(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】多電子酸化還元触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 31/22 20060101AFI20230303BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230303BHJP
C07D 487/22 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
B01J31/22 M
H01M4/90 Y
C07D487/22
(21)【出願番号】P 2018223005
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩良
(72)【発明者】
【氏名】窪田 陸
(72)【発明者】
【氏名】青山 友和
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034152(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0050331(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0254890(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86-4/98
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7~14員環のククルビット構造を有する環状化合物と、
該環状化合物中に包摂される嵩高化合物とからなる触媒であって、
該嵩高化合物は、下記化学式(I)で表される金属ポルフィリン化合物と、下記化学式(I)で表される金属ポルフィリン化合物、下記化学式(II)で表され
る金属ピアレン又は下記化学式(III)で表される金属サレンとの2分子であ
り、当該2分子が共に上記金属ポルフィリン化合物である場合には両者共に同じ化合物であることを特徴とする多電子酸化還元触媒。
【化1】
【化2】
上記各式中、M1およびM2は、それぞれ同一または異なる原子であって
、Fe、Co、MoまたはZnを示す。
R5~R8は、それぞれ同一または異なる基であって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ポルフィリン錯体と金属ピアレンあるいは金属サレンが、ククルビット[10]ウリル等の環状化合物内部に包摂された新規な超分子系の多電子酸化還元触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、その高いエネルギー密度や、燃焼により二酸化炭素を排出しない等という特長から、次世代型の高効率発電手段として脚光を浴びている。一方水素には、常温常圧で気体であるため長距離輸送が困難である、保存容器からの漏洩が容易に起こる、空気との混合により爆発が起こるといった深刻な課題が残されている。従って、水素を安定的に保存する方法論の確立は、水素をエネルギー源として有効利用する水素社会の実現には必須であると言える。
水素を安定的に保存するには、化合物中への水素原子の導入(水素キャリア)が有効である。例えば、二酸化炭素の還元により生じる化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン)や、窒素の還元により生じる化合物(ヒドラジン、アンモニア)は水素キャリアとして扱われる。
水素キャリアを効率よく生成する従来のアプローチとして、金属二核錯体触媒が挙げられる。二つの金属の共同的な触媒反応により効率的な水素キャリア生成が可能であるが、従来のアプローチでは、水素キャリアの化学構造に応じた複雑な分子設計、触媒合成が求められるのが現状である。
従って、水素社会の実現には、水素キャリアとして着目されている様々な化合物に適用可能となる統一的な触媒技術の確立が求められる。また、資源の枯渇を避けるという観点から、天然に豊富に存在する金属を用いることが求められる。
そこで、種々提案がなされており、例えば非特許文献1ではアンモニア生成を起こす触媒として、稀少金属であるルテニウムを用いた金属二核錯体が提案されている。また、非特許文献2ではギ酸生成を起こす触媒としてルテニウムを用いた金属二核錯体が提案されている。
また、本発明者らは、特許文献1において、水系溶媒中において様々な構造を容易に形成でき、かつ天然に豊富に存在する金属種を用いて高い酸化還元反応性を示す多電子酸化還元触媒として、7~14員環のククルビット構造を有する環状化合物と、金属ポルフィリン化合物と、金属ポルフィリン化合物及び金属ビピリジン化合物からなる群より選択される化合物との2分子が包摂されている多電子酸化還元触媒を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y. Arikawa et al., J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 842~847.
【文献】T, Ono et al., ChemCatChem, 2013, 5, 3897~3903.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の非特許文献の提案にかかる触媒では、ルテニウムといった高価な金属を用いる必要があり、未だ十分な触媒活性が得られていない。また、上述の特許文献にかかる提案では、高い触媒活性は得られているものの、より高い触媒活性、特に水素製造に際しての触媒活性の要求を満足できていない。このため、より高い触媒活性、特に水素製造に際しての触媒活性に優れた触媒の開発が要望されている。
したがって、本発明の目的は、高価な金属を用いることなく、より高い触媒活性、特に水素製造に際しての触媒活性に優れた多電子酸化還元触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、検討したところ、特定の金属ポルフィリンと特定の金属サレンとをククルビット化合物で包摂した金属錯体が高い触媒効果を呈することを知見し、更にポルフィリンと組み合わせることが有効な化合物を検討し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.7~14員環のククルビット構造を有する環状化合物と、
該環状化合物中に包摂される嵩高化合物とからなる触媒であって、
該嵩高化合物は、下記化学式(I)で表される金属ポルフィリン化合物と、下記化学式(I)で表される金属ポルフィリン化合物、下記化学式(II)で表される該金属ピアレン又は下記化学式(III)で表される金属サレンとの2分子であることを特徴とする多電子酸化還元触媒。
【化1】
【化2】
上記各式中、M1およびM2は、それぞれ同一または異なる原子であって、遷移金属元素又は卑金属元素を示す。
R5~R8は、それぞれ同一または異なる基であって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示す。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多電子酸化還元触媒は、高価な金属を用いることなく、より高い触媒活性、特に水素製造に際しての触媒活性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、実施例1で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図2】
図2(a)及び(b)は、実施例2で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図3】
図3(a)及び(b)は、実施例3で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、実施例3で得られたjob’s plotの結果を示すチャートである。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、実施例4で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、実施例5で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図7】
図7(a)及び(b)は、実施例6で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、実施例7で得られた多電子酸化還元触媒の錯体形成挙動の追跡チャートである。
【
図9】
図9は、実施例8で得られたFeTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図10】
図10は、実施例9で得られたFeTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図11】
図11は、実施例10で得られたFeTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図12】
図12は、実施例11で得られたFeTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図13】
図13は、実施例12で得られたFeTM-4-PyP/ Fe-Pyalen/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図14】
図14は、実施例13で得られたFeTM-4-PyP/Co-Pyalen/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図15】
図15は、実施例14で得られた(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図16】
図16は、実施例15で得られた(trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図17】
図17は、実施例16で得られた(trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]の紫外可視吸収スペクトルのチャートである。
【
図18】
図18は、実施例17で行ったサイクリックボルタンメトリー測定結果を示すチャートである。
【
図19】
図19(a)及び(b)は、それぞれ実施例18で行ったグルコース改質反応後のガスクロマトグラフ測定結果を示すチャートである。
【
図20】
図20(a)及び(b)は、それぞれ実施例19で行った窒素還元反応の結果を示すチャートであり、(a)はヘリウム雰囲気下におけるサイクリックボルタモグラムを示し、(b)は窒素雰囲気下におけるサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の多電子酸化還元触媒は、環状化合物と、該環状化合物中に包摂される嵩高化合物とからなる。
<環状化合物>
本発明において上記環状化合物として用いられる化合物は、7~14員環、好ましくは10~14員環、最も好ましくは10員環のククルビット構造を有する化合物(以下「ククルビット化合物」という)である。
上記ククルビット化合物としては、ククルビット[10]ウリル(以下、「CB[10]」という)、ククルビット[8]ウリル(以下、「CB[8]」という)、ククルビット[7]ウリル(以下、「CB[7]」という)、ククルビット[14]ウリル(以下、「CB[14]」という)等を挙げることができる。CB[10]の構造式を以下に示す。
【化3】
上記ククルビット化合物は、公知の手法、たとえば実施例に記載の方法などを用いて得ることができる。
【0010】
<嵩高化合物>
本発明において用いられる上記嵩高化合物は、下記化学式(I)で表される金属ポルフィリン化合物と、下記化学式(I)で表される金属ポルフィリン化合物、下記化学式(II)で表される該金属ピアレン又は下記化学式(III)で表される金属サレンとの2分子である。
【化4】
【化5】
また、R5、R6、R7、R8は、それぞれ同一または異なる置換基であって、それぞれ、水素原子、アルキル基、又はアルコシキ基を示す。
アルキル基及びアルコシキ基の炭素数は、1~10であるのが好ましく、1~5であるのが更に好ましい。具体的には、アルキル基としては、-CH
3、-CH
2CH
3、-CH
2CH
2CH
3、-CH
2CH
2CH
2CH
3等を挙げることができ、アルコシキ基としては、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-CH
2CH
2OCH
3 等を挙げることができる。
M1およびM2は、それぞれ同一または異なる原子であって、遷移元素、卑金属元素を示す。
上記遷移元素としてはFe,Ni,Cu,Ru,Ir,Rh,Re等を挙げることができ、上記卑金属元素としては、Zn,Mg,Mn,Co,Mo等を挙げることができる。
上記M1および上記M2としては、特に好ましくはMo、Fe又はCoである。
上記嵩高化合物は、それぞれ実施例に記載の手法などを用いて得ることができる。
上記金属ポルフィリン化合物としては具体的には以下の化合物などを挙げることができる。
【化6】
また、上記金属ピアレン及び上記金属サレンとしては具体的には以下の化合物などを挙げることができる。
【化7】
【0011】
<具体例>
上記環状化合物と上記嵩高化合物とからなる本発明の多電子酸化還元触媒としては以下の構造式で表される化合物等を好ましく挙げることができる。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0012】
<製造方法>
本発明の多電子酸化還元触媒は、一つの嵩高化合物の水溶液に環状化合物を添加し、0~100℃にて1~60分間、超音波処理する等して反応を行った後、得られた水溶液にもう一つの嵩高化合物の水溶液を加え、緩衝液を添加して撹拌混合することで、反応を行い、得ることができる。
【0013】
<使用方法・効果>
本発明の多電子酸化還元触媒は、各種酸化還元反応において触媒として用いることができるが、特に、下記する反応系において好ましく用いることができ、これらの反応系においては触媒を用いない場合に比して数倍の反応効率の向上を図ることも可能である。
(反応系)
酸素を原料とし、アスコルビン酸を還元剤とする反応系(酸素の四電子還元反応)
水素燃料電池用電極触媒(カソード電極における酸素の四電子還元反応)
水素イオンを基質とし、電気化学的に水素ガスを発生させる反応系
二酸化炭素とエポキシ化合物を原料とし、シクロカーボネートを目的物とする反応系
二酸化炭素を電気化学的に還元する反応系
水の分解により水素と酸素を発生させる電気化学反応系
水の分解により水素と酸素を発生させる光化学反応系
水とアルコールを原料とし、二酸化炭素と水素を目的物とする反応系
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、多電子酸化還元触媒の合成確認には、汎用性の高い手法であるUV/visスペクトル測定を用いた。(たとえば、当該UV/visスペクトル測定の先行論文として S.Liu et al.,Angew. Chem. Int. Ed.,2008,47,2657~2660を参照)
〔実施例1〕
CoTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Salenの合成、(4)SalenへのCo導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Co-Salen/CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1)CoTM-4-PyPの合成
出発原料として、5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィン(Aldrich社製)、p-トルエンスルホン酸メチル(東京化成社製)、塩化コバルト六水和物(II)(関東化学製)を用いた。
(a)5,10,15,20-テトラ(4-メチルピリジニウム)-21H,23H-ポルフィン(H2TM-4-PyP)の合成
【化15】
50mgの5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィン(0.081mmol)と10mLのp-トルエンスルホン酸メチル(66.3mmol)を、窒素雰囲気下30mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中110℃で24時間加熱還流した。
24時間後、反応の進行はシリカTLC(アセトニトリル/水/KNO3aq)=(8/2/1)により確認した。DMFはエバポレートにより除去し、未反応のp-トルエンスルホン酸メチルは分液(クロロホルム/水)により除去した。分液後、水層にヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NH4PF6)を添加し、紫色固体を得た。紫色固体をアセトンに溶解させ、テトラブチルアンモニウムクロリド添加により生じた紫色固体をろ過により回収し、目的物H2TM-4-PyPを得た。収量は45.2mg、収率は68.2%であった。
合成の確認は、先行報告に従い1H-NMRにより行った。
【0015】
(b)CoTM-4-PyPの合成
【化16】
H2TM-4-PyP(50mg, 0.061mmol)と塩化コバルト六水和物(II)(300 mg, 0.366mmol)を76.8 mLの水に溶解させ、塩酸を用いてpH4に合成し、窒素雰囲気下100℃で加熱還流した。反応進行はシリカTLC(アセトニトリル/水/KNO3aq)=(8/2/1)により確認した。
反応後、析出した赤褐色沈殿をろ過により除去し、ろ液にヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NH4PF6)を添加し、紫色固体を得た。紫色固体をアセトンに溶解させ、テトラブチルアンモニウムクロリド添加により生じた紫色固体をろ過により回収し、目的物CoTM-4-PyPを得た。収量は60mg、収率は32.1%であった。
【0016】
(2)CB[10]の合成
出発原料として、グリコールウリル(Aldrich社製)、パラホルムアルデヒド(Aldrich社製)、シアヌル酸クロリド(東京化成社製)、4-[(N-Boc)アミノメチル]アニリン(Aldrich社製)を用いた。
(a) CB[5]/CB[10]の合成
【化17】
グリコールウリル(53g,0.37mol)とパラホルムアルデヒド(23.6g,0.75mol)を粉末状態でよく混合した。4℃に冷却した濃塩酸75.3mLを加え。アイスバス中で溶液がゲル化するまで攪拌した。次に、オイルバス中110℃で17時間加熱還流した。
反応後、反応溶液を水で10倍に希釈し、析出した白色固体をろ過により回収し、真空オーブン中50℃で一晩乾燥した。得られた固体を濃塩酸中100℃で繰り返し再結晶することにより、目的物であるCB[5]/CB[10]を得た。収量は0.8g、収率は2%であった。合成の確認は、先行報告に従い1H-NMR測定により行った。
【0017】
(b)内部CB[5]を除去するゲスト分子(中間体2)の合成
(i)中間体1の合成
【化18】
4-[(N-Boc)アミノメチル]アニリン(1.0g, 4.5mmol)を3.3 mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。シアヌル酸クロリド(0.40g, 2.2mmol)と0.67 mLのN,N-ジイソプロピルエチルアミンを溶液に添加し、0℃で2時間攪拌し、さらに室温で24時間攪拌した。反応後,反応液を濾過し溶媒をエバポレートし、目的物である中間体1を得た。収量は0.95g、収率は86.4%であった。
【0018】
(ii)中間体2の合成
【化19】
中間体1 (0.3g, 0.54mmol)を、水5 mL/トリフルオロ酢酸3 mLの混合溶媒に溶解させ、85℃で10時間加熱還流した。反応後、反応液を室温まで放冷し、冷蔵庫中(4℃)で1日間静置した。析出した結晶を濾過により回収し、目的物である中間体2を得た。収量は280 mg、収率は92%であった。合成の確認は1H NMR測定により行った。
【0019】
(b) CB[10]の合成
【化20】
CB[5]/CB[10](0.70g, 0.26mmol)と中間体2(0.73g, 1.30mmol)を170 mLの水に溶解させ90℃で30分間加熱還流した。反応後、溶液を空冷し濾液を濾過により回収した。濾液を40 mLまで濃縮し冷蔵庫(4℃)中で2時間静置、濾過し濾液を回収した。濾液をエバポレートにより乾固し、得られた固体を50mLのメタノールで繰り返し洗浄することで、CB[10]・中間体2(0.39g, 0.18mmol)を得た。
CB[10]・中間体2(0.37g,0.50mmol)を10mLの無水酢酸に懸濁させ100℃で16時間加熱還流した。沈殿を遠心分離により回収し、20mLのメタノール、20mLのジメチルスルホキシド、及び20 mLの水で洗浄した。固体を真空オーブン中で乾燥させることで、目的物であるCB[10](200mg, 0.12mmol)を得た。収率は73%であった。
【0020】
(3)Salenの合成
出発原料として、エチレンジアミン(東京化成社製)、サリチルアルデヒド(東京化成社製)、o-バニリン(東京化成社製)、1.3ジアミノプロパン(東京化成社製)、ピリジン-2-カルボキシアルデヒド(東京化成社製)を用いた。
メタノール332.7 mlにエチレンジアミン(1.0g, 0.017mol)とサリチルアルデヒド(4.06g, 0.033mol)を加え、室温で1日攪拌した。生成した沈殿物を濾過により回収し、真空オーブン中30℃で一晩乾燥した。目的物は収量2.60g、収率58.3%であった。合成の確認は、先行報告に従い、1H-NMR測定により行った。
(4)Co-Salenの合成
メタノール50mlに上述(3)(0.32g, 1.2mmol)を加え、そこに塩化コバルト六水和物(II) (関東化学製) (0.238g, 1mmol)を溶かし、塩酸を用いてpH 4に合成し、1時間室温で攪拌した。沈殿物を濾過にて回収しアセトンでよく洗浄し、真空オーブン中40℃で一晩乾燥させることにより目的物を収量42mg、収率26.1%で得た。合成の確認はFAB-MS測定により行った。
【0021】
(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
【化21】
CoTM-4-PyP 1.0mgを5mLの水に溶解させた。溶液にCB[10] 2.6mgを添加し、室温で10分間超音波処理した。未反応のCB[10]をフィルター濾過により除去し、CoTM-4-PyP/CB[10]を水溶液として得た。CoTM-4-PyP/CB[10]形成は定量的に進行した。合成の確認は、UV/visスペクトルにより行った。
(6)CoTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]の合成
【化22】
式中、MはCoを示す。
図1(a)に示す結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるCo-Salenを添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図1(b)に示すように434 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示している。これらのことから、CB[10]内部でCoTM-4-PyPとCo-Salenが二核錯体を形成していることがわかる。
【0022】
〔実施例2〕
CoTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Salenの合成、(4)Salenへの金属導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Fe -Salen/CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1) CoTM-4-PyPの合成は上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(2) CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3) Salenの合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(4) Fe-Salenの合成(SalenへのFe導入)
メタノール50 mlに上述(3)(0.32 g,1.2 mmol)を加え、そこに塩化鉄(II)(関東化学製) (0.200 g,1 mmol)を溶かし、塩酸を用いてpH 4に合成し、1時間室温で攪拌した。沈殿物を濾過にて回収しアセトンでよく洗浄し、真空オーブン中40℃で一晩乾燥させることにより目的物を収量103 mg、収率31.9%で得た。合成の確認はFAB-MS測定により行った。
(5) CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(6)CoTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]の合成
【化23】
式中、MはCoを示す。
CoTM-4-PyP/Fe-Salen /CB[10]の合成は、Fe-Salenの粉末をCoTM-4-PyP/CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。本実施例では合成確認として紫外・可視吸収スペクトルを用いた測定を行うため、以下の水溶液を合成した。
1)メタノール水溶液(160 μM)
2)Fe-Salenの160μM 水溶液。
3)CoTM-4-PyP/CB[10]の160μM水溶液。
そして、1)を(2000-X) μL、2)をXμL、3)を500μL、を添加し、合計2500μLリットルで一定とした。Xの値を変化させることで、異なる濃度のFe-Salenを添加した際の吸収スペクトル変化を追跡した。Xの値は0~2000まで変化させた。従って、添加したFe-Salenの濃度は、0~160μMであった。結果を
図2に示す。
図2(a)に示す結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるFe-Salenを添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図2(b)に示すように441 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示し、CB[10]内部でCoTM-4-PyPとFe-Salenが二核錯体を形成していることがわかる。
【0023】
〔実施例3〕
CoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Salenの合成、(4)SalenへのMo導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Mo-Salen/CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1)CoTM-4-PyPの合成は上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3)Salenの合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(4) SalenへのMo導入
THF 35 mlに上述の方法により合成したSalen (131.2 mg,0.0489 mmol)を加え、そこにヘキサカルボニルモリブデン(関東化学製) (125 mg,0.473 mmol)を加え22時間還流した。沈殿物を濾過し、クロロホルムで洗浄し、真空オーブン中で40℃で一晩乾燥させ目的物を収量150 mg、収率74.6%で得た。合成の確認は、先行報告に従い、
1H-NMR測定により行った。
(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(6)CoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]の合成
【化24】
式中、MはCoを示す。
CoTM-4-PyP/CB[10](10μM)に異なる濃度のMo-Salen(0~20μM)を添加し、その際の吸収スペクトル変化を紫外・可視吸収スペクトルを用いた測定を行った。結果を
図3(a)及び(b)に示す。
また、錯形成比を求めるために、job’s Plot法を用いた。20μMに合成したCoTM-4-PyP/CB[10]とMo-Salenの比を1:0~0:1まで変化させ、その際極大吸収スペクトル変化を追跡した。結果を
図4(a)及び(b)に示す。
図3(a)に示す結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるMo-Salenを添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図3(b)に示すように441 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示し、
図4(a)及び(b)に示すように、Job’s PlotからもCB[10]内部でCoTM-4-PyPとMo-Salenが二核錯体を形成していることがわかる。
【0024】
〔実施例4〕
CoTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3) Salen(OMe)の合成、(4)Salen(OMe)へのCo導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Co-Salen(OMe)/CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1)CoTM-4-PyPの合成は上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3) Salen(OMe)の合成
メタノール332.7 mlにエチレンジアミン(1.0 g, 0.017 mol)とo-バニリン(東京化成社製) (5.06 g,0.033 mol)を加え、室温で1日攪拌した。生成した沈殿物を濾過により回収し、真空オーブン中30℃で一晩乾燥した。目的物は収量5.46 g、収率80.8%であった。合成の確認は、先行報告に従い、
1H-NMR測定により行った。
(4) Salen(OMe)へのCo導入
メタノール50 mlに上述(3)(400 mg,1.2 mmol)を加え、そこに塩化コバルト六水和物(II)(0.238 g,1 mmol)を溶かし、塩酸を用いてpH 4に合成し、1時間室温で攪拌した。沈殿物を濾過にて回収しアセトンでよく洗浄し、真空オーブン中40℃で一晩乾燥させることにより目的物を収量253 mg、収率65.6%で得た。合成の確認はFAB-MS測定により行った。
(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(6)CoTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]の合成
【化25】
式中Mは、Coを示す。
CoTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]の合成は、Co-Salen(OMe)の粉末をCoTM-4-PyP/CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。本実施例では合成確認として紫外・可視吸収スペクトルを用いた測定を行うため、以下の水溶液を合成した。
1)メタノール水溶液(160μM)
2)Co- Salen(OMe)の160μM 溶液
3)CoTM-4-PyP/CB[10]の160μM水溶液
そして、1)を(2000-X)μL、2)をXμL、3)を500μL、を添加し、合計2500μLリットルで一定とした。Xの値を変化させることで、異なる濃度のCo-Salen(OMe)を添加した際の吸収スペクトル変化を追跡した。Xの値は0~2000まで変化させた。従って、添加したCo-Salen(OMe)の濃度は、0~160μMであった。結果を
図5に示す。
図5(a)に示すように結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるCo-Salen(OMe)を添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図5(b)に示すように441 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示し、CB[10]内部でCoTM-4-PyPとCo-Salen(OMe)が二核錯体を形成していることがわかる。
【0025】
〔実施例5〕
CoTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3) Salen(OMe)の合成、(4)Salen(OMe)へのFe導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Fe- Salen(OMe)/CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1)CoTM-4-PyPの合成は上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3) Salen(OMe)の合成は上述の実施例4と同様にして行い、目的物を得た。
(4) メタノール50 mlに上述(3)(400 mg,1.2 mmol)を加え、そこに塩化鉄(II)(関東化学製) (0.200 g,1 mmol)を溶かし、塩酸を用いてpH 4に合成し、1時間室温で攪拌した。沈殿物を濾過にて回収しアセトンでよく洗浄し、真空オーブン中40℃で一晩乾燥させることにより目的物を収量258 mg、収率67.5%で得た。合成の確認はFAB-MS測定により行った。
(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(6)CoTM-4-PyP/Fe- Salen(OMe)/CB[10]の合成
【化26】
式中MはCoを示す。
CoTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]の合成は、Fe-Salen(OMe)の粉末をCoTM-4-PyP/CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。本実施例では合成確認として紫外・可視吸収スペクトルを用いた測定を行うため、以下の水溶液を合成した。
1)メタノール水溶液(160μM)
2)Fe-Salen(OMe)の160μM 水溶液
3)CoTM-4-PyP/CB[10]の160μM水溶液
そして、1)を(2000-X)μL、2)をXμL、3)を500μL、を添加し、合計2500μLリットルで一定とした。Xの値を変化させることで、異なる濃度のFe-Salen(OMe)を添加した際の吸収スペクトル変化を追跡した。Xの値は0~2000まで変化させた。従って、添加したFe-Salen(OMe)の濃度は、0~160μMであった。結果を
図6に示す。
図6(a)に示すように結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるFe-Salen(OMe)を添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図6(b)に示すように441 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示し、CB[10]内部でCoTM-4-PyPとFe-Salen(OMe)が二核錯体を形成していることがわかる。
【0026】
〔実施例6〕
CoTM-4-PyP/Co-Pyalen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/ Co-Pyalen /CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3) 1.3-〔Bis(Pyridine-2-Imino)〕Propane(以下Pyalen)の合成、(4)PyalenへのCo導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Co-Pyalen/CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1)CoTM-4-PyPの合成は上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3) Pyalenの合成
ディーンスターク装置を組み立て、そこにトルエン50 mlに1.3ジアミノプロパン(東京化成社製) (0.74 g,0.01 mol)を溶かし、さらにピリジン-2-カルボキシアルデヒド(東京化成社製) (2.14 g,0.02 mol)を加えた。ディーンスターク管に水が出てこなくなるまで反応させた。反応液をエバポレートにより溶媒を飛ばし、目的物を得た。収量は1.8 g、収率は71.4%であった。合成の確認は、先行報告に従い、
1H-NMR測定により行った。
(4) メタノール50 mlに上述(3)(300 mg,1.2 mmol)を加え、そこに塩化コバルト六水和物(II)(0.238 g,1 mmol)を溶かし、塩酸を用いてpH 4に合成し、1時間室温で攪拌した。沈殿物を濾過にて回収しアセトンでよく洗浄し、真空オーブン中40℃で一晩乾燥させることにより目的物を収量300 mg、収率95.0%で得た。合成の確認はFAB-MS測定により行った。
(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(6)CoTM-4-PyP/ Co-Pyalen/CB[10]の合成
【化27】
式中MはCoを示す。
CoTM-4-PyP/ Co-Pyalen /CB[10]の合成は、Co-Pyalenの粉末をCoTM-4-PyP/CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。本実施例では合成確認として紫外・可視吸収スペクトルを用いた測定を行うため、以下の水溶液を合成した。
1)水
2)Co-Pyalenの160μM 水溶液
3)CoTM-4-PyP/CB[10]の160μM水溶液
そして、1)を(2000-X)μL、2)をXμL、3)を500μL、を添加し、合計2500μLリットルで一定とした。Xの値を変化させることで、異なる濃度のCo-Pyalenを添加した際の吸収スペクトル変化を追跡した。Xの値は0~2000まで変化させた。従って、添加したCo-Pyalenの濃度は、0~160μMであった。結果を
図7に示す。
図7(a)に示すように結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるCo-Pyalenを添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図7(b)に示すように441 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示し、CB[10]内部でCoTM-4-PyPとCo-Pyalenが二核錯体を形成していることがわかる。
【0027】
〔実施例7〕
CoTM-4-PyP/Fe-Pyalen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「CoTM-4-PyP/ Fe-Pyalen /CB[10]」の合成。
合成は、(1)CoTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Pyalenの合成、(4)PyalenへのFe導入(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成、(6)Co TM-4-PyP/ Fe-Pyalen /CB[10]の合成の6ステップで行った。
(1)CoTM-4-PyPの合成は上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3) Pyalenの合成
上述の実施例6と同様にして行い、目的物を得た。
(4) PyalenへのFe導入
メタノール50 mlに上述(3)(300 mg,1.2 mmol)を加え、そこに塩化鉄(II)(関東化学製) (0.200 g,1 mmol)を溶かし、塩酸を用いてpH 4に合成し、1時間室温で攪拌した。沈殿物を濾過にて回収しアセトンでよく洗浄し、真空オーブン中40℃で一晩乾燥させることにより目的物を収量307 mg、収率99.0%で得た。合成の確認はFAB-MS測定により行った。
(5)CoTM-4-PyP/CB[10]の合成
上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(6)CoTM-4-PyP/ Fe-Pyalen /CB[10]の合成
【化28】
式中MはCoを示す。
CoTM-4-PyP/ Fe-Pyalen/CB[10]の合成は、Fe-Pyaleeの粉末をCoTM-4-PyP/CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。本実施例では合成確認として紫外・可視吸収スペクトルを用いた測定を行うため、以下の水溶液を合成した。
1)メタノール水溶液(160 μM)
2)Fe-Pyalenの160μM 水溶液
3)CoTM-4-PyP/CB[10]の160μM水溶液
そして、1)を(2000-X)μL、2)をXμL、3)を500μL、を添加し、合計2500μLリットルで一定とした。Xの値を変化させることで、異なる濃度のFe-Pyalenを添加した際の吸収スペクトル変化を追跡した。Xの値は0~2000まで変化させた。従って、添加したFe-Pyalenの濃度は、0~160μMであった。結果を
図8に示す。
図8(a)に示すように結果から明らかなように、濃度一定のCoTM-4-PyP/CB[10]に対して、濃度の異なるFe-Pyalenを添加した結果、極大吸収であるソーレー帯とQ帯に大きな変化が観測された。また
図8(b)に示すように、435 nmにおけるプロットは1:1のフィッティングカーブを示し、CB[10]内部でCoTM-4-PyPとFe-Pyalenが二核錯体を形成していることがわかる。
【0028】
〔実施例8〕
FeTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「FeTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]」の合成。
合成は、(1)FeTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Co-Salenの合成、(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成、(5)FeTM-4-PyP/ Co-Salen/CB[10]の合成の5ステップで行った。
(1) FeTM-4-PyPの合成
出発原料として、5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィン(Aldrich社製)、p-トルエンスルホン酸メチル(東京化成社製)、塩化鉄(II)四水和物(関東化学製)を用いた。
(a) 5,10,15,20-テトラ(4-メチルピリジニウム)-21H,23H-ポルフィン(H2TM-4-PyP)の合成
実施例1記載の合成法と同様にして目的物H2TM-4-PyPを得た。収量は45.2 mg、収率は68.2%であった。合成の確認は、先行報告に従い1H-NMRにより行った。
【0029】
(b) Fe(III)-5,10,15,20-テトラ(4-メチルピリジニウム)-21H,23H-ポルフィン(FeTM-4-PyP)の合成
【化29】
H2TM-4-PyP(50 mg, 0.061 mmol)と塩化鉄(II)(77 mg, 0.61 mmol)を20 mLの水に溶解させ、塩酸を用いてpH 4に合成し、窒素雰囲気下100℃で加熱還流した。反応進行はシリカTLC(アセトニトリル/水/KNO3aq)=(8/2/1)により確認した。
反応後、析出した赤褐色沈殿をろ過により除去し、ろ液にヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NH4PF6)を添加し、紫色固体を得た。紫色固体をアセトンに溶解させ、テトラブチルアンモニウムクロリド添加により生じた紫色固体をろ過により回収し、目的物FeTM-4-PyPを得た。収量は44.3 mg、収率は80%であった。
(2) CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3) Co-Salenの合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(4) FeTM-4-PyP/CB[10]の合成
【化30】
FeTM-4-PyP 1.0mgを5mLの水に溶解させた。溶液にCB[10] 2.6mgを添加し、室温で10分間超音波処理した。未反応のCB[10]をフィルター濾過により除去し、FeTM-4-PyP /CB[10]を水溶液として得た。FeTM-4-PyP/CB[10]形成は定量的に進行した。合成の確認は、UV/visスペクトルにより行った。
(6)FeTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]の合成
FeTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]の合成は、Co-Salenの粉末をFeTM-4-PyP /CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。
【化31】
合成により得られた化合物の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。結果を
図9に示す。
図9に示す結果から明らかなように、600 nm付近にあるFeTM-4-PyP/CB[10]の吸収帯(Q band)が短波長シフトした。また、424 nmのFeTM-4-PyP/CB[10]由来の吸収帯(Soret band)の吸光度が低下した。このような吸収スペクトル変化は、芳香環同士の相互作用により観られる。従って、FeTM-4-PyP/CB[10]内部へのCo-Salenの包接、即ちFeTM-4-PyP/Co-Salen/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0030】
〔実施例9〕
FeTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「FeTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10] 」の合成。
合成は、(1)FeTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Co-Salen(OMe)の合成、(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成、(5)FeTM-4-PyP/ Co-Salen(OMe)/CB[10]の合成の5ステップで行った。
(1)FeTM-4-PyPの合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3)Co-Salen(OMe)の合成は、上述の実施例4と同様にして行い、目的物を得た。
(4) FeTM-4-PyP/CB[10]の合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(5) FeTM-4-PyP/ Co-Salen(OMe)/CB[10]の合成
FeTM-4-PyP/Co-Salen(OMe )/CB[10]の合成は、Co-Salen(OMe )の粉末をFeTM-4-PyP /CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。
【化32】
合成により得られた化合物の確認は紫外可視吸収スペクトル測定により行った、結果を
図10に示す。
図10において、青線は FeTM-4-PyP/CB[10]の吸収スペクトルを、赤線は FeTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]の吸収スペクトルを示す。差スペクトルによる評価の結果、400 nmに新たな吸収帯が観測された。これはCB[10]内部での、FeTM-4-PyP及びCo-Salen(OMe)間のπ-π電荷移動相互作用に由来すると考えられる。従って、FeTM-4-PyP/Co-Salen(OMe)/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0031】
〔実施例10〕
FeTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「FeTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]の合成
合成は、(1)FeTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Fe-Salen(OMe)の合成、(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成、(5)FeTM-4-PyP/ Fe-Salen(OMe)/CB[10]の合成の5ステップで行った。
(1)FeTM-4-PyPの合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3)Fe-Salen(OMe)の合成は、上述の実施例5と同様にして行い、目的物を得た。
(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(5) FeTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]の合成
FeTM-4-PyP/ Fe-Salen(OMe)/CB[10]の合成は、Fe-Salen(OMe)の粉末をFeTM-4-PyP /CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。
【化33】
合成により得られた化合物の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。結果を
図11に示す。
図11において、 青線は FeTM-4-PyP/CB[10]の、 赤線は FeTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]の吸収スペクトルである。 Fe-Salen(OMe)の粉末を添加し、超音波処理することでFeTM-4-PyP骨格由来の吸光度の減少が観られた。これはFe-Salen(OMe)の包接により、FeTM-4-PyP周りの環境が疎水的になったためであると考えられる。また、600 nm付近のFeTM-4-PyP/CB[10] 由来の吸収が短波長シフトした。これは、FeTM-4-PyPとFe-Salen(OMe)との会合によるものであると考えられる。従って、FeTM-4-PyP/Fe-Salen(OMe)/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0032】
〔実施例11〕
FeTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「FeTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]」の合成
合成は、(1)FeTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Fe-Salen(OMe)の合成、(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成、(5)FeTM-4-PyP/ Fe-Salen/CB[10]の合成の5ステップで行った。
(1)FeTM-4-PyPの合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3)Fe-Salenの合成は、上述の実施例2と同様にして行い、目的物を得た。
(4) FeTM-4-PyP/CB[10]の合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(5) FeTM-4-PyP/ Fe-Salen/CB[10]の合成
FeTM-4-PyP/ Fe-Salen/CB[10]の合成は、Fe-Salenの粉末をFeTM-4-PyP /CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。
【化34】
合成により得られた化合物の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。結果を
図12に示す。
図12において、青線は FeTM-4-PyP/CB[10]の、 赤線: FeTM-4-PyP/Fe-Salen]CB[10]の吸収スペクトルである。Fe-Salenの粉末を添加し、超音波処理することでFeTM-4-PyP骨格由来の吸光度の減少が観られた。これは、Fe-Salenの包接によりFeTM-4-PyP周りの環境が疎水的になったためであると考えられる。また、600 nm付近のFeTM-4-PyP/CB[10] 由来の吸収が短波長シフトした。これは、FeTM-4-PyPとFe-Salenとの会合によるものであると考えられる。従って、FeTM-4-PyP/Fe-Salen/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0033】
〔実施例12〕
FeTM-4-PyP/Fe-Pyalen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「FeTM-4-PyP/Fe-Pyalen/CB[10]の合成
合成は、(1)FeTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Fe-Pyalenの合成、(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成、(5)FeTM-4-PyP/ Fe-Pyalen/CB[10]の合成の5ステップで行った。
(1)FeTM-4-PyPの合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3)Fe-Pyalenの合成は、上述の実施例7と同様にして行い、目的物を得た。
(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(5) FeTM-4-PyP/ Fe-Pyalen /CB[10]の合成
FeTM-4-PyP/ Fe-Pyalen /CB[10]の合成は、Fe-Pyalen の粉末をFeTM-4-PyP /CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。
【化35】
合成により得られた化合物の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。結果を
図13に示す。
図13に示すように、濃度一定のFeTM-4-PyP/CB[10]に対し、異なる濃度のFe-Pyalenを逐次添加した結果、FeTM等吸収点を維持しながら有意な吸収スペクトル変化が観測された。また、FeTM-4-PyP/CB[10]由来のSoret帯の吸光度の減少及びQ帯の短波長シフトが観測された。これらは、CB[10]内部におけるFeTM-4-PyPとFe-Pyalenとの相互作用に由来する。従って、FeTM-4-PyP/Fe-Pyalen/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0034】
〔実施例13〕
FeTM-4-PyP/Co-Pyalen/CB[10]からなる本発明の多電子酸化還元触媒「FeTM-4-PyP/Co-Pyalen/CB[10]の合成
合成は、(1)FeTM-4-PyPの合成、(2)CB[10]の合成、(3)Co-Pyalenの合成、(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成、(5)FeTM-4-PyP/ Co-Pyalen/CB[10]の合成の5ステップで行った。
(1)FeTM-4-PyPの合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(2)CB[10]の合成は、上述の実施例1と同様にして行い、目的物を得た。
(3)Co-Pyalenの合成は、上述の実施例6と同様にして行い、目的物を得た。
(4)FeTM-4-PyP/CB[10]の合成は、上述の実施例8と同様にして行い、目的物を得た。
(5) FeTM-4-PyP/Co-Pyalen/CB[10]の合成
FeTM-4-PyP/ Co -Pyalen /CB[10]の合成は、Co -Pyalen の粉末をFeTM-4-PyP /CB[10]水溶液に加えることで反応を行い、目的物を得た。
【化36】
合成により得られた化合物の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。結果を
図14に示す。
図14に示すように、濃度一定のFeTM-4-PyP/CB[10]に対して、異なる濃度のCo-Pyalenを逐次添加した結果、450 nm~500 nm付近における吸光度の増大及びQ帯の長波長シフトが観測された。これは、CB[10]内部におけるFeTM-4-PyPとCo-Pyalenとの電子的相互作用に由来する。従って、FeTM-4-PyP/Co-Pyalen/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0035】
[実施例14]
(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]からなる多電子酸化還元触媒「(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]」の合成
合成は、(1)trans-H
2M4Py
2Pの合成、(2)trans-CoM4Py
2Pの合成、(3)(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]の合成の3ステップで行った。
(1)trans-H
2M4Py
2Pの合成
出発原料として、ピロール(東京化成)、パラホルムアルデヒド(Aldrich)、4-ピリジンカルボアルデヒド(関東化学)、コバルト(III)アセチルアセトナートを用いた。
(a)ジピロメタンの合成
【化37】
ピロール200 mL(2.88mol)とパラホルムアルデヒド0.75g(25mmol)を混合し、窒素脱気した。60℃で加熱攪拌し、パラホルムアルデヒドを溶解させた。室温まで放冷し、トリフルオロ酢酸(TFA)を数滴加え一時間室温で攪拌した。次いで、水酸化ナトリウム0.75g(19mmol)を加え、室温でさらに40分攪拌した。攪拌後、反応溶液をエバポレートし、得られた粘性液体はクロロホルムを展開溶媒として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離した。収量は1.8g、収率は49 %であった。合成の確認は、先行報告に従い
1H NMRにより行った。
(b) trans-H
24Py
2Pの合成
【化38】
ジピロメタン1.8g (12mmol)をプロピオン酸24 mLに溶解させた。4-ピリジンカルボキシアルデヒド1.2mL (12mmol)を24mLのプロピオン酸に溶解させた。70℃に加熱したプロピオン酸30mLに上記二つのプロピオン酸溶液を徐々に添加し、得られた溶液を70℃で18時間攪拌した。反応後、プロピオン酸をエバポレートし、得られた黒色固体を塩基性アルミナ(クロロホルム/メタノール=20/1 )で分離しオリゴマーを除去した。次いで、シリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=95/5)で分離し、2番目に抽出された化合物を回収した。得られた化合物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりさらに分離し、trans-H
24Py
2P 51 mgを得た。収率は1.8%であった。合成の確認は先行報告に従い1H NMR測定により行った。
(b)trans-H
2M4Py
2Pの合成
【化39】
trans-H
24Py
2P 51 mg (0.11mmol)をクロロホルム:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶媒(4:1, 64 mL: 16 mL)に溶解させた。ヨードメタン3.3 mL (53mmol)を加え、室温で17時間攪拌した。反応後、溶液をエバポレートし、得られた固体を5 mLのDMFに溶解させ、80 mLのジエチルエーテルに滴下した。析出した紫色沈殿物をろ過により回収し、trans-H
2M4Py
2Pを得た。収率は定量的であった。合成の確認は、先行報告に従い1H NMR測定により行った。
(2)trans-CoM4Py
2Pの合成
【化40】
trans-H
2M4Py
2P 14 mg(0.019 mmol)とコバルトアセチルアセトナート(Co(acac)
3) 13,5mg(0.038mmol)をメタノール10 mLで加熱還流した。シリカゲルTLC (CH
3CN/H
2O/KNO
3sat=8/2/1)によりtrans-H
2M4Py
2P 由来の蛍光が消失するまで反応を継続した。反応終了後、溶媒をエバポレートしクロロホルムで洗浄し、ろ過することで未反応Co(acac)
3を除去した。ろ過により得られた固体を水に溶解させ、キレート樹脂(ダイヤイオンCR20)、イオン交換樹脂(アンバーライトIRA-400J Cl)で処理した。水をエバポレートすることでtrans-CoM4Py
2Pを得た。収率は定量的であった。合成の確認は元素分析により行った。trans-CoM4Py
2P・CH
3Cl・3.7H
2O (C
33H
33Cl
6CoN
6O
4), Anal: C: 46.67, H: 3.92, N: 9.90. Found: C: 46.96, H: 3.83, N: 9.95.
(3)(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]の合成
【化41】
trans-CoM4Py
2P 1.0 mg (0.0015 mmol)を1.0 mLの水に溶解させた。粉末CB[10] 3.0 mg (0.0018 mmol)を加え、室温条件下で10分間超音波処理を行った。10分後、溶液をフィルターろ過し、(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]を水溶液として得た。反応は定量的に進行した。(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]形成により観測されるスペクトル変化を
図15に示す。
図15における青線はtrans-CoM4Py
2P単体の、赤線は(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]の吸収スペクトルを示す。trans-CoM4Py
2PをCB[10]に包接することにより、吸光度の減少及びブロード化が観測された。これは、ポルフィリン錯体の会合により観られる典型的なスペクトル変化である。このことから、CB[10]内部においてtrans-CoM4Py
2Pが会合した構造、即ち(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]が形成されていることがわかる。
【0036】
[実施例15]
(trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]からなる多電子酸化還元触媒「(trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]」の合成。
合成は(1) trans-H
2M4Py
2Pの合成、(2) trans-ZnM4Py
2Pの合成、(3) (trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]の合成の3ステップで行った。
(1) trans-H
2M4Py
4Pは、先述した実施例14と同様にして行い、目的物を得た。
(2) trans-ZnM4Py
2Pの合成
【化42】
trans-H
2M4Py
2P 17 mg (0.023 mmol)と塩化亜鉛(ZnCl2) 25 mg (0.183 mmol)を10 mLの水に溶解させ室温で17時間攪拌した。紫外可視吸収スペクトルを測定することで反応進行を追跡した。反応後、反応液をキレート樹脂(ダイヤイオンCR20)、イオン交換樹脂(アンバーライトIRA-400J Cl)で処理、エバポレートし目的物であるtrans-ZnM4Py
2Pを得た。反応は定量的に進行した。合成の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。
(3) (trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]の合成
【化43】
trans-ZnM4Py
2P 1.0 mg (0.0016 mmol)を1.0 mLの水に溶解させた。粉末CB[10] 4.5 mg (0.0027 mmol)を加え、室温条件下で10分間超音波処理を行った。10分後、溶液をフィルターろ過し、(trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]を水溶液として得た。反応は定量的に進行した。(trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]形成により観測されるスペクトル変化を
図16に示す。
図16において青線は trans-ZnM4Py
2P単体の、赤線は (trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]の吸収スペクトルを示す。 trans-ZnM4Py
2PをCB[10]に包接することにより、吸光度の減少及びブロード化が観測された。これは、ポルフィリン錯体の会合により観られる典型的なスペクトル変化である。このことから、CB[10]内部においてtrans-ZnM4Py
2Pが会合した構造、即ち(trans-ZnM4Py
2P)
2/CB[10]が形成されていることが確認された。
【0037】
[実施例16]
(trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]からなる多電子酸化還元触媒「(trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]」の合成
合成は、(1) trans-H
2M4Py
2Pの合成、(2) trans-FeM4Py
2Pの合成、(3) (trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]の合成の3ステップで行った。
(1) trans-H
2M4Py
2Pの合成は、先述した実施例14と同様にして行い、目的物を得た。
(2) trans-FeM4Py
2Pの合成
【化44】
trans-H
2M4Py
2P 35.0 mg (0.047 mmol)と塩化鉄(II)四水和物(FeCl
2・4H
2O) 123.0 mg (0.619 mmol)を10 mLの水に溶かし、塩酸を用いてpH 2.0に合成し、60℃で22時間攪拌した。シリカゲルTLC (CH
3CN/H
2O/KNO
3sat=8/2/1)によりtrans-H
2M4Py
2P由来の蛍光が消失するまで反応を継続した。反応後、溶媒をエバポレートし、固体を水に溶解させ、キレート樹脂(ダイヤイオンCR20)、イオン交換樹脂(アンバーライトIRA-400J Cl)で処理した。水をエバポレートすることでtrans-FeM4Py
2Pを得た。反応は定量的に進行した。合成の確認は、紫外可視吸収スペクトル測定により行った。
(3) (trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]の合成
【化45】
trans-FeM4Py
2P 1.0 mg (0.0015 mmol)を1.0 mLの水に溶解させた。粉末CB[10] 4.5 mg (0.0027 mmol)を加え、室温条件下で10分間超音波処理を行った。10分後、溶液をフィルターろ過し、(trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]を水溶液として得た。反応は定量的に進行した。(trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]形成により観測されるスペクトル変化を
図17に示す。
図17において青線は trans-FeM4Py
2P単体の、赤線は (trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]の吸収スペクトルを示す。trans-FeM4Py
2PをCB[10]に包接することにより、吸光度の減少及びブロード化が観測された。これは、ポルフィリン錯体の会合により観られる典型的なスペクトル変化である。このことから、CB[10]内部においてtrans-FeM4Py
2Pが会合した構造、即ち(trans-FeM4Py
2P)
2/CB[10]が形成されていることが確認された。
【0038】
[実施例17]
触媒反応の例として、(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]の電気化学的水素生成反応について検討した。0.3mM (trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10](Coイオン換算)を、50mM NaClを支持電解質として含む各種緩衝液に溶解させ、アルゴンバブリングを30分行い溶存酸素を除去した。グラッシーカーボン電極を作用電極、銀-塩化銀電極を参照電極、白金電極をカウンター電極としてそれぞれ用い、-1.5~0 V (vs Ag/AgCl)においてサイクリックボルタンメトリー測定を行った。結果を
図18に示す。
図18に示すように、50mM 酢酸緩衝液 (pH 4.6)中では還元電流が観測された。一方、還元電流はより塩基性の条件(pH 7.0及びpH 11.1)では観測されなかった。このことから、還元電流はプロトン還元、即ち水素生成に由来することがわかる。従って、本発明の(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]は、水中において電気化学的に水素を生成する有用な多電子酸化還元触媒であることがわかる。
【0039】
[実施例18]
触媒反応の例として、(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]のグルコース改質による水素生成について検討した。 グルコース270 mg (1.5 mmol)と(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10] 4.5 mg (0.0015 mmol)を 2.0 mL の50 mM 酢酸緩衝液(pH 4,6)に溶解させ、98℃で14時間加熱還流を行った。反応後に発生した気体をガスビュレット系で捕集し、ガスクロマトグラフィーにより発生ガスを特定した。結果を
図19(a)および(b)に示す。
図19(a)および(b)に示すように、グルコース改質反応後の混合ガスから水素及び二酸化炭素が検出された。発生した水素及び二酸化炭素を検量線を用いて定量した結果、13μmolの水素及び19μmolの二酸化炭素が発生していることがわかる。以上より、本発明の(trans-CoM4Py
2P)
2/CB[10]多電子酸化還元触媒は、グルコース改質反応により水素を生成する有用な触媒であることがわかる。
【0040】
[実施例19]
触媒反応の例として、「CoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]」の電気化学的窒素還元反応を検討した。50 mM 塩化ナトリウム(NaCl)を支持電解質として含んだ50 mM リン酸緩衝液(pH 7.4)にCoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]を溶解させた。得られた溶液をヘリウムあるいは窒素で30分以上バブリングした。ヘリウムバブリング存在下及び窒素存在下における還元電流を比較することで、CoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]の窒素還元反応を検討した。結果を
図20に示す。
図20(a)及び(b)の比較より、-1.5~-1.0V(vs Ag/AgCl)において、窒素雰囲気下における還元電流の増大が観測された。これは、ヘリウム存在下ではプロトン還元(水素生成)が起こっていたが、窒素雰囲気下ではプロトン及び窒素の還元反応が起こっていることを示している。即ち、本発明のCoTM-4-PyP/Mo-Salen/CB[10]は、電気化学的に窒素を還元する有用な触媒であることがわかる。