及び第2保持部43Bの流路が連通した状態で維持される。また、座席21の方向転換に伴って、浮床39と浮床下ダクト41の位置が変化したとしても、管状継手7Bの、蛇腹状の中間部11Bがその変化に追従して弾性変形するため、かかる位置の変化を吸収し、浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Bの流路が連通した状態で維持される。
【0040】
上記構成を有する第2実施形態に係る座席用空気調和装置1Bによれば、次の作用効果を得ることが可能となる。
座席21が方向転換する際に、シールベアリング17が回転することによって、調和空気の流路の密閉性を確保しながら、座席側ダクト5に接続される管状継手7Bの捻じれ方向の変形を防ぎつつ、浮床側ダクト3、座席側ダクト5、管状継手7B及び第2保持部43Bの流路を連通した状態で維持することが可能となる。また、座席21の座面と浮床39の床面との位置及び浮床39と浮床下ダクト41の位置(浮床39の床面に対して、鉄道車両の、鉄道車両の進行方向前方又は後方、幅方向又は高さ方向への座席21の座面及び床下ダクト41の位置)が変化したとしても、管状継手7Bの、蛇腹状の中間部11Bがその変化に応じて柔軟に対応、すなわち、追従して弾性変形することでかかる位置の変化を吸収し、調和空気の流路としての機能を維持させることが可能となる。
【0041】
次に、本発明の第3実施形態の座席用空気調和装置1Cについて、図10及び図11を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第2実施形態の座席用空気調和装置1Bに対して、同様の部分には同じ参照符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0042】
図10及び図11に示すように、第3実施形態に係る座席21は、座ぶとん23と、背ずり25と、肘掛(図示省略)と、方向転換装置51とを備え、方向転換装置51によって方向転換可能に座席台33に支持されている。この方向転換装置51は、座席21の方向転換時、方向転換の中心(方向転換軸C)を保つための、スラスト軸受等の保持機構53を備えている。座席21の座ぶとん23内に設けらた座席ダクト23には、その下部に、座席用空気調和装置1Cのシールリング45(シール部材、後述参照)を保持する保持部47(後述参照)が設けられている。
座席用空気調和装置1Cは、浮床側ダクト3(第1ダクト)と、座席側ダクト5(第2ダクト)と、浮床側ダクト3と座席側ダクト5とをつなぐ管状継手7Bと、シールリング45とを備えている。シールリング45は、座ぶとん23の保持部47と座席側ダクト5との接続部に配置され、座席側ダクト5に対して摺動回転可能に設けられている。保持部47は、有底円筒状をなし、座席21の方向転換軸Cと略同軸上をなすように、座席21の座席内ダクト37の下部に固定されている。また、保持部47の底部には、座席側ダクト5を挿通させる開口部49が形成されている。
【0043】
次に、座席21の方向転換位置における第3実施形態に係る座席用空気調和装置1Cの管状継手7Bの状態について、図10及び図11を参照しながら以下に説明する。
座席台33のレバー35を操作して、座席21を方向転換させた場合、座席用空気調和装置1Cのシールリング45が調和空気の流路の密閉性を確保しながら、座席側ダクト5に対して摺動回転することで、座席側ダクト5の回転が阻止される。このため、座席側ダクト5に接続された管状継手7Bも回転しなくなる。このとき、座席21は、方向転換装置51の保持機構53によって方向転換の中心を保ちつつ、方向転換する。これにより、管状継手7Bの捻じれ方向の変形を防ぎつつ、浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Bの流路が連通した状態で維持される。また、座席21の方向転換に伴って、浮床39と浮床下ダクト41の位置が変化したとしても、管状継手7Bの、蛇腹状の中間部11Bがその変化に追従して弾性変形するため、かかる位置の変化を吸収し、浮床側ダクト3、座席側ダクト5及び管状継手7Bの流路が連通した状態で維持される。
【0044】
上記構成を有する第3実施形態に係る座席用空気調和装置1Cによれば、次の作用効果を得ることが可能となる。
座席21が方向転換する際に、シールリング45が調和空気の流路の密閉性を確保しながら、座席側ダクト5に対して摺動回転することで、座席側ダクト5に接続された管状継手7Bの回転が阻止されるため、上記第2実施形態に係る座席用空気調和装置1Bと同様の作用効果を得るものとなる。
【0045】
なお、第1実施形態に係る座席用空気調和装置1Aは、管状継手7Aのシート状部材8の内面に弾性変形可能な線状部材を設けているが、弾性変形可能な帯状部材、波線状部材等の他の部材であってもよい。さらに、弾性変形可能な線状部材は、管状継手7Aのシート状部材8の外面、シート状部材8の両面、又は、管状継手7Aの流路を確保することができるのであればシート状部材8の内面又は外面の一部分に設けてもよい。
【0046】
また、第2実施形態に係る座席用空気調和装置1Bは、シールベアリング17が第1保持部43Aと第2保持部43Bとの間に配置されているが、例えば、座席側ダクト5が座席21の方向転換軸Cと略同軸上をなすように座席21に固定され、第3実施形態に係る方向転換装置51のように、座席21の方向転換時、方向転換の中心(方向転換軸C)を保つことができるのであれば、浮床側ダクト3と管状継手7Bの一方の端部9との接続部、又は、座席側ダクト5と管状継手7Bの他方の端部9との接続部にシールベアリング17を配置させ、浮床側ダクト3又は座席側ダクト5に対してその一方又は他方の端部9,9を回転可能に支持するようにしてもよい。
【0047】
さらに、第1、第2及び第3実施形態に係る座席用空気調和装置1A,1B,1Cは、浮床39に方向転換可能に設けられた座席21に用いられているが、固定床構造、分割床構造又は吊り床構造等の他の床構造に設けられた座席にも適用してもよい。また、第1、第2及び第3実施形態に係る座席用空気調和装置1A,1B,1Cは、座席21の座面と床の床面との位置関係が変化する構造、例えば、座席21を方向転換させる際、座席21の回転可動範囲を確保するために、座席21の回転中に方向転換軸Cを中心から変位させて、座席21を偏心回転させる構造や、まくらぎと平行に配置される座席(クロスシート)と、レールと平行に配置される座席(ロングシート)とに配置変更可能な座席において、座席がクロスシート時及びロングシート時で座席の回転中心位置が変更可能な構造等の、座席とダクトとの位置関係が変化する他の構造にも適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1A,1B,1C…座席用空気調和装置、3…浮床側ダクト(第1ダクト)、5…座席側ダクト(第2ダクト)、7…管状継手、21…座席、23…座ぶとん(座面)、25…背ずり、39…浮床、41…浮床下ダクト(床下ダクト)、C…方向転換軸
図1
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