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  • 特許-ニッケル三元正極材料の表面改質方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】ニッケル三元正極材料の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230303BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230303BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021540849
(86)(22)【出願日】2020-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 CN2020071713
(87)【国際公開番号】W WO2020147671
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】201910043577.3
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515126422
【氏名又は名称】浙江工▲業▼大学
(73)【特許権者】
【識別番号】521309673
【氏名又は名称】浙江海創▲リ▼電科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG HITRANS LITHIUM BATTERY TECHNOLOGY CO.LTD
【住所又は居所原語表記】No.5 Weiqi East Road,Hangzhou Bay Economic And Technological Development Zone,Shangyu District,Shaoxing,Zhejiang 312000,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏 ▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 安▲チー▼
(72)【発明者】
【氏名】王 坤
(72)【発明者】
【氏名】張 文魁
(72)【発明者】
【氏名】呉 海軍
(72)【発明者】
【氏名】黄 輝
(72)【発明者】
【氏名】毛 秦▲鐘▼
(72)【発明者】
【氏名】吉 同棕
(72)【発明者】
【氏名】甘 永平
(72)【発明者】
【氏名】張 俊
(72)【発明者】
【氏名】梁 初
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/111131(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108615863(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池正極材料である、ニッケル三元正極材料の表面改質方法であって、
前記ニッケル三元正極材料を容器内に展開して、プラズマ発生器のチャンバーに入れ、真空ポンプを起動して、プラズマ発生器のチャンバーを真空に引くステップS1と、
乾燥されたアークガスをチャンバーに入れて、チャンバーのガス圧を500~700Paに維持させ、20~60s保持して、前記アークガスを抽出して、チャンバーの真空度を40~50Paに保持させるステップS2と、
プラズマ発生器を起動して、電力を調整し、0.5~30分間反応した後、表面改質されたニッケル三元正極材料を得ることができるステップS3と、を含む、ことを特徴とするニッケル三元正極材料の表面改質方法。
【請求項2】
ステップS1において、前記ニッケル三元正極材料の化学式はLiNi(1-x-y)Coであり、ここで、x+y≦0.7であり、MがMn又はAlである、ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル三元正極材料の表面改質方法。
【請求項3】
記ニッケル三元正極材料の化学式はLiNi0.9Co0.05Mn0.05、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.85Co0.1Al0.05又はLiNi0.5Co0.2Mn0.3である、ことを特徴とする請求項2に記載のニッケル三元正極材料の表面改質方法。
【請求項4】
前記アークガスは二酸化炭素である、ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル三元正極材料の表面改質方法。
【請求項5】
ステップS1において、前記ニッケル三元正極材料の展開厚さは0.3mm~10mmである、ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル三元正極材料の表面改質方法。
【請求項6】
ステップS3において、前記プラズマ発生器の電力は5~2000Wである、ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル三元正極材料の表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高ニッケル三元正極材料の表面改質方法に関し、リチウムイオン電池正極材料の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は携帯型電子機器、家庭用電器及び電動工具に広く使用されていた。ところが、電気自動車分野における応用はまだ不十分な状態であり、その理由は主に、リチウムイオン電池のコストが高いため、電気自動車のコストが高くなり、比エネルギー密度がユーザーの使用要件を満たすことができず、電気自動車の発展を制限するためである。現在、リチウムイオン電池のコスト及びエネルギー密度はほとんど正極材料の性能によって決められ、該正極材料は最も重く、最も高価なコンポーネントである。高ニッケル三元正極材料は質量比容量が高く、価格が低いという利点を有するため、次世代リチウムイオン電池の正極材料として見なされて、広く注目されている。ところが、高ニッケル正極材料は空気中の水に非常に敏感であり、空気中の湿気と反応して表面に水酸化リチウムを生成することが非常に容易であり、これにより、材料の表面が変質して、正極スラリーの後続製造が困難であり、正極容量が減衰し、サイクル安定性が低くなるなどの多くの問題を引き起こしてしまう。従って、表面処理されていない高ニッケル正極材料は保存条件及び後加工環境に対してより厳しい要件を有し、材料の保存コストを増加するだけでなく、材料の後続加工難度も増加してしまう。上記問題を解決するために、研究者は一般的に不活性酸化物による被覆方法を用いて高ニッケル三元正極材料の表面改質及び修飾を行い、それにより構造安定性及びサイクル安定性を向上させる。
【0003】
中国特許第CN106207128A号にはZr(OH)で被覆されたニッケル-コバルト-アルミニウム三元正極材料の調製方法が開示されており、可溶性ジルコニウムアルコキシドのアルコール溶液を調製するステップ(1)と、アルコール-水溶液を調製して、ステップ(1)において調製された溶液にゆっくりと滴加するステップ(2)と、超音波、洗浄、吸引ろ過、乾燥により、アモルファスZr(OH)粉末を得るステップ(3)と、三元材料及びZr(OH)粉末をボールミリングして混合して、Zr(OH)で被覆された改質後の三元正極材料を得るステップ(4)と、を含む。
【0004】
中国特許第CN103178258A号にはアルミナで被覆された改質ニッケル-コバルト-マンガン三元正極材料の調製方法が開示されており、前駆体を調製し、即ち、水溶性金属ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を混合溶液に配合して、沈殿剤、形態制御剤とともに反応容器内に滴加してシステムのpH値及び反応温度を制御し、反応した後、ろ過、洗浄及び真空乾燥を経て、前駆体を得るステップ(1)と、アルミナで被覆された前駆体を調製し、即ち、前駆体、水溶性アルミニウム塩及び均一分散剤を脱イオン水に分散して、攪拌しながら均一分散剤が加水分解するまで温度を上昇し、ろ過して、Al(OH)で被覆された前駆体を得て、焼結炉に入れて焙焼して、Alで被覆された前駆体粉末を得るステップ(2)と、Alで被覆された前駆体粉末とリチウム塩粉末を均一に混合して、高温で仮焼して、層状結晶構造のアルミナで被覆された改質ニッケル-コバルト-マンガン三元正極材料を得るステップ(3)と、を含む。
【0005】
以上のように、高ニッケル正極材料の表面被覆改質方法は現在、主に固相及び液相被覆焼結の2つがある。固相被覆焼結法で得られた被覆層は均一性が比較的低く、被覆層とマトリックスとの結合力が比較的弱く、サイクル過程において正極材料の異方性体積膨張により被覆層が破裂し、続いて材料が悪化して、材料のサイクル性能に影響を及ぼす。液相法は水を溶剤として用いる場合が多いが、水が高ニッケル三元正極材料と反応して、リチウムの損失を引き起こし、最終的に材料の容量が低下してしまう。固相の表面の被覆均一性が比較的悪く、液相の被覆による容量損失という問題に対して、本発明はプラズマ表面改質処理方法を提供し、高ニッケル三元正極材料の表面において気固相反応方法で1層の炭酸リチウム及び炭素被覆層をその場で構築し、それにより活性物質と電解液との直接接触を効果的に阻止して、その表界面の電子伝導率を向上させることができるだけでなく、湿った空気で長時間露出した後の化学的安定性を大幅に改善することもでき、材料の構造安定性及び後加工性の向上に役立つ。従来の被覆方法と比べて、該方法は簡単で行いやすく、迅速で効率が高く、コストが低いという利点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の欠点を解決するために、本発明は高ニッケル三元正極材料の表面改質方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明がその技術的課題を解決するために用いられる技術案は以下のとおりである。
【0008】
高ニッケル三元正極材料の表面改質方法であって、
高ニッケル三元正極材料を容器内に展開し、プラズマ発生器のチャンバーに入れ、真空ポンプを起動して、プラズマ発生器のチャンバーを真空に引くステップS1と、
乾燥されたアークガスをチャンバーに入れて、チャンバーのガス圧を500~700Paに維持させ、20~60s保持して、アークガスを抽出して、チャンバーの真空度を40~50Paに保持させるステップS2と、
プラズマ発生器を起動して、電力を調整し、0.5~120分間反応した後、表面改質された高ニッケル三元正極材料を得ることができるステップS3と、を含む。
【0009】
好適として、ステップS1において、前記高ニッケル三元正極材料の化学式はLiNi(1-x-y)Coであり、ここで、x+y≦0.7であり、MがMn又はAlである。
【0010】
好適には、前記高ニッケル三元正極材料の化学式は、LiNi0.9Co0.05Mn0.05、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.85Co0.1Al0.05又はLiNi0.5Co0.2Mn0.3である。
【0011】
好適には、前記アークガスは二酸化炭素である。
【0012】
好適には、ステップS1において、高ニッケル三元正極材料の展開厚さは0.3mm~10mmである。
【0013】
好適には、ステップS3において、プラズマ発生器の電力は5~2000Wである。
【0014】
本願は更にリチウムイオン電池を提供し、前記リチウムイオン電池の正極材料は本願に記載の方法で調製された表面改質された高ニッケル三元正極材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0016】
プラズマ表面処理を用いれば、高ニッケル三元正極材料の表面において1層の炭酸リチウム及び炭素の複合被覆層を構築することができ、炭酸リチウムは電気化学的不活性物質であり、高ニッケル三元正極材料と空気中の水蒸気を分離させることができ、水蒸気と反応して水酸化リチウムを生成して、その表界面構造を破壊することを回避し、それにより後続の電極シート生産過程における加工性を改善する。それと同時に、被覆層に存在する少量の炭素は高ニッケル三元正極材料の表界面の電子伝導率を向上させることができ、電池のサイクル及び倍率性能の向上に役立つ。該方法は、プロセスが簡単で、処理しやすく、迅速で効率が高く、経済的利益が顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1において得られた改質三元正極材料のSEMクロマトグラムである。
図2】実施例1において得られた改質三元正極材料のXRDクロマトグラムである。
図3】実施例1において調製された電池の20mA/g電流密度での前3回の充放電曲線である。
図4図4は実施例1において調製された電池がまず20mA/g電流密度で3サイクル活性化され、その後、100mA/g電流密度で200回のサイクルされた充放電サイクル曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら実施例によって本発明の技術案を更に詳述する。
【0019】
実施例1
高ニッケル三元正極材料を含む電池の製造
第1ステップ、表面改質された高ニッケル三元正極材料の調製
高ニッケル三元正極材料の表面改質方法であって、
2g三元正極LiNi0.83Co0.085Mn0.085材料を石英ボート内に展開し、展開厚さを0.5mmに制御し、プラズマ発生器に入れて、反応器のチャンバーを真空に引くステップS1と、
乾燥された二酸化炭素ガスを反応器のチャンバーに入れて、チャンバーのガス圧を550Paに維持させ、20s保持して、二酸化炭素ガスを抽出して、チャンバーの真空度を40Paに保持させるステップS2と、
プラズマ発生器を起動して、電力を18Wに調整し、10分間反応した後、表面改質された高ニッケル三元正極材料を得ることができるステップS3と、を含む。
【0020】
第2ステップ、電池の製造
S4において、質量比90:5:5で、得られた表面改質された高ニッケル三元正極材料、導電剤(アセチレンブラック)及びバインダー(ポリフッ化ビニリデン)を秤量して、均一に混合して、適量の1-メチル-2ピロリドン(NMP)を溶剤として加え、3h機械的攪拌して、一定の粘度を有するスラリーを得て、
S5において、ステップS4において得られたスラリーをきれいで平らなアルミ箔に均一に塗布し、塗布厚さを200μmとし、120℃の真空オーブンで12h乾燥し、乾燥後に直径15mmの極片に打ち抜かれ、18MPaの圧力で押し固め、正極極片として、使用に備え、
S6において、グローブボックスにおいて正極ケース、正極極片、セパレータ、電解液、リチウムシート、発泡ニッケル、電解液、負極ケースの順序でCR2025型ボタン電池に組み立て、セパレータの型番がCelgard 2300であり、電解液が1mol L-1LiPF/EC+DEC(体積比が1:1である)である。
【0021】
第3ステップ、電気化学的性能のテスト
第2ステップにおいて調製された電池を12h放置した後、電気化学的性能をテストし、即ち、
一定の電流密度で電池に対して充放電テストを行い(前3回では電流密度20mA/gの電流で電池を活性化し、その後、電流密度100mA/gの電流で充放電サイクルを行う)、電圧区間を3~4.2Vとし、充放電の時間間隔を5minとする。調製された材料のリチウムイオン電池の性能については、
図1は本実施例のLiNi0.83Co0.085Mn0.085三元正極材料処理後のSEMクロマトグラムであり、クロマトグラムには二酸化炭素プラズマ処理後に材料の表面が粗くなるが、球状形態が変化しないことを示し、
図2は本実施例のLiNi0.83Co0.085Mn0.085三元正極材料処理後のXRDクロマトグラムであり、クロマトグラムには二酸化炭素プラズマ処理後に材料の層状構造が変化しないことを示し、
図3は本実施例の電池の20mA/g電流密度で、電圧区間3~4.2Vの前3回の充放電曲線であり、初回放電容量が194mA h/gであり、
図4は本実施例の電池がまず20mA/gの電流密度で3回活性化され、その後、100mA/gの電流密度でのサイクル性能図であり、200回サイクルされた後、放電容量が依然として158mA h/gであり、容量保持率が86.8%(4回目の充放電に対する)である。
【0022】
実施例2~5
実施例1における実験ステップに従って、表面処理時間を変更し、実施例2~5における表面処理時間はそれぞれ5min、20min、30min、60min(0minは対照群であり、即ち表面処理しない)であり、電池の組み立てステップは実施例1と同様であり、テストされた電池の電気化学的性能は表1に示される。
【0023】
【表1】
【0024】
表1から分かるように、プラズマ表面処理後の三元正極材料は初回放電容量がわずかに減衰するが、容量保持率が表面処理されていないサンプルの性能より優れ(しかし、長時間処理すべきではない)。プラズマ表面改質処理は材料のサイクル安定性を向上させることができることを表し、該処理方法は三元正極材料の後続の表面改質処理に新たな構想を提供する。
【0025】
実施例6~7
実施例1における実験ステップに従って、プラズマ発生器の電力を変更し、実施例6及び7におけるプラズマ発生器の電力はそれぞれ6.8W及び10.5Wであり、他の条件が変化しない場合、電池の組み立てステップは実施例1と同様であり、テストされた電池の電気化学的性能は表2に示される。
【0026】
【表2】
【0027】
表2から分かるように、プラズマ表面処理前と比べて、プラズマ表面処理後の高ニッケル三元正極材料は容量保持率及びサイクル安定性がいずれも向上する。プラズマ表面改質処理は材料のサイクル安定性を向上させることができることを表す。
【0028】
以上に記載された実施例は本発明の好適な解決手段にすぎず、本発明をいかなる形式で制限するものではない。特許請求の範囲に記載された技術案を逸脱せずに、他の変形や修正を行うことができる。
図1
図2
図3
図4