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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】磁気熱量カスケード
(51)【国際特許分類】
   F25B 21/00 20060101AFI20230302BHJP
   H01F 1/01 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
F25B21/00 A
H01F1/01 120
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021113032
(22)【出願日】2021-07-07
(65)【公開番号】P2023009607
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大坪健佑
(72)【発明者】
【氏名】副島慧
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-503754(JP,A)
【文献】特表2019-534376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 21/00
H01F 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるキュリー温度を有する複数の磁気熱量物質を連続して配置することで構成される磁気熱量カスケードにおいて、
前記複数の磁気熱量物質が、キュリー温度の高低順に連続して配置された少なくとも1つの末端側である特定末端側に近づくにつれて、配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭いと共に、前記磁気熱量物質の階層性能Hpが以下で定義され、
[式1]
Hp=W/△Tc
(但し、Wは一の磁気熱量物質の充填質量であり、△Tcは当該一の磁気熱量物質が前記特定末端側として隣接する他の磁気熱量物質とのキュリー温度差である)
前記複数の磁気熱量物質の各々の階層性能Hpが、同一であることを特徴とする
磁気熱量カスケード。
【請求項2】
異なるキュリー温度を有する複数の磁気熱量物質を連続して配置することで構成される磁気熱量カスケードにおいて、
前記複数の磁気熱量物質が、キュリー温度の高低順に連続して配置された少なくとも1つの末端側である特定末端側に近づくにつれて、配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭いと共に、前記磁気熱量物質の階層性能Hpが以下で定義され、
[式2]
Hp=W/△Tc
(但し、Wは一の磁気熱量物質の充填質量であり、△Tcは当該一の磁気熱量物質が前記特定末端側として隣接する他の磁気熱量物質とのキュリー温度差である)
前記複数の磁気熱量物質の各々の階層性能Hpが、少なくとも1つの末端側である特定末端側に近づくにつれて大きくなることを特徴とする
磁気熱量カスケード。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気熱量カスケードにおいて、
前記複数の磁気熱量物質が、少なくとも高温側に近づくにつれて、配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭いことを特徴とする、
磁気熱量カスケード。
【請求項4】
請求項に記載の磁気熱量カスケードにおいて、
前記複数の磁気熱量物質の各々の階層性能Hpの最大値と最小値の比率が、1より大きく3より小さい、
磁気熱量カスケード。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の磁気熱量カスケードを備え、AMRベッド、磁気冷凍システム、及び磁気ヒートポンプからなる群から選択される、
磁気冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の磁性体材料から階層的に構成される磁気熱量カスケードのうち、特に優れた磁気熱量効果を発揮する磁気熱量カスケードに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気熱量物質とは、磁性が強磁性から常磁性に転移する温度であるキュリー温度(Tc)をまたぐことで、相転移が発生し、大きな磁気熱量効果や断熱温度変化が得られる物質である。
【0003】
このような磁気熱量物質を用いた装置の一例として、磁気冷凍装置が挙げられる。
【0004】
磁気冷凍装置は、磁気熱量効果または断熱温度変化を有する磁性体材料である磁気熱量物質(磁気冷凍物質)を冷媒として、その磁気熱量効果つまり等温状態で磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる磁気エントロピー変化量及び断熱状態で磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる断熱温度変化を利用する。
【0005】
磁気冷凍装置は、フロンガスが不要な構成であり、地球温暖化、オゾン層の破壊などの環境問題を引き起こすフロンガスを冷媒に用いる従来の気体冷凍装置を代替する可能性があり、安全性も高い。
【0006】
この優れた利点を活かしつつ、磁気熱量物質による磁気熱量効果をさらに向上させるために、高温、低温間の動作温度範囲を複数個に分割し、それぞれの温度範囲において異なった複数個の磁気熱量物質を用いることで、磁気熱量物質を階層的に連結して構成される磁気熱量カスケードが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
磁気熱量カスケードの特性をさらに向上させるために、さらなる研究がなされている。
【0008】
例えば、従来の磁気熱量カスケードとしては、異なるキュリー温度を有する少なくとも3つの異なる磁気熱量物質を含む磁気熱量カスケードであり、異なるキュリー温度を有する異なる磁気熱量物質は、キュリー温度が低下するように連続して配置されており、異なるキュリー温度を有する異なる磁気熱量物質のいずれも、最高のキュリー温度を有する磁気熱量物質より高い層性能Lpを持つことはなく、異なるキュリー温度を有する異なる磁気熱量物質の少なくとも1つが、最高のキュリー温度を有する磁気熱量物質より低い層性能Lpを持ち、特定の磁気熱量物質のLpは、下記式(I):
Lp=m*dTad,max[但し、dTad,maxは、特定の磁気熱量物質が磁気熱量サイクル中に低磁場から高磁場に磁化された時に、特定の磁気熱量物質が受ける最大の断熱温度変化であり、mは、前記磁気熱量カスケードに含まれる特定の磁気熱量物質の質量である。]に従い計算されるものも知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭60-8672号公報
【文献】特表2016-514360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の磁気熱量カスケードは、特許文献2のように高温側の磁気熱量物質の重量を増大させる構成によって冷却能力を高めようとするものがあるが、このような磁気熱量物質の重量が一方に偏重する構成のもとでは、装置に占める材料重量が極端に多くなるという課題がある。
【0011】
さらに、従来の磁気熱量カスケードは、実用化に際して、例えば、磁気冷凍装置として用いる場合には、フロンガスを代替し得るだけの冷凍能力を発揮する必要があることから、最大温度スパンの維持と、高い冷凍能力を両立することが望まれているが、そのような優れた磁気熱量カスケードは現在のところ見当たらない。
【0012】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、簡便な構成で、装置に占める材料重量を維持しつつ、最大温度スパンの維持と高い冷凍能力を両立可能とする磁気熱量カスケードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究の結果、磁気熱量カスケードを作成するにあたり、磁気熱量物質の配置構成を工夫することによって、最大温度スパンや冷凍能力を大幅に向上できることを見出した。
【0014】
かくして、本発明に拠れば、異なるキュリー温度を有する複数の磁気熱量物質を連続して配置することで構成される磁気熱量カスケードにおいて、前記複数の磁気熱量物質が、キュリー温度の高低順に連続して配置された少なくとも1つの末端側である特定末端側に近づくにつれて、配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭いことを特徴とする磁気熱量カスケードが提供される。また、当該磁気熱量カスケードを備え、AMRベッド、磁気冷凍システム、及び磁気ヒートポンプからなる群から選択される、磁気冷凍装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る磁気熱量カスケードのキュリー温度間隔を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る磁気熱量カスケードのキュリー温度間隔を示す説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る磁気熱量カスケードの構成を示す説明図である。
図4】実施例1、実施例2、および比較例1に係る磁気熱量カスケードの冷凍能力の測定結果を示す。
図5】実施例1~4、比較例1、および比較例2に係る磁気熱量カスケードの冷凍能力の測定結果を示す。
図6】実施例1~4に係る磁気熱量カスケードを構成する各磁気熱量物質の階層性能Hpを比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る磁気熱量カスケード10は、図1に示すように、異なるキュリー温度t、t、t・・・を有する複数の磁気熱量物質11(11a、11b、11c・・・)を連続して配置することで構成される磁気熱量カスケードにおいて、この複数の磁気熱量物質11が、キュリー温度の高低順に連続して配置された少なくとも1つの末端側である特定末端側M(またはM、M)に近づく方向L(またはL、L)につれて、配置されたキュリー温度間隔d、d、d・・・が相対的に狭い構成である。
【0017】
磁気熱量カスケードとは、複数の磁気熱量物質を連続的に配置して形成された構成であり、複数の磁気熱量物質11が、全体を構成する個々のユニットであるという点から、磁気熱量カスケードユニットとも呼ぶことができる。
【0018】
複数の磁気熱量物質11をキュリー温度の高低順に連続して配置するとは、例えば、キュリー温度t、t、t・・・の高い磁気熱量物質11から低い磁気熱量物質11の順に並べて配置することが可能であり、この他、キュリー温度t、t、t・・・の低い磁気熱量物質11から高い磁気熱量物質11の順に並べて配置することも可能であり、冷却用途か加熱用途か等の目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0019】
このキュリー温度の高低順に連続して配置された少なくとも1つの末端側である特定末端側については、例えば、図1(a)に示すように、キュリー温度が最も高い高温末端側を特定末端側Mとすることができる。また、例えば、図1(b)に示すように、キュリー温度が最も低い低温末端側を特定末端側Mとすることができる。この他にも、図1(c)に示すように、これら高温末端側及び低温末端側の両方を特定末端側Mとすること(特定末端側Mが高温末端側及び低温末端側の両側にあることからV字型構成ともいう)も可能である。
【0020】
例えば、キュリー温度が最も高い高温末端側を特定末端側Mとすることで、磁気冷凍特性を発揮することができ、磁気熱量カスケードを磁気冷凍装置として用いることが可能となる。また、例えば、キュリー温度が最も低い高温末端側を特定末端側Mとすることで、磁気加熱特性を発揮することができ、磁気熱量カスケードを磁気加熱装置として用いることも可能となる。このように、特定末端側Mの位置は、目的や用途(例えば冷却や加熱)に応じて適宜選択することができる。
【0021】
配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭いとは、特定末端側Mに近づくにつれて、各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔が、この特定末端側Mから離れている他の箇所の磁気熱量物質11のキュリー温度間隔と比べて狭いことである。
【0022】
このキュリー温度間隔が相対的に狭いことの度合いは、例えば、図2(a)に示すように、複数の磁気熱量物質11のキュリー温度t、t、t・・・の温度間隔d、d、d・・・が、この特定末端側Mに近づくにつれて、線形的に(段階的に)徐々に狭くなる構成(d<d<d・・・)とすることが可能である。
【0023】
この他にも、本実施形態に係る磁気熱量カスケードは、図2(b)に示すように、複数の磁気熱量物質11のキュリー温度t、t、t・・・の温度間隔d、d、d・・・が、特定末端側Mに近づくにつれて、その大小関係がd<d<d・・・のようにまばらになっているとしても、特定末端側Mに近い各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔d、d、d・・・の平均値が、他の箇所の各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔の平均値より小さい構成も含まれる。すなわち、各磁気熱量物質11のうち、特定末端側Mに近づく一定範囲内のキュリー温度間隔d、d、d・・・が、特定末端側Mとは離れている位置(方向Lとは逆方向に離れている位置)にある他の箇所のキュリー温度間隔よりも相対的に狭いという構成も含まれる。
【0024】
複数の磁気熱量物質11を連続して配置するとは、物理的には、複数の磁気熱量物質11を直接連結して配置することが含まれるが、直接連結していなくても、図3(a)に示すように、各磁気熱量物質11(11a、11b、11c・・・)を仕切りで分けて構成される個々の物質収容領域A、A・・・に収容して、各磁気熱量物質11を直方体形状の容器に直列的に連続して収容する構成も可能である。
【0025】
この各物質収容領域A、A・・・内に収容された個々の磁気熱量物質11a、11b、11c・・・の状態については、焼成されていてもよいし、成型加工されていてもよいし、粉末状態を維持したまま充填されていてもよい。
【0026】
また、各磁気熱量物質11を収容する各物質収容領域A、A、A、・・・の方向Lに沿う長さm、m、m・・・については、図3(a)に示すように、高温末端側の特定末端側Mに近づく方向Lにつれて、各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔が狭くなるのと連動して、狭くなる構成(m<m<m<・・・)とすることができる。また、図3(b)に示すように、低温末端側の特定末端側Mに近づく方向Lにつれて、各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔が狭くなるのと連動して、各物質収容領域A、A、A、・・・の方向Lに沿う長さm、m、m・・・が狭くなる構成(m<m<m<・・・)とすることができる。
【0027】
また、図3(c)に示すように、高温末端側の特定末端側Mに近づく方向L1、および低温末端側の特定末端側Mに近づく方向Lにつれて、各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔が狭くなるのと連動して、各物質収容領域A、A、A、・・・の方向Lに沿う長さm、m、m・・・が狭くなる構成(m<m<m<・・・)とすることができる。この他にも、図3(d)に示すように、高温末端側の特定末端側Mに近づく方向Lにつれて、各磁気熱量物質11のキュリー温度間隔が狭くなるのと独立して、各物質収容領域A、A、A、・・・の方向Lに沿う長さm、m、m・・・がすべて等しい構成(m=m=m=・・・)とする構成も可能である。
【0028】
本実施形態に係る磁気熱量カスケードは、個々の磁気熱量物質11の充填質量と、隣接する磁気熱量物質間のキュリー温度差との相関関係について、特に限定されないが、より好適には、これらの相関関係について、磁気熱量物質の階層性能Hpが以下で定義され、複数の磁気熱量物質の各々の階層性能Hpが、同一である、という構成が可能である。
【式1】
【0029】
Hp=W/△Tc
【0030】
ここで、Wは、一の磁気熱量物質11の充填質量である。△Tcは、この一の磁気熱量物質11がこの特定末端側として隣接する他の磁気熱量物質11とのキュリー温度差である。つまり、△Tcは、ある所定の磁気熱量物質11(一の磁気熱量物質)を取り出したときに、その隣接する磁気熱量物質11(他の磁気熱量物質)とのキュリー温度差を示す。この磁気熱量物質11(一の磁気熱量物質)と、隣接する磁気熱量物質11(他の磁気熱量物質)との位置関係は、磁気熱量物質11(一の磁気熱量物質)が特定末端側にあるとして扱われる。
【0031】
例えば、上記の図1(a)の場合では、磁気熱量物質11b(一の磁気熱量物質)の充填質量Wについては、△Tcは、磁気熱量物質11b(一の磁気熱量物質)が特定末端側Mとして隣接する(磁気熱量物質11bとは方向Lと逆方向側に隣接する)磁気熱量物質11c(他の磁気熱量物質)とのキュリー温度差である。すなわち、この場合の△Tcを算出するための他の磁気熱量物質は、磁気熱量物質11bの方向L側に隣接する磁気熱量物質11aは該当しない。また、この△Tcを算出するための他の磁気熱量物質の対象は、上記の図1(b)の低温末端側を特定末端側Mとする場合も、図1(c)の高温末端側および低温末端側を特定末端側MおよびMとする場合も同様の扱いである。
【0032】
この他にも、本実施形態に係る磁気熱量カスケードは、上記の階層性能Hpについて、この複数の磁気熱量物質の各々の階層性能Hpが、少なくとも1つの末端側である特定末端側に近づくにつれて大きくなる構成とすることも可能である。
【0033】
この場合、複数の磁気熱量物質の各々の階層性能Hpの最大値と最小値の比率は、特に限定されないが、1より小さいと十分な冷凍能力を発揮し難くなる傾向にあり、3より大きいと磁気熱量物質の重量偏重が大きくなって装置に占める材料重量が極端に多くなる傾向にあることから、より好適には、1より大きく3より小さいことである(後述の実施例参照)。
【0034】
磁気熱量物質として用いられる材料は、特に限定されないが、公知の磁気熱量物質を用いることができる。例えば、La、Mn、Fe、P、Si、Sn等から構成する磁性体材料を用いることができ、より具体的には、LaFeSi系材料やMnFePSi系材料、MnFePSi系材料、LaFeSi系材料の材料など化合物系材料を用いることができ、数個の元素を混合し焼結または溶融によりバルク(ブロック状)、粉末状、成型加工品として用いることができる。
【0035】
また、その他の構成元素としてFeサイトにSn、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つを構成元素に含んでいてもよい。磁気熱量物質として、特にSnを含有する場合には、非常に安定した相形成が促進され、少ない焼成回数で、高い断熱温度変化を奏する優れた特性が発揮されて好適である。
【0036】
例えば、磁気熱量物質の具体例としては、次の一般式(1)で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-ySi)Sn・・・(1)
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.5≦σ≦0、0<x≦1.0、0<y≦0.8、0≦z≦0.8、0<a≦0.8である。
【0037】
また、例えば、磁気熱量物質の具体例としては、次の一般式(2)で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFe1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(2)
ここで、-0.5≦σ≦0、0<x≦1.0、0<y≦0.8、0<a≦0.8、0≦b≦0.8である。
【0038】
この他にも、例えば、磁気熱量物質の具体例としては、次の一般式(3)で表される化合物からなるものが挙げられる。
(Mn2-xFex-z1+σ(P1-y-bSiGe)Sn・・・(3)
ここで、Aは、Ru、Ni、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つであり、-0.5≦σ≦0、0<x≦1.0、0<y≦0.8、0≦z≦0.8、0<a≦0.8、0≦b≦0.8である。
【0039】
本実施形態に係る磁気熱量カスケードは、このような磁気熱量物質を用いることで、磁場印加による断熱温度変化の最大値を高めることができ、また非常に広い範囲の作動温度域も併せて発揮されるという優れた効果が得られる。
【0040】
本実施形態に係る磁気熱量カスケードは、上述のように、複数の磁気熱量物質が、キュリー温度の高低順に連続して配置された少なくとも1つの末端側である特定末端側に近づくにつれて、配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭いという新規な配置構成によって、重量偏重が少なく装置バランスを安定的に維持できると共に、最大温度スパンを維持したまま、高い冷凍能力を発揮するという優れた効果を発揮することができる(後述の実施例参照)
【0041】
このように優れた効果を奏するメカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、特定末端側に近づくにつれて配置間隔が狭いという新規な配置構成によって、異なるキュリー温度を有する磁気熱量物質間を熱エネルギーが移動する際に生じる熱移動損失(エネルギー損失)が低減されていることが推察される。
【0042】
本実施形態に係る磁気熱量カスケードは、磁気熱量分野への広範な応用が可能であり、例えば、磁気冷凍分野としては、本実施形態に係る磁気熱量カスケードを備えたAMR(Active Magnetic Refrigeration)ベッド、磁気冷凍システム、及び磁気ヒートポンプ等の各種の磁気冷凍装置として利用可能である。この他にも、金属材用加熱装置等の磁気加熱分野の装置としても利用可能であり、優れた冷却または加熱効果を得ることができる。
【0043】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)
自然科学研究機構 核融合科学研究所保有の磁気冷凍評価装置に、図1(a)に示した上記実施形態の装置構成に従い、磁気熱量物質(磁気冷凍物質)を収容する18個の物質収容領域を有する磁気熱量カスケードを格納して装置を構成した。この磁気熱量カスケードは、異なるキュリー温度を有する複数の磁気熱量物質を連続して配置することで構成される磁気熱量カスケードとして、複数の磁気熱量物質が、キュリー温度の高いほうから低いほうに連続して配置され、高温側(特定末端側)に近づくにつれて、配置されたキュリー温度間隔が相対的に狭い磁気熱量カスケードを構築した。
【0045】
この磁気冷凍評価装置は、断面が21mm×18mm程度の樹脂容器を用いたカラム(磁気熱量物質を充填する部分)2本と印加磁場1Tの磁石を含む。2本のカラムに対して、磁石が往復駆動することで磁気熱量物質の励消磁が行われる。また、励消磁の際に熱交換媒体である水が電磁弁により往復するように流れる構成である。また、熱交換媒体の温度は恒温水槽により温度制御されており、入水温度と空間温度が同じになるように制御した。低温側の配管内部にはヒーターが内蔵されており、ヒーターにかける熱量(負荷)と温度スパンが釣り合ったときをその各温度スパンの際の冷却能力とした。このとき低温側のヒーター付近の温度は低温側の配管内の熱交換媒体(水)の温度とほぼ同等になるように制御した。
【0046】
ここで、磁気冷凍評価装置の低温側を冷却した理由は、装置精度を高めるために、外部からの余計な入熱(負荷)を軽減するためである。なお、この磁気冷凍評価装置の仕様上、性能評価結果として得られた冷却能力の数値は、冷却能力の絶対値を示すものではなく、冷却能力の相対的な比較を行うための指標である。
【0047】
この磁気冷凍評価装置の運転条件は、磁場1T、周波数0.5Hz、熱交換媒体流量0.4L/分で行った。
【0048】
使用した磁気熱量物質は、Mn粉末、Fe粉末、Ru粉末、Pフレーク、Si粉末、Ge粉末、Ni粉末、Co粉末およびSn粉末を、その各元素の組成比が以下の表における化学量論比となるように、容器内を不活性ガス雰囲気とした遊星式ボールミルで粉砕混合した。次いで、混合粉末をカーボンのサヤに充填した後、アルゴンガス雰囲気下で900℃程度まで昇温し、8時間キープ後、自然冷却し、得られた焼結体を90μm以下まで粉砕を行った。次いで、得られた粉末を再度カーボンサヤに充填した後、アルゴンガス雰囲気下で1100℃程度まで昇温し、5時間キープ後、自然冷却し、得られた焼結体を液体窒素で一旦冷却し、53μm以下まで粉砕を行った。
【表1】
【0049】
磁気熱量物質の特性は、各キュリー温度の磁気熱量物質について、断熱温度変化(ΔTad)の最大値が2.0~2.1Kを示す材料(材料番号5、7~13、17、18、24~29、31、32)を採用した。
【0050】
磁気熱量物質の形態は、焼結したバルクを破砕し、ふるいを使用し、0.3mm~0.6mmに分粒したものを使用した。本実施例に係る磁気熱量カスケードは、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質が、以下の表のように、表の左側から順番にキュリー温度順に右側まで直列的に並んで構成され、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質について、上記実施形態で述べた階層性能Hp(=W/△Tc)が、すべて同一の10.9である構成とした。
【0051】
【表2】
【0052】
キュリー温度(Tc)の測定は、各々の磁気熱量物質について、示差走査熱量測定(DSC)を行った。測定資料の重量は約30mgとし、標準試料にアルミナを選択し、温度の走査速度は2℃/分として熱量の差を測定した。
【0053】
各々の磁気熱量物質について、断熱温度変化(ΔTad)を測定した。断熱温度変化の測定は恒温相内で温度制御を行い、印加磁場1Tで任意の温度で材料に磁場を印加することで測定を行った。断熱温度変化の値は材料を励磁、消磁した際の温度差とした。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同じ磁気冷凍評価装置を用いて、本実施例に係る磁気熱量カスケードは、磁気熱量物質(磁気冷凍物質)を格納する18個の物質収容領域を有し、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質が、以下の表のように、表の左側から順番にキュリー温度順に右側まで直列的に並んで構成され、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質について、上記実施形態で述べた階層性能Hp(=W/△Tc)がすべて同一の11.4となる構成とした。上記実施例1と同じ方法でキュリー温度(Tc)および断熱温度変化(ΔTad)を測定した。
【表3】
【0055】
(比較例1)
比較例1では、各キュリー温度ごとに磁気熱量物質を同等量ずつ充填するという上記特許文献1のような一般的な従来の磁気熱量カスケードを用いて、実施例1と同じ磁気冷凍評価装置を構成した。
【0056】
以下表の構成で示すように、磁気熱量物質を格納する13個の物質収容領域を有する磁気熱量カスケードを用いて、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質が、以下の表のように、表の左側から順番にキュリー温度順に右側まで直列的に並んで構成され、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質について、最低キュリー温度(Tc)と最大キュリー温度(Tc)との温度差が22.1Kであり、12個の磁気熱量物質を約2K間隔で各キュリー温度ごとに温度間隔にかかわらずほぼ同等量である約23.0gずつ充填した。
【表4】
【0057】
上記実施例1、実施例2、および比較例1に係る磁気熱量カスケードの冷凍能力の測定結果を図4に示す。図4のグラフの横軸は、温度スパン(K)を示しており、充填した磁気熱量物質をカスケードしてキュリー温度の範囲によって最高となる温度差が示されている。縦軸は、ヒーターにかけた電力(W)について、ある温度スパンでの磁気熱量物質の冷却能力が相対評価用に示されている。図4の結果から、従来例である比較例1では、最大温度スパンが少なく、冷凍能力も低いものであったが、本実施例1および2の磁気熱量カスケードは、比較例1に比べて最大温度スパンが上昇し、冷凍能力も上昇していることが確認された。また、本実施例1のほうが実施例2よりも最大温度スパンおよび冷凍能力がさらに高いことが確認された。
【0058】
(実施例3)
実施例3では、上述の階層性能Hpが、上記各実施例とは異なり、高温側になるにつれて大きくなるように磁気熱量物質(磁気冷凍物質)の充填量を調整した。
【0059】
磁気熱量物質を格納する22個の物質収容領域を有する磁気熱量カスケードを用いて、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質が、以下の表のように、表の左側から順番にキュリー温度順に右側まで直列的に並んで構成され、実施例1と同じ磁気冷凍評価装置を構成した。磁気熱量カスケードを構成する磁気熱量物質は、最低キュリー温度(Tc)と最大キュリー温度(Tc)の温度差が22.6Kで、22個の磁気熱量物質を収容する物質収容領域を低温側半分では2K間隔で配置し、高温側半分では1K間隔以下で配置し、上記実施形態で述べた階層性能Hp(=W/△Tc)が高温側になるにつれて同等もしくは大きくなるように充填した。物質収容領域の間隔と磁気熱量物質との関係は、2K間隔で10gであれば1K間隔で5g、0.5K間隔で2.5gとなる。
【表5】
【0060】
(実施例4)
実施例4では、実施例3と同様に、上述の階層性能Hpが、高温側になるにつれて大きくなるように磁気熱量物質(磁気冷凍物質)の充填量を調整し、特に、低温側半分では1K間隔で配置し、高温側半分では2K間隔で配置した。
【0061】
すなわち、実施例4では、磁気熱量物質を格納する18個の物質収容領域を有する磁気熱量カスケードを用いて、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質が、以下の表のように、表の左側から順番にキュリー温度順に右側まで直列的に並んで構成され、実施例1と同じ磁気冷凍評価装置を構成した。磁気熱量カスケードを構成する磁気熱量物質は、最低キュリー温度(Tc)と最大キュリー温度(Tc)の温度差が22.6Kで、18個の磁気熱量物質を収容する物質収容領域を低温側半分では2K間隔で配置し、高温側半分では1K間隔以下で配置し、上記実施形態で述べた階層性能Hp(=W/△Tc)が高温側になるにつれて同等もしくは大きくなるように充填した。
【表6】
【0062】
(比較例2)
比較例2では、各磁気熱量物質のキュリー温度間隔を等間隔で高温側になるにつれて充填量を増加するという上記特許文献2に従う従来の磁気熱量カスケードを用いて、実施例1と同じ磁気冷凍評価装置を構成した。
【0063】
比較例2では、各物質収容領域に収容された磁気熱量物質が、以下の表のように、表の左側から順番にキュリー温度順に右側まで直列的に並んで構成され、磁気熱量物質を格納する12個の物質収容領域を有する磁気熱量カスケードを用いた。磁気熱量カスケードを構成する磁気熱量物質は、最低キュリー温度(Tc)と最大キュリー温度(Tc)との温度差が22.1Kであり、12個の各磁気熱量物質のキュリー温度間隔を約2K間隔の等間隔で各キュリー温度ごとに物質収容領域に収容し、高温側になるにつれて充填量を増加させた。
【表7】
【0064】
上記実施例1~4、比較例1、および比較例2に係る磁気熱量カスケードの冷凍能力の測定結果を図5に示す。図5のグラフの横軸は、図4と同様、温度スパン(K)を示しており、充填した磁気熱量物質をカスケードしてキュリー温度の範囲によって最高となる温度差が示されている。縦軸は、ヒーターにかけた電力(W)について、ある温度スパンでの磁気熱量物質の冷却能力が相対評価用に示されている。図5の結果から、従来例である比較例1および2では、最大温度スパンが少なく、冷凍能力も低いものであったが、本実施例1~4の磁気熱量カスケードは、比較例1および2に比べて最大温度スパンが上昇し、冷凍能力も上昇していることが確認された。
【0065】
また、上記の各実施例1~4の磁気熱量カスケードを構成する各磁気熱量物質の階層性能Hpを比較したグラフを図6に示す。
【0066】
得られた各実施例の傾向から、階層性能Hpが高温側になるにつれて大きくなることで最大温度スパンを維持したまま、より高い冷凍能力が得られるという優れた結果が確認された。
【符号の説明】
【0067】
10 磁気熱量カスケード
11 磁気熱量物質
11a、11b、11c・・・ 磁気熱量物質
11A、11B、11C・・・ 磁気熱量物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6