(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】空間的に局所化された高強度レーザビームを生成するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/13 20060101AFI20230302BHJP
H01S 3/30 20060101ALI20230302BHJP
G01N 21/47 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
H01S3/13
H01S3/30 Z
G01N21/47 Z
(21)【出願番号】P 2020544986
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(86)【国際出願番号】 FR2018052924
(87)【国際公開番号】W WO2019097197
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-09-17
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】318008705
【氏名又は名称】アンプリテュード システム
(73)【特許権者】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】ゾメール ファビヤン
(72)【発明者】
【氏名】ファヴィエ ピエール
(72)【発明者】
【氏名】クールジョー アントワーヌ
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510505(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161760(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/068282(WO,A1)
【文献】特開昭49-043589(JP,A)
【文献】国際公開第2008/120571(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0086713(US,A1)
【文献】特表2007-533081(JP,A)
【文献】特開2017-139344(JP,A)
【文献】特開2001-327858(JP,A)
【文献】特表2008-546152(JP,A)
【文献】特開2013-161609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
H05G 1/00-2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的に局所化された高強度レーザビームを生成するためのシステムであって、
-N個のレーザパルスのバーストを生成するようにされたレーザ源(80)であって、Nは1より高い自然数であり、前記N個のレーザパルスは第1の繰り返し周波数(f
1)を有し、前記レーザパルスは1ピコ秒以下の継続時間を有する超短レーザパルスであり、前記第1の繰り返し周波数(f
1)は0.5ギガヘルツ以上である、レーザ源と、
-N個のレーザパルスの前記バーストを受信し蓄積するようにされた共振光空洞(10)であって、前記共振光空洞(10)は、N個のレーザパルスの前記バーストを前記共振光空洞(10)の相互作用領域(25)へ集束させるようにされ、前記共振光空洞内の往復距離はc/f
1に等しく、cは光速である、共振光空洞(10)と、
-前記バーストの前記N個のパルスが超短且つ高エネルギージャイアントパルスを形成するために前記相互作用領域(25)内の積極的干渉により時間的及び空間的に互いに重畳されるように、前記第1の繰り返し周波数(f
1)を前記共振光空洞内の往復距離に対して制御するようにされたサーボ制御システム(13)とを含む
システムにおいて、
前記共振光空洞(10)は、平面構成で配置された2つの球面鏡(M3、M4)および2つの平面鏡(M1、M2)を含み、前記共振光空洞(10)は、レーザパルスのバーストをX形状折り返しループに従って伝播するようになっており、前記2つの球面鏡(M3、M4)は同心構成で配置されており、相互作用領域(25)が前記2つの球面鏡(M3、M4)の間の光軸上に位置しており、前記球面鏡(M3、M4)の各々は、支持体(23、24)に取り付けられており、支持体(23、24)の各々は、開口(26、27)を含み、この開口(26、27)は、注入された荷電粒子ビーム(40)が該開口を通過し、この荷電粒子ビーム(40)が前記相互作用領域(25)内のレーザパルス群の前記バーストの伝搬の方向に対し5度以下の入射角の元に、超短レーザパルスに同期して前記相互作用領域(25)内で伝播するようになっているシステム。
【請求項2】
前記レーザ源は1GHz以上の第1の繰り返し周波数(f
1)で発射する発振器(1)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記レーザ源(80)は主光空洞を含む再生増幅器を含み、前記サーボ制御システム(13)は前記第1の繰り返し周波数(f
1)を制御するように前記主光空洞の長さを調節するようにされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記レーザ源(80)は4MHz以下の第2の繰り返し周波数(f
2)を有するN個の超短レーザパルスのバーストを選択するようにされたパルスピッカー(3)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記共振光空洞(10)はN個の超短レーザパルスの前記バーストを受信するようにされた少なくとも1つの開口(9)を含む真空槽(8)内に配置され、前記少なくとも1つの開口(9)は荷電粒子ビーム(40)を受信するようにされ、前記共振光空洞(10)は、前記荷電粒子ビーム(40)が前記相互作用領域(25)内のレーザパルス群の前記バーストの伝搬の方向に対し5度以下の入射角の元に前記相互作用領域(25)内で伝播するように配置される、請求項1~
4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のシステムを含むラマン分光装置であって、前記相互作用領域(25)は分析対象試料を収容するように意図されており、前記ラマン分光装置は前記相互作用領域(25)の前記試料上に前記超短ジャイアントパルスを散乱することにより形成されるラマン散乱光学ビームを測定するように配置されたラマン分光計を含む、ラマン分光装置。
【請求項7】
空間的に局所化された高強度レーザビームを生成する方法であって、
-0.5ギガヘルツ以上の第1の繰り返し周波数(f
1)において1ピコ秒以下の継続時間を有するレーザパルスを生成する工程と;
-前記第1の繰り返し周波数(f
1)においてN個のレーザパルスのバーストを選択する工程であって、Nは1以上自然数である、工程と;
-N個のレーザパルスの前記バーストを共振光空洞(10)内に注入する工程であって、前記共振光空洞はc/f
1に等しい往復距離を有し、cは共振光空洞内の光速であり、前記共振光空洞(10)は、N個のレーザパルスの前記バーストを前記共振光空洞(10)の相互作用領域(25)へ集束させるようにされる、工程において、
前記共振光空洞(10)が、平面構成で配置された2つの球面鏡(M3、M4)および2つの平面鏡(M1、M2)を含み、前記共振光空洞(10)は、レーザパルスのバーストをX形状折り返しループに従って伝播するようになっており、前記2つの球面鏡(M3、M4)は同心構成で配置されており、相互作用領域(25)が前記2つの球面鏡(M3、M4)の間の光軸上に位置しており、前記球面鏡(M3、M4)の各々は、支持体(23、24)に取り付けられており、支持体(23、24)の各々は、開口(26、27)を含む、工程と、
-前記N個のパルスの前記バーストが極短且つ高エネルギージャイアントパルスを形成するために前記相互作用領域(25)内の積極的干渉により時間的及び空間的に互いに重畳されるように、前記共振光空洞(10)の往復距離に対して前記第1の繰り返し周波数(f
1)を制御する工程と、
-
注入された荷電粒子ビーム(40)を、この荷電粒子ビーム(40)が前記相互作用領域(25)内のレーザパルス群の前記バーストの伝搬の方向に対し5度以下の入射角の元に、超短レーザパルスに同期して前記相互作用領域(25)内で伝播するように、前記開口を通過させる工程と、を含む方法。
【請求項8】
前記共振光空洞(10)の前記相互作用領域(25)内に置かれた試料と請求項
7に記載の方法に従って生成された前記超短ジャイアントパルスとの相互作用により非弾性散乱を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にはレーザの分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は空中の一点に局所化された極高強度レーザビームを生成するレーザシステムに関する。
【0003】
本発明はまた、荷電粒子ビーム又は分析対象試料と非弾性散乱することにより、局所化された点において相互作用するように意図された極高強度レーザシステムに関する。
【0004】
本発明は特に、レーザビームと荷電粒子ビームとの間の相互作用により生成される逆コンプトン散乱の測定のための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0005】
粒子加速器は基礎物理において特に使用される巨大な科学機器である。科学機器又は医療装置の分野においてこれらの粒子ビームの新しいアプリケーションを開発することが探索されている。これらのアプリケーションは、例えば医療又は美術史環境における使用のための強力且つ小型X線源の開発を必要とする。
【0006】
特に、電子のパケットとレーザビームとの間のコンプトン相互作用に基づき逆コンプトン散乱放射線を生成することが探索されている。次に、非弾性散乱により生成される放射線の強度は相互作用時の光子数及び電子数の両方に依存する。さらに、逆コンプトン散乱放射線の強度は等方的に分散されない。実際、逆コンプトン散乱放射線の強度は、電子ビームとレーザビームとの間の角度及び/又は入射レーザビームと散乱ビームとの間の角度に大きく依存する。したがって、検出された逆コンプトン散乱放射線の強度を最大化することが探索されている。
【0007】
線形型又はリング型の様々なタイプの加速器が低エネルギー電子(50MeV程度の)のパケットを生成するために企図される。貯蔵リングは、その小型性、低コスト及び使いやすさに起因する有利な構成を有する。小型性及び低エネルギーは粒子加速器の選択においてだけでなく粒子ビームとレーザビームとの間の結合構成においても難題を課す。
【0008】
同じ200mJレーザパルスを32回循環させるように2つの放物面鏡と31対の螺旋状に配置された鏡とを含む光学的再循環器を使用するELI-NP-GS源が知られている。したがって、この同じ200mJレーザパルスは、100ヘルツ(Hz)の速度で生成される電子の32個のパケットと同じ焦点において逐次的に相互作用する。しかし、このタイプの光学的再循環器は嵩張る。さらに、真空槽内の64個の鏡の設定は特に複雑である。
【0009】
定常状態レーザビームを増幅するためにレーザビームをFabry-Perot空洞へ結合するシステムもまた存在する。
【0010】
一般的に、所定点で局所化される高強度レーザシステムを有することが望ましい。
【0011】
より具体的には、荷電粒子ビームと高強度レーザビームとの間の相互作用のためのシステムであって、実現するのが容易であり且つこの相互作用により生成される逆コンプトン効果により非弾性散乱ビームの強度を増加することを可能にするシステムを開発することが探索されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
最先端技術の上述の欠点を改善するために、本発明は空間的に局所化された高強度レーザビームを生成するためのシステムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
より具体的には、本発明によると、N個のレーザパルスのバーストを生成するようにされたレーザ源であって、Nは1より高い自然数であり、N個のレーザパルスは第1の繰り返し周波数(f1)を有し、レーザパルスは1ピコ秒以下の継続時間を有する超短レーザパルスであり、第1の繰り返し周波数(f1)は0.5ギガヘルツ以上である、レーザ源と;N個のレーザパルスの前記バーストを受信及び蓄積するようにされるとともにN個のレーザパルスのバーストを共振光空洞の相互作用領域へ集束させるようにされた共振光空洞であって、共振光空洞内の往復距離はc/f1に等しく、cは光速である、共振光空洞と;N個のパルスのバーストが、超短且つ高エネルギージャイアントパルスを形成するために相互作用領域内の積極的干渉により時間的及び空間的に互いに重畳されるように、第1の繰り返し周波数(f1)を共振光空洞内の往復距離に対して制御するようにされたサーボ制御システムと、を含むシステムが提案される。
【0014】
このシステムは所定相互作用領域を生成することを可能にし、レーザビームは極高強度を有し、このレーザパルスは超短継続時間のものであり、共振光空洞により約係数Nだけ乗算された出力を有する。
【0015】
好適には、Nは10~1000に含まれる(より好適には100~300に含まれる)自然数である。
【0016】
特定実施形態では、レーザ源は第1の繰り返し周波数(f1)で発射する発振器を含む。
【0017】
別の特定の実施形態では、レーザ源は再生増幅器(好適には光ファイバタイプの)を含み、光増幅器は主光空洞を含み、サーボ制御システムは第1の繰り返し周波数(f1)を制御するように主光空洞の長さを調節するようにされる。
【0018】
好適には、第1の繰り返し周波数(f1)は1GHz以上である。
【0019】
有利には、レーザ源は、4MHz以下の第2の繰り返し周波数(f2)を有するN個の超短レーザパルスのバーストを選択するようにされたパルスピッカーを含む。
【0020】
好適には、共振光空洞は平面構成で配置された鏡を含む。
【0021】
特定及び有利な実施形態によると、共振光空洞は2つの球面鏡と2つの平面鏡とを含み、2つの球面鏡及び2つの平面鏡は平面構成で配置される。
【0022】
一変形態様によると、共振光空洞は2つの球面鏡と1つだけの平面鏡とを含む。
【0023】
有利には、共振光空洞は曲率半径R/2の第1の凹球面鏡(M3)及び曲率半径R/2の第2の凹球面鏡(M4)を含み、第1の凹球面鏡(M3)及び第2の凹球面鏡(M4)は同心構成で配置され、第1の凹球面鏡(M3)と第2の凹球面鏡(M4)との間の距離はRに等しい。
【0024】
特定態様によると、サーボ制御システムは、共振光空洞内のN個のパルスのバーストの積極的干渉を表す信号を検出するようにされた検出器を含む。
【0025】
一実施形態によると、共振光空洞は、N個の超短レーザパルスのバーストを受信するようにされた少なくとも1つの開口を含む真空槽内に配置され、前記少なくとも1つの開口は荷電粒子ビームを受信するようにされ、共振光空洞は、荷電粒子ビームが相互作用領域内のレーザパルス群のバーストの伝搬の方向に対し5度以下の入射角の元で相互作用領域内で伝播するように配置される。
【0026】
特に有利には、共振光空洞は2~3dm3未満(好適には1dm3未満)の容積を有する。
【0027】
本発明はまた、空間的に局所化された高強度レーザビームを生成するためのシステムを含むラマン分光装置を提案する。ここでは、相互作用領域は分析対象試料を収容するように意図されており、ラマン分光装置は、相互作用領域の試料上に前記超短ジャイアントパルスを散乱することにより形成されるラマン散乱光学ビームを測定するように配置されたラマン分光計を含む。
【0028】
本発明はまた、空間的に局所化された高強度レーザビームを生成する方法を提案する。本方法は、
-0.5ギガヘルツ以上の第1の繰り返し周波数(f1)において1ピコ秒以下の継続時間を有するレーザパルスを生成する工程と;
-第1の繰り返し周波数(f1)においてN個のレーザパルスのバーストを選択する工程であって、Nは1以上自然数である、工程と;
-N個のレーザパルスのバーストを共振光空洞内に注入する工程であって、共振光空洞はc/f1に等しい往復距離を有し、cは共振光空洞内の光速であり、共振光空洞はN個のレーザパルスのバーストを共振光空洞の相互作用領域へ集束させるようにされる、工程と;
-N個のパルスのバーストが極短且つ高エネルギージャイアントパルスを形成するために相互作用領域内の積極的干渉により時間的及び空間的に互いに重畳されるように、共振光空洞の往復距離に対して第1の繰り返し周波数(f1)を制御する工程と、を含む。
【0029】
本発明は、超短ジャイアントパルスと同期して共振光空洞の相互作用領域内で伝播する荷電粒子ビームと請求された方法に従って生成された超短ジャイアントパルスとの相互作用により非弾性散乱を測定する方法も提案する。
【0030】
最後に、本発明は共振光空洞の相互作用領域内に置かれた試料と請求された方法に従って生成された超短ジャイアントパルスとの相互作用により非弾性散乱を測定する方法を提案する。
【0031】
非限定的例により与えられる添付図面に関連する以下の説明は本発明が何から構成されるか及び本発明がどのように実施され得るかの良い理解を与えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明による超短ジャイアントレーザパルス生成システムを概略的に示す。
【
図2】一実施形態による共振光空洞を含む真空槽の斜視図を概略的に示す。
【
図3】
図2の共振光空洞の鏡フレームの配置の斜視図を概略的に示す。
【
図4】そのマイクロメートル精度調節器を有する鏡フレームの例を示す。
【
図5】同一面構成で配置された4つの鏡を有する共振光空洞を形成する鏡フレームの配置の例示的実施形態を概略的に示す。
【
図6】逆コンプトン散乱ビームを形成するために4鏡型共振光空洞の一点に集束された超短且つ高エネルギージャイアントレーザパルスと荷電粒子ビームとの結合を斜視図で概略的に示す。
【
図7】逆コンプトン散乱ビームを形成するための4鏡型共振光空洞内の高エネルギーパルスレーザー光と荷電粒子ビームとの間の相互作用の別の図を概略的に示す。
【
図9】本発明の一変形態様による超短ジャイアントレーザパルス生成システムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
装置及び方法
図1には、超短ジャイアントレーザパルス生成システムが示される。
【0034】
本文書では、「超短パルス」により意味するのは、20fs~約10psに概して含まれる継続時間と0.1~50nmのスペクトル幅とを有する光パルスである。
【0035】
図1のシステムは、共振光空洞10及びフィードバックループ制御システムと組み合わせられた超短且つ高エネルギーレーザパルス群のバーストを生成するようにされたレーザ源80を含む。
【0036】
一実施形態では、レーザ源80は、パルス型発振器1、ビームスプリッタ2、パルスピッカー3、光増幅システム4、ビーム結合器5、反射鏡6、7を含む。発振器1は同調可能レーザ空洞に基づく。発振器1は、f1で表される第1の繰り返し周波数において源パルス100を生成するようにされる。有利には、第1の繰り返し周波数は500MHz以上であり、好適には1GHz以上、又はさらには数ギガヘルツである。第1の繰り返し周波数f1に応じて、源パルス100は0.3ns~2nsに含まれる時間間隔だけ互いに分離される。
【0037】
ビームスプリッタ2及びビーム結合器5は例えば偏光スプリッタキューブタイプのものである。この場合、源パルス100は発振器1の出口において例えば線型に偏向される。ビームスプリッタ2は源パルスをパルスビーム110と他のパルスビーム120とへ空間的に分割するように配置され方向付けされる。パルスビーム110は鏡6、7上で反射され、第1の繰り返し周波数f1の低出力パルスビーム110を形成する。
【0038】
パルスピッカー3は例えば電子光学変調器に基づく。パルスピッカー3は、発振器1から来る他のパルスビーム120を受信し、N個のパルスのバーストを選択する、ここで、Nは1より高い自然数であり、好適には25~10000に含まれる自然数であり、さらに好適には100~300に含まれる自然数である。有利には、パルスピッカー3は4MHz以下の第2の繰り返し周波数(f2で表される)で動作する。代替案として、パルスピッカー3はまた、単一パルスバーストを選択することにより動作し得る。N個のパルスの同じバースト内で、パルスは第1の繰り返し周波数f1により決定される時間間隔だけ離間される。
【0039】
光増幅システム4は1つの光増幅器又はいくつかの直列に配置された光増幅器を含む。光増幅システム4は光ファイバ、ディスク、及び/又は固体増幅器に基づき得る。光増幅システム4は、N個の高出力光パルスのバーストを形成するためにN個のパルスのバーストを受信しそれを増幅する。したがって、光増幅システム4はN個のパルスのバーストで構成された高出力パルスビーム120を供給し、このバーストは一般的には第2の繰り返し周波数f2で発射される。
【0040】
一変形態様によると、高周波パルス発振器及び1つ又はいくつかの線形光増幅器の代わりに、レーザ源80は再生増幅器(好適には光ファイバタイプの)を含む。好適には、この場合、再生増幅器は、再生光空洞と、源パルスを繰り返し周期T1で前記再生光空洞内に注入する手段と、前記再生光空洞から前記レーザパルスを抽出する手段とを含む。この場合、再生光空洞は、前記再生光空洞内の各パルスの往復の継続時間が周期T1のN-1~N倍に含まれるような全体長を呈示する。ここで、Nは2以上の整数であり、前記注入手段は前記再生光空洞内のN個のレーザパルスのバーストをトラップするようにされ、前記抽出手段は前記再生光空洞の前記N個のレーザパルスのバーストを抽出するようにされ、前記光増幅器手段は増幅されたレーザパルス群のバーストを形成するようにされる。有利には、注入手段及び抽出手段は、パルス群のバーストの注入とパルス群の前記バーストの抽出との間を十分に遮断するように構成されたポッケルス(Pockels)セルを含む。好適には、パルス群のバーストのうちの1パルスが増幅器手段を複数回通過するように再生光空洞はマルチパス空洞であり増幅器手段は前記マルチパス再生光空洞内に配置される。有利には、再生光空洞は複数の鏡を有する光学系を含むマルチパス空洞であり、前記複数の鏡は、それぞれの鏡上の入射ビームが前記マルチパス空洞内の通過毎に空間的にオフセットされるように配置され、増幅器手段は再生光空洞の内部に配置される。
【0041】
したがって、N個の超短且つ高出力レーザパルスのバーストを生成するレーザ源が利用可能であり、同じバーストのパルスは0.5ギガヘルツ(GHz)以上(好適には1GHz以上)の第1の繰り返し周波数f1におけるものである。
【0042】
以下、次の用語が等価として使用される:パルス群のバースト、一連のパルス、一系列のパルス、又はマクロパルス(マルチバンチ:multi-bunch)。
【0043】
ビーム結合器5は、第1の繰り返し周波数f1における低出力パルスビーム110とN個のパルスのバーストで構成された高出力パルスビーム120とを光パルスビーム150へ空間的に再結合するように配置され方向付けされる。
【0044】
この光パルスビーム150は共振光空洞を含む真空槽8内に開口9を介し注入される。
【0045】
図2~
図7は本発明の第1の実施形態による4鏡型共振光空洞を詳細に示す。
【0046】
共振光空洞10は2つの平面鏡M1、M2及び2つの球面鏡M3、M4を含む。鏡M1、M2、M3、M4は長四辺形の端に平面構成で配置される。鏡M3、M4は同心構成で配置され、好適には同じ曲率半径(R/2)を有し、鏡M3とM4との間の距離はRに等しい。パルスビーム150は、平面鏡M1を介し共振光空洞内に注入され、平面鏡M2方向へ行き、平面鏡M2はこのビームを球面鏡M3方向へ反射する。鏡M3は、パルスビーム150を鏡M4方向へ反射し、このビームを鏡M3と鏡M4との間の光軸上に位置する相互作用領域25へ集束させる。鏡M4は、パルスビーム150を鏡M1方向へ反射し、これにより閉ループ光路を形成する。したがって、共振光空洞10はパルスビーム150をX形状折り返しループに従って伝播することを可能にする(
図7、
図8を参照)。共振光空洞内の往復の全長は、同じバーストのN個のパルスが共振光空洞内にジャイアントパルスを形成するために積極的干渉により互いにコヒーレントに重畳されるように調節される。さらに、共振光空洞10はジャイアントパルスを相互作用領域25(例えば鏡M3とM4との間に位置する焦点面20)へ集束させる。ジャイアントパルスはGHz速度で空洞内でN回循環する。共振光空洞10はパルスバーストの速度で(すなわち第2の繰り返し周波数f
2で)充填されそして空にされる。
【0047】
ジャイアントパルスはレーザ源のレーザパルスと同じ継続時間を有する。
【0048】
約200fsの継続時間及び20~30mJ程度の源パルス当たりエネルギーを有するN≒2000個のパルスのバーストに関し、1015W/cm2程度の強度を有するパルスが相互作用領域25内で得られる。レーザビームの腰部における横断サイズは30マイクロメートルの程度のものである。したがって、バーストのパルスのエネルギーは相互作用点において蓄積される。さらに、ジャイアントパルスは同じ相互作用領域25内において第2の繰り返し周波数で繰り返され得る。したがって、ジャイアントレーザパルスと数回相互作用することが可能である。
【0049】
共振光空洞10内の往復中の光路の長さは第1の繰り返し周波数f1に応じて定められる。より正確には、この往復長さはc/f1に等しい、ここでcは共振光空洞内の光の速度である。例えば、約1GHzの第1の繰り返し周波数f1に関し、共振光空洞内の約30cmの往復長さが選択される。共振光空洞の物理的長さLはこの場合約15cm程度であり、鏡M3、M4は約8cmの曲率半径を有する。共振光空洞の物理的長さLは、本明細書では、同じ往復長さを有する2鏡型共振光空洞より4倍短い。別の例では、3GHzの第1の繰り返し周波数f1で動作する発振器に関し、共振光空洞内の約10cmの往復長さが選択され、鏡M3、M4は2.5cm程度の曲率半径を有する。鏡M1、M2、M3、M4の径は1mm~数センチメートルの間に含まれ、例えば6mm(すなわち1/4インチ)程度である。しかし、この構成は、この共振光空洞の効率を維持する制約と共に共振光空洞の光学的位置合わせの技術的困難性を呈示する。この構成は、所望干渉調節を得るために微細且つ極高精度光機械的調節を必要とする。したがって、極小型共振光空洞が得られる。共振光空洞は折り返されており、これにより相互作用領域周囲の共振光空洞の嵩を低減することを可能にする。共振光空洞は携帯型である。この小型性は共振光空洞を低容積真空槽内に置くことを可能にし、このシステムの実装を著しく簡単にする。真空槽及び共振光空洞の小型性は周囲振動に対するより良い絶縁とシステム全体の経費削減とを可能にする。さらに、共振光空洞の小さな嵩はまた、真空槽内に置かれたとしても、その環境が様々な科学機器で一般的には非常に散らかっているこのシステムを荷電粒子ビーム線内へより容易に挿入することを可能にする。この構成は、定められた相互作用領域内の極高強度レーザパルスと荷電粒子ビームとの間の相互作用をより容易に行うことを可能にする。
【0050】
図3は、同じプラットホーム28上への鏡M1、M2、M3、M4の支持体の実装を示す。より正確には、鏡M1は支持体21上に、鏡M2は支持体22上に、鏡M3は支持体23上に、鏡M4は支持体24上にそれぞれ取り付けられる。支持体21は並進板41上に配置される。同様に、支持体22、23、24は並進板42、43、44上にそれぞれ配置される。
【0051】
図4はマイクロメータ調節器31を備える支持体21上の鏡M1の実装をさらに詳細に示す。
【0052】
より正確には、パルスモードで動作するレーザ発振器1は、積極的な干渉によりバーストのレーザパルスのエネルギーを蓄積するために共振光空洞10上で周波数で制御される。
【0053】
再生増幅器がパルス群のバーストを生成するために使用される変形形態では、第1の繰り返し周波数を決定する再生光空洞の長さは、積極的な干渉によりバーストのレーザパルスのエネルギーを蓄積するために共振光空洞10上で制御される。
【0054】
鏡M1は、共振光空洞10内にパルス群のバーストと同時に注入される低出力パルスビームの一部分200を通過させるように構成される。検出器12は共振光空洞から抽出される低出力パルスビームの一部分200を検出する。低出力パルスビームの一部分200もまた第1の繰り返し周波数f1のものである。
【0055】
サーボ制御システム13は、一部分200から誤差信号を導出し、レーザ発振器1の空洞又は再生増幅器の再生光空洞をそれぞれ制御するようにこの誤差信号を使用する。したがって、第1の繰り返し周波数f1は、共振光空洞の相互作用領域25内のジャイアントパルスのエネルギー及び/又は出力を最大化するように共振光空洞の長さに応じて制御される。この制御ループは1MHz程度の周波数で動作する。したがって、レーザ源の周波数は共振光空洞10の長さの緩やかなドリフトに応じて制御される。
【0056】
図5は4鏡型共振光空洞の光機械的取り付けを示す。特に有利には、共振光空洞10は球面鏡M3の下のフレーム23上に第1の開口26を含む。同様に、共振光空洞10は鏡M4の上のフレーム24上に第2の開口27を含む。
【0057】
共振光空洞は粒子加速器上に実装され得る。
【0058】
図6と
図7に示す電子ビームとレーザビームとの間の相互作用へのアプリケーションでは、電子ビーム40は共振光空洞10内に注入される。より正確には、電子ビーム40は第1の開口26及び/又は第2の開口27を通過し共振光空洞10の焦点領域へ向かうように方向付けられる。したがって、電子ビーム40は共振光空洞10の相互作用領域25内に形成されるジャイアントパルスと相互作用し得る。この相互作用は、検出され得る逆コンプトン散乱ビーム50を生成する。
【0059】
球面鏡M3、M4の径は荷電粒子ビーム40とレーザビーム160との最小交角を決定する。
【0060】
鏡同士間の距離は並進板41、42、43及び/又は44により荷電粒子のパケット同士間の距離に応じて調節され得る。ジャイアントレーザパルスと荷電粒子ビームとの重なりは、交角ALPHAが低く、レーザビームの横断サイズが荷電粒子ビームの横断サイズに対して小さければなお良い。3又は4度以下である交角ALPHAは約30cmの往復長さを有する空洞に関して得られる。
【0061】
このシステムは、荷電粒子のパケットが1nsの程度すなわちギガヘルツ程度の周波数のパケット間周期で発射される場合に特に有利である。実際、発振器の第1の繰り返し周波数f1は、第2のサーボ制御システムを介し荷電粒子のパケットの生成の周波数に対し同期され得る。
【0062】
図8は3鏡型変形形態による共振光空洞を示す。この変形形態では、共振光空洞10は注入のための平面鏡M1と2つの球面鏡M3、M4とを含む。3つの鏡M1、M3、M4は平面構成で配置される。有利には、2つの球面鏡M3、M4は同心構成で配置される。例えば、球面鏡M3、M4は同じ曲率半径R/2を有し、鏡M3とM4との間の距離はRに等しい。したがって、ジャイアントレーザパルスが集束される相互作用領域は鏡M3と鏡M4との間の距離の1/2に位置する。3鏡型共振光空洞の物理的長さLは、本明細書では、同じ往復長さを有する2鏡型共振光空洞より3倍短い。
【0063】
図9は、鏡M2、M4から来る他の漏洩信号を検出するように配置された他の検出器14、15、16をさらに含む超短且つ高エネルギージャイアントレーザパルス生成システムの変形形態を示す。
【0064】
別のアプリケーションでは、共振光空洞上で制御されるレーザ源は、レーザビームと試料との間の相互作用を生成し非弾性散乱(例えばラマン散乱タイプの)を測定するために使用され得る。
【0065】
この目的のために、分析対象試料は上に説明したように、システムの共振光空洞の相互作用領域25内に置かれ、ジャイアントレーザパルスの散乱により形成される光ビームは試料上に集められる。フィルタは、弾性散乱(又はレイリー散乱)成分を表す光ビーム内へ散乱された光ビームと非弾性散乱(例えばラマン散乱)成分を表す光ビームとを分離する。分光計は非弾性散乱光ビームをスペクトル的に分析する。このシステムは、試料に入射するジャイアントレーザパルスの極高強度のおかげで非弾性散乱光ビームの強度を増加することを可能にする。