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特許7236495糖化最終産物の分解促進剤の製造方法、抗老化剤の製造方法、糖化最終産物の分解促進用医薬品の製造方法、糖化最終産物の分解促進用化粧品の製造方法、および糖化最終産物の分解促進用食品または飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】糖化最終産物の分解促進剤の製造方法、抗老化剤の製造方法、糖化最終産物の分解促進用医薬品の製造方法、糖化最終産物の分解促進用化粧品の製造方法、および糖化最終産物の分解促進用食品または飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230302BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20230302BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230302BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230302BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P43/00 111
A61K8/98
A61Q19/08
A23L33/10
A23L2/00 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021069148
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163980
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521163824
【氏名又は名称】株式会社RMDC
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(74)【代理人】
【識別番号】100174012
【弁理士】
【氏名又は名称】小前 陽一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 真希
(72)【発明者】
【氏名】團 克昭
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】Med. Hypotheses, (2016), 88, p.6-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪由来幹細胞に対して電気的刺激を付与する工程と、
前記電気的刺激を付与した脂肪由来幹細胞からExosomeを抽出する工程と、
前記抽出したExsomeを糖化最終産物の分解促進剤に配合する工程と
を含む糖化最終産物の分解促進剤の製造方法。
【請求項2】
前記糖化最終産物の分解促進剤が、さらに抗酸化作用を有する請求項1記載の糖化最終産物の分解促進剤の製造方法。
【請求項3】
前記糖化最終産物の分解促進剤が、さらにヒートショックプロテイン誘導能を有する請求項1または2記載の糖化最終産物の分解促進剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法により糖化最終産物の分解促進剤を製造する工程と、
前記製造された糖化最終産物の分解促進剤を抗老化剤とする工程と
を含む抗老化剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法により糖化最終産物の分解促進剤を製造する工程と、
前記製造された糖化最終産物の分解促進剤を医薬品に配合する工程と
を含む糖化最終産物の分解促進用医薬品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法により糖化最終産物の分解促進剤を製造する工程と、
前記製造された糖化最終産物の分解促進剤を化粧品に配合する工程と
を含む糖化最終産物の分解促進用化粧品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法により糖化最終産物の分解促進剤を製造する工程と、
前記製造された糖化最終産物の分解促進剤を食品または飲料に配合する工程と
を含む糖化最終産物の分解促進用食品または飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化最終産物の分解促進剤、抗老化剤、医薬品、化粧品、食品または飲料、および糖化最終産物の分解促進剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三大老化反応は、酸化反応、糖化反応、慢性炎症反応である。また細胞の老化は加齢に伴う病態と密接に関係している。例えばマウスの体から老化細胞を取り除くと寿命が長くなることなどからも証明されてきている。
【0003】
化粧品領域においては、端的に肌細胞(線維芽細胞、角化細胞、メラノサイトなど)の老化を防ぐ、または遅らせることが肌の抗老化と捉えられ、三大老化反応の抑制によりシワ、シミ、くすみ、たるみなどに功奏すると考えられている。
【0004】
細胞老化に関連した重要な事象は糖化反応であるが、ヒトは、食物性炭水化物を主要なエネルギー源として使っているため、血糖によるタンパク質の糖化を避けることはできない。糖化反応は、種々のタンパク質中のアミノ酸残基の非酵素的化学反応であり、高度な糖化最終産物(AGE)を生成する。AGEは、生物体全体の老化において重要な役割を果たし、広範な種々の疾患に関与する。
【0005】
例えば、皮膚コラーゲン中のAGE濃度は加齢とともに増加し、同年齢の健常人よりも糖尿病患者で高い。さらに、細胞内のAGEの形成および蓄積は、皮膚老化、アルツハイマー病、高血圧、動脈硬化および骨粗鬆症に関与することが示されている。
【0006】
AGEの受容体としては、細胞内シグナル経路を活性化し、特に炎症に結びつき、ROS(活性酸素)の蓄積に関わるものと、AGEの分解・除去に関わるものがある。
【0007】
細胞老化を防ぐ、または遅らせるためには、前者の働きを抑え、後者の働きを促進することが求められる。ここで、前者のAGE受容体としては、RAGE、AGE-R2等が挙げられ、後者のAGE受容体としては、FEEL-1、FEEL-2、AGE-R1、AGE-R3、CD36等が挙げられる。
例えば、特許文献1においては、D-ピニトールを有効成分とするAGE-R1の合成促進剤およびRAGEの合成抑制剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-122057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、効果的に糖化最終産物の分解を促進することができる糖化最終産物の分解促進剤およびその製造方法、また、この糖化最終産物の分解促進剤を用いた抗老化剤、医薬品、化粧品、食品または飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、所定の刺激を付与した細胞から抽出されたExosomeを用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、
(1) 電気的刺激を付与した細胞から抽出したExosomeを用いた糖化最終産物の分解促進剤、
(2) 前記細胞は幹細胞である(1)記載の糖化最終産物の分解促進剤、
(3) さらに抗酸化作用を有する(1)または(2)記載の糖化最終産物の分解促進剤、
(4) さらにヒートショックプロテイン誘導能を有する(1)~(3)の何れかに記載の糖化最終産物の分解促進剤、
(5) (1)~(4)の何れかに記載の糖化最終産物の分解促進剤を含有する抗老化剤、
(6) (1)~(4)の何れかに記載の糖化最終産物の分解促進剤を含有する医薬品、
(7) (1)~(4)の何れかに記載の糖化最終産物の分解促進剤を含有する化粧品、
(8) (1)~(4)の何れかに記載の糖化最終産物の分解促進剤を含有する食品または飲料、
(9) 細胞に対して電気的刺激を付与する工程と、前記電気的刺激を付与した細胞からExosomeを抽出する工程とを含む糖化最終産物の分解促進剤の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、効果的に糖化最終産物の分解を促進することができる糖化最終産物の分解促進剤およびその製造方法、また、この糖化最終産物の分解促進剤を用いた抗老化剤、医薬品、化粧品、食品または飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の糖化最終産物の分解促進剤について説明する。
本発明の糖化最終産物の分解促進剤は、電気的刺激を付与した細胞から抽出されたExosomeを用いたものである。
【0014】
(細胞)
本発明において用いる細胞は特に限定されないが、幹細胞を用いることが好ましい。また、幹細胞としては、特に限定されないが、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、表皮幹細胞、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、その他全ての組織幹細胞等を用いることができる。また、幹細胞は、ヒト由来(自家細胞)であってもよいし、異種由来(他家細胞)であってもよい。異種由来の幹細胞の種として、牛、馬、豚、犬、猫、マウス、ラット、羊等が挙げられる。また、自家細胞を用いる場合、自己の細胞を用いてもよいし、他人の細胞を用いてもよい。
【0015】
(電気的刺激)
本発明においては、細胞に対して電気的刺激を付与する。電気的刺激は、細胞が培養されているインキュベーター内に電場を付与できる構成であれば、特に限定されないが、電磁界発生装置を用いる方法が挙げられる。また、電気的刺激を付与する際の温度は、特に限定されないが、通常の培養温度(例えば、37℃)で付与することが好ましい。また、細胞に対して1~3,500Vの電圧を印加することが好ましく、1,500~3,500Vの電圧を印加することが更に好ましい。幹細胞に電気的刺激を付与することにより、有用な細胞分泌物の産生が促進される。
【0016】
(Exosome)
本発明においては、電気的刺激を付与した細胞からExosomeを抽出する。Exosomeの抽出方法としては、超遠心分離法、限外濾過法、ゲル濾過法、HPLC、抽出用試薬を用いる方法、Exosomeをトラップできるように処理されたろ紙を用いる方法等が挙げられる。
【0017】
(作用)
本発明の電気的刺激を付与した幹細胞から抽出されたExosomeは、AGEの分解促進作用を有する。本発明においては、特に、AGE受容体であるFEEL-1のmRNAの発現を促進させることが明らかとなった。ここで、FEEL-1は、細胞外のAGEをEndocytosisによって細胞内へ取り込み、Lysosomeでの分解処理を手助けする。その結果、抗老化作用、特に皮膚における抗老化作用を得ることができる。なお、RAGEおよびAGE-R2のうちの少なくとも一つのmRNAの発現を抑制し、FEEL-1、FEEL-2、AGE-R1、AGE-R3およびCD36のうちの少なくとも一つのmRNAの発現を促進することにより、抗老化作用を得ることができる。
【0018】
また、本発明のAGEの分解促進剤は、抗酸化作用をも有する。即ち、食品等の抗酸化力(活性酸素吸収能力)を示す値であるORAC値において、2500~3500μmol TE/L(TE:Trolox Equivalent(トロロックス当量))を示す。なお、食品における抗酸化力としては、タマネギで約1700μmolTE/Lである。
【0019】
また、本発明の電気的刺激を付与した幹細胞は、ヒートショックプロテインの誘導能を有する。ここで、ヒートショックプロテイン(Hsp)細胞が熱や紫外線、活性酸素等からストレスを受けた際に発現し、細胞を保護するタンパク質である。本発明の電気的刺激を付与した幹細胞は、特にHsp104、gp96、Hsp90、Hsp70、Hsp60およびHsp32の誘導能を有する。Hsp104は異常タンパク質の再生(修復)に関与し、gp96は免疫力向上に関与し、Hsp90は他のたんぱく質の活性調節に関与し、Hsp70は最も代表的なヒートショックプロテインであり、強力な細胞死保護作用を有し、Hsp60はミトコンドリアにおけるタンパク質をフォールディング維持、ミトコンドリア等へのタンパク質の膜透過に関与し、Hsp32はヘム分解に関与し、ヘム分解生成物は抗酸化作用を有する。
【0020】
(用途)
上記のように電気的刺激を付与した幹細胞を化粧品に配合することができる。化粧品としては、化粧水、乳液、洗顔料、クレンジング、美容液、クリーム、ファンデーション、アイブロー、マスカラ、アイシャドウ、アイライン、口紅、グロス、チーク、白粉、マニキュア等が挙げられる。また、化粧品の形態としては、液体、クリーム、固体、スティック、粉末等の形態を採用することができる。
【0021】
また、本発明の糖化最終産物の分解促進剤は、肌細胞の抗老化作用効果を有するため、これらを目的とした医薬品に配合させることもできる。医薬品としては、予防薬、治療薬のいずれにも用いることができる。
【0022】
医薬品に配合させる場合には、本発明の糖化最終産物の分解促進剤を単独で用いてもよいし、又は一般に製剤上許容される添加剤と共に混和し、製剤化してもよい。また、投与形態としては、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、エキス剤等の経口剤を用いた投与形態または、注射剤、液剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤、パップ剤、ローション剤等の非経口剤を用いた投与形態等が挙げられるが、特に制限はなく、治療や予防の目的等に応じて適宜選択することができる。
【0023】
また、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、散剤の場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の添加剤を含有させることができる。賦形剤としては、デンプン、カルボキシメチルセルロース、白糖、デキストリン、コーンスターチ等を挙げることができる。
【0024】
結合剤としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0025】
崩壊剤としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0026】
滑沢剤としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0027】
また、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤の場合には、水や植物油等の一般的に用いられる不活性な希釈剤の他、着色剤、矯味剤、着香剤等を添加剤として含有させてもよい。
【0028】
また、注射剤の場合には、懸濁液、乳濁液、用時溶解剤等の添加剤を含有させることができる。また、軟膏剤、坐剤の場合には、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、ろう、樹脂、プラスチック、基剤、グリコール類、高級アルコール、水、乳化剤、懸濁化剤等を添加剤として含有させることができる。また、パップ剤の場合にはグリセリン、水、水溶性高分子、吸水性高分子等を添加物として含有させることができる。また、ローション剤の場合には、溶剤、乳化剤、懸濁化剤等を添加剤として含有させることができる。
【0029】
また、本発明の糖化最終産物の分解促進剤を、食品や飲料等に配合させてもよい。食品としては、パン類、麺類、菓子類、食肉加工品、魚介加工品、冷凍食品、ゼリー類、アイスクリーム類、乳製品、各種調味料等が挙げられる。また、一般食品の他、特定保健用食品、医薬部外品、健康食品、サプリメントにも配合させることができる。飲料としては、清涼飲料水、乳飲料、酒類、茶、紅茶飲料、コーヒー、果汁飲料、炭酸飲料、ミネラルウォーター類、果実・野菜飲料等が挙げられる。
また、本発明の糖化最終産物の分解促進剤を配合させた食品や飲料を、錠剤、カプセル剤、シロップ等の経口投与製剤と同様の形態としてもよい。
【0030】
また、本発明の糖化最終産物の分解促進剤を配合させた食品や飲料を製造する際に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、乳化剤、膨張剤、酸味料、光沢剤、香料等の添加剤;溶剤;油を添加してもよい。これらの添加剤は一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記食品や飲料中に配合される糖化最終産物の分解促進剤の割合は、使用目的に応じて適宜調整することができるが、上記食品や飲料中に配合される糖化最終産物の分解促進剤の割合は、好ましくは0.0001~80重量%、より好ましくは0.003~50重量%、さらに好ましくは0.005~30重量%である。
【0032】
さらに、本発明において、上記のヒートショックプロテインの誘導能を有するものとして、電気的刺激を付与した幹細胞から抽出されたExosomeを上記の化粧品、医薬品、食品および飲料に配合してもよい。
【実施例
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(検体)
所定の培養液を用いて幹細胞(ヒト脂肪由来幹細胞)を37℃のインキュベーター内で培養し、電磁界発生装置を用いて電場を作り出すことにより、幹細胞に電気的刺激を付与した。ここで、幹細胞には1~3,500Vの電圧を印加した。そして、電気的刺激を付与した幹細胞を含む培養液の上清から超遠心分離機によりExosomeを抽出した。抽出したExosomeは、培養液に添加して、4時間インキュベーションし、検体Aとした。
【0034】
また、電気的刺激を付与した幹細胞を含む培養液の培地(電気的刺激を付与した培養液)を検体Bとした。即ち、検体Bは、Exosomeを含まないものである。
【0035】
また、所定の培養液を用いて幹細胞を37℃のインキュベーター内で培養し、電気的刺激を付与せずに、幹細胞を含む培養液の上清から超遠心分離機によりExosomeを抽出した。抽出したExosomeは、1/100量で(最終濃度;100pg/ml)培養液に添加して、4時間インキュベーションし、検体Cとした。
【0036】
また、電気的刺激の付与を行わなかった幹細胞を含む培養液の培地(電気的刺激を付与していない培養液)を検体Dとした。即ち、検体Dは、Exosomeを含まないものである。
【0037】
(幹細胞培養液のヒト皮膚繊維芽細胞における抗老化作用の検討)
培養したヒト皮膚線維芽細胞に対して、(1)上記検体A~Dをそれぞれ単独で添加した場合、および(2)上記検体A~DのそれぞれとAGEをともに添加した場合のAGE受容体のmRNAレベルを定量RT-PCRにより測定し、無処置コントロールと比較した。(1)については、添加してから4時間経過時に、(2)については、添加してから1時間経過時および4時間経過時に測定を行った。
【0038】
なお、検体A~Dそれぞれについて、培養液で1/1量(最終濃度;10ng/ml)、1/10量(最終濃度;1ng/ml)、1/100量(最終濃度;100pg/ml)としたものについて測定した。結果は相対的倍数(Delta Delta Ct値)にて求めた。また、検出されない検体については、55サイクルとして算出した。
【0039】
定量PCR法の具体的な手順としては以下のように行った。検体を添加したヒト皮膚線維芽細胞からTrizol試薬(ambion)を用いてTotal RNAの抽出を行った。抽出したRNAからPrimeScript RT Master Mix (Takara)の方法に準じてcDNAに逆転写し、SYBR Premix EX Taq II (Takara)により増幅を行った。なお、PCR反応液としては、50μL(25μL SYBR Green Mix (2x), 1μL cDNA, 2μL primer pair mix (5pmol/μL each primer), 22μL HO)のPCR反応液を用い、反応は95℃にて30秒を1サイクル、さらに95℃にて5秒および60℃にて30秒のサイクルを50サイクルの条件にて行った。
【0040】
結果として、下記表1に、上清の測定結果から培地の測定結果を引いた値(即ち、検体Aの測定結果から検体Bの測定結果を引いた値、および、検体Cの測定結果から検体Dの測定結果を引いた値)を示す。
【0041】
また、下記表2に電気的刺激を付与したものの測定結果から電気的刺激を付与していないものの測定結果を引いた値(即ち、検体Aの測定結果から検体Cの測定結果を引いた値、および、検体Bの測定結果から検体Dの測定結果を引いた値)を示す。表1および表2に示す値が2以上であると、有意な差といえる。なお、表1および表2において、有意な差といえる値については太枠にて示した。値が2以上であっても、異常値と認められるもの、上記のように検出されないため便宜上55サイクルとして算出したものが含まれているものについては、太枠表示を省略した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1および表2から、AGE共存下において電気的刺激を付与した幹細胞の上清から抽出されたExosomeでは、特にFEEL-1のmRNAレベルの上昇が認められ、AGEの分解促進能を有することが示された。
【0045】
(ORAC値)
H-ORAC測定キット(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて、検体A~DそれぞれのORAC値を求めた。即ち、測定原理に基づき、蛍光強度(励起波長;485±20nm, 検出波長;530±25nm)の変化を2分おきに90分間測定した。抗酸化物質としてTrolox溶液から検量線を立ち上げ、その検量線からの読み取り値(Trolox換算値)として、検体A~Dそれぞれの抗酸化力(ORAC値)を算出した。
【0046】
読み取り値より、検体Aの抗酸化力は3.0mmol TE/L (3000μmol TE/L)、検体Bの抗酸化力は2.6mmol/L (2600μmol TE/L)、検体Cの抗酸化力は3.5mmol/L (3500μmol TE/L)、検体Dの抗酸化力は3.2mmol/L (3200μmol TE/L)であった。すなわち、検体は抗酸化力を有することが示された。
【0047】
(ヒートショックプロテイン誘導能の検討)
培養したヒト皮膚線維芽細胞に対して、(1)上記検体A~Dをそれぞれ単独で添加した場合、および(2)上記検体A~DのそれぞれとAGEをともに添加した場合のヒートショックプロテイン(Hsp)のmRNAレベルを定量RT-PCRにより測定し、無処置コントロールと比較した。Hspとして、Hsp104、gp96、Hsp90、Hsp70、Hsp60およびHsp32についてmRNAのレベルを測定した。また、(1)については、添加してから4時間経過時に、(2)については、添加してから1時間経過時および4時間経過時に測定を行った。
【0048】
なお、検体A~Dそれぞれについて、培養液で1/1量(最終濃度;10ng/ml)、1/10量(最終濃度;1ng/ml)、1/100量(最終濃度;100pg/ml)としたものについて測定した。結果は相対的倍数(Delta Delta Ct値)にて求めた。また、検出されない検体については、55サイクルとして算出した。
【0049】
結果として、表3に電気的刺激を付与したものの測定結果から電気的刺激を付与していないものの測定結果を引いたもの(即ち、検体Aの測定結果から検体Cの測定結果を引いたもの、および、検体Bの測定結果から検体Dの測定結果を引いたもの)を示す。表3に示す値が2以上であると、有意な差といえる。なお、表3において、有意な差といえる値については太枠にて示した。値が2以上であっても、異常値と認められるもの、上記のように検出されないため便宜上55サイクルとして算出したものが含まれているものについては、太枠表示を省略した。
【0050】
そして、ヒト皮膚線維芽細胞に検体添加後、1時間および4時間におけるHsp32、Hsp47、Hsp70、gp96およびHsp90のmRNAレベルを定量PCR法により測定した。
定量PCR法の具体的な手順としては、上記(幹細胞培養液のヒト皮膚繊維芽細胞における抗老化作用の検討)に記載の手順と同様の手順にて行った。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、数種のHspのmRNAレベルを上昇させる可能性が示唆された。