(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】かしめ治具及び当該かしめ治具を使用するかしめ結合方法
(51)【国際特許分類】
B21D 39/00 20060101AFI20230302BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20230302BHJP
F16H 53/02 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
B21D39/00 D
F01L1/04 E
F16H53/02 A
(21)【出願番号】P 2022529014
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2022005647
(87)【国際公開番号】W WO2022190773
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2021037270
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】野津 健太郎
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-169025(JP,A)
【文献】特開2016-17595(JP,A)
【文献】特開2019-75877(JP,A)
【文献】国際公開第2014/163108(WO,A1)
【文献】特開2016-102559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/00
F01L 1/04
F16H 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態において前記シャフトの外周面の前記被固定部材に隣接する部分である被かしめ部をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより前記被固定部材を前記シャフトに固定する方法であるかしめ結合方法において使用されるかしめ治具であって、
前記かしめ治具は、
少なくとも一対のかしめ部材を備え、
一対の前記かしめ部材の互いに向かい合う先端部に位置する面である一対のかしめ面によって前記シャフトの軸方向に対して垂直な方向であるかしめ方向において前記被かしめ部を挟むように構成されており、
一対の前記かしめ面は、
前記かしめ方向における一対の前記かしめ面の間隔であるかしめ間隔が前記シャフトの径方向における外側へ向かうほど広くなる部分を含み、
前記かしめ間隔が前記シャフトの軸方向における前記被固定部材側へ向かうほど広くなる部分を含み、且つ、
前記シャフトの軸方向及び前記かしめ方向の両方に平行な平面による断面における一対の前記かしめ面がなす角度であるかしめ角度が前記シャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなる部分を含む、
ように構成されている、
ことを特徴とする、かしめ治具。
【請求項2】
請求項1に記載されたかしめ治具であって、
前記かしめ面が複数の面の組み合わせによって構成されている、
ことを特徴とする、かしめ治具。
【請求項3】
請求項2に記載されたかしめ治具であって、
前記かしめ面を構成する複数の面の全てが平面によって構成されている、
ことを特徴とする、かしめ治具。
【請求項4】
請求項2に記載されたかしめ治具であって、
前記かしめ面を構成する複数の面の全てが曲面によって構成されている、
ことを特徴とする、かしめ治具。
【請求項5】
請求項2に記載されたかしめ治具であって、
前記かしめ面を構成する複数の面が平面及び曲面の組み合わせによって構成されている、
ことを特徴とする、かしめ治具。
【請求項6】
請求項1に記載されたかしめ治具であって、
前記かしめ面が1つの曲面によって構成されている、
ことを特徴とする、かしめ治具。
【請求項7】
被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態において前記被固定部材を前記シャフトに固定するかしめ結合方法であって、
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載されたかしめ治具によって前記シャフトの外周面の前記被固定部材に隣接する部分である被かしめ部を挟んで隆起部を形成することを含む、
ことを特徴とする、かしめ結合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かしめ治具及び当該かしめ治具を使用するかしめ結合方法に関する。より詳細には、本発明は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分を一対のかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定するかしめ結合方法において使用されるかしめ治具であって被固定部材とシャフトとの結合強度を増大させることができるかしめ治具及び当該かしめ治具を使用するかしめ結合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内燃機関において使用されるカムシャフト等、柱状の部材であるシャフトとシャフトの横断面に対応する貫通孔である軸孔が設けられた部材である被固定部材とがシャフトが軸孔に挿通された状態にて互いに固定されてなる部材は様々な用途において広く使用されている。このような部材においては、一般に、シャフトの軸方向及び軸周り方向の何れにおいても被固定部材とシャフトとの位置関係が変動しないように被固定部材とシャフトとが確実に固定されている必要がある。
【0003】
そこで、当該技術分野においては、例えば
図21に例示するように、シャフト1011のカムの穴に挿通される部分の外周面にプレス刃1020、1030、1050及び1060によって複数の突起1070、1080、1090(図示せず)及び1100を予め切り起こしておく技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。これによれば、シャフトをカムの穴に挿通する際に上記突起が潰されることにより、シャフトとカムとが強固に嵌合されるとされている。しかしながら、当該技術においては、シャフトとカムとの固定が十分であるとは言えない場合があり、特にシャフトの軸方向における所定の位置にカムを固定する保持力が不十分となる場合がある。
【0004】
一方、当該技術分野においては、例えば
図22に例示するように、カム2001の軸孔2002にシャフト2003を挿入した後にシャフト2003の外周面を一対の型2005及び2006によってシャフト2003の幅方向に挟む(白抜きの矢印)ことによりシャフト2003の外周面におけるカム2001に対応する部分に隆起部を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。また、例えば
図23に例示するように、一対の型2005及び2006の対向面2005a及び2006a同士の間隔がシャフト2003の径方向における外側へ向かうほど広くなるように一対の対向面2005a及び2006aを傾斜させることも提案されている(同じく、特許文献2を参照)。これらによれば、上記のようにして形成された隆起部によってシャフトとカムとが締結されて両者を固定することができるとされている。しかしながら、当該技術においては、一対の型によって挟まれた部分を構成する材料が主としてシャフトの径方向における外側へ向かって塑性流動するため、シャフトの軸方向において隆起部によってカムを押圧する力が不十分となり、かしめによるシャフトとカムとの結合強度(以降、「かしめ結合強度」と称呼される場合がある。)が不十分となる場合がある。
【0005】
そこで、当該技術分野においては、例えば
図24に例示するように、上記従来技術と同様にして一対のかしめ治具3100a及び3100bによってロータ軸3020の外周面(具体的には、八角形の断面を有する部分3024aの頂点部3024c)を挟んで(白抜きの矢印)突出部3080を形成することによりロータコア(図示せず)とロータ軸3020とを固定する方法において、一対のかしめ治具3100a及び3100bの互いに向かい合う先端部に位置する平面である一対のかしめ面3110a及び3110b同士の間隔がロータ軸3020の径方向における外側へ向かうほど及びロータ軸3020の軸方向におけるロータコア側(他方側)へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面3110a及び3110bを傾斜させる技術が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。これによれば、一対のかしめ面によって挟まれた部分を構成する材料が、ロータ軸の径方向における外側のみならず、ロータ軸の軸方向におけるロータコア側へも向かって塑性流動する。従って、上記従来技術に比べて、ロータ軸の軸方向において突出部によってロータコアを押圧する力が増大し、ロータコアとロータ軸とのかしめ結合強度を増大させることができるものと期待される。
【0006】
しかしながら、一対のかしめ面同士の間隔がロータ軸の軸方向におけるロータコア側へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面を傾斜させる角度を大きくするほど、一対のかしめ治具の互いに対向する先端部の形状がより鋭利となる。その結果、ロータコアに隣接する領域において一対のかしめ面によって押圧されない部分がより大きくなり、一対のかしめ面によって押圧されて塑性流動を生ずる部分がより小さくなる。即ち、上記のように一対のかしめ面を傾斜させる角度を大きくするほど、一対のかしめ面によって挟まれた部分から塑性流動して突出部を形成する材料の量が減少する。その結果、かしめによって大きい突出部を形成することが困難となり、ロータ軸の軸方向において突出部によってロータコアを押圧する力が小さくなり、ロータコアとロータ軸とのかしめ結合強度が却って小さくなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-169025号公報
【文献】特開2016-017595号公報
【文献】特開2019-075877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、当該技術分野においては、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定するかしめ結合方法において、被固定部材とシャフトとの結合強度を増大させることができる技術に対する継続的な要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、かしめ治具が備える少なくとも一対のかしめ部材の互いに向かい合う先端部に位置する面である一対のかしめ面の間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど及びシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなり且つ一対のかしめ面がなす角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなるように一対のかしめ面を構成することにより上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
具体的には、本発明に係るかしめ治具(以降、「本発明治具」と称呼される場合がある。)は、かしめ結合方法において使用されるかしめ治具である。かしめ結合方法は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態において被かしめ部をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定する方法である。被かしめ部は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分である。
【0011】
本発明治具は、少なくとも一対のかしめ部材を備え、一対のかしめ部材の互いに向かい合う先端部に位置する面である一対のかしめ面によってシャフトの軸方向に対して垂直な方向であるかしめ方向において被かしめ部を挟むように構成されている。一対のかしめ面は、以下に列挙する(a)乃至(c)の全ての要件を満たすように構成されている。
【0012】
(a)かしめ方向における一対のかしめ面の間隔であるかしめ間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど広くなる部分を含む。
(b)かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなる部分を含む。
(c)シャフトの軸方向及びかしめ方向の両方に平行な平面による断面における一対のかしめ面がなす角度であるかしめ角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなる部分を含む。
【0013】
かしめ面は、複数の面の組み合わせによって構成されていてもよい。この場合、かしめ面を構成する複数の面の全てが、平面によって構成されていてもよく、曲面によって構成されていてもよい。或いは、かしめ面を構成する複数の面が平面及び曲面の組み合わせによって構成されていてもよい。一方、かしめ面は、1つの面によって構成されていてもよい。この場合、かしめ面は、1つの曲面によって構成されている。
【0014】
加えて、本発明に係るかしめ結合方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態において被固定部材をシャフトに固定する方法である。本発明方法は、上述したような本発明に係るかしめ治具(本発明治具)によって被かしめ部を挟んで隆起部を形成することを含む。被かしめ部は、上述したように、シャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分である。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、本発明治具においては、要件(a)として上述したように、かしめ間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど広くなる部分を含むように一対のかしめ面が構成されている。従って、本発明治具を使用する本発明方法によれば、被固定部材の被かしめ部を構成する材料がシャフトの径方向における外側へ向かって容易に塑性流動することができる。更に、本発明治具においては、要件(b)として上述したように、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなる部分を含むように一対のかしめ面が構成されている。従って、本発明治具を使用する本発明方法によれば、被かしめ部を構成する材料がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かって容易に塑性流動することができる。
【0016】
ところで、前述したように、従来技術に係るかしめ治具(以降、「従来治具」と称呼される場合がある。)においては、かしめ面が単一の平面によって構成されている。従って、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面を傾斜させる角度(かしめ角度)を大きくするほど、被固定部材に隣接する領域におけるかしめ間隔が大きくなる。その結果、このような従来治具を使用する場合、一対のかしめ面によって押圧されない部分が大きくなり、塑性流動によって突出部を形成する材料の量が減少する。そのため、かしめによって大きい突出部を形成することが困難となり、シャフトの軸方向において突出部によって被固定部材を押圧する力が小さくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度が却って小さくなる虞がある。
【0017】
一方、本発明治具においては、要件(c)として上述したように、かしめ角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなる部分を含むように一対のかしめ面が構成されている。従って、本発明治具においては、シャフトの径方向における外側におけるかしめ間隔及びかしめ角度が従来治具と同程度以上であっても、シャフトの径方向における内側におけるかしめ間隔及びかしめ角度を従来治具よりも小さくすることができる。その結果、本発明治具を使用する本発明方法によれば、従来治具を使用する場合に比べて、一対のかしめ面によって押圧されない部分をシャフトの径方向における内側へ向かうほど少なくして、塑性流動によって隆起部を形成する材料の量を増大させることができる。そのため、かしめによって大きい隆起部を形成することが容易となり、シャフトの軸方向において隆起部によって被固定部材を押圧する力が大きくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を十分に増大させることができる。
【0018】
以上のように、本発明によれば、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定するかしめ結合方法において、被固定部材とシャフトとの結合強度を増大させることができる。
【0019】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るかしめ治具(本発明治具)の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明治具の構成のもう1つの例を示す模式図である。
【
図3】
図27に例示した従来治具並びに
図1及び
図2に例示した本発明治具における一対のかしめ面によって押圧することができない領域の違いを示す模式図である。
【
図4】本発明治具の構成の更にもう1つの例を示す模式図である。
【
図5】かしめ面が複数の曲面によって構成されている本発明治具の構成の一例を示す模式図である。
【
図6】かしめ面が1つの曲面によって構成されている本発明治具の構成の一例を示す模式図である。
【
図7】かしめ面が1つの曲面によって構成されている本発明治具の構成のもう1つの例を示す模式図である。
【
図8】本発明に係るかしめ結合方法(本発明方法)において実行される各工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明方法によって互いにかしめ結合される被固定部材としてのカム及びシャフトとしての中空シャフトの模式的な斜視図である。
【
図10】本発明方法によって被固定部材(カム)がシャフト(中空シャフト)に固定される様子を示す模式図である。
【
図11】
図9に例示したカムと中空シャフトとが本発明方法により互いに固定されてなるカムシャフトの外観を示す模式的な斜視図である。
【0021】
【
図12】実施例1において本発明に係るかしめ治具(本発明治具)を使用するかしめ結合方法によって固定されたカム及び中空シャフトからなるカムシャフトの外観を示す模式的な斜視図である。
【
図13】実施例1において従来技術に係るかしめ治具(従来治具)を使用するかしめ結合方法によって固定されたカム及び中空シャフトからなるカムシャフトの外観を示す模式的な斜視図である。
【
図14】実施例2において様々な被固定部材及びシャフトを備える締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
【
図15】実施例2において様々な被固定部材及びシャフトを備える締結体の外観を更に例示する模式的な斜視図である。
【
図16】実施例3において使用される貫通孔の周縁部に凹部が形成された被固定部材及び当該被固定部材とシャフトとが本発明方法によって固定されてなる締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
【
図17】実施例4においてシャフトの外周面に予め形成されたフランジ部と本発明方法によって形成された隆起部との間に被固定部材が挟持されている締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
【
図18】被固定部材としてのモーターコアとシャフトとの嵌合面にキー溝が形成された実施例4の変形例に係る締結体の構成を例示する模式図である。
【
図19】実施例5に係る本発明方法の応用例によって固定された被固定部材及びシャフトからなる締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
【
図20】実施例6においてシャフトの軸周りに回転対称となる複数の位置において被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することによって集成された締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
【0022】
【
図21】特許文献1に記載された組立カムシャフトの構成を例示する模式図である。
【
図22】特許文献2に記載されたカムシャフトの製造方法の一例を示す模式図である。
【
図23】特許文献2に記載されたカムシャフトの製造方法のもう1つの例を示す模式図である。
【
図24】特許文献3に記載された回転電機ロータの製造方法を例示する模式図である。
【
図25】従来技術に係るかしめ治具(従来治具)の構成の一例を示す模式図である。
【
図26】従来技術に係るかしめ治具(従来治具)の構成のもう1つの例を示す模式図である。
【
図27】従来技術に係るかしめ治具(従来治具)の構成の更にもう1つの例を示す模式図である。
【
図28】
図27に例示した従来治具において一対のかしめ面によって押圧することができない領域を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《かしめ治具》
本発明に係るかしめ治具(本発明治具)につき、図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。
【0024】
前述したように、本発明治具は、かしめ結合方法において使用されるかしめ治具である。かしめ結合方法は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態において被かしめ部をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定する方法である。被かしめ部は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分である。換言すれば、かしめ結合方法は、被固定部材に設けられた貫通孔(軸孔)にシャフトを挿入した後に、かしめ治具が備える一対のかしめ部材によってシャフトの外周面を挟むことにより、シャフトの外周面における被かしめ部(被固定部材に対応する部分)に隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定する方法である。斯かる観点からは、前述した特許文献2及び特許文献3に記載された方法もまた、かしめ結合方法に該当する。
【0025】
被固定部材の具体例としては、例えば各種カム及び回転電機用のロータコア等を挙げることができる。一方、シャフトの具体例としては、例えばカムシャフト用の軸及び回転電機用のロータ軸等を挙げることができる。シャフトは、中実シャフトであってもよく、或いは中空シャフトであってもよい。また、シャフトの横断面の形状は、円形であってもよく、或いは非円形(例えば、楕円形及び多角形等)であってもよい。後者の場合、シャフトの横断面の形状に適切に対応した形状の貫通孔を被固定部材に設けることにより、シャフトの軸周りにおける被固定部材の回転を妨げることができる。この場合、本発明治具を使用するかしめ結合方法において形成される隆起部による被固定部材のシャフトへの固定は、シャフトの軸方向における被固定部材の意図せぬ移動(ズレ)を防止すれば十分となる。
【0026】
本発明治具は、少なくとも一対のかしめ部材を備える。即ち、本発明治具は、例えば、被固定部材がシャフトに固定されてなる部材である締結部材の用途において必要とされるかしめ結合力に応じて、一対又は複数対のかしめ部材を備えることができる。また、本発明治具は、一対のかしめ部材の互いに向かい合う先端部に位置する面である一対のかしめ面によってシャフトの軸方向に対して垂直な方向であるかしめ方向において被かしめ部を挟むように構成されている。換言すれば、本発明治具においては、一対のかしめ面が互いに接近したり離隔したりすることが可能であるように構成された一対のかしめ部材が駆動されて被かしめ部を挟む。このように一対のかしめ部材を駆動する手段は、一対のかしめ面が互いに接近したり離隔したりすることが可能であり且つシャフトの外周面の被かしめ部を挟んで隆起部を形成することが可能である限り、特に限定されない。このような駆動手段の具体例としては、例えば、油圧式プレス機械又は機械式プレス機械等のプレス機械を挙げることができる。
【0027】
更に、一対のかしめ面は、以下に列挙する(a)乃至(c)の全ての要件を満たすように構成されている。これらの要件の詳細については、図面を参照しながら後述する。
【0028】
(a)かしめ方向における一対のかしめ面の間隔であるかしめ間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど広くなる部分を含む。
(b)かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなる部分を含む。
(c)シャフトの軸方向及びかしめ方向の両方に平行な平面による断面における一対のかしめ面がなす角度であるかしめ角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなる部分を含む。
【0029】
尚、上記のような要件を満たす本発明治具が備えるかしめ部材の一対のかしめ面は、複数の面の組み合わせによって構成されていてもよい。この場合、かしめ面を構成する複数の面の全てが、平面によって構成されていてもよく、曲面によって構成されていてもよい。或いは、かしめ面を構成する複数の面が平面及び曲面の組み合わせによって構成されていてもよい。一方、かしめ面は、1つの面によって構成されていてもよい。この場合、かしめ面は、1つの曲面によって構成されている。
【0030】
ここで、本発明治具の構成につき、図面を参照しつつ、従来治具と対比しながら、以下に詳しく説明する。尚、以下の説明においては、シャフトの軸方向において被固定部材側からかしめ治具を観察した図を「正面図」、シャフトの軸方向において被固定部材の反対側からかしめ治具を観察した図を「背面図」、シャフトの径方向において外側からかしめ治具を観察した図を「頂面図」、シャフトの径方向において内側からかしめ治具を観察した図を「底面図」と、それぞれ称呼する。
【0031】
図25は従来治具の構成の一例を示す模式図である。より詳しくは、
図25は、
図22を参照しながら前述した特許文献2に記載された(かしめ治具が備える一対のかしめ部材としての)一対の型2005及び2006の模式的な斜視図(a)並びに正面図(b)、背面図(c)、頂面図(d)及び底面図(e)である。また、一対の型2005及び2006とシャフト2003との位置関係を示すことを目的として、シャフト2003の外周面の位置が太い一点鎖線によって描かれている。更に、一対の型2005及び2006とカム2001との位置関係を示すことを目的として、カム2001の位置が斜線によって描かれている。
【0032】
図25に例示する一対の型2005及び2006は、互いに向かい合う先端部に位置する一対の面(かしめ面)2005a及び2006aが互いに接近したり離隔したりすることが可能であるように構成されている。更に、一対の型2005及び2006は、図示しない駆動手段によって駆動されて、シャフト2003の外周面の所定の部分(被かしめ部)を挟むように構成されている(白抜きの矢印を参照)。一対のかしめ面2005a及び2006aは、一対の型2005及び2006が駆動される方向(かしめ方向)に対して垂直な1つの平面によって、それぞれ構成されている。
【0033】
一対の型2005及び2006によってシャフト2003の外周面の被かしめ部が挟まれると、被かしめ部を構成していた材料が塑性流動を始める。しかしながら、被かしめ部のシャフト2003の径方向における内側にはシャフト2003が存在し、被かしめ部のシャフト2003の軸方向におけるカム2001側にはカム2001が存在する。従って、被かしめ部を構成していた材料は、シャフト2003の径方向における外側及びシャフト2003の軸方向におけるカム2001とは反対側にしか塑性流動することができない(太い実線の矢印を参照)。その結果、
図25に例示する一対の型2005及び2006によって形成される隆起部は、主としてシャフト2003の径方向における外側及びシャフト2003の軸方向におけるカム2001とは反対側へ向かって膨出することとなる。このため、シャフト2003の軸方向において隆起部によってカム2001を押圧する力が不十分となり、かしめによるシャフト2003とカム2001との結合強度(かしめ結合強度)が不十分となる虞がある。
【0034】
一方、
図26は従来治具の構成の一例を示す模式図である。より詳しくは、
図26は、
図23を参照しながら前述した特許文献2に記載された(一対のかしめ部材としての)一対の型2005及び2006の模式的な斜視図(a)並びに正面図(b)、背面図(c)、頂面図(d)及び底面図(e)である。
図26においても、一対の型2005及び2006とシャフト2003との位置関係を示すことを目的として、シャフト2003の外周面の位置が太い一点鎖線によって描かれている。更に、一対の型2005及び2006とカム2001との位置関係を示すことを目的として、カム2001の位置が斜線によって描かれている。
【0035】
図26に例示する一対の型2005及び2006においては、一対のかしめ面2005a及び2006aは、一対の型2005及び2006が駆動される方向(かしめ方向)に対して傾いた1つの平面によって、それぞれ構成されている。具体的には、一対のかしめ面2005a及び2006aは、シャフト2003の径方向において外側へ向かうほど互いの間隔が広くなるように、シャフト2003の径方向に対して角度θrにて、それぞれ傾斜している。
【0036】
従って、一対の型2005及び2006によってシャフト2003の外周面の被かしめ部が挟まれると、被かしめ部を構成していた材料のうちシャフト2003の径方向における外側へ向かって塑性流動する材料の割合が、上述した
図25に示した例に比べて、より多くなる(太い実線の矢印を参照)。その結果、
図26に例示する一対の型2005及び2006によって形成される隆起部は、
図25に示した例に比べて、シャフト2003の径方向における外側へ向かってより大きく膨出することとなる。しかしながら、この場合もまた、一対の型2005及び2006によって挟まれた被かしめ部を構成する材料が主としてシャフト2003の径方向における外側へ向かって塑性流動するため、シャフト2003の軸方向において隆起部によってカム2001を押圧する力が不十分となり、かしめによるシャフト2003とカム2001とのかしめ結合強度が不十分となる虞が依然として残る。
【0037】
そこで、
図24を参照しながら前述した特許文献3に記載された一対のかしめ治具3100a及び3100bのように、一対のかしめ面3110a及び3110b同士の間隔がロータ軸3020の径方向における外側へ向かうほど及びロータ軸3020の軸方向におけるロータコア側(他方側)へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面3110a及び3110bを傾斜させることが知られている。
図27は、特許文献3に記載された(一対のかしめ部材に該当する)一対のかしめ治具3100a及び3100bの模式的な斜視図(a)並びに正面図(b)、背面図(c)、頂面図(d)及び底面図(e)である。
図27においても、一対のかしめ治具3100a及び3100bとロータ軸3020との位置関係を示すことを目的として、ロータ軸3020の外周面の位置が太い一点鎖線によって描かれている。更に、一対のかしめ治具3100a及び3100bとロータコアとの位置関係を示すことを目的として、ロータコアの位置が斜線によって描かれている。
【0038】
図27に例示する一対のかしめ治具3100a及び3100bにおいては、一対のかしめ面3110a及び3110bは、一対のかしめ治具3100a及び3100bが駆動される方向(かしめ方向)に対して傾いた1つの平面によって、それぞれ構成されている。具体的には、一対のかしめ面3110a及び3110bは、ロータ軸3020の径方向において外側へ向かうほど互いの間隔が広くなるように、ロータ軸3020の径方向に対して角度θrにて、それぞれ傾斜している。加えて、一対のかしめ面3110a及び3110bは、ロータ軸3020の軸方向においてロータコア側へ向かうほど互いの間隔が広くなるように、ロータ軸3020の軸方向に対して角度θaにて、それぞれ傾斜している。
【0039】
従って、一対のかしめ治具3100a及び3100bによってロータ軸3020の外周面の被かしめ部が挟まれると、被かしめ部を構成していた材料のうちロータ軸3020の軸方向におけるロータコア側へ向かって塑性流動しようとする材料の割合が、上述した
図26に示した例に比べて、より多くなる(太い実線の矢印を参照)。その結果、
図27に例示する一対のかしめ治具3100a及び3100bによって形成される突出部は、
図26に示した例に比べて、ロータ軸3020の径方向においてロータコアをより強く押圧して、ロータ軸と3020ロータコアとのかしめ結合強度を増大させることができるものと期待される。
【0040】
しかしながら、一対のかしめ面3110a及び3110bのロータ軸3020の径方向に対する傾斜角度θr及びロータ軸3020の軸方向に対する傾斜角度θaが大きくなるほど、一対のかしめ治具3100a及び3100bの互いに対向する先端部の形状がより鋭利となる(
図27の(a)において太い点線によって囲まれた部分を参照)。その結果、ロータコアに隣接する領域において一対のかしめ面3110a及び3110bによって押圧されない部分がより大きくなり、一対のかしめ面3110a及び3110bによって押圧されて塑性流動を生ずる部分(被かしめ部)がより小さくなる。即ち、突出部を形成する材料が少なくなる。
【0041】
図28は、
図27に例示した一対のかしめ治具3100a及び3100bを互いに対向する先端部が接触する位置まで近付けた状態を示す模式図である。
図28において、(a)に示す正面図、(d)に示す頂面図及び(e)に示す底面図は、
図27の(a)に示す正面図、
図27の(d)に示す頂面図及び
図27の(e)に示す底面図にそれぞれ対応する。
図28において斜め格子のハッチングによって示す領域は、一対のかしめ治具3100a及び3100bを先端部が接触する位置まで近付けても、一対のかしめ面3110a及び3110bによって押圧することができない。即ち、当該領域を構成する材料は塑性流動による突出部の形成に寄与しない。
【0042】
上記のように、一対のかしめ面3110a及び3110bを傾斜させる角度(θa及びθr)を大きくするほど、一対のかしめ面3110a及び3110bによって挟まれた部分(被かしめ部)から塑性流動して突出部を形成する材料の量が減少する。その結果、かしめによって大きい突出部を形成することが困難となり、ロータ軸3020の軸方向において突出部によってロータコアを押圧する力が小さくなり、ロータ軸3020とロータコアとのかしめ結合強度が却って小さくなる虞がある。
【0043】
以上のように、従来技術に係るかしめ治具(従来治具)によれば、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定するかしめ結合方法において、被固定部材とシャフトとの結合強度を十分に増大させることが困難な場合がある。
【0044】
一方、本発明治具においては、上述したように、以下に列挙する(a)乃至(c)の全ての要件を満たすように一対のかしめ面が構成されている。これらの要件の詳細につき、図面を参照しながら以下に説明する。
【0045】
(a)かしめ方向における一対のかしめ面の間隔であるかしめ間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど広くなる部分を含む。
(b)かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなる部分を含む。
(c)シャフトの軸方向及びかしめ方向の両方に平行な平面による断面における一対のかしめ面がなす角度であるかしめ角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなる部分を含む。
【0046】
図1は、本発明治具の構成の一例を示す模式図である。より詳しくは、
図1は、本発明治具101が備える一対のかしめ部材110L及び110Rの模式的な斜視図(a)並びに正面図(b)、背面図(c)、頂面図(d)及び底面図(e)である。
図1においても、一対のかしめ部材110L及び110Rとシャフトとの位置関係を示すことを目的として、シャフトの外周面の位置が太い一点鎖線によって描かれている。更に、一対のかしめ部材110L及び110Rと被固定部材との位置関係を示すことを目的として、被固定部材の位置が斜線によって描かれている。
【0047】
本発明治具101においては、一対のかしめ部材110L及び110Rの互いに向かい合う先端部に位置する面である一対のかしめ面120L及び120Rの各々が、異なる角度にて傾斜する2つの平面によって構成されている。具体的には、図面に向かって左側のかしめ面120Lは、シャフトの軸方向における被固定部材の反対側(図面に向かって奥側)から被固定部材側(図面に向かって手前側)へと向かう順に並ぶ第1かしめ面121L及び第2かしめ面122Lによって構成されている。同様に、図面に向かって右側のかしめ面120Rは、シャフトの軸方向における被固定部材の反対側から被固定部材側へと向かう順に並ぶ第1かしめ面121R及び第2かしめ面122Rによって構成されている。
【0048】
図1の(b)に示すように、かしめ間隔がシャフトの径方向における外側(図面に向かって上側)へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面120L及び120Rが構成されている(Dr1<Dr2)。即ち、本発明治具101は、上述した要件(a)を満足している。従って、本発明治具101によれば、被固定部材の被かしめ部を構成する材料がシャフトの径方向における外側へ向かって容易に塑性流動することができる。更に、本発明治具101においては、
図1の(d)に示すように、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側(図面に向かって下側)へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面120L及び120Rが構成されている(Da1<Da2)。即ち、本発明治具101は、上述した要件(b)を満足している。従って、本発明治具101によれば、被かしめ部を構成する材料がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かって容易に塑性流動することができる。
【0049】
ところで、
図27及び
図28を参照しながら説明したように、従来治具においては、かしめ面が単一の平面によって構成されている。従って、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなるように一対のかしめ面を傾斜させる角度(かしめ角度)を大きくするほど、被固定部材に隣接する領域におけるかしめ間隔が大きくなる。その結果、従来治具を使用する場合、一対のかしめ面によって押圧されない部分がより大きくなり、塑性流動によって突出部を形成する材料の量が減少する。そのため、かしめによって大きい突出部を形成することが困難となり、シャフトの軸方向において突出部によって被固定部材を押圧する力が小さくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度が却って小さくなる虞がある。
【0050】
一方、本発明治具101においては、
図1の(d)及び(e)に示すように、かしめ角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなるように一対のかしめ面120L及び120Rが構成されている。具体的には、シャフトの軸方向における被固定部材の反対側にある一対の第1かしめ面121L及び121Rにおいては、シャフトの径方向における外側におけるかしめ角度(θ11)よりも、シャフトの径方向における内側におけるかしめ角度(θ21)の方がより小さい(θ11>θ21)。また、シャフトの軸方向における被固定部材側にある一対の第2かしめ面122L及び122Rにおいては、シャフトの径方向における外側におけるかしめ角度(θ12)よりも、シャフトの径方向における内側におけるかしめ角度(θ22)の方がより小さい(θ12>θ22)。
【0051】
上記のように、本発明治具101は、上述した要件(c)を満足している。従って、本発明治具101においては、シャフトの径方向における外側におけるかしめ間隔(Dr2)及びかしめ角度(θ11及びθ12)が従来治具と同程度以上であっても、シャフトの径方向における内側におけるかしめ間隔(Dr1)及びかしめ角度(θ21及びθ22)を従来治具よりも小さくすることができる。その結果、本発明治具101によれば、従来治具を使用する場合に比べて、一対のかしめ面120L及び120Rによって押圧されない部分をシャフトの径方向における内側へ向かうほど少なくして、塑性流動によって隆起部を形成する材料の量を増大させることができる。そのため、かしめによって大きい隆起部を形成することが容易となり、シャフトの軸方向において隆起部によって被固定部材を押圧する力が大きくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を十分に増大させることができる。
【0052】
尚、
図1の(e)に示した底面図からも明らかであるように、本発明治具101においても、従来治具に比べれば少ないとはいえ、一対のかしめ面120L及び120Rによって押圧されない部分が生ずる。一対のかしめ面120L及び120Rによって押圧されない部分を少なくして塑性流動によって隆起部を形成する材料の量を増大させる観点からは、シャフトの径方向における内側の端部におけるかしめ角度をできる限り小さくすることが好ましい。
【0053】
図2は、本発明治具の構成のもう1つの例を示す模式図である。
図2に例示する本発明治具102においても、
図1に例示した本発明治具101と同様に、図面に向かって左側のかしめ面120Lがシャフトの軸方向における被固定部材の反対側から被固定部材側へと向かう順に並ぶ第1かしめ面121L及び第2かしめ面122Lによって構成されており、図面に向かって右側のかしめ面120Rがシャフトの軸方向における被固定部材の反対側から被固定部材側へと向かう順に並ぶ第1かしめ面121R及び第2かしめ面122Rによって構成されている。
【0054】
本発明治具102において、シャフトの軸方向における被固定部材側に位置する第2かしめ面122L及び122Rは、
図27に示した従来治具が備える一対のかしめ面2005a及び2006aと同様に、シャフトの径方向において外側へ向かうほど及びシャフトの軸方向において被固定部材側へ向かうほど互いの間隔が広くなるように、シャフトの径方向及び軸方向に対して所定の角度にて、それぞれ傾斜している。一方、シャフトの軸方向における被固定部材の反対側に位置する第1かしめ面121L及び121Rは、シャフトの軸方向に平行な平面であり、シャフトの径方向において外側へ向かうほど互いの間隔が広くなるようにシャフトの径方向に対して所定の角度にて傾斜しているが、シャフトの軸方向に対しては平行である。加えて、第1かしめ面121L及び121Rのシャフトの径方向における内側の端部は、一対のかしめ面120L及び120Rのシャフトの径方向における内側の端部の全域を占めている。即ち、一対のかしめ面120L及び120Rのシャフトの径方向における内側の端部に位置する辺は、シャフトの軸方向に対して平行である(θ21=0°)。
【0055】
図3は、シャフトの径方向における内側の端部における一対のかしめ面によって押圧されない部分の大きさを従来治具と本発明治具との間で比較することを目的として一対のかしめ治具を互いに対向する先端部が接触する位置まで近付けた状態を示す模式図である。
図3の(a)は
図28の(e)に例示した従来治具の底面図と同じであり、
図3の(b)及び(c)はそれぞれ
図1及び
図2に例示した本発明治具101及び102の底面図である。
図3に示すように、シャフトの径方向における内側の端部において一対のかしめ面によって押圧されない部分(斜め格子のハッチングによって示す領域)は、従来治具に比べて、本発明治具101の方が少なく、本発明治具102においては一対のかしめ面によって押圧されない部分は生じない。
【0056】
上記の結果、本発明治具102によれば、本発明治具101に比べて、一対のかしめ面120L及び120Rによって押圧されない部分を更に少なくして、塑性流動によって隆起部を形成する材料の量を更に増大させることができる。そのため、かしめによって大きい隆起部を形成することが更に容易となり、シャフトの軸方向において隆起部によって被固定部材を押圧する力が更に大きくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を更に増大させることができる。
【0057】
尚、
図1に例示した本発明治具101及び
図2に例示した本発明治具102の何れにおいても、シャフトの軸方向における被固定部材の反対側(図面に向かって奥側)から被固定部材側(図面に向かって手前側)へと向かう順に並ぶ第1かしめ面121L及び121R並びに第2かしめ面122L及び122Rによって、一対のかしめ面120L及び120Rがそれぞれ構成されている。しかしながら、一対のかしめ面120L及び120Rを構成する面の配列は上記に限定されない。
【0058】
例えば、
図4に例示する本発明治具103においては、シャフトの径方向における外側から内側へと向かう順に並ぶ第3かしめ面123L及び123R並びに第4かしめ面124L及び124Rによって、一対のかしめ面120L及び120Rがそれぞれ構成されている。このような構成を有する本発明治具103においても、上述した(a)乃至(c)の全ての要件を満たすことができる。即ち、
図4の(b)に示すように、かしめ間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど広く(Dr1<Dr2)、
図4の(d)に示すように、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広く(Da1<Da2)、且つ、
図4の(d)及び(e)に示すように、シャフトの径方向における外側におけるかしめ角度(θ10)よりも、シャフトの径方向における内側におけるかしめ角度(θ20)の方がより小さい(θ10>θ20)ように、一対のかしめ面120L及び120Rを構成することができる。
【0059】
尚、
図1乃至
図4を参照しながら上述した本発明治具101乃至103においては、一対のかしめ面120L及び120Rの各々が2つの平面によって構成されていた。しかしながら、本発明治具が備えるかしめ部材の一対のかしめ面の構成は、上述した(a)乃至(c)の全ての要件を満たす限り、上記に限定されるものではない。例えば、本発明治具が備えるかしめ部材の一対のかしめ面は、前述したように、2つ又は3つ以上の複数の面の組み合わせによって構成されていてもよい。この場合、かしめ面を構成する複数の面の全てが、平面によって構成されていてもよく、曲面によって構成されていてもよい。
【0060】
図5は、かしめ面が複数(2つ)の曲面によって構成されている本発明治具の模式図である。
図5に例示する本発明治具104は、一対のかしめ面120L及び120Rをそれぞれ構成する第1かしめ面121L及び121R並びに第2かしめ面122L及び122Rが平面ではなく曲面によって構成されている点を除き、
図2に例示した本発明治具102と同様の構成を有する。更に、図示しないが、かしめ面を構成する複数の面が平面及び曲面の組み合わせによって構成されていてもよい。
【0061】
一方、かしめ面は、1つの面によって構成されていてもよい。この場合、上述した(a)乃至(c)の全ての要件を満たすためには、かしめ面は平面ではなく曲面によって構成される必要がある。
図6は、かしめ面が1つの曲面によって構成されている本発明治具の構成の一例を示す模式図である。
図6に例示する本発明治具105においては、一対のかしめ面120L及び120Rのシャフトの径方向における内側の端部に位置する稜線(辺)は、シャフトの軸方向に対して平行である(θ20=0°)。一方、一対のかしめ面120L及び120Rのシャフトの径方向における外側の端部に位置する稜線(辺)は、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなるように、シャフトの軸方向に対して所定の角度(θ10)にて傾斜している。このようなシャフトの径方向における内側及び外側の端部に位置する両辺を含む一対のかしめ面120L及び120Rは、例えば
図6の(a)において実線の矢印によって示すように、特定の軸の周りに平面を捻ることによって得られるような形状を有する曲面であってもよい。このような構成を有する本発明治具105においても、上述した(a)乃至(c)の全ての要件を満たすように、一対のかしめ面120L及び120Rを構成することができる(Dr1<Dr2、Da1<Da2、及びθ10>θ20)。
【0062】
図7は、かしめ面が1つの曲面によって構成されている本発明治具の構成のもう1つの例を示す模式図である。
図7に例示する本発明治具106においては、シャフトの径方向における外側且つシャフトの軸方向における被固定部材側に向かって凸状の形状を有する1つの曲面によって、一対のかしめ面120L及び120Rがそれぞれ構成されている。このような構成を有する本発明治具106においても、上述した(a)乃至(c)の全ての要件を満たすように、一対のかしめ面120L及び120Rを構成することができる(Dr1<Dr2、Da1<Da2、及びθ10>θ20)。
【0063】
以上説明してきたように、本発明治具においては、一対のかしめ面が、かしめ間隔がシャフトの径方向における外側へ向かうほど広くなる部分を含み(要件(a))、かしめ間隔がシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほど広くなる部分を含み(要件(b))、且つ、かしめ角度がシャフトの径方向における内側へ向かうほど小さくなる部分を含む(要件(c))ように構成されている。これらの要件を満たす一対のかしめ面の具体的な構成としては、
図1乃至
図7を参照しつつ詳しく説明したように、多種多様な構成を採用することができる。
【0064】
従って、本発明治具によれば、高い設計自由度により、被かしめ部を構成する材料のシャフトの径方向における外側への塑性流動とシャフトの軸方向における被固定部材側への塑性流動とを用途に応じて好適に配分することができる。また、例えば一対のかしめ面を構成する個々の面の曲率、傾斜角度、面積及び/又は形状等を適宜設計することにより、例えば一対のかしめ面の間を流動する材料の速度及び/又は拡がり等を制御して、所望の大きさ及び形状を有する隆起部を生じさせることができる。
【0065】
以上から明らかであるように、本発明治具を使用する本発明方法によれば、被固定部材の被かしめ部を構成する材料が、シャフトの径方向における外側及びシャフトの軸方向における被固定部材側の両方へ向かって容易に塑性流動することができる。更に、本発明治具を使用する本発明方法によれば、従来治具を使用する場合に比べて、一対のかしめ面によって押圧されない部分をシャフトの径方向における内側へ向かうほど少なくして、塑性流動によって隆起部を形成する材料の量を増大させることができる。その結果、かしめによって大きい隆起部を形成することが容易となり、シャフトの軸方向において隆起部によって被固定部材を押圧する力が大きくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を十分に増大させることができる。
【0066】
《かしめ結合方法》
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、上述した様々な実施形態を含む本発明に係るかしめ治具(本発明治具)のみならず、本発明治具を使用するかしめ結合方法にも関する。本発明に係るかしめ結合方法(本発明方法)につき、図面を参照しながら、以下に詳しく説明する。
【0067】
本発明方法は、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態において被固定部材をシャフトに固定するかしめ結合方法である。本発明方法は、上述した様々な実施形態を含む本発明に係るかしめ治具(本発明治具)の何れかによって被かしめ部を挟んで隆起部を形成することを含む。被かしめ部とは、前述したように、被固定部材に設けられた貫通孔にシャフトが挿通された状態においてシャフトの外周面の被固定部材に隣接する部分である。
【0068】
図8は、本発明方法において実行される各工程の流れの一例を示すフローチャートである。以下の説明においては、本発明方法により、
図9に例示する被固定部材としてのカム(「カムロブ」とも称呼される)をシャフトとしての中空シャフトにかしめ結合する場合について説明する。
図10は、本発明方法によって被固定部材(カム)がシャフト(中空シャフト)に固定される様子を示す模式図である。
【0069】
先ず、当然のことながら、本発明方法の実施に先立ち、
図9に例示する被固定部材としてのカム200及びシャフトとしての中空シャフト300を用意する。カム200には、中空シャフト300の外周面の横断面に対応する形状及び大きさを有する貫通孔201が設けられている。
【0070】
本発明方法が開始されると、
図8のフローチャートにおけるステップS10において、
図9に示すカム200に設けられた貫通孔201に中空シャフト300が挿通される。次に、ステップS20において、
図10の(a)に示す本発明に係るかしめ治具(本発明治具)102’を使用して、カム200に設けられた貫通孔201に中空シャフト300が挿通された状態において中空シャフト300の外周面のカム200に隣接する部分である被かしめ部が挟まれて隆起部が形成される。本発明治具102’は、一対のかしめ面120L及び120Rの中空シャフト300の径方向における内側の端部に位置する辺が面取りされている点を除き、
図2に例示した本発明治具102と同様の構成を有する。
【0071】
ステップS20においては、
図10の(b)に示すように、先ず、一対の第1かしめ面121L及び121Rによって被かしめ部が挟まれる。本発明治具102’の中空シャフト300の径方向における内側の端部に位置する辺は、本発明治具102と同様に、中空シャフト300の軸方向に平行である。従って、中空シャフト300の軸方向及びかしめ方向(
図10の(a)に示す白抜きの矢印の方向)の両方に平行な平面による断面における一対のかしめ面がなす角度(かしめ角度)は0°であり、一対の第1かしめ面121L及び121Rによって押圧されない部分は少ない。従って、被かしめ部から中空シャフトの軸方向における外側に向かって、より多くの材料を塑性流動させることができる。
【0072】
やがて被かしめ部から中空シャフトの軸方向における外側に向かって塑性流動した材料が一対の第2かしめ面122L及び122Rに到達すると、一対の第2かしめ面122L及び122Rはシャフトの軸方向における被固定部材側へ向かうほどかしめ間隔が広くなるように構成されているので、
図10の(c)に示すように、シャフト300の軸方向におけるカム200側へ向かって塑性流動するようになる(
図10の(c)に示す白抜きの矢印を参照)。その結果、本発明治具102’を使用するかしめ結合方法によって大きい隆起部が形成され、中空シャフト300の軸方向において隆起部によってカム200を押圧する力が大きくなり、カム200と中空シャフト300とのかしめ結合強度を十分に増大させることができる。
【0073】
尚、上記のようにカム200と中空シャフト300とを強固に固定するためには、隆起部によって押圧されたカム200が中空シャフト300の軸方向において移動しないように固定される必要がある。従って、例えば、上記のようにして形成される隆起部のカム200を挟んで反対側の中空シャフト300の外周面に、別の隆起部を形成したり、径方向において外側へ向かって突出する部分である突出部(例えばフランジ部及び拡径部等)を予め形成しておいたりすることが好ましい。
【0074】
図11は、
図9に例示したカム200と中空シャフト300とが本発明方法により互いに固定されてなるカムシャフトの外観を示す模式的な斜視図である。
図11の(b)は、(a)において太い破線によって囲まれた隆起部の近傍の拡大図である。中空シャフト300の外周面における被かしめ部が本発明治具102’によって挟まれ始める際には、先ずは一対の第1かしめ面121L及び121Rによって被かしめ部を構成する多量の材料が主として中空シャフト300の径方向における外側に向かって塑性流動を開始する。この際、当該材料の一部は中空シャフト300の軸方向にも流動し、カム200と中空シャフト300との間の僅かな空間にも流れ込む。やがて当該材料が一対の第2かしめ面122L及び122Rに到達すると、中空シャフト300の軸方向におけるカム200側への塑性流動が促進され、カム200を押圧する隆起部(肉だまり)が形成される。
【0075】
図11に示す例においては、中空シャフト300の軸方向において上記隆起部のカム200を挟んだ反対側にも上記と同様の隆起部が形成されている。従って、これら一対の隆起部によって中空シャフト300の軸方向においてカム200が挟まれて、中空シャフト300の軸方向におけるカム200の位置が固定される。上述したように、上記のようにして形成される隆起部のカム200を挟んで反対側の中空シャフト300の外周面に、隆起部ではなく、径方向において外側へ向かって突出する部分である突出部(例えばフランジ部及び拡径部等)を予め形成しておいてもよい。
【0076】
尚、これまでの説明においては一対のかしめ部材の一対のかしめ面によって1つの被かしめ部又は被固定部材を挟む一対の被かしめ部をかしめて1つの隆起部又は被固定部材を挟む一対の隆起部を形成する場合について述べてきた。しかしながら、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を増大させる観点からは、1つの被固定部材について、複数の被かしめ部又は被固定部材を挟む複数対の被かしめ部をかしめて複数の隆起部又は被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することが好ましい。また、例えば被固定部材の貫通孔とシャフトとの同軸度を確保する観点からは、シャフトの軸周りに回転対称となる複数の位置において複数の隆起部又は被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することが好ましい。
【0077】
更に、本発明方法に関する上記説明においては、
図2に例示した本発明治具102と同様の構成を有する本発明治具102’を使用して、カム200を中空シャフト300に固定する場合を例示した。しかしながら、
図1乃至
図7を参照しつつ上述した構成を有する各種かしめ治具を始めとする多種多様な本発明に係るかしめ治具(本発明治具)を本発明に係るかしめ結合方法(本発明方法)において使用することができることは言うまでも無い。
【0078】
即ち、本発明治具を使用する本発明方法によれば、被固定部材の被かしめ部を構成する材料が、シャフトの径方向における外側及びシャフトの軸方向における被固定部材側の両方へ向かって容易に塑性流動することができる。更に、本発明治具を使用する本発明方法によれば、従来治具を使用する場合に比べて、一対のかしめ面によって押圧されない部分をシャフトの径方向における内側へ向かうほど少なくして、塑性流動によって隆起部を形成する材料の量を増大させることができる。その結果、かしめによって大きい隆起部を形成することが容易となり、シャフトの軸方向において隆起部によって被固定部材を押圧する力が大きくなり、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を十分に増大させることができる。
【実施例1】
【0079】
本実施例においては、かしめ結合方法によって固定された被固定部材及びシャフトからなる物体(以降、「締結体」と称呼される場合がある。)における隆起部の状態を、本発明に係るかしめ治具(本発明治具)を使用する場合と従来技術に係るかしめ治具(従来治具)を使用する場合とで比較する。
【0080】
図12は本発明治具を使用するかしめ結合方法によって固定されたカム及び中空シャフトからなるカムシャフトの外観を示す模式的な斜視図であり、
図13は従来治具を使用するかしめ結合方法によって固定されたカム(被固定部材200)及び中空シャフト(シャフト300)からなるカムシャフトの外観を示す模式的な斜視図である。また、本実施例において使用する本発明治具は
図2を参照しながら説明した本発明治具102であり、本実施例において使用する従来治具は
図27及び
図28を参照しながら説明した従来治具である。尚、
図12及び
図13の何れにおいても、図面に向かって手前側に描かれている隆起部301のシャフト300の中心軸を挟んだ反対側にも同様の隆起部が形成されている。
【0081】
上記従来治具においては、前述したように、一対のかしめ面がシャフトの径方向及び軸方向の両方に対して大きく傾斜しており、一対のかしめ治具の互いに対向する先端部の形状が鋭利となっている(
図27の(a)において太い点線によって囲まれた部分を参照)。その結果、被固定部材200に隣接する領域において一対のかしめ面によって押圧されない部分が大きい(
図13において黒塗りの矢印によって指し示す部分を参照)。従って、一対のかしめ面によって押圧されて塑性流動を生ずる部分(被かしめ部)が小さく、隆起部301を形成する材料が少ないので、被固定部材200とシャフト300とのかしめ結合強度を十分に増大させることができない。
【0082】
一方、本発明治具102は、上述した(a)乃至(c)の全ての要件を満足している。更に、本発明治具102においては、前述したように、シャフト300の軸方向における被固定部材200の反対側に位置する一対の第1かしめ面がシャフト300の軸方向に平行な平面であり、一対の第1かしめ面のシャフト300の径方向における内側の端部が一対のかしめ面のシャフト300の径方向における内側の端部の全域を占めている。その結果、シャフト300の径方向における内側の端部において一対のかしめ面によって押圧されない部分は、上記従来治具に比べて、本発明治具102の方が著しく少ない(
図12において黒塗りの矢印によって指し示す部分を参照)。従って、本発明治具102を使用するかしめ結合方法においては、被かしめ部が大きく、隆起部301を形成する材料が多いので、被固定部材200とシャフト300とのかしめ結合強度を十分に増大させることができる。
【実施例2】
【0083】
これまでの説明においては、主として被固定部材としての略卵形のカム及びシャフトとしての円形の横断面を有する中空シャフトを備える締結体としてのカムシャフトについて述べてきた。しかしながら、当該技術分野においては、種々の用途に応じて様々な被固定部材及びシャフトを備える締結体が知られている。本実施例においては、かしめ結合方法によって固定された被固定部材及びシャフトからなる締結体の幾つかの変形例について説明する。
【0084】
図14及び
図15は、様々な被固定部材及びシャフトを備える締結体の外観を示す模式的な斜視図である。
図14の(a)及び(b)は、例えばポンプ等において使用される略三角形及び略四角形の形状を有するカム200及び円形の横断面を有する中空シャフト300からなる締結体(カムシャフト)の外観をそれぞれ示す模式的な斜視図である。
図14の(c)は、略卵形のカム200及び六角形の横断面を有する中空シャフト300からなる締結体(カムシャフト)の外観を示す模式的な斜視図である。
【0085】
図15の(a)は、例えば回転電機等において使用される円柱形の形状を有するロータコア200及び円形の横断面を有する中空シャフト300からなる締結体(回転電機ロータ)の外観を示す模式的な斜視図である。一方、
図15の(b)は、例えば回転電機等において使用される円柱形の形状を有するロータコア200及び六角形の横断面を有する中空シャフト300からなる締結体(回転電機ロータ)の外観を示す模式的な斜視図である。
図15の(a)及び(b)の何れにおいても、ロータコア200は、中空シャフト300の横断面の形状に対応する形状を有する貫通孔が設けられた所定枚数の磁性体薄板を積み重ねることによって構成されている。
【0086】
上記のように、種々の用途に応じて様々な被固定部材及びシャフトを備える締結体もまた、本発明に係る結合方法(本発明方法)において、前述した
図1乃至
図7に例示した構成を有する各種かしめ治具を始めとする多種多様な本発明治具から選ばれるかしめ治具によって被かしめ部を挟んで隆起部を形成させて被固定部材200をシャフト300に固定することによって製造することができる。
【0087】
尚、前述したように、
図14の(c)及び
図15の(b)に例示したような非円形の横断面を有するシャフトを使用することにより、シャフトの軸周りにおける被固定部材の回転を妨げることができる。従って、本発明治具によって形成される隆起部による被固定部材のシャフトへの固定はシャフトの軸方向における被固定部材の意図せぬ移動(ズレ)を防止すれば十分となる。
【実施例3】
【0088】
被固定部材に設けられた貫通孔の周縁部に凹部を形成することにより、本発明治具を使用するかしめ結合方法(本発明方法)による被固定部材とシャフトとのかしめ結合をより強固なものとする実施例につき以下に説明する。
【0089】
図16は、本実施例において使用される貫通孔の周縁部に凹部が形成された被固定部材及び当該被固定部材とシャフトとが本発明方法によって固定されてなる締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
図16の(a)に示す環状の被固定部材200の中央に設けられた貫通孔の両端の周縁部には当該被固定部材の中心軸を挟んで互いに対向する一対の凹部202が形成されている。
【0090】
凹部202に対応する位置においてシャフト300の外周面における被かしめ部を本発明治具によって挟んで当該かしめ部を構成する材料の塑性流動により隆起部301を形成させる際に、凹部202に当該材料を流れ込ませることができる。その結果、
図16の(b)に示す締結体においては、被固定部材200とシャフト300とが強固に固定されると共に、シャフト300の軸周りにおける被固定部材200の回転が防止される。
【実施例4】
【0091】
上述した実施例1乃至3においては、シャフトの軸方向において被固定部材を間に挟む位置に形成された隆起部によって被固定部材を挟持することにより被固定部材をシャフトに固定する場合について例示した。しかしながら、前述したように、被固定部材を挟んで隆起部の反対側のシャフトの外周面に径方向において外側へ向かって突出する部分である突出部(例えばフランジ部及び拡径部等)を予め形成しておき当該突出部と上記隆起部との間に被固定部材を挟持することにより被固定部材をシャフトに固定してもよい。
【0092】
本実施例においては、上記のように突出部と隆起部との間に被固定部材を挟持することにより被固定部材をシャフトに固定する場合について説明する。
図17は、シャフト300の外周面に予め形成されたフランジ部302と本発明方法によって形成された隆起部301との間に被固定部材200が挟持されている締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。このような締結体は、突出部としてのフランジ部302が予め形成されたシャフト300を被固定部材200に設けられた貫通孔201に挿通し、シャフト300の外周面において被固定部材200を間に挟んでフランジ部302の反対側に位置する領域を被かしめ部として本発明治具によって挟んで隆起部301を形成することによって集成することができる。
【0093】
上記集成過程において、本発明治具の一対のかしめ部材によって挟まれてシャフト300の被かしめ部を構成していた材料が塑性流動して隆起部301を形成する。この際、当該材料の一部がシャフト300の軸方向における被固定部材200側に向かって流れるように(被固定部材200側の)一対のかしめ面によって導かれる。従って、被固定部材200は隆起部301によってフランジ部302側へ向かって押圧され(白抜きの矢印を参照)、フランジ部302と隆起部301との間に被固定部材200が挟持されてシャフト300に固定される。
【0094】
ところで、当該技術分野においては、モーターコアとシャフトとの嵌合面に形成されたキー溝にキーを嵌合させてモーターコアとシャフトとの回転方向における滑りを防止する技術が知られている。このような技術は、円形の横断面を有するシャフトと対応する円形の貫通孔を有するモーターコア等の被固定部材との組み合わせにおいて特に有用である。また、当該技術は、上述した実施例1乃至4及び後述する実施例5及び6のみならず、前述した様々な実施形態を含む本発明に係るかしめ治具(本発明治具)及び本発明治具を使用するかしめ結合方法(本発明方法)にも適用することができる。
【0095】
図18は、被固定部材としてのモーターコアとシャフトとの嵌合面にキー溝が形成された実施例4の変形例に係る締結体の構成を例示する模式図である。
図18の(a)乃至(c)の何れにおいても、キー溝は描かれているが、締結体の構造を見易くすることを目的として、キーは省略されている。また、キーが嵌合されるキー溝はモーターコアに形成された貫通孔の内周面及びシャフトの外周面の互いに対向する領域にそれぞれ形成されるが、キーが挿入される1つの空間が双方に形成されたキー溝によって画定される。従って、被固定部材(モーターコア)に形成されたキー溝とシャフトに形成されたキー溝とは区別せずに描かれており、双方のキー溝の符号が併記されている。
【0096】
図18の(a)は、本発明治具によって挟んで隆起部301がシャフト300の外周面に形成されている側から被固定部材200とシャフト300との締結体を観察した場合における模式的な斜視図である。一方、
図18の(b)は、突出部としてのフランジ部302がシャフト300の外周面に予め形成されている側から被固定部材200とシャフト300との締結体を観察した場合における模式的な斜視図である。更に、
図18の(c)は、シャフト300の中心軸AXを含む平面による被固定部材200とシャフト300との締結体の模式的な断面図である。尚、(c)において、中心軸AXよりも上方にはキー溝206及び305(黒塗りの部分を参照)を通る平面による断面が、軸AXよりも下方には隆起部301を通る平面による断面が、それぞれ描かれている。
【0097】
図18に例示するように、当該変形例においては、
図17に示した例と同様に、シャフト300の外周面に予め形成されたフランジ部302と本発明方法によって形成された隆起部301との間に被固定部材200が挟持され固定されている。加えて、当該変形例においては、被固定部材200に形成されたキー溝206及びシャフト300に形成されたキー溝305によって画定される空間に図示しないキーが挿入され嵌合される。これにより、このようなキー溝へのキーの嵌合を採用しない場合に比べて、被固定部材200とシャフト300との回転方向において、より大きいトルクを伝達することが可能となる。
【0098】
更に、上記構成によれば、被固定部材200とシャフト300との軸方向における位置関係の固定については主として隆起部301によって達成し、被固定部材200とシャフト300との回転方向における位置関係の固定については主としてキー溝206及び305への図示しないキーの嵌合によって達成するように、締結体を構成することができる。即ち、被固定部材とシャフトとの軸方向における固定と回転方向における固定とを、それぞれ、かしめによって形成される隆起部とキー溝へのキーの嵌合とに分担させることができる。従って、上記構成によれば、本発明に係るかしめ治具によって形成される隆起部の形状における自由度を高めることができる。
【実施例5】
【0099】
上述した実施例1乃至4においては、シャフトの外周面における所定の領域を被かしめ部として本発明に係るかしめ治具(本発明治具)によって挟んで隆起部を形成することにより被固定部材をシャフトに固定する場合について例示した。しかしながら、例えば管壁の薄い中空シャフト等においては上記のようにかしめ治具によって外周面を挟むと例えばシャフトの意図しない変形及び/又は破損等の問題が生ずる場合がある。特に、例えば電縫鋼管等、極めて薄い管壁を有する管状部材をシャフトとして使用する場合は、上記のような問題がより顕著となる。
【0100】
そこで、本実施例においては、上記のような場合において本発明に係るかしめ結合方法(本発明方法)を応用して、被固定部材と当該被固定部材に設けられた貫通孔に挿通されたシャフトとを固定する方法について説明する。本実施例に係る本発明方法においては、シャフトの外周面ではなく被固定部材の外周面をかしめ治具によって挟んで隆起部を形成する。当該方法の1つの具体例につき、以下に詳しく説明する。
【0101】
図19は、本実施例に係る本発明方法の応用例によって固定された被固定部材及びシャフトからなる締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
図19に例示する締結体においては、被固定部材200の貫通孔に挿通された中空シャフト300の一方の端部に略フランジ状の形状を有する被固定部材200が固定されている。
図19の(a)は上記締結体を中空シャフト300の被固定部材200が固定されている側から観察した場合における斜視図であり、(b)は上記締結体を(a)とは反対側から観察した場合における斜視図である。
【0102】
被固定部材200は、フランジ状の形状を有する部分であるフランジ部203及びフランジ部203に設けられた貫通孔と連通する内部空間を有する筒状の形状を有する部分であるコイニング部204によって構成されている。シャフト300においては、被固定部材200が固定される側の端部に鍔状の形状を有する部分であるフランジ部302が形成されており、軸方向において被固定部材200を間に挟んで反対側には径方向において外側に膨出した部分であるスプール部303が形成されている。更に、コイニング部204には、本発明治具を使用して隆起部205が形成されており、隆起部205によってスプール部303を軸方向において押圧することにより、中空シャフト300のフランジ部302に被固定部材200が押し付けられている、これにより、フランジ部302と隆起部205との間に被固定部材200が挟持され、被固定部材200が中空シャフト300に固定されている。
【0103】
上記のような構成を有する締結体は、以下のようにして集成することができる。先ず、被固定部材200及び中空シャフト300を用意する。この時点において、中空シャフト300には、フランジ部302は形成されているが、スプール部303は未だ形成されていない。次に、中空シャフト300のフランジ部302が形成されていない側の端部を被固定部材200に設けられた貫通孔のコイニング部204とは反対側から挿入し、中空シャフト300のフランジ部302に被固定部材200のフランジ部203が当接する位置まで被固定部材200を移動させる。尚、図示しないが、被固定部材200のフランジ部203の中空シャフト300のフランジ部302に当接する領域には中空シャフト300のフランジ部302を収容可能な形状及び深さを有する凹部が形成されている。従って、上記のように中空シャフト300のフランジ部302に被固定部材200のフランジ部203が当接する位置まで被固定部材200を移動させた状態においても、被固定部材200のフランジ部203から中空シャフト300のフランジ部302が突出しない。
【0104】
次に、上記状態において、中空シャフト300の外周面の被固定部材200のコイニング部204に隣接する部分を塑性加工によって径方向における外側に向かって膨出させてスプール部303を形成する。この時点において、中空シャフト300のフランジ部302とスプール部303との間に被固定部材200が存在するので、被固定部材200が中空シャフト300から抜け落ちる可能性は無いが、被固定部材200が中空シャフト300にしっかりと固定されている訳ではなく、例えば被固定部材200が中空シャフト300の軸方向において僅かに動いたり軸周りに回転したりすることが可能である。
【0105】
次に、被固定部材200のコイニング部204の外周面の中空シャフト300のスプール部303に隣接する部分を被かしめ部として本発明治具によって挟んで隆起部205を形成する。この際、コイニング部204の被かしめ部を構成していた材料の一部がシャフト300の軸方向における被固定部材200側に向かって流れるように(被固定部材200側の)一対のかしめ面によって導かれる。従って、被固定部材200は隆起部205によってスプール部303側へ向かって押圧される。しかしながら、上述したように被固定部材200は中空シャフト300にしっかりと固定されている訳ではないため、上記押圧力に対するスプール部303からの反力により中空シャフト300のフランジ部302側に向かって被固定部材200が押圧される。その結果、中空シャフト300のフランジ部302とスプール部303との間に被固定部材200が挟持されてシャフト300に固定される。
【0106】
以上説明してきたように、例えば管壁の薄い中空シャフト等、シャフトの外周面をかしめ治具によって挟むと例えばシャフトの意図しない変形及び/又は破損等の問題が生ずる場合においても、上記のように本発明に係るかしめ結合方法(本発明方法)を応用することにより被固定部材と当該被固定部材に設けられた貫通孔に挿通されたシャフトとを固定することができる。
【0107】
尚、上記説明においては、フランジ部203とコイニング部204とが一体的に形成された被固定部材200を使用する場合について述べたが、フランジ部とコイニング部とが別個の部材として形成された被固定部材を使用する場合においても、上記と同様に本発明方法を応用して被固定部材とシャフトとを固定することができる。
【実施例6】
【0108】
前述したように、被固定部材とシャフトとのかしめ結合強度を増大させる観点からは、1つの被固定部材について、複数の被かしめ部又は被固定部材を挟む複数対の被かしめ部をかしめて複数の隆起部又は被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することが好ましい。また、例えば被固定部材の貫通孔とシャフトとの同軸度を確保する観点からは、シャフトの軸の周りに回転対称となる複数の位置において複数の隆起部又は被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することが好ましい。そこで、本実施例においては、上記のようにシャフトの軸周りに回転対称となる複数の位置において被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することによって集成された締結体について説明する。
【0109】
図20は、上記のようにシャフトの軸周りに回転対称となる複数の位置において被固定部材を挟む複数対の隆起部を形成することによって集成された締結体の外観を例示する模式的な斜視図である。
図20の(a)に例示する締結体においては、中空シャフト300の軸周りに120°ずつ間隔を空けた3つの位置において被固定部材200を挟む三対の隆起部301を同時に形成することにより被固定部材200が中空シャフト300に高い同軸度にて固定されている。一方、
図20の(b)に例示する締結体においては、中空シャフト300の軸周りに90°ずつ間隔を空けた4つの位置において被固定部材200を挟む四対の隆起部301を同時に形成することにより被固定部材200が中空シャフト300に高い同軸度にて固定されている。即ち、何れの締結体においても、中空シャフト300の軸周りに回転対称となる複数の位置において被固定部材200を挟む複数対の隆起部301が形成されている。
【0110】
尚、
図20に例示した締結体を構成する中空シャフト300の内周面においては、径方向における内側に向かって膨出する部分である膨出部304が隆起部301に対応する位置に存在する。このような膨出部304は、中空シャフト300の外周部における被かしめ部が図示しない本発明治具によって挟まれて隆起部301が形成される際に径方向における内側に向かう応力が被かしめ部の内側に位置する部分に作用した結果として形成される場合がある。上記のような膨出部304の存在が締結体の用途において許容されない場合は、例えば、中空シャフトの管壁の厚さを増大させたり、本発明治具によって被かしめ部が挟まれる位置を径方向における外側へ移動させたりすることによって、膨出部304の高さを低減したり、膨出部304の発生を防止したりすることができる。
【0111】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び実施例等につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び実施例等に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0112】
101,102,102’,103,104,105,106…かしめ治具
110L及び110R…かしめ部材
120L及び120R…かしめ面
121L及び121R…第1かしめ面
122L及び122R…第2かしめ面
123L及び123R…第3かしめ面
124L及び124R…第4かしめ面
200…被固定部材
201…貫通孔
202…凹部
203…フランジ部
204…コイニング部
205…隆起部
206…キー溝(被固定部材側)
300…シャフト
301…隆起部
302…フランジ部
303…スプール部
304…膨出部
305…キー溝(シャフト側)