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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】苔の培養方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/30 20180101AFI20230303BHJP
   A01H 11/00 20060101ALI20230303BHJP
   A01G 9/00 20180101ALI20230303BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
A01G22/30
A01H11/00
A01G9/00 J
A01G7/00 601B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019146031
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021023250
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】519290840
【氏名又は名称】山本 真吾
(73)【特許権者】
【識別番号】519290851
【氏名又は名称】根岸 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】根岸 大輔
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-004672(JP,A)
【文献】特開2014-073081(JP,A)
【文献】特開2005-229882(JP,A)
【文献】特開昭55-000064(JP,A)
【文献】特開2018-121613(JP,A)
【文献】特開2019-115287(JP,A)
【文献】特開2016-168034(JP,A)
【文献】特開平07-079647(JP,A)
【文献】実開平06-003050(JP,U)
【文献】特開2007-306905(JP,A)
【文献】特開昭51-045026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/30
A01G 9/00- 9/08
A01G 7/00
A01H 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が全面開放され、側面には通気孔を形成し、底面には通水孔を形成した培養トレー内に生育基盤材を敷設して種苔を藩種し、該培養トレーを直接に複数段重ね合わせた状態で所定環境下において培養させることで、下段にいくほど彩光が遮られ且つ上段にいくほど多くの彩光が得られる環境を創出し、彩光条件の異なる種苔を同時に培養することが可能であることを特徴とする苔の培養方法。
【請求項2】
前記培養トレー毎に、透水シート又は遮光シートを敷設若しくは被覆させたことを特徴とする請求項1記載の苔の培養方法。
【請求項3】
前記培養トレーを重ね合わせた最上段に遮蔽蓋を被覆させたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の苔の培養方法。
【請求項4】
前記所定環境下は、人工的に環境条件を創出可能な外界と仕切られた培養空間であって、散水、彩光、温度、湿度から選択される少なくとも一の環境設定機能が備えられて成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか記載の苔の培養方法。
【請求項5】
前記培養空間に、自然光や雨、風といった自然環境条件を取り入れることができる開閉式扉が備えられていることを特徴とする請求項4記載の苔の培養方法。
【請求項6】
前記培養空間における床面又は内壁面のいずれか一方若しくは両方に、光を反射する反射材が敷設されて成ることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の苔の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苔の培養方法に関し、詳しくは、培養トレーを複数段重ね合わせることによって、培養効率を上げると共に、流通効率を高め、さらに販売規格に合った寸法形状に分断できる苔の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における苔の培養方法は、その多くが生産面積として平面的な手段によって培養されていた。そのため、広い生産スペースを確保しなければならない上、生産効率の悪さが懸念され、出来上がった苔を運搬する際の流通効率も悪い、といった問題があった。そこで、省スペースでの培養が可能で生産効率及び流通効率の向上に資する苔の培養方法が望まれている。
【0003】
従来より、バラバラにならず、屋上、屋根、壁面等に貼り付けるときに労力を必要とせず、貼り付けたコケ植物が風雨等の影響を受けにくい、コケ植物を栽培することができる「ネットを使用したコケ植物の栽培方法」(特許文献1参照)が提案され、公知技術となっている。具体的には、容器内に各種のコケ植物に適した生育基盤材を平に敷き詰め、その上にコケ植物の蒔きゴケ法を実施し、又、その上にネットを被せたことからなるコケ植物の栽培方法である。
【0004】
しかしながら、上記「ネットを使用したコケ植物の栽培方法」の提案は、生育基盤材を平に敷き詰める手法を採ることから、生産手段において、広域的な生産スペースが必要とされると共に、その生産面積に対する生産性の効率に難があり、上記問題の解決には至っていない。
【0005】
また、発芽を揃え、培養効率をあげ、生産日数短縮、流通費削減を兼ね備えた「ウレタン千切培地」(特許文献2参照)が提案され、公知技術となっている。具体的には、気泡率90%、遠赤外線5ミクロン以上で撥水性のあるウレタンマットを、苗培養トレーの流通企画サイズ、幅250ミリ、厚さ50ミリ、長さ500ミリのシート状にし、そこに25ミリの正方形で高さ50ミリの切り抜きと、中切込みをゼンマイ状に貫通させて切り抜き、正方形の部分は上部が全体に繋がるように、一部を少し残して切り抜き、正方形にできた培地を手でちぎり取れるような構造にして、そのマットをプラグ培養トレーに差し込んで固定し、固定されたマットシートは、200個の育成培地になり、この複数の培地に播種機で種子を蒔き、発芽室で発芽させて育苗室で育苗するものである。
【0006】
しかしながら、上記における「ウレタン千切培地」提案は、単にウレタンマットを流通企画サイズの苗培養トレーに差し込む手法を採るものであって、生産手段において、該トレーを重ね合わせるのでなく平面的に並べる手法を採ることから、上記のコケ植物の栽培方法同様、広域的な生産スペースが必要とされると共に、その生産面積に対する生産性の効率に難があり、上記問題の解決には至っていない。
【0007】
本出願人は、以上のような従来から提案されている苔の培養方法において、容器内に各種のコケ植物に適した生育基盤材を平に敷き詰め、その上にコケ植物の蒔く栽培方法に着目し、培養トレーを複数段重ね合わせた状態で苔の培養を行うことによって、培養効率を上げ、さらに流通効率を高めと共に、販売規格に合った寸法形状に分断できる苔の培養方法を開発し、本発明における「苔の培養方法」の提案に至るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-168034号公報
【文献】特開2006-320298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、苔の培養効率及び生産効率並びに流通効率の向上に資すると共に、多品種の苔を同時且つ同所にて培養することが可能であって、しかも高品質の苔を均一に生産可能な苔の培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる苔の培養方法は、上面が全面開放され、側面には通気孔を形成し、底面には通水孔を形成した培養トレー内に生育基盤材を敷設して種苔を藩種し、該培養トレーを複数段重ね合わせた状態で所定環境下において培養させる手段を採る。
【0011】
また、本発明にかかる苔の培養方法は、前記培養トレー毎に、透水シート又は遮光シートを敷設若しくは被覆させた手段を採る。
【0012】
さらに、本発明にかかる苔の培養方法は、前記培養トレーを重ね合わせた最上段に遮蔽蓋を被覆させた手段を採る。
【0013】
またさらに、本発明にかかる苔の培養方法は、前記所定環境下が、人工的に環境条件を創出可能な外界と仕切られた培養空間であって、散水、彩光、温度、湿度から選択される少なくとも一の環境設定機能が備えられて成る手段を採る。
【0014】
さらにまた、本発明にかかる苔の培養方法は、前記培養空間に、自然光や雨、風といった自然環境条件を取り入れることができる開閉式扉が備えられている手段を採る。
【0015】
そしてまた、本発明にかかる苔の培養方法は、前記培養空間における床面又は内壁面のいずれか一方若しくは両方に、光を反射する反射材が敷設されて成る手段を採る。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる苔の培養方法によれば、上面が全面開放され、側面には通気孔を形成し、底面には通水孔を形成した培養トレー内に生育基盤材を敷設して種苔を藩種し、該培養トレーを複数段重ね合わせた状態で所定環境下において培養させることによって、培養効率を上げ、さらに流通効率を高めることできる、といった従来にない優れた効果を奏する。
【0017】
また、本発明にかかる苔の培養方法によれば、透水シートをヤシ繊維や木砕片など植物由来の素材で形成することにより、種苔、又は生育基盤材が自然環境でも安定して保つことが出来るため、種苔が培養トレー内で均一に発芽し生育すると共に、その植物由来の透水シートを網目とすることで、網目の隙間から容易に種苔の芽が出やすいうえに、乾燥を防止するための発芽効率を上げることができ、さらに植物由来の素材で形成される糸は縒ってあるので、種苔の根が糸に入り込むため、透水シートその物が生育基盤材としての効果を有して、苔の生育を助長することができる。
また、容器から苔の根を切ることなく取り出すことができるため、苔を傷めずに庭園やビルの内壁や外壁に等に貼り付けることができ、且つ、植物由来の天然素材であるため、時間の経過とともに自然に回帰することができ、さらには、販売規格に合った寸法形状に容易に分断できる、といった多くの優れた効果を奏する。
【0018】
さらに、本発明にかかる苔の培養方法によれば、透水シートを培養トレー毎に敷設することによって、種苔の育成に重要な根圏の通気や通水を持続させて、根詰まりを防止すると共に、悪性菌の侵入防止、老廃物の除外、PH、ECの矯正が即時にでき、さらに、常に根圏の環境を良好に保つことで、播種、育苗の育成が順調に行え、優良な移植用苗が作出できる、といった優れた効果を奏する。
【0019】
またさらに、本発明にかかる苔の培養方法によれば、培養トレーを複数段重ね合わせることで、下段にいくほど採光が遮られる環境を創出することができ、また、培養トレー毎に遮光シートを被覆させることで採光を遮る環境を創出することもできるため、彩光条件の異なる種苔を同時に培養することができる、といった従来にない優れた効果を奏する。
【0020】
さらにまた、本発明にかかる苔の培養方法によれば、培養トレーを重ね合わせた最上段に遮蔽蓋を被覆させたことによって、全体を彩光から遮る環境を創出することができると共に、散水条件の異なる種苔を同時に培養することができる、といった優れた効果を奏する。
【0021】
そしてまた、本発明にかかる苔の培養方法によれば、人工的に環境条件を創出可能な外界と仕切られた培養空間での培養を行うことによって、天候など自然環境に影響されることがなく、高品質の苔の培養ができる、といった優れた効果を奏する。
【0022】
さらにまた、本発明にかかる苔の培養方法によれば、培養空間での培養の際に、該培養空間の構造について、自然環境条件(自然光、雨、風)を適宜取り入れ可能な開閉式扉が備えられていることによって、自然環境条件を有効活用して、人工的な環境条件の創出に要する維持管理費用の削減に資する、といった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明にかかる苔の培養方法を示す概略説明図である。(実施例1)
図2】本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。(実施例2)
図3】本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。(実施例3)
図4】本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。(実施例4)
図5】本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、苔の培養方法10であって、上面が全面開放され、側面には通気孔12を形成し、底面には通水孔13を形成した培養トレー11内に生育基盤材19を敷設して種苔Tを藩種し、該培養トレー11を複数段重ね合わせた状態で所定環境下において培養する手段を採ったことを最大の特徴とする。
以下、本発明にかかる苔の培養方法10の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0025】
尚、本発明にかかる苔の培養方法10は、以下に述べる実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、すなわち同一の作用効果を発揮できる形状や寸法等の範囲内で、適宜変更することができるものである。
特に、本発明の説明で使用される「培養」とは、菌種の苔に適した文言であるが、苔には菌類以外に藻類や地衣類、維管束植物といった系統も存しており、説明の便宜上「培養」との文言を統一的に使用しているが、実質は「栽培」の意を含む概念であって、限定的に解釈されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明における苔の培養方法を示す概略説明図であり、(a)は培養トレー11が単体の時の培養方法を示し、(b)は培養トレー11を複数段重ね合わせた時の培養方法を示す。
本発明にかかる苔の培養方法10は、培養トレー11内に生育基盤材19を敷設して種苔Tを藩種し、該培養トレー11を複数段重ね合わせた状態で所定環境下において苔を培養させるものである。
【0027】
苔は、例えば、ギンゴケ、スナゴケ、ツボゴケ、コツボチョウチンゴケ、ホソウリゴケ、ハイゴケ、チジミバコブゴケ、カモジゴケ、ナミシッポゴケ、シッポゴケ、オオシッポゴケなどの乾燥ミズゴケ、スギゴケ、フデゴケ、ツヤゴケ、タマゴケ、タチゴケ、シノブゴケ、コツボコケ、ヒノキゴケ、マンネンゴケ、ホソバオキナゴケ等が、本発明に適用する「苔」として使用される。
【0028】
培養トレー11は、その素材について特に限定はなく、例えば合成樹脂、発泡樹脂、ゴム、布、紙、木、ガラス、セラミック、防錆金属、ゼオライト、等の素材で形成される。
また、該培養トレー11の形状は、トレー状、すなわち、所定面積を有する正方形若しくは矩形の底面11aの四辺に所定高さの側面11bが鉛直状に起立され、上面が全面開放された、全体が略直方体の容器で形成されている。側面11bには通気性を確保する通気孔12が形成され、底面11aには通水可能な通水孔13が形成されている。
尚、側面11bには、運搬性に鑑み、必要に応じて取っ手穴18が形成される。また、底面11aにおける裏側の四隅には、培養トレー11を複数段重ね合わせた際の位置決め機能として、積み重ね段差14が形成される態様が好ましい。
【0029】
生育基盤材19は、種苔Tを藩種し且つ苔を培養する際の培養床として機能するもので、当該機能を果たすことが可能であれば素材について特に限定するものではないが、例えば自然培養床として、鹿沼土、川砂、山砂、腐葉土、埴壌土、砂壌土、樹皮培養土、ピートモス等からなる土質細物を使用する態様が考え得る。その他にも、紙製シート材や発泡樹脂など、人工的な培養床を使用する態様も可能である。
【0030】
所定環境下は、散水30aの度合い、彩光30bの度合い、温度30c、湿度30dといった、苔の生育に適した環境であり、自然環境において、より適した環境が基本的に選択される。尚、散水30aとは、苔に対して水分を供給し得る態様であれば良く、その意味で噴霧を含む概念である。
【0031】
本発明における苔の培養方法10の具体的な培養手順としては、以下のとおりとなる。
(1)種苔Tを手で揉みほぐしたり、ふるいに押し当てたりして細かく分散させる。
(2)培養トレー11に生育基盤材19を所要厚さ(例えば約3cm程度)で平に敷き詰める。
(3)生育基盤材19の上に種苔Tを藩種する。このとき、種苔Tが重ならないようにブロック単位で均等に蒔く。
(4)必要に応じて上から砂をまいて、種苔T同士のすき間を埋める。
(5)種苔Tや砂が流出しないように注意しながら、散水30aする。
(6)必要に応じて培養トレー11の上面にキッチンペーパーや濡れ布等を被せて、種苔Tならびに生育基盤材19が乾燥しないようにする。
(7)上記(1)~(6)により種苔Tが藩種された培養トレー11を、所定環境下で複数段重ね合わせて培養する。尚、培養においては、種苔Tの芽が均等に生え揃うまで、苔表面の乾燥に注意する。
【0032】
以上の培養方法によって、本発明は実施される。すなわち、複数段重ね合わせた各培養トレー11の底面11aには、夫々通水孔13が形成されていることから、最上段の培養トレー11に散水30aがなされると、余剰水分が徐々に下段まで落水することとなって、最終的に最下段の培養トレー11まで水が行き渡ることとなる。また、各培養トレー11の側面11bには、通気孔12が形成されているため、上方に他の培養トレー11が積み重なっても、トレー内が隔離されることはなく、外界と繋がって所定環境下での培養が可能である。
【0033】
この様に、本発明にかかる苔の培養方法10によれば、培養トレー11を複数段重ね合わせた状態で培養させることによって、省スペースでの培養効率に資すると共に、下段にいくほど彩光30bが遮られ上段にいくほど多くの彩光30bが得られるため、彩光条件の異なる種苔を同時に培養することが可能であり、さらには、出荷に際してトレーのまま運搬することができるため、流通効率を高めることが可能となる。
【0034】
尚、培養トレー11を複数段重ね合わせる態様について、本発明では、一の培養トレー11の上方に他の培養トレー11を直接に重ねる態様を採用するものである。
【実施例2】
【0035】
他の実施例について、図2を用いて説明する。実施例1と同様の部分は省略する。
図2は、本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図であり、(a)は培養トレー11に透水シート15を被覆させた状態を示し、(b)は培養トレー11に遮光シート16を被覆させた状態を示す。
本発明にかかる苔の培養方法10は、培養トレー11毎に、透水シート15又は遮光シート16を敷設若しくは被覆させた手段を採るものである。
【0036】
透水シート15は、上方からの水を下方へ透水可能なシート材であり、培養トレー11毎に各底面11aに敷設される。該透水シート15の素材については、透水可能であれば特に限定はなく、シート自体が透水性を有するシート素材で形成される態様が考え得る。尚、図示の様に、シート自体に複数の通水孔13を設けることで、機能的に透水性を発揮させることは可能であり、故にシートの素材自体は不透水性であっても構わない。
【0037】
該透水シート15について、図示の様に、販売形状規格寸法に合わせて切断することができる切り込みやミシン目15aを入れて形成することもできる。また、透水シート15を紙前駆体ならびに植物由来の植物繊維前駆体15bで形成することも考えられ、その場合、地植えに植え替えた場合に、土壌に回帰する素材で形成されているため、自然環境に優しい生産品の提供が可能である。尚、植物由来の素材としては、ヤシ繊維や木砕片などが考え得る。
【0038】
遮光シート16は、採光30bを遮るためのシートであって、培養トレー11毎あるいは積み上げられた培養トレー11の最上段上面若しくは全体に被覆される。該遮光シート16の具体的構成態様については、遮光性を有する常法のシート材を使用すれば足り、特に限定するものではなく、例えば農業又は園芸で使用される黒色の合成樹脂シートが使用される。
【0039】
以上の培養方法によって、本発明は実施される。すなわち、透水シート15の敷設により、種苔Tの育成に重要な根圏の通気や通水を持続させて、根詰まりを防止すると共に、悪性菌の侵入防止、老廃物の除外、PH、ECの矯正が即時にでき、さらに、常に根圏の環境を良好に保つことで、苔の育成が順調に行え、優良な移植用苔が生産できる。尚、培養トレー11の底面11aに形成された通水孔13から、土砂等の生育基盤材19が抜け落ちてしまうのを防止する機能をも果たし得る苔の培養方法10を提供するものである。また、遮光シート16の被覆により、必要に応じて人工的に彩光30b条件の設定が可能であると共に、彩光30bを好む品種と採光30bを嫌う品種とを同時に培養することが可能な苔の培養方法10を提供するものである。
【実施例3】
【0040】
他の実施例について、図3を用いて説明する。実施例1乃至2と同様の部分は省略する。
図3は、本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。
本発明にかかる苔の培養方法10は、培養トレー11を重ね合わせた最上段に遮蔽蓋17を被覆させた手段を採るものである。
【0041】
遮蔽蓋17は、積み上げられた培養トレー11の最上段上面を遮蔽するための蓋体であって、培養トレー11の大きさに合わせて成形される。素材については特に限定はないが、培養トレー11と同材質であることが好ましい。該遮蔽蓋17は、トレー内の水分の蒸発を抑制して湿度30d維持を図ったり、日光の透過を遮断して採光30b度合いを調整したり、有害虫の飛来を抑止したり、必要以上の散水30aを抑止したり、トレー内温度30cの急変を抑制するなど、多機能な役割を有するものである。尚、図示していないが、遮蔽蓋17に通水用の孔を形成して、蓋をした状態で上方からの散水30aに対しても通水可能とする態様も考え得る。
【0042】
以上の培養方法によって、本発明は実施される。すなわち、積み上げられた培養トレー11の最上段上面を必要に応じて遮蔽蓋17で遮蔽することで、散水30a、彩光30b、温度30c、湿度30dの調整を人工的に設定することが容易にできると共に、害虫被害にも資する苔の培養方法10を提供することが可能となる。
【実施例4】
【0043】
他の実施例について、図4を用いて説明する。実施例1乃至3と同様の部分は省略する。
図4は、本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。
本発明にかかる苔の培養方法は、所定環境下について、人工的に環境条件を創出するものである。すなわち、外界と仕切られた培養空間20を用い、該培養空間20について人工的に環境条件を創出可能とするもので、散水30a、彩光30b、温度30c、湿度30dから選択される少なくとも一の環境設定機能が備えられて成る手段を採るものである。
【0044】
具体的な培養空間20の例としては、ビニールハウスやプレハブハウス、太陽光発電を組み合わせたハウス等の培養施設が考え得る。かかる培養空間20には、各種環境設定機能が備えられている。具体的には、シャワーなどによる散水30aを行う散水機能、自然光を取り入れたりLEDを用いた人工太陽光による採光30bを行う採光調節機能、ボイラーやクーラーといった空調機などによる温度30cの調整を行う温度調節機能、加湿器や除湿器などによる湿度30dの調整を行う湿度調節機能、といった環境設定機能が選択的に備えられる設備である。
【0045】
かかる培養空間20について、図示されてはいないが、床面や内壁面に反射材を備える態様が考え得る。すなわち、反射材は、光を反射させる機能を有するもので、培養空間20の床面あるいは内壁面のいずれか一方若しくは両方に敷設される。このとき、床面や内壁面の全体に反射材を敷設する態様のほか、床面や内壁面の限られた一部にのみ反射材が敷設される態様も採り得る。このように反射材が床面や内壁面に敷設される態様を採用することで、採光30bが反射材により効果的に反射することとなって、光が届き難い中段や下段の培養トレー11に対しても光を行き届かせて採光30bの作用効果を奏することができ、光を好む苔が中下段に播種されたとしても、問題なく培養することが可能となる。
【0046】
以上の培養方法によって、本発明は実施される。すなわち、各種環境設定機能が備えられた培養空間20において苔の培養がなされることで、天候など自然環境に影響されることなく、良好な環境下で培養可能であると共に、生育状況が均一で高品質の苔を生産することが可能となる。
【実施例5】
【0047】
他の実施例について、図4を用いて説明する。実施例1乃至4と同様の部分は省略する。
図5は、本発明にかかる他の苔の培養方法を示す説明図である。
本発明にかかる苔の培養方法10は、培養空間20に、自然環境条件(自然光40a、雨40b、風40c)を取り入れることができる開閉式扉が備えられている手段を採るものである。
【0048】
培養空間20に備えられる開閉式扉の具体的な構成態様については、自然環境条件を取り入れ可能な構造であれば特に限定はなく、窓の様な常法の開閉式手段を採用すれば足りる。
例えば、自然光40aを取り入れるために、培養空間20の天井部(屋根)や側壁部に外界に通じる開閉可能な窓を形成する態様などが考え得る。同様に、雨40bを取り入れるために、培養空間20の天井部(屋根)に外界に通じる開閉可能な窓を形成する態様などが考え得る。さらに同様に、風40cを取り入れるために、培養空間20の側壁部に外界に通じる開閉可能な窓を対向して形成する態様などが考え得る。尚、開閉動作は、機械式であると手動式であるとを問うものではない。
【0049】
尚、培養空間20について、床面や内壁面に反射材を備える態様が考え得ることは、既述の通りである。かかる反射材が床面や内壁面に敷設される態様を採用することで、採光30bや自然光40aが反射材により効果的に反射することとなって、光が届き難い中段や下段の培養トレー11に対しても光を行き届かせて採光30bや自然光40aの作用効果を奏することができ、光を好む苔が中下段に播種されたとしても、問題なく培養することが可能となる。
【0050】
以上の培養方法によって、本発明は実施される。すなわち、培養空間20が、天井部(屋根)や側壁部(窓)の開放による自然光40aの取り入れや、天井部(屋根)の開閉による雨40bの取り入れ、対向する側壁部(窓)の開放による風40cの取り入れが可能な開閉式扉を環境設定機能と共に併存することによって、自然環境条件を有効に取り入れることが可能となり、人工的に環境条件を設定する維持管理コストを大幅に削減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、培養トレーを複数段重ね合わせることによって、省スペース化による培養効率及び生産効率の向上に資すると共に、運搬性向上による流通効率を高め、さらに高品質の苔を均一に生産することが可能となるものである。しかも、培養時において、彩光条件が異なるなど多品種の苔を同時且つ同所にて培養することが可能であり、あらゆる品種の苔の培養に利用することができることから、本発明にかかる「苔の培養方法」の産業上の利用可能性は極めて大であるものと思料する。
【符号の説明】
【0052】
10 培養方法
11 培養トレー
11a 底面
11b 側面
12 通気孔
13 通水孔
14 積み重ね段差
15 透水シート
15a 切り込みやミシン目
15b 紙前駆物ならびに植物繊維前駆物
16 遮光シート
17 遮蔽蓋
18 取っ手穴
19 生育基盤材
20 培養空間
30a 散水
30b 彩光
30c 温度
30d 湿度(噴霧)
40a 自然光
40b 雨
40c 風
T 種苔
図1
図2
図3
図4
図5