(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉
(51)【国際特許分類】
C23C 8/20 20060101AFI20230303BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20230303BHJP
C21D 1/773 20060101ALI20230303BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C23C8/20
F27D7/02 A
C21D1/773 K
C21D1/06 A
(21)【出願番号】P 2019062433
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390008431
【氏名又は名称】高砂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】加賀 真城
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-052838(JP,A)
【文献】特開2003-247055(JP,A)
【文献】特開2005-179714(JP,A)
【文献】特開2007-211312(JP,A)
【文献】特開平11-092823(JP,A)
【文献】特開昭64-025967(JP,A)
【文献】特開平02-125857(JP,A)
【文献】実開昭62-166250(JP,U)
【文献】実開昭64-030353(JP,U)
【文献】特開昭62-060818(JP,A)
【文献】特開平09-235664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00-12/02
C21D 1/02-1/84
F27D 7/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空浸炭炉の加熱室に浸炭ガスを導入する導入路を備える浸炭ガスノズルであって、
前記導入路は、前記加熱室から熱が伝わる加熱区間を有し、
前記加熱区間における前記浸炭ガスの圧力を、
低下させる圧力調整部を備え
、
前記圧力調整部は、前記導入路に配置され、上流側から下流側に向かって流路断面積が拡張する拡張部であり、
前記拡張部の上流端は、前記加熱区間の下流端よりも、上流側に配置されることを特徴とする浸炭ガスノズル。
【請求項2】
前記導入路の延在方向を路長方向として、
前記導入路は、前記路長方向全長に亘って前記流路断面積が一定の小径部と、前記小径部よりも前記流路断面積が大きく前記路長方向全長に亘って前記流路断面積が一定の大径部と、を有し、
前記拡張部は、前記小径部と前記大径部との間に配置され、
前記拡張部において、前記流路断面積は、上流側から下流側に向かって段差状に拡張する請求項1に記載の浸炭ガスノズル。
【請求項3】
前記大径部を区画する大径管と、前記小径部を区画する小径管と、を備え、
前記大径管は、前記小径管よりも、熱伝導率が低い請求項2に記載の浸炭ガスノズル。
【請求項4】
前記真空浸炭炉は、前記加熱室を区画し前記浸炭ガスノズルが挿通されるノズル孔を有する断熱部を備え、
前記加熱区間は、前記ノズル孔内に配置される請求項1ないし請求項3
のいずれかに記載の浸炭ガスノズル。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の浸炭ガスノズル
を備える真空浸炭炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空浸炭炉の加熱室に浸炭ガスを導入する浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の浸炭装置は、断熱容器と、加熱ヒータと、浸炭室と、浸炭ガス導入管と、浸炭ガス供給源と、を備えている。浸炭室は、断熱容器の内部に区画されている。加熱ヒータは、浸炭室に配置されたワークを加熱する。浸炭ガス供給源は、断熱容器の外部に配置されている。浸炭ガス導入管は、断熱容器を貫通している。浸炭ガス導入管は、浸炭ガス供給源から浸炭室に、浸炭ガスを導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-845号公報
【文献】特開平8-325701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークに浸炭処理が施される際、浸炭室のワークは、加熱ヒータにより、所定の浸炭温度まで加熱される。このため、断熱容器を介して、浸炭ガス導入管(詳しくは、浸炭ガス導入管のうち、断熱容器を貫通する部分)も、加熱されてしまう。ここで、浸炭ガス導入管の内部における吹出孔の上流側付近は、流路抵抗が大きく、圧力が高くなりやすい。このため、浸炭ガス導入管の内部に、煤が発生しやすい条件(高温かつ高圧)が整ってしまう。したがって、浸炭ガス導入管の内部で、浸炭ガスが熱分解し、煤が発生してしまう。
【0005】
この点、特許文献2には、真空排気源で加熱室を排気することにより、加熱室の圧力を下げ、加熱室における煤の発生を抑制する真空浸炭方法が開示されている。しかしながら、特許文献2には、浸炭ガスノズルにおける煤の発生を抑制する方法は、開示、示唆されていない。
【0006】
そこで、本発明は、煤が発生しにくい浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の浸炭ガスノズルは、真空浸炭炉の加熱室に浸炭ガスを導入する導入路を備える浸炭ガスノズルであって、前記導入路は、前記加熱室から熱が伝わる加熱区間を有し、前記加熱区間における前記浸炭ガスの圧力を、前記浸炭ガスからの煤の発生を抑制可能な許容圧力以下に、調整する圧力調整部を備えることを特徴とする。また、本発明の真空浸炭炉は、前記浸炭ガスノズルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
導入路の加熱区間においては、浸炭ガスが熱分解しやすく、煤が発生しやすい。この点、本発明の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉は、圧力調整部を備えている。圧力調整部は、加熱区間における浸炭ガスの圧力を、許容圧力以下に調整する。このため、本発明の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉によると、加熱区間における煤の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第一実施形態の真空浸炭炉の断面図である。
【
図3】
図3は、第二実施形態の真空浸炭炉の浸炭ガスノズル付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉の実施の形態について説明する。
【0011】
<第一実施形態>
(真空浸炭炉の構成)
まず、本実施形態の真空浸炭炉の構成について説明する。
図1に、本実施形態の真空浸炭炉の断面図を示す。
図2に、
図1の枠II内の拡大図を示す。
図1、
図2に示すように、真空浸炭炉1は、シェル2と、断熱部3と、複数のヒータ4と、浸炭ガス供給部(図略)と、真空ポンプ(図略)と、複数の浸炭ガスノズル5と、複数のシール部7と、を備えている。
【0012】
シェル2は、真空浸炭炉1の外殻を構成している。シェル2は、シェル側ノズル孔20を備えている。シェル側ノズル孔20は、シェル2を左右方向(導入路6の路長方向。また、「内側」を加熱室30の中心側、「外側」をシェル2の外側とした場合の内外方向。)に貫通している。シール部7は、シェル2の外面に伏設されている。シール部7は、シェル2の外面に向かって開口する、有底筒状(カップ状)を呈している。具体的には、シール部7は、底壁部70と、側壁部71と、シール部側ノズル孔72と、を備えている。シール部側ノズル孔72は、底壁部70を左右方向に貫通している。断熱部3は、隙間21を介して、シェル2の内側に配置されている。断熱部3は、複数の断熱材の積層構造を有している。断熱部3は、断熱部側ノズル孔31を備えている。断熱部側ノズル孔31は、本発明の「ノズル孔」の概念に含まれる。断熱部側ノズル孔31は、断熱部3を左右方向に貫通している。シール部側ノズル孔72と、シェル側ノズル孔20と、断熱部側ノズル孔31と、は左右方向に延在する同軸上に、配置されている。断熱部3の内側には、加熱室30が区画されている。加熱室30には、炉床32が配置されている。炉床32には、ワークWが載置されている。真空浸炭炉1には、シェル2および断熱部3を貫通する搬入口(図略)と、当該搬入口を開閉可能に封止する扉(図略)と、が配置されている。ワークWは、当該扉を介して、シェル2の外部から加熱室30に搬入される。
【0013】
複数のヒータ(熱源)4は、各々、加熱室30に配置されている。ヒータ4は、ワークWを所定の温度まで加熱可能である。浸炭ガス供給部は、シェル2の外部に配置されている。浸炭ガス供給部は、ワークWの浸炭処理に必要な浸炭ガスGを供給可能である。真空ポンプは、シェル2の外部に配置されている。真空ポンプは、排気管(図略)を介して、加熱室30に連通している。真空ポンプは、加熱室30から、ガス(例えば、浸炭ガスGの熱分解ガス等)を排気可能である。
【0014】
(浸炭ガスノズルの構成)
次に、本実施形態の浸炭ガスノズルの構成について説明する。
図1に示すように、複数の浸炭ガスノズル5は、各々、真空浸炭炉1を左右方向に貫通して配置されている。
図2に示すように、浸炭ガスノズル5は、管状を呈している。浸炭ガスノズル5の上流端は、浸炭ガス供給部に連通している。他方、浸炭ガスノズル5の下流端の噴射口522は、加熱室30に開口している。浸炭ガスノズル5の内部には、加熱室30に浸炭ガスを導入する導入路6が区画されている。導入路6は、後述するように、小径部60と、大径部61と、拡張部62と、加熱区間63と、を備えている。
【0015】
浸炭ガスノズル5は、小径管51と、大径管52と、を備えている。小径管51は、金属製であって、小径管本体510と、小径フランジ部(段差部)511と、を備えている。小径管本体510は、同径直管状を呈している。小径管本体510の内部には、導入路6の小径部60が区画されている。小径部60の径および流路断面積(左右方向(路長方向)に対して直交する方向の断面積)は、小径部60の左右方向全長に亘って、一定である。小径管51は、シール部7、シェル2を左右方向に貫通している。小径管51は、シール部側ノズル孔72に挿通されている。小径管51の外周面は、シール部側ノズル孔72の内周面に当接している。小径管51の外周面と、側壁部71の内周面と、の間には隙間710が介在している。小径管51は、シェル側ノズル孔20に挿通されている。小径管51の外周面と、シェル側ノズル孔20の内周面と、の間には隙間512が介在している。小径フランジ部511は、小径管本体510の下流端から径方向外側に張り出している。小径フランジ部511は、環状を呈している。小径フランジ部511は、隙間21に配置されている。
【0016】
大径管52は、セラミック製である。セラミック製の大径管52は、金属製の小径管51よりも、熱伝導率が低い。大径管52は、小径管51の下流側に連なっている。大径管52は、同径直管状を呈している。大径管52は、小径フランジ部511の外周縁の下流側に連なっている。大径管52の上流側部分520は、隙間21に配置されている。大径管52の下流側部分521は、断熱部側ノズル孔31に挿通されている。下流側部分521の外周面は、断熱部側ノズル孔31の内周面に当接している。下流側部分521の先端(下流端)には、噴射口522が開設されている。大径管52の内部には、導入路6の大径部61が区画されている。大径部61の径および流路断面積は、大径部61の左右方向全長に亘って、一定である。大径部61は、小径部60よりも大径であり流路断面積が大きい。大径部61のうち、断熱部側ノズル孔31の径方向内側に配置されている部分が、加熱区間63である。加熱区間63には、断熱部3、下流側部分521を介して、加熱室30(ヒータ4)の熱が伝わる。小径部60と大径部61との間には、小径フランジ部511の内面に沿って、導入路6の拡張部62が配置されている。拡張部62は、段差状を呈している。導入路6の流路断面積は、拡張部62において、上流側(浸炭ガス供給部側)から下流側(加熱室30側)に向かって、急激に拡張している。拡張部62は、加熱区間63よりも、上流側に配置されている。
【0017】
(真空浸炭炉の動き)
次に、本実施形態の真空浸炭炉の動きについて説明する。まず、ワークWを、扉を介して、シェル2の外部から加熱室30に搬入する。次に、真空ポンプにより加熱室30を減圧する。並びに、ヒータ4によりワークWを加熱する。ワークWが所定の温度に到達したら、浸炭ガス供給部から、浸炭ガスノズル5の導入路6を介して、加熱室30に浸炭ガスGを供給する。浸炭ガスGの熱分解により、加熱室30に炭素が発生する。所定の時間が経過したら、浸炭ガスGの供給を停止する。そして、加熱室30を、所定の時間だけ、所定の温度に保持する。この際、ワークWの表面から内部に、炭素が拡散する。このようにして、加熱室30では、ワークWに浸炭処理が施される。
【0018】
(作用効果)
次に、本実施形態の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉の作用効果について説明する。浸炭処理の浸炭ガスG供給時において、浸炭ガスGは、導入路6を、上流側から下流側に向かって流動する。ここで、断熱部3の内面は、加熱室30に露出している。並びに、大径管52の下流側部分521の外周面は、断熱部側ノズル孔31の内周面に当接している。このため、導入路6の加熱区間63には、断熱部3、下流側部分521を介して、加熱室30(ヒータ4)の熱が伝わる。したがって、加熱区間63が加熱されてしまう。また、下流側部分521と断熱部側ノズル孔31との接触面積(伝熱面積)は、小径管51とシール部側ノズル孔72との接触面積(伝熱面積)よりも、大きい。また、断熱部3の外面とシェル2の内面との間には、隙間21が介在している。このため、小径部60に対して、加熱区間63は、高温になりやすい。このような理由から、加熱区間63においては、浸炭ガスGが熱分解しやすくなり、煤が発生しやすくなる。
【0019】
この点、導入路6の小径部60と大径部61との間には、拡張部62が配置されている。拡張部62においては、上流側から下流側に向かって、流路断面積が拡張する。また、拡張部62は、加熱区間63よりも、上流側に配置されている。浸炭ガスGの圧力は、拡張部62を通過する際、低下する。このため、小径部60よりも、大径部61の方が、圧力が低くなる。したがって、浸炭ガスGが加熱区間63(煤が発生しやすい区間)に流入する前に、浸炭ガスGの圧力を低下させておくことができる。よって、加熱区間63における煤の発生を抑制することができる。
【0020】
このように、本実施形態の浸炭ガスノズル5および真空浸炭炉1によると、拡張部62が、加熱区間63における浸炭ガスGの圧力を、浸炭ガスGからの煤の発生を抑制可能な許容圧力以下に、調整している。このため、加熱区間63における煤の発生を抑制することができる。したがって、煤による浸炭ガスノズル5の閉塞を抑制することができる。また、浸炭ガスノズル5から加熱室30に煤が流入するのを抑制することができる。このため、断熱部3等に煤が付着するのを抑制することができる。
【0021】
また、噴射口522は、大径管52の左右方向(軸方向)端壁部に開設されている。このため、噴射口522が大径管52の側壁部に配置されている場合と比較して、加熱区間63で流路抵抗が大きくなりにくい。したがって、加熱区間63の圧力が上がるのを抑制することができる。この点においても、加熱区間63における煤の発生を抑制することができる。
【0022】
また、導入路6の加熱区間63よりも下流側(加熱区間63を含む下流側)には、絞り部(上流側から下流側に向かって流路断面積が縮小する部分)が配置されていない。このため、絞り部(例えば、特許文献1の吹出孔)が配置されている場合と比較して、加熱区間63で流路抵抗が大きくなりにくい。したがって、加熱区間63の圧力が上がるのを抑制することができる。この点においても、加熱区間63における煤の発生を抑制することができる。
【0023】
また、セラミック製の大径管52は、金属製の小径管51よりも、熱伝導率が低い。このため、下流側部分521の外周面が断熱部側ノズル孔31の内周面に当接しているにもかかわらず、加熱区間63の温度上昇を抑制することができる。この点においても、加熱区間63における煤の発生を抑制することができる。
【0024】
また、浸炭ガスGは、拡張部62を通過してから(拡散してから)、噴射口522を介して、加熱室30に噴射される。このため、浸炭ガスGが加熱室30の全体に拡散しやすくなる。また、浸炭ガスGがワークWに直接当たるのを抑制することができる。このため、ワークWの表面に、温度のばらつきが発生しにくくなる。また、噴射口522は、ワークWに対して、下側にずれて配置されている。すなわち、噴射口522は、ワークWの表面に対向していない。この点においても、浸炭ガスGがワークWに直接当たるのを抑制することができる。
【0025】
また、仮に、小径フランジ部511を大径管52に一体的に形成しようとする場合を想定すると、大径管52はセラミック製であるため、小径フランジ部511を一体的に形成しにくい。この点、小径フランジ部511は、金属製の小径管51に一体的に形成されている。このため、大径管52の形状を、単純な同径直管状にすることができる。
【0026】
また、本実施形態の真空浸炭炉1によると、既設の真空浸炭炉の浸炭ガスノズルを本実施形態の浸炭ガスノズル5に交換することで、簡単かつ低コストに、煤による浸炭ガスノズル5の閉塞を抑制することができる。また、浸炭ガスノズル5から加熱室30に煤が流入するのを抑制することができる。また、既設の真空浸炭炉の浸炭ガスノズルを本実施形態の浸炭ガスノズル5に交換する際、小径管51として、既設の真空浸炭炉1の浸炭ガスノズルを転用することができる。この点においても、簡単かつ低コストに、煤による浸炭ガスノズル5の閉塞を抑制することができる。また、浸炭ガスノズル5から加熱室30に煤が流入するのを抑制することができる。
【0027】
<第二実施形態>
本実施形態の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉と第一実施形態の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉との相違点は、導入路の拡張部の流路断面積が、段差状ではなく、スロープ状に拡張している点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0028】
図3に、本実施形態の真空浸炭炉の浸炭ガスノズル付近の断面図を示す。なお、
図2と対応する部位については、同じ符号で示す。
図3に示すように、小径管51の下流側には、ディフューザ部53が一体的に連なっている。小径管51、ディフューザ部53は、共に金属製である。ディフューザ部53は、上流側から下流側に向かって拡径する筒状(ラッパ状。逆テーパ状)を呈している。ディフューザ部53の内部には、拡張部62が区画されている。拡張部62は、上流側から下流側に向かって拡径する部分円錐状を呈している。導入路6の流路断面積は、拡張部62において、上流側から下流側に向かって、漸増している。
【0029】
本実施形態の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉と、第一実施形態の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態のように、スロープ状に流路断面積が拡張する拡張部62を配置してもよい。こうすると、浸炭ガスGの流れが乱れにくくなる。また、小径管51とディフューザ部53とを一体化してもよい(同じ材料製としてもよい)。こうすると、浸炭ガスノズル5の部品数が少なくなる。また、小径管51とディフューザ部53との間の気密性を確保することができる。また、大径管52(
図2参照)を配置しなくてもよい。こうすると、浸炭ガスノズル5の部品数が少なくなる。
【0030】
<その他>
以上、本発明の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0031】
拡張部62における、浸炭ガスGからの煤の発生を抑制可能な許容圧力は特に限定しない。浸炭ガスGの種類、加熱区間63の温度、小径部60、大径部61、拡張部62の流路断面積などにより変更すればよい。例えば、浸炭ガスGとしてアセチレンガスを用いる場合、許容圧力は、1.0kPa、または0.3kPa、または0.1kPaであってもよい。
【0032】
加熱区間63に対する拡張部62の位置は特に限定しない。
図3に示すように、拡張部62の上流端P1が、加熱区間63の下流端P2よりも、上流側に配置されていればよい。こうすると、拡張部62による圧力調整効果を、加熱区間63の少なくとも一部に、発現させることができる。好ましくは、
図3に示す拡張部62の下流端P3が、加熱区間63の上流端P4よりも、上流側に配置されていればよい。すなわち、
図2に示すように、拡張部62の全体が、加熱区間63よりも、上流側に配置されていればよい。こうすると、拡張部62による圧力調整効果を、加熱区間63の全体に発現させることができる。加熱区間63は特に限定しない。例えば、加熱区間63は、浸炭処理の際、導入路6の他の区間と比較して、高温になりやすい区間であればよい。また、加熱区間63は、浸炭ガスノズル5のうち断熱部3と当接する部分(熱伝導により熱が伝わる部分)の隣接区間であればよい。浸炭ガスGの圧力は、拡張部62を通過する際、低下しなくてもよい。拡張部62が配置されていない場合と比較して、圧力の上昇が抑制されていればよい。
【0033】
小径管51、大径管52、ディフューザ部53の形状、材質は特に限定しない。例えば、
図2に示すように段差状の拡張部62を配置する場合、小径管51を同径直管状、大径管52を加熱室30に向かって開口する有底筒状とし、小径管51の下流端を、大径管52の底壁部の径方向中心に、貫通配置してもよい。また、大径管52が金属製であってもよい。また、小径管51がセラミック製であってもよい。小径管51と大径管52とは、一体物であっても、別体物であってもよい。また、
図3に示すようにスロープ状の拡張部62を配置する場合、小径管51、ディフューザ部53がセラミック製であってもよい。小径管51が金属製、ディフューザ部53がセラミック製であってもよい。小径管51とディフューザ部53とは、一体物であっても、別体物であってもよい。ディフューザ部53の下流側に、
図2に示す大径管52が連なっていてもよい。この場合、小径管51、大径管52、ディフューザ部53のうち、少なくとも二つの部材が一体物であってもよい。勿論、各部材が別体物であってもよい。
【0034】
小径部60の横断面形状(路長方向に対して直交する方向の断面形状。流路断面形状)は特に限定しない。真円状、楕円状、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形など)状などであってもよい。大径部61、拡張部62についても同様である。小径部60を区画する小径管51の横断面形状は特に限定しない。真円管状、楕円管状、多角形管状などであってもよい。小径管51の外周形状と内周形状との異同は特に限定しない。大径部61を区画する大径管52、拡張部62を区画するディフューザ部53についても同様である。
【0035】
小径管51(小径部60)、大径管52(大径部61)のうち、少なくとも一方が、配置されなくてもよい。すなわち、拡張部62が配置されていればよい。また、大径管52(例えば金属製)の内周面および外周面のうち少なくとも一方に、大径管52よりも熱伝導率が低い断熱材(例えばセラミック製)を、配置することにより、断熱部側ノズル孔31から加熱区間63への伝熱を抑制してもよい。ディフューザ部53についても同様である。
【0036】
拡張部62においては、
図2に示すように段差状に流路断面積が拡張していても、
図3に示すようにスロープ状に流路断面積が拡張していてもよい。段差状の場合、段差が複数連なっていてもよい。スロープ状の場合、浸炭ガスノズル5の左右方向(軸方向)に対するスロープの傾斜角度は、特に限定しない。また、浸炭ガスノズル5の左右方向断面において、スロープは、直線状(
図3の一点鎖線L1)であっても、曲線状であっても、これらを適宜組み合わせた形状であってもよい。スロープが曲線状の場合、拡張部62の径方向内側に凹む形状(
図3の実線)であっても、拡張部62の径方向外側に張り出す形状(
図3の一点鎖線L2)であってもよい。噴射口522の形状、位置、配置数は特に限定しない。例えば、
図2に示す大径管52を加熱室30の内部にまで突出させ、当該突出端部の側壁部に複数の噴射口522を配置してもよい。また、噴射口522は、ワークWの表面に、対向していなくても、対向していてもよい。浸炭ガスノズル5の形状、位置、配置数は特に限定しない。例えば、断熱部3の上壁部、下壁部に浸炭ガスノズル5を配置してもよい。また、浸炭ガスノズル5の配置数は、単数でも複数でもよい。
【0037】
浸炭処理の際に、浸炭ガスGに窒素を含有するガス(例えば、アンモニアガスなど)を添加してもよい。すなわち、ワークWに窒化浸炭処理を施してもよい。浸炭ガスGの種類は特に限定しない。炭化水素ガスであればよい。また、炭化水素ガスは、鎖式飽和炭化水素ガス(メタンガス、プロパンガス、ブタンガス等)でも、鎖式不飽和炭化水素ガス(エチレンガス、アセチレンガス等)でもよい。鎖式飽和炭化水素ガスに対して、鎖式不飽和炭化水素ガスは、熱分解しやすく、煤が発生しやすい。このため、本発明の浸炭ガスノズルおよび真空浸炭炉に用いるのに好適である。
【0038】
断熱部3の材質は特に限定しない。例えば、セラミック製などであってもよい。大径管52は、断熱部3よりも、熱伝導率が低くてもよい。こうすると、加熱区間63の温度上昇を抑制することができる。真空浸炭炉1の運転条件(圧力、時間、温度等)は特に限定しない。浸炭ガスGの種類、浸炭の目的、浸炭深さ、ワークWの材質などにより変更すればよい。
【0039】
圧力調整機構(拡張部62)の構成、位置は特に限定しない。圧力調整機構の構成の少なくとも一部が、真空浸炭炉1の浸炭ガスノズル5以外の部分に配置されていてもよい。すなわち、真空浸炭炉1が、加熱区間63における浸炭ガスGの圧力を、浸炭ガスGから煤が発生するのを抑制可能な許容圧力以下に、調整する圧力調整機構を備えていればよい。例えば、圧力調整機構は、加熱区間63の浸炭ガスGの圧力を検出する圧力計(センサ)と、加熱区間63の浸炭ガスGの流量を調整可能なバルブ(アクチュエータ)と、圧力計からの検出値に応じてバルブに流量調整指示を出す制御装置(コントローラ)と、を備えていればよい。加熱区間63における浸炭ガスGの圧力を、バルブを用いて、制御装置の記憶部に格納された許容圧力以下に調整すればよい。この場合、浸炭ガスノズルとして、同径直管状の浸炭ガスノズル(導入路6に拡張部62を有しない浸炭ガスノズル)を用いてもよい。
【0040】
また、単一の加熱室30に対して複数の浸炭ガスノズルを設置してもよい。こうすると、浸炭処理に必要な浸炭ガスG量を確保しつつ、浸炭ガスノズル一本当たりの浸炭ガスGの圧力を低くすることができる。このため、加熱区間63における浸炭ガスGの圧力を、浸炭ガスGから煤が発生するのを抑制可能な許容圧力以下に、調整することができる。この場合、複数の浸炭ガスノズルが、圧力調整機構に相当する。この場合、浸炭ガスノズルとして、同径直管状の浸炭ガスノズル(導入路6に拡張部62を有しない浸炭ガスノズル)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1:真空浸炭炉、2:シェル、20:シェル側ノズル孔、21:隙間、3:断熱部、30:加熱室、31:断熱部側ノズル孔(ノズル孔)、32:炉床、4:ヒータ、5:浸炭ガスノズル、51:小径管、510:小径管本体、511:小径フランジ部、512:隙間、52:大径管、520:上流側部分、521:下流側部分、522:噴射口、53:ディフューザ部、6:導入路、60:小径部、61:大径部、62:拡張部、63:加熱区間、7:シール部、70:底壁部、71:側壁部、710:隙間、72:シール部側ノズル孔、G:浸炭ガス、W:ワーク