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特許7236390VE-カドヘリン発現促進剤及び/又はインテグリンα5発現促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】VE-カドヘリン発現促進剤及び/又はインテグリンα5発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/062 20060101AFI20230302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
A61K36/062
A61P43/00 111
A61P9/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019554296
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2018042363
(87)【国際公開番号】W WO2019098302
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017222117
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】松元 有羽子
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0220477(US,A1)
【文献】国際公開第2004/075621(WO,A1)
【文献】特表2014-520797(JP,A)
【文献】特開2011-201811(JP,A)
【文献】特開2016-187324(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183581(WO,A1)
【文献】特開2005-272413(JP,A)
【文献】Cent. Eur. J. Biol., 2011, Vol.6, No.3, pp.330-341
【文献】Press Release, シベリア人参がリンパ管に働きかけ「むくみ」を改善することを発見, (株)資生堂, ホームページ, 2016.07.05, [retreived on 2018.12.20], retreived from the internet:<URL: https://www.shiseidogroup.jp/newsimg/1963_x3k98_jp.pdf>,https://www.shiseidogroup.jp/newsimg/1963_x3k98_jp.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 36/00-36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母エキスを含む、血管内皮細胞におけるインテグリンα5の発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細血管の安定化に関与する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
毛細血管は、動脈と静脈とをつなぐ細い血管であり、生体を構成する細胞に血液を供給する役目を果たす。毛細血管から供給された血液により、細胞に酸素及び栄養素を届け、二酸化炭素及び老廃物を回収することができる。毛細血管は加齢に伴い減少することが知られており、毛細血管の減少は、様々な臓器の加齢に影響する。例えば、毛細血管が減少すると、腺細胞の活性が低下し粘液の分泌が低下する。腺細胞は、皮膚、目、鼻、口、のど、胃、腸、膀胱、子宮、膣、肛門などの部位に存在する。これらの部位における毛細血管が減少することで、粘液の分泌が低下し、部位に応じて、例えばドライアイ、充血、鼻炎、口内炎、歯肉炎、胃もたれ、胃炎、下痢、便秘、膀胱炎、膣炎など様々な疾患の原因になりうる。また、皮膚も毛細血管の状態に影響されることが知られており、毛細血管が減少することで、表皮細胞の新陳代謝が減少し、ターンオーバーが少なくなること、並びに真皮線維芽細胞の活性低下による弾性線維の減少などが生じ、皮膚におけるシミ、シワ、たるみ、くすみなどの美容上の問題を引き起こしうる。また、毛細血管の減少による血流の悪化により、毛母細胞への影響が及び、髪のパサつき、ふけ、抜け毛、白髪などの頭髪の問題も生じうる。
【0003】
内膜、中膜、外膜といった三層から構成される動脈や静脈とは異なっており、毛細血管は、内膜のみで構成される。毛細血管の内膜は、血管内皮細胞と血管内皮細胞を裏打ちする基底膜とから構成される。皮膚における動脈は、皮下組織から真皮へと上行し、真皮層において平面的かつ網目状に広がる皮下血管叢を形成する。皮下血管叢から分岐した毛細血管はさらに上行し、乳頭下層でさらに平面的かつ網目状に広がる乳頭下血管叢を形成する。乳頭下血管叢から分岐した毛細血管はさらに上行して、表皮との境界である表皮基底膜の直下である真皮乳頭層において係蹄(capillary loop)を構成し、表皮基底層に存在する表皮細胞にまで酸素及び栄養素を届けることができる。
【0004】
血管内皮細胞においては、主にVE-カドヘリンという細胞接着分子の働きにより内皮細胞間が接着されており、また内皮細胞の細胞膜に発現するインテグリンの働きにより、基底膜を介して細胞外マトリクスと相互作用している(非特許文献1)。また、インテグリンなどの接着分子は線維芽細胞においても発現しており、線維芽細胞も細胞外マトリクスと相互作用していることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nat. Rev. Cancer (2008), 8(8): 604-617
【文献】J. Inv. Dermatology (2013) vol. 133, 899-906
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
毛細血管の安定化、機能向上、増加に寄与する作用を有する物質を提供し、毛細血管の減少、悪化に伴う症状を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、毛細血管を構成する血管内皮細胞における接着分子が、毛細血管の安定化、機能向上、増加に寄与すると考えた。この考えのもと、これらの接着分子のうち血管内皮細胞に多く存在するVE-カドヘリン、及び血管細胞と細胞マトリクスとの接着に関与するインテグリンα5の発現が、毛細血管の構造に寄与することを見出し、本発明に至った。
【0008】
具体的に、本発明は、下記の発明に関する:
[1] トウキンセンカ、シベリアニンジン、及びニクジュヨウからなる群から選ばれる植物体のエキス、又は酵母エキスを含む、血管内皮細胞における接着分子の発現促進剤。
[2] トウキンセンカ、シベリアニンジン、及びニクジュヨウからなる群から選ばれる植物体のエキスを含む、項目1に記載の接着分子の発現促進剤。
[3] 前記接着分子が、VE-カドヘリンである項目2に記載の接着分子の発現促進剤。
[4] シベリアニンジン及びニクジュヨウから選ばれる植物体のエキス又は酵母エキスを含む、項目1に記載の接着分子の発現促進剤。
[5] 前記接着分子が、インテグリンα5である、項目4に記載の接着分子の発現促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明トウキンセンカ、シベリアニンジン、及びニクジュヨウからなる群から選ばれる植物体のエキス、又は酵母エキスを含む接着分子の発現促進剤は、血管内皮細胞における接着分子の発現を促進することができる。これらの接着分子の発現促進により、毛細血管の安定化、機能向上、又は増加が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、VE-カドヘリンの遺伝子発現を抑制したヒト臍帯血静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて作成された皮膚モデルにおいて、血管構造を標識した蛍光顕微鏡写真である。図1B~Dは、図1Aの蛍光顕微鏡写真において、血管の長さ(μm)、体積(μm3)、及び交差領域(μm2)を測定して、対照と比較したグラフである。
図2図2Aは、インテグリンα5の遺伝子発現を抑制したヒト臍帯血静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて作成された皮膚モデルにおいて、血管構造を標識した蛍光顕微鏡写真である。図2B~Dは、図2Aの蛍光顕微鏡写真において、血管の長さ(μm)、体積(μm3)、及び交差領域(μm2)を測定して、対照と比較したグラフである。
図3図3A-Dは、若齢被験者から得られた血管内皮細胞と、老齢被験者から得られた血管内皮細胞とにおけるVE-カドヘリン、インテグリンα3、インテグリンα5、及びインテグリンα6の遺伝子発現レベルを比較したグラフである。
図4図4は、VE-カドヘリンを指標としてスクリーニングされたシベリアニンジン、トウキンセンカ、ニクジュヨウエキスの血管内皮細胞におけるVE-カドヘリン発現に対する影響を示すグラフである。
図5図5は、インテグリンα5を指標としてスクリーニングされたシベリアニンジン、酵母エキス、ニクジュヨウエキスの血管内皮細胞におけるインテグリンα5に対する影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、トウキンセンカ、シベリアニンジン、及びニクジュヨウからなる群から選ばれる植物体のエキス、又は酵母エキスを含む、血管内皮細胞における接着分子の発現促進剤に関する。細胞接着分子は、血管内皮細胞において発現される接着分子が好ましい。そのような細胞接着分子のなかで、カドヘリン及びインテグリンが挙げられ、特にVE-カドヘリン及びインテグリンα5が挙げられる。
【0012】
本発明は、血管内皮細胞における接着分子の発現を指標としたスクリーニング方法によって、候補薬剤をスクリーニングすることができる。スクリーニング方法は、例えば以下の工程:
候補薬剤を含む培地で血管内皮細胞を培養し、
血管内皮細胞における接着分子の遺伝子発現を測定し、
対照に比較して前記発現が増加した場合に、候補薬剤を接着分子の発現を高める物質として決定する
を含む。ここで、対照は、候補薬剤が含まれない培地で培養している点で異なる場合の接着分子の遺伝子発現である。対照についての実験は、本発明のスクリーニング方法と並行して行われていてもよいし、予め行われていてもよい。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、候補薬剤を含む培地で血管内皮細胞を培養する工程の前に、血管内皮細胞を培養する前培養工程を含んでもよい。また、候補薬剤を含む培地で血管内皮細胞を培養する工程の後に、候補薬剤を含まない培地でさらに培養する後培養工程を含んでもよい。候補薬剤を含む培地で血管内皮細胞を培養する工程は、前培養工程で得られた培養物に、候補薬剤又はその希釈液を直接添加して培養してもよいし、候補薬剤を含む培地に置換して培養が行われてもよい。
【0014】
接着分子の遺伝子発現の測定は、血管内皮細胞における接着分子のmRNA量又はタンパク質量を測定することにより決定されうる。mRNA量の測定としては、定量的PCRやノーザンブロティングなど本技術分野に既知の手法を用いて行うことができる。タンパク質量についは、ウエスタンブロッティング、免疫染色、FACSなどの本技術分野に既知の任意の手法を用いて行うことができる。これらの手法において、接着分子に特異的に結合する抗体が使用される。
【0015】
本発明において、血管内皮細胞において接着分子、例えばVE-カドヘリン及び/又はインテグリンα5、の発現を高める物質は、毛細血管の安定化、保護、増加、機能向上からなる群から選ばれる少なくとも1の作用を発揮する。したがって、血管内皮細胞において接着分子の発現を高める物質を、毛細血管の安定化、保護、増加、又は機能向上のための薬剤として用いることもできる。
【0016】
血管内皮細胞は、血管の内膜を構成する細胞である。動脈や静脈は内膜、中膜、外膜の三層から構成されるが、毛細血管は、血管内皮細胞から構成される内膜のみで構成される。血管内皮細胞においては、主にVE-カドヘリンという細胞接着分子の働きにより内皮細胞間が接着されており、またインテグリンの働きにより、細胞外マトリクスと血管内皮細胞が接着されている。血管内皮細胞としては、生体から取得された内皮細胞、及びその継代された細胞であってもよいし、株化された細胞であってもよく、また臍帯血静脈内皮細胞、及びその継代された細胞であってもよい。血管内皮細胞として、以下のものに限定されるものではないが、HUVEC、HMEC-1が用いられうる。
【0017】
VE-カドヘリンは、カドヘリン5又はCD144とも呼ばれる分子量約140kDaのタンパク質であり、カドヘリンスーパーファミリーに属するタンパク質である。VE-カドヘリンは、内皮細胞に特異的であり、リンパ管内皮細胞及び血管内皮細胞において発現し、細胞膜に存在する。VE-カドヘリン分子は、血管内皮やリンパ管内皮の透過性に関与することが知られている。VE-カドヘリンの発現が増加することで、血管内皮細胞同士の接着性が高まり、血管内皮の安定性に寄与すると考えられる。血管内皮細胞と線維芽細胞とから作成された皮膚モデルにおいて、VE-カドヘリンの発現を抑制した血管内皮細胞を用いた皮膚モデルでは、血管様の構造が形成しづらくなることも示された(図1A~D)。理論に限定されることを意図するものではないが、技術常識及びこれらの実験結果から、VE-カドヘリンの発現が抑制されると毛細血管の安定性が失われ、毛細血管の量が減少することが示された。
【0018】
インテグリンは、細胞膜に存在する細胞膜タンパク質であり、細胞接着分子として機能して、細胞外マトリックスや基底膜と相互作用する。インテグリンは、α鎖とβ鎖が会合するヘテロダイマーで存在し、αサブユニットとして少なくとも18種類、βサブユニットとして8種類が確認されている。インテグリンα5は、主にインテグリンβ1と会合し、インテグリンα5β1を形成することが知られている。インテグリンα5β1は、VLA-5、フィブロネクチン受容体とも呼ばれる。血管内皮細胞の細胞膜に発現されたインテグリンα5は、細胞外マトリクス(ECM)を構成するフィブロネクチンと結合する。血管内皮細胞と線維芽細胞とから作成された皮膚モデルにおいて、インテグリンα5の発現を抑制した血管内皮細胞を用いた皮膚モデルでは、血管体積に対しては変化がないものの(図2C)、交差の数が減少するが(図2D)、血管の長さは増大した(図2B)。細胞外マトリクスとの相互作用が弱くなることで、血管の伸張がしやすくなった結果と考えられる。内皮細胞において発現されるインテグリンのうち、インテグリンα5の発現は、年齢とともに低下することが示された(図3C)一方で、インテグリンα3及びα6の発現量は年齢による発現量の変化が少なかった(図3B及びD)。理論に限定されることを意図するものではないが、技術常識及びこれらの実験結果から、インテグリンα5の発現が抑制されると、毛細血管と細胞外マトリクスとの間の相互作用が弱くなり、結果として毛細血管の安定性が失われることが示された。
【0019】
本発明のスクリーニング方法によりスクリーニングされた、接着分子発現促進作用を有する物質は、VE-カドヘリン遺伝子の発現を指標とした場合、VE-カドヘリン遺伝子発現促進剤ということもできる。VE-カドヘリン遺伝子発現促進剤は、血管内皮細胞においてVE-カドヘリン遺伝子の発現を促進できれば任意の物質であってよい。本発明のスクリーニング方法の1の態様は、血管内皮細胞におけるVE-カドヘリンの遺伝子発現を指標として、化粧品素材、食品素材、医薬品素材などの任意のライブラリーを用いてスクリーニングを行うことである。このようにして決定されたVE‐カドヘリン遺伝子発現促進作用を有する物質として、シベリアニンジン、トウキンセンカ、ニクジュヨウからなる群から選ばれる少なくとも1の植物体のエキスが挙げられる(図4)。
【0020】
本発明のスクリーニング方法によりスクリーニングされた、接着分子発現促進作用を有する物質は、インテグリンα5遺伝子発現を指標とした場合、インテグリンα5遺伝子促進剤ということもできる。インテグリンα5遺伝子発現促進剤は、血管内皮細胞においてインテグリンα5遺伝子の発現を促進できれば任意の物質であってよい。本発明のスクリーニング方法の1の態様は、血管内皮細胞におけるインテグリンα5の遺伝子発現を指標として、化粧品素材、食品素材、医薬品素材などの任意のライブラリーを用いてスクリーニングを行うことである。このようにして決定されたインテグリンα5の遺伝子発現を促進する物質として、シベリアニンジン、ニクジュヨウエキスからなる群から選ばれる少なくとも1の植物体のエキス及び酵母エキスが挙げられる(図5)。
【0021】
シベリアニンジン(Siberian Ginseng)とは、ロシア、中国、北海道などの地域に自生するウコギ科の植物であり、エゾウコギ(Eleutherococcus senticosus)とも呼ばれる。実、葉、茎、花、根などの植物体を薬用として用いることができ、特に根の根皮を生薬として用いられている。シベリアニンジンエキスは、シベリアニンジンの植物体、特に根の根皮を溶媒、例えば水や、プロピレングリコール、エタノールなどのアルコール類などにより抽出された抽出物のことをいう。シベリアニンジンエキスとして、化粧品原料や健康食品材料として市販のものを使用することができる。
【0022】
トウキンセンカエキスは、キンセンカ(Calendula officinalis)の花の抽出物である。キンセンカは、南ヨーロッパ原産のキク科の植物である。トウキンセンカエキスは、キンセンカの花を溶媒、例えば水や、プロピレングリコール、エタノールなどのアルコール類などにより抽出された抽出物のことをいう。トウキンセンカエキスとして、化粧品原料や健康食品材料として市販のものを使用することができる。
【0023】
ニクジュヨウエキスとは、ホンオニク(Cistanche salsa)の植物体の抽出物である。ホンオニクは、中国内陸から中央アジアを原産とするハマウツボ科の植物である。植物体のうち、茎、葉、花、根などが用いられるが、特に肉質茎を乾燥したものがニクジュヨウと呼ばれ、生薬として使用されている。ニクジュヨウエキスは、ニクジュヨウを溶媒、例えば水や、プロピレングリコール、エタノールなどのアルコール類などにより抽出された抽出物のことをいう。ニクジュヨウエキスエキスとして、化粧品原料や健康食品材料として市販のものを使用することができる。
【0024】
酵母エキスとは、Saccharomyces cerevisiaeなどの酵母の抽出物である。酵母エキスは、酵母の細胞壁を酸処理、アルカリ処理、又は酵素処理などすることにより破壊することにより得られる。酵母エキスとして、化粧品原料や健康食品材料として市販のものを使用することができる。
【0025】
上述の植物又は酵母のエキスは常法により得ることができ、例えばその起源となる植物又は酵母を抽出溶媒とともに常温又は加熱して浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水性溶媒、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、あるいは有機溶媒、例えばエタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。好ましくは、溶媒として水が使用される。上記溶媒で抽出して得られた抽出物をそのまま、あるいは例えば凍結乾燥などにより濃縮したエキスを使用でき、また必要であれば吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD-2)のカラムにて吸着させた後、所望の溶媒で溶出し、さらに濃縮したものも使用することができる。
【0026】
本発明のスクリーニング方法により選択された血管内皮細胞において接着分子の発現促進作用を有する物質は、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上剤ともいうことができ、化粧料、医薬品、又は医薬部外品に配合されてもよいし、食品、例えばサプリメントなどの栄養補助食品に配合されてもよい。本発明の接着分子の発現促進作用を有する物質、すなわちVE-カドヘリン遺伝子発現促進剤や、インテグリンα5遺伝子発現促進剤、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上剤は、任意の経路で投与されてもよいが、血管内皮細胞に作用することから、経口投与、経皮投与、経粘膜投与などの投与経路が好ましい。
【0027】
以上で説明したとおり、血管内皮細胞におけるVE-カドヘリン遺伝子発現及び/又はインテグリンα5遺伝子発現の促進が、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上に寄与することが見出された。したがって、本発明の別の態様は、VE-カドヘリン遺伝子発現剤及び/又はインテグリンα5遺伝子発現剤を含む、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上剤に関する。より具体的に、血管内皮細胞における接着分子の発現促進剤を適用することを含む、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上方法にも関する。ここで血管内皮細胞における接着分子は、VE-カドヘリン及び/又はインテグリンα5である。さらに別の態様では、VE-カドヘリン遺伝子発現促進剤及び/又はインテグリンα5遺伝子発現促進剤を皮膚に適用することを含む、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上方法にも関する。また、本発明で特定されたエキスは、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上を介して、むくみ、くすみ、アトピー性皮膚炎、酒さ、ドライアイ、口腔乾燥症、冷え、肌荒れ脱毛などの改善に機能し、使用することができる。
【0028】
本明細書において、毛細血管の保護、改善、増加、機能向上方法は、美容を目的とする美容方法に関しており、医師や医療関係者により行われる治療とは区別できる。このような美容方法は、個人的に行われてもよいし、美容室や、化粧品の販売店、エステサロンなどで行われてもよい。
【0029】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0030】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0031】
実施例1:皮膚モデルの作成
6ウェルプレートのうちの3つのウェルを使って皮膚モデルを下記の方法で作製した。氷上で50mLチューブに0.3%コラーゲン16.7mL入れ、10.6mLのDMEM(-)培地を撹拌しながらゆっくり入れることにより、コラーゲンゲルを調製した。次にヒト線維芽細胞(HF)を、DMEM(-)培地中で10×105 cells/mLに調製した。ヒト臍帯血静脈内皮細胞(HUVEC)を、0.5%FBSを添加したEBM2培地中で10×105 cells/mLとなるように調製した。HF群においては、調製されたHF培養物を2ml分取し、そしてHF-HUVEC群においては調製されたHF培養物及びHUVEC培養物それぞれ2ml分取した。6mLの0.5%FBS添加 EBM2培地と混合して10mLの細胞液を調製した。調製した細胞液10mlとコラーゲンゲル溶液10mLを氷上でよく撹拌し、6ウェルプレートのウェルに、1ウェルあたり6mlを入れた。5%加湿雰囲気下において37℃で一晩振とうさせた後、37℃で5日間静置して、HF皮膚モデル及びHF-HUVEC皮膚モデルを作成した。HF-HUVEC皮膚モデルでは、HUVEC細胞が血管の形状をとることが観察された。
【0032】
実施例2:血管内皮細胞の遺伝子発現抑制
HUVEC細胞において、siRNAを用いて、VE-カドヘリン(cad)、インテグリンα3(inta3)、インテグリンα5(inta5)、及びインテグリンα6(inta6)の遺伝子発現を抑制したAmbion Silencer Select SiRNA、CDH5 (ID:s2780、s2781、s2782)、ITGA3(ID:s7541、s7542、s7543)、ITGA5(ID:s7547、s7548.s7549)、ITGA6(ID:s7492、s7493、s7494)を使用した。HUVEC細胞を10×105 cells/mLに調製した。各細胞を沈殿させ、培地を吸い取った後にキットの溶液100μLを加え混合した。混合された細胞に上述のsiRNA(Ambion)をそれぞれ各1μLずつ加えて全量を4D-Nucleofecter(Lonza)のキュベットに移した。CELL TYPEをHUVECにセットし4D-Nucleofecterスタートさせて遺伝子導入を行った。遺伝子導入が終わった各キュベットにEBM2(+)培地を500μL加え、あらかじめEBM2(+)培地を10mL入れておいた10cmシャーレにキュベットの内容物の全量を加えた。37℃で一晩静置し、翌日この細胞を使って実施例2と同様にして皮膚モデルを作製した。各siRNAを導入された細胞について、定量的PCRを行い、目的の遺伝子発現が抑制されていることを確認した(データ未掲載)。
【0033】
siRNAを導入して、VE-カドヘリン、インテグリンα3、インテグリンα5、及びインテグリンα6がそれぞれ発現抑制された皮膚モデルにおいて、一次抗体として抗CD31抗体(販売元R&D systems)を用い、そして二次抗体としてAlexaFluor488標識抗羊抗体(販売元Invitrogen)を用いて血管内皮細胞を可視化した(図1A及び2A)。VE-カドヘリン及びインテグリンα5の発現を抑制した場合の皮膚モデルにおいて、血管の構造に変化が見られた。画像解析ソフト(Imaris)を用いて、血管の長さ(μm)、体積(μm3)、及び交差領域(μm2)を測定したところ、VE-カドヘリン発現を抑制した場合には、全ての点で対照に比較して有意に減少した(図1B~D)(*:p<0.05、**:p<0.01)。インテグリンα5の発現を抑制した場合には、血管の長さ(μm)及び交差領域(μm2)の点で対照に比較して有意に減少した(図2B~D)(*:p<0.05)。
【0034】
実施例3:皮膚モデルにおける年齢の影響
若齢被験者(0歳)の血管内皮細胞、老齢被験者(50歳)の血管内皮細胞を6ウェルプレートに2×105cells/wellで播種し、一晩静置し、翌日RNeasy mini kit(QIAGEN)を使ってRNAを抽出した。抽出したRNAの濃度をnano dropで測定し、RNace-free waterで100ng/mlに調製した。調製したRNAはTaqMan RNA-to-C 1-Step Kit(Applied Biosystems)を使って下記の遺伝子についてのプライマー(Applied Biosystems社)を用いてReal Time PCR(Roche Light Cycler480II)で定量した。内部標準としてβ-アクチン(b-actin: Cat# Hs01060665_g1 )を用いたところ、若齢被験者由来の細胞と老齢被験者由来の細胞とでは、VE-カドヘリン(VE-Cadherin:Cat# Hs00170986_m1)及びインテグリンα5(Integrin alpha5: Cat# Hs01547673_m1)の発現量において有意差が見られた(図3A~D:*:P<0.05)一方で、インテグリンα3(Integrin alpha3: Cat# Hs01076879_m1)及びインテグリンα6(Integrin alpha6: Cat# Hs01041011_m1)では発現量に有意差は見られなかった。
【0035】
実施例4:VE-カドヘリン遺伝子発現を指標としたVE-カドヘリン発現促進作用を有する物質のスクリーニング方法
ヒト臍帯血静脈内皮細胞(HUVEC)を、0.5%FBSを添加したEBM2培地中で10×105 cells/mLとなるように調製し、5%CO2加湿雰囲気下において37℃で培養した。候補薬剤として、化粧品素材ライブラリーを用いた。候補薬剤を添加し、6時間培養を行った。培養後、培地を取り除き、RNeasy mini kit(QIAGEN)を使って細胞からRNAを抽出した。抽出したRNAの濃度をnano dropで測定し、RNace-free waterで100ng/mlに調製した。調製したRNAはTaqMan RNA-to-C 1-Step Kit(Applied Biosystems)を使って、VE-カドヘリン遺伝子についてのプライマーを用いてReal Time PCR(Roche Light Cycler480II)で定量した。
【0036】
候補薬剤として、シベリアニンジンエキス、トウキンセンカエキス、ニクジュヨウエキスを用いた場合に、対照に比較してVE-カドヘリン遺伝子の発現が有意に増加した(p<0.05:図4)。これらのエキスを、VE-カドヘリンの発現促進作用を有する物質として選択した。
【0037】
実施例5:インテグリンα5遺伝子発現を指標としたインテグリンα5の発現促進作用を有する物質のスクリーニング方法
ヒト臍帯血静脈内皮細胞(HUVEC)を、0.5%FBSを添加したEBM2培地中で10×105 cells/mLとなるように調製し、5%CO2加湿雰囲気下において37℃で培養した。候補薬剤を添加し、6時間培養を行った。培養後、培地を取り除き、RNeasy mini kit(QIAGEN)を使って細胞からRNAを抽出した。抽出したRNAの濃度をnano dropで測定し、RNace-free waterで100ng/mlに調製した。調製したRNAはTaqMan RNA-to-C 1-Step Kit(Applied Biosystems)を使って、インテグリンα5遺伝子についてのプライマーを用いてReal Time PCR(Roche Light Cycler480II)で定量した。
【0038】
候補薬剤として、シベリアニンジンエキス、酵母エキス、ニクジュヨウエキスを用いた場合に、対照に比較してインテグリンα5遺伝子の発現が有意に増加した(p<0.05:図5)。これらのエキスを、ハリ改善作用を有する物質として選択した。
図1
図2
図3
図4
図5