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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
H01T13/20 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021143408
(22)【出願日】2021-09-02
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】西尾 直樹
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-018781(JP,A)
【文献】特開2019-186014(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118087(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側から後端側へと軸線に沿って延びる絶縁体と、
前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、を備え、
前記主体金具は、内周に棚部が設けられた胴部を含み、
前記棚部は、前記絶縁体が直接または他部材を介して接する後端向き面と、前記後端向き面の先端側に位置する先端向き面と、を含
前記胴部は、前記先端向き面から先端側に向かって延びる第1面と、
前記後端向き面から後端側に向かって延びる第2面と、を自身の内周に備えるスパークプラグであって、
前記軸線を含む断面において、
前記後端向き面の径方向の長さHは0.1-2.5mmであり、
前記第1面と第1の直線との交点と、前記第2面と第2の直線との交点と、の間の軸線方向の距離Lは1-7mmであり、
前記第1の直線は、前記第1の直線と前記胴部の内周とに囲まれた面積と、前記第1の直線に切り取られた前記棚部の面積と、が等しくなる直線であり、
前記第2の直線は、前記第2の直線と前記胴部の内周とに囲まれた面積と、前記第2の直線に切り取られた前記棚部の面積と、が等しくなる直線であり、
前記第1の直線と前記第1面とのなす角Aと、前記第2の直線と前記第2面とのなす角Bと、の間にA≦1.15Bの関係があり、前記角A≧90°、前記角B≧90°であるスパークプラグ。
【請求項2】
前記胴部、外周におねじが設けられ、
前記おねじの呼び径は12mm以下である請求項1記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記絶縁体は、前記第1面の径方向の内側に対面する第3面と、
前記第3面の後端に連なる第4面と、を備え、
前記軸線を含む断面において、
前記第1の直線と前記第1面との交点は、前記第3面と前記第4面との間の境界の位置に対し、軸線方向において1mm以内の範囲に位置する請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記胴部、外周におねじが設けられ、
前記主体金具は、前記胴部の後端に隣接する座面を含み、前記おねじの外周に張り出す鍔部を備え、
前記軸線を含む断面において、
前記第2面と前記第2の直線との交点と前記座面との間の軸線方向の距離は24mm以上である請求項1から3のいずれかに記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁体と、絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、を備えるスパークプラグにおいて、特許文献1に開示された先行技術では、絶縁体を支持する棚部が、主体金具の内周に設けられている。棚部に直接または他部材を介して絶縁体が密着し、棚部と絶縁体との間からの燃焼ガスの漏洩を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2011-118087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において、棚部と絶縁体との間からの燃焼ガスの漏洩をさらに低減するため、絶縁体を押し返す棚部の反力を大きくする技術が要求されている。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、棚部の反力を大きくできるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、先端側から後端側へと軸線に沿って延びる絶縁体と、絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、を備える。主体金具は、絶縁体が直接または他部材を介して接する後端向き面と、後端向き面の先端側に位置する先端向き面と、を含む棚部と、先端向き面から先端側に向かって延びる第1面と、後端向き面から後端側に向かって延びる第2面と、を自身の内周に備える。軸線を含む断面において、先端向き面と第1面とのなす角Aと、後端向き面と第2面とのなす角Bと、の間にA≦1.15Bの関係があり、角A≧90°、角B≧90°である。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、軸線を含む断面において、棚部の先端向き面と主体金具の第1面とのなす角Aと、棚部の後端向き面と主体金具の第2面とのなす角Bと、の間にA≦1.15Bの関係があり、角B≧90°である。棚部の体積を確保し、軸線方向に棚部が塑性変形し始める力を大きくできるので、絶縁体を軸線方向に押し返す棚部の反力を大きくできる。さらに角A≧90°なので、角A<90°の場合に比べて先端向き面の先端の電場を弱くできる。これにより先端向き面の先端に生じる意図しない放電(いわゆる奥飛火)を低減できる。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様において、棚部が設けられた胴部の外周におねじが設けられている。おねじの呼び径が小さいほど、すなわち胴部の外径が小さいほど胴部の厚さは薄くなり棚部は小さい力で塑性変形し始めるので、棚部の反力は低下する傾向がみられる。特におねじの呼び径が12mm以下のときに、第1の態様において棚部の反力の低下を改善する傾向が顕著になる。
【0009】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、主体金具の第1面の径方向の内側に絶縁体の第3面が対面し、絶縁体の第4面は第3面の後端に連なる。主体金具の先端向き面と第1面との間の境界は、絶縁体の第3面と第4面との間の境界の位置に対し、軸線方向において1mm以内の範囲に位置する。主体金具と絶縁体との間の、燃焼ガスが滞留する空間を低減できるので、燃焼ガスに含まれるカーボンが絶縁体に付着する量を低減できる。よって絶縁体に付着したカーボンが原因となる意図しない放電(奥飛火)を低減できる。
【0010】
第4の態様によれば、第1から第3の態様において、棚部が設けられた胴部の外周におねじが設けられている。おねじの外周に張り出す鍔部は、胴部の後端に隣接する座面を含む。主体金具の第2面と後端向き面との間の境界と座面との間の軸線方向の距離が長いほど主体金具の熱膨張量は大きくなるので、主体金具の温度が上がったときに絶縁体が棚部に加える力が低下し、棚部の反力は低下する傾向がみられる。特に距離が24mm以上のときに、第1の態様において棚部の反力の低下を改善する傾向が顕著になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
図2図1のIIで示す部分を拡大したスパークプラグの部分断面図である。
図3】主体金具の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という(図2及び図3においても同じ)。図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11及び主体金具30を備えている。
【0013】
絶縁体11は、高温下の絶縁性や機械的特性に優れるアルミナ等により形成された略円筒状の部材である。絶縁体11には、軸線Oに沿って延びる軸孔12が形成されている。絶縁体11は、軸線方向の中央において径方向の外側に張り出す張出部13と、張出部13の先端側に隣接する第1部14と、張出部13の後端側に隣接する第2部16と、を備えている。張出部13は絶縁体11の全周に亘って連続している。
【0014】
第1部14の外周に先端向き面15が設けられている。本実施形態では、先端向き面15は第1部14の全周に亘って連続する円錐面である。先端向き面15は、第1部14の全周に亘って連続する、軸線Oに垂直な面であっても良い。
【0015】
絶縁体11の軸孔12の先端側に、中心電極17が配置されている。中心電極17は、絶縁体11に保持される棒状の電極である。中心電極17は、熱伝導性に優れる芯材が母材に埋設されている。母材は、Niを主体とする合金またはNiからなる金属材料で形成されている。芯材は銅または銅を主成分とする合金で形成されている。芯材は省略できる。
【0016】
中心電極17は、絶縁体11の軸孔12の中で端子金具18と電気的に接続されている。端子金具18は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。
【0017】
主体金具30は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具30は、先端側から後端側へ順に、胴部31、鍔部34、湾曲部36、工具係合部37及び加締め部38が連なっている。
【0018】
胴部31は、内周に棚部32が設けられ、外周におねじ33が設けられている。棚部32は、絶縁体11の先端向き面15の先端側に配置されている。スパークプラグ10は、おねじ33によってエンジン(図示せず)のプラグホールに取り付けられる。おねじ33の呼び径は、例えば6-12mmである。
【0019】
胴部31の後端に隣接する鍔部34は、座面35を含む。鍔部34の外径は、おねじ33の外径よりも大きい。座面35は先端側を向く円環状の面である。おねじ33がプラグホールのねじに締め付けられたときに、座面35によっておねじ33に軸力が発生する。本実施形態では、座面35は軸線Oに垂直な面である。座面35は、プラグホールの形状に応じ、先端側に向かうにつれて縮径する円錐面であっても良い(いわゆるテーパシートタイプ)。
【0020】
湾曲部36は鍔部34と工具係合部37とをつなぐ。湾曲部36は、曲げ変形の弾性力によって、鍔部34と工具係合部37とを軸線方向に離す方向の力を発生する。工具係合部37は、プラグホールのねじにおねじ33をねじ込むときに、レンチ等の工具が係合する部位である。加締め部38は、径方向の内側へ向けて屈曲する円環状の部位である。加締め部38は、絶縁体11の張出部13よりも後端側に位置する。絶縁体11の張出部13と加締め部38との間に、タルク等の粉末が充填されたシール部39が、絶縁体11の第2部16の全周に亘って設けられている。
【0021】
接地電極40は、主体金具30の胴部31に接続された棒状の金属製(例えばニッケル基合金製)の部材である。接地電極40は中心電極17との間に火花ギャップを形成する。
【0022】
図2図1のIIで示す部分を拡大したスパークプラグ10の軸線Oを含む部分断面図である。胴部31に設けられた棚部32は、後端向き面42と、後端向き面42の先端側に隣接する接続面43と、接続面43の先端側に隣接し後端向き面42の先端側に位置する先端向き面44と、を含む。本実施形態では、後端向き面42は胴部31の全周に亘って連続する円錐面である。後端向き面42は、胴部31の全周に亘って連続する、軸線Oに垂直な面であっても良い。
【0023】
接続面43は、胴部31の全周に亘って連続する円筒面である。接続面43は、胴部31の全周に亘って連続する円錐面であっても良いし、胴部31の全周に亘って連続する球帯であっても良い。接続面43が円錐面の場合、先端側へ向かうにつれて内径が小さくなる円錐面であっても良いし、先端側へ向かうにつれて内径が大きくなる円錐面であっても良い。
【0024】
先端向き面44は、胴部31の全周に亘って連続する円錐面である。先端向き面44は、胴部31の全周に亘って連続する、軸線Oに垂直な面であっても良い。本実施形態では、後端向き面42と接続面43とがつながる角に丸み(丸面)が付されているが、丸みに代えて、角に面取り(角面)を施しても良い。同様に先端向き面44と接続面43とがつながる角に丸み(丸面)が付されているが、丸みに代えて、角に面取り(角面)を施しても良い。後端向き面42と接続面43とがつながる角の丸みや面取りを省略しても良い。先端向き面44と接続面43とがつながる角の丸みや面取りを省略しても良い。
【0025】
胴部31は、先端向き面44から先端側に向かって延びる第1面45と、後端向き面42から後端側に向かって延びる第2面46と、を含む。第1面45は、胴部31の全周に亘って連続する円筒面である。第1面45は、胴部31の全周に亘って連続する円錐面であっても良い。第1面45が円錐面の場合、先端側へ向かうにつれて内径が小さくなる円錐面であっても良いし、先端側へ向かうにつれて内径が大きくなる円錐面であっても良い。第2面46は、胴部31の全周に亘って連続する円筒面である。第2面46は、胴部31の全周に亘って連続する円錐面であっても良い。第2面46が円錐面の場合、先端側へ向かうにつれて内径が小さくなる円錐面が好ましい。
【0026】
第1部14の先端向き面15と主体金具30の後端向き面42との間にパッキン41が介在する。パッキン41は円環状の板材である。パッキン41の材料は、主体金具30を構成する金属材料よりも軟質の鉄や鋼などの金属である。
【0027】
第1部14は、胴部31の第1面45の径方向の内側に対面する第3面19と、第3面19の後端に連なる第4面20と、を含む。第4面20は、先端向き面15の先端側に隣接している。先端向き面15の後端側に第5面22が隣接している。第5面22は、第1部14の全周に亘って連続する円筒面である。第5面22は、第1部14の全周に亘って連続する円錐面であっても良い。第5面22が円錐面の場合、第5面22の外径は、後端側へ向かうにつれて大きい方が好ましい。
【0028】
第3面19は、第1部14の全周に亘って連続する円錐面である。第3面19の外径は、先端側へ向かうにつれて小さくなる。第4面20は、第1部14の全周に亘って連続する円筒面である。第4面20は、第1部14の全周に亘って連続する円錐面であっても良い。第4面20が円錐面の場合、第4面20の外径は、先端側へ向かうにつれて小さくなる。従って図2において、軸線O(図1参照)に対する第3面19の傾きは、軸線Oに対する第4面20の傾きと異なる。そのため第3面19と第4面20との間に境界21(角)が現出する。角に丸みや面取りが付されている場合、境界21の位置は、第3面19を示す線のうち丸みや面取りを除く直線と第4面20を示す線のうち丸みや面取りを除く直線との交点の位置である。
【0029】
スパークプラグ10は、例えば以下のような方法によって製造される。まず、中心電極17を絶縁体11の軸孔12に挿入し、中心電極17の先端が絶縁体11から外部に露出するように配置する。次いで、絶縁体11の軸孔12に端子金具18を挿入し、端子金具18と中心電極17とを電気的に接続する。次に、主体金具30の棚部32の後端向き面42にパッキン41を配置した後、主体金具30に絶縁体11を挿入し、絶縁体11の先端向き面15と主体金具30の後端向き面42との間でパッキン41を挟む。
【0030】
次いで、絶縁体11の第2部16と主体金具30との間にシール部39を設けた後、加締め部38及び湾曲部36を形成する。これにより主体金具30の棚部32から加締め部38までの部分は、絶縁体11の先端向き面15から張出部13までの部分に、パッキン41及びシール部39を介して軸線方向の圧縮荷重を加える。これにより絶縁体11は主体金具30に保持される。次に接地電極40を曲げ加工してスパークプラグ10を得る。
【0031】
図3は軸線Oを含む主体金具30の部分断面図である。図3は、図2から絶縁体11とパッキン41とを除いた図である。棚部32は、軸線Oを含む断面において、先端向き面44と第1面45とのなす角A(°)と後端向き面42と第2面46とのなす角B(°)との間にA≦1.15Bの関係がある。角A≧90°である。角B≧90°である。
【0032】
第1の直線48は、第1の直線48と胴部31の内周とに囲まれた面積49と、第1の直線48に切り取られた棚部32の面積50と、が等しくなる直線である。角Aは、第1の直線48と第1面45とのなす角である。先端向き面44と第1面45との間の境界47は、胴部31の内周と第1の直線48との交点である。
【0033】
第2の直線52は、第2の直線52と胴部31の内周とに囲まれた面積53と、第2の直線52に切り取られた棚部32の面積54と、が等しくなる直線である。角Bは、第2の直線52と第2面46とのなす角である。後端向き面42と第2面46との間の境界51は、胴部31の内周と第2の直線52との交点である。
【0034】
A≦1.15Bを満たすと、境界47の軸線方向の位置を固定した状態では、棚部32の体積の大きさを確保できる。絶縁体11の先端向き面15に押されて軸線方向に棚部32が塑性変形し始める力を大きくできるので、棚部32の軸線方向の反力を大きくできる。よって胴部31の後端向き面42と第1部14の先端向き面15との間からの燃焼ガスの漏洩を低減できる。その結果、漏洩した燃焼ガスに絶縁体11が急激に加熱されて絶縁体11に生じる割れを低減できる。
【0035】
角B≧90°なので、棚部32の後端向き面42の付近に尖った部分ができないようにできる。尖った部分があると、絶縁体11の先端向き面15に棚部32の尖った部分が押され、荷重が集中して尖った部分が塑性変形し易くなる。棚部32に尖った部分がないと棚部32の後端向き面42の付近の塑性変形を低減できるので、棚部32の軸線方向の反力を大きくできる。
【0036】
角A≧90°なので、角A<90°の場合に比べて先端向き面44の先端(先端向き面44と接続面43とがつながる角)の電場を弱くできる。これにより先端向き面44の先端に生じる意図しない放電(いわゆる奥飛火)を低減できる。
【0037】
A>1.15Bの場合に、境界47の軸線方向の位置を先端側に動かすと、棚部32の体積が小さくならないようにできる。この場合には、境界47の軸線方向の位置が先端側に動いた分だけ先端向き面44と第1部14との間の空間の体積が小さくなる。先端向き面44と第1部14との間の空間に燃焼ガスが滞留し易くなるので、燃焼ガスに含まれるカーボンが第1部14の外周に付着する量が増加するおそれがある。すなわち、境界47の軸線方向の位置を先端側に動かしてA>1.15Bとすると、第1部14の外周に付着したカーボンが原因となる意図しない放電(奥飛火)が増えるおそれがある。よってA≦1.15Bの条件を満たす棚部32が好ましい。
【0038】
棚部32の反力を確保するために、棚部32はある程度の大きさが必要である。棚部32の境界47と境界51との間の軸線方向の距離Lは1-7mmが好ましい。後端向き面42の径方向の長さH(第2面46から接続面43までの高さ)は0.1-2.5mmが好ましい。
【0039】
棚部32の先端向き面44と胴部31の第1面45との間の境界47は、第1部14(図2参照)の第3面19と第4面20との間の境界21の位置に対し、軸線方向において1mm以内の範囲Rに位置するのが好ましい。本実施形態では、境界47は境界21に対し先端側の1mm以内に位置する。これにより第1部の第3面19と棚部32との間の空間が狭くならないようにできる。なお、境界47は境界21に対し後端側の1mm以内に位置しても良い。これにより第1部の第4面20と胴部31との間の空間が広くならないようにできる。
【0040】
第1部の第3面19と棚部32との間の空間が狭くなったり、第1部の第4面20と胴部31との間の空間が広くなったりすると、その空間に燃焼ガスが滞留し易くなる。燃焼ガスの滞留を低減するため、境界21に対し境界47を軸線方向の先端側の1mm以内に配置すると、胴部31と第1部14との間の、燃焼ガスが滞留する空間を低減できる。胴部31と第1部14との間の空間に燃焼ガスが滞留し難くなるので、燃焼ガスに含まれるカーボンが第1部14に付着する量を低減できる。よって第1部14に付着したカーボンが原因となる意図しない放電(奥飛火)を低減できる。
【0041】
胴部31の第2面46と後端向き面42との間の境界51(図3参照)と座面35(図1参照)との間の軸線方向の距離Dが長いほど胴部31の熱膨張量は大きくなる。スパークプラグ10が取り付けられたエンジン(図示せず)が作動して主体金具30の温度が上がると、胴部31の熱膨張によって、絶縁体11の先端向き面15と主体金具30の後端向き面42との間の距離が長くなり、絶縁体11が棚部32に加える力が低下し、棚部32の反力は低下する傾向がみられる。A≦1.15Bの関係によって棚部32の反力の低下を改善する傾向は、特に距離Dが24mm以上のときに顕著になる。距離Dは例えば24-40mmである。
【0042】
おねじ33(図1参照)の呼び径は小さいほど、すなわち胴部31の外径が小さいほど胴部31の厚さは薄くなり棚部32は小さい力で塑性変形し始めるので、棚部32の反力は低下する傾向がみられる。A≦1.15Bの関係によって棚部32の反力の低下を改善する傾向は、特におねじ33の呼び径が12mm以下のときに顕著になる。
【実施例
【0043】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(試験1)
試験者は、実施形態におけるスパークプラグ10のサンプルを作製して、主体金具30の棚部32の角Aと角Bとの関係およびおねじ33の呼び径が、気密性に与える影響を調べる試験を行った。試験者は、おねじ33の呼び径が10mm、12mm、14mmであって、角Aと角Bとの比率A/B=1.15、1.20、1.25となる棚部32を設けた主体金具30と、第1部14の外径が異なる3種類の絶縁体11と、を準備した。棚部32の境界47と境界51との間の軸線方向の距離Lは2.2mm、後端向き面42の径方向の長さHは0.6mm、棚部32の境界51と座面35との間の軸線方向の距離Dは17mmにした。棚部32の角B(B≧90°)は一定にし、角Aの大きさを変えることによりA/Bの値を変えた。
【0045】
主体金具30の後端向き面42にパッキン41を乗せ、主体金具30に絶縁体11を挿入し、絶縁体11の先端向き面15と主体金具30の後端向き面42との間にパッキン41を介在させた。絶縁体11の第2部16と主体金具30との間にシール部39を設けた後、加締め部38によってシール部39を介して絶縁体11の張出部13に軸線方向の一定の力を加えた。これにより種々のサンプルを得た。
【0046】
サンプルを150℃の雰囲気に30分間保った後、その状態で主体金具30の胴部31と絶縁体11の第1部14との間に1.8MPaの空気圧を加えて、加締め部38と絶縁体11との間からの空気の漏れ量を測定する気密性試験を行った。空気の漏れ量が毎分1mL以下のものをY、空気の漏れ量が毎分1mLより多いものをNと評価した。結果は表1に記した。
【0047】
【表1】
表1によれば、A/B=1.15のときは、おねじ33の呼び径が10mm、12mm、14mmの全てのサンプルにおいて評価がYであった。A/B=1.20及びA/B=1.25のときは、おねじ33の呼び径が14mmのサンプルは評価がYであったが、おねじ33の呼び径が10mm及び12mmのサンプルは評価がNであった。
【0048】
おねじ33の呼び径が10mm及び12mmのサンプルは、A/B=1.15のときに、A/B>1.15のときに比べ、気密性が高くなることがわかった。棚部が絶縁体11を軸線方向に押し返す反力が、A/B>1.15のときよりもA/B=1.15のときの方が大きくなったので、気密性が高くなったと推察される。A/B<1.15のときは、A/B=1.15のときよりも棚部32の体積が大きくなるので、棚部32の反力はさらに大きくなる。従ってA/B≦1.15のときは気密性を満足できることが明らかである。おねじ33の呼び径が12mm以下のときに気密性を高める効果が上がることも明らかになった。
【0049】
(試験2)
試験者は、実施形態におけるスパークプラグ10のサンプルを作製して、主体金具30の棚部32の角Aと角Bとの関係および棚部32の境界51と座面35との間の距離Dが、気密性に与える影響を調べる試験を行った。試験者は、距離Dが17mm、19mm、22mm、24mm、26mmであって、角Aと角Bとの比率A/B=1.15、1.20、1.25となる棚部32を設けた主体金具30と、先端向き面15と鍔部34との間の距離が異なる5種類の絶縁体11と、を準備した。棚部32の境界47と境界51との間の軸線方向の距離Lは2.2mm、後端向き面42の径方向の長さHは0.6mm、おねじ33の呼び径は14mmにした。棚部32の角B(B≧90°)は一定にし、角Aの大きさを変えることによりA/Bの値を変えた。
【0050】
試験1と同じ方法で種々のサンプルを作製し、試験1と同じ気密性試験を行った。空気の漏れ量が毎分1mL以下のものをY、空気の漏れ量が毎分1mLより多いものをNと評価した。結果は表2に記した。
【0051】
【表2】
表2によれば、A/B=1.15のときは、距離Dが17-26mmの全てのサンプルにおいて評価がYであった。A/B=1.20のときは、距離Dが17-22mmのサンプルは評価がYであったが、距離Dが24-26mmのサンプルは評価がNであった。A/B=1.25のときは、距離Dが17mmのサンプルは評価がYであったが、距離Dが19-26mmのサンプルは評価がNであった。
【0052】
距離Dが24mm及び26mmのサンプルは、A/B=1.15のときに、A/B>1.15のときに比べ、気密性が高くなることがわかった。棚部が絶縁体11を軸線方向に押し返す反力が、A/B>1.15のときよりもA/B=1.15のときの方が大きくなったので、気密性が高くなったと推察される。A/B<1.15のときは、A/B=1.15のときよりも棚部32の体積が大きくなるので、棚部32の反力はさらに大きくなる。従ってA/B≦1.15のときは気密性を満足できることが明らかである。距離Dが24mm以上のときに気密性を高める効果が上がることも明らかになった。
【0053】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0054】
実施形態では、主体金具30の加締め部38が、シール部39を介して絶縁体11の張出部13に軸線方向の力を加える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。シール部39を省略して、絶縁体11の張出部13に主体金具30の加締め部38が軸線方向の力を加える場合も、本実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0055】
実施形態では、アーク放電を利用するスパークプラグ10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他のスパークプラグに本発明を適用することは当然可能である。他のスパークプラグとしては、例えばコロナ放電や誘電体バリア放電を利用するスパークプラグが挙げられる。
【0056】
実施形態では、パッキン41を介して絶縁体11の先端向き面15に主体金具30の後端向き面42が接する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。パッキン41を省略して、絶縁体11の先端向き面15に直接、主体金具30の後端向き面42が接するようにすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 スパークプラグ
11 絶縁体
19 第3面
20 第4面
21 第3面と第4面との間の境界
30 主体金具
31 胴部
32 棚部
33 おねじ
34 鍔部
35 座面
41 パッキン(他部材)
42 後端向き面
44 先端向き面
45 第1面
46 第2面
47 先端向き面と第1面との間の境界
51 第2面と後端向き面との間の境界
O 軸線
【要約】
【課題】棚部の反力を大きくできるスパークプラグを提供する。
【解決手段】スパークプラグは、先端側から後端側へと軸線に沿って延びる絶縁体と、絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、を備える。主体金具は、絶縁体が直接または他部材を介して接する後端向き面と、後端向き面の先端側に位置する先端向き面と、を含む棚部と、先端向き面から先端側に向かって延びる第1面と、後端向き面から後端側に向かって延びる第2面と、を自身の内周に備える。軸線を含む断面において、先端向き面と第1面とのなす角Aと、後端向き面と第2面とのなす角Bと、の間にA≦1.15Bの関係があり、角A≧90°、角B≧90°である。
【選択図】図3
図1
図2
図3