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特許7236635表面処理剤及びその製造方法、並びに表面処理基材及び表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】表面処理剤及びその製造方法、並びに表面処理基材及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 143/04 20060101AFI20230303BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20230303BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20230303BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20230303BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20230303BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230303BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20230303BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20230303BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20230303BHJP
   C09D 139/00 20060101ALI20230303BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C09D143/04
C08K5/5415
C08L33/02
C08L33/26
C08L39/00
C09D7/20
C09D127/12
C09D133/02
C09D133/26
C09D139/00
C09K3/00 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019035419
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139046
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100181490
【弁理士】
【氏名又は名称】金森 靖宏
(72)【発明者】
【氏名】青海 雄太
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】土澤 健一
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141063(JP,A)
【文献】特開2018-141089(JP,A)
【文献】国際公開第2012/008269(WO,A1)
【文献】特開2015-187220(JP,A)
【文献】特開2008-297482(JP,A)
【文献】国際公開第2017/034616(WO,A1)
【文献】SOARES, Joao B.P. et al.,Using polymer reaction engineering principles to help the environment: the case of the Canadian oil,Journal of the Brazilian Chemical Society,2018年10月03日,Vol.30, No.3, 2019,pp.426-435,http://dx.doi.org/10.21577/0103-5053.20180197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09K3/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物又はカルボン酸の共重合体と、溶媒とを含有することを特徴とする表面処理剤。
【化1】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【請求項2】
前記フッ素含有化合物と前記共重合体との含有比(質量基準)が、1:1~25であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記溶媒が、炭素数1~5のアルコール系溶媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物の共重合体の重量平均分子量が、150000以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記式(1)において、yが0であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
前記式(1)において、Rで表されるフルオロアルキル基を含有する基が、下記式(4)で表される基であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤。
【化2】

上記式(4)中、pは0~2の整数である。
【請求項7】
前記式(1)において、Rはメチル基であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項8】
前記式(1)において、xが1~10の整数であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項9】
第1面及び当該第1面に対向する第2面を有する基部と、
前記基部の少なくとも前記第1面に設けられてなる表面処理層と
を備え、
前記表面処理層は、請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤を用いた表面処理が前記基部の前記第1面に施されることにより形成されてなるものであることを特徴とする表面処理基材。
【請求項10】
下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物又はカルボン酸の共重合体と、溶媒とを混合することを特徴とする表面処理剤の製造方法。
【化3】

上記式(1)中、Rはフルオロアルキル基を含有する基を表し、Rはアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R及びRは各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【請求項11】
酸触媒及びアルカリ触媒のいずれをも混合させないことを特徴とする請求項10に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載の表面処理剤を用いて被処理基材に表面処理を施すことを特徴とする表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤及びその製造方法、並びに表面処理基材及び当該表面処理剤を用いた表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用機械部品等の生産には、多種、多量の油が使用されており、製造工程における部品洗浄や製品洗浄の工程等で排出される含油排水の量も多くなっている。このような含油排水から油と水とを分離する油水分離技術として、例えば、比重分離等の静置分離技術、遠心分離技術、吸着分離技術等が知られている。
【0003】
これらの分離技術のうち、静置分離技術は多大な時間を要するという問題があり、遠心分離技術は大掛かりな装置を必要とするという問題があり、吸着分離技術は大量の含油排水の処理に不向きであるという問題がある。そこで、従来、所定のフッ素化合物と無機化合物とがナノコンポジット化された複合材料であって、親水・撥油性を有するフッ素含有ナノコンポジット粒子をろ紙や不織布に担持させた油水分離膜が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
物品表面に付着した油汚れを防止する方法として、物品表面を、撥油性を有する表面処理剤で処理して、物品表面に防汚膜を形成する方法が知られている。撥油性を有する表面処理剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂等が広く用いられている。しかしながら、フッ素樹脂は高い撥水性を有するため、物品表面に付着した油汚れを水洗浄により洗い流すことが困難である。そのため、油汚れを防止するための撥油性と、付着した油汚れを水洗浄するための親水性とを有する表面処理剤の提案が望まれている。
【0005】
従来、表面処理剤に含まれる親水性及び撥油性を有する樹脂組成物として、炭素数1~18のペルフルオロアルキル(メタ)アクリル酸エステルと親水基含有モノマーとを構成成分に含む共重合体が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-187220号公報
【文献】特開2008-297482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載されている油水分離技術や上記特許文献2に記載されている防汚膜を形成するための表面処理剤等の技術分野においては、優れた親水性及び撥油性を有する材料が必須であり、当該親水性及び撥油性をさらに向上させてなる材料の提案に対する要望が高まっている。
【0008】
上記課題に鑑みて、本発明は、優れた親水性及び撥油性を付与可能な表面処理剤及びその製造方法、優れた親水性及び撥油性を発現可能な表面処理基材、並びに被処理基材の表面に優れた親水性及び撥油性を付与可能な表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物又はカルボン酸の共重合体と、溶媒とを含有することを特徴とする表面処理剤を提供する。
【0010】
【化1】
上記式(1)中、R1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R3及びR4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0011】
前記共重合体は、下記式(2)で示される化学構造を有するものであってもよいし、下記式(3)で示される化学構造を有するものであってもよく、前記フッ素含有化合物と前記共重合体との含有比(質量基準)が、1:1~25であればよく、前記溶媒が、炭素数1~5のアルコール系溶媒であればよい。
【0012】
【化2】
上記式(2)中、R1’及びR2’は各々独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、無機アニオン又は有機アニオンを表す。
【0013】
【化3】
上記式(3)中、R3’及びR4’は各々独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、無機アニオン又は有機アニオンを表す。
【0014】
前記式(1)において、yが0であればよく、R1で表されるフルオロアルキル基を含有する基が、下記式(4)で表される基であればよく、R2はメチル基であればよく、xが1~10の整数であればよい。
【0015】
【化4】
上記式(4)中、pは0~2の整数である。
【0016】
本発明は、第1面及び当該第1面に対向する第2面を有する基部と、前記基部の少なくとも前記第1面に設けられてなる表面処理層とを備え、前記表面処理層は、上記表面処理剤を用いた表面処理が前記基部の前記第1面に施されることにより形成されてなるものであることを特徴とする表面処理基材を提供する。
【0017】
本発明は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物又はカルボン酸の共重合体と、溶媒とを混合することを特徴とする表面処理剤の製造方法を提供する。かかる製造方法において、酸触媒及びアルカリ触媒のいずれをも混合させないのが好ましい。
【0018】
【化5】
上記式(1)中、R1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R3及びR4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0019】
本発明は、上記表面処理剤を用いて被処理基材に表面処理を施すことを特徴とする表面処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた親水性及び撥油性を付与可能な表面処理剤及びその製造方法、優れた親水性及び撥油性を発現可能な表面処理基材、並びに被処理基材の表面に優れた親水性及び撥油性を付与可能な表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について説明する。
[表面処理剤]
本実施形態に係る表面処理剤は、下記式(1)で示されるフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物又はカルボン酸の共重合体と、溶媒とを含有する。かかる表面処理剤は、上記フッ素含有化合物と上記共重合体との反応生成物をミセル状態で含むものであって、当該ミセル状の反応生成物を製造するときの反応溶液として調製され得る。
【0022】
【化6】
式(1)中、R1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R3及びR4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0023】
式(1)において、R1で表されるフルオロアルキル基を含有する基としては、例えば、-CF3、-C25、-C37、-C613、-C715等の-Cq2q+1(q=1~10)で表されるフルオロアルキル基;オキシフルオロアルキレン基等を挙げることができ、これらのうち、下記式(4)で示されるオキシフルオロアルキレン基であるのが好ましい。
【0024】
【化7】
式(4)中、pは0~2の整数である。
【0025】
式(1)において、R2で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1~2のアルキル基が挙げられ、R2で表されるアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等の炭素数2~4のアルコキシアルキル基が挙げられる。これらのうち、R2で表される基としては、アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0026】
式(1)において、R3及びR4で表される有機基としては、例えば、下記式(i)~(v)で示される基を挙げることができる。
【0027】
【化8】
【0028】
式(1)において、トリアルコキシシリル基又はトリアルコキシアルコキシシリル基(-Si(OR2)3)が結合する中間鎖(-CH2-CH-)の数xは、1~100であり、好ましくは1~50、より好ましくは1~10、特に好ましくは2~5である。また、中間鎖(-CH2-CR34-)の数yは、0~100であり、好ましくは0~50、より好ましくは0~10である。
【0029】
上記フッ素含有化合物として好適な化合物としては、下記式(5)~(9)で示される化合物を例示することができる。特に、上記フッ素含有化合物が式(5)又は式(8)で示される化合物(式(1)においてy=0である化合物)であると、1分子中に占められるフッ素原子の割合が大きいことで、本実施形態における反応生成物を生成する反応を効率的に進行させることができる。
【0030】
【化9】
式(5)中、x’は2又は3である。
【0031】
【化10】
【0032】
【化11】
式(6)及び式(7)中、R5は、-CF(CF3)OCF2CF(CF3)OC37で表される基である。式(6)中、xaは1~100の整数である。式(7)中、xbは1~100の整数であり、ybは1~500の整数である。
【0033】
【化12】
式(8)中、xcは1~10の整数であり、ycは0~100の整数である。
【0034】
【化13】
式(9)中、xdは1~10の整数であり、ydは0~100の整数である。
【0035】
上記式(1)で示されるフッ素含有化合物は、下記式(Ia)で示されるフッ素含有過酸化物の存在下に、下記式(Ib)で示される単量体と、下記式(Ic)で示される単量体とを重合させることにより得られる。なお、この反応生成物(フッ素含有化合物)中には、フルオロアルキル基を含有する基(R1)が片末端のみに導入されているオリゴマーが任意の割合で含まれていてもよい。
【0036】
【化14】
式(Ia)~(Ic)中、R1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R3及びR4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表す。
【0037】
本実施形態に係る表面処理剤は、アリルアミンの4級アンモニウム塩とアミド化合物との共重合体、又はアリルアミンの4級アンモニウム塩とカルボン酸との共重合体を含む。これらの共重合体の構成成分であるアリルアミンの4級アンモニウム塩としては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウムクロリド、ジアリルジアルキルアンモニウムアルキルサルフェイト、ジアリルジアルキルアンモニウムヒドロキシド、ジアリルジアルキルアンモニウムフルオリド等が挙げられる。ジアリルジアルキルアンモニウムクロリドとしては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルエチルメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジエチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。ジアリルアルキルアンモニウムアルキルサルフェイトとしては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムメチルサルフェイト、ジアリルエチルメチルアンモニウムメチルサルフェイト、ジアリルジエチルアンモニウムメチルサルフェイト、ジアリルジメチルアンモニウムエチルサルフェイト、ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト、ジアリルジエチルアンモニウムエチルサルフェイト等が挙げられる。ジアリルジアルキルアンモニウムヒドロキシドとしては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムヒロドキシド、ジアリルエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、ジアリルジエチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。ジアリルジアルキルアンモニウムフルオリドとしては、ジアリルジメチルアンモニウムフルオリド、ジアリルエチルメチルアンモニウムフルオリド、ジアリルジエチルアンモニウムフルオリド等が挙げられる。
【0038】
上記共重合体の構成成分であるアミド化合物としては、例えば、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、アミノアルキルアクリルアミド、ヒドロキシアルキルアクリルアミド等が挙げられ、カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸等が挙げられる。
【0039】
上記共重合体としては、例えば、下記式(2)又は下記式(3)で示される化学構造を有するもの等が挙げられ、PAS-J-41、PAS-J-81、PAS-J-81L、PAS-2351、PAS-2451等の市販品(いずれも製品名,ニットーボーメディカル社製)を用いてもよい。
【0040】
【化15】
式(2)中、R1’及びR2’は各々独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、無機アニオン又は有機アニオンを表す。
【0041】
【化16】
式(3)中、R3’及びR4’は各々独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、X-はハロゲン化物イオン、無機アニオン又は有機アニオンを表す。
【0042】
式(2)及び式(3)において、R1’、R2’、R3’及びR4’で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。式(2)及び式(3)において、X-で表されるハロゲン化物イオンとしては、例えば、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)等が挙げられ、無機アニオンとしては、例えば、水酸化物イオン(OH-)、硫酸水素イオン(HSO4 -)、硝酸イオン(NO3 -)等が挙げられ、有機アニオンとしては、例えば、メチル硫酸イオン(CH3SO4 -)等のアルキル硫酸イオン、酢酸イオン(CH3COO-)等が挙げられる。
【0043】
式(2)で示される化学構造を有する共重合体としては、例えば、下記式(2-1)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体(例えば、ニットーボーメディカル社製のPAS-J-41、PAS-J-81、PAS-J-81L等)等が挙げられ、式(3)で示される化学構造を有する共重合体としては、例えば、下記式(3-1)で示されるジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト・マレイン酸共重合体(例えば、ニットーボーメディカル社製のPAS-2451等)、下記式(3-2)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・マレイン酸共重合体(例えば、ニットーボーメディカル社製のPAS-2351等)等が挙げられる。
【0044】
【化17】
【0045】
【化18】
【0046】
【化19】
【0047】
共重合体の重量平均分子量は特に限定されるものではなく、例えば10000以上であればよいが、式(2)で示される化学構造を有する共重合体の重量平均分子量は150000以上であるのが好ましく、180000以上であるのが特に好ましい。式(2)で示される化学構造を有する共重合体の重量平均分子量が150000以上であることで、所望とする親水性が発現されやすくなる。
【0048】
本実施形態に係る表面処理剤に含有される溶媒は、上記フッ素含有化合物と上記共重合体との反応生成物をミセル状態で存在(溶解)させ得るものであればよく、例えば、炭素数1~5のアルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)であればよく、炭素数4以上のアルコール系溶媒が用いられる場合には、ノルマルアルコールであるのが好ましい。かかるアルコール系溶媒は僅かに水を含んでいてもよいが、アルコール濃度が95容量%以上であればよく、98容量%以上であるのが好ましい。かかるアルコール系溶媒に水が5容量%を超えて含まれていると、上記フッ素含有化合物と上記共重合体との反応生成物をミセル状態で存在(溶解)させることが困難となるおそれがある。
【0049】
本実施形態に係る表面処理剤における上記フッ素含有化合物と上記共重合体との含有比(質量基準)は、1:1~25であるのが好ましく、1:2~20であるのがより好ましく、1:5~15であるのが特に好ましい。上記フッ素含有化合物と上記共重合体との含有比(質量基準)が上記範囲内にあることで、より優れた親水性及び撥油性が発現され得る。上記共重合体が式(3)で示される化学構造を有するもの(構成成分としてカルボン酸を含むもの)である場合、上記フッ素含有化合物と上記共重合体との含有比(質量基準)は、1:2以上であるのが好ましく、1:5~15であるのが特に好ましい。当該含有比(質量基準)が1:2未満であると、所望とする親水性が発現され難くなるおそれがある。
【0050】
本実施形態に係る表面処理剤は、酸触媒(例えば、塩酸、酢酸、リン酸等)及び塩基触媒(例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等)のいずれをも含まない反応系(無触媒条件下)で上記フッ素含有化合物と上記共重合体との反応生成物を製造するときの反応溶液であるのが好ましい。上記触媒を含む反応系(酸性条件下又はアルカリ性条件下)で上記反応生成物を製造すると、得られる反応溶液が白濁してしまう。当該反応溶液を被処理基材の表面処理剤として用いると、被処理基材の表面が白濁するおそれがある。そのため、被処理基材が透明材料であって、視認性を必要とする用途に用いられるものである場合、上記触媒を含む反応系で得られる反応用液を表面処理剤として用いると、被処理基材の視認性が劣化してしまうおそれがある。よって、このような場合には、上記触媒を含まない反応系(無触媒条件下)で得られる反応溶液を表面処理剤として用いるのが好ましい。
【0051】
上述した本実施形態に係る表面処理剤は、後述する実施例からも明らかなように、優れた親水性と撥油性とを有する。ここで、親水性とは、例えば、上記表面処理剤により表面処理が施された基材(ガラス基材等)の表面について接触角計(例えば、協和界面科学社製のDropMaster300(製品名)等)を用いて水の接触角(deg)を測定したとき、水の接触角が相対的に小さいことを意味する。具体的には、水の接触角が90°未満、好ましくは30°以下、より好ましくは0°である。
【0052】
また、撥油性とは、例えば、上記表面処理剤により表面処理が施された基材(ガラス基材等)の表面について接触角計(例えば、協和界面科学社製のDropMaster300(製品名)等)を用いてドデカンの接触角(deg)を測定したとき、ドデカンの接触角が相対的に大きいことを意味する。具体的には、ドデカンの接触角が35°以上、好ましくは40°以上、より好ましくは50°以上である。
【0053】
本実施形態に係る表面処理剤によれば、ガラス、プラスチック、繊維、建築部材等の被処理基材の表面処理に用いることで、当該被処理基材の表面に防汚膜等の機能性薄膜(表面処理層)を形成することができる。すなわち、本実施形態に係る親水性及び撥油性を付与可能な表面処理剤は、防汚層形成用表面処理剤として利用することができる。
【0054】
[表面処理剤の製造方法]
本実施形態に係る表面処理剤は、例えば、上記フッ素含有化合物と、上記共重合体とを、溶媒中、無触媒条件下で混合させることにより製造され得る。
【0055】
上記フッ素含有化合物と上記共重合体との混合比は、例えば、上記フッ素含有化合物1質量部に対し、1~25質量部であるのが好ましく、2~20質量部であるのがより好ましく、5~15質量部であるのが特に好ましい。上記フッ素含有化合物と上記共重合体との混合比が上記範囲内にあることで、得られる表面処理剤において優れた親水性及び撥油性が発現され得る。上記共重合体が式(3)で示される化学構造を有するもの(構成成分としてカルボン酸を含むもの)である場合、上記フッ素含有化合物1質量部に対し、1質量部以上であるのが好ましく、5~15質量部であるのが特に好ましい。当該混合比が上記範囲外であると、所望とする親水性が発現され難くなるおそれがある。
【0056】
上記溶媒は、上記フッ素含有化合物と上記共重合体との反応生成物をミセル状態で存在させ得るものであればよく、例えば、炭素数1~5のアルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)であればよく、炭素数4以上のアルコール系溶媒が用いられる場合には、ノルマルアルコールであるのが好ましい。かかるアルコール系溶媒は僅かに水を含んでいてもよいが、アルコール濃度が95容量%以上であればよく、98容量%以上であるのが好ましい。アルコール系溶媒に水が5容量%を超えて含まれていると、上記フッ素含有化合物と上記共重合体との反応生成物をミセル状態で存在させることが困難となるおそれがある。
【0057】
[表面処理方法]
本実施形態における表面処理方法は、本実施形態に係る表面処理剤を被処理基材の表面に塗布する工程を含む。表面処理剤を被処理基材の表面に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、刷毛、ローラー、スプレー等を用いて塗布する方法や、表面処理剤に被処理基材を浸漬させる方法等が挙げられる。
【0058】
本実施形態において、表面処理剤を被処理基材の表面に塗布することで形成された塗膜を加熱することで、溶媒を除去してもよい。加熱方法としては、オーブンによる加熱、熱プレスによる加熱等が挙げられるが、特に制限されるものではない。加熱条件としては、例えば、100~180℃で10~60分程度、好ましくは100~130℃で10~30分程度である。
【0059】
上述したように、本実施形態に係る表面処理剤を用いた表面処理方法を実施することで、被処理基材の表面(被処理面)に表面処理層が形成されてなる表面処理基材を作製することができる。かかる表面処理基材において、表面処理層は、基部としての被処理基材の表面(第1面)に少なくとも形成されていればよいが、裏面(第2面)に形成されていてもよい。このようにして作製された表面処理基材においては、その表面処理層が優れた親水性及び撥油性を発現することができる。
【0060】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0061】
以下、試験例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0062】
[試料1]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、上記式(2-1)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体(PAS-J-41,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:10000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0063】
[試料2]
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料1と同様にして表面処理剤を調製した。
【0064】
[試料3]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、上記式(2-1)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体(PAS-J-81,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:180000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0065】
[試料4]
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料3と同様にして表面処理剤を調製した。
【0066】
[試料5]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、上記式(2-1)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体(PAS-J-81L,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:10000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0067】
[試料6]
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料5と同様にして表面処理剤を調製した。
【0068】
[試料7]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、上記式(3-1)で示されるジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト・マレイン酸共重合体(PAS-2451,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:30000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0069】
[試料8]
ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト・マレイン酸共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料7と同様にして表面処理剤を調製した。
【0070】
[試料9]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、上記式(3-2)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・マレイン酸共重合体(PAS-2351,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:25000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0071】
[試料10]
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・マレイン酸共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料9と同様にして表面処理剤を調製した。
【0072】
[試料11]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、下記式(10)で示される3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体(PAS-880,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:40000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0073】
【化20】
【0074】
[試料12]
3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料11と同様にして表面処理剤を調製した。
【0075】
[試料13]
上記式(5)で示されるフッ素含有化合物20mgと、下記式(11)で示されるジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体(PAS-2141CL,ニットーボーメディカル社製,重量平均分子量:10000)100mgとを、溶媒としてのメタノールに添加し、室温で3時間攪拌することで、表面処理剤を調製した。
【0076】
【化21】
【0077】
[試料14]
ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体の添加量を300mgに変更した以外は、試料11と同様にして表面処理剤を調製した。
【0078】
[試料15]
塩基性触媒としてのアンモニア水1mLをさらに添加した以外は、試料3と同様にして表面処理剤を調製した。
【0079】
[試料16]
塩基性触媒としてのアンモニア水1mLをさらに添加した以外は、試料4と同様にして表面処理剤を調製した。
【0080】
[試料17]
塩基性触媒としてのアンモニア水1mLをさらに添加した以外は、試料7と同様にして表面処理剤を調製した。
【0081】
[試料18]
塩基性触媒としてのアンモニア水1mLをさらに添加した以外は、試料8と同様にして表面処理剤を調製した。
【0082】
〔試験例1〕接触角測定試験
第1面及びそれに対向する第2面を有し、第1面に対して塩素系溶剤(1,2-ジクロロエタン)を用いた脱脂処理が施されたガラス(被処理基材)を準備し、当該ガラスの第1面に対しスピンコート法(回転数:2000rpm,回転時間:30s,滴下量:0.3mL)により表面処理剤(試料1~18)の塗膜を形成することで、表面処理基材を得た。当該表面処理基材における水及びドデカンの接触角(deg)を、接触角計(協和界面科学社製,製品名:DropMaster300)を用いて測定した。結果を表1に示す。表1において水接触角(0min)及びドデカン接触角は、それぞれ、表面処理基材に水及びドデカンを滴下直後の接触角測定結果であり、水接触角(30min)は、表面処理基材に水を滴下してから30分経過後の接触角測定結果である。なお、参考として、表面処理剤による表面処理を行う前のガラス(試料19)における水及びドデカンの接触角(deg)の測定結果もあわせて表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
上記表1に示すように、所定のフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びアミド化合物の共重合体(上記式(2-1)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体)との反応生成物を含む表面処理剤は、優れた親水性及び撥油性を付与可能であることが確認された。また、所定のフッ素含有化合物と、アリルアミンの4級アンモニウム塩及びカルボン酸の共重合体(上記式(3-1)で示されるジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト・マレイン酸共重合体、上記式(3-2)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロリド・マレイン酸共重合体)との反応生成物を含む表面処理剤は、優れた親水性及び撥油性を付与することができることが確認された。なお、試料19(未処理ガラス)における水の接触角(30min)が接触角(0min)よりも小さくなっているのは、揮発により水滴が小さくなったことによるものであった。
【0085】
一方で、構成成分の一つがアミド化合物ではない上記式(10)で示される3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体を含む表面処理剤(試料11,12)は、撥油性を付与可能であるものの、親水性を付与することができないことが確認された。また、構成成分の一つがアリルアミンの4級アンモニウム塩ではない上記式(11)で示されるジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体を含む表面処理剤(試料13,14)においても同様に、撥油性を付与可能であるものの、親水性を付与することができないことが確認された。これらの結果から、所定のフッ素化合物との反応生成物とを形成する共重合体の構成成分が、アリルアミンの4級アンモニウム塩とアミド化合物又はカルボン酸とであることで、当該反応生成物を含む表面処理剤において優れた親水性及び撥油性を付与可能であることが明らかとなった。
【0086】
また、各表面処理剤(試料1~18)を目視した結果、触媒を含まない反応系で生成された反応生成物を含む表面処理剤(試料1~14)はいずれも無色透明であるのに対し、塩基性触媒(アンモニア水)を含む反応系で生成される反応生成物を含む表面処理剤(試料15~18)は顕著に白濁していることが確認された。さらに、試料1~14の表面処理剤で表面処理が施されたガラス(被処理基材)の表面においては、無色透明であり、視認性が確保されているのに対し、試料15~18の表面処理剤で表面処理が施されたガラス(被処理基材)の表面においては、わずかに白濁しており、視認性が不十分であることが確認された。この結果から、無触媒条件下で得られる反応生成物を含む表面処理剤であれば、無色透明の表面処理層を被処理基材上に形成可能であり、表面処理層を有する表面処理基材の視認性を確保可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、親水性と撥油性とが要求される製品の技術分野において有用である。