(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】レーダ装置、車両制御システム及び物標情報推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/89 20060101AFI20230303BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20230303BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
G01S13/89
G01S13/931
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2019015061
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志手 和彦
(72)【発明者】
【氏名】劉 達
(72)【発明者】
【氏名】島村 徹也
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 陽介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良啓
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-185769(JP,A)
【文献】特開2015-055541(JP,A)
【文献】特開2008-269073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0146842(US,A1)
【文献】岡崎 彰夫,はじめての画像処理技術,第2版,森北出版株式会社,2015年12月21日,pp.86-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/51
G01S 13/00-13/95
G01S 17/00-17/95
G08G 1/16
G06T 7/00
G06V 10/26
G06V 20/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信する受信部と、
前記受信部による受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出部と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に
応じた値を有する評価関数に基づき
、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置
として導出するマッチング処理部と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定処理部と、を備え
、
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング処理部は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持ち(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)、
前記マッチング処理部は、
前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ij
に大きな値を与えることで、前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、
前記距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離を変数とするガウス関数により表され、前記ガウス関数は前記変数が小さいほど大きな値を持つ
、レーダ装置。
【請求項2】
前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記テンプレート点ごとに設定されたテンプレート点重みパラメータにも比例する
、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信する受信部と、
前記受信部による受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出部と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づき、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置として導出するマッチング処理部と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定処理部と、を備え、
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング処理部は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持ち(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)、
前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記テンプ
レート点ごとに設定されたテンプレート点重みパラメータにも比例する
、レーダ装置。
【請求項4】
前記マッチング処理部は、
前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ijに小さな値を与え、
前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ijに大きな値を与える
、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記マッチング処理部は、前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、
前記距離パラメータd
ijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離の累乗により表され、前記累乗の指数は1未満の値を持つ
、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記マッチング処理部は、当該レーダ装置から前記物標までの距離に応じて前記テンプ
レート点重みパラメータを設定する
、
請求項2~5の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記マッチング処理部は、当該レーダ装置及び前記第jテンプレート点間を結ぶ直線と所定軸との成す角度に基づき、前記第jテンプレート点に対する前記テンプレート点重みパラメータを設定する
、
請求項2~5の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記反射点ごとに設定された反射点重みパラメータにも比例し、
前記反射点ごとに導出される前記反射点データは前記反射点からの前記反射波の受信信号強度を含み、
前記マッチング処理部は、前記第i反射点に対応する前記受信信号強度に基づき、前記第i反射点に対応する前記反射点重みパラメータを設定する
、
請求項1~7の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項9】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信する受信部と、
前記受信部による受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出部と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づき、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置として導出するマッチング処理部と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定処理部と、を備え、
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング処理部は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持ち(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)、
前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記反射点ごとに設定された反射点重みパラメータにも比例し、
前記反射点ごとに導出される前記反射点データは前記反射点からの前記反射波の受信信号強度を含み、
前記マッチング処理部は、前記第i反射点に対応する前記受信信号強度に基づき、前記第i反射点に対応する前記反射点重みパラメータを設定する
、レーダ装置。
【請求項10】
前記マッチング処理部は、
前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ijに小さな値を与え、
前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ijに大きな値を与える
、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記マッチング処理部は、前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、
前記距離パラメータd
ijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離の累乗により表され、前記累乗の指数は1未満の値を持つ
、
請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記マッチング処理部は、前記適合位置の導出を間隔をおいて次々と行い、
前記適合位置の時間的連続性を加味した慣性項が前記評価関数に含められる
、
請求項1~11の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項13】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信する受信部と、
前記受信部による受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出部と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づき、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置として導出するマッチング処理部と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定処理部と、を備え、
前記マッチング処理部は、前記適合位置の導出を間隔をおいて次々と行い、
前記適合位置の時間的連続性を加味した慣性項が前記評価関数に含められる
、レーダ装置。
【請求項14】
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング処理部は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持つ(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)
、
請求項13に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記マッチング処理部は、
前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ijに小さな値を与え、
前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ijに大きな値を与える
、
請求項14に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記マッチング処理部は、前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、
前記距離パラメータd
ijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離の累乗により表され、前記累乗の指数は1未満の値を持つ
、
請求項15に記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記テンプレートはL字型の形状を有し、
前記L字型の形状に対して前記複数のテンプレート点が配置される
、
請求項1~16の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項18】
前記推定処理部は、前記物標の輪郭上の点の位置として前記物標の角部の位置を推定する
、
請求項1~17の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項19】
前記推定処理部は、前記適合位置に基づき前記物標の占有領域を推定する
、
請求項1~18の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項20】
請求項1~19の何れかに記載のレーダ装置と、
前記レーダ装置における前記推定処理部の推定結果を用いて、前記レーダ装置が搭載される対象車両を制御する車両制御装置と、を備える
、車両制御システム
【請求項21】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出工程と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に
応じた値を有する評価関数に基づき
、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置
として導出するマッチング工程と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定工程と、を備え
、
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング工程は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持ち(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)、
、物標情報推定方法。
【請求項22】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出工程と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複
数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づき、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置として導出するマッチング工程と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定工程と、を備え、
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング工程は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持ち(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)、
前記マッチング工程は、
前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータd
ij
に大きな値を与えることで、前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、
前記距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離を変数とするガウス関数により表され、前記ガウス関数は前記変数が小さいほど大きな値を持つ
、物標情報推定方法。
【請求項23】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出工程と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複
数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づき、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置として導出するマッチング工程と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定工程と、を備え、
前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数) 、
前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、
前記マッチング工程は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、
前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、
第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータd
ij
は、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持ち(iは1 以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)、
前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記反射点ごとに設定された反射点重みパラメータにも比例し、
前記反射点ごとに導出される前記反射点データは前記反射点からの前記反射波の受信信号強度を含み、
前記マッチング工程は、前記第i反射点に対応する前記受信信号強度に基づき、前記第i反射点に対応する前記反射点重みパラメータを設定する
、物標情報推定方法。
【請求項24】
放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出工程と、
複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複
数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づき、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値を評価値として個別に導出し、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記物標に対する前記テンプレートの適合位置として導出するマッチング工程と、
前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定工程と、を備え、
前記マッチング工程は、前記適合位置の導出を間隔をおいて次々と行い、
前記適合位置の時間的連続性を加味した慣性項が前記評価関数に含められる
、物標情報推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、車両制御システム及び物標情報推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置を用いて自車両の周辺領域における物標の存否及び物標の位置を検出し、その検出結果を自車両の運転制御に役立てる方法が提案されている。このような運転制御を適切に行うためには、物標の位置に関わる情報を良好に推定する必要がある。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、レーダ装置により物標の検出点を抽出し、検出点の点列に対しL字型のテンプレートを当てはめることで物標の輪郭を検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における検出点とは、レーダ装置からの送信波を反射する反射点を検出したものを指すと解される。検出される反射点(検出点)として、理想的には物標の表面上の点であることが想定され、物標が自動車等の車両である場合には、複数の反射点がL字に沿って分布することが期待される。
【0006】
しかしながら、実際には、路面からの反射や検出誤差及びノイズの影響により、反射点の検出位置は、その時々において様々な態様で分布する。様々な態様で分布しうる反射点の任意に集まりに対して、テンプレートの最適位置(適合位置)をどのように求めるのかについて、特許文献1では具体的な方法が提案されていない。様々な態様で分布しうる反射点の任意に集まりに対して、物標の位置に関わる情報を良好に推定できる方法の開発が要求される。
【0007】
本発明は、物標の位置に関わる情報を良好に推定可能なレーダ装置、車両制御システム及び物標情報定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーダ装置は、放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信する受信部と、前記受信部による受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出部と、複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に基づき前記物標に対する前記テンプレートの適合位置を導出するマッチング処理部と、前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定処理部と、を備える構成(第1の構成)である。
【0009】
上記第1の構成に係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に応じた値を有する評価関数に基づいて前記適合位置を導出し、前記テンプレートを複数の位置の夫々に配置したときの前記評価関数の値が評価値として個別に導出され、前記マッチング処理部は、前記評価値を最小化又は最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する構成(第2の構成)であっても良い。
【0010】
上記第2の構成に係るレーダ装置において、前記複数の反射点は第1~第N反射点から成り(Nは2以上の整数)、前記複数のテンプレート点は第1~第Mテンプレート点から成り(Mは2以上の整数)、前記マッチング処理部は、前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との組み合わせごとに距離パラメータを導出し、前記組み合わせごとに前記距離パラメータに比例する距離評価項が定義され、前記評価関数は前記第1~第N反射点と前記第1~第Mテンプレート点との全組み合わせに対する前記距離評価項の総和を含み、第i反射点と第jテンプレート点との組み合わせに対する前記距離パラメータである距離パラメータdijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離に応じた値を持つ(iは1以上且つN以下の整数、jは1以上M以下の整数)構成(第3の構成)であっても良い。
【0011】
上記第3の構成に係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータdijに小さな値を与え、前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出する場合、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離が小さいほど前記距離パラメータdijに大きな値を与える構成(第4の構成)であっても良い。
【0012】
上記第4の構成に係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、前記評価値を最小化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、前記距離パラメータdijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離の累乗により表され、前記累乗の指数は1未満の値を持つ構成(第5の構成)であっても良い。
【0013】
上記第4の構成に係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、前記評価値を最大化させる前記テンプレートの位置を前記適合位置として導出し、前記距離パラメータdijは、前記第i反射点及び前記第jテンプレート点間のユークリッド距離を変数とするガウス関数により表され、前記ガウス関数は前記変数が小さいほど大きな値を持つ
構成(第6の構成)であっても良い。
【0014】
上記第3~第6の構成の何れかに係るレーダ装置において、 前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記テンプレート点ごとに設定されたテンプレート点重みパラメータにも比例する構成(第7の構成)であっても良い。
【0015】
上記第7の構成に係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、当該レーダ装置から前記物標までの距離に応じて前記テンプレート点重みパラメータを設定する構成(第8の構成)であっても良い。
【0016】
上記第7の構成に係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、当該レーダ装置及び前記第jテンプレート点間を結ぶ直線と所定軸との成す角度に基づき、前記第jテンプレート点に対する前記テンプレート点重みパラメータを設定する構成(第9の構成)であっても良い。
【0017】
上記第3~第9の構成の何れかに係るレーダ装置において、前記組み合わせごとの前記距離評価項は、前記距離パラメータだけでなく、前記反射点ごとに設定された反射点重みパラメータにも比例し、前記反射点ごとに導出される前記反射点データは前記反射点からの前記反射波の受信信号強度を含み、前記マッチング処理部は、前記第i反射点に対応する前記受信信号強度に基づき、前記第i反射点に対応する前記反射点重みパラメータを設定する構成(第10の構成)であっても良い。
【0018】
上記第2~第10の構成の何れかに係るレーダ装置において、前記マッチング処理部は、前記適合位置の導出を間隔をおいて次々と行い、前記適合位置の時間的連続性を加味した慣性項が前記評価関数に含められる構成(第11の構成)であっても良い。
【0019】
上記第1~第11の構成の何れかに係るレーダ装置において、前記テンプレートはL字型の形状を有し、前記L字型の形状に対して前記複数のテンプレート点が配置される構成(第12の構成)であっても良い。
【0020】
上記第1~第12の構成の何れかに係るレーダ装置において、前記推定処理部は、前記物標の輪郭上の点の位置として前記物標の角部の位置を推定する構成(第13の構成)であっても良い。
【0021】
上記第1~第13の構成の何れかに係るレーダ装置において、前記推定処理部は、前記適合位置に基づき前記物標の占有領域を推定する構成(第14の構成)であっても良い。
【0022】
本発明に係る車両制御システムは、上記第1~第14の構成の何れかに係るレーダ装置と、前記レーダ装置における前記推定処理部の推定結果を用いて、前記レーダ装置が搭載される対象車両を制御する車両制御装置と、を備える構成(第15の構成)である。
【0023】
本発明に係る物標情報推定方法は、放射した送信波に対する物標上の反射点からの反射波を受信信号に基づき、前記反射点の検出位置を含んだ反射点データを複数の反射点に対して導出する反射点データ導出工程と、複数のテンプレート点を含む所定のテンプレート及び前記反射点データを用い、前記複数の反射点と前記複数のテンプレート点との各距離に基づき前記物標に対する前記テンプレートの適合位置を導出するマッチング工程と、前記適合位置に基づき前記物標の輪郭上の点の位置を推定する推定工程と、を備える構成(第16の構成)である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、物標の位置に関わる情報を良好に推定可能なレーダ装置、車両制御システム及び物標情報定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の概略的な構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の検知領域の説明図及びレーダ装置の配置位置を基準とする座標面の説明図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るレーダ装置内の信号処理部のブロック図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係り、レーダ装置にて取得される反射点データの構成図である。
【
図5】レーダ装置が搭載された自車両と他車両との位置関係を示す図である。
【
図6】反射点データの反射検出位置の例を、受信信号強度の情報を加味して示した図である。
【
図7】複数のクラスタ領域が設定される様子を示す図である。
【
図10】テンプレートを用いたマッチング処理の説明図である。
【
図11】テンプレートを用いたマッチング処理の説明図である。
【
図12】マッチング処理の結果に基づく、他車両に対する推定結果の説明図である。
【
図13】本発明の第1実施形態に係り、信号処理部における全体動作フローチャートである。
【
図14】或る1つの反射点と各テンプレート点との間のユークリッド距離の説明図である。
【
図15】複数の反射点と、それらに対応して導出されたテンプレートの適合位置の例を示す図である。
【
図16】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_1aに係り、テンプレートの適合位置が反射点の分布の仕方に依存する様子を示した図である。
【
図17】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_1bに係り、距離パラメータの導出に利用可能なガウス関数の特性を示した図である。
【
図18】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_2aに係り、テンプレート点重みパラメータの設定方法の説明図である。
【
図19】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_2bに係り、テンプレート点重みパラメータの設定方法の説明図である。
【
図20】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_2bに係り、テンプレート点重みパラメータの設定方法の説明図である。
【
図21】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_3に係り、反射点重みパラメータの設定方法の説明図である。
【
図22】本発明の第1実施形態に属する実施例EX1_4に係り、慣性項の設定方法の説明図である。
【
図23】本発明の第2実施形態に係るマッチング処理を説明するための図である。
【
図24】本発明の第3実施形態に係り、想定される車両間の位置関係の変遷を示す図である。
【
図25】本発明の第3実施形態に係り、他車両の占有領域の推定方法の説明図である。
【
図26】本発明の第4実施形態に係り、想定される車両間の位置関係の変遷を示す図である。
【
図27】本発明の第4実施形態に係り、2台の他車両の占有領域、及び、他車両間の空き領域の推定方法の説明図である。
【
図28】本発明の第5実施形態に係り、2台のレーダ装置の各検知範囲を示す図である。
【
図29】本発明の第5実施形態に係る車両制御システムの構成図である。
【
図30】本発明の第5実施形態に係り、車両間の位置関係例を示す図である。
【
図31】本発明の第6実施形態に係り、想定される車両間の位置関係図である。
【
図32】本発明の第6実施形態に係り、想定される車両間の位置関係の変遷を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、本明細書では、記述の簡略化上、情報、信号、物理量又は部材等を参照する記号又は符号を記すことによって、該記号又は符号に対応する情報、信号、物理量又は部材等の名称を省略又は略記することがある。例えば、後述の“dij”によって参照される距離パラメータは、距離パラメータdijと表記されることもあるし、パラメータdijと略記されることもあり得るが、それらは全て同じものを指す。
【0027】
<<第1実施形態>>
本発明の第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態に係るレーダ装置1の概略的な構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば、自動車などの車両に搭載される。以下、レーダ装置1が搭載される車両を「自車両」と称する。自車両と異なる車両は「他車両」と称される。自車両に注目して前後左右を以下のように定義する。即ち、自車両の運転席からステアリングホイールに向かう向きを「前方」と定義し、自車両のステアリングから運転席に向かう向きを「後方」と定義する。前方及び後方間を結ぶ方向は自車両の直進進行方向に平行である。直進進行方向は水平面に対して平行であるとする。自車両において、運転手は前を向いて運転席に座っているものとし、当該運転手の左側から右側に向かう向きを「右方向」と定義し且つ当該運転手の右側から左側に向かう向きを「左方向」と定義する。左右方向は、自車両の直進進行方向及び鉛直線に対して垂直な方向である。
【0028】
また、本実施形態で想定される車両は前輪と後輪を備え、任意の車両について、車長とは、前輪と後輪を結ぶ方向における当該車両の長さを指し、車幅とは、前輪と後輪を結ぶ方向に直交し且つ鉛直線に直交する方向における当該車両の長さを指す。任意の車両について、車尾とは車両の後方における端部を指し、車頭とは車両の前方における端部を指す。
【0029】
レーダ装置1は自車両の所定位置に設置される。レーダ装置1の送信アンテナから所定の送信波が送信され、自車両の周辺に存在する物標にて送信波が反射される。この反射による反射波がレーダ装置1の受信アンテナにて受信され、レーダ装置1は受信アンテナでの受信信号に基づき、物標に係る物標データを取得できる。物標データは複数のパラメータを含み、当該複数のパラメータには、物標からの反射による反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離(即ち、レーダ装置1及び物標間の距離)、自車両に対する物標の相対速度、自車両の前後方向に沿った自車両及び物標間の距離、自車両の左右方向に沿った自車両及び物標間の距離などが含まれていて良い。
【0030】
図1に示す如く、レーダ装置1は、送信部2と、受信部3と、信号処理部4と、を主に備える。ここでは、周波数変調された連続波であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いる構成を例として説明する。
【0031】
送信部2は、信号生成部21及び発信器22を備える。信号生成部21は、信号処理部4の制御の下で、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、該変調信号を発信器22に供給する。発信器22は、供給された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調することで、時間経過につれて周波数が変化する送信信号を生成し、該送信信号を送信アンテナ23に出力する。送信アンテナ23は、発信器22からの送信信号を送信波TWとして所定の向きに出力する(即ち空間に放射する)。送信アンテナ23から出力される送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFMCWとなる。送信波TWが物標(人や他車両など)にて反射されると、送信波TWに基づく反射波RWが物標から自車両に向かうことになる。
【0032】
受信部3は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32と、を備える。各受信アンテナ31に対して個別に1つの個別受信部32が割り当てられる。ここでは例として、受信アンテナ31と個別受信部32の組が、4組分、受信部3に設けられているものとする。受信アンテナ31と個別受信部32の組ごとに、受信アンテナ31は物標からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号に所定の処理を施す。
【0033】
複数の個別受信部32の構成は互いに同一であり、各個別受信部32はミキサ33及びA/D変換器34を備える。各個別受信部32において、対応する受信アンテナ31で得られた受信信号はローノイズアンプ(不図示)にて増幅された後にミキサ33に送られ、ミキサ33はローノイズアンプを介して供給された受信信号と発信器22からの送信信号とをミキシングすることでビート信号を生成する。ビート信号は、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差であるビート周波数を有する。各個別受信部32において、ミキサ33により生成されたビート信号は同期回路(不図示)にて受信アンテナ31間でタイミングを合わせた上でA/D変換器34によりデジタルの信号に変換されてから、信号処理部4に出力される。
【0034】
信号処理部4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリなどを含むマイクロコンピュータを備え、各A/D変換器34から供給される信号に基づき(従って4つの受信アンテナ31の受信信号に基づき)、物標データを生成することができる。複数の受信アンテナ31による反射波RWの受信信号に基づき、上述したような物標データを生成する方法として公知の任意の方法を利用することができる。
【0035】
レーダ装置1は自車両の様々な位置に設置されうるが、本実施形態では、特に断り無き限り、
図2(a)に示す如く自車両の左側面前方部にレーダ装置1が設置されているものとし、自車両の左側面前方部に設置されたレーダ装置1の構成及び動作を詳細に説明する。
図2(a)などでは、車両が5角形にて示される。
【0036】
図2(a)において、概ね扇型状の外形を有する領域FOVはレーダ装置1の検知領域(換言すれば視野)を表している。検知領域FOVは、レーダ装置1から自車両の左斜め前方に向けて広がる概ね扇型状の領域である。レーダ装置1は、主に自車両の左斜め前方に向けて送信波TWを送信し、検知領域FOV内に存在する物標からの反射波RWを受信することで、検知領域FOV内に存在する物標についてのデータ(物標データ及び後述の反射点データを含む)を得ることができる。
図2(a)に示される角度θはレーダ装置1の水平検知角を表している。水平検知角θは90°以上(換言すれば±45°以上)であり、例えば120°(換言すれば±60°)である(但し、それ以外でも構わない)。
【0037】
また、
図2(b)に示す如く、レーダ装置1の設置位置を基準にして、X軸及びY軸から成る二次元のXY座標面を定義する。XY座標面において、レーダ装置1の設置位置に原点Oがとられる。X軸及びY軸は原点Oにて互いに直交し且つ水平面に平行な軸である。X軸は左右方向に平行であり、Y軸は前後方向に平行である。XY座標面上における任意の点PTの位置を(x,y)で表す。このとき、xは点PTの位置のX軸成分であるX軸座標値を表し、yは点PTの位置のY軸成分であるY軸座標値を表す。原点Oから左方向に向かう向きにX軸の正をとり、原点Oから前方に向かう向きにY軸の正をとる。即ち、点PTが原点Oに対して左方向、右方向に位置する場合、座標値xの極性は、夫々、正、負となり、点PTが原点Oに対して前方向、後方向に位置する場合、座標値yの極性は、夫々、正、負となる。
【0038】
“x>0”且つ“y>0”を満たす領域、“x>0”且つ“y<0”を満たす領域、“x<0”且つ“y>0”を満たす領域、“x<0”且つ“y<0”を満たす領域を、夫々、左前方領域R1、左後方領域R2、右前方領域R3、右後方領域R4と称する。レーダ装置1の検知領域FOVは左前方領域R1を内包し、左後方領域R2の内、左前方領域R1に近い側の一部の領域も内包する。更に、レーダ装置1の検知領域FOVは、右前方領域R3の内、左前方領域R1に近い側の一部の領域も内包しうる。但し、レーダ装置1からの距離が所定の検知距離以上となる領域は検知領域FOVに含まれない。右後方領域R4と検知領域FOVとは重なり合わない。以下では、レーダ装置1が原点Oに配置されたXY座標面に注目し、特に必要なき限り、鉛直線に平行な上下方向の位置成分を無視する。
【0039】
図3に、レーダ装置1における信号処理部4内のブロック図を示す。信号処理部4は、前処理部41及び後処理部42を備える。前処理部41及び後処理部42にて実現される機能をプログラムで記述して、当該プログラムを信号処理部4に搭載可能なメモリに記憶させておき、信号処理部4内のマイクロコンピュータ上で当該プログラムを実行することで、前処理部41及び後処理部42の機能を実現して良い。尚、
図3に示される構成は信号処理部4の機能の一部を実現するための構成であり、他の機能を実現するための、前処理部41及び後処理部42以外の処理部が信号処理部4に更に設けられていて良い。
【0040】
前処理部41は、受信部3の各A/D変換器34から供給されるデジタル信号形式で表現されたビート信号に基づき、反射波RWの出所である反射点を検出して反射点に関わる反射点データを生成する前処理を行う。つまり、前処理部41は反射点データを導出する反射点データ導出部として機能する。
【0041】
図4に示す如く、反射点データは、反射検出位置、受信信号強度及び相対速度を示す情報を含む。反射点データは物標データの一種であると考えても良い。
【0042】
或る反射点について、反射検出位置は、受信部3における反射波RWの受信信号に基づき、送信波TWを反射した点の位置(換言すれば反射波RWの出所の位置)を検出したものであり、XY座標面上の座標値として表現される。
【0043】
或る反射点について、受信信号強度は、その反射点からの反射波RWの受信部3における受信強度を示す。受信部3における受信強度は、当該反射点からの反射波RWの4つの受信アンテナ31での合計受信強度であると解して良いし、当該反射点からの反射波RWの1つの受信アンテナ31での受信強度であると解しても良い。受信信号強度は反射点からの反射波RWの電力に比例することになるが、反射点及びレーダ装置1間の距離の増大に伴い受信信号強度は低下する傾向にある。
【0044】
或る反射点について、相対速度は、レーダ装置1から見た当該反射点の相対速度である。レーダ装置1から見た反射点の相対速度は、自車両から見た反射点の相対速度でもあり、反射点を内包する物標の自車両に対する相対速度でもある。
【0045】
多くの場合、複数の反射点が検知されるため、以下では特に記述無き限り、前処理において複数の反射点が検知されて複数の反射点についての反射点データが生成されることを想定する。
【0046】
各々に反射波RWを受信する複数の受信アンテナ31の受信信号に基づいて、反射点ごとに、レーダ装置1と反射点との位置関係、反射波RWの受信強度、及び、レーダ装置1から見た反射点の相対速度を導出する方法は周知であり、その方法を利用して反射点データを生成すれば良い。即ち簡単に説明すると例えば、各A/D変換部34からのビート信号に対し高速フーリエ変換(FFT)を施して得られる周波数スペクトラムにおいて、所定閾値以上のパワーを有した極大値(ピーク)をとる周波数をピーク周波数として特定し、ピーク周波数の信号成分から、対応する反射点についての反射点データを導出することができる。送信波TWの照射を受ける物標上の全ての点は反射点の候補であるが、或る点からの反射波RWの受信部3での受信信号強度が所定強度以上であるときにのみ、その点は、前処理部41にて反射点として検出されることになる、と考えて良い。
【0047】
前処理部41による反射点データを生成するための前処理は所定の計測周期にて周期的に実行され、順次生成された反射点データは後処理部42に与えられる。
【0048】
後処理部42は、クラスタ領域設定部43、マッチング処理部44及び推定処理部45を備える。推定処理部45は、輪郭点推定部46、占有領域推定部47及び空き領域推定部48を備える。これらが行う処理内容を、
図5等を参照しながら説明する。
【0049】
図5に示す如く、自車両の左斜め前方に他車両600が存在することを想定する。他車両600は物標の例であって、第1実施形態では特に記述無き限り、物標は他車両600であると考えて良い。
図6に、他車両600に関わる反射点データの反射検出位置の例を、受信信号強度の情報を加味して示す。
図6において、実線長方形REFは、他車両600の真の外形をXY座標面上に投影したものである。
図6において、黒三角形、ハッチングが付された三角形、ハッチングが付された円、白三角形、白円は、或るタイミングで取得された複数の反射点データにおける複数の反射検出位置を、XY座標面上に示したものである。黒三角形に対応する反射点からの受信信号強度が最も高く、以下、ハッチングが付された三角形、ハッチングが付された円、白三角形、白円の順に対応する受信信号強度が低くなる(後述の
図8等についても同様)。尚、実際の受信信号強度は5段階で表現されるものではなく、5段階を大きく超える分解能を有する。
【0050】
他車両600の進行方向は自車両と同じであって、自車両の走行車線の左側の車線において他車両600が併走している状況を想定する。レーダ装置1にて他車両600の位置を検出するにあたり、他車両600のボディ上の位置のみが反射検出位置として検知されることが理想的ではある。しかし、検出精度や路面での反射など、様々な誤差要因が影響して、反射点データにおける反射検出位置は、真の検出されるべき反射点の位置に対して誤差を含み得る。
【0051】
但し、統計的には、送信波TWの照射を受ける他車両600のボディ上の点であって且つレーダ装置1に相対的に近い点からの反射波RWが、相対的に高い受信信号強度を持つ反射点データを構成する。即ち、
図6に示す如く、他車両600のボディ全体が左前方領域R
1に存在することを想定した場合、他車両600の車尾及び右側面からの反射波RWが相対的に高い受信信号強度で受信部3にて受信され、それら以外からの反射波RWの受信信号強度は相対的に小さくなる。
【0052】
クラスタ領域設定部43は、前処理部41から提供される複数の反射点データにおける各反射点の反射検出位置及び相対速度に基づき、或る物標上の反射点と、他の物標上の反射点とを分類するクラスタリングを行って、単一の物標上の反射点に分類された各反射点の反射検出位置を包含するクラスタ領域を設定する。このようなクラスタリングの方法としても公知の方法を利用できる。即ち例えば、
図7に示すように、或る第1の点の周りに共通の相対速度v
Aを持つ第1の反射点群が集中している一方で、第1の点から離れた第2の点の周りに共通の相対速度v
Bを持つ第2の反射点群が集中しているとき、第1の反射点群を形成する各反射点を第1の物標についての反射点に分類する一方で、第2の反射点群を形成する各反射点を第2の物標についての反射点に分類すれば良い。この場合、第1の反射点群を形成する各反射点の反射検出位置を包含する第1のクラスタ領域が設定され、第2の反射点群を形成する各反射点の反射検出位置を包含する第2のクラスタ領域が設定される。
【0053】
クラスタ領域の形状は矩形以外でも良いが、ここでは、矩形のクラスタ領域が設定されるものとする。
図6において、符号“CLS”が付された破線矩形内の領域が、注目された他車両600に対して設定されたクラスタ領域を表している。クラスタ領域設定部43は、他車両600上の反射点に分類された複数の反射点を包含する(換言すれば複数の反射検出位置を包含する)最小の矩形を、クラスタ領域CLSとして設定する。
【0054】
クラスタ領域設定部43により設定されたクラスタ領域内の計N個の反射点(即ち、クラスタ領域内の計N個の反射検出位置に対応する計N個の反射点)を、符号“P
1~P
N”により表す。Nは2以上の任意の整数である。前処理により、反射点P
1~P
Nの夫々に対し反射点データ(
図4参照)が導出される。
図8に、或るクラスタ領域内に計5個の反射点P
1~P
5が属するときの様子を示す。
【0055】
マッチング処理部44は、所定のテンプレートを用いたマッチング処理を実行することで、物標の位置に適合したテンプレートの位置を求める。テンプレートは計M個のテンプレート点により構成される。Mは2以上の任意の整数である。
【0056】
図9に、マッチング処理にて用いることのできるテンプレートの例としてテンプレートTMPを示す。テンプレートTMPはL字型の形状を有している。物標としての他車両はXY座標面上で概略的に矩形形状を有しているため、L字型のテンプレートを用いることで他車両の位置(輪郭の位置)を良好に推定できる。テンプレートTMPはL字型の形状と他の形状との組み合わせにより構成されていても良い。テンプレートTMPにおけるL字型の形状に対して計M個のテンプレート点T
1~T
Mが配置される。
図9の例において、“M=4”であり、故にテンプレートTMPは4つのテンプレート点T
1、T
2、T
3及びT
4により構成される。テンプレートTMPは基本的に左前方領域R
1内に定義され(
図2(b)参照)、この際、テンプレート点T
1~T
4の内、テンプレート点T
2が原点Oに最も近く、テンプレート点T
2から見てテンプレート点T
3及びT
4は前方側に位置し且つテンプレート点T
1は左側に位置する。テンプレート点T
2及びT
4を結ぶ線分はY軸に平行であって且つテンプレート点T
2及びT
1を結ぶ線分はX軸に平行である。即ち、前者の線分と後者の線分はテンプレート点T
2にて互いに直角に交わる。また、テンプレート点T
2及びT
4を結ぶ線分の中点にテンプレート点T
3が配置される。
【0057】
テンプレート点T2及びT4を結ぶ線分は、レーダ装置1により検出されるべき他車両の右側面部を模したものに相当し、テンプレート点T2及びT1を結ぶ線分は、レーダ装置1により検出されるべき他車両の後端部を模したものに相当する。これに適応するような大きさをテンプレートTMPに持たせておいて良い。例えば、テンプレート点T2及びT4を結ぶ線分は一般的な車両(自動車)の車長に相当するような長さ(例えば3m~5m)を有していて良く、テンプレート点T2及びT1を結ぶ線分は一般的な車両(自動車)の車幅に相当するような長さ(例えば2m)を有していて良い。但し、テンプレートTMPのY軸方向の大きさ及びX軸方向の大きさは任意に設定可能である。
【0058】
尚、実際には、信号処理部4において、自車両及び他車両が存在する実空間を模したベクトル空間が定義され、ベクトル空間内にX軸及びY軸との関係においてテンプレート、テンプレート点及び反射点が配置及び定義されることになる(後述の車尾角の位置、車頭角の位置、占有領域及び空き領域などについても同様)。本実施形態では、実空間とベクトル空間を区別せずに処理の説明を設けることがあるが、信号処理部4にて取り扱われる点、位置、領域及び距離は、ベクトル空間での点、位置、領域及び距離であると解せば良い。信号処理部4にて定義されるベクトル空間は三次元のベクトル空間であっても良いが、ここでは、X軸及びY軸に平行な平面による二次元のベクトル空間を想定する。以下では、テンプレートとして
図9のテンプレートTMPが用いられることを主として例に挙げて、信号処理部4内の各部の動作を説明する。但し、用いられるテンプレートの形状はL字型以外であり得て良い。
【0059】
マッチング処理部44が行うマッチング処理を説明する。マッチング処理の説明の具体化のため、今、検出されるべき物標が
図5の他車両600であって且つ他車両600に対して
図6のクラスタ領域CLSが設定されたことを想定する。
【0060】
図10を参照し、マッチング処理では、テンプレートTMPの一部又は全部がクラスタ領域CLS内に収まるようにテンプレートTMPを配置した上で所定の評価関数Eの値(関数値)を算出及び導出する単位演算処理を実行する。この評価関数Eの値を評価値と称し、関数の記号“E”と区別すべく、評価値を特に記号“E
VAL”にて参照する。単位演算処理はテンプレートTMPの位置を様々に変更しながら繰り返し実行される。故に、テンプレートTMPを複数の位置の夫々に配置したときの評価値E
VALが個別に導出されることになる。
【0061】
テンプレートTMPの位置とは、テンプレートTMPを構成する何れかのテンプレート点の位置を指す。ここでは、テンプレート点T2の位置がテンプレートTMPの位置に相当するものとする。
【0062】
図11を参照し、マッチング処理では、テンプレート点T
2を位置PST[1]~PST[K]に配置した状態で夫々に単位演算処理を実行する。Kは2以上の整数であり、例えば、数10~数1000程度の値を有する。位置PST[1]~PST[K]はクラスタ領域CLS内の互いに異なる位置である。テンプレート点T
2を位置PST[k]に配置した状態での単位演算処理により得られる評価値E
VALを記号“E
VAL[k]”により表す。kは1以上K以下の整数である。そうすると、マッチング処理では計K個の評価値E
VAL[1]~E
VAL[K]が得られる。
【0063】
そして、マッチング処理では、位置PST[1]~PST[K]の内、評価値EVALを最小化又は最大化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する。評価値EVALを最小化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する方法を、便宜上、最小探索法と称し、評価値EVALを最大化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する方法を、便宜上、最大探索法と称する。
【0064】
最小探索法を用いる場合、評価値EVAL[1]~EVAL[K]の内の最小の評価値に対応する位置が、テンプレートTMPの適合位置として位置PST[1]~PST[K]の中から抽出される。即ち最小探索法を用いる場合、評価値EVAL[1]~EVAL[K]の内、例えば、評価値EVAL[1]が最小であれば位置PST[1]がテンプレートTMPの適合位置として導出され、評価値EVAL[2]が最小であれば位置PST[2]がテンプレートTMPの適合位置として導出される。
【0065】
最大探索法を用いる場合、評価値EVAL[1]~EVAL[K]の内の最大の評価値に対応する位置が、テンプレートTMPの適合位置として位置PST[1]~PST[K]の中から抽出される。即ち最大探索法を用いる場合、評価値EVAL[1]~EVAL[K]の内、例えば、評価値EVAL[1]が最大であれば位置PST[1]がテンプレートTMPの適合位置として導出され、評価値EVAL[2]が最大であれば位置PST[2]がテンプレートTMPの適合位置として導出される。
【0066】
反射点P1~PNとテンプレート点T1~TMとの各距離に応じた値を評価関数Eが持つように評価関数Eが定義されるが、最小探索法に適した評価関数E及び最大探索法に適した評価関数Eの詳細については後述される。尚、評価値EVAL[1]~EVAL[K]は1つずつ順次導出されても良いし、評価値EVAL[1]~EVAL[K]の内、2以上の評価値が並列処理によって同時に導出されても良い。
【0067】
マッチング処理部44の導出結果は推定処理部45(
図3参照)に送られる。輪郭点推定部46は、テンプレートTMPの適合位置に基づき物標の輪郭上の点の位置を推定する。具体的には、輪郭点推定部46は、物標の輪郭上の点の位置として物標の角部の位置を推定することができ、即ち典型的には例えば、テンプレートTMPの適合位置に物標の角部が存在すると推定する。検出されるべき物標が左前方領域R
1内の他車両600(
図5参照)である場合、テンプレートTMPの適合位置に他車両600の後端上の角部である車尾角が存在すると推定して良い。但し、テンプレートTMPの適合位置から多少ずれた位置に車尾角が存在すると推定されることが有り得て良い。他車両600を含む任意の他車両について、車尾角とは、他車両の後端上の2つの角部の内、原点Oに近い側の角部を指す。
【0068】
図3に示される占有領域推定部47は、テンプレートTMPの適合位置に基づいて物標の占有領域を推定する。推定される占有領域は、XY座標面上において、対応する物標が占有している領域である。占有領域の外形形状は理想的には物標の真の外形形状と一致すべきであるが、占有領域推定部47は占有領域を矩形領域とみなして推定する(即ち推定される占有領域の形状は矩形である)。物標の占有領域の外縁は物標の輪郭に相当するため、占有領域の推定は、物標の輪郭上の点の位置を推定することの一態様であり、物標の輪郭上の全ての点の位置を推定することに相当する、とも言える。
【0069】
図12(a)を参照し、例えば、テンプレートTMPの適合位置に基づいて推定された他車両600の車尾角の位置が位置610である場合、位置610に頂点を有する矩形領域が他車両600の占有領域620として推定される。この際、
図12(b)に示す如く、位置610にテンプレート点T
2を配置したテンプレートTMPに沿って占有領域620が推定されて良い。即ち、占有領域620としての矩形領域はY軸に平行な2辺とX軸に平行な2辺を有し、占有領域620としての矩形領域を形成する4頂点の内の1つが位置610に配置され、その4頂点の内、位置610における頂点が原点Oに最も近い。そして、位置610にテンプレート点T
2が配置されたテンプレートTMPにおけるテンプレート点T
1、T
2及びT
4を3頂点として有するテンプレート矩形領域そのものを、占有領域620として推定しても良いし、テンプレート矩形領域よりも大きい又は小さい領域を占有領域620として推定しても良い(
図12(b)の例では、テンプレート矩形領域よりも大きい領域が占有領域620として推定されている)。
【0070】
何れにせよ、推定処理部45では、テンプレートTMPの適合位置に基づき、物標の輪郭上の点の位置(例えば他車両600の車尾角の位置)の推定を介して、物標の占有領域を推定する。これにより、物標の占有領域の推定結果を用いて自車両の運転制御(自動運転制御等)を行うといったことが可能となる。
【0071】
占有領域推定部47は、他車両600の占有領域を推定すると、他車両600の占有領域のY軸方向及びX軸方向の長さを示す形状情報を作成及び保持し、以後は、他車両600の車長及び車幅が、他車両600の形状情報にて示されるY軸方向及びX軸方向の長さと一致するとみなす。他車両600の形状情報が一旦作成されると、他車両600がレーダ装置1により物標として検出され続けている限り、当該形状情報は保持され続け、保持された形状情報にて定義される車長及び車幅を他車両600が有するとした上で、他車両600は受信部3での受信信号に基づきXY座標面上で追跡されて良い(即ち、推定処理部45により他車両600の位置がXY座標面上で追跡されて良い)。これは、後述の他の実施形態及び他車両600以外の他車両についても同様である。
【0072】
図3に示される空き領域推定部48は、占有領域推定部47による占有領域の推定結果を用いて、空き領域を推定する。空き領域は、XY座標上において、物標が存在していない領域に相当する。従って、空き領域推定部48は、XY座標面上において、占有領域以外の領域を空き領域として推定することができる。複数の物標が存在する場合にあっては、自車両の周辺領域から、複数の物標についての複数の占有領域を除去して得られる残りの領域を、空き領域として推定することができる。
【0073】
図13に、信号処理部4における全体的な動作のフローチャートを示す。ステップS1~S5の処理が、この順番で実行される。まずステップS1では、前処理部41により反射点P1~P
Nに対する計N組の反射点データが導出される。但し、ここで導出される計N組の反射点データは、単一の物標に関わる反射点データであるとする。ステップS2では、反射点データに基づき反射点P1~P
Nを包含するクラスタ領域が設定される。ステップS3では、反射点P
1~P
Nとテンプレート点T
1~T
Mとの各距離に基づく評価関数Eの値(即ち評価値E
VAL)をテンプレートの位置を変化させながら逐次導出する。ステップS4では、ステップS3で得られた評価関数Eの複数の値(即ち複数の評価値E
VAL)に基づき、最小探索法又は最大探索法によりテンプレートの適合位置を導出する。ステップS3及びS4の処理にてマッチング処理が構成される。ステップS5では、テンプレートの適合位置に基づいて、物標の角部の位置(車尾角)、物標の占有領域、及び、空き領域が推定される。上述のステップS1~S5から成る一連の処理が、所定の計測周期で周期的に繰り返し実行される。
【0074】
マッチング処理部44は、下記式(A1)~(A4)及び(B1)~(B4)の何れかにて定義された評価関数Eを用いてマッチング処理を行うことができる。
【0075】
反射点P
iとテンプレート点T
jとのユークリッド距離(XY座標面が定義されたベクトル空間上のユークリッド距離)を記号“UD
ij”にて表す。反射点として反射点P
1~P
Nがあるので、iは1以上且つN以下の整数を表す。テンプレート点としてテンプレート点T
1~T
Mがあるので、jは1以上且つM以下の整数を表す。ユークリッド距離UD
ijは、ノルムを示す数学記号を用いて、下記式(C1)の如く、||P
i-T
j||、で表される。
図14に1つの反射点P
iに対して導出される4つのユークリッド距離UD
i1~UD
i4を示す。
【0076】
式(A1)等に含まれるパラメータdijは、反射点Pi及びテンプレート点Tj間のユークリッド距離UDijに応じた値を有する距離パラメータである。詳細は後述されるが、単純な例としては“dij=UDij”とされる。パラメータsj及びwiについては後述される。式(B1)~(B4)は、夫々、式(A1)~(A4)を基準に右辺に対して慣性項m(rt,rt-1)を追加したものであるが、当該慣性項の意義についても後述される。
【0077】
【0078】
式(A1)~(A4)及び(B1)~(B4)の各右辺において、距離パラメータdijを含む項は、距離パラメータdijに比例する距離評価項である。例えば“(N,M)=(2,2)”であると仮定した場合において、
式(A1)を用いると評価関数Eは、第1の距離評価項d11と第2の距離評価項d12と第3の距離評価項d21と第4の距離評価項d22との総和により表され、
式(A2)を用いると評価関数Eは、第1の距離評価項s1d11と第2の距離評価項s2d12と第3の距離評価項s1d21と第4の距離評価項s2d22との総和により表され、
式(A3)を用いると評価関数Eは、第1の距離評価項w1d11と第2の距離評価項w1d12と第3の距離評価項w2d21と第4の距離評価項w2d22との総和により表され、
式(A4)を用いると評価関数Eは、第1の距離評価項s1w1d11と第2の距離評価項s2w1d12と第3の距離評価項s1w2d21と第4の距離評価項s2w2d22との総和により表される。
【0079】
式(A1)~(A4)及び(B1)~(B4)の何れを用いる場合においても、マッチング処理部44は、反射点P1~PNとテンプレート点T1~TMとの組み合わせごとに距離パラメータdijを導出することで計(N×M)個の距離パラメータd11~dNMを取得する。そうすると、反射点P1~PNとテンプレート点T1~TMとの組み合わせごとに、距離パラメータdijに比例する距離評価項が定義される。そして、評価関数Eは、反射点P1~PNとテンプレート点T1~TMとの全組み合わせに対する距離評価項の総和を含むことになる。
【0080】
最小探索法及び最大探索法の何れを用いる場合にあっても、本実施形態では、反射点P1~PNとテンプレート点T1~TMとの各距離(ユークリッド距離)に基づき物標に対するテンプレートの適合位置が導出される。テンプレート点T1~TMから成るテンプレートに沿って反射点が分布すると考えられるため、これらの距離に基づき導出された適合位置は物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)を精度良く表していると期待される。故に、テンプレートの適合位置に基づき物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)を精度良く推定することが可能となり、ひいては物標の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0081】
例えば、
図15に示すような複数の反射点が検出された場合、最小探索法を用いるのであれば、それら各反射点とテンプレート点とのユークリッド距離の総和の最小化に適した位置640がテンプレートTMPの適合位置として求められることになる。最大探索法を用いた場合も同様である。
【0082】
第1実施形態は、以下の実施例EX1_1a、EX1_1b、EX1_2a、EX1_2b、EX1_3、EX1_4及びEX1_5を含む。これらの実施例の中で、評価関数Eの詳細や、レーダ装置1に関わる具体的な動作例や応用技術、変形技術を説明する。特に記述無き限り且つ矛盾無き限り、上述した事項が後述の各実施例に適用される。後述の各実施例において、上述の内容と矛盾する事項については、各実施例での記載が優先されて良い。また矛盾無き限り、以下に述べる複数の実施例の内、任意の実施例に記載した事項を、他の任意の実施例に適用することもできる(即ち複数の実施例の内の任意の2以上の実施例を組み合わせることも可能である)。
【0083】
<<実施例EX1_1a>>
実施例EX1_1aを説明する。実施例EX1_1aでは距離パラメータdijについて説明する。距離パラメータdijに依存する任意の評価関数Eの定義式に対して実施例EX1_1aを適用できる。即ち、実施例EX1_1aにより導出された距離パラメータdijを、上記式(A1)~(A4)及び(B1)~(B4)の何れかに代入することで評価関数Eの値(即ち評価値EVAL)を求めて良い。
【0084】
実施例EX1_1aでは、ユークリッド距離UDijが小さいほど距離パラメータdijが小さくなるように(故にユークリッド距離UDijが大きいほど距離パラメータdijが大きくなるように)、ユークリッド距離UDijに基づいて距離パラメータdijが導出される。これに対応して、実施例EX1_1aでは最小探索法が利用される。即ち、評価値EVALを最小化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する場合にあっては、ユークリッド距離UDijが小さいほど距離パラメータdijに小さな値を与える。反射点Pi及びテンプレート点Tj間のユークリッド距離UDijが小さいほどテンプレートの適合性が良いと考えられるからである。
【0085】
最も単純には“dij=UDij”であって良い。或いは、ユークリッド距離UDijを所定の変換式に代入して得られる値を距離パラメータdijに持たせても良い。所定の変換式には、例えば、指数関数、対数関数、累乗又は多項式や、それらを組み合わせたものを利用できる。
【0086】
1つの例として、下記式(D1)に従って距離パラメータdijを求めても良い。この場合、距離パラメータdijは反射点Pi及びテンプレート点Tj間のユークリッド距離Uijの累乗により表され、累乗の指数qに対し1未満の値が設定される。
【0087】
【0088】
図16を参照し、送信波TWを受ける物標の表面位置に反射点が集中して検出さることが多いが、稀に少数の点が、それらから離れた位置にて反射点652として検出されることがある。反射点652は路面による反射やノイズの影響によるものと考えられるが、反射点652が検出された場合において、単純に例えば “d
ij=UD
ij” とした上で上記式(A1)により評価値E
VALを求めると、テンプレートTMPの適合位置が反射点652へと引き寄せられ、物標の角部の真の位置650から反射点652にずれた位置654にテンプレートTMPが適合すると判断されるおそれがある。これに対し、式(D1)を用いるようすれば、物標の表面位置(他車両600については他車両600の車尾及び右側面)からの距離が遠い反射点(
図16では反射点652)の影響が低減され、物標の角部の真の位置650との誤差が少ない位置をテンプレートTMPの適合位置として求めることが可能となる。即ち、テンプレートの適合位置に基づき物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)を精度良く推定することが可能となり、ひいては物標の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0089】
<<実施例EX1_1b>>
実施例EX1_1bを説明する。実施例EX1_1bでは距離パラメータdijの他の導出方法を説明する。距離パラメータdijに依存する任意の評価関数Eの定義式に対して実施例EX1_1bを適用できる。即ち、実施例EX1_1bにより導出された距離パラメータdijを、上記式(A1)~(A4)及び(B1)~(B4)の何れかに代入することで評価関数Eの値(即ち評価値EVAL)を求めて良い。
【0090】
実施例EX1_1bでは、ユークリッド距離UDijが小さいほど距離パラメータdijが大きくなるように(故にユークリッド距離UDijが大きいほど距離パラメータdijが小さくなるように)、ユークリッド距離UDijに基づいて距離パラメータdijが導出される。これに対応して、実施例EX1_1bでは最大探索法が利用される。即ち、評価値EVALを最大化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する場合にあっては、ユークリッド距離UDijが小さいほど距離パラメータdijに大きな値を与える。反射点Pi及びテンプレート点Tj間のユークリッド距離UDijが小さいほどテンプレートの適合性が良いと考えられるからである。
【0091】
例えば“dij=1/UDij”であって良い。この他、ユークリッド距離UDijを所定の変換式に代入して得られる値を距離パラメータdijに持たせることができる。所定の変換式には、例えば、指数関数、対数関数、累乗又は多項式や、それらを組み合わせたものを利用できる。
【0092】
1つの例として、下記式(D2)に従って距離パラメータd
ijを求めても良い。この場合、距離パラメータd
ijは反射点P
i及びテンプレート点T
j間のユークリッド距離U
ijを変数とするガウス関数により表される。このガウス関数は、ユークリッド距離U
ijが小さいほど大きな値を持つことになる(当然ながらユークリッド距離U
ijが負の値を持つことは無い)。
図17に式(D2)の関係をグラフにて示す。式(D2)において、Lは、クラスタ領域設定部43により設定されたクラスタ領域の対角線の長さを表し、βは1以下の所定の正の値を持つ調整係数である。
【0093】
【0094】
<<実施例EX1_2a>>
実施例EX1_2aを説明する。実施例EX1_2aではパラメータsjについて説明する。パラメータs1~sMはテンプレート点T1~TMに対して重みを与えるテンプレート点重みパラメータである。テンプレート点重みパラメータはテンプレート点ごとに設定され、パラメータsjはテンプレート点Tjに対して設定されたテンプレート点重みパラメータを表す。テンプレート点重みパラメータsjに依存する任意の評価関数Eの定義式に対して実施例EX1_2aを適用できる。
【0095】
上記式(A2)、(A4)、(B2)及び(B4)の何れかを用いる場合、距離パラメータdijに比例する各距離評価項(例えばs1d11やs2d12)はテンプレート点ごとに設定されたテンプレート点重みパラメータにも比例することになる。
【0096】
テンプレートにおいて、適合位置の決定に際し相対的に高く考慮されるべきテンプレート点とそうでないテンプレート点とが混在する。テンプレート点ごとに重みを与えて評価値EVALを求めるようにすることで、適正なテンプレートの適合位置を求めることが可能となる。導出されるテンプレートの適合位置の適正化は、物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)に対する推定の高精度化に寄与し、ひいては物標の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0097】
図18(a)~(d)を参照し、
図9のテンプレートTMPを用いる場合におけるテンプレート点重みパラメータの設定方法例を説明する。テンプレートTMPは4つのテンプレート点T
1~T
4から構成されるのでパラメータs
1~s
4が設定される。
図18(a)~(d)に示す方法では、レーダ装置1から物標までの距離DDに応じてテンプレート点重みパラメータs
1~s
4を設定する。
【0098】
距離DDは、レーダ装置1と物標に対して設定されたクラスタ領域との間の距離であって良い。即ち例えば、物標としての他車両600に対しクラスタ領域CLSが設定された場合(
図5及び
図6参照)、レーダ装置1の位置(即ち原点O)とクラスタ領域CLSの中心位置までの距離、又は、原点OとクラスタCLSとの最短距離が、距離DDであって良い。
【0099】
マッチング処理部44において所定の基準距離DDREF1~DDREF3が定められている。ここで、“0<DDREF1<DDREF2<DDREF3”である。そして、マッチング処理部44は、第1距離不等式“DD≦DDREF1”の成立時と、第2距離不等式“DDREF1<DD≦DDREF2”の成立時と、第3距離不等式“DDREF2<DD≦DDREF3”の成立時と、第4距離不等式“DDREF3<DD”の成立時とで、テンプレート点重みパラメータを互いに異ならせる。具体的な数値例として、
至近距離に対応する第1距離不等式“DD≦DDREF1”の成立時において、(s1,s2,s3,s4) =(0.0,0.5,0.7,1.0)とし、
近距離に対応する第2距離不等式“DDREF1<DD≦DDREF2” の成立時において、(s1,s2,s3,s4) =(0.0,0.7,1.0,0.5)とし、
中距離に対応する第3距離不等式“DDREF2<DD≦DDREF3” の成立時において、(s1,s2,s3,s4) =(0.7,1.0,0.0,0.5)とし、
遠距離に対応する第4距離不等式“DDREF3<DD” の成立時において、(s1,s2,s3,s4) =(0.7,1.0,0.0,0.0)とする。
【0100】
パラメータs1~s4間の関係について述べると、第1距離不等式の成立時において“s1<s2<s3<s4”とし、第2距離不等式の成立時において“s1<s4<s2<s3”とし、第3距離不等式の成立時において“s3<s4<s1<s2”とし、第4距離不等式の成立時において“s3<s1<s2”且つ“s4<s1<s2”とすることができる。
【0101】
距離DDが比較的小さいときにおいては、物標(他車両600)の後端よりも側面からの反射波RWが支配的となり、側面に沿った反射点を重視してマッチング処理を行った方がより妥当なテンプレートTMPの適合位置を得やすくなると考えられる。一方、距離DDが比較的大きいときにおいては、物標(他車両600)の側面よりも後端からの反射波RWが支配的となり、後端に沿った反射点を重視してマッチング処理を行った方がより妥当なテンプレートTMPの適合位置を得やすくなると考えられる。これらを考慮して、上記の如く距離DDに応じてテンプレート点重みパラメータs1~s4を設定すると良い。これにより、マッチング処理の信頼性が高まり、適正なテンプレートの適合位置を求めることが可能となる。導出されるテンプレートの適合位置の適正化は、物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)に対する推定の高精度化に寄与し、ひいては物標の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0102】
<<実施例EX1_2b>>
実施例EX1_2bを説明する。実施例EX1_2bではテンプレート点重みパラメータパラメータsjの他の導出方法を説明する。テンプレート点重みパラメータsjに依存する任意の評価関数Eの定義式に対して実施例EX1_2bを適用できる。
【0103】
レーダ装置1に近いほど反射点からの受信信号強度は高く、反射点の密度も大きくなるため、レーダ装置1とテンプレートTMPとの位置関係を考慮してテンプレート点重みパラメータを設定しても良い。
【0104】
例えば、自車両の真横に対するテンプレート点重みパラメータに最大値“1”を与え、Y軸方向に対しては、自車両からの距離が離れるほどテンプレート点重みパラメータに対して小さな値を与えるようにしても良い。この際、X軸方向についても同様に、自車両からの距離が離れるほどテンプレート点重みパラメータに対して小さな値を与えるようにしても良い。
【0105】
図19に示す角度θ
1~θ
4を用いてパラメータs
jを設定しても良い。マッチング処理において評価値E
VALを求める際のテンプレートTMP上のテンプレート点T
1~T
4に対して角度θ
1~θ
4が定義される。角度θ
jは、レーダ装置1及びテンプレート点T
j間を結ぶ直線(即ち原点O及びテンプレート点T
j間を結ぶ直線)と、所定軸とが成す角度(但し0°以上90°未満の角度)を表す。
図19では、所定軸としてX軸が想定されており、この場合、パラメータs
jを“s
j=cos(θ
j)”により設定すると良い。但し、X軸以外の軸が所定軸に設定されても良い。
【0106】
これにより、受信信号強度が相対的に大きく、また反射点の密度も相対的に大きい部分のテンプレート点を重視してマッチング処理が行われるため、マッチング処理の信頼性が高まり、適正なテンプレートの適合位置を求めることが可能となる。導出されるテンプレートの適合位置の適正化は、物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)に対する推定の高精度化に寄与し、ひいては物標の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0107】
尚、テンプレートTMPの一部がレーダ装置1の後方に位置する場合にあっては、即ち例えば
図20に示す如くテンプレート点T
1及びT
2がレーダ装置1の後方に位置する場合にあっては(或いは例えばテンプレート点T
1~T
3がレーダ装置1の後方に位置する場合にあっては)、テンプレート点T
1に対するパラメータs
jの値を“0”に固定すると良い。テンプレートTMPの一部がレーダ装置1の後方に位置する場合、テンプレート点T
1の近傍に有効な反射点は存在しないからである。この場合、テンプレートTMPは実質的にI字型の形状を有することになる。
【0108】
<<実施例EX1_3>>
実施例EX1_3を説明する。実施例EX1_3ではパラメータwiについて説明する。パラメータw1~wNは反射点P1~PNに対して重みを与える反射点重みパラメータである。反射点重みパラメータは反射点ごとに設定され、パラメータwiは反射点Piに対して設定された反射点重みパラメータを表す。反射点重みパラメータwiに依存する任意の評価関数Eの定義式に対して実施例EX1_3を適用できる。
【0109】
上記式(A3)、(A4)、(B3)及び(B4)の何れかを用いる場合、距離パラメータd
ijに比例する各距離評価項(例えばw
1d
11やw
2d
21)は反射点ごとに設定された反射点重みパラメータにも比例することになる。そして、マッチング処理部44は、反射ごとに反射点に対する受信信号強度に基づいて反射点重みパラメータを設定する。即ち、反射点ごとの反射点データは受信信号強度の情報を含むが(
図4参照)、マッチング処理部44は、反射点P
iに対応する受信信号強度に基づき、反射点P
iに対応する反射点重みパラメータw
iを設定する。
【0110】
物標としての他車両の表面の多くは金属により構成されており、金属からの反射波RWの強度は路面等のそれよりも強くなる傾向にある。従って、大きな受信信号強度に対応する反射点は、物標である他車両の表面上の反射点である可能性が高いため、大きな受信信号強度に対応する反射点を重視して評価値EVALを求めることが妥当である。受信信号強度に基づいて反射点重みパラメータを設定することで、他車両の表面上の点である可能性が高い反射点を重視してマッチング処理を行うことができるようになるため、マッチング処理の信頼性が高まり、適正なテンプレートの適合位置を求めることが可能となる。導出されるテンプレートの適合位置の適正化は、物標の輪郭上の点の位置(例えば角部の位置)に対する推定の高精度化に寄与し、ひいては物標の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0111】
最小探索法を用いる場合には反射点Piに対応する受信信号強度が大きいほどパラメータwiを小さくすれば良く、最大探索法を用いる場合には反射点Piに対応する受信信号強度が大きいほどパラメータwiを大きくすれば良い。単純には例えば、最小探索法を用いる場合においては反射点Piに対応する受信信号強度の逆数をパラメータwiとして用いることも可能であるし、最大探索法を用いる場合においては反射点Piに対応する受信信号強度をそのままパラメータwiとして用いることも可能である。
【0112】
但し、距離パラメータd
ijの値との整合性を考慮すれば、受信信号強度に応じて所定範囲内の数値に正規化されたパラメータw
iの方が利用しやすい。ここでは例として所定範囲が0以上且つ1以下の範囲であるものとする。即ち最小探索法を用いる場合には、
図21(a)に示す如く反射点P
iに対応する受信信号強度が小さいほどパラメータw
iを1に近づけ且つ反射点P
iに対応する受信信号強度が増大するにつれてパラメータw
iを0に向けて単調減少させる関数を構成し、当該関数に受信信号強度を代入することで得られる値をパラメータw
iに設定すれば良い。同様に最大探索法を用いる場合には、
図21(b)に示す如く反射点P
iに対応する受信信号強度が小さいほどパラメータw
iを0に近づけ且つ反射点P
iに対応する受信信号強度が増大するにつれてパラメータw
iを1に向けて単調増大させる関数を構成し、当該関数に受信信号強度を代入することで得られる値をパラメータw
iに設定すれば良い。
【0113】
正規化の方法は任意であるが例えばシグモイド関数を利用できる。最小探索法を用いる場合、シグモイド関数を利用して例えば下記式(D3)によりパラメータwiを設定して良く、最大探索法を用いる場合、シグモイド関数を利用して例えば下記式(D4)によりパラメータwiを設定して良い。式(D3)及び(D4)において、powiは反射点Piに対応する受信信号強度を表し、α1及びα2は所定の変換係数である。変換係数α1及びα2を変更することで、受信信号強度をパラメータwiに変換する際の特性を調整することができる。E[powi]は受信信号強度powiを変数とするシグモイド関数である。
【0114】
【0115】
<<実施例EX1_4>>
実施例EX1_4を説明する。実施例EX1_4では慣性項m(rt,rt-1)について説明する。慣性項m(rt,rt-1)に依存する任意の評価関数Eの定義式(上記式(B1)~(B4)を含む)に対して実施例EX1_4を適用できる。
【0116】
図22を参照する。上述したように、テンプレートTMPの適合位置は所定の計測周期で順次導出される。今、計測周期分の時間間隔で離散化された第(t-1)番目の周期と第t番目の周期について考える(tは整数)。r
t-1は、第(t-1)番目の周期において導出されたテンプレートTMPの適合位置を表す。r
tは、第t番目の周期でのマッチング処理において評価値E
VALを求めるためにXY座標面上に配置されたテンプレートTMPの位置(詳細にはテンプレート点T
2の位置)を表す。第t番目の周期でのマッチング処理において、テンプレートTMPの適合位置を求めるためにテンプレートTMPの位置は位置PST[1]~PST[K]間で様々に変化せしめられる(
図11参照)。このため、第t番目の周期でのマッチング処理において、位置r
tは位置PST[1]~PST[K]の何れかとなる。
【0117】
第t番目の周期でのマッチング処理において(
図11参照)、位置r
tを位置PST[1]に設定したときの評価値E
VAL(即ち評価値E
VAL[1])が求められ、位置r
tを位置PST[2]に設定したときの評価値E
VAL(即ち評価値E
VAL[2])が求められ、・・・、位置r
tを位置PST[K]に設定したときの評価値E
VAL(即ち評価値E
VAL[K])が求められる。位置r
t及びr
t-1間のユークリッド距離を、||r
t-r
t-1||、で表す。
【0118】
慣性項m(rt,rt-1)は、位置rt及びrt-1間のユークリッド距離||rt-rt-1||に応じたパラメータとされる。即ち、位置rtを位置PST[1]に設定したとき、慣性項m(rt,rt-1)は、今回のテンプレートTMPの適合位置の候補である位置PST[1]と前回のテンプレートTMPの適合位置rt-1とのユークリッド距離||rt-rt-1||(=||PST[1]-rt-1||)に応じた値を持ち、位置rtを位置PST[2]に設定したとき、慣性項m(rt,rt-1)は、今回のテンプレートTMPの適合位置の候補である位置PST[2]と前回のテンプレートTMPの適合位置rt-1とのユークリッド距離||rt-rt-1||(=||PST[2]-rt-1||)に応じた値を持つ。位置rtを位置PST[3]~PST[K]に設定したときも同様である。
【0119】
最小探索法を利用する場合においては、ユークリッド距離||rt-rt-1||が小さいほど慣性項m(rt,rt-1)の値が小さくなるように(故にユークリッド距離||rt-rt-1||が大きいほど慣性項m(rt,rt-1)の値が大きくなるように)、ユークリッド距離||rt-rt-1||に基づいて慣性項m(rt,rt-1)の値が導出される。即ち、評価値EVALを最小化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する場合にあっては、ユークリッド距離||rt-rt-1||が小さいほど慣性項m(rt,rt-1)に小さな値を与える。ユークリッド距離||rt-rt-1||が小さいほどテンプレートの適合性が良いと考えられるからである。
【0120】
最小探索法を利用する場合、最も単純には“m(rt,rt-1)=||rt-rt-1||”であって良い。或いは、ユークリッド距離||rt-rt-1||を所定の変換式に代入して得られる値を慣性項m(rt,rt-1)に持たせても良い。所定の変換式には、例えば、指数関数、対数関数、累乗又は多項式や、それらを組み合わせたものを利用できる。
【0121】
最小探索法を利用する場合、1つの例として下記式(D5)に従う慣性項m(rt,rt-1)を利用して良い。式(D5)におけるγは正の値を持つ所定の調整係数である。
【0122】
【0123】
最大探索法を利用する場合においては、ユークリッド距離||rt-rt-1||が小さいほど慣性項m(rt,rt-1)の値が大きくなるように(故にユークリッド距離||rt-rt-1||が大きいほど慣性項m(rt,rt-1)の値が小さくなるように)、ユークリッド距離||rt-rt-1||に基づいて慣性項m(rt,rt-1)の値が導出される。即ち、評価値EVALを最大化させるテンプレートTMPの位置をテンプレートTMPの適合位置として導出する場合にあっては、ユークリッド距離||rt-rt-1||が小さいほど慣性項m(rt,rt-1)に大きな値を与える。ユークリッド距離||rt-rt-1||が小さいほどテンプレートの適合性が良いと考えられるからである。
【0124】
最大探索法を利用する場合、例えば“m(rt,rt-1)=1/||rt-rt-1||”であって良い。この他、ユークリッド距離||rt-rt-1||を所定の変換式に代入して得られる値を慣性項m(rt,rt-1)に持たせることができる。所定の変換式には、例えば、指数関数、対数関数、累乗又は多項式や、それらを組み合わせたものを利用できる。
【0125】
最大探索法を利用する場合、1つの例として下記式(D6)又は(D7)に従う慣性項m(rt,rt-1)を利用して良い。式(D6)又は(D7)において、γ、δ、γ1及びγ2は正の値を持つ所定の調整係数である。
【0126】
【0127】
マッチング処理部44はテンプレートTMPの適合位置を間隔をおいて次々と導出することになるが(具体的には所定の計測周期でテンプレートTMPの適合位置を順次導出することになるが)、上記特性を有する慣性項m(rt,rt-1)は、前回のテンプレートTMPの適合位置と今回のテンプレートTMPの適合位置との距離(ユークリッド距離)の増大を抑制するよう作用する。つまり、慣性項m(rt,rt-1)を評価関数Eの定義式に含めることで、テンプレートTMPの適合位置の時間的連続性が加味されることになる。
【0128】
自車両から見て、物標としての他車両600は時系列上で連続的に移動するが、時系列上の反射点の移動によるバラツキ具合やノイズの影響により、他車両600の推定位置が前後左右に大きくふらつく可能性がある。レーダ装置1及び他車両600間の距離増大は反射点の個数減少を伴うため、この可能性はレーダ装置1から他車両600が離れるに従って大きく成り得る。しかし、自車両から見て他車両600の位置は連続的に変化することが自然である。これを考慮すれば、前回の他車両600の推定位置の近辺が今回の他車両600の推定位置となりやすくなるように評価値EVALを誘導すれば良い。当該誘導が慣性項m(rt,rt-1)の導入により達成され、これによって他車両600の位置(詳細には例えば他車両600の車尾角の位置)を正しく推定できる可能性が高まる。ひいては他車両600の占有領域を精度良く推定することが可能となる。
【0129】
<<実施例EX1_5>>
実施例EX1_5を説明する。実施例EX1_5では、テンプレートTMPの適合位置に基づく物標の占有領域の推定方法について説明を加える。物標が他車両600(
図5参照)であると考える。
【0130】
占有領域推定部47は、他車両600の車長及び車幅が一定であるとみなして、他車両600の占有領域を推定しても良い。この場合、他車両600の占有領域は、以下の第1矩形領域として推定される。第1矩形領域は、Y軸に平行な2辺とX軸に平行な2辺を有し、第1矩形領域における4頂点の内、原点Oに最も近い頂点はテンプレートTMPの適合位置に配置される。そして、第1矩形領域におけるY軸方向の長さに対し所定の車長が設定され、且つ、第1矩形領域におけるX軸方向の長さに対し所定の車幅が設定される。
【0131】
占有領域推定部47は、他車両600に対して設定されたクラスタ領域の広がりに基づいて、他車両600の占有領域を推定しても良い。この場合、他車両600の占有領域は、以下の第2矩形領域として推定される。第2矩形領域は、Y軸に平行な2辺とX軸に平行な2辺を有し、第2矩形領域における4頂点の内、原点Oに最も近い頂点はテンプレートTMPの適合位置に配置される。そして、他車両600に対して設定されたクラスタ領域のY軸方向の長さに基づいて第2矩形領域におけるY軸方向の長さを設定し、他車両600に対して設定されたクラスタ領域のX軸方向の長さに基づいて第2矩形領域におけるX軸方向の長さを設定する。第2矩形領域におけるY軸方向の長さ、X軸方向の長さは、夫々、占有領域推定部47により推定された他車両600の車長、車幅に相当する。
【0132】
この他、例えば、占有領域推定部47は、他車両600に対して検出された反射点の個数とレーダ装置1及び他車両600間の検出距離(上記の距離DDに相当)とに基づいて他車両600の車種を判別し(例えば大型車及び普通車の何れであるのかを判別し)、車種の判別結果に基づいて他車両600の占有領域の大きさを推定しても良い。この場合、他車両600の占有領域は、以下の第3矩形領域として推定される。第3矩形領域は、Y軸に平行な2辺とX軸に平行な2辺を有し、第3矩形領域における4頂点の内、原点Oに最も近い頂点はテンプレートTMPの適合位置に配置される。そして、他車両600の車種の判別結果に基づいて第3矩形領域におけるY軸方向の長さ及びX軸方向の長さを設定する。第3矩形領域におけるY軸方向の長さ、X軸方向の長さは、夫々、占有領域推定部47により推定された他車両600の車長、車幅に相当する。
【0133】
<<第2実施形態>>
本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態及び後述の第3~第7実施形態は第1実施形態を基礎とする実施形態であり、第2~第7実施形態において特に述べない事項に関しては、矛盾の無い限り、第1実施形態の記載が第2~第7実施形態にも適用される。第2実施形態の記載を解釈するにあたり、第1及び第2実施形態間で矛盾する事項については第2実施形態の記載が優先されて良い(後述の第3~第7実施形態についても同様)。矛盾の無い限り、第1~第7実施形態の内、任意の複数の実施形態を組み合わせても良い。
【0134】
第1実施形態では、レーダ装置1の検知領域FOVが主に自車両の左斜め前方の領域であることを想定したが(
図2(a)及び(b)参照)、自車両の左斜め後方の領域がレーダ装置1の検知領域FOVに含まれていても良く、検知領域FOVによっては左後方領域R
2内に存在する他車両の車頭角をレーダ装置1にて検出するようにしても良い。任意の他車両について、車頭角とは、他車両の前端上の2つの角部の内、原点Oに近い側の角部を指す。第2実施形態では、左後方領域R
2が検知領域FOVに含まれ、左後方領域R
2内に存在する他車両の車頭角がレーダ装置1にて検出できるよう検知領域FOVが設定されているものとする。
【0135】
図23に示す如く、自車両の左斜め後方に他車両600’が存在する場合、第1実施形態にて述べた方法と同様の方法にて、他車両600’の車尾角の位置を推定することができる。但し、第2実施形態では、左後方領域R
2に対してテンプレートが適用されるため、X軸を基準に第1実施形態で述べたテンプレートTMPを鏡像反転したテンプレートTMP’を用いてマッチング処理を行う。テンプレートTMP’の適合位置の導出方法は第1実施形態で述べたものと同様であり、第1実施形態の記載を第2実施形態に適用する際、第1実施形態の記載におけるテンプレートTMPをテンプレートTMP’に読み替えれば良い。第2実施形態に係る輪郭点推定部46では、テンプレートTMP’の適合位置に基づき、他車両600’の輪郭上の点の位置として他車両600’の車頭角の位置が推定されることになる(典型的には例えば、テンプレートTMP’の適合位置に他車両600’の車頭角が存在すると推定される)。
【0136】
他車両の占有領域の導出方法も第1実施形態と同様となる。但し、第1実施形態の如く他車両600の車尾角の位置が推定された場合には、その車尾角の位置から左斜め前方に広がる領域が他車両600の占有領域として推定されるが、第2実施形態の如く他車両600’の車頭角の位置が推定された場合には、その車頭角の位置から左斜め後方に広がる領域が他車両600’の占有領域として推定されることになる。
【0137】
<<第3実施形態>>
本発明の第3実施形態を説明する。レーダ装置1の検知領域FOVが十分に広ければ(水平検知角θが十分に大きければ)、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせることにより、レーダ装置1にて、左前方領域R1内に存在する他車両の車尾角の位置推定と、左後方領域R2内に存在する他車両の車頭角の位置推定とを、行うことも可能である。第3実施形態では、単一の他車両についての車頭角の位置推定と車尾角の位置推定とを別々のタイミングにて行う方法を説明する。
【0138】
図24に示す如く、自車両CR0及び他車両CR1が前方に向けて走行していることを想定する。自車両CR0は車線LN0上を走行し、他車両CR1は車線LN0の左側に隣接する車線LN1上を走行している。そして、自車両CR0の速度は他車両CR1の速度よりも小さいものとする。例えば、他車両CR1が自車両CR0の左斜め後方に存在している状態を基準として、自車両CR0が減速してゆくような状況が想定される。尚、後述の他の実施形態を含め、以下では、特に記述無き限り、自車両CR0は車線LN0上を前方に向けて走行しているものとする。
【0139】
前後方向にのみ注目した場合、タイミングt1では、他車両CR1の全体がレーダ装置1の設置位置よりも後方に位置しており、その後のタイミングt2では、他車両CR1の全体がレーダ装置1の設置位置よりも前方に位置しているものとする。故に、XY座標面上で考えた場合、タイミングt1では他車両CR1の全体が左後方領域R
2に位置し、タイミングt2では他車両CR1の全体が左前方領域R
1に位置することになる(
図2(b)参照)。
【0140】
タイミングt1、t2における受信部3の受信信号に基づき前処理部41にて生成された反射点データを、夫々、タイミングt1、t2の反射点データと称する。タイミングt1及びt2の夫々の前処理において、複数の反射点が検知されて複数の反射点についての反射点データが生成される。
【0141】
図25(a)には、タイミングt1及びt2の反射点データに基づき後処理部42により推定される3つの位置FC[t1]、RC[t2]及びFC[t2]が示されている。タイミングt1では、タイミングt1の反射点データに基づき、第2実施形態の方法によりタイミングt1における他車両CR1の車頭角の位置FC[t1]が推定される。タイミングt2では、タイミングt2の反射点データに基づき、第1実施形態の方法によりタイミングt2における他車両CR1の車尾角の位置RC[t2]が推定される。位置FC[t2]はタイミングt2における他車両CR1の車頭角の推定位置である。位置FC[t2]はタイミングt2における反射点データから直接的に推定されるものではなく、タイミングt1における反射点データを少なくとも用いて推定される。
【0142】
単純には例えば、タイミングt1における他車両CR1の反射点データ中の相対速度から推定用相対速度を特定し、タイミングt1及びt2間において他車両CR1が自車両CR0から見て推定用相対速度で移動し続けると仮定した上で、タイミングt1における他車両CR1の車頭角の位置FC[t1]からタイミングt2における他車両CR1の車頭角の位置FC[t2]を推定する。この場合、推定用相対速度とタイミングt1及びt2間の時間差との積だけ、車頭角の位置FC[t1]をY軸の正の向きに移動した位置に、車頭角の位置FC[t2]が設定される。
【0143】
上記の推定用相対速度は、タイミングt1における他車両CR1のクラスタ領域内の1つの反射点(例えば最大の受信信号強度に対応する反射点)についての相対速度でも良いし、タイミングt1における他車両CR1のクラスタ領域内の複数の反射点についての相対速度の平均(加重平均を含む)でも良い。基本的には、或る1つのタイミングにおいて、他車両CR1の複数の反射点データ中の相対速度は実質的に互いに等しく、クラスタ領域が設定される際に、クラスタ領域中の全反射点の相対速度は単一の相対速度に設定し直されても良い。
【0144】
実際には例えば、タイミングt1より後であって且つタイミングt2よりも前の計測周期にて得られる反射点データを更に利用して車頭角の位置FC[t2]を推定すると良い。この場合、タイミングt1及びt2間における他車両CR1の相対速度を、相対速度の変化状態を含めて正確に見積もることができるため、車頭角の位置FC[t2]の推定精度が高まる。この際、推定処理部45は、物標の位置及び相対速度の時間方向における連続性などに基づき物標の同定及び追跡を行う周知の方法を用いることができる。
【0145】
図25(b)に、タイミングt2における他車両CR1の車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]と、それらに基づき推定された他車両CR1の占有領域OR[t2]を示す。
図25(b)において、実線長方形REF[t2]はタイミングt2における他車両CR1の真の外形をXY座標面上に投影したものである。占有領域OR[t2]は、タイミングt2において他車両CR1が占有している領域を推定したものである。占有領域OR[t2]はX軸に平行な2つの辺とY軸に平行な2つの辺とで形成される矩形領域であり、Y軸に平行な2つの辺の内、原点Oに近い側の辺の両端に車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]が配置される。車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]の内、車尾角の位置RC[t2]の方が原点Oに近い。
【0146】
占有領域推定部47は、Y軸方向における占有領域OR[t2]の長さ、即ち車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]間の距離を、他車両CR1の車長として推定する。X軸方向における占有領域OR[t2]の長さWDTは、他車両CR1の車幅の推定値に相当する。占有領域推定部47は、車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]間の距離に基づいて他車両CR1の車幅(即ち長さWDT)を推定して良い。この際、車長が大きいほど車幅も大きくなる可能性が高いとの知見を利用する。
【0147】
例えば、占有領域推定部47は、他車両CR1の車長(即ち車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]間の距離)が所定長さ(例えば5m)未満であれば他車両CR1の車種は普通車であると推定して他車両CR1の車幅が第1の車幅であると推定し(即ち長さWDTを第1の車幅に設定し)、他車両CR1の車長が所定長さ以上であれば他車両CR1の車種は大型車であると推定して他車両CR1の車幅が第2の車幅であると推定する(即ち長さWDTを第2の車幅に設定する)。第2の車幅は第1の車幅よりも大きく、例えば、第1の車幅、第2の車幅は、夫々、1.8m、2.2mである。他車両CR1の車長(即ち車頭角の位置FC[t2]及び車尾角の位置RC[t2]間の距離)に応じ、他車両CR1の車幅を3段階以上に分類して推定しても構わない。
【0148】
<<第4実施形態>>
本発明の第4実施形態を説明する。車線LN1上で複数の他車両が走行している場合にも、上述した方法により各他車両について車頭角、車尾角及び占有領域が推定されて良い。例えば、
図26に示す如く、第3実施形態にて想定された他車両CR1に加えて他車両CR1の後方にて車線LN1上を車両CR2が前向きに走行している場合を考える。そして、他車両CR1が自車両CR0の左斜め後方に存在している状態を基準として、自車両CR0が減速してゆくような状況を想定する。尚、車両CR1及びCR2間に他の物標は存在しないものとする。
【0149】
この場合、第3実施形態の如く、タイミングt1における他車両CR1の車頭角の位置推定及びタイミングt2における他車両CR1の車尾角の位置推定を介して他車両CR1の占有領域が推定されることになる。これに加え、タイミングt2にて検知領域FOV内に他車両CR2の車頭が収まっていて他車両CR2の車頭角の位置が推定されることを想定する。
【0150】
図27において、位置711及び712は、夫々、他車両CR1の車頭角及び車尾角のタイミングt2での推定位置を表し、矩形領域710は、推定されたタイミングt2での他車両CR1の占有領域を表す。それらの推定方法は第3実施形態で述べた通りであり、
図25(b)の位置FC[t2]及びRC[t2]が夫々
図27の位置711及び712に相当し、
図25(b)の占有領域OR[t2]が
図27の占有領域710に相当する。一方、タイミングt2にて取得される反射点データの内、左後方領域R
2内の反射点についての反射点データに基づき、第2実施形態で述べた方法により他車両CR2の車頭角の位置721が推定されると共に他車両CR2の占有領域720が推定される。位置721及び占有領域720は、タイミングt2における他車両CR2の車頭角の推定位置及び推定占有領域を表す。
【0151】
空き領域推定部47は、タイミングt2における他車両CR1の占有領域710とタイミングt2における他車両CR2の占有領域720とに挟まれた領域(換言すれば、タイミングt2における他車両CR1の車尾角と他車両CR2の車頭角とに挟まれた領域)を空き領域730として推定することができる。
【0152】
空き領域推定部47にて推定される空き領域は、Y軸方向にのみ長さを有する一次元量である。但し、空き領域は、X軸方向に所定の幅を有する矩形領域として推定されても良い。何れにせよ、他車両CR1の車尾角と他車両CR2の車頭角との間の領域が空き領域730として推定される。そして例えば、後述されるような車両制御システムを構築し、空き領域730に自車両CR0を安全に割り込ませることが可能な程度に空き領域730が大きいのであれば、空き領域730に自車両CR0を移動させるように運転制御を行うといったことが可能となる。
【0153】
他車両が2台の場合について説明したが、車線LN1上に3台以上の他車両が走行している場合にも同様にできる。
【0154】
<<第5実施形態>>
本発明の第5実施形態を説明する。自車両CR0に複数のレーダ装置を設置するようにしても良い。第5実施形態では、自車両CR0の左側面前方部と左側面後方部に1台ずつ、上述のレーダ装置1と同じ構成を有するレーダ装置が設置されていることを想定する。第5実施形態では、2台のレーダ装置を区別するべく、
図28に示すように、自車両CR0の左側面前方部、左側面後方部に設置されたレーダ装置を、夫々、符号“1F”、“1R”にて参照し、レーダ装置1F、1Rの検知領域を、夫々、符号“FOV
F”、“FOV
R”にて参照する。
【0155】
レーダ装置1Fの検知領域FOVFは、第1実施形態で述べたレーダ装置1の検知領域FOVと同じものであり、レーダ装置1Fから自車両CR0の左斜め前方に向けて広がる概ね扇型状の領域である。レーダ装置1Fは、主に自車両CR0の左斜め前方に向けて送信波TWを送信し、検知領域FOVF内に存在する物標からの反射波RWを受信することで、検知領域FOVF内に存在する物標についてのデータ(物標データ及び反射点データを含む)を得ることができる。
レーダ装置1Rの検知領域FOVRは、レーダ装置1Rから自車両CR0の左斜め後方に向けて広がる概ね扇型状の領域である。レーダ装置1Rは、主に自車両CR0の左斜め後方に向けて送信波TWを送信し、検知領域FOVR内に存在する物標からの反射波RWを受信することで、検知領域FOVR内に存在する物標についてのデータ(物標データ及び反射点データを含む)を得ることができる。
【0156】
図2(b)に示す領域R
1~R
4との関係において検知領域FOV
F及びFOV
Rについて説明を加える。尚、X軸及びY軸並びに領域R
1~R
4は、レーダ装置1Fの設置位置を原点Oにとって定義されるものである。
検知領域FOV
Fは左前方領域R
1を内包し、左後方領域R
2の内、左前方領域R
1に近い側の一部の領域も内包する。更に、検知領域FOV
Fは、右前方領域R
3の内、左前方領域R
1に近い側の一部の領域も内包しうる。但し、レーダ装置1Fからの距離が所定の検知距離以上となる領域は検知領域FOV
Fに含まれない。
検知領域FOV
Rは左後方領域R
2を内包し(但し部分的に欠けがある)、左前方領域R
1の内、左後方領域R
2に近い側の一部の領域も内包する。更に、検知領域FOV
Rは、右後方領域R
4の内、左後方領域R
2に近い側の一部の領域も内包しうる。但し、レーダ装置1Rからの距離が所定の検知距離以上となる領域は検知領域FOV
Rに含まれない。
【0157】
但し、レーダ装置1Fにて左後方領域R2内の他車両の車頭角の位置推定が可能となるよう、第2~第4実施形態におけるレーダ装置1の検知領域FOVと同等の検知領域が検知領域FOVFとして設定されていても良い。
【0158】
図29は、第5実施形態に係る車両制御システムSYSの構成ブロック図である。車両制御システムSYSは、レーダ装置1F及び1Rと、レーダ装置1F及び1Rに接続されたレーダ統合ECU(Electronic Control Unit)6と、レーダ統合ECU6に接続された車両制御ECU7(車両制御装置)とを備え、自車両CR0に搭載される。
【0159】
レーダ装置1F及び1Rは、夫々に、受信部3の受信信号に基づく情報(以下、レーダ計測結果情報と称する)をレーダ統合ECU6に伝達することができる。レーダ計測結果情報は、受信部3の受信信号に基づき信号処理部4にて得られる任意の情報(例えば他車両の車尾角、車頭角の位置及び占有領域を示す情報や他車両の形状情報)を含んでいて良い。尚、車両制御システムSYSを構成する場合、推定処理部45にて実現されると述べた機能の一部をレーダ統合ECU6にて実現するようにしても良い。例えば、車両制御システムSYSにおいては、空き領域の推定はレーダ装置1F及び1Rではなく、レーダ統合ECU6で実行されて良い。
【0160】
レーダ統合ECU6は、レーダ装置1F及び1Rから提供されるレーダ計測結果情報を統合し、その統合結果を示すレーダ統合情報を車両制御ECU7に伝達する。
【0161】
レーダ装置1Fからのレーダ計測結果情報は、検知領域FOVF内の物標に関わる位置を、レーダ装置1Fの配置位置を原点OにとったXY座標面上において示す。これに対し、レーダ装置1Rからのレーダ計測結果情報は、検知領域FOVR内の物標に関わる位置を、レーダ装置1Rの配置位置を原点O’にとったX’Y’座標面上において示す(X’Y’座標面については図示せず)。X’Y’座標面は原点O’にて互いに直交するX’軸及びY’軸から成る二次元座標面であり、X’軸及びY’軸は、夫々、X軸及びY軸を、レーダ装置1F及び1R間の距離だけ後方にシフトした軸に相当する。レーダ統合ECU6は、予め認識しているレーダ装置1F及び1R間の幾何学的な位置関係に基づき、レーダ装置1RからのX’Y’座標面上のレーダ計測結果情報をXY座標面上のレーダ計測結果情報に変換し、変換後のレーダ計測結果情報と、レーダ装置1FからのXY座標面上のレーダ計測結果情報とを統合することでレーダ統合情報を生成する。
【0162】
レーダ装置1Fの動作は、第1~第4実施形態にて述べたレーダ装置1の動作と同じである。レーダ装置1Rの動作もレーダ装置1の動作と同様であるが、レーダ装置1Fが主として左前方領域R1内の他車両の車尾角の位置推定を行うのに対し、レーダ装置1Rは主として左後方領域R2内の他車両の車頭角の位置推定を行う。
【0163】
この際、レーダ装置1Rでは、左後方領域R
2に対してテンプレートが適用されるため、X軸を基準に第1実施形態で述べたテンプレートTMPを鏡像反転したテンプレートTMP’(
図23参照)を用いてマッチング処理を行う。テンプレートTMP’の適合位置の導出方法は第1実施形態で述べたものと同様であり、第1実施形態の記載をレーダ装置1Rの動作に適用する際、第1実施形態の記載におけるテンプレートTMPをテンプレートTMP’に読み替えれば良い。レーダ装置1Rでは、テンプレートTMP’の適合位置に基づき左後方領域R
2に存在する他車両の車頭角の位置が推定されることになる(典型的には例えば、テンプレートTMP’の適合位置に当該他車両の車頭角が存在すると推定される)。レーダ装置1Rにおいて、左後方領域R
2に存在する他車両の車頭角の位置を推定した後、その車頭角の位置から左斜め後方に広がる領域を当該他車両の占有領域として推定する。
【0164】
検知領域FOVF及びFOVRを含む自車両CR0の周辺領域において1以上の他車両が存在していて、各他車両の車頭角、車尾角及び占有領域がレーダ装置1F又は1Rにて推定されている場合、レーダ統合情報により、自車両CR0の周辺領域において車頭角、車尾角及び占有領域が特定され、その特定内容に基づき空き領域も特定される。また、レーダ装置1F又は1Rにて或る他車両の形状情報が作成されたとき、レーダ統合ECU6において当該他車両に対応付けて形状情報が保持されて良い。
【0165】
車両制御ECU7は、レーダ統合情報に基づき自車両CR0の運転制御を行う。自車両CR0の運転制御には、自車両CR0の走行速度の制御(加速、減速の制御を含む)、及び、自車両CRの移動方向の制御が含まれる。自車両CR0の運転者は、自車両CR0に設けられた操作部材(ステアリング、アクセルペダル、ブレーキベダル等)を手動操作することで自車両CR0を運転することができるが、レーダ統合情報に基づく自車両CR0の運転制御は、運転者の手動運転操作に依存せずに実行される自動運転制御であっても良いし、運転者の手動運転操作を支援する運転支援制御であっても良い。
【0166】
例えば、第4実施形態に係る
図26に示す状況において(
図27も適宜参照)、第4実施形態のレーダ装置1に相当するレーダ装置1Fにより、他車両CR1の占有領域710、他車両CR2の占有領域720及び空き領域730が推定され、それらの推定結果を含むレーダ計測結果情報がレーダ統合部6に提供された場合を考える。この場合、そのレーダ計測結果情報を含むレーダ統合情報に基づき、車両制御ECU7は、空き領域730に自車両CR0を割り込ませることができるかを判断し、割り込み可能と判断した場合には、車線LN1における他車両CR1及びCR2間の空き領域730に自車両CR0を移動させる運転制御を行う。
【0167】
図29では、2台のレーダ装置1F及び1Rを備えた車両制御システムSYSが示されているが、第4実施形態に係る方法を利用してレーダ装置1F単体にて空き領域730が推定されるならばレーダ装置1Rは不要である。但し、空き領域730の推定はレーダ装置1F及び1Rが協働して実現されるものであっても良い。即ち例えば、自車両CR0の左前方領域R
1に他車両CR1が存在し且つ自車両CR0の左後方領域R
2に他車両CR2が存在するタイミングt2において(
図26及び
図27参照)、レーダ装置1Fの前処理部41にて生成される反射点データに基づきレーダ装置1Fにて他車両CR1の車尾角の位置712を推定すると共にレーダ装置1Rの前処理部41にて生成される反射点データに基づきレーダ装置1Rにて他車両CR2の車頭角の位置721を推定するようにしても良く、この場合、レーダ統合ECU6は位置712と位置721とに挟まれた領域を空き領域730として推定することができる。
【0168】
空き領域として
図27の空き領域730が推定された状況を前提にして、車両制御ECU7による運転制御について説明を加える。尚、自車両CR0が車両LN0上を走行している場合において、車線LN0の左側に隣接する車線LN1上を走行する他車両の内、自車両CR0の前方側に位置する他車両を前方車両と称し、自車両CR0の後方側に位置する他車両を後方車両と称する(
図30参照)。車線LN1において前方車両と後方車両は互いに隣接している。即ち、前方車両と後方車両との間に他の物標は存在しないものとする。前方車両の車尾角の位置と後方車両の車頭角の位置との間の、Y軸方向における距離は、前方車両及び後方車両間の車間距離に相当する。故に、
図26及び
図27の例において、タイミングt2での車両CR0~CR2間の位置関係に関しては、空き領域730のY軸方向における長さが、前方車両CR1及び後方車両CR2間の車間距離に相当することになる。空き領域730の推定は車間距離の推定を含んでいると言える。空き領域730のY軸方向における長さに相当する、推定された車間距離を“d
EST”にて参照する。
【0169】
前方車両及び後方車両間の車間距離dESTが推定されたとき、車間距離dESTと、XY座標面上における前方車両及び後方車両間の空き領域の位置(中心位置)と、自車両CR0から見た前方車両及び後方車両の相対速度と、が少なくともレーダ統合情報に含まれている。前方車両の相対速度は前方車両に対して検知された各反射点の相対速度にて特定され、後方車両の相対速度は後方車両に対して検知された各反射点の相対速度にて特定される。前方車両及び後方車両間における相対速度の差は前方車両及び後方車両間の速度差であり、その速度差に応じて時間経過と共に前方車両及び後方車両間の車間距離が車間距離dESTから変動することが見込まれる。
【0170】
車両制御ECU7は、推定された車間距離dESTと、前方車両及び後方車両間の速度差に基づく前方車両及び後方車両間の車間距離の時間変動率と、空き領域の中心に自車両CR0が到達するまでの予測時間と、に基づき、前方車両及び後方車両間の空き領域に対する自車両CR0の割り込み可否を判定する。空き領域の中心に自車両CR0が到達するまでの予測時間は、空き領域の中心に向けて自車両CR0を移動させる運転制御を行ったと仮定した場合に自車両CR0を空き領域の中心にまで移動させるためにかかる時間の予測値であり、その予測は、必要に応じ、自車両CR0の速度や、空き領域及び自車両CR0間の位置関係を参照して実行される。
【0171】
そして、割り込みが不可であると判定された場合、車両制御ECU7は、空き領域の中心に向けて自車両CR0を移動させる運転制御を行わない。割り込みが可能であると判定された場合、車両制御ECU7は、空き領域の中心に向けて自車両CR0を移動させる運転制御を実行する、又は、その運転制御の実行を許可する。例えば、運転者は車両制御システムSYSに対し左車線変更指示を入力することができて良い。車両制御ECU7は、例えば、自車両CR0に設置されたウィンカレバーに対し自車両CR0を左側に寄せることに対応する操作が入力されたとき、左車線変更指示が入力されたと判断する。そして、左車線変更指示が入力された場合において、割り込みが可能と判断された場合、車両制御ECU7は、空き領域の中心に向けて自車両CR0を移動させる運転制御を実行して良い。
【0172】
本実施形態によれば、渋滞時などにおける車列割り込みを、運転者の手動運転操作に依らず自動で安全に行う、といったことが可能となる。
【0173】
<<第6実施形態>>
本発明の第6実施形態を説明する。第6実施形態では、第5実施形態で示した車両制御システムSYSの他の具体的動作例を説明する。
【0174】
図31に示す如く、タイミングt
A1において、自車両CR0が車線LN0上を前方に向けて走行し、且つ、他車両CR1~CR5が車線LN0の左側に隣接する車線LN1上を前方に向けて走行していることを想定する。車線LN1上の他車両CR1~CR5の内、他車両CR1が最も先頭に位置し、他車両CR1、CR2、CR3、CR4、CR5の順に並んでいる(説明の便宜上、この順番は不変であると考える)。つまり、他車両CR1及びCR2の組み合わせに注目した場合、他車両CR1及びCR2は前方車両及び後方車両に相当し、他車両CR2及びCR3の組み合わせに注目した場合、他車両CR2及びCR3は前方車両及び後方車両に相当し、他車両CR3及びCR4の組み合わせに注目した場合、他車両CR3及びCR4は前方車両及び後方車両に相当し、他車両CR4及びCR5の組み合わせに注目した場合、他車両CR4及びCR5は前方車両及び後方車両に相当する。車線LN1上において、他車両CR1及びCR2間、他車両CR2及びCR3間、他車両CR3及びCR4間、他車両CR4及びCR5間の夫々に、他の物標は存在しないものとする。各タイミングにおいて、レーダ装置1Fの送信波TWを反射する物標には、他車両CR1~CR5の何れか1以上が含まれ得る。レーダ装置1Rについても同様である。
【0175】
図31に示す如く、タイミングt
A1において他車両CR1が自車両CR0の左斜め後方に存在している状態を基準として、自車両CR0が減速してゆき、結果、時間経過と共に、他車両CR1~CR5から成る車列全体に対し自車両CR0がY軸に沿って相対的に後方側に移動してゆく状況を想定する。
【0176】
図32を参照する。他車両CR1~CR5から成る車列全体に対し自車両CR0が相対的にY軸に沿って後方側に移動してゆく過程において、他車両CR1の車頭角及び車尾角の位置が推定されて他車両CR1の占有領域及び形状情報が推定及び取得される。上記過程において自車両CR0が車列全体に対して更に後方側に移動すると、他車両CR2の車頭角及び車尾角の位置推定を介して他車両CR2の占有領域及び形状情報が推定及び取得され、その後、他車両CR3の車頭角及び車尾角の位置推定を介して他車両CR3の占有領域及び形状情報が推定及び取得される。タイミングt
A2は、他車両CR3の他車両CR3の車尾角及び占有領域及び形状情報の推定及び取得が完了したタイミングである。
【0177】
前方車両の車尾角の位置推定及び後方車両の車頭角の位置推定をもって、前方車両及び後方車両間の車間距離が特定される。
図32に示す状況では、他車両CR1及びCR2間の車間距離が、それらの間に自車両CR0を割り込ませることが不可能又は不適切な程度に狭い。このため、車両制御ECU7は、他車両CR1及びCR2間の空き領域に対する自車両CR0の割り込みは不可能であると判定し、他車両CR1の車尾角の位置及び他車両CR2の車頭角の位置の推定後も自車両CR0を上記車列全体に対して後方側に移動させる。また、他車両CR2及びCR3間の車間距離も、それらの間に自車両CR0を割り込ませることが不可能又は不適切な程度に狭い。このため、車両制御ECU7は、他車両CR2及びCR3間の空き領域に対する自車両CR0の割り込みは不可能であると判定し、他車両CR2の車尾角の位置及び他車両CR3の車頭角の位置の推定後も自車両CR0を上記車列全体に対して後方側に移動させる。
【0178】
一方、
図32に示す状況では、他車両CR3及びCR4間の車間距離がそれらの間に自車両CR0を安全に割り込ませることが可能な程度に広いとする。そうすると、車両制御ECU7は、他車両CR3の車尾角の位置及び他車両CR4の車頭角の位置の推定後、他車両CR3及びCR4間の空き領域に対する自車両CR0の割り込みは可能であると判定して、車線LN1における他車両CR3及びCR4間の空き領域に自車両CR0を移動させる運転制御を行う。割り込み可否の判定方法は第5実施形態で示した通りである。
【0179】
各他車両の車頭角の位置推定及び車尾角の位置推定は、レーダ装置1F単体にて行われても良いし、レーダ装置1F及び1Rの双方が協働することで実現されても良い。特に、タイミングtA2における他車両CR4の車頭角の位置推定は、レーダ装置1Rにて行われても良い。
【0180】
尚、他車両CR3及びCR4間の車間距離が十分に大きく、タイミングtA2において、検知領域FOVR内に他車両を含む物標が存在しないことがレーダ装置1Rにて検知された場合、車両制御ECU7は、他車両CR3の後方における空き領域は十分に広いと判断して、その空き領域に自車両CR0を移動させる運転制御を行うことができる。この場合には、車両CR4の車頭角の位置推定は行われない又は行われなくて良い。レーダ装置1Rは他車両の角部の位置の推定機能を有していなくても良く、単に、検知領域FOVR内の物標の有無及び検知領域FOVR内の物標の存在位置を計測するレーダ装置であっても良い。
【0181】
他車両CR1~CR5から成る車列全体に対し自車両CR0を相対的に後方側に移動させるための減速、及び、その減速を経て車線LN1における他車両CR3及びCR4間の空き領域に自車両CR0を移動させる運転制御は、車両制御システムSYSに対して上述の左車線変更指示が入力されたことに応答して車両制御ECU7により実現されるものであって良い。但し、減速自体は運転者の手動運転操作にて実現されるものであっても良い。
【0182】
本実施形態によれば、渋滞時などにおける車列割り込みを、運転者の手動運転操作に依らず自動で安全に行う、といったことが可能となる。
【0183】
尚、ここでは、他車両CR1~CR5が前方に向けて走行していることを想定したが、各他車両は駐車(停止)していると考えても良い。この場合、タイミングtA1及びtA2間において自車両CR0は後方に向けて走行してゆくことになり、他車両CR3及びCR4間の空き領域への自車両CR0の移動は、いわゆる縦列駐車のための移動となる。即ち、本実施形態の方法を用いれば、車両制御システムSYSにより、空き領域の探索が自動的に行われて駐車可能領域への自動駐車が可能となる。
【0184】
<<第7実施形態>>
本発明の第7実施形態を説明する。
【0185】
上述の幾つかの例では、自車両CR0が他車両に対して前方側に位置している状態を基準にして考え、自車両CR0を減速してゆくことで(縦列駐車の場合には、自車両CR0を後方に移動させていくことで)他車両に対し自車両CR0の位置を相対的に後退させていくことが想定されている。この場合には、上述の如く、或る注目した他車両について、他車両の車尾角の位置よりも先に他車両の車頭角の位置が推定されることになる(例えば
図24や
図32参照)。
【0186】
しかしながら、自車両CR0が他車両に対して後方側に位置している状態が基準となる場合には、自車両CR0を加速してゆくことで(縦列駐車の場合には、自車両CR0を前進させることで)自車両CR0を基準状態よりも他車両に向けて近づける又は自車両CR0を他車両の前方に移動させるといったことが想定されることになり、この場合には、或る注目した他車両について、他車両の車頭角の位置よりも先に他車両の車尾角の位置が推定されることになる。
【0187】
車両制御システムSYSに2台のレーダ装置(1F、1R)が設けられる例を上述したが、車両制御システムSYSにレーダ装置を1台だけ設けることも可能であるし、3台以上設けることも可能である。車両制御システムSYSに設けられる各レーダ装置は自車両CR0の対応する所定位置に設置される。車両制御システムSYSにレーダ装置が1台だけ設けられる場合でも、上述の如く、他車両間の空き領域の推定や空き領域に自車両CR0を移動させる運転制御は可能である。車両制御システムSYSにレーダ装置が1台だけ設けられる場合には、レーダ統合ECU6は削除されて良く、レーダ統合ECU6の機能をレーダ装置又は車両制御ECU7に担わせても良い。
【0188】
車両制御システムSYS内の何れかのレーダ装置により他車両CR1の形状情報が一旦作成されると、他車両CR1が車両制御システムSYS内の何れかのレーダ装置により物標として検出され続けている限り、他車両CR1に対して作成された形状情報は保持され続け、保持された形状情報にて定義される車長及び車幅を他車両CR1が有するとした上で他車両CR1はレーダ装置の受信信号に基づきXY座標面上で追跡される。他車両CR1以外の他車両についても同様である。
【0189】
レーダ統合ECU6は、車両制御システムSYSに設けられた各レーダ装置からのレーダ計測結果情報を統合して、自車両CR0の周辺における各物標の占有領域及び空き領域の位置を動的に示したグリッドマップを生成しても良い。この際、上記追跡の結果を利用すれば、或るタイミングにおけるグリップマップは、反射波RWの過去の受信信号に基づき推定された各他車両の車長及び車幅をも定義した地図情報となり、形状情報を蓄積しつつ追跡処理を行ってゆくことで、自車両CR0の周辺の正確な占有領域及び空き領域をリアルタイムに示したグリッドマップを作成可能である。
【0190】
例えば、自車両CR0の前方に検知領域を有する前方レーダ装置(不図示)を、レーダ装置1F及び1Rとは別に車両制御システムSYSに追加し、前方レーダ装置の検知距離(Y軸方向における検知領域の長さ)を相応に長いもの(例えば100m)としておく。そして、レーダ装置1Fの検知領域と前方レーダ装置の検知領域に部分的に重なり領域を持たせておけば、レーダ装置1F及び前方レーダ装置での反射波RWの受信信号に基づき、それらの検知領域を跨いでの物標の追跡が可能となり、レーダ統合ECU6において、それらの検知領域をカバーする広面積のグリッドマップを作成することも可能となる。グリッドマップは、車両制御システムSYSに設けられた全てのレーダ装置の検知領域をカバーするように形成されても良い。
【0191】
このようなグリッドマップを作成して自車両CR0周辺の占有領域及び空き領域を一元管理すれば、複数の空き領域を繋ぎ合わせた走行ルートを探索するといったことも可能となり、探索した走行ルートに沿って自車両CR0を走行させるといった運転制御も実現可能となる。グリッドマップを用いて、上述したような車列割り込みや縦列駐車を自動的に且つ安全に行うことができる他、発展的には、自車両CR0の周辺車両の分合流推定、自車両CR0の周辺の渋滞推定なども可能となりうる。
【0192】
車両制御ECU7にて実現される機能をプログラムで記述して、当該プログラムを車両制御ECU7に搭載可能なメモリに記憶させておき、車両制御ECU7内のマイクロコンピュータ上で当該プログラムを実行することで、車両制御ECU7の機能を実現しても良い。レーダ統合ECU6についても同様である。
【0193】
上述の何れかに実施形態に係るレーダ装置(1、1F、1R)では、物標からの反射波RWの受信信号に基づき複数の反射点に対して反射点データを導出する反射点データ導出工程と、複数の反射点と複数のテンプレート点との各距離に基づき物標に対するテンプレートの適合位置を導出するマッチング工程と、テンプレートの適合位置に基づき物標の輪郭上の点の位置を推定する推定工程と、を含んだ物標情報推定方法が実施される。反射点データ導出工程は前処理部41により実現され、マッチング工程はマッチン処理部44により実現され、推定工程は推定処理部45により実現される。
【0194】
推定工程は推定処理部45により実行され得る全ての処理を含み得る。上記の物標情報推定方法は、物標に関わる情報を推定する方法である。推定工程による推定の対象として、物標の輪郭上の点の位置に注目した場合、上記の物標情報推定方法を物標輪郭点推定方法と呼ぶこともできる。これに代えて、物標の角部の位置に注目したならば物標情報推定方法を物標角位置推定方法と呼ぶこともできるし、物標の占有領域に注目したならば物標情報推定方法を物標占有領域推定方法と呼ぶこともできる。
【0195】
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。以上の実施形態は、あくまでも、本発明の実施形態の例であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以上の実施形態に記載されたものに制限されるものではない。上述の説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。
【符号の説明】
【0196】
1、1F、1R レーダ装置
2 送信部
3 受信部
4 信号処理部
41 前処理部
42 後処理部
43 クラスタ領域設定部
44 マッチング処理部
45 推定処理部
46 輪郭点推定部
47 占有領域推定部
48 空き領域推定部
CR0 自車両
600、CR1~CR5 他車両
FOV、FOVF、FOVR 検知領域
SYS 車両制御システム