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特許7236540溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230302BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20230302BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20230302BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
C22C38/00 301B
C21D9/50 101Z
C21D8/02 B
C22C38/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021530177
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 KR2019016740
(87)【国際公開番号】W WO2020111874
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0150705
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソ,テ-イル
(72)【発明者】
【氏名】カン,サン-ドク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248330(JP,A)
【文献】特表2017-504722(JP,A)
【文献】特開2009-041073(JP,A)
【文献】特開2009-174024(JP,A)
【文献】特開2005-320564(JP,A)
【文献】特開2003-268484(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152171(WO,A1)
【文献】特開平04-099248(JP,A)
【文献】特開昭61-272348(JP,A)
【文献】特開2009-068050(JP,A)
【文献】特開2004-156095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0258219(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101565796(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0083539(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/50
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.02~0.08%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):1.2~1.8%、リン(P):0.008%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.005~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):20~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、
母材の微細組織が面積分率20~60%の針状フェライト及び40~80%のベイナイト相を含み、
10~40mmの厚さを有する鋼材であって、
溶接後に溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)の微細組織がフェライト及びベイナイト相を含ことを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
[関係式1]
0.42>C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(ここで、各元素は、重量含有量を意味する。)
【請求項2】
前記鋼材は、バナジウム(V):0.01~0.1%をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項3】
前記母材及び溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)は、炭窒化物を含み、
前記炭窒化物は、MCまたはM(C、N)型であり、前記Mは、20重量%以上のMo及び残部のTiであることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項4】
前記溶接熱影響部のオーステナイトの平均結晶粒サイズが500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項5】
前記母材は、面積分率で10%以下(0%を含む)のマルテンサイト相または焼戻しマルテンサイト相を含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項6】
前記鋼材は、PWHT後の引張強度が450MPa以上、-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーが200J以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項7】
前記溶接熱影響部はPWHT後の引張強度が450MPa以上、-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーが100J以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項8】
前記溶接は、EGW(Electro Gas Welding)であり、入熱量100~200KJ/cmの大入熱溶接方法であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項9】
重量%で、炭素(C):0.02~0.08%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):1.2~1.8%、リン(P):0.008%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.005~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):20~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たす鋼スラブを1050~1250℃で再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼スラブを1200~Ar3+30℃の温度範囲で粗圧延する段階と、
前記粗圧延後Ar3以上で仕上げ圧延して10~40mmの厚さを有する熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を常温~550℃まで5℃/s以上の冷却速度で冷却する段階と、を含み、
微細組織が面積分率20~60%の針状フェライト及び40~80%のベイナイト相を含むことを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
[関係式1]
0.42>C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(ここで、各元素は、重量含有量を意味する。)
【請求項10】
前記鋼スラブは、バナジウム(V):0.01~0.1%をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記冷却された熱延鋼板を入熱量100~200KJ/cmでEGW工程を行った後に形成された溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)の微細組織がフェライト及びベイナイト相を含むことを特徴とする請求項9に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記EGW工程後、590~620℃の温度範囲で溶接後熱処理(PWHT)を行う段階をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油化学、貯蔵タンクなどの素材として適した鋼材に関し、より詳細には、溶接部の靭性に優れた鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、北米、カナダなどの極寒地では、オイルサンド(oil sand)から抽出した石油や石油化学プロセシング中に発生するエチレン、プロピレンなどの副産物を精製及び貯蔵するための低温用厚板鋼材に対する需要が増加している。
【0003】
このような低温用厚板鋼材を設備及び貯蔵タンクなどの構造物に適用するためには、母材の機械的物性だけでなく、溶接熱影響部(Heat Affected Zone、HAZ)においても低温衝撃靭性を確保することが必須である。しかし、構造物などに用いられている高強度鋼材は、強度を確保するために多量の合金元素を使用することにより、溶接熱影響部の低温衝撃靭性を確保し難いという欠点がある。
【0004】
溶接熱影響部(HAZ)は、結晶粒粗大化、MA組織(Martensite Austenite Constituent)などの脆化組織の形成、析出硬化などによって靭性が低下する。したがって、溶接熱影響部の靭性低下を防止する技術が求められている。
【0005】
一方、最近では、構造物などの施工性を向上させるために母材に対してEGW(Electro Gas Welding)などの大入熱溶接方法の使用が増加しているが、この場合、高い入熱量によって溶接熱影響部が劣化して、一般的な溶接方法によって溶接された部位と比較すると、強度及び靭性が大きく低下するという問題がある。
【0006】
代表的な局部脆化域は、FL(Fusion Line、溶融線)付近の粗大結晶粒熱影響部として、結晶粒粗大化、上部ベイナイトの形成などによって靭性が脆弱である。
【0007】
上記の問題を解決するための方案として、特許文献1では、鋼中の酸素(O)含有量を制御するために鋼中にMgまたはCaを添加し、Mg酸化物またはCa酸化物を形成することでオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、フェライトの核生成サイト(site)として作用して粒界フェライトの形成を抑制することにより、溶接熱影響部の靭性を向上させる技術を提示している。
【0008】
ところで、鋼中のOが、MgまたはCaと酸化物を成しながら適正に分散されない場合、酸化物が介在物としての役割を果たして溶接熱影響部の靭性を大きく低下させるという欠点がある。
【0009】
したがって、構造物などの素材として適した低温用厚板鋼材を提供することにおいて、母材の物性だけでなく、溶接熱影響部の優れた低温衝撃靭性を確保することができる技術の開発が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-241510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、構造用などの素材として適用できる鋼材に関するものであり、大入熱溶接を行っても溶接熱影響部の強度と靭性に優れた鋼材及びこの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材は、重量%で、炭素(C):0.02~0.08%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):1.2~1.8%、リン(P):0.008%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.005~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):20~100ppm、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、
母材の微細組織が面積分率20~60%の針状フェライト及び40~80%のベイナイト相を含み、溶接後の溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)の微細組織がフェライト及びベイナイト相を含み、10~40mmの厚さを有することを特長とする。
[関係式1]
0.42>C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(ここで、各元素は、重量含有量を意味する。)
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法は、上述した合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを1050~1250℃で再加熱する段階と、前記再加熱された鋼スラブを1200~Ar3+30℃の温度範囲で粗圧延する段階と、前記粗圧延後Ar3以上で仕上げ圧延して熱延鋼板を製造する段階と、前記熱延鋼板を常温~550℃まで5℃/s以上の冷却速度で冷却する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、母材の機械的物性だけでなく、溶接熱影響部の強度及び靭性に優れた鋼材を提供する効果がある。
【0015】
また、本発明の鋼材は、石油化学の製造設備、貯蔵タンクなどの構造用材料として適用できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態による発明鋼1のPWHT前後の微細組織を観察した写真を示す図である。
図2】本発明の一実施形態による発明鋼4をEGW方法で溶接した後、溶融線(FL)、FL+1、FL+3、及びFL+5部位の微細組織を観察した写真を示す図である。
図3】本発明の一実施形態による発明鋼4をEGW方法で溶接した後、溶接金属(WM)、溶融線(FL)、FL+1、FL+3、及びFL+5部位での低温衝撃靭性(-50℃)の測定結果(各位置別に3回測定した結果)をグラフ化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の発明者らは母材の機械的物性だけでなく、溶接熱影響部の強度及び靭性に優れた鋼材を得るために深く研究した。その結果、鋼材の合金組成に加えて、製造条件を最適化することにより、大入熱溶接にも強度及び靭性に優れた溶接熱影響部の確保が可能な鋼材を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本明細書で言及する「鋼材」は、一連の工程を経て製造された熱延鋼板だけでなく、熱延鋼板に溶接を行い、溶接部(溶接熱影響部を含む)が形成された鋼材も含む。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明の一実施形態による溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材は、重量%で、炭素(C):0.02~0.08%、シリコン(Si):0.15~0.5%、マンガン(Mn):1.2~1.8%、リン(P):0.008%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.003%以下(0%を除く)、アルミニウム(Al):0.005~0.1%、ニッケル(Ni):0.01~0.5%、モリブデン(Mo):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.005~0.05%、チタン(Ti):0.005~0.02%、窒素(N):20~100ppmを含む。
【0021】
以下では、本発明により提供される圧力容器用鋼材の合金成分を上記のように制御する理由について詳細に説明する。このとき、特に断りのない限り、各成分の含有量は、重量%を意味する。
【0022】
炭素(C):0.02~0.08%
炭素(C)は、鋼の強度を向上させるために効果的な元素であり、このような効果を十分に得るためには0.02%以上含有することが好ましい。但し、その含有量が0.08%を超えると、母材及び溶接部の低温衝撃靭性を大きく阻害するようになる。
【0023】
したがって、本発明では、Cを0.02~0.08%含み、0.04~0.07%含むことがより有利である。
【0024】
シリコン(Si):0.15~0.5%
シリコン(Si)は、脱酸剤として用いられ、鋼の強度及び靭性向上に有用な元素である。このようなSi含有量が0.5%を超えると、却って低温衝撃靭性及び溶接性が劣化するため、0.5%以下含有することが好ましい。また、Si含有量が0.15%未満であると、脱酸効果が不十分である。
【0025】
したがって、本発明では、Siを0.15~0.5%含み、0.15~0.4%含むことがより有利である。
【0026】
マンガン(Mn):1.2~1.8%
マンガン(Mn)は、固溶強化により強度を確保するために有利な元素である。このような効果を十分に得るためにはMnを1.2%以上含有することが好ましい。但し、その含有量が1.8%を超えると、鋼中の硫黄(S)と結合してMnSを形成することで常温延伸率及び低温衝撃靭性を大きく阻害するという問題がある。
【0027】
したがって、本発明では、Mnを1.2~1.8%含み、1.3~1.7%含むことがより有利である。
【0028】
リン(P):0.008%以下(0%を除く)
リン(P)は、鋼の強度向上及び耐食性の側面では有利であるのに対し、衝撃靭性を大きく阻害するため、可能な限り低く維持することが有利である。
【0029】
但し、Pを非常に低い含有量に制御するためには、過度の費用がかかるため、0.008%以下に制限することが好ましい。
【0030】
硫黄(S):0.003%以下(0%を除く)
硫黄(S)は、鋼中のMnと結合してMnSなどを形成することで、衝撃靭性を大きく損なうため、可能な限り低く維持することが好ましい。
【0031】
Pと同様に、Sを非常に低い含有量に制御するためには、過度の費用がかかるため、0.003%以下に制限することが好ましい。
【0032】
アルミニウム(Al):0.005~0.1%
アルミニウム(Al)は、低い費用で溶鋼を脱酸することができる元素であって、上記効果を十分に得るためにはAlを0.005%以上含有することが好ましい。但し、その含有量が0.1%を超えると、連続鋳造時にノズルの目詰まりを誘発するという問題がある。
【0033】
したがって、本発明では、Alを0.005~0.1%含む。
【0034】
ニッケル(Ni):0.01~0.5%
ニッケル(Ni)は、母材の強度及び靭性を同時に向上させるために有利な元素であり、このような効果を十分に得るためには0.01%以上含有することが好ましい。但し、Niは高価な元素として0.5%を超えて添加すると、経済性が大きく低下するという欠点がある。
【0035】
したがって、本発明では、Niを0.01~0.5%含む。
【0036】
モリブデン(Mo):0.01~0.1%
モリブデン(Mo)は、少量の添加だけで硬化能を大きく向上させてフェライト相の形成を抑制すると同時に、ベイナイトまたはマルテンサイト相などの硬質相の形成を誘導する効果がある。また、強度を大きく向上させるため、0.01%以上添加する必要がある。但し、Moは高価な元素であり、過度に添加すると溶接部の硬度を過度に増加させて靭性を阻害するおそれがあるため、これを考慮して、0.1%以下に制限する必要がある。
【0037】
したがって、本発明では、Moを0.01~0.1%含む。
【0038】
ニオブ(Nb):0.005~0.05%
ニオブ(Nb)は、NbCまたはNb(C、N)の形で析出し、母材及び溶接部の強度を大きく向上させるだけでなく、高温で再加熱時に固溶されたNbがオーステナイトの再結晶及びフェライトまたはベイナイトの変態を抑制することで、組織の微細化効果を得ることができる。また、圧延後の冷却時にもオーステナイトの安定性を高めるため、低い速度での冷却時にもマルテンサイトまたはベイナイトなどの硬質相(hard phase)の生成を促進させて母材の強度向上に有用である。但し、鋼材を溶接した後、粒界フェライト相が形成される場合、粗大なNbC炭化物が形成されて物性が低下するおそれがある。
【0039】
したがって、上述した効果を十分に得るためにはNbを0.005%以上含有する。但し、溶接部の衝撃靭性の確保の側面を考慮して、0.05%以下含有する。
【0040】
チタン(Ti):0.005~0.02%
チタン(Ti)は、再加熱時の結晶粒の成長を抑制し、低温靭性を大きく向上させるために有利な元素である。上述した効果を十分に得るためには0.005%以上含有することが好ましいが、過度に添加して0.02%を超えると、連鋳ノズルの目詰まりや中心部の晶出によって低温衝撃靭性が劣化するおそれがある。
【0041】
したがって、本発明では、Tiを0.005~0.02%含む。
【0042】
窒素(N):20~100ppm
窒素(N)は、Tiとともに添加すると、TiN析出物を形成して溶接時の熱影響による結晶粒成長を抑制する効果がある。上述した効果を得るためには、20ppm以上含有することが好ましく、N含有量を20ppm未満に制御する場合、製鋼負荷を大きく増加させ、結晶粒成長の抑制効果が十分でなくなる。一方、N含有量が100ppmを超えると、AlNが形成されて表面クラックを誘発するという問題がある。
【0043】
したがって、本発明では、窒素(N)を20~100ppm含む。
【0044】
上述した合金組成を有する本発明の鋼材の物性をさらに向上させる目的で、以下のようにVをさらに含むことができる。
【0045】
バナジウム(V):0.01~0.1%
バナジウム(V)は、他の合金元素に比べて固溶される温度が低く、溶接熱影響部に析出し、強度の低下を防止する効果がある。したがって、PWHT後の強度の確保が十分でない場合、0.01%以上添加する。但し、その含有量が0.1%を超えると、MAなどの硬質相の分率が増大し、溶接部の低温衝撃靭性を阻害するという問題がある。
【0046】
したがって、本発明では、Vを添加する場合、0.01~0.1%含む。
【0047】
本発明の残りの成分は、Feである。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容は特に本明細書に記載しない。
【0048】
一方、上述した合金組成を有する本発明の鋼材は、下記の関係式1で表される炭素当量(Ceq)が0.42未満であることが好ましい。
【0049】
炭素当量(Ceq)が0.42以上であると、母材及び溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがあるだけでなく、溶接前の予熱温度が上昇し、製造費用が増加するという問題がある。
[関係式1]
0.42>C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
(ここで、各元素は、重量含有量を意味する。)
【0050】
上述した合金組成とCeq値が制御された本発明の鋼材は10~40mmの厚さを有し、微細組織として面積分率20~60%の針状フェライト及び40~80%のベイナイト相を含む。
【0051】
本発明の鋼材は、微細組織として低温組織を有することにより、優れた強度及び靭性を確保することができる。
【0052】
もし、針状フェライト相が20%未満であるか、ベイナイト相が80%を超えると、強度確保には有利であるのに対し、靭性が劣化するおそれがあり、一方、針状フェライト相が60%を超えるか、ベイナイト相が40%未満に形成されると強度を十分に確保することが困難である。
【0053】
一方、本発明の鋼材は、上述した組織を除いて、マルテンサイト相(焼戻しマルテンサイト相)を一定分率で含み、好ましくは、面積分率で10%以下(0%を含む)含む。
【0054】
さらに、本発明の鋼材は、溶接を行うことができ、溶接後の溶接熱影響部(HAZ)内の溶融線(Fusion line)の微細組織がフェライト及びベイナイト相を有することが好ましい。
【0055】
すなわち、本発明の鋼材は溶接後、溶融線の微細組織として軟質相及び硬質相を適宜形成することから、溶接部の強度及び靭性を有利に確保することができる。
【0056】
このとき、溶融線の微細組織の各相の分率については特に限定しないが、好ましくはフェライト相を5~20面積%含有し、残部組織としてベイナイト相を含む。本発明の溶融線は、フェライト相及びベイナイト相を除いて、MA相をさらに5%以下(0%を含む)含む。
【0057】
また、本発明の鋼材において、母材及び溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)は炭窒化物を含み、炭窒化物はMCまたはM(C、N)型であり、Mは、Mo及びTiのうちの1種以上であり、Moは20重量%以上であることが好ましい。
【0058】
上記炭窒化物が溶融線内に形成されることでオーステナイトの結晶粒が粗大化することを防止する効果があり、これにより、溶接熱影響部はオーステナイトの平均結晶粒サイズが500μm以下である効果がある。
【0059】
本発明は、PWHT後にも母材の微細組織を上述のように有し、これにより、PWHT後450MPa以上の引張強度を有しながら、-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーが200J以上であって、強度及び低温衝撃靭性に優れた効果がある。
【0060】
また、本発明は、溶接後の溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)の組織を上述のように制御することで、PWHT前には引張強度が450MPa以上、-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーが50J以上であるのに対し、PWHT後の溶接熱影響部の引張強度が450MPa以上であり、-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーを100J以上に確保することができる。
【0061】
一方、本発明において、上記溶接方法では、大入熱溶接を適用することができ、一例として、入熱量100~200KJ/cmのEGW(Electro Gas Welding)の方法を適用することができる。EGW方法は、1パス(1-pass)溶接方法であって、通常の多パス(multi-pass)溶接方法に比べて経済的に有利であるという効果がある。
【0062】
すなわち、本発明の鋼材は、大入熱溶接を適用しても、強度及び靭性に優れた溶接熱影響部を得ることができる。
【0063】
以下、本発明の一態様による溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法について詳細に説明する。
【0064】
まず、上述した合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを用意した後、鋼スラブを1050~1250℃で再加熱する工程を経る。
【0065】
鋼スラブの再加熱時に、1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒が粗大化して目標とする物性を有する鋼材を得ることができない。一方、その温度が1050℃未満であると、スラブ内に生成された炭窒化物などの再固溶が難しくなる。
【0066】
したがって、本発明では、鋼スラブを1050~1250℃で再加熱する。
【0067】
上記によって再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造する。熱間圧延は、粗圧延及び仕上げ圧延を経て行われる。
【0068】
粗圧延は、1200~Ar3+30℃の温度範囲で行い、仕上げ圧延はAr3以上で行う。粗圧延時の温度がAr3+30℃未満であると、後続する仕上げ圧延時の温度がAr3未満に低下して、品質不良が発生するおそれがある。
【0069】
本発明におけるAr3は、次のように表すことができる。
Ar3=910-310C-80Mn-20Cu-55Ni-80Mo+119V+124Ti-18Nb+179Al(ここで、各元素は、重量含有量を意味する。)
【0070】
上述のように、製造された熱延鋼板を常温~550℃の温度範囲に冷却する、この時、5℃/s以上の冷却速度で冷却を行う。
【0071】
冷却時の冷却速度が5℃/s未満であると、フェライト結晶粒が粗大化するおそれがあり、上部ベイナイトのパケット(packet)サイズが粗大化して、目標とする物性の確保が難しくなる。冷却速度の上限は特に限定しないが、設備仕様及び熱延鋼板の厚さなどを考慮して、100℃/s以下で行う。
【0072】
また、冷却終了温度が550℃を超えると、パーライトまたは上部ベイナイト相が形成されて強度及び靭性が低下するおそれがある。
【0073】
一方、上述の説明によれば、冷却を行う際に、冷却は、仕上げ熱間圧延を完了した直後に開始することができ、650℃以上で開始することが好ましい。もし、冷却の開始温度が650℃未満であると、フェライト分率が過度に高くなり、強度を十分に確保し難い。したがって、上記冷却は650℃以上で開始し、740℃以上で開始することがより有利である。
【0074】
上述のように、冷却が完了した本発明の熱延鋼板は、微細組織が面積分率で20~60%の針状フェライト及び40~80%のベイナイトで構成され、十分な強度を確保することができる。このとき、マルテンサイト相を10%以下(0%を含む)含む。
【0075】
このような熱延鋼板の微細組織は、溶接後に行われるPWHT工程後にもそのまま維持されるが、ベイナイト相及びマルテンサイト相は焼戻しベイナイトまたは焼戻しマルテンサイト相に変態する。
【0076】
上述した一連の工程を経て製造された本発明の鋼材について溶接を行い、この時、入熱量100~200KJ/cmの大入熱EGW工程で行う。
【0077】
大入熱EGW後に形成された溶接熱影響部内の溶融線(Fusion line)の微細組織は、フェライト及びベイナイトを含む。このとき、微細組織は、一部MA相を含み、面積分率で5%以下含むことが好ましい。
【0078】
上記のような微細組織を有する溶接熱影響部は、後続PWHT工程後にも450MPa以上の引張強度及び-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーを100J以上に確保する。
【0079】
加えて、溶接を完了した後には、残留応力の除去などを目的として、溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)工程を行う。
【0080】
溶接後熱処理(PWHT)の工程条件は、特に限定しないが、590~620℃の温度範囲で60分以上行う。
【0081】
一般的に、長時間のPWHT工程後には、鋼の強度及び靭性の劣化が発生するのに対し、本発明の鋼材は、上記のようなPWHT工程を行っても強度及び靭性の大きな低下がない。
【0082】
具体的には、本発明の鋼材(母材)は、PWHT後にも450MPa以上の引張強度、-50℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーを200J以上に確保することができる。
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の技術範囲を限定するためのものではない。
【実施例
【0084】
(実施例1)
下記の表1に示す合金組成を有する鋼スラブを1120~1200℃で再加熱した後、870℃で仕上げ圧延して、それぞれの熱延鋼板を製造した。この後、熱延鋼板に対して680~810℃で冷却を開始し、5~70℃/sの冷却速度で100~200℃まで水冷した。この後、595℃で60分間維持した後で空冷する、溶接後熱処理(PWHT)工程を行った。この時、溶接後熱処理工程は2回行った。
【0085】
鋼スラブのそれぞれの厚さによる製造条件は、下記の表2に示す。
【0086】
【表1】
(表1におけるP、S、Nはppmで示したものである。)
【0087】
【表2】
(厚さ10mmの場合は、仕上げ圧延の開始温度の指定なしに粗圧延直後に仕上げ圧延を行ったものである。)
【0088】
この後、PWHT工程を完了したそれぞれの鋼材について微細組織を観察し、機械的物性を評価した。
【0089】
微細組織は光学顕微鏡で観察してから、EBSD装備を利用して針状フェライト、ベイナイト、マルテンサイト相を目視で区分し、それぞれの分率を測定した。
【0090】
そして、それぞれの鋼材のうちの厚さ30mmに該当する鋼材について機械的物性を測定する。この時、引張試験片は、JIS 1号規格試験片を圧延方向に垂直な方向に全厚さに対して採取し、引張強度(TS)、降伏強度(YS)、及び延伸率(El)を測定し、衝撃試験片はJIS 4号規格試験片を圧延方向に垂直な方向に厚さ方向1/4t(ここで、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)地点で採取して衝撃靭性(CVN)を測定し、その結果を下記の表3に示す。このとき、試験片は、PWHT前後にそれぞれ採取し、各試験片別に引張試験を行った。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
表3及び表4に示すように、本発明で提案する合金組成及び製造条件によって製造された鋼材の厚さ別の微細組織を確認する。具体的には、鋼材の厚さに関係なく意図する分率で針状フェライトとベイナイト相が適宜形成されるにつれて、PWHT後にも強度及び衝撃靭性の劣化が殆どないことが確認される。
【0094】
一方、合金組成が本発明を満たしていない比較鋼1は、PWHT前の発明鋼に比べて強度または靭性がやや低いことが確認される。すなわち、比較鋼1は、Moを添加しないことにより、基地内にMo系炭化物が生成されず、PWHT後の強度、靭性が劣化した。
【0095】
一方、比較鋼2はNbの過多添加により、母材の強度及び靭性が発明鋼と類似するのに対し、下記で確認されるように溶接熱影響部の衝撃靭性が劣化した。これは、過多添加されたNbによりTiNbCN炭窒化物が形成されて、溶接後の靭性が劣化するだけでなく、Nbが粒界フェライトの形成を誘導して、溶接後の靭性に悪影響を及ぼしたものと認められる。
【0096】
図1に示すように、発明鋼1は、PWHTを行う前の場合、針状フェライト及びベイナイトが混在していることが確認され、PWHT後には焼戻し効果によって針状フェライト及び焼戻しベイナイトが生成されたことが確認される。
【0097】
(実施例2)
実施例1のように、表1の合金組成を有する鋼スラブを[再加熱-熱間圧延-冷却]工程を経て製造したそれぞれの熱延鋼板に対して170KJ/cmの入熱量で1パス大入熱溶接(EGW)を行い、溶接熱影響部を形成した。この後、595℃で60分間維持した後、空冷する溶接後熱処理工程を行った。この時、溶接後熱処理工程は2回行った。
【0098】
この後、PWHT工程を完了したそれぞれの鋼材のうちの厚さ30mmに該当する鋼材の溶接熱影響部内の溶融線(FL)について微細組織を観察し、機械的物性を評価した。
【0099】
溶融線(FL)の微細組織は、光学顕微鏡で観察してから、EBSD装備を利用してフェライト、ベイナイトと硬質相(MA相)を目視で区分し、各分率を測定し、その結果を下記の表5に示す。また、溶融線(FL)のオーステナイト平均結晶粒大きさを測定し、その結果を併せて示す。
【0100】
そして、溶接熱影響部内の溶融線(FL)で試験片を採取し、引張強度(TS)、降伏強度(YS)、延伸率(El)及び衝撃靭性(CVN)を測定した。これに加えて、FL+1、FL+3、及びFL+5部位でも、それぞれの試験片を採取し、衝撃靭性(CVN)を測定し、その結果を下記の表6に示す(ここで+1、+3、+5部位は、溶融線を基準に母材の方向にそれぞれ1mm、3mm、5mm離れた地点を意味する)。このとき、衝撃靭性(CVN)の測定は、PWHT前後に試験片をそれぞれ採取した後、各試験片別に評価した。
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
表5及び表6に示すように、本発明で提案する合金組成及び製造条件によって製造された鋼材をEGW方法で溶接して得られた溶接熱影響部内の溶融線(FL)の微細組織が確認される。具体的に、発明鋼1~4は、溶融線の組織として軟質相と硬質相が適宜形成されるにつれて、PWHT後にも強度及び衝撃靭性の劣化が殆どないことが確認される。
【0104】
一方、合金組成が本発明を満たしていない比較鋼1及び2は、溶接熱影響部内の溶融線のPWHT後の衝撃靭性が劣化したことが確認される。
【0105】
図2は、発明鋼4のFL、FL+1、FL+3、及びFL+5部位の微細組織の写真を示す図であり、FL及びFL+1部位では、ベイナイトと一部粒界フェライトが観察され、FL+3及びFL+5部位では、微細かつ均一のポリゴナルフェライト組織を有することが確認される。
【0106】
また、図3に示すように、発明鋼4はPWHT後に母材及び溶接熱影響部内の溶融線の衝撃靭性がすべての部位(FL、FL+1、FL+3、及びFL+5)で50J以上確保されたことが確認される。
図1
図2
図3