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  • 特許-プロトン伝導性材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】プロトン伝導性材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 79/00 20060101AFI20230302BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20230302BHJP
   C01G 19/02 20060101ALI20230302BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20230302BHJP
   C01G 41/02 20060101ALI20230302BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20230302BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C08G79/00
C01G23/053
C01G19/02 B
C01G25/02
C01G41/02
H01M8/1016
H01B1/06 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021176424
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 法子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 春香
(72)【発明者】
【氏名】龍 崇
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-216537(JP,A)
【文献】特開2004-158261(JP,A)
【文献】特開2018-159121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 79/00
C01G 23/053
C01G 19/02
C01G 25/02
C01G 41/02
H01M 8/1016
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含む金属酸化物と、前記金属酸化物の表面に担持された硫酸とをそれぞれ有する複数の硫酸修飾金属酸化物粒子によって構成され、
前記複数の硫酸修飾金属酸化物粒子それぞれに含まれる結晶子の径は、5nm以下である、
プロトン伝導性材料。
【請求項2】
窒素吸着法によって得られる細孔径分布曲線において細孔径が5nm以下の細孔の容積が0.040cm/g以上である、
請求項1に記載のプロトン伝導性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、電解セル、エレクトロクロミック表示素子、センサーなどの電気化学素子では、プロトン伝導性材料が広く用いられている。
【0003】
従来、プロトン伝導性材料としては、パーフルオロスルホン酸イオン交換ポリマーであるナフィオン(デュポン社製、登録商標)からなる固体高分子材料が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-036360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、高分子材料であるナフィオンは耐久性が低いため、金属酸化物系のプロトン伝導性材料を用いることが好ましい。しかしながら、一般的に、金属酸化物系のプロトン伝導性材料の初期プロトン伝導度は低いため、実用可能な程度の初期プロトン伝導度を有する金属酸化物系のプロトン伝導性材料の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、実用可能な金属酸化物系のプロトン伝導性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプロトン伝導性材料は、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含む金属酸化物と、金属酸化物の表面に担持された硫酸とをそれぞれ有する複数の硫酸修飾金属酸化物粒子によって構成される。複数の硫酸修飾金属酸化物粒子それぞれに含まれる結晶子の径は、5nm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、実用可能な金属酸化物系のプロトン伝導性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】プロトン伝導性材料を構成する硫酸修飾金属酸化物粒子の模式図である。
図2】硫酸修飾金属酸化物粒子の表面の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(プロトン伝導性材料の構成)
本実施形態に係るプロトン伝導性材料は、燃料電池、電解セル、エレクトロクロミック表示素子、センサーなどの電気化学素子が有するプロトン伝導膜の構成材料として用いることができる。
【0011】
図1は、プロトン伝導性材料を構成する硫酸修飾金属酸化物粒子10の模式図である。図2は、硫酸修飾金属酸化物粒子10の表面の構成を示す模式図である。
【0012】
プロトン伝導性材料は、複数の硫酸修飾金属酸化物粒子10によって構成される。各硫酸修飾金属酸化物粒子10は、一つの結晶子によって構成される単結晶体であってもよいが、典型的には、複数の結晶子によって構成される多結晶体である。
【0013】
硫酸修飾金属酸化物粒子10は、担体としての金属酸化物20と、金属酸化物20に担持される複数の硫酸30とを有する。図2では、金属酸化物20の表面に硫酸30が担持された状態が図示されている。図2では、金属酸化物20としてTiOが例示され、硫酸30としてスルホニル基が例示されている。なお、本明細書において、担持とは、担体の表面上に物質が化学結合されている状態を意味する。金属酸化物20の表面に担持された硫酸30は、プロトン伝導性材料を水中に浸漬(例えば、60℃、3時間)させても水中に流出しない。
【0014】
金属酸化物20は、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含む。金属酸化物20は、強酸性(pH3未満)において溶出しないことが好ましい。
【0015】
金属酸化物20としては、TiO(チタニア)、SnO(二酸化スズ)、SnO(酸化スズ)、ZrO(ジルコニア)、ZrSiO(ジルコン)、Zr(WO(タングステン酸ジルコニウム)、WO(酸化タングステン)、Al(WO(タングステン酸アルミニウム)などが挙げられるが、これに限られない。
【0016】
プロトン伝導性材料は、異なる金属酸化物を含む2種以上の硫酸修飾金属酸化物粒子10によって構成されていてもよい。
【0017】
硫酸30は、金属酸化物20の表面に担持される。硫酸30としては、HSO及びその化合物に限られず、SO、S、SO、SO、S、SO、これらの酸化イオウを含む化合物(酸、塩等)、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0018】
金属酸化物20に含まれる金属元素(M)に対する硫酸30に含まれる硫酸分の硫黄(S)のモル比(S/M)は、0.01以上0.2以下とすることができる。
【0019】
本実施形態において、プロトン伝導性材料は、複数の硫酸修飾金属酸化物粒子10によって構成されており、金属酸化物20に担持された複数の硫酸30を有しているが、金属酸化物20に担持されていない非担持硫酸を更に有していてもよい。非担持硫酸は、金属酸化物20の表面に接触していてもよいし、金属酸化物20の表面から離れていてもよい。非担持硫酸は、プロトン伝導性材料を水中に浸漬(例えば、60℃、3時間)させると水中に流出する。
【0020】
プロトン伝導性材料が硫酸30を有していることは、次の手法によって確認することができる。まず、1gのプロトン伝導性材料を含む溶解液をICP分析することによって、1gのプロトン伝導性材料に含まれる硫酸の総量を測定する。次に、1gのプロトン伝導性材料に含まれる非担持硫酸の含有量を求めて、硫酸の総量から非担持硫酸の含有量を引くことによって硫酸30の含有量を算出する。算出された硫酸30の含有量が0より大きければ、プロトン伝導性材料が硫酸30を有しているといえる。
【0021】
非担持硫酸の含有量は、次の手法によって測定することができる。まず、100mLの脱イオン水に1gのプロトン伝導性材料を添加した混合液を、60℃に加熱したウォーターバスにて3時間加温する。次に、加温した混合液の総重量を計測して、蒸発せずに残った脱イオン水量を算出する。次に、混合液を遠心分離することで固体成分を沈殿させた後、上澄み液を採取し、上澄み液をICP分析することによって、上澄み液における硫酸の含有量を測定する。次に、蒸発せずに残った脱イオン水量と上澄み液における硫酸の含有量とに基づいて、非担持硫酸の含有量を求める。
【0022】
(プロトン伝導性材料の特性)
1.結晶子径
プロトン伝導性材料を構成する複数の硫酸修飾金属酸化物粒子10それぞれは、1以上の結晶子を含む。
【0023】
複数の硫酸修飾金属酸化物粒子10それぞれに含まれる結晶子の径(以下、「結晶子径」という。)は、5nm以下である。これによって、硫酸修飾金属酸化物粒子10において硫酸30が付着可能な表面が増大するため、プロトン伝導に寄与できる表面積が増えることで初期プロトン伝導度を実用可能な程度にまで高めることができる。
【0024】
なお、初期プロトン伝導度は、JISR1661(ファインセラミックスイオン伝導体の導電率測定方法)に従って作成した測定用試験片の交流インピーダンス測定によって得られる。測定用試験片には、プロトン伝導性材料を冷間等方圧プレス(3000kgf/cm)で圧粉成形したものを用いる。
【0025】
結晶子径は、3nm以下が好ましい。これによって、プロトン伝導性材料の初期プロトン伝導度をより高めることができる。
【0026】
結晶子径の下限値は特に限られないが、例えば2nm以上とすることができる。
【0027】
結晶子径は、粉末X線回折装置(商品名 D8 advance、Bruker AXS社製)を用いて、以下の条件で測定される。
【0028】
<測定条件>
X線管球・・・・・・・・Cu
X線出力・・・・・・・・40kV、40mA
スキャンスピード・・・・0.7秒/0.12℃
ステップ幅・・・・・・・0.12℃
走査範囲・・・・・・・・5~70℃
試料回転・・・・・・・・15rpm
【0029】
上記条件で測定した結果得られた硫酸修飾金属酸化物粒子10の回折パターンをBruker AXS社製解析ソフトTOPASを用いてFundamental Parameter法(FP法)で解析する。そして、結晶子径の算出には、Scherrerの式に基づいたSingle Profile Fitting法(SPF法)を用いることができる。なお、このSPF法の計算に用いるk値は1.0とすることができる。結晶子径は、X線回折の回折ピーク毎に算出されるが、本明細書においては、(101)面の回折ピークから算出された結晶子径を用いることとする。
【0030】
2.細孔の容積
プロトン伝導性材料は、多数の細孔を有する。プロトン伝導性材料において細孔径が5nm以下の細孔の容積は0.040cm/g以上である。これによって、細孔径が5nm以下の微細な細孔における毛管凝縮現象を利用してプロトン伝導に必要とされる水分を取り込むことができるため、プロトン伝導性材料のプロトン伝導性が低下することを抑制できる。
【0031】
細孔径が5nm以下の細孔の容積は、0.056cm/g以上が好ましい。これにより、プロトン伝導性が低下することをより抑制できる。なお、細孔径が5nm以下の細孔の容積の上限値は特に限られない。
【0032】
細孔径が5nm以下の細孔の容積は、次のように窒素吸着法で得られる吸着等温線に基づいて測定される。まず、乾燥させたプロトン伝導性材料を試料として測定セルに入れ、130℃で約5時間減圧脱気処理を行う。次に、マイクロトラックベル製のBELSORP18PLUS-HTを用いて、試料を窒素100体積%のガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に吸着させることによって窒素吸着等温線を得る。次に、この吸着等温線を用いてBJH(Barret-Joyner-Halenda)法により、試料の細孔径分布曲線を得る。そして、得られた細孔径分布曲線から細孔径が5nm以下の細孔の容積が算出される。
【0033】
なお、本明細書において、細孔径とは細孔の直径を意味するものとする。
【0034】
(プロトン伝導性材料の製造方法)
次に、プロトン伝導性材料の製造方法の一例として、金属酸化物20にTiOを用いる場合について説明する。
【0035】
まず、TiOSO(硫酸チタニル)水溶液を調整する。TiOSOの濃度は、例えば0.4質量%以上15質量%以下とする。
【0036】
次に、TiOSO水溶液を加熱することによって加水分解する。これによって、表面に硫酸根が残留したTiO粒子が得られる。このTiO粒子は、多量の水を含んでいることから含水酸化チタンと呼ばれる。プロトン伝導性材料の結晶子径は、加水分解の温度及び時間を調整することによって制御できる。例えば、加水分解の温度を低くすれば結晶子径は小さくなり、加水分解の時間を短くすれば結晶子径は小さくなる。
【0037】
次に、得られた含水酸化チタンを洗浄した後に乾燥(40℃~60℃、4時間~24時間)させることによって硫酸修飾TiO粒子を得る。
【0038】
次に、硫酸修飾TiO粒子をエージングすることによってプロトン伝導性材料を完成させる。このエージングによって、各硫酸修飾TiO粒子を構成する結晶子の結晶子径を制御することができる。また、エージングによって、細孔径が5nm以下の細孔が形成される。エージングによって細孔径が5nm以下の細孔が形成されるメカニズムは明らかではないが、硫酸修飾TiO粒子を構成する結晶子が成長する過程で結晶子が再配列することに起因するものと考えられる。
【0039】
エージングは、温度80℃~90℃、湿度80%RH~98%RHの高温高湿環境下に硫酸修飾TiO粒子を5時間~24時間放置することによって行われる。プロトン伝導性材料の結晶子径は、上述した加水分解の温度及び時間を調整することによって制御できるが、エージングの条件を調整することによっても制御できる。エージングの条件は、結晶子径が5nm以下となるように適宜調整すればよい。なお、プロトン伝導性材料における細孔径が5nm以下の細孔の容積は、このエージングの条件によって調整することができる。例えば、エージングの温度を高くしたり時間を長くしたりすると、細孔径が5nm以下の細孔の容積は多くなり、エージングの温度を低くしたり時間を短くしたりすると、細孔径が5nm以下の細孔の容積は少なくなる。
【0040】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0041】
上記実施形態では、硫酸修飾TiO粒子をエージングすることによって結晶子径を調整することとしたが、硫酸修飾TiO粒子を焼成することによっても結晶子径を調整することができる。
【0042】
焼成は、大気雰囲気下において300℃~600℃、0.5時間~10時間の条件で行われる。焼成の条件は、結晶子径が5nm以下となるように適宜調整すればよい。なお、プロトン伝導性材料における細孔径が5nm以下の細孔の容積も焼成の条件によって調整することができる。
【実施例
【0043】
以下において、本発明の実施例について説明する。本実施例では、結晶子径を5nm以下とすることでプロトン伝導度を実用可能な程度にまで高められることについて検証する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0044】
(サンプルNo.1~14の作製)
まず、硫酸チタニルを水に溶解して調製したTiOSO水溶液(濃度3.2質量%)を80℃で1時間加熱することによって含水酸化チタンを作製した。
【0045】
次に、含水酸化チタンを洗浄した後に乾燥(60℃、16時間)させることによって硫酸修飾TiO粒子を得た。
【0046】
サンプルNo.1~5では、乾燥後の硫酸修飾TiO粒子をエージングすることによってプロトン伝導性材料を完成させた。サンプルNo.1~5では、エージングの温度(80℃~90℃)、湿度(80%RH~98%RH)及び時間(5時間~24時間)を調整することによって、表1に示すように結晶子径を変更した。また、サンプルNo.9~11では、乾燥後の硫酸修飾TiO粒子を焼成することによってプロトン伝導性材料を完成させた。サンプルNo.9~11では、焼成の温度(300℃~600℃)及び時間(0.5時間~10時間)を調整することによって、表1に示すように結晶子径を変更した。一方、サンプルNo.6~8,12~14では、乾燥後の硫酸修飾TiO粒子をエージングせずにそのままプロトン伝導性材料とした。
【0047】
(サンプルNo.15~17の作製)
サンプルNo.15では、塩化酸化ジルコニウム(ZrOCl)を水に溶解して調製した水溶液に水酸化アンモニウム(NHOH)を滴下して加水分解することによって得られた粉末に硫酸(1mol/L)を滴下して硫酸処理を行うことで硫酸修飾ジルコニア粒子を得た。
【0048】
サンプルNo.16では、スズ酸ナトリウム(NaSnO)を水に溶解して調製した水溶液に硫酸(1mol/L)を滴下して加水分解し、100℃で16時間水熱処理することによって硫酸修飾スズ粒子を得た。
【0049】
サンプルNo.17では、タングステン酸ナトリウム(NaWO)を水に溶解して調製した水溶液に硫酸(1mol/L)を滴下して加水分解し、100℃で16時間水熱処理することによって硫酸修飾タングステン粒子を得た。
【0050】
そして、得られた硫酸修飾ジルコニア粒子、硫酸修飾スズ粒子及び硫酸修飾タングステン粒子のそれぞれをエージングすることによってサンプルNo.15~17に係るプロトン伝導性材料を完成させた。サンプルNo.15~17では、エージングの温度(80℃~90℃)、湿度(80%RH~98%RH)及び時間(5時間~24時間)を調整することによって、表1に示すように結晶子径を調整した。
【0051】
(結晶子径の測定)
粉末X線回折装置(商品名 D8 advance、Bruker AXS社製)を用いて、サンプルNo.1~14のプロトン伝導性材料の結晶子径を下記条件にて測定した。
【0052】
<測定条件>
X線管球・・・・・・・・Cu
X線出力・・・・・・・・40kV、40mA
スキャンスピード・・・・0.7秒/0.12℃
ステップ幅・・・・・・・0.12℃
走査範囲・・・・・・・・5~70℃
試料回転・・・・・・・・15rpm
【0053】
上記条件で測定した(101)面の回折ピークをBruker AXS社製解析ソフトTOPASを用いてFP法で解析して、SPF法(k値1.0)で結晶子径を算出した。
【0054】
(細孔径が5nm以下の細孔の容積の測定)
サンプルNo.1~17のプロトン伝導性材料の試料を測定セルに入れて、130℃で5時間減圧脱気処理を行った。
【0055】
次に、マイクロトラックベル製のBELSORP18PLUS-HTを用いて、試料を窒素100体積%のガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に吸着させることによって窒素吸着等温線を得た。
【0056】
次に、この吸着等温線を用いてBJH法により試料の細孔径分布曲線を得た。
【0057】
そして、細孔径分布曲線から細孔径が5nm以下の細孔の容積を算出した。
【0058】
(プロトン伝導度の測定)
まず、サンプルNo.1~17のプロトン伝導性材料を用いて冷間等方圧プレス(3000kgf/cm)で圧粉体を形成した後、JISR1661(ファインセラミックスイオン伝導体の導電率測定方法)に従って、測定用の試験片を作製した。
【0059】
次に、Bio-logic社製のインピーダンスアナライザーVMP-300を用いて、交流インピーダンス法により温度80℃、湿度80%RHにおける試験片の初期プロトン伝導度を測定した。
【0060】
表1では、初期プロトン伝導度について、2.0×10-2超である場合を〇(実用可)と評価し、2.0×10-2以下である場合を×(実用不可)と評価した。
【0061】
次に、初期プロトン伝導度の評価が〇であったサンプルNo.1~5,9~11,15~17について、試験片を80℃、80%RHの環境下で更に100時間放置した後、Bio―logic社製のインピーダンスアナライザーVMP-300を用いて、交流インピーダンス法により80℃における試験片の100hr経過後のプロトン伝導度を測定した。
【0062】
プロトン伝導度の低下率を表1にまとめて示す。プロトン伝導度の低下率とは、初期プロトン伝導度で100hr経過後のプロトン伝導度を割った値である。
【0063】
表1では、プロトン伝導度の低下率について、8%以下である場合を◎(優)と評価し、8%超10%以下である場合を〇(良)と評価し、10%超である場合を△(可)と評価した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、硫酸修飾金属酸化物粒子の結晶子径を5nm以下としたサンプルNo.1~5,9~11,15~17では、初期プロトン伝導度を実用可能な程度にまで高めることができた。このような結果が得られたのは、硫酸修飾金属酸化物粒子において硫酸が付着可能な表面が増大したことによって、プロトン伝導に寄与できる表面積が増えたためである。
【0066】
また、サンプルNo.1~5とサンプルNo.9~11との対比から、プロトン伝導性材料における細孔径が5nm以下の細孔の容積を0.040cm/g以上とすることによって、プロトン伝導度の劣化率を小さくできることが分かった。このような結果が得られたのは、細孔径が5nm以下の細孔の容積を0.040cm/g以上としたサンプルでは、細孔径が5nm以下の微細な細孔における毛管凝縮現象を利用してプロトン伝導に必要とされる水分を取り込むことができたからである。
【符号の説明】
【0067】
10 硫酸修飾金属酸化物粒子
20 金属酸化物
30 硫酸
【要約】
【課題】実用可能な金属酸化物系のプロトン伝導性材料を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性材料は、Ti、Sn、Zr及びWのうち少なくとも1つを含む金属酸化物20と、金属酸化物20の表面に担持された硫酸30とをそれぞれ有する複数の硫酸修飾金属酸化物粒子10によって構成される。複数の硫酸修飾金属酸化物粒子それぞれに含まれる結晶子の径は、5nm以下である。
【選択図】図1
図1
図2