(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230302BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230302BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230302BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 E
(21)【出願番号】P 2020555063
(86)(22)【出願日】2019-04-08
(86)【国際出願番号】 GB2019051022
(87)【国際公開番号】W WO2019197812
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-02
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514065058
【氏名又は名称】ファラディオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】バーカー,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ヒープ,リチャード
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-521815(JP,A)
【文献】特表2017-508697(JP,A)
【文献】Marlou Keller et al,Layered Na-Ion Cathodes with Outstanding Performance Resulting from the Synergetic Effect of Mixed P- and O-Type Phases,Adv. Energy Mater.,2016年,6,1501555
【文献】Shaohua Guo et al,A Layered P2- and O3-Type Composite as a High-Energy Cathode for Rechargeable Sodium-Ion Batteries,Angew. Chem. Int. Ed.,2015年,54,5894-5899
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相の混合物を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料であって、
第1の相は、1または2以上のO3タイプの構造を有し、第2の相は、1または2以上のP2タイプの構造を有し、
当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、一般式
Na
aA
bM
1
cM
2
dM
3
eM
4
fM
5
gO
2±δ;
を有し、ここで、
Aは、リチウムおよびカリウムの少なくとも一つから選定されるアルカリ金属であり、
M
1は、ニッケル、鉄、マンガン、
コバルト、銅、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選定された、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M
2は、マンガン、チタン、およびジルコニウムから選定された、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M
3は、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、およびコバルトから選定された、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M
4は、マンガン、チタン、およびジルコニウムから選定された、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M
5は、アルミニウム、鉄、コバルト、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウム、およびイットリウムから選定された、平均酸化状態が3+の1または2以上の金属であり、
a>0;
0≦b<0.5;
a>b;
0.75<(a+b)≦1.0;
0≦c<0.5;
d≧0;
f≧0;
dおよびfの少なくとも一つは>0であり;
e>0;
0≦g<0.5;
0≦δ≦0.1であり;
ここで、a、b、c、d、e、fおよびgは、電気的中性を維持するように選択され、
当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料における前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、1から99%の前記第1の相と、99から1%の前記第2の相と、を有し、
当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、
第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量が63%で前記第2の相の量が37%である、一般式Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.100Ti
0.117O
2を有する材料ではなく、
第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量が97%で前記第2の相の量が3%である、一般式Na
0.95Ni
0.3167Mn
0.3167Mg
0.1583Ti
0.2083O
2を有する材料でもない、
O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料。
【請求項2】
以下:
NaNi
0.400Mn
0.490Mg
0.100Ti
0.010O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.95Ni
0.3167Mn
0.3167Mg
0.1583Ti
0.2083O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし97%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし3%を除く、第2の相とを有する);
Na
0.925Ni
0.4525Mn
0.5275Mg
0.01Ti
0.01O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.867 Ni
0.383Mn
0.467Mg
0.05Ti
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし63%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし37%を除く、第2の相とを有する);
Na
0.8Ni
0.35Mn
0.48Mg
0.05Ti
0.12O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.28Mn
0.31Mg
0.05Ti
0.25Fe
0.11O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.225Mn
0.115Mg
0.01Ti
0.35Fe
0.3O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.833Ni
0.317Mn
0.417Mg
0.05Ti
0.117Co
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.867Ni
0.383Mn
0.467Mg
0.05Ti
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.85Ni
0.325Mn
0.525Mg
0.100Ti
0.05O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.85Ni
0.325Mn
0.499Mg
0.100Ti
0.076O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.305Mn
0.51Mg
0.025Ti
0.05Al
0.055Co
0.055O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.305Mn
0.535Mg
0.025Ti
0.025Al
0.055Co
0.055O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaNi
0.4Mn
0.49Mg
0.1Ti
0.01O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.28Mn
0.51Mg
0.05Ti
0.05Al
0.055Co
0.055O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.833Fe
0.200Mn
0.483Mg
0.0917Cu
0.225O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.775Ni
0.35Mn
0.475Ti
0.1Al
0.075O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);ならびに
Na
0.833Ca
0.05Ni
0.3417Mn
0.4417Mg
0.125Ti
0.0917O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
から選定され、
前記第1の相および第2の相の各々の百分率値は、当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づく、請求項1に記載のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製する方法であって、
i)前駆体材料の混合物を形成し、前記一般式の前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を少なくとも500℃の温度に加熱し、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップと、
を有し、
当該方法は、
i)前駆体材料の混合物を形成し、一般式Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.100Ti
0.117O
2で表されるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を900℃で10時間加熱し、相の混合物を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップであって、第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量は、63%であり、前記第2の相の量は、37%である、ステップと、
を含まず、または
i)前駆体材料の混合物を形成し、一般式Na
0.95Ni
0.3167Mn
0.3167Mg
0.1583Ti
0.2083O
2で表されるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を900℃で4分間加熱し、相の混合物を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップであって、第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量は、97%であり、前記第2の相の量は、3%である、ステップと、
を含まない、方法。
【請求項4】
NaNi
0.400Mn
0.490Mg
0.100Ti
0.010O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.95Ni
0.3167Mn
0.3167Mg
0.1583Ti
0.2083O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし97%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし3%を除く、第2の相とを有する);
Na
0.925Ni
0.4525Mn
0.5275Mg
0.01Ti
0.01O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.867 Ni
0.383Mn
0.467Mg
0.05Ti
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし63%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし37%を除く、第2の相とを有する);
Na
0.8Ni
0.35Mn
0.48Mg
0.05Ti
0.12O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.28Mn
0.31Mg
0.05Ti
0.25Fe
0.11O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.225Mn
0.115Mg
0.01Ti
0.35Fe
0.3O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.833Ni
0.317Mn
0.417Mg
0.05Ti
0.117Co
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.867Ni
0.383Mn
0.467Mg
0.05Ti
0.1O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.85Ni
0.325Mn
0.525Mg
0.100Ti
0.05O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.85Ni
0.325Mn
0.499Mg
0.100Ti
0.076O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.305Mn
0.51Mg
0.025Ti
0.05Al
0.055Co
0.055O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.305Mn
0.535Mg
0.025Ti
0.025Al
0.055Co
0.055O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaNi
0.4Mn
0.49Mg
0.1Ti
0.01O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.77Ni
0.28Mn
0.51Mg
0.05Ti
0.05Al
0.055Co
0.055O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.833Fe
0.200Mn
0.483Mg
0.0917Cu
0.225O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na
0.775Ni
0.35Mn
0.475Ti
0.1Al
0.075O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);ならびに
Na
0.833Ca
0.05Ni
0.3417Mn
0.4417Mg
0.125Ti
0.0917O
2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
から選定されるO3:P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製する、請求項3に記載の方法:
ここで、前記第1の相および第2の相の各々の百分率値は、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づく。
【請求項5】
請求項1または2に記載の1または2以上のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を有する、エネルギー貯蔵装置。
【請求項6】
電池、充電式電池、電気化学的装置、およびエレクトロクロミック装置から選択された、請求項5に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の1または2以上のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を有する電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料、およびその製造方法に関する。また、本発明は、電池、特に充電可能電池、アルカリ金属イオンセル、電気化学装置およびエレクトロクロミック装置のようなエネルギー貯蔵装置に使用される電極活物質としての、これらの新たなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の1または2以上の使用、ならびに新たなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の1または2以上を有する1または2以上の電極を含む、エネルギー貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン電池は、現在汎用的に使用されているリチウムイオン電池と、多くの点で類似している;これらは、いずれも再利用可能な二次電池であり、アノード(負極)、カソード(陽極)、および電解質材料を有する。両者は、エネルギーの貯蔵が可能である。これらはいずれも、同様の反応機構を介して充放電される。ナトリウムイオン(またはリチウムイオン)電池が充電されると、Na+(またはLi+)イオンがカソードから脱着(deintercalate)され、アノードに挿入(intercalate)される。一方、電荷バランス化電子は、カソードから、チャージャーを含む外部回路を通り、電池のアノードに流れる。放電の際は、反対の方向に、同様の過程が生じる。
【0003】
近年、リチウムイオン電池技術は、多くの注目を集め、今日使用されているほとんどの電子装置に対して、好適な携帯型電池を提供している。しかしながら、リチウムは、資源的に安価な金属ではなく、大規模な用途における使用は、かなりの高コストとなることが憂慮されている。一方、ナトリウムイオン電池技術は、未だ相対的に未発達の技術であるが、有意であるとみられている。ナトリウムは、リチウムに比べて豊富に存在し、ある研究者らによれば、これは、将来のエネルギー貯蔵に対して、特に、電気グリッドにおけるエネルギー貯蔵のような大型の用途に対して、より安価でより高耐久な方法を提供するものと期待されている。にも関わらず、ナトリウムイオン電池が実用化される前には、なすべき多くの研究が残されている。
【0004】
一般式AxMO2(ここで、Aは、1または2以上のアルカリ金属イオンを表し、Mは、1または2以上の金属イオンであって、その少なくとも一つはいくつかの酸化状態を有する金属イオン、例えば遷移金属を表す)の金属酸化物は、多くの異なる層状化構造で結晶化することが知られている。これは、C.Delmasらの“層状酸化物の構造的分類および特性”,Physica 99B(1980)81-85に、詳しく示されている。要約すると、構造は、全体的に、(MO2)nシートを形成するMO6稜部共有八面体で構成される。これらのシートは、相互に上方に重ねて積層され、アルカリ金属原子により分離され、アルカリ金属の正確な位置は、金属酸化物の全体構造が、八面体(O)、四面体(T)、または角柱(プリズム)(P)のどれで表されるかにより定められる。六面体シートで構成される格子では、酸素原子に3つの存在可能な位置があり、従来より、A、B、Cと称されている。これらのシートが相互に充填される順番が、O、T、およびP状態につながる。また、2または3の数字が使用され、積層に対して垂直な繰り返しユニット内のアルカリ金属層の数が記述される。例えば、層がABCABCの順で充填される場合、O3構造が得られる。これは、繰り返しユニット内に3つのアルカリ金属層があり、各アルカリ金属は、八面体状態にあると翻訳される。そのような材料は、アルカリ金属イオンが八面体配位されていることに特徴があり、この構造の典型的な化合物は、AxMO2(x≦1)である。四面体配位におけるアルカリ金属イオンのABABの順番は、T1構造で表され、これの代表は、A2MO2化合物である。ABBAの順のシートの充填は、P2構造を提供し、この場合、プリズムの半分は、MO6八面体と稜共有し、残りの半分は、面を共有する。この典型的な化合物は、
【0005】
【化1】
である。最後に、ABBCCAの順番の充填は、P3構造タイプとなり、この場合、全てのプリズムは、一つの面を一つのMO
6八面体と共有し、3つの稜を次のシートの3つのMO
6八面体と共有する。
【0006】
【化2】
化合物は、P3構造を採用していることが認められる。Delmasの文献は、A
xMO
2材料中に存在するアルカリ金属イオンの量が、金属酸化物の全体構造と直接的な関係を有することを表していることが留意される。
【0007】
また、AxMO2化合物に関し、Y.J.Shinら、Solid State Ionics,132(2000)131-141には、層状タイプの酸化物NaxNix/2Ti1-x/2O2の調製および構造的特性が報告されており、ここで、xは、0.6≦x≦1.0の範囲である。特に、本論文では、0.72≦x≦1.0において、単相菱面体晶(タイプO)が観測され、0.6≦x≦0.72において、単相六方晶格子(タイプP)が観測されたことが示されている。また、本論文では、0.6≦x≦0.72の場合、1223K(約950℃)での加熱により、タイプOとタイプPの両構造の混合物が生成されるものの、この混合物を1373K(約1100℃)を超える温度に加熱すると、単相のP構造タイプが生成することに留意している。
【0008】
他の研究、例えば、M.Polletらの研究“アルカリコバルト二重酸化物A0.6CoO2の構造および特性(A=Li,NaおよびK)”J.Inorg.Chem.2009,48,9671-9683では、Aがリチウムの場合、化合物は、O3構造で結晶化され、Aがナトリウムの場合、P’3構造が採用され、Aがカリウムの場合、P2系となることが報告されている。一方、G.Cederらの“異なる層状化ナトリウムコバルト酸化物の合成および化学量論”Chem.Mater.2014,26,5288-5796では、ナトリウム含有量と格子パラメータの間に存在する関係が、さらに検討されている。彼らは、NaxCoO2が450℃から750℃の間まで加熱されると、xが0.60から1.05の場合、xが特に、それぞれ、1.00、0.83、0.67の場合、単相のドメインO3、O’3、およびP’3のみが得られ、xが0.68から0.76の範囲の場合、単相のP2相が得られると結論づけている。
【0009】
最後に、Shaohua Guoらの文献“充電式ナトリウムイオン電池用の高エネルギーカソードとしての層状P2-およびO3タイプの複合体”(Angewandte Chemie 54,5894-5899,2015)には、一般式Na0.66Li0.18Mn0.71Ni0.21Co0.08O2―δの化合物が記載されている。ここで、通常知られているδの値(すなわち0から1)を使用すると、酸化状態が4+未満のマンガンイオンを含む化合物となることが計算されている。そのような化合物は、本発明の材料とは大きく異なり、電気化学的に、本発明の材料と大きく異なる挙動を示す。
【0010】
コスト、容量、重量、電圧、およびセル容積に関する充電可能電池の要求は、その最終用途における仕様に依存する。例えば、家庭用の市販の負荷が平滑的な用途では、高容積のエネルギー密度を有する小型電池パックが必要とされるのに対し、携帯電子装置では、軽量性と低容積電池パックの両方、すなわち高重量体積エネルギー密度が要求される。他の用途では、高い出力が要求され、このため、セルは、高い動作電圧を達成し、高いイオンおよび電子伝導性を示す必要がある。
【0011】
最大の電荷密度および最良の速度能を示す、層状ナトリウムイオン電池カソード材料(例えば、ナトリウム遷移金属(NaxMO2化合物))は、通常、Na欠乏であり(x=0.6から0.72)、これらがP2相材料であることは一般的に知られている。例えば、LuおよびDahn,J.Electrochem.Soc.,2001,148,A710-715では、P2-層状化酸化物Na2/3[Ni1/3Mn2/3]O2が、ナトリウムハーフセルにおいて、Naイオンが可逆的に交換され得ること示されている。また、Shirley MengおよびD.H. Lee,Phys.Chem.Chem.Phys.,2013,15,3304には、P2-
Na2/3[Ni1/3Mn2/3]O2が、優れたサイクル性および高速機能を示すことが報告されている。ただし、これらの結果は、材料が4.22V未満に充電された際のみに得られていることが留意される。4.22Vを超えると、P2からO2への相変化のため、サイクル中、電荷容量は維持されなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一方、最大の比エネルギーが得られるナトリウム遷移金属酸化物(NaxMO2化合物)は、通常多くのナトリウムを含み(x=0.72から1.00)、構造解析では、これらがO3相材料であることが示されている。
【0013】
“レビュー-ナトリウムイオン電池カソード材料としてのマンガン系P2-タイプ遷移金属酸化物”by R.J Clementら、J.Electrochem Soc.,162(14)A2589-A2604(2015)に示されているように、いくつかの研究グループは、複合体層状遷移金属酸化物カソード材料を調査しており、近年の研究では、NaNi0.5Mn0.5O2へのリチウムの挿入は、構造内のP2およびO3のドメインのトポタクティック連晶につながること、ならびに高められた比容量および速度特性を有する材料の生成が示されている。O3相は、大きなナトリウムイオンリザーバを提供するため、高容量が得られる。また、P2層状配置により、充放電動作中のNa+イオンの拡散が容易となるため、高速特性が得られる。特許出願PCT/GB2015/051482には、O3相構造を有する1または2以上の化合物の、第1の化合物タイプを有する、ドープ化ニッケル酸塩含有化合物の混合物が記載されている。アルカリ金属の量は0.85から1であり、ニッケルの量は0.5未満である。混合物は、P2相構造を有する1または2以上の化合物の、第2の化合物タイプの1または2以上から選定された、1または2以上の別の化合物タイプを有し、ここで、アルカリ金属の量は0.4から1未満であり、ニッケルの量は、0.5未満である。混合物は、さらに、P3相構造を有する1または2以上の化合物の、第3の化合物タイプを有し、ここで、アルカリ金属の量は0.4から1未満であり、ニッケルの量は、0.5未満である。第1、第2、第3の化合物タイプの各々のO3、P2、およびP3構造は、それぞれが含有するアルカリ金属の量により定められることが留意される。混合相組成は、準備されたO3相材料、準備されたP2相材料、および/または準備されたP3相材料を相互に混合することにより、あるいはO3、P2、および/またはP3材料の前駆体材料の混合物を加熱することにより、調製されたものとして記載される。特に、後者の場合、得られる混合相組成物は、「重量平均」式の形態で記載され、これは、開始材料の相対割合から定められ、得られた混合相組成物自体の何らかの直接測定、または組成分析から定められている訳ではないことが説明されている。この従来技術の特定の例の一部には、まず、重量平均式に関する記載により、次に提供されたXRDパターンから、得られた混合相組成物が、2または3以上の相タイプの混合物を有することが示されている。しかしながら、この従来技術には、これらの2または3以上の相タイプに対して得られた実際の比については開示されておらず、この従来技術には、比は、O3、P2、およびP3相の組成の熱力学的に最も好適な混合物により定められること、ならびにこれは、開始材料の相対割合に基づくことが明確に示されている。前述のように、O3相タイプの材料を形成するには、開始材料は、0.85から1部のアルカリ金属を含み、P2相タイプのためには、開始材料は、0.4以上、1部未満のアルカリ金属を含む必要がある。
【0014】
前述のような従来技術の示唆に対して、現在の研究者らは、層状化酸化物材料中のアルカリ金属の量を変えることのみが、材料の相構造を制御する方法、すなわち、材料がO3かP2相構造のいずれを採用するかを制御する方法ではないことに気付いた。また、彼らは、驚くべきことに、特定のナトリウム含有ドープ層状酸化物材料中に存在する金属原子の化学量論比を提供するように選定された前駆体材料の混合物から、任意の特定のナトリウム含有ドープ層状酸化物材料(可能な化学式の範囲内で)を製造する際、正確な使用プロセスに応じて、O3単相構造、またはP2単相構造、またはO3およびP2相構造の混合物を有するナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製できることを見出した。後者は、P2リッチ、またはO3リッチ、またはP2とO3が等量であってもよい。さらに驚くべきことに、本研究者らは、相が共存する混合物の場合、O3およびP2相がある割合では、ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料により提供される電気化学的特性に、大きな影響を示すことを見出した。その結果、(存在するアルカリ金属の量を選定することとは対照的に)特定の反応条件を選定し、相対的なO3/P2相比を調整することが可能となり、これにより、今度は、優れた比速度能および放電エネルギーを有する活物質を得ることができ、サイクル寿命を延ばすことが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明では、以下に関して、大きな改善が提供される:i)O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の新たな範囲が提供され、ii)他の既知のナトリウム含有ドープ層状酸化物材料よりも優れた電気化学的特性を提供する、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の新たな範囲が提供され、これにより、電極、特にカソード(正)電極、電池、特に充電可能電池、ナトリウムイオン電池のようなエネルギー貯蔵装置、電気化学的装置、ならびにエレクトロクロミック装置の電極活物質としての利用に特に適合させることができる。また、iii)制御用の新しい、シンプルでコスト効果のあるプロセスが提供され、これにより、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製して、特定の電気化学的特性を有する材料を製造できる。
【0016】
従って、本発明では、
相の混合物を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供され、
第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、
さらに、当該混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、一般式
NaaAbM1
cM2
dM3
eM4
fM5
gO2±δ;
を有し、ここで、
Aは、リチウムおよびカリウムの少なくとも一つから選定されるアルカリ金属であり、
M1は、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M2は、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M3は、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M4は、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M5は、平均酸化状態が3+の1または2以上の金属であり、
a>0;
a>b、好ましくはb=0;
0.75≦(a+b)≦1.0、好ましくは0.75≦(a+b)<0.95、より好ましくは0.77≦(a+b)≦1.0、さらに好ましくは0.79≦(a+b)<0.93、理想的には0.80≦(a+b)<0.94;
0.28≦c≦0.46;
dおよびfの少なくとも一つは>0であり;
e>0;
0≦g<0.5;
0≦δ≦0.1、好ましくはδ=0であり;
ここで、a、b、c、d、e、fおよびgは、電気的中性を維持するように選択され、
当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、当該混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、O3タイプの構造を有する0超100%未満の第1の相と、P2タイプの構造を有する100%未満0%超の第2の相と、を有し、
本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、
一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2を有する材料であって、第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2材料中に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量が63%で前記第2の相の量が37%である、Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2を有する材料を含まず、
一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2を有する材料であって、第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量が97%で前記第2の相の量が3%である、Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2を有する材料を含まない。
【0017】
疑いを避けるため、本発明は、一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の材料であって、O3タイプの構造を有する第1の相の量が63%以外であり、P2タイプの構造を有する第2の相の量が37%以外の材料を含む。また、本発明は、一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の材料であって、O3タイプの構造を有する第1の相の量が97%以外であり、P2タイプの構造を有する第2の相の量が3%以外の材料を含む。
【0018】
好ましくは、本発明によるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプおよびP2タイプの相の組み合わされた全モル数に基づき、P2タイプの相の量は、>0%、>5%、>10%、>15%、>20%、>25%、>30%、>35%、>40%、>45%、>50%、>55%、>60%、>65%、>70%、>75%、>80%、>85%、>90%、>95%および<100%から選定された1または2以上の範囲である(O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、37%は除外され、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、3%は除外される)。これとは別に、またはこれに加えて、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料中に存在するP2タイプの相の量の前述の百分率の1または2以上の任意の組み合わせにおいて、P2タイプの相の量は、当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプの相およびP2タイプの相の組み合わされた全モル数に基づき、<100%、<95%、<90%、<85%、<80%、<75%、<70%、<65%、<60%、<55%、<50%、<45%、<40%、<35%、<30%、<25%、<20%、<15%、<10%、<5%、>0%の1または2以上の範囲にある(O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、37%は除外され、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、3%は除外される)。O3タイプの相の量とP2タイプの相の量の和が、等しく100%となるように正規化されているため(以下参照)、存在するO3タイプの相の量は、P2タイプの相の量から、明りょうに推察される。
【0019】
さらに好ましくは、本発明によるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプの相およびP2タイプの相の組み合わされた全モル数に基づき、O3タイプの構造を有する第1の相を、51%から99%有し、ただし、63%または97%を除く;好ましくは51%から63%未満、63%超から97%未満、および97%超から99%有し;さらに好ましくは51%から62%、64%から96%、および98%から99%有し(O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合)、P2タイプの構造を有する第2の相を、1%から49%有し、ただし、3%または37%を除く;好ましくは1%から3%未満、3%超から37%未満、および37%超から49%有し;さらに好ましくは1%から2%、4%から36%、および38%から49%有する(O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合)。
【0020】
好ましくは、
M1は、酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M2は、酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M3は、酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M4は、酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M5は、平均酸化状態が3+の1または2以上の金属である。
【0021】
本発明による好適なO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料では、M1は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、ニッケル、鉄、マンガン、コバルト、銅、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選定される。M2は、酸化状態が4+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、マンガン、チタン、およびジルコニウムから選定される。M3は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、およびコバルトから選定される。M4は、酸化状態が4+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、マンガン、チタン、およびジルコニウムから選定される。M5は、酸化状態が3+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、アルミニウム、鉄、コバルト、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウム、およびイットリウムから選定される。M1は、酸化状態が2+のニッケルを有し、またはそれで構成されることが特に好ましい。
【0022】
金属M2およびM4は、酸化状態が4+の、同じまたは異なる金属であってもよい。特に、M2およびM4は、相互に置換可能であってもよい。M2=M4の場合、本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、以下のように表されてもよい:
NaaAbM1
cM2
dM3
eM4
fM5
gO2±δ、
または
NaaAbM1
cM2
d+fM3
eM5
gO2±δ、
または
NaaAbM1
cM3
eM4
f+dM5
gO2±δ、
これら式の形態の全ては、等価と見なされる。
【0023】
b=0の場合、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、リチウムおよびカリウムを含まず、すなわち当該材料は、唯一のアルカリ金属としてナトリウムを含む。
【0024】
a>bの場合、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、i)ナトリウム単独、またはii)ナトリウムと、リチウムおよびカリウムから選定された1または2以上の別のアルカリ金属との混合物であり、ナトリウムの量は、別のアルカリ金属の量よりも多く、あるいは2以上の別のアルカリ金属が存在する場合、ナトリウムの量は、2以上の別のアルカリ金属の組み合わされた量よりも多い。
【0025】
本願に記載の第1および第2の相の百分率値は、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料中に存在する、O3タイプの構造を有する第1の相と、P2タイプの構造を有する第2の相の全モル数の百分率として計算される。計算は、単に、本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、P2相材料の量に対するO3相材料の量に基づく。すなわち、O3+P2は、100%に正規化され、いかなる存在する不純物の量も、この計算には考慮されないことが仮定される。
【0026】
本願に参照される不純物は、O3-またはP2-タイプの相構造を有さない、任意の材料として定められ、例えば、ニッケル酸化物(NiO)は、ドープ層状酸化物材料を製造する際に、形成できる一般的な不純物であり、しばしば、固体反応プロセスにおいて使用される。
【0027】
本願において参照される「O3タイプの相」および「O3相」と言う用語は、相互に等価なものと見なされ、置換可能に使用される。同様に、本願において参照されるP2タイプの相およびP2相は、相互に等価なものと見なされ、置換可能に使用される。また、「O3相」または「O3タイプの相」という用語は、二次O3相および変形O3相のような、1または2以上の同様のO3相を有し、後者は、当業者に、しばしば、O3’相と称される。「P2相」または「P2タイプの相」と言う用語は、二次P2相および変形P2相のような、1または2以上の同様のP2相を有し、後者は、しばしば、P2’相と称される。2または3以上のO3-(またはP2-)タイプの相が共存することも可能であり、通常、これらは、特定の対象組成およびそれを用いたプロセスの結果として生じる。
【0028】
理想的には、本発明によるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料におけるO3/P2相のモル比を定めるための相定量化解析は、「リートベルト解析法」として知られている技術に、X線回折データからの構造パラメータを供することにより実施される。ヒューゴリートベルトにより開発された、全パターンフィッティング構造リファインメントは、結晶質材料のほぼ全てのクラスの構造解析のための特に有益な方法として、現在広く認知されており、結晶相の混合物を含む材料の組成の決定に特に有益である。ソフトウェアアプローチでは、格子パラメータ、ピーク幅および形状、ならびに好適配向を含む各種指標を精密化することにより、計算された回折パターンが得られる。次に、この得られたパターンは、未知の評価組成物に限りなく近づくまで洗練される。試験組成物に関連する各種特性が得られ、これには、正確な定量情報、結晶サイズ、およびサイト占有因子が含まれる。リートベルト解析は、従来の定量化方法を超える利点を有し、標準材料が必要ではなく、±1%内の正確な結果を得ることができる。
【0029】
好ましくは、本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有するM1を含み、M1は、ニッケル、鉄、マンガン、コバルト、銅、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選定される。本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、ニッケル、鉄、コバルト、およびカルシウムから選定された、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、またはこれらで構成された、M1を含むことが特に好ましい。O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状ニッケル酸塩材料は、特に好ましい。
【0030】
より好ましくは、本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、以下から選定される:
NaNi0.400Mn0.490Mg0.100Ti0.010O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし97%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし3%を除く、第2の相とを有する);
Na0.925Ni0.4525Mn0.5275Mg0.01Ti0.01O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867 Ni0.383Mn0.467Mg0.05Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし63%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし37%を除く、第2の相とを有する);
Na0.8Ni0.35Mn0.48Mg0.05Ti0.12O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.28Mn0.31Mg0.05Ti0.25Fe0.11O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.225Mn0.115Mg0.01Ti0.35Fe0.3O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867Ni0.333Mn0.467Mg0.1Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Ni0.317Mn0.417Mg0.05Ti0.117Co0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867Ni0.383Mn0.467Mg0.05Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.85Ni0.325Mn0.525Mg0.100Ti0.05O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.85Ni0.325Mn0.499Mg0.100Ti0.076O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.305Mn0.51Mg0.025Ti0.05Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.305Mn0.535Mg0.025Ti0.025Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaNi0.4Mn0.49Mg0.1Ti0.01O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.28Mn0.51Mg0.05Ti0.05Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Fe0.200Mn0.483Mg0.0917Cu0.225O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaLi0.05Ni0.3Mn0.525Mg0.025Cu0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.775Ni0.35Mn0.475Ti0.1Al0.075O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);ならびに
Na0.833Ca0.05Ni0.3417Mn0.4417Mg0.125Ti0.0917O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する)。
【0031】
前述のように、第1の相と第2の相の各々の百分率値は、当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプの構造を有する第1の相およびP2タイプの構造を有する前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づく。
【0032】
好ましくは、本発明では、O3タイプの構造を有する第1の相と、P2タイプの構造を有する第2の相との混合物を有する、前述の一般構造を有する、O3リッチなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供される。ここで、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1の相および第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、第1の相の量は、51%から99%(ただし、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、63%を除き、またはO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、97%を除く)であり、第2の相の量は、1から49%である(ただし、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、37%を除き、またはO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、3%を除く)。あるいは、好ましくは、本発明では、O3タイプの構造を有する第1の相と、P2タイプの構造を有する第2の相との混合物を有する、前述の一般構造を有する、P2リッチなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供される。ここで、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1の相および第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、第1の相の量は、1%から49%であり、第2の相の量は、51から99%である。
【0033】
開始材料の割合から計算された平均組成を有する、混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を示す従来技術とは対照的に、本出願人は、思いのほか、各ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料において、異なるO3/P2相比の範囲が形成され得ることを見出した。これは、本材料の組成(例えば、アルカリ金属の量、および/またはニッケルの存在)とは無関係である。さらに思いがけないことに、本出願人は、異なるO3/P2相比の範囲は、この対象ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の調製に使用されるプロセス条件を変更することにより、特に、加熱温度および/または加熱時間を変更することにより、単一の対象ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料組成において得られることを発見している。一般原理として、本出願人は、反応プロセスの加熱温度(反応温度)が500℃から段階的に上昇すると、任意の特定対象のナトリウム含有ドープ層状酸化物材料におけるO3構造を有する相の割合は、P2構造を有する相の割合に比べて増加することを見出した。また、本出願人は、これに加えて、またはこれとは別に、任意の特定対象のナトリウム含有ドープ層状酸化物材料において、反応時間の増加も、P2構造を有する相の割合に対して、O3構造を有する相の割合を高めることを見出した。本願に定義されるように、反応時間は、所望の反応温度で反応混合物が加熱される期間である。これらの現象を示す特定の例は、以下に示されている。
【0034】
本発明によるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の各々は、前述の一般式に属する化学式を有し、これらのO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の各々は、合成される特定のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料中に存在する化学量論比の金属原子を提供する上で必要な量において、前駆体材料を相互に反応させることにより、好適に合成することができる(後者は、「対象」O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料」とも称される)。対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1の相および第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、1から99%の第1の相(対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、63%を除き、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、97%を除く)と、99から1%の第2の相(対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、37%を除き、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、3%を除く)とを有する。
【0035】
従って、本発明では、前述のような、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を製造する方法が提供され、
前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、一般式
NaaAbM1
cM2
dM3
eM4
fM5
gO2±δ;
を有し、ここで、
Aは、リチウムおよびカリウムの少なくとも一つから選定されるアルカリ金属であり、
M1は、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M2は、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M3は、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M4は、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M5は、平均酸化状態が3+の1または2以上の金属であり、
a>0;
a>b、好ましくはb=0;
0.75≦(a+b)≦1.0、好ましくは0.75≦(a+b)<0.95、より好ましくは0.77≦(a+b)≦1.0、さらに好ましくは0.79≦(a+b)<0.93、理想的には0.80≦(a+b)<0.94;
0≦c<0.5、好ましくは0<c≦0.48、さらに好ましくは0.25≦c≦0.46、理想的には0. 28≦c≦0.46;
dおよびfの少なくとも一つは>0であり;
e>0;
0≦g<0.5;
0≦δ≦0.1、好ましくはδ=0であり;
ここで、a、b、c、d、e、fおよびgは、電気的中性を維持するように選択され、
前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する、相の混合物を有し、
対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量は、1から99%であり、前記第2の相の量は、99から1%であり、
当該方法は、
i)前駆体材料の混合物を形成し、前記対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を少なくとも500℃の温度に加熱し、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップと、
を有し、
当該方法は、
i)前駆体材料の混合物を形成し、一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2で表されるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を900℃で10時間加熱し、相の混合物を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップであって、第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量は、63%であり、前記第2の相の量は、37%である、ステップと、
を含まず、または
i)前駆体材料の混合物を形成し、一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2で表されるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を900℃で4分間加熱し、相の混合物を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップであって、第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、前記第1の相の量は、97%であり、前記第2の相の量は、3%である、ステップと、
を含まない。
【0036】
前述のように、
M1は、酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M2は、酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M3は、酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M4は、酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M5は、酸化状態が3+の1または2以上の金属である。
【0037】
本発明では、前述のような、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を製造する方法が有意に提供される。これは、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプの相およびP2タイプの相の組み合わされた全モル数に基づき、O3タイプの構造を有する51%から99%の第1の相(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、63%は除外され、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、97%は除外される)を有し、好ましくは51%から63%未満、63%超から97%未満、および97%超から99%であり、より好ましくは51%から62%、64%から96%、および98%から99%である。また、P2タイプの構造を有する1から49%の第2の相を有し(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、37%は除外され、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、3%は除外される)、好ましくは1%から3%未満、3%超から37%未満、および37%超から49%であり、より好ましくは1%から2%、4%から36%、および38%から39%であり、
当該方法は、
i)前駆体材料の混合物を形成し、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を少なくとも500℃の温度に加熱し、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップと、
を有する。
【0038】
本発明では、さらに、前述のような、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を製造する方法が提供される。一般式は、
NaaAbM1
cM2
dM3
eM4
fM5
gO2±δ;
であり、ここで、
Aは、リチウムおよびカリウムの少なくとも一つから選定されるアルカリ金属であり、
M1は、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M2は、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M3は、平均酸化状態が2+の1または2以上の金属であり、
M4は、平均酸化状態が4+の1または2以上の金属であり、
M5は、平均酸化状態が3+の1または2以上の金属であり、
a>0;
a>b、好ましくはb=0;
0.75≦(a+b)≦1.0、好ましくは0.75≦(a+b)<0.95、より好ましくは0.77≦(a+b)≦1.0、さらに好ましくは0.79≦(a+b)<0.93、理想的には0.80≦(a+b)<0.94;
0≦c<0.5、好ましくは0<c≦0.48、さらに好ましくは0.25≦c≦0.46、理想的には0. 28≦c≦0.46;
dおよびfの少なくとも一つは>0であり;
e>0;
0≦g<0.5;
0≦δ≦0.1、好ましくはδ=0であり;
ここで、a、b、c、d、e、fおよびgは、電気的中性を維持するように選択され、
前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、対象O3/P2混合相ナトリウム含有材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、O3タイプの相構造を有する1から99%の第1の相と、P2タイプの相構造を有する99から1%の第2の相とを有し、
当該方法は、
i)前駆体材料の混合物を形成し、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比における金属原子を提供するステップと、
ii)前記得られた前駆体材料の混合物を、4分超、10時間未満の範囲の時間、少なくとも500℃の温度に加熱し、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を得るステップと、
を有する。
【0039】
本発明の前述の方法では、前述の対象材料が製造され、ここで、M1は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、ニッケル、鉄、マンガン、コバルト、銅、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選定される。M2は、酸化状態が4+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、マンガン、チタン、およびジルコニウムから選定される。M3は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、およびコバルトから選定される。M4は、酸化状態が4+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、マンガン、チタン、およびジルコニウムから選定される。M5は、酸化状態が3+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、アルミニウム、鉄、コバルト、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウム、およびイットリウムから選定される。好ましくは、本発明の方法において、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、M1を有し、該M1は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、ニッケル、鉄、マンガン、コバルト、銅、マグネシウム、カルシウム、および亜鉛から選定される。対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料は、M1を有し、該M1は、酸化状態が2+の1または2以上の金属を有し、またはそのような金属で構成され、ニッケル、鉄、コバルト、およびカルシウムから選定されることが特に好ましい。対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状ニッケル酸塩材料が特に好ましい。
【0040】
理想的には、本発明の方法では、前述の一般構造を有するO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供され、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1の相および第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、O3タイプの構造を有する51から99%の第1の相(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、63%を除き、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、97%を除く)と、P2タイプの構造を有する1から49%の第2の相(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、37%を除き、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、3%を除く)とを有する。
【0041】
好ましくは、本発明の方法では、前述の一般構造を有する、O3リッチなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供される。これは、相の混合物を有し、第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1および第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、第1の相の量は、51から99%(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、63%を除き、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、97%を除く)であり、第2の相の量は、1から49%(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、37%を除き、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、3%を除く)である。
【0042】
あるいは、好ましくは、本発明の方法では、前述の一般構造を有する、P2リッチなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供され、これは、相の混合物を有し、第1の相は、O3タイプの構造を有し、第2の相は、P2タイプの構造を有し、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1および第2の相の組み合わされた全モル数に基づき、第1の相の量は、1から49%であり、第2の相の量は、51から99%である。
【0043】
より好ましくは、本発明の方法では、前述のようなO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が提供され、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプの相とP2タイプの相の組み合わされた全モル数に基づき、P2タイプの相の量は、>0%、>5%、>10%、>15%、>20%、>25%、>30%、>35%、>40%、>45%、>50%、>55%、>60%、>65%、>70%、>75%、>80%、>85%、>90%、>95%および<100%から選定された1または2以上の範囲である(ただし、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2の場合、37%は除外され、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の一般式がNa0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2の場合、3%は除外される)。これとは別に、またはこれに加えて、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料中に存在するP2タイプの相の量の前述の百分率の1または2以上の任意の組み合わせにおいて、P2タイプの相の量は、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、O3タイプの相およびP2タイプの相の組み合わされた全モル数に基づき、<100%、<95%、<90%、<85%、<80%、<75%、<70%、<65%、<60%、<55%、<50%、<45%、<40%、<35%、<30%、<25%、<20%、<15%、<10%、<5%、>0%の1または2以上の範囲にある(対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2である場合、37%は除外され、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2である場合、3%は除外される)。O3タイプの相の量とP2タイプの相の量の和が、等しく100%となるように正規化されているため(上記参照)、存在するO3タイプの相の量は、P2タイプの相の量から、明りょうに推察される。
【0044】
前駆体材料間の反応は、通常、本方法のii)の加熱ステップ中に生じる。これは、通常、少なくとも500℃、好ましくは600℃、より好ましくは700℃、さらに好ましくは800℃、特に好ましくは850℃、理想的には少なくとも825℃の単一の温度で、またはこの温度範囲にわたって、前駆体材料の混合物を加熱するステップを有する。最大温度は、1200℃であることが好ましく、1150℃であることがより好ましい。前述のように、一般式Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2を有し、第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、第1および第2の相が63:37で存在する、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製するように、前駆体材料の混合物が選定される場合、加熱ステップは、900℃で10時間加熱するステップを含まない。また、一般式Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2を有し、第1の相がO3タイプの構造を有し、第2の相がP2タイプの構造を有する相の混合物を有し、第1および第2の相が97:3で存在する、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製するように、前駆体材料の混合物が選定される場合、加熱ステップは、900℃で4分間加熱するステップを含まない。
【0045】
加熱ステップii)は、30秒から64時間、好ましくは30秒から44時間、より好ましくは30秒から20時間、より好ましくは1分から22時間、さらに好ましくは4分超から10時間未満、理想的には8時間と12時間の間の反応時間(前述の通り)で、必要な反応温度に前駆体材料の混合物を加熱するステップを含むことが有意である。工業スケールの生産では、8時間未満、例えば1時間未満の反応時間が必要となることが予想される。
【0046】
前述の本発明によるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の全ては、前述の本発明の方法により、調製されてもよい。
【0047】
本発明の方法のステップi)で使用される前駆体材料は、対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料中に存在する金属元素の1または2以上を含む、任意の好適な化合物から選定されてもよい。好ましくは、前駆体材料の混合物は、Na2CO3、NiCO3、NiCO3・2Ni(OH)2・xH2O、MnO2、MnO、MnCO3、Mn2O3、Mg(OH)2、TiO2、Fe2O3、CoCO3、Co3O4、Al(OH)3、CuO、CaCO3、ZnO、Cr2O3、MoO3、MoO2、V2O3、V2O5、Zr(OH)4、Al(OH)3から選定される、1または2以上の化合物を含む。
【0048】
理想的には、本発明の方法は、「固体」反応として実施され、すなわち、全ての前駆体材料(反応体)は、固体状態であり、溶媒のようないかなる反応媒体も実質的に存在しない反応である。ただし、ある場合には、溶液系の反応が使用され、前駆体材料の混合物は、水のような溶媒中での前駆体材料の1または2以上の混合、懸濁、または溶解により形成されてもよい。
【0049】
前駆体材料の混合物は、少なくとも2つの前駆体材料を有し、これらの間には、前述の一般式を有する対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する化学量論比に等しい、各金属原子の組み合わされた全量が含まれることが好ましい。
【0050】
前駆体材料は、既知の方法を用いて混合(好ましくは親和混合)されてもよい。より好ましくは、前駆体材料の1または2以上は、粒子状形態であり、これは、各種方法を用いて、例えば、乳鉢および乳棒、またはボールミルを用いて、前駆体材料の1または2以上を別個に微細研磨し、その後、必要に応じて、例えば、微粉器またはミキサーミルを用いて、前駆体材料の2または3以上を相互に混合することにより、得られてもよい。あるいは、2または3以上の前駆体材料を混合したまま、これらを微細研磨してもよい。研磨および/または混合は、微細研磨された、および/または均一に混合された粉末を形成するため、十分な時間行われることが好ましい。研磨および/または混合プロセスを支援するため、分散剤(好ましくは容易に除去できる材料、例えばアセトンのような低沸点材料)を使用して、研磨および/または混合プロセスを支援することが有益であることが認められている。ただし、この分散剤は、加熱するステップの前に、少なくとも十分に除去されることが好ましい。例えば、反応性を高めるため、高エネルギーボールミルおよびマイクロ波活性化のような、他の既知の技術を使用して、前駆体材料の調製を支援してもよい。
【0051】
通常、反応は、例えば、窒素、アルゴン、もしくは別の不活性ガスの一つまたは混合のような非酸化性雰囲気、または空気における大気圧下で実施されるが、空気下、大気圧よりも高い気体圧力、または真空下で実施してもよい。
【0052】
本発明の前述の方法では、以下から選定されるO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を調製する有意な方法が提供される:
NaNi0.400Mn0.490Mg0.100Ti0.010O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし97%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし3%を除く、第2の相とを有する);
Na0.925Ni0.4525Mn0.5275Mg0.01Ti0.01O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867 Ni0.383Mn0.467Mg0.05Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし63%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし37%を除く、第2の相とを有する);
Na0.8Ni0.35Mn0.48Mg0.05Ti0.12O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.28Mn0.31Mg0.05Ti0.25Fe0.11O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.225Mn0.115Mg0.01Ti0.35Fe0.3O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867Ni0.333Mn0.467Mg0.1Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Ni0.317Mn0.417Mg0.05Ti0.117Co0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867Ni0.383Mn0.467Mg0.05Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.85Ni0.325Mn0.525Mg0.100Ti0.05O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.85Ni0.325Mn0.499Mg0.100Ti0.076O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.305Mn0.51Mg0.025Ti0.05Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.305Mn0.535Mg0.025Ti0.025Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaNi0.4Mn0.49Mg0.1Ti0.01O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.28Mn0.51Mg0.05Ti0.05Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Fe0.200Mn0.483Mg0.0917Cu0.225O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaLi0.05Ni0.3Mn0.525Mg0.025Cu0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.775Ni0.35Mn0.475Ti0.1Al0.075O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);ならびに
Na0.833Ca0.05Ni0.3417Mn0.4417Mg0.125Ti0.0917O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する)。
【0053】
ここで、前記第1の相および第2の相の各々の百分率値は、前記O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、前記第1の相および前記第2の相の組み合わされた全モル数に基づく。
【0054】
また、本発明では、電極活物質としての、好ましくはカソード電極活物質としての、本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の使用が提供される。
【0055】
また、本発明では、本発明による1または2以上のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を含む電極、好ましくはカソード電極が提供される。
【0056】
本発明の最も好ましい電極は、以下から選定される、1または2以上のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を有する:
NaNi0.400Mn0.490Mg0.100Ti0.010O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.95Ni0.3167Mn0.3167Mg0.1583Ti0.2083O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし97%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし3%を除く、第2の相とを有する);
Na0.925Ni0.4525Mn0.5275Mg0.01Ti0.01O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867 Ni0.383Mn0.467Mg0.05Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.1Ti0.117O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の、ただし63%を除く、第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の、ただし37%を除く、第2の相とを有する);
Na0.8Ni0.35Mn0.48Mg0.05Ti0.12O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.28Mn0.31Mg0.05Ti0.25Fe0.11O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.225Mn0.115Mg0.01Ti0.35Fe0.3O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867Ni0.333Mn0.467Mg0.1Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Ni0.317Mn0.417Mg0.05Ti0.117Co0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.867Ni0.383Mn0.467Mg0.05Ti0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.85Ni0.325Mn0.525Mg0.100Ti0.05O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.85Ni0.325Mn0.499Mg0.100Ti0.076O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.305Mn0.51Mg0.025Ti0.05Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.305Mn0.535Mg0.025Ti0.025Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaNi0.4Mn0.49Mg0.1Ti0.01O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.77Ni0.28Mn0.51Mg0.05Ti0.05Al0.055Co0.055O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.833Fe0.200Mn0.483Mg0.0917Cu0.225O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
NaLi0.05Ni0.3Mn0.525Mg0.025Cu0.1O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);
Na0.775Ni0.35Mn0.475Ti0.1Al0.075O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する);および
Na0.833Ca0.05Ni0.3417Mn0.4417Mg0.125Ti0.0917O2(O3タイプの構造を有する1%から99%の第1の相と、P2タイプの構造を有する99%から1%の第2の相とを有する)。
【0057】
ここで、第1の相および第2の相の各々の百分率値は、当該O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料に存在する、第1の相および第2の相の組み合わされた全モル数に基づく。
【0058】
本発明の電極は、例えば、電池、充電式電池、電気化学的装置、およびエレクトロクロミック装置のような、エネルギー貯蔵装置に広く使用されている、ナトリウムイオン電池を含む、多くの異なる用途における使用に好適である。好ましくは、本発明の電極は、対極、および1または2以上の電解質材料とともに使用されてもよい。電解質材料は、従来の既知のまたは今まで知られていない材料を含む、いかなる好適な材料であってもよい。
【0059】
最後に、本発明では、前述のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物(好ましくはニッケル酸塩)材料を有する、電池、充電式電池、電気化学的装置、およびエレクトロクロミック装置のような、エネルギー貯蔵装置が提供される。
【0060】
以下、図面を参照して本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】既知の材料NaNi
0.5Mn
0.5O
2(CE1)のXRDプロファイルである。
【
図2】硬質カーボン//NaNi
0.5Mn
0.5O
2(CE1)セルの最初の4充電/放電サイクルにおけるセル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関数)を示す図である。
【
図3】硬質カーボンおよびO3-NaNi0.5Mn0.5O2(CE1)を有するフルNaイオンセルの定電流サイクル(CC/CV)を示した図である。電圧範囲1.0~4.3V、30℃、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物に溶解した0.5MのNaPF
6を含む電解質中、セパレータとしてガラス繊維フィルタ紙(Whatman(登録商標)グレードGF/A)を使用。
【
図4】既知の材料NaNi
0.5Ti
0.5O
2(CE2)のXRDプロファイルである。
【
図5】硬質カーボン//NaNi
0.5T
i0.5O
2(CE2)セルの最初の4充電/放電サイクルにおけるセル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関数)を示した図である。
【
図6】硬質カーボンおよびO3-NaNi
0.5Ti
0.5O
2(CE2)を有するフルNaイオンセルの定電流サイクル(CC/CV)を示した図である。電圧範囲1.0~4.3V、30℃、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物に溶解した0.5MのNaPF
6を含む電解質中、セパレータとしてガラス繊維フィルタ紙(Whatman(登録商標)グレードGF/A)を使用。
【
図7】P2-Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2(CE3)のXRDプロファイルである。
【
図8】硬質カーボン//P2-Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2(CE3)セルの最初の4充電/放電サイクルにおけるセル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関数)を示した図である。
【
図9】硬質カーボンおよびP2-Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2(CE3)を有するフルNaイオンセルの定電流サイクル(CC/CV)を示した図である。電圧範囲1.0~4.3V、30℃、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物に溶解した0.5MのNaPF
6を含む電解質中、セパレータとしてガラス繊維フィルタ紙(Whatman(登録商標)グレードGF/A)を使用。
【
図10】例2において調製されたO3/P2-Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2のXRDプロファイルである。
【
図11】硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O(例2)セルの最初の4充電/放電サイクルにおけるセル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関数)を示した図である。
【
図12】硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(例2)を有するフルNaイオンセルの定電流サイクル(CC/CV)を示した図である。電圧範囲1.0~4.3V、30℃、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物に溶解した0.5MのNaPF
6を含む電解質中、セパレータとしてガラス繊維フィルタ紙(Whatman(登録商標)グレードGF/A)を使用。
【
図13】例4において調製されたO3/P2-Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2のXRDプロファイルである。
【
図14】硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(例4)セルの最初の4充電/放電サイクルにおけるセル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関数)を示した図である。
【
図15】硬質カーボン//O3/P2-Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(例4)を有するフルNaイオンセルの定電流サイクル(CC/CV)を示した図である。電圧範囲1.0~4.3V、30℃、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物に溶解した0.5MのNaPF
6を含む電解質中、セパレータとしてガラス繊維フィルタ紙(Whatman(登録商標)グレードGF/A)を使用。
【
図16】例8において調製されたO3/P2-Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2のXRDプロファイルである。
【
図17】硬質カーボン//Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2(例8)セルの最初の4充電/放電サイクルにおけるセル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関数)を示した図である。
【
図18】硬質カーボン//O3/P2-Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2(例8)を有するフルNaイオンセルの定電流サイクル(CC/CV)を示した図である。電圧範囲1.0~4.3V、30℃、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネ-ト(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物に溶解した0.5MのNaPF
6を含む電解質中、セパレータとしてガラス繊維フィルタ紙(Whatman(登録商標)グレードGF/A)を使用。
【
図19】Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2を調製する際の反応温度と、P2-タイプの相の量に対するO3-タイプの相の量の間の関係を示したグラフである。
【
図20】Na
0.8Ni
0.35Mn
0.48Mg
0.05Ti
0.12O
2を調製する際の反応温度と、P2-タイプの相の量に対するO3-タイプの相の量の間の関係を示したグラフである。
【
図21】Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.100Ti
0.117O
2を調製する際の反応温度と、P2-タイプの相の量に対するO3-タイプの相の量の間の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
(本発明のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料を製造する一般的方法)
1)前駆体材料を相互に混合し、前述の一般式の対象O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が存在する化学量論比で、金属原子を提供し、得られた前駆体混合物をペレット状に加圧する;
2)例えば、周囲空気、窒素または不活性雰囲気(例えばアルゴン)を含む、好適な雰囲気下(ガスは、必須ではないが流されてもよく、純粋ガスであっても、混合ガスであってもよい)、炉内で、0から20時間の加熱時間で、得られたペレット状前駆体混合物を、該前駆体混合物が所望の反応温度(少なくとも500℃)に到達するまで加熱する。使用昇温速度は、許容可能な時間内で、反応体が所定の反応温度に均一に加熱される上で必要な加熱速度(℃/分)である。当業者にはこれは、使用される加熱装置の効率、連続供給炉/キルンが使用されるかどうか、機器および/または反応体は、予備加熱が必要かどうか、およびバッチサイズに依存することが理解できる。通常の昇温速度は、2℃から20℃/分である。対象のO3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料が形成されるまでの、反応時間の連続加熱は、30秒から64時間である。
3)冷却し、必要な場合、対象材料を粉末に研磨する。
【0063】
表1には、O3/P2混合相ナトリウム含有ドープ層状酸化物材料の調製に使用される前駆体材料、および加熱条件を示す。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【表1-5】
(XRDを用いた生成物分析)
シーメンスD5000粉末回折装置(登録商標)を用いて、X線回折技術による分析を行い、所望の対象組成が調製されていることを確認し、生成物材料の相純度を確認するとともに、存在する不純物の種類を決定した。この情報から、ユニットセルの格子パラメータ、および相対的な相比を定めることができる。
【0069】
材料の分析に使用した一般的なXRD作動条件は、以下の通りである:
スリットサイズ:1mm、1mm、0.1mm
範囲:2θ=5゜~60゜
X線波長:1.5418オングストローム(CuKα)
速度:1.0秒/ステップ
傾斜:0.025゜。
【0070】
(電気化学的結果)
硬質カーボンアノードを用いたNaイオン試験セルを用いて、対象組成物を評価した。セルは、以下の手順で構成されてもよい:
活物質を含むNaイオン電気化学試験セルは、以下のように構成される。
【0071】
(硬質カーボンNaイオンセルを作製する一般手順)
活物質、導電性カーボン、バインダおよび溶媒のスラリーを溶解キャストすることにより、正極を調製する。使用した導電性カーボンは、スーパーC65C65(Timcal登録商標)である。バインダとしてPVdFを使用し、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用した。次に、アルミニウム箔上にスラリーをキャストし、溶媒の大部分が揮発するまで加熱し、電極膜を形成した。次に、動的真空下、約120゜で電極を乾燥させた。電極膜は、重量%表示で以下の成分を有する:89%の活物質(ドープ層状酸化物組成物)と、6%のスーパーC65カーボンと、5%のPVdFバインダ。
【0072】
負極は、硬質カーボン活物質(CarbotronP/J(登録商標)、Kureha社製)、導電性カーボン、バインダもよび溶媒を含むスラリーを溶媒キャストすることにより調製した。導電性カーボンには、スーパーC65(Timcal(登録商標))を使用した。バインダとしてPVdFを使用し、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用した。次に、スラリーをアルミニウム箔上にキャストし、溶媒の大部分が揮発するまで加熱し、電極膜を形成した。次に、動的真空下、約120゜で電極を乾燥させた。電極膜は、重量%表示で以下の成分を有する:88%の活物質(ドープ層状酸化物組成物)と、8%のスーパーC65カーボンと、9%のPVdFバインダ。
【0073】
(セル試験)
定電流サイクル技術を用いて、以下の方法でセルを評価した。
【0074】
所与の電流密度で、予め定められた電圧限界の間で、セルをサイクル評価した。Maccor社(米国、Tulsa、OK)による市販の電池サイクル装置を使用した。充電時には、アルカリイオンがカソード活物質から抽出される。放電中は、アルカリイオンは、カソード活物質に再挿入される。
【0075】
以下の表2には、試験結果のまとめを示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【表2-4】
(結果の考察)
比較例1
NaNi
0.5Mn
0.5O
2(サンプルX2895)
図1には、既知の材料NaNi
0.5Mn
0.5O
2(サンプル番号X2895)のX線回折パターンを示す。パターンは、この材料が単相のドープ層状O3-タイプの構造に従うことを示している。
【0080】
図2および
図3に示したデータは、Naイオンセル(セル#803039)におけるO3-NaNi
0.5Mn
0.5O
2カソード活物質の定電流サイクルデータから得られたものである。このカソード材料は、カーボンアノード材料と結合される。使用電解質は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物における0.5MのNaPF
6溶液である。定電流データは、1.00から4.3Vの電圧限界の間、約0.25mA/cm
2の電流密度で採取された。Naイオンセルが完全に充電されるようにするため、セルは、ポテンシオスタットを用いて、電流密度が定電流値の10%低下するまで、定電流充電プロセスの終端で4.3Vに維持される。試験は、30℃で実施した。充電プロセスの間、カソード活物質からナトリウムイオンが抽出され、硬質カーボンアノードに挿入される。その後の放電プロセスの間、ナトリウムイオンは、硬質カーボンから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
【0081】
図2には、硬質カーボン//NaNi
0.5Mn
0.5O
2セルの4回の充電/放電サイクルに対する、セル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関係)を示す。これらのデータは、容量保持率が比較的低いレベルであり、比較的大きなレベルの電圧ヒステリシス(すなわち、充電プロセスと放電プロセスの間の電圧差)を示しており、本カソード材料におけるNaイオン抽出-挿入反応の可逆性は、速度的に比較的劣ることが示唆される。
【0082】
図3には、定電流サイクル寿命プロファイル、すなわち硬質カーボン//NaNi
0.5Mn
0.5O
2セルにおける、放電のカソード比容量[mAh/g]とサイクル数との間の関係を示す。サイクル1では、カソードの放電比容量は、約141mAh/gである。サイクル9では、カソードの放電比容量は、約101mAh/gである。これは、9サイクルにわたる容量低下率が28.37%であること、あるいはサイクル当たり平均3.15%であることを表している。試験下でのカソード材料は、比較的容量保持挙動が劣ることが明確に示された。
【0083】
(比較例2)
NaNi
0.5Ti
0.5O
2(サンプルX2896)
図4に示すXRDパターンから、この材料は、単相のドープ層状O3タイプの構造に従うことが確認された。
【0084】
図5および
図6に示したデータは、Naイオンセル(セル#803040RH)におけるO3-NaNi
0.5Ti
0.5O
2カソード活物質の定電流サイクルデータから得られた。このカソード材料は、硬質カーボンアノード材料に結合される。使用電解質は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物における0.5MのNaPF
6溶液である。定電流データは、1.00から4.3Vの電圧限界の間、約0.25mA/cm
2の電流密度で採取された。Naイオンセルが完全に充電されるようにするため、セルは、ポテンシオスタットを用いて、電流密度が定電流値の10%低下するまで、定電流充電プロセスの終端で4.3Vに維持される。試験は、30℃で実施した。
【0085】
充電プロセスの間、カソード活物質からナトリウムイオンが抽出され、硬質カーボンアノードに挿入される。その後の放電プロセスの間、ナトリウムイオンは、硬質カーボンから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
図5には、硬質カーボン//NaNi
0.5Ti
0.5O
2セルの4回の充電/放電サイクルに対する、セル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関係)を示す。これらのデータは、容量保持率が比較的低いレベルであり、比較的大きなレベルの電圧ヒステリシス(すなわち、充電プロセスと放電プロセスの間の電圧差)を示しており、本カソード材料におけるNaイオン抽出-挿入反応の可逆性は、速度的に比較的劣ることが示唆される。
【0086】
図6には、定電流サイクル寿命プロファイル、すなわち硬質カーボン//NaNi
0.5Ti
0.5O
2セルにおける、放電のカソード比容量[mAh/g]とサイクル数との間の関係を示す。サイクル1では、カソードの放電比容量は、約107mAh/gである。サイクル19では、カソードの放電比容量は、約53mAh/gである。これは、19サイクルにわたる容量低下率が50.47%であること、あるいはサイクル当たり平均2.66%であることを表している。試験下でのカソード材料は、比較的容量保持挙動が劣ることが明確に示された。
【0087】
(比較例3)
Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2(サンプル番号X2748)
図7には、既知の材料Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2(サンプル番号X2748)のX線回折パターンを示す。パターンは、この材料が層状P2タイプの構造に従うことを示している。
【0088】
図8および
図9に示したデータは、Naイオンセル(セル#802064)におけるP2-
Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2カソード活物質の定電流サイクルデータから得られた。このカソード材料は、硬質カーボンアノード材料に結合される。使用電解質は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物における0.5MのNaPF
6溶液である。定電流データは、1.00から4.3Vの電圧限界の間、約0.25mA/cm
2の電流密度で採取された。Naイオンセルが完全に充電されるようにするため、セルは、ポテンシオスタットを用いて、電流密度が定電流値の10%低下するまで、定電流充電プロセスの終端で4.3Vに維持される。試験は、30℃で実施した。
【0089】
充電プロセスの間、カソード活物質からナトリウムイオンが抽出され、硬質カーボンアノードに挿入される。その後の放電プロセスの間、ナトリウムイオンは、硬質カーボンから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
図8には、硬質カーボン//Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2セルの最初の4回の充電/放電サイクルに対する、セル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関係)を示す。これらのデータは、容量保持率が比較的低いレベルであり、比較的大きなレベルの電圧ヒステリシス(すなわち、充電プロセスと放電プロセスの間の電圧差)を示しており、本カソード材料におけるNaイオン抽出-挿入反応の可逆性は、速度的に比較的劣ることが示唆される。
【0090】
図9には、定電流サイクル寿命プロファイル、すなわち硬質カーボン//Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2セルにおける、放電のカソード比容量[mAh/g]とサイクル数との間の関係を示す。サイクル1では、カソードの放電比容量は、約127mAh/gである。サイクル38では、カソードの放電比容量は、約62mAh/gである。これは、38サイクルにわたる容量低下率が51.18%であること、あるいはサイクル当たり平均1.35%であることを表している。試験下でのカソード材料は、比較的容量保持挙動が劣ることが明確に示された。
【0091】
(本発明による実施例の選定の結果)
実施例2
Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(サンプルX2505)
図10には、材料Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(サンプルX2505)のX線回折パターンを示す。パターンは、この材料が、O3タイプの構造を有する第1の相と、P2タイプの構造を有する第2の相の相混合物を有することを示している。リートベルト法を用いて、第1および第2の相の百分率を定めた。
【0092】
図11および
図12に示したデータは、Naイオンセル(セル#608010)におけるO3/P2-Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2カソード活物質の定電流サイクルデータから得られた。このカソード材料は、硬質カーボンアノード材料に結合される。使用電解質は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物における0.5MのNaPF
6溶液である。定電流データは、1.00から4.3Vの電圧限界の間、約0.25mA/cm
2の電流密度で採取された。Naイオンセルが完全に充電されるようにするため、セルは、ポテンシオスタットを用いて、電流密度が定電流値の10%低下するまで、定電流充電プロセスの終端で4.3Vに維持される。試験は、30℃で実施した。
【0093】
充電プロセスの間、カソード活物質からナトリウムイオンが抽出され、硬質カーボンアノードに挿入される。その後の放電プロセスの間、ナトリウムイオンは、硬質カーボンから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
図11には、硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2セルの最初の4回の充電/放電サイクルに対する、セル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関係)を示す。これらのデータは、優れたレベルの容量保持率を示し、電圧ヒステリシス(すなわち、充電プロセスと放電プロセスの間の電圧差)が低いレベルであり、Naイオン抽出-挿入反応の優れた速度的可逆性が示唆される。また、充電/放電電圧プロファイルの略対称性から、抽出-挿入反応の優れた可逆性が確認される。
【0094】
図12には、定電流サイクル寿命プロファイル、すなわち硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2セルにおける、放電のカソード比容量[mAh/g]とサイクル数との間の関係を示す。サイクル1では、カソードの放電比容量は、約144mAh/gである。サイクル36では、カソードの放電比容量は、約142mAh/gである。これは、36サイクルにわたる容量低下率が1.39%であること、あるいはサイクル当たり平均0.04%であることを表している。試験下でのカソード材料は、優れた容量保持挙動を示すことが明確に示された。
【0095】
実施例4
Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(サンプルX2506)
図13には、材料Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2(サンプルX2506)のX線回折パターンを示す。パターンは、この材料が、O3タイプの構造を有する第1の相と、P2タイプの構造を有する第2の相の相混合物を有することを示している。リートベルト法を用いて、第1および第2の相の百分率を定めた。
【0096】
図14および
図15に示したデータは、Naイオンセル(セル#608011)におけるO3/P2-
Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2カソード活物質の定電流サイクルデータから得られた。このカソード材料は、硬質カーボンアノード材料に結合される。使用電解質は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物における0.5MのNaPF
6溶液である。定電流データは、1.00から4.3Vの電圧限界の間、約0.25mA/cm
2の電流密度で採取された。Naイオンセルが完全に充電されるようにするため、セルは、ポテンシオスタットを用いて、電流密度が定電流値の10%低下するまで、定電流充電プロセスの終端で4.3Vに維持される。試験は、30℃で実施した。
【0097】
充電プロセスの間、カソード活物質からナトリウムイオンが抽出され、硬質カーボンアノードに挿入される。その後の放電プロセスの間、ナトリウムイオンは、硬質カーボンから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
図14には、硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2セルの最初の4回の充電/放電サイクルに対する、セル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関係)を示す。これらのデータは、優れたレベルの容量保持率を示し、電圧ヒステリシス(すなわち、充電プロセスと放電プロセスの間の電圧差)が低いレベルであり、Naイオン抽出-挿入反応の優れた速度的可逆性が示唆される。また、充電/放電電圧プロファイルの略対称性から、抽出-挿入反応の優れた可逆性が確認される。
【0098】
図15には、定電流サイクル寿命プロファイル、すなわち硬質カーボン//Na
0.867Ni
0.333Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.1O
2セルにおける、放電のカソード比容量[mAh/g]とサイクル数との間の関係を示す。サイクル1では、カソードの放電比容量は、約143mAh/gである。サイクル30では、カソードの放電比容量は、約140mAh/gである。これは、30サイクルにわたる容量低下率が2.10%であること、あるいはサイクル当たり平均0.07%であることを表している。試験下でのカソード材料は、優れた容量保持挙動を示すことが明確に示された。
【0099】
実施例8
Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2(サンプルX2663)
図16には、材料Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2(サンプルX2663)のX線回折パターンを示す。パターンは、この材料が、O3タイプの構造を有する第1の相と、P2タイプの構造を有する第2の相の相混合物を有することを示している。リートベルト法を用いて、第1および第2の相の百分率を定めた。
【0100】
図17および
図18に示したデータは、Naイオンセル(セル#706006)におけるO3/P2-Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2カソード活物質の定電流サイクルデータから得られた。このカソード材料は、硬質カーボンアノード材料に結合される。使用電解質は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)の混合物における0.5MのNaPF
6溶液である。定電流データは、1.00から4.3Vの電圧限界の間、約0.25mA/cm
2の電流密度で採取された。Naイオンセルが完全に充電されるようにするため、セルは、ポテンシオスタットを用いて、電流密度が定電流値の10%低下するまで、定電流充電プロセスの終端で4.3Vに維持される。試験は、30℃で実施した。
【0101】
充電プロセスの間、カソード活物質からナトリウムイオンが抽出され、硬質カーボンアノードに挿入される。その後の放電プロセスの間、ナトリウムイオンは、硬質カーボンから抽出され、カソード活物質に再挿入される。
図17には、硬質カーボン//Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2セルの最初の4回の充電/放電サイクルに対する、セル電圧プロファイル(すなわち、Naイオンセル電圧[V]と累積カソード比容量[mAh/g]の関係)を示す。これらのデータは、優れたレベルの容量保持率を示し、電圧ヒステリシス(すなわち、充電プロセスと放電プロセスの間の電圧差)が低いレベルであり、Naイオン抽出-挿入反応の優れた速度的可逆性が示唆される。また、充電/放電電圧プロファイルの略対称性から、抽出-挿入反応の優れた可逆性が確認される。
【0102】
図18には、定電流サイクル寿命プロファイル、すなわち硬質カーボン//Na
0.833Ni
0.317Mn
0.467Mg
0.1Ti
0.117O
2セルにおける、放電のカソード比容量[mAh/g]とサイクル数との間の関係を示す。サイクル1では、カソードの放電比容量は、約132mAh/gである。サイクル32では、カソードの放電比容量は、約129mAh/gである。これは、32サイクルにわたる容量低下率が2.27%であること、あるいはサイクル当たり平均0.07%であることを表している。試験下でのカソード材料は、優れた容量保持挙動を示すことが明確に示された。
【0103】
(反応温度と、製造されるP2タイプの相の量に対する製造されるO3タイプの相の量の間の関係)
Na0.867Ni0.333Mn0.467Mg0.1Ti0.1O2
【0104】
【表3】
上記表3および
図19には、合成温度の上昇とともに、P2構造を有する相に対してO3構造を有する相の割合が増加することを示す。
【0105】
Na0.8Ni0.35Mn0.48Mg0.05Ti0.12O2
【0106】
【表4】
上記表4および
図20には、合成温度の上昇とともに、P2構造を有する相に対してO3構造を有する相の割合が増加することを示す。
【0107】
Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.100Ti0.117O2
【0108】
【表5】
上記表5および
図21には、合成温度の上昇とともに、P2構造を有する相に対してO3構造を有する相の割合が増加することを示す。