IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人株式会社の特許一覧

特許7236554湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体
<>
  • 特許-湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体 図1
  • 特許-湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B29C 53/04 20060101AFI20230302BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230302BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B29C53/04
B32B27/36 102
B32B27/30 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021551180
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036273
(87)【国際公開番号】W WO2021070632
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019186415
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浴中 達矢
(72)【発明者】
【氏名】依田 孝志
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩
(72)【発明者】
【氏名】赤岡 智彬
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/041831(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157149(WO,A1)
【文献】特開2017-065172(JP,A)
【文献】国際公開第2011/049186(WO,A1)
【文献】特開2005-161652(JP,A)
【文献】特開2014-205335(JP,A)
【文献】特開2014-000688(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 53/00-53/84
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが0.1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)~(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程と、
準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、
前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程と、
を含む、湾曲部材の製造方法。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm~9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%~70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%~95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%~65質量%である。
【請求項2】
前記湾曲させる工程が、前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の少なくとも片方のC層側が凸面状になるように湾曲させる工程を含む、請求項1に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項3】
前記予備加熱する工程の前に、前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のC層の表面に印刷する工程を含む、請求項1又は請求項2に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項4】
前記A層におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20,000~30,000である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項5】
前記B層と前記C層の厚みの合計が、10μm~32μmである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項6】
前記多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率が、30%~70%である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項7】
厚みが0.1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)~(d)の要件を満たし、前記B層が前記A層及び前記C層に接している、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の製造方法に用いるための、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm~9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%~70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%~95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%~65質量%である。
【請求項8】
前記A層におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20,000~30,000である、請求項7に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項9】
前記B層と前記C層の厚みの合計が、10μm~32μmである、請求項7又は請求項8に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項10】
前記多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率が、30%~70%である、請求項7~請求項9のいずれか1項に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐熱性、機械的強度等を有するため電気、機械、自動車、医療用途等に幅広く使用されている。一方で近年ポリカーボネート樹脂は上記の各種優れた特徴により、各種透明部材(以下、「グレージング部材」ともいう。)に広く使用されている。中でも軽量化を目的とした車両用透明部材(以下、「車両用グレージング部材」ともいう。)への適用が広く試みられている。車両用グレージング部材としては、ヘッドランプレンズ、樹脂窓ガラス、リアランプレンズ、およびメーターカバーなどが挙げられる。これらの部材は、形状が複雑かつ大型であると共に、成形品の品質に対する要求が極めて高いことが特徴である。
【0003】
車両用のグレージング部材においては、良好な透明性、耐候性、および成形耐熱性に加えて、良好な離型性、低減された成形品の内部歪み、および、改善された割れ耐性を有する、ポリカーボネート樹脂組成物が求められている。
【0004】
また、上記グレージング部材に求められる高品位な意匠面を有する部材を、効率的に、低コストで製造できる方法として、例えば、国際公開第2011/049186号には、(1)熱可塑性樹脂を含有する樹脂材料を射出圧縮成形した高品位な意匠面を有するシートを準備し(工程(1))、(2)樹脂材料のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、(Tg+5)~(Tg+70)℃の温度でシートを予備加熱し軟化させ(工程(2))、(3)軟化したシートに圧力を作用させて高品位な意匠面を湾曲させる(工程(3))、各工程を含む、高品位な意匠面を有する湾曲部材の製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
国際公開第2011/049186号には、シート基材上にハードコート層が積層された積層体が開示されている。基材上にハードコート層を設ける場合には、基材とハードコート層との高い密着性が求められる。特に、湾曲部材の製造においては、熱曲げ後も、基材とハードコート層との密着性に優れることが重要である。しかし、国際公開第2011/049186号では、熱曲げ後の密着性については着目していない。また、湾曲部材の製造においては、耐摩耗性及び熱曲げ性も要求されている。
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、国際公開第2011/049186号に記載の湾曲部材の製造方法において、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性にに関する改良の余地があることを見出した。
本発明の一実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材の製造方法が提供される。
本発明の他の実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
<1> 厚みが0.1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)~(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程と、
準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、
前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程と、
を含む、湾曲部材の製造方法。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm~9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%~70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%~95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%~65質量%である。
<2> 前記湾曲させる工程が、前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の少なくとも片方のC層側が凸面状になるように湾曲させる工程を含む、<1>に記載の湾曲部材の製造方法。
<3> 前記予備加熱する工程の前に、前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のC層の表面に印刷する工程を含む、<1>又は<2>に記載の湾曲部材の製造方法。
<4> 前記A層におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20,000~30,000である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の湾曲部材の製造方法。
<5> 前記B層と前記C層の厚みの合計が、10μm~32μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の湾曲部材の製造方法。
<6> 前記多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率が、30%~70%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の湾曲部材の製造方法。
<7> 厚みが0.1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)~(d)の要件を満たし、前記B層が前記A層及び前記C層に接している、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm~9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%~70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%~95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%~65質量%である。
<8> 前記A層に用いてなるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20,000~30,000である、<7>に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
<9> 前記B層と前記C層の厚みの合計が、10μm~32μmである、<7>又は<8>に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
<10> 前記多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率が、30%~70%である、<7>~<9>のいずれか1項に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材の製造方法を提供できる。
本発明の他の実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例で作製されたシート-αの形状を示す図である。
図2図2は、実施例で作製されたシート-βの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
特に限定しない限りにおいて、本開示において組成物中の各成分、又は、ポリマー中の各構成単位は、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上を併用してもよいものとする。
更に、本開示においてポリマー中の各構成単位の量は、ポリマー中の各構成単位に該当する物質又は構成単位が複数存在する場合、特に断らない限り、ポリマー中に存在する該当する複数の各構成単位の合計量を意味する。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
(湾曲部材の製造方法)
本開示に係る湾曲部材の製造方法は、厚みが0.1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)~(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体(以下、単に、「積層体」ともいう場合がある。)を準備する工程と、
準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱して軟化させる工程と、
前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程と、
を含む。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm~9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%~70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%~95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%~65質量%である。
【0012】
通常、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を熱曲げした際に、積層体のハードコート層にクラックが発生してしまうことがあった。
クラックが発生する理由としてポリカーボネート樹脂層とハードコート層との界面の密着が不十分なため、熱曲げ後の外観だけでは判断しにくいポリカーボネート樹脂層とハードコート層との界面でミクロなレベルの剥離が発生し、ハードコート層がポリカーボネート層に追随できず、急角度に折れ曲がるためクラックが発生すると推定している。
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、特定の厚みのポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)と、がこの順に積層され、かつ、(a)~(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を、特定の温度条件で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程とを含む製造方法により、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材が得られることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
【0013】
ハードコート層(C層)は、特定量の多官能(メタ)アクリレートと、特定量の無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方とを、含む。多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方は、溶解パラメーターが芳香族ポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなる。さらに、本開示に係る湾曲部材の製造方法に用いられる熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体におけるB層は、A層及びC層の両成分を含むので、C層とA層とはB層を介することで、積層体全体の密着性が更に良好となるので熱曲げ性にも優れると推定している。
また、ハードコート層(C層)が、特定量の多官能(メタ)アクリレートを含むので、多官能(メタ)アクリレート中の重合性二重結合が、紫外線等の活性エネルギー線で硬化されることにより、C層において3次元架橋が形成されて、C層の耐摩耗性及び熱曲げ後の密着性にも優れると推定している。
以下、本開示に係る湾曲部材の製造方法における各工程の詳細について説明する。
【0014】
<積層体の準備工程>
本開示に係る湾曲部材の製造方法における積層体の準備工程に用いられる熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、厚みが0.1mm~20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、上記(a)~(d)の要件を満たす。
以下、積層体の詳細について説明する。
【0015】
<<積層体>>
本開示に係る湾曲部材の製造方法に用いられる積層体では、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の両方の面に浸透層(B層)とハードコート層(C層)とが積層され、B層がA層及びC層と接している。
また、本開示に係る積層体では、必要に応じて、ハードコート層(C層)の上にその他の層を積層させてもよい。
その他の層としては、例えば、加飾層等が挙げられる。
加飾層を形成する方法として、スクリーン印刷等が知られている。
【0016】
-A層-
ポリカーボネート樹脂層(A層)に用いられるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体を反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
上記反応の方法としては、例えば、界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、及び、環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0017】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(3-イソプロピル-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-フェニル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、および4,4’-ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0018】
上記二価フェノールのうち、ビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種のビスフェノールより得られる単独重合体または共重合体が好ましい。特に、ビスフェノールAの単独重合体、または、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、若しくは、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンとの共重合体がより好ましく使用される。
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステル、及びハロホルメートが挙げられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、及び二価フェノールのジハロホルメートが挙げられる。
【0019】
界面重縮合法及びエステル交換法によるポリカーボネート樹脂の合成方法ついて以下に簡単に説明する。
カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる界面重縮合法では、通常酸結合剤及び有機溶媒の存在下に二価フェノールとホスゲンとの反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、又は、ピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために、例えば第三級アミン、第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として、例えばフェノール、p-tert-ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることが望ましい。
反応温度は通常0℃~40℃、反応時間は10分~5時間、反応中のpHは10以上に保つのが好ましい。
【0020】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用いるエステル交換法(溶融法)は、不活性ガスの存在下に所定割合の二価フェノール成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら攪拌し、生成するアルコール又はフェノール類を留出させる方法である。
反応温度は、生成するアルコール又はフェノール類の沸点等により異なるが、通常120℃~350℃の範囲であることが好ましい。反応方法としては、その初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応させることが好ましい。
また反応を促進するために通常のエステル交換反応触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いる炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジブチルカーボネートが挙げられ、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0021】
(a)ポリカーボネート樹脂基材層(A層)に含まれるポリカーボネートは、粘度平均分子量が17,000~40,000であることが好ましく、界面重縮合法、又は、エステル交換法によって得られる20,000~30,000であることがより好ましい。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が17,000~40,000であると、得られる積層体は、十分な強度及び良好な溶融流動性を有するため、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性により優れる。
なお、ここで言う粘度平均分子量(M)は、下記Schnellの粘度式から求められ、ここで極限粘度[η]は、塩化メチレンを溶媒とするポリカーボネート樹脂を、オストワルド粘度計を用いて20℃で測定することで求められる。
[η]=1.23×10-40.83
【0022】
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)は、粘度平均分子量が17,000~40,000以外のポリカーボネート樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、含まないことが好ましい。
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)は、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、粘度平均分子量が17,000~40,000のポリカーボネート樹脂の含有率が、A層の全質量に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0023】
また、ポリカーボネート樹脂には、使用目的に応じて、光透過性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば熱安定剤、離型剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤、補強剤(例えば、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、及び各種ウイスカー)、難燃剤(例えば、ハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、金属塩系難燃剤、赤リン、シリコン系難燃剤、フッ素系難燃剤、及び金属水和物系難燃剤)、着色剤(例えば、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、及び染料)、光拡散剤(例えば、アクリル架橋粒子、シリコン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、及び炭酸カルシウム粒子)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、流動改質剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば、微粒子酸化チタン及び微粒子酸化亜鉛)、グラフトゴムに代表される衝撃改質剤、又はフォトクロミック剤を配合させることができる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂を製造するには、任意の方法が採用される。例えばポリカーボネート樹脂原料及び任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて十分に混合した後、場合により押出造粒器、ブリケッティングマシーン等の造粒機により造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練を行い、かつ、ペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0025】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法も挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては例えば、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等を予め予備混合した後、ポリカーボネート樹脂に混合又は押出機に直接供給する方法が挙げられる。
【0026】
また予備混合する方法としては、パウダーの形態を有するものを含む場合、例えば、パウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドして、パウダーで希釈した添加剤のマスターバッチとする方法、及び、溶融押出機の途中から更に一成分を独立に供給する方法が挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、又は液添装置を使用することができる。
【0027】
押出機としては、原料中の水分、及び、溶融混練樹脂等から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分及び揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また、押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。
上記スクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、及び焼結金属プレート(例えば、ディスクフィルター)を挙げることができる。
【0028】
溶融混練機としては、例えば、二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、及び3軸以上の多軸押出機を挙げることができる。
【0029】
押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、又は、ストランドを形成した後、ストランドをペレタイザーで切断してペレット化されることが好ましい。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。
【0030】
通常、ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形して成形品を得ることにより各種製品を製造することができる。
射出成形としては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、及び、超高速射出成形を挙げることができる。
また、成形はコールドランナー方式、及び、ホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0031】
ポリカーボネート樹脂は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルム等の形で使用することもできる。またシート又はフィルムの成形としては、インフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等の方法も使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。またポリカーボネート樹脂を回転成形、ブロー成形等の成形方法により中空成形品とすることも可能である。
【0032】
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の厚みは、0.1mm~20mmであり、好ましくは、1mm~20mm、更に好ましくは3mm~15mmである。
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の厚みは、本開示に係る積層体の厚みをマイクロメーターで測定し、この積層体の厚みから、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定されたB層及びC層の厚みを差し引くことで求められる。
なお、上記B層及びC層の厚みは、本開示に係る積層体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定して求められる。
【0033】
-B層-
(a)B層は、A層の全成分及びC層の成分の少なくとも一部を含む。B層がA層及びC層の両成分を含むことにより、各層の密着性を向上させ、熱曲げ性に優れた湾曲部材を得ることができる。
B層に含まれるA層及びC層の両成分は、顕微-赤外分光法(顕微FT-IR法により確認される。
具体的には、本開示に係る積層体を切断し、B層の断面の顕微FT-IR測定装置を用いて分析し、カーボネート結合に由来するピーク(1780cm-1)とアクリルエステルに由来するピーク(1740cm-1付近)との混在を確認することで、A層及びC層の両成分がまじりあっていること、すなわち、B層がA層及びC層の両成分を含むことを確認することができる。
耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる観点から、B層は、A層の成分、及び、シリカ微粒子以外のC層の成分を含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂と、多官能(メタ)アクリレートと、珪素化合物加水分解縮合物とを含むことがより好ましい。
【0034】
(b)B層の厚みは、2μm~9μmである。B層の厚みが2μm以上であると、熱曲げ後の密着性に優れ、また、9μm以下であると、耐摩耗性及び熱曲げ性に優れる。得られる積層体の耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる観点から、B層の厚みは、好ましくは3μm~8μmである。なお、B層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0035】
B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、10μm~32μmであることが好ましい。B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みが、10μm以上であると耐候性に優れ、32μm以下であると硬化収縮又は線膨張の違いによりB層とA層との界面の応力が大きくなりすぎることがなく、また、硬化時にB層とA層との界面まで紫外線等の活性エネルギー線が到達してA層との界面付近のB層中のC2成分も十分な付加反応が進むため、熱曲げ後の密着性に優れる。
耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、15μm~30μmであることが好ましく、18μm~28μmであることがより好ましく、18μm~25μmであることが更に好ましい。
なお、B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0036】
(c)B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みに対するB層の厚みの割合は、20%~70%である。B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みに対するB層の厚みの割合が、20%~70%であると、得られる湾曲部材の耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる。上記観点から、20%~55%であることが好ましく、20%~45%であることが特に好ましい。
【0037】
-C層-
(d)C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%~95質量%であり、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%~65質量%である。
【0038】
-B層及びC層の形成方法-
B層及びC層の形成方法としては、特に制限はなく、B層及びC層を別々に形成させてもよいし、B層及びC層を同時に形成させてもよい。例えば、A層のいずれか一方の表面に、C層が含む、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含む無機微粒子分散体(以下、単に「無機微粒子分散体」ともいう。)を塗布してB層を形成し、B層の上にC層形成用の無機微粒子分散体を塗布してC層を形成してもよいし、A層のいずれか一方の表面に、C層形成用の無機微粒子分散体を塗布して、C層及びB層を形成させる方法であってもよい。
【0039】
B層は、C層を形成する成分のうち、多官能(メタ)アクリレートとA層を構成するポリカーボネート樹脂との溶解性パラメーターの差が10((MPa)1/2)以下であることが好ましい。
溶解性パラメーターの差が上記範囲であると、A層にC層を塗工後の接触面において、分子運動による拡散でA層及びC層の両成分が入り混じった浸透層(B層)を形成することができる。
【0040】
B層及びC層を同時に形成させる具体例としては、A層の少なくとも一方の面に、無機微粒子分散体を塗布した後、乾燥させて形成する方法が挙げられるが、これに限定されることはない。
なお、B層及びC層を同時に形成させる場合において、無機微粒子分散体の一部成分のみがB層形成に寄与するように無機微粒子分散体を調製することが好ましく、この場合、無機微粒子分散体の組成とC層の組成は一致しなくてもよい。
B層及びC層を同時に形成させる方法である場合、B層の厚みは、乾燥温度及び乾燥時間を変化させることで適宜調節することができる。
【0041】
無機微粒子分散体を乾燥方法としては限定されず、自然乾燥、風乾、加熱による乾燥方法等が挙げられる。
上記乾燥温度は、65℃~95℃であることが好ましく、70℃~85℃であることがより好ましい。
また、乾燥時間は、耐候性の観点から、5分~20分であることが好ましく、5分~15分であることがより好ましく、5分~13分であることが更に好ましい。
【0042】
C層における、多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との含有比率の測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、積層体のC層を削り取り、熱分解ガスクロマトグラフィーにより、C層に存在する化合物の種類を分析する。さらに、元素分析による組成特定法、若しくは、積層体のC層表面をC層表面の減衰全反射測定法による赤外分光分析(ATR-IR)、又は、積層体を厚み方向に切断し、C層断面を透過型IRで測定することで、多官能(メタ)アクリレートに由来するピーク(1740cm-1付近)と無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方に由来するピーク(シリカの場合は1100cm-1付近)の存在比を比較する。
【0043】
無機微粒子分散体をA層に塗布する方法としては、特に制限はないが、例えば、刷毛塗り法、ローラー塗装法、スプレー塗装法、浸漬塗装法、フロー・コーター塗装法、ロール・コーター塗装法、電着塗装法等の公知慣用の塗装方法が挙げられる。
【0044】
C層の厚みは、特に制限はないが、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、7μm~26μmの範囲であることが好ましく、8μm~24μmの範囲であることがより好ましく、10μm~15μmであることが更に好ましい。
C層の厚みは、A層の厚みと同様に上述の方法により求められる。
【0045】
-多官能アクリレート-
C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、1分子中に((メタ)アクリレート基を2以上有していれば特に制限されず、例えば、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート等の2官能の(メタ)アクリレートモノマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレートモノマー;及び、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
これらの中でも、C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、2官能~4官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましく、2官能又は3官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが更に好ましい。
本明細書において、多官能(メタ)アクリレートモノマーとは、分子量が2,000未満である多官能(メタ)アクリレートを意味する。
【0046】
C層は、耐摩耗性と熱曲げ性とのバランスをとるために、単官能(メタ)アクリレートモノマーを用いて形成されていてもよい。その場合、多官能(メタ)アクリレートモノマーは(メタ)アクリレートモノマーの全質量に対して、90質量%以上であることが好ましく、93質量%以上であることがより好ましく、96質量%以上であることが特に好ましい。
【0047】
〔ジ(メタ)アクリレート化合物〕
C層の形成に用いられる2官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族又は芳香族ジ(メタ)アクリレート化合物であってもよいが、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物は、アルキルジオールとアクリル酸又はメタクリル酸をエステル化し、結合させた化合物であることが好ましい。
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物の好ましい構造としては、1、6-ヘキサンジオールジアクリレート、1、9-ノナンジオールジアクリレート、及び1、10-デカンジオールジアクリレートが挙げられる。
脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物は、合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、HDDA(ダイセル・オルネクス社製)、A-HD-N、A-NOD-N、A-DOD-N(以上、新中村化学工業(株)製)、又は1、9-DA(共栄化学工業(株)製)が利用可能である。
【0048】
脂肪族ジ(メタ)アクリレートモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多官能(メタ)アクリレートモノマーが、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物を含む場合、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物の配合率は、多官能(メタ)アクリレートモノマーの全質量に対して、10質量%~80質量%であることが好ましく、より好ましくは20質量%~70質量%であり、更に好ましくは25質量%~60質量%である。
【0049】
〔トリ(メタ)アクリレート化合物〕
C層の形成に用いられる3官能の(メタ)アクリレートモノマーは、脂肪族トリ(メタ)アクリレートモノマー又は芳香族トリ(メタ)アクリレートモノマーであってもよいが、脂肪族トリ(メタ)アクリレートモノマー又はヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族環トリ(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましく、脂肪族トリ(メタ)アクリレート化合物又はイソシアヌル環を有するトリ(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましい。
【0050】
脂肪族トリ(メタ)アクリレートモノマーは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、又は、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートであることが好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0051】
<<イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレートモノマー>>
C層の形成に用いられるイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレートモノマーは、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0052】
【化5】
【0053】
上記一般式(5)中、R、R10及びR11はそれぞれ独立して、下記式(5-a)で表される基を表す。
【0054】
【化6】
【0055】
上記式(5-a)中、n2は2~4の整数を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Q及びQは繰り返し単位中においてそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。
【0056】
イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレートモノマーの好ましい構造としては、以下の(5A)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0057】
【化7】
【0058】
イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレートモノマーは、合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、M-315(東亞合成(株)製)、A9300(新中村化学工業(株)製)、FA-731A(日立化成(株)製)、又はSR368(サートマー社製)、M-370(MIWON社製)が利用可能である。
【0059】
-イソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物モノマー配合率-
C層の形成に用いられるイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレートモノマーの配合率は、多官能(メタ)アクリレートモノマーの全質量に対して、20質量%~70質量%であることが好ましく、30質量%~69質量%であることがより好ましく、35質量%~68質量%であることが更に好ましい。
【0060】
硬度と柔軟性のバランス、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、2官能(メタ)アクリレート(好ましくは脂肪族ジ(メタ)アクリレートモノマー、より好ましくは、アルキルジオールとアクリル酸又はメタクリル酸をエステル化し、結合させた化合物)、及び、3官能の(メタ)アクリレートモノマー(好ましくは、脂肪族トリ(メタ)アクリレートモノマー又はイソシアヌル環を有するトリ(メタ)アクリレートモノマー、より好ましくはペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、又は、上記一般式(5)で表される化合物、更に好ましくは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、又は、上記(5A)で表される構造を有する化合物)であることが特に好ましい。
【0061】
C層に含まれる多官能(メタ)アクリレートは、上述の多官能(メタ)アクリレートモノマーの重合体(多官能(メタ)アクリレートポリマー)であることが好ましい。
上記多官能(メタ)アクリレートポリマーは、耐摩耗性と熱曲げ性のバランスの観点から、オリゴマーを含んでいてもよい。
本明細書において、多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとは、重量平均分子量が2,000以上50,000未満である多官能(メタ)アクリレートの重合体を意味する。本明細書において、多官能(メタ)アクリレートポリマーとは、重量平均分子量が50,000以上ある多官能(メタ)アクリレートの重合体を意味する。
多官能(メタ)アクリレートモノマーの重合体の重量平均分子量は、耐摩耗性と熱曲げ性の観点から、50,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることが更に好ましい。
多官能(メタ)アクリレートポリマーは、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいが、共重合体であることがより好ましい。
【0062】
〔多官能(メタ)アクリレートの含有量〕
C層に含まれる多官能(メタ)アクリレート(好ましくは、多官能(メタ)アクリレートポリマー)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
C層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して35質量%~95質量%であり、好ましくは40質量%~90質量%であり、より好ましくは、50質量%~90質量%である。
C層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲であると、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる。
【0063】
C層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量(質量%)は上述の通りC層の一部を削り取り、削り取ったC層を用いて熱分解ガスクロマトグラフィーを行って、C層に含まれる化合物を特定し、さらにC層の650cm-1から4000cm-1の波数領域で行った赤外分光測定の特性吸収の結果と組み合わせてC層の組成を特定することで求めることができる。
【0064】
〔多官能(メタ)アクリレートの反応率〕
多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率(以下、単に「反応率」ともいう場合がある)は、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、30%~70%であることが好ましく、40%~68%であることがより好ましく、45%~65%であることが更に好ましい。
C層中の多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の反応率は、上述のC層の多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との含有比率の測定方法で、無機微粒子分散体の組成を求め、更に、C層表面の減衰全反射測定法による赤外分光分析(ATR-IR)測定を行い、(メタ)アクリルエステルに由来するピーク(1740cm-1付近)と(メタ)アクリルモノマーに由来するピーク(810cm-1付近)から下記式(1)~(4)又は(5)で計算した値として求められる。
【0065】
(i)C層の表面を650cm-1から2000cm-1の波数領域でATR-IR測定を行い、得られた各測定結果において、1900cm-1と2000cm-1の下記式(1)測定赤外線吸収度αmから下記式(2)で表されるバックグラウンドの赤外線吸収度αbを算出する。
測定赤外線吸収度αm(波長)=-Log(R(波長)/100)・・・(1)
上記式中、Rは、測定サンプルにおける、測定波長での減衰全反射の反射率を表す。
バックグラウンドの赤外線吸収度αb(波長p)=1900cm-1におけるαm(1900)+(波長p-1900)×(2000cm-1におけるαm(2000)-1900cm-1におけるαm(1900))/100・・・(2)
【0066】
(ii)上記で得られたバックグラウンド赤外線吸収度の値から、下記式(3)により換算赤外線吸収度αc(波長p)を算出する。
αc(波長p)=αm(波長p)-αb(波長p)・・・(3)
【0067】
(iii)多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の反応率rは、C層の硬化反応前後のATR-IR測定結果から、以下の式(4)又は(5)で算出される。
【0068】
多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の反応率r=〔1-(αc1(810)/αc1(1740))/(αc0(810)/αc0(1740))〕×100・・・(4)
つまり
r=〔1-(αc1(810)×αc0(1740))/(αc0(810)×αc1(1740))〕×100・・・(5)
で算出される。
【0069】
上記式(3)又は(4)中、αc0(波長)は、C層の硬化反応前の換算赤外線吸収度を表し、αc1(波長)は、ATR-IR測定後の換算赤外線吸収度を表す。
なお、波長810とは、(メタ)アクリルモノマーに由来するピークを意味し、波長1740とは、(メタ)アクリルエステルに由来するピークを意味する。
【0070】
耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる観点から、後述する複合樹脂(C2)と、多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子との合計量に対して、多官能(メタ)アクリレートモノマーの配合率は、40質量%~98質量%であることが好ましく、より好ましくは、45質量%~96質量%であり、60質量%~70量%であることがさらに好ましい。
【0071】
<<無機微粒子>>
C層は、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含む。無機微粒子としては、無機酸化物微粒子が好ましい。無機酸化微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、及び二酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。これらの中でも、コロイダルシリカ等のシリカ微粒子が好ましく挙げられる。
市販のコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業(株)製メタノ-ルシリカゾル、IPA-ST、PGM-ST、MEK-ST、NBA-ST、XBA-ST、DMAC-ST、ST-UP、ST-OUP、ST-20、ST-40、ST-C、ST-N、ST-O、ST-50、及びST-OL(以上、製品名)を挙げることができる。
【0072】
また、シリカ微粒子は、公知の方法にて分散性を改良したシリカ微粒子を使用してもよい。このような分散性を改良したシリカ微粒子としては、例えば、シリカ微粒子を、疎水性基を有する反応性シランカップリング剤で表面処理したもの、(メタ)アクリロイル基を有する化合物で修飾したもの等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物で修飾した市販のコロイダルシリカとしては、日産化学工業(株)製MIBK-SD、MIBK-AC、MEK-AC、及びPGM-AC(以上、製品名)が挙げられる。
【0073】
シリカ微粒子の形状は特に限定はなく、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状のものを用いることができる。例えば、市販の中空状シリカ微粒子としては、日鉄鉱業(株)製シリナックスを用いることができる。
【0074】
無機酸化物微粒子の一次平均粒径は、1nm~200nmであることが好ましく、1nm~100nmであることがより好ましい。無機酸化物微粒子の一次平均粒径を上記範囲とすることで、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる湾曲部材が得ることができる。
【0075】
無機酸化物微粒子の平均一次粒子径は、ハードコート層中への分散性の観点から、3nm~500nmであることが好ましく、5nm~300nmであることがより好ましく、10nm~100nmであることが更に好ましい。
ハードコート層中への分散性の観点から、無機酸化物微粒子は、球状、かつ、平均一次粒子径が5nm~100nmのコロイダルシリカであることが好ましく、より好ましくは平均一次粒子径が20nm~60nmのコロイダルシリカである。
無機酸化物微粒子の平均一次粒径は、本開示に係る射出成型の断面におけるハードコート層を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することでよって測定される。
【0076】
〔無機微粒子の配合率〕
無機微粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機微粒子の配合率は、後述する複合樹脂(C2)と、多官能(メタ)アクリレート化合物と、無機微粒子の合計質量に対して、5質量%~30質量%であることが好ましく、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、5.5質量%~20質量%であることが好ましく、6質量%~16質量%であることが更に好ましい。
【0077】
-珪素化合物加水分解縮合物-
珪素化合物加水分解縮合物としては、加水分解性シラン化合物が好ましく挙げられる。加水分解性シラン化合物としては、アルコキシシラン化合物の加水分解縮合物が挙げられる。
加水分解性シラン化合物としては、具体的にはメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等の3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリアルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;及び、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、2-アミノエチルトリメトキシシラン、2-アミノエチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物の加水分解縮合物が挙げられる。
【0078】
アルコキシシラン化合物の加水分解縮合物は、アルコキシシラン化合物を加水分解縮合反応させることにより得られる。加水分解縮合反応において、加水分解と共に縮合反応が進行し、加水分解性シラン化合物の加水分解性基であるSi-ORの大部分が100%加水分解されていることが好ましい。加水分解されて形成されたOH基の大部分、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上は、他のアルコキシシラン化合物の加水分解により形成されたヒドロキシ基と縮合されることが液安定性の点から好ましい。
【0079】
珪素化合物加水分解縮合物は、アルコキシシラン化合物単独で加水分解反応を行って得られたものであってもよいし、上述の無機酸化物微粒子の存在下で加水分解反応を行って得られたものであってもよい。珪素化合物加水分解縮合物は、無機酸化物微粒子の分散性の観点から、上述の無機酸化物微粒子の存在下で加水分解反応を行って得られたものであることが好ましい。
【0080】
また、珪素化合物加水分解縮合物は、無機微粒子の分散性の向上のため、側鎖にアルコキシシリル基を持つ(メタ)アクリル樹脂、又は側鎖に極性の高い水酸基、アミン基、若しくはカルボキシル基を持つ(メタ)アクリル樹脂と、無機酸化物微粒子及び/又は加水分解性シラン化合物とを反応させたものを用いてもよい。
【0081】
〔複合樹脂(C2)〕
珪素化合物加水分解縮合物は、多官能(メタ)アクリレートと無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との親和性を向上するために、トリアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂と上述の珪素化合物加水分解縮合物とを縮重合させた複合樹脂(C2)を含むことが好ましい。
【0082】
複合樹脂(C2)は、C層を硬化する時、上述の多官能(メタ)アクリレートと共重合できるように、上述の多官能(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物が縮合反応で固定化された(メタ)アクリロイル基を有する複合樹脂であってもよい。
【0083】
<トリアジン系紫外線吸収剤(C4)>
本開示に係るハードコート層(C層)は、トリアジン系紫外線吸収剤(C4)を含有することが好ましい。
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)としては、分子骨格内にトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤が挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)は、上記構造を有するため、紫外線吸収能力に優れる。また、無機微粒子分散体は、トリアジン系紫外線吸収剤(C4)との相溶性に優れることから、無機微粒子分散体からなる、本開示に係るハードコート層は耐光性にも優れる。
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)の具体例としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、及び2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジンが挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)は合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、TINUVIN400(BASF社製)、TINUVIN405(BASF社製)、又はTINUVIN479(BASF社製)が利用可能である。
【0084】
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)において、好ましくは2-[4-(オクチル-2-メチルエタノエート)オキシ-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-[ビス(2,4-ジメチルフェニル)]-1,3,5-トリアジン、又は2-[4-(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシ-プロピル)オキシ-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-[ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンである。
【0085】
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
トリアジン系紫外線吸収剤(C4)の配合量は、多官能(メタ)アクリレートと無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との合計100質量部に対し、3質量%~5質量%であることが好ましく、耐摩耗性、熱曲げ後の密着性及び耐候性の観点から、より好ましくは、3.5質量%~4.5質量%である。
【0086】
<ヒンダードアミン(光安定剤(C5))>
本開示に係るハードコート層(C層)は、ヒンダードアミン光安定剤(C5)を含有することが好ましい。ヒンダードアミン光安定剤(C5)としては、アミン化合物中の窒素原子の3つの置換基のうち、二つ(二つの置換基と窒素原子で環状構造を形成する化合物を含む)が立体障害の大きい構造をしている化合物が挙げられる。
ヒンダードアミン光安定剤(C5)は、上記構造を有するため、コート層中で発生した活性種(ラジカル)と反応して不活性化することができる。
【0087】
ヒンダードアミン光安定剤(C5)の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)=3,4-ビス{[(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)オキシ]カルボニル}ヘキサンジオアート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)=デカンジオアート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル=メタクリラート等のアルキル型ヒンダードアミン;ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)=3,4-ビス{[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)オキシ]カルボニル}ヘキサンジオアート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル=メタクリラート等の水素型ヒンダードアミン;及びビス[2,2,6,6-テトラメチル-1-(ウンデシルオキシ)ピペリジン-4-イル]=カルボナート、1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル=オクタンジオアート等のアルコキシ型ヒンダードアミンが挙げられる。
【0088】
ヒンダードアミンは合成してもよく、市販品を用いてもよい。
市販品としては、TINUVIN123(BASF社製)、LA-52(ADEKA社製)、LA-57((株)ADEKA製)、LA-68((株)ADEKA製)、LA-72(ADEKA社製)、LA-77((株)ADEKA製)、LA-81(ADEKA社製)、LA-82(ADEKA社製)、又はLA-87((株)ADEKA製)が利用可能である。
【0089】
ヒンダードアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ヒンダードアミンの配合量は、多官能(メタ)アクリレートと無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との合計100質量部に対し、0.5質量%~30質量%であることが好ましく、耐摩耗性、熱曲げ後の密着性及び耐候性の観点から、より好ましくは、3質量%~20質量%である。
【0090】
-その他の成分-
本開示に係るハードコート層(C層)は、必要に応じて上述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。その他の成分としては、表面調整剤、着色剤、並びに、分散液の固形分量及び粘度を調整する目的としての分散媒が挙げられる。
分散媒としては、本開示の効果を損ねることのない液状媒体であればよく、各種有機溶剤が挙げられる。
【0091】
浸透層(B層)の層厚を好適な範囲に調整することができる観点から、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、吉草酸エチル等のエステル類;メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール(以下、「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)」とも称する場合がある。)、エトキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のエーテルアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;及び、トルエン、キシレン、(エチルベンゼン)、スチレン、スチルベン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
有機溶剤は、単独又は混合して使用することができる。
有機溶剤を単独で使用する場合、ハードコート層(C)に含まれるアクリル樹脂の溶解性、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)への浸透性の観点から、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のエーテルアルコール類が好ましく用いられる。これらのなかでも特に、揮発性、アクリル樹脂の溶解力、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)への浸透性のバランス及び毒性の低さの観点から、メトキシプロパノールが特に好ましく用いられる。
有機溶剤を混合して使用する場合、浸透層(B)を形成しやすい観点から、上記単独で使用する場合の有機溶剤として挙げたエーテルアルコール類に、更にアセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、吉草酸エチル等のエステル類;及び、トルエン、キシレン、(エチルベンゼン)、スチレン、スチルベン等の芳香族炭化水素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることが好ましい。また、沸点が70~140℃の範囲にあり、ハードコート塗布後基材を熱乾燥する際に溶剤が揮発して浸透層が必要以上に厚くなるのを遅らせることができるため、エーテルアルコール類にメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び、トルエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることがより好ましい。また、メトキシプロパノールにメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び、トルエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることが特に好ましい。
塗工時の揮発性及び溶媒回収の面からは、有機溶剤は、メチルエチルケトン(MEK)、又は、メトキシプロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)であることが好ましい。
【0092】
上記有機溶剤の含有量は、無機微粒子分散体100質量部に対して40質量部~70質量部であることが好ましく、45質量部~65質量部であることがより好ましい。
【0093】
本開示に係るハードコート層に使用される無機微粒子分散体は、紫外線により無機微粒子分散体を硬化させる場合には、光重合開始剤を更に含むことが好ましい。
光重合開始剤としては公知のものを使用すればよく、例えば、アセトフェノン類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類からなる群から選ばれる一種以上を好ましく用いることができる。前記アセトフェノン類としては、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、及び4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトンが挙げられる。前記ベンジルケタール類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、及びベンジルジメチルケタールが挙げられる。
ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン及びo-ベンゾイル安息香酸メチルが挙げられる。
ベンゾイン類等としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、及びベンゾインイソプロピルエーテルが挙げられる。
【0094】
光重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤の使用量は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計100質量部に対して、1質量%~15質量%が好ましく、2質量%~10質量%がより好ましい。
【0095】
-熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の製造方法-
熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の製造方法は、公知の製造方法を用いることができる。例えば、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方表面に無機微粒子分散体の塗布液を塗布した後、塗布面を例えば、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより、屋外における長期耐候性と優れた耐摩耗性を併有し、且つ、基材に対する密着性に優れる熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を得ることができる。
上記活性エネルギー線としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線、並びに、通常20kV~2,000kVの粒子加速器から取り出される電子線、α線、β線、及びγ線が挙げられる。
活性エネルギー線としては、中でも紫外線、又は、電子線を使用するのが好ましく、紫外線が更に好ましい。
紫外線等の活性エネルギー線の照射により多官能(メタ)アクリレート中の二重結合が付加重合することにより、ハードコート層(C層)を構成する分子の自由な分子運動が抑制され、浸透層(B層)を固定化することができる。
【0096】
紫外線源としては、太陽光線、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、アルゴンレーザー、又はヘリウム・カドミウムレーザーを使用することができる。これらを用いて、約180nm~400nmの波長の紫外線を、無機微粒子分散体の塗工面に照射することによって、塗膜を硬化させることが可能である。
紫外線の照射量としては、使用される光重合開始剤の種類及び量によって適宜選択される。
活性エネルギー線による硬化は、基材がプラスチック等の耐熱性に乏しい素材である場合に特に有効である。一方基材に影響を与えない範囲で熱を併用する場合には、熱風、近赤外線など公知の熱源が使用できる。
【0097】
また、その後、紫外線照射により多官能(メタ)アクリレート中の二重結合が付加重合することにより、コート層を構成する分子の自由な分子運動が制限され、浸透層が固定化される
【0098】
本開示に係る積層体は、無色であってもよいし、有色であってもよいが、透明部材であることが好ましい。
本開示に係る積層体は、JIS K7361-1(1997)(対応ISO:13468-1 1996)に従い測定した全光線透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましい。
【0099】
<予備加熱する工程(予備加熱工程)>
前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程(以下、単に「予備加熱工程」ともいう。)は、準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程である。
予備加熱工程は、準備した積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱して軟化させる工程であることが好ましい。
予備加熱は、積層体準備工程で準備したポリカーボネート樹脂積層体を直接加熱してもよい。ポリカーボネート樹脂積層体が表面保護のためマスキング処理がされている場合には、マスキングは除去されていることが好ましい。
【0100】
予備加熱の方法は、従来公知の各種の加熱方法が利用できる。例えば、空気強制循環式加熱炉、赤外線ヒーター、およびマイクロ波加熱などが例示される。これらのなかでも、シートが大型の場合であっても全体が均一に加熱されやすく、かつ設備コスト上の負担も少ないことから、空気強制循環式加熱炉が好適である。尚、複数の加熱方法を順次または同時に併用してもよい。
【0101】
予備加熱温度は、ポリカーボネート樹脂のTg(℃)に対して、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下である。
空気強制循環式加熱炉においては、加熱炉の温度を上記温度範囲に調整し、所定の時間処理を行い、ポリカーボネート樹脂積層体を熱成形に適切な温度にすることが好ましい。
予備加熱温度範囲としては、好ましくはTgより5℃高い温度以上Tgより50℃高い温度以下、より好ましくはTgより10℃高い温度以上Tgより35℃高い温度以下、更に好ましくはTgより15℃高い温度以上Tgより25℃高い温度以下である。
例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を用いる場合(1質量%程度の添加材を含む)、Tgは約150℃であるので、予備加熱温度は155℃~220℃、好ましくは155℃~200℃であり、より好ましくは160℃~185℃であり、更に好ましくは165℃~175℃である。
予備加熱温度範囲が上記範囲であると、製造効率と、熱成形品の表面状態及び寸法精度とを両立するのに好適である。
具体的には、熱処理時間としては、本開示に係るポリカーボネート樹脂積層体の厚みが4.5mmである場合、Tgよりも加熱炉の雰囲気が20℃高い場合には約540秒~840秒であることが好ましく、Tgより30℃高い場合に約290秒~590秒であることがより好ましく、Tgより40℃高い場合に約120秒~420秒であることが更に好ましい。
より汎用的には、加熱炉中の雰囲気温度と熱可塑性樹脂のTgとの差x(℃)と、処理時間y(秒)との関係は、ポリカーボネート樹脂積層体の厚みをz(mm)としたとき、
y=[(0.4x-45x+1430)×(z/4.5)]±150
の範囲を目安とすることが好ましく、更に好ましくは
y=[(0.4x2-45x+1430)×(z/4.5)2]±100
の範囲である。
更に、湾曲部材の曲率半径が小さいほど、ポリカーボネート樹脂積層体はより軟らかくされることが好ましいため、曲率半径をr(mm)としたとき、上記x(℃)は、
190-(r/100)≦Tg+x≦220-(r/100)
の範囲を目安とすることが好ましい。
【0102】
また予備加熱される際のポリカーボネート樹脂積層体は、横置きであっても垂直に吊られてもよい。
尚、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg(℃))は、JIS K7121(2012)(対応ISO:3146 1985)に規定される方法にて測定されたものであり、DSCなどのチャートにおいて認識できるガラス転移温度をいう。またポリカーボネート樹脂が2種以上の樹脂から構成されるなどの理由で、2つ以上のガラス転移温度を示す場合には、そのうちの最も高い温度をさす。
【0103】
<積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程(湾曲工程)>
湾曲工程は、上記予備加熱工程で得られた積層体(好ましくは軟化した積層体)に圧力を作用させて湾曲させる工程である。
積層体の湾曲の程度は、曲率半径(mm)で表わすことができ、好ましくは500mm~30,000mm、より好ましくは1,000mm~25,000mm、更に好ましくは1,500mm~10,000mmの範囲である。
【0104】
積層体を湾曲させる方法としては、真空成形、圧空成形、及びプレス成形が挙げられ、いずれも適用可能である。これらの中でも積層体を湾曲させたときに、積層体の表面上に亀裂等を与えることなく、比較的厚みの厚い積層体にも適用が可能であるプレス成形による湾曲方法であることが好ましい。
【0105】
ここでプレス成形とは、予備加熱された積層体を変形するに際して、型又はフレームを用いて加圧し所定の形状を得る方法をいう。
プレス成形では、通常、機械的な駆動装置を用いて、型及びその他必要とされる機械装置を動かす。駆動装置としては、圧空又は油圧ピストン、圧空又は油圧モーター、電気モーター、及び超音波モーターが利用できるが、油圧ピストンが好ましい。
【0106】
プレス成形に用いられる型は雄型のみであってもよいが、熱成形後の寸法精度を高めるためには、雌雄型をかみ合わせる構造であることが好ましい。即ち、雌雄両型間に積層体を挟んでプレス成形を行うことが好ましい。
湾曲させる方法としては、圧力が緩衝するように圧力を作用させることが好ましく、具体的には、以下の(a)~(e)が好適に例示される。
(a)グリース成形に代表される方法;即ち、型をフェルトやフランネル等の液状物を含浸可能な弾褥可撓性シートで覆い、グリースのような液状物を含浸させ、この液状物により型面からの圧力を緩衝する方法。
(b)特公平6-77961号に記載方法に代表される方法;即ち、上記(a)において液状物として、硬化型液状シリコーンゴム等の、硬化性液状エラストマーを用いて、含浸硬化せしめた被覆層を有する型を用いる方法。
(c)型表面に直接エラストマーの被覆層を有する型を用いる方法。
(d)尾根成形(ridge forming)と称される方法;即ち、少なくとも型面において中実の型ではなく、骨格フレームからなる型を用いて、積層体の端部に骨格フレームを接触させ、積層体の端部には型の接触がない方法。
(e)積層体の端部に積層体中央部よりも高いプレス圧力を作用させることにより湾曲面を形成する方法。
上記(a)の方法は形状の自由度が高い点で好ましい一方、成形後の洗浄工程が必要となる。上記(d)の方法は、形状の自由度が限られやすい。したがって、上記の中では、(b)、(c)および(e)の方法がより好適であり、特により簡便な(e)の方法がより好ましい。
ここで、積層体の端部に積層体の中央部よりも高いプレス圧力を作用させることにより湾面を形成する方法としては、
(e-1):積層体の端部に硬質な被覆層を設け、積層体の中央部に軟質な被覆層を設ける方法、
(e-2):積層体の端部に接触面積が高まる被覆層を設け、積層体の中央部には表面を荒らしたり接触点を点在させるなどして接触面積が小さくなる被覆層を設ける方法、並びに
(e-3):積層体の端部の被覆層の厚みを、積層体の中央部の被覆層の厚みよりも大きくし、積層体の中央部の圧力を低減する方法などが例示される。
【0107】
これらの中でも、熱曲げ方法としては、簡便な観点から(e-3)の方法が好適である。被覆層としては、エラストマー層、および弾褥層が例示され、弾褥層が最も簡便に利用できる点から好ましい。弾褥層としては、天然繊維、合成繊維、及び無機繊維等の編布、織布、及び不織布からなる層、並びにその短繊維を植毛した層、更には多孔質発泡樹脂層が例示される。殊に、弾褥層は、フランネル又はフェルトからなる層が好適である。
上記(e-3)の方法のより好適な方法は、プレス圧力の強弱を、少なくともいずれか一方の型表面に弾褥可撓性シートを貼着し、かつより高いプレス圧力を作用させる不要部部分の弾褥可撓性シートの厚みを、積層体の中央部の厚みよりも厚くした型を用いる方法が挙げられる。
シートの厚み差は、好ましくは0.1mm~3mm、より好ましくは0.2mm~2mm、更に好ましくは0.3~1mmである。熱曲げ方法において高いプレス圧力を作用させる部分のプレス圧力は、好ましくは0.05MPa~2MPaである。
【0108】
プレス成形に用いられる型は、木型、石膏型、樹脂型、および金属型のいずれであってもよい。木型は、単板、積層合板、およびハードボードのいずれも利用でき、型表面保護のための各種のワニスにより表面処理がなされていることが好ましい。
プレス成形に用いられる型は、国際公開第2011/049186号に記載の型が好適に挙げられる。
また積層体の型への位置決め方法は、国際公開第2011/049186号に記載の型方法を用いることができる。
【0109】
本開示に係る湾曲部材の製造方法において、湾曲させる工程は、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の少なくとも片方のC層側が凸面状になるように湾曲させる工程を含むことが好ましい。
凸面状に湾曲させる方法としては、上記の湾曲方法が挙げられる。
【0110】
本開示に係る湾曲部材の製造方法は、予備加熱する工程の前に、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のC層の表面に印刷する工程(印刷工程)を含んでいてもよい。
印刷工程において、印刷方法は特に限定されず、従来公知の方法で、平板のもしくは湾曲したシート表面に印刷できる。
印刷方法としては、例えば、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、およびインクジェット印刷などの方法が例示される。これらの中でも、スクリーン印刷が好ましく適用できる。
【0111】
印刷層の厚みは、好ましくは3μm~40μmの範囲、より好ましくは5~35μmの範囲である。上記範囲では、遮光性の印刷層の所期の目的と、作業効率や印刷外観との両立が可能である。
更に、印刷層は単層であってもよく、2層以上の多層であってもよい。
【0112】
印刷層のインキとしては、各種のものが利用できる。例えば、印刷で使用する印刷インキのバインダー成分としては、国際公開第2011/049186号に記載の樹脂系バインダー成分、油系バインダー成分などを使用することが可能である。
【0113】
本開示に係る湾曲部材の製造方法は、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、各工程を以下の順序に組み合わせた工程を含むことが好ましい。
(順序1):積層体準備工程/印刷工程/予備加熱工程/湾曲工程
(順序2):積層体準備工程/予備加熱工程/湾曲工程/印刷工程
【0114】
本開示に係る湾曲部材の製造方法は、上記工程以外の工程(その他の工程)を更に含んでいてもよい。
その他の工程としては、国際公開第2011/049186号に記載のシートの不要な部分を除去するトリム工程、湾曲部材に他の部材を取り付ける工程、得られた湾曲部材を最終製品に固定する工程等が挙げられる。
【0115】
本開示に係る湾曲部材の製造方法より得られた積層体は、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れるため、自動車のパノラマルーフ、バックドアウインドウ等を始めとするグレージング部材、液晶テレビ、プラズマテレビ等の前面板用途、パチンコ等の遊戯具における透明遊戯板として好適に使用することができる。これらの中でも、本開示に係る湾曲部材の製造方法より得られた積層体は、車両用グレージング部材として好適に用いることができる。
【実施例
【0116】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」、「部」とは、特に断りのない限り、それぞれ「質量%」、「質量部」を意味する。
【0117】
<ハードコート層の前駆材料液(C2-1)の調製方法>
水分散型コロイダルシリカ分散液(日揮触媒化成工業(株)製 カタロイドSN-30、平均粒子径約17nm、固形分濃度30質量%)203質量部に酢酸30質量部を加えて攪拌し、この分散液に氷水浴で冷却下メチルトリメトキシシラン322質量部を加えた。この混合液を30℃で1時間半攪拌後、60℃で8時間攪拌した反応液を氷水冷却し、これに、硬化触媒として酢酸ナトリウム5質量部を氷水冷却下で混合し、ポリシロキサン(C2-1)560質量部を得た。
【0118】
<ハードコート層の前駆材料液(C2-2)の調製方法>
脱イオン水177.5質量部、酢酸39.5質量部を加えて攪拌し、この分散液に氷水浴で冷却下メチルトリメトキシシラン447.5質量部を加えた。この混合液を30℃で1時間半攪拌後、60℃で8時間攪拌した反応液を氷水冷却し、これに、硬化触媒として酢酸ナトリウム6.6重量部を氷水冷却下で混合しポリシロキサン(C2-2)671.1質量部を得た。
【0119】
<珪素化合物加水分解縮合物:複合樹脂C2―Xの合成>
反応容器にメトキシプロパノール164質量部を加え80℃まで昇温し、メチルメタクリレート(MMA)40質量部、ブチルメタクリレート(BMA)8質量部、ブチルアクリレート(BA)36質量部、アクリル酸(AA)24質量部、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTS)24質量部、及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(TBPEH)6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させた。
更に同温度で上記で得られたポリシロキサン(C2-1)560部を加えて1時間攪拌し、次いでグリシジルアクリレート50部、メトキノン0.07部を加えて1時間攪拌し、得られた反応生成物を、10kPa~300kPaの減圧下で、40℃~60℃の条件で2時間蒸留することにより、生成したメタノール及び水を除去し、次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を添加し、不揮発分(固形分)が50.0質量%である、ポリシロキサン(C2-1)に由来するポリシロキサンセグメント(C1-1)とビニル系重合体セグメントとからなる複合樹脂C2―X:790質量部を得た。
複合樹脂C2―Xにおいて、ポリシロキサン(C2-1)に由来するポリシロキサンセグメントの配合比率は60質量%であり、ビニル系重合体セグメントの配合比率は40質量%であった。
【0120】
<珪素化合物加水分解縮合物:複合樹脂C2―Yの合成>
反応容器にメトキシプロパノール164質量部を加え80℃まで昇温し、メチルメタクリレート(MMA)40質量部、ブチルメタクリレート(BMA)8質量部、ブチルアクリレート(BA)36質量部、アクリル酸(AA)24質量部、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTS)24質量部、及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(TBPEH)6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させた。
更に同温度で上記で得られたポリシロキサン(C2-2)671.1部を加えて1時間攪拌し、次いでグリシジルアクリレート50部、メトキノン0.07部を加えて1時間攪拌し、得られた反応生成物を、10kPa~300kPaの減圧下で、40℃~60℃の条件で2時間蒸留することにより、生成したメタノール及び水を除去し、次いで、PGMを添加し、不揮発分(固形分)が50.0質量%である、ポリシロキサン(C2-2)に由来するポリシロキサンセグメント(C2-2)とビニル系重合体セグメントとからなる複合樹脂C2―Y:790質量部を得た。
複合樹脂C2―Yにおいて、ポリシロキサン(C2-2)に由来するポリシロキサンセグメントの配合比率は60質量%であり、ビニル系重合体セグメントの配合比率は40質量%であった。
【0121】
<熱曲げ加工用ハードコート剤(HC-1)の調製>
多官能(メタ)アクリレート(C1-2)としてトリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート(東亞合成(株)製、アロニックスM-350)42質量部、多官能(メタ)アクリレート(C1-3)として1、9-DA(共栄社化学(株)製1、9-ノナンジオールジアクリレート)を18質量部、珪素化合物加水分解縮合物(C2-X)40質量部、無機微粒子(C3)として、有機溶剤分散型表面修飾コロイダルシリカ(日産化学(株)製MEK-AC-2140Z 固形分濃度40%)50質量部、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(C4)としてチヌビン400(BASF(株)製)4質量部、ヒンダードアミン光安定剤(C5)としてLA-52((株)ADEKA製)15質量部、チヌビン123(BASF(株)製)1質量部、光重合開始剤(C6)としてフェニル1-ヒドロキシエチルケトン(BASF(株)製イルガキュア184)1質量部、メチルエチルケトン20質量部、メトキシプロパノール100質量部、イソプロパノール40質量部を加え、ハードコート剤(HC-1)を調製した。(HC-1)の組成は、下記の表1に示す。
【0122】
<熱曲げ加工用ハードコート剤(HC-2~HC-9)の調製>
表1に示す組成で調製した以外は(HC-1)の調製と同様にして(HC-2)~(HC-9)を調製した。
【0123】
<熱曲げ加工用ハードコート剤(HC-10)の調製>
水分散型コロイダルシリカ分散液(日揮触媒化成(株)製 カタロイドSN-30、粒子径約17nm、固形分濃度30質量%)80重量部を氷水浴で冷却下、メチルトリメトキシシラン127重量部に加えた。この混合液を25℃で1時間半攪拌後、60℃で4時間攪拌した反応液を氷水冷却し、これに、酢酸24重量部および硬化触媒として酢酸ナトリウム2重量部を氷水冷却下で混合し、ハードコート剤(HC-10)を調製した。
【0124】
【表1】

【0125】
表1中、その他の成分の欄における数字は、多官能(メタ)アクリレートの総量、珪素化合物加水分解縮合物、及び、無機粒子の合計100質量部に対する比率(質量%)を表している。また、表中「-」は、該当する成分を含まないことを意味している。
【0126】
<<樹脂材料の製造>>
-樹脂材料A1の製造-
9.5質量部の下記に示すPC、0.08質量部の下記に示すVPG、0.02質量部の下記に示すSA、0.03質量部の下記に示すPEPQ、0.05質量部の下記に示すIRGN、0.32質量部の下記に示すUV1577、及び1×10-4質量部の下記に示すBLをスーパーミキサーで均一混合した。この混合物10.0001質量部に対して、90質量部のPCをV型ブレンダーで均一に混合し、押出機に供給するための予備混合物を得た。
得られた予備混合物を押出機に供給した。使用された押出機は、スクリュ径77mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX77CHT(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー))であった。該押出機は、スクリュ根元から見てL/D約8~11の部分に順に送りのニーディングディスクと逆送りのニーディングディスクとの組合せからなる混練ゾーンを有し、その後L/D約16~17の部分に送りのニーディングディスクからなる混練ゾーンを有していた。更に該押出機は、後半の混練ゾーンの直後にL/D0.5長さの逆送りのフルフライトゾーンを有していた。ベント口はL/D約18.5~20の部分に1箇所設けられた。押出条件は吐出量320kg/h、スクリュ回転数160rpm(revolutions per minute)、及び、ベントの真空度3kPaであった。また押出温度は第1供給口230℃からダイス部分280℃まで段階的に上昇させる温度構成であった。
ダイスから押出されたストランドは、温水浴中で冷却され、ペレタイザーにより切断されペレット化された。切断された直後のペレットは、振動式篩部を10秒ほど通過することにより、切断の不十分な長いペレットおよびカット屑のうち除去可能なものが除去された。
樹脂材料A1のガラス転移温度は、150℃であった。
【0127】
-樹脂材料A2の製造-
9.43質量部の下記に示すPC、0.1質量部の下記に示すVPG、0.02質量部の下記に示すSA、0.03質量部のPEPQ、0.05質量部の下記に示すIRGN、0.3質量部の下記に示すUV1577、0.07質量部の下記に示すIRA、及び1×10-4質量部の下記に示すBLをスーパーミキサーで均一混合した。この混合物10.0001質量部に対して、90質量部のPCをV型ブレンダーで均一に混合し、押出機に供給するための予備混合物を得た以外は、樹脂材料A1の製造と同様にして、ペレット状の樹脂材料A2を得た。
樹脂材料A2のガラス転移温度は148℃であった。
【0128】
尚、上記使用原料は下記の通りである。
・PC:ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造された粘度平均分子量25,000のポリカーボネート樹脂パウダー(帝人(株)製:パンライトL-1250WQ(商品名))
・VPG:ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸(ステアリン酸及びパルミチン酸を主成分とする)とのフルエステル(エメリーオレオケミカルズ(株)製:ロキシオールVPG861)
・SA:脂肪酸部分エステル(理研ビタミン(株)製:リケマールS-100A)
・PEPQ:ホスホナイト系熱安定剤(クラリアント社製:ホスタノックスP-EPQ)
・IRGN:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製:Irganox1076)
・UV1577:2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール(BASF社製:Tinuvin1577)
・BL:ブルーイング剤(バイエル社製:マクロレックス バイオレットB)
・IRA:有機分散樹脂と無機赤外線吸収剤としてCs0.33WO(平均粒子径5nm)とからなり、無機赤外線吸収剤含有量が約23質量%からなる赤外線遮蔽剤(住友金属鉱山(株)製、YMDS-874)
【0129】
<<原反シート成形品の製造>>
-シート-α(51)の製造-
上記樹脂材料A1、又は、A2のペレットをプラテンの4軸平行制御機構を備えた射出プレス成形可能な大型成形機((株)名機製作所製:MDIP2100、最大型締め力33540kN)を用いて射出プレス成形し、図1に示す厚み4.5mmで長さ×幅が1000mm×600mmのシート成形品(シート-α(51))を製造した。
図1に示すとおり、成形は1点のホットランナーゲート(53)、及び、ゲート(52)において実施した。また金型は、板の表裏面のいずれにおいても同一レベルの表面性状とした。
シート-α(51)は、ゲート(52)を除く部分において、長さが1,000mmであり、幅が600mmであり、厚みが4.5mmである。
ゲート(52)は、シート外縁部における幅が120mmであり、厚みが4.5mmである。ホットランナーゲート(53)中心から、シート外縁部までの距離は100mmである。
上記大型成形機は、樹脂原料を十分に乾燥可能なホッパードライヤー設備を付帯しており、乾燥後のペレットが圧空輸送により成形機供給口に供給され成形に使用された。
成形はシリンダ温度300℃、ホットランナー設定温度300℃、金型温度は固定側及び可動側共に110℃、プレスストローク:1.5mm、加圧の保持時間:120秒、プレス圧力は17MPa、及び、オーバーラップ時間は0.12秒とし、可動側金型パーティング面は最終の前進位置において固定側金型パーティング面に接触しないものとした。 充填完了後、直ちにバルブゲートを閉じて溶融樹脂がゲートからシリンダへ逆流しない条件とした。成形において型圧縮、及び、型開きのいずれの工程においても、金型間の平行度は、4軸平行制御機構により、傾き量及び捩れ量を表すtanθとして約0.000025以下で保持された。
【0130】
-シート-β(61)の製造-
図2に示すように、長辺側にホットランナー(63~65)5点のゲート(62)を取った金型に変更して、上記シート-α(51)の場合と同様に成形した。5点のゲートは第1ホットランナーゲート(63)、第2ホットランナーゲート(64)、及び第3ホットランナーゲート(65)の順に、SVG法によるカスケード成形を行い、ウエルド部のないシートを成形した。
シート-β(61)は、ゲート(62)を除く部分において、長さが1,000mmであり、幅が600mmであり、厚みが4.5mmである。
ゲート(62)は、厚みが4.5mmである
【0131】
-シート-γの製造-
樹脂材料A1又はA2を120℃で5時間熱風乾燥の後、特開2005-081757号公報の押出方法に従い、厚み4.5mmで1,200mm幅の押出シートを製造し、両端部100mmずつを切断して1,000mmの長辺とし、押出方向に600mmの長さで切断して、カットして厚み4.5mmで長さ×幅が1,000mm×600mmのシート成形品を製造した。
【0132】
<ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の作製>
(実施例1~実施例23及び比較例1~比較例8)
表2~表4に記載のポリカーボネート樹脂基材層の表面に、表2~4に記載のハードコート剤を塗布し、表2~表4に記載の条件で加熱乾燥させた。その後、ランプ出力1kWの水銀ランプ下、表2~表4に記載の照射量で紫外線を照射することにより、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。
得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体におけるポリカーボネート樹脂層(A層)、浸透層(B層)及びハードコート層(C層)の厚さは、上述の方法で測定し、表2~表4に値を示した。
【0133】
ハードコート層中の多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率(反応率)及びC層における多官能(メタ)アクリレート含有量(質量%)の値は、下記のようにして求めた。
【0134】
実施例1~実施例23及び比較例1~比較例8のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のC層を削り、熱分解ガスクロマトグラフィーを行って、C層に含まれる化合物の種類を特定した。
さらに、赤外分光測定装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、製品名:NICOLETCONTINUUM)、及び、ジルコニウム端子を用いてC層のATR-IR測定した。ジルコニウム端子を積層体のC層表面に接触させて、積算回数30回で測定を行い、赤外分光測定の特性吸収の比較を行うことによって、C層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量(質量%)、及び、C層形成用コート剤を特定した。なお、C層との非接触状態をバックグラウンドとした。
【0135】
実施例1~実施例23及び比較例1~比較例8で用いた上記特定された熱曲げ加工用ハードコート剤を準備し、イエローライト下でガラス基板に塗布及び乾燥した後、ATR-IR測定を行い、硬化反応前のハードコート剤について、波数1740cm-1、1100cm-1、及び、810cm-1における換算赤外線吸収度αc0(波長)を求めた。
なお、換算赤外線吸収度αc0(波長)の方法と同様にして求めた。
【0136】
次いで、得られた積層体のC層表面をATR-IR測定し、硬化反応後のハードコート剤について、波数1740cm-1、1100cm-1、及び、810cm-1における換算赤外線吸収度αc1(波長)を求めた。
換算赤外線吸収度αc0(波長)及びαc1(波長)を上述の式(4)又は(5)に代入して、ハードコート層中の多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率(反応率)を求めたところ、63%であった。
【0137】
上記のようにして求めた反応率及びC層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、表2~表4に値を示した。
また、得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体は、下記の評価を行い、結果を表2~表4に示した。
得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体を顕微FT-IRにより測定したところ、B層が、A層及びC層の両成分を含むことが前述の方法により確認された。
【0138】
<(HC-10)用接着層前駆材料液(P-1)の調製方法>
還流冷却器及び撹拌装置を備え、窒素置換したフラスコ中にエチルメタクリレート(以下EMAと記す)79.9質量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)33.6質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)13.0質量部、メチルイソブチルケトン126.6質量部(MIBK)、及び、2-ブタノール(2-BuOH)63.3質量部を添加混合した。
混合物に窒素ガスを15分間通気して脱酸素した後、窒素ガス気流下にて70℃に昇温し、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.33質量部を加え、窒素ガス気流中、70℃で5時間攪拌下に反応させた。
更に、AIBN0.08質量部を加えて80℃に昇温し3時間反応させ、不揮発分濃度が39.6質量%の(メタ)アクリル共重合体溶液を得た。
(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量はGPCの測定(カラム;Shodex GPCA-804、溶離液;クロロホルム)からポリスチレン換算で125,000であった。
【0139】
続いて、上記(メタ)アクリル共重合体溶液100質量部に、MIBK43.2質量部、2-BuOH21.6質量部、1-メトキシ-2-プロパノール83.5質量部を加えて混合し、チヌビン400(BASF社製、トリアジン系紫外線吸収剤)5.3質量部、更に(メタ)アクリル樹脂溶液中の(メタ)アクリル共重合体のヒドロキシ基1当量に対してイソシアネート基が1.0当量になるようにVESTANAT B1358/100(デグサ・ジャパン(株)製、ポリイソシアネート化合物前駆体)10.6質量部を添加し、更に、ジメチルジネオデカノエート錫(DMDNT)0.015質量部を加えて25℃で1時間攪拌し、(メタ)アクリル共重合樹脂を主成分とする(HC-10)用接着層の前駆材料液(P-1)を調整した。
【0140】
(比較例9)
<ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の作製>
表4に記載のポリカーボネート樹脂板を基板として、その両面に、上記で調製した接着層前駆材料液(P-1)をディップコーティングし、風乾の後、120℃で1時間熱硬化を行い、膜厚約8μmの接着層をポリカーボネート基板の両面に形成した。
【0141】
更に続いて、熱曲げ加工用ハードコート剤(HC-10)をディップコーティングし、風乾の後、120℃で1時間熱硬化を行い、膜厚約4μmの下地硬化層を両面に積層形成し、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。A層、B層及びC層の厚さは、上述の方法で測定し、表4に値を示した。
【0142】
(実施例24)
実施例1と同様の方法でポリカーボネート樹脂基板の両面にハードコート層を形成したハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の片方の面に遮光機能を有する黒インキにより、清浄な空気を循環した23℃、相対湿度50%の雰囲気下で窓枠の図柄をスクリーン印刷した。
黒インキとして、POS:アクリルポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン樹脂をバインダーとする2液性インキ(POSスクリーンインキ911墨:100重量部、210硬化剤:5質量部、及び、P-002溶剤:15質量部の均一混合物(原料はいずれも帝国インキ(株)製)を用いた。
スクリーン印刷でインキを載せた後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下で30分の風乾を行い、その後90℃で60分の処理によりインキ層を乾燥及び固定し、印刷処理したハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を得た。
印刷処理したハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を炉内温度170℃の空気強制循環式加熱炉内で10分加熱処理した後、連続する搬送装置により熱プレス成形工程に即座に送り、雌型及び雄型からなる木型間に挟持し、印刷層を有する表面が凹面となるようにプレス成形し、型内に2分間とどめ、湾曲面を有する樹脂積層体を得た。
【0143】
得られた湾曲面を有する樹脂積層体をNCエンドミルを用いて切削加工(トリム)し、周囲に黒インキ層が印刷された湾曲面を有するグレージング樹脂積層体を得た。
上記で得られた黒インキ層を有したグレージング樹脂積層体の外周端部の一部(印刷層上)に、酢酸エステル溶剤を主成分とする接着用プライマー(横浜ゴム(株)製、製品名:ハマタイトボディ用プライマーRC-50E)を厚み8μm、湿気硬化型一液性ウレタン接着剤(横浜ゴム(株)製、製品名:ハマタイトWS222)を幅12mm、高さ15mmの三角形状となるように塗工した。
酢酸エステル溶剤を主成分とする接着用プライマー(横浜ゴム(株)製、製品名:ハマタイトボディ用プライマーRC-50E)を厚み8μmを塗工した、車体取付を想定したエポキシ樹脂含浸の炭素繊維織物プリフレグより作成した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の車体枠材に、上記ウレタン接着剤が塗工されたグレージング樹脂積層体を、ウレタン接着剤の厚みが6mmとなるようにして貼り付けし、接着構成体を得た。ウレタン接着剤の厚みは同厚みのスペーサを、CFRP製車体枠材料上に設置して調整した。
得られた接着構成体を23℃で50%RHの条件で1週間養生処理した後、枠ごと70℃の熱風乾燥炉に入れ、1,000時間の処理を実施した。接着剤は全く外れることなく、グレージング樹脂積層体が固定されていた。
【0144】
〔評価〕
実施例1~実施例23及び比較例1~比較例9のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体について、以下の評価を行った。その結果を表2~表4に示す。
【0145】
<全光線透過率(TT)>
JIS K7361-1(1997)(対応ISO:13468-1 1996)に従い、日本電色(株)製NDH-300Aにより測定した。
【0146】
<初期ヘーズ(H)>
日本電色工業株式会社製のヘイズメーターNDH2000を用いて測定した。尚、曇値(H)は、H=Td/Tt×100(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)で示される。
【0147】
<耐摩耗性(△H)>
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の表面を、テーバー摩耗性試験前にTaber社製ST-11研磨石で25回転摩耗輪表面を研磨し、試験片を調製した。研磨後の試験片に、摩耗輪(製品名:CS-10F、Taber社製)を用いて、荷重500g、100回転及び500回転の条件で、ASTM D1044準拠して、テーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗試験前後のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体表面の曇値(ヘイズ値)の変化(△H)を測定した。
曇値の変化(△H)は、ヘイズメーター(製品名:NDH2000、日本電色工業(株)製)を用いて、測定方法2、A光源で測定した。なお、曇値(H)は、H=Td/Tt×100(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)で示される値を示す。
曇値(H)の測定は同一の研磨仕様の3つの試験片について行い、△Hの平均値を下記の評価基準に従い評価した。ΔHの値が小さいほど、耐摩耗性に優れるといえ、ΔHが9.0未満であることが好ましい。
なお、テーバー摩耗性試験に用いる摩耗輪は、市販のフロートガラス(板ガラス)を上記同様の方法で荷重500g、1,000回転の条件でテーバー摩耗試験を行った場合の曇値の変化(△H)が0.6~1.0の範囲にある摩耗輪を使用した。△Hが上記範囲を外れる摩耗輪は試験には用いないものとした。
【0148】
<熱曲げ性>
100mm×250mm×5mmのハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備し、この積層体の末端から5cmのところに熱電対(株)エムアイティー製Tタイプ)を取り付け、表2~4に記載の熱曲げ予備加熱温度に設定した熱風循環型加熱炉に投入し、積層体を加熱した。
積層体が熱曲げ予備加熱温度に到達したら、直ちに積層体を加熱炉から取り出し、ただちに(5秒以内に)所定の曲率半径(70mm、100mm、150mm、175mm、200mm、250mm、300mm、400mm、500mm、700mm、及び、1000mm)を有する扇形の木型に沿って、曲げ加工を実施し、曲げ実施領域である曲率半径100mm×150mmの全領域で積層体にクラック(亀裂)が発生のない最小曲率半径を求め、その値をその積層体の熱曲げ可能曲率半径(mm)とし、表2~表4に示した。
最小曲率半径の値が小さいほど、熱曲げ性に優れるといえる。
【0149】
<熱曲げ後の密着性>
上記熱曲げ性試験で求めた最小曲率半径の各試験片を100℃の沸騰水中に浸せきし、3時間保持の後に沸騰水中より取り出し、試験片表面に付着した水分を取り除いて2時間室温(25℃)環境にて放置の後、試験片に対して下記の密着性のテストを行った。
【0150】
試験片のハードコート層側の表面にカッターナイフで2cmの長さの直線が60°で交差するように、傷をつけた。所定の粘着力を有するテープ(例えばニチバン製セロテープ(商標))を、上記傷の上に貼り付け固着した後に、垂直に強く引き剥がす操作を3回繰り返した後、試験片上のハードコート層に剥離の有無を目視で確認し、下記の評価基準に従って、熱曲げ後の密着性を評価した。
-評価基準-
A:ハードコート層の剥離が見られず、熱曲げ後の密着性に優れていた。
B:ハードコート層の剥離が見られ、熱曲げ後の密着性に劣っていた。
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】

【0153】
【表4】
【0154】
表4の比較例8中、最小熱曲げ半径が「-」とは、熱曲げできなかったことを意味する。
【0155】
実施例1~23の曲部材の製造方法で得られたハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、比較例1~9のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に比べて、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れることが分かる。また、実施例1~23のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、ヘーズ値を低く抑えることができ、全光線透過率にも優れる。
【0156】
2019年10月9日に出願された日本国特許出願2019-186415号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2