(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】コア-シェル構造のマイクロ粒子を有効成分として含む血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/50 20060101AFI20230302BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230302BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230302BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230302BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230302BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20230302BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230302BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230302BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230302BHJP
C07K 14/755 20060101ALN20230302BHJP
【FI】
A61K9/50
A61K47/20
A61K47/06
A61K47/24
A61K48/00
A61K38/37 ZNA
A61P43/00 111
A61P7/04
C12N15/12
C07K14/755
(21)【出願番号】P 2020543162
(86)(22)【出願日】2019-02-12
(86)【国際出願番号】 KR2019001709
(87)【国際公開番号】W WO2019156541
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】10-2018-0017075
(32)【優先日】2018-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0016076
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520200609
【氏名又は名称】ジーアンドピー バイオサイエンス カンパニー,リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520200610
【氏名又は名称】レヨン ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ソン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ス ジン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-507207(JP,A)
【文献】藤沢 康司,止血薬 Coagulation factor VIII(血液凝固第VIII因子製剤),小児科診療,1998年,第61巻, 増刊,p.285
【文献】吉田 久博, 神谷 晃,バイオ医薬品 ヒトとクスリの新たな関係 血液凝固第VIII因子製剤,薬局,1997年,第48巻, 第5号,p.801-807
【文献】J. Controlled Release,2013年,Vol.170,p.437-444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
C12N 15/12
C07K 14/755
PubMed
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固因子遺伝子を含むプラスミドと共に投与される、コア-シェル構造のマイクロ粒子を有効成分として含む血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物であって、
前記コアは、生体適合性気体として、ヘキサフルオロ化硫黄又はペルフルオロブタンで、前記シェルは、脂質又はその誘導体を含んで構成され、前記脂質はリン脂質であり、
前記血液凝固因子遺伝子は、ヒト血液凝固第8因子(Factor VIII)遺伝子又はその変異体遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子であることを特徴とする血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物。
【請求項2】
前記リン脂質は、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体、ホスファチジルセリン誘導体、ジアセチル化リン脂質、L-α-ジオレイルホスファチジルエタノールアミン
、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ポリエチレングリコール化リン脂質、卵黄レシチン、大豆レシチン及び水素添加リン脂質からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物。
【請求項3】
前記血液凝固第8因子は、
配列番号1で表示されるアミノ酸
配列からなり、前記血液凝固第8因子の変異体は、
配列番号3で表示されるアミノ酸
配列からなることを特徴とする、請求項1に記載の血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物。
【請求項4】
前記組成物は、前記血液凝固因子遺伝子の発現量を30%以上増加させることを特徴とする、請求項1に記載の血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物。
【請求項5】
請求項1の組成物
、及びヒト血液凝固第8因子(Factor VIII)遺伝子又はその変異体遺伝子を含むプラスミド
、を含む出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記出血疾患は、A型血友病、血液凝固第8因子又は血液凝固第8因子aに対する抑制性抗体によってもたらされたり複合化された血友病又はB型血友病であることを特徴とする、請求項5に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記出血疾患又は出血は、新生児凝固障害
、重症肝疾患
、低血小板症
、因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏
、及びフォン・ヴィレブランド因子に対する阻害剤を有するフォン・ヴィレブランド病
、からなる群から選ばれた一つであることを特徴とする、請求項5に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項8】
前記出血は、高危険外科手術過程の血液損失、外傷性血液損失、骨髓移植による血液損失又は脳出血と関連した血液損失によるものであることを特徴とする、請求項5に記載の出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア-シェル構造のマイクロ粒子を有効成分として含む血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病(Hemophilia)は、深刻な遺伝疾患の一つである。A型血友病は、X遺伝子関連疾患として、男性5000人のうち1人が発病しており、血液凝固過程の重要な成分である血漿糖タンパク質ヒト血液凝固第8因子(Factor VIII、Factor 8、FVIII又はF8とも称する)の変異によって発生する。
【0003】
1980年代以前の血友病患者達には、治療のために他人の血漿から抽出した血液凝固第8因子が投与されたが、このような方法では、ウイルス感染などの問題が深刻であった。このような短所を補完するために、1980年代から組換えタンパク質の研究を通じて全長血液凝固第8因子(full-length Factor VIII)をCHO細胞などで生産し、これを治療に使用した。
【0004】
本発明の発明者等は、少量の遺伝子によっても治療効果を得ることができる遺伝子治療剤を開発するために研究した結果、コアがハロゲン化炭化水素及び/又はハロゲン化硫黄で、外郭シェルが脂質成分で構成されたコア-シェル構造のマイクロ粒子が血液凝固第8因子遺伝子と共に生体内に投与される場合、前記血液凝固因子遺伝子の発現量を著しく増加させることを具体的に確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国登録特許第10-1542752号
【文献】大韓民国公開特許第10-2018-0118659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする第一の課題は、コア-シェル構造のマイクロ粒子を有効成分として含む血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物を提供することにある。
【0007】
本発明が解決しようとする第二の課題は、前記組成物を含む出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような目的を達成するために、本発明は、コア-シェル構造のマイクロ粒子を有効成分として含む血液凝固因子遺伝子の発現増加用組成物であって、前記コアは、生体適合性基体として、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化硫黄又はこれらの混合物で、前記シェルは、脂質又はその誘導体を含んで構成され、前記血液凝固因子遺伝子は、ヒト血液凝固第8因子(Factor VIII)遺伝子又はその変異体遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子であることを特徴とする血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物を提供する。
【0009】
本発明の一実施例において、前記生体適合性基体は、ヘキサフルオロ化硫黄、オクタフルオロプロパン、ブロモクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン及びその混合物から選ばれ得る。
本発明の一実施例において、前記ハロゲン化炭化水素は、ペルフルオロ化炭化水素であり得る。
【0010】
本発明の一実施例において、前記ペルフルオロ化炭化水素は、ペルフルオロメタン、ペルフルオロエタン、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロブタン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロプロペン、ペルフルオロブテン、ペルフルオロブタジエン、ペルフルオロブタ-2-イン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロメチルシクロブタン、ペルフルオロジメチルシクロブタン、ペルフルオロトリメチルシクロブタン、ペルフルオロシクロペンタン、ペルフルオロメチルシクロペンタン、ペルフルオロジメチルシクロペンタン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン又はその混合物であり得る。
【0011】
本発明の一実施例において、前記脂質は、単純脂質、リン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロール及び陽イオン脂質からなる群から選ばれた1種以上であり得る。
【0012】
本発明の一実施例において、前記リン脂質は、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体、ホスファチジルセリン誘導体、ジアセチル化リン脂質、L-α-ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレイン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ポリエチレングリコール化リン脂質、卵黄レシチン、大豆レシチン及び水素添加リン脂質からなる群から選ばれたものであり得る。
【0013】
本発明の一実施例において、前記グリセロ糖脂質は、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド及びグリコシルジグリセリドからなる群から選ばれたものであり得る。
【0014】
本発明の一実施例において、前記スフィンゴ糖脂質は、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド又はガングリオシドであり得る。
【0015】
本発明の一実施例において、前記陽イオン脂質は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、N-(2,3-ジオレイルオキシプロパン-1-イル)-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DMRIE)、1,2-ジオレオイルオキシプロピル-3-ジエチルヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)及び3β-[N-(N'N'-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)からなる群から選ばれたものであり得る。
【0016】
本発明の一実施例において、前記血液凝固第8因子遺伝子は、序列番号1で表示されるアミノ酸序列からなるものであって、前記血液凝固第8因子の変異体遺伝子は、序列番号3で表示されるアミノ酸序列からなるものであり得る。
【0017】
本発明の一実施例において、前記組成物は、前記血液凝固因子遺伝子の発現量を30%以上増加させ得る。
【0018】
また、本発明は、前記組成物、及びヒト血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子を含む出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0019】
本発明の一実施例において、前記出血疾患は、A型血友病、血液凝固第8因子又は血液凝固第8因子aに対する抑制性抗体によってもたらされたり複合化された血友病又はB型血友病であり得る。
【0020】
本発明の一実施例において、前記出血疾患又は出血は、新生凝固病症;重症肝疾患;低血小板症;因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏;及びフォン・ヴィレブランド因子に対する阻害剤を有するフォン・ヴィレブランド病;からなる群から選ばれた一つであり得る。
【0021】
本発明の一実施例において、前記出血は、高危険外科手術過程の血液損失、外傷性血液損失、骨髓移植による血液損失又は脳出血と関連した血液損失によるものであり得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明の遺伝子発現増加用組成物は、血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子(例えば、遺伝子を暗号化するポリヌクレオチド又はこれを含むベクター)と共に生体に投与される場合、前記血液凝固因子遺伝子の発現量を少なくとも30%以上増加させ得る。これにより、前記組成物は、遺伝子治療剤と共に投与する場合、少量の遺伝子によっても治療効果を得ることができるので有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施例に係る血液凝固第8因子変異体(F8M)をデザインする過程を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施例に係るpGPベクターの開裂地図を示した図である。
【
図3】マウスにおいて、pGP-F8M(遺伝子のみ)、対照群の薬学組成物(F8M-JetPEI)及び実施例に係る薬学組成物(F8M-MP1及びF8M-MP2)の投与によるF8タンパク質の発現量を比較して示すグラフである。
【
図4】マウスにおいて、pGP-F9(遺伝子のみ)及び比較例に係る薬学組成物(F9-MP1及びF9-MP2)の投与によるF9タンパク質の発現量を比較して示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施例に係るヒト血液凝固第8因子を構成するドメイン構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の一側面によると、コア-シェル構造のマイクロ粒子を有効成分として含む血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物であって、前記コアは、生体適合性基体として、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化硫黄又はこれらの混合物で、前記シェルは、脂質又はその誘導体を含んで構成され、前記血液凝固因子遺伝子は、ヒト血液凝固第8因子(Factor VIII)遺伝子又はその変異体遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子であることを特徴とする血液凝固因子遺伝子発現増加用組成物を提供する。
【0026】
<コア>
本発明の明細書において、前記「コア」は、生体適合性基体として、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化硫黄又はこれらの混合物からなり得る。
【0027】
前記生体適合性基体は、ヘキサフルオロ化硫黄、オクタフルオロプロパン、ブロモクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、又はその混合物であり得る。
【0028】
前記ハロゲン化炭化水素は、ペルフルオロ化炭化水素であることが好ましい。
【0029】
前記ペルフルオロ化炭化水素としては、ペルフルオロメタン、ペルフルオロエタン、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロブタン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロプロペン、ペルフルオロブテン、ペルフルオロブタジエン、ペルフルオロブタ-2-イン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロメチルシクロブタン、ペルフルオロジメチルシクロブタン、ペルフルオロトリメチルシクロブタン、ペルフルオロシクロペンタン、ペルフルオロメチルシクロペンタン、ペルフルオロジメチルシクロペンタン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン又はその混合物を挙げることができる。
【0030】
本発明の生体適合性基体は、ヘキサフルオロ化硫黄又はペルフルオロブタンであることが好ましい。
【0031】
<シェル>
本発明の明細書において、前記「シェル」は、脂質又はその誘導体を含む成分で構成され得る。
【0032】
前記脂質は、単純脂質、リン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロール及び陽イオン脂質からなる群から選ばれた1種以上であり得るが、特にリン脂質であることが好ましい。
【0033】
前記リン脂質としては、ホスファチジルコリン誘導体、ホスファチジルエタノールアミン誘導体、ホスファチジルセリン誘導体、ジアセチル化リン脂質、L-α-ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレイン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ポリエチレングリコール化リン脂質、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加リン脂質などを挙げることができる。
【0034】
前記グリセロ糖脂質としては、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリドなどを挙げることができる。
【0035】
前記スフィンゴ糖脂質としては、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシドなどを挙げることができる。
【0036】
また、前記陽イオン脂質としては、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、N-(2,3-ジオレイルオキシプロパン-1-イル)-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DMRIE)、1,2-ジオレオイルオキシプロピル-3-ジエチルヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)、3β-[N-(N'N'-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)などを挙げることができる。
【0037】
<マイクロ粒子>
本発明のマイクロ粒子は、コアである基体を取り囲むシェルによって安定化され、基体の周囲液体への拡散を遅延させ、その結果、マイクロ粒子間の融合を防止する。
【0038】
前記マイクロ粒子は、生体内に投入される場合、標的細胞又は組織付近に到着するまでは形状を維持しているが、標的細胞又は組織付近で破壊されながら気体を噴射するようになる。このとき、噴射される気体は標的細胞の細胞膜に変化を起こし、気体の噴射力は、遺伝子が標的細胞の細胞質環境中に進入できるように促進する役割をすることができる。
前記マイクロ粒子は、平均直径が1μm~10μm、好ましくは2μm~8μm、さらに好ましくは2μm~4μmである。
【0039】
<遺伝子発現増加用組成物>
最近、基体をコアとするコア-シェルマイクロ粒子と関連して多様な研究がなされてきた。既存の各研究では、マイクロ粒子と共に超音波を照射しないと遺伝子発現増加効果が表れなかった。
【0040】
具体的に、Sang-Chol Lee et al.,Korean Circulation J 2006;36:32-38;「低周波超音波を用いた微細気泡の破壊を通じた筋肉組織への遺伝子伝達増強に対する研究」には、超音波の照射なしでルシフェラーゼ(luciferase)遺伝子-マイクロ粒子混合物のみを注入する場合は遺伝子発現増加効果が表れないという内容が開示されている。
【0041】
ZP Shen et al.,Gene Therapy(2008)15,1147-1155;「Ultrasound with microbubbles enhances gene expression of plasmid DNA in the liver via intraportal delivery」には、超音波の照射しでルシフェラーゼ遺伝子-マイクロ粒子混合物のみを注入する場合は遺伝子発現増加効果が表れないという内容が開示されている。
【0042】
また、Xingsheng Li et al.,J Ultrasound Med 2008;27:453-460;「Experimental Research on Therapeutic Angiogenesis Induced by Hepatocyte Growth Factor Directed by Ultrasound-Targeted Microbubble Destruction in Rats」には、超音波の照射なしでHGF遺伝子-リポソームマイクロ粒子混合物を注入する場合は遺伝子発現増加効果が表れないという内容が開示されている。
【0043】
しかし、本発明者等は、前記マイクロ粒子の用途に対して研究した結果、本発明に係るマイクロ粒子を血液凝固因子のうち血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体と共に注入する場合は、特異的に超音波の照射なしでも前記遺伝子の発現量を著しく増加させることを確認し、本発明を完成するに至った。一方、下記の実験例で具体的に示したように、前記血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子以外の血液凝固因子遺伝子(例えば、血液凝固第9因子(Factor IX、Factor 9、FIX又はF9とも称する))では、前記マイクロ粒子による遺伝子発現量の増加効果が表れなかった。
【0044】
本発明に係る遺伝子発現増加用組成物は、血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子と共に生体に投与される場合、前記血液凝固因子遺伝子の発現量を少なくとも30%以上増加させ得る。
【0045】
下記の実施例において、本発明の遺伝子発現増加用組成物は、ヒト血液凝固第8因子変異体遺伝子と共にマウスに投与される場合、血液凝固第8因子遺伝子の発現量を著しく増加させることを確認した。さらに具体的には、本発明の遺伝子発現増加用組成物と前記血液凝固第8因子変異体遺伝子を動物モデルに共に投与する場合、血液凝固第8因子遺伝子の発現量が40%以上増加することを確認した。一方、血液凝固第9因子遺伝子の場合は、本発明の遺伝子発現増加用組成物と共にマウスに投与したとしても遺伝子発現がほとんど増加しないことを確認した。
【0046】
すなわち、本発明の遺伝子発現増加用組成物は、血液凝固因子のうちヒト血液凝固第8因子遺伝子及びその変異体遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子と共に投与される場合にのみ特異的に前記血液凝固因子遺伝子の発現量を増加させる効果を有すると判断される。
【0047】
前記組成物は、安定化剤、緩衝剤、浸透圧の調節のための塩、賦形剤、防腐剤などの薬剤学的補助剤又はその他の治療的に有用な物質をさらに含有することができ、通常の方法によって多様な経口又は非経口の形態に剤形化できるが、非経口の形態であることが好ましい。代表的な非経口投与用剤形は、注射用剤形として等張性水溶液又は懸濁液であることが好ましい。又は、前記組成物を粉末化した後、投与直前に溶剤と共に懸濁して使用することもできる。
【0048】
本発明の遺伝子発現増加用組成物において、前記マイクロ粒子の含量は、特に制限されないが、0.5μl/ml~2,000μl/ml、好ましくは1μl/ml~1,000μl/mlであってもよく、5μg/ml~2,000μg/ml、好ましくは10μg/ml~1,000μg/mlであってもよい。
【0049】
前記マイクロ粒子の含量が前記範囲を逸脱する場合は、期待する効果を得ることができない。
【0050】
そして、前記組成物は、遺伝子と混合された混合液の形態で投与されることが効果の面で好ましい。
【0051】
<遺伝子>
本発明に係る遺伝子発現増加用組成物は、下記の各遺伝子と共に投与される場合、下記の遺伝子の発現効率及びこれによる効能をさらに増大させ得る。
【0052】
〔血液凝固第8因子〕
本明細書において、「血液凝固第8因子」、「因子VIII」、「FVIII」及び「F8」という用語は、本明細書で相互交換的に使用される。成熟したヒト血液凝固第8因子は、2351個(シグナルペプチド(signal peptide)を含む)のアミノ酸が
図5に示したドメイン構造で配列されて構成される。
【0053】
図5において、a1、a2及びa3は酸性領域で、酸性領域a3は、血液凝固に重要な役割をするフォン・ヴィレブランド因子(vWF)への血液凝固第8因子分子の結合に関与するものと知られている。分泌される過程で、血液凝固第8因子においては、B-ドメインとa3酸性領域との間が切断され、その結果、ヘテロ二量体ポリペプチドが生成される。血液凝固第8因子ヘテロ二量体は、軽鎖(A3、C1及びC2を含む)と、大きさが可変的な重鎖(A1、A2及びBを含む)とからなる。重鎖は、B-ドメイン内での制限的なタンパク質分解によって異質性を有する。ヘテロ二量体B-ドメインが欠失した血液凝固第8因子の場合、「重鎖」はA1及びA2を含むが、B-ドメインが一部又は全部欠失する。
【0054】
ヒト血液凝固第8因子の成熟野生型のアミノ酸序列を序列番号1に示した。特定序列のアミノ酸位置に対する参照番号は、VIII野生型タンパク質内での該当のアミノ酸位置を意味し、言及される序列内の他の位置で突然変異(例:欠失、挿入及び/又は置換)の存在を排除しない。前記序列番号1の暗号化DNA序列は序列番号2に該当する。
【0055】
「血液凝固第8因子」は、野生型血液凝固第8因子のみならず、野生型血液凝固第8因子の凝固促進活性を有する野生型血液凝固第8因子の誘導体を含む。前記誘導体は、野生型血液凝固第8因子のアミノ酸序列と比較して欠失、挿入及び/又は付加された序列を有し得る。好ましい誘導体は、B-ドメインの全部又は一部が欠失した血液凝固第8因子の分子である。本明細書の全般に表記されたアミノ酸の位置は、常に全長成熟(シグナルペプチドを含む)野生型血液凝固第8因子での個々のアミノ酸の位置を示す。
【0056】
〔血液凝固第8因子変異体〕
本明細書において、「変異体」という用語は、アミノ酸序列又は核酸序列などの保存的又は非保存的な置換、挿入又は欠失を含み、このような変化は、それぞれのFVIIIの生物学的活性を付与する活性部位又は活性ドメインを実質的に変更させない。
【0057】
本発明の実施例に係る血液凝固第8因子変異体は、単一鎖の血液凝固第8因子変異体として、序列番号1で表示される血液凝固第8因子からAsp784~Arg1671のアミノ酸が欠失したものである。前記血液凝固第8因子変異体は、B-ドメインの一部(各残基784-1667)及びa3領域の一部(各残基1668-1671)が欠失したものであって、前記変異体は、血液凝固第8因子、B-ドメインが欠失した血液凝固第8因子に比べてタンパク質の発現量が増大し、血液凝固活性及び安定性が向上する。前記血液凝固第8因子変異体は、序列番号3で表示されるアミノ酸序列を有する。
【0058】
前記「単一鎖の血液凝固第8因子」は、前記血液凝固第8因子分子を発現する細胞から分泌される間、タンパク質の分解によって二鎖(例:重鎖と軽鎖)に切断されず、単一ポリペプチド鎖として存在する血液凝固第8因子分子を意味する。
また、前記血液凝固第8因子変異体は、前記アミノ酸序列を暗号化するポリヌクレオチドで表現され得る。
【0059】
<ポリヌクレオチド>
本明細書において、「ポリヌクレオチド」という用語は、非変形RNA又はDNA、又は変形RNA又はDNAであり得る任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味する。本発明のポリヌクレオチドは、単一鎖のDNA又はRNAであり得る。本明細書に使用された「ポリヌクレオチド」という用語は、変形塩基及び/又は独特の塩基、例えば、イノシンを含むDNA又はRNAを含む。前記DNA又はRNAの場合、公知の有用な目的を提供する多様な変形が可能であることは自明である。本明細書に使用された「ポリヌクレオチド」という用語は、このような化学的、酵素的又は代謝的に変形したポリヌクレオチドを含む。
【0060】
当業者等は、遺伝子暗号の縮退性によって前記血液凝固第8因子変異体が多くのポリヌクレオチドによって暗号化され得ることを理解できると見なされる。すなわち、本発明で利用可能な血液凝固第8因子変異体を暗号化するポリヌクレオチド序列は、前記アミノ酸序列と実質的な同一性を示すヌクレオチド序列も含まれるものと解釈される。
【0061】
<プラスミド>
本発明に係る遺伝子発現増加用組成物は、前記遺伝子を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む各プラスミドと共に投与される場合、遺伝子の発現効率及びこれによる効能をさらに増大させ得る。
【0062】
本明細書において、「プラスミド」という用語は、一般に、外来遺伝子が宿主細胞で発現できるようにベクターに作動的に連結されて形成された環状のDNA分子を言う。しかし、プラスミドは、目的とする遺伝子を含むように遺伝子組換えによって特定の制限酵素によって分解され、新しい遺伝子を導入するベクターとして使用され得る。よって、本願では、プラスミドとベクターは相互交換的に使用され、遺伝工学分野で通常の知識を有する者であれば、それらの名称を区分しないとしても、その意味を十分に理解するだろう。
【0063】
本明細書において、「ベクター」という用語は、外来遺伝子を宿主細胞内に安定的に運搬できる運搬体としてのDNA分子を言う。有用なベクターになるためには複製されるべきであり、宿主細胞内に流入し得る方案を備えるべきで、自分の存在を検出できる手段を備えるべきである。
【0064】
<発現>
〔発現ベクター〕
本発明に係る遺伝子発現増加用組成物は、前記遺伝子を暗号化する単一鎖ポリヌクレオチドを含む各発現ベクターと共に投与される場合、遺伝子の発現効率及びこれによる効能をさらに増大させ得る。
【0065】
本明細書において、「発現(expression)」という用語は、細胞での前記遺伝子の生成を意味する。
【0066】
本明細書において、「発現ベクター」という用語は、適当な宿主で前記遺伝子を発現できるベクターであって、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された必須的な調節要素を含む遺伝子コンストラクトを言う。
【0067】
本明細書において、「作動可能に連結された(operably linked)」という用語は、一般的な機能を行うように核酸発現調節序列と前記遺伝子を暗号化するポリヌクレオチドとが機能的に連結(functional linkage)されていることを意味する。例えば、プロモーターと前記遺伝子を暗号化するポリヌクレオチドとが作動可能に連結され、前記ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼし得る。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野でよく知られている遺伝子組換え技術を用いて行うことができ、部位-特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野で一般的に知られている酵素などを用いて行う。
【0068】
本発明の発現ベクターは、プラスミド、ベクター又はウイルスベクターを用いて製作されるが、これに限定されることはない。適切な発現ベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節エレメントなどを含むことができ、目的に応じて多様に製造可能であり、ベクターのプロモーターは構成的又は誘導性であり得る。現在、プラスミドがベクターの最も通常的に使用される形態であるので、本発明の明細書において、「プラスミド(plasmid)」及び「ベクター(vector)」は時々相互交換的に使用される。本発明の目的上、プラスミドベクターを用いることが好ましい。このような目的に使用可能な典型的なプラスミドベクターは、(a)宿主細胞当たりに数個から数百個のプラスミドベクターを含むように複製を効率的に行わせる複製開始点、及び(b)外来DNA切片が挿入され得る制限酵素切断部位を含む構造を有している。適切な制限酵素切断部位が存在しないとしても、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)又はリンカー(linker)を使用すると、ベクターと外来DNAとを容易にライゲーション(ligation)することができる。
【0069】
本発明に係る遺伝子の過剰発現のために使用されるベクターは、当業界で公知となった発現ベクターであり得る。本発明の骨格ベクターとしては、特に制限されることはないが、pCDNA3.1、pGP、pEF、pVAX、pUDK、pCK、pQE40、pT7、pET/Rb、pET28a、pET-22b(+)及びpGEXからなる群から選ばれる多様なベクターを使用することができ、pGP、pEF、pCK、pUDK及びpVAXからなる群から選ばれる一つのベクターを用いることが効果の面で好ましい。
好ましい具体例において、本発明の発現ベクターは、
図2の開裂地図を有するpGPベクターを含む発現ベクターであり得る。
【0070】
<薬学的組成物>
また、本発明は、前記遺伝子発現増加用組成物、及び前記血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子を含むことを特徴とする出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0071】
前記出血疾患は、A型血友病、血液凝固第8因子又は血液凝固第8因子aに対する抑制性抗体によってもたらされたり複合化された血友病又はB型血友病であり得る。また、前記出血疾患又は出血は、新生凝固病症;重症肝疾患;低血小板症;因子V、VII、X又はXIの先天性欠乏;及びフォン・ヴィレブランド因子に対する阻害剤を有するフォン・ヴィレブランド病;からなる群から選ばれた一つであり得る。
【0072】
そして、前記出血は、高危険外科手術過程の血液損失、外傷性血液損失、骨髓移植による血液損失又は脳出血と関連した血液損失によるものであり得る。
【0073】
前記出血疾患又は出血の予防又は治療用薬学的組成物は、少量の血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子によっても体内で前記遺伝子の発現が増加することによって優れた治療効果を示すので、前記出血疾患又は出血の予防又は治療に有用に利用可能である。
本発明の薬学組成物において、前記遺伝子発現増加用組成物:前記血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体遺伝子は、1:0.5~1:30の体積比(w/v)で含まれ得る。
本発明の薬学的組成物は、遺伝子の治療のためのものであり得る。
【0074】
〔剤形〕
本発明に記述された薬学的組成物は、治療用薬剤学的製剤に剤形化され得る。
【0075】
このような薬剤学的担体及び賦形剤のみならず、適当な薬剤学的剤形は当業界に公知となっている(例えば、「Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins」,Frokjaer et al.,Taylor & Francis(2000)又は「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,3rd edition,Kibbe et al.,Pharmaceutical Press(2000))。特に、本発明の薬学的組成物は、凍結乾燥形態又は安定した液体の形態に剤形化され得る。本発明の組成物は、当業界に公知となった多様な手順を通じて凍結乾燥され得る。凍結乾燥された剤形は、注射用滅菌水又は滅菌生理食塩水などの一つ以上の薬剤学的に許容される希釈剤を添加して使用する前に再構成する。
【0076】
組成物の剤形は、任意の薬剤学的に適当な投与手段によって個体に伝達される。多様な伝達システムが公知となっており、組成物を任意の便利な経路で投与するのに使用され得る。主に、本発明の組成物は全身投与される。全身投与用の場合、本発明の挿入タンパク質は、通常の方法によって非経口(例:静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内又は経皮)伝達又は腸(例:経口、膣又は直腸)伝達用に剤形化される。最も優先的な投与経路は静脈内及び筋肉内投与である。これらの剤形は、注入又は一時注射によって連続して投与され得る。一部の剤形は徐放型システムを含む。
【0077】
本発明の組成物は、許容できない副作用を起こす容量に至らず、治療する病態又は兆候の病度又は拡散を予防又は縮小させながら所望の効果を生産するに十分な容量を意味する治療学的有効量で患者に投与する。正確な容量は、兆候、剤形、投与方式などの多様な要因によって変わり得るので、それぞれの兆候ごとに臨床前に及び臨床試験を通じて決定されるべきである。
【0078】
本発明の薬学的組成物は、単独で投与することもでき、他の治療剤と併用して投与することもできる。このような製剤は、同一の薬剤の一部として含まれ得る。
【0079】
〔治療方法〕
また、本発明は、A型血友病、B型血友病又は後天的血友病などの出血疾患を病んでいる個体;又は慢性疾患又は肝疾患を病んでいる個体;を治療する方法に関する。前記治療方法は、本発明の薬学的組成物を有効量で個体に投与する段階を含み得る。
本発明の一具現例によると、本発明の血液凝固第8因子遺伝子又はその変異体などの遺伝子は、10ng~100mgの投与量で投与され得る。前記血液凝固第8因子又はその変異体、又はこれを暗号化するポリヌクレオチドの投与が1回を超えて繰り返されるとき、投与量は毎回同一又は異なり得る。
【0080】
以下、好ましい実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれによって制限されないことは当業界の通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【実施例】
【0081】
<材料の準備>
〔遺伝子〕
(血液凝固第8因子(F8))
序列番号1で表示される全長血液凝固第8因子(F8)の遺伝子をGenscript社(USA)に依頼して製作した。
【0082】
(血液凝固第8因子の変異体(F8M))
序列番号1で表示される全長血液凝固第8因子(full length factor VIII)遺伝子を鋳型とし、プライマー1及びプライマー2を用いて重合酵素連鎖反応(PCR)を通じて序列番号4で表示される切片1を製造した。PCRは、鋳型DNA2μl、10pmol/μlプライマー各1μl、2.5 mM dNTP 2.5μl、pfu enzyme mix(Enzynomics、Korea)1μl、10xバッファー2.5μl及び滅菌した3次蒸留水50μlを充填することによって混合液を作った後、この溶液を95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒間反応させる過程を40回繰り返し行った。プライマー3及びプライマー4を用いて前記方法のようなPCRを通じて序列番号5で表示される切片2を製造した。その後、前記切片1及び切片2に対してプライマー5及びプライマー6を用いてオーバーラップ(overlapping)PCRを行うことによって単一鎖血液凝固第8因子変異体を製造した。オーバーラップPCRは、DNA切片をそれぞれ2μl入れ、他の酵素、緩衝剤、プライマー、反応時間及び方法はPCRと同一に使用した。
図1は、本発明の一実施例に係る血液凝固第8因子変異体(F8M)をデザインする過程を示す模式図である。
前記各プライマーをまとめて下記の表1に示した。
【0083】
【0084】
(血液凝固第9因子(F9))
序列番号6で表示される全長血液凝固第9因子(GenBank塩基序列FR846239.1参考)の遺伝子をバイオニクス社(大韓民国)に依頼して製作した。
【0085】
(プラスミド(pGP))
Lee Y,et al.,Improved expression of vascular endothelial growth factor by naked DNA in mouse skeletal muscles:implication for gene therapy of ischemic diseases.Biochem.Biophys.Res.Commun.2000;272(1):230-235)の論文を参考にしてpCKプラスミドを合成した後、下記の表2のプライマー7及びプライマー8を用いて上述した方法と同一の方法でPCRを行うことによって切片を収得し、EcoRI酵素で37℃で1時間にわたって反応した後、Expin Gel SV(GeneAll、Korea)キットを用いてDNAを精製した。その後、T4リガーゼ(ligase)を用いて30分間ライゲーションを行った後、E.coliに一晩(overnight)培養した。翌日にコロニー(colony)を培養した後、ミニ-プレップ(mini-prep)によってDNAを分離し、序列番号7で表示されるpGPプラスミドを製作した。
図2は、本発明の一実施例に係るpGPベクターの開裂地図を示した図である。
【0086】
【0087】
<製造例>
〔遺伝子を含むプラスミドDNAの製造〕
前記のように準備した各遺伝子のそれぞれとpGPプラスミドをそれぞれNheIとNotI酵素で1時間にわたって切断し、アガロースゲルに電気泳動することによって切片を分離した。分離された切片をT4リガーゼを用いて30分間ライゲーションし、E.Coliに一晩培養した。翌日にコロニーを培養した後、ミニ-プレップによってDNAを分離し、これをNheI及びNotIで確認した。クローニングが完了したDNAは、制限酵素で確認されたE.Coli上清液(supernatant)を4Lのフラスコ2個にカナマイシン(kanamycin)と共に入れて一晩培養した後、Endofree Giga prep.キット(Qiagen、USA)を用いてプラスミドDNAに生産し、これを動物実験に使用した。前記製造されたそれぞれのプラスミドDNAを下記の表3にまとめて示した。
【0088】
【0089】
<実施例>
〔実施例:遺伝子発現増加用組成物及びF8Mを含む薬学組成物の製造(F8M-MP1及びF8M-MP2)〕
(遺伝子発現増加用組成物)
平均直径が約2.5μmで、コアはヘキサフルオロ化硫黄、シェルは脂質を含んで構成されており、標準コード621400210で表示されるコア-シェル構造のマイクロ粒子をブラッコイメージングコリアから購入した(MP1)。また、平均直径が約2.4μm ~3.6μmで、コアはペルフルオロブタン、シェルは脂質及び界面活性剤を含んで構成されており、標準コード646300210で表示されるコア-シェル構造のマイクロ粒子をGEヘルスケアAS韓国支店から購入した(MP2)。
【0090】
(遺伝子発現増加用組成物及びF8Mを含む薬学組成物の製造)
前記それぞれの遺伝子発現増加用組成物(MP1及びMP2)15μlと前記製造されたpGP-F8M 70μg/35μlとを混合することによってそれぞれの薬学組成物F8M-MP1及びF8M-MP2を製造した
【0091】
〔比較例:遺伝子発現増加用組成物及びF9を含む薬学組成物の製造(F9-MP1及びF9-MP2)〕
(遺伝子発現増加用組成物)
前記実施例と同一の方法で遺伝子発現増加用組成物を製造した。
【0092】
〔遺伝子発現増加用組成物及びF9を含む薬学組成物の製造〕
前記それぞれの遺伝子発現増加用組成物(MP1及びMP2)15μlと前記製造されたpGP-F9 70μg/35μlとを混合することによってそれぞれの薬学組成物F9-MP1及びF9-MP2を製造した。
【0093】
<対照群>
〔遺伝子発現増加用組成物〕
in vivo JetPEI(Polyplus、USA)の製造社のマニュアルによってJetPEI 128μlを2mlの5%グルコースと混合することによって懸濁液(遺伝子発現増加用組成物に対応)を製造した。
【0094】
〔遺伝子発現増加用組成物及びそれぞれの遺伝子を含む薬学組成物の製造〕
前記組成物15μlと前記製造されたpGP-F8M 70μg/35μlとを混合することによって薬学組成物F8M-JetPEIを製造した。
【0095】
<実験例>
〔実験例:マウスでのタンパク質の発現量〕
前記対照群、実施例及び比較例に係る薬学組成物のそれぞれをC57b1/6マウスの下肢の腓腹筋に75μg/50μl/legずつそれぞれ注射した。
【0096】
投与後、7日目にマウスを屠殺し、注射した部位の筋肉を切り取った。そして、前記切り取ったそれぞれの筋肉を液体窒素及びタンパク質抽出キット(cellbiolabs、USA)を用いて粉砕した後、総タンパク質を分離した。分離された総タンパク質量は、DCタンパク質分析キット(Bio-Rad laboratories、USA)を用いて測定した。
【0097】
F8タンパク質の測定のためには、同一の量のタンパク質を用いてELISAキット(Stago Asserchrom VIII:Ag、France)を通じて各遺伝子の発現量を測定し、その結果を
図3に示した。
【0098】
図3を通じて、本発明に係る薬学組成物(実施例)を投与した場合、遺伝子のみを投与した場合又は対照群の組成物を投与した場合に比べて統計的に有意に高い発現量を示すことが分かる。具体的に、実施例において、F8M-MP1を投与した群は、遺伝子のみを投与した群(pGP-F8M)に比べて44%高い発現量を示し、F8M-MP2を投与した群は、遺伝子のみを投与した群に比べて116%高い発現量を示した。
【0099】
F9タンパク質の測定のためには、同一の量のタンパク質を用いてELISAキット(Abcam、USA)を通じて各遺伝子の発現量を測定し、その結果を
図4に示した。
【0100】
図4を通じて、比較例の組成物を投与した場合は、遺伝子のみを投与した場合に比べて遺伝子の発現がほとんど増加しないことが分かる。
【0101】
すなわち、
図3及び
図4を通じて、本発明に係る薬学組成物(実施例)を投与した場合は、遺伝子のみを投与した場合、又は対照群や比較例の組成物を投与した場合に比べて著しく高い発現量を示すことが分かる。
【0102】
以上では、本発明を前記言及した好ましい実施例として説明したが、発明の要旨及び範囲から逸脱しない限り、多様な修正や変形を行うことが可能である。また、添付の特許請求の範囲は、本発明の要旨に属するこのような修正や変形を含む。
【配列表】