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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20230302BHJP
   F21V 7/00 20060101ALI20230302BHJP
   F21V 14/04 20060101ALI20230302BHJP
   F21V 9/40 20180101ALI20230302BHJP
   B60Q 1/24 20060101ALI20230302BHJP
   F21Y 105/10 20160101ALN20230302BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230302BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20230302BHJP
   F21W 102/20 20180101ALN20230302BHJP
   F21W 102/14 20180101ALN20230302BHJP
【FI】
B60Q1/14 Z
F21V7/00 590
F21V14/04
F21V9/40 400
B60Q1/24 B
F21Y105:10
F21Y115:10
F21Y115:30
F21W102:20
F21W102:14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020548596
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2019036762
(87)【国際公開番号】W WO2020059799
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018175161
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】入場 健仁
【審査官】八木 敬太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016780(JP,A)
【文献】特開2019-077301(JP,A)
【文献】特開2010-184625(JP,A)
【文献】特開2002-289008(JP,A)
【文献】特開2013-235742(JP,A)
【文献】特開2018-058412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00-1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
前記照射対象物にもとづく制御は、降雪時および/または降雨時において自動的に有効化されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間やトンネル内での安全な走行に車両用灯具が重要な役割を果たす。運転者による視認性を優先させて、車両前方を広範囲に明るく照射すると、自車前方に存在する前走車や対向車(以下、前方車という)の運転者や歩行者にグレアを与えてしまうという問題がある。
【0003】
近年、車両の周囲の状態にもとづいて、配光パターンを動的、適応的に制御するADB(Adaptive Driving Beam)技術が提案されている。ADB技術は、前方車や歩行者の有無を検出し、前方車あるいは歩行者に対応する領域を減光あるいは消灯するなどして、前方車の運転者や歩行者に与えるグレアを低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-064964号公報
【文献】特開2012-227102号公報
【文献】特開2008-094127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
降雪時(あるいは降雨時)にヘッドランプを点灯すると、雪粒にビームが反射して運転者にグレアを与え、かえって前方が見にくくなると言う問題がある。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、降雪時における車両前方の視認性の改善にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は車両用灯具に関する。車両用灯具は、強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプと、配光可変ランプを制御する配光コントローラと、を備える。配光コントローラは、所定領域のうち、照射対象物が存在しない範囲へのビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、配光可変ランプを制御する。
【0008】
降雪時や降雨時に、ビームを照射すると、雪や雨で反射し、運転者にグレアを与える。そこで、空のように照射対象物が存在しない範囲については、ビームの照射範囲から除外することにより、グレアを抑制することができる。
【0009】
車両用灯具は、自車前方の物体を検出する測距センサをさらに備えてもよい。測距センサを用いることにより、ビームが照射されない状況においても、照射対象物を検出できる。
【0010】
配光コントローラは、測距センサが検出した物体のうち、グレアを与えるべきでない特定物標を除外した物体を、照射対象物としてもよい。特定物標は、対向車や前走車を含みうる。
【0011】
配光コントローラは、ビームの照射範囲の上端を、照射対象物の位置に応じて変化させてもよい。
【0012】
照射対象物の有無にもとづく制御は、降雪時および/または降雨時において有効化されてもよい。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、降雪時あるいは降雨時における車両前方の視認性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係る車両用灯具のブロック図である。
図2図2(a)、(b)は、基本的な配光制御を説明する図である。
図3】降雪時の雪粒(あるいは雨粒)によるグレアを説明する図である。
図4】自車前方に照射対象物が存在しない状況を示す図である。
図5】自車前方に照射対象物が存在する状況を示す図である。
図6図6(a)~(c)は、第2の効果を説明する図である。
図7図7(a)~(c)は、ビームの照射範囲の上端の制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0017】
また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0018】
図1は、実施の形態に係る車両用灯具100のブロック図である。車両用灯具100は、配光可変ランプ110、カメラ120、測距センサ130、配光コントローラ140を備える。これらはすべて同じ筐体に内蔵されていてもよいし、いくつかの部材は、筐体の外部、言い換えれば車両側に設けられてもよい。
【0019】
配光可変ランプ110は、白色光源であり、配光コントローラ140から配光パターンPTNを指示するデータを受け、配光パターンPTNに応じた強度分布を有するビームBMを車両前方の所定領域に照射し、配光パターンPTNに応じた照度分布を形成する。配光可変ランプ110の構成は特に限定されず、たとえば、LD(レーザダイオード)やLED(発光ダイオード)などの半導体光源と、半導体光源を駆動して点灯させる点灯回路と、を含みうる。配光可変ランプ110は、配光パターンPTNに応じた照度分布の形成のために、発光素子のアレイであってもよい。あるいはDMD(Digital Mirror Device)や液晶デバイスなどのマトリクス型のパターン形成デバイスを含んでもよい。
【0020】
カメラ120は、車両前方を撮像する。配光コントローラ140は、カメラ120が撮影した画像(以下、カメラ画像IMGという)にもとづいて、配光可変ランプ110に供給する配光パターンPTNを動的、適応的に制御する。配光パターンPTNは、配光可変ランプ110が自車前方の仮想鉛直スクリーン900上に形成する白色光の照射パターン902の2次元の照度分布と把握される。配光コントローラ140はデジタルプロセッサで構成することができ、たとえばCPUを含むマイコンとソフトウェアプログラムの組み合わせで構成してもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specified IC)などで構成してもよい。
【0021】
たとえば配光コントローラ140は、カメラ画像IMGを処理することにより、グレアを与えるべきでない所定の物標(特定物標という)を検出する。こうした物標としては、前走車や対向車が例示されるが、その限りでない。そして配光コントローラ140は、特定物標の部分が遮光された配光パターンPTNを生成し、配光可変ランプ110に与える。
【0022】
図2(a)、(b)は、基本的な配光制御を説明する図である。図2(a)は、前走車や対向車が存在しない状況を示す。従来のハイビームの照射範囲全体が、ビームBMの照射パターン902(以下、特に基準パターン903という)となる。
【0023】
図2(b)は、対向車3が存在する状況を示す。配光コントローラ140は、カメラ画像にもとづいて、特定物標である対向車3を検出する。配光コントローラ140は、基準パターン903のうち、対向車3に対応する部分(ハッチング)910が遮光された照射パターン902Aが得られるように、配光パターンPTNを生成する。対向車3の位置は時々刻々と変化するから遮光範囲910の位置も、対向車3に追従して移動する。
【0024】
なおこの例では、対向車3の全体を遮光しているが、その限りでなく、遮光部分の大きさは、配光可変ランプ110の分解能に応じて定めればよい。たとえば、分解能が十分に高い場合、フロントウィンドウ(前走車の場合、リアウィンドウ)の部分のみを遮光してもよい。
【0025】
図3は、降雪時の雪粒(あるいは雨粒)によるグレアを説明する図である。図3には、自車2および前走車4が示される。ビームBMは、特定物標である前走車4の部分が遮光されており、その他の部分に照射される。前走車4より上側の範囲において、雪粒5がビームBMが反射し、あるいはビームBMを散乱させる。これにより自車2の運転者6にグレアを与える。
【0026】
雪粒5を検出して、雪粒に対応する部分を遮光することにより、雪粒によるグレアを抑制することは可能であるが、配光可変ランプ110の解像度を高める必要があり、演算量が膨大となることから、演算処理用のハードウェア(プロセッサ)のコストも高くなる。本実施の形態では、雪粒によるグレアを低減する別のアプローチが提供される。
【0027】
図1に戻る。配光コントローラ140は、配光可変ランプ110がビームを照射可能である所定領域のうち、照射対象物10が存在しない範囲へのビームBMの照射量を低減し、またはゼロとするように、配光可変ランプ110を制御する。本実施の形態では、配光コントローラ140は、照射対象物10が存在しない範囲に、ビームBMが照射されないように、配光可変ランプ110を制御する。
【0028】
照射対象物10の検出のために、車両用灯具100には、測距センサ130が設けられる。測距センサ130は車両前方の物体を検出する。測距センサ130は、LiDAR(Light Detection and Ranging)やToFセンサ、ステレオカメラなどが例示されるがその限りでない。
【0029】
配光コントローラ140は、測距センサ130が検出した物体のうち、グレアを与えるべきでない特定物標を除外した物体を、照射対象物10とする。照射対象物10が存在しない範囲は、典型的には空のみが含まれる範囲でありうる。以上が車両用灯具100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0030】
図4は、自車前方に照射対象物が存在しない状況を示す図である。この場合、測距センサ130によって路面(地面)11のみが検出され、それ以外の部分は、何もない空間12として判定される。配光コントローラ140は、基準パターン903のうち、何もない空間12に対応する範囲(ハッチングを付す)が遮光された(もしくは減光された)照射パターン902Bが得られるように、配光パターンPTNを生成する。照射パターン902Bは、ロービームの照射パターンと一致していてもよい。
【0031】
図5は、自車前方に照射対象物が存在する状況を示す図である。この例では、歩行者7、看板8、対向車3が、自車前方に存在し、測距センサ130によってこれらが検出される。対向車3(および前走車)については、グレアを与えるべきでない特定物標9であることから、配光コントローラ140は、対向車3を照射対象物10から除外し、歩行者7、看板およびそれを支えるポール(看板8と総称する)を照射対象物10として扱う。
【0032】
配光コントローラ140は、基準パターン903のうち、何もない空間12に対応する範囲(ハッチングを付す)が遮光され、歩行者7や看板8などの照射対象物10が存在する部分にビームが照射される照射パターン902Cが得られるように、配光パターンPTNを生成する。
【0033】
以上が車両用灯具100の動作である。この車両用灯具100によれば、降雪時において、照射対象物10が存在する部分のみにビームを照射することで、グレアを抑制できる(第1の効果)。
【0034】
またこの制御により、以下の第2の効果を得ることができる。図6(a)~(c)は、第2の効果を説明する図である。図6(a)のように、降雪時に、自車前方に何も存在しない状況を走行しているとする。この場合、図4の照射パターン902Bが生成される。続いて図6(b)に示すように、前方に対向車3が現れる。この対向車3は、測距センサ130によって検出される。ただし、対向車3までの距離は遠いため、カメラ120の画像IMGでは、対向車3(特定物標)であることを判定できず、したがって対向車3は、照射対象物10として扱われる。そのため、対向車3の領域に、スポット的にビームが照射される。図6(c)に示すように、対向車3がさらに近づくと、特定物標9と判定され、その部分がマスクされ、対向車3に与えるグレアが低減される。
【0035】
この制御により、図6(b)に示すように、遠方に対向車3が現れたときに、その部分だけ自車のビームBMがスポット的に明るくなる。降雪時には、このビームBMが対向車に届くとは限らないが、スポット的なビームBMが、雪に反射あるいは散乱することで、その部分が白く光ることとなる。運転者は、このスポット光SLを認識すると、遠方に対向車などが存在することを認識できる(第2の効果)。
【0036】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0037】
(第1変形例)
実施の形態では、図4図5の例では、基準パターン903から、照射対象物10が存在しない領域をマスクすることで、照射パターンを生成したがその限りでない。図4の照射パターン902Bをベースとして、照射対象物10が存在する範囲を加算することにより、照射パターンを生成してもよい。
【0038】
(第2変形例)
配光コントローラ140は、ビームBMの照射範囲の上端を、照射対象物10の位置に応じて変化させてもよい。図7(a)~(c)は、ビームの照射範囲の上端の制御を説明する図である。配光コントローラ140は、照射対象物10を検出すると、その位置に応じたカットラインCLを設定し、カットラインCLよりも上側を遮光してもよい。図7(a)では、看板8が、最も上側に位置する照射対象物10として検出される。そして看板8の上側に沿ってカットラインCLが規定され、カットラインCLより下側の範囲にビームが照射される。
【0039】
図7(b)では、歩行者7が、最も上側に位置する照射対象物10として検出される。そして歩行者7の上側に沿ってカットラインCLが規定され、カットラインCLより下側の範囲にビームが照射される。
【0040】
図7(c)では、照射対象物10は検出されない。したがって、許容される最も下側にカットラインCLが規定される。
【0041】
(第3変形例)
実施の形態では、カメラ120の画像IMGにもとづいて特定物標を検出し、配光パターンを制御したがその限りでなく、測距センサ130の出力にもとづいて、特定物標を検出してもよい。
【0042】
(第4変形例)
照射対象物の検出にもとづく照射パターンの制御は、運転者が手動でオン、オフできるようにしてもよい。あるいは、雨滴センサの出力にもとづいて、降雪/降雨時には自動的にオンとなるように車両が制御してもよい。
【0043】
実施の形態では、測距センサ130が検出した物体のうち、グレアを与えるべきでない特定物標を除外した物体を、照射対象物としたがその限りでない。たとえば、照射対象物は、特定の情報をもつ物体(看板、標識、電柱等)や、移動体(歩行者、動物等)としてもよい。
【0044】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、車両用灯具に関する。
【符号の説明】
【0046】
100 車両用灯具
110 配光可変ランプ
120 カメラ
130 測距センサ
140 配光コントローラ
2 自車
3 前走車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7